説明

モードS二次監視レーダおよび航空機監視方法

【課題】モードS二次監視レーダにおけるビームスケジュールの使用効率の低下を抑制するとともに、航空機の監視の精度および信頼性を向上する。
【解決手段】監視対象の航空機からのモードS個別応答信号が得られず、モードS個別応答信号による監視が継続できなくなった場合、監視処理部133は、監視対象の航空機から送信されたモードS拡張スキッタに含まれる航空機の位置情報を用いて、次スキャンにおけるその航空機の予測位置およびそれに応じた予測範囲を算出し、チャネル管理部134は、監視処理部133でモードS拡張スキッタを用いて算出された予測範囲に応じたモードS個別質問応答のスケジューリングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空管制に用いられるモードS二次監視レーダ(SSRモードS:Secondary Surveillance Radar Mode S)および航空機監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モードS二次監視レーダは、航空機に搭載されているトランスポンダに対して質問信号を送信し、その質問信号に対する様々な情報を応答信号として受信することにより、航空管制のための監視に関わる情報を取得する装置である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
トランスポンダには、ATCRBS(Air Traffic Control Rader Beacon System)トランスポンダ、モードSトランスポンダの2種類がある。ATCRBSトランスポンダを搭載した航空機(ATCRBS機)と、モードSトランスポンダを搭載した航空機(モードS機)とを捕捉するために、モードS二次監視レーダでは、ビームドエルタイムを複数のスイープに分割し、各スイープ内をさらにオールコール期間(一括質問期間)とロールコール期間(個別質問期間)とに分け、オールコール期間とロールコール期間とで異なる処理を行っている。
【0004】
なお、ビームドエルタイムは、方位(アジマス)方向に回転走査(スキャン)するモードS二次監視レーダのアンテナの回転速度と送信ビーム幅とに基づく角度範囲に対応した時間であって、一義的に決定される。
【0005】
モードS二次監視レーダは、オールコール期間において、ATCRBS機を対象とするモードA/C専用一括質問信号を送信し、これに対するモードA/C応答信号を受信してATCRBS機を監視するとともに、モードS機を対象とするモードS専用一括質問信号を送信し、これに対するモードS一括応答信号を受信してモードS機を捕捉する。そして、ロールコール期間において、モードS二次監視レーダは、オールコール期間に捕捉したモードS機を対象としたモードS個別質問信号を送信し、これに対してモードS機から送信されるモードS個別応答信号を受信して、モードS機の監視を継続する。
【0006】
モードS二次監視レーダでは、前スキャンにおけるモードS個別質問信号とモードS個別応答信号(またはモードS専用一括質問信号とモードS一括応答信号)の送受信によって算出した監視対象のモードS機の方位と距離とによる予測位置に応じて、モードS個別質問信号を送信する範囲(予測範囲)を決める。そして、この予測範囲内で、監視対象のモードS機からのモードS個別応答信号が受信できるまで、ロールコール期間ごとにモードS個別質問信号を送信する。例えば、図5(a)に示すように、監視対象のモードS機100に対して、3つのロールコール期間にわたって合計3回のモードS個別質問信号を送信するように、質問および応答のスケジューリングが行われる。
【0007】
ところで、モードS二次監視レーダでは、モードS個別応答信号の未受信や、フルーツ干渉等によりモードS個別応答信号が認識できない状況等が生じることがある。また、モードS二次監視レーダとモードS機との位置関係よっては、モードSトランスポンダ側の質問未受信や応答抜けが発生することがある。これらにより、モードS二次監視レーダにおいて監視対象のモードS機の検出ができず監視が途切れることがある。
【0008】
上記のようにモードS個別応答信号が得られず監視対象のモードS機の監視が途切れた場合、モードS二次監視レーダは、次スキャンにおける予測範囲を拡大する。例えば図5(a)のように3回のモードS個別質問信号を送信してもスケジュール通りにモードS個別応答信号が得られなかった場合、例えば図5(b)に示すように、監視対象のモードS機100に対して、5つのロールコール期間にわたって合計5回のモードS個別質問信号を送信するように、次スキャンにおける質問および応答のスケジューリングが行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Michael C. Stevens,“Secondary Surveillance Radar,1998,ISBN 0-89006-292-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、監視対象のモードS機の個別質問による監視が途切れた場合、次スキャンでの予測範囲を拡大するので、ビームスケジュールでのそのモードS機に対する割り当ての占有率が大きくなり、ビームスケジュールの使用効率が低下する。
【0011】
予測範囲を拡大してもモードS個別応答信号が得られない場合、その次のスキャンにおいて、さらに予測範囲の拡大が行われる。所定スキャン以上、モードS個別応答信号が得られない場合は、モードS二次監視レーダは、オールコール期間において一括質問により改めて捕捉することになるが、モードS機は、個別質問による監視が継続している間は、ロックアウト機能によって、そのモードS機を監視しているモードS二次監視レーダからの一括質問には応答しない。
【0012】
ロックアウトは、モードS個別質問信号を用いて制御され、モードS機は、ロックアウト指示が含まれたモードS個別質問信号を受信してから約18秒間は、当該モードS機を監視しているモードS二次監視レーダからの一括質問には応答しないようになっている。
【0013】
したがって、監視対象のモードS機の個別質問による監視が途切れた場合、そのモードS機がロックアウトされている間は、一括質問により改めて捕捉することもできず、監視空域に存在しているモードS機が監視されない状態となる。このため、モードS二次監視レーダによるモードS機の監視の精度および信頼性の向上が望まれていた。
【0014】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、ビームスケジュールの使用効率の低下を抑制するとともに、航空機の監視の精度および信頼性を向上することができるモードS二次監視レーダおよび航空機監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明のモードS二次監視レーダは、監視空域をスキャンするアンテナを介して、オールコール期間においてモードS専用一括質問信号を送信するとともに、ロールコール期間においてモードS個別質問信号を送信する送信部と、前記アンテナを介して、モードS専用一括質問信号に対する航空機からのモードS一括応答信号を受信し、モードS個別質問信号に対する航空機からのモードS個別応答信号を受信するとともに、航空機から送信されるモードS拡張スキッタを受信する受信部と、前記受信部で受信したモードS一括応答信号またはモードS個別応答信号を送信した航空機である監視対象の航空機の存在する方位および前記アンテナからの距離を検出するモードS応答処理部と、前記モードS応答処理部で検出した前記監視対象の航空機の方位および距離を用いて、前記アンテナの次スキャンにおける前記監視対象の航空機の予測範囲を算出する監視処理部と、前記予測範囲を用いて、次スキャンにおけるモードS個別質問信号の送信およびモードS個別応答信号の受信のためのスケジューリングを行うチャネル管理部とを備え、前記監視処理部は、前記チャネル管理部によるスケジューリングに応じたタイミングで前記監視対象の航空機からのモードS個別応答信号が前記受信部で得られず、モードS個別応答信号による監視が途切れた場合、当該航空機からのモードS拡張スキッタが前記受信部で受信されていれば、当該モードS拡張スキッタに含まれる航空機の位置情報を用いて、次スキャンにおける当該航空機の予測範囲を算出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の航空機監視方法は、監視空域をスキャンするアンテナを介して、オールコール期間において送信したモードS専用一括質問信号に対する航空機からのモードS一括応答信号を受信し、ロールコール期間において送信したモードS個別質問信号に対する航空機からのモードS個別応答信号を受信するステップと、航空機から送信されるモードS拡張スキッタを前記アンテナを介して受信するステップと、モードS一括応答信号またはモードS個別応答信号を送信した航空機である監視対象の航空機の存在する方位および前記アンテナからの距離を検出するステップと、前記監視対象の航空機の方位および距離を用いて、前記アンテナの次スキャンにおける前記監視対象の航空機の予測範囲を算出するステップと、前記予測範囲を用いて、次スキャンにおけるモードS個別質問信号の送信およびモードS個別応答信号の受信のためのスケジューリングを行うステップとを含み、前記予測範囲を算出するステップは、スケジューリングに応じたタイミングで前記監視対象の航空機からのモードS個別応答信号が得られず、モードS個別応答信号による監視が途切れた場合、当該航空機からのモードS拡張スキッタが受信されていれば、当該モードS拡張スキッタに含まれる航空機の位置情報を用いて、次スキャンにおける当該航空機の予測範囲を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のモードS二次監視レーダおよび航空機監視方法によれば、ビームスケジュールの使用効率の低下を抑制するとともに、航空機の監視の精度および信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るモードS二次監視レーダ、および航空機に搭載されるモードSトランスポンダの概略構成図である。
【図2】図1に示すモードS二次監視レーダの構成を示すブロック図である。
【図3】モードS拡張スキッタを検出する手順を示すフローチャートである。
【図4】モードS個別応答信号によるモードS機の監視が途切れた場合におけるモードS二次監視レーダの動作を示すフローチャートである。
【図5】ロールコール期間における予測範囲の拡大を説明するための概念図であり、(a)は通常時における予測範囲を示す図、(b)は拡大された予測範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係るモードS二次監視レーダ、および航空機に搭載されるモードSトランスポンダの概略構成図、図2は、図1に示すモードS二次監視レーダの構成を示すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、モードS二次監視レーダ1は、監視空域を方位(アジマス)方向に回転走査(スキャン)するアンテナ11と、アンテナ11を介して監視空域に質問信号を送信し、トランスポンダからの応答信号を受信する送受信部12と、質問応答を制御し、受信した応答信号に基づいて監視空域内の航空機の位置、識別情報等を含むターゲットレポートを生成して外部のレーダ情報処理システムに出力する処理部13とを備える。アンテナ11は、モノパルス測角に必要な和(Σ)、差(Δ)およびオムニ(Ω)の3種類の水平パターンを有する。モードS二次監視レーダ1は、空港や航空路の主要地点において地上に設置される。
【0022】
モードSトランスポンダ2は、アンテナ21と、アンテナ21を介してモードS二次監視レーダ1からの質問信号を受信して応答信号を送信する送受信部22と、受信した質問信号に対する応答信号を生成する信号処理部23とを備える。
【0023】
また、モードSトランスポンダ2は、放送型自動従属監視(ADS−B:Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)等に必要な情報を含むモードS拡張スキッタを約0.5秒間隔で送信する機能を有しており、モードS拡張スキッタを生成するADS−B処理部24を備える。モードS拡張スキッタには、モードSトランスポンダ2を搭載するモードS機がGNSS(Global Navigation Satellite System)等から取得した現在の緯度および経度を示す位置情報、およびモードS機の識別情報であるモードSアドレス等が含まれる。
【0024】
図2に示すように、モードS二次監視レーダ1の送受信部12は、送受信部12における信号の送受信を切り替える送受切替部121と、処理部13で生成された質問信号をアンテナ11および送受切替部121を介して送信する送信部122と、アンテナ11および送受切替部121を介してモードSトランスポンダ2、ATCRBSトランスポンダ(図示せず)からの信号を受信する受信部123とを備える。
【0025】
受信部123は、モノパルス測角処理に対応するマルチチャネル受信機であり、アンテナ11で受信した3つのチャネル(Σ,Δ,Ω)のRF(Radio Frequency)信号を、アンテナボアサイトの角度に1対1に対応したデジタルモノパルスデータと、量子化ビデオ信号とに変換し、これらを出力する。
【0026】
モードS二次監視レーダ1の処理部13は、モードS応答処理部131と、ATCRBS応答処理部132と、監視処理部133と、チャネル管理部134と、送信制御部135とを備える。
【0027】
モードS応答処理部131は、受信部123から量子化ビデオ信号として入力される信号から、モードS一括応答信号、モードS個別応答信号、およびモードS拡張スキッタを検出する。モードS一括応答信号、モードS個別応答信号、およびモードS拡張スキッタは、4パルスによるプリアンブルと、データブロックとにより構成され、モードS応答処理部131は、プリアンブルに基づいて、モードS一括応答信号、モードS個別応答信号、およびモードS拡張スキッタを検出する。
【0028】
また、モードS応答処理部131は、受信部から入力されたデジタルモノパルスデータを用いて、モードS一括応答信号、モードS個別応答信号を送信したターゲットのモードS機の存在する方位を検出する。また、モードS応答処理部131は、モードS一括応答信号、モードS個別応答信号の到着時刻、およびこれらの信号に対応する、先に送信されたモードS専用一括質問信号、モードS個別質問信号の送信時刻を用いて、アンテナ11からターゲットのモードS機までの距離を算出する。
【0029】
モードS応答処理部131は、モードS一括応答信号のデータブロック中のモードSアドレスと、モードS一括応答信号に応じて検出したターゲットのモードS機の方位と距離とを含むモードS一括応答ターゲット情報、およびモードS個別応答信号のデータブロック中のモードSアドレスと、モードS個別応答信号に応じて検出したターゲットのモードS機の方位と距離とを含むモードS個別応答ターゲット情報を監視処理部133に出力するとともに、モードS拡張スキッタを監視処理部133に出力する。
【0030】
ATCRBS応答処理部132は、受信部123から量子化ビデオ信号として入力される信号から、モードA/C応答信号を検出し、これに応じて受信部から入力されたデジタルモノパルスデータを用いて、モードA/C応答信号を送信したATCRBSトランスポンダ(図示せず)を搭載したターゲットのATCRBS機の存在する方位を検出する。また、ATCRBS応答処理部132は、モードA/C応答信号の到着時刻、およびモードA/C応答に対応する、先に送信されたモードA/C専用一括質問信号の送信時刻を用いて、アンテナ11からターゲットの航空機までの距離を算出する。
【0031】
ATCRBS応答処理部132は、モードA/C応答信号に応じて検出したターゲットのATCRBS機の方位と距離と、モードA/C応答信号に含まれるターゲットのATCRBS機の識別情報と高度情報とについて、スイープ間の相関を取り、同一のATCRBS機からの応答をまとめてモードA/Cターゲット情報として監視処理部133に出力する。
【0032】
監視処理部133は、モードS応答処理部131からのモードS一括応答ターゲット情報とモードS個別応答ターゲット情報、およびATCRBS応答処理部132からのモードA/Cターゲット情報を総括したターゲットレポートを生成し、これを外部のレーダ情報処理システムに出力する。
【0033】
また、監視処理部133は、モードS応答処理部131においてモードS一括応答信号またはモードS個別応答信号に応じて検出したターゲットのモードS機の方位および距離を用いて、アンテナ11の次スキャンにおけるターゲットのモードS機の方位と距離とによる予測位置およびそれに応じた予測範囲を算出し、その結果をチャネル管理部134に通知する。
【0034】
また、監視処理部133は、モードS応答処理部131から取得したモードS拡張スキッタをメモリ(図示せず)に保存し、保存しているモードS拡張スキッタの送信元と同じモードS機からのモードS拡張スキッタを新たに取得した場合は、新たに取得したモードS拡張スキッタに更新する。
【0035】
監視処理部133は、チャネル管理部134によるスケジューリングに応じたタイミングで個別質問による監視対象のモードS機からのモードS個別応答信号が得られず監視が途切れた場合、その航空機からのモードS拡張スキッタが受信部で受信されてメモリに保存されていれば、そのモードS拡張スキッタに含まれるモードS機の位置情報を用いて、次スキャンにおけるそのモードS機の予測位置およびそれに応じた予測範囲を算出する。
【0036】
チャネル管理部134は、モードS二次監視レーダ1におけるRFチャネルの利用を、オールコール期間およびロールコール期間に配分する。ロールコール期間については、チャネル管理部134は、監視処理部133で算出されたターゲットのモードS機の予測範囲を用いて、次スキャンのロールコール期間におけるモードS個別質問信号の送信およびモードS個別応答信号の受信のためのスケジューリングを行う。
【0037】
送信制御部135は、チャネル管理部134のスケジューリングにしたがって質問信号を生成し、これを送信部122に供給する。
【0038】
次に、モードS二次監視レーダ1の動作について説明する。
【0039】
オールコール期間において、送信制御部135は、チャネル管理部134の管理の下、ATCRBS機を対象とするモードA/C専用一括質問信号、モードS機を対象とするモードS専用質問信号を生成し、これらを送信部122に出力し、送受切替部121およびアンテナ11を介して監視空域に送信させる。
【0040】
モードA/C専用一括質問信号を受信したATCRBS機のATCRBSトランスポンダは、そのATCRBS機の識別情報および高度情報を含むモードA/C応答信号を送信する。
【0041】
モードS専用一括質問信号を受信したモードS機のモードSトランスポンダ2の信号処理部23は、自機のモードSアドレスをデータブロック中に含むモードS一括応答信号を生成し、これを送受信部22を介して送信する。この際、信号処理部23は、モードS専用一括質問信号に含まれるモードS二次監視レーダ1の識別情報であるサイトIDを、モードS一括応答信号のデータブロックのPI(Parity/Interrogator ID)フィールドのパリティに重ね書きする。
【0042】
モードSトランスポンダ2から送信されるモードA/C応答信号およびモードS一括応答信号は、モードS二次監視レーダ1のアンテナ11で受信され、送受切替部121を介して受信部123に出力される。
【0043】
受信部123は、アンテナ11から送受切替部121を介して入力される信号を、デジタルモノパルスデータと、量子化ビデオ信号とに変換し、これらをモードS応答処理部131およびATCRBS応答処理部132に出力する。
【0044】
モードS応答処理部131は、受信部123から量子化ビデオ信号として入力される信号から、プリアンブルパルスに基づいて、モードS一括応答信号を検出する。ここで、モードS応答処理部131は、モードS一括応答信号のデータブロックのPIフィールドのパリティに重ね書きされた値をデコードした結果が、モードS二次監視レーダ1のサイトID(自サイトID)と一致する場合に、正常な応答として処理対象とし、自サイトIDと一致しない場合は、その信号を処理対象外として破棄する。ただし、後述するように、モードS拡張スキッタについては破棄しない。
【0045】
そして、モードS応答処理部131は、処理対象のモードS一括応答信号、およびこれに対応したデジタルモノパルスデータ等に基づいて、モードS一括応答ターゲット情報を生成し、これを監視処理部133に出力する。
【0046】
ATCRBS応答処理部132は、受信部123から量子化ビデオ信号として入力される信号からモードA/C応答信号を検出し、このモードA/C応答信号、およびこれに対応したデジタルモノパルスデータ等に基づいて、ターゲットのATCRBS機の方位と距離とを検出する。
【0047】
そして、ATCRBS応答処理部132は、検出したターゲットのATCRBS機の方位と距離と、モードA/C応答信号に含まれるターゲットのATCRBS機の識別情報と高度情報とについて、スイープ間の相関を取り、同一のATCRBS機からの応答をまとめてモードA/Cターゲット情報として監視処理部133に出力する。
【0048】
監視処理部133は、モードS応答処理部131においてモードS一括応答信号に応じて検出したターゲットのモードS機の方位および距離を用いて、アンテナ11の次スキャンにおけるターゲットのモードS機の方位と距離とによる予測位置およびそれに応じた予測範囲を算出し、その結果をチャネル管理部134に通知する。
【0049】
チャネル管理部134は、監視処理部133で算出されたターゲットのモードS機の予測範囲を用いて、オールコール期間に受信したモードS一括応答信号の送信元である監視対象のモードS機の監視を継続するために、次スキャンにおけるモードS個別質問信号の送信およびモードS個別応答信号の受信のためのスケジューリングを行う。
【0050】
上記のようにして、オールコール期間においては、モードS二次監視レーダ1は、モードS機およびATCRBS機を捕捉する。ATCRBS機については、オールコール期間における監視を継続する。モードS機については、ロールコール期間において、オールコール期間で捕捉した監視対象のモードS機の監視を継続する。
【0051】
ロールコール期間においては、送信制御部135は、チャネル管理部134の管理の下、オールコール期間に受信したモードS一括応答信号から取得した監視対象のモードS機のモードSアドレスをデータブロック中に含む、監視対象のモードS機を対象とするモードS個別質問信号を生成し、これを送信部122に出力し、送受切替部121およびアンテナ11を介して送信させる。モードS個別質問信号には、ロックアウト指示が含まれる。モードS個別質問信号は、監視処理部133で算出された予測位置に応じた予測範囲内で、ロールコール期間ごとに送信される。
【0052】
自機のモードSアドレスを含むモードS個別質問信号を受信したモードS機のモードSトランスポンダ2の信号処理部23は、自機のモードSアドレスをデータブロック中に含むモードS個別応答信号を生成し、これを送受信部22を介して送信する。
【0053】
モードS個別応答信号は、モードS二次監視レーダ1のアンテナ11で受信され、送受切替部121を介して受信部123に出力される。
【0054】
受信部123は、アンテナ11から送受切替部121を介して入力される信号を、デジタルモノパルスデータと、量子化ビデオ信号とに変換し、これらをモードS応答処理部131およびATCRBS応答処理部132に出力する。
【0055】
モードS応答処理部131は、受信部123から量子化ビデオ信号として入力される信号から、プリアンブルパルスに基づいて、モードS個別応答信号を検出する。ここで、モードS応答処理部131は、モードS個別応答信号のデータブロック中のモードSアドレスが、予測アドレスと一致する場合に、正常な応答として処理対象とし、予測アドレスと一致しない場合は、その信号を処理対象外として破棄する。予測アドレスは、モードS個別応答信号に含まれるべきモードSアドレスであり、対応するモードS個別質問信号に含まれていたモードSアドレスである。なお、ATCRBS応答処理部132は、モードS個別応答信号が入力されても処理を行わない。
【0056】
そして、モードS応答処理部131は、処理対象のモードS個別応答信号、およびこれに対応したデジタルモノパルスデータ等に基づいて、モードS個別応答ターゲット情報を生成し、これを監視処理部133に出力する。
【0057】
監視処理部133は、モードS応答処理部131においてモードS個別応答信号に応じて検出した監視対象のモードS機の方位および距離を用いて、アンテナ11の次スキャンにおける監視対象のモードS機の方位と距離とによる予測位置およびそれに応じた予測範囲を算出し、その結果をチャネル管理部134に通知する。
【0058】
チャネル管理部134は、監視処理部133で算出された監視対象のモードS機の予測範囲を用いて、次スキャンにおけるモードS個別質問信号の送信およびモードS個別応答信号の受信のためのスケジューリングを行う。
【0059】
なお、前述のように、モードS個別質問信号は、監視処理部133で算出された予測位置に応じた予測範囲内で、ロールコール期間ごとに送信されるようにスケジューリングされる。このため、1回のスキャンの中で1つの監視対象のモードS機に対してモードS個別質問信号が複数回送信されるようにスケジューリングされることがあるが、この場合、例えば1回目のモードS個別質問信号に対してモードS個別応答信号が得られると、その旨がモードS応答処理部131からチャネル管理部134に通知され、チャネル管理部134による送信制御部135の制御により、そのスキャンにおけるそれ以降のモードS個別質問信号の送信は省略される。
【0060】
上記のように、モードS二次監視レーダ1では、モードS機およびATCRBS機を捕捉、監視するために用いるモードA/C応答信号、モードS一括応答信号、モードS個別応答信号を受信しているが、それ以外に、質問信号とは関係なくモードSトランスポンダ2から約0.5秒間隔で送信されているモードS拡張スキッタを受信する。
【0061】
従来、モードS拡張スキッタは、モードS二次監視レーダで受信されても処理対象外として破棄されていた。本実施の形態では、モードS拡張スキッタを、モードS個別応答信号によるモードS機の監視が途切れた場合に、そのモードS機の監視を継続するために用いる。
【0062】
そのため、モードS応答処理部131は、オールコール期間において、図3に示すフローチャートの手順でモードS拡張スキッタを検出している。なお、ロールコール期間においては、モードS応答処理部131は、チャネル管理部134のスケジューリングに応じた予想応答時刻内に検出されるモードS個別応答信号のみを受け付けており、モードS拡張スキッタは破棄している。
【0063】
図3のステップS10において、アンテナ11を介して信号を受信すると、受信部123は、アンテナ11で受信した3つのチャネル(Σ,Δ,Ω)のRF信号を、アンテナボアサイトの角度に1対1に対応したデジタルモノパルスデータと、量子化ビデオ信号とに変換し、これらを出力する。
【0064】
次いで、ステップS20において、モードS応答処理部131は、受信部123の出力を受けて、量子化ビデオ信号として入力される信号のデータブロックの前に位置するプリアンブルパルスに基づいて、モードS一括応答信号およびモードS拡張スキッタを検出し、これらの信号のデータブロックのPIフィールドのパリティに重ね書きされた値をデコードした結果が、モードS二次監視レーダ1の自サイトIDと一致する(PIフィールド=自サイトID)か否かを判断する。
【0065】
PIフィールド=自サイトIDである場合(ステップS20:YES)、ステップS30において、モードS応答処理部131は、受信した信号がモードS一括応答信号であると判定する。
【0066】
PIフィールド=自サイトIDでない場合(ステップS20:NO)、ステップS40において、モードS応答処理部131は、入力された信号のデータブロック中のフォーマット番号がモードS拡張スキッタのフォーマット番号である17または18であり、かつ、PIフィールドのパリティに重ね書きされた値をデコードした結果が0(PIフィールド=0)であるか否かを判断する。
【0067】
フォーマット番号が17または18であり、かつ、PIフィールド=0である場合(ステップS40:YES)、ステップS50において、モードS応答処理部131は、受信した信号がモードS拡張スキッタであると判定する。
【0068】
モードS応答処理部131は、モードS拡張スキッタを監視処理部133に出力する。監視処理部133は、モードS応答処理部131から取得したモードS拡張スキッタをメモリ(図示せず)に保存し、保存しているモードS拡張スキッタの送信元と同じモードS機からのモードS拡張スキッタを新たに取得した場合は、新たに取得したモードS拡張スキッタに更新し、各モードS機について常に最新のモードS拡張スキッタを保存するようにする。
【0069】
フォーマット番号が17でも18でもない、またはPIフィールド=0でない場合(ステップS40:NO)、ステップS60において、モードS応答処理部131は、受信した信号を処理対象外として破棄する。
【0070】
前述のように、モードS二次監視レーダ1では、ロールコール期間におけるモードS個別質問応答により、オールコール期間で捕捉した監視対象のモードS機の監視を継続する。しかし、モードS二次監視レーダ1では、モードS個別応答信号の未受信や、モードSトランスポンダ2側の質問未受信や応答抜け等が発生することがあり、このため、モードS個別応答信号によるモードS機の監視が途切れることがある。
【0071】
このようにモードS個別応答信号によるモードS機の監視が途切れた場合におけるモードS二次監視レーダ1の動作について、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0072】
ステップS110において、監視処理部133は、モードS個別応答信号による監視が途切れた監視対象のモードS機があるか否かを判断する。
【0073】
例えば、送受信部12において、チャネル管理部134によるスケジューリングに応じて、1回のスキャンの中で、ある監視対象のモードS機に対して複数のロールコール期間にわたってロールコール期間ごとに1回ずつモードS個別質問信号を送信したが、いずれのロールコール期間でも対応するモードS機からのモードS個別応答信号が得られなかった場合、監視処理部133は、そのモードS機の監視が途切れたと判断する。監視が途切れた監視対象のモードS機がある場合(ステップS110:YES)、ステップS120に進み、監視が途切れた監視対象のモードS機がない場合(ステップS110:NO)、ステップS150に進む。
【0074】
ステップS120では、監視処理部133は、監視が途切れたモードS機からのモードS拡張スキッタがメモリに保存されているか否かを判断する。保存されている場合(ステップS120:YES)、ステップS130に進み、保存されていない場合(ステップS120:NO)、ステップS140に進む。
【0075】
ステップS130では、モードS拡張スキッタを用いたロールコール処理が行われる。このモードS拡張スキッタを用いたロールコール処理において、監視処理部133は、メモリに保存された、監視が途切れたモードS機からの最新のモードS拡張スキッタに含まれるモードS機の位置情報を用いて、次スキャンにおけるそのモードS機の予測位置およびそれに応じた予測範囲を算出し、その結果をチャネル管理部134に通知する。そして、チャネル管理部134は、監視処理部133で算出された監視対象のモードS機の予測範囲を用いて、次スキャンにおけるモードS個別質問応答のスケジューリングを行う。
【0076】
ステップS140では、再捕捉のためのロールコール処理が行われる。この再捕捉のためのロールコール処理において、監視処理部133は、今回のスキャンにおける予測範囲を拡大した予測範囲を次スキャンにおける監視対象のモードS機の予測範囲として算出し、その結果をチャネル管理部134に通知する。そして、チャネル管理部134は、監視処理部133で算出された、拡大された予測範囲を用いて、次スキャンにおけるモードS個別質問応答のスケジューリングを行う。
【0077】
例えば、今回のスキャンにおいては、図5(a)に示すように、監視対象のモードS機100に対して、3つのロールコール期間にわたって合計3回のモードS個別質問信号を送信するようにスケジューリングされていたとすると、次スキャンにおいては、例えば図5(b)に示すように、監視対象のモードS機100に対して、5つのロールコール期間にわたって合計5回のモードS個別質問信号を送信するように予測範囲を拡大して、次スキャンにおける質問および応答のスケジューリングが行われる。
【0078】
予測範囲を拡大しても監視が途切れたモードS機からのモードS個別応答信号が得られない場合、その次のスキャンにおいて、さらに予測範囲の拡大が行われる。所定スキャン以上、監視が途切れたモードS機からのモードS個別応答信号が得られない場合は、そのモードS機に対するモードS個別応答信号の送信は停止され、そのモードS機は、ロックアウトの解除後、オールコール期間において通常の初期捕捉方法により再捕捉される。
【0079】
ステップS150では、通常のロールコール処理により、モードS一括応答信号またはモードS個別応答信号に基づき、監視処理部133は次スキャンにおける監視対象のモードS機の予測位置およびそれに応じた予測範囲を算出し、チャネル管理部134は予測範囲を用いて次スキャンにおけるモードS個別質問応答のスケジューリングを行う。
【0080】
上記説明のように本実施の形態によれば、監視対象のモードS機からのモードS個別応答信号が得られず、モードS個別応答信号による監視が継続できなくなった場合に、予測範囲の拡大を行わず、モードS拡張スキッタに含まれるモードS機の位置情報を用いて、次スキャンにおけるそのモードS機の予測位置およびそれに応じた予測範囲を算出し、これに応じたモードS個別質問応答のスケジューリングを行うことで、監視対象のモードS機の監視を継続する。これにより、予測範囲の拡大によるビームスケジュールの使用効率の低下を回避するとともに、ほぼ定期的に送信されているモードS拡張スキッタを監視の継続に用いることで、モードS機の監視の精度および信頼性を向上することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 モードS二次監視レーダ
11 アンテナ
12 送受信部
121 送受切替部
122 送信部
123 受信部
13 処理部
131 モードS応答処理部
132 ATCRBS応答処理部
133 監視処理部
134 チャネル管理部
135 送信制御部
2 モードSトランスポンダ
21 アンテナ
22 送受信部
23 信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視空域をスキャンするアンテナを介して、オールコール期間においてモードS専用一括質問信号を送信するとともに、ロールコール期間においてモードS個別質問信号を送信する送信部と、
前記アンテナを介して、モードS専用一括質問信号に対する航空機からのモードS一括応答信号を受信し、モードS個別質問信号に対する航空機からのモードS個別応答信号を受信するとともに、航空機から送信されるモードS拡張スキッタを受信する受信部と、
前記受信部で受信したモードS一括応答信号またはモードS個別応答信号を送信した航空機である監視対象の航空機の存在する方位および前記アンテナからの距離を検出するモードS応答処理部と、
前記モードS応答処理部で検出した前記監視対象の航空機の方位および距離を用いて、前記アンテナの次スキャンにおける前記監視対象の航空機の予測範囲を算出する監視処理部と、
前記予測範囲を用いて、次スキャンにおけるモードS個別質問信号の送信およびモードS個別応答信号の受信のためのスケジューリングを行うチャネル管理部とを備え、
前記監視処理部は、前記チャネル管理部によるスケジューリングに応じたタイミングで前記監視対象の航空機からのモードS個別応答信号が前記受信部で得られず、モードS個別応答信号による監視が途切れた場合、当該航空機からのモードS拡張スキッタが前記受信部で受信されていれば、当該モードS拡張スキッタに含まれる航空機の位置情報を用いて、次スキャンにおける当該航空機の予測範囲を算出することを特徴とするモードS二次監視レーダ。
【請求項2】
前記監視処理部は、モードS個別応答信号による監視が途切れた航空機からの最新のモードS拡張スキッタに含まれる航空機の位置情報を用いて、前記予測範囲を算出することを特徴とする請求項1に記載のモードS二次監視レーダ。
【請求項3】
監視空域をスキャンするアンテナを介して、オールコール期間において送信したモードS専用一括質問信号に対する航空機からのモードS一括応答信号を受信し、ロールコール期間において送信したモードS個別質問信号に対する航空機からのモードS個別応答信号を受信するステップと、
航空機から送信されるモードS拡張スキッタを前記アンテナを介して受信するステップと、
モードS一括応答信号またはモードS個別応答信号を送信した航空機である監視対象の航空機の存在する方位および前記アンテナからの距離を検出するステップと、
前記監視対象の航空機の方位および距離を用いて、前記アンテナの次スキャンにおける前記監視対象の航空機の予測範囲を算出するステップと、
前記予測範囲を用いて、次スキャンにおけるモードS個別質問信号の送信およびモードS個別応答信号の受信のためのスケジューリングを行うステップとを含み、
前記予測範囲を算出するステップは、スケジューリングに応じたタイミングで前記監視対象の航空機からのモードS個別応答信号が得られず、モードS個別応答信号による監視が途切れた場合、当該航空機からのモードS拡張スキッタが受信されていれば、当該モードS拡張スキッタに含まれる航空機の位置情報を用いて、次スキャンにおける当該航空機の予測範囲を算出することを特徴とする航空機監視方法。
【請求項4】
前記予測範囲を算出するステップは、モードS個別応答信号による監視が途切れた航空機からの最新のモードS拡張スキッタに含まれる航空機の位置情報を用いて、前記予測範囲を算出することを特徴とする請求項3に記載の航空機監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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