説明

モータの冷却構造及びこの構造を搭載した電動車両

【課題】簡単な構成でモータを十分に冷却できるモータの冷却構造及びこの構造を搭載した電動車両を提供すること。
【解決手段】車幅方向に延びる回転軸32を有し、この回転軸32を後輪3に接続して当該後輪3を駆動するモータ30を備え、このモータ30のケーシング31に走行風を当てて当該モータ30を冷却するモータ30の冷却構造において、ケーシング31の周囲には、回転軸32よりも車体後方側に延在し、ケーシング31の外周面に沿って走行風を案内する上下一対のガイド板34,34が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両を駆動するモータの冷却構造及びこの構造を搭載した電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力をエネルギーとして駆動力を得るモータを駆動源とする電動車両の開発に注目が集まっている。この種の電動車両では、モータの回転軸を車輪のハブに連結し、当該車輪を駆動輪として駆動する駆動装置の開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−151359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の駆動装置では、モータの回転時に、銅損、鉄損、もしくは機械損等の原因でモータが発熱し、このモータ温度が高くなるといった問題がある。モータ温度を低減するためには、モータのケーシングからの放熱量を増加させることが不可欠である。この場合、放熱面積を増やすためにモータのケーシングの外周面にフィンを設け、このモータに走行風を当てて当該モータを冷却することが行われている。
【0005】
しかし、従来の構成では、走行風は車両の前方から後方に一方向に流れることが多いため、ケーシングの外周面にフィンを設けたとしてもケーシングの車両後方で空気が滞留しやすくなり、放熱が十分でなく、モータ全体としての冷却効率が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した従来の技術が有する課題を解消し、簡単な構成で、走行風によってモータ全体を効果的に冷却できるモータ冷却構造及びこの構造を搭載した電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、車幅方向に延びる回転軸を有し、この回転軸を車輪に接続して当該車輪を駆動するモータを備え、このモータのケーシングに走行風を当てて当該モータを冷却するモータの冷却構造において、前記ケーシングの周囲には、前記回転軸よりも車体後方側に延在し、前記ケーシングの外周面に沿って走行風を案内する上下一対のガイド板が設けられていることを特徴とする。
【0008】
この構成において、前記ガイド板は、後端部が相互に接近するように湾曲形成されていても良い。また、前記ガイド板は、略円弧状に形成されていても良い。
【0009】
また、前記ケーシングは、前記回転軸を中心に放射状に延びるフィンを備え、前記回転軸から当該フィンの先端までの距離をR1とし、前記回転軸から前記ガイド板までの距離をR2とした場合、これら距離R1と距離R2との比R2/R1が1.1<R2/R1<1.4の関係を満たすよう構成されても良い。
【0010】
また、前記ガイド板は、前記回転軸から前端部までの距離よりも当該回転軸から後端部までの距離を短くして配置されても良い。また、前記ガイド板は、後端部に設けられ、当該ガイド板内面から前記ケーシングへ向けて延びる複数のバッフル板を備えても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ケーシングの周囲には、回転軸よりも車体後方側に延在し、ケーシングの外周面に沿って走行風を案内する上下一対のガイド板が設けられているため、このガイド板によって、ケーシングの車体後部側においても走行風を通流させることが可能となり、簡単な構成でケーシングからの放熱量を確保し、モータ全体としての冷却効率の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態にかかるモータの冷却構造を用いた電動車両の一例を示す右側面図である。
【図2】Aは、モータとガイド板とを示す右側面図であり、Bは、Aの上面図である。
【図3】ガイド板半径及びフィン半径の比と各評価点での流速との関係を示したグラフである。
【図4】別の実施形態にかかるガイド板の配置位置を示す右側面図である。
【図5】ガイド板の入口側半径と出口側半径とを変更した際の各評価点での流速を示すグラフである。
【図6】図6Aはガイド板の配置位置を示す右側面図であり、図6Bはガイド板の後端部の内面を示す図である。
【図7】ガイド板の内面にバッフル板を設けた場合の各評価点での流速を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本実施形態にかかるモータの冷却構造を採用した電動車両1の一例を示す右側面図である。電動車両1は、図1に示すように、前輪2、及び後輪3を備えた自動二輪車である。電動車両1は、メインフレーム4、及びスイングアーム5が主たる骨組みとして構成されている。
【0015】
メインフレーム4は、前端部が上方に向かって屈曲しており、その前端部で前輪2及びハンドル6を操舵可能に支持している。メインフレーム4の後端側であって、電動車両1の前後方向の略中央部には、使用者が腰を掛けるシート7と、バッテリー収容部8とが備えられている。バッテリー収容部8は、シート7の下方に設けられ、内部にバッテリー装置(不図示)が収容されている。シート7は、バッテリー収容部8の蓋の役目も果たし、バッテリー収容部8に対して開閉可能にして取り付けられている。メインフレーム4のシート7の後方であって、後輪3の上方の箇所には、荷物台9が備えられている。
【0016】
スイングアーム5は、メインフレーム4後部の、シート7及びバッテリー収容部8の箇所の下方から後方に向かって延びている。後輪3は、図1に示すように、スイングアーム5の後端に支持されている。なお、スイングアーム5は、後輪3の左側のみに設けられ、片持ち状態で後輪3を支持している。また、後輪3は、駆動輪であり、スイングアーム5との間にモータ駆動装置20を備えている。スイングアーム5は、その後端がモータ駆動装置20の前端部に接続され、モータ駆動装置20を介して後輪3を支持する支持部材である。モータ駆動装置20は、後輪3の軸線方向に関して互いに並置されたモータ30、減速機構(不図示)及び制動機構(不図示)を備えている。また、モータ駆動装置20の左側には、サスペンションケース10が備えられている。サスペンションケース10から上方の荷物台9に向かって、後輪3のサスペンションユニット11が延びている。
【0017】
モータ30は、略円筒状に形成されたケーシング31と、このケーシング31内に固定配置されたステータ(不図示)と、このステータの内側を回転するロータ(不図示)とを備える。このロータの回転軸32は、車幅方向に延びて後輪3のホイールのハブに連結され、モータ30の回転によって後輪3が駆動される。
【0018】
また、モータ30のケーシング31の外周面には、回転軸32を中心に放射状に形成されたフィン31Aを備える。これらフィン31Aは、ケーシング31の本体に一体に設けられるものであり、ケーシング31の表面積を増大させて走行風との熱交換を促進し、モータ30を効果的に冷却するものである。
【0019】
本構成では、モータ30は、スイングアーム5の後端部に外部に露出した状態で支持されており、電動車両1が走行する際に、ケーシング31のフィン31A及び外周面に走行風が当たり、この走行風によってモータ30が冷却される。
【0020】
次に、モータの冷却構造について説明する。
【0021】
上述したモータ30では、略円筒形状のケーシング31の外周面にフィン31Aを設け、このフィン31A及び外周面に走行風を当てることによって冷却されている。しかし、走行風は、通常、電動車両1の前方から後方に一方向に流れることが多いため、ケーシング31の車両後方側では、走行風がケーシング31の外周面から剥離して流れて空気が滞留する傾向にある。このため、特に車両後方側での放熱が十分でなく、モータ30全体としての冷却効率が低下するという問題があった。
【0022】
本構成では、上記した問題に鑑み、図1に示すように、モータ30のケーシング31の周囲には、回転軸32よりも車体後方側に延在し、ケーシング31の外周面に沿って走行風を案内する上下一対のガイド板34,34が配置されている。これらガイド板34,34は、ケーシング31に取り付けられて外方に延びる固定片35によって支持されており、当該ケーシング31のフィン31A(外周面)との間に走行風が通流する風路36が形成される。
【0023】
本実施形態では、ケーシング31のフィン31Aは、図2A、Bに示すように、回転軸32の軸心Oを中心とした半径(本実施形態では100mm;距離)R1に形成されるとともに、ガイド板34、34は当該回転軸32の軸心Oを中心とした半径(本実施形態では、130mm;距離)R2の円弧状に形成されており、後端部34B,34Bが互いに接近するように配置されている。
【0024】
この構成によれば、電動車両1が走行する際に、走行風がガイド板34,34とケーシング31との間に形成される風路36を通流することにより、ケーシング31の車体後部側においても空気の滞留を抑制することができ、ケーシング31の外周面及びフィン31Aからの放熱量を確保し、モータ全体としての冷却効率の低下を防止できる。
【0025】
この構成において、出願人は、ガイド板34,34の配置位置(半径)を変更することにより、モータの冷却効率の高いガイド板34,34の配置条件はどのようなものかを調査した。一般に、ケーシング31に走行風を当てて冷却する場合には、走行風の風速が高い方が冷却効率は高い。このため、上記風路36上に2つの評価点A1、A2を設定し、これら評価点A1,A2での流速を、フィン31Aの半径R1とガイド板34の半径R2との比R2/R1を変更して測定した。また、この場合、車速を7km、26km、80km及び100kmと変更し、各車速における評価点A1,A2での流速を測定している。
【0026】
図3は、ガイド板34の半径R2及びフィン31Aの半径R1の比R2/R1と各評価点A1,A2での流速との関係を示したグラフである。
【0027】
このグラフに示すように、比R2/R1が極端に小さくても、大きくても流速が低下するため、冷却効率が低下することが判明し、適正は冷却効率を維持するためには、上記した比R2/R1が1.1<R2/R1<1.4の関係を満たすのが望ましく、更には、比R2/R1=1.2に設定するのが最適となることが判明した。
【0028】
このように、本実施形態では、比R2/R1が1.1<R2/R1<1.4の関係を満たすようにガイド板34,34を配置したことにより、風路出口側に設定した評価点A1、A2における流速を高く維持することができるため、より高い冷却効率を実現することができる。
【0029】
次に、別の実施形態について説明する。
【0030】
図4は、別の実施形態にかかるガイド板134の配置位置を示す右側面図である。上記した実施形態では、ガイド板34は、回転軸32を中心として同一の半径R2の円弧状に形成されていたが、この別の実施形態では、ガイド板134は、図4に示すように、回転軸32からガイド板134の前端部134Aまでの距離Rよりも当該回転軸32から後端部134Bまでの距離rを短くして配置されている。
【0031】
具体的には、曲率半径R(本実施形態では130mm)のガイド板134を用意し、このガイド板134の前端部134Aが回転軸32から距離R(130mm)となるように配置するとともに、当該ガイド板134の後端部134Bが回転軸32から距離r(120mm)となるように配置されている。この別の実施形態では、モータ30の構成は上記した実施形態と同一であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
図5は、回転軸とガイド板134の前端部134A及び後端部134Bとの各距離R,rを変更した際の各評価点B1〜B4での流速を示すグラフである。
【0033】
図5に示すように、ガイド板134を配置すると、ガイド板を配置しない場合よりも風路36を通流する流速が高くなっている。
【0034】
また、風路入口側の距離Rよりも風路出口側の距離rを短く配置した構成では、各距離を同一にしたもの、及び、距離Rよりも距離rを長くしたものよりも、特に風路出口側の評価点B4での流速が高まっている。
【0035】
このように、ガイド板134を、回転軸32からガイド板134の前端部134Aまでの距離Rよりも当該回転軸32から後端部134Bまでの距離rを短くして配置することにより、特に風路36の出口側での流速を高めることができ、車体後方側におけるケーシング31の外周面及びフィン31Aからの放熱量を確保し、モータ全体としての冷却効率を高めることができる。
【0036】
更に、別の実施形態について説明する。
【0037】
図6Aは、別の実施形態にかかるガイド板234の配置位置を示す右側面図であり、図6Bは、ガイド板234の後端部234Bの内面を示す図である。このガイド板234は、上記ガイド板134と同様の配置構成とするとともに、図6Aに示すように、ガイド板234の後端部234Bの内面に、ケーシング31側に向けて斜めに延出するバッフル板235A,235Bが設けられている。
【0038】
これらバッフル板235A,235Bは、風路方向に沿って二列配置されており、手前側のバッフル板235Aは、それぞれ間隔を設けて複数並設されており、奥側のバッフル板235Bは、上記バッフル板235A間の隙間に位置するように配置されている。
【0039】
また、この実施形態では、各バッフル板235A,235Bは、それぞれ基端部における延出角度が同一の角度(本実施形態では35〜40度)となるように形成されている。
【0040】
図7は、ガイド板234の内面にバッフル板235A,235Bを設けた場合の各評価点C1〜C11での流速を示すグラフである。
【0041】
この図7によれば、これらバッフル板235A,235Bをガイド板234の後端部234Bに設けることにより、特に、バッフル板235A,235B近傍(評価点C4,C5,C8,C9)における風路36内の流速が向上するため、車体後方側におけるケーシング31の外周面及びフィン31Aからの放熱量を確保し、モータ全体としての冷却効率を高めることができる。
【0042】
この実施形態では、ガイド板234は、回転軸32からガイド板234の前端部234Aまでの距離Rよりも当該回転軸32から後端部234Bまでの距離rを短くして配置されているが、同一の距離R2(例えば130mm)としても良いことは勿論である。
【0043】
以上、本実施形態によれば、車幅方向に延びる回転軸32を有し、この回転軸32を後輪3に接続して当該後輪3を駆動するモータ30を備え、このモータ30のケーシング31に走行風を当てて当該モータ30を冷却する冷却構造において、ケーシング31の周囲には、回転軸32よりも車体後方側に延在し、ケーシング31の外周面に沿って走行風を案内する上下一対のガイド板34,34(134,134、234,234)が設けられているため、電動車両1が走行する際に、走行風がガイド板34,34とケーシング31との間に形成される風路36を通流することにより、ケーシング31の車体後部側においても空気の滞留を抑制することができ、ケーシング31の外周面及びフィン31Aからの放熱量を確保し、モータ全体としての冷却効率を向上できる。
【0044】
また、本実施形態によれば、ガイド板34,34(134,134、234,234)は、略円弧状に形成されているため、これらガイド板の34,34の内面に沿って滑らかに空気を通流させることができ、流速を高めることができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、ケーシング31は、回転軸32を中心に放射状に延びるフィン31Aを備え、回転軸32から当該フィン31Aの先端までの距離をR1とし、回転軸32からガイド板34,34までの距離をR2とした場合、これら距離R1と距離R2との比R2/R1が1.1<R2/R1<1.4の関係を満たすよう構成されているため、風路36出口側に設定した評価点A1、A2における流速を高く維持することができ、より高い冷却効率を実現することができる。
【0046】
また本実施形態によれば、ガイド板134,134(234,234)は、回転軸32から前端部134A,134A(234A,234A)までの距離Rよりも当該回転軸32から後端部134B,134B(234B,234B)までの距離rを短くして配置されているため、特に風路36の出口側での流速を高めることができ、車体後方側におけるケーシング31の外周面及びフィン31Aからの放熱量を確保し、モータ全体としての冷却効率を高めることができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、ガイド板234,234は、後端部234B,234Bに設けられ、当該ガイド板234,234内面からケーシング31へ向けて延びる複数のバッフル板235A,235Bを備えたため、特に、バッフル板235A,235B近傍(評価点C4,C5,C8,C9)における風路36内の流速が向上することにより、車体後方側におけるケーシング31の外周面及びフィン31Aからの放熱量を確保し、モータ全体としての冷却効率を高めることができる。
【0048】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態では、ガイド板34,34(134,134、234,234)は、略円弧状に形成された構成としたが、これに限るものではなくガイド板の後端部が相互に接近するように湾曲形成されている構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 電動車両
3 後輪(車輪)
20 モータ駆動装置
30 モータ
31 ケーシング
31A フィン
32 回転軸
34、134、234 ガイド板
34A、134A、234A 前端部
34B、134B、234B 後端部
35 固定片
36 風路
235A バッフル板
235B バッフル板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びる回転軸を有し、この回転軸を車輪に接続して当該車輪を駆動するモータを備え、このモータのケーシングに走行風を当てて当該モータを冷却するモータの冷却構造において、
前記ケーシングの周囲には、前記回転軸よりも車体後方側に延在し、前記ケーシングの外周面に沿って走行風を案内する上下一対のガイド板が設けられていることを特徴とするモータの冷却構造。
【請求項2】
前記ガイド板は、後端部が相互に接近するように湾曲形成されていることを特徴とする請求項1に記載のモータの冷却構造。
【請求項3】
前記ガイド板は、略円弧状に形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のモータの冷却構造。
【請求項4】
前記ケーシングは、前記回転軸を中心に放射状に延びるフィンを備え、前記回転軸から当該フィンの先端までの距離をR1とし、前記回転軸から前記ガイド板までの距離をR2とした場合、これら距離R1と距離R2との比R2/R1が1.1<R2/R1<1.4の関係を満たすよう構成されたことを特徴とする請求項3に記載のモータの冷却構造。
【請求項5】
前記ガイド板は、前記回転軸から前端部までの距離よりも当該回転軸から後端部までの距離を短くして配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のモータの冷却構造。
【請求項6】
前記ガイド板は、後端部に設けられ、当該ガイド板内面から前記ケーシングへ向けて延びる複数のバッフル板を備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のモータの冷却構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のモータの冷却構造を搭載した電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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