説明

モードロックレーザ装置

【課題】極めて短いパルス時間幅の光パルスを生成することができる、小型/高安定/低コストのモードロックレーザ装置を得る。
【解決手段】共振器と、該共振器内に配置された可飽和吸収ミラー8と、共振器内に配置された固体レーザ媒質7と、該固体レーザ媒質7に励起光Leを入射させる励起光源1とを備えてなるモードロックレーザ装置10において、共振器を、前記可飽和吸収ミラー8と、この可飽和吸収ミラー8と励起光源1との間に配置された凹面ミラー6とから構成する。そして固体レーザ媒質7と可飽和吸収ミラー8との間に、透過型分散制御素子9を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモードロックレーザ装置、特に詳細には、透過型分散制御素子を用いたモードロックレーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルス時間幅が10ps以下の光パルスは、その非常に高い尖頭値によって非線形効果を誘起することが可能である。そのため、2光子吸収などの非線形吸収効果を用いた2光子吸収顕微鏡や透明部材加工など、医療や加工分野への応用が期待されている。
【0003】
10ps以下のパルス時間幅をもつ光パルスを生成する方法として、従来、レーザ共振器内において発振している多くの縦モードの位相を同期させる「モード同期(モードロック)」と呼ばれる方式が知られており、この方式で光パルスを生成するレーザ装置はモードロックレーザ装置と称されている。
【0004】
モードロック方式には、共振器内に光変調器を挿入して損失変調をかける能動的モードロック方式と、入射光強度に対して吸収係数が非線形に変化する可飽和吸収体などを共振器内に挿入して受動的にモード同期をとる受動的モードロック方式とがあるが、光変調器としてAOM(Acousto-Optic Modulator:音響光学変調器)やEOM(Electro-Optic Modulator:電気光学変調器)を必要とする能動的モードロック方式は、装置の大型化、高価格化などの問題が生じるため、現在は受動的モードロック方式が注目を集めている。
【0005】
受動的モードロック方式に使用される可飽和吸収体として、近年、半導体可飽和吸収ミラーデバイス(SESAM :Semiconductor Saturable Absorped Mirror)と呼ばれるものが開発されている。このデバイスは内部ロスが小さく、幅広い波長に対応可能であることや耐久性に優れていることから、受動的モードロック方式に幅広く使用されている。ただし、10ps以下の光パルスを発するSESAMを用いた従来のモードロックレーザ装置は、構造が極めて複雑で、かつ大きさがテーブルトップ程とかなり大きいものとなっている。そのため、多い部品数およびパッケージコストによる高価格化の欠点がある。さらに共振器長も長いため、共振器を構成する部品の変動に対して出力変動も大きく、非常に不安定なものとなっている。
【0006】
小型/高安定/低価格のモードロックレーザ装置を実現するためには、簡単でかつ共振器長が短い共振器構造が必要となってくる。非特許文献1には、図4に示すように非常に簡単な共振器構造を持つモードロックレーザ装置が記載されている。ここで1は励起光Leを発する励起光源である半導体レーザ、2はFast-axisコリメートレンズ、3はSlow-axisコリメートレンズ、4は固体レーザ発振光Loを共振器外に取り出すためのダイクロイックミラー、5は集光レンズ、6は凹面ミラーからなる共振器ミラー、7は例えばNd:GdVO4等の固体レーザ媒質、そして8がSESAMである。つまりここでは共振器が、SESAM8と、このSESAM8と励起光源1との間に配置された共振器ミラー6とから構成されている。
【0007】
しかし上記の構成において、得られる光パルスの時間幅は12psと大きくなっている。10ps以下、好ましくは1ps以下のパルス幅の光パルスを得るには、ここで使われているレーザ媒質Nd:GdVO4ではなく、もっと広帯域な利得をもつレーザ媒質を使用し、かつ光パルスの群速度の波長分散を制御する素子を共振器内に配置しなければならない。
【0008】
群速度の波長分散を制御する素子として、従来、プリズム分散制御素子、回折格子分散制御素子、誘電体多層膜分散制御素子などが知られている。
【0009】
誘電体多層分散制御素子は例えば特許文献1に記載されているように、誘電体多層膜間でのGTI干渉と呼ばれる現象を用いて、分散制御を行うものである。この分散制御素子は光の多重反射を利用するため、高反射領域において、広いスペクトル領域で比較的大きな分散制御効果が得られる。
【0010】
また特許文献2には、透過型の誘電体多層膜分散制御素子(以下、透過型分散制御素子と称す)が記載されている。
【特許文献1】特開2001-68774号公報
【特許文献2】特開平10-48567号公報
【非特許文献1】OPTICS LETTERS,Vo.29,2629(2004) pp.2629-2631
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上に述べたプリズム分散制御素子および回折格子分散制御素子は、2回の屈折または反射によって生じる遅延時間の波長依存性を用いて分散制御を行う分散制御器であるが、大型でかつ2個のプリズムまたは2枚の回折格子の位置合わせ等の設定が困難であるため、不安定動作の原因となるという問題が有る。
【0012】
一方、特許文献1に記載されている誘電体多層分散制御素子は反射型であるため、分散制御される光パルスの伝搬方向の変更が必要となる。図4に示した簡単な共振器構造を持つレーザ装置にそれを適用する場合、反射型誘電体多層膜分散制御素子が配置可能な箇所は共振器ミラー6しかない。そして下記2つの理由により、共振器ミラー6の曲率半径は50mm以下にする必要がある。
【0013】
理由の1つは、モードロックの不安定性の原因となるQスイッチを防ぐには、共振器内部の光パルスエネルギーが固体レーザ媒質中の発振ビーム半径r1およびSESAM上の発振ビーム半径r2とSESAMの変調深さΔRおよび飽和フルーエンスFsatの平方根に比例する閾値Pth∝r1×r2×(ΔR×Fsat)1/2を超えなけれならない点にある。したがって、安定したモードロックを得るには、固体レーザ媒質中の発振ビーム半径およびSESAM上の発振ビーム半径をできるだけ小さくすることで、前記閾値を小さくするのと同時に、発振効率を高め、光パルスエネルギーを前記閾値を上回る大きさにする必要がある。現在市販されているSESAMを用いた場合、安定したモードロックを得るには、固体レーザ媒質中の発振ビーム半径およびSESAM上の発振ビーム半径は40μm以下であることが望ましい。そこで、図4のような構造において、そのような発振ビーム半径を形成するためには、共振器ミラー6の曲率半径を50mm以下にし、共振器長を共振器ミラー6の曲率半径と略同じ長さにする必要がある。
【0014】
もう一つの理由は、図4のように出力ミラーとなっている共振器ミラー6側から励起を行う場合、共振器長が長いと励起光の焦点距離が長くなり、固体レーザ媒質7に形成される励起ビーム半径が大きくなってしまい、発振効率が低下する点にある。上述の40μm以下の発振ビーム半径とのモードマッチを考慮すると、固体レーザ媒質7に形成される励起ビーム半径は50μm以下が望ましく、現在市販されている100μmエミッターの高出力半導体レーザでは、励起光の焦点距離を50mm以下にする必要がある。そのため、共振器長が共振器ミラー6の曲率半径と略同じ長さとなっている共振器においては、曲率半径を50mm以下にする必要がある。
【0015】
市販されている誘電体多層膜分散制御素子でこのように曲率半径の小さいものは、制御可能な負の分散量が-100 fs2以上とその絶対値が小さいため、-500 fs2以下程度の絶対値が大きい負の分散量を得るには複数個の素子が必要となる。しかし、反射型であるため複数個の素子を使おうとすると共振器構造が複雑化してしまう。また、共振器ミラー6は、励起光に対しての反射防止コートが施されるが、分散制御機能と励起光反射防止機能を併用した誘電体多層膜分散制御素子は今のところ実現できていない。
【0016】
このように、誘電体多層膜分散制御素子が反射型であることが、小型/高安定/低価格で、かつ10ps以下、好ましくは1ps以下の短い時間幅の光パルスを発するモードロックレーザ装置の実現を不可能なものにしている。
【0017】
他方、前記特許文献2に示されている透過型分散制御素子を図4のような簡単な短共振器に用いることで、10ps以下、好ましくは1ps以下の光パルスを発するモードロックレーザ装置を得ることも考えられる。
【0018】
しかし、図4のような構成のモードロックレーザ装置において、共振器ミラー6と固体レーザ媒質7との間に透過型分散制御素子を配置するには、透過型分散制御素子が励起光反射防止機能を有していなければならないが、上述と同様に分散制御機能と励起光反射防止機能とを併せ持つ誘電体多層膜分散制御素子は提供されていないのが現状である。
【0019】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、極めて短いパルス時間幅の光パルスを生成することができる、小型/高安定/低コストのモードロックレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明による第1のモードロックレーザ装置は、
共振器と、
該共振器内に配置された可飽和吸収ミラーと、
前記共振器内に配置された固体レーザ媒質と、
該固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起光源とを備えてなるモードロックレーザ装置において、
共振器が、前記可飽和吸収ミラーと凹面ミラーとから構成され、
前記固体レーザ媒質と可飽和吸収ミラーとの間に、透過型分散制御素子が配置されていることを特徴とするものである。
【0021】
なおこのモードロックレーザ装置においては、前記透過型分散制御素子の厚みが、共振器内に形成される発振ビームウェストにおけるレイリー長よりも短いことが望ましい。
【0022】
また上記透過型分散制御素子は、固体レーザ媒質の端面または、可飽和吸収ミラーの端面に形成されることが望ましい。
【0023】
またこのモードロックレーザ装置においては、前記共振器内に、励起光源からの励起光を固体レーザ媒質へ向けて反射させるダイクロイックミラーが配置されていることが望ましい。
【0024】
さらに、前記凹面ミラーは、可飽和吸収ミラーと励起光源との間に配置されていることが望ましい。
【0025】
一方、本発明による第2のモードロックレーザ装置は、
共振器と、
該共振器内に配置された可飽和吸収ミラーと、
前記共振器内に配置された固体レーザ媒質と、
該固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起光源とを備えてなるモードロックレーザ装置において、
共振器が、前記可飽和吸収ミラーと凹面ミラーとから構成され、
共振器内に、前記励起光源からの励起光を固体レーザ媒質へ向けて反射させるダイクロイックミラーが配置され、
このダイクロイックミラーと前記凹面ミラーとの間に透過型分散制御素子が配置されていることを特徴とするものである。
【0026】
なお、以上述べた本発明による第1および第2のモードロックレーザ装置において、望ましくは、共振器から発せられる光パルスのパルス時間幅が1ps以下とされる。
【0027】
また、以上述べた本発明による第1および第2のモードロックレーザ装置において、固体レーザ媒質としてはYb(イッテルビウム)がドープされたものが好適に用いられる。
【0028】
また可飽和吸収ミラーとしては、半導体可飽和吸収体ミラーデバイスが好適に用いられ得る。
【発明の効果】
【0029】
本発明による第1のモードロックレーザ装置においては、固体レーザ媒質と可飽和吸収ミラーとの間に、つまり固体レーザ媒質から見て励起光源と反対側に透過型分散制御素子が配置されているので、この透過型分散制御素子として、励起光を透過させる特性は備えない現在提供されているものを適用可能となる。すなわち、この本発明による第1のモードロックレーザ装置は、図4に示したような簡単な共振器構造を有するモードロックレーザ装置に透過型分散制御素子を適用したものとなり得ているので、小型/高安定/低コストに形成可能である一方、透過型分散制御素子の作用により極めて短いパルス時間幅の光パルスを生成可能となる。
【0030】
なお、安定したモードロックには、固体レーザ媒質中の発振ビーム半径およびSESAM上の発振ビーム半径をできるだけ小さくする必要がある。透過型分散制御素子の厚みが、共振器内に形成される発振ビームウェストにおけるレイリー長よりも短くなっている場合には、上記2つの発振ビーム半径を共に小さくすることができるので、パルス時間幅が10ps以下、さらには1ps以下のモードロックレーザ装置も実現可能となる。
【0031】
一方、本発明による第2のモードロックレーザ装置においては、共振器内に、励起光源からの励起光を固体レーザ媒質へ向けて反射させるダイクロイックミラーが配置され、このダイクロイックミラーと凹面ミラーとの間に透過型分散制御素子が配置されているので、この場合も透過型分散制御素子として、励起光を透過させる特性は備えない現在提供されているものを適用可能となる。つまりこの第2のモードロックレーザ装置も、図4に示したような簡単な共振器構造を有するモードロックレーザ装置に透過型分散制御素子を適用したものとなっている。そこでこのモードロックレーザ装置も、小型/高安定/低コストに形成可能である一方、透過型分散制御素子の作用により極めて短いパルス時間幅の光パルスを生成可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明の第1の実施形態によるモードロックレーザ装置10の概略構成を示すものである。なおこの図1において、先に説明した図4中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要の無い限り省略する(以下、同様)。
【0034】
このモードロックレーザ装置10は、共振器ミラー6およびモードロックを誘起するモードロック素子である可飽和吸収ミラー8とによって両端が構成された共振器と、この共振器内に励起光Leを入射させる励起光源1とを備えている。共振器内には、Yb:KYW7結晶からなる固体レーザ媒質7および透過型分散制御素子9が配置されている。
【0035】
励起手段は、励起光Leを出射する励起光源である半導体レーザ1と、この半導体レーザ1からの励起光Leをコリメート、集光して固体レーザ媒質7に入射させるためのFast-axisコリメートレンズ2、Slow-axisコリメートレンズ3および集光レンズ5からなる励起光学系とから構成されている。そしてレンズ3、5の間には、固体レーザ発振光Loを共振器外に取り出すためのダイクロイックミラー4が配置されている。
【0036】
このモードロックレーザ装置10では、共振器が共振器ミラー6と可飽和吸収ミラーであるSESAM8によって構成された簡単な構造となっているが、このような簡単な構造を変えることなく、共振器内部の光パルスの群速度波長分散を制御可能とするために、共振器内に透過型の分散制御素子9が配置されている。
【0037】
励起光源である半導体レーザ1としては、エミッターサイズ100μm、最大出力3WであるnLight社製のマルチモード高出力半導体レーザが用いられている。集光光学系を構成するFast-axisコリメートレンズ2は焦点距離1.5mmのもの、Slow-axisコリメートレンズ3は焦点距離50mmのもの、そして集光レンズ5は焦点距離50mmのアクロマートレンズが適用されている。このような集光光学系を用いて、Yb:KYW7結晶からなる固体レーザ媒質7内に、ビームウェスト半径を39×41μmとして励起光Leを集光させることができる。
【0038】
またレンズ3、5の間に配置されているダイクロイックミラー4には、励起域の波長980±5nmに対して反射率5%以下である反射防止コートおよび、1040±10nmの発振光波長に対し反射率95%以上である高反射コートが施されている。
【0039】
共振器ミラー6は、一端面が曲率50mmの凹面、他端面が平面の凹面ミラーであり、凹面が共振器内部を向くように配置されている。共振器ミラー6の凹面には、1040±10nmの発振光波長に対して反射率99.8%である高反射コート、および励起域の波長980±5nmに対して反射率5%以下である反射防止コートが施されており、平面側には970〜1060nmの波長に対して反射率1%以下となる反射防止コートが施されている。
【0040】
可飽和吸収ミラー8は可飽和吸収体であり、ここでは特に半導体可飽和ミラーデバイスであるSESAMが用いられている。このSESAMは、1040nmの波長に対して変調深さ0.5%、飽和フルーエンス90μJ/cmの特性を有している。またこの可飽和吸収ミラー8は、共振器ミラー6から約5cmの位置に配置されており、その上に21μmの発振ビームウェスト半径が形成される。
【0041】
固体レーザ媒質7には、一例としてYbが5%ドープされた厚さ1mmのYb:KYW7結晶が用いられている。このYb:KYW7結晶の両端面には、励起域の波長980±5nmに対しては反射率1%以下で、1040±10nmの発振波長に対しては反射率0.1%以下となる反射防止コートが施されている。発振ビームウェスト半径21μmにおけるレイリー長は1.3mmであり、固体レーザ媒質7は、SESAM8の端面から、上記レイリー長さよりも短い1mmの位置に配置されている。
【0042】
ここで図2を参照して、透過型分散制御素子9の構造について、その製造方法も併せて説明する。ここでは結晶方位(001)面のn型GaAs基板11上に、有機金属気相成長(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法により、AlGaAs層からなるスペーサー層12を100μm成長させる。次に、GaAs高屈折率層13とAlAs低屈折率層14を9.5周期積層して周期的誘電体多層膜15を形成する。
【0043】
すなわち誘電体多層膜15は、光パルスの透過方向にn層の低屈折率層と(n+1)層の高屈折率層を、両端に高屈折率層が位置する状態に交互に形成してなるものである。高屈折率層13と低屈折率層14の各層の厚さは、設定された真空中における共振波長:λrに対する各層内部での実効波長の1/4とする(λrの設定については後述する)。
【0044】
次にAlAs層からなる半波長低屈折率層16を積層する。その厚さは、設定された真空中における共振波長:λrに対する半波長低屈折率層内部での実効波長の1/2とする。さらに、GaAs高屈折率層13とAlAs低屈折率層14を9.5周期積層して周期的誘電体多層膜15を形成し、次いで、AlGaAs層からなるスペーサー層12を100μm成長させる。
【0045】
次にn型GaAs基板11の一部を化学エッチングで取り除き、光学窓18を形成する。最後に、上部、下部のスペーサー層12に、空気との界面の反射を防ぐための反射防止コート膜17を施す。透過型分散制御素子9の全体の厚さは300μm程度とされて、固体レーザ媒質7とSESAM8との間に配置できるようになっている。
【0046】
以下、共振波長:λrの設定法について述べる。入射光パルスのスペクトルが、共振器構造の高反射領域に隣接する透過領域内に存在するように、λrを設定する。本実施形態では、アップチャートを補償するため、高反射領域の短波長側に隣接する透過領域に、入射光パルスのスペクトルが存在するようにλrを設定する(λr=1040nm)。このような構成の透過型分散制御素子9により、1040±10nmの波長において、-700fs2の群速度分散を得ることができる。
【0047】
なお下の(数1)式は、文献J.Opt.Soc.Am.B,Vo16,46-56(1999)に記載されている式(24)であるが、それによると、本構成において-700fs2の群速度分散が得られた場合はパルス時間幅257fsのパルスを得ることができる。
【数1】

【0048】
ここで、τp:パルス幅、D2:分散量(絶対値)、λ0:発振中心波長、Aeff,L:結晶中での発振ビーム面積、n2:非線形定数、Lk:結晶長、Ep:共振器内におけるパルスエネルギーであり、本実施形態においてそれぞれの値は、D2=-700fs2、λ0=1040×10-9、Aeff.L=5.03m2、n2=8.7×10-20m2/W、Lk=0.001m、Ep=2.17×10-8Jである。
【0049】
上記(式1)においては、分散量が小さくなればなるほどパルス幅が小さくなっていくが、狭いパルスを得るためにはそれに対応する広いスペクトルが必要となってくる。しかしスペクトルが広がると、利得媒質の利得のすその部分まで必要となってくる。その際、スペクトルのすその部分が利得を増やそうとする現象が生じ、1つのパルスが2つに分裂してしまう。そのため、1ps以下のパルス(スペクトル幅:2nm)を得ようとすると、-500 fs2以下(つまり絶対値が少なくとも500)の負の分散量が必要となってくる。
【0050】
本構成のモードロックレーザ装置10においては、2W励起のとき、平均出力130mW、繰返し周波数3GH、パルス時間幅280fsの光パルスを得ることができた。またこのモードロックレーザ装置10は、前述の通りの簡単な構成の共振器構造を採用したことにより、小型/高安定/低コストのものとなっている。また透過型分散制御素子9を、前述のように固体レーザ媒質7と可飽和吸収ミラー8との間に配置しているので、この透過型分散制御素子9として、励起光Leを透過する特性は持たない現状のものを適用可能となっている。
【0051】
なお、SESAM8の端面、あるいは固体レーザ媒質7のSESAM側の端面に直接、透過型誘電体多層膜を形成して、それを透過型分散制御素子とすることもできる。そのようにした場合は、部品保持する箇所が減るので、安定性をより高めることができる。
【0052】
次に図3を参照して、本発明の第2の実施形態によるモードロックレーザ装置20について説明する。本実施形態では、共振器内にダイクロイックミラー21を配置し、共振器光軸に対して斜め方向から励起光Leを入射させ、該励起光Leをダイクロイックミラー21によって固体レーザ媒質7側に折り返している。そして共振器ミラー6′とダイクロイックミラー21との間に、透過型分散制御素子9が配置されている。
【0053】
共振器ミラー6′の曲率半径は30mmであり、その端面には図1中の共振器ミラー6と同様のコートが施されている。ダイクロイックミラー21は合成石英基板からなるものであり、その基板の一方の面には、発振波長1040nmに対する合成石英のブリュースタ角55.4°入射において、980±5nmの波長に対して反射率が95%以上である高反射コートおよび、1040±10nmの波長に対して反射率が0.01%以下である反射防止コートが施され、別の面にはコートが施されていない。このダイクロイックミラー21は、共振器光軸に対して上記ブリュースタ角である55.4°傾けた状態で配置されている。
【0054】
本構成のモードロックレーザ装置20においては、2W励起のとき、平均出力120mW、繰返し周波数5GHz、パルス時間幅300fsの光パルスを得ることができた。そしてこのモードロックレーザ装置20も、前述の通りの簡単な構成の共振器構造を採用したことにより、小型/高安定/低コストのものとなっている。また透過型分散制御素子9を、前述のように共振器ミラー6′とダイクロイックミラー21との間に配置しているので、本例でも透過型分散制御素子9として、励起光Leを透過する特性は持たない現状のものを適用可能となっている。
【0055】
また、第2の実施形態におけるように励起光を共振器外部から入射させ、ダイクロイックミラーで固体レーザ媒質7に導く形態おいて、第1の実施形態のように透過型分散制御素子9を固体レーザ媒質とSESAM8の間に配置しても良く、そうした場合は第1、第2実施形態と同様に本発明の効果が得られる。またSESAM8の端面、あるいは固体レーザ媒質7のSESAM側の端面に直接、透過型誘電体多層膜を形成して、それを透過型分散制御素子としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施形態によるモードロックレーザ装置を示す概略側面図
【図2】図1のモードロックレーザ装置に用いられた透過型分散制御素子の概略側面図
【図3】本発明の第2の実施形態によるモードロックレーザ装置を示す概略側面図
【図4】従来のモードロックレーザ装置の一例を示す概略側面図
【符号の説明】
【0057】
1 半導体レーザ(励起光源)
2 Fast-axisコリメートレンズ
3 Slow-axisコリメートレンズ
4、21 ダイクロイックミラー
5 集光レンズ
6 共振器ミラー
7 固体レーザ媒質
8 SESAM
9 過型分散制御素子
10、21 モードロックレーザ装置
11 基板
12 スペーサー層
13 GaAs高屈折率層
14 AlAs低屈折率層
15 周期的誘電体多層膜
16 半波長低屈折率層
17 反射防止コート膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器と、
該共振器内に配置された可飽和吸収ミラーと、
前記共振器内に配置された固体レーザ媒質と、
該固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起光源とを備えてなるモードロックレーザ装置において、
共振器が、前記可飽和吸収ミラーと凹面ミラーとから構成され、
前記固体レーザ媒質と可飽和吸収ミラーとの間に、透過型分散制御素子が配置されていることを特徴とするモードロックレーザ装置。
【請求項2】
前記透過型分散制御素子の厚みが、共振器内に形成される発振ビームウェストにおけるレイリー長よりも短いことを特徴とする請求項1記載のモードロックレーザ装置。
【請求項3】
前記透過型分散制御素子が、前記固体レーザ媒質の端面または、前記可飽和吸収ミラーの端面に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のモードロックレーザ装置。
【請求項4】
前記共振器内に、前記励起光源からの励起光を固体レーザ媒質へ向けて反射させるダイクロイックミラーが配置されていることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のモードロックレーザ装置
【請求項5】
前記凹面ミラーが、前記可飽和吸収ミラーと前記励起光源との間に配置されていることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のモードロックレーザ装置
【請求項6】
共振器と、
該共振器内に配置された可飽和吸収ミラーと、
前記共振器内に配置された固体レーザ媒質と、
該固体レーザ媒質に励起光を入射させる励起光源とを備えてなるモードロックレーザ装置において、
共振器が、前記可飽和吸収ミラーと凹面ミラーとから構成され、
共振器内に、前記励起光源からの励起光を固体レーザ媒質へ向けて反射させるダイクロイックミラーが配置され、
このダイクロイックミラーと前記凹面ミラーとの間に透過型分散制御素子が配置されていることを特徴とするモードロックレーザ装置。
【請求項7】
前記共振器から発せられる光パルスのパルス時間幅が1ps以下であることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載のモードロックレーザ装置
【請求項8】
前記固体レーザ媒質が、Yb(イッテルビウム)がドープされたものであることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載のモードロックレーザ装置。
【請求項9】
前記可飽和吸収ミラーが半導体可飽和吸収体ミラーデバイスであることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載のモードロックレーザ装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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