説明

モルヒネへの心理的依存又は耐性を防止及び処置するのに有効成分としてベルベリンを含有する医薬組成物

モルヒネ中毒を防止及び処置するか又はモルヒネの鎮痛作用の耐性発現を防止及び阻害する医薬組成物であって有効成分としてベルベリンを含有してなる医薬組成物が提供され、その際ベルベリンはモルヒネの如き濫用した薬物への心理的依存及び薬物の投与による自発的な運動活性の増大に対して阻害効果を有する。本発明の医薬組成物及びオウレン(Coptis japonica)植物エキスはベルベリンを含有し、モルヒネ中毒の前記症状を抑制するのに高度に有効であり、しかもかくしてモルヒネの如き濫用した薬物の中毒の防止及び処置に有用である。更に、製薬上許容できる担体を追加的に含有する医薬組成物は、単一の投与によるモルヒネの鎮痛作用に影響を及ぼすことなく、モルヒネの反復投与によって生起されるモルヒネ耐性を防止及び抑制するのに施用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に麻薬性鎮痛剤の有害な作用を防止及び処置する医薬組成物に関する。更に詳しく言えば、本発明は有効成分としてベルベリン(berberine)を含有してなる医薬組成物に関し、その際該組成物はモルヒネへの心理的依存及びモルヒネによって誘発される自発的な運動活性の増大に対して抑制効果を有する。
【背景技術】
【0002】
薬物を濫用する人々は、生起するかもしれない何らかの悪影響にも拘わらず薬物の陶酔作用のために薬物の連続投与を強制する心理的依存を受け、薬物にはモルヒネ又はその誘導体、コカイン及びメタアンフェタミン又はその誘導体がある。
【0003】
麻薬性鎮痛剤であるモルヒネは、比較的高い投与量で用いた時あるいは低い投与量でさえも長期間反復使用した時には幻覚症及びせん妄の最も普通の症状と共に心理的な興奮作用を有する。かかる精神中毒の出現はモルヒネの反復投与によって増大されきわめて高い肉体的及び精神的な依存がかくして発現する。即ち、濫用した薬物は、中枢神経系を興奮させしかも薬物の連続消費に対する心理的渇望を増大させるという主要な特性を有する。濫用した薬物は連続投与により自発的な運動活性を増大させしかも薬物への心理的な依存を誘発する。
【0004】
濫用した薬物の連続投与はドーパミンの枯渇を生起し且つ中枢神経系におけるドーパミンの活性低下を生起する。ドーパミンの活性低下を補償するには、ドーパミンニューロンを賦活化する。即ち、シナプス後のドーパミン受容体は過敏となりしかも自発的な運動活性は増大し、薬物の連続消費に対する強い渇望が発現される。モルヒネのかかる精神活性作用に因り、モルヒネに依存する使用者は連続的に増大している。モルヒネのかかる濫用は重大な社会問題を生起するので、モルヒネ中毒を治療及び防止する薬剤の開発に緊急の必要性がある。
【0005】
韓国特許第10−0277481号は、励起アミノ酸の神経中毒作用に対する拮抗剤として役立ちしかもかくして中枢神経系における励起アミノ酸依存性の疾患、心臓血管の疾患、精神病等の処置に有用であるイサチンオキシム誘導体を開示している。然しながら、現在では、モルヒネの如き濫用した薬物によって生起される自発的運動活性の増大及び心理的依存に対して明らかな治療効率及び防止効率を有する薬剤に進展はない。即ち、濫用した薬物は自発的な運動活性の増大及び心理的依存の発現の如き有害な副作用を有することによって問題である。特に薬物の濫用及び耽溺は重大な社会問題を惹起する。
【0006】
他方、鎮痛剤は典型的には急性の疼痛を抑制又は軽減するのに用いる医薬である。麻薬性の鎮痛剤は、内臓の疼痛に対してそれらの優れた鎮痛作用に因り後期ガン患者の急性疼痛を処置するのに臨床的に用いられていた。然しながら、前記した如く、麻薬性の鎮痛剤を比較的高投与量で投与した時あるいは低投与量でさえ長期間反復投与した時には、鎮痛剤の常習的な投与及び鎮痛剤への渇望が発現してしまう。また使用者が予定量の麻薬性鎮痛剤に反復して暴露される時は、鎮痛剤耐性が迅速に発現され、鎮痛剤の鎮痛効果が低減するものである。即ち、麻薬性鎮痛剤は所望の鎮痛効果を得るためには増大した投与量で用いるべきである。麻薬性鎮痛剤のかかる増大した投与量は種々の副作用を生起し、かくしてヒトには重度に有毒である。
【0007】
麻薬性鎮痛剤の代表例として、モルヒネは今日まで開発された鎮痛剤のうちで最高の鎮痛効果があると知られている。然しながら、モルヒネの反復投与はその鎮痛効果の徐々の低減を生起し、最終的にはモルヒネの鎮痛効果に対する耐性発現を生起する。これらの理由のため、モルヒネはその用途がその優れた効能にも拘らず臨床分野に限定されている。それ故モルヒネを鎮痛剤として利用するためには反復投与による鎮痛効果の低減なしにモルヒネの初期鎮痛効果を維持することがきわめて重要である。この目的はモルヒネの耐性発現を抑制することにより達成し得る。
【0008】
モルヒネの如き麻薬性鎮痛剤の鎮痛作用に対する耐性発現を防止又は抑制する医薬組成物は韓国特許公開第1999-0036248号(出願第10-1998-0700916号)に記載されており、該特許は有効成分として2−(1−ピロリジニル)アセテートアミド誘導体を含有してなる、心理的依存の発現及び/又は麻薬性鎮痛剤の耐性発現に対して阻害作用を有する医薬組成物を記載している。然しながら、組成物の成分に関して、前記の医薬組成物はベルベリンを含有する本発明の医薬組成物とは異なる。また、ベルベリンを含有する医薬組成物は韓国特許第10-0281003号に開示されており、これは詳しく言えば有効成分としてプロトベルベリンアルカロイド化合物を含有し、抗うつ作用を有する。然しながら、抗うつ剤として用い得るこの組成物は、ベルベリンの作用によりモルヒネ耐性に対して阻害作用を有する本発明の医薬組成物とは異なる。
【特許文献1】韓国特許第10-0277481号
【特許文献2】韓国特許公開第1999-0036248号
【特許文献3】韓国特許第10-0281003号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明を導き出すのに本発明者が行なった濫用した薬物への耽溺の防止剤又は治療剤を開発する上での集中的で徹底的な研究によってオウレン(Coptis japonica)及びオウバク(Phellodendron amurense)植物の主要成分である天然産生のベルベリンは心理的依存が誘発された動物モデルにおける心理的依存に対して有意な抑制効果を有することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
それ故本発明の目的はモルヒネ中毒を防止且つ治療する医薬組成物を提供することである。
【0011】
また本発明者はモルヒネの反復投与によって生起されるモルヒネ耐性に対して抑制効果を有する医薬製剤を開発するのを試みた。この研究によってオウレン、オウバク及びヘビメギ属のベルベリス コレアーナ(Berberis koreana)植物の主要成分である天然産生のベルベリンがモルヒネ耐性に対して強い抑制効果を有することを見出した。
【0012】
それ故本発明の別の目的は、有効成分としてベルベリンを含有してなる、モルヒネ耐性の発現を防止及び抑制する医薬組成物を提供するものである。
【0013】
本発明の前記及び別の目的、特徴及び別の利点は添附図面と共に挙げた次の詳細な記載からより明白に理解されるであろう。
【0014】
図1はマイスにおいてベルベリンによって生起した、心理的依存に対するベルベリンの抑制効果を示すグラフであり;
図2はマイスにおいてベルベリンによって増大した、自発運動活性に対するベルベリンの抑制効果を示すグラフであり;
図3はモルヒネをマイスに1回投与した時モルヒネの鎮痛効果におけるベルベリンの作用を示すグラフであり;
図3はモルヒネをマイスに反復投与した時モルヒネの鎮痛効果耐性に対するベルベリンの抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明はベルベリンの新規な使用を提供し且つベルベリンを含有する医薬組成物を提供する。更に詳しく言えば、本発明は有効成分としてベルベリンを含有してなり、しかもモルヒネ中毒を防止及び治療するか又はモルヒネの鎮痛効果耐性の発現を防止及び抑制する医薬組成物を提供するものである。
【0016】
本発明の1つの要旨においては、前記の有効成分と共に製薬上許容し得る担体を含有してなり、しかもモルヒネ中毒及びモルヒネの鎮痛効果耐性の発現を防止及び抑制する医薬組成物が提供される。
【0017】
本発明の別の要旨においては、モルヒネ中毒及びモルヒネの鎮痛効果耐性の発現を防止且つ抑制する医薬組成物を製造するのにベルベリンの使用が提供される。
【0018】
本発明の医薬組成物においては、イソキノリンアルカロイド科に属する有効成分のベルベリン(7,8,13,13a−テトラジヒドロ−9,10−ジメトキシ−2,3−(メチルジオキシ)ベルビニウム)は種々の植物から抽出でき例えばオウレンの根及びオウバクの樹皮から抽出でき、これら2種の植物はメギ(Berberidaceae)科に属する。ベルベリンは羊毛、絹、皮革等を染色するのに用いていた。医薬目的に現在用いたベルベリンは抗菌作用、整腸作用及び抗潰瘍作用を有することは知られている。ベルベリンの安全な投薬量は文献に記載されており、ベルベリンはラットにおいて90mg/kg(腹腔内注射)のLD50値を有することが知られている(Tang W.及びEisenbrand G.の「植物起源の漢方(Chinese Drugs of Plant Origin)362〜371頁、Springer Verlag, Berlin, Hedelberg, New York参照)。本発明の医薬組成物で用いたベルベリンは市販されて入手できる。
【0019】
本発明の医薬組成物で有効成分として用いたベルベリンの毎日の投薬量は患者の年令、体重及び病状に応じて決定でき、典型的には20〜100mg(腹腔内注射)又は50〜400mg(経口投与)の範囲にある。またベルベリンの投薬量は当業者の経験により適当に決定し得る。ベルベリンは現在医薬として用いられしかも典型的な投薬量で体内に投与した時毒性をめったに有しないことが知られている。それ故、有効量のベルベリンを含有してなり、モルヒネ中毒及びモルヒネの鎮痛作用耐性の発現を防止及び抑制する医薬組成物は、ヒトに対する有害な副作用を有しない故に安全であることが当業者には了解されるであろう。
【0020】
本発明においては、麻薬性の鎮痛剤は本明細書の前記部分にはモルヒネのみにより例示されている。然しながら、麻薬性鎮痛剤耐性が単一の投与により又は短期間又は長期間の反復投与により誘発されるならば、麻薬性鎮痛剤はモルヒネに限定されない。麻薬性鎮痛剤の例にはこれに限定されないが、アヘンから誘導したモルヒネ及びその半合成誘導体及びモルヒネ様作用を有する非天然化合物例えばペチジン及びその塩がある。より詳しく言えば、麻薬性鎮痛剤はアヘンから誘導されるアルカロイド及びそれらの半合成誘導体例えばフェナントレン(例えばモルヒネ、オキシモルホン、ハイドロモルホン、コデイン、ハイドロコデイン、ヘロイン、テバイン及びブプレノルフィン);フェニルピペリジン(例えばメペリジン及びフェンタニル);フェニルヘプチルアミン(例えばメタドン及びプロポキシルフェン);モルフィナン(例えばレボルファノール、メトルファン及びレボルファン);及びベンゾモルファン(例えばフェナゾシン及びペンタゾシン)によって例証される。
【0021】
ベルベリンを含有する本発明の医薬組成物はその処方に応じて技術的に普通用いる製薬上許容し得る担体を更に含有できる。より詳しくは、ベルベリンを含有する本発明の医薬組成物は経口製剤の形で又は注射製剤の形で投与できる。経口製剤の例には錠剤及びゼラチンカプセルがある。有効成分に加えて経口製剤は希釈剤(例えばラクトース、デキストロース、サクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース及び/又はグリシン)及び潤滑剤(例えばシリカ、タルク、ステアリン酸及びそれのマグネシウム塩又はカルシウム塩及び/又はポリエチレングリコール)を含有できる。好ましくは、錠剤は更に結合剤(例えばケイ酸マグネシウムアルミニウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ナトリウム カルボキシメチルセルロース及び/又はポリビニルピロリジン)を含有でき、しかも所望ならば崩壊剤(例えばデンプン、寒天、アルギン酸又はそのナトリウム塩又はそれらの混合物)及び/又は吸収剤、着色剤、芳香剤及び甘味剤を更に含有できる。注射製剤は等張溶液又は懸濁液であり得るのが好ましく、しかも殺菌できあるいは助剤(例えば防腐剤、安定剤、湿潤剤又は乳化剤、浸透圧調節用の塩及び/又は緩衝剤)を含有できる。更には、組成物は他の治療上有用な物質を含有できる。
【0022】
本発明の医薬組成物の有効成分としてベルベリンは、単一投与によるモルヒネの鎮痛作用には影響しないことが見出された。更には、ベルベリンはモルヒネの当初の鎮痛作用を維持しながら、反復投与によって誘発されるモルヒネの鎮痛作用耐性の発現を有意な程に抑制する作用を有することが見出された。それ故本発明の医薬組成物はモルヒネの投与によりモルヒネの鎮痛作用耐性の発現を防止するのに用い得る。従って、本発明の医薬組成物はモルヒネ耐性の発現を防止する目的で用い得る。更には、本発明の医薬組成物はモルヒネ反復投与により誘発される、モルヒネの鎮痛作用耐性を抑制及び軽減する作用を有する。即ち、本発明の医薬組成物は、モルヒネ投与と共にモルヒネに対して前もって誘発された耐性を抑制する目的で治療上用い得る。
【0023】
本発明を添附図面と共に次の実施例を参照してより詳しく説明するが、次の実施例は本発明を説明するためにのみ与えられており、本発明を該実施例に限定するものではない。
【0024】
実施例
方法及び材料
調節した温度及び湿度下の飼育室で1週間以上生育することにより体重18〜25gの雄のICRマイスを新たな環境に適合させた。1群当り10〜15匹のマイスを用いた。モルヒネ及びベルベリンはそれぞれKeukdong Pharm社(韓国)及びシグマ社(米国)から購入した。
【0025】
実施例1: モルヒネに対応する心理的依存の発現に対してベルベリンの抑制作用の評価
モルヒネにおける心理的依存の発現は条件付きの場所優先試験(conditioned place preference test)により検出した。
【0026】
条件付きの場所優先は同等な寸法の2個の箱体(15×15×15cm)で行ない、各々は透明なアクリル板製の前部表面を有する。各々の箱体の残りの3表面は白色又は黒色のアクリル板製である。2個の箱体は灰色の通路(3×3×7.5cm)で接続されており、通路は脱着可能なギロチン式の戸で閉鎖できる。マイスに箱体の床の肌目を感じさせるのに、白色箱体は頑丈な床を有し、黒色箱体は平滑な床を有した。マイスは20ルックス(lux)の光強度下に生育させた。
【0027】
工程1(予備状態調整段階)
1日目には、箱体のギロチン戸を開放しておき、マイスは5分間両区室を自由に探検させ得た。2日目には、マイスは1日目と同じ仕方で箱体に配置し、両方の箱体で消費した時間を15分間測定し、対照の潜伏期として用いた。
【0028】
工程2(状態調整段階)
3日、5日、7日及び9日目にギロチン戸を閉鎖した。マイスに5mg/kgのモルヒネを腹腔内投与し、憎しみの作用を有する白色箱体に1時間配置した。4日、6日、8日及び10日目に、マイスに生理食塩水を投与し、優先作用を有する黒色箱体に1時間配置した。モルヒネを投与する1時間前に1又は2mg/kgのベルベリンをマイスに経口投与した。
【0029】
工程3(試験段階)
9日目に、ギロチン戸を開放した後に、マイスが両箱体で消費した時間を15分間測定し、その際マイスには何らの薬物も投与せず、2日目で測定した消費時間と対比した。心理的依存発現の程度は試験時間から予備状態調整時間を差引くことにより算出した。図1に示す如く、モルヒネ対照は有意な心理的依存(p<0.01)を示した。対照的に、モルヒネ及びベルベリンを投与したマイスにおいては、生理食塩水で処置した対照と同等なレベルにまで心理的依存は完全に抑制された(p<0.01)。これらの結果はベルベリンがモルヒネへの心理的依存に対して優れた抑制効果を有することを示している。
【0030】
実施例2: モルヒネによる自発的な運動活性の増大に対してベルベリンの抑制作用の評価
自発的な運動活性は、ビデオ トラッキング系を用いてプラスチック室(26×30×30cm)中で試験した。先ず、マイスに6日間1日当り10mg/kgのモルヒネを投与した。最後の投与直後に、マイスをプラスチック室に配置し、自発的な運動活性を30分間記録し、コンピューター プログラムを用いて分析した。モルヒネを投与する1時間前にベルベリンを1及び2mg/kgの量でマイスに経口投与した。結果を図2に示す。図2に示した通り、モルヒネのみを投与した時マイスは前足で50.242歩の著しく増大した運動活性を示した。対照的に、1及び2mg/kgのベルベリンを前もって投与した時には、マイスは19.744歩及び20.027歩の運動活性を示した。即ち、ベルベリンはモルヒネ対照群と比較すると61%及び60%だけ(それぞれp<0.001)モルヒネによって増大する運動活性を有意な程に抑制することが見出された。
【0031】
実施例3: 単一投与によりモルヒネの鎮痛効果におけるベルベリンの効果の評価
調節した温度及び湿度下の飼育室で1週間以上生育することにより体重18〜25gの雄のICRマイスを新たな環境に適合させた。1群当り10匹のマイスを用いた。モルヒネ及びベルベリン(ベルベリン ヘミサルフェート)はそれぞれKeukdong Pharm社(韓国)及びシグマ社(米国)から購入し、使用前に蒸留水に溶解した。
【0032】
モルヒネの鎮痛作用におけるベルベリンの作用はマイスに熱刺激を印加する熱板試験により評価した。熱板試験については、各々のマウスを52℃の熱板に配置し、マウスが不快(後足の舐め又は跳躍)の最初の徴候を示すまでの潜伏期を観察する。組織の損傷を回避するために、熱に暴露する人工の最大時間を付加し(遮断時間)、これは30秒である。30秒以上挙動応答を示さない場合には、マイスを熱板から取り去る。マイスに蒸留水及び1、3及び10mg/kgのベルベリンを腹腔内投与した。30秒後に、マイスに蒸留水及び5mg/kgのモルヒネを皮下注射した。注射してから30、60及び90分後に、熱板からの熱に対するマイスの舐め又は跳躍応答を潜伏期の記録と同じ方法により、30秒の最大時間で測定した。結果は「百分率の最大可能効果(%MPE)」として表わし、これは以下の等式により算出され、モルヒネの鎮痛作用の強度は「曲線下の面積(AUC)」として表わした。
【0033】
MPE(%)=(Tt−T0)/(Tc−T0)×100
但しTcは遮断時間であり、Ttは試験の潜伏期であり、T0は対照の潜伏期である。
【0034】
図3に示す通り(対照群とモルヒネで処置した群との間の有意な差異;***p<0.001)、モルヒネで処置した群は生理食塩水で処置した対照群と比較すると、有意な程に増大した鎮痛効果を示した。更には、1、3及び10mg/kgのベルベリンで予備処置した群においては、ベルベリンはモルヒネの鎮痛作用にめったに影響しないことが見出された。
【0035】
実施例4: 反復投与により生起したモルヒネ耐性の発現に対してベルベリンの効果の評価
ベルベリンは、反復投与によりモルヒネ耐性の発現における効果について評価した。マイスを腹腔内注射により蒸留水及び1、3及び10mg/kgのベルベリンで予備処置した。30分後にマイスに生理食塩水及び1日当り1回6日間10mg/kgのモルヒネを皮下注射した。次の日に即ち7日目に、熱板上での加熱に対するマイスの挙動応答を実施例3におけるのと同じ熱板試験により観察した。モルヒネの鎮痛作用耐性の発現はAUCとして表わし、これは実施例3におけるのと同じ方法により算出した。
【0036】
図4に示す通り(対照群と単一投与でモルヒネ処置した群との間の有意な差異;***p<0.001;対照群とモルヒネ耐性を有するモルヒネ処置群との間の有意な差異; +p<0.05;モルヒネ耐性を有する群とベルベリンで処置した群との間の有意な差異;++p<0.01)、マイスにモルヒネを反復投与した時には、モルヒネの当初の鎮痛作用は大幅に低下しており、モルヒネ耐性が発現していることを示している。対照的に、10mg/kgのベルベリンで予備処置した群においては、かかるモルヒネ耐性は有意な程に抑制されることが見出された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
前記した如く、ベルベリンはモルヒネで被毒したマイスを正常なマイス(生理食塩水で処置した群)のレベルにまで殆んど完全に回復させ、これはベルベリンがモルヒネ中毒を大幅に軽減する作用を有することを示している。更には、ベルベリンはモルヒネの反復投与による自発的な運動活性の増大を有意な程に抑制した。それ故、ベルベリンはモルヒネ中毒の防止及び処置に有用である。
【0038】
更には、本発明の医薬組成物は、単一投与によるモルヒネの鎮痛作用に影響を及ぼさずに、反復投与によるモルヒネの鎮痛作用耐性の発現を防止及び抑制する優れた作用を有する。それ故、本発明の組成物はモルヒネ耐性の発現を防止又は緩和するのにきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】マイスにおいてベルベリンによって生起した心理的依存に対するベルベリンの抑制効果を示すグラフ。
【図2】マイスにおいてベルベリンによって増大した自発的な運動活性に対するベルベリンの抑制効果を示すグラフ。
【図3】モルヒネをマイスに1回投与した時モルヒネの鎮痛効果におけるベルベリンの作用を示すグラフ。
【図4】モルヒネをマイスに反復投与した時モルヒネの鎮痛効果耐性に対するベルベリンの阻止効果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心理的依存の増大及び自発的運動活性の増大に対して抑制作用を有するベルベリンを含有してなる、モルヒネ中毒を防止又は処置する医薬組成物。
【請求項2】
有効成分としてベルベリンを含有し更には製薬上許容し得る担体を含有してなる請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
有効成分としてベルベリンを含有してなる、モルヒネの鎮痛作用に対する耐性発現を防止又は抑制する医薬組成物。
【請求項4】
製薬上許容し得る担体を更に含有してなる請求項3記載の医薬組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心理的依存の増大及び自発的運動活性の増大に対して抑制作用を有するベルベリンを含有してなる、モルヒネへの心理的依存を抑制する医薬組成物。
【請求項2】
有効成分としてベルベリンを含有し更には製薬上許容し得る担体を含有してなる請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
有効成分としてベルベリンを含有してなる、モルヒネの鎮痛作用に対する耐性発現を防止又は抑制する医薬組成物。
【請求項4】
製薬上許容し得る担体を更に含有してなる請求項3記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−506460(P2006−506460A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501862(P2005−501862)
【出願日】平成15年10月27日(2003.10.27)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002280
【国際公開番号】WO2004/039372
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(505162146)サングキュンクワン ユニヴァースィティ (1)
【Fターム(参考)】