説明

モルタル組成物及び法面保護工法

【課題】硬化後の強度及び耐久性が強いモルタル組成物とする。
【解決手段】セメント396〜470質量部、珪砂1187〜1409質量部、フライアッシュ79.1〜94.0質量部、高性能AE減水剤3〜3.5質量部、ダレ低減剤4.0〜4.7質量部、有機高分子系のポリマー混和剤79.1〜94.0質量部、消泡剤0.24〜0.28質量部、水117.4〜139.4質量部を含有させ、空気量を5〜20容量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル組成物及び法面保護工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、セメント、細骨材及び水を含有するモルタル組成物は、さまざまな技術分野において、具体的には、例えば、法面(斜面)の保護(安定化)を図るための吹付工、法枠工等において、利用されている。
この利用に供されるモルタル組成物としては、例えば、セメント及び細骨材を約1:4の割合で含有させ、これに水等を混合した、いわゆる1:4モルタルと呼ばれるものが、市販化されている。また、このモルタル組成物の改良形態として、以下のようなモルタル組成物も提案されている。
【0003】
「耐酸性・耐オゾン性を有し、上下水道管の被覆材や高度浄水処理施設における処理槽の被覆材として好適なモルタル組成物」として提案されたもので、「セメント、シリカヒューム、高炉水砕スラグ、フライアッシュ及び膨張材を含む結合材組成物に、3〜8号珪砂からなる細骨材を配合してなるモルタル組成物であって、結合材組成物中にセメントを40〜50重量%含み、細骨材/結合材組成物(重量比)が2.05〜2.15とされた」モルタル組成物がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、「コンクリート構造物を補強・補修するためのモルタル組成物」として提案されたもので、「ポルトランドセメント100重量部、珪砂50〜300重量部、再乳化粉末樹脂5〜30重量部、粉末分散剤0.03〜3.0重量部及び消泡剤0.03〜3.0重量部を含有し、ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントからなる」モルタル組成物もある(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
さらに、「ビル等の躯体にタイルや塗料を施工する際に、前処理として行なわれる下地調整用のモルタル組成物」として提案されたもので、「普通又は早強ポルトランドセメント100重量部、珪砂50〜200重量部、再乳化性粉末樹脂5〜20重量部及び2重量%の水溶液の粘度が10000〜50000センチポイズであり、粘度比が0.02以下であるセルローズ誘導体0.1〜0.5重量部を含有する」モルタル組成物もある(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
さらに、「法面の保護(安定化)に最適なモルタル組成物」として提案されたもので、「セメント及び砂を1:2.7〜1:4.0の割合で含有し、ホルマイト系鉱物の解砕物を対セメント重量比で0.5〜5.0%の割合で含有し、減水剤を対セメント重量比で0.5〜5.0%の割合で含有し、水/セメント比が40〜70%とされ、スランプ値が8〜29cmとされた」モルタル組成物もある(例えば、特許文献4参照。)。
【0007】
このようにモルタル組成物としては、さまざまなものが提案されているものの、更なる改良も望まれている。
すなわち、まず、いずれの利用分野においても、(1)硬化後の強度が強いこと、(2)耐久性が強く、例えば、クッラクが発生しにくいこと、が望まれている。また、特に、法面保護(安定化)の利用分野においては、法面を金網等のネットで覆い、このネットの上からモルタル組成物を吹き付けることがあるため(例えば、特許文献5、特許文献6参照。)、(3)この吹付けによって形成されるモルタルと当該ネットとの接着性が強いこと、が望まれている。
【特許文献1】特開2007−84420号公報
【特許文献2】特開2006−44949号公報
【特許文献3】特開平6−24820号公報
【特許文献4】特開平6−264449号公報
【特許文献5】特開2002−013146号公報
【特許文献6】特開2004−059787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする主たる課題は、硬化後の強度及び耐久性が強いモルタル組成物及び法面保護に優れる法面保護工法を提供することにある。また、本発明が解決しようとする別の主たる課題は、接着性が強いモルタル組成物及び法面保護に優れる法面保護工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
セメント396〜470質量部、細骨材1187〜1409質量部、フライアッシュ79.1〜94.0質量部、高性能AE減水剤3〜3.5質量部、ダレ低減剤4.0〜4.7質量部、有機高分子系のポリマー混和剤79.1〜94.0質量部、消泡剤0.24〜0.28質量部、水117.4〜139.4質量部を含有し、
空気量が5〜20容量%である、ことを特徴とするモルタル組成物。
【0010】
〔請求項2記載の発明〕
前記細骨材として珪砂が使用され、この珪砂は、以下の粒度分布とされている、請求項1記載のモルタル組成物。
(粒度分布)
4.75mm以下、2.36mm超:1.0〜10.3質量%
2.36mm以下、1.18mm超:13.3〜39.1質量%
1.18mm以下、0.6mm超:23.6〜30.4質量%
0.6mm以下、0.3mm超:13.7〜30.6質量%
0.3mm以下、0.15mm超:7.3〜18.5質量%
0.15mm以下、0.075mm超:3.7〜8.5質量%
0.075mm以下:0.6〜1.3質量%
【0011】
〔請求項3記載の発明〕
法面をネットで覆い、この上から請求項1又は請求項2記載のモルタル組成物を吹き付ける、ことを特徴とする法面保護工法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、硬化後の強度及び耐久性並びに接着性が強いモルタル組成物及び法面保護に優れる法面保護工法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
本形態のモルタル組成物は、セメント396〜470質量部(好ましくは440〜450質量部)、細骨材1187〜1409質量部(好ましくは1330〜1340質量部)、フライアッシュ79.1〜94.0質量部(好ましくは85.0〜90.0質量部)、高性能AE減水剤3〜3.5質量部(好ましくは3.3〜3.4質量部)、ダレ低減剤4.0〜4.7質量部(好ましくは4.4〜4.5質量部)、有機高分子系のポリマー混和剤79.1〜94.0質量部(好ましくは85.0〜90.0質量部)、消泡剤0.24〜0.28質量部(好ましくは0.20〜0.27質量部)、水117.4〜139.4質量部(好ましくは130.0〜135.0質量部)を含有し、空気量が5〜20容量%(好ましくは8〜12容量%)とされている。
【0014】
これにより、本形態のモルタル組成物は、硬化後の強度及び耐久性並びに接着性が強くなる。したがって、法面保護用として利用した場合は、法面保護に優れることになる。この効果は、セメント、細骨材、フライアッシュ、高性能AE減水剤、ダレ低減剤、有機高分子系のポリマー混和剤、消泡剤、水及び空気の、いずれが当該数値範囲から外れても得られなくなる。具体的には、以下の理由からである。
【0015】
まず、セメント及び細骨材の含有割合は、モルタル組成物が硬化してできるモルタル(以下、単に「モルタル」という。)の圧縮強さに影響する。セメントに対する細骨材の含有割合が多いと、圧縮強さが低下する。他方、セメントに対する細骨材の含有割合が少ないと、コンシステンシーの低下によりポンプ圧送が困難となり、W/C(水セメント比)を上げる必要があるが、W/Cを上げると圧縮強度が低下する。セメントに対する細骨材の含有割合は、2.5〜3.6、好ましくは3.0〜3.3である。
【0016】
次に、フライアッシュの含有割合は、モルタルの引張接着強さに影響する。フライアッシュの含有割合が少ないと、モルタルの引張接着強さが低下する。他方、フライアッシュの含有割合が多いと、コンシステンシーの低下によりポンプ圧送が困難となり、W/Cを上げる必要があるが、W/Cを上げると圧縮強度が低下する。
【0017】
さらに、本形態のモルタル組成物は、JIS A 1101:2005に基づいて測定されるスランプ値が22.5±2.5cmのコンシステンシー(consistency)に調節されるのが望ましいところ、高性能AE減水剤の含有割合が少ないと、当該コンシステンシーを確保するために水を多く含有させる必要が生じ、圧縮強さが低下する。他方、高性能AE減水剤の含有割合が多いと、高スランプとなり施工性が悪くなる。
【0018】
ダレ低減剤の含有割合は、モルタル組成物の粘性に影響する。ダレ低減剤の含有割合が少ないと、粘性が低くなり、モルタル組成物を吹き付けたときにダレが生じる。他方、ダレ低減剤の含有割合が多いと、粘性が高くなり、ポンプ等による圧送が困難になる。
【0019】
有機高分子系のポリマー混和剤の含有割合が少ないと、モルタルの引張接着強さ及び接着耐久性が低下する。他方、有機高分子系のポリマー混和剤の含有割合が多いと、空気量が多くなり、結果として圧縮強度が低下する。
【0020】
消泡剤の含有割合が少ないと、空気容量が増加し、密度が低下するため、モルタルの圧縮強さが低下する。他方、消泡剤の含有割合が多いと、空気容量が低下し、コンシステンシーが低下し、ポンプ圧送が困難となる。
【0021】
空気の容量割合が多いと、密度が低下するため、モルタルの圧縮強さが低下する。他方、空気の容量割合が少ないと、コンシステンシーが低下し、ポンプ圧送が困難となる。
【0022】
以上のように、本形態のモルタル組成物は、例えば、細骨材の含有割合を多くすると高性能AE減水剤や水も多くする必要が生じ、結果、高性能AE減水剤や水を多くすることによる問題が生じ、また、例えば、有機高分子系のポリマー混和剤を多くすると、水を少なくする必要が生じ、結果、水を少なくすることによる問題が生じる、というように、各種原材料のいずれかが当該数値範囲から外れても、硬化後の強度及び耐久性並びに接着性が強いとの作用効果が得られなくなる。
【0023】
本形態のモルタル組成物の原材料となるセメントの種類は、特に限定されない。例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメントのほか、アルミナセメント、超速硬セメント、膨張セメント、耐硫酸塩セメント、油井セメント、コロイドセメント等のなかから、一種又は数種を適宜選択して、使用することができる。ただし、初期強度の確保やクラック防止という観点からは、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントの含有割合を多くするのが好ましい。ただし、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントの含有割合を多くしすぎると、耐酸性・耐オゾン性が悪くなるので、注意を要する。
【0024】
本形態のモルタル組成物の原材料となる細骨材の種類、粒度等は、特に限定されない。ただし、一般に、細骨材としては自然砂を使用するのが好ましいとされており、本発明者らもそのことを知見している。しかしながら、自然砂は、採取する場所によって性質が異なるため、細骨材として自然砂を使用すると、モルタル組成物の性質も若干変化し、例えば、吹付け時のダレ等に影響が及ぶ。そこで、本発明者らは、経験則上好ましいことを知見している鬼怒川砂等の自然砂の粒度分布に着目し、細骨材として珪砂を使用しつつ、この珪砂の粒度分布を以下のとおりとすると、吹付け時のダレが生じず、好ましいことを知見した。
【0025】
(粒度分布)
4.75mm以下、2.36mm超:1.0〜10.3質量%
2.36mm以下、1.18mm超:13.3〜39.1質量%
1.18mm以下、0.6mm超:23.6〜30.4質量%
0.6mm以下、0.3mm超:13.7〜30.6質量%
0.3mm以下、0.15mm超:7.3〜18.5質量%
0.15mm以下、0.075mm超:3.7〜8.5質量%
0.075mm以下:0.6〜1.3質量%
【0026】
珪砂をこの粒度分布とするためには、例えば、表1に示す(a)〜(h)の珪砂を、1〜11質量%(好ましくは5〜7質量%):7〜23質量%(好ましくは14〜16質量%):11〜27質量%(好ましくは18〜20質量%):14〜30質量%(好ましくは21〜23質量%):12〜28質量%(好ましくは19〜21質量%):5〜12質量%(好ましくは7〜9質量%):3〜9質量%(好ましくは4〜6質量%):3〜6質量%(好ましくは4〜6質量%)の割合で配合するとよい。
なお、粒度が大きくなると配合割合が少なくなり、粒度分布を整えにくくなるが、9.5mm以下、4.75mm超の珪砂が0質量%となるようにすると、粒度分布を所望の値に整えることができる。
【0027】
【表1】

【0028】
本形態のモルタル組成物の原材料となるフライアッシュの種類は、特に限定されない。通常のフライアッシュ、例えば、火力発電所等の微粉炭燃焼ボイラーから出る排ガス中に含まれている灰の微粉粒子をコットレル集じん機等によって捕集した、平均粒径が20〜30μmのポゾラン反応を生じる灰色の粒子等を使用することができる。
【0029】
本形態のモルタル組成物の原材料となる高性能AE減水剤の種類も、特に限定されない。高性能AE減水剤としては、例えば、ポリエーテル系の高性能AE減水剤、ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤、ナフタリン系の高性能AE減水剤、アミノスルホン酸系の高性能AE減水剤等のなかから一種又は数種を適宜選択して使用することができる。市販化されている高性能AE減水剤としては、例えば、花王株式会社製の「マイティ2000WH」、株式会社エヌエムビー社製の「レオビルドSP8N」シリーズ、株式会社フローリック社製の「フローリックSF500HU、フローリックSF500S、フローリックSV10」、竹本油脂株式会社製の「チュポールHP8,11」シリーズ、グレースケミカルズ株式会社製の「ダーレックススーパー100,200,300,1000」シリーズ等を例示することができる。このほか、高性能AE減水剤については、例えば、特開昭62−68806号公報、特開平1−113419号公報、特開平7−53645号公報、特開平8−208769号公報、特開平8−208770号公報等を参考にすることができる。
【0030】
本形態のモルタル組成物の原材料となるダレ低減剤の種類も、特に限定されない。ダレ低減剤としては、チキソトロピーの性質を持つ材料で、例えば、アパタルジャイト、セピオライト、ベントナイト等のなかから一種又は数種を適宜選択して使用することができる。
【0031】
本形態のモルタル組成物の原材料となる有機高分子系のポリマー混和剤の種類も、特に限定されない。有機高分子系のポリマー混和剤としては、例えば、エチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、エポキシ、アスファルト等のなかから一種又は数種を適宜選択して使用することができる。
【0032】
本形態のモルタル組成物の原材料となる消泡剤の種類も、特に限定されない。消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン系消泡剤、ステアリン酸等の脂肪酸系消泡剤、オクチルアルコール等のアルコール系消泡剤、ノニオン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、等の合成物質や、ごま油等の油脂系消泡剤等の植物由来の天然物質等のなかから一種又は数種を適宜選択して使用することができる。
【0033】
以上のほか、本形態のモルタル組成物には、本発明による作用効果が得られる範囲で、例えば、無収縮剤として、例えば、GAD−2000、Uグラウト、デンカタスコン、太平洋ユーロックス等のなかから一種又は数種を適宜選択して添加することができる。
【0034】
また、本形態のモルタル組成物には、急結剤を添加することもできる。この急結剤の種類も、特に限定されず、例えば、QP−500LS、メイコSA160、メイコSA161、太平洋ショットマスター、デンカナトミックType−5等のなかから一種又は数種を適宜選択して添加することができる。
【0035】
さらに、本形態のモルタル組成物には、増粘剤を添加することもできる。この増粘剤の種類も、特に限定されず、例えば、アクリル系増粘剤、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のなかから一種又は数種を適宜選択して添加することができる。
【0036】
本形態において、各種原材料の混合方法等は、特に限定されない。各種原材料の混合は、例えば、セメント、珪砂等の細骨材、フライアッシュ、ダレ低減剤をミキサー等に投入して空練りし、あるいは、これらの原材料をプレミックス化してからミキサー等に投入し、他方、水と高性能AE減水剤及び消泡剤とを混ぜておき、これに有機高分子系のポリマー混和剤を添加して練り混ぜ、その後、当該ミキサー等に投入して混合すること等ができる。
【0037】
ところで、本形態のモルタル組成物は、その用途が特に限定されず、さまざまな分野において利用することができる(ただし、有用性の程度は利用分野ごとに異なり、法面保護の分野における利用が最も有用である。)。以下、具体例を挙げる。
【0038】
〔吹付工等における利用〕
本形態のモルタル組成物は、吹付工等において、利用することができる。ここで、吹付工とは、切土・盛土等の法面(斜面)の保護(安定化)を図るために、法面表面にモルタル組成物を吹き付けて、法面表面をモルタル層で被覆する工法である(例えば、特公昭62−56289号公報、特開2002−013146号公報、特開2004−059787号公報参照)。
当該モルタル層を補修・補強するために、当該モルタル層にモルタル組成物を吹き付ける形態で、本形態のモルタル組成物が利用されることもある(例えば、特開2005−036579号公報参照)。
【0039】
〔法枠工における利用〕
本形態のモルタル組成物は、法枠工において、利用することができる。ここで、法枠工とは、法面に鉄筋及びクリンプ金網、溶接金網、エキスパンドメタル、耐水性ダンボール等からなる各種型枠を配設し、当該型枠内にモルタル組成物を吹き付け(吹付け枠工。例えば、特開平06−108470号公報、特開平06−264449号公報参照。)、あるいは、ポンプを使用して打設する(現場打ち枠工。例えば、特開平09−279589号公報参照。)工法であり、フリーフレーム工法等と呼ばれることもある。法枠工も、切土・盛土等の法面(斜面)の保護(安定化)を図るための工法である。
法枠工は、各種型枠の断面形状を変える等して、例えば、各モルタル枠で囲まれた領域の法面を土壌(緑化基盤材)で覆って法面の緑化を図る緑化基礎工(例えば、特開2004−068511号公報参照。)や、表層崩壊の抑止工、グラウンドアンカーの受圧板としての利用、等のさまざまな用途に、応用されることもある。また、現在では、モルタル組成物が吹き付けられる型枠が、例えば、弾性筒状網状体に改良された形態や(例えば、特開平8−105053公報参照。)、モルタル組成物に熱可塑性樹脂繊維が配合された形態(例えば、特開2005−282075号公報参照。)等も提案されている。
なお、吹付け枠工と現場打ち枠工とは、用途がほぼ同じであるが、現場打ち枠工の方か比較的高品質な枠を造成できるとの特徴を有し、他方、吹付け枠工の方が小断面枠の施工が容易であり、基礎工を要しないとの特徴を有する。
【0040】
〔トンネル工事における利用〕
トンネルを造成するために地山を削孔した場合において、露出した地山の崩落を防止するために、当該露出面に本形態のモルタル組成物を吹き付けることができる(例えば、特開平09−255387号公報、特開平09−255390号公報、特開平09−256791号公報、特開2004−155654号公報、特開2006−290739号公報参照。)。
【0041】
〔構造物の外壁パネル等製造のための利用〕
構造物の外壁等に使用されるパネルを製造するために、成形型枠に本形態のモルタル組成物を吹き付けることができる(例えば、特開2005−041195号公報参照。)。
【0042】
〔構造物の補修・補強における使用〕
建物、トンネル、ダム、高速道路等に存在する壁面の仕上げ処理・補修・補強のために、当該壁面に本形態のモルタル組成物を吹き付けることができる(例えば、特開2002−322816号公報、特開2003−253891号公報、特開2003−306369号公報、特開2003−306370号公報、特開2004−292248号公報、特開2005−047755号公報、特開2005−082432号公報、特開2005−097881号公報、特開2005−097882号公報、特開2005−104826号公報、特開2006−069833号公報、特開2006−169042号公報、特開2006−290654号公報参照。)。
【0043】
〔その他〕
前述したように、本形態において、各種原材料の混合方法等は、特に限定されず、例えば、本形態のモルタル組成物を吹き付ける場合においては、湿式吹付工法及び乾式吹付工法のいずれをも採用することができる。ただし、本形態のモルタル組成物は、湿式吹付工法を採用する方が好ましい。湿式吹付工法によると、各種材料が十分に混ざり、本発明による作用効果がより確実に得られるためである。
ここで、湿式吹付工法とは、あらかじめセメント、細骨材等を水と混合し、この混合物(モルタル組成物)を圧縮空気に乗せてホース内を圧送して、先端の吹付ノズルから法面等の対象面に吹き付ける工法である(例えば、特開平06−167108号公報参照)。また、乾式吹付工法とは、セメント、細骨材等を混合し、この混合物を圧縮空気に乗せてホース内を圧送して、先端の吹付ノズル部分で別系統から圧送した水と合流させ、この合流物(モルタル組成物)を吹付ノズル先端から法面等の対象面に吹き付ける工法である(例えば、特開平06−336835号公報、特開2004−292248号公報、特開2006−283335号公報参照。)。
さらに、これら湿式吹付工法や乾式吹付工法の改良形態、例えば、セメントと細骨材とを別々に圧送するものとし、かつモルタル組成物を構成する水の一部は当該細骨材に添加して圧送する形態(例えば、特開2001−248164号公報、特開2003−328367号公報参照。)において、本形態のモルタル組成物を利用することもできる。
【実施例1】
【0044】
次に、本発明の実施例を説明する。
本発明によるモルタル組成物と従来のモルタル組成物との差異を明らかにするために、以下に示す各種試験を行った。本発明によるモルタル組成物(試験例1)及び従来のモルタル組成物(比較例1〜3)の、各種原材料の含有割合等は、表2に示した。なお、表中のポリマー混和剤は、水分率が50%となるように有機高分子系のポリマー混和剤と水とを混合した状態での質量部である。
【0045】
【表2】

【0046】
試験例1及び比較例1〜3の珪砂としては、表1に示す(a)〜(h)の珪砂が、6質量%:15質量%:19質量%:22質量%:20質量%:8質量%:5質量%:5質量%の割合で配合された珪砂を使用した。
また、高性能AE減水剤としては、花王株式会社製の「マイティ2000WH」を使用した。さらに、ダレ低減剤としては昭和KDE株式会社製の「RSA剤」を、有機高分子系のポリマー混和剤としては昭和高分子株式会社製の「RRB樹脂剤」を、それぞれ使用した。
【0047】
〔圧縮強さ試験〕
JIS R 5201:1997・付属書1に規定された「9.3 圧縮強さ試験」に基づいて、試験を行った。具体的には、曲げ強さ試験後の二つ折れ片を試験片として用いた。そして、この試験片を、荷重用加圧板にセットした後、4×4×4cm立方体寸法で圧縮試験器を用いて測定した。
【0048】
〔曲げ強さ試験〕
JIS R 5201:1997・付属書1に規定された「9.2 曲げ強さ試験」に基づいて、試験を行った。具体的には、まず、モルタル組成物を三連型枠(4×4×16cmが3つ)に2層詰めで成型して静置した。その後、5時間以上経過してから、ストレートエッジで供試体を傷つけないように上面を削り、型枠上面にそろえて平滑にした。成型後24時間程度経過してから脱型作業を行い、7日間水中養生し、その後、材齢28日まで気中養生を行った。この養生を経た供試体について、ミハエリス二重てこ型曲げ試験機を用いて曲げ強さ試験を行った。
【0049】
〔接着強さ試験〕
JIS A 1171:2000に規定された「7.3 接着強さ試験」に基づいて、試験を行った。具体的には、まず、30cm程度の表面が平滑で良く清掃した岩片を用意した。そして、当該岩片の上に木枠で型枠を作製し(長さ30cm程度、幅4cm、高さ1cm)、その中にモルタル組成物を敷き詰めて養生期間(28日)終了の1日以上前に、供試体が4×4cmになるように切れ込みを入れ、引張用アタッチメントにエポキシ系の接着剤を塗布し、供試体に貼り付けた。当該接着剤が固まってから(貼り付けてから1日以上経過させる)、建研式引張試験機を用いて引張接着強さを求めた。
【0050】
〔曲げ接着強さ試験〕
JIS R 5201:1997・付属書1に規定された「9.2 曲げ強さ試験」に基づいて、試験を行った。具体的には、まず、4×4×8cmの岩片を作製し、三連型枠(4×4×16cmが3つ)の1つにセットした。そして、その片側8cmにRRB間詰材、注入材を2層詰めで成型した。曲げ強さ試験と同様の方法で脱型、養生を行い、材齢28日でミハエリス二重てこ型曲げ試験機を用いて、曲げ接着強さを測定した。
【0051】
〔接着耐久性試験〕
JIS A 1171:2000に規定された「7.9 接着耐久性試験」に基づいて、試験を行った。具体的には、まず、30cm程度の表面が平滑で良く清掃した岩片を用意した。そして、当該岩片の上に木枠で型枠を作製し(長さ4cm程度、幅4cm、高さ1cm)、その中にモルタル組成物を敷き詰めた。28日養生した後、基盤としている岩片と、モルタルを樹脂で密封し、水中に18時間つけた後、−20℃の冷却を3時間、50℃の加温を3時間行い、これを24時間とするサイクルを10回繰り返した。その後、引張接着強さ試験を行った。
【0052】
〔凍結溶解試験〕
JIS A 1148:2001に規定された試験方法に基づいて試験を行い、動弾性係数、質量変化率を測定した。具体的には、まず、10cm×10cm×40cmの供試体を作製し、28日養生した後、5℃〜−18℃のサイクルを300サイクル繰り返した。1サイクルに3〜4時間かけた。50サイクルおきに、質量減少率や動弾性係数を測定した。
以上、各種試験の結果は、表3に示した。
【0053】
【表3】

【0054】
〔リング試験〕
各モルタル組成物について、AASHTO(American Association of State Highway and Transportation Officials) Provisional Standards(July 2006 Edition,Number(PP 34−99(2005)),Title(Estimating the Cracking Tendency of Concrete),Page(PP 34−1))に規定されるリング試験を行った。より詳細には、各モルタル組成物を硬化させて、外径450mm、肉厚130mmのリング型の供試体を作成した。各供試体の内側は、厚さ10.3mmの鉄管で拘束した。鉄管内周面の対角線上の4箇所にひずみゲージを取り付け,ひずみを計測した。各供試体は、温度20.0±3.0℃、湿度65.0±5.0%条件下の室内で保管し、1日間隔で供試体及び鉄管のひずみを計測した。試験例1及び比較例1について、それぞれ4回試験を行った。結果を、図1に示した。
比較例1による供試体は、おおむね20日程度でクッラクが発生したのに対し、試験例1による供試体は、クッラクが発生するまで70日以上かかっており、試験例1の方が、クラックが発生しにくいことが分かる。
【0055】
〔吹付け時のロス率〕
前述した試験例1のモルタル組成物について、珪砂の配合を変化させて、吹付け時におけるロス率を測定する試験を行った。珪砂の配合及び試験結果を試験例1〜3として、表4に示した。
【0056】
【表4】

【0057】
表4から、珪砂の種類を増やした方が吹付時のロス率が小さくなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、吹付工、法枠工等におけるモルタル組成物及び法面保護工法として、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】リング試験の結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント396〜470質量部、細骨材1187〜1409質量部、フライアッシュ79.1〜94.0質量部、高性能AE減水剤3〜3.5質量部、ダレ低減剤4.0〜4.7質量部、有機高分子系のポリマー混和剤79.1〜94.0質量部、消泡剤0.24〜0.28質量部、水117.4〜139.4質量部を含有し、
空気量が5〜20容量%である、ことを特徴とするモルタル組成物。
【請求項2】
前記細骨材として珪砂が使用され、この珪砂は、以下の粒度分布とされている、請求項1記載のモルタル組成物。
(粒度分布)
4.75mm以下、2.36mm超:1.0〜10.3質量%◇
2.36mm以下、1.18mm超:13.3〜39.1質量%◇
1.18mm以下、0.6mm超:23.6〜30.4質量%◇
0.6mm以下、0.3mm超:13.7〜30.6質量%◇
0.3mm以下、0.15mm超:7.3〜18.5質量%◇
0.15mm以下、0.075mm超:3.7〜8.5質量%◇
0.075mm以下:0.6〜1.3質量%
【請求項3】
法面をネットで覆い、この上から請求項1又は請求項2記載のモルタル組成物を吹き付ける、ことを特徴とする法面保護工法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−297182(P2008−297182A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147398(P2007−147398)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】