説明

モルタル、これらを被覆した構造体並びに施工方法

【課題】 本発明は、段差を有する施工場所にポリマーセメントを、吹き付け、鏝塗り、ローラー塗工などの塗布方法により施工した時に、段差部分でひび割れの発生を抑制し、さらに表面平滑性に優れるスラリー状のポリマーセメントを提供することを目的とする。
【解決手段】 アルミナセメントを含む水硬性成分と、充填材と、エマルションと、増粘剤とを含むポリマーセメント組成物から得られるモルタル組成物であり、
モルタル組成物の粘度(6rpm)が10000〜25000mPa・sの範囲であり、
モルタル組成物のTI値(6rpmの粘度/60rpmの粘度)が2.4〜3.8の範囲であることを特徴とするモルタル組成物と、これらモルタル組成物の硬化物と下地との構造体並びにモルタル組成物の施工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物などの施工部に防水性の付与を目的として使用されるポリマーセメント組成物より得られるスラリー状のモルタルに関する、特に段差を有するコンクリート構造物などの施工部に防水性の付与を目的として使用されるポリマーセメント組成物より得られるスラリー状のモルタル、並びにこれらのモルタルを被覆して得られる構造体に関する。さらにこれらのモルタルを段差を有する施工部に防水性の付与を目的として施工するモルタルの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の屋上、地下、ベランダなどに防水性を付与するため、樹脂エマルションなどにセメントを配合したポリマーセメントが施工されている。
【0003】
例えば特許文献1には、炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートから選ばれた1種以上の単量体30〜98重量%、(メタ)アクリル酸0.1〜3重量%及びグリシジル(メタ)アクリレート0.1〜5重量%を必須構成単量体とし、かつガラス転移温度が−20℃以下である重合体がカチオン性又はノニオン性の界面活性剤により水に乳化分散されているエマルションと、無機質水硬性物質からなることを特徴とする防水材組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリマー成分、セメント、骨材、減水剤及び保水剤の各成分を含有し、該ポリマー成分はガラス転移温度(Tg)が−5℃以下で、かつ−20℃を超えるアニオン−カチオン両性アルカリ硬化型アクリル−スチレン系合成樹脂エマルションからなり、セメントに対する該エマルションの樹脂固形分の重量%(P/C)は30〜80%であり、ポゾラン反応を起こす成分としてのシリカフューム微粒子(SiO含有量が90%以上で、平均粒子径が0.1〜0.2μm)をセメントに対して5〜20%含有することを特徴とするコンクリート防水用組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、(A)成分:セメント、(B)成分:樹脂水性分散液、(C)成分:会合性増粘剤、(D)成分:1分子中に2個以上のスルホン酸基を有する界面活性剤又はカチオン性界面活性剤、を含有する組成物であって、該組成物中(C)成分を0.01〜10重量%、及び(D)成分を0.01〜10重量%含有し、かつ(C)成分と(D)成分の割合(C/D)が0.1〜15であることを特徴とするセメント組成物が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−268167号公報
【特許文献2】特開平11−116313号公報
【特許文献3】特開平9−221350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セメントとエマルションとを配合したポリマーセメントは、建造物などの防水材、仕上げ材、下地調整材として用いられている。
ポリマーセメントを段差を有する床などに施工すると、段差部分でひび割れが発生したり、平滑性が損なわれたりする場合がある。
そのため本発明は、段差を有する施工場所にポリマーセメントを、吹き付け、鏝塗り、ローラー塗工などの塗布方法により施工した時に、段差部分でひび割れの発生を抑制し、さらに表面平滑性に優れるスラリー状のポリマーセメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、充填材と、エマルションと、増粘剤とを含むスラリー状のポリマーセメント組成物から得られるモルタルであり、
モルタルの粘度(6rpm)が10000〜25000mPa・sの範囲であり、
モルタルのTI値(6rpmの粘度/60rpmの粘度)が2.4〜3.8の範囲であることを特徴とするモルタルである。
【0009】
本発明の第二は、本発明のモルタルを被施工物表面に施工して得られる、モルタルと被施工物との構造体である。
【0010】
本発明の第三は、本発明のモルタルの施工方法であり、
モルタルを、段差を有する施工部に、吹き付け、鏝塗り、ローラー塗工の塗布方法により施工することを特徴とするモルタルの施工方法である。
【0011】
本発明のモルタルの好ましい態様を示し、これらは複数組み合わせることが出来る。
1)ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、
水硬性成分を15〜175質量部含むこと。
2)ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、水硬性成分と充填材との合計量を15〜350質量部含むこと。
3)増粘剤は、水溶性ポリウレタン系増粘剤であること。
4)モルタルは、段差を有する施工部の施工用であること。
5)モルタルは、防水用であること。
6)エマルションは、アクリル系エマルションであること、さらにガラス転移温度が−25℃〜−60℃のアクリル系エマルションであること。
7)モルタルは、ポリマーセメント組成物単独で混練して、或いはポリマーセメント組成物に水を加えて混練して得られる均質なスラリー状のモルタルであること。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリマーセメント組成物より得られるモルタルは、段差を有する床などの施工部に施工して、段差部分でひび割れがなく平滑性に優れる硬化物を得ることができる。
本発明のモルタルの施工方法は、本発明のモルタルを、段差を有する施工部に、吹き付け、鏝塗り、ローラー塗工の塗布方法により施工することにより、段差部分でひび割れがなく平滑性に優れる硬化物、並びに硬化物と施工部とからなる構造体を得ることができる施工方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
モルタルの粘度(6rpm)は、10000〜25000mPa・sの範囲であり、好ましくは10500〜24000mPa・sの範囲、さらに好ましくは11000〜23000mPa・sの範囲、より好ましくは11500〜22000mPa・sの範囲であり、特に好ましくは12000〜21000mPa・sの範囲であり、
モルタルのTI値(6rpmの粘度/60rmpの粘度)は、2.4〜3.8の範囲であり、好ましくは2.4〜3.6の範囲であり、さらに好ましくは2.4〜3.4の範囲であり、より好ましくは2.5〜3.2の範囲であり、特に好ましくは2.5〜3.0の範囲であることにより、段差部分でのひび割れがなく、平滑性に優れる硬化物を得ることができる。
【0014】
水硬性成分は、アルミナセメントのほかに、ポルトランドセメント及び石膏から選ばれる成分を1種又は2種含むことができる。
水硬性成分は、アルミナセメントを含むことにより、硬化物が水に濡れその後乾燥した時の変色が小さいために好ましく用いることができる。
水硬性成分は、水硬性成分100質量%中に、アルミナセメントを好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上含むものを用いることが好ましい。
特に水硬性成分は、水硬性成分100質量%中に、アルミナセメントを50質量%以上含むものを用いることが、硬化物の伸び率に優れるために好ましい。
【0015】
アルミナセメントは、潜在的に急硬性を有しており、硬化後は耐化学薬品性、耐火性に優れた硬化体を与える。また、潜在水硬性を有する高炉スラグの存在により、その欠点である硬化体強度の経時的な低下も抑制される。アルミナセメントは鉱物組成が異なるものが数種知られ市販されており、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であるが、強度および着色性の面からは、CA成分が多く且つCAF等の少量成分が少ないアルミナセメントが好ましい。
【0016】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができる。
【0017】
石膏は、無水、半水等の各石膏がその種を問わず1種又は2種以上の混合物として使用できる。石膏は急硬性であり、また、硬化後の寸法安定性保持成分として働くものである。
【0018】
充填材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、スラグ粉、フライアッシュ、シリカフーム、石灰石粉、タルク、カオリン、アルミナ粉、酸化チタン、水酸化アルミニウムなどを用いることが出来、これらの充填材を1種または2種以上用いることが出来る。特に珪砂の場合5〜7号の使用が好ましい。
【0019】
エマルションとしては、公知のエマルションを用いることが出来る。
エマルションとしては、合成樹脂エマルションを用いることが出来、合成樹脂エマルションとしては、ポリ酢酸ビニルエマルション、エチレンと酢酸ビニルの共重合体エマルション、エチレン、酢酸ビニルと(メタ)クリル酸誘導体の共重合体マルジョン、エチレンと(メタ)クリル酸誘導体との共重合体エマルション、ポリ(メタ)クリル酸誘導体のエマルション、スチレンと(メタ)クリル酸誘導体との共重合体エマルション、ポリクロロプレンラテックス、酢酸ビニルと塩化ビニルの共重合体エマルション、スチレンとブタジエンの共重合体エマルション、アクリロニトリとブタジエンの共重合体エマルション、酢酸ビニルと(メタ)クリル酸誘導体のエマルションなどのエチレン、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)クリル酸誘導体などを少なくとも1種含む合成樹脂のエマルションを用いることができる。(メタ)クリル酸誘導体は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、これらのエステルなどの酸誘導体を意味し、少なくともこれらの成分を1種以上含むものである。
【0020】
エマルションに含まれるポリマー成分のガラス転移温度は、どのようなものでも用いることができるが、好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−25℃以下、より好ましくは−25℃〜−50℃の範囲、特に好ましくは−33℃〜−50℃の範囲を有するものが、低温環境下でも優れた特性を有するために好ましく、さらに(メタ)クリル酸誘導体を含むガラス転移温度が0℃以下、好ましくは−25℃以下、特に好ましくは−25℃〜−50℃の範囲のエマルションを、硬化物の伸び率が優れているために好ましく用いることができる。
特にガラス転移温度が好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−25℃以下、より好ましくは−25℃〜−50℃の範囲、特に好ましくは−33℃〜−50℃の範囲を有する(メタ)クリル酸誘導体を主成分とするエマルションは、硬化物の伸び率が優れているために好ましく用いることができる。
【0021】
(メタ)クリル酸誘導体は、アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体を示し、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、などである。
エマルションは、(メタ)クリル酸誘導体を1種または2種以上を使用して製造するアクリル系エマルションを用いることが好ましい。
【0022】
エマルションは、公知の製造方法により得られるものを用いることができ、例えば、乳化剤の存在下に、重合開始剤を用いて、水又は含水溶媒中で合成樹脂の原料となる重合性モノマーを乳化重合する方法などにより製造することができる。
【0023】
乳化剤としては、公知のものを用いることができ、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性の界面活性剤やポリビニルアルコール等の保護コロイドなどを挙げることができる。
重合開始剤としては、水又は含水溶媒中でラジカル重合できるものが好ましく、過酸化水素、過酢酸、過硫酸又はこれらのアンモニウム塩や硫酸塩等の水溶性の過酸化物やその塩などを挙げることができる。また、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチルニトリルなどの有機過酸化物、メタ亜硫酸ナトリウムやピロ亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を併用することができる。
重合開始剤の使用量は、エマルションが製造できる範囲であれば適宜選択できる。
【0024】
エマルションは、水又は含水溶媒を含まない粉末状の合成樹脂粒子を含み、粉末状の合成樹脂粒子を用いると、水又は含水溶媒を除いた全成分を一つのパッケージとすることができ、施工現場では水を添加するだけで使用できるので便利である。
【0025】
エマルションは、水又は含水溶媒を含むものを使用する場合には、ポリマーセメント組成物単独で混練してモルタルを得ることができ、また粘度及びTI値を調整する目的で、さらに必要に応じて水を加えることができる。
エマルションとして粉末状の合成樹脂粒子を使用する場合には、ポリマーセメント組成物単独ではスラリー状のモルタルを得ることが出来ないため、ポリマーセメント組成物と水とを混練することにより均質なスラリーを製造することができる。
【0026】
水又は含水溶媒を含まない粉末状の合成樹脂を除くエマルションは、エマルション中に含まれるポリマーの固形分は適宜選択することができるが、エマルション100質量部中、30〜80質量部が好ましく、40〜60質量部がより好ましい。
【0027】
ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、水硬性成分を好ましくは15〜175質量部、さらに好ましくは20〜120質量部、より好ましくは22〜90質量部、特に好ましくは23〜70質量部含むものを用いることができる。
【0028】
ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、水硬性成分と充填材とを含む粉体を好ましくは15〜350質量部、さらに好ましくは20〜330質量部、より好ましくは22〜300質量部、より好ましくは23〜270質量部、より好ましくは80〜250質量部、特に好ましくは150〜230質量部を含むものを用いることができる。
【0029】
増粘剤は、ポリエーテル系、ウレタン系、アクリル系などの水溶性ポリマー系、セルロース系、蛋白質系、などの増粘剤を用いることが出来、特に水溶性ポリウレタン系などの水溶性ポリマー系の増粘剤を好ましく用いることが出来る。水溶性ポリウレタン系増粘剤としては、商品名アデカノールUH−420、UH−438、UH−472(旭電化工業社製)などの市販品を用いることができ、特にUH−472(旭電化工業社製)が好ましい。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で適宜添加量を調整することができ、水硬性組成物100質量%中、0.05〜1.0質量%、さらに0.1〜0.7質量部、特に0.2〜0.5質量部含むことが好ましい。
【0030】
ポリマーセメント組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で、凝結遅延剤や凝結促進剤の凝結調整剤、流動化剤、消泡剤などを配合することができる。
【0031】
モルタルの製造法の一例としては、攪拌容器にエマルションを所定量計量し、攪拌機でエマルションを攪拌しながら所定量のアルミナセメントを含む水硬性成分、充填材及び増粘剤を、さらに必要に応じて凝結遅延剤や凝結促進剤の凝結調整剤、流動化剤、消泡剤などを添加し、数分間攪拌・混合して、さらに必要に応じて水を添加し、所定の粘度及びTI値を有するスラリー状の組成物を製造することができる。
モルタルの製造法の一例としては、容器にポリマーセメント組成物の各成分を所定量を計量して加え、さらに必要に応じて凝結遅延剤や凝結促進剤の凝結調整剤、流動化剤、消泡剤などを添加し、攪拌機で数分間攪拌・混合して、さらに必要に応じて水を添加し、所定の粘度及びTI値を有するスラリー状の組成物を製造することができる。
アルミナセメントを含む水硬性成分、充填材、増粘剤或いは添加剤などは、単独で添加しても良いし、予め他の数種と混合したものを添加しても良く、添加順序は特に選ばない。また、攪拌機は、一般的な固液攪拌機など撹拌機能を有するものを問題なく用いることが出来る。
水を添加する場合は、成分が分離しないように、均質なスラリーを得るように添加することが好ましい。
【0032】
本発明のモルタルは、ローラー、コテ及び吹き付け(スプレーなど)などを用いる一般的方法で平坦な被施工物表面や段差を有する被施工物表面に塗布して使用することができ、被施工物表面に本発明のモルタルを硬化させて、モルタルと被施工物との構造体を得ることができる。モルタルの乾燥後に更に同じ操作を繰り返し、複数層のモルタル層を形成させることができる。また、屋上などの施工でメッシュをモルタル層の間に挟んだ構造とする場合には、モルタル組成物の乾燥後、その上にメッシュを置き、メッシュの上からさらにモルタルを塗布してメッシュを固定する工程を加える工法を採用してもよい。さらに、最外層に別の組成物や保護塗装を塗布・乾燥させた保護層を形成させて仕上げることも可能である。
本発明のモルタルを段差を有する被施工物表面に塗布する場合、段差としては、どのような段差でも選択可能であるが、好ましくは0.5〜5mm、さらに好ましくは0.7〜4mm、より好ましくは0.8〜2mm、特に好ましくは0.9〜1.2mmの範囲の場合に適用することができる。
【0033】
モルタルを被施工物表面に施工する方法としては、
1)被施工物表面を洗浄し、さらに必要に応じてエマルションを塗布し、さらに必要に応じてエマルションを乾燥させ、
2)上記1)の被施工物表面に、モルタルを、吹き付け、鏝塗り、ローラー塗工などの公知の塗布方法により施工し、さらに必要に応じれ塗工表面を鏝などを用いてならし、さらに必要に応じて乾燥させることにより、
モルタルを被施工物表面に施工することができ、
モルタルの硬化物層と被施工物との構造体を得ることができる。
【0034】
本発明のモルタルは、ベランダ、屋上、屋根、柱、水槽などの防水材、仕上げ材、下地調整材などをして用いることができる。
本発明のモルタルは、コンクリート構造物などの防水用途に用いることが出来、コンクリートの被施工物表面に塗布して用いることが出来る。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0036】
1.粘度の測定方法
温度20℃、湿度65%の環境下で、まず、2Lのポリ容器に表1に示すポリマーセメント組成物であるエマルション、アルミナセメント、ポルトランドセメント、石膏、珪砂及び増粘剤を、表1に示す配合割合(合計1250g)で加え、0.15KW攪拌機を使用し1300rpmの条件下で3分間混合し、均質なスラリー状のモルタルを得る。その直後にB型粘度計(東機産業社製)及びローターNo.4を用いて、モルタル約250gを200mLのカップにすばやく充填し、充填直後に、6rpmに設定しローター回転1分後の粘度を測定し、さらに60rpmに設定を変更してローター回転1分後の粘度を測定する。
TI値は、上記で得られる6rpmの粘度の値を、60rpmの粘度の値で除して算出して得られる値とする。
TI値=(6rpmの粘度の値)/(60rpmの粘度の値)
【0037】
2.施工性評価
1)コテ波跡の評価方法
図1に示す形状のスペーサー1を2枚作成する。スペーサー1は中央部に1mmの段差を有し、スペーサー1の高い方の面をA面とし、低い方の面をB面とする。
図2に示すスレート板2の表面に、プライマー(各実施例又は比較例で使用したのと同じエマルションを用いて、エマルジョンに水を添加し10倍に希釈した液)を0.4kg/mの量で塗布し、乾燥させる。その後スレート板2のプライマー塗布面に、図1で作成した2枚のスペーサー(1a、1b)を図2に示すように、段差がある方を上にして、同じ方向に約100mm間隔で平行に置き、モルタルをスペーサー1aのA面側とスペーサー1bのA面側の間に垂らし、垂らしたモルタル3を矢印4の方向(A面側からB面側の方向)にコテで均して、モルタルを乾燥後、1mmの段差付近での段差の目立ち具合を目視で観察して、以下の評価を行う。(温度20℃、湿度65%の条件で行う)スレート板2は、5mm厚み×300mm×300mmの形状のものである。
・評価:○:ほとんど段差が目立たない、△:少し段差が目立つ、×:段差が目立つ。
2)ひび割れの評価方法
5mm厚スレート板(300×300mm)に、予めプライマー(各実施例及び比較例と同じエマルジョンを用い、エマルジョンに水を添加し10倍に希釈した液)を0.4kg/mの量で塗布する。乾燥後、このスレート板のプライマー塗布面にモルタルを厚さ2mmになるようにコテで均す。その直後に10%の傾斜をつけて静置して、硬化後の塗膜表面のひび割れの有無を確認する。(温度20℃、湿度65%の条件で行う)
・評価:○:ひび割れがない、×:ひび割れがある。
【0038】
3.硬化物の評価
1)伸び率の評価法
ガラス板にPETフィルムを敷き、その上にモルタルを1.8kg/mの量で塗布し、20±3℃、湿度65±5%の条件下で2日間養生後に塗膜を剥がし、さらに20±3℃、湿度65±5%の状態で26日間養生し、ポリマーセメントシート(試験体A)を得る。
伸び率の測定は、試験体Aよりダンベル1号型を用いて試験片を作製し、測定温度20℃、湿度60%の条件で、オートグラフ((株)東洋ボールドウイン製、TENSILON/UTM−I−2500)を用い、チャック間距離80mmで、引張速度200mm/分の条件で行う。なお、伸び率(%)は、数式(1)に従い、算出する。
【0039】
【数1】

【0040】
2)下地ひび割れ追従性試験による伸びの評価法
中央に切り込みを入れた5mm厚スレート板(50×150mm)に、予めプライマー(各実施例及び比較例と同じエマルジョンを用い、エマルジョンに水を添加し10倍に希釈した液)を0.4kg/mの量で塗布する。このスレート板のプライマー塗布面に、モルタルを1.8kg/mの量で塗布し、20±3℃、湿度65±5%の条件で28日間養生し、試験体Bを得る。
下地ひび割れ追従性試験による伸びの測定は、試験体Bを測定温度−10℃、湿度60%の条件で、オートグラフ((株)東洋ボールドウイン社製、TENSILON/UTM−I−2500)を用い、引張速度5mm/分の条件で行う。目視観察で試験体B(塗膜)に亀裂などの欠陥が生じる時の伸びを測定し、その伸びを下地ひび割れ追従性とする。
【0041】
3)明度及び色相の評価方法
5mm厚スレート板(300×300mm)に、予めプライマー(各実施例及び比較例と同じエマルジョンを用い、エマルジョンに水を添加し10倍に希釈した液)を0.4kg/mの量で塗布する。このスレート板のプライマー塗布面に、モルタルを1.8kg/mの量で塗布し、20±3℃、湿度65±5%の条件で3日間養生し、試験体Cを得る。
明度及び色相は、試験体Cのモルタルを塗布した面を、ハンディー色差計(日本電色工業(株)製、NR−3000)(光源:C/2°)を用いて、明度L、色相a、色相bを測定し、これを乾燥時の明度及び色相とする。
その後、試験体Cの塗膜表面に20±3℃の水滴を約5ml垂らし、その後20±3℃、湿度65±5%の条件でその水滴が乾燥するまで静置する。乾燥後、上記ハンディー色差計を用いて、明度L、色相a、色相bを測定し、これを水濡れ部分の乾燥時の明度及び色相とする。乾燥時と水濡れ部分の乾燥時の色差ΔE及び明度差ΔLは、以下の数式(2)及び数式(3)により算出する。塗膜の乾燥時の色と、塗膜を水濡れさせた後で乾燥させた時の色とを目視で観察し、以下の評価を行う。
評価:○:ほとんど差がない、△:少し目立つ、×:差が目立つ。
【0042】
【数2】

【0043】
(製造例1:エマルジョンAの製造)
予め、容器にイオン交換水446部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製、エマルゲン935)14部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(第一工業製薬社製、アクアロンKH−10)14部、メチルメタクリレート322部、2−エチルヘキシルアクリレート868部、n−ブチルアクリレート210部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート60部、メタクリル酸7部、アクリルアミド7部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水620部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製、ネオペレックスG−65)2.8部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が78℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液を全体の0.9重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、10%有機過酸化物18部と2%還元剤18部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と2%還元剤46部とを同時に滴下しながら、5時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、78℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤、光安定剤、紫外線吸収剤を添加し、アンモニア水、イオン交換水でpH、不揮発分を調整し、アクリル系のエマルジョンAを得た。
アクリル系のエマルジョンAは、メチルメタクリレート約23重量%、2−エチルヘキシルアクリレート約62重量%、n−ブチルアクリレート約15重量%から得られる、ガラス転移温度が−40℃である。
【0044】
(製造例2:エマルジョンBの製造)
予め、容器にイオン交換水557部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製、エマルゲン935)14部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(第一工業製薬社製、アクアロンKH−10)14部、スチレン434部、2−エチルヘキシルアクリレート594部、n−ブチルアクリレート462部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート60部、メタクリル酸7部、アクリルアミド7部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水590部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製、ネオペレックスG−65)2.8部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が78℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液を全体の1.4重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、10%有機過酸化物18部と2%還元剤18部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と2%還元剤46部とを同時に滴下しながら、5時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、78℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤、光安定剤、紫外線吸収剤を添加し、アンモニア水、イオン交換水でpH、不揮発分を調整し、アクリル系のエマルジョンBを得た。
アクリル系のエマルジョンBは、スチレン約31重量%、2−エチルヘキシルアクリレート約36重量%、n−ブチルアクリレート約33重量%から得られる、ガラス転移温度が−30℃である。
【0045】
(製造例3:エマルジョンCの製造)
予め、容器にイオン交換水420部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製、エマルゲン935)28部、メチルメタクリレート322部、2−エチルヘキシルアクリレート616部、n−ブチルアクリレート462部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート60部、メタクリル酸7部、アクリルアミド7部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水560部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製、ネオペレックスG−65)2.8部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が78℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液を全体の0.7重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、5%過硫酸ナトリウム14部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と5%過硫酸ナトリウム42部とを同時に滴下しながら、5時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、78℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤、光安定剤、紫外線吸収剤を添加し、アンモニア水、イオン交換水でpH、不揮発分を調整し、アクリル系のエマルジョンCを得た。
アクリル系のエマルジョンCは、メチルメタクリレート約23重量%、2−エチルヘキシルアクリレート約44重量%、n−ブチルアクリレート約33重量%から得られる、ガラス転移温度が−40℃である。
【0046】
(ガラス転移温度の評価)
ガラス板上にエマルションを適量滴下し、60℃で16時間乾燥し、得られた質量が9.5〜10.5mgの範囲に入った乾燥塗膜を、示差走査熱量計(島津製作所社製、DSC−50)を用い、ガラス転移温度を測定する。
DSCの測定条件は、室温から150℃に10分間で昇温し、150℃を10分間保持した後に計算で得られた試料のTgより50℃低い温度まで下げ、再度150℃まで10分間で昇温するさいに、1回目のTgの測定を行う。次に1回目で測定したTgより50℃低い温度まで下げるさいに、2回目のTgの測定を行い、2回目のTgの値をガラス転移温度とする。
【0047】
[実施例1〜7、比較例1〜9]
(1)原料は、以下の物を用いた。
・アルミナセメント:ブレーン比表面積3300cm/g、モノカルシウムアルミネート含有量45質量%。
・ポルトランドセメント:早強ポルトランドセメント、ブレーン比表面積4500cm/g。
・石膏:II型無水石膏、ブレーン比表面積3520cm/g(セントラル硝子社製)。
・珪砂:7号珪砂(市販品)。
・増粘剤A:水性ウレタン増粘剤(UH472、旭電化社製)。
・増粘剤B:水性ウレタン増粘剤(UH438、旭電化社製)。
・増粘剤C:メチルセルロース系増粘剤(マーポローズ、松本油脂社製)。
【0048】
(2)モルタルの調製
2Lのポリ容器に表1に示すエマルション、アルミナセメント、ポルトランドセメント、石膏、珪砂及び増粘剤を、表1に示す配合割合(合計1250g)で加え、0.15KW攪拌機を使用し1300rpmの条件下で3分間混合し、スラリー状のモルタルを得た。
得られたモルタルは、粘度(6rpm及び60rpm)、コテ波跡、ひび割れを評価し、モルタルの硬化物は、伸び率、下地ひび割れ追従性の伸びを評価し、結果を表2に示す。
表1の配合割合において、エマルションの配合量は、エマルションのポリマー固形分量である。
【0049】
1)水硬性成分の相違で実施例1と実施例5を比較すると、アルミナセメントを多く含む実施例1が、硬化物の伸び率が優れている。
2)エマルジョンの相違で実施例2と実施例6を比較すると、スチレンを含む実施例6は、硬化物の20℃の伸び率は大きいが、−10℃の伸び率が小さく、実施例2の方が低温特性に優れる。
【0050】
実施例2、実施例5及び比較例2で得られた硬化物の乾燥時の明度及び色相と、塗膜を水濡れさ乾燥させた時の色とを目視で比較して観察し、その結果を表3に示す。アルミナセメントを含まない比較例2は、水濡れ後に乾燥させた硬化物の変色が大きかった。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】コテ波跡の評価用スペーサーの斜視図をモデル的に示すものである。
【図2】コテ波跡の評価用部材の上面図をモデル的に示すものである。
【符号の説明】
【0055】
1,1a、1b:スペーサー、2:スレート、3:モルタル。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメントを含む水硬性成分と、充填材と、エマルションと、増粘剤とを含むポリマーセメント組成物から得られるモルタルであり、
モルタルの粘度(6rpm)が10000〜25000mPa・sの範囲であり、
モルタルのTI値(6rpmの粘度/60rpmの粘度)が2.4〜3.8の範囲であることを特徴とするモルタル。
【請求項2】
ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、
水硬性成分を15〜175質量部含むことを特徴とする請求項1に記載のモルタル。
【請求項3】
ポリマーセメント組成物は、
エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、水硬性成分と充填材との合計量を15〜350質量部含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモルタル。
【請求項4】
増粘剤は、水溶性ポリウレタン系増粘剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のモルタル。
【請求項5】
モルタルが、段差を有する施工部の施工用であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のモルタル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のモルタルを被施工物表面に施工して得られる、モルタルと被施工物との構造体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のモルタルの施工方法であり、
モルタルを、段差を有する施工部に、吹き付け、鏝塗り、ローラー塗工の塗布方法により施工することを特徴とするモルタルの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−347797(P2006−347797A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174506(P2005−174506)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】