説明

モールドモータ

【課題】シャフトの回転精度を低下させることなく、軸受が電食に至るのを防止する。
【解決手段】リング状の固定子コア17に形成されたティース部18に巻線を巻回してなる固定子2と、軸方向の一側が開口する有底筒状をなし、内部に固定子が収容されるとともに該固定子がモールド成型により一体固定された樹脂製のケーシング6と、上記固定子2の径方向内側に配設された回転子3と、上記回転子3を軸支するシャフト8と、シャフト8を回動可能に支持する一対の軸受9a,9bと、ケーシング6の開口側を覆うブラケットカバー7とを備えた、PWM制御を行うモールドモータ1において、軸受9a,9bを弾性体からなる軸受保持器15を介してケーシング6及びブラケットカバー7に取り付けるとともに、ブラケットカバー7を樹脂材料で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドモータに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軸方向の一端側が開口する樹脂製のケーシングと、該ケーシング内にモールド樹脂を使用して一体固定された固定子とを備えたモールドモータは知られている(例えば、特許文献1参照)。上記固定子は、金属製の固定子コアの各ティース部に巻線を巻回して形成されている。上記固定子の径方向内側には、回転子がシャフトに一体固定された状態で配設されている。シャフトは、一対の軸受により回動可能に支持されている。
【0003】
ケーシングの底壁部(軸方向の他端側の側壁部)には、円筒状の軸受ハウジングが一体形成されており、上記一対の軸受のうちの一方が該軸受ハウジング内に金属製のスリーブを介して嵌合支持されている。上記ケーシングの開口側は、金属製のブラケットカバーにより覆われており、該ブラケットカバーには、他方の軸受を嵌合支持するための円筒状の軸受ハウジングが形成されている。
【特許文献1】特開2002−335649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に示すものでは、一方の軸受を支持するブラケットカバーを、高剛性で加工性に優れた金属製材料で構成するようにしているため、軸受をブラケットカバーに対して高精度で組み付けることができ、これにより、シャフトの芯ずれ等を防止してその回転精度を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、この場合、金属製のブラケットカバーと金属製の固定子コアとが誘電体であるモールド樹脂を挟んで配設されることとなるため、例えばモータをPWM制御した場合に、ブラケットカバーと固定子コアとの間に電位差が生じて、固定子鉄心→固定子巻線→軸受→シャフト→回転子→固定子鉄心の経路で電流が循環し、結果として、軸受が電食に至るという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、モールドモータにおいて、シャフトの回転精度を低下させることなく、軸受が電食に至るのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
具体的には、第一の発明に係るモータは、リング状の固定子コアに形成されたティースに巻線を巻回してなる固定子と、軸方向の一側が開口する有底筒状をなし、内部に固定子が収容されるとともに該固定子がモールド成型により一体固定された樹脂製のケーシングと、上記固定子の径方向内側に配設された回転子と、上記回転子を軸支するシャフトと、
上記シャフトを回動可能に支持する一対の軸受と、上記軸受を径方向外方から覆って保持する弾性体からなる一対の軸受保持器と、上記ケーシングの開口側を覆う樹脂製のブラケットカバーと、上記巻線に対して供給される駆動電流を制御する制御回路を有する制御用基板と、を備え、上記一対の軸受のうちの一方は、上記軸受保持器を介して上記ブラケットカバーに取り付けられ、他方の軸受は、上記軸受保持器を介して上記ケーシングの底壁部に取り付けられているものとする。
【0008】
上記の構成によれば、ブラケットカバーを金属材料ではなく樹脂材料で構成するようにしたことで、ブラケットカバーと固定子コアとの間に電位差が生じて軸受が電食に至るのを防止することができる。
【0009】
ここで、樹脂材料は金属材料に比べて加工精度が劣るため、ブラケットカバーの材料を単に金属材料から樹脂材料に変更しただけでは、ケーシングへのブラケットカバーの組み付け精度や、ブラケットカバーへの軸受の取り付け精度が低下して、シャフトの芯ずれ等が発生し、シャフトの回転精度が低下するという問題がある。これに対して、本発明では、シャフトを支持する軸受を、弾性体からなる軸受保持器により径方向外方から覆って保持して該軸受保持器を介してブラケットカバー又はケーシングに取り付けるようにしたことで、軸受保持器の弾性作用を利用してシャフトの芯ずれを吸収することができる。
【0010】
こうして、本発明では、シャフトの回転精度を低下させることなく、軸受が電食に至るのを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上より、第1の発明に係るモールドモータによれば、ケーシングの開口側を覆うブラケットカバーを樹脂材料で構成するとともに、シャフトを支持する一対の軸受をそれぞれ、弾性体からなる軸受保持器で径方向外方から覆って保持して該軸受保持器を介してブラケットカバー及びケーシングに取り付けるようにしたことで、シャフトの回転精度を低下させることなく、軸受が電食に至るのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るモールドモータを示す、シャフトに沿った断面図である。
【図2】被駆動機械であるクロスフローファンにモールドモータを連結した状態を示す概略図である。
【図3】ブラケットカバーを示す斜視図であり、(a)はモータ内方側寄りから見た斜視図であり、(b)はモータ外方側寄り見た斜視図である。
【図4】ブラケットカバーを示す、モータ内方側から見た平面図である。
【図5】ブラケットカバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図6】ブラケットカバーを外したモータをその軸方向から見た平面図である。
【図7】固定子が一体固定(収容)されたケーシングを示す、その開口側且つ径方向外側から見た斜視図である。
【図8】固定子が一体固定(収容)されたケーシングを示す、その開口側から見た平面図である。
【図9】スリーブ軸受を示す、モータ内方側寄りから見た斜視図である。
【図10】軸受保持器を示す斜視図であり、(a)はその先端側寄り(モータ内方側寄り)から見た斜視図であり、(b)はその基端側寄り(モータ外方側寄り)から見た斜視図である。
【図11】実施形態2を示す図1相当図である。
【図12】実施形態3を示す図1相当図である。
【図13】実施形態5に係るブラケットカバーの取付け構造を示す断面図である。
【図14】実施形態6に係るブラケットカバーの取付け構造を示す断面図である。
【図15】実施形態7に係るブラケットカバーの取付け構造を示す、モータ軸方向から見た平面図である。
【図16】実施形態7に係るブラケットカバーの取付け構造を示す断面図であって、図15のXVI−XVI線断面図である。
【図17】実施形態7に係るモータの固定子を示す、軸方向から見た平面図である。
【図18】実施形態7を示す図8相当図である。
【図19】実施形態7に係るモータのケーシングのモールド成型時に使用される成型用金型の一部を示す部分断面図である。
【図20】実施形態7に係るモータのブラケットカバーを示す、軸方向の内方側から見た平面図である。
【図21】実施形態7に係るブラケットカバーの成型用金型を示す部分断面図である。
【図22】実施形態7に係る固定用延設部の爪部とブラケットカバーの爪部との係合過程を示す概略図である。
【図23】(a)実施形態6に係るブラケットカバーの取り付け構造を採用した場合の管理寸法を示す図であり、(b)実施形態7に係るブラケットカバーの取り付け構造を採用した場合の管理寸法を示す図である。
【図24】実施形態7の変形例を示す図16相当図である。
【図25】実施形態8に係るブラケットカバーの取り付け構造を示す、ブラケットカバーの径方向から見た側面図であり、(a)は、ブラケットカバーを取り付ける前の状態を示し、(b)は、ブラケットカバーを取り付け途中の状態を示し、(c)は、ブラケットカバーの取り付けが完了した状態を示す。
【図26】実施形態8に係るブラケットカバーの取り付け構造を示す、モータ径方向に沿った断面図であり、(a)は、ブラケットカバーを取り付ける前の状態を示し、(b)は、ブラケットカバーを取り付け途中の状態を示し、(c)は、ブラケットカバーの取り付けが完了した状態を示す。
【図27】実施形態8に係るブラケットカバーの取り付け構造を示す、図25のXXVII-XXVII線断面図であって、(a)はブラケットカバーを取り付ける途中の状態を示し、(b)は、ブラケットカバーの取り付けが完了した状態を示す。
【図28】実施形態9に係るブラケットカバーの取り付け構造を示す、ブラケットカバーの径方向から見た側面図であり、(a)は、ブラケットカバーを取り付ける前の状態を示し、(b)は、ブラケットカバーの取り付けが完了した状態を示す。
【図29】実施形態9を示す図16相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係るモールドモータ1(以下、単にモータ1という)を示している。このモータ1は、ブラシレスDCモータであって、本実施形態では、エアコン室内機100のクロスフローファン101を駆動するために使用される(図2参照)。
【0014】
上記モータ1は、円筒形の固定子2を有し、内部に回転子3を収容する収容空間4が形成されたモータハウジング5を備えている。モータハウジング5は、有底円筒状のケーシング6と、ケーシング6の開口側を覆う略円盤状のブラケットカバー7とで構成されており、ケーシング6の内面に、固定子2の内周面が露出するようにモールド樹脂によって一体に固着されている。回転子3は、環状の固定子2と同軸にその径方向内側に配設されている。回転子3はシャフト8に対して一体固定され、シャフト8は一対の軸受9a,9bを介してモータハウジング5に回動可能に支持されている。各軸受9は軸受保持器15により径方向外方から覆って保持されて、一方の軸受9aは、ケーシング6の底壁部16に該保持器15を介して取り付けられ、他方の軸受9bはブラケットカバー7に該保持器15を介して取り付けられている。シャフト8の先端部は、クロスフローファン101の支持シャフト102に直列に連結されている。クロスフローファン101の支持シャフト102は、その一端部がファン軸受104により軸支されている。
【0015】
固定子2は、所定形状に打ち抜かれた複数の鋼板を積層してなるリング状の固定子コア17を有している。固定子コア17は、周方向に並ぶ複数のティース部18を有している。固定子コア17における内周面及び外周面を除く部分は、インシュレータ(絶縁材)19で被覆されおり、各ティース部18には、該インシュレータ19を介して固定子コイル(巻線)21が巻回されている。尚、インシュレータ19は、固定子コア17における固定子コイル21が巻回される部分を被覆していればどのような形状でもよい。
【0016】
上記ケーシング6は、その全体が樹脂材料(モールド樹脂)で構成されている。ケーシング6は、固定子2の外周を囲むように配設された円筒部22と、円筒部22の軸方向の一側を閉塞する円盤状の底壁部16と、固定子2のブラケットカバー7側を覆うリング状のモータ被覆部23とを有している。固定子2は、円筒部22の内周面と底壁部16とモータ被覆部23とに囲まれていて、ケーシング6に対してモールド成型により一体に形成されている。本実施形態では、モールド成型用のモールド樹脂として不飽和ポリエステルを使用している。
【0017】
ケーシング6の底壁部16の中心部には、モータ外方に突出するボス部25が形成されている。ボス部25の軸心部には軸受保持器15が配設される貫通孔31が形成されており、上記一方の軸受9aは、この軸受保持器15と共に貫通孔31へ挿入され、ボス部25で支持されている。ボス部25の内周面におけるモータ内方側の端部近傍には、径方向内側に突出するリング状の突出部32が形成されている。そして、この突出部32が、軸受保持器15の外周面に形成された抜止め溝33に係合することで、軸受保持器15のモータ軸方向(シャフト8の軸方向)の移動が規制されるようになっている。
【0018】
同様に、上記ブラケットカバー7の中心部には、モータ外方に突出するボス部34が形成されており、ボス部34の軸心部には、貫通孔35が形成されている。軸受9bは、軸受保持器15と共に貫通孔35へ挿入され、ボス部34で支持されている。ボス部34の内周面におけるモータ内方側の端部にも、軸受保持器15のモータ軸方向の移動を規制するためのリング状の突出部36が形成されている。
【0019】
上記ブラケットカバー7は、その全体が樹脂材料で構成されていて、後述するように、射出成型される。このブラケットカバー7を構成する樹脂材は、ケーシング6と同じ材質の樹脂材であるのが好ましい。
【0020】
より詳しくは、ブラケットカバー7は、図1及び図2に示すように、上記ボス部34の他に、ケーシング6(円筒部22)の開口側の端部の内周面に圧入固定される円筒状圧入部37と、上記ボス部34及び円筒状圧入部37を連結する薄肉の連結板部38とを有している。
【0021】
上記円筒状圧入部37のモータ外方側の端部には、径方向外側に突出するフランジ板部39が形成されている。このフランジ板部39は、ブラケットカバー7がケーシング6に装着された状態で、ケーシング6(円筒部22)の開口側の端面に当接するように形成されている。これにより、ブラケットカバー7をケーシング6に圧入する際に、該ブラケットカバー7の圧入される軸方向の領域(モータ軸方向の位置)を容易に調整することができる。
【0022】
また、フランジ板部39における上記ケーシング6の端面との当接面には、周方向に互いに所定間隔を空けて並ぶ3つの位置決めブロック80が形成されている。この3つの位置決めブロック80は、ケーシング6の開口側の端面に形成された3つの位置決め凹部81に対してそれぞれ圧入されて係合する。こうして、位置決めブロック80が位置決め凹部81に係合することで、ブラケットカバー7の周方向の位置決めがなされる。
【0023】
各位置決めブロック80は、図3及び図4に示すように、円筒状圧入部37の外周面から径方向外側に向かってフランジ板部39の外周縁まで延びている。各位置決めブロック80の高さは、円筒状圧入部37の高さに等しく、位置決めブロック80及び円筒状圧入部37のモータ内方側の端面は連続的に繋がって略面一になっている。
【0024】
各位置決めブロック80は、ブラケットカバー7の軸方向から見て周方向に長い略矩形状をなしている。各位置決めブロック80の幅方向の両側面は、ブラケットカバー7の径方向内側から外側に向かって周方向の外側に向けて傾斜している。この傾斜角α(図4参照)は、例えば2°〜5°の範囲内である。同様に、ケーシング6の位置決め凹部81も周方向の両側面81aが、ケーシング6の径方向内側から外側に向かって幅方向の外側に傾斜している。この傾斜角βは上記傾斜角αよりもやや小さい。このように、位置決めブロック80の周方向の両側面を傾斜させることにより、位置決めブロック80を位置決め凹部81に対して楔効果により強固に係合固定することができる。
【0025】
上記連結板部38のモータ外方側の面には、ボス部34の外周面から円筒状圧入部37の内周面まで延びる複数のリブ41が形成されている。複数のリブ41は、ボス部34を中心として放射状に形成されている。このように、リブ41を設けることで、ブラケットカバー7の剛性を高めて、シャフト8の回転時における芯ずれを極力抑制することができる。
【0026】
次にブラケットカバー7の製法について説明する。上記ブラケットカバー7は、図5に示すように、上型105と下型106との間に形成されるキャビティ107に熱硬化性の樹脂材料を射出して硬化させることにより成型される。本実施形態では、上型105及び下型106は、両者の合わせ面108が丁度、ブラケットカバー7の突出部36の厚さ方向の中央に位置するよう構成されている。これにより、成型品に生じるパーティングラインが貫通孔35の内周面に形成されるのを防止し、軸受保持器15のブラケットカバー7への組み付け精度(延いては、軸受9bの組み付け精度)を向上させることができる。よって、シャフト8の芯ずれを防止することができる。
【0027】
ところで、ブラケットカバー7を金属材料で構成した場合には通常、製造コスト及び量産性能の観点から金属材料をプレス成型する必要がある。この場合、突出部36をプレス成型しようとすると、製法上の観点から、突出部36を貫通孔35の内周面における軸方向の中央部に成型するために金型のステージ数を大幅に増加させる必要がある。これに対して、本実施形態では、ブラケットカバー7を樹脂材料で成型するようにしたことで、突出部36を、貫通孔35の内周面における軸方向の中央位置(軸受9b)よりもモータ内方寄りに容易に形成することができる。したがって、軸受保持器15における軸受9bの外周側部分の厚みを十分に確保することができる。これにより、軸受保持器15によるシャフト8の調心作用及び防振効果を可及的に向上させることができる。
【0028】
また、金属材料をプレス成型した場合、その製法上、突出部36の厚さ方向の両側面が先端側ほど厚さ方向の内側に倒れてしまう(つまり、突出部36の断面が台形状になってしまう)。このため、突出部36による軸受保持器15の軸方向の位置決め機能が低下するという問題がある。これに対して、本実施形態では、ブラケットカバー7を樹脂材料で成型するようにしたことで、突出部36の厚さ方向の両側面の倒れを防止して、軸受保持器15の軸方向の位置ずれを確実に防止することができる。
【0029】
また、上述の熱硬化性樹脂による製法では、熱硬化性樹脂がキャビティ内で硬化する際、ボス部34に径方向の倒れ変形が生じて、その内方に形成される貫通孔35の円筒度が低下するという問題がある。これに対して、本実施形態では、ブラケットカバー7の連結板部38の内周側縁部が、ボス部34の突出側に盛り上がって、該ボス部34の基端部を支えるリブ部83(図3参照)を構成している。このように、リブ部83を設けることによって、ボス部34の硬化時の倒れを防止することができるとともに、ボス部34のラジアル方向の剛性を可及的に高めることができる。ここで、上記リブ部83の背面には、リブ部83の肉厚が大きくなり過ぎないように凹部84が形成されており、これにより、リブ部83にひけ等の成型不良が生じるのを防止することができる。
【0030】
上記ブラケットカバー7のボス部34及びケーシング6のボス部25にはそれぞれ、ゴム部材からなる防振部材40が外嵌されている。防振部材40は、内周面がボス部25の外周面に密着するリング状の防振本体部42と、該防振本体部42の軸方向の一端部から径方向外側に突出するフランジ部43とで構成されている。モータ1は、被駆動機器付近に配設された一対のモータ固定用ブラケット44に対して防振部材40を介して支持される。
【0031】
上記回転子3は、シャフト8に固着される略円筒状の内周側筒部45と、固定子コイル21からの磁力が直接的に作用する略円筒状の外周側筒部46と、該両筒部45,46とを連結する円盤状の連結板部47とで構成されている。この回転子3は、プラスチック配合のマグネット樹脂からなるものであって射出成型により形成されている。尚、回転子3は、例えば、複数に分割された焼結マグネットを、円筒状のヨークの外周面に接着剤等により貼り合わせて形成されるものであってもよい。内周側筒部45及び外周側筒部46は共に、上記連結板部47との連結部において肉厚が最も大きくなり、そこから軸方向の両端側に向かうにしたがって肉厚が徐々に減少するように形成されている。
【0032】
シャフト8における回転子3との固着面には、螺旋状の溝部48が形成されている。この溝部48には、回転子3を射出成型する際にマグネット樹脂が流れ込んで固着される。これにより、回転子3をシャフト8に対して強固に固着させることができ、回転子3がシャフト8回りに滑って空回りするのを防止することができる。シャフト8の先端部は、シャフト8を被駆動機器に連結するための取付け部49が形成されている。この取付け部49の形状(本実施形態では段差状)は、相手側の取付け部の形状に応じて任意の形状を採用することができる。
【0033】
上記ブラケットカバー7と回転子3との間には、制御用基板51が配設されている。制御用基板51は、図6に示すように、モータ被覆部23からブラケットカバー7側に突出する2つの突起85の爪部85aにより係止されている。各突起85はインシュレータ19に一体成型されており、爪部85aは突起85の先端部に形成されている。
【0034】
制御用基板51には、PWM制御を行ってモータ1を回転させるためのモータ駆動回路(図示省略)が設けられている。このモータ駆動回路は、モータ1の各固定子コイル21に駆動電流を供給するインバータ回路(図示省略)と該インバータ回路を制御する制御回路とを有している。制御用基板51は、モータ駆動回路が形成される側の面である基板面52をブラケットカバー7のモータ内方側の面に対面させて配設されている。制御用基板51の基板面52には、上記制御回路を内蔵し、略直方体のボックス状の制御用IC53が設けられている。制御用IC53は、ブラケットカバー7をケーシング6に取り付けた状態において該ブラケットカバー7のモータ内方側の面に接していても良い。
【0035】
制御用基板51には、回転子3の内周側筒部45との干渉を避けるための円孔54が形成されている。この内周側筒部45は、該円孔54内を通過して基板51よりもブラケットカバー7側に突出している。
【0036】
制御用基板51には、電気的な接続端子として機能する3つのピン孔91と、位置決め用に使用される4つの位置決め孔92とが形成されている。この4つの位置決め孔92にはそれぞれ、上記モータ被覆部23のブラケットカバー7側の面から突出する4つの位置決めピン93が差し込まれる(図6〜図8参照)。これにより、制御用基板51の上記シャフト8に垂直な平面内における位置決めがなされる。
【0037】
制御用基板51の3つのピン孔91には、上記モータ被覆部23のブラケットカバー7側の面から突出する3つの配線ピン94がそれぞれ差し込まれる。この3つの配線ピン94は、固定子コイル21に接続されており、3つの配線ピン94を制御用基板51上に半田付けすることで上記モータ駆動回路と固定子コイル21とを電気的に接続する。
【0038】
制御用基板51にはさらに、該制御用基板51上の各回路に電力を供給するためのリード線55が接続されている。リード線55は、ケーシング6とブラケットカバー7との間からモータ1外に引き出されて不図示の電源にコネクタを介して接続される(図6参照)。ケーシング6とブラケットカバー7との間には、リード線55を径方向から挟み込んで固定する一対のブッシング56a,56bが設けられている。一対のブッシング56a,56bの相対向する面にはそれぞれ、断面半円形の配線溝57が形成されており、この配線溝57にリード線55を嵌め込んだ状態でリード線55をモータ外に引き出すことによって、リード線55をしっかりと固定して所定の向きに配線可能になっている。各ブッシング56a,56bにおける配線溝57が形成される側とは反対側の面には係合溝58が形成されている。ブッシング56aは、その係合溝58をケーシング6の外周部に形成された係合凸部59aに係合させて固定され、ブッシング56bは、その係合溝58をブラケットカバー7の外周部に形成された係合凸部59bに係合させて固定される。こうして、各ブッシング56a,56bのモータ径方向の位置決めがなされている。
【0039】
上記軸受9a,9bは、樹脂製のスリーブ軸受(滑り軸受)からなる。具体的には、軸受9a,9bは、内部にグリースが封入された中空筒状のスリーブ本体61を有している。スリーブ本体61の外周面における軸方向の両端部には球面部97が形成されている。スリーブ本体61の外周面における両球面部97の間の中間部は円筒面98が形成されている(図9参照)。
【0040】
スリーブ本体61の内周面は円筒状に形成されており、シャフト8は、この内周面に対して微小なすきまを持って支持されている。スリーブ本体61の内周面には、図示しない微細孔が複数形成されており、この微細孔を介してシャフト8の摺接面にグリースが供給されるようになっている。
【0041】
上記軸受保持器15は、ゴム部材で構成されていて、その硬度は40〜80HSAに設定することが好ましく、60HSAがより好ましい。尚、軸受保持器15は、ゴム材料に限らず、例えばエラストマからなるものであってもよい。
【0042】
軸受保持器15は、ケーシング6又はブラケットカバー7の貫通孔31,35に圧入される大径筒部65と、該大径筒部65に対して同軸に接続された小径筒部66とを有している。大径筒部65の外周部には、軸方向に延びる複数の柱状部65a(図10(a)及び(b)参照)が形成されている。この複数の柱状部65aは、大径筒部65の周方向に互いに等間隔に配置されており、これにより、大径筒部65の外周面は略スプライン状を呈している。したがって、大径筒部65を貫通孔31,35に圧入する際に、大径筒部65の外周面と貫通孔31,35の内周面との摺動抵抗を極力低減して、大径筒部65の圧入作業を容易化することができる。
【0043】
大径筒部65の内周面には、軸受9a,9b(スリーブ本体61)の外周面を摺動可能に係合保持する球面保持部77が形成されている。小径筒部66の外周面における大径筒部65に隣接する部分には、全周に亘って抜止め溝33が形成されている。小径筒部66の先端部には、軸受保持器の組み付けに際して、該先端部が上記突出部32,36の内方側をスムーズに通過できるように面取り部68が形成されている。上記小径筒部66の先端面には、ナイロン製のワッシャ69を嵌め込むための円形穴75が形成されている。嵌め込んだワッシャ69は、小径筒部66の先端面において円形穴75の径方向内側に僅かに突出する係止片76によって係止される。尚、このワッシャ69は、必ずしもナイロン製である必要はなく例えばテフロン製等であってもよい。
【0044】
上記回転子3における内周側筒部45のブラケットカバー7側の端面45aと、該端面45aに相対向するワッシャ69との距離は、回転子3の外周側筒部46と基板51との距離よりも小さい。上記回転子3における内周側筒部45のケーシング底壁部側の端面45bと、該端面45bに相対向するワッシャ69との距離は、回転子3の外周側筒部46と該底壁部16との距離よりも小さい。
【0045】
上記モータ1を組み立てる際には、先ず、固定子2をモールド成型したケーシング6を用意する。次いで、軸受9aとワッシャ69とを軸受保持器15に組み付けて、その状態のまま軸受保持器15を、ケーシング6のボス部25の貫通孔31に、モータ軸方向の一側から他側に向かって圧入する。軸受保持器15の抜止め溝33に突出部32が係合したところで軸受保持器15の圧入作業を終了し、回転子3が一体に固定されたシャフト8を、既に組み付けが完了した軸受9aの内周面に嵌入する。そうして、シャフト8を組み付けた後に、制御用基板51をモータ軸方向の他側からケーシング6に組み付けるとともに、一方のブッシング56aをケーシング6に組み付けてその配線溝57にリード線55を嵌め込む。リード線55の配線が完了した後は、他方のブッシング56bをリード線55を覆うように一方のブッシング56aに組み付ける。そして、組み付けたブッシング56a,56bが外れないようにしながら、ブラケットカバー7をケーシング6に対してその開口側を覆うようにモータ軸方向の他側から組み付ける。このとき、ブラケットカバー7には、軸受9b及びワッシャ69を保持した軸受保持器15を予め組み付けておけばよい。これにより、ブラケットカバー7をケーシング6に組み付けると同時に、該軸受9bの内周面にシャフト8が嵌入されて、モータ1の組み立てが完了する。
【0046】
ここで、従来のモールドモータ1のようにブラケットカバー7を金属材料で構成した場合には、PWM制御による電圧変化によって軸受9bが電食に至る可能性がある。これに対して、上記実施形態では、ブラケットカバー7を樹脂材料(つまり絶縁材料)で構成するようにしたことで、ブラケットカバー7と固定子コア17との間に電位差が生じて上記軸受9bが電食に至るのを防止することができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、軸受保持器15を絶縁体であるゴム材料で構成するとともに、軸受9bを樹脂材料で構成するようにしているため、軸受9bの電食を確実に防止することができる。
【0048】
ところで、このようにブラケットカバー7を樹脂材料で構成した場合には、該カバー7を金属材料で構成した場合に比べてその加工精度が劣るため、ブラケットカバー7の円筒状圧入部37の外径精度が低下して、ケーシング6に対するブラケットカバー7の組み付け誤差(例えば同芯度のずれ)が増加してしまう。また、ブラケットカバー7に軸受9bを取り付けるための貫通孔35の孔径精度も低下するため、ブラケットカバー7に対する軸受9bの組み付け誤差も増加してしまう。したがって、樹脂製のブラケットカバー7を採用した場合、これらの組み付け誤差が集積して、モータ作動中におけるシャフト8の芯ずれが許容レベルを超えて、シャフト8の回転精度が著しく低下するという問題がある。これに対して、上記実施形態では、軸受9bの外周面を球面状に形成して軸受保持器15の球面保持部77にて摺動可能に保持するようにしたことで、モータ作動時にシャフト8の芯ずれが生じたとしても、自動的に調心される。よって、シャフト8の回転精度の低下を防止することができる。
【0049】
また、加工精度が劣ることによるケーシング6と軸受9aとの嵌め合い誤差、軸受9bとブラケットカバー7との嵌め合い誤差は、軸受保持器15の弾性力によって吸収される。固定子2と回転子3とは、反発する磁力と吸引し合う磁力の周方向のバランスにより回転軸の中央に調芯される。この際に、軸受保持器15が弾性体で構成されることで、回転子3が調芯される方向に軸受保持器15を変形させることができる。
【0050】
また、上記実施形態では、軸受9a,9bとしてスリーブ軸受(滑り軸受)を使用するようにしているため、転がり軸受を使用するようにした場合に比べて、モータ作動時に軸受9a,9bとシャフト8との摩擦により生じる騒音を低減することができる。
【0051】
さらに、上記実施形態では、ケーシング6とブラケットカバー7とを同じ樹脂材料で構成したことで、両者の線膨張係数を同等に設定することができる。したがって、モータ作動時の発熱(軸受9a,9bの摩擦熱等)によって、ケーシング6及びブラケットカバー7の径方向寸法が変化したとしても、両者の嵌め合い精度を一定の関係に維持することができる。よって、両者の嵌合い精度が低下することによるシャフト8の回転精度の低下及び嵌め合い強度の低下を防止することができる。
【0052】
さらに、上記実施形態では、軸受保持器15の先端面にナイロン製のワッシャ69を設けるようにしたことで、例えばシャフト8に対して被駆動機器よりモータ軸方向の荷重が作用して、回転子3がシャフト8と共に軸方向に移動したとしても、回転子3をワッシャ69に対して滑らせながら当接させることができる。したがって、上記回転子3の軸方向への移動時に、回転子3がケーシング6の底壁部16に当接して異音が発生したり、回転子3が制御用基板51に当接して該基板51が破損したりするのを防止することができる。
【0053】
また、上記実施形態では、上記軸受保持器15の硬度を40〜80HSA(より好ましくは60HSA)に設定するようにしたことで、軸受保持器15によるシャフト8の調心効果を可及的に高めることができる。すなわち、発明者らは、軸受保持器15の硬度が硬すぎると、軸受9a,9bの球面部97が球面保持部77内で摺動し難くなる一方、軸受保持器15の硬度が柔らか過ぎると、軸受9a,9bの球面部97が球面保持部77内で摺動し過ぎて所望の調心効果が得られないことを見出した。そして、発明者らは、鋭意研究の末、軸受保持器15の硬度を40〜80HSAに設定することで、シャフト8の調心効果が格段に向上するという試験結果を得た。そして、上記実施形態では、この試験結果を基に、軸受保持器15の硬度を60HSAに設定することで、樹脂製のブラケットカバー7を採用することによるシャフト8の芯ずれ誤差の増大を補って高い回転精度を実現している。
【0054】
(実施形態2)
図11は、実施形態2を示し、軸受保持器15、ブラケットカバー7、及びケーシング6の構成を上記実施形態1とは異ならせたものである。尚、以下の実施形態において、図1と実質的に同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明を適宜省略する。
【0055】
すなわち、本実施形態では、軸受保持器15は、上記実施形態とは異なり、外径が一定の円筒状をなしていて、その外周面に抜止め溝33を有さない構成とされている。一方、ブラケットカバー7におけるボス部34のモータ外方側の端部には、その径方向内側に突出して軸受保持器15の端面に当接する円板状の当接板部95が形成されている。同様に、ケーシング6におけるボス部25のモータ外方側の端部にも径方向内側に突出する当接板部96が形成されている。
【0056】
ここで、本実施形態に係るモータ1の組み立て作業について説明する。尚、上記実施形態1と重複する作業についてはその詳細な説明は省略する。先ず、固定子2をモールド成型したケーシング6を用意する。次いで、軸受9aとワッシャ69とを組み付けた軸受保持器15を、ケーシング6のボス部25の貫通孔31に、モータ軸方向の他側から一側に向かって圧入する。軸受保持器15の端面がケーシング6の当接板部96に当接したところで軸受保持器15の圧入作業を終了し、回転子3が一体に固定されたシャフト8を、既に組み付けが完了した軸受9aの内周面に嵌入する。そうして、シャフト8を組み付けた後に、制御用基板51及びブッシング56をケーシング6に対してモータ軸方向の他側から組み付ける。そして、組み付けたブッシング56がずれないようにしながら、ブラケットカバー7を、ケーシング6に対してモータ軸方向の他側からその開口側を覆うように組み付ける。このとき、ブラケットカバー7には、軸受9b及びワッシャ69を保持した軸受保持器15を予め組み付けて置けばよい。これにより、ブラケットカバー7をケーシング6に組み付けると同時に、該軸受9bの内周面にシャフト8が嵌入されて、モータ1の組み立てが完了する。このように、本実施形態では、組み立て作業の全てを、モータ軸方向の同じ側(モータ軸方向の他側)から行うことができる。これにより、モータ1の組立て作業が容易になり、モータ1の組み立て性を上記実施形態1に比べて向上させることができる。
【0057】
(実施形態3)
図12は、実施形態3を示し、防振部材40の構成を上記実施形態とは異ならせたものである。すなわち、本実施形態では、連結ゴム部99を形成して軸受保持器15と防振部材40とを一体成形するようにしている。これにより、モータの組み立て工数及び部品点数を削減して、モータ1の低コスト化を図ることができる。
【0058】
(実施形態4)
本実施形態4は、軸受9a,9bを保持する一対の軸受保持器15a,15b及びファン軸受104の軸受保持器15cの大小関係を上記各実施形態とは異ならせたものである。
【0059】
すなわち、各々の軸受保持器15(15a乃至15c)の硬度を比較すると、シャフト8の基端部を支持する軸受9aの軸受保持器15aと、ファン軸受104の軸受保持器15cとの硬度は略同程度に設定されており、ファン軸受104と軸受9aとの中間に位置する軸受9bの軸受保持器15bの硬度が低く設定されている。これにより、軸受9a側及びファン軸受104側(モータ軸方向の両端側)が軸心の基準となり、真ん中の軸受9bにシャフト8の調心機能をもたせることができ、シャフト8の回転精度を可及的に向上させることができる。
【0060】
(実施形態5)
図13は、実施形態5を示し、ケーシング6に対するブラケットカバー7の取付け構造を上記各実施形態とは異ならせたものである。
【0061】
すなわち、本実施形態では、ケーシング6の外周面に全周亘って断面三角状の係合突部111を形成して、ブラケットカバー7の外周部に該係合突部111に係合する係合片112を設けるようにしている。図13の例では、係合突部111は、ケーシング6に対して一体成型されており、係合片112は、ブラケットカバー7に対してインサート成型(又は接着)により接合固定されている。
【0062】
上記実施形態5によれば、ケーシング6に対してブラケットカバー7をより一層強固に固定することができる。
【0063】
(実施形態6)
図14は、実施形態6を示し、ケーシング6に対するブラケットカバー7の取付け構造を上記各実施形態とは異ならせたものである。
【0064】
すなわち、本実施形態では、ケーシング6に対してブラケットカバー7を圧入した状態で、固定用部材113をケーシング6及びブラケットカバー7に対して径方向外側から装着するようにしている。この例では、固定用部材113は、ケーシング6の外周面に沿ってモータ軸方向に延びる帯状プレート114と、該帯状プレート114の長手方向の両端部に接続され、ケーシング6の底壁部16とブラケットカバー7とをモータ軸方向の両側から挟み込む一対の固定片115とで構成されている。固定用部材113は、例えば樹脂材料により射出成型される。これにより、実施形態5と同様に、ケーシング6に対してブラケットカバー7をより一層強固に固定することができる。
【0065】
(実施形態7)
図15及び図16は、実施形態7を示し、ケーシング6に対するブラケットカバー7の取付け構造を上記各実施形態とは異ならせたものである。
【0066】
すなわち、本実施形態では、固定子コア17のティース部18を覆うインシュレータ19に固定用延設部120(図16参照)を形成し、この固定用延設部120の先端の爪部161を利用して、ケーシング6に対してブラケットカバー7を固定するようにしている。尚、以下の説明において、軸方向の「外方側」、「内方側」はそれぞれ、モータ軸方向の「モータ外方側」、「モータ内方側」を意味し、「径方向外側」、「径方向内側」は、それぞれ、「モータ径方向外側」、「モータ径方向内側」を意味するものとする。また、特に断らない限り、ケーシング6にブラケットカバー7が取り付けられた状態にあるものとして説明を行う。
【0067】
上記固定用延設部120は、図17に示すように、モータ径方向において対向する2つのインシュレータ19aにそれぞれ設けられている。各インシュレータ19aは、固定子コア17のティース部18を覆う軸方向から見て略T字状のインシュレータ本体122を有している。固定用延設部120は、このインシュレータ本体122の端面122aから軸方向のブラケットカバー7側に向かって延びている。インシュレータ本体122と固定用延設部120とは、熱可塑性樹脂により一体成型されている。
【0068】
上記ケーシング6の開口側の端面には、図18に示すように、2つの位置決め凹部81が形成されている。この2つの位置決め凹部81は、軸方向から見て、上記2つのインシュレータ19aと同じ位相位置に設けられている。位置決め凹部81の底壁面(後述の薄壁部123の先端面123a)には、位置決めブロック80の先端面が当接している(図16参照)。ケーシング6の外周壁は、この位置決め凹部81が形成された部分において、その他の部分よりも薄肉に形成されている。
【0069】
各固定用延設部120は、この薄壁部123の径方向内側に隣接して配設されている。固定用延設部120は、位置決め凹部81内に位置している(図18参照)。固定用延設部120は断面矩形状の柱状体で構成され、その厚さ方向がモータ径方向に一致している。
【0070】
上記固定用延設部120とその径方向外側の薄壁部123との間には隙間124(図16参照)が形成されている。この隙間124には、ケーシング6のモールド成型時に金型125の一部が挿入される。すなわち、金型125の成型面には、図19に示すように、ケーシング6のモールド成型時に固定用延設部120の周囲を囲む囲壁部126が設けられている。囲壁部126は、モールド成型時に隙間124に挿入されて、その先端面をインシュレータ本体122の端面122aに密着させる。これにより、固定用延設部120の周囲空間127と樹脂充填用のキャビティ128とが囲壁部126によって区画されるため、モールド成型時に、キャビティ128に樹脂が充填されても、固定用延設部120の周囲空間127に樹脂が充填されない。よって、固定用延設部120の表面全体を、モールド樹脂によって被覆せずに露出させることができる。
【0071】
固定用延設部120は、その基端部を支点とする径方向の可撓性(弾性変形性)を有している。本実施形態では、固定用延設部120は、インシュレータ本体122と共に熱可塑性樹脂により一体成型されている。固定用延設部120の径方向外側の面120aと、インシュレータ本体122のブラケットカバー7側の端面122aとの接続部170は、固定用延設部120のモータ径方向に沿った断面で見て円弧状に形成されている(図16参照)。
【0072】
固定用延設部120の先端部における径方向外側の面120aには、径方向外側に突出する爪部161が一体成型されている。この爪部161は、傾斜面129と垂直面131とを有していて、固定用延設部120のモータ径方向に沿った断面から見て三角形状をなしている。垂直面131は、固定用延設部120の径方向外側の面120aに対して垂直に接続されている。傾斜面129は、該垂直面131の先端(モータ径方向外側の端縁)から、固定用延設部120の先端に向かって延びている。傾斜面129は、固定用延設部120の先端側から基端側に向かって径方向外側に傾斜している。
【0073】
固定用延設部120の先端面は、図16に示すように、ケーシング6の薄壁部123の先端面123aよりも、軸方向の外方側に位置している。この薄壁部123の先端面123aから爪部161の垂直面131までの距離をd1とし、該先端面123aから固定用延設部120の基端(つまりインシュレータ本体122のブラケットカバー7側の端面122a)までの距離をd2としたときに、d1<d2の関係を満たしている。
【0074】
上記ブラケットカバー7の外周部には、図20に示すように、ケーシング6の2つの位置決め凹部81に対応する位置にそれぞれ位置決めブロック80が形成されている。各位置決めブロック80には、その厚さ方向に貫通する貫通孔133が形成されている。各貫通孔133内には爪部162が設けられている。そして、ケーシング6にブラケットカバー7を取付けた状態では、各貫通孔133にそれぞれ固定用延設部120が挿入されて、その先端部の爪部161が貫通孔133内の爪部162に係合するようになっている。
【0075】
具体的には、ブラケットカバー7側の爪部162は、図16に示すように、貫通孔133の内周面におけるモータ径方向外側の端部で且つモータ内方側の端部に形成されている。該爪部162は、貫通孔133の内周面から径方向内側に突出している。該爪部162は、傾斜面134と垂直面135とを有していて、モータ径方向に沿った断面で見て三角形状をなしている。垂直面135は、貫通孔133の内壁面に対して垂直(貫通孔133の軸心に対して垂直)に形成されている。傾斜面134は、垂直面135の先端縁から、軸方向の内方側に向かってモータ径方向の外側に傾斜している。この傾斜面134は、ケーシング6の薄壁部123よりも径方向内側に位置している。
【0076】
ブラケットカバー7は、本実施形態ではケーシング6と同じ熱硬化性樹脂により射出成型される。これにより、ケーシング6に必要な強度を十分に確保しながら、モータ作動時の発熱に起因するケーシング6とブラケットカバー7との嵌合精度の低下を極力抑制することができる。ブラケットカバー7を成型する際には、実施形態1でも説明したように、上型105と下型106との間に形成されるキャビティ107に樹脂材料(熱硬化性樹脂)を射出して固化させる。実施形態1と異なる点は、図21に示すように、上型105には、ブラケットカバー7の爪部162の垂直面135を形成するための第1突出部141が形成され、下型106には、該爪部162の傾斜面134を形成するための第2突出部142が形成されている点にある。この第1突出部141と第2突出部142とは、上型105と下型106とが型締めされた状態において、その先端面同士が当接してキャビティ107内を上下に貫通する。このため、このキャビティ107内における両突出部141,142が貫通する部分には樹脂が充填されず、この樹脂が充填されない部分がブラケットカバー7の貫通孔133として残る。この貫通孔133をそのままにしておくと、そこからモータ1内に水滴や粉塵が侵入して、モータ1の故障の原因となる。本実施形態では、これを防止するために、ブラケットカバー7の貫通孔133をシリコン樹脂で埋めたり、或いは、テープやシール等で貫通孔133を封するようにしている。
【0077】
上記ブラケットカバー7をケーシング6に組み付ける際には、先ず、ブラケットカバー7をケーシング6の開口側の端面から少し離した位置に保持しておき、その状態で、ブラケットカバー7の位置決めブロック80(図20参照)の位置を、ケーシング6の開口側の端面に形成された2つの位置決め凹部81(図18参照)の位置に合わせる。そのようにして、ブラケットカバー7の位置調整を行った後に、ブラケットカバー7をケーシング6の開口側に近づけていく。そうすると、ケーシング6側に設けられた固定用延設部120が、ブラケットカバー7の位置決めブロック80に形成された貫通孔133に挿入されて、該固定用延設部120の先端に設けられた爪部161が、貫通孔133内に設けられた爪部162に係合する。そのようにして、ブラケットカバー7のケーシング6への組み付けが完了する。
【0078】
この両爪部161,162の係合過程を、図22に基づいて詳細に説明する。最初は、ブラケットカバー7の爪部162は、固定用延設部120の先端の爪部161に対して所定の隙間を空けて配置されている(図22(a)参照)。そして、ブラケットカバー7をケーシング6側に押し進めていくと、ブラケットカバー7の爪部162の傾斜面134が、固定用延設部120の爪部の傾斜面129に当接して滑りながら進む。このことで、固定用延設部120の先端部にはモータ径方向の内側に向かう押圧力が作用し、固定用延設部120は、その基端部を支点としてモータ径方向の内側に撓む(図22(b)参照)。そして、ブラケットカバー7をケーシング6側にさらに押し進めていくと、ブラケットカバー7の爪部162が、固定用延設部120の爪部161を乗り越える(図22(c)参照)。この結果、固定用延設部120はその復元力によって元の状態(撓む前の状態)に戻り、ブラケットカバー7の爪部162と固定用延設部120の爪部161とが互いに係合する。
【0079】
ブラケットカバー7の爪部162と固定用延設部120の爪部161とが係合した状態では、2つの爪部161,162の垂直面131,135は互いに当接している。例えば、モータ作動時の発熱によって、ケーシング6及びブラケットカバー7の径方向寸法が変化し両者の嵌合精度が低下したとしても、この2つの垂直面131,135が当接しているため、ブラケットカバー7がケーシング6から脱落することもない。
【0080】
また、上記実施形態7では、上記実施形態5及び6のように係合片112や固定用部材113を別途設ける必要もないため、少ない部品点数でブラケットカバー7をケーシング6に対して強固に固定することができる。
【0081】
また、上記実施形態7では、固定用延設部120をインシュレータ本体122と一体成型するようにしたことで、上記実施形態5及び6のように別部材を使用してブラケットカバー7をケーシング6に固定した場合に比べて、ブラケットカバー7をケーシング6に固定することができる。
【0082】
また、上記実施形態7では、上記実施形態5及び6のように別部材を使用してブラケットカバー7をケーシング6に固定する場合に比べて、各樹脂成型品に要求される寸法精度が低くても良いためその寸法管理を容易化することができる。
【0083】
すなわち、上記実施形態6のものでは、図23(a)に示すように、固定用部材113が外れないように、フランジ板部39の厚みK1と、ケーシング6の軸方向の長さK2と、固定用部材113の固定片115同士の距離K3との3つの寸法を精度良く管理しておく必要がある。寸法精度の管理が悪いと、固定用部材113自身がケーシング6から外れる可能性があるからである。これに対して、上記実施形態7では、固定用延設部120の先端部の爪部161と、ブラケットカバー7の爪部162との間に多少の隙間K4があっても、この隙間分だけブラケットカバー7とケーシング6との間に軸方向のガタが生じるだけで、ブラケットカバー7がケーシング6から外れることはない。よって、上記実施形態6のように各樹脂成形品の寸法を厳密に管理する必要がないため、モータ1の量産性を格段に向上させることができる。
【0084】
また、上記実施形態7では、固定用延設部120の爪部161に係合するブラケットカバー7側の爪部162が、ブラケットカバー7の貫通孔133内に設けられている。したがって、ブラケットカバー7をケーシング6に組み付けた状態では、固定用延設部120の先端の爪部161が貫通孔133内に隠れるため(収まるため)、モータ1を機器類に取り付ける際にこの爪部161が邪魔になることもない。よって、モータ1の機器類への取付け性を向上させることができる。
【0085】
ここで、上記ブラケットカバー7をケーシング6に組み付ける際には、上述したように、固定用延設部120がその基端部を支点としてモータ径方向の内側に撓む。このため、固定用延設部120の基端部の破損を防止するべく、固定用延設部120の基端部において十分な強度及び可撓性(弾性変形性)を確保する必要がある。
【0086】
これに対して、上記実施形態では、固定用延設部120の基端部の表面を、モールド樹脂によって被覆せずに露出させている。これにより、固定用延設部120の基端部がモールド樹脂によって被覆されない分、インシュレータ本体122に対する固定用延設部120の支持剛性が低下して、固定用延設部120のモータ径方向への可撓性(変形性)を向上させることができる。また、上記実施形態7では、ケーシング6の薄壁部123の先端面123aから固定用延設部120の基端面までの距離d2を、ケーシング6の薄壁部123の先端面123aから固定用延設部120の爪部161の垂直面131までの距離d1よりも長くとったことで、固定用延設部120の可撓性をさらに向上させることができる。
【0087】
また、インシュレータ本体122は、薄く且つ変形しやすい材料ということで、熱可塑性樹脂が良い。熱可塑性樹脂とすることでインシュレータ本体122の厚みを極力薄く形成することができる結果、インシュレータ本体122を介して固定子コア17のティース部18に巻回される固定子コイル21(図16参照)の占有率を向上させ、モータ性能が向上する。そして、上記実施形態7では、固定用延設部120は、インシュレータ本体122と同じ熱可塑性樹脂によって一体成型される。固定用延設部120は、熱可塑性樹脂によって形成されているため、可撓性が高い。また、インシュレータ19aは、ケーシング6中にインサート成型されており、固定用延設部120は、そのインシュレータ本体122と一体に成形されているため、軸方向への引張りに対する許容応力が高くなり、軸方向へ荷重がかかってブラケットカバー7を外そうとする力に対して強いものとなる。
【0088】
また、固定用延設部120の径方向外側の面120aと、インシュレータ本体122のブラケットカバー7側の端面122aとの接続部170には、固定用延設部120がモータ径方向の内側に撓む際に引張応力が作用して亀裂等が生じ易い。これに対して、上記実施形態7では、接続部170は、固定用延設部120のモータ径方向に沿った断面で見て円弧状(断面R形状)に形成されている。これにより、この接続部170のモータ径方向の厚みを少しでも大きくとってその強度を向上させることができるとともに、該接続部170の応力集中を緩和することができる。よって、ブラケットカバー7をケーシング6に組付ける際に、固定用延設部120の基端部が破損しにくくなる。
【0089】
(変形例)
図24は、実施形態7の変形例を示し、固定用延設部120の爪部161とブラケットカバー7との係合構造を上記実施形態7とは異ならせたものである。尚、図16と実質的に同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明を適宜省略する。
【0090】
すなわち、本変形例では、ブラケットカバー7をケーシング6に組み付けた状態において、固定用延設部120の先端部の爪部161がカバー7の貫通孔133からモータ外方側に突出して該貫通孔133の縁部に係合(掛合)している。貫通孔133の内壁面におけるモータ径方向の外側端部には、軸方向の内方側から外方側に向かって径方向内側に傾斜する傾斜面133aが形成されている。ブラケットカバー7の組み付けに際して、カバー7をケーシング6側に近づけていくと、固定用延設部120の爪部161の傾斜面129がブラケットカバー7の貫通孔133内に形成された傾斜面133aに当接する。ブラケットカバー7をケーシング6側にさらに押し進めていくと、ブラケットカバー7の傾斜面133aが、固定用延設部120の爪部161の傾斜面129を滑りながら進む。これにより、固定用延設部120の先端部にはモータ径方向の内側に向かう押圧力が作用して、固定用延設部120がその基端部を支点として径方向内側に撓む。そして、ブラケットカバー7をケーシング6側にさらに押し進めていくと、固定用延設部120の爪部161が貫通孔133からモータ外方に抜け出たところで、固定用が復元力により元の状態に戻り、固定用延設部120の爪部161が該貫通孔133の縁部に係合する。そうして、ブラケットカバー7のケーシング6への組み付けが完了する。
【0091】
この変形例によれば、ブラケットカバー7の貫通孔133内に爪部162を形成しなくてもよいので、ブラケットカバー7を成型するための金型構造を簡素化しつつ、上記実施形態7と同様の作用効果を得ることができる。
【0092】
(実施形態8)
図25及び図26は、実施形態8を示し、ケーシング6に対するブラケットカバー7の固定構造を上記実施形態7とは異ならせたものである。
【0093】
すなわち、本実施形態では、固定用延設部120の爪部161は、該固定用延設部120の先端部における径方向内側の面120bから径方向内側に突出して形成されている。そして、固定用延設部120は、後述するように、ブラケットカバー7を取り付ける際には、その基端部を支点としてモータ径方向外側に撓む。固定用延設部120の径方向内側の面120bと、インシュレータ本体122のブラケットカバー7側の端面122aとの接続部170は、固定用延設部120のモータ径方向に沿った断面で見て円弧状に形成されている。
【0094】
上記ブラケットカバー7の円筒状圧入部37の外周面には、2つの固定用延設部120に対応して2つの傾斜面部145(図25及び図26では一方の傾斜面部145のみを示す)が形成されている。この傾斜面部145は、円筒状圧入部37の先端面37a(軸方向側の端面)の外周縁部に形成されている。2つの傾斜面部145は、円筒状圧入部37の径方向において略対向して配置されている。傾斜面部145は、円筒状圧入部37の先端側から基端側に向かって径方向外側に傾斜している。この傾斜角は、例えば40°〜60°である。
【0095】
上記円筒状圧入部37の外周面における傾斜面部145の周方向の一側には、該傾斜面部145に隣接する位置決め片部146が形成されている。各位置決め片部146は、円筒状圧入部37の外周面に沿って軸方向に延び且つ径方向外側に突出する板状片からなる。
【0096】
上記円筒状圧入部37の外周面における各傾斜面部145の周方向の他側には、該傾斜面部145に隣接する係合穴部147が形成されている。係合穴部147は、上記傾斜面部145に対して、円筒状圧入部37の基端部側(フランジ板部39側)にずれた位置に配置されている(図25参照)。係合穴部147は、円筒状圧入部37の径方向から見て矩形状をなしている。係合穴部147の内壁面は、円筒状圧入部37の軸方方向において対向する一対の側壁面147a,147bを含んでいる。この一対の側壁面147a,147bのうち円筒状圧入部37の先端側(インシュレータ本体122側)に位置する面147aが、固定用延設部120の爪部161との係合面として機能する。この係合面は円筒状圧入部37の軸心に対して垂直に形成されている。
【0097】
上記ブラケットカバー7を組み付ける際には、先ず、ブラケットカバー7をケーシング6の開口側の端面から少し離した位置に保持しておき、その状態で、円筒状圧入部37に設けられた2つの傾斜面部145の位置を、ケーシング6に設けられた2つの固定用延設部120の位置に合わせる。そして、この位置合わせを行った後に、ブラケットカバー7をケーシング6の開口側に近づけていく。そして、ブラケットカバー7のフランジ板部39がケーシング6の端面に当接したところで、ブラケットカバー7を周方向に回転させると、固定用延設部120の先端部の爪部161が係合穴部147に係合して、ブラケットカバー7のケーシング6への組み付けが完了する。この爪部161の係合過程を、図25〜図27に基づいて詳細に説明する。最初は、ブラケットカバー7の円筒状圧入部37の傾斜面部145が、固定用延設部120の先端の爪部161の傾斜面129から少し離れた位置にある(図25(a)、図26(a)参照)。ブラケットカバー7をケーシング6側に押し進めていくと、固定用延設部120の爪部161の傾斜面129が、ブラケットカバー7の円筒状圧入部37の傾斜面部145に当接して滑りながら進む。これにより、固定用延設部120の先端部に径方向外側に向かう押圧力が作用し、固定用延設部120はその基端部を支点として径方向外側に撓む。さらにブラケットカバー7をケーシング6側に押し進めていくと、固定用延設部120の爪部161が、円筒状圧入部37の傾斜面部145よりも基端側の円筒面部149に乗り上げる(図25(b)及び図26(b)参照)。この状態でブラケットカバー7を回転させると、上記円筒状圧入部37に設けられた位置決め片部146が位置決め凹部81の側端面81aに当接したところで、固定用延設部120の爪部161が係合穴部147に達する(図27(b)参照)。そして、固定用延設部120が復元力により元の位置に戻ると同時にその先端部の爪部161が係合穴部147に係合して、ブラケットカバー7の取り付けが完了する(図25(c)及び図26(c)参照)。
【0098】
この構成によれば、実施形態6及び7のようにブラケットカバー7に貫通孔133を形成しなくてもよいので、貫通孔133からの異物の侵入の問題を解消することができる。また、貫通孔133をシリコン等で塞ぐ必要がないため、量産性が良く、その分、モータコストを低減することができる。
(実施形態9)
図28及び図29は、実施形態9を示し、ケーシング6に対するブラケットカバー7の固定構造を上記実施形態7及び8とは異ならせたものである。
【0099】
すなわち、本実施形態では、固定用延設部120の爪部161は、固定用延設部120の先端部の径方向内側の面120bから径方向内側に突出して形成されている。爪部161は、モータ径方向に沿った断面で見て略矩形状をなしていて、垂直面131を有している。
【0100】
上記ブラケットカバー7の円筒状圧入部37の外周面には、周方向に延び且つ径方向外側に突出する板状の突出片部151が形成されている。突出片部151の厚さ方向の両側面151a,151bのうち円筒状圧入部37の基端部側(フランジ板部39側)の面151aは、固定用延設部120の爪部161との係合面として機能する。この係合面は円筒状圧入部37の軸心に対して垂直に形成されている。突出片部151(係合面)とブラケットカバー7のフランジ板部39との間には、該爪部161を受け入れる空隙部143が形成されている。
【0101】
ブラケットカバー7を取り付ける際には先ず、ブラケットカバー7をケーシング6の開口側の端面から少し離した位置に保持しておく。そして、ブラケットカバー7を軸心回りに回転させて、円筒状圧入部37に設けられた突出片部151の位置を、固定用延設部120に対して周方向にややずれた位置に調整する。そうして、位置調整を行った後に、ブラケットカバー7をケーシング6の開口側に近づけていく。そして、ブラケットカバー7のフランジ板部39がケーシング6の端面に当接したところで、ブラケットカバー7を周方向に回転させる。そうすると、円筒状圧入部37の突出片部151とブラケットカバー7のフランジ板部39との間の空隙部143に固定用延設部120の爪部161が入り込んで(図28(b)参照)、該突出片部151と固定用延設部120の爪部161とが係合する。そうして、ブラケットカバー7のケーシング6への組み付けが完了する。
【0102】
上記実施形態8では、上記実施形態6及び7のように、ブラケットカバー7をケーシング6に組み付ける際に固定用延設部120が径方向に撓むこともない。したがって、ブラケットカバー7を組み付ける際の固定用延設部120の破損を確実に防止することができる。また、実施形態8と同様に、ブラケットカバー7に貫通孔133を形成する必要もないため、貫通孔133からの異物の侵入の問題を解消することができる。
【0103】
また、上記実施形態8では、上記実施形態6及び7のように、固定用延設部120の爪部161に傾斜面129を形成する必要もなく、固定用延設部120の形状を簡単化することができる。
【0104】
(他の実施形態)
本発明の構成は、上記各実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。すなわち、上記各実施形態では、モールド樹脂として不飽和ポリエステルを使用しているが、これに限ったものでなく、他の樹脂材料を使用するようにしてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、回転子3がモータ軸方向に移動した場合に、ワッシャ69を回転子3に当接させることにより回転子3の移動を規制するようにしているが、これに限ったものではなく、例えば、ワッシャ69を設けずに、回転子3が軸受保持器15の先端面に直接当接するようにしてもよい。また、軸受保持器15の先端面に回転子3の内周側筒部45よりも大径の開口部を形成して、回転子3がモータ軸方向に移動した場合には、該内周側筒部45がこの開口部を通過して軸受9a,9bの端面に当接するようしてもよい。
【0106】
また、上記各実施形態では、軸受保持器15の軸方向の位置決めを行うために、ブラケットカバー7のボス部34の内周面に抜止め溝33に係合する突出部36を設けたり、軸受保持器15の端面に当接する当接板部95,96を設けたりするようにしているが、例えば、ボス部34の内周面にさらに、径方向内側に突出する突起部を形成して、軸受保持器15の外周面に該突起部に係合する係合凹部を形成しておくことにより、突起部を軸受保持器15の軸心回りの回り止めとして機能させるようにしてもよい。突起部の形状は、例えば球面状や円筒状とすることができる。これにより、軸受保持器15がモータ作動時にその軸心回りに回転するのを防止することができ、軸受保持器15の外周面がボス部34の内周面(貫通孔35の内周面)に擦れて摩耗するのを防止することができる。また、軸受保持器15がモータ作動中に動いてしまうことによりその調心機能が低下するのを防止することができる。
【0107】
また、上記各実施形態では、ケーシング6の軸方向の一側が開口していて、該開口をブラケットカバー7で覆う例を示したが、これに限ったものではなく、ケーシング6の軸方向の両側が開口していて、該両開口をそれぞれブラケットカバー7で覆うようにしてもよい。この場合、軸受9a,9bを共に、ブラケットカバー7に対して軸受保持器15を介して支持させるようにすればよい。
【0108】
尚、ブラケットカバー7を金属部材とする構成は、本発明には含まれないが、上記各実施形態で述べた、軸受保持器15の剛性設定に工夫を凝らすことによる調芯機能の向上効果、ブラケットカバー7の位置決めブロック80の形状に工夫を凝らすことによる楔効果、ワッシャ69による回転子3の位置規制効果、及び、モータ1の組立て性の向上効果は、仮に、ブラケットカバー7を金属材料で構成したとしても失われるものではない。
【0109】
また、上記実施形態7乃至9では、ブラケットカバー7の取り付けに際して、固定用延設部120がモータ径方向に撓む例を示したが、これに限ったものではなく、例えばモータ周方向に撓むものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、ケーシング内に固定子をモールド成型により一体固定してモールドモータに有用であり、特に、モールド成型用のモールド樹脂として不飽和ポリエステルを採用したモールドモータに有用である。
【符号の説明】
【0111】
1 モータ
2 固定子
3 回転子
6 ケーシング
7 ブラケットカバー
8 シャフト
9a 軸受(滑り軸受)
9b 軸受(滑り軸受)
15 軸受保持器
16 底壁部
17 固定子コア
18 ティース部
19 インシュレータ
21 固定子コイル(巻線)
37 円筒状部(円筒状圧入部)
51 制御用基板
61 スリーブ本体(スリーブ体)
80 位置決めブロック
81 位置決め凹部
77 球面保持部
97 球面部
120 固定用延設部
122a 端面
129 傾斜面
133 貫通孔
161 爪部
162 爪部(係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状の固定子コアに形成されたティースに巻線を巻回してなる固定子と、
軸方向の一側が開口する有底筒状をなし、内部に固定子が収容されるとともに該固定子がモールド成型により一体固定された樹脂製のケーシングと、
上記固定子の径方向内側に配設された回転子と、
上記回転子を軸支するシャフトと、
上記シャフトを回動可能に支持する一対の軸受と、
上記軸受を径方向外方から覆って保持する弾性体からなる一対の軸受保持器と、
上記ケーシングの開口側を覆う樹脂製のブラケットカバーと、
上記巻線に対して供給される駆動電流を制御する回路を有する制御用基板と、を備え、
上記一対の軸受のうちの一方は、上記軸受保持器を介して上記ブラケットカバーに取り付けられ、他方の軸受は、上記軸受保持器を介して上記ケーシングの底壁部に取り付けられているモールドモータ。
【請求項2】
リング状の固定子コアに形成されたティースに巻線を巻回してなる固定子と、
軸方向の両側が開口する筒状をなし、内部に固定子が収容されるとともに該固定子がモールド成型により一体固定された樹脂製のケーシングと、
上記固定子の径方向内側に配設された回転子と、
上記回転子を軸支するシャフトと、
上記シャフトを回動可能に支持する一対の軸受と、
上記軸受を径方向外方から覆って保持する弾性体からなる一対の軸受保持器と、
上記ケーシングの軸方向の両側を覆う樹脂製のブラケットカバーと、
上記巻線に対して供給される駆動電流を制御する回路を有する制御用基板と、を備え、
上記一対の軸受はそれぞれ、上記ブラケットカバーに対して上記軸受保持器を介して取り付けられているモールドモータ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のモールドモータにおいて、
上記軸受は樹脂製の滑り軸受であるモールドモータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のモールドモータにおいて、
上記軸受保持器は、絶縁性を有する弾性部材からなるモールドモータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のモールドモータにおいて、
上記ブラケットカバーは、上記ケーシングと同じ樹脂材料からなるモールドモータ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のモールドモータにおいて、
上記滑り軸受は、内周面がシャフトを支持する支持面とされ且つ外周面が軸受保持器に保持される保持面とされるスリーブ体を有し、
上記スリーブ体の外周面は、少なくとも一部が球面状に形成されており、
上記軸受保持器は、スリーブ体の外周面における球面状に形成された部分を摺動可能に保持する球面保持部を有するモールドモータ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のモールドモータにおいて、
上記巻線は、上記インシュレータを介して上記ティースに巻回され、
上記インシュレータは、
上記ティースの表面を覆うインシュレータ本体と、
上記インシュレータ本体の端面からブラケットカバー側に向かって延びる固定用延設部が一体形成され、
上記固定用延設部の先端部には爪部が形成され、
上記ブラケットカバーには、該ブラケットカバーを上記ケーシングに取付けた状態で、上記固定用延設部の爪部に係合する係合部が設けられているモールドモータ。
【請求項8】
請求項7記載のモールドモータにおいて、
上記固定用延設部は、その基端部を支点として、少なくとも、該固定用延設部に交差する所定方向に可撓可能に構成され、
上記固定用延設部の爪部は、該固定用延設部の先端側から基端側に向かって、上記所定方向の一側に傾斜する傾斜面を有し、
上記ブラケットカバーの係合部は、
該ブラケットカバーを上記ケーシングに対して軸方向の一側から取り付ける際に、上記固定用延設部の爪部の傾斜面に当接して上記固定用延設部を上記所定方向の一側とは反対側の他側に撓ませる傾斜面を有しているモールドモータ。
【請求項9】
請求項8記載のモールドモータにおいて、
上記所定方向は、モータ径方向又はモータ周方向であるモールドモータ。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載のモールドモータにおいて、
上記ブラケットカバー及び上記ケーシングは熱硬化性樹脂からなり、
上記固定用延設部は熱可塑性樹脂からなるモールドモータ。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか一項に記載のモールドモータにおいて、
上記固定用延設部の基端部は、樹脂で被覆されずに露出しているモールドモータ。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれか一項に記載のモールドモータにおいて、
上記固定用延設部は、上記ケーシングの軸方向端面よりも軸方向外方側に突出しており、
上記ケーシングの端面から上記固定用延設部の基端部までの距離が、該端面から固定用延設部の爪部までの距離よりも長いモールドモータ。
【請求項13】
請求項8又は9に記載のモールドモータにおいて、
上記固定用延設部における上記所定方向の一側の面と上記インシュレータ本体のブラケットカバー側の端面との接続部は、モータ径方向に沿った断面で見て円弧状に形成されているモールドモータ。
【請求項14】
請求項7乃至13のいずれか一項に記載のモールドモータにおいて、
上記ブラケットカバーには、貫通孔が形成され、
上記ブラケットカバーの係合部は、上記貫通孔の内壁面に形成された爪部、又は該貫通孔の縁部からなるモールドモータ。
【請求項15】
請求項14記載のモールドモータにおいて、
上記ケーシングの端面には、その一部を切り欠いてなる位置決め凹部が形成され、
上記ブラケットカバーは
上記ケーシングの開口側の端部の内周面に嵌入される円筒状部と、
上記円筒状部の軸方向の一端部から鍔状に突出して、上記ケーシングの端面に当接するフランジ部と、
上記フランジ部に設けられ、上記ケーシングの端面に形成された位置決め凹部に係合する位置決めブロックと、
を有し、
上記貫通孔は、上記ブラケットカバーの位置決めブロックに形成されているモールドモータ。
【請求項16】
請求項14又は15記載のモールドモータにおいて、
上記貫通孔は、シリコン樹脂又はテープにより閉塞されているモールドモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate


【公開番号】特開2012−152094(P2012−152094A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174792(P2011−174792)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(398061810)日本電産テクノモータ株式会社 (197)
【Fターム(参考)】