説明

モルタル又はコンクリート用組成物及びそれを成形してなる成形品並びにモルタル又はコンクリートの補修方法

【課題】下水道施設等の硫酸性雰囲気に晒される環境で使用した場合に、耐硫酸性が非常
に優れたモルタル又はコンクリート用組成物及びそれを成形してなる成形品並びにモルタ
ル又はコンクリートの補修方法を提供する。
【解決手段】高炉スラグ細骨材(A)、並びに高炉スラグ微粉末(B)及びポルトランド
セメント(C)を含む結合材(D)を含有するモルタル又はコンクリート用組成物であっ
て、高炉スラグ細骨材(A)は非晶質であり、高炉スラグ微粉末(B)の比表面積がブレ
ーン値で2500〜7000cm/gであり、かつ、結合材(D)に対するポルトラン
ドセメント(C)の質量比(C/D)が0.3〜0.9であることを特徴とするモルタル
又はコンクリート用組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐硫酸性が優れたモルタル又はコンクリート用組成物及びそれを成形してな
る成形品並びにモルタル又はコンクリートの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道施設等の硫酸性雰囲気に晒される環境においては、使用されるコンクリー
ト類の耐硫酸性が要求されている。例えば、下水道施設ではイオウ酸化細菌により硫酸が
生成され、この種の施設の汚水導入路などに用いられているコンクリート類が、この硫酸
により化学的な侵食作用を受けて、腐食、劣化することが知られている。したがって、こ
のような環境においても劣化しない耐硫酸性に優れたコンクリート類が求められていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、粒径100μm以下のセメント15〜70重量%、粒径15
μm以下の高炉急冷スラグ微粉末85〜30重量%の割合からなるセメント部20〜70
重量部、細骨材として粒径70μm〜5.0mmの高炉急冷スラグ80〜30重量部、及
びセメント部に対して固形分で4重量%以下の減水剤からなる高強度・高耐久性モルタル
・コンクリート用組成物について記載されている。これによれば、高い圧縮強度を持つモ
ルタルを提供することができ、また、得られたモルタルは、高い耐久性を兼ね備えている
とされている。しかしながら、必ずしも耐硫酸性が優れているわけではなく、改善が望ま
れていた。
【0004】
また、劣化の原因となるエトリンガイトの生成を少なくする目的で、コンクリート類中
に、シリカフュームやフライアッシュなどのポゾラン物質をセメント量よりも多く添加し
、セメントの水和反応により発生する水酸化カルシウムをCaO−SiO系水和物に変
換することが知られていたが、このような場合には、ポゾラン材料を多量に用いるために
、収縮が大きくひび割れやすいコンクリート類になるという問題があった。また、水酸化
カルシウムの生成量が少なくなるために、硫酸イオンに対する抵抗性は高くなるが、水素
イオンによる侵食を防ぐことはできない問題があり、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−281057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、下水道施設等の硫酸性雰囲気に晒される
環境で使用した場合に、耐硫酸性が非常に優れたモルタル又はコンクリート用組成物及び
それを成形してなる成形品並びにモルタル又はコンクリートの補修方法を提供することを
目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るモルタル又は
コンクリート用組成物は、高炉スラグ細骨材(A)、並びに高炉スラグ微粉末(B)及び
ポルトランドセメント(C)を含む結合材(D)を含有するモルタル又はコンクリート用
組成物であって、高炉スラグ細骨材(A)は非晶質であり、高炉スラグ微粉末(B)の比
表面積がブレーン値で2500〜7000cm/gであり、かつ、結合材(D)に対す
るポルトランドセメント(C)の質量比(C/D)が0.3〜0.9であることを特徴と
する。
【0008】
また、本発明の請求項2に係るモルタル又はコンクリート用組成物は、上述した請求項
1において、結合材(D)100質量部に対して、高炉スラグ細骨材(A)を50〜10
00質量部を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係るモルタル又はコンクリート用組成物は、上述した請求項
1又は2において、ポルトランドセメント(C)が普通ポルトランドセメントであること
を特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る成形品は、上述した請求項1〜3のいずれか一つに記載
のモルタル又はコンクリート用組成物を成形してなる成形品である。
【0011】
また、本発明の請求項5に係る成形品は、上述した請求項4において、硫酸に接するこ
とで表面に二水石こう層が形成されてなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6に係る成形品は、上述した請求項4又は5において、下水道配
管として用いられることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項7に係る成形品は、上述した請求項4又は5において、海洋構造
物として用いられることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項8に係るモルタル又はコンクリートの補修方法は、上述した請求
項1〜3のいずれか一つに記載のモルタル又はコンクリート用組成物を用いてモルタル表
面又はコンクリート表面を補修するモルタル又はコンクリートの補修方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のモルタル又はコンクリート用組成物によれば、下水道施設等の硫酸性雰囲気に
晒される環境で使用した場合に、モルタル表面やコンクリート表面に二水石こう層が形成
され、耐硫酸性が非常に優れている。また、得られるモルタル又はコンクリートの乾燥収
縮が小さい。更に、モルタルやコンクリートにひび割れが生じた場合であっても、表面に
新たに生成される二水石こう層によりひび割れを自己修復することができるという効果を
奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、耐硫酸性試験におけるモルタルの質量変化率を示したグラフである。
【図2】図2は、実施例1における耐硫酸性試験後のモルタルの写真である。
【図3】図3は、細骨材の種類を変更して得られた耐硫酸性試験後のモルタルの写真である。
【図4】図4は、自己修復性能試験におけるモルタルの写真であり、(a)は実施例1、(b)は比較例6、(c)は比較例7のモルタルの写真である。
【図5】図5は、乾燥収縮ひずみの経時変化を示したグラフであり、(a)は標準養生の場合、(b)は蒸気養生の場合のグラフである。
【図6】図6は、質量比(C/D)に対する最終乾燥収縮ひずみの変化を示したグラフである。
【図7】図7は、アルカリ骨材反応試験における膨張量の経時変化を示したグラフである。
【図8】図8は、凍結融解抵抗試験における相対動弾性係数の変化を示したグラフである。
【図9】図9は、セメント硬化体の耐硫酸性試験結果を示したグラフである。
【図10】図10は、X線回折分析ラインを示した供試体の部分断面図である。
【図11】図11は、X線回折分析による元素分布を示したグラフであり、(a)はCa量、(b)はS量、(c)はFe量、(d)はAl量のグラフである。
【図12】図12は、セメント硬化体の硫酸による劣化のサイクルを示した図である。
【図13】図13は、二水石こうによる硫酸からの保護効果を示したモルタルの写真である。
【図14】図14は、川砂を用いたモルタルの硫酸浸漬試験結果を示した写真である。
【図15】図15は、高炉スラグ細骨材を用いたモルタルの硫酸浸漬試験結果を示した写真である。
【図16】図16は、細骨材の違いが二水石こうの細孔径分布に及ぼす影響を示したグラフである。
【図17】図17は、高炉スラグ細骨材のガラス化率がモルタルの耐硫酸性に及ぼす影響を示した写真である。
【図18】図18は、高炉スラグ細骨材のX線回折分析結果を示したグラフである。
【図19】図19は、水酸化カルシウム水溶液に対する浸漬前後の細骨材の表面の写真であり、(a)は川砂の表面、(b)は高炉スラグ細骨材の表面の写真である。
【図20】図20は、種々の粗骨材を用いたコンクリートの硫酸浸漬後の断面及び表面を示した写真である。
【図21】図21は、種々の粗骨材を用いたコンクリートの質量変化率を示したグラフである。
【図22】図22は、水結合材比(W/D)がコンクリートの表面に及ぼす影響を示した写真である。
【図23】図23は、水結合材比(W/D)が二水石こうの総細孔容積に及ぼす影響を示したグラフである。
【図24】図24は、浸漬期間×硫酸濃度に対するモルタルの侵食深さの変化を示したグラフである。
【図25】図25は、浸漬期間×硫酸濃度に対するコンクリートの侵食深さの変化を示したグラフである。
【図26】図26は、浸漬期間に対するコンクリートの相対質量の変化を比較したグラフである。
【図27】図27は、「二水石こうの膜を形成する骨材の判定試験」による高炉スラグ細骨材のX線強度の経時変化を示したグラフである。
【図28】図28は、結晶化させた高炉スラグ細骨材の割合を変更して得られたモルタルの相対質量の経時変化を示したグラフである。
【図29】図29は、結晶化させた高炉スラグ細骨材の割合を変更して得られたモルタルの硫酸浸漬後の断面を示した写真である。
【図30】図30は、「二水石こうの膜を形成する骨材の判定試験」による種々の高炉スラグ細骨材のX線強度の経時変化を示したグラフである。
【図31】図31は、種々の高炉スラグ細骨材を用いたモルタルの相対質量の経時変化を示したグラフである。
【図32】図32は、種々の高炉スラグ細骨材を用いたモルタルの硫酸浸漬後の断面を示した写真である。
【図33】図33は、下水汚泥溶融スラグ及び銅スラグのX線回折分析結果を示したグラフである。
【図34】図34は、「二水石こうの膜を形成する骨材の判定試験」による下水汚泥溶融スラグ及び銅スラグのX線強度の経時変化を示したグラフである。
【図35】図35は、下水汚泥溶融スラグを用いたモルタルの相対質量の経時変化を示したグラフである。
【図36】図36は、水結合材比(W/D)に対する相対質量の変化を示したグラフであり、(a)は普通コンクリート、(b)は本発明のコンクリートのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係るモルタル又はコンクリート用組成物及びそれを成形してなる成形
品並びにモルタル又はコンクリートの補修方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する
。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
本発明のモルタル又はコンクリート用組成物は、高炉スラグ細骨材(A)、並びに高炉
スラグ微粉末(B)及びポルトランドセメント(C)を含む結合材(D)を含有するもの
である。
【0019】
本発明で用いられる高炉スラグ細骨材(A)は、非晶質な高炉スラグ細骨材である。非
晶質な高炉スラグ細骨材(A)としては、例えば、製銑工程において副産する高炉スラグ
に、加圧水を噴射して急冷し、粒状化した高炉水砕スラグを用いることができる。また、
本発明で用いられる高炉スラグ細骨材(A)は、密度が2.5〜3.0g/cmのもの
である。このように、密度が2.5〜3.0g/cmの範囲にある高炉スラグ細骨材(
A)を用いることにより、得られるモルタル又はコンクリートの耐硫酸性が優れるととも
に、乾燥収縮ひずみが小さいことを本発明者は確認している。この理由については、モル
タル又はコンクリートが硫酸性雰囲気に晒された際にカルシウムイオン(Ca2+)が適
切な速度で供給されて硫酸イオン(SO2−)と反応し、モルタル表面やコンクリート
表面に二水石こう層が形成されるためと考えられる。ここで、本発明において形成される
二水石こう層は、通常0.01mm以上の厚さである。二水石こう層の厚さは、0.1m
m以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。
【0020】
高炉スラグ細骨材(A)の密度が2.5g/cm未満の場合、高炉スラグ細骨材が多
孔質であるため、それを用いたモルタル及びコンクリートの強度が低くなるおそれがあり
、2.55g/cm以上であることが好ましい。一方、密度が3.00g/cmを超
える場合、モルタル及びコンクリートのフレッシュ時における材料分離が生じやすくなり
、部分的に不均質な二水石こうを形成するおそれがあり、密度は2.90g/cm以下
であることが好ましく、2.80g/cm以下であることがより好ましい。なお、後述
の実施例からも分かるように、細骨材として川砂、石灰岩砕砂又は電気炉酸化スラグを用
いた場合には二水石こう層が形成されず、高炉スラグ細骨材(A)を用いた場合と比べて
耐硫酸性が劣ることを本発明者は確認している。したがって、硫酸雰囲気に晒された際に
モルタル又はコンクリートの劣化を抑制することができる二水石こう層を形成させるため
には、本発明のように非晶質な高炉スラグ細骨材(A)を用いることが重要である。
【0021】
本発明で用いられる高炉スラグ微粉末(B)は、比表面積がブレーン値で2500〜7
000cm/gのものである。このように、比表面積がブレーン値で2500〜700
0cm/gの高炉スラグ微粉末(B)を用いることにより、耐硫酸性の優れたモルタル
又はコンクリート用組成物が得られる。用いられる高炉スラグ微粉末(B)の比表面積が
ブレーン値で2500cm/g未満の場合、初期強度の発現性が悪くなるおそれがあり
、比表面積はブレーン値で3000cm/g以上であることが好ましく、3500cm
/g以上であることがより好ましい。一方、比表面積がブレーン値で7000cm
gを超える場合、コストが高くなるとともに、水和熱が高くなり、乾燥収縮ひずみが大き
くなる等、コンクリートに初期欠陥を生じさせるおそれがあり、比表面積がブレーン値で
6500cm/g以下であることが好ましく、5000cm/g以下であることがよ
り好ましい。
【0022】
また、本発明で用いられるポルトランドセメント(C)としては、普通ポルトランドセ
メント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランド
セメント、低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。中でも、硫酸雰囲気に晒された際
にモルタル又はコンクリートの劣化をより効果的に抑制することができる二水石こう層を
形成させる観点からは、普通ポルトランドセメントがより好適に用いられる。
【0023】
本発明のモルタル又はコンクリート用組成物は、非晶質な高炉スラグ細骨材(A)、並
びに高炉スラグ微粉末(B)及びポルトランドセメント(C)を含む結合材(D)を含有
するものであるが、本発明は、ポルトランドセメント(C)と結合材(D)との質量比(
C/D)が0.3〜0.9であることを特徴とする。このとき、高炉スラグ微粉末(B)
と結合材(D)との質量比(B/D)が0.1〜0.7であることが好ましい。質量比(
C/D)がこのような範囲にあることにより、得られるモルタル又はコンクリートの耐硫
酸性が良好となる。質量比(C/D)が0.3未満の場合、表面に形成される二水石こう
の皮膜強度が弱くなり、硫酸雰囲気に晒された際にモルタル又はコンクリートの劣化を抑
制することが困難となるおそれがあり、質量比(C/D)は0.35以上であることが好
ましく、質量比(B/D)は0.65以下であることがより好ましい。一方、質量比(C
/D)が0.9を超える場合、二水石こうに加え、膨張性の有害なエトリンガイトが生成
され、硫酸雰囲気に晒された際にモルタル又はコンクリートの劣化を抑制することが困難
となるおそれがあり、質量比(C/D)は0.85以下であることが好ましく、質量比(
B/D)は0.15以上であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明では、高炉スラグ微粉末(B)及びポルトランドセメント(C)の合計1
00質量部に対して、高炉スラグ細骨材(A)を50〜1000質量部を含むことが好ま
しい。高炉スラグ細骨材(A)の含有量が50質量部未満の場合、硫酸雰囲気に晒された
際にモルタル又はコンクリートの劣化を抑制することが困難となるおそれがあり、100
質量部以上であることがより好ましい。一方、高炉スラグ細骨材(A)の含有量が100
0質量部を超える場合、硫酸雰囲気に晒された際にモルタル又はコンクリートの劣化を抑
制することが困難となるおそれがあり、800質量部以下であることがより好ましく、6
00質量部以下であることが更に好ましい。
【0025】
本発明のモルタル又はコンクリート用組成物において、非晶質な高炉スラグ細骨材(A
)、並びに高炉スラグ微粉末(B)及びポルトランドセメント(C)を含む結合材(D)
以外に、モルタル用組成物は通常更に水を含むものであり、コンクリート用組成物は通常
更に水及び粗骨材を含むものであり、モルタル又はコンクリート用組成物が硬化されてモ
ルタル又はコンクリートが得られることとなる。ここで、モルタル用組成物における水の
使用量(W)としては、結合材(D)100質量部に対して、水(W)が25〜70質量
部であることが好ましい。また、コンクリート用組成物における水の使用量(W)として
は、結合材(D)100質量部に対して、水(W)が25〜60質量部であることが好ま
しく、粗骨材の使用量としては、結合材(D)100質量部に対して、粗骨材が100〜
500質量部であることが好ましい。また、本発明のモルタル又はコンクリート用組成物
は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、更にその他の成分を含有しても構わない。
【0026】
本発明のモルタル又はコンクリート用組成物は、耐硫酸性が要求される建造物等の施工
に非常に有用であり、例えば、下水道配管、海洋構造物、化成品工場における廃水ピッチ
、火山帯、温泉地等の耐硫酸性が要求される現場で好適に用いられる。このとき、予め本
発明のモルタル又はコンクリート用組成物を成形し、成形品として施工してもよいし、本
発明のモルタル又はコンクリート用組成物を用いてモルタル表面又はコンクリート表面を
補修する使用態様であっても構わない。特に、モルタルやコンクリートにひび割れが生じ
た場合であっても、表面に新たに生成される二水石こう層によりひび割れを自己修復する
ことができ、メンテナンスが不要となる利点を有する。このようにして施工されることに
より、モルタル又はコンクリートが硫酸性雰囲気に晒された際にモルタル表面やコンクリ
ート表面に二水石こう層が形成されて耐硫酸性が優れたモルタルやコンクリートが提供さ
れる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0028】
[実施例1〜6、比較例1〜9]
(モルタルの配合)
本実施例及び比較例で用いられる各材料を表1にまとめて示すとともに、実施例1〜6
及び比較例1〜9におけるモルタルの配合を表2にまとめて示す。本実施例及び比較例に
おいて、高炉スラグ微粉末(B)(GGBS)としては、ブレーン値が4250cm
gで密度が2.89g/cmのJFEミネラル社製高炉スラグ微粉末4000を用いた
。また、シリカフューム(SF)としては、密度が2.05g/cmのSILICOM
BECANCOUR Inc.社(以下、「SBI社」と略)製シリカフュームを用い
た。また、フライアッシュ(FA)としては、密度が2.2g/cmの中電環境テクノ
ス社製JISのフライアッシュII種を用いた。また、川砂(RS)としては、密度が2.
61g/cmの旭川産川砂を用いた。また、高炉スラグ細骨材(A)(BFS)として
は、密度が2.72g/cmのJFEミネラル社製高炉スラグ細骨材を用いた。また、
流動性を改善するためのモルタルに添加する高性能減水剤(SP)としては、マイティ2
1VS(花王社製、商品名)を用いた。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
(試験方法)
本実施例及び比較例により得られたモルタルについての耐硫酸性試験、圧縮強度試験及
び長さ変化試験は、下記表3で示される方法に準拠して行った。
【0032】
【表3】

【0033】
ここで、耐硫酸性試験は、硫酸浸漬試験(中性化深さ)と硫酸浸漬試験における質量変
化率を測定することにより行った。硫酸浸漬試験は、直径が50mmで高さが100mm
の円柱供試体をそれぞれ1個ずつ作成し、5%濃度の硫酸溶液に56日間浸漬した後に変
色部分の長さと浸透深さとを測定することにより行った。浸透深さは、中性化した深さを
フェノールフタレイン法により測定することにより求めた。また、質量変化率は、上記硫
酸浸漬試験と同じ寸法形状の供試体を用い、7日間水中養生した後の質量を基準として、
5%濃度の硫酸溶液28日間および56日間浸漬した後の質量を測定して、その変化率を
求めたものである。得られた結果を表4にまとめて示す。
【0034】
【表4】

【0035】
上記表4の結果から明らかなように、材齢28日の圧縮強度が、比較例1〜4よりも実
施例1〜4の方で低くなる場合もあるが、例えば、下水施設の汚水導入路などのように、
比較的強度を要請されない場合や、また、強度を負担する躯体の表面に本実施例のモルタ
ル層を形成する場合には、実用上問題がない程度の圧縮強度が得られている。一方、硫酸
浸漬試験結果から明らかなように、比較例1〜4では、水結合材比が小さいものほど、す
なわち、強度が高いものほど硫酸の浸透が多いのに対し、実施例1〜4では、水結合材比
、すなわち強度に関係なく、硫酸の浸透が少ないことが分かる。また、質量変化率の測定
結果から明らかなように、実施例1〜4では、質量の変化率が非常に小さく、比較例1〜
4に比べて、硫酸に対する侵食劣化が非常に少なくなることが分かる。
【0036】
また、ポルトランドセメント(C)と結合材(D)との質量比(C/D)がそれぞれ異
なる実施例1、実施例5、実施例6、比較例8及び比較例9の耐硫酸性試験における質量
変化率の測定結果について下記表5にまとめて示すとともに、図1にグラフを示す。
【0037】
【表5】

【0038】
表5及び図1から分かるように、高炉スラグ微粉末(B)を用いずポルトランドセメン
ト(C)と結合材(D)との質量比(C/D)が0.3〜0.9の範囲内にない比較例8
、及び質量比(C/D)が0.3〜0.9の範囲内にない比較例9では、5%濃度の硫酸
溶液に56日間浸漬した後の質量変化率がそれぞれ89.1%と88.3%であり、硫酸
に対する侵食劣化が見られることが分かる。これに対し、ポルトランドセメント(C)と
結合材(D)との質量比(C/D)が0.3〜0.9の範囲内にある実施例1、5及び6
では、いずれも質量変化率が100%を超えており、耐硫酸性が優れていることが分かる
。このことは、図2に示されるように、モルタル表面に、結合材(D)と高炉スラグ細骨
材(A)の両方が硫酸と反応することにより、二水石こうの膜が形成され、モルタルの耐
硫酸性が大幅に向上したためと考えられる。
【0039】
[比較例10及び11]
(モルタルの配合及び耐硫酸性試験)
高炉スラグ微粉末(B)を用いずに細骨材の種類を変更した以外は比較例1と同様にし
てモルタルを作製した。比較例1、8、10及び11のモルタルの配合について表6にま
とめて示し、5%濃度の硫酸溶液に56日間浸漬した後の硫酸浸漬試験(中性化深さ)と
硫酸浸漬試験における質量変化率を表7にまとめて示す。
【0040】
【表6】

【0041】
【表7】

【0042】
上記表7の結果から分かるように、細骨材に川砂を用いた比較例1、石灰岩砕砂を用い
た比較例10、及び電気炉酸化スラグを用いた比較例11と比べて、細骨材に高炉スラグ
細骨材(A)を用いた比較例8では、質量変化率が大きくなく、また、図3の写真からも
分かるように侵食深さも小さかった。
【0043】
以下に示す表8は、実施例1及び比較例5について、それぞれ行った硫酸浸漬試験のフ
ェノールフタレイン法による測定結果および質量変化を示している。
【0044】
【表8】

【0045】
上記表8から分かるように、用いられる結合材(D)の構成部材が同じであっても、細
骨材に川砂を用いた比較例5に比べて、細骨材に高炉スラグ細骨材(A)を用いた実施例
1では、侵食深さが小さく、質量変化率も小さかったことから耐硫酸性が優れていること
が分かる。このことは、図2のモルタルの写真からも分かるように、モルタル表面におい
て、高炉スラグ細骨材(A)と結合材(D)の両方が硫酸と反応することにより、二水石
こうの膜が形成され、このことによりモルタルの耐硫酸性が大幅に向上していると考えら
れる。
【0046】
以下に示す表9は、実施例1、比較例6及び比較例7について、それぞれ行った硫酸浸
漬試験のフェノールフタレイン法による測定結果および質量変化を示している。
【0047】
【表9】

【0048】
上記表9から分かるように、結合材として高炉スラグ微粉末(B)に加えて更にフライ
アッシュ及びシリカフュームを用い、細骨材として川砂を用い、かつ質量比(C/D)が
0.3〜0.9の範囲内になかった比較例6、及び結合材(D)として高炉スラグ微粉末
(B)に加えて更にフライアッシュ及びシリカフュームを用い、かつ質量比(C/D)が
0.3〜0.9の範囲内になかった比較例7と比べて、本発明の実施例1により得られた
モルタルは、侵食深さが小さく、質量変化率も小さかったことから耐硫酸性に優れている
ことが分かる。
【0049】
以下に示す表10は、実施例1、比較例1及び比較例6について、材齢7日を基長とし
て、乾燥期間10日目と91日目に、同じ部分の長さを測定し求めた長さの変化率の測定
結果を示している。この長さ変化の試験は、JIS A 1129−3(モルタルおよび
コンクリートの長さ変化試験方法−第3部:ダイヤルゲージ法)に準拠した。
【0050】
【表10】

【0051】
表10から分かるように、結合材にポゾラン材料を多量に用いた比較例6が最も収縮が
大きく、本発明の実施例1では、比較例1及び比較例6よりも長さ変化率が小さいことが
分かった。
【0052】
また、実施例1、比較例6及び比較例7について、材齢7日より5%濃度の硫酸溶液に
28日間浸漬させた後、厚さ3mm、深さ30mmの切り目を入れ、さらに14日間浸漬
した後のモルタル表面を観察した。得られた結果を図4に示す。実施例1のモルタル表面
の変化の前後を観察した図4(a)の写真から分かるように、比較例6の図4(b)及び
比較例7の図4(c)と比べて、実施例1では、モルタル表面だけではなく切り目にも二
水石こうの膜が形成されており、ひび割れが生じても、硫酸と接する面では新たな二水石
こうによって自己修復がなされ、硫酸の浸透を防ぐことが可能であることが推察される。
【0053】
[実施例7〜9、比較例12〜14]
(コンクリートの配合)
実施例7〜9及び比較例12〜14におけるコンクリートの配合について表11にまと
めて示すとともに、得られたコンクリートの圧縮強度及び耐硫酸性試験における質量変化
率の測定結果について表12にまとめて示す。
【0054】
【表11】

【0055】
【表12】

【0056】
[本発明のモルタル又はコンクリート用組成物の諸特性について]
(乾燥収縮ひずみ)
次に、本発明のモルタルの乾燥収縮ひずみについて、図5及び図6を用いて説明する。
図5は、乾燥収縮ひずみの経時変化を示したグラフであり、(a)は標準養生の場合、(
b)は蒸気養生の場合のグラフである。
【0057】
図中のBB40(高炉スラグ)は、結合材に普通ポルトランドセメントと高炉スラグ微
粉末を質量比で4:6の割合で混合したものを用いた水結合材比40%のセメントペース
トに高炉スラグ細骨材を混合したモルタルの結果を示している。また、図中のBB40(
川砂)は、結合材に普通ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末を質量比で4:6の割
合で混合したものを用いた水結合材比40%のセメントペーストに川砂を混合したモルタ
ルの結果を示している。また、図中のOPC(川砂)は、普通ポルトランドセメントのみ
を結合材に用いた水セメント比が40%のセメントペーストに川砂を混合したモルタルの
結果を示している。
【0058】
図5に示すように、OPC(川砂)は、標準養生でも蒸気養生でも乾燥収縮ひずみはあ
まり変わらない。一方、本発明の構成に相当するBB40(高炉スラグ)は、蒸気養生の
場合の乾燥期間100日の乾燥収縮ひずみは200μ以下であり、OPC(川砂)の乾燥
収縮ひずみよりも小さくなることが分かる。
【0059】
図6は、本発明のモルタルの質量比(C/D)に対する最終乾燥収縮ひずみの変化の一
例を示したグラフである。図6に示すように、本発明のモルタルの最終乾燥収縮ひずみは
、蒸気養生の方が標準養生よりも小さくなることが分かる。本発明によれば、こうした乾
燥収縮ひずみにより仮にひび割れが発生したとしても、表面に形成される二水石こうの膜
によって、硫酸による侵食から母材は保護される。このため、本発明のモルタル又はコン
クリート用組成物は、硫酸性環境下に晒されるモルタル又はコンクリートの補修材として
も有用である。
【0060】
(アルカリ骨材反応)
次に、本発明のコンクリート用組成物のアルカリ骨材反応について、図7を用いて説明
する。図7は、アルカリ骨材反応試験における膨張量の経時変化を示したグラフである。
図7に示すように、普通コンクリートの場合には3ヶ月で膨張量が0.1%を超えている
。一方、これと同じ骨材を使用した本発明の構成に相当する耐硫酸性コンクリートの場合
には、3ヶ月経っても膨張量は殆ど生じておらず、アルカリ骨材反応が殆ど起こらないこ
とが分かる。
【0061】
(凍結融解抵抗性能)
次に、本発明のコンクリート用組成物の凍結融解抵抗性能について、図8を用いて説明
する。図8は、凍結融解抵抗試験における相対動弾性係数の変化を示したグラフである。
図8に示すように、本発明のコンクリートは、AEコンクリートのように空気量を多く混
入しなくとも、凍結融解作用を担保できることが分かる。
【0062】
[本発明の作用及び効果に関する詳細な実験について]
次に、本発明のモルタル又はコンクリート用組成物の作用及び効果について、図9〜図
23を用いて更に詳細に説明する。
【0063】
まず始めに、コンクリートと硫酸との反応によって、硫酸カルシウム(石こう)が生成
される。この反応が、66℃以上で生じれば無水石こうが生成され、66℃以下であれば
二水石こうが生成される。従って、下水道等の環境下では、硫酸によって生じるコンクリ
ートの劣化は、二水石こうを伴うものである。二水石こうは、セメント中のアルミン酸三
カルシウムと反応し、エトリンガイトを生成し、コンクリートを劣化させる原因となる(
例えば、参考文献1「日本下水道事業団編著:下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術
および防食技術マニュアル、(財)下水道業務管理センター、pp.12−17、200
7.7」参照)。
【0064】
しかし、その一方で、二水石こうは、硫酸濃度が薄い場合には、コンクリートの空孔を
塞ぐ作用があり、硫酸による分解生成物の溶出を抑えたり、硫酸がコンクリート中に浸透
するのを抑える作用があり、侵食を防ぐ効果があるとも言われている(例えば、参考文献
2「水上国男:コンクリート構造物の耐久性シリーズ化学的腐食、技報堂出版、p.22
、1986.12」参照)。
【0065】
この実験は、高炉スラグ微粉末及び高炉スラグ細骨材を用いれば、モルタル及びコンク
リートの硫酸に対する抵抗性を高めることが可能であることを示したものである。硫酸と
セメント硬化体との反応で生じる二水石こうが、セメント硬化体の硫酸による侵食を抑制
する働きがあること、高炉スラグ細骨材を用いれば、モルタル及びコンクリートの健全部
の周りに剥がれ落ちにくい二水石こうの膜が形成され、耐硫酸性が向上することを以下に
示す。
【0066】
[実験概要]
(使用材料)
結合材には、普通ポルトランドセメント(密度:3.15g/cm、ブレーン値:3
300cm/g)及び高炉スラグ微粉末(密度:2.89g/cm、ブレーン値:4
150cm/g)を用いた。細骨材には、川砂(密度:2.61g/cm、吸水率:
1.96%、粗粒率:2.96)及び高炉スラグ細骨材(密度:2.77g/cm、吸
水率:0.72%、粗粒率:2.15)を用いた。粗骨材には、砂岩砕石(密度:2.7
5g/cm、吸水率:0.54%、単位容積質量:1640kg/m)、石灰岩砕石
(密度:2.71g/cm、吸水率:0.35%、単位容積質量:1590kg/m
)及び高炉徐冷スラグ粗骨材(密度:2.63g/cm、吸水率:4.71%)を用い
た。
【0067】
(硫酸浸漬試験)
硫酸浸漬試験には、φ50×100mm、φ75×150mm及びφ100×200m
mの円柱供試体を使用した。供試体は、脱型後、材齢7日まで水中養生を行い、質量パー
セント濃度で5%の硫酸に浸漬させた。7日毎に水で洗浄し、劣化した箇所を除去して質
量を測定した。また、硫酸に56日間浸漬させた供試体は、乾式カッターで切断し、フェ
ノールフタレイン溶液を噴霧し、切断面の呈色域の直径を測定した。
【0068】
[実験結果及び考察]
(セメントペーストの硫酸による劣化)
図9は、普通ポルトランドセメント及び高炉スラグ微粉末を結合材に用いたセメントペ
ーストの硫酸による質量変化を示したものである。図中の○及び●は、それぞれ、普通ポ
ルトランドセメントのみを結合材に用いた水セメント比が30%及び60%のセメントペ
ースト(以下、OPC30及びOPC60とよぶ)の結果を示している。また、図中の□
及び黒□は、それぞれ、結合材に普通ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末を質量比
で4:6の割合で混合したものを用いた水結合材比が30%及び60%のセメントペース
ト(以下、BB30及びBB60とよぶ)の結果を示している。
【0069】
図9に示すように、OPC30は、直線的に質量が減少しており、浸漬開始後56日に
は、浸漬前の質量の28.0%まで減少した。OPC60は、質量の増加と減少を繰り返
しながら、徐々に質量が減少していっている。一方、BB30では、質量が一度増加し、
その後減少している。また、BB60は、浸漬期間56日まで質量が増加し続けている。
【0070】
硫酸に56日間浸漬されたセメントペーストの断面にフェノールフタレイン溶液を噴霧
したところ、普通ポルトランドセメントのみを結合材に用いた場合、水セメント比の大き
いOPC60には、供試体の表面にフェノールフタレイン溶液によって変色しない白色の
層が確認された。一方、結合材の一部に高炉スラグ微粉末を用いたBB30及びBB60
は、いずれの水結合材比のものも、供試体の表面にフェノールフタレイン溶液によって変
色しない白色の層が形成された。白色の層が見られないOPC30に比べて、白色の層が
確認されるBB30、BB60及びOPC60の方が、硫酸による侵食深さが小さいこと
が確認された。なお、この白色の層は、二水石こうを主成分としていることがX線回折分
析により確認された。なお、図10は、白色の層を含む供試体の表面部分を拡大した断面
図である。図11は、図10の分析ライン上の元素分布をX線回折分析で調べた結果であ
る。
【0071】
次に、硫酸中でのセメントペーストの劣化を観察した結果に基づく硫酸劣化のサイクル
を図12に示す。セメントペーストを硫酸中に浸漬させると、硫酸と接する面に、二水石
こうの膜が形成される(図12(b))。やがて、二水石こうは、セメント中のアルミン
酸三カルシウムと反応しエトリンガイトを生成する(図12(c))。エトリンガイトは
、セメントペーストの健全部に近いpHの高い側では安定しているものの、供試体表面に
近いpHの低い側では、パテ状の二水石こうに変化する(図12(d))(例えば、上記
の参考文献1参照)。
【0072】
エトリンガイトと硫酸との反応で生じたパテ状の二水石こうが多くなると、供試体表面
の硬い二水石こうが健全部から剥がれ落ちる(図12(e))。ペーストの健全部の近く
に残ったエトリンガイトも、pHの低い環境にさらされることになり、パテ状の二水石こ
うに変化する(図12(f))。パテ状の二水石こうは、容易に健全部から剥がれ落ち、
健全部が硫酸に接し、新たな劣化のサイクルが始まる(図12(a))。図9中で示した
OPC60は、図12に示されるサイクルを2回繰り返したものと思われる。OPC30
は、非常に短い間隔で図12に示す劣化のサイクルを繰り返したため、質量が直線的に減
少したものと思われる。
【0073】
硫酸中に置かれた円柱供試体に対して、硫酸との劣化によって生じた二水石こうを取り
除かずに、硫酸浸漬試験を継続すると、図13の写真に示すように、二水石こうによって
覆われている部分と覆われていない部分での侵食の程度が異なる。供試体上部の直径が6
5.0mmであるのに対し、二水石こうに覆われていた供試体下部の直径は81.4mm
である。供試体を浸漬させた硫酸中のカルシウムイオン濃度を原子吸光光度計によって測
定した結果、溶液中のカルシウムイオン濃度は179mg/Lであったのに対し、二水石
こうが堆積した内部では、200mg/Lであった。二水石こうが堆積した内部では、カ
ルシウムイオン濃度が高くなっており、二水石こうが堆積していないところに比べて、コ
ンクリートからのカルシウムイオンの溶出が少なく、硫酸による侵食が抑制されたものと
考えられる。
【0074】
(モルタルの耐硫酸性)
図14の写真は、川砂を用いたモルタルを硫酸に56日間浸漬させた後、断面にフェノ
ールフタレインを噴霧した結果である。川砂を用いたモルタルでは、結合材に高炉スラグ
微粉末と普通ポルトランドセメントを用いた。水結合材比が60%のもののみ、供試体周
りに二水石こうの膜が確認できる。一方、高炉スラグ細骨材を用いたモルタルを、硫酸に
56日間浸漬させた図15の写真からは、いずれの結合材を用いた場合にも、供試体表面
に二水石こうの膜が残っていることが分かる。これらの写真に示されるように、供試体の
表面に二水石こうの膜が確認されるモルタルは、二水石こうの膜が確認できないものに比
べて、硫酸による侵食深さが小さい。
【0075】
また、BB60に川砂及び高炉スラグ細骨材を加えたモルタルの二水石こうの膜の部分
を観察したところ、高炉スラグ細骨材を用いたモルタル表面の二水石こうの膜は、川砂を
用いたモルタル表面の二水石こうの膜に比べて、緻密であることが確認された。
【0076】
図16は、これらのモルタル表面に生成された二水石こうの細孔径分布比較したもので
あるが、この図からも、高炉スラグ細骨材を用いたモルタル表面の二水石こうの膜は、川
砂を用いたモルタル表面の二水石こうの膜に比べて緻密であることが分かる。なお、細孔
径分布は、水銀圧入法により、3nmから120,000nmの範囲の細孔を測定した。
【0077】
図14及び図15の写真に示したように、硫酸浸漬期間56日後にフェノールフタレイ
ン溶液によって変色する健全部分の大きさは、川砂を用いたモルタルでは37.3mmで
あったのに対し、高炉スラグ細骨材を用いたモルタルでは44.7mmである。緻密な二
水石こうが作られる高炉スラグ細骨材を用いたモルタルの方が、川砂を用いたモルタルよ
りも、硫酸による侵食深さが小さくなるといえる。
【0078】
図17の写真は、1000℃まで加熱し結晶化させた高炉スラグ細骨材と、非晶質な一
般の高炉スラグ細骨材を、質量比で100:0(図中0%と表記)、50:50(図中5
0%と表記)及び0:100(図中100%と表記)の割合で混合した細骨材を用いたモ
ルタルを、14日間硫酸に浸漬させた後の劣化の様子を撮影したものである。この写真か
ら明らかなように、成分が同じ高炉スラグ細骨材であっても、結晶化した高炉スラグ細骨
材を用いたモルタルの表面に形成される二水石こうの膜は、剥がれやすいものであること
が分かる。なお、本実験に用いた1000℃に加熱した高炉スラグ細骨材と一般の高炉ス
ラグ細骨材のX線回折分析結果を図18に示す。1000℃に加熱することで、非晶質な
高炉スラグ細骨材が、結晶化していることが分かる。
【0079】
図19(a)及び(b)の写真は、それぞれ、川砂及び高炉スラグ細骨材を飽和水酸化
カルシウム水溶液に浸漬させる前と浸漬させた後の骨材表面を、走査型電子顕微鏡により
撮影したものである。飽和水酸化カルシウム水溶液に浸漬させた後の川砂の表面には、水
酸化カルシウムの六方晶系の板状の結晶が確認される。一方、飽和水酸化カルシウム水溶
液に浸漬させた後の高炉スラグ細骨材の表面には、C−S−H硬化体の結晶が確認されて
いる。川砂のように結晶質で反応性の低い骨材の場合には、骨材の周辺に集積する水酸化
カルシウムが硫酸との反応で生成する二水石こうは、強度的に弱いものと考えられる。
【0080】
一方、非晶質な高炉スラグ細骨材を用いれば、セメントの水和反応によって生成された
水酸化カルシウムとの反応で、高炉スラグ細骨材の表面には、C−S−H硬化体の結晶が
生成され、強度的に弱い二水石こうを形成する水酸化カルシウムが骨材周りに集積されに
くく、剥がれにくい二水石こうの膜が、モルタルと硫酸の接する面に形成されることが考
えられる。
【0081】
(コンクリートの耐硫酸性)
細骨材の全てに高炉スラグ細骨材を用いたコンクリートを、56日間硫酸に浸漬させた
後の様子を観察したところ、コンクリート表面には、エトリンガイトの膨張によると思わ
れるポップアウトや粗骨材周辺でのモルタルの剥離が確認された。川砂を細骨材に用いた
モルタルの場合と同様に、粗骨材周辺へ水酸化カルシウムが集積することによって、二水
石こうの膜の一部が破損していることが推察される。
【0082】
図20の写真は、粗骨材に砂岩砕石、石灰岩砕石及び高炉徐冷スラグ粗骨材を用いたコ
ンクリートを、硫酸に56日間浸漬させた結果を示したものである。いずれのコンクリー
トも、結合材には、高炉スラグ微粉末及び普通ポルトランドセメントを用い、細骨材には
、高炉スラグ細骨材のみを用いている。また、単位水量は175kg/m、水結合材比
は25%、セメント結合材比は40%、細骨材率は45.0%である。いずれの粗骨材を
用いたコンクリートも表面にポップアウト等の劣化が確認される。しかし、コンクリート
への硫酸の侵食深さは、浸漬期間56日で1.7mmから2.3mmと小さいものである

【0083】
また、これらのコンクリートの質量変化と、結合材に普通ポルトランドセメントを用い
、細骨材には川砂、粗骨材には砂岩砕石を用いた水セメント比が25%のコンクリートの
質量変化とを比較した結果を図21に示す。図中の○、□及び△は、それぞれ、粗骨材に
砂岩砕石、石灰岩砕石及び高炉徐冷スラグ粗骨材を用いたものの結果である。また、図中
の●は、普通ポルトランドセメントと、川砂及び砂岩砕石を用いたコンクリートの結果で
ある。細骨材の全てに高炉スラグ細骨材を用いても、結晶性の高い粗骨材を用いたコンク
リートの表面に形成される二水石こうの膜には、破損箇所が発生する。しかし、質量変化
によって判断される硫酸に対する抵抗性は、細骨材に川砂を用いたものよりも、はるかに
高いものになっている。
【0084】
図22の写真は、細骨材の全てに高炉スラグ細骨材を用いたコンクリートの硫酸劣化に
及ぼす水結合材比の影響を調べた結果である。水結合材比の小さいものほど、表面の劣化
が少ないことが分かる。また、図23は、高炉スラグ細骨材を用いたコンクリートの表面
に硫酸との反応によって生じた、二水石こうの膜の総細孔容積と水結合材比の関係を示し
たものである。なお、細孔径分布は、水銀圧入法により、3nmから120,000nm
の範囲の細孔を測定している。この図より、水結合材比が小さいものほど、総細孔容積が
小さくなっていることが分かる。すなわち、水結合材比を小さくすれば、密実な二水石こ
うが生成され、二水石こうの膜に発生する破損箇所が少なくなると考えられる。
【0085】
(実験のまとめ)
硫酸と接するモルタル及びコンクリートの表面に形成される二水石こうの膜は、硫酸に
よる侵食を抑制する効果がある。しかし、結晶性の高い骨材を用いた場合には、セメント
の水和によって生成された水酸化カルシウムが骨材周辺に集積し、強度的に弱い二水石こ
うが生成され、二水石こうの膜自身が剥がれやすくなる。これに対して、非晶質な高炉ス
ラグ細骨材を細骨材の全てに用いた場合は、緻密な二水石こうの膜を形成でき、硫酸に対
する侵食を大幅に抑制することが可能となる。細骨材の全てに高炉スラグ細骨材を用いて
も、結晶性の高い粗骨材を用いた場合には、二水石こうの膜に欠損箇所が生じる。しかし
、5%の濃度の硫酸に56日間浸漬させた結果からは、細骨材の全てに高炉スラグ細骨材
を用いれば、川砂を用いたコンクリートに比べて、著しく硫酸に対して高い抵抗性を持っ
たコンクリートを製造することが可能である。
【0086】
[浸漬期間×硫酸濃度に対する侵食深さ等の特性について]
次に、浸漬期間×硫酸濃度に対する侵食深さ等の特性について、図24〜図26を用い
て説明する。
【0087】
(侵食深さ)
図24は、浸漬期間×硫酸濃度に対するモルタルの侵食深さの変化を示したグラフであ
る。図25は、浸漬期間×硫酸濃度に対するコンクリートの侵食深さの変化を示したグラ
フである。普通モルタル、本発明の構成に相当する耐硫酸性水和固化体モルタル、普通コ
ンクリート及び本発明の構成に相当する耐硫酸性水和固化体の侵食深さの測定結果につい
て表13にまとめて示す。
【0088】
【表13】

【0089】
図24に示すように、硫酸による侵食深さは、耐硫酸性水和固化体モルタルの場合、普
通モルタルに比べて小さく、7倍ほどの耐硫酸性があることが分かる。また、図25に示
すように、耐硫酸性水和固化体の場合、普通コンクリートに比べて6倍ほどの耐硫酸性が
あることが分かる。
【0090】
(従来技術との比較)
図26は、浸漬期間に対するコンクリートの相対質量の変化を比較したグラフである。
この図には、本発明の構成に相当する耐硫酸性水和固化体と、比較対象としての普通コン
クリートと、従来技術(上記の特許文献1に示された試験番号9)の結果が示してある。
表14に相対質量(%)を、表15に配合を示す。図26に示すように、本発明の耐硫酸
性水和固化体の相対質量は、普通コンクリートや従来技術のように硫酸浸漬期間の経過に
従って低下することがなく、普通コンクリートや従来技術に比べて耐硫酸性に優れている
ことが分かる。
【0091】
【表14】

【0092】
【表15】

【0093】
[二水石こうの膜を形成する骨材の判定試験]
次に、高炉スラグ細骨材が、硫酸浸漬時に二水石こうの膜を形成する作用を十分に発揮
し得る高炉スラグ細骨材(A)であるか否かを判定するための試験(二水石こうの膜を形
成する骨材の判定試験)について説明する。
【0094】
この試験の手順としては、まず、試料(細骨材)を0.3〜0.6mm粒子にふるい分
け、0.20gずつ4つ量り、各試料を試験管(φ12×120mm)に入れる。そして
、試料を入れた試験管に質量パーセント濃度5%の硫酸溶液4mlをそれぞれ加える。続
いて、15分、30分、45分、60分間それぞれ浸漬し、各浸漬時間経過後、漏斗にセ
ットしたろ紙(5B)上に試料を取り出し、蒸留水で8回洗浄する。洗浄終了後、アルミ
製容器にろ紙ごと試料を移し、50℃の真空乾燥機で12時間乾燥させる。乾燥後、試料
の形を崩さずに、蛍光X線分析により硫黄の含有量を測定する。
【0095】
この測定の結果、十分な硫黄の含有量が認められれば、その試料は、硫酸浸漬時に二水
石こうの膜を形成する作用を十分に発揮し得る高炉スラグ細骨材(A)であると判定する
ことができ、本発明のモルタル又はコンクリート用組成物用の高炉スラグ細骨材(A)と
して用いることが可能である。
【0096】
次に、この「二水石こうの膜を形成する骨材の判定試験」による高炉スラグ細骨材、下
水汚泥溶融スラグ及び銅スラグの試験結果の一例について説明する。
【0097】
(高炉スラグ細骨材)
図18に示すようなX線強度分布を有する非晶質な高炉スラグ細骨材と、結晶化した高
炉スラグ細骨材とを用いて、「二水石こうの膜を形成する骨材の判定試験」を行った結果
を示したものが図27及び表16である。測定された硫黄の吸着量をX線強度で示してい
る。図27及び表16に示すように、非晶質な高炉スラグ細骨材は硫黄の吸着量が多い。
一方、結晶化した高炉スラグ細骨材は、硫酸浸漬時間の経過とともに硫黄の吸着量が多く
なっていくことが分かる。
【0098】
【表16】

【0099】
図28は、結晶化させた高炉スラグ細骨材の割合を変更して得られたモルタルの相対質
量の経時変化を示したグラフである。濃度5%の硫酸に浸漬させたものである。相対質量
の測定結果(結晶化させた高炉スラグ細骨材の割合が0%と100%の場合)を表17に
示す。図29は、結晶化させた高炉スラグ細骨材の割合(α)を変更して得られたモルタ
ルの硫酸浸漬後(浸漬期間28日)の断面を示した写真である。図28及び図29に示す
ように、結晶化させた高炉スラグ細骨材の割合(α)が高いモルタルほど相対質量の減少
率は大きく、割合(α)が低いモルタルほど相対質量の減少率は小さく、耐硫酸性に優れ
ていることが分かる。
【0100】
【表17】

【0101】
(種々の高炉スラグ細骨材)
一般に入手可能な製品、摩砕処理前の原料、土工用の3つの高炉スラグ細骨材について
、「二水石こうの膜を形成する骨材の判定試験」を行った結果が図30及び表18である
。測定された硫黄の吸着量をX線強度で示している。なお、上記において、「原料」と「
製品」の違いは、摩砕処理(ガラスのとげを取り除く処理)が行われているか否かであり
、反応性の活性化などは行われていない。また、「土工用」は、「製品」や「原料」に比
べて塩基度の著しく低いものである。
【0102】
【表18】

【0103】
図31は、種々の高炉スラグ細骨材を用いたモルタルの相対質量の経時変化を示したグ
ラフである。濃度5%の硫酸に浸漬させたものである。相対質量の測定結果を表19に示
す。また、図32は、種々の高炉スラグ細骨材を用いたモルタルの硫酸浸漬後(浸漬期間
56日)の断面を示した写真である。図30〜図32に示すように、「二水石こうの膜を
形成する骨材の判定試験」で硫黄の吸着が確認されている骨材は、塩基度および摩砕処理
の有無に関係なく、二水石こうを形成し、耐硫酸性を向上させることが分かる。
【0104】
【表19】

【0105】
(下水汚泥溶融スラグ及び銅スラグ)
図33は、下水汚泥溶融スラグ及び銅スラグのX線回折分析結果を示したグラフである
。図33に示すように、下水汚泥溶融スラグ、銅スラグいずれも非晶質な骨材ということ
ができる。これらの骨材について、「二水石こうの膜を形成する骨材の判定試験」を行っ
た結果が図34及び表20である。測定された硫黄の吸着量をX線強度で示している。図
34及び表20に示すように、下水汚泥溶融スラグ、銅スラグいずれも硫黄の吸着は見ら
れない。
【0106】
【表20】

【0107】
図35は、この下水汚泥溶融スラグを用いたモルタルの相対質量の経時変化を示したグ
ラフである。図35に示すように、濃度5%の硫酸浸漬によって相対質量は経時的に減少
することが分かる。これらの結果から、非晶質な骨材であっても「二水石こうの膜を形成
する骨材の判定試験」において硫黄の吸着が確認されない骨材には、二水石こうの膜は形
成されない、ということができる。
【0108】
[水結合材比(W/D)に対する相対質量の変化特性について]
図36は、水結合材比(W/D)に対する相対質量の変化の一例を示したグラフであり
、(a)は普通コンクリート、(b)は本発明のコンクリートのグラフである。図36に
示すように、普通コンクリートではW/Dが変わると相対質量は大きく変化する。一方、
本発明のコンクリートではW/Dが変わっても相対質量はあまり変化しないことが分かる


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグ細骨材(A)、並びに高炉スラグ微粉末(B)及びポルトランドセメント(
C)を含む結合材(D)を含有するモルタル又はコンクリート用組成物であって、高炉ス
ラグ細骨材(A)は非晶質であり、高炉スラグ微粉末(B)の比表面積がブレーン値で2
500〜7000cm/gであり、かつ、結合材(D)に対するポルトランドセメント
(C)の質量比(C/D)が0.3〜0.9であることを特徴とするモルタル又はコンク
リート用組成物。
【請求項2】
結合材(D)100質量部に対して、高炉スラグ細骨材(A)を50〜1000質量部
を含むことを特徴とする請求項1に記載のモルタル又はコンクリート用組成物。
【請求項3】
ポルトランドセメント(C)が普通ポルトランドセメントであることを特徴とする請求
項1又は2に記載のモルタル又はコンクリート用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のモルタル又はコンクリート用組成物を成形してな
る成形品。
【請求項5】
硫酸に接することで表面に二水石こう層が形成されてなることを特徴とする請求項4に
記載の成形品。
【請求項6】
下水道配管として用いられることを特徴とする請求項4又は5に記載の成形品。
【請求項7】
海洋構造物として用いられることを特徴とする請求項4又は5に記載の成形品。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のモルタル又はコンクリート用組成物を用いてモル
タル表面又はコンクリート表面を補修するモルタル又はコンクリートの補修方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図16】
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【図18】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図30】
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【図31】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図29】
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【図32】
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【公開番号】特開2010−1208(P2010−1208A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120407(P2009−120407)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(508149021)
【出願人】(000211237)ランデス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】