説明

ライニング容器の施工方法及びライニング容器

【課題】 ライニング板の補強を自由に行う事が出来且つ、ライニング板を損傷しないので、健全なライニング容器を簡単な工程で建設できるライニング容器の施工方法を提供する。
【解決手段】 このライニング容器の施工方法は、ライニング板1と亜鉛引き波形鉄板2とを重ね合わせ、ライニング板1と亜鉛引き波形鉄板2との当接部分に、この当接部分から突出するように頭付きスタッド3を配置し当接させ、ライニング板1と亜鉛引き波形鉄板2と頭付きスタッド3とを貫通スタッド溶接法によって溶接してパネル5を構成し、このパネル5にコンクリート型枠15を対向して配置し、パネル5の頭付きスタッド3とコンクリート型枠15とをセパレータ16で連結し、パネル5とコンクリート型枠15との間にコンクリートを打設して硬化させ、ライニング板1を、コンクリート打設時にはコンクリート型枠として機能させ、コンクリート硬化後にはライニング容器のライニング板として機能させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃液貯蔵槽、復水貯蔵槽、放射性廃棄物貯蔵プール、使用済み燃料プール等に使用されるライニング容器の施工方法及びライニング容器に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電設備や放射性物質処理設備において、各種の放射性液体の貯留はコンクリート躯体に鋼板を張ったライニング容器を用いておこなわれることが多い。また、放射性物質または放射性物質付着物品等の固体物の保管はライニング容器内に放射線遮蔽用の水を張ってその中に保管することが一般に行われている。ライニング容器は、通常の円筒形タンクにくらべると躯体内空間の使用容積効率が非常に良いことから、原子力関連施設では大規模に採用されている。
【0003】
従来のライニング容器の施工法は、多数の補強材をライニング板に取り付けてコンクリートを打設するものである。また、このライニング容器の施工手順は、工場でのライニング板に補強を付けた現地組み立て単位の通称パネルといわれるものを製作し、これを現地施工で組み立てるという手順で行われる。
【0004】
ここで、従来のライニング容器の施工手順を、図13ないし図15を参照して説明する。
【0005】
図13及び図14に示すように、モルタル打設控え面aの背面に鉄筋101を立てて一次埋め込み金物102、103を取り付け、ついで型枠取り付け用セパレータ104を介してコンクリート型枠105を取り付け、端太材106で固定した後、躯体コンクリート107を打設して一次据付けを終わる。
【0006】
次に、図15に示すように、第1の支持金物103に、槽内側に突出する第2の支持金物108を溶着するとともに、この第2の支持金物108の先端に、ライニング板109を配設してモルタル充填型枠として利用し、側壁コンクリートとライニング板109の間にモルタル110を打設し、二次打設とライニング板取り付けを同時に行うことによって、ライニング壁を構築する。
【0007】
前記した従来の施工方法では、一次埋め込み工程→コンクリート打設工程→二次埋め込み工程→モルタル充填兼ライニング板溶接取り付け工程のように工程が煩雑である。このため、大容量の槽のライニング工事では、何段階にも分割して施工せざるを得ないため、プラント施設全体の工期が延引する一因ともなっている。
【0008】
一方、従来技術のライニング工法は他にも多くあり種々の工夫がなされてきた。すべてをここでのべることはさけるが、従来技術の共通の問題は、ライニング板に補強の溶接加熱が加わっているため、材質劣化を招きやすく、また補強材の物量も大きく、決定的な合理化ができないということである。いずれの方法も工程が煩雑であって、大容量槽のライニング工事では何段階にも分割して施工せざるを得ない。このため、プラント施設全体の工期が延引する一因ともなっている。
【0009】
従来から種々の方法が考案され、実施されてきた。しかしいずれも、長尺形鋼を大量に使用することから、物量増大と工程輻輳、ライニング板への不必要な溶接等の問題があった。
【0010】
従来技術の課題の第1は、埋め捨てとなる、補強形鋼の減少化要求である。
【0011】
ライニング板がコンクリート打設圧を受けるとき、この打設圧は、単なる水圧のような圧力のほかに、コンクリート充填振動や、施工時振動を受けるため、振動圧力が加わって非常に大きい圧力となる。しかも、振動に起因する圧力は算定のしにくい動的圧力となって加わるので、ライニング板の補強は十分な強度を与えるためにたくさんの長尺形鋼を縦横に細かいピッチで配置していた。また、この長尺形鋼とライニング板は、コンクリート打設圧力で剥離しないよう十分な強度の溶接が必要であった。この為、ライニング板への溶接溶け込みは深く、溶接長さもそれなりに長くなり施工負担の大きいものであった。しかも本来のライニング容器の機能には必要ではないコンクリート打設時のただ一度の荷重に耐える形鋼が大量に必要となり埋め込まれたままとなっている。
【0012】
コンクリートを打設するとき、コンクリート壁厚さを保持するためライニング板と対面するコンクリート型枠はセパレータと呼ぶ寸法保持材で連結される。このセパレータはライニング側では、ライニング板の補強形鋼に溶接で取り付けられ、型枠側では型枠を貫通してネジ止めされている。このセパレータは一般に縦横600mmピッチ程度で配置されるため、長尺形鋼のピッチもこれに合わせざるを得ず、ライニング板には多数の形鋼が格子状に溶接配設されることになる。 従って、部材の増加と施工手順の煩雑化を招き、工期の長期化、建設費の増加を生じていた。
【0013】
従来技術の課題の第2はライニング板の健全化要求である。
【0014】
ライニング板に補強を多く取ると、本来の容器機能を得るために必要なライニング板同士の溶接以外に、容器機能から言えば不必要で、まったく健全な平板部分に溶接を行うことになりライニング板にとって、実は損傷となることである。そしてこの溶接は、本来の容器機能にはまったく寄与せず、一過性のコンクリート打設圧に耐えるために、ライニング板を溶接加熱によっていわば損傷させていることと同じ結果になっている。
【0015】
ライニング容器としての機能上必要な部材はライニング板のみであって、溶接も、ライニング板同士以外には出来る限り行わないことが望ましい。ライニング板に本来は不必要な溶接箇所を与えることで、部分的な材料の変質が起こり、経年劣化の原因を持ち込むことになる。ライニング板同士の溶接部は裏面に漏洩検出溝が設置される事が多く、万が一の漏洩も確実に検出し、漏洩液も所定のルートで流出処理されるので問題はないが、平板部は漏洩検出溝が無く、漏洩した液体は、非管理域に流れ出すおそれがないとは言えず望ましくなかった。
【0016】
従来技術の課題の第3は施工の単純化要求である。
【0017】
従来のライニング容器の施工法は、いずれの施工法も、長尺形鋼を大量に使用する事に変わりなく、物量増大による工程輻輳の問題がある。
【0018】
上述した問題をまとめると、ライニング容器の基本に帰って必要機能と必要施工を見直せば、貯留水を保持するライニング板の溶接と、コンクリート躯体への固定とコンクリート打設が必要で、それ以外は本来は不要なのである。しかも、工場製作におけるライニング板に対する形鋼溶接が大きい負担となっており合理化が望まれていた。さらに、現地施工で大量の仮設資材をコンクリート内に埋め込んでおり、最終的には埋め捨てとなるもので、資材としても施工負担としても大きく、結果的には無駄であり合理化が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その課題はライニング板の補強を自由に行うことができ、かつ合理的なライニング容器の施工方法及びライニング容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、コンクリート躯体とこのコンクリート躯体に内張りされたライニング板とを有するライニング容器の施工方法であって、前記ライニング板と凹凸を有する凹凸鉄板とを重ね合わせ、前記ライニング板と前記凹凸鉄板との当接部分に、この当接部分から突出するように鋼製スタッドを配置し当接させる工程と、前記ライニング板と前記凹凸鉄板と前記鋼製スタッドとを一体に溶接してライニングパネルを構成する工程と、このライニングパネルにコンクリート型枠を対向して配置する工程と、前記ライニングパネルの鋼製スタッドと前記コンクリート型枠とをセパレータで連結する工程と、前記ライニングパネルと前記コンクリート型枠との間にコンクリートを打設する工程と、前記ライニングパネルと前記コンクリート型枠との間に打設されたコンクリートを硬化させる工程とを備え、前記ライニング板を、コンクリート打設時にはコンクリート型枠として機能させ、コンクリート硬化後にはライニング容器のライニング板として機能させて、ライニング容器を施工することを特徴とする。
【0021】
請求項2に記載の発明は、前記ライニング板と前記凹凸鉄板と鋼製スタッドとを一体に溶接する工程は、前記鋼製スタッドを、前記ライニング板に重ね合わされた前記凹凸鉄板に圧下接触させ、前記ライニング板と前記凹凸鉄板と前記鋼製スタッドとが通電可能な状態に保持する工程と、通電を開始するとともに、前記鋼製スタッドと前記凹凸鉄板の距離を拡げて、前記鋼製スタッドと前記凹凸鉄板との間にアークを発生させて前記凹凸鉄板を加熱し、前記凹凸鉄板を融解させる工程と、通電をさらに継続して、前記凹凸鉄板の加熱融解部分と前記ライニング板に共通する溶融池を生成して、前記鋼製スタッドの直径に応じた圧下融着に適正な溶融池大きさになるまでアーク電流を供給する工程と、通電を停止して、前記凹凸鉄板と前記ライニング板の共通溶解池に前記鋼製スタッドを圧着して、外周部に融解金属を押し出す工程と、融解後凝固していく金属が、徐冷しつつ前記鋼製スタッド側と、前記凹凸鉄板及び前記ライニング板の側との両側から柱状晶を成長させて、融解していたときの厚さの中央面に柱状晶境界を生成して、二層化凝固するように冷却制御を行う工程とを有することを特徴とする。
【0022】
請求項3に記載の発明は、前記凹凸鉄板は波形状であることを特徴とする。
【0023】
請求項4に記載の発明は、前記鋼製スタッドは、溶接端の反対側にネジを設けたことを特徴とする。
【0024】
請求項5に記載の発明は、前記ライニング板のコンクリート側に前記ライニング板の裏面と前記凹凸鉄板とで画成される空間を、漏洩検出溝に連通したことを特長とする。
【0025】
請求項6に記載の発明は、前記ライニング板同士の溶接施工は、コンクリート打設後であって、ライニング板同士の合わせ目を施工してライニング容器を完成させることを特長とする。
【0026】
請求項7に記載の発明は、前記ライニング板同士の溶接施工は、コンクリート打設前であってライニング同士の合わせ目を施工してコンクリート打設し、即ライニング容器を完成させることを特長とする。
【0027】
請求項8に記載の発明は、ライニング板と、凹凸を有する鉄板であって、このライニング板に重ね合わされた凹凸鉄板と、前記ライニング板と前記凹凸鉄板との当接部分に、この当接部分から突出するように配設された鋼製スタッドと、
前記ライニング板と前記凹凸鉄板および前記鋼製スタッドを一体に溶接した溶接部とを有するライニングパネルと、前記ライニングパネルの外側に打設されたコンクリート躯体と、前記鋼製スタッドの突出した端部から前記コンクリート躯体を通ってコンクリート躯体外周面に至るセパレータとを備え、前記ライニング板を、コンクリート打設時にはコンクリート型枠として機能させ、コンクリート硬化後にはライニング容器のライニング板として機能させることを特徴とする。
【0028】
請求項9に記載の発明は、前記ライニング板と前記凹凸鉄板と鋼製スタッドとを一体に接合した溶接部は、前記鋼製スタッドを、前記ライニング板に重ね合わされた前記凹凸鉄板に圧下接触させ、前記ライニング板と前記凹凸鉄板と前記鋼製スタッドとが通電可能な状態に保持し、通電を開始するとともに、前記鋼製スタッドと前記凹凸鉄板の距離を拡げて、前記鋼製スタッドと前記凹凸鉄板との間にアークを発生させて前記凹凸鉄板を加熱し、凹凸鉄板の加熱融解部分と前記ライニング板に共通する溶融池を生成して、前記鋼製スタッドの直径に応じた圧下融着に適正な溶融池大きさになるまでアーク電流を供給し、通電を停止して、前記凹凸鉄板と前記ライニング板の共通溶解池に前記鋼製スタッドを圧着して外周部に融解金属を押し出し、融解後凝固していく金属が、徐冷しつつ前記鋼製スタッド側と、前記凹凸鉄板及び前記ライニング板の側との両側から柱状晶を成長させて、融解していたときの厚さの中央面に柱状晶境界を生成して、二層化凝固するように冷却制御を行うことを特徴とする。
【0029】
請求項1ないし9に記載の発明によると、ライニング板と補強鉄板はコンクリート型枠としての機能を果たし、スタッドはパネルとして一体化されたライニング板と亜鉛引き波形鉄板をコンクリート型枠としての機能させるためのセパレータの機能を果たしている。コンクリート流入時、打設圧は先ず亜鉛引き波鉄板とライニング板にかかり、この荷重はスタッド溶接部を経由してセパレータに引っ張り力として伝播する。スタッド溶接部はライニング板の部分補強の機能を果たし、亜鉛引き波形鉄板とライニング板の溶接部を共有して、平板に局部集中する大応力を小さく抑えて分散させ、且つ、応力種類を安全側配分とする。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明にあっては、ライニング板と凹凸を有する凹凸鉄板とを重ね合わせ、ライニング板と前記凹凸鉄板との当接部分に、この当接部分から突出するように鋼製スタッドを配置し当接させ、ライニング板と凹凸鉄板と鋼製スタッドとを貫通スタッド溶接法によって溶接してライニングパネルを構成する。このため、ライニング板の補強を自由に行う事が出来且つ、ライニング板を損傷しないので、健全なライニング容器を簡単な工程で建設できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図1ないし図12を参照して説明する。
【0032】
「第1の実施の形態」
図1は本発明の第1の実施形態の断面図、図2はパネルの図である。
【0033】
本実施形態の構成
ライニング板1と亜鉛引き波形鉄板2と多数の頭付きスタッド3を貫通スタッド溶接法で溶接して合板のように一体化し、枠形鋼4を取り付けてパネル5を構成する。そして、このパネル5を躯体工事のコンクリート型枠15に対向して立設する。このパネル5の頭付きスタッド3とコンクリート型枠15とをセパレータ16で連結して型枠としての機能を果たさせ、コンクリート型枠15とライニング板1を有するパネル5との間を保持させる。ライニング板1同士の溶接14をおこなって、ここにコンクリート18を打設することにより、ライニング板1の工事と躯体コンクリート工事を完了させる。
【0034】
本実施形態の作用
このように、コンクリート18が打設流入させられると、型枠15と型枠兼用のライニング板1に打設圧がかかる。打設圧は型枠15と型枠兼用のライニング板1の間を広げようとする力を生じる。この力は一方では型枠15を、もう一方では型枠兼用のライニング板1を躯体の外側に押しつけ、セパレータ16を引っ張る力と平衡する。
【0035】
ここでコンクリート18の打設圧によって発生する力と型枠15の支持力が平衡安定するので、コンクリート硬化を待てば、所期の躯体が打ちあがり、型枠兼用のライニング板1を設定してあった躯体表面側ではライニング工事が完了する。
【0036】
本実施例の効果
本実施形態によれば、スタッドの先端まわりに、亜鉛引き波形鉄板とライニング板を貫通して共通する余盛りが広く深く生成される貫通スタッド溶接法を適用している。また、ライニング板1に頭付きスタッド3を相手側のコンクリート型枠15にあわせて全面的に配置したものをコンクリート型枠の代わりに使用でき、これにセパレータ16を取り付けることが出来る。よって、躯体コンクリート18の打設圧によるセパレータ16の引っ張り力がライニング板1にかかるとき、貫通スタッド溶接部の余盛りの効果と二重板の一体化構造によって、ライニング板1にかかる応力は、通常では大きくかつ局部集中するが、これを小さく抑えて分散することができる。さらに、二種類ある作用応力すなわち引っ張りと圧縮のうち、圧縮応力を主にライニング板1側寄りに、引張応力を余盛り側寄りに配分することができ、従って応力を安全側の配分とすることができる。
【0037】
応力配分については図10から図12を参照してさらに詳しく説明する。応力説明は、残留応力の平衡化に係わる説明と、圧力による発生応力の説明に分ける。
【0038】
残留応力の平衡化に係わる部分について図10を参照して説明する。
【0039】
溶接部の残留応力は通常溶接側で引っ張り、母材側で圧縮となる。本溶接方法では溶池が大きくできる分、他の溶接法に対して母材側の圧縮応力を大きくとることができる。もちろん他の溶接法で溶池を大きくとることはできるが、そのとき、母材側への溶け込み深さが大きくなって母材に大きい熱影響部を残す。このため、かえって材質的に良くない事態を生じてしまい、実際的に溶池をスタッド溶接と同じくすることは出来ない。溶接棒を用いる溶接法では溶池が大きくなることはなく、小さい溶池が順次移動して大きい余盛りを生成するので、溶解と凝固の部分ができて、残留応力が、溶解部と凝固部で相互影響してしまう。また、大きい溶池を造ろうとしても深く溶け込んでしまい、スタッド溶接のように広い溶池部対母材の単純な2層の内部応力平衡関係を作れない。本貫通スタッド溶接法の利点は、他の溶接棒を使用する溶接法のような母材材質を損なうものでなく、母材側に損傷を与えないで浅く広い溶池を得る事が出来ることである。この貫通スタッド溶接法において、通電引き上げを主とする時間制御、発熱を決定づける電流制御、放熱を決定づけるシールドの材質選択と形状決定、シールド内圧力の適正化を行えば、所要の溶池を時間順の順次溶解ではなく一時に全面溶解の状態で得られるのである。本貫通スタッド溶接は、厚さの違う二枚の板を溶池を共通にしてかつ、スタッド側の薄い方の板には貫通溶池を生成させる。この溶池の制御が、即ち形状における余盛りの制御であり、応力において分層化制御であり、溶接部の付加厚さを決定するものとなる。この分層が母材部には圧縮応力を発生させてライニング容器の健全化をする。なお、圧縮応力を発生させる事が、容器の健全化に寄与する事は自明なのでここでは説明を省く。
【0040】
図10(b)に明らかなように、溶接部の余盛り即ち厚さ付加によって、圧縮応力と引っ張り応力の厚さ方向の配分を適正に二層化できる。さらに、図10(a)に示すように、スタッド側の板が加わって、余盛厚さを増した貫通スタッド溶接では、二層化とともにスタッド側の引張り応力抑制効果が得られることが分かる。
【0041】
母材厚のみの場合は、溶池の凝固による引っ張り応力と母材部分の圧縮応力の平衡関係が非常に不安定である。これは、スタッド側ではわずかな外部力で割れや剥離が起こる事を示している。母材側では圧縮応力は小さいものである。
【0042】
余盛りが大きい場合は、溶池の凝固による引張応力と母材部分の圧縮応力の平衡関係が非常に安定である。これは、スタッド側では大きな外部力で局部割れや剥離が起こらない事を示している。母材側では圧縮応力は大きいものである。大きい余盛りの得られる貫通スタッド溶接法は、この引張り応力抑制形の二層化配分設計によってはじめて、実用的な貫通スタッド溶接による合板様のパネルができるのである。この応力配分は、目視で確認できないため見過ごされることが多く、その重要度が理解しにくいが、実は、溶接部の健全性と安全性を左右するもので、溶接設計の根幹を成す大切なものなのである。
【0043】
圧力による発生応力の配分について、図11を参照して説明する。図11は、コンクリート打設圧を受けたときのスタッド部の発生応力と余盛サイズの関係を示す。図11(a)に示す余盛りが小さい場合は、図11(b)に示す余盛りが大きい場合に比して、明らかに最大応力はスタッドの付け根部分で応力集中によって局部的に大きくなる。この図は断面で表しているから、この最大応力部は実体においては円形の大応力部を生じる事を示している。言い換えれば、スタッド付け根部分で円形に割れ易く、破壊時には円状の穴が明くことを示している。実はこのことこそがスタッド溶接の欠点であったもので、肝心の固定アンカとしてのスタッド付け根がもっとも弱くなるので、大きい力をかけることが出来なかったのである。従って、従来技術の施工法では、スタッドにセパレータを取り付けても実用的な荷重をかけることが出来なかったのである。従来技術の施工法では、スタッドにセパレータを取り付けるときは、セパレータに対してスタッドは相当に太くしなければ、付け根部強度とセパレータ強度とのバランスが取れなかった。スタッドを溶接する板もスタッドの増径に応じて厚さを増さなければならないので、各部材が大きくなってしまい、結局は実用性が無く基本工法としては採用できなかった。従来のライニング板補強が形鋼の直接溶接で行われていたのは、このスタッド付け根部の相対的な弱さによってスタッドが実際的には使えないからなのである。
【0044】
本発明によるスタッド付け根部分は、図11(c)に示すように、直径と厚さを共に大きくした貫通大余盛りによって補強されて、応力集中を緩和し従来の大余盛スタッド溶接に比べさらに強度を増している。
【0045】
図11に示す余盛り直径と余盛厚さを、スタッド径とライニング板厚さとの関係に注目して見ればこの効果は明らかである。
【0046】
ライニング板にかかるコンクリート打設時応力を図3に示した。ライニング板が合板に構成されたパネルに組み込まれたことによって、発生応力を大きく低減している。
【0047】
スタッド溶接部の強度向上とともに、スタッド間の強度も、合板型のパネルを形成することで大きく向上する。図12にコンクリート打設時応力比較を示した。ここで、亜鉛スタッド溶接部の強度向上とともに、スタッド間の強度も、合板型のパネルを形成することで大きく向上する。図12にコンクリート打設時応力比較を示した。ここで、亜鉛引き波形鉄板を設けた図12(b)の場合が、そうでない図12(a)の場合に比して、発生応力が格段に小さくなっていることがわかる。これは、パネルを格段に軽量化できることを示している。
【0048】
ライニング板にかかるコンクリート打設時応力を図3に示した。ライニング板が合板に構成されたパネルに組み込まれたことによって、発生応力を大きく低減している。
【0049】
スタッド溶接部の強度向上とともに、スタッド間の強度も、合板型のパネルを形成することで大きく向上する。図12にコンクリート打設時応力比較を示した。ここで、亜鉛引き波形鉄板を設けた図12(b)の場合が、そうでない図12(a)の場合に比して、発生応力が格段に小さくなっていることがわかる。これは、パネルを格段に軽量化できることを示している。
【0050】
貫通スタッド溶接法については、図7を参照して説明する。
【0051】
図7(a)から(i)に本発明で採用するスタッド溶接の施工を順を追って示した。
【0052】
第7図(a)の工程では、ライニング板1に合板状に亜鉛引き波形鉄板2を合わせ、亜鉛引き波形鉄板2側にスタッド3を当接させ、この頭付きスタッド3の当接部をセラミック製のシールド9内で覆い、ライニング板1と亜鉛引き波形鉄板2とスタッド3が通電可能な状態に保持する。
【0053】
第7図(b)の工程では、通電を開始するとともにスタッド3と亜鉛引き波形鉄板2の距離を広げて、スタッド3と亜鉛引き波形鉄板2との間にアークを発生させて亜鉛引き波形鉄板2を加熱し亜鉛引き波形鉄板2の両表面の亜鉛を融解させる。
【0054】
第7図(c)の工程では、続いて、亜鉛引き波形鉄板2の両表面の亜鉛を気化させて亜鉛引き波形鉄板2の加熱部から除去する。
【0055】
第7図(d)の工程では、通電を継続して、亜鉛引き波形鉄板2の亜鉛除去部を加熱融解させて、亜鉛引き波形鉄板2表面に溶解池を生成して、亜鉛が融解、蒸発しつつ溶融池を成長させて亜鉛除去部を拡大する。
【0056】
第7図(e)の工程では、通電をさらに継続して、亜鉛引き波形鉄板2の亜鉛除去済み加熱融解部分とライニング板1に共通する溶融池を生成させて、溶融池周囲の亜鉛を融解、蒸発させて溶融池と亜鉛除去域を共に成長させてスタッド3の直径に応じた圧下融着に適正な溶融池大きさになるまでアーク電流を供給する。
【0057】
第7図(f)の工程では、通電を停止して、亜鉛引き波形鉄板2とライニング板1の共通溶解池にスタッド3を圧着して融解金属を、スタッド軸中心でより強く圧着し、外周部に融解金属を押し出す。
【0058】
第7図(g)の工程では、融解した金属が徐冷しつつ凝固していきながら、融解した金属と凝固進行中の金属と周囲の高温加熱された金属で亜鉛の気化温度以上を暫時保持して気化亜鉛を流排出する。
【0059】
第7図(h)の工程では、融解後凝固していく金属を徐冷しつつ、スタッド3側と亜鉛引き波形鉄板2とライニング板1側との両側から柱状晶77を成長させて、融解していたときの厚さの中央面に柱状晶境界78を生成させて、融解金属が二層化凝固するように冷却制御を行う。
【0060】
第7図(i)の工程では、スタッド3と凝固金属と亜鉛引き波形鉄板2とライニング板1が冷却して一体化した後チェンバ形成インシュレーションを取り外して溶接が完了する。
【0061】
本貫通スタッド溶接は、上述の各工程を厳密に制御して、最終的には適当な余盛りが得られるのである。この適当な余盛とは、単に寸法が大きいだけでなく、材質としての熱処理、すなわち金属結晶生成の加熱冷却工程制御を通して結晶成長制御をしたものである。
【0062】
工程毎の制御項目は、本貫通スタッド溶接の重要点なので、図7、図8、図9を参照してさらに詳しく説明する。
【0063】
従来のスタッド溶接は一般に4工程で説明される。第一工程は、接触工程、第二工程は通電引き離し工程、第三工程は圧下工程、第四工程は冷却完成である。
【0064】
本貫通スタッド溶接も基本的な順序はは変わらないが、さらに細かく制御工程を入れることによって亜鉛引き波型鉄板の貫通溶接を実現している。
【0065】
本貫通スタッド溶接を工程毎に説明する。
【0066】
第1工程は、ライニング板1に合板状に亜鉛引き波形鉄板2を合わせ、亜鉛引き波形鉄板2側にスタッド3を当接させ、このスタッド3の当接部をセラミック製のシールド9内で覆い、ライニング板1と亜鉛引き波形鉄板2とスタッド3が通電可能な状態に保持する。一般のスタッド溶接では通電対象が直接接触するので問題ないが、本貫通スタッド溶接では、亜鉛引き波形鉄板が中間に挟み込まれるため強く圧下して電気導通の確保を行っている。
【0067】
第2工程は、通電を開始するとともにスタッド3と亜鉛引き波形鉄板2の距離を広げて、スタッド3と亜鉛引き波形鉄板2の間にアークを発生させて亜鉛引き波形鉄板2を加熱し亜鉛引き波形鉄板の両表面の亜鉛を融解させる工程である。ここで、亜鉛は低融点(420℃)でライニング板(1500℃程度)と大きく違うことを利用して、亜鉛を優先的に融解させている。ここで、工程を通して静止しているためその役割が分かりにくいシールド9の機能を説明をする。従来のスタッド溶接は単に囲いの中でアークを発生させるためにシールドをつけているものであるが、本貫通溶接においては、気化亜鉛の排出に適するように、スタッドとの円筒形隙間は少なく、下部の亜鉛引き波形鉄板との隙間は、放射状に加熱空気と蒸気亜鉛が排出されるように流通路を設けている、内部容積は加熱された空気と亜鉛蒸気がよく流出するよう、やや小さいものとして圧力がある程度上がるがるものとしている。
【0068】
第3工程は、続いて、亜鉛引き波形鉄板2の両表面の亜鉛を気化させて亜鉛引き波形鉄板2の加熱部から除去する工程である。ここで、亜鉛は低沸点(906℃C)で、ライニング板の融点より低いことを利用して、ライニング板が融解に至る前に亜鉛を気化除去している。余り入熱が大きいと、鉄板部分とライニング板の融解が早くなり、亜鉛の気化排出が間に合わず、亜鉛存在下で融解が起こり、金属間化合物の生成や、酸化亜鉛の巻き込みがおこり、不適正溶接結果となる。これを防ぐため一般のスタッド溶接より入熱を抑制気味に制御する。
【0069】
第4工程は、通電を継続して、亜鉛引き波形鉄板2の亜鉛除去部を加熱融解させて、亜鉛引き波形鉄板2表面に溶解池を生成して、亜鉛が融解、蒸発しつつ溶融池を成長させて亜鉛除去部を拡大する工程である。前工程同様に一般のスタッド溶接より入熱を抑制気味に制御する。抑制気味の入熱とは、単純に電流値を小さくして時間を長くすれば良いわけでなく、ある程度の電流値を保たないといわゆる片溶けを生じて適正な結果が得られないのであって、均一熔解を得られる範囲で電流値を抑制するものである。特に、本件の貫通スタッド溶接では、電流値不足があると亜鉛引き波形鉄板が薄いため優先融解してライニング板は余り融解しないで、とけ込み不足という溶接の基本的欠陥が発生する。
【0070】
第5工程は、通電をさらに継続して、亜鉛引き波形鉄板2の亜鉛除去済み加熱融解部分とライニング板1に共通する溶融池を生成させて、溶融池周囲の亜鉛を融解、蒸発させて、溶融池と亜鉛除去域を共に成長させて、スタッド直径に応じた圧下融着に適正な溶融池大きさになるまでアーク電流を供給する工程である。この工程では、時間を取って加熱し亜鉛を除去してから溶池が拡大するよう、加熱が早くならないように制御している。
【0071】
第6工程は、通電を停止して、亜鉛引き波形鉄板2とライニング板1の共通溶解池にスタッド3を圧着して融解金属を、スタッド軸中心でより強く圧着し、外周部に融解金属を押し出す工程である。シールドの材質はこの圧着のとき、気体化した亜鉛をよく逃がして、ピストン効果でせり上がってくる溶融金属の妨げをしないようにし、且つ、溶融金属の凝固鋳型の機能と凝固冷却速度の適正化を図る材質と形状としている。
【0072】
第7工程は、融解した金属が徐冷しつつ凝固していきながら、融解した金属と凝固進行中の金属と周囲の高温加熱された金属で亜鉛の気化温度以上を暫時保持して気化亜鉛を流排出する工程である。金属で亜鉛の気化温度以上を暫時保持するには、保温材をおいて制御すれば良いのであるが、溶接後に保温材を当てることは瞬時におこなえないので、この保温材の機能をシールドで果たさせている。
【0073】
第8工程は、融解後凝固していく金属を徐冷しつつスタッド側と、亜鉛引き波形鉄板とライニング板側の両側から柱状晶77を成長させて、融解していたときの厚さの中央面に柱状晶境界78を生成させて、融解金属が二層化凝固するように冷却制御を行う工程である。この工程は、刀剣で言えば焼き入れに当たる工程で凝固金属のみでなく周辺の金属材質も左右する重要工程である。融解金属の二層化凝固は圧着力と冷却で制御しており、スタッド側が急冷されやすいため、溶解金属とスタッド先端をシールドで保温出来るようシールド高さと、シールドの厚さを設定している。
【0074】
第9工程は、スタッド3と凝固金属と亜鉛引き波形鉄板2とライニング板1が冷却して一体化した後チェンバ形成シールドを取り外す工程である。シールドはスタッドに対しては割型取り外し設計にするか破壊取り外しする。
【0075】
この9段階の工程を経て一カ所の貫通スタッド溶接が完了する。ここではどの1段階にも不具合がないように十分な設計と施工管理が行われなければならない。
【0076】
一連の工程で各制御が行われるとき、シールドは制御対象とならないが、じつは、本貫通スタッド溶接を成立させるために大切な役割を果たしているのでその機能について説明する。
【0077】
アーク発生域を外気と隔離するのは従来同様のシールドの基本機能であるが、隔離機能の他に、気体封入機能、気体透過機能、気体排出機能、耐熱機能、保温機能、電気絶縁機能などの諸機能を、各工程内で適正に制御したのと同じように、設計製造で事前に作り込みして、溶接時は特段の操作を行わないでもその性能を発揮させなければならない。
【0078】
気体封入機能は、スタッド溶接の基本でアークチェンバーと外気との隔離機能である。本件の貫通スタッド溶接では、ただ単純に隔離機能を向上させて気体対封入するのでは最適結果はえられないのであって、次の気体透過機能と合わせて機能設計を行っている。
【0079】
気体透過機能は、一見、完全隔離に反していて不適正におもえるが、シールド内圧が上がったとき、内部気体に渦流や予測外の気流を生じないためにシールド隔壁部分からも高圧気体を少し流出させるほうが気流の影響を少なくしてアークを安定させることができる。従って隔壁は多孔質の材料として、急激に膨脹する気体は隔壁を通り抜けするため過激に圧力上昇せず、流動も抑えられるためアークの揺れが少なくなる。
【0080】
気体排出機能は、シールド内でアーク加熱による空気の膨脹の他に、亜鉛の気化による気体体積増加と、気化亜鉛の酸化による発熱があり、一瞬に発生する高圧を逃がす機能である。
【0081】
従来のシールドも高圧を逃がすことはできたが、積極的に圧力逃がし機能を与えないとシールドの超過内圧による破壊のおそれがある。特に、亜鉛の酸化は、単なる酸化とは違い金属気体の燃焼であり、発光と燃焼音を伴う、実質は爆発とも言える事象であり、人身安全にも関わるものである。シールドの機能のひとつは準爆発の封入であって、溶接機能設計であるとともに人身安全の設計が必要である。本件発明では、この点を十分考慮して、亜鉛鉄板とシールドの間には放射状に圧力逃がし孔が形成されるように、シールド下端に多数の切り込みを入れ、スタッドとシールド間には円筒形軸間隙間を小さく設定している。このようにすることで、準爆発の内部気体膨脹のときシールドが浮き上がらないで放射状に排気して、気体金属を排出するようにしている。この放射状排気は非常な高温で、放射状の排気すなわち、亜鉛引き波形鉄板の表面に沿って排気することで、じつは、亜鉛引き波形鉄板をも広い範囲で加熱しており、亜鉛引き波形鉄板表面とともにライニング板との間の亜鉛層の融解と気化も促進させている。従って、シールドの気体排出機能はその熱を生かして、亜鉛引き波形鉄板の両面の亜鉛を融解と気化に寄与するように設定している。
【0082】
耐熱機能は、当然、高温変質が無く、加熱時にガスの発生や、局部溶解、溶解金属への不適正成分の溶出があってはならないもので、基本的且つ高度な機能要求である。本件の貫通スタッド溶接では、加熱時間が長くなり、溶解金属量も多めとなるので材質と形状は十分考慮して、設定している。すなわち、材質は、多孔質のセラミックで、厚さを主とする形状設計と合わせて高温強度を確保し、高温加熱時の材質安定と両立させている。
【0083】
保温機能は、溶解金属の結晶の成長を制御するものである。保温性が悪いと急冷が行き過ぎになり、凝固金属がもろくなって、金属結晶粒に不適性元素の閉じ込め事象が起こり適当な金属性質が得られない。逆に保温性が過剰であるときは結晶性長が過度になって結晶粒の粗大化という状態になり、やはり材質は劣化する。本件の貫通溶接では、加熱時間が長いため、放熱総量が多く溶解金属量も多いため、冷却の影響が大きくはっきり現れる。冷却の影響が大きいことを考慮して、多孔質のセラミックでも粗めの多孔質のもので、厚さを適正に設計したものとしている。
【0084】
電気絶縁機能は、アーク発生電位差が大きいことから、漏洩電流の生じ無い高度の絶縁性能が必要である。本件の貫通溶接では、セラミックでも粗めの多孔質のものを採用して、材質そのものの絶縁性を確保するとともに、実際の現場管理上も乾燥状態に管理しやすいものとしている。
【0085】
取り外し機能には割型設計や分割型クランプ取り付け取り外しなどの設計が可能である。溶接管理に直接の影響はないが、実作業では大切な機能であることを考慮して本件の貫通スタッド溶接では、多孔質セラミック製のシールドは一体型として、打撃破壊取り外しとして溶接機能のみを優先し、取り外しのための特殊設計は排除している。シールドの再使用は出来ないのであるが、溶接品質と施工能率を優先したものとしている。
【0086】
総合機能として最大性能を発揮するべき設計は、材質と形状設計を主体として上述の各性能の均衡を図るものとしている。形状設計にでは基本となる寸法設計を適正にして、圧力や保温冷却、鋳型機能の追随機能の適正設計を行っている。
【0087】
本願発明は貫通スタッド溶接によって成立するものであるが、従来技術にも貫通スタッド溶接はあり、極薄板の同時溶接や、無荷重部の位置決め溶接に使われてきた。ここで従来技術と本発明の違いを図8と図9を参照して説明する。
【0088】
図8は、本発明の貫通スタッド溶接である。図8(a)ではよく分からないが拡大図、図8(b)で見ると板厚を損ねることなく、全厚溶接が成立している。これは前述の適正管理によって達成されている。図9は、従来の貫通スタッド溶接であり亜鉛の存在しない場合である。図9(a)では本発明と区別が付かないが、図8(b)と詳細に見比べれば、図9(b)は、過剰融解で大切な溶接部は全厚溶接ではなく、かろうじて離れないでいるだけである。この状態は、溶接一般に共通で、厚板と薄板を溶接するのが難しいのは、薄板は溶けやすく、厚板はそれに比べると当然溶けにくいので、薄板が過剰熔解になりやすいのである。他の手溶接でも貫通スタッド溶接でも同じ現象がおきるのである。亜鉛が存在しなくても難しいものであるから、単に、貫通させただけの従来技術では当然の過剰熔解が起きるのである。
【0089】
従来技術で亜鉛引き波形鉄板を貫通スタッド溶接している例で、鉄骨上に亜鉛引き波形鉄板を敷き詰めて、位置固定のため鉄骨と貫通スタッド溶接しているものがある。これも、強度に関わらない部分での強引な適用で溶接仕上がりは、本願発明のようにはならならない。もちろん、金属組織や強度の比較では本発明に及ばずパネル成型に適用出来ない品質であっても、位置のずれを防ぐ機能は十分実用できるものである。
【0090】
「第2の実施形態」
第4図に本発明の第2の実施形態を示す。
【0091】
本実施形態の構成は、ライニング板に頭付きの型式でなくネジ付きスタッド21を溶接したのが特長で、セパレータ16との取り付けを容易にしている。本実施形態によれば、現地の施工を合理化できる。
【0092】
「第3の実施形態」
第5図に本発明の第3の実施形態を示す。
【0093】
本実施形態の構成は、ライニング板1に亜鉛引き波形鉄板2を貫通スタッド溶接で取り付けた上にもう一枚亜鉛引き波形鉄板2を貫通スタッド溶接で取り付けて、補強をさらに強化している。本実施形態によればライニング板1は補強二重に補強されていてパネル5は強度を更に増している。二枚目の亜鉛引き波形鉄板は、ライニング板1と溶接されないので、材質としては同材質溶接施工出来るのが有利である。
【0094】
「第4の実施形態」
第6図に本発明の第4の実施形態を示す。
【0095】
本実施形態では、パネル5は円筒の一部を形成しており、円タンク様のライニング容器の建設に適用したものである。ここでは亜鉛引き波形鉄板2が円筒形のライニング板1と成型加工しやすく、合わせやすいことを生かしている。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の第1の実施形態の断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態においてライニング板と頭付きスタッドを溶接した状態を示す図。
【図3】本発明の第1の実施形態においてパネルに加わる応力分布を示す図。
【図4】本発明の第2の実施形態を示す断面図。
【図5】本発明の第3の実施形態を示す断面図。
【図6】本発明の第4の実施形態を示す断面図。
【図7】貫通スタッド溶接法を(a)から(i)まで順を追って説明した断面図。
【図8】本発明に係る貫通スタッド溶接法による溶接部を示す断面図であって、(a)は全体図、(b)は要部拡大図。
【図9】本発明によらない貫通スタッド溶接法による溶接部を示す断面図であって、(a)は全体図、(b)は要部拡大図。
【図10】スタッド溶接部まわりの残留応力を示す図であって、(a)は本発明の貫通スタッド溶接の場合、(b)は通常の溶接の場合を示す図。
【図11】コンクリート打設圧を受けたときのスタッド溶接部まわりの応力分布を示す図であって、(a)は余盛り小の場合、(b)は余盛り大の場合、(c)は貫通スタッド溶接の場合を示す図。
【図12】コンクリート打設圧を受けたときのスタッド間の応力分布を示す図であって、(a)はライニング板のみの場合、(b)は亜鉛引き波形鉄板を設けた場合を示す図。
【図13】従来工法によるライニング容器を示す断面図。
【図14】従来工法によるコンクリート型枠とコンクリートの打設を示す断面図。
【図15】従来工法によるライニング板の取り付けを示す断面図。
【符号の説明】
【0097】
1 ライニング板
2 亜鉛引き波形鉄板
3 頭付きスタッド
5 パネル
6 余盛り
9 シールド
13 漏洩検出溝
14 溶接
15 コンクリート型枠
16 セパレータ
18 コンクリート
21 ねじ付きスタッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体とこのコンクリート躯体に内張りされたライニング板とを有するライニング容器の施工方法であって、
前記ライニング板と凹凸を有する凹凸鉄板とを重ね合わせ、前記ライニング板と前記凹凸鉄板との当接部分に、この当接部分から突出するように鋼製スタッドを配置し当接させる工程と、
前記ライニング板と前記凹凸鉄板と前記鋼製スタッドとを一体に溶接してライニングパネルを構成する工程と、
このライニングパネルにコンクリート型枠を対向して配置する工程と、
前記ライニングパネルの鋼製スタッドと前記コンクリート型枠とをセパレータで連結する工程と、
前記ライニングパネルと前記コンクリート型枠との間にコンクリートを打設する工程と、
前記ライニングパネルと前記コンクリート型枠との間に打設されたコンクリートを硬化させる工程と、
を備え、前記ライニング板を、コンクリート打設時にはコンクリート型枠として機能させ、コンクリート硬化後にはライニング容器のライニング板として機能させて、ライニング容器を施工することを特徴とするライニング容器の施工方法。
【請求項2】
前記ライニング板と前記凹凸鉄板と鋼製スタッドとを一体に溶接する工程は、
前記鋼製スタッドを、前記ライニング板に重ね合わされた前記凹凸鉄板に圧下接触させ、前記ライニング板と前記凹凸鉄板と前記鋼製スタッドとが通電可能な状態に保持する工程と、
通電を開始するとともに、前記鋼製スタッドと前記凹凸鉄板の距離を拡げて、前記鋼製スタッドと前記凹凸鉄板との間にアークを発生させて前記凹凸鉄板を加熱し、前記凹凸鉄板を融解させる工程と、
通電をさらに継続して、前記凹凸鉄板の加熱融解部分と前記ライニング板に共通する溶融池を生成して、前記鋼製スタッドの直径に応じた圧下融着に適正な溶融池大きさになるまでアーク電流を供給する工程と、
通電を停止して、前記凹凸鉄板と前記ライニング板の共通溶解池に前記鋼製スタッドを圧着して、外周部に融解金属を押し出す工程と、
融解後凝固していく金属が、徐冷しつつ前記鋼製スタッド側と、前記凹凸鉄板及び前記ライニング板の側との両側から柱状晶を成長させて、融解していたときの厚さの中央面に柱状晶境界を生成して、二層化凝固するように冷却制御を行う工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のライニング容器の施工方法。
【請求項3】
前記凹凸鉄板は波形状であることを特徴とする請求項1に記載のライニング容器の施工方法。
【請求項4】
前記鋼製スタッドは、溶接端の反対側にネジを設けたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のライニング容器の施工方法。
【請求項5】
前記ライニング板のコンクリート側に前記ライニング板の裏面と前記凹凸鉄板とで画成される空間を、漏洩検出溝に連通したことを特長とする請求項1ないし4のいずれかに記載のライニング容器の施工方法。
【請求項6】
前記ライニング板同士の溶接施工は、コンクリート打設後であって、ライニング板同士の合わせ目を施工してライニング容器を完成させることを特長とする請求項1ないし5のいずれかに記載のライニング容器の施工方法。
【請求項7】
前記ライニング板同士の溶接施工は、コンクリート打設前であってライニング同士の合わせ目を施工してコンクリート打設し、即ライニング容器を完成させることを特長とする請求項1ないし5のいずれかに記載のライニング容器の施工方法。
【請求項8】
ライニング板と、
凹凸を有する鉄板であって、このライニング板に重ね合わされた凹凸鉄板と、
前記ライニング板と前記凹凸鉄板との当接部分に、この当接部分から突出するように配設された鋼製スタッドと、
前記ライニング板と前記凹凸鉄板および前記鋼製スタッドを一体に溶接した溶接部と、
を有するライニングパネルと、
前記ライニングパネルの外側に打設されたコンクリート躯体と、
前記鋼製スタッドの突出した端部から前記コンクリート躯体を通ってコンクリート躯体外周面に至るセパレータと、
を備え、前記ライニング板を、コンクリート打設時にはコンクリート型枠として機能させ、コンクリート硬化後にはライニング容器のライニング板として機能させることを特徴とするライニング容器。
【請求項9】
前記ライニング板と前記凹凸鉄板と鋼製スタッドとを一体に接合した溶接部は、
前記鋼製スタッドを、前記ライニング板に重ね合わされた前記凹凸鉄板に圧下接触させ、前記ライニング板と前記凹凸鉄板と前記鋼製スタッドとが通電可能な状態に保持し、
通電を開始するとともに、前記鋼製スタッドと前記凹凸鉄板の距離を拡げて、前記鋼製スタッドと前記凹凸鉄板との間にアークを発生させて前記凹凸鉄板を加熱し、凹凸鉄板の加熱融解部分と前記ライニング板に共通する溶融池を生成して、前記鋼製スタッドの直径に応じた圧下融着に適正な溶融池大きさになるまでアーク電流を供給し、
通電を停止して、前記凹凸鉄板と前記ライニング板の共通溶解池に前記鋼製スタッドを圧着して外周部に融解金属を押し出し、
融解後凝固していく金属が、徐冷しつつ前記鋼製スタッド側と、前記凹凸鉄板及び前記ライニング板の側との両側から柱状晶を成長させて、融解していたときの厚さの中央面に柱状晶境界を生成して、二層化凝固するように冷却制御を行うことを特徴とする請求項8に記載のライニング容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−71543(P2006−71543A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257153(P2004−257153)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】