説明

ユニット堤体及びこれを用いた堤防

【課題】自然環境への悪影響を最小限に止めて軽量且つ堅牢に構成することができるとともに、設置空間を有効利用することができ、さらに設置土台部に対して容易に一体的に安定して設置することが可能なユニット堤体を提供することにある。
【解決手段】ユニット堤体の主体フレーム部10及び天井フレーム部30が鉄骨骨組み躯体の吹き抜け構造である。これらの骨組みにより直方体空間14などの設置空間が形成される。この設置空間を有効利用する。当該ユニット堤体が設置固定される設置土台部は、例えば断面台形のコンクリートブロック200から成る既設の堤防の上部であり、基礎フレーム部20は、該既設の堤防の上部の形状に合わせて嵌め込み固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波や高潮、洪水等の対策に用いられるユニット堤体、及びこのユニット堤体を用いて構成される堤防に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の堤防は、海岸や河岸に沿って土盛りやコンクリートブロックで止水壁を築造することによって津波や高潮、洪水の対策地域への侵入を防ぐような構造が一般的である。このような堤防の高さを嵩上げする方法としては、堤防の頂上部に、土嚢を積み上げたり、コンクリートなど資材で壁面構造物を築造したりする等の方法が採られることが多い。
【0003】
しかしながら、このような方法で堤防の嵩上げを行うと、日射や通風、景観等の環境への悪影響が懸念されるだけでなく、膨大な土砂やコンクリートなどの資材が必要となり不経済でもある。そこで、異常水位時の流入水の浮力を利用して堤防の高さを変更することが可能なフロート式堤防が、例えば特許文献1などに提案されている。
【0004】
この特許文献1に記載の堤防は、津波や高潮などを受ける可能性のある護岸に沿って設置される護岸外壁と、その内側にある護岸内壁と、これらを連結する護岸連結部材とを備えており、津波や高潮発生時に護岸外壁と護岸内壁との間にある空間に溜まる水の浮力で、複数の防波フロートが護岸外壁の上方まで浮上するような構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−070536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、対策地域においてコンクリートブロックなどの既設の堤防が存在し、この既設の堤防を利用して、上記のフロート式堤防などの重厚な堤防を設置することは困難である。
すなわち、対策地域に既設の堤防よりも高い堤防を築造するために、例えばコンクリートブロックから成る既設の堤防の上部に、上記のフロート式堤防などのコンクリート製の重厚な堤防を設置する場合、既設の堤防と一体的に安定して設置することが難しく、堤防全体の強度が懸念される。この懸念を払拭するためには、既設の堤防に対して大規模な増設工事等を施す必要があり、相当の工期と費用が必要となることが予想される。
【0007】
また、対策地域において既設の堤防がなく新たに所望の高さの堤防を平地に新設する場合においても、次のような問題点がある。
通常、都市部等の土地利用が進行している地域において、10メートルを超えるコンクリート製等の大型重厚の堤防を新設することは、用地確保や高額の土地収用費用などの制約が多く、困難になっている。さらに、膨大なコンクリートなどの資材が必要となり、コスト高にもなる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、自然環境への悪影響を最小限に止めて軽量且つ堅牢に構成することができるとともに、設置空間を有効利用することができ、さらに設置土台部に対して一体的に安定して設置することが可能なユニット堤体を提供することにある。また、工期の大幅な短縮と低コスト化が可能であり、既設の堤防の嵩上げを容易にできるほか、土地利用が進行した都市部でも容易に新設することができる堤防を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明であるユニット堤体は、鉄骨柱(11)と該鉄骨柱にそれぞれ接合された長辺鉄骨梁と短辺鉄骨梁とで構成され、直方体空間(14)が形成される主体フレーム部(10)と、該主体フレーム部の下端部に設けられた鉄骨造りの基礎フレーム部(20)と、該主体フレーム部の上端部に設けられ、少なくとも一方向に対して傾斜した複数の鉄骨の傾斜梁を有する天井フレーム部(30)と、該天井フレーム部の両端部における傾斜梁のそれぞれに構成されるガイドレール(31、32)と、複数枚の水を止める止水板を回動可能な連結部材で連結して構成した折り畳み自在な高波を防ぐ防潮板と、止水板の両サイド部に設けられ、ガイドレールに係合するガイドローラと、防潮板をガイドレールに沿って昇降させる駆動手段(40、50)と、ガイドレールの端部に設けられ、防潮板を折り畳み収納する収納部(60)とを有することを特徴とする。
【0010】
ここで、「鉄骨」とは、本発明に係るユニット堤体の骨組みに使用される材料をいうが、該材料は鉄材に限定されず、広く鉄製や鋼製などの材料をいう。「鉄骨柱」には、断面が四角形になった鋼材の角形鋼管、断面が円形になった鋼材断面、断面がアルファベットのHに似た形状の鋼材であるH形鋼、アルファベットのLに似た形状の鋼材である山形鋼、片仮名のコの字に似た形状の鋼材である溝形鋼などからなる柱をいい、断面の形状には限定されない。
上記第1の発明であるユニット堤体によれば、主体フレーム部に直方体空間が形成された吹き抜け構造であるため、平常時の日射や通風、景観等の環境への悪影響を最小限に止めて軽量且つ堅牢に構成することができるとともに、設置空間を有効利用することができる。
【0011】
第2の発明であるユニット堤体では、上記第1の発明において、当該ユニット堤体が設置固定される設置土台部は既設の堤防の上部であり、基礎フレーム部は、該既設の堤防の上部の形状に合わせて嵌め込み固定される構造を有することを特徴とする。
上記第2の発明であるユニット堤体によれば、既設の堤防に対して加工工事を施さなくても既設の堤防に一体的に安定して設置することが可能になり、堤防全体の強度を十分確保することができるとともに、日射や通風、景観等の環境への悪影響を最小限に止めて既設の堤防を容易に一定の高さまで嵩上げすることが可能となる。
【0012】
第3の発明であるユニット堤体では、上記第1の発明において、当該ユニット堤体が設置固定される設置土台部は平地であり、基礎フレーム部は、該平地に杭打ち固定される構造を有することを特徴とする。
上記第3の発明であるユニット堤体によれば、平地の設置土台部に対して一体的に安定して設置することができる。また、主体フレーム部に形成される直方体空間を利用することにより、例えば既設の道路上に当該ユニット堤体を設置することが可能になり、当該ユニット堤体を設置するための用地選択の制約が少なくなり、都市型の堤防を実現することが可能になる。
【0013】
第4の発明であるユニット堤体では、上記第1の発明から上記第3の発明のいずれか1つの発明において、各連結部材の回動角度の上限は180度であることを特徴とする。
上記第4の発明であるユニット堤体によれば、防潮板の折り畳み動作をスムーズに行うことができる。
【0014】
第5の発明であるユニット堤体では、上記第1の発明から上記第4の発明のいずれか1つの発明において、防潮板の上部に、該防潮板の表面を上昇する水波の越波を防止するための波返し部材(70)を立設したことを特徴とする。
上記第5の発明であるユニット堤体によれば、波返し部材により、防潮板の表面を上昇する水波の越波を防止することができる。
【0015】
第6の発明である堤防は、上記第1の発明から上記第5の発明のいずれか1つのユニット堤体を複数連接して構成したことを特徴とする。
第6の発明である堤防によれば、各ユニット堤体の設置が容易であるため、工期の大幅な短縮と低コスト化が可能になる。また、設置空間の有効利用が可能であるため、例えば土地利用が進行した都市部でも容易に新設することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のユニット堤体によれば、平常時の日射や通風、景観等の環境への悪影響を最小限に止めて軽量且つ堅牢に構成することができるとともに、設置空間を有効利用することができ、さらに、設置土台部に対して特別な増設工事等を施さなくても設置土台部に一体的に安定して設置することが可能になる。
【0017】
本発明の堤防によれば、工期の大幅な短縮と低コスト化が可能になる。さらに、既設の堤防の上部に設置して堤防の嵩上げを容易に行うことができるほか、土地利用が進行した都市部でも容易に新設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係るユニット堤体を用いた堤防の全体的斜視図である。
【図2】防潮板をガイドレールに沿って昇降させるための駆動手段の概念図である。
【図3】防潮板の構成を示す斜視図である。
【図4】実施の形態に係る防潮板収納部の周辺部を示す断面図である。
【図5】第2の実施の形態に係るユニット堤体を用いた堤防の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るユニット堤体を用いた堤防の全体的斜視図である。図1に示すように、本実施の形態のユニット堤体は、例えば断面台形のコンクリートブロック200から成る既設の堤防の上部形状に合わせて嵌め込み固定されるものである。このユニット堤体は、鉄骨骨組み躯体として、主体フレーム部10と、この主体フレーム部10の下端部に設けられた基礎フレーム部20と、主体フレーム部10の上端部に設けられた天井フレーム部30とを備えている。
【0020】
主体フレーム部10は、例えば、計6本の鉄骨柱11と、この鉄骨柱11の上端に接合された計3本の短辺鉄骨梁12と、鉄骨柱11の上端及び下端にそれぞれ2本ずつ接合された計4本の長辺鉄骨梁13とで構成され、これらの骨組みにより直方体空間14が形成されている。なお、鉄骨柱11、短辺鉄骨梁12及び長辺鉄骨梁13は、上述のように複数本存在するが、図示の関係で図面上に表示されていないものもある。
【0021】
基礎フレーム部20は、断面台形のコンクリートブロック200の傾斜形状に合わせて傾斜される、例えば計6本の鉄骨部から成る。そのうちの3本の鉄骨部21が、主体フレーム部10の鉄骨柱11の下端から傾斜垂下する形で鉄骨柱11と一体的に対策地域側に設置され、この3本の鉄骨部21が補強用鉄骨22で補強されている。また、残りの3本の鉄骨部23は、防潮板を収納するための防潮板収納部60の骨格鉄骨から傾斜垂下する形で該骨格鉄骨と一体的に海側に設置され(後述の図4参照)、この3本の鉄骨部13も補強用鉄骨24で補強されている。
【0022】
天井フレーム部30は、主体フレーム部10の6本の鉄骨柱11の上端それぞれに接合される、例えば計6本の傾斜梁31〜34を有している。この傾斜梁2本ずつが上端で接合されて3つの三角形状を成し、その各三角形状の頂点部に天井梁35が接合されている。このような骨組みにより、天井フレーム部30には略三角柱空間が形成されている。この天井フレーム部30の両端部に位置する海側の傾斜梁31,32は、防潮板が昇降する際に防潮板を支持ガイドするガイドレールを兼用し、断面コ字状に形成されている。天井フレーム部30の中央部に位置する傾斜梁33は、他の傾斜梁よりも幅広に構成され、防潮板を傾斜梁31,32に沿って昇降させるための昇降部材40が取り付けられている。
【0023】
天井フレーム部30における天井梁35の上部には、駆動装置ボックス50が設置されている。駆動装置ボックス50は、防潮板を昇降するためのサーボモータや、このサーボモータの回転軸に連結される減速機等が収納され、水密に構成されている。
【0024】
図2は、本実施の形態に係る防潮板をガイドレールに沿って昇降させるための駆動手段を示す概念図である。この駆動手段は、図2に示すように、昇降部材40、駆動装置ボックス50、駆動制御装置52、操作スイッチ53、上部赤外線センサー54、下部赤外線センサー55、及びセンサー受光部76で構成される。
【0025】
昇降部材40は、例えば2列の無端状のベルトチェーン機構から成り、1列目は、上部のスプロケット41を駆動歯車、下部のスプロケット42を従動歯車とし、これらの歯車に無端状のベルトチェーン43を係回してある。2列目も同様に、上部のスプロケット44と下部のスプロケット45に無端状のベルトチェーン46を係回してある。
【0026】
上部のスプロケット41,44は駆動軸48に固定されており、駆動軸48の一端部が駆動装置ボックス50内の減速機に連結されている。この減速機には、駆動軸48が逆回転するのを防止するためのロック機構が備えられている。また、下部のスプロケット42,45は駆動軸49に固定されており、この駆動軸49の両端部が図示しない軸受け部に係合されている。このようなベルトチェーン機構は、天井フレーム部30における傾斜梁33の長手方向がベルト環内に位置するように取り付けられる。なお、本実施例では、ベルトチェーン機構を2列で構成したが、3列以上の多列のベルトチェーンとしても構わない。
【0027】
駆動制御装置52は、駆動装置ボックス50内のサーボモータの回転動作を制御するものであり、操作スイッチ53、上部赤外線センサー54、下部赤外線センサー55、及びセンサー受光部76に電気的に接続されている。本実施例では、駆動制御装置52及び操作スイッチ53は、例えば自治体の管理室などに設置しておき、有線または無線により、駆動装置ボックス50や上部赤外線センサー54、下部赤外線センサー55及びセンサー受光部76と電気的に接続するような構成を採る。
【0028】
図3は、本実施の形態に係る防潮板80の構成を示す。防潮板80は、例えばアルミ合金から成る軽量な5枚の止水板71〜75を、回動可能な4列の連結部材81a,82a,83a,84aで連結して構成した折り畳み自在な防潮板である。各連結部材81a,82a,83a,84aの回動角度は180度又はそれよりも小さく設定され、これによって、防潮板80に折り目機能が付加されている。すなわち、止水板71と72を連結する連結部材81aは、角度180度を限度として海側へ回動し、止水板72と73を連結する連結部材82aは、角度180度を限度として対策地域側へ回動する。同様に、止水板73と74を連結する連結部材83aは、角度180度を限度として海側へ回動し、止水板74と75を連結する連結部材84aは、角度180度を限度として対策地域側へ回動するようになっている。このため、防潮板80の折り畳み動作をスムーズに行うことができる。
【0029】
防潮板80の各止水板71〜75の両サイド部の下端部には、断面コ字状のガイドレール31に係合するガイドローラ91a〜95aが付設されている。防潮板80の各止水板71〜75のうち最上部の止水板71は、他の止水板よりも上下方向に幅広になっており、その上端部にはガイドローラ91bが付設されるとともに、止水板71表面に対して垂直方向に波返し部材70が一体的に立設されている。波返し部材70の一側面の所定の位置には、センサー受光部76が固着されている。
【0030】
止水板71の裏面には、天井フレーム部30における傾斜梁33の長手方向を回動するベルトチェーン43,46に固定されるベルトチェーン固定部71a,72aが突設されている。すなわち、ベルトチェーン固定部71aは、ベルトチェーン43のチェーン孔43aに貫通係合され、貫通されたベルトチェーン固定部71aの先端部の穴部71cをボルトとナットで固定する。同様に、ベルトチェーン固定部71bは、ベルトチェーン46のチェーン孔46aに貫通係合され、ベルトチェーン固定部71aの穴部71dをボルトとナットで固定する。
【0031】
図4は、本実施の形態に係る防潮板収納部60の周辺部を示す。図4に示すように、防潮板収納部60の骨格は、主体フレーム部の3本の鉄骨柱11と、3本の短辺梁61と、基礎フレーム部における3本の鉄骨部23の上側延設部とで構成され、この上側延設部の表面側は、防潮板80と同じ材質のカバー部材が全面を被抱している。そして、ガイドレール31が防潮板収納部60内部に延設され、その延設部31aが、断面コ字状であったガイドレール31の上部を除去した形のL字状の形状を成し、短辺梁61に当接した箇所で該短辺梁61に並行して鉄骨部23の突き当て31bまで延びている。また、ガイドレール32(図1参照)側も同様の構成である。
【0032】
ガイドレール31の上端部には上部赤外線センサー(発光部)54が固着され、さらに防潮板収納部60の上端部付近のガイドレール31の中途部には下部赤外線センサー(発光部)55が固着されている。赤外線センサー54,55は、波返し部材70(図3参照)の側面に固着されたセンサー受光部76と対向し得る位置に固着される。
【0033】
上述したような本実施の形態のユニット堤体は、工場や設置現場の近くで必要数組み立てられ、例えばクレーンで吊り上げられて、断面台形のコンクリートブロック200の上部に各ユニット堤体が連接する形で嵌め込み固定される。これにより、図1に示すように、コンクリートブロック200から成る既設の堤防が所定の高さまで嵩上げされる。
【0034】
次に、本実施の形態のユニット堤体の動作について説明する。
平常時には、防潮板80は防潮板収納部60に折り畳み収納され(図4参照)、各ユニット堤体は、波返し部材70が防潮板収納部60の上端部に当接した開放状態(図1参照)になっている。そして、非常時の津波警報などにより、操作スイッチ53が押されると、駆動制御装置52は、上部及び下部赤外線センサー54,55を発光状態とし、下部赤外線センサー55から発光された赤外線がセンサー受光部76に受光されていることを確認する。これによって、駆動制御装置52は、防潮板80が防潮板収納部60に収納状態にあると判定することができる。
【0035】
その後、駆動制御装置52(図2参照)は、駆動装置ボックス50内のモータ(図示せず)の回転軸を所定の方向へ回転させる。その結果、モータの回転力は、減速機(図示せず)を介して駆動軸48(図2参照)に伝達され、ベルトチェーン43,46が回動する。これによって、防潮板80がガイドレール31,32に沿って傾斜方向W1(図4参照)へ上昇移動する。すなわち、防潮板収納部60内に収納されている防潮板80の止水板71が先頭となり、2つのガイドローラ91b(図3参照)が断面コ字状のガイドレール31,32に上下左右方向を規制されて、上昇する。これに続いて、同様に、止水板72,73,74,75が、連結部材81a〜84aの回動により折り畳み状態を解除しながら上昇する。
【0036】
防潮板80の波返し部材70がガイドレール31,32の上端付近に到達すると、上部赤外線センサー54から発光された赤外線がセンサー受光部76に受光される。その結果、駆動制御装置52は、モータの回転を停止し、所定の待機時間の経過後、上部及び下部赤外線センサー54,55を非発光状態とする。このとき、駆動装置ボックス50内の減速機のロック機構が働き、駆動軸48,49は、回転しないようにロックされる。
このようにして、非常時には、各ユニット堤体は、波返し部材70が天井フレーム部30の上端部に当接した閉鎖状態となる(図5の80参照)。
【0037】
一方、非常時が収束した場合では、操作スイッチ53(図2参照)が押されると、駆動制御装置52は、上部及び下部赤外線センサー54,55を発光状態とし、上部赤外線センサー54から発光された赤外線がセンサー受光部76に受光されていることを確認する。これによって、駆動制御装置52は、防潮板80が閉鎖状態にあると判定することができる。
【0038】
その後、駆動制御装置52は、駆動装置ボックス50内のモータ(図示せず)の回転軸を非常時とは逆の方向へ回転させる。その結果、モータの回転力は、減速機(図示せず)を介して駆動軸48に伝達され、ベルトチェーン43,46が非常時とは逆方向に回動する。これによって、防潮板80がガイドレール31、32に沿って傾斜方向W2(図4参照)へ下降移動する。すなわち、防潮板80の止水板75が先頭となり、これに続いて止水板74,73,72,71の順で、それぞれ2つのガイドローラ95a〜91a,91b(図3参照)が断面コ字状のガイドレール31,32(図1参照)に上下左右方向を規制されて下降し、防潮板収納部60に折り畳み収納される。
【0039】
具体的には、止水板75の2つのガイドローラ95aが、ガイドレール31,32の延設部31a(図4参照)を通過して突き当て部31bに当接すると、止水板74と75の連結部分が上方へ持ち上がると同時に、止水板73の2つのガイドローラ73aが延設部31aの水平部分に押しつけられるように走行する。すると、止水板72と73の連結部分が上方へ持ち上がり、防潮板80が図4に示すような折り畳み状態になる。
【0040】
本実施形態において、防潮板80の材質はアルミ合金としたが、その他の軽量金属あるいは軽量で弾性を有し、かつ強固なポリエチレンや炭素繊維とすることができる。このことによって、軽量かつ強固で耐久性ある防潮板80を達成することができる。
【0041】
本実施形態において、防潮板収納部が天井フレーム部の上部に取り付けられる構造とすることができる。この構造のユニット堤体では、平常時には、防潮板は防潮板収納部に折り畳み収納されている(開放状態)が、非常時には、防潮板の複数の止水板が順次ガードレール31、32に沿って下方向に移動し、防潮板の止水版が閉鎖状態に設置される。非常時が収束した場合には、減速機が逆方向に回転し、これによって、防潮板がガイドレール31、32に沿って傾斜方向へ上昇移動し、複数の止水板が順番に防潮板収納部に折り畳み収納される。
【0042】
<第1の実施形態の利点>
第1の実施の形態によれば、ユニット堤体の主体フレーム部10及び天井フレーム部30が鉄骨骨組み躯体の吹き抜け構造である。これにより、平常時の日射や通風、景観等の環境への悪影響を最小限に止めて軽量且つ堅牢に構成することができ、また直方体空間14などの設置空間を有効利用することができる。
【0043】
また、当該ユニット堤体が設置固定される設置土台部は、例えば断面台形のコンクリートブロック200から成る既設の堤防の上部であり、基礎フレーム部20は、該既設の堤防の上部の形状に合わせて嵌め込み固定される。これにより、既設の堤防に対して一切加工工事を行わなくても、該既設の堤防と一体的に安定して設置することが可能になり、既設の堤防を容易に一定の高さまで嵩上げすることが可能となる。さらに、各ユニット堤体の設置が容易であるため、工期の大幅な短縮と低コスト化が可能になる。
さらに、防潮板80の上部の表面に対して縦方向に波返し部材70を立設したので、波返し部材70により、防潮板80の表面を上昇する水波の越波を防止することができる。
【0044】
[第2の実施形態]
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るユニット堤体を用いた堤防の構成を示し、図1と共通する要素は同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態に係る各ユニット堤体100が設置固定される設置土台部は平地であり、基礎フレーム部120は、平地に杭打ち固定される。すなわち、基礎フレーム部120は、平地に対して、対策地域側には複数本の鉄骨杭121が打ち込まれるとともに、海側には複数本の鉄骨杭122が打ち込まれる。これら鉄骨杭121は、主体フレーム部10の鉄骨柱11と一体的に構成され、鉄骨杭121は、防潮板収納部60の骨格鉄骨と一体的に構成されている。主体フレーム部10及び天井フレーム部30の構成は、図1のユニット堤体と同様である。
【0045】
本実施の形態では、主体フレーム部10に形成される直方体空間14を利用して、既設の道路110上に、堤防を設置している。なお、本実施の形態の堤防を構成するに当たり、ユニット堤体100に連接して、通用口用のユニット堤体101や、河川増水防止用のユニット堤体102などを設置してもよい。通用口用のユニット堤体101は、電動シャッター130の開閉により道路110と海側との通行を可能にしている。また、河川増水防止用のユニット堤体102は、河川140上に設置され、河岸141の形状に合わせて増水防止板142が電動で開閉するようになっている。
【0046】
<第2の実施の形態の利点>
本実施の形態によれば、各ユニット堤体を平地に杭打ち固定したので、平地の設置土台部に対して一体的に安定して設置することができる。また、主体フレーム部10に形成される直方体空間14を利用することにより、例えば既設の道路110上にユニット堤体を設置することが可能になる。これにより、ユニット堤体を設置するための用地選択の制約が少なくなり、土地利用が進行した都市部でも容易に新設することができ、都市型の堤防を実現することが可能になる。また、各ユニット堤体の設置が容易であるため、工期の大幅な短縮と低コスト化が可能になる。
【符号の説明】
【0047】
10 主体フレーム部
11 鉄骨柱
12 短辺鉄骨梁
13 長辺鉄骨梁
14 直方体空間
20,120 基礎フレーム部
30 天井フレーム部
31,32 ガイドレール
40 昇降部材
50 駆動装置ボックス
60 防潮板収納部
71〜75 止水板
80 防潮板
91a〜95a,91b ガイドローラ
100 ユニット堤体
200 コンクリートブロック



【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱(11)と前記鉄骨柱にそれぞれ接合された長辺鉄骨梁と短辺鉄骨梁とで構成され、直方体空間(14)が形成される主体フレーム部(10)と、
前記主体フレーム部の下端部に設けられた鉄骨造りの基礎フレーム部(20)と、
前記主体フレーム部の上端部に設けられ、少なくとも一方向に対して傾斜した複数の鉄骨の傾斜梁を有する天井フレーム部(30)と、
前記天井フレーム部の両端部における前記傾斜梁のそれぞれに構成されるガイドレール(31、32)と、
水の流入を阻止する複数枚の止水板を回動可能な連結部材で連結して構成した折り畳み自在な防潮板と、
前記止水板の両サイド部に設けられ、前記ガイドレールに係合するガイドローラと、
前記防潮板を前記ガイドレールに沿って昇降させる駆動手段(40、50)と、
前記ガイドレールの端部に設けられ、前記防潮板を折り畳み収納する収納部(60)とを有することを特徴とするユニット堤体。
【請求項2】
当該ユニット堤体が設置固定される設置土台部は既設の堤防の上部であり、前記基礎フレーム部は、該既設の堤防の上部の形状に合わせて嵌め込み固定される構造を有することを特徴とする請求項1に記載のユニット堤体。
【請求項3】
当該ユニット堤体が設置固定される設置土台部は平地であり、前記基礎フレーム部は、該平地に杭打ち固定される構造を有することを特徴とする請求項1に記載のユニット堤体。
【請求項4】
前記各連結部材の回動角度の上限は180度であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のユニット堤体。
【請求項5】
前記防潮板の上部に、該防潮板の表面を上昇する水波の越波を防止するための波返し部材(70)を立設したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のユニット堤体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載されたユニット堤体を複数連接して構成した堤防。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−7221(P2013−7221A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141200(P2011−141200)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【特許番号】特許第4936262号(P4936262)
【特許公報発行日】平成24年5月23日(2012.5.23)
【出願人】(511155637)
【Fターム(参考)】