説明

モールド、インプリント装置、インプリント方法及び物品の製造方法

【課題】インプリント装置における重ね合わせ精度の改善に有利な技術を提供する。
【解決手段】基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で当該樹脂を硬化させて前記基板にパターンを転写するインプリント装置に用いられるモールドであって、前記基板に転写すべきパターンが形成された矩形形状のパターン部と、前記パターン部が配置される表面の前記パターン部の周囲に形成され、第1開口をそれぞれ含む複数の第1開口部と、前記表面とは反対側の裏面に形成され、第2開口をそれぞれ含む複数の第2開口部と、前記複数の第1開口部のそれぞれと前記複数の第2開口部のそれぞれとを接続する複数の配管と、を含む基部と、を有し、前記表面において前記パターン部の各辺を延長した線を境界線として規定される複数の領域のうち、前記パターン部の頂点のみで前記パターン部と接する領域を面とする前記基部の部分に前記複数の配管の総体積の8割以上が存在するように、前記複数の配管が配置されていることを特徴とするモールドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールド、インプリント装置、インプリント方法及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMS(Micro Electro Mechanical System)などを製造するためのリソグラフィ装置として、インプリント装置が知られている。インプリント装置は、インプリント技術を利用して、基板上の樹脂にパターン(微細な構造)を有するモールドを押し付けた状態で樹脂を硬化させてパターンを転写する装置である。
【0003】
インプリント装置は、32nm程度のハーフピッチを有する半導体デバイスの製造に適用することが考えられている。この場合、ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)によれば、6.4nmの重ね合わせ精度が必要とされている。従って、インプリント装置では、基板上の樹脂にモールドを押し付ける際に、基板上に形成されたパターンの倍率(サイズ)とモールドのパターン(基板上に転写すべきパターン)の倍率とを数nm以下の精度で一致させる必要がある。
【0004】
モールドは、作製時にはパターン面が上向きであるが、使用時にはパターン面が下向きとなる(即ち、姿勢が異なる)ため、重力の影響などでパターンが変形してしまう。また、モールドにパターンを形成する際に、電子ビーム描画装置の光学系における歪曲収差などによってモールドのパターンに歪が生じてしまうこともある。なお、歪を生じることなくモールドのパターンを形成できたとしても、基板上に形成されたパターンに歪(変倍)が生じていれば、重ね合わせ精度が低下してしまう。例えば、加熱プロセス(成膜やスパッタリングなど)を経るにつれて基板は拡大又は縮小し、基板上に形成されたパターンの倍率が各方向(例えば、X軸方向とY軸方向)で異なってしまう。実際のプロセスでは、基板に±10ppm程度の変倍が発生し、基板上に形成されたパターンにおけるX軸方向とY軸方向との倍率差も10ppm程度発生している。このような重ね合わせ精度を低下させてしまう要因、即ち、基板上に形成されたパターンの倍率とモールドのパターンの倍率との不一致(例えば、基板上に形成されたパターンに対するモールドのパターンの変形(収差))をディストーションと称する。
【0005】
ディストーションが発生した場合、ステッパーやスキャナーなどの露光装置では、基板の変形に応じて露光時の各ショット領域のサイズを変化させている。例えば、スキャナーでは、投影光学系の縮小倍率を基板の倍率(即ち、基板上に形成されたパターンの倍率)に応じて数ppm程度変更すると共に、基板の倍率に応じて基板及びレチクルの走査速度を数ppm程度変化させる。このように、露光装置では、ディストーションが発生したとしても、基板上に転写すべきパターンの倍率を補正することで高精度な重ね合わせを実現している。
【0006】
一方、インプリント装置は、投影光学系を備えていないことに加えて、基板上の樹脂とモールドとが直接接触するため、ディストーションが発生した場合において、露光装置で行われているような補正を適用することができない。そこで、インプリント装置では、モールドのパターンの倍率を基板上に形成されたパターンの倍率に一致させるために、モールド(のパターン)を物理的に変形させる倍率補正機構を備えている。倍率補正機構は、例えば、モールドの外周から外力を与えることで、或いは、モールドを加熱する(即ち、モールドを膨張させる)ことで、モールドを物理的に変形させている。
【0007】
また、インプリント装置には、基板上の樹脂にモールドを接触させてからモールドのパターンに樹脂が充填されるまでに要する時間を短くすることが求められている。そこで、モールドのパターン面を基板に対して凸形状に変形させるためのキャビティや基板とモールドとの間の雰囲気ガス及び圧力を変化させるための配管などが形成されたモールドが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−532245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
倍率補正機構において、モールド(のパターン)を所望の形状に変形させるためには、モールドの構造を一様にして、モールドの外周から与えた外力がモールド面に均一に伝わるようにする必要がある。しかしながら、モールドにキャビティや配管を形成するとモールドの構造が複雑になってしまうため、モールドの構造の一様性が失われてしまう可能性が高く、倍率補正機構を用いても、数nm以下の精度でモールドを変形させることは困難である。その結果、基板上に形成されたパターンの倍率とモールドのパターンの倍率とを数nm以下の精度で一致させること、即ち、インプリント装置に必要とされる重ね合わせ精度を実現することが難しくなってしまう。
【0010】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、インプリント装置における重ね合わせ精度の改善に有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのモールドは、基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で当該樹脂を硬化させて前記基板にパターンを転写するインプリント装置に用いられるモールドであって、前記基板に転写すべきパターンが形成された矩形形状のパターン部と、前記パターン部が配置される表面の前記パターン部の周囲に形成され、第1開口をそれぞれ含む複数の第1開口部と、前記表面とは反対側の裏面に形成され、第2開口をそれぞれ含む複数の第2開口部と、前記複数の第1開口部のそれぞれと前記複数の第2開口部のそれぞれとを接続する複数の配管と、を含む基部と、を有し、前記表面において前記パターン部の各辺を延長した線を境界線として規定される複数の領域のうち、前記パターン部の頂点のみで前記パターン部と接する領域を面とする前記基部の部分に前記複数の配管の総体積の8割以上が存在するように、前記複数の配管が配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、インプリント装置における重ね合わせ精度の改善に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一側面としてのモールドを適用したインプリント装置の構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態におけるモールドの構造を示す図である。
【図3】第2の実施形態におけるモールドの構造を示す図である。
【図4】第3の実施形態におけるモールドの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明の一側面としてのモールドを適用したインプリント装置1の構成を示す図である。インプリント装置1は、半導体デバイスなどの製造工程で使用されるリソグラフィ装置である。インプリント装置1は、基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で樹脂を硬化させ、硬化した樹脂からモールドを剥離(離型)することで基板にモールドのパターン(凹凸パターン)を転写するインプリント処理を行う。インプリント装置1は、本実施形態では、樹脂硬化法として、紫外線の照射によって樹脂を硬化させる光硬化法を採用する。また、本実施形態では、図1に示すように、モールドに対して紫外線を照射する方向に平行な軸をZ軸とし、Z軸に対して直交する方向をX軸及びY軸とする。
【0017】
インプリント装置1は、照射部4と、モールド3を保持するモールド保持部5と、基板2を保持する基板保持部6と、樹脂供給部7と、アライメント計測部8と、ガス給排部9と、圧力調整部10と、制御部18とを有する。また、インプリント装置1は、基板保持部6を保持するためのベース定盤20と、モールド保持部5を保持するためのブリッジ定盤21と、ブリッジ定盤21を支持するための支柱22とを有する。
【0018】
基板2は、モールド3のパターンが転写される基板であって、例えば、単結晶シリコンウエハやSOI(Silicon on Insulator)ウエハなどを含む。基板2には、紫外線硬化型の樹脂が供給(塗布)される。
【0019】
モールド3は、矩形形状の外形を有し、基板2に対向する面に、基板2(に供給された樹脂)に転写する凹凸パターンが3次元形状に形成された型(原版)である。モールド3は、紫外線を透過する材料(例えば、石英など)で構成される。モールド3には、基板2とモールド3との間のガス及び圧力を制御するための配管などが配置されている。モールド3は、かかる配管を介して、ガス給排部9に接続されている。また、モールド3には、モールド3の形状(詳細には、パターン部の形状)を変形させるための凹形状のキャビティ25が形成されていてもよい。
【0020】
照射部4は、インプリント処理を行う際に、モールド3を介して、基板2の上の樹脂に紫外線を照射する。照射部4は、紫外線を発する光源11と、光源11から発せられた紫外線をインプリント処理に適切な紫外線に調整するための複数の光学素子12とを含む。なお、樹脂硬化法として熱硬化法を採用する場合には、照射部4は、樹脂(熱硬化型の樹脂)を加熱する熱源部に置換される。
【0021】
モールド保持部5は、モールド3を保持(固定)して、基板2(の上の樹脂)にモールド3を押し付ける(インプリントする)ための機構である。モールド保持部5は、モールドチャック13と、モールドステージ14と、倍率補正機構(変形部)15とを含む。モールドチャック13は、モールド3を機械的に保持(例えば、吸着)し、モールドステージ14に載置される。モールドステージ14は、モールド3のパターンを基板2に転写する際に、基板2とモールド3との間隔を位置決めするための駆動系を含み、モールド3をZ軸方向に駆動する。モールド3のパターンを基板2に転写する際には、高精度な位置決めが要求されるため、モールドステージ14の駆動系は、粗動駆動系及び微動駆動系で構成される。また、モールドステージ14の駆動系は、Z軸方向だけではなく、X軸方向、Y軸方向及びθ(Z軸周りの回転)方向の位置調整機能やモールド3の傾きを補正するためのチルト機能を備えていてもよい。倍率補正機構15は、モールド3のパターンの倍率(サイズ)を補正する機能を有する。倍率補正機構15は、本実施形態では、モールドチャック13に支持され、モールド3の側面(詳細には、基部の側面)に力を加えてモールド3の形状(詳細には、パターン部の形状)を変形させる。
【0022】
基板保持部6は、基板2を保持(固定)し、インプリント処理を行う際に、基板2とモールド3との位置合わせを行うための機構である。基板保持部6は、基板チャック16と、基板ステージ17とを含む。基板チャック16は、基板2を機械的に保持(例えば、吸着)し、基板ステージ17に載置される。また、基板チャック16には、モールド3の位置合わせを行う際に用いられる基準マーク23が配置されている。基板ステージ17は、基板2とモールド3との位置合わせを行うための駆動系を含む。基板ステージ17の駆動系は、基板2をX軸方向及びY軸方向に駆動し、粗動駆動系及び微動駆動系で構成される。また、基板ステージ17の駆動系は、X軸方向及びY軸方向だけではなく、Z軸方向及びθ(Z軸周りの回転)方向の位置調整機能や基板2の傾きを補正するためのチルト機能を備えていてもよい。
【0023】
樹脂供給部7は、基板2の上に、紫外線の照射によって硬化する性質を有する紫外線硬化型の樹脂を供給する。樹脂供給部7は、例えば、樹脂を吐出(滴下)するノズルを含むディスペンサヘッドで構成される。基板2の上に供給される樹脂の量は、必要となる厚さや転写するパターンの密度などに応じて決定される。
【0024】
アライメント計測部8は、基板2の上に形成されたアライメントマークとモールド3に形成されたアライメントマークとの位置ずれ(X軸方向及びY軸方向の位置ずれ)を計測する。
【0025】
ガス給排部9は、インプリント処理を行う際に、モールド3に配置された配管を介して、基板2とモールド3との間にガス(凝縮性ガス)を供給する。また、ガス給排部9は、インプリント処理を行う際に、モールド3に配置された配管を介して、基板2とモールド3との間のガスを排気する。これにより、基板2の上の樹脂にモールド3を接触させてからモールド3のパターンに樹脂が充填されるまでの時間を短縮すると共に、モールド3のパターンにおける樹脂の充填欠陥を低減することができる。
【0026】
圧力調整部10は、モールド3に形成されたキャビティ25の圧力を調整する。例えば、圧力調整部10は、キャビティ25の圧力が外部の圧力よりも高くなるように、キャビティ25の圧力を調整することで、モールド3の形状が基板側に凸形状となるようにモールド3を撓ませる。これにより、基板2の上の樹脂にモールド3を押し付ける際に、モールド3がパターンの中心部から樹脂に接触することになる。従って、基板2の上の樹脂とモールド3との間に空気が閉じ込められてしまうことを抑制し、モールド3のパターンにおける樹脂の充填欠陥を低減することができる。
【0027】
制御部18は、CPUやメモリなどを含み、インプリント装置1の全体動作(インプリント装置1の各部)を制御する。例えば、制御部18は、インプリント処理を行う際に、基板2に形成されたパターンのサイズとモールド3のパターンのサイズとが一致するように、倍率補正機構15によるモールド3の変形を制御する。
【0028】
以下、各実施形態において、モールド3の具体的な構造について説明する。
【0029】
<第1の実施形態>
図2は、第1の実施形態におけるモールド3の構造を示す図である。図2(a)は、基板側(表面側)から見たモールド3を示す図であり、図2(b)は、図2(a)に示すモールド3のA−A断面図である。モールド3は、基板2に転写すべきパターン(例えば、回路パターンなどの凹凸パターン)が形成された矩形形状のパターン部210と、基板側の面を表面220aとし、表面とは反対側の面を裏面220bとする基部220とを含む。
【0030】
基部220の表面220aには、パターン部210が配置されている。また、基部220の表面220aにおけるパターン部210の周囲には、第1開口232をそれぞれ含む複数の第1開口部230が形成されている。本実施形態では、図2(a)に示すように、4つの第1開口部230が形成されているが、第1開口部230の数は限定されるものではない。第1開口部230のそれぞれは、本実施形態では、パターン部210の直交する2つの辺のそれぞれに沿ったL字型形状の溝234を含み、かかる溝234に第1開口232が形成されている。
【0031】
一方、基部220の裏面220bには、表面220aに形成された第1開口部230に対応して、第2開口242をそれぞれ含む複数の第2開口部240が形成されている。
【0032】
また、基部220には、複数の第1開口部230のそれぞれと複数の第2開口部240のそれぞれとを接続する複数の配管250が配置されている。ここで、基部220における配管250の配置について説明する。図2(c)に示すように、基部220の表面220aにおいて、パターン部210の各辺を延長した線LN1、LN2、LN3及びLN4を境界線として、8つの領域AR1、AR2、AR3、AR4、AR5、AR6、AR7及びAR8を規定する。そして、領域AR1乃至AR8のうち、パターン部210の頂点のみでパターン部210と接する領域AR1、AR2、AR3及びAR4を面とする基部220の部分に配管250の総体積の8割以上が存在するように、配管250を配置する。このような配管250の配置によって、倍率補正機構15がモールド3の基部220の側面220cに力を加えたときに、パターン部210に伝わる力の均一性が維持され、パターン部210を高精度に(例えば、数nm以下の精度で)変形させることができる。従って、基板2の上に形成されたパターンのサイズとモールド3のパターンのサイズとを数nm以下の精度で一致させること、即ち、インプリント装置1に必要とされる重ね合わせ精度を実現することが可能となる。また、倍率補正機構15によるパターンの倍率補正の精度を考えると、溝234の深さを浅くする(上述したように、数十μmから数mm程度)とよい。
【0033】
配管250は、ガス給排部9に接続され、基板2とモールド3との間、即ち、溝234の近傍にガスを供給したり、溝234の近傍からガスを排気したりする際に使用される。本実施形態では、インプリント処理を行う際に、配管250(第1開口232及び第2開口242)及び溝234を介して、基板2とモールド3との間(溝234の近傍)のガスや圧力を制御する。これにより、上述したように、モールド3のパターンに樹脂が充填されるまでの時間を短縮すると共に、モールド3のパターンにおける樹脂の充填欠陥を低減することができる。
【0034】
また、基板2の周辺ショット領域にインプリント処理を行う場合において、基板2とモールド3との間(溝234の近傍)のガスや圧力を制御するためには、図2(a)に示すように、パターン部210の周囲を取り囲むように複数の溝234を形成するとよい。基板2の周辺ショット領域にインプリント処理を行う場合には、モールド3のパターン部210の一部が基板2と重ならず、基板2の外側の領域に位置することになる。この際、パターン部210の周囲を取り囲むように複数の溝234を形成することで、少なくとも1つ以上の溝234が基板2と重なるため、かかる溝234を介して、基板2とモールド3との間のガスや圧力を制御することが可能となる。
【0035】
また、溝234の形状は、L字型形状に限定されるものではなく、例えば、円弧形状などであってもよい。更に、例えば、図2(d)に示すように、溝234を入れ子状に形成して、溝234がパターン部210の周囲を多重に取り囲むようにしてもよい。溝234の形状がL字型形状である場合には、溝234の先端がパターン部210の各辺の中心付近に位置するが、溝234を入れ子状に形成する場合には、溝234の先端がパターン部の頂点付近に位置する。溝234の先端がパターン部210の各辺の中心付近に位置する場合には、倍率補正機構15がモールド3の基部220の側面220cに力を加えたときに、パターン部210に伝わる力の均一性がパターン部210の各辺の中心付近で崩れる可能性がある。一方、溝234の先端がパターン部の頂点付近に位置する場合には、倍率補正機構15がモールド3の基部220の側面220cに力を加えたときに、パターン部210に伝わる力の均一性がパターン部210の各辺全体において維持される。従って、パターン部210を高精度に変形させることができ、基板2の上に形成されたパターンのサイズとモールド3のパターンのサイズとを数nm以下の精度で一致させることができる。
【0036】
また、第1開口部230(第1開口232及び溝234)は、多孔質体で構成してもよい。第1開口部230を多孔質体で構成することで、モールド3の基部220における剛性の不均一性を抑えることが可能となる。従って、倍率補正機構15がモールド3の基部220の側面220cに力を加えたときに、パターン部210に伝わる力の均一性を更に維持することができる。
【0037】
また、配管250(第2開口242)に接続する配管をモールドチャック13に形成することを考えると、配管250は、モールド3又はパターン部210の中心に対して同心円上に配置されるとよい。更に、倍率補正機構15によるパターンの倍率補正の精度を考えると、第1開口部230(第1開口232)、第2開口部240(第2開口242)及び配管250は、それぞれモールド3又はパターン部210の中心に対して点対称となるように配置されるとよい。
【0038】
<第2の実施形態>
図3は、第2の実施形態におけるモールド3の構造を示す図である。図3(a)は、基板側(表面側)から見たモールド3を示す図であり、図3(b)は、図3(a)に示すモールド3のB−B断面図である。
【0039】
基部220の表面220aにおけるパターン部210の周囲には、第1開口232をそれぞれ含む複数の第1開口部230が形成されている。本実施形態では、図3(a)に示すように、4つの第1開口部230が形成されているが、第1開口部230の数は限定されるものではない。第1開口部230のそれぞれは、本実施形態では、パターン部210の直交する2つの辺のそれぞれに沿ったL字型形状の溝234を含み、かかる溝234に第1開口232が形成されている。
【0040】
一方、基部220の裏面220bには、表面220aに形成された第1開口部230に対応して、第2開口242をそれぞれ含む複数の第2開口部240が形成されている。
【0041】
また、基部220には、複数の第1開口部230のそれぞれと複数の第2開口部240のそれぞれとを接続する複数の配管250が配置されている。本実施形態では、第1開口232と第2開口242とは同軸上には形成されていないため、配管250は、第1開口232と第2開口242を接続するために、パターン部210が配置される表面220aに平行な方向に延在する水平部分252を含む。倍率補正機構15によるパターンの倍率補正の精度を考えると、パターン部210の近傍におけるモールド3の構造が一様であることが求められる。従って、図3(a)に示すように、第1開口232と第2開口242とを接続するための水平部分252を配管250に形成し、パターン部210の近傍におけるモールド3の構造の一様性を維持することで、パターンの倍率補正の精度の低下を低減するとよい。
【0042】
また、図3(c)及び図3(d)に示すように、モールド3にキャビティ25が形成されている場合を考えると、キャビティ25に配管250を配置(形成)することは、モールド3の構造の複雑化を招くため、避ける必要がある。そこで、図3(a)及び図3(b)に示すように、キャビティ25を表面220aに投影させた場合に、第1開口232を投影されたキャビティ25と重なる領域に形成し、第2開口242を裏面220bにおいてキャビティ25の外側の領域に形成する。そして、配管250の水平部分252が表面220aとキャビティ25との間の基部220の部分に位置するように配管250を配置して、第1開口232と第2開口242とを接続する。これにより、配管250がキャビティ25に配置されることを避けながら、第1開口部230と第2開口部240とを接続することができる。ここで、図3(c)は、基板側(表面側)から見たモールド3を示す図であり、図3(d)は、図3(c)に示すモールド3のC−C断面図である。
【0043】
図3(c)及び図3(d)に示すモールド3は、本実施形態では、図3(e)に示すように、複数の板部材、具体的には、4つの板部材222、224、226及び228を接合して構成されている。図3(e)を参照するに、板部材222には溝234が形成され、板部材224には第1開口232及び配管250が形成され、板部材226には配管250の水平部分252が形成され、板部材228には第2開口242及び配管250が形成されている。但し、各板部材222乃至228に形成する要素(第1開口232、第2開口242、配管250など)やモールド3を構成する板部材の数は限定されるものではなく、モールド3の製造プロセスに適するように決定すればよい。また、倍率補正機構15によるパターンの倍率補正の精度を考えると、表面220aを含む板部材222の厚さを薄くするとよい。本実施形態では、表面220aを含む板部材222の厚さは、裏面220bを含む板部材228の厚さよりも薄くなっている。
【0044】
<第3の実施形態>
図4は、第3の実施形態におけるモールド3の構造を示す図である。図4(a)は、基板側(表面側)から見たモールド3を示す図であり、図4(b)は、図4(a)に示すモールド3のD−D断面図である。
【0045】
基部220の表面220aにおけるパターン部210の周囲には、複数の第1開口部230が形成されている。本実施形態では、複数の第1開口部230のそれぞれは、複数の第1開口121を含むが、溝234は含んでいない。換言すれば、1つの第1開口部230において複数の第1開口232を形成することで、かかる複数の第1開口232を溝234として機能させている。これにより、溝234に起因する基部220のX軸方向及びY軸方向の剛性の不均一性を低減することが可能となり、倍率補正機構15がモールド3の基部220の側面220cに力を加えたときに、パターン部210に伝わる力の均一性を維持することができる。
【0046】
1つの第1開口部230における複数の第1開口232の配置について説明する。基部220の表面220aにおいて、パターン部210の中心CPを原点とし、中心CPを通りパターン部210の各辺に垂直な線LN5及びLN6によって4つの象限を仮定する。この場合、1つの第1開口部230に含まれる複数の開口232は、図4(a)に示すように、4つの象限の1つに収まるように形成されている。これにより、基板2の周辺ショット領域にインプリント処理を行う場合に、少なくとも1つの第1開口部230に含まれる第1開口232が基板2と重なるため、かかる第1開口232を介して、基板2とモールド3との間のガスや圧力を制御することが可能となる。
【0047】
このように、各実施形態におけるモールド3においては、倍率補正機構15がモールド3の基部220の側面220cに力を加えたときに、パターン部210に伝わる力の均一性が維持され、パターン部210の変形を高精度に制御することができる。従って、インプリント装置1は、基板2の上の樹脂とモールド3とを接触させる際に、倍率補正機構15によって、基板2の上に形成されたパターンのサイズとモールド3のパターンのサイズとを高い精度で一致させることができる。その結果、インプリント装置1は、高いスループットで経済性よく高品位な半導体デバイスや液晶表示素子などの物品を提供することができる。物品としてのデバイス(半導体デバイス、液晶表示素子等)の製造方法について説明する。かかる製造方法は、インプリント装置1を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板等)にパターンを転写(形成)するステップを含む。かかる製造方法は、パターンが転写された基板をエッチングするステップを更に含む。なお、かかる製造方法は、パターンドットメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、エッチングステップの代わりに、パターンが転写された基板を加工する他の加工ステップを含む。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で当該樹脂を硬化させて前記基板にパターンを転写するインプリント装置に用いられるモールドであって、
前記基板に転写すべきパターンが形成された矩形形状のパターン部と、
前記パターン部が配置される表面の前記パターン部の周囲に形成され、第1開口をそれぞれ含む複数の第1開口部と、前記表面とは反対側の裏面に形成され、第2開口をそれぞれ含む複数の第2開口部と、前記複数の第1開口部のそれぞれと前記複数の第2開口部のそれぞれとを接続する複数の配管と、を含む基部と、
を有し、
前記表面において前記パターン部の各辺を延長した線を境界線として規定される複数の領域のうち、前記パターン部の頂点のみで前記パターン部と接する領域を面とする前記基部の部分に前記複数の配管の総体積の8割以上が存在するように、前記複数の配管が配置されていることを特徴とするモールド。
【請求項2】
前記複数の第1開口部のそれぞれは、前記第1開口が形成され、前記パターン部の直交する2つの辺のそれぞれに沿った溝を含み、
前記複数の第1開口部における複数の前記溝は、前記パターン部の周囲を取り囲むように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
前記複数の第1開口部における前記複数の溝は、前記パターン部の周囲を多重に取り囲むように形成されていることを特徴とする請求項2に記載のモールド。
【請求項4】
前記複数の配管は、前記表面に平行な方向に延在する水平部分を含むことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のモールド。
【請求項5】
前記基部は、前記パターン部を変形させるために前記裏面に形成された凹形状のキャビティを含み、
前記キャビティを前記表面に投影させた場合に、前記第1開口は、前記投影されたキャビティと重なる領域に形成され、
前記第2開口は、前記裏面において前記キャビティの外側の領域に形成され、
前記複数の配管は、前記水平部分が前記表面と前記キャビティとの間の前記基部の部分に位置するように配置されることを特徴とする請求項4に記載のモールド。
【請求項6】
前記複数の第1開口部のそれぞれは、複数の前記第1開口を含み、
前記表面において、前記パターン部の中心を原点とし、前記中心を通り前記パターン部の各辺に垂直な線によって4つの象限を仮定した場合に、前記複数の第1開口部の1つに含まれる複数の前記第1開口は、前記4つの象限の1つに収まるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項7】
前記複数の第1開口部は、多孔質体で構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のモールド。
【請求項8】
前記複数の第1開口部、前記複数の第2開口部及び前記複数の配管は、それぞれ前記パターン部の中心に対して点対称となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項9】
前記基部は、前記表面に平行な複数の板部材で構成され、
前記複数の板部材のうち、前記表面を含む板部材の厚さは、前記裏面を含む板部材の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項10】
基板の上の樹脂とモールドとを接触させた状態で当該樹脂を硬化させて前記基板にパターンを転写するインプリント処理を行うインプリント装置であって、
前記モールドは、
前記基板に転写すべきパターンが形成された矩形形状のパターン部と、
前記パターン部が配置される表面の前記パターン部の周囲に形成され、第1開口をそれぞれ含む複数の第1開口部と、前記表面とは反対側の裏面に形成され、第2開口をそれぞれ含む複数の第2開口部と、前記複数の第1開口部のそれぞれと前記複数の第2開口部のそれぞれとを接続する複数の配管と、を含む基部と、
を有し、
前記表面において前記パターン部の各辺を延長した線を境界線として規定される複数の領域のうち、前記パターン部の頂点のみで前記パターン部と接する領域を面とする前記基部の部分に前記複数の配管の総体積の8割以上が存在するように、前記複数の配管が配置され、
前記インプリント装置は、
前記インプリント処理を行う際に、前記複数の配管を介して、前記基板と前記モールドとの間にガスを供給し、前記基板と前記モールドとの間のガスを排気する給排部と、
前記インプリント処理を行う際に、前記基部の側面に力を加えて前記パターン部を変形させる変形部と、
前記基板に形成されたパターンのサイズと前記パターン部のパターンのサイズとが一致するように、前記変形部による前記パターン部の変形を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインプリント装置。
【請求項11】
請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載のモールドを基板の上の樹脂に接触させるステップと、
前記樹脂と前記モールドとを接触させた状態で当該樹脂を硬化させるステップと、
硬化した前記樹脂から前記モールドを剥離することで前記基板の上に前記モールドのパターンを転写するステップと、
を有し、
前記モールドを前記樹脂に接触させるステップでは、前記基板に形成されたパターンのサイズと前記パターン部のパターンのサイズとが一致するように、前記基部の側面に力を加えて前記パターン部を変形させることを特徴とするインプリント方法。
【請求項12】
請求項10に記載のインプリント装置を用いて樹脂のパターンを基板に形成するステップと、
前記パターンが形成された基板を加工するステップと、
を有することを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−38137(P2013−38137A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171322(P2011−171322)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】