説明

モールド、その製造方法ならびに処理方法、および物品の製造方法

【課題】離型剤を用いない場合であっても離型性が良好なモールド、その製造方法、表面に付着した樹脂を除去するとともに離型性を回復させるモールドの処理方法、および表面に欠陥の少ない物品を生産性よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】フッ化アルミニウムを含む表層を有するモールド;アルミニウム基材10の表面に形成された酸化皮膜14を有するモールド18に、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施す工程を有するモールドの製造方法;酸化皮膜14の表面に樹脂が付着したモールド18に、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施して、樹脂を除去するモールドの処理方法;本発明のモールドを用い、該モールドの表面形状に対応した表面形状を有する物品を得る物品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールド、その製造方法ならびに処理方法、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有する物品は、反射防止効果、ロータス効果等を発現することが知られている。特に、略円錐形状の凸部を並べたモスアイ構造と呼ばれる微細凹凸構造は、空気の屈折率から物品の材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止の手段となる。
【0003】
微細凹凸構造を物品の表面に形成する方法としては、微細凹凸構造を表面に有するモールドと透明基材との間に液状の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を充填し、これに活性エネルギー線を照射して硬化させて、透明基材の表面に微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層を形成する方法、いわゆる光インプリント法が注目されている。
【0004】
また、該モールドとしては、簡便に製造できることから、複数の細孔を有する酸化皮膜をアルミニウム基材の表面に形成したモールドが注目されている(特許文献1)。該モールドは、通常、微細凹凸構造が形成された側の表面が離型剤によって処理されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、離型剤によって処理されたモールドの微細凹凸構造を透明基材の表面に繰り返し転写した場合、離型剤の剥離によって離型性が低下し、樹脂がモールドの表面に付着するという問題がある。そして、モールドの表面に樹脂が付着してしまうと、その部分の微細凹凸構造を転写できないため、物品の表面の微細凹凸構造に欠陥が生じる。また、新品のモールドと交換する必要があるため、物品を生産性よく製造できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−156695号公報
【特許文献2】特開2007−326367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、離型剤を用いない場合であっても離型性が良好なモールド、その製造方法、表面に付着した樹脂を除去するとともに離型性を回復させるモールドの処理方法、および表面に欠陥の少ない物品を生産性よく製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のモールドは、フッ化アルミニウムを含む表層を有することを特徴とする。
前記表層は、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜に、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施して形成されたものであることが好ましく、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜に、四フッ化炭素および分子状酸素を含む処理ガスを用いたケミカルドライエッチング処理を施して形成されたものであることがより好ましい。
前記表層は、微細凹凸構造を有することが好ましい。
前記微細凹凸構造は、アルミニウム基材の表面を陽極酸化して形成された酸化皮膜における複数の細孔からなるものであることが好ましい。
【0009】
本発明のモールドの製造方法は、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜に、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施すことを特徴とする。
前記ドライエッチング処理は、四フッ化炭素および分子状酸素を含む処理ガスを用いたケミカルドライエッチング処理であることが好ましい。
本発明のモールドの製造方法においては、前記ケミカルドライエッチング処理を、前記処理ガスをマイクロ波によりプラズマ化し、活性種を発生させるプラズマ発生部と、前記活性種によって前記酸化皮膜を処理する処理部とが分離したケミカルドライエッチング装置を用いて行うことが好ましい。
本発明のモールドの製造方法は、下記の工程(I)および工程(II)を有することが好ましい。
(I)アルミニウム基材の表面を陽極酸化し、複数の細孔からなる微細凹凸構造を有する酸化皮膜を形成する工程。
(II)酸化皮膜に、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施す工程。
【0010】
本発明のモールドの処理方法は、表面に樹脂が付着した、アルミニウム基材からなるモールドまたはアルミニウム基材の表面に酸化皮膜が形成されたモールドに、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施して、前記樹脂を除去することを特徴とする。
前記ドライエッチング処理は、四フッ化炭素および分子状酸素を含む処理ガスを用いたケミカルドライエッチング処理であることが好ましい。
【0011】
本発明の物品の製造方法は、本発明のモールド、本発明の製造方法によって得られたモールド、または本発明の処理方法によって再生されたモールドを用い、該モールドの表面形状に対応した表面形状を有する物品を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモールドは、離型剤を用いない場合であっても離型性が良好である。
本発明のモールドの製造方法によれば、離型剤を用いない場合であっても離型性が良好なモールドを製造できる。
本発明のモールドの処理方法によれば、表面に付着した樹脂を除去するとともに離型性を回復させることができる。
本発明の物品の製造方法によれば、表面に欠陥の少ない物品を生産性よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】酸化皮膜を表面に有するモールドの製造工程を示す断面図である。
【図2】XPSによるモールドの表面分析にて観測されるAl2p軌道スペクトルである。
【図3】XPSによるモールドの表面分析にて観測されるF1s軌道スペクトルである。
【図4】微細凹凸構造を表面に有する物品の製造装置の一例を示す構成図である。
【図5】微細凹凸構造を表面に有する物品の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、微細凹凸構造は、凸部または凹部の平均間隔が可視光波長以下、つまり400nm以下の構造を意味する。また、透明基材は、可視光を透過できる基材を意味する。また、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。また、活性エネルギー線は、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等を意味する。
【0015】
<モールド>
本発明のモールドは、フッ化アルミニウムを含む表層を有するものであり、通常は、アルミニウム基材の表面およびその近傍、またはその表面を覆う酸化皮膜の表面およびその近傍(以下、表面およびその近傍を表層と記す。)にフッ化アルミニウムを含むものである。
【0016】
(表層)
表層としては、形成が容易である点から、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜に、フッ素系ガス(四フッ化炭素、トリフルオロメタン等)を含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施して形成されたものが好ましく、アルミニウム基材や酸化皮膜へのダメージが少ない点から、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜に、四フッ化炭素および分子状酸素を含む処理ガスを用いたケミカルドライエッチング処理を施して形成されたものがより好ましい。ドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)による表層の形成方法については、後述のモールドの製造方法にて詳細に説明する。
【0017】
ドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)によって形成された表層は、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜の表層においてアルミニウムまたは酸化アルミニウムの少なくとも一部がフッ化アルミニウムに改質された層であればよく、離型性の点から、X線光電子分光法(XPS)による表面分析にてAl2p軌道スペクトルにAl metalやAl−Oのピークが実質的に観測されず、Al−Fのピークのみが実質的に観測される層であることが好ましい。XPSによる表面分析については、後述のモールドの製造方法にて詳細に説明する。
【0018】
表層としては、樹脂が付着しやすく、離型性が問題になりやすいため、本発明を適用することによって効果が十分に発揮される点から、微細凹凸構造を有するものが好ましい。
微細凹凸構造としては、樹脂が付着しやすく、離型性が問題になりやすいいため、本発明を適用することによって効果が十分に発揮される点から、アルミニウム基材の表面を陽極酸化して形成された酸化皮膜における複数の細孔からなるものが好ましい。
【0019】
(アルミニウム基材)
アルミニウム基材の形状としては、ロール状、円管状、平板状、シート状等が挙げられる。
アルミニウムの純度は、99質量%以上が好ましく、99.5質量%以上が好ましく、99.8質量%以上がより好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した時に、不純物の偏析により可視光を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下したりすることがある。
【0020】
(微細凹凸構造)
アルミニウム基材の表面を陽極酸化することによって形成される酸化皮膜の微細凹凸構造は、複数の細孔からなる。複数の細孔からなる微細凹凸構造を有する酸化皮膜の形成方法については、後述のモールドの製造方法にて詳細に説明する。
【0021】
細孔の形状としては、略円錐形状、角錐形状、円柱形状等が挙げられ、円錐形状、角錐形状等のように、深さ方向と直交する方向の細孔断面積が最表面から深さ方向に連続的に減少する形状が好ましい。
細孔間の平均間隔は、可視光の波長以下、すなわち400nm以下である。細孔間の平均間隔は、20nm以上が好ましい。
細孔間の平均間隔は、電子顕微鏡観察によって隣接する細孔間の間隔(細孔の中心から隣接する細孔の中心までの距離)を50点測定し、これらの値を平均したものである。
【0022】
細孔のアスペクト比(細孔の深さ/細孔間の平均間隔)は、0.8〜5.0が好ましく、1.2〜4.0がより好ましく、1.5〜3.0が特に好ましい。
細孔の深さは、電子顕微鏡観察によって倍率30000倍で観察したときにおける、細孔の最底部と、細孔間に存在する凸部の最頂部との間の距離を測定した値である。
【0023】
(作用効果)
以上説明した本発明のモールドにあっては、樹脂との親和性の低いフッ化アルミニウムを含む表層を有するため、離型剤を用いない場合であっても離型性が良好である。具体的には、アルミニウム基材またはその表面を覆う酸化皮膜にケミカルドライエッチング処理を施したモールドは、該モールドと、その表面に形成された硬化樹脂との間の剥離力を、ケミカルドライエッチング処理前のモールドに比べ、3割以上低減できる。
【0024】
<モールドの製造方法>
本発明のモールドの製造方法は、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜を有するモールドに、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施す方法である。
【0025】
アルミニウム基材の表面に酸化皮膜を形成する方法としては、陽極酸化等の公知の方法が挙げられる。
【0026】
ドライエッチングとしては、反応性イオンエッチング、ケミカルドライエッチング等の公知の処理が挙げられ、アルミニウム基材や酸化皮膜へダメージを与えやすいFイオンではなく、Fラジカルによる穏和な処理である点から、ケミカルドライエッチングが好ましく、プラズマによるアルミニウム基材や酸化皮膜へのダメージがない点から、処理ガスをマイクロ波によりプラズマ化し、活性種を発生させるプラズマ発生部と、活性種によって酸化皮膜を処理する処理部とが分離したケミカルドライエッチング装置を用いたケミカルドライエッチングがより好ましい。
【0027】
ケミカルドライエッチングは、四フッ化炭素(CF)および分子状酸素(O)を含む処理ガスをマイクロ波によりプラズマ化し、活性種(Fラジカル)を発生させ、該活性種(Fラジカル)によって酸化皮膜を処理する方法である。
CFのみをプラズマ化した場合、FラジカルおよびCF(n=1〜3)ラジカルが形成されるが、これらは再結合しやすく、長距離の輸送は不可能である。しかし、Oが存在すると、下記式(1)の反応によってCFが除去されるとともに新たなFラジカルが発生するため、プラズマ発生部と処理部とが1メートル程度離れていても、処理部において酸化皮膜を十分に処理できる。
CF+O→COF+(n−2)F ・・・(1)。
【0028】
プラズマ発生部へのCFとOとの合計の供給量、プラズマ発生部におけるマイクロ波の出力、処理部における圧力は、装置の構成や処理対象物の大きさ等に応じて、種々に設定される。プラズマ発生部におけるCF/(CF+O)の割合は、3.5〜18.5%が好ましい。CF/(CF+O)の割合が3.5%以上であれば、処理部においてアルミニウム基材や酸化皮膜を十分に処理できる。CF/(CF+O)の割合が18.5%以下であれば、FラジカルおよびCF(n=1〜3)ラジカルを効率よく処理部に輸送できる。
処理部における温度は、20〜100℃が好ましい。温度が20℃以上であれば、処理部においてアルミニウム基材や酸化皮膜を十分に処理できる。温度が100℃以下であれば、アルミニウム基材や酸化皮膜のダメージが抑えられる。
ケミカルドライエッチングによる酸化皮膜の処理時間は、15〜60分が好ましい。処理時間が15分以上であれば、処理部においてアルミニウム基材や酸化皮膜を十分に処理できる。処理時間が60分以下であれば、アルミニウム基材や酸化皮膜のダメージが抑えられる。
【0029】
本発明のモールドの製造方法においては、ドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)によって、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜の表層においてアルミニウムまたは酸化アルミニウムの少なくとも一部がフッ化アルミニウムに改質されればよく、離型性の点から、XPSによる表面分析にてAl2p軌道スペクトルにAl metalやAl−Oのピークが実質的に観測されず、Al−Fのピークのみが実質的に観測されるまで処理されることが好ましい。
【0030】
本発明のモールドの製造方法は、熱インプリント法や、光インプリント法等により、モスアイ構造を表面に有する物品の製造に好適なモールドが得られる点から、下記の工程(I)および工程(II)を有する方法が好ましい。
(I)アルミニウム基材の表面を陽極酸化し、複数の細孔からなる微細凹凸構造を有する酸化皮膜を形成する工程。
(II)酸化皮膜に、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施す工程。
【0031】
(工程(I))
工程(I)においては、アルミニウム基材の表面を陽極酸化し、複数の細孔からなる微細凹凸構造を有する酸化皮膜を形成する。
該方法としては、下記の工程(a)〜(f)を有する方法が好ましい。
(a)切削加工された、純度99.5質量%以上のアルミニウム基材を電解液中で陽極酸化してアルミニウム基材の表面に酸化皮膜を形成する工程。
(b)工程(a)の後、アルミニウム基材をクロム酸−リン酸混液に浸漬して酸化皮膜を除去する工程。
(c)工程(b)の後、アルミニウム基材を電解液中で再度陽極酸化して細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)工程(c)の後、アルミニウム基材を、酸化皮膜を溶解する溶液に浸漬して細孔の径を拡大させる工程。
(e)工程(d)の後、アルミニウム基材を電解液中で再度陽極酸化する工程。
(f)工程(d)と工程(e)を繰り返し行い、複数の細孔を有する陽極酸化アルミナがアルミニウム基材の表面に形成されたモールドを得る工程。
【0032】
工程(a):
図1に示すように、切削加工されたアルミニウム基材10を定電圧下、電解液中で陽極酸化すると、細孔12を有する酸化皮膜14が形成される。
アルミニウム基材の形状としては、ロール状、円管状、平板状、シート状等が挙げられる。
また、アルミニウム基材は、表面状態を平滑化にするために、機械研磨、羽布研磨、化学的研磨、電解研磨処理(エッチング処理)等で研磨されることが好ましい。また、アルミニウム基材は、所定の形状に切削加工する際に用いた油が付着していることがあるため、陽極酸化の前にあらかじめ脱脂処理されることが好ましい。
【0033】
アルミニウムの純度は、99質量%以上が好ましく、99.5質量%以上が好ましく、99.8質量%以上がより好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した時に、不純物の偏析により可視光を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下したりすることがある。
電解液としては、硫酸、シュウ酸、リン酸等が挙げられる。
【0034】
シュウ酸を電解液として用いる場合:
シュウ酸の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
化成電圧が30〜60Vの時、平均間隔が100nmの規則性の高い細孔を有する酸化皮膜を得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0035】
硫酸を電解液として用いる場合:
硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
化成電圧が25〜30Vの時、周期が63nmの規則性の高い細孔を有する酸化皮膜を得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向がある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0036】
工程(b):
図1に示すように、酸化皮膜14を一旦除去し、これを陽極酸化の細孔発生点16にすることで細孔の規則性を向上することができる。
【0037】
酸化皮膜を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、酸化皮膜を選択的に溶解する溶液に溶解させて除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸/リン酸混合液等が挙げられる。
【0038】
工程(c):
図1に示すように、酸化皮膜を除去したアルミニウム基材10を再度、陽極酸化すると、円柱状の細孔12を有する酸化皮膜14が形成される。
陽極酸化条件は、特に限定はないが、工程(a)と同様な条件または工程(a)より短い時間での陽極酸化を行う。
【0039】
工程(d):
図1に示すように、細孔12の径を拡大させる処理(以下、細孔径拡大処理と記す。)を行う。細孔径拡大処理は、酸化皮膜を溶解する溶液に浸漬して陽極酸化で得られた細孔の径を拡大させる処理である。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。細孔径拡大処理の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
【0040】
工程(e):
図1に示すように、再度、陽極酸化すると、円柱状の細孔12の底部から下に延びる、直径の小さい円柱状の細孔12がさらに形成される。
陽極酸化は、工程(a)と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0041】
工程(f):
図1に示すように、工程(d)の細孔径拡大処理と、工程(e)の陽極酸化を繰り返すと、直径が開口部から深さ方向に連続的に減少する形状の細孔12を有する酸化皮膜14が形成され、アルミニウム基材10の表面に陽極酸化ポーラスアルミナ(アルミニウムの多孔質の酸化皮膜)を有する、ドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)前のモールド18が得られる。最後は工程(d)または工程(e)のいずれで終了してもよいが、工程(d)で終了することが好ましい。
【0042】
繰り返し回数は、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔の直径が減少するため、このような細孔を有するモールドを用いて形成されたモスアイ構造の反射率低減効果は不十分である。
【0043】
(工程(II))
工程(II)においては、工程(I)において形成された酸化皮膜に、フッ素系ガス(四フッ化炭素、トリフルオロメタン等)を含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施し、酸化皮膜の表層において酸化アルミニウムの少なくとも一部をフッ化アルミニウムに改質して、フッ化アルミニウムを含む表層を形成する。
【0044】
図2は、XPSによるモールドの表面分析にて観測されるAl2p軌道スペクトルである。Aは、工程(I)で得られた、ドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)前のモールドであり、Bは、工程(I)で得られたモールドにケミカルドライエッチング処理(16分間)を1回施したモールドであり、Cは、工程(I)で得られたモールドにケミカルドライエッチング処理(16分間)を15回施したモールドである。ケミカルドライエッチング処理によって、Al−Oのピーク(74.5eV付近)がしだいに消滅し、Al−Fのピーク(75.5eV付近)の強度が高くなっていることが分かる。
【0045】
(作用効果)
以上説明した本発明のモールドの製造方法にあっては、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜を有するモールドに、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施し、アルミニウム基材や酸化皮膜の表層においてアルミニウムまたは酸化アルミニウムの少なくとも一部をフッ化アルミニウムに改質して、樹脂との親和性の低いフッ化アルミニウムを含む表層を形成しているため、離型剤を用いない場合であっても離型性が良好なモールドを製造できる。
【0046】
<モールドの処理方法>
本発明のモールドの処理方法は、表面に樹脂が付着した、アルミニウム基材からなるモールドまたはアルミニウム基材の表面に酸化皮膜が形成されたモールドに、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施して、樹脂を除去することでモールドを再生することを特徴とする。
【0047】
本発明のモールドの処理方法(再生方法)におけるドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)は、上述した本発明のモールドの製造方法におけるドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)と同様に行えばよい。
【0048】
酸化皮膜の表面に樹脂が付着したモールドとしては、例えば、下記のモールドが挙げられる。
(α)上述した工程(I)で得られた、ドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)前のモールドを、公知の離型剤で処理した後、後述する光インプリント法による物品の製造方法に用いることによって、硬化樹脂が表面に付着したモールド。
(β)上述した工程(I)で得られた、ドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)前のモールドを、上述した工程(II)でドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)した後、後述する光インプリント法による物品の製造方法に用いることによって、硬化樹脂が表面に付着したモールド。
【0049】
本発明のモールドの処理方法においては、表面に付着した硬化樹脂をドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)によって除去するとともに、酸化皮膜にドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)を施し、酸化皮膜の表層において酸化アルミニウムの少なくとも一部をフッ化アルミニウムに改質して、フッ化アルミニウムを含む表層を形成することができる点から、本発明のモールドの処理方法は、(α)のモールドの再生方法として特に有用である。
【0050】
図3は、XPSによるモールドの表面分析にて観測されるF1s軌道スペクトルである。Aは、上述した(α)のモールドであり、Bは、(α)のモールドにケミカルドライエッチング処理(16分間)を1回施したモールドであり、Cは、(α)のモールドにケミカルドライエッチング処理(16分間)を15回施したモールドである。ケミカルドライエッチング処理によって、離型剤に由来するC−Fのピーク(689.3eV付近)がしだいに消滅し、AlF・3HO」のピーク(686.8eV付近)の強度が高くなっていることが分かる。
【0051】
(作用効果)
以上説明した本発明のモールドの処理方法にあっては、表面に樹脂が付着した、アルミニウム基材からなるモールドまたはアルミニウム基材の表面に酸化皮膜が形成されたモールドに、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施して、樹脂を除去するとともに、アルミニウム基材や酸化皮膜の表層において酸化アルミニウムの少なくとも一部をフッ化アルミニウムに改質して、樹脂との親和性の低いフッ化アルミニウムを含む表層を形成しているため、表面に付着した樹脂を除去するとともに離型性を回復させることができる。
【0052】
<物品の製造方法>
本発明の物品の製造方法は、本発明のモールド、本発明の製造方法によって得られたモールド、または本発明の処理方法によって再生されたモールドを用い、公知の射出成形法、光インプリント法、熱インプリント法等によって、モールドの表面形状に対応した表面形状を有する物品を得る方法である。
【0053】
微細凹凸構造を表面に有するモールドを用い、光インプリント法によって透明基材の表面に微細凹凸構造を転写する方法の場合、具体的には、本発明のモールドと透明基材との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を充填し、これに活性エネルギー線を照射して硬化させて、モールドの微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層を透明基材の表面に形成し、硬化樹脂層が表面に形成された透明基材をモールドから剥離する方法が挙げられる。
【0054】
(透明基材)
透明基材の形状としては、フィルム、シート、射出成形品、プレス成形品等が挙げられる。
透明基材の材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)、ポリオレフィン、ガラス等が挙げられる。
【0055】
(製造装置)
微細凹凸構造を表面に有する物品は、例えば、図4に示す製造装置を用いて、下記のようにして製造される。
表面に微細凹凸構造(図示略)を有する、ドライエッチング処理(ケミカルドライエッチング処理)された、ロール状モールド20と、ロール状モールド20の表面に沿って移動する帯状のフィルム42(透明基材)との間に、タンク22から活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を供給する。
【0056】
ロール状モールド20と、空気圧シリンダ24によってニップ圧が調整されたニップロール26との間で、フィルム42および活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をニップし、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、フィルム42とロール状モールド20との間に均一に行き渡らせると同時に、ロール状モールド20の微細凹凸構造の凹部内に充填する。
【0057】
ロール状モールド20の下方に設置された活性エネルギー線照射装置28から、フィルム42を通して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させることによって、ロール状モールド20の表面の微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層44を形成する。
剥離ロール30により、表面に硬化樹脂層44が形成されたフィルム42をロール状モールド20から剥離することによって、図5に示すような物品40を得る。
【0058】
活性エネルギー線照射装置28としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が好ましく、この場合の光照射エネルギー量は、100〜10000mJ/cmが好ましい。
【0059】
硬化樹脂層44は、後述の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる膜であり、表面に微細凹凸構造を有する。
アルミニウム基材の表面を陽極酸化して得られたモールドを用いた場合の物品40の表面の微細凹凸構造は、酸化皮膜の複数の細孔からなる微細凹凸構造を転写して形成されたものであり、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる複数の凸部46を有する。
【0060】
微細凹凸構造としては、略円錐形状、角錐形状等の突起(凸部)が複数並んだ、いわゆるモスアイ構造が好ましい。突起間の間隔が可視光の波長以下であるモスアイ構造は、空気の屈折率から材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止の手段となることが知られている。
【0061】
凸部間の平均間隔は、可視光の波長以下、すなわち400nm以下が好ましい。陽極酸化アルミナのモールドを用いて凸部を形成した場合、凸部間の平均間隔は100nm程度となることから、200nm以下がより好ましく、150nm以下が特に好ましい。
【0062】
凸部間の平均間隔は、凸部の形成のしやすさの点から、20nm以上が好ましい。
凸部間の平均間隔は、電子顕微鏡観察によって隣接する凸部間の間隔(凸部の中心から隣接する凸部の中心までの距離)を50点測定し、これらの値を平均したものである。
【0063】
凸部のアスペクト比(凸部の高さ/凸部間の平均間隔)は、0.8〜5.0が好ましく、1.2〜4.0がより好ましく、1.5〜3.0が特に好ましい。凸部のアスペクト比が1.0以上であれば、反射率が十分に低くなる。凸部のアスペクト比が5.0以下であれば、凸部の耐擦傷性が良好となる。
凸部の高さは、電子顕微鏡によって倍率30000倍で観察したときにおける、凸部の最頂部と、凸部間に存在する凹部の最底部との間の距離を測定した値である。
【0064】
凸部の形状は、高さ方向と直交する方向の凸部断面積が最表面から深さ方向に連続的に増加する形状、すなわち、凸部の高さ方向の断面形状が、三角形、台形、釣鐘型等の形状が好ましい。
【0065】
硬化樹脂層44の屈折率とフィルム42の屈折率との差は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましい。屈折率差が0.2以下であれば、硬化樹脂層44とフィルム42との界面における反射が抑えられる。
【0066】
表面に微細凹凸構造を有する場合、その表面が疎水性の材料から形成されていればロータス効果により超撥水性が得られ、その表面が親水性の材料から形成されていれば超親水性が得られることが知られている。
【0067】
硬化樹脂層44の材料が疎水性の場合の微細凹凸構造の表面の水接触角は、90゜以上が好ましく、110゜以上がより好ましく、120゜以上が特に好ましい。水接触角が90゜以上であれば、水汚れが付着しにくくなるため、十分な防汚性が発揮される。また、水が付着しにくいため、着氷防止を期待できる。
【0068】
硬化樹脂層44の材料が親水性の場合の微細凹凸構造の表面の水接触角は、25゜以下が好ましく、23゜以下がより好ましく、21゜以下が特に好ましい。水接触角が25゜以下であれば、表面に付着した汚れが水で洗い流され、また油汚れが付着しにくくなるため、十分な防汚性が発揮される。該水接触角は、硬化樹脂層44の吸水による微細凹凸構造の変形、それに伴う反射率の上昇を抑える点から、3゜以上が好ましい。
【0069】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、重合性化合物および重合開始剤を含む。
重合性化合物としては、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー等が挙げられる。
【0070】
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、単官能モノマー、多官能モノマーが挙げられる。
単官能モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート誘導体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0071】
多官能モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等の二官能性モノマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等の三官能モノマー;コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等の四官能以上のモノマー;二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0072】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマーが挙げられ、エポキシ基を有するモノマーが特に好ましい。
【0073】
オリゴマーまたは反応性ポリマーとしては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとの縮合物等の不飽和ポリエステル類;ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性結合を有する上述のモノマーの単独または共重合ポリマー等が挙げられる。
【0074】
光硬化反応を利用する場合、光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
電子線硬化反応を利用する場合、重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド;メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
熱硬化反応を利用する場合、熱重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物;前記有機過酸化物にN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等のアミンを組み合わせたレドックス重合開始剤等が挙げられる。
【0077】
重合開始剤の量は、重合性化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。重合開始剤の量が0.1質量部未満では、重合が進行しにくい。重合開始剤の量が10質量部を超えると、硬化膜が着色したり、機械強度が低下したりすることがある。
【0078】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、非反応性のポリマー、活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物、帯電防止剤、防汚性を向上させるためのフッ素化合物等の添加剤、微粒子、少量の溶媒を含んでいてもよい。
【0079】
非反応性のポリマーとしては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン、セルロース系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物としては、アルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物等が挙げられる。
【0080】
アルコキシシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン等が挙げられる。
【0081】
アルキルシリケート化合物としては、メチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケート、アセチルシリケート等が挙げられる。
【0082】
(疎水性材料)
硬化樹脂層の微細凹凸構造の表面の水接触角を90°以上にするためには、疎水性の材料を形成し得る活性エネルギー線硬化性樹脂組成物として、フッ素含有化合物またはシリコーン系化合物を含む組成物を用いることが好ましい。
【0083】
フッ素含有化合物:
フッ素含有化合物としては、フッ素含有モノマー、フッ素含有シランカップリング剤、フッ素含有界面活性剤、フッ素含有ポリマー等が挙げられる。
【0084】
フッ素含有モノマーとしては、フルオロアルキル基置換ビニルモノマー、フルオロアルキル基置換開環重合性モノマー等が挙げられる。
フルオロアルキル基置換ビニルモノマーとしては、フルオロアルキル基置換(メタ)アクリレート、フルオロアルキル基置換(メタ)アクリルアミド、フルオロアルキル基置換ビニルエーテル、フルオロアルキル基置換スチレン等が挙げられる。
【0085】
フルオロアルキル基置換開環重合性モノマーとしては、フルオロアルキル基置換エポキシ化合物、フルオロアルキル基置換オキセタン化合物、フルオロアルキル基置換オキサゾリン化合物等が挙げられる。
【0086】
フッ素含有シランカップリング剤としては、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリアセトキシシラン、ジメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0087】
フッ素含有界面活性剤としては、フルオロアルキル基含有アニオン系界面活性剤、フルオロアルキル基含有カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0088】
フッ素含有ポリマーとしては、フルオロアルキル基含有モノマーの重合体、フルオロアルキル基含有モノマーとポリ(オキシアルキレン)基含有モノマーとの共重合体、フルオロアルキル基含有モノマーと架橋反応性基含有モノマーとの共重合体等が挙げられる。フッ素含有ポリマーは、共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0089】
シリコーン系化合物:
シリコーン系化合物としては、(メタ)アクリル酸変性シリコーン、シリコーン樹脂、シリコーン系シランカップリング剤等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸変性シリコーンとしては、シリコーン(ジ)(メタ)アクリレート等が挙げられ、例えば、信越化学工業社製のシリコーンジアクリレート「x−22−164」「x−22−1602」等が好ましく用いられる。
【0090】
(親水性材料)
硬化樹脂層の微細凹凸構造の表面の水接触角を25°以下にするためには、親水性の材料を形成し得る活性エネルギー線硬化性樹脂組成物として、少なくとも親水性モノマーを含む組成物を用いることが好ましい。また、耐擦傷性や耐水性付与の観点からは、架橋可能な多官能モノマーを含むものがより好ましい。なお、親水性モノマーと架橋可能な多官能モノマーは、同一(すなわち、親水性多官能モノマー)であってもよい。さらに、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、その他のモノマーを含んでいてもよい。
【0091】
親水性の材料を形成し得る活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、4官能以上の多官能(メタ)アクリレート、2官能以上の親水性(メタ)アクリレート、必要に応じて単官能モノマーを含む組成物を用いることがより好ましい。
【0092】
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合反応混合物、ウレタンアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL220、EBECRYL1290、EBECRYL1290K、EBECRYL5129、EBECRYL8210、EBECRYL8301、KRM8200)、ポリエーテルアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL81)、変性エポキシアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL3416)、ポリエステルアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL450、EBECRYL657、EBECRYL800、EBECRYL810、EBECRYL811、EBECRYL812、EBECRYL1830、EBECRYL845、EBECRYL846、EBECRYL1870)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、5官能以上の多官能(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0093】
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの割合は、10〜50質量%が好ましく、耐水性、耐薬品性の点から、20〜50質量%がより好ましく、30〜50質量%が特に好ましい。4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの割合が10質量%以上であれば、弾性率が高くなって耐擦傷性が向上する。4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの割合が50質量%以下であれば、表面に小さな亀裂が入りにくく、外観不良となりにくい。
【0094】
2官能以上の親水性(メタ)アクリレートとしては、アロニックスM−240、アロニックスM260(東亞合成社製)、NKエステルAT−20E、NKエステルATM−35E(新中村化学社製)等の長鎖ポリエチレングリコールを有する多官能アクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリエチレングリコールジメタクリレートにおいて、一分子内に存在するポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位の合計は、6〜40が好ましく、9〜30がより好ましく、12〜20が特に好ましい。ポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位が6以上であれば、親水性が十分となり、防汚性が向上する。ポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位が40以下であれば、4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとの相溶性が良好となり、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が分離しにくい。
【0095】
2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの割合は、30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの割合が30質量%以上であれば、親水性が十分となり、防汚性が向上する。2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの割合が80質量%以下であれば、弾性率が高くなって耐擦傷性が向上する。
【0096】
単官能モノマーとしては、親水性単官能モノマーが好ましい。
親水性単官能モノマーとしては、M−20G、M−90G、M−230G(新中村化学社製)等のエステル基にポリエチレングリコール鎖を有する単官能(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のエステル基に水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート、単官能アクリルアミド類、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート等のカチオン性モノマー類等が挙げられる。
また、単官能モノマーとして、アクリロイルモルホリン、ビニルピロリドン等の粘度調整剤、物品本体への密着性を向上させるアクリロイルイソシアネート類等の密着性向上剤等を用いてもよい。
【0097】
単官能モノマーの割合は、0〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。単官能モノマーを用いることにより、基材と硬化樹脂との密着性が向上する。単官能モノマーの割合が20質量%以下であれば、4官能以上の多官能(メタ)アクリレートまたは2官能以上の親水性(メタ)アクリレートが不足することなく、防汚性または耐擦傷性が十分に発現する。
【0098】
単官能モノマーは、1種または2種以上を(共)重合した低重合度の重合体として活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に0〜35質量部配合してもよい。低重合度の重合体としては、M−230G(新中村化学社製)等のエステル基にポリエチレングリコール鎖を有する単官能(メタ)アクリレート類と、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェートとの40/60共重合オリゴマー(MRCユニテック社製、MGポリマー)等が挙げられる。
【0099】
(用途)
物品40の用途としては、反射防止物品、防曇性物品、防汚性物品、撥水性物品、より具体的には、ディスプレー用反射防止、自動車メーターカバー、自動車ミラー、自動車窓、有機または無機エレクトロルミネッセンスの光取り出し効率向上部材、太陽電池部材等が挙げられる。
【0100】
(作用効果)
以上説明した本発明の物品の製造方法にあっては、離型剤を用いない場合であっても離型性が良好である本発明のモールド、本発明の製造方法によって得られたモールド、または本発明の処理方法によって再生されたモールドを用いているため、表面に欠陥の少ない物品を生産性よく製造できる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0102】
(陽極酸化アルミナの細孔)
陽極酸化アルミナの一部を削り、断面にプラチナを1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて、断面を観察し、細孔の間隔、細孔の深さを測定した。各測定は、それぞれ50点について行い、平均値を求めた。
【0103】
(剥離力)
垂直剥離力試験機(イマダ社製、デジタルフォースゲージZP−5Nおよび縦型電動計測スタンドMX−500N)を用意した。剥離力測定用サンプルの透明基材の一端をフォースゲージに固定し、300mm/minの速度で垂直に引き上げることで、モールドと硬化樹脂層との間の剥離力(N)を測定した。測定値の最大値前後の5点を平均し、さらに平均値を硬化樹脂層の最大幅で除して剥離力(N/mm)を求めた。
【0104】
(剥離状態)
剥離力を測定した後、モールドの表面を目視で観察し、離型不良の有無を確認した。離型不良とは、モールドの表面への樹脂の付着等の原因によって、モールドの微細凹凸構造側の表面に樹脂残りが発生し、モールドと硬化樹脂との剥離が困難になった状態である。
【0105】
(活性エネルギー線硬化性組成物Aの組成)
コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合反応混合物の45質量部、
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学社製)の45質量部、
ラジカル重合性シリコーンオイル(信越化学工業社製、X−22−1602)の10質量部、
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製、イルガキュア184)の3質量部。
【0106】
〔実施例1〕
50mm×50mm×厚さ0.3mmのアルミニウム板(純度99.99%)を電解研磨して、鏡面モールドを得た。
【0107】
ケミカルドライエッチング装置(芝浦メカトロニクス社製、CDE80N)を用いて、表1に示す条件にて鏡面モールドの表面にケミカルドライエッチング処理を施した。
【0108】
ケミカルドライエッチング処理された鏡面モールドの表面に、活性エネルギー線硬化性組成物Aを塗布し、透明基材であるポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:38μm)を被せた後、紫外線照射機(アイグラフィックス製、高圧水銀ランプ:積算光量400mJ/cm)から紫外線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物Aを硬化させ、透明基材/硬化樹脂層/モールドからなる剥離力測定用サンプルを作製した。評価結果を表2に示す。
【0109】
〔実施例2〕
ケミカルドライエッチング処理の条件を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、鏡面モールドおよび剥離力測定用サンプルを作製した。評価結果を表2に示す。
【0110】
〔比較例1〕
鏡面モールドの表面にケミカルドライエッチング処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にして、鏡面モールドおよび剥離力測定用サンプルを作製した。評価結果を表2に示す。
【0111】
〔実施例3〕
(工程(I))
50mm×50mm×厚さ0.3mmのアルミニウム板(純度99.99%)を、過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨しものを用意した。
工程(a):
該アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度16℃の条件で6時間陽極酸化を行った。
工程(b):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に3時間浸漬して、酸化皮膜を除去した。
【0112】
工程(c):
該アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒間陽極酸化を行った。
工程(d):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸水溶液に8分間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
工程(e):
該アルミニウム板について、工程(c)と同一条件下において、30秒間陽極酸化を行った。
【0113】
工程(f):
前記工程(d)および工程(e)を合計で4回繰り返し、最後に工程(d)を行い、平均間隔:100nm、深さ:240nmの略円錐形状の細孔を複数有する酸化皮膜が表面に形成されたモールド(微細凹凸構造を表面に有するモールド)を得た。
【0114】
(工程(II))
シャワーを用いて微細凹凸構造を表面に有するモールドの表面のリン酸水溶液を軽く洗い流した後、モールドを流水中に10分間浸漬した。
微細凹凸構造を表面に有するモールドにエアーガンからエアーを吹き付け、微細凹凸構造を表面に有するモールドの表面に付着した水滴を除去した。
ケミカルドライエッチング処理の条件を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、微細凹凸構造を表面に有するモールドの酸化皮膜にケミカルドライエッチング処理を施し、ついで剥離力測定用サンプルを作製した。評価結果を表2に示す。
【0115】
〔実施例4〕
ケミカルドライエッチング処理の条件を表1に示す条件に変更した以外は、実施例3と同様にして、微細凹凸構造を表面に有するモールドおよび剥離力測定用サンプルを作製した。評価結果を表2に示す。
【0116】
〔比較例2〕
モールドの酸化皮膜にケミカルドライエッチング処理を施さなかった以外は、実施例3と同様にして、微細凹凸構造を表面に有するモールドおよび剥離力測定用サンプルを作製した。評価結果を表2に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
ケミカルドライエッチング処理された鏡面モールド(実施例1、2)は、ケミカルドライエッチング処理前の鏡面モールド(比較例1)に比べ、剥離力を5割以上低減できた。
ケミカルドライエッチング処理前の、微細凹凸構造を表面に有するモールド(比較例2)では、硬化樹脂層がモールドからまったく剥がれなかったが、ケミカルドライエッチング処理された、微細凹凸構造を表面に有するモールド(実施例3、4)は、剥離不良がほとんどなく、良好な離形性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、反射防止物品、防曇性物品、防汚性物品、撥水性物品の効率的な量産にとって有用である。
【符号の説明】
【0121】
10 アルミニウム基材
12 細孔(微細凹凸構造)
14 酸化皮膜
18 モールド
20 ロール状モールド
40 物品
46 凸部(微細凹凸構造)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化アルミニウムを含む表層を有する、モールド。
【請求項2】
前記表層が、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜に、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施して形成されたものである、請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
前記表層が、アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜に、四フッ化炭素および分子状酸素を含む処理ガスを用いたケミカルドライエッチング処理を施して形成されたものである、請求項1または2に記載のモールド。
【請求項4】
前記表層が、微細凹凸構造を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のモールド。
【請求項5】
前記微細凹凸構造が、アルミニウム基材の表面を陽極酸化して形成された酸化皮膜における複数の細孔からなる、請求項4に記載のモールド。
【請求項6】
アルミニウム基材またはその表面に形成された酸化皮膜に、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施す、モールドの製造方法。
【請求項7】
前記ドライエッチング処理が、四フッ化炭素および分子状酸素を含む処理ガスを用いたケミカルドライエッチング処理である、請求項6に記載のモールドの製造方法。
【請求項8】
前記ケミカルドライエッチング処理を、前記処理ガスをマイクロ波によりプラズマ化し、活性種を発生させるプラズマ発生部と、前記活性種によって前記酸化皮膜を処理する処理部とが分離したケミカルドライエッチング装置を用いて行う、請求項7に記載のモールドの製造方法。
【請求項9】
下記の工程(I)および工程(II)を有する、請求項6〜8のいずれかに記載のモールドの製造方法。
(I)アルミニウム基材の表面を陽極酸化し、複数の細孔からなる微細凹凸構造を有する酸化皮膜を形成する工程。
(II)酸化皮膜に、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施す工程。
【請求項10】
表面に樹脂が付着した、アルミニウム基材からなるモールドまたはアルミニウム基材の表面に酸化皮膜が形成されたモールドに、フッ素系ガスを含む処理ガスを用いたドライエッチング処理を施して、前記樹脂を除去する、モールドの処理方法。
【請求項11】
前記ドライエッチング処理が、四フッ化炭素および分子状酸素を含む処理ガスを用いたケミカルドライエッチング処理である、請求項10に記載のモールドの処理方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載のモールドを用い、該モールドの表面形状に対応した表面形状を有する物品を得る、物品の製造方法。
【請求項13】
請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法によって得られたモールドを用い、該モールドの表面形状に対応した表面形状を有する物品を得る、物品の製造方法。
【請求項14】
請求項10または11に記載の処理方法によって再生されたモールドを用い、該モールドの表面形状に対応した表面形状を有する物品を得る、物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−224900(P2011−224900A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97814(P2010−97814)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】