モノリス状有機多孔質体、モノリス状有機多孔質イオン交換体、それらの製造方法及びケミカルフィルター
【課題】機械的強度が高く、流体透過時の流体との接触効率が高く、流体透過時の圧力損失が低く、吸着容量の大きな吸着剤として好適なモノリス状有機多孔質体、これを用いたモノリス状有機多孔質イオン交換体及びそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径2〜20μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が2〜20μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径8〜100μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであるモノリス状有機多孔質体。
【解決手段】連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径2〜20μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が2〜20μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径8〜100μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであるモノリス状有機多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤や脱イオン水製造装置等に用いられるイオン交換体として有用なモノリス状有機多孔質体、これを用いたモノリス状有機多孔質イオン交換体、それらの製造方法及びケミカルフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2002−306976号には、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び必要に応じて重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを得、これを重合させて、連続マクロポア構造のモノリス状有機多孔質体を得る製造方法が開示されている。上記方法で得られる有機多孔質体やそれにイオン交換基を導入した有機多孔質イオン交換体は、吸着剤、クロマトグラフィー用充填剤および脱イオン水製造装置等に用いられるイオン交換体として有用である。
【0003】
しかし、該有機多孔質イオン交換体は、流体透過時の流体との接触効率が若干低いため、吸着剤として用いた時に低濃度領域での吸着能力が低下傾向にある、1ng/l以下の超微量イオンの吸着剤として用いた場合、イオン交換帯長さの増大に伴って動的イオン交換容量が低下する等の欠点を有していた。
【0004】
一方、上記連続マクロポア構造以外の構造を有するモノリス状有機多孔質体やモノリス状有機多孔質イオン交換体としては、粒子凝集型構造を有する多孔質体が特表平7−501140号等に開示されている。しかし、この方法で得られた多孔質体は、比表面積が大きく流体透過時の流体との接触効率も高いが、連続した空孔が最大でも約2μmと小さく、低圧で大流量の処理を行うことが要求される工業規模の脱イオン水製造装置等に用いることはできなかった。更に、粒子凝集型構造を有する多孔質体は機械的強度が低く、所望の大きさに切り出してカラムやセルに充填する際に破損しやすい等、ハンドリング性に劣るものであった。
【0005】
有機多孔質体の構造として、三次元的に連続した骨格相と、その骨格相間に三次元的に連続した空孔相とからなり、両相が絡み合った共連続構造が知られている。特開2007-154083号公報には、マイクロメートルサイズの平均直径を有し、三次元網目状に連続した細孔と有機物質に富む骨格相からなる共連続構造をもつ粒子凝集型でない有機高分子ゲル状のアフィニティー担体であって、当該アフィニティー担体が、架橋剤としての、少なくとも二官能性以上のビニルモノマー化合物、メタクリレート化合物及びアクリレート化合物の少なくともいずれか1種と、一官能性親水性モノマーとの共重合体であり、しかも、前記アフィニティー担体における前記架橋剤と前記一官能性親水性モノマーの体積比率が100〜10:0〜90であるアフィニティー担体が開示されている。このアフィニティー担体は、モノリス構造を維持するために、骨格の架橋密度を高くしている。また、このアフィニティー担体は、非特異的吸着を十分に抑制する親水的特性を有している。また、N. Tsujioka et al., Macromolecules2005, 38, 9901には、共連続構造を有し、エポキシ樹脂からなるモノリス状有機多孔質体が開示されている。
【0006】
なお、特開2004−321930号公報には、連続気泡構造のモノリス状有機多孔質イオン交換体を吸着層として用いるケミカルフィルターが開示されている。このケミカルフィルターによれば、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能なものである。
【特許文献1】特開2002−306976号
【特許文献2】特開2007-154083号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2004−321930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開2007-154083号公報において、実際に得られているアフィニティー担体はナノメートルサイズの細孔であるため、流体を透過させる際の圧力損失が高く、低圧力損失下で大流量の水を処理する必要のある脱イオン水製造装置に充填し、イオン交換体とすることは困難であった。また、アフィニティー担体は親水性であるため、疎水性物質の吸着剤として用いるためには、表面の疎水処理等の煩雑且つコストアップを伴う操作が必要であるという問題があった。また、エポキシ樹脂へのイオン交換基等の官能基の導入は容易ではないという問題もあった。
【0008】
このため、機械的強度が高く、流体透過時の流体との接触効率が高く、連続した空孔が大きくて水や気体等の流体を透過させた際の圧力損失が低いモノリス状有機多孔質体やモノリス状有機多孔質イオン交換体の開発が望まれていた。また、従来にも増してガス状汚染物質の吸着除去能力の高いケミカルフィルターの開発が望まれていた。
【0009】
一方、MR型イオン交換樹脂が、巨大網目構造を持つ共重合体中に、マクロポアと小さな球状ゲル粒子の集塊の間に形成されるミクロポアを持つ粒子複合構造を呈するものとして知られている。しかしながら、MR型イオン交換樹脂のミクロポアを形成する粒子の径は最大でも1μmであり、1μmを超える粒子あるいは突起が表面に固着して存在する複合型の有機モノリスは未だ知られていない。
【0010】
従って、本発明の目的は、上記従来の技術の問題点を解決したものであって、機械的強度が高く、流体透過時の流体との接触効率が高く、流体透過時の圧力損失が低く、吸着容量の大きな吸着剤として好適なモノリス状有機多孔質体、また機械的強度が高く、流体透過時の流体との接触効率が高く、流体透過時の圧力損失が低いモノリス状有機多孔質イオン交換体及びそれらの製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能なケミカルフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、特開2002−306976号公報記載の方法で得られるモノリスの中、比較的大きな細孔容積を有するモノリス状有機多孔質体(中間体)の存在下に、特定の条件下、ビニルモノマーと架橋剤を特定有機溶媒中で静置重合すれば、有機多孔質体を構成する骨格表面上に直径2〜20μmの多数の粒子体が固着する又は突起体が形成された複合構造を有するモノリスを製造できること、また、該複合構造型モノリスやそれにイオン交換基を導入した複合モノリスイオン交換体は、吸着やイオン交換が迅速かつ極めて均一である、圧力損失が小さい、骨格内部は連続空孔構造を維持しているため機械的強度が高く、ハンドリング性に優れ、更に気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能である等、従来のモノリス状有機多孔質体やモノリス状有機多孔質イオン交換体が達成できなかった、優れた特性を兼備していることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径2〜20μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が2〜20μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径8〜100μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであるモノリス状有機多孔質体を提供するものである。
【0013】
また、本発明は連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が4〜40μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径10〜150μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.2mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該複合構造体中に均一に分布していることを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が5〜30ml/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体を得るI工程、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、
II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス状の有機多孔質中間体の存在下で重合を行うIII工程、
を行い、モノリス状有機多孔質体を製造する際に、下記(1)〜(5):
(1)III工程における重合温度が、重合開始剤の10時間半減温度より、少なくとも5℃低い温度である;
(2)II工程で用いる第2架橋剤のモル%が、I工程で用いる第1架橋剤のモル%の2倍以上である;
(3)II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーである;
(4)II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルである;
(5)II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程の混合物中、30重量%以下である;の条件のうち、少なくとも一つを満たす条件下でII工程又はIII工程を行うことを特徴とするモノリス状有機多孔質体の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は前記製造方法で得られたモノリス状有機多孔質体にイオン交換基を導入するIV工程を行なうことを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記モノリス状有機多孔質体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルターを提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記モノリス状有機多孔質イオン交換体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルターを提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複合モノリス状多孔質体は、有機多孔質体を構成する骨格相の骨格表面が特定の大きさの多数の粒子体で被覆されるか又は多数の突起体が形成された複合構造を有しているため、流体透過時の流体とモノリスとの接触効率が高く、吸着が迅速かつ極めて均一である、圧力損失が小さい、骨格構造は連続空孔構造を維持しているため機械的強度が高く、ハンドリング性に優れている。従って、従来用いられてきた合成吸着剤を代替可能であるばかりでなく、その優れた吸着特性を生かして、合成吸着剤では対応できなかった微量成分の吸着除去等新しい用途分野への応用が可能となる。
【0019】
また、本発明の複合モノリス状多孔質イオン交換体は、前記複合モノリス状多孔質体と同様の複合構造を有しているため、イオン交換が迅速かつ極めて均一である、機械的強度が高い、被処理水を低圧、大流量で長期間通水することが可能であるといった特長を有しており、2床3塔式純水製造装置や超純水製造装置、電気式脱イオン水製造装置に充填して用いたり、ケミカルフィルター用吸着剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本明細書中、「モノリス状有機多孔質体」を単に「複合モノリス」と、「モノリス状有機多孔質イオン交換体」を単に「複合モノリスイオン交換体」と、「モノリス状の有機多孔質中間体」を単に「モノリス中間体」とも言う。
【0021】
(複合モノリスの説明)
本発明の複合モノリスは連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される多数の突起体との複合構造体である。なお、本明細書中、「粒子体」及び「突起体」を併せて「粒子体等」と言うことがある。
【0022】
有機多孔質体の連続骨格相と連続空孔相は、SEM画像により観察することができる。有機多孔質体の基本構造としては、連続マクロポア構造及び共連続構造が挙げられる。有機多孔質体の骨格相は、柱状の連続体、凹状の壁面の連続体あるいはこれらの複合体として表れるもので、粒子状や突起状とは明らかに相違する形状のものである。
【0023】
有機多孔質体の好ましい構造としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径20〜200μmの開口となる連続マクロポア構造体(以下、「第1の有機多孔質体」とも言う。)及び太さが0.8〜40μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が8〜80μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体(以下、「第2の有機多孔質体」とも言う。)が挙げられる。
【0024】
第1の有機多孔質体において、開口の平均直径の好ましい値は20〜150μm、特に20〜100μmであり、直径が40〜400μmのマクロポアと該開口で形成される気泡内が流路となる。連続マクロポア構造は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。開口の平均直径が20μm未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、開口の平均直径が大き過ぎると、流体と複合モノリスとの接触が不十分となり、その結果、吸着特性が低下してしまうため好ましくない。上記開口の平均直径は、SEM画像の観察結果又は水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値である。
【0025】
第2の有機多孔質において、三次元的に連続した空孔の大きさが8μm未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、80μmを超えると、流体とモノリスとの接触が不十分となり、その結果、吸着挙動が不均一となったり低濃度の被吸着物質の吸着効率が低下したりするため好ましくない。上記三次元的に連続した空孔の大きさは、SEM画像の観察結果又は水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値である。また、共連続構造体の骨格の太さは0.8〜40μm、好ましくは1〜30μmである。骨格の太さが0.8μm未満であると、体積当りの吸着容量が低下する、機械的強度が低下するといった欠点が生じるため好ましくなく、一方、40μmを超えると、吸着特性の均一性が失わるため好ましくない。
【0026】
上記有機多孔質体の骨格の太さ及び開口の直径は、有機多孔質体のSEM画像観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の直径及び開口を測定して算出すればよい。
【0027】
本発明の複合モノリスにおいて、有機多孔質体の骨格表面に固着する直径2〜20μmの多数の粒子体及び骨格表面上に形成される最大径が2〜20μmの多数の突起体はSEM画像により観察することができる。粒子体等は骨格相の表面と一体化しており、粒子状に観察されるものを粒子体と言い、粒子の一部が表面に埋没してもはや粒子とは言えないものを突起体と言う。骨格相の表面は粒子体等により40%以上、好ましくは50%以上が被覆されたものが好適である。
【0028】
粒子体の直径及び突起体の最大径の好ましい値は3〜15μm、特に3〜10μmであり、全粒子体等中、3〜5μmの粒子体等が占める割合は70%以上、特に80%以上である。また、粒子体は粒子体同士が集塊して凝集体を形成していてもよい。この場合、粒子体の直径は個々の粒子のものを言う。また、突起体に粒子体が固着した複合突起体であってもよい。複合突起体の場合、上記直径及び最大径は個々の突起体の値及び粒子体の値を言う。
【0029】
骨格相の表面を被覆している粒子体等の大きさが上記範囲を逸脱すると、流体と複合モノリス骨格表面及び骨格内部との接触効率を改善する効果が小さくなる傾向にあるため好ましくない。また、粒子による骨格表面の被覆率が40%未満であると、流体と複合モノリス骨格表面及び骨格内部との接触効率を改善する効果が小さくなり、吸着挙動の均一性が損なわる傾向にあるため好ましくない。上記粒子体等の大きさや被覆率は、モノリスのSEM画像を画像解析することで得られる。
【0030】
また、本発明の複合モノリスは、0.5〜5ml/g、好適には0.8〜4ml/gの全細孔容積を有するものである。全細孔容積が小さ過ぎると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が大き過ぎると、体積当りの吸着容量が低下してしまうため好ましくない。本発明の複合モノリスは、粒子体等がモノリス構造を形成する骨格相の壁面や表面に固着した複合構造であるため、これを吸着剤として用いた場合、流体との接触効率が高く、かつ流体の円滑な流通が可能となるため、優れた性能が発揮できる。
【0031】
複合モノリスの孔径は平均直径8〜100μm、好ましくは10〜80μmである。複合モノリスを構成する有機多孔質体が第1の有機多孔質体の場合、複合モノリスの孔径の好ましい値は10〜80μm、複合モノリスを構成する有機多孔質体が第2の有機多孔質体の場合、複合モノリスの孔径の好ましい値は10〜60μmである。複合モノリスの孔径が上記範囲で且つ粒子体等の径が上記範囲内であると、流体と複合モノリス骨格表面及び骨格内部との接触効率が向上する。また、複合モノリスの孔径は水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値である。
【0032】
本発明の複合モノリスは、その厚みが1mm以上であり、膜状の多孔質体とは区別される。厚みが1mm未満であると、多孔質体一枚当りの吸着容量が極端に低下してしまうため好ましくない。該複合モノリスの厚みは、好適には3mm〜1000mmである。また、本発明の複合モノリスは、骨格の基本構造が連続空孔構造であるため、機械的強度が高い。
【0033】
本発明の複合モノリスを吸着剤として使用する場合、例えば、円筒型カラムや角型カラムに、該複合モノリスを当該カラムに挿入できる形状に切り出したものを吸着剤として充填し、これにベンゼン、トルエン、フェノール、パラフィン等の疎水性物質を含有する被処理水を通水させれば、該吸着剤に前記疎水性物質が効率よく吸着される。
【0034】
なお、複合モノリスに水を透過させた際の圧力損失は、複合モノリスを1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.005〜0.1MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.05MPa/m・LVであることが好ましい。
【0035】
本発明の複合モノリスにおいて、連続空孔構造の骨格相を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好適には0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、多孔質体の脆化が進行し、柔軟性が失われるため好ましくなく、特に、イオン交換体の場合にはイオン交換基導入量が減少してしまうため好ましくない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続空孔構造形成の容易さ、イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸・アルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0036】
本発明の複合モノリスにおいて、有機多孔質体の骨格相を構成する材料と骨格相の表面に形成される粒子体等とは、同じ組織が連続した同一材料のもの、同じではない組織が連続する互いが異なる材料のものなどが挙げられる。同じではない組織が連続する互いが異なる材料のものとしては、ビニルモノマーの種類が互いに異なる材料の場合、ビニルモノマーや架橋剤の種類は同じであっても互いの配合割合が異なる材料の場合などが挙げられる。
【0037】
(複合モノリスイオン交換体の説明)
次に、本発明の複合モノリスイオン交換体について説明する。複合モノリスイオン交換体において、複合モノリスと同一構成要素についてはその説明を省略し、異なる点について主に説明する。複合モノリスイオン交換体は、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が4〜40μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径10〜150μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.2mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該複合構造体中に均一に分布している。
【0038】
有機多孔質体が第1の有機多孔質体の場合、有機多孔質体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に35〜150μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体である。複合モノリスイオン交換体の開口の平均直径は、モノリスにイオン交換基を導入する際、複合モノリス全体が膨潤するため、複合モノリスの開口の平均直径よりも大となる。開口の平均直径が30μm未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、開口の平均直径が大き過ぎると、流体とモノリスイオン交換体との接触が不十分となり、その結果、イオン交換特性が低下してしまうため好ましくない。上記開口の平均直径は、SEM画像の観察結果に乾燥状態から湿潤状態となった際の膨潤率を乗じて算出した値又はイオン交換基導入前の複合モノリスの平均直径に、イオン交換基導入前後の膨潤率を乗じて算出した値を指す。
【0039】
有機多孔質体が第2の有機多孔質体の場合、有機多孔質体は、直径が1〜50μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に10〜100μmの三次元的に連続した空孔を有する共連続構造である。三次元的に連続した空孔の大きさが10μm未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、100μmを超えると、流体と複合モノリスイオン交換体との接触が不十分となり、その結果、イオン交換挙動が不均一となってイオン交換帯長さが増大したり、低濃度イオンの捕捉効率が低下したりするため好ましくない。上記三次元的に連続した空孔の大きさとは、SEM画像の観察結果に乾燥状態から湿潤状態となった際の膨潤率を乗じて算出した値又はイオン交換基導入前の複合モノリスの連続細孔の大きさに、イオン交換基導入前後の膨潤率を乗じて算出した値である。
【0040】
また、三次元的に連続した骨格の直径が1μm未満であると、体積当りのイオン交換容量が低下する、機械的強度が低下するといった欠点が生じるため好ましくなく、一方、50μmを超えると、イオン交換特性の均一性が失わるため好ましくない。上記複合モノリスイオン交換体の骨格の直径は、SEM画像の観察結果に乾燥状態から湿潤状態となった際の膨潤率を乗じて算出した値又はイオン交換基導入前のモノリスの骨格直径に、イオン交換基導入前後の膨潤率を乗じて算出した値である。
【0041】
複合モノリスイオン交換体の孔の平均直径は10〜150μm、好ましくは10〜120μmである。複合モノリスイオン交換体を構成する有機多孔質体が第1の有機多孔質体の場合、複合モノリスイオン交換体の孔径の好ましい値は10〜120μm、複合モノリスイオン交換体を構成する有機多孔質体が第2の有機多孔質体の場合、複合モノリスイオン交換体の孔径の好ましい値は10〜90μmである。
【0042】
本発明の複合モノリスイオン交換体において、粒子体の直径及び突起体の最大径は、4〜40μm、好ましい値は4〜30μm、特に4〜20μmであり、全粒子体等中、4〜10μmの粒子体等が占める割合は70%以上、特に80%以上である。また、骨格相の表面は粒子体等により40%以上、好ましくは50%以上被覆されている。壁面や骨格を被覆している粒子の大きさが上記範囲を逸脱すると、流体と複合モノリスイオン交換体の骨格表面及び骨格内部との接触効率を改善する効果が小さくなってしまうため好ましくない。上記複合モノリスイオン交換体の骨格表面に付着した粒子体等の直径又は最大径は、SEM画像の観察結果に乾燥状態から湿潤状態となった際の膨潤率を乗じて算出した値又はイオン交換基導入前の複合モノリスの粒子直径に、イオン交換基導入前後の膨潤率を乗じて算出した値である。
【0043】
粒子体等による骨格相表面の被覆率が40%未満であると、流体と複合モノリスイオン交換体の骨格内部及び骨格表面との接触効率を改善する効果が小さくなり、イオン交換挙動の均一性が損なわれてしまうため好ましくない。上記粒子体等による被覆率の測定方法としては、モノリスのSEM画像による画像解析方法が挙げられる。
【0044】
また、複合モノリスイオン交換体の全細孔容積は、複合モノリスの全細孔容積と同様である。すなわち、複合モノリスにイオン交換基を導入することで膨潤し開口径が大きくなっても、骨格相が太るため全細孔容積はほとんど変化しない。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを超えると、体積当りのイオン交換容量が低下してしまうため好ましくない。
【0045】
なお、複合モノリスイオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、複合モノリスに水を透過させた際の圧力損失と同様である。
【0046】
本発明の複合モノリスイオン交換体は、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.2mg当量/ml以上、好ましくは0.3〜1.8mg当量/mlのイオン交換容量を有する。体積当りのイオン交換容量が0.2mg当量/ml未満であると、破過までに処理できるイオンを含んだ水の量、即ち脱イオン水の製造能力が低下してしまうため好ましくない。なお、本発明の複合モノリスイオン交換体の乾燥状態における重量当りのイオン交換容量は特に限定されないが、イオン交換基が複合モノリスの骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3〜5mg当量/gである。なお、イオン交換基が骨格の表面のみに導入された有機多孔質体のイオン交換容量は、有機多孔質体やイオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0047】
本発明の複合モノリスに導入するイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基;アミノリン酸基、スルホベタイン等の両性イオン交換基が挙げられる。
【0048】
本発明の複合モノリスイオン交換体において、導入されたイオン交換基は、複合モノリスの骨格の表面のみならず、骨格相内部にまで均一に分布している。ここで言う「イオン交換基が均一に分布している」とは、イオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで骨格相の表面および骨格相の内部に均一に分布していることを指す。イオン交換基の分布状況は、EPMA等を用いることで、比較的簡単に確認することができる。また、イオン交換基が、複合モノリスの表面のみならず、骨格相の内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0049】
本発明の複合モノリスは、上記I工程〜III工程を行なうことにより得られる。本発明のモノリスの製造方法において、I工程は、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が5〜30ml/gの連続マクロポア構造のモノリス中間体を得る工程である。このモノリス中間体を得るI工程は、特開2002−306976号公報記載の方法に準拠して行なえばよい。
【0050】
(モノリス中間体の製造方法)
イオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、四級アンモニウム基等のイオン交換基を含まず、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーが挙げられる。これらモノマーの好適なものとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これら架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい第1架橋剤は、機械的強度の高さから、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。第1架橋剤の使用量は、ビニルモノマーと第1架橋剤の合計量に対して0.3〜10モル%、特に0.3〜5モル%、更に0.3〜3モル%であることが好ましい。第1架橋剤の使用量が0.3モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくない。一方、10モル%を越えると、モノリスの脆化が進行して柔軟性が失われる、イオン交換基の導入量が減少してしまうといった問題点が生じるため好ましくない。
【0052】
界面活性剤は、イオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルジョンを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は1種単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。上記界面活性剤の添加量としては、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2〜70%の範囲で選択することができる。
【0053】
また、I工程では、油中水滴型エマルジョン形成の際、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0054】
イオン交換基を含まない油溶性モノマー、第1架橋剤、界面活性剤、水及び重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、第1架橋剤、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。エマルジョンを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を用いることができ、目的のエマルジョン粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。
【0055】
I工程で得られるモノリス中間体は、連続マクロポア構造を有する。これを重合系に共存させると、そのモノリス中間体の構造を鋳型として連続マクロポア構造の骨格相の表面に粒子体等が形成したり、共連続構造の骨格相の表面に粒子体等が形成したりする。また、モノリス中間体は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好ましくは0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくない。一方、10モル%を越えると、多孔質体の脆化が進行し、柔軟性が失われるため好ましくない。
【0056】
モノリス中間体の全細孔容積は、5〜30ml/g、好適には6〜28ml/gである。全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの全細孔容積が小さくなりすぎ、流体透過時の圧力損失が大きくなるため好ましくない。一方、全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が不均一になりやすく、場合によっては構造崩壊を引き起こすため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積を上記数値範囲とするには、モノマーと水の比(重量)を、概ね1:5〜1:35とすればよい。
【0057】
このモノマーと水との比を、概ね1:5〜1:20とすれば、モノリス中間体の全細孔容積が5〜16ml/gの連続マクロポア構造のものが得られ、III工程を経て得られる複合モノリスの有機多孔質体が第1の有機多孔質体のものが得られる。また、該配合比率を、概ね1:20〜1:35とすれば、モノリス中間体の全細孔容積が16ml/gを超え、30ml/g以下の連続マクロポア構造のものが得られ、III工程を経て得られる複合モノリスの有機多孔質体が第2の有機多孔質体のものが得られる。
【0058】
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の平均直径が20〜200μmである。開口の平均直径が20μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られる複合モノリスの開口径が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、200μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られる複合モノリスの開口径が大きくなりすぎ、流体と複合モノリスや複合モノリスイオン交換体との接触が不十分となり、その結果、吸着特性やイオン交換特性が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0059】
(複合モノリスの製造方法)
II工程は、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程である。なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。
【0060】
II工程で用いられるビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒に対する溶解性が高い親油性のビニルモノマーであれば、特に制限はない。これらビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のα-オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明で好適に用いられるビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等の芳香族ビニルモノマーである。
【0061】
これらビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体に対して、重量で3〜40倍、好ましくは4〜30倍である。ビニルモノマー添加量が多孔質体に対して3倍未満であると、生成したモノリスの骨格に粒子体を形成できず、体積当りの吸着容量やイオン交換基導入後の体積当りのイオン交換容量が小さくなってしまうため好ましくない。一方、ビニルモノマー添加量が40倍を超えると、開口径が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。
【0062】
II工程で用いられる第2架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒への溶解性が高いものが好適に用いられる。第2架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら第2架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい第2架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。第2架橋剤の使用量は、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対して0.3〜20モル%、特に0.3〜10モル%であることが好ましい。架橋剤使用量が0.3モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくない。一方、20モル%を越えると、モノリスの脆化が進行して柔軟性が失われる、イオン交換基の導入量が減少してしまうといった問題点が生じるため好ましくない。
【0063】
II工程で用いられる有機溶媒は、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒、言い換えると、ビニルモノマーが重合して生成するポリマーに対する貧溶媒である。該有機溶媒は、ビニルモノマーの種類によって大きく異なるため一般的な具体例を列挙することは困難であるが、例えば、ビニルモノマーがスチレンの場合、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ブチルセロソルブ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の鎖状(ポリ)エーテル類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等の鎖状飽和炭化水素類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸セロソルブ、プロピオン酸エチル等のエステル類が挙げられる。また、ジオキサンやTHF、トルエンのようにポリスチレンの良溶媒であっても、上記貧溶媒と共に用いられ、その使用量が少ない場合には、有機溶媒として使用することができる。これら有機溶媒の使用量は、上記ビニルモノマーの濃度が10〜30重量%となるように用いることが好ましい。有機溶媒使用量が上記範囲から逸脱してビニルモノマー濃度が10重量%未満となると、重合速度が低下してしまうため好ましくない。一方、ビニルモノマー濃度が30重量%を超えると、本発明の特徴である骨格相表面の凹凸が形成されなくなるため好ましくない。
【0064】
重合開始剤としては、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は油溶性であるほうが好ましい。本発明で用いられる重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、モノマーの種類や重合温度等によって大きく変動するが、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対して、約0.01〜5%の範囲で使用することができる。
【0065】
III工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下、重合を行い、複合モノリスを得る工程である。III工程で用いるモノリス中間体は、本発明の斬新な構造を有するモノリスを創出する上で、極めて重要な役割を担っている。特表平7−501140号等に開示されているように、モノリス中間体不存在下でビニルモノマーと第2架橋剤を特定の有機溶媒中で静置重合させると、粒子凝集型のモノリス状有機多孔質体が得られる。それに対して、本発明のように上記重合系に連続マクロポア構造のモノリス中間体を存在させると、重合後のモノリスの構造は劇的に変化し、粒子凝集構造は消失し、上述の特定の骨格構造を有するモノリスが得られる。
【0066】
反応容器の内容積は、モノリス中間体を反応容器中に存在させる大きさのものであれば特に制限されず、反応容器内にモノリス中間体を載置した際、平面視でモノリスの周りに隙間ができるもの、反応容器内にモノリス中間体が隙間無く入るもののいずれであってもよい。このうち、重合後のモノリスが容器内壁から押圧を受けることなく、反応容器内に隙間無く入るものが、モノリスに歪が生じることもなく、反応原料などの無駄がなく効率的である。なお、反応容器の内容積が大きく、重合後のモノリスの周りに隙間が存在する場合であっても、ビニルモノマーや架橋剤は、モノリス中間体に吸着、分配されるため、反応容器内の隙間部分に粒子凝集構造物が生成することはない。
【0067】
III工程において、反応容器中、モノリス中間体は混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体の配合比は、前述の如く、モノリス中間体に対して、ビニルモノマーの添加量が重量で3〜40倍、好ましくは4〜30倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な開口径を有しつつ、特定の骨格を有するモノリスを得ることができる。反応容器中、混合物中のビニルモノマーと架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体の骨格内で重合が進行する。
【0068】
重合条件は、モノマーの種類、開始剤の種類により様々な条件が選択できる。例えば、開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、20〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよい。加熱重合により、モノリス中間体の骨格に吸着、分配したビニルモノマーと架橋剤が該骨格内で重合し、該特定の骨格構造を形成させる。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、アセトン等の溶剤で抽出して特定骨格構造のモノリスを得る。
【0069】
上述の複合モノリスを製造する際に、下記(1)〜(5)の条件のうち、少なくとも一つを満たす条件下でII工程又はIII工程行うと、本発明の特徴的な構造である、骨格表面に粒子体等が形成された複合モノリスを製造することができる。
【0070】
(1)III工程における重合温度が、重合開始剤の10時間半減温度より、少なくとも5℃低い温度である。
(2)II工程で用いる第2架橋剤のモル%が、I工程で用いる第1架橋剤のモル%の2倍以上である。
(3)II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーである。
(4)II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルである。
(5)II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程の混合物中、30重量%以下である。
【0071】
(上記(1)の説明)
10時間半減温度は重合開始剤の特性値であり、使用する重合開始剤が決まれば10時間半減温度を知ることができる。また、所望の10時間半減温度があれば、それに該当する重合開始剤を選択することができる。III工程において、重合温度を低下させることで、重合速度が低下し、骨格相の表面に粒子体等を形成させることができる。その理由は、モノリス中間体の骨格相の内部でのモノマー濃度低下が緩やかとなり、液相部からモノリス中間体へのモノマー分配速度が低下するため、余剰のモノマーがモノリス中間体の骨格層の表面近傍で濃縮され、その場で重合したためと考えられる。
【0072】
重合温度の好ましいものは、用いる重合開始剤の10時間半減温度より少なくとも10℃低い温度である。重合温度の下限値は特に限定されないが、温度が低下するほど重合速度が低下し、重合時間が実用上許容できないほど長くなってしまうため、重合温度を10時間半減温度に対して5〜20℃低い範囲に設定することが好ましい。
【0073】
((2)の説明)
II工程で用いる第2架橋剤のモル%を、I工程で用いる第1架橋剤のモル%の2倍以上に設定して重合すると、本発明の複合モノリスが得られる。その理由は、モノリス中間体と含浸重合によって生成したポリマーとの相溶性が低下し相分離が進行するため、含浸重合によって生成したポリマーはモノリス中間体の骨格相の表面近傍に排除され、骨格相表面に粒子体等の凹凸を形成したものと考えられる。なお、架橋剤のモル%は、架橋密度モル%であって、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対する架橋剤量(モル%)を言う。
【0074】
II工程で用いる第2架橋剤モル%の上限は特に制限されないが、第2架橋剤モル%が著しく大きくなると、重合後のモノリスにクラックが発生する、モノリスの脆化が進行して柔軟性が失われる、イオン交換基の導入量が減少してしまうといった問題点が生じるため好ましくない。好ましい第2架橋剤モル%の倍数は2倍〜10倍である。一方、I工程で用いる第1架橋剤モル%をII工程で用いられる第2架橋剤モル%に対して2倍以上に設定しても、骨格相表面への粒子体等の形成は起こらず、本発明の複合モノリスは得られなかった。
【0075】
((3)の説明)
II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーであると、本発明の複合モノリスが得られる。例えば、スチレンとビニルベンジルクロライドのように、ビニルモノマーの構造が僅かでも異なると、骨格相表面に粒子体等が形成された複合モノリスが生成する。一般に、僅かでも構造が異なる二種類のモノマーから得られる二種類のホモポリマーは互いに相溶しない。したがって、I工程で用いたモノリス中間体形成に用いたモノマーとは異なる構造のモノマーをII工程で用いてIII工程で重合を行うと、II工程で用いたモノマーはモノリス中間体に均一に分配や含浸がされるものの、重合が進行してポリマーが生成すると、生成したポリマーはモノリス中間体とは相溶しないため、相分離が進行し、生成したポリマーはモノリス中間体の骨格相の表面近傍に排除され、骨格相の表面に粒子体等の凹凸を形成したものと考えられる。
【0076】
((4)の説明)
II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルであると、本発明の複合モノリスが得られる。ポリエーテルはモノリス中間体との親和性が比較的高く、特に低分子量の環状ポリエーテルはポリスチレンの良溶媒、低分子量の鎖状ポリエーテルは良溶媒ではないがかなりの親和性を有している。しかし、ポリエーテルの分子量が大きくなると、モノリス中間体との親和性は劇的に低下し、モノリス中間体とほとんど親和性を示さなくなる。このような親和性に乏しい溶媒を有機溶媒に用いると、モノマーのモノリス中間体の骨格内部への拡散が阻害され、その結果、モノマーはモノリス中間体の骨格の表面近傍のみで重合するため、骨格相表面に粒子体等が形成され骨格表面に凹凸を形成したものと考えられる。
【0077】
ポリエーテルの分子量は、200以上であれば上限に特に制約はないが、あまりに高分子量であると、II工程で調製される混合物の粘度が高くなり、モノリス中間体内部への含浸が困難になるため好ましくない。好ましいポリエーテルの分子量は200〜100000、特に好ましくは200〜10000である。また、ポリエーテルの末端構造は、未修飾の水酸基であっても、メチル基やエチル基等のアルキル基でエーテル化されていてもよいし、酢酸、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等でエステル化されていてもよい。
【0078】
((5)の説明)
II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程中の混合物中、30重量%以下であると、本発明の複合モノリスが得られる。II工程でモノマー濃度を低下させることで、重合速度が低下し、前記(1)と同様の理由で、骨格相表面に粒子体等が形成でき、骨格相表面に凹凸を形成されることができる。モノマー濃度の下限値は特に限定されないが、モノマー濃度が低下するほど重合速度が低下し、重合時間が実用上許容できないほど長くなってしまうため、モノマー濃度は10〜30重量%に設定することが好ましい。
【0079】
(複合モノリスイオン交換体の製造方法)
次に、本発明の複合モノリスイオン交換体の製造方法について説明する。該複合モノリスイオン交換体の製造方法としては、特に制限はないが、上記の方法により複合モノリスを製造した後、イオン交換基を導入する方法が、得られる複合モノリスイオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールできる点で好ましい。
【0080】
上記複合モノリスにイオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、スルホン酸基を導入する方法としては、複合モノリスがスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロ硫酸や濃硫酸、発煙硫酸を用いてスルホン化する方法;複合モノリスに均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部に導入し、スチレンスルホン酸ナトリウムやアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸をグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換によりスルホン酸基を導入する方法等が挙げられる。また、四級アンモニウム基を導入する方法としては、複合モノリスがスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法;複合モノリスをクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、三級アミンと反応させる方法;モノリスに、均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部導入し、N,N,N−トリメチルアンモニウムエチルアクリレートやN,N,N−トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミドをグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換により四級アンモニウム基を導入する方法等が挙げられる。また、ベタインを導入する方法としては、上記の方法によりモノリスに三級アミンを導入した後、モノヨード酢酸を反応させ導入する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、スルホン酸基を導入する方法については、クロロ硫酸を用いてスチレン-ジビニルベンゼン共重合体にスルホン酸基を導入する方法が、四級アンモニウム基を導入する方法としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法やクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合によりモノリスを製造し、三級アミンと反応させる方法が、イオン交換基を均一かつ定量的に導入できる点で好ましい。なお、導入するイオン交換基としては、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基;アミノリン酸基、ベタイン、スルホベタイン等の両性イオン交換基が挙げられる。
【0081】
本発明のケミカルフィルターは、上記複合モノリス、該複合モノリスに貫通孔を設けたもの、複合モノリスイオン交換体又は該複合モノリスイオン交換体に貫通孔を設けたもの、さらには、すでに公知のイオン交換樹脂やイオン交換繊維を用いた吸着層と上記モノリスを組み合わせたものを吸着層として備えるものであれば、フィルターの構成に特に制限はないが、通常、吸着層と該吸着層を支持する支持枠体(ケーシング)とで構成される。該支持枠体は吸着層を支持すると共に、既存設備(設置場所)との接合を司る機能を有する。支持部材の被処理気体流通部分は、脱ガスのないステンレス、アルミニウム、プラスチック等の素材からなる。吸着層の形状としては、特に制限されず、所定の厚みを有するブロック形状、薄板を複数枚重ね合わせた積層形状、定形状又は不定形状の粒状物を多数充填した充填構造などが挙げられる。また、吸着層からガス状有機系汚染物質が極微量発生する恐れのある場合、あるいは被処理気体中の有機性ガス状汚染物質の濃度が高い場合には、吸着層の下流側に物理吸着層を付設することが、下流側の物理吸着層で上流側の吸着層で除去できなかった残部のガス状有機系汚染物質を確実に除去できる点で好適である。
【0082】
本発明のケミカルフィルターの比表面積は1〜20m2/g、好ましくは2〜18m2/gである。比表面積が小さ過ぎると、処理能力が低下するため好ましくなく、大き過ぎると、複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体の強度が著しく低下するため、好ましくない。比表面積を上記範囲とするには、前記製造方法における(1)〜(5)の条件下で重合を行えばよい。比表面積は水銀圧入法で測定することができる。
【0083】
該物理吸着層としては、脱臭用途に使用できる吸着剤が使用できる。具体的には、活性炭、活性炭素繊維及びゼオライトなどが挙げられる。該吸着剤は、比表面積が200m2/g以上の多孔質体が好ましく、比表面積が500m2/g以上の多孔質体がさらに好ましい。また、該物理吸着層から物理吸着剤などが飛散する恐れのある場合には、該物理吸着層の下流側に通気性を有するカバー材を配置することが好ましい。カバー材としては、有機高分子材料からなる不織布及び多孔質膜、並びにアルミニウム及びステンレス製のメッシュ等が挙げられる。これらの中、有機高分子材料からなる不織布や多孔質膜は低圧力損失で気体を透過でき、且つ微粒子捕集能力が高いため、特に好適である。
【0084】
貫通孔は所定の厚みを有するブロック形状の複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体において、通気方向に延びるように複数個形成するのがよい。貫通孔を設けることにより、通気差圧を更に低下させることができる。複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体に貫通孔を設けたものを吸着層として使用する場合、見かけの複合モノリスに占める貫通孔の空隙率は20〜50%、好ましくは25〜40%である。貫通孔の空隙率が低すぎると、通気差圧の低下傾向が小さくなり、貫通孔の空隙率が高すぎると、ガス状汚染物質の除去効率が低下する。
【0085】
本発明のケミカルフィルターは、半導体産業や医療用等に用いられるクリーンルームやクリーンベンチ等の高度清浄空間を形成するため、クリーンルーム内の空気や雰囲気中に含まれる有機系又は無機系のガス状汚染物質及びその他の汚染物質をイオン交換又は吸着により除去する。ガス状汚染物質及びその他の汚染物質としては、二酸化硫黄、塩酸、フッ酸、硝酸等の酸性ガス、アンモニア等の塩基性ガス、塩化アンモニウム等の塩類、フタル酸エステル系に代表される各種可塑剤、フェノール系及びリン系の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、リン系及びハロゲン系の難燃剤等が挙げられる。酸性ガス、塩基性ガス及び塩類はイオン交換により除去でき、各種可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤及び難燃剤は強い極性を有するため、吸着により除去することができる。
【0086】
本発明のケミカルフィルターの使用条件としては、公知の条件で行なうことができる。使用雰囲気の湿度としては、相対湿度で30〜80%程度である。気体透過速度としては、特に制限されないが、例えば0.1〜10m/sの範囲である。従来の粒状イオン交換樹脂を吸着層として使用する場合、気体透過速度は0.3〜0.5m/s程度であるが、本発明のケミカルフィルターによれば、気体透過速度が5〜10m/sのように速くても、骨格部が連続マクロポア構造または共連続構造でありイオン交換容量が大きく且つ効率良くイオン交換が行なわれるため、ガス状汚染物質を吸着除去できる。また、被処理空気中の汚染物質濃度において、従来のケミカルフィルターによれば、適用範囲はアンモニアの場合、通常0.1〜10μg/m3、塩化水素の場合、通常5〜50ng/m3、二酸化硫黄の場合、通常0.1〜10μg/m3、フタル酸エステルの場合、通常0.1〜5μg/m3であるが、本発明のケミカルフィルターによれば、上記範囲に加えて、アンモニア100ng/m3以下、塩化水素5ng/m3以下、二酸化硫黄100ng/m3以下、フタル酸エステル100ng/m3以下の極微量濃度であっても十分除去できる。なお、吸着層として用いる複合モノリスイオン交換体は、使用に際しては、従来のイオン交換樹脂の場合と同様、得られた複合モノリスイオン交換体を公知の再生方法により処理して用いる。すなわち、複合モノリス陽イオン交換体は、酸処理により酸型として用い、複合モノリス陰イオン交換体は、アルカリ処理によりOH型として用いる。また、ケミカルフィルター処理気体が使用雰囲気の湿度になるよう、予めケミカルフィルターをその使用空間における平衡水分率となる水分保有量にしておくことが、慣らし運転を省略できる点で好ましい。本発明のケミカルフィルターをブロック状で用い、気体透過速度が5〜10m/sの場合、ブロック状の吸着層の通気方向の長さは概ね50〜200mmである。
【0087】
本発明のケミカルフィルターは、吸着層として用いる複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体の細孔容積や比表面積が格段に大きく、その表面や内部にイオン交換基が高密度に導入されているため、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、また、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能である。すなわち、従来の粒状のイオン交換樹脂は、粒子内部のイオン交換が遅く、イオン交換容量の全てが有効に使用されない。例えば粒径500μmの粒状イオン交換樹脂の場合、効率よく吸着が行なわれる範囲が表面から100μmと仮定すると、表面層の体積分率は約50%であり、効率よく吸着が行なわれる範囲のイオン交換容量は約半分となる。一方、本発明に係る複合モノリスイオン交換体は壁の厚みが2〜10μmであるため、全てのイオン交換基が効率よく使用される。
【0088】
本発明のケミカルフィルターの吸着層に用いるモノリス状多孔質イオン交換体はイオン交換体長さについても、従来の粒状イオン交換樹脂に比べて約1/4と非常に小さく、同じ体積の吸着層を用いても寿命が長くなる。
【0089】
本発明のケミカルフィルターは、送風機ユニットと組み合わせて又は送風機ユニットに組み込まれて使用することができる。送風機ユニットとしては、特に制限はないが、通常、軸流ファンまたはブロアを送風源とする送風機と、その出力を調節するコントローラーと、該送風機と該コントローラーを収める第1ケーシングと、該ケーシングに連結される微粒子除去用のHEPAまたはULPAフィルターと、HEPAまたはULPAフィルターを収める第2ケーシングからなる。第1ケーシング及び第2ケーシングの被処理気体流通部分は、脱ガスのないステンレス、アルミニウム、プラスチック等の素材からなる。微粒子除去用フィルターのろ材についても特に制限はなく、一般的なガラス繊維やPTFEを用いることができる。クリーンルーム等で用いる場合には、ボロンや有機物を放出しないガラス繊維やPTFEがなお好ましい。
【0090】
本発明のケミカルフィルターは微粒子除去用のHEPAまたはULPAフィルターの上流側に付設される。本発明のケミカルフィルターと送風機ユニットを組み合わせる形態としては、互いのケーシング同士を接続して一体化して使用する方法が挙げられる。本発明のケミカルフィルターを送風機ユニットに組み込む形態としては、吸着層を送風機ユニットに組み込む形態である。ケミカルフィルターを送風機ユニットに組み込む形態において、送風機とケミカルフィルターの位置は、どちらが上流側にきてもよい。本発明のケミカルフィルターを送風機ユニットとを組み合わせて使用すれば、ガス状汚染物質と微粒子を共に除去できる点で好ましい。
【0091】
本発明においては、複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体をケミカルフィルターの吸着層として用いるため、大きな流路と均一に導入されたイオン交換基により、静圧の小さな小型の送風機においても効率よく被処理気体中の不純物を除去できる。また、体積当たりのイオン交換容量、比表面積が非常に大きく均一にイオン交換基が導入されているため、除去率の向上と長寿命化が図れる。
【0092】
実施例
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0093】
(I工程;モノリス中間体の製造)
スチレン9.28g、ジビニルベンゼン0.19g、ソルビタンモノオレエート(以下SMOと略す)0.50gおよび2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.26gを混合し、均一に溶解させた。次に,当該スチレン/ジビニルベンゼン/SMO/2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)混合物を180gの純水に添加し、遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて5〜20℃の温度範囲において減圧下撹拌して、油中水滴型エマルションを得た。このエマルションを反応容器に速やかに移し、密封後静置下で60℃、24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノールで抽出した後、減圧乾燥して、連続マクロポア構造を有するモノリス中間体を製造した。該モノリス中間体のマクロポアとマクロポアが重なる部分の開口(メソポア)の平均直径は40μm、全細孔容積は15.8ml/gであった。
【0094】
(複合モノリスの製造)
次いで、スチレン36.0g、ジビニルベンゼン4.0g、1-デカノール60g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.4gを混合し、均一に溶解させた(II工程)。重合開始剤として用いた2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の10時間半減温度は、51℃であった。モノリス中間体の架橋密度1.3モル%に対して、II工程で用いたスチレンとジビニルベンゼンの合計量に対するジビニルベンゼンの使用量は6.6モル%であり、架橋密度比は5.1倍であった。次に上記モノリス中間体を外径70mm、厚さ約20mmの円盤状に切断して、3.2g分取した。分取したモノリス中間体を内径73mmの反応容器に入れ、当該スチレン/ジビニルベンゼン/1-デカノール/2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)混合物に浸漬させ、減圧チャンバー中で脱泡した後、反応容器を密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、厚さ約30mmのモノリス状の内容物を取り出し、アセトンでソックスレー抽出した後、85℃で一夜減圧乾燥した(III工程)。
【0095】
このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる複合モノリス(乾燥体)の内部構造を、SEMにより観察した結果を図1〜図3に示す。図1〜図3のSEM画像は、倍率が異なるものであり、モノリスを任意の位置で切断して得た切断面の任意の位置における画像である。図1〜図3から明らかなように、当該複合モノリスは連続マクロポア構造を有しており、連続マクロポア構造体を構成する骨格相の表面は、平均粒子径4μmの粒子体で被覆され、粒子被覆率は80%であった。また、粒径2〜5μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%であった。
【0096】
また、水銀圧入法により測定した当該複合モノリスの開口の平均直径は16μm、全細孔容積は2.3ml/gであった。その結果を表1及び表2にまとめて示す。表1中、仕込み欄は左から順に、II工程で用いたビニルモノマー、架橋剤、有機溶媒、I工程で得られたモノリス中間体を示す。また、粒子体等は粒子で示した。
【0097】
(複合モノリスカチオン交換体の製造)
上記の方法で製造した複合モノリスを、外径70mm、厚み約15mmの円盤状に切断した。モノリスの重量は19.6gであった。これにジクロロメタン1500mlを加え、35℃で1時間加熱した後、10℃以下まで冷却し、クロロ硫酸98.9gを徐々に加え、昇温して35℃で24時間反応させた。その後、メタノールを加え、残存するクロロ硫酸をクエンチした後、メタノールで洗浄してジクロロメタンを除き、更に純水で洗浄して複合モノリスカチオン交換体を得た。
【0098】
得られたカチオン交換体の反応前後の膨潤率は1.3倍であり、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で1.11mg当量/mlであった。水湿潤状態での有機多孔質イオン交換体の開口の平均直径を、有機多孔質体の値と水湿潤状態のカチオン交換体の膨潤率から見積もったところ21μmであり、モノリスと同様の方法で求めた骨格表面の粒子被覆率は80%、被覆粒子の平均粒径は5μm、全細孔容積は2.3ml/gであった。また、粒径3〜7μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%であった。また、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は、0.057MPa/m・LVであり、実用上要求される圧力損失と比較して、それを下回る低い圧力損失であった。更に、イオン交換帯長さは9mmであり、著しく短い値を示した。結果を表2にまとめて示す。
【0099】
次に、複合モノリスカチオン交換体中のスルホン酸基の分布状態を確認するため、EPMAにより硫黄原子の分布状態を観察した。その結果を図4及び図5に示す。図4及び図5共に、左右の写真はそれぞれ対応している。図4は硫黄原子のカチオン交換体の表面における分布状態を示したものであり、図5は硫黄原子のカチオン交換体の断面(厚み)方向における分布状態を示したものである。図4及び図5より、スルホン酸基はカチオン交換体の骨格表面及び骨格内部(断面方向)にそれぞれ均一に導入されていることがわかる。
【0100】
実施例2〜5
(複合モノリスの製造)
ビニルモノマーの使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の種類と使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造、架橋密度と使用量及び重合温度を表1に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示す。また、複合モノリス(乾燥体)の内部構造を、SEMにより観察した結果を図6〜図13に示す。図6〜図8は実施例2、図9及び図10は実施例3、図11は実施例4、図12及び図13は実施例5のものである。なお、実施例2については架橋密度比(2.5倍)、実施例3については有機溶媒の種類(PEG;分子量400)、実施例4についてはビニルモノマー濃度(28.0%)、実施例5については重合温度(40℃;重合開始剤の10時間半減温度より11℃低い)について、本発明の製造条件を満たす条件で製造した。図6〜図13から実施例3〜5の複合モノリスの骨格表面に付着しているものは粒子体というよりは突起体であった。突起体の「粒子平均径」は突起体の最大径の平均径である。図6〜図13及び表2から、実施例2〜6のモノリス骨格表面に付着している粒子の平均径は3〜8μm、粒子被覆率は50〜95%であった。また、実施例2が粒径3〜6μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は80%、実施例3が粒径3〜10μmの突起体が全体の粒子体に占める割合は80%、実施例4が粒径2〜5μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%、実施例5が粒径3〜7μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%であった。
【0101】
(複合モノリスカチオン交換体の製造)
上記の方法で製造した複合モノリスを、それぞれ実施例1と同様の方法でクロロ硫酸と反応させ、複合モノリスカチオン交換体を製造した。その結果を表2に示す。実施例2〜5における複合モノリスカチオン交換体の連続細孔の平均直径は21〜52μmであり、骨格表面に付着している粒子体等の平均径は5〜17μm、粒子被覆率も50〜95%と高く、差圧係数も0.010〜0.057MPa/m・LVと小さい上に、イオン交換帯長さも8〜12mmと著しく小さな値であった。また、粒径5〜10μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%であった。
【0102】
実施例6
(複合モノリスの製造)
ビニルモノマーの種類とその使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の種類と使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造、架橋密度および使用量を表1に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示す。また、複合モノリス(乾燥体)の内部構造を、SEMにより観察した結果を図14〜図16に示す。実施例6の複合モノリスの骨格表面に付着しているものは突起体であった。実施例6のモノリスは、表面に形成された突起体の最大径の平均径が10μmであり、粒子被覆率は100%であった。また、粒径6〜12μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は80%であった。
【0103】
(複合モノリスアニオン交換体の製造)
上記の方法で製造した複合モノリスを、外径70mm、厚み約15mmの円盤状に切断した。複合モノリスの重量は17.9gであった。これにテトラヒドロフラン1500mlを加え、40℃で1時間加熱した後、10℃以下まで冷却し、トリメチルアミン30%水溶液114.5gを徐々に加え、昇温して40℃で24時間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄してテトラヒドロフランを除き、更に純水で洗浄してモノリスアニオン交換体を得た。
【0104】
得られた複合アニオン交換体の反応前後の膨潤率は2.0倍であり、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.32mg当量/mlであった。水湿潤状態での有機多孔質イオン交換体の連続細孔の平均直径を、モノリスの値と水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の膨潤率から見積もったところ58μmであり、同様の方法で求めた突起体の平均径は20μm、粒子被覆率は100%、全細孔容積は2.1ml/gであった。また、イオン交換帯長さは16mmと非常に短い値を示した。なお、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は、0.041MPa/m・LVであり、実用上要求される圧力損失と比較して、それを下回る低い圧力損失であった。また、粒径12〜24μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は80%であった。その結果を表2にまとめて示す。
【0105】
次に、多孔質アニオン交換体中の四級アンモニウム基の分布状態を確認するため、アニオン交換体を塩酸水溶液で処理して塩化物型とした後、EPMAにより塩素原子の分布状態を観察した。その結果、塩素原子はアニオン交換体の骨格表面のみならず、骨格内部にも均一に分布しており、四級アンモニウム基がアニオン交換体中に均一に導入されていることが確認できた。
【0106】
比較例1
(モノリスの製造)
ビニルモノマーの使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の種類と使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の使用量を表1に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示す。なお、不図示のSEM写真から骨格表面には粒子体や突起体の形成は全く認められなかった。表1及び表2から、本発明の特定の製造条件と逸脱する条件、すなわち、上記(1)〜(5)の要件から逸脱した条件下でモノリスを製造すると、モノリス骨格表面での粒子生成が認められないことがわかる。
【0107】
(モノリスカチオン交換体の製造)
上記の方法で製造したモノリスを、実施例1と同様の方法でクロロ硫酸と反応させ、モノリスカチオン交換体を製造した。結果を表2に示す。得られたモノリスカチオン交換体のイオン交換帯長さは26mmであり、実施例と比較して大きな値であった。
【0108】
比較例2〜4
(モノリスの製造)
ビニルモノマーの使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の種類と使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造、架橋密度および使用量を表1に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示す。なお、比較例2については架橋密度比(0.2倍)、比較例3については有機溶媒の種類(2-(2-メトキシエトキシ)エタノール;分子量120)、比較例4については重合温度(50℃;重合開始剤の10時間半減温度より1℃低い)について、本発明の製造条件を満たさない条件で製造した。結果を表2に示す。比較例2、4、5のモノリスについては骨格表面での粒子生成はなかった。また、比較例3では単離した生成物は透明であり、多孔構造が崩壊、消失していた。
【0109】
(モノリスカチオン交換体の製造)
比較例3を除き、上記の方法で製造した有機多孔質体を、比較例1と同様の方法でクロロ硫酸と反応させ、モノリスカチオン交換体を製造した。その結果を表2に示す。得られたモノリスカチオン交換体のイオン交換帯長さは23〜26mmであり、実施例と比較して大きな値であった。
【0110】
比較例5
(モノリスの製造)
ビニルモノマーの使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造および使用量を表1に示す配合量に変更した以外は、比較例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示すが、本発明の特定の製造条件を逸脱してモノリスを製造すると、モノリス骨格表面での粒子生成が認められないことがわかる。
【0111】
(モノリスアニオン交換体の製造)
上記の方法で製造したモノリスを、直径70mm、厚み約15mmの円盤状に切断した。これにジメトキシメタン1400ml、四塩化スズ20mlを加え、氷冷下クロロ硫酸560mlを滴下した。滴下終了後、昇温して35℃で5時間反応させ、クロロメチル基を導入した。反応終了後、母液をサイフォンで抜き出し、THF/水=2/1の混合溶媒で洗浄した後、更にTHFで洗浄した。このクロロメチル化モノリスにTHF1000mlとトリメチルアミン30%水溶液600mlを加え、60℃、6時間反応させた。反応終了後、生成物をメタノール/水混合溶媒で洗浄し、次いで純水で洗浄して単離した。結果を表2に示が、得られたモノリスアニオン交換体のイオン交換帯長さは47mmであり、実施例と比較して大きな値であった。
【0112】
実施例7
(複合モノリスカチオン交換体の製造)
複合モノリスの製造において、厚さ20mmの円盤に代えて、I工程の試薬量を2倍にしてモノリス中間体を製造し、厚さ50mmとしたこと、II工程の試薬量を3倍にしたこと、複合モノリスカチオン交換体製造時の複合モノリス厚さ15mmを50mmとしたこと、ジクロロメタン使用量を1500mlから5000mlとしたこと、クロロ硫酸使用量を98.9gから329gとしたこと以外は実施例1に準拠した方法により複合モノリスカチオン交換体を製造した。
【0113】
(複合モノリスカチオン交換体を用いた塩基性ガスの吸着)
上記方法で得られた複合モノリスカチオン交換体を3N塩酸中に24時間浸漬した後、純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られた複合モノリスカチオン交換体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに25℃、40%の温湿度条件下、アンモニア濃度5,000ng/m3の空気を面風速0.5m/sで供給したときの通気差圧を測定し、透過気体を超純水インピンジャー法でサンプリングし、イオンクロマトグラフ法でアンモニウムイオンの定量を行った。その結果、空気中のアンモニア濃度は50ng/m3未満であり、完全にアンモニアを除去できた。
【0114】
比較例6
製造例1(有機多孔質陽イオン交換体の製造)
スチレン38g、ジビニルベンゼン2.0g、ソルビタンモノオレート2.1gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.1gを混合し、均一に溶解させた。次に当該スチレン/ジビニルベンゼン/ソルビタンモノオレート/アゾビスイソブチロニトリル混合物を360gの純水に添加し、遊星式攪拌装置である真空攪拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて13.3kPaの減圧下、底面直径と充填物の高さの比が1:1、公転回転数1000回転/分、自転回転数330回転/分で2分間攪拌し、油中水滴型エマルジョンを得た。乳化終了後、系を窒素で十分置換した後密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノールで18時間ソックスレー抽出し、未反応モノマー、水およびソルビタンモノオレエートを除去した後、85℃で一昼夜減圧乾燥した。このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を3モル%含有した有機多孔質体の内部構造をSEMにより観察した結果、当該有機多孔質体は連続気泡構造を有していた。
【0115】
次いで上記有機多孔質体を切断して18gを分取し、ジクロロエタン2400mlを加え60℃で30分加熱した後、室温まで冷却し、クロロ硫酸90gを徐々に加え、室温で24時間反応させた。その後、酢酸を加え、多量の水中に反応物を投入し、水洗して有機多孔質陽イオン交換体を得た。この有機多孔質陽イオン交換体のイオン交換容量は、乾燥多孔質体換算で4.8mg当量/gであり、EPMAを用いた硫黄原子のマッピングにより、スルホン酸基がμmオーダーで有機多孔質体に均一に導入されていることを確認した。また、SEM観察により、有機多孔質体の連続気泡構造はイオン交換基導入後も保持されていることを確認した。また、この有機多孔質陽イオン交換体のメソポアの平均径は、30μm、全細孔容積は10.2ml/gであった。
【0116】
(有機多孔質陽イオン交換体を用いた塩基性ガスの吸着)
製造例1で製造した有機多孔質陽イオン交換体を3N塩酸中に24時間浸漬した後、純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られたモノリスカチオン交換体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに実施例7と同様の方法でアンモニア除去試験を行った結果、透過空気中のアンモニア濃度は120ng/m3となり、完全にアンモニアを除去することはできなかった。
【0117】
実施例8
複合モノリスカチオン交換体を3N塩酸中に浸漬する前に、内径2mmのSUS316製パイプにより、円柱状モノリスの見かけの円に対して、直径2mmの孔による空隙率が30%となるよう、軸方向に延びる貫通孔をあけた以外は、実施例7と同様の方法で貫通孔を有する複合モノリスカチオン交換体を得、更に実施例7と同様の方法で塩基性ガスの吸着を行った。その結果、面風速0.5m/sのときの通気差圧は80Paと非常に低圧損であり、空気中のアンモニア濃度は450ng/m3であった。
【0118】
比較例7
上記モノリス状有機多孔質カチオン交換体に代えて、比較例6の連続気泡型モノリス状有機多孔質カチオン交換体を使用したこと以外は、実施例8と同様の方法で貫通孔をあけると共に、塩基性ガスの吸着を行った。その結果、通気差圧は85Paであり、空気中のアンモニア濃度は850ng/m3であった。
【0119】
実施例9
(複合モノリスアニオン交換体の製造)
複合モノリスの製造において、厚さ20mmの円盤に代えて、I工程の試薬量を2倍にしてモノリス中間体を製造し、厚さ50mmとしたこと、II工程の試薬量を3倍としたこと、複合モノリスアニオン交換体製造時の複合モノリスの厚さ15mmを50mmとしたこと、テトラヒドロフラン使用量を1500mlから5000mlとしたこと、トリメチルアミン30%水溶液使用量を114.5gから381gとしたこと以外は実施例6に準拠して複合モノリスアニオン交換体を製造した。
【0120】
(複合モノリスアニオン交換体を用いた酸性ガスの吸着)
上記方法で得られた複合モノリスアニオン交換体を1N水酸化ナトリウム水溶液中に24時間浸漬した後、純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られた複合モノリスアニオン交換体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに25℃、40%の温湿度条件下、二酸化硫黄濃度5,000ng/m3の空気を面風速0.5m/sで供給したときの透過気体を超純水インピンジャー法でサンプリングし、イオンクロマトグラフ法で硫酸イオンの定量を行った。その結果、空気中の二酸化硫黄濃度は50ng/m3未満であり、完全に二酸化硫黄を除去できた。
【0121】
比較例8
スチレンに代えてクロロメチルスチレンを用いたこと及びソルビタンモノオレートの量を4.5gに変更したこと以外は、比較例6と同様の方法でモノリス状有機多孔質体を製造した。この有機多孔質体を切断して15.0gを分取し、テトラヒドロフラン1500gを加え60℃で30分加熱した後、室温まで冷却し、トリメチルアミン(30%)水溶液195gを徐々に加え、50℃で3時間反応させた後、室温で一昼夜放置した。反応終了後、有機多孔質体を取り出し、アセトンで洗浄後水洗し、乾燥して有機多孔質陰イオン交換体を得た。この有機多孔質陰イオン交換体のイオン交換容量は、乾燥多孔質体換算で3.7mg当量/gであり、SIMSにより、トリメチルアンモニウム基が有機多孔質体にμmオーダーで均一に導入されていることを確認した。また、SEM観察により、有機多孔質体の連続気泡構造はイオン交換基導入後も保持されていることを確認した。また、この有機多孔質陰イオン交換体のメソポアの平均径は、25μm、全細孔容積は9.8ml/gであった。得られたアニオン交換体を実施例9と同様の方法で二酸化硫黄の除去試験を行った。その結果、空気中の二酸化硫黄の濃度は200ng/m3であり、完全に除去することはできなかった。
【0122】
実施例10
(複合モノリスを用いた有機性ガスの吸着)
実施例7に準拠して製造したモノリス状有機多孔質体を純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られたモノリス状有機多孔質体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに25℃、40%の温度条件下、トルエン濃度1,000ng/m3の空気を面風速0.5m/sで供給したときの透過気体を固体吸着剤(TENAX−GR)を用いて捕集し、ガスクロマトグラフ質量分析法でトルエンの定量を行った。その結果、空気中のトルエン濃度は110ng/m3となり、約89%の除去率であった。
【0123】
比較例9
比較例6に準じて連続気泡型モノリス状有機多孔質体を製造し、実施例10と同様に直径50mm、厚み50mmの円盤状ケミカルフィルターを作製した。
このフィルターを実施例10と同様の条件でトルエン除去試験を行った結果、透過空気中のアンモニア濃度は200ng/m3となり、除去率は約80%であり、実施例10よりも低い除去率となった。
【0124】
実施例11〜14
(複合モノリスカチオン交換体を用いた塩基性ガスの吸着)
実施例1の複合モノリスカチオン交換体に代えて、実施例2〜5の複合モノリスカチオン交換体をそれぞれ使用した以外は、実施例7と同様の方法によりケミカルフィルターを作成し、アンモニア含有空気の処理を行なった。すなわち、実施例2の複合モノリスカチオン交換体を使用したものが実施例11、実施例3の複合モノリスカチオン交換体を使用したものが実施例12、実施例4の複合モノリスカチオン交換体を使用したものが実施例13、実施例5の複合モノリスカチオン交換体を使用したものが実施例14である。その結果、空気中のアンモニア濃度は実施例11が50ng/m3未満、実施例12が50ng/m3未満、実施例13が50ng/m3未満、実施例14が50ng/m3未満であった。
【0125】
実施例15
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体を用いた高風速下での塩基性ガスの吸着)
アンモニア濃度5,000ng/m3の空気に代えて、アンモニア濃度2,000ng/m3の空気としたこと、面風速0.5m/sに代えて、5.0m/sとしたこと以外は、実施例7と同様の方法でアンモニアの除去試験を行った。その結果、空気透過速度が速いにもかかわらず、透過空気中のアンモニア濃度は50ng/m3未満であり、アンモニアを除去することができた。
【0126】
実施例16
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体を用いた極微量濃度塩基性ガスの吸着)
アンモニア濃度2,000ng/m3の空気に代えて、アンモニア濃度100ng/m3の空気とした以外は、実施例15と同様の方法でアンモニア除去の性能評価を行なった。その結果、透過気体中のアンモニア濃度は50ng/m3未満であり、空気透過速度が5.0m/sと速くても、極微量のアンモニアを完全に除去することができた。
【0127】
実施例17
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体を用いた高濃度塩基性ガスの吸着)
アンモニア濃度5,000ng/m3の空気に代えて、アンモニア濃度100μg/m3の空気としたこと以外は、実施例7と同様の方法でアンモニア除去の寿命試験を行った。その結果、90%以上の浄化効率を維持できる期間は27日間であった。
【0128】
比較例10
比較例6と同様のケミカルフィルターを用いて、実施例17と同様のアンモニア除去の寿命試験を行った。その結果、90%以上の除去率を維持できる期間は10日間であった。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のモノリス及びモノリスイオン交換体は、化学的に安定で機械的強度が高く、更に流体透過時の流体との接触効率が高く、流体透過時の圧力損失が低いといった特長を有しているため、ケミカルフィルター等のフィルターや吸着剤;2床3塔式純水製造装置や電気式脱イオン水製造装置に充填して用いられるイオン交換体;各種のクロマトグラフィー用充填剤;固体酸/塩基触媒として有用であり、広範な用途分野に応用することができる。また、本発明のケミカルフィルターは、大きな細孔容積と比表面積を有し、またイオン交換基密度が高いため、高いガス状汚染物質除去能力を有しており、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、超微量ガス状汚染物質も除去可能である。そのため、既存の半導体産業や医療用クリーンルームを対象としたケミカルフィルターとして応用できるばかりでなく、今後、要求清浄度が10倍以上厳しくなると予想される半導体産業でのクリーンルーム向けケミカルフィルターとして特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実施例1で得られたモノリスの倍率100のSEM画像である。
【図2】実施例1で得られたモノリスの倍率300のSEM画像である。
【図3】実施例1で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図4】実施例1で得られたモノリスカチオン交換体の表面における硫黄原子の分布状態を示したEPMA画像である。
【図5】実施例1で得られたモノリスカチオン交換体の断面(厚み)方向における硫黄原子の分布状態を示したEPMA画像である。
【図6】実施例2で得られたモノリスの倍率100のSEM画像である。
【図7】実施例2で得られたモノリスの倍率600のSEM画像である。
【図8】実施例2で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図9】実施例3で得られたモノリスの倍率600のSEM画像である。
【図10】実施例3で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図11】実施例4で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図12】実施例5で得られたモノリスの倍率100のSEM画像である。
【図13】実施例5で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図14】実施例6で得られたモノリスの倍率100のSEM画像である。
【図15】実施例6で得られたモノリスの倍率600のSEM画像である。
【図16】実施例6で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤や脱イオン水製造装置等に用いられるイオン交換体として有用なモノリス状有機多孔質体、これを用いたモノリス状有機多孔質イオン交換体、それらの製造方法及びケミカルフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2002−306976号には、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び必要に応じて重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを得、これを重合させて、連続マクロポア構造のモノリス状有機多孔質体を得る製造方法が開示されている。上記方法で得られる有機多孔質体やそれにイオン交換基を導入した有機多孔質イオン交換体は、吸着剤、クロマトグラフィー用充填剤および脱イオン水製造装置等に用いられるイオン交換体として有用である。
【0003】
しかし、該有機多孔質イオン交換体は、流体透過時の流体との接触効率が若干低いため、吸着剤として用いた時に低濃度領域での吸着能力が低下傾向にある、1ng/l以下の超微量イオンの吸着剤として用いた場合、イオン交換帯長さの増大に伴って動的イオン交換容量が低下する等の欠点を有していた。
【0004】
一方、上記連続マクロポア構造以外の構造を有するモノリス状有機多孔質体やモノリス状有機多孔質イオン交換体としては、粒子凝集型構造を有する多孔質体が特表平7−501140号等に開示されている。しかし、この方法で得られた多孔質体は、比表面積が大きく流体透過時の流体との接触効率も高いが、連続した空孔が最大でも約2μmと小さく、低圧で大流量の処理を行うことが要求される工業規模の脱イオン水製造装置等に用いることはできなかった。更に、粒子凝集型構造を有する多孔質体は機械的強度が低く、所望の大きさに切り出してカラムやセルに充填する際に破損しやすい等、ハンドリング性に劣るものであった。
【0005】
有機多孔質体の構造として、三次元的に連続した骨格相と、その骨格相間に三次元的に連続した空孔相とからなり、両相が絡み合った共連続構造が知られている。特開2007-154083号公報には、マイクロメートルサイズの平均直径を有し、三次元網目状に連続した細孔と有機物質に富む骨格相からなる共連続構造をもつ粒子凝集型でない有機高分子ゲル状のアフィニティー担体であって、当該アフィニティー担体が、架橋剤としての、少なくとも二官能性以上のビニルモノマー化合物、メタクリレート化合物及びアクリレート化合物の少なくともいずれか1種と、一官能性親水性モノマーとの共重合体であり、しかも、前記アフィニティー担体における前記架橋剤と前記一官能性親水性モノマーの体積比率が100〜10:0〜90であるアフィニティー担体が開示されている。このアフィニティー担体は、モノリス構造を維持するために、骨格の架橋密度を高くしている。また、このアフィニティー担体は、非特異的吸着を十分に抑制する親水的特性を有している。また、N. Tsujioka et al., Macromolecules2005, 38, 9901には、共連続構造を有し、エポキシ樹脂からなるモノリス状有機多孔質体が開示されている。
【0006】
なお、特開2004−321930号公報には、連続気泡構造のモノリス状有機多孔質イオン交換体を吸着層として用いるケミカルフィルターが開示されている。このケミカルフィルターによれば、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能なものである。
【特許文献1】特開2002−306976号
【特許文献2】特開2007-154083号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2004−321930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開2007-154083号公報において、実際に得られているアフィニティー担体はナノメートルサイズの細孔であるため、流体を透過させる際の圧力損失が高く、低圧力損失下で大流量の水を処理する必要のある脱イオン水製造装置に充填し、イオン交換体とすることは困難であった。また、アフィニティー担体は親水性であるため、疎水性物質の吸着剤として用いるためには、表面の疎水処理等の煩雑且つコストアップを伴う操作が必要であるという問題があった。また、エポキシ樹脂へのイオン交換基等の官能基の導入は容易ではないという問題もあった。
【0008】
このため、機械的強度が高く、流体透過時の流体との接触効率が高く、連続した空孔が大きくて水や気体等の流体を透過させた際の圧力損失が低いモノリス状有機多孔質体やモノリス状有機多孔質イオン交換体の開発が望まれていた。また、従来にも増してガス状汚染物質の吸着除去能力の高いケミカルフィルターの開発が望まれていた。
【0009】
一方、MR型イオン交換樹脂が、巨大網目構造を持つ共重合体中に、マクロポアと小さな球状ゲル粒子の集塊の間に形成されるミクロポアを持つ粒子複合構造を呈するものとして知られている。しかしながら、MR型イオン交換樹脂のミクロポアを形成する粒子の径は最大でも1μmであり、1μmを超える粒子あるいは突起が表面に固着して存在する複合型の有機モノリスは未だ知られていない。
【0010】
従って、本発明の目的は、上記従来の技術の問題点を解決したものであって、機械的強度が高く、流体透過時の流体との接触効率が高く、流体透過時の圧力損失が低く、吸着容量の大きな吸着剤として好適なモノリス状有機多孔質体、また機械的強度が高く、流体透過時の流体との接触効率が高く、流体透過時の圧力損失が低いモノリス状有機多孔質イオン交換体及びそれらの製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能なケミカルフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、特開2002−306976号公報記載の方法で得られるモノリスの中、比較的大きな細孔容積を有するモノリス状有機多孔質体(中間体)の存在下に、特定の条件下、ビニルモノマーと架橋剤を特定有機溶媒中で静置重合すれば、有機多孔質体を構成する骨格表面上に直径2〜20μmの多数の粒子体が固着する又は突起体が形成された複合構造を有するモノリスを製造できること、また、該複合構造型モノリスやそれにイオン交換基を導入した複合モノリスイオン交換体は、吸着やイオン交換が迅速かつ極めて均一である、圧力損失が小さい、骨格内部は連続空孔構造を維持しているため機械的強度が高く、ハンドリング性に優れ、更に気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能である等、従来のモノリス状有機多孔質体やモノリス状有機多孔質イオン交換体が達成できなかった、優れた特性を兼備していることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径2〜20μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が2〜20μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径8〜100μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであるモノリス状有機多孔質体を提供するものである。
【0013】
また、本発明は連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が4〜40μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径10〜150μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.2mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該複合構造体中に均一に分布していることを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が5〜30ml/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体を得るI工程、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、
II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス状の有機多孔質中間体の存在下で重合を行うIII工程、
を行い、モノリス状有機多孔質体を製造する際に、下記(1)〜(5):
(1)III工程における重合温度が、重合開始剤の10時間半減温度より、少なくとも5℃低い温度である;
(2)II工程で用いる第2架橋剤のモル%が、I工程で用いる第1架橋剤のモル%の2倍以上である;
(3)II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーである;
(4)II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルである;
(5)II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程の混合物中、30重量%以下である;の条件のうち、少なくとも一つを満たす条件下でII工程又はIII工程を行うことを特徴とするモノリス状有機多孔質体の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は前記製造方法で得られたモノリス状有機多孔質体にイオン交換基を導入するIV工程を行なうことを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記モノリス状有機多孔質体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルターを提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記モノリス状有機多孔質イオン交換体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルターを提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複合モノリス状多孔質体は、有機多孔質体を構成する骨格相の骨格表面が特定の大きさの多数の粒子体で被覆されるか又は多数の突起体が形成された複合構造を有しているため、流体透過時の流体とモノリスとの接触効率が高く、吸着が迅速かつ極めて均一である、圧力損失が小さい、骨格構造は連続空孔構造を維持しているため機械的強度が高く、ハンドリング性に優れている。従って、従来用いられてきた合成吸着剤を代替可能であるばかりでなく、その優れた吸着特性を生かして、合成吸着剤では対応できなかった微量成分の吸着除去等新しい用途分野への応用が可能となる。
【0019】
また、本発明の複合モノリス状多孔質イオン交換体は、前記複合モノリス状多孔質体と同様の複合構造を有しているため、イオン交換が迅速かつ極めて均一である、機械的強度が高い、被処理水を低圧、大流量で長期間通水することが可能であるといった特長を有しており、2床3塔式純水製造装置や超純水製造装置、電気式脱イオン水製造装置に充填して用いたり、ケミカルフィルター用吸着剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本明細書中、「モノリス状有機多孔質体」を単に「複合モノリス」と、「モノリス状有機多孔質イオン交換体」を単に「複合モノリスイオン交換体」と、「モノリス状の有機多孔質中間体」を単に「モノリス中間体」とも言う。
【0021】
(複合モノリスの説明)
本発明の複合モノリスは連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される多数の突起体との複合構造体である。なお、本明細書中、「粒子体」及び「突起体」を併せて「粒子体等」と言うことがある。
【0022】
有機多孔質体の連続骨格相と連続空孔相は、SEM画像により観察することができる。有機多孔質体の基本構造としては、連続マクロポア構造及び共連続構造が挙げられる。有機多孔質体の骨格相は、柱状の連続体、凹状の壁面の連続体あるいはこれらの複合体として表れるもので、粒子状や突起状とは明らかに相違する形状のものである。
【0023】
有機多孔質体の好ましい構造としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径20〜200μmの開口となる連続マクロポア構造体(以下、「第1の有機多孔質体」とも言う。)及び太さが0.8〜40μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が8〜80μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体(以下、「第2の有機多孔質体」とも言う。)が挙げられる。
【0024】
第1の有機多孔質体において、開口の平均直径の好ましい値は20〜150μm、特に20〜100μmであり、直径が40〜400μmのマクロポアと該開口で形成される気泡内が流路となる。連続マクロポア構造は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。開口の平均直径が20μm未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、開口の平均直径が大き過ぎると、流体と複合モノリスとの接触が不十分となり、その結果、吸着特性が低下してしまうため好ましくない。上記開口の平均直径は、SEM画像の観察結果又は水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値である。
【0025】
第2の有機多孔質において、三次元的に連続した空孔の大きさが8μm未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、80μmを超えると、流体とモノリスとの接触が不十分となり、その結果、吸着挙動が不均一となったり低濃度の被吸着物質の吸着効率が低下したりするため好ましくない。上記三次元的に連続した空孔の大きさは、SEM画像の観察結果又は水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値である。また、共連続構造体の骨格の太さは0.8〜40μm、好ましくは1〜30μmである。骨格の太さが0.8μm未満であると、体積当りの吸着容量が低下する、機械的強度が低下するといった欠点が生じるため好ましくなく、一方、40μmを超えると、吸着特性の均一性が失わるため好ましくない。
【0026】
上記有機多孔質体の骨格の太さ及び開口の直径は、有機多孔質体のSEM画像観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の直径及び開口を測定して算出すればよい。
【0027】
本発明の複合モノリスにおいて、有機多孔質体の骨格表面に固着する直径2〜20μmの多数の粒子体及び骨格表面上に形成される最大径が2〜20μmの多数の突起体はSEM画像により観察することができる。粒子体等は骨格相の表面と一体化しており、粒子状に観察されるものを粒子体と言い、粒子の一部が表面に埋没してもはや粒子とは言えないものを突起体と言う。骨格相の表面は粒子体等により40%以上、好ましくは50%以上が被覆されたものが好適である。
【0028】
粒子体の直径及び突起体の最大径の好ましい値は3〜15μm、特に3〜10μmであり、全粒子体等中、3〜5μmの粒子体等が占める割合は70%以上、特に80%以上である。また、粒子体は粒子体同士が集塊して凝集体を形成していてもよい。この場合、粒子体の直径は個々の粒子のものを言う。また、突起体に粒子体が固着した複合突起体であってもよい。複合突起体の場合、上記直径及び最大径は個々の突起体の値及び粒子体の値を言う。
【0029】
骨格相の表面を被覆している粒子体等の大きさが上記範囲を逸脱すると、流体と複合モノリス骨格表面及び骨格内部との接触効率を改善する効果が小さくなる傾向にあるため好ましくない。また、粒子による骨格表面の被覆率が40%未満であると、流体と複合モノリス骨格表面及び骨格内部との接触効率を改善する効果が小さくなり、吸着挙動の均一性が損なわる傾向にあるため好ましくない。上記粒子体等の大きさや被覆率は、モノリスのSEM画像を画像解析することで得られる。
【0030】
また、本発明の複合モノリスは、0.5〜5ml/g、好適には0.8〜4ml/gの全細孔容積を有するものである。全細孔容積が小さ過ぎると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が大き過ぎると、体積当りの吸着容量が低下してしまうため好ましくない。本発明の複合モノリスは、粒子体等がモノリス構造を形成する骨格相の壁面や表面に固着した複合構造であるため、これを吸着剤として用いた場合、流体との接触効率が高く、かつ流体の円滑な流通が可能となるため、優れた性能が発揮できる。
【0031】
複合モノリスの孔径は平均直径8〜100μm、好ましくは10〜80μmである。複合モノリスを構成する有機多孔質体が第1の有機多孔質体の場合、複合モノリスの孔径の好ましい値は10〜80μm、複合モノリスを構成する有機多孔質体が第2の有機多孔質体の場合、複合モノリスの孔径の好ましい値は10〜60μmである。複合モノリスの孔径が上記範囲で且つ粒子体等の径が上記範囲内であると、流体と複合モノリス骨格表面及び骨格内部との接触効率が向上する。また、複合モノリスの孔径は水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値である。
【0032】
本発明の複合モノリスは、その厚みが1mm以上であり、膜状の多孔質体とは区別される。厚みが1mm未満であると、多孔質体一枚当りの吸着容量が極端に低下してしまうため好ましくない。該複合モノリスの厚みは、好適には3mm〜1000mmである。また、本発明の複合モノリスは、骨格の基本構造が連続空孔構造であるため、機械的強度が高い。
【0033】
本発明の複合モノリスを吸着剤として使用する場合、例えば、円筒型カラムや角型カラムに、該複合モノリスを当該カラムに挿入できる形状に切り出したものを吸着剤として充填し、これにベンゼン、トルエン、フェノール、パラフィン等の疎水性物質を含有する被処理水を通水させれば、該吸着剤に前記疎水性物質が効率よく吸着される。
【0034】
なお、複合モノリスに水を透過させた際の圧力損失は、複合モノリスを1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.005〜0.1MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.05MPa/m・LVであることが好ましい。
【0035】
本発明の複合モノリスにおいて、連続空孔構造の骨格相を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好適には0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、多孔質体の脆化が進行し、柔軟性が失われるため好ましくなく、特に、イオン交換体の場合にはイオン交換基導入量が減少してしまうため好ましくない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続空孔構造形成の容易さ、イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸・アルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0036】
本発明の複合モノリスにおいて、有機多孔質体の骨格相を構成する材料と骨格相の表面に形成される粒子体等とは、同じ組織が連続した同一材料のもの、同じではない組織が連続する互いが異なる材料のものなどが挙げられる。同じではない組織が連続する互いが異なる材料のものとしては、ビニルモノマーの種類が互いに異なる材料の場合、ビニルモノマーや架橋剤の種類は同じであっても互いの配合割合が異なる材料の場合などが挙げられる。
【0037】
(複合モノリスイオン交換体の説明)
次に、本発明の複合モノリスイオン交換体について説明する。複合モノリスイオン交換体において、複合モノリスと同一構成要素についてはその説明を省略し、異なる点について主に説明する。複合モノリスイオン交換体は、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が4〜40μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径10〜150μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.2mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該複合構造体中に均一に分布している。
【0038】
有機多孔質体が第1の有機多孔質体の場合、有機多孔質体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に35〜150μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体である。複合モノリスイオン交換体の開口の平均直径は、モノリスにイオン交換基を導入する際、複合モノリス全体が膨潤するため、複合モノリスの開口の平均直径よりも大となる。開口の平均直径が30μm未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、開口の平均直径が大き過ぎると、流体とモノリスイオン交換体との接触が不十分となり、その結果、イオン交換特性が低下してしまうため好ましくない。上記開口の平均直径は、SEM画像の観察結果に乾燥状態から湿潤状態となった際の膨潤率を乗じて算出した値又はイオン交換基導入前の複合モノリスの平均直径に、イオン交換基導入前後の膨潤率を乗じて算出した値を指す。
【0039】
有機多孔質体が第2の有機多孔質体の場合、有機多孔質体は、直径が1〜50μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に10〜100μmの三次元的に連続した空孔を有する共連続構造である。三次元的に連続した空孔の大きさが10μm未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、100μmを超えると、流体と複合モノリスイオン交換体との接触が不十分となり、その結果、イオン交換挙動が不均一となってイオン交換帯長さが増大したり、低濃度イオンの捕捉効率が低下したりするため好ましくない。上記三次元的に連続した空孔の大きさとは、SEM画像の観察結果に乾燥状態から湿潤状態となった際の膨潤率を乗じて算出した値又はイオン交換基導入前の複合モノリスの連続細孔の大きさに、イオン交換基導入前後の膨潤率を乗じて算出した値である。
【0040】
また、三次元的に連続した骨格の直径が1μm未満であると、体積当りのイオン交換容量が低下する、機械的強度が低下するといった欠点が生じるため好ましくなく、一方、50μmを超えると、イオン交換特性の均一性が失わるため好ましくない。上記複合モノリスイオン交換体の骨格の直径は、SEM画像の観察結果に乾燥状態から湿潤状態となった際の膨潤率を乗じて算出した値又はイオン交換基導入前のモノリスの骨格直径に、イオン交換基導入前後の膨潤率を乗じて算出した値である。
【0041】
複合モノリスイオン交換体の孔の平均直径は10〜150μm、好ましくは10〜120μmである。複合モノリスイオン交換体を構成する有機多孔質体が第1の有機多孔質体の場合、複合モノリスイオン交換体の孔径の好ましい値は10〜120μm、複合モノリスイオン交換体を構成する有機多孔質体が第2の有機多孔質体の場合、複合モノリスイオン交換体の孔径の好ましい値は10〜90μmである。
【0042】
本発明の複合モノリスイオン交換体において、粒子体の直径及び突起体の最大径は、4〜40μm、好ましい値は4〜30μm、特に4〜20μmであり、全粒子体等中、4〜10μmの粒子体等が占める割合は70%以上、特に80%以上である。また、骨格相の表面は粒子体等により40%以上、好ましくは50%以上被覆されている。壁面や骨格を被覆している粒子の大きさが上記範囲を逸脱すると、流体と複合モノリスイオン交換体の骨格表面及び骨格内部との接触効率を改善する効果が小さくなってしまうため好ましくない。上記複合モノリスイオン交換体の骨格表面に付着した粒子体等の直径又は最大径は、SEM画像の観察結果に乾燥状態から湿潤状態となった際の膨潤率を乗じて算出した値又はイオン交換基導入前の複合モノリスの粒子直径に、イオン交換基導入前後の膨潤率を乗じて算出した値である。
【0043】
粒子体等による骨格相表面の被覆率が40%未満であると、流体と複合モノリスイオン交換体の骨格内部及び骨格表面との接触効率を改善する効果が小さくなり、イオン交換挙動の均一性が損なわれてしまうため好ましくない。上記粒子体等による被覆率の測定方法としては、モノリスのSEM画像による画像解析方法が挙げられる。
【0044】
また、複合モノリスイオン交換体の全細孔容積は、複合モノリスの全細孔容積と同様である。すなわち、複合モノリスにイオン交換基を導入することで膨潤し開口径が大きくなっても、骨格相が太るため全細孔容積はほとんど変化しない。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを超えると、体積当りのイオン交換容量が低下してしまうため好ましくない。
【0045】
なお、複合モノリスイオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、複合モノリスに水を透過させた際の圧力損失と同様である。
【0046】
本発明の複合モノリスイオン交換体は、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.2mg当量/ml以上、好ましくは0.3〜1.8mg当量/mlのイオン交換容量を有する。体積当りのイオン交換容量が0.2mg当量/ml未満であると、破過までに処理できるイオンを含んだ水の量、即ち脱イオン水の製造能力が低下してしまうため好ましくない。なお、本発明の複合モノリスイオン交換体の乾燥状態における重量当りのイオン交換容量は特に限定されないが、イオン交換基が複合モノリスの骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3〜5mg当量/gである。なお、イオン交換基が骨格の表面のみに導入された有機多孔質体のイオン交換容量は、有機多孔質体やイオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0047】
本発明の複合モノリスに導入するイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基;アミノリン酸基、スルホベタイン等の両性イオン交換基が挙げられる。
【0048】
本発明の複合モノリスイオン交換体において、導入されたイオン交換基は、複合モノリスの骨格の表面のみならず、骨格相内部にまで均一に分布している。ここで言う「イオン交換基が均一に分布している」とは、イオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで骨格相の表面および骨格相の内部に均一に分布していることを指す。イオン交換基の分布状況は、EPMA等を用いることで、比較的簡単に確認することができる。また、イオン交換基が、複合モノリスの表面のみならず、骨格相の内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0049】
本発明の複合モノリスは、上記I工程〜III工程を行なうことにより得られる。本発明のモノリスの製造方法において、I工程は、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が5〜30ml/gの連続マクロポア構造のモノリス中間体を得る工程である。このモノリス中間体を得るI工程は、特開2002−306976号公報記載の方法に準拠して行なえばよい。
【0050】
(モノリス中間体の製造方法)
イオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、四級アンモニウム基等のイオン交換基を含まず、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーが挙げられる。これらモノマーの好適なものとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これら架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい第1架橋剤は、機械的強度の高さから、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。第1架橋剤の使用量は、ビニルモノマーと第1架橋剤の合計量に対して0.3〜10モル%、特に0.3〜5モル%、更に0.3〜3モル%であることが好ましい。第1架橋剤の使用量が0.3モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくない。一方、10モル%を越えると、モノリスの脆化が進行して柔軟性が失われる、イオン交換基の導入量が減少してしまうといった問題点が生じるため好ましくない。
【0052】
界面活性剤は、イオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルジョンを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は1種単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。上記界面活性剤の添加量としては、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2〜70%の範囲で選択することができる。
【0053】
また、I工程では、油中水滴型エマルジョン形成の際、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0054】
イオン交換基を含まない油溶性モノマー、第1架橋剤、界面活性剤、水及び重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、第1架橋剤、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。エマルジョンを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を用いることができ、目的のエマルジョン粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。
【0055】
I工程で得られるモノリス中間体は、連続マクロポア構造を有する。これを重合系に共存させると、そのモノリス中間体の構造を鋳型として連続マクロポア構造の骨格相の表面に粒子体等が形成したり、共連続構造の骨格相の表面に粒子体等が形成したりする。また、モノリス中間体は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好ましくは0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくない。一方、10モル%を越えると、多孔質体の脆化が進行し、柔軟性が失われるため好ましくない。
【0056】
モノリス中間体の全細孔容積は、5〜30ml/g、好適には6〜28ml/gである。全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの全細孔容積が小さくなりすぎ、流体透過時の圧力損失が大きくなるため好ましくない。一方、全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が不均一になりやすく、場合によっては構造崩壊を引き起こすため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積を上記数値範囲とするには、モノマーと水の比(重量)を、概ね1:5〜1:35とすればよい。
【0057】
このモノマーと水との比を、概ね1:5〜1:20とすれば、モノリス中間体の全細孔容積が5〜16ml/gの連続マクロポア構造のものが得られ、III工程を経て得られる複合モノリスの有機多孔質体が第1の有機多孔質体のものが得られる。また、該配合比率を、概ね1:20〜1:35とすれば、モノリス中間体の全細孔容積が16ml/gを超え、30ml/g以下の連続マクロポア構造のものが得られ、III工程を経て得られる複合モノリスの有機多孔質体が第2の有機多孔質体のものが得られる。
【0058】
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の平均直径が20〜200μmである。開口の平均直径が20μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られる複合モノリスの開口径が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、200μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られる複合モノリスの開口径が大きくなりすぎ、流体と複合モノリスや複合モノリスイオン交換体との接触が不十分となり、その結果、吸着特性やイオン交換特性が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0059】
(複合モノリスの製造方法)
II工程は、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程である。なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。
【0060】
II工程で用いられるビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒に対する溶解性が高い親油性のビニルモノマーであれば、特に制限はない。これらビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のα-オレフィン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明で好適に用いられるビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等の芳香族ビニルモノマーである。
【0061】
これらビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体に対して、重量で3〜40倍、好ましくは4〜30倍である。ビニルモノマー添加量が多孔質体に対して3倍未満であると、生成したモノリスの骨格に粒子体を形成できず、体積当りの吸着容量やイオン交換基導入後の体積当りのイオン交換容量が小さくなってしまうため好ましくない。一方、ビニルモノマー添加量が40倍を超えると、開口径が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。
【0062】
II工程で用いられる第2架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒への溶解性が高いものが好適に用いられる。第2架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら第2架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい第2架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。第2架橋剤の使用量は、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対して0.3〜20モル%、特に0.3〜10モル%であることが好ましい。架橋剤使用量が0.3モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくない。一方、20モル%を越えると、モノリスの脆化が進行して柔軟性が失われる、イオン交換基の導入量が減少してしまうといった問題点が生じるため好ましくない。
【0063】
II工程で用いられる有機溶媒は、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒、言い換えると、ビニルモノマーが重合して生成するポリマーに対する貧溶媒である。該有機溶媒は、ビニルモノマーの種類によって大きく異なるため一般的な具体例を列挙することは困難であるが、例えば、ビニルモノマーがスチレンの場合、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ブチルセロソルブ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の鎖状(ポリ)エーテル類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等の鎖状飽和炭化水素類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸セロソルブ、プロピオン酸エチル等のエステル類が挙げられる。また、ジオキサンやTHF、トルエンのようにポリスチレンの良溶媒であっても、上記貧溶媒と共に用いられ、その使用量が少ない場合には、有機溶媒として使用することができる。これら有機溶媒の使用量は、上記ビニルモノマーの濃度が10〜30重量%となるように用いることが好ましい。有機溶媒使用量が上記範囲から逸脱してビニルモノマー濃度が10重量%未満となると、重合速度が低下してしまうため好ましくない。一方、ビニルモノマー濃度が30重量%を超えると、本発明の特徴である骨格相表面の凹凸が形成されなくなるため好ましくない。
【0064】
重合開始剤としては、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は油溶性であるほうが好ましい。本発明で用いられる重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、モノマーの種類や重合温度等によって大きく変動するが、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対して、約0.01〜5%の範囲で使用することができる。
【0065】
III工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下、重合を行い、複合モノリスを得る工程である。III工程で用いるモノリス中間体は、本発明の斬新な構造を有するモノリスを創出する上で、極めて重要な役割を担っている。特表平7−501140号等に開示されているように、モノリス中間体不存在下でビニルモノマーと第2架橋剤を特定の有機溶媒中で静置重合させると、粒子凝集型のモノリス状有機多孔質体が得られる。それに対して、本発明のように上記重合系に連続マクロポア構造のモノリス中間体を存在させると、重合後のモノリスの構造は劇的に変化し、粒子凝集構造は消失し、上述の特定の骨格構造を有するモノリスが得られる。
【0066】
反応容器の内容積は、モノリス中間体を反応容器中に存在させる大きさのものであれば特に制限されず、反応容器内にモノリス中間体を載置した際、平面視でモノリスの周りに隙間ができるもの、反応容器内にモノリス中間体が隙間無く入るもののいずれであってもよい。このうち、重合後のモノリスが容器内壁から押圧を受けることなく、反応容器内に隙間無く入るものが、モノリスに歪が生じることもなく、反応原料などの無駄がなく効率的である。なお、反応容器の内容積が大きく、重合後のモノリスの周りに隙間が存在する場合であっても、ビニルモノマーや架橋剤は、モノリス中間体に吸着、分配されるため、反応容器内の隙間部分に粒子凝集構造物が生成することはない。
【0067】
III工程において、反応容器中、モノリス中間体は混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体の配合比は、前述の如く、モノリス中間体に対して、ビニルモノマーの添加量が重量で3〜40倍、好ましくは4〜30倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な開口径を有しつつ、特定の骨格を有するモノリスを得ることができる。反応容器中、混合物中のビニルモノマーと架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体の骨格内で重合が進行する。
【0068】
重合条件は、モノマーの種類、開始剤の種類により様々な条件が選択できる。例えば、開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、20〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよい。加熱重合により、モノリス中間体の骨格に吸着、分配したビニルモノマーと架橋剤が該骨格内で重合し、該特定の骨格構造を形成させる。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、アセトン等の溶剤で抽出して特定骨格構造のモノリスを得る。
【0069】
上述の複合モノリスを製造する際に、下記(1)〜(5)の条件のうち、少なくとも一つを満たす条件下でII工程又はIII工程行うと、本発明の特徴的な構造である、骨格表面に粒子体等が形成された複合モノリスを製造することができる。
【0070】
(1)III工程における重合温度が、重合開始剤の10時間半減温度より、少なくとも5℃低い温度である。
(2)II工程で用いる第2架橋剤のモル%が、I工程で用いる第1架橋剤のモル%の2倍以上である。
(3)II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーである。
(4)II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルである。
(5)II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程の混合物中、30重量%以下である。
【0071】
(上記(1)の説明)
10時間半減温度は重合開始剤の特性値であり、使用する重合開始剤が決まれば10時間半減温度を知ることができる。また、所望の10時間半減温度があれば、それに該当する重合開始剤を選択することができる。III工程において、重合温度を低下させることで、重合速度が低下し、骨格相の表面に粒子体等を形成させることができる。その理由は、モノリス中間体の骨格相の内部でのモノマー濃度低下が緩やかとなり、液相部からモノリス中間体へのモノマー分配速度が低下するため、余剰のモノマーがモノリス中間体の骨格層の表面近傍で濃縮され、その場で重合したためと考えられる。
【0072】
重合温度の好ましいものは、用いる重合開始剤の10時間半減温度より少なくとも10℃低い温度である。重合温度の下限値は特に限定されないが、温度が低下するほど重合速度が低下し、重合時間が実用上許容できないほど長くなってしまうため、重合温度を10時間半減温度に対して5〜20℃低い範囲に設定することが好ましい。
【0073】
((2)の説明)
II工程で用いる第2架橋剤のモル%を、I工程で用いる第1架橋剤のモル%の2倍以上に設定して重合すると、本発明の複合モノリスが得られる。その理由は、モノリス中間体と含浸重合によって生成したポリマーとの相溶性が低下し相分離が進行するため、含浸重合によって生成したポリマーはモノリス中間体の骨格相の表面近傍に排除され、骨格相表面に粒子体等の凹凸を形成したものと考えられる。なお、架橋剤のモル%は、架橋密度モル%であって、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対する架橋剤量(モル%)を言う。
【0074】
II工程で用いる第2架橋剤モル%の上限は特に制限されないが、第2架橋剤モル%が著しく大きくなると、重合後のモノリスにクラックが発生する、モノリスの脆化が進行して柔軟性が失われる、イオン交換基の導入量が減少してしまうといった問題点が生じるため好ましくない。好ましい第2架橋剤モル%の倍数は2倍〜10倍である。一方、I工程で用いる第1架橋剤モル%をII工程で用いられる第2架橋剤モル%に対して2倍以上に設定しても、骨格相表面への粒子体等の形成は起こらず、本発明の複合モノリスは得られなかった。
【0075】
((3)の説明)
II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーであると、本発明の複合モノリスが得られる。例えば、スチレンとビニルベンジルクロライドのように、ビニルモノマーの構造が僅かでも異なると、骨格相表面に粒子体等が形成された複合モノリスが生成する。一般に、僅かでも構造が異なる二種類のモノマーから得られる二種類のホモポリマーは互いに相溶しない。したがって、I工程で用いたモノリス中間体形成に用いたモノマーとは異なる構造のモノマーをII工程で用いてIII工程で重合を行うと、II工程で用いたモノマーはモノリス中間体に均一に分配や含浸がされるものの、重合が進行してポリマーが生成すると、生成したポリマーはモノリス中間体とは相溶しないため、相分離が進行し、生成したポリマーはモノリス中間体の骨格相の表面近傍に排除され、骨格相の表面に粒子体等の凹凸を形成したものと考えられる。
【0076】
((4)の説明)
II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルであると、本発明の複合モノリスが得られる。ポリエーテルはモノリス中間体との親和性が比較的高く、特に低分子量の環状ポリエーテルはポリスチレンの良溶媒、低分子量の鎖状ポリエーテルは良溶媒ではないがかなりの親和性を有している。しかし、ポリエーテルの分子量が大きくなると、モノリス中間体との親和性は劇的に低下し、モノリス中間体とほとんど親和性を示さなくなる。このような親和性に乏しい溶媒を有機溶媒に用いると、モノマーのモノリス中間体の骨格内部への拡散が阻害され、その結果、モノマーはモノリス中間体の骨格の表面近傍のみで重合するため、骨格相表面に粒子体等が形成され骨格表面に凹凸を形成したものと考えられる。
【0077】
ポリエーテルの分子量は、200以上であれば上限に特に制約はないが、あまりに高分子量であると、II工程で調製される混合物の粘度が高くなり、モノリス中間体内部への含浸が困難になるため好ましくない。好ましいポリエーテルの分子量は200〜100000、特に好ましくは200〜10000である。また、ポリエーテルの末端構造は、未修飾の水酸基であっても、メチル基やエチル基等のアルキル基でエーテル化されていてもよいし、酢酸、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等でエステル化されていてもよい。
【0078】
((5)の説明)
II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程中の混合物中、30重量%以下であると、本発明の複合モノリスが得られる。II工程でモノマー濃度を低下させることで、重合速度が低下し、前記(1)と同様の理由で、骨格相表面に粒子体等が形成でき、骨格相表面に凹凸を形成されることができる。モノマー濃度の下限値は特に限定されないが、モノマー濃度が低下するほど重合速度が低下し、重合時間が実用上許容できないほど長くなってしまうため、モノマー濃度は10〜30重量%に設定することが好ましい。
【0079】
(複合モノリスイオン交換体の製造方法)
次に、本発明の複合モノリスイオン交換体の製造方法について説明する。該複合モノリスイオン交換体の製造方法としては、特に制限はないが、上記の方法により複合モノリスを製造した後、イオン交換基を導入する方法が、得られる複合モノリスイオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールできる点で好ましい。
【0080】
上記複合モノリスにイオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、スルホン酸基を導入する方法としては、複合モノリスがスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロ硫酸や濃硫酸、発煙硫酸を用いてスルホン化する方法;複合モノリスに均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部に導入し、スチレンスルホン酸ナトリウムやアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸をグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換によりスルホン酸基を導入する方法等が挙げられる。また、四級アンモニウム基を導入する方法としては、複合モノリスがスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法;複合モノリスをクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、三級アミンと反応させる方法;モノリスに、均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部導入し、N,N,N−トリメチルアンモニウムエチルアクリレートやN,N,N−トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミドをグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換により四級アンモニウム基を導入する方法等が挙げられる。また、ベタインを導入する方法としては、上記の方法によりモノリスに三級アミンを導入した後、モノヨード酢酸を反応させ導入する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、スルホン酸基を導入する方法については、クロロ硫酸を用いてスチレン-ジビニルベンゼン共重合体にスルホン酸基を導入する方法が、四級アンモニウム基を導入する方法としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法やクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合によりモノリスを製造し、三級アミンと反応させる方法が、イオン交換基を均一かつ定量的に導入できる点で好ましい。なお、導入するイオン交換基としては、カルボン酸基、イミノ二酢酸基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基等のカチオン交換基;四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等のアニオン交換基;アミノリン酸基、ベタイン、スルホベタイン等の両性イオン交換基が挙げられる。
【0081】
本発明のケミカルフィルターは、上記複合モノリス、該複合モノリスに貫通孔を設けたもの、複合モノリスイオン交換体又は該複合モノリスイオン交換体に貫通孔を設けたもの、さらには、すでに公知のイオン交換樹脂やイオン交換繊維を用いた吸着層と上記モノリスを組み合わせたものを吸着層として備えるものであれば、フィルターの構成に特に制限はないが、通常、吸着層と該吸着層を支持する支持枠体(ケーシング)とで構成される。該支持枠体は吸着層を支持すると共に、既存設備(設置場所)との接合を司る機能を有する。支持部材の被処理気体流通部分は、脱ガスのないステンレス、アルミニウム、プラスチック等の素材からなる。吸着層の形状としては、特に制限されず、所定の厚みを有するブロック形状、薄板を複数枚重ね合わせた積層形状、定形状又は不定形状の粒状物を多数充填した充填構造などが挙げられる。また、吸着層からガス状有機系汚染物質が極微量発生する恐れのある場合、あるいは被処理気体中の有機性ガス状汚染物質の濃度が高い場合には、吸着層の下流側に物理吸着層を付設することが、下流側の物理吸着層で上流側の吸着層で除去できなかった残部のガス状有機系汚染物質を確実に除去できる点で好適である。
【0082】
本発明のケミカルフィルターの比表面積は1〜20m2/g、好ましくは2〜18m2/gである。比表面積が小さ過ぎると、処理能力が低下するため好ましくなく、大き過ぎると、複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体の強度が著しく低下するため、好ましくない。比表面積を上記範囲とするには、前記製造方法における(1)〜(5)の条件下で重合を行えばよい。比表面積は水銀圧入法で測定することができる。
【0083】
該物理吸着層としては、脱臭用途に使用できる吸着剤が使用できる。具体的には、活性炭、活性炭素繊維及びゼオライトなどが挙げられる。該吸着剤は、比表面積が200m2/g以上の多孔質体が好ましく、比表面積が500m2/g以上の多孔質体がさらに好ましい。また、該物理吸着層から物理吸着剤などが飛散する恐れのある場合には、該物理吸着層の下流側に通気性を有するカバー材を配置することが好ましい。カバー材としては、有機高分子材料からなる不織布及び多孔質膜、並びにアルミニウム及びステンレス製のメッシュ等が挙げられる。これらの中、有機高分子材料からなる不織布や多孔質膜は低圧力損失で気体を透過でき、且つ微粒子捕集能力が高いため、特に好適である。
【0084】
貫通孔は所定の厚みを有するブロック形状の複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体において、通気方向に延びるように複数個形成するのがよい。貫通孔を設けることにより、通気差圧を更に低下させることができる。複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体に貫通孔を設けたものを吸着層として使用する場合、見かけの複合モノリスに占める貫通孔の空隙率は20〜50%、好ましくは25〜40%である。貫通孔の空隙率が低すぎると、通気差圧の低下傾向が小さくなり、貫通孔の空隙率が高すぎると、ガス状汚染物質の除去効率が低下する。
【0085】
本発明のケミカルフィルターは、半導体産業や医療用等に用いられるクリーンルームやクリーンベンチ等の高度清浄空間を形成するため、クリーンルーム内の空気や雰囲気中に含まれる有機系又は無機系のガス状汚染物質及びその他の汚染物質をイオン交換又は吸着により除去する。ガス状汚染物質及びその他の汚染物質としては、二酸化硫黄、塩酸、フッ酸、硝酸等の酸性ガス、アンモニア等の塩基性ガス、塩化アンモニウム等の塩類、フタル酸エステル系に代表される各種可塑剤、フェノール系及びリン系の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、リン系及びハロゲン系の難燃剤等が挙げられる。酸性ガス、塩基性ガス及び塩類はイオン交換により除去でき、各種可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤及び難燃剤は強い極性を有するため、吸着により除去することができる。
【0086】
本発明のケミカルフィルターの使用条件としては、公知の条件で行なうことができる。使用雰囲気の湿度としては、相対湿度で30〜80%程度である。気体透過速度としては、特に制限されないが、例えば0.1〜10m/sの範囲である。従来の粒状イオン交換樹脂を吸着層として使用する場合、気体透過速度は0.3〜0.5m/s程度であるが、本発明のケミカルフィルターによれば、気体透過速度が5〜10m/sのように速くても、骨格部が連続マクロポア構造または共連続構造でありイオン交換容量が大きく且つ効率良くイオン交換が行なわれるため、ガス状汚染物質を吸着除去できる。また、被処理空気中の汚染物質濃度において、従来のケミカルフィルターによれば、適用範囲はアンモニアの場合、通常0.1〜10μg/m3、塩化水素の場合、通常5〜50ng/m3、二酸化硫黄の場合、通常0.1〜10μg/m3、フタル酸エステルの場合、通常0.1〜5μg/m3であるが、本発明のケミカルフィルターによれば、上記範囲に加えて、アンモニア100ng/m3以下、塩化水素5ng/m3以下、二酸化硫黄100ng/m3以下、フタル酸エステル100ng/m3以下の極微量濃度であっても十分除去できる。なお、吸着層として用いる複合モノリスイオン交換体は、使用に際しては、従来のイオン交換樹脂の場合と同様、得られた複合モノリスイオン交換体を公知の再生方法により処理して用いる。すなわち、複合モノリス陽イオン交換体は、酸処理により酸型として用い、複合モノリス陰イオン交換体は、アルカリ処理によりOH型として用いる。また、ケミカルフィルター処理気体が使用雰囲気の湿度になるよう、予めケミカルフィルターをその使用空間における平衡水分率となる水分保有量にしておくことが、慣らし運転を省略できる点で好ましい。本発明のケミカルフィルターをブロック状で用い、気体透過速度が5〜10m/sの場合、ブロック状の吸着層の通気方向の長さは概ね50〜200mmである。
【0087】
本発明のケミカルフィルターは、吸着層として用いる複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体の細孔容積や比表面積が格段に大きく、その表面や内部にイオン交換基が高密度に導入されているため、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、また、ガス状汚染物質が超微量であっても除去可能である。すなわち、従来の粒状のイオン交換樹脂は、粒子内部のイオン交換が遅く、イオン交換容量の全てが有効に使用されない。例えば粒径500μmの粒状イオン交換樹脂の場合、効率よく吸着が行なわれる範囲が表面から100μmと仮定すると、表面層の体積分率は約50%であり、効率よく吸着が行なわれる範囲のイオン交換容量は約半分となる。一方、本発明に係る複合モノリスイオン交換体は壁の厚みが2〜10μmであるため、全てのイオン交換基が効率よく使用される。
【0088】
本発明のケミカルフィルターの吸着層に用いるモノリス状多孔質イオン交換体はイオン交換体長さについても、従来の粒状イオン交換樹脂に比べて約1/4と非常に小さく、同じ体積の吸着層を用いても寿命が長くなる。
【0089】
本発明のケミカルフィルターは、送風機ユニットと組み合わせて又は送風機ユニットに組み込まれて使用することができる。送風機ユニットとしては、特に制限はないが、通常、軸流ファンまたはブロアを送風源とする送風機と、その出力を調節するコントローラーと、該送風機と該コントローラーを収める第1ケーシングと、該ケーシングに連結される微粒子除去用のHEPAまたはULPAフィルターと、HEPAまたはULPAフィルターを収める第2ケーシングからなる。第1ケーシング及び第2ケーシングの被処理気体流通部分は、脱ガスのないステンレス、アルミニウム、プラスチック等の素材からなる。微粒子除去用フィルターのろ材についても特に制限はなく、一般的なガラス繊維やPTFEを用いることができる。クリーンルーム等で用いる場合には、ボロンや有機物を放出しないガラス繊維やPTFEがなお好ましい。
【0090】
本発明のケミカルフィルターは微粒子除去用のHEPAまたはULPAフィルターの上流側に付設される。本発明のケミカルフィルターと送風機ユニットを組み合わせる形態としては、互いのケーシング同士を接続して一体化して使用する方法が挙げられる。本発明のケミカルフィルターを送風機ユニットに組み込む形態としては、吸着層を送風機ユニットに組み込む形態である。ケミカルフィルターを送風機ユニットに組み込む形態において、送風機とケミカルフィルターの位置は、どちらが上流側にきてもよい。本発明のケミカルフィルターを送風機ユニットとを組み合わせて使用すれば、ガス状汚染物質と微粒子を共に除去できる点で好ましい。
【0091】
本発明においては、複合モノリス又は複合モノリスイオン交換体をケミカルフィルターの吸着層として用いるため、大きな流路と均一に導入されたイオン交換基により、静圧の小さな小型の送風機においても効率よく被処理気体中の不純物を除去できる。また、体積当たりのイオン交換容量、比表面積が非常に大きく均一にイオン交換基が導入されているため、除去率の向上と長寿命化が図れる。
【0092】
実施例
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0093】
(I工程;モノリス中間体の製造)
スチレン9.28g、ジビニルベンゼン0.19g、ソルビタンモノオレエート(以下SMOと略す)0.50gおよび2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.26gを混合し、均一に溶解させた。次に,当該スチレン/ジビニルベンゼン/SMO/2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)混合物を180gの純水に添加し、遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて5〜20℃の温度範囲において減圧下撹拌して、油中水滴型エマルションを得た。このエマルションを反応容器に速やかに移し、密封後静置下で60℃、24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノールで抽出した後、減圧乾燥して、連続マクロポア構造を有するモノリス中間体を製造した。該モノリス中間体のマクロポアとマクロポアが重なる部分の開口(メソポア)の平均直径は40μm、全細孔容積は15.8ml/gであった。
【0094】
(複合モノリスの製造)
次いで、スチレン36.0g、ジビニルベンゼン4.0g、1-デカノール60g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.4gを混合し、均一に溶解させた(II工程)。重合開始剤として用いた2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の10時間半減温度は、51℃であった。モノリス中間体の架橋密度1.3モル%に対して、II工程で用いたスチレンとジビニルベンゼンの合計量に対するジビニルベンゼンの使用量は6.6モル%であり、架橋密度比は5.1倍であった。次に上記モノリス中間体を外径70mm、厚さ約20mmの円盤状に切断して、3.2g分取した。分取したモノリス中間体を内径73mmの反応容器に入れ、当該スチレン/ジビニルベンゼン/1-デカノール/2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)混合物に浸漬させ、減圧チャンバー中で脱泡した後、反応容器を密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、厚さ約30mmのモノリス状の内容物を取り出し、アセトンでソックスレー抽出した後、85℃で一夜減圧乾燥した(III工程)。
【0095】
このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる複合モノリス(乾燥体)の内部構造を、SEMにより観察した結果を図1〜図3に示す。図1〜図3のSEM画像は、倍率が異なるものであり、モノリスを任意の位置で切断して得た切断面の任意の位置における画像である。図1〜図3から明らかなように、当該複合モノリスは連続マクロポア構造を有しており、連続マクロポア構造体を構成する骨格相の表面は、平均粒子径4μmの粒子体で被覆され、粒子被覆率は80%であった。また、粒径2〜5μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%であった。
【0096】
また、水銀圧入法により測定した当該複合モノリスの開口の平均直径は16μm、全細孔容積は2.3ml/gであった。その結果を表1及び表2にまとめて示す。表1中、仕込み欄は左から順に、II工程で用いたビニルモノマー、架橋剤、有機溶媒、I工程で得られたモノリス中間体を示す。また、粒子体等は粒子で示した。
【0097】
(複合モノリスカチオン交換体の製造)
上記の方法で製造した複合モノリスを、外径70mm、厚み約15mmの円盤状に切断した。モノリスの重量は19.6gであった。これにジクロロメタン1500mlを加え、35℃で1時間加熱した後、10℃以下まで冷却し、クロロ硫酸98.9gを徐々に加え、昇温して35℃で24時間反応させた。その後、メタノールを加え、残存するクロロ硫酸をクエンチした後、メタノールで洗浄してジクロロメタンを除き、更に純水で洗浄して複合モノリスカチオン交換体を得た。
【0098】
得られたカチオン交換体の反応前後の膨潤率は1.3倍であり、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で1.11mg当量/mlであった。水湿潤状態での有機多孔質イオン交換体の開口の平均直径を、有機多孔質体の値と水湿潤状態のカチオン交換体の膨潤率から見積もったところ21μmであり、モノリスと同様の方法で求めた骨格表面の粒子被覆率は80%、被覆粒子の平均粒径は5μm、全細孔容積は2.3ml/gであった。また、粒径3〜7μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%であった。また、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は、0.057MPa/m・LVであり、実用上要求される圧力損失と比較して、それを下回る低い圧力損失であった。更に、イオン交換帯長さは9mmであり、著しく短い値を示した。結果を表2にまとめて示す。
【0099】
次に、複合モノリスカチオン交換体中のスルホン酸基の分布状態を確認するため、EPMAにより硫黄原子の分布状態を観察した。その結果を図4及び図5に示す。図4及び図5共に、左右の写真はそれぞれ対応している。図4は硫黄原子のカチオン交換体の表面における分布状態を示したものであり、図5は硫黄原子のカチオン交換体の断面(厚み)方向における分布状態を示したものである。図4及び図5より、スルホン酸基はカチオン交換体の骨格表面及び骨格内部(断面方向)にそれぞれ均一に導入されていることがわかる。
【0100】
実施例2〜5
(複合モノリスの製造)
ビニルモノマーの使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の種類と使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造、架橋密度と使用量及び重合温度を表1に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示す。また、複合モノリス(乾燥体)の内部構造を、SEMにより観察した結果を図6〜図13に示す。図6〜図8は実施例2、図9及び図10は実施例3、図11は実施例4、図12及び図13は実施例5のものである。なお、実施例2については架橋密度比(2.5倍)、実施例3については有機溶媒の種類(PEG;分子量400)、実施例4についてはビニルモノマー濃度(28.0%)、実施例5については重合温度(40℃;重合開始剤の10時間半減温度より11℃低い)について、本発明の製造条件を満たす条件で製造した。図6〜図13から実施例3〜5の複合モノリスの骨格表面に付着しているものは粒子体というよりは突起体であった。突起体の「粒子平均径」は突起体の最大径の平均径である。図6〜図13及び表2から、実施例2〜6のモノリス骨格表面に付着している粒子の平均径は3〜8μm、粒子被覆率は50〜95%であった。また、実施例2が粒径3〜6μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は80%、実施例3が粒径3〜10μmの突起体が全体の粒子体に占める割合は80%、実施例4が粒径2〜5μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%、実施例5が粒径3〜7μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%であった。
【0101】
(複合モノリスカチオン交換体の製造)
上記の方法で製造した複合モノリスを、それぞれ実施例1と同様の方法でクロロ硫酸と反応させ、複合モノリスカチオン交換体を製造した。その結果を表2に示す。実施例2〜5における複合モノリスカチオン交換体の連続細孔の平均直径は21〜52μmであり、骨格表面に付着している粒子体等の平均径は5〜17μm、粒子被覆率も50〜95%と高く、差圧係数も0.010〜0.057MPa/m・LVと小さい上に、イオン交換帯長さも8〜12mmと著しく小さな値であった。また、粒径5〜10μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は90%であった。
【0102】
実施例6
(複合モノリスの製造)
ビニルモノマーの種類とその使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の種類と使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造、架橋密度および使用量を表1に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示す。また、複合モノリス(乾燥体)の内部構造を、SEMにより観察した結果を図14〜図16に示す。実施例6の複合モノリスの骨格表面に付着しているものは突起体であった。実施例6のモノリスは、表面に形成された突起体の最大径の平均径が10μmであり、粒子被覆率は100%であった。また、粒径6〜12μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は80%であった。
【0103】
(複合モノリスアニオン交換体の製造)
上記の方法で製造した複合モノリスを、外径70mm、厚み約15mmの円盤状に切断した。複合モノリスの重量は17.9gであった。これにテトラヒドロフラン1500mlを加え、40℃で1時間加熱した後、10℃以下まで冷却し、トリメチルアミン30%水溶液114.5gを徐々に加え、昇温して40℃で24時間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄してテトラヒドロフランを除き、更に純水で洗浄してモノリスアニオン交換体を得た。
【0104】
得られた複合アニオン交換体の反応前後の膨潤率は2.0倍であり、体積当りのイオン交換容量は、水湿潤状態で0.32mg当量/mlであった。水湿潤状態での有機多孔質イオン交換体の連続細孔の平均直径を、モノリスの値と水湿潤状態のモノリスアニオン交換体の膨潤率から見積もったところ58μmであり、同様の方法で求めた突起体の平均径は20μm、粒子被覆率は100%、全細孔容積は2.1ml/gであった。また、イオン交換帯長さは16mmと非常に短い値を示した。なお、水を透過させた際の圧力損失の指標である差圧係数は、0.041MPa/m・LVであり、実用上要求される圧力損失と比較して、それを下回る低い圧力損失であった。また、粒径12〜24μmの粒子体が全体の粒子体に占める割合は80%であった。その結果を表2にまとめて示す。
【0105】
次に、多孔質アニオン交換体中の四級アンモニウム基の分布状態を確認するため、アニオン交換体を塩酸水溶液で処理して塩化物型とした後、EPMAにより塩素原子の分布状態を観察した。その結果、塩素原子はアニオン交換体の骨格表面のみならず、骨格内部にも均一に分布しており、四級アンモニウム基がアニオン交換体中に均一に導入されていることが確認できた。
【0106】
比較例1
(モノリスの製造)
ビニルモノマーの使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の種類と使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の使用量を表1に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示す。なお、不図示のSEM写真から骨格表面には粒子体や突起体の形成は全く認められなかった。表1及び表2から、本発明の特定の製造条件と逸脱する条件、すなわち、上記(1)〜(5)の要件から逸脱した条件下でモノリスを製造すると、モノリス骨格表面での粒子生成が認められないことがわかる。
【0107】
(モノリスカチオン交換体の製造)
上記の方法で製造したモノリスを、実施例1と同様の方法でクロロ硫酸と反応させ、モノリスカチオン交換体を製造した。結果を表2に示す。得られたモノリスカチオン交換体のイオン交換帯長さは26mmであり、実施例と比較して大きな値であった。
【0108】
比較例2〜4
(モノリスの製造)
ビニルモノマーの使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の種類と使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造、架橋密度および使用量を表1に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示す。なお、比較例2については架橋密度比(0.2倍)、比較例3については有機溶媒の種類(2-(2-メトキシエトキシ)エタノール;分子量120)、比較例4については重合温度(50℃;重合開始剤の10時間半減温度より1℃低い)について、本発明の製造条件を満たさない条件で製造した。結果を表2に示す。比較例2、4、5のモノリスについては骨格表面での粒子生成はなかった。また、比較例3では単離した生成物は透明であり、多孔構造が崩壊、消失していた。
【0109】
(モノリスカチオン交換体の製造)
比較例3を除き、上記の方法で製造した有機多孔質体を、比較例1と同様の方法でクロロ硫酸と反応させ、モノリスカチオン交換体を製造した。その結果を表2に示す。得られたモノリスカチオン交換体のイオン交換帯長さは23〜26mmであり、実施例と比較して大きな値であった。
【0110】
比較例5
(モノリスの製造)
ビニルモノマーの使用量、架橋剤の使用量、有機溶媒の使用量、III工程で重合時に共存させるモノリス中間体の多孔構造および使用量を表1に示す配合量に変更した以外は、比較例1と同様の方法でモノリスを製造した。その結果を表1及び表2に示すが、本発明の特定の製造条件を逸脱してモノリスを製造すると、モノリス骨格表面での粒子生成が認められないことがわかる。
【0111】
(モノリスアニオン交換体の製造)
上記の方法で製造したモノリスを、直径70mm、厚み約15mmの円盤状に切断した。これにジメトキシメタン1400ml、四塩化スズ20mlを加え、氷冷下クロロ硫酸560mlを滴下した。滴下終了後、昇温して35℃で5時間反応させ、クロロメチル基を導入した。反応終了後、母液をサイフォンで抜き出し、THF/水=2/1の混合溶媒で洗浄した後、更にTHFで洗浄した。このクロロメチル化モノリスにTHF1000mlとトリメチルアミン30%水溶液600mlを加え、60℃、6時間反応させた。反応終了後、生成物をメタノール/水混合溶媒で洗浄し、次いで純水で洗浄して単離した。結果を表2に示が、得られたモノリスアニオン交換体のイオン交換帯長さは47mmであり、実施例と比較して大きな値であった。
【0112】
実施例7
(複合モノリスカチオン交換体の製造)
複合モノリスの製造において、厚さ20mmの円盤に代えて、I工程の試薬量を2倍にしてモノリス中間体を製造し、厚さ50mmとしたこと、II工程の試薬量を3倍にしたこと、複合モノリスカチオン交換体製造時の複合モノリス厚さ15mmを50mmとしたこと、ジクロロメタン使用量を1500mlから5000mlとしたこと、クロロ硫酸使用量を98.9gから329gとしたこと以外は実施例1に準拠した方法により複合モノリスカチオン交換体を製造した。
【0113】
(複合モノリスカチオン交換体を用いた塩基性ガスの吸着)
上記方法で得られた複合モノリスカチオン交換体を3N塩酸中に24時間浸漬した後、純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られた複合モノリスカチオン交換体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに25℃、40%の温湿度条件下、アンモニア濃度5,000ng/m3の空気を面風速0.5m/sで供給したときの通気差圧を測定し、透過気体を超純水インピンジャー法でサンプリングし、イオンクロマトグラフ法でアンモニウムイオンの定量を行った。その結果、空気中のアンモニア濃度は50ng/m3未満であり、完全にアンモニアを除去できた。
【0114】
比較例6
製造例1(有機多孔質陽イオン交換体の製造)
スチレン38g、ジビニルベンゼン2.0g、ソルビタンモノオレート2.1gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.1gを混合し、均一に溶解させた。次に当該スチレン/ジビニルベンゼン/ソルビタンモノオレート/アゾビスイソブチロニトリル混合物を360gの純水に添加し、遊星式攪拌装置である真空攪拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて13.3kPaの減圧下、底面直径と充填物の高さの比が1:1、公転回転数1000回転/分、自転回転数330回転/分で2分間攪拌し、油中水滴型エマルジョンを得た。乳化終了後、系を窒素で十分置換した後密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノールで18時間ソックスレー抽出し、未反応モノマー、水およびソルビタンモノオレエートを除去した後、85℃で一昼夜減圧乾燥した。このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を3モル%含有した有機多孔質体の内部構造をSEMにより観察した結果、当該有機多孔質体は連続気泡構造を有していた。
【0115】
次いで上記有機多孔質体を切断して18gを分取し、ジクロロエタン2400mlを加え60℃で30分加熱した後、室温まで冷却し、クロロ硫酸90gを徐々に加え、室温で24時間反応させた。その後、酢酸を加え、多量の水中に反応物を投入し、水洗して有機多孔質陽イオン交換体を得た。この有機多孔質陽イオン交換体のイオン交換容量は、乾燥多孔質体換算で4.8mg当量/gであり、EPMAを用いた硫黄原子のマッピングにより、スルホン酸基がμmオーダーで有機多孔質体に均一に導入されていることを確認した。また、SEM観察により、有機多孔質体の連続気泡構造はイオン交換基導入後も保持されていることを確認した。また、この有機多孔質陽イオン交換体のメソポアの平均径は、30μm、全細孔容積は10.2ml/gであった。
【0116】
(有機多孔質陽イオン交換体を用いた塩基性ガスの吸着)
製造例1で製造した有機多孔質陽イオン交換体を3N塩酸中に24時間浸漬した後、純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られたモノリスカチオン交換体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに実施例7と同様の方法でアンモニア除去試験を行った結果、透過空気中のアンモニア濃度は120ng/m3となり、完全にアンモニアを除去することはできなかった。
【0117】
実施例8
複合モノリスカチオン交換体を3N塩酸中に浸漬する前に、内径2mmのSUS316製パイプにより、円柱状モノリスの見かけの円に対して、直径2mmの孔による空隙率が30%となるよう、軸方向に延びる貫通孔をあけた以外は、実施例7と同様の方法で貫通孔を有する複合モノリスカチオン交換体を得、更に実施例7と同様の方法で塩基性ガスの吸着を行った。その結果、面風速0.5m/sのときの通気差圧は80Paと非常に低圧損であり、空気中のアンモニア濃度は450ng/m3であった。
【0118】
比較例7
上記モノリス状有機多孔質カチオン交換体に代えて、比較例6の連続気泡型モノリス状有機多孔質カチオン交換体を使用したこと以外は、実施例8と同様の方法で貫通孔をあけると共に、塩基性ガスの吸着を行った。その結果、通気差圧は85Paであり、空気中のアンモニア濃度は850ng/m3であった。
【0119】
実施例9
(複合モノリスアニオン交換体の製造)
複合モノリスの製造において、厚さ20mmの円盤に代えて、I工程の試薬量を2倍にしてモノリス中間体を製造し、厚さ50mmとしたこと、II工程の試薬量を3倍としたこと、複合モノリスアニオン交換体製造時の複合モノリスの厚さ15mmを50mmとしたこと、テトラヒドロフラン使用量を1500mlから5000mlとしたこと、トリメチルアミン30%水溶液使用量を114.5gから381gとしたこと以外は実施例6に準拠して複合モノリスアニオン交換体を製造した。
【0120】
(複合モノリスアニオン交換体を用いた酸性ガスの吸着)
上記方法で得られた複合モノリスアニオン交換体を1N水酸化ナトリウム水溶液中に24時間浸漬した後、純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られた複合モノリスアニオン交換体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに25℃、40%の温湿度条件下、二酸化硫黄濃度5,000ng/m3の空気を面風速0.5m/sで供給したときの透過気体を超純水インピンジャー法でサンプリングし、イオンクロマトグラフ法で硫酸イオンの定量を行った。その結果、空気中の二酸化硫黄濃度は50ng/m3未満であり、完全に二酸化硫黄を除去できた。
【0121】
比較例8
スチレンに代えてクロロメチルスチレンを用いたこと及びソルビタンモノオレートの量を4.5gに変更したこと以外は、比較例6と同様の方法でモノリス状有機多孔質体を製造した。この有機多孔質体を切断して15.0gを分取し、テトラヒドロフラン1500gを加え60℃で30分加熱した後、室温まで冷却し、トリメチルアミン(30%)水溶液195gを徐々に加え、50℃で3時間反応させた後、室温で一昼夜放置した。反応終了後、有機多孔質体を取り出し、アセトンで洗浄後水洗し、乾燥して有機多孔質陰イオン交換体を得た。この有機多孔質陰イオン交換体のイオン交換容量は、乾燥多孔質体換算で3.7mg当量/gであり、SIMSにより、トリメチルアンモニウム基が有機多孔質体にμmオーダーで均一に導入されていることを確認した。また、SEM観察により、有機多孔質体の連続気泡構造はイオン交換基導入後も保持されていることを確認した。また、この有機多孔質陰イオン交換体のメソポアの平均径は、25μm、全細孔容積は9.8ml/gであった。得られたアニオン交換体を実施例9と同様の方法で二酸化硫黄の除去試験を行った。その結果、空気中の二酸化硫黄の濃度は200ng/m3であり、完全に除去することはできなかった。
【0122】
実施例10
(複合モノリスを用いた有機性ガスの吸着)
実施例7に準拠して製造したモノリス状有機多孔質体を純水で十分洗浄し、乾燥させた。得られたモノリス状有機多孔質体を25℃、相対湿度40%の状態で48時間放置した後、直径50mm、厚み50mmの円盤状に切り出し、円筒状カラムに充填してケミカルフィルターを作製した。このフィルターに25℃、40%の温度条件下、トルエン濃度1,000ng/m3の空気を面風速0.5m/sで供給したときの透過気体を固体吸着剤(TENAX−GR)を用いて捕集し、ガスクロマトグラフ質量分析法でトルエンの定量を行った。その結果、空気中のトルエン濃度は110ng/m3となり、約89%の除去率であった。
【0123】
比較例9
比較例6に準じて連続気泡型モノリス状有機多孔質体を製造し、実施例10と同様に直径50mm、厚み50mmの円盤状ケミカルフィルターを作製した。
このフィルターを実施例10と同様の条件でトルエン除去試験を行った結果、透過空気中のアンモニア濃度は200ng/m3となり、除去率は約80%であり、実施例10よりも低い除去率となった。
【0124】
実施例11〜14
(複合モノリスカチオン交換体を用いた塩基性ガスの吸着)
実施例1の複合モノリスカチオン交換体に代えて、実施例2〜5の複合モノリスカチオン交換体をそれぞれ使用した以外は、実施例7と同様の方法によりケミカルフィルターを作成し、アンモニア含有空気の処理を行なった。すなわち、実施例2の複合モノリスカチオン交換体を使用したものが実施例11、実施例3の複合モノリスカチオン交換体を使用したものが実施例12、実施例4の複合モノリスカチオン交換体を使用したものが実施例13、実施例5の複合モノリスカチオン交換体を使用したものが実施例14である。その結果、空気中のアンモニア濃度は実施例11が50ng/m3未満、実施例12が50ng/m3未満、実施例13が50ng/m3未満、実施例14が50ng/m3未満であった。
【0125】
実施例15
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体を用いた高風速下での塩基性ガスの吸着)
アンモニア濃度5,000ng/m3の空気に代えて、アンモニア濃度2,000ng/m3の空気としたこと、面風速0.5m/sに代えて、5.0m/sとしたこと以外は、実施例7と同様の方法でアンモニアの除去試験を行った。その結果、空気透過速度が速いにもかかわらず、透過空気中のアンモニア濃度は50ng/m3未満であり、アンモニアを除去することができた。
【0126】
実施例16
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体を用いた極微量濃度塩基性ガスの吸着)
アンモニア濃度2,000ng/m3の空気に代えて、アンモニア濃度100ng/m3の空気とした以外は、実施例15と同様の方法でアンモニア除去の性能評価を行なった。その結果、透過気体中のアンモニア濃度は50ng/m3未満であり、空気透過速度が5.0m/sと速くても、極微量のアンモニアを完全に除去することができた。
【0127】
実施例17
(モノリス状有機多孔質カチオン交換体を用いた高濃度塩基性ガスの吸着)
アンモニア濃度5,000ng/m3の空気に代えて、アンモニア濃度100μg/m3の空気としたこと以外は、実施例7と同様の方法でアンモニア除去の寿命試験を行った。その結果、90%以上の浄化効率を維持できる期間は27日間であった。
【0128】
比較例10
比較例6と同様のケミカルフィルターを用いて、実施例17と同様のアンモニア除去の寿命試験を行った。その結果、90%以上の除去率を維持できる期間は10日間であった。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のモノリス及びモノリスイオン交換体は、化学的に安定で機械的強度が高く、更に流体透過時の流体との接触効率が高く、流体透過時の圧力損失が低いといった特長を有しているため、ケミカルフィルター等のフィルターや吸着剤;2床3塔式純水製造装置や電気式脱イオン水製造装置に充填して用いられるイオン交換体;各種のクロマトグラフィー用充填剤;固体酸/塩基触媒として有用であり、広範な用途分野に応用することができる。また、本発明のケミカルフィルターは、大きな細孔容積と比表面積を有し、またイオン交換基密度が高いため、高いガス状汚染物質除去能力を有しており、気体透過速度が速くてもガス状汚染物質の吸着除去能力を保持でき、超微量ガス状汚染物質も除去可能である。そのため、既存の半導体産業や医療用クリーンルームを対象としたケミカルフィルターとして応用できるばかりでなく、今後、要求清浄度が10倍以上厳しくなると予想される半導体産業でのクリーンルーム向けケミカルフィルターとして特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実施例1で得られたモノリスの倍率100のSEM画像である。
【図2】実施例1で得られたモノリスの倍率300のSEM画像である。
【図3】実施例1で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図4】実施例1で得られたモノリスカチオン交換体の表面における硫黄原子の分布状態を示したEPMA画像である。
【図5】実施例1で得られたモノリスカチオン交換体の断面(厚み)方向における硫黄原子の分布状態を示したEPMA画像である。
【図6】実施例2で得られたモノリスの倍率100のSEM画像である。
【図7】実施例2で得られたモノリスの倍率600のSEM画像である。
【図8】実施例2で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図9】実施例3で得られたモノリスの倍率600のSEM画像である。
【図10】実施例3で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図11】実施例4で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図12】実施例5で得られたモノリスの倍率100のSEM画像である。
【図13】実施例5で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【図14】実施例6で得られたモノリスの倍率100のSEM画像である。
【図15】実施例6で得られたモノリスの倍率600のSEM画像である。
【図16】実施例6で得られたモノリスの倍率3000のSEM画像である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、
該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径2〜20μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が2〜20μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径8〜100μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであることを特徴とするモノリス状有機多孔質体。
【請求項2】
前記有機多孔質体が、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径20〜200μmの開口となる連続マクロポア構造体であることを特徴とする請求項1記載のモノリス状有機多孔質体。
【請求項3】
前記有機多孔質体が、太さが0.8〜40μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が8〜80μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であることを特徴とする請求項1記載のモノリス状有機多孔質体。
【請求項4】
イオン交換基を含まない油溶性モノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が5〜30ml/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体を得るI工程、
ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、
II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス状の有機多孔質中間体の存在下、重合開始剤の10時間半減温度より、少なくとも5℃低い温度で重合を行うIII工程、を行うことで得られるモノリス状有機多孔質体。
【請求項5】
連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、
該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が4〜40μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径10〜150μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.2mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該複合構造体中に均一に分布していることを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体。
【請求項6】
前記有機多孔質体が、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径30〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であることを特徴とする請求項5記載のモノリス状有機多孔質イオン交換体。
【請求項7】
前記有機多孔質体が、太さが1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が10〜100μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であることを特徴とする請求項5記載のモノリス状有機多孔質イオン交換体。
【請求項8】
イオン交換基を含まない油溶性モノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が5〜30ml/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体を得るI工程、
ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、
II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス状の有機多孔質中間体の存在下で重合を行うIII工程、
を行い、モノリス状有機多孔質体を製造する際に、下記(1)〜(5):
(1)III工程における重合温度が、重合開始剤の10時間半減温度より、少なくとも5℃低い温度である;
(2)II工程で用いる第2架橋剤のモル%が、I工程で用いる第1架橋剤のモル%の2倍以上である;
(3)II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーである;
(4)II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルである;
(5)II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程の混合物中、30重量%以下である;
の条件のうち、少なくとも一つを満たす条件下でII工程又はIII工程を行うことを特徴とするモノリス状有機多孔質体の製造方法。
【請求項9】
請求項8の製造方法で得られたモノリス状有機多孔質体にイオン交換基を導入するIV工程を行なうことを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4記載のモノリス状有機多孔質体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。
【請求項11】
請求項5〜7記載のモノリス状有機多孔質イオン交換体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。
【請求項12】
請求項1〜4記載のモノリス状有機多孔質体に貫通孔を設けたものを吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。
【請求項13】
請求項5〜7記載のモノリス状有機多孔質イオン交換体に貫通孔を設けたものを吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。
【請求項1】
連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、
該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径2〜20μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が2〜20μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径8〜100μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであることを特徴とするモノリス状有機多孔質体。
【請求項2】
前記有機多孔質体が、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径20〜200μmの開口となる連続マクロポア構造体であることを特徴とする請求項1記載のモノリス状有機多孔質体。
【請求項3】
前記有機多孔質体が、太さが0.8〜40μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が8〜80μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であることを特徴とする請求項1記載のモノリス状有機多孔質体。
【請求項4】
イオン交換基を含まない油溶性モノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が5〜30ml/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体を得るI工程、
ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、
II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス状の有機多孔質中間体の存在下、重合開始剤の10時間半減温度より、少なくとも5℃低い温度で重合を行うIII工程、を行うことで得られるモノリス状有機多孔質体。
【請求項5】
連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、
該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が4〜40μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径10〜150μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.2mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該複合構造体中に均一に分布していることを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体。
【請求項6】
前記有機多孔質体が、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径30〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であることを特徴とする請求項5記載のモノリス状有機多孔質イオン交換体。
【請求項7】
前記有機多孔質体が、太さが1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が10〜100μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であることを特徴とする請求項5記載のモノリス状有機多孔質イオン交換体。
【請求項8】
イオン交換基を含まない油溶性モノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第1架橋剤、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が5〜30ml/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体を得るI工程、
ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、
II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス状の有機多孔質中間体の存在下で重合を行うIII工程、
を行い、モノリス状有機多孔質体を製造する際に、下記(1)〜(5):
(1)III工程における重合温度が、重合開始剤の10時間半減温度より、少なくとも5℃低い温度である;
(2)II工程で用いる第2架橋剤のモル%が、I工程で用いる第1架橋剤のモル%の2倍以上である;
(3)II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーである;
(4)II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルである;
(5)II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程の混合物中、30重量%以下である;
の条件のうち、少なくとも一つを満たす条件下でII工程又はIII工程を行うことを特徴とするモノリス状有機多孔質体の製造方法。
【請求項9】
請求項8の製造方法で得られたモノリス状有機多孔質体にイオン交換基を導入するIV工程を行なうことを特徴とするモノリス状有機多孔質イオン交換体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4記載のモノリス状有機多孔質体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。
【請求項11】
請求項5〜7記載のモノリス状有機多孔質イオン交換体を吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。
【請求項12】
請求項1〜4記載のモノリス状有機多孔質体に貫通孔を設けたものを吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。
【請求項13】
請求項5〜7記載のモノリス状有機多孔質イオン交換体に貫通孔を設けたものを吸着層として用いることを特徴とするケミカルフィルター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−108294(P2009−108294A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81917(P2008−81917)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】
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