説明

ラケット用ストリングの製造方法及び装置

【課題】物性及び品質の安定性に優れた組み紐タイプあるいは巻き付けタイプのストリングを、溶剤を用いることなく、生産効率良く製造することのできるラケット用合成ストリングの製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】芯糸となるマルチフィラメント及び/又はモノフィラメントの表面を溶融樹脂で被覆する工程(A)と、工程(A)で得られた樹脂で被覆された糸を芯成分として、芯成分に、皮糸となる複数のモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントを編組又は巻きつけする工程(B)と、工程(B)で得られた糸の表層を溶融樹脂で被覆して、表面樹脂層を形成する工程(C)とを含むラケット用ストリングの製造方法。工程(A)、工程(B)及び工程(C)を連続的に行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニス、バドミントン、スカッシュなどのラケット用合成ストリングの製造方法及び装置に関し、より詳しくは、物性及び品質の安定性に優れたストリングを、溶剤を用いることなく、連続工程として製造することのできるラケット用合成ストリングの製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テニス、バドミントン、スカッシュなどのラケット用ストリングとして、とくにバドミントン用途のラケット用ストリングを中心として、芯糸の周囲に皮糸を編組し更に表面被覆したいわゆる組み紐(編組)タイプのストリングが知られている。このタイプのストリングの製法としては、(i) 芯糸の周囲に皮糸を編組する編組工程、(ii)接着樹脂を付与する樹脂加工工程、及び(iii) 樹脂加工又は溶融コーティングによる表面被覆工程、の少なくとも3工程を行うことが一般的である。
【0003】
例えば、特公昭29−5819号公報には、ナイロン芯糸にナイロン樹脂溶液を付与乾燥した後、これを芯糸として、皮糸としてナイロンモノフィラメントを編組し、その後、得られた糸をナイロン樹脂溶液を用いて表面被覆加工し、芯糸と皮糸とを固着する方法(工程(ii)−(i) −(iii) )が開示されている。
【0004】
また、特開2005−304678号公報には、ポリアミドマルチフィラメント芯糸を共重合熱可塑性樹脂溶液で表面コーティングし、芯糸に皮糸を編組みし、その後、ポリアミド溶液でコーティングする方法(工程(ii)−(i) −(iii) )が開示されている。また、編組後樹脂を含浸することも行われている(工程(ii)−(i) −(iii) )。
【0005】
(ii)の工程は、芯糸と皮糸とを接着一体化するために行われる。上記従来技術によれば、樹脂加工用接着樹脂としてはいずれも樹脂溶液が用いられている。
【0006】
また、一方で、特許第3098702号公報には、マルチフィラメント芯糸に、紫外線又は放射線硬化性接着剤、及び嫌気性接着剤を含む接着剤組成物を付与し、これら接着剤を硬化させ、その後、表面に樹脂を付与して樹脂コーティング層を形成するラケット用ストリングの製造方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特公昭29−5819号公報
【特許文献2】特開2005−304678号公報
【特許文献3】特許第3098702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ラケット用ストリングの製造に際して樹脂溶液を使用して加工する場合、(i) 溶剤の蒸発・飛散による環境汚染が起こること、(ii)作業環境対策、防爆などの設備対策が必要であること、(iii) 加工中における液浴の溶剤揮発による濃度変化や液温変化による粘度変化などに起因して、得られる製品物性ばらつきが大きくなり強力低下の懸念があること、といった問題がある。これらの問題を軽減するための設備化は可能ではあるが、非常に高額な設備投資が必要となる。また、溶剤の乾燥のための乾燥時間が必要となり、生産効率を高める上での障害となる。さらに溶剤として樹脂溶解性の高いフェノール、クレゾール類を使用した場合は、芯糸及び/又は皮糸の構成成分であるポリアミド系繊維を溶解させるため、得られたストリングの強力が低下する問題を生じやすい。
【0009】
本発明の目的は、物性及び品質の安定性に優れた組み紐タイプあるいは巻き付けタイプのストリングを、溶剤を用いることなく、生産効率良く製造することのできるラケット用合成ストリングの製造方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記問題について検討した結果、芯糸への皮糸の編組あるいは巻き付けの前後の各段階において、溶融した樹脂による加工を行うことにより、芯部、皮部、及び表面部相互の接着が良好で、張り上げ性や耐久性が良好な組み紐タイプあるいは巻き付けタイプのストリングを、溶剤を使用しない乾式プロセスで安定して製造できることを見出した。さらに、本発明者らは、溶剤を使用しない乾式プロセスとすることによって、コンパクトな製造設備で連続工程での組み紐タイプあるいは巻き付けタイプのストリングの製造が可能となることをも見出した。
【0011】
本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 芯糸となるマルチフィラメント及び/又はモノフィラメントの表面を溶融樹脂で被覆する工程(A)と、
工程(A)で得られた樹脂で被覆された糸を芯成分として、芯成分に、皮糸となる複数のモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントを編組又は巻きつけする工程(B)と、
工程(B)で得られた糸の表層を溶融樹脂で被覆して、表面樹脂層を形成する工程(C)と
を含むラケット用ストリングの製造方法。
【0012】
(2) 工程(A)、工程(B)及び工程(C)を連続的に行う、上記(1)に記載のラケット用ストリングの製造方法。
【0013】
(3) 芯糸となるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの50〜100重量%がポリアミド系繊維であり、皮糸となるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの50〜100重量%がポリアミド系繊維である、上記(1)又は(2)に記載のラケット用ストリングの製造方法。
【0014】
(4) 芯糸としてマルチフィラメントを用いる、上記(1)〜(3)のうちのいずれかに記載のラケット用ストリングの製造方法。
【0015】
(5) 皮糸としてモノフィラメントを用いる、上記(1)〜(4)のうちのいずれかに記載のラケット用ストリングの製造方法。
【0016】
(6) 工程(A)で用いる樹脂の融点及び工程(C)で用いる樹脂の融点はいずれも、芯糸として用いるフィラメントの融点及び皮糸として用いるフィラメントの融点のうちの最も低い融点よりも5℃以上低い、上記(1)〜(5)のうちのいずれかに記載のラケット用ストリングの製造方法。
【0017】
(7) 工程(A)で用いる樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれ、工程(C)で用いる樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる、上記(1)〜(6)のうちのいずれかに記載のラケット用ストリングの製造方法。
【0018】
(8) 上記(1)〜(7)のうちのいずれかに記載の方法で製造され、実質的に溶剤を含有していないラケット用ストリング。
【0019】
(9) 走行している芯糸となるフィラメントの表面を溶融樹脂で被覆する溶融コーティング装置と、樹脂で被覆された芯成分に皮糸となる複数のフィラメントを編組する編組機又は巻き付けする巻き付け機と、糸の表層を溶融樹脂で被覆して表面樹脂層を形成する溶融コーティング装置とを備えている、ラケット用ストリングの連続製造装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、芯糸への皮糸の編組あるいは巻き付けの前後の各段階において、溶融樹脂による被覆加工を行うことにより、芯部、皮部、及び表面部相互の接着が良好で、張り上げ性や耐久性が良好な組み紐タイプあるいは巻き付けタイプのストリングを、溶剤を使用することなく乾式プロセスで安定して製造することができる。さらに、本発明によれば、コンパクトな製造設備で連続工程での組み紐タイプあるいは巻き付けタイプのストリングの製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で製造されるラケット用ストリングは、マルチフィラメント及び/又はモノフィラメントからなる芯糸と、芯糸の周囲に編組された又は巻き付けされたマルチフィラメント及び/又はモノフィラメントからなる皮糸と、芯糸及び皮糸を被覆するように設けられた表面樹脂層とを含んで構成される。
【0022】
本発明において、芯糸や皮糸を構成するモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの繊維素材については特に限定されず、従来よりラケット用ストリングに多く用いられているナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維のほか、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維などが挙げられる。また、混用できる成分として、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステルなどの耐熱性繊維、高強力繊維も使用することができる。モノフィラメント及び/又はマルチフィラメントとして、主要構成成分としてポリアミド系繊維を50重量%以上使用することが望ましい。
【0023】
芯糸としては、具体的には、高強力のナイロン6あるいはナイロン66のマルチフィラメント(単糸3〜20dtex程度)を撚り掛けした糸(20〜500t/m)が好ましく用いられる。より太い糸の集束体いわゆるモノマルチも用いることができる。また、これらの中に他の素材を適宜混用することもできるが、上述したように、主要構成成分としてポリアミド系繊維を50重量%以上使用することが望ましい。
【0024】
芯糸表面に編組する場合の皮糸としては、15〜50dtex程度の細いポリアミド系モノフィラメントが好ましく用いられる。使用本数に限定はないが通常16〜64本程度を使用して編組される。
【0025】
また、芯糸表面に巻き付ける場合の皮糸としては、直径0.05〜0.25mm程度のポリアミド系モノフィラメントが好ましく用いられる。巻き付け本数は限定されないが通常16〜30本程度が使用される。
【0026】
芯糸成分と同様に皮糸成分についても他の繊維を混用することもできるが、上述したように、主要構成成分としてポリアミド系繊維を50重量%以上使用することが望ましい。
【0027】
本発明において、工程(A)及び工程(C)のそれぞれにおいて、溶融した樹脂を用いる。芯糸及び皮糸への熱の影響を避けるため、これらの樹脂としてはいずれも、芯糸として用いるフィラメントの融点及び皮糸として用いるフィラメントの融点のうちの最も低い融点と等しいかより低い融点、好ましくは5℃以上低い融点、より好ましくは15℃以上低い融点を有する樹脂を用いる。用いるいずれかのフィラメントの融点よりも樹脂の融点が高い場合は、接触時間にもよるがコーティング加工時に樹脂の溶融温度で繊維素材自体あるいはその一部が溶融し、強力が低下するので好ましくない。すなわち、溶融した樹脂の温度は接触する繊維素材の融点以下であることが好ましい。
【0028】
工程(A)及び/又は工程(C)において用いる樹脂の種類については限定されるものではないが、繊維素材との接着性の良い樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
具体的には、例えば、繊維がナイロン66(融点255℃)の場合は、溶融樹脂として、融点が好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下の樹脂が用いられる。このような樹脂として、具体的には、ナイロン6、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン12、ナイロン6/66共重合樹脂、ナイロン6/12共重合樹脂、ナイロン6/66/12などの多元共重合樹脂、ナイロンエラストマーなどのポリアミド系樹脂が挙げられる。また、ポリウレタン系樹脂として、熱可塑性のポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、あるいはこれらと他の共重合物、変性物が挙げられる。また、ホットメルト樹脂として知られている各種樹脂も用いることができる。
【0030】
繊維がナイロン6(融点215℃)の場合は、融点が好ましくは210℃以下、より好ましくは200℃以下の樹脂が用いられる。このような樹脂としては上記各樹脂から選択することができる。
【0031】
本発明において、工程(A)において芯糸に付与する樹脂と、工程(C)において芯糸成分及び皮糸成分を被覆し表面樹脂層を形成する樹脂とは、同じ樹脂であっても別の樹脂であっても良いが、工程(A)において使用する樹脂の融点は、工程(C)において使用する樹脂の融点と同程度か低い方が好ましい。
【0032】
工程(A)及び/又は工程(C)において、走行する糸に溶融樹脂を付与するためには、特に限定されず公知のコーティング装置を用いるとよい。例えば、得ようとするストリングの太さ、用途、表面状態等によって公知の装置から適宜選択すれば良い。通常は小型の押出し機などの樹脂の加熱溶融部と、ギアポンプなどの計量部、対象となる糸表面に溶融樹脂を均一に付与するためのコーティングヘッド部とを備えるコーティング装置を用いるとよい。場合により、ギアポンプは省略することもできる。
【0033】
工程(B)において、工程(A)で得られた樹脂で被覆された糸を芯成分として、芯成分に、皮糸となる複数の好ましくはモノフィラメントを編組又は巻き付けする。編組又は巻き付けには、走行する糸の周囲に皮糸を編組又は巻き付けすることのできる装置であれば特に限定されず、公知の編組機又は巻き付け機を用いるとよい。例えば、編組機としては、横型の高速製紐機を用いることができ、巻き付け機としては、複数のボビンを一定方向に回転させながら、芯糸に皮糸を巻き付ける装置を用いることができる。
【0034】
本発明の製造方法は、(i) 芯糸への皮糸の編組又は巻き付け工程(B)の前後の各段階(工程(A)及び(C))において、接着樹脂を溶融状態で糸に付与すること、(ii)溶剤を使用しないこと、(iii) 工程(A)、工程(B)及び工程(C)を連続的に行うことも可能であること、に特徴がある。
【0035】
まず、本発明は、(i) 芯糸への皮糸の編組又は巻き付け工程(B)の前後の各段階において、接着樹脂を溶融状態で糸に付与することに特徴がある。編組又は巻き付け後に溶融コーティングするだけでは、溶融樹脂が内部にまで含浸させることが困難であるため、芯糸と皮糸との接着が不足し、得られたストリングは腰折れしやすいという問題を生じる。一方、芯糸に溶融樹脂を付与するだけでは、皮糸の表面に樹脂がほとんど被覆されないので、得られたストリングは耐久性が不足する。編組又は巻き付け前と、編組又は巻き付け後の各段階において溶融樹脂を付与することによって、耐腰折れ性と耐久性を満足するストリングが得られる。従来、芯糸を溶剤系樹脂(樹脂溶液)でコーティングすることは公知であるが、溶融樹脂をコーティングすることによって、乾燥工程が不要となるので、芯糸被覆工程(A)と編組又は巻き付け工程(B)とを直結できるため、連続加工が可能となり、かつ、品質が安定する効果がある。さらに溶剤に対する樹脂の溶解性などの制限がないので、種々の樹脂が使用できる利点もある。さらに、編組又は巻き付け工程(B)後においても溶融樹脂を付与することで、ストリング全体の一体化ができ、張り上げ時の耐腰折れ性のほか耐久性も向上する。
【0036】
つぎに、本発明は、(ii)溶剤を使用しないことに特徴がある。溶剤を用いることなく製造する利点としては、当然、溶剤の蒸発・飛散による環境汚染がないという利点があるほか、前述のように溶剤を使用することによる品質ばらつき、強力低下の懸念点がないという利点がある。また、従来の溶剤系樹脂(樹脂溶液)で加工した製品は微量であっても残存溶剤を含有する(通常数ppm〜数十ppm程度)ため、臭気や変色の原因となることがあるが、本発明においては製造工程で溶剤を使用しないのでこれらの問題はない。具体的には、本発明で製造されたストリングは、樹脂溶剤として従来用いられていたフェノール、クレゾールなどのフェノール系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、トリクレン、二塩化エタンなどの塩素系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族溶剤、ジメチルホルムアミドなどの溶剤を製品中に含有しないという利点がある。さらに、従来必要であった溶剤乾燥のための設備・時間が不要であり、生産効率を高めることができる。
【0037】
さらに、本発明は、(iii) 工程(A)、工程(B)及び工程(C)を連続的に行うことも可能であることに特徴がある。工程(A)、(B)及び(C)を連続的工程としてストリングを製造する場合、ラインの加工速度は編組(製紐)又は巻き付け速度が律速となるので全体の加工ライン速度は遅くなる。しかしながら、実質的に製品状態まで連続的に製造できるので、従来のように樹脂加工などの工程通過のために長尺にする必要性がなく、製品化までの所要時間は極めて短くでき、製造に要するスペースも大幅に削減できる。一例を挙げると、例えば樹脂加工をするため2000m程度の長尺品を得るには編組工程だけで2週間以上必要となるのが現状である。本発明においては高速製紐機を用いた場合、2日で2000mの長尺品が生産可能であり、かつ、加工ラインをスタートして30分後には品質や性能確認、初期製品の採取が可能となる。また、一連に配置された装置内において、同じ張力下、短時間で、接着−編組−コーティングの一連の工程が完了するため、得られたストリングは、ストリング内の空隙が少なく、緻密性、一体化に優れ、物性良好となる。さらに、従来、工程と工程との間でボビンに巻かれた糸の吸湿や内外層差などによる品質変化やばらつきを生じていたが、連続的工程とすることにより、このような品質変化やばらつきの要因が少なくなるので、物性及び品質の安定性に優れたストリングが得られるという利点がある。
【0038】
本発明の製造方法を実施するためのストリングの連続的製造装置は、糸の連続走行装置と、走行している芯糸となるフィラメントの表面を溶融樹脂で被覆する溶融コーティング装置と、樹脂で被覆された芯成分に皮糸となる複数のフィラメントを編組する編組機又は巻き付けする巻き付け機と、糸の表層を溶融樹脂で被覆して表面樹脂層を形成する溶融コーティング装置とを備えている。
【0039】
図1に、ストリングの連続的製造装置の構成例を示す。図1において、ストリングの連続的製造装置は、図示しない糸の連続走行装置と、走行している芯糸となるフィラメントの表面を溶融樹脂で被覆する溶融コーティング装置Aと、樹脂で被覆された芯成分に皮糸となる複数のフィラメントを編組する横型の高速製紐機Bと、糸の表層を溶融樹脂で被覆して表面樹脂層を形成する溶融コーティング装置Cとを備えている。
【0040】
溶融コーティング装置Aは、樹脂aを溶融し押出す小型の押出し機11と、押出し機11から送られた溶融樹脂aを定量的に送り出すギアポンプ12と、ギアポンプ12から送り出された溶融樹脂aをフィラメント1表面に付与するノズル孔を備えたコーティングヘッド13とを備えている。図示の例では、編組機として横型の高速製紐機Bが示されており、組み糸bが巻かれた所定数の管巻きボビン21、及びガイド22が配置されている。高速製紐機Bは、糸2の周囲に組み糸bを編組できるように、ボビン21及びガイド22は糸の走行方向を中心として回転可能とされている。溶融コーティング装置Cは、樹脂cを溶融し押出す小型の押出し機31と、押出し機31から送られた溶融樹脂cを定量的に送り出すギアポンプ32と、ギアポンプ32から送り出された溶融樹脂cを糸3の表層に付与するノズル孔を備えたコーティングヘッド33とを備えている。
【0041】
芯となる糸1は走行させられ、溶融コーティング装置Aのコーティングヘッド13を通過する際に、糸1の表面に溶融した樹脂aがコーティングされる。樹脂aは、押出し機11内で加熱溶融され、ギアポンプ12で計量された後、コーティングヘッド13に供給され、ノズル孔から芯糸1表面に溶融状態でコーティングされる。表面被覆された糸2は空冷され、ひきつづきこの糸2を芯として製紐機Bで組み糸bが組み上げられる。ボビンに巻かれている組み糸b(例えば、16打ちの場合には16本)は、ボビン21及びガイド22の回転によって糸の走行方向を中心として回転しながら編組される。つづいて編組された糸3は、溶融コーティング装置Cのコーティングヘッド33を通過する際に、編組された糸の表面に溶融した樹脂cがコーティングされ、ストリング4を得る。溶融コーティング装置Aで芯糸表面に付与された樹脂aと編組された皮糸bとの接着は糸3の段階では不十分であるが、溶融コーティング装置Cにおける糸表面の溶融コーティングの際の樹脂cの熱によって、樹脂aの少なくとも表層部分は加熱再溶融され皮糸bと接着するため、芯糸、皮糸及び樹脂a及び樹脂cの一体化が強固となり、強力に優れたストリング4が得られる。
【0042】
ストリング4はその後、図示されていないが、冷却(水冷又は空冷)され、必要に応じて、水冷後の乾燥、印字、油剤付け等の各工程を実施して製品化される。これらの工程はストリング構造自体には大きな影響はないので、連続で行うこともできるが別工程で行っても良い。
【0043】
さらに、本発明では必要に応じ、溶融コーティング装置Cの後流に更に別の樹脂dの溶融コーティング装置Dを配置することによって、表面樹脂層として2層以上の多層コーティング層を形成することも可能である。また、溶融コーティング装置Cと溶融コーティング装置Dとを交互に切替え動作させることによって、長さ方向での表面樹脂を変える(例えば、表面の色を変える)ことも可能である。
【0044】
図1においては、皮糸フィラメントの編組機を用いた例を図示した。この編組機Bに代えて、巻き付け機を配置すれば、巻き付けタイプのストリングを製造することができる。この場合においても、巻き付け後の糸3の段階では、溶融コーティング装置Aで芯糸表面に付与された樹脂aと巻き付けられた皮糸との接着は不十分であるが、溶融コーティング装置Cにおける糸表面の溶融コーティングの際の樹脂cの熱によって、樹脂aの少なくとも表層部分は加熱再溶融され皮糸と接着するため、芯糸、皮糸及び樹脂a及び樹脂cの一体化が強固となり、強力に優れたストリング4が得られる。
【0045】
以上、工程(A)、(B)及び(C)を連続的に行い、ストリングを製造する方法を例示した。工程(A)、(B)及び(C)を非連続的に行ったり、あるいは、工程(A)及び(B)、工程(B)及び(C)の2工程を連続的に行うことも可能であるが、本発明の効果を最大限発揮するためには連続的工程とすることが特に好ましい。非連続的とは、糸を一旦巻き取るなどして、工程同士が連続的ではないことを意味する。
【実施例】
【0046】
以下、バドミントン用の組み紐タイプのストリングの製造について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
図1に示した装置を用いた。溶融コーティング装置Aの押出し機11、及び溶融コーティング装置Cの押出し機31としてはいずれも、スクリュー径12mmφ、ギアポンプ0.1cc/回転の小型の押出し機を用いた。編組機Bとしては、速度0.5〜1.5m/分の16打ち横型高速編組機を使用した。
【0048】
芯糸としてナイロン66マルチフィラメント(東レ(株)、プロミラン 1400T−204−T1781)の片撚り糸(300t/m)を用い、A工程の溶融樹脂として低融点共重合ナイロン(東レ(株)、アミランCM8000、融点140℃)を使用し、溶融温度180℃で芯糸コーティングした。ついで、B工程として、ナイロン66モノフィラメント0.06mmの3本合糸品を使用して16打ちの編組を行った(速度1m/分;組みピッチ 40本/インチ)。引き続き、C工程の溶融樹脂としてナイロン6(東レ(株)、アミランCM1007、融点215℃)を溶融押出し温度245℃でコーティングした(ノズル径0.80mm)。ノズルを出た直後で水冷、乾燥し、ストリングを得た。
【0049】
得られたストリングは、直径0.75mm、強力24.8kg、伸度24.4%、引っ掛け強力30.7kgであった(10サンプルの平均値)。10サンプルにおける最大値−最小値の値(ばらつき)は、強力0.8kg、伸度2.1%、引っ掛け強力2.2kgであった。
【0050】
(比較例1)
実施例1で用いたのと同じ芯糸と皮糸を用いて、実施例1と同じ組みピッチとなるように通常用いられている16打ち製紐機(コクブンリミテッド社製の16打ち製紐機)で編組した。次に、この糸を、アラミンCM8000樹脂の20重量%メタノール系(溶剤;メタノール/フェノール=85/15(容量比))溶液に浸漬し、続いてノズルで絞り乾燥して巻き取った(樹脂加工)。その後、コーティング装置を用いてナイロン6樹脂(アミランCM1007)を250℃にて溶融コーティングした(加工速度70m/分)。
【0051】
得られたストリングは、直径0.77mm、強力23.1kg、伸度25.5%、引っ掛け強力28.5kgであった(10サンプルの平均値)。10サンプルにおける最大値−最小値の値(ばらつき)は、強力1.8kg、伸度4.6% 引っ掛け強力5.0kgであった。この比較例1で得られたストリングは、実施例1と基本的には同じ材料で構成されているにも係わらず、実施例1のストリングに比べて、物性はやや低く、ばらつきも大きい傾向であった。
【0052】
(比較例2)
実施例1で用いたのと同じ芯糸を、アラミンCM8000樹脂の20重量%メタノール系(溶剤;メタノール/フェノール=85/15(容量比))溶液に浸漬し、続いてノズルで絞り乾燥して巻き取った(芯糸樹脂加工)。次に、この樹脂加工した糸を芯として実施例1と同じ組みピッチとなるように通常用いられている16打ち製紐機(コクブンリミテッド社製の16打ち製紐機)で編組した。その後、ナイロン6樹脂(アミランCM1007)の溶液(25重量% フェノール溶液)で表面樹脂加工した。
【0053】
得られたストリングは、直径0.78mm、強力23.2kg、伸度26.3%、引っ掛け強力28.1kgであった(10サンプルの平均値)。10サンプルにおける最大値−最小値の値(ばらつき)は、強力2.0kg、伸度5.4% 引っ掛け強力5.8kgであった。この比較例2で得られたストリングは、実施例1と基本的には同じ材料で構成されているにも係わらず、実施例1のストリングに比べて、物性はやや低く、ばらつきも大きい傾向であった。
【0054】
実施例1、比較例1及び2で得られたストリングについてそれぞれ、バドミントンガットとして張り上げ(23ポンド)、試打を行った(5名)。実施例1のストリングは、比較例1及び2のものに比べ、折れ曲げに対して抵抗力があり、良好に張り上げができた。比較例1のストリングはやや腰折れがしやすいとの評価であった。試打においては、5名中4名が、打ち味、耐久性とも実施例1の方が、比較例1及び2のものに比べ、良好との結果であった。また、実施例1のものは臭気はないが、比較例1のものはフェノール臭が感じられ、比較例2のものは明らかに臭気が感じられた。
【0055】
(実施例2)
実施例1と同じ装置を用いた。芯糸としてナイロン6マルチフィラメント(東レ(株)アミラン 1400T−204−T781)の片撚り糸(300t/m)を用い、A工程の溶融樹脂として低融点共重合ナイロン(東レ(株)、アミランCM8000、融点140℃)を使用し、溶融温度180℃で芯糸コーティングした。ついで、B工程として、ナイロン6モノフィラメント0.06mmの3本合糸品を使用して16打ちの編組を行った(速度1m/分) 。引き続き、C工程の樹脂としてA工程と同じ樹脂(アミランCM8000)を溶融押出し温度180℃でコーティングした(ノズル径0.80mm)。ノズルを出た直後で水冷、乾燥し、ストリングを得た。
【0056】
得られたストリングは、直径0.75mm、強力24.9kg、伸度25.4%、引っ掛け強力30.9kgであった(10サンプルの平均値)。10サンプルにおける最大値−最小値の値(ばらつき)は、強力1.1kg、伸度2.0%、引っ掛け強力1.5kgであった。
【0057】
(実施例3)
図1に示した装置における編組機Bを巻き付け装置に置き換えた。溶融コーティング装置Aの押出し機11、及び溶融コーティング装置Cの押出し機31としてはいずれも、スクリュー径12mmφ、ギアポンプ0.1cc/回転の小型の押出し機を用いた。
【0058】
芯糸成分としてナイロン6マルチフィラメントの片撚り糸(東レ(株)のアミラン1400T−204−T781を4本合糸して片撚り200回/mとしたもの)を用い、A工程における接着樹脂として低融点ポリアミド樹脂(東レ(株)、アミランCM8000、融点140℃)を用い、185℃の溶融温度でコーティングした。ついで、B工程として、ナイロン6モノフィラメント0.155mmの20本を表面に隙間のないように巻きつけた(速度3m/分) 。引き続き、C工程の樹脂としてナイロン12(宇部興産、3014B)を溶融押出し温度200℃でコーティングした(ノズル径1.35mm)。ノズルを出た直後で水冷、乾燥し、ストリングを得た。
【0059】
得られたストリングは、直径1.31mm、強力72.9kg、伸度25.8%であった。このストリングは硬式テニス用として良好な打ち味と耐久性を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のストリングの連続的製造装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
A:溶融コーティング装置
11:押出し機
12:ギアポンプ
13:コーティングヘッド
B:編組機
21:管巻きボビン
22:ガイド
C:溶融コーティング装置
31:押出し機
32:ギアポンプ
33:コーティングヘッド
1:芯糸
2:コーティング後の芯糸
3:編組後のストリング
4:表面コーティング後のストリング
a:芯糸コーティング用樹脂
b:編組用皮糸
c:表面コーティング用樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸となるマルチフィラメント及び/又はモノフィラメントの表面を溶融樹脂で被覆する工程(A)と、
工程(A)で得られた樹脂で被覆された糸を芯成分として、芯成分に、皮糸となる複数のモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントを編組又は巻きつけする工程(B)と、
工程(B)で得られた糸の表層を溶融樹脂で被覆して、表面樹脂層を形成する工程(C)と
を含むラケット用ストリングの製造方法。
【請求項2】
工程(A)、工程(B)及び工程(C)を連続的に行う、請求項1に記載のラケット用ストリングの製造方法。
【請求項3】
芯糸となるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの50〜100重量%がポリアミド系繊維であり、皮糸となるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの50〜100重量%がポリアミド系繊維である、請求項1又は2に記載のラケット用ストリングの製造方法。
【請求項4】
芯糸としてマルチフィラメントを用いる、請求項1〜3のうちのいずれかに記載のラケット用ストリングの製造方法。
【請求項5】
皮糸としてモノフィラメントを用いる、請求項1〜4のうちのいずれかに記載のラケット用ストリングの製造方法。
【請求項6】
工程(A)で用いる樹脂の融点及び工程(C)で用いる樹脂の融点はいずれも、芯糸として用いるフィラメントの融点及び皮糸として用いるフィラメントの融点のうちの最も低い融点よりも5℃以上低い、請求項1〜5のうちのいずれかに記載のラケット用ストリングの製造方法。
【請求項7】
工程(A)で用いる樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれ、工程(C)で用いる樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる、請求項1〜6のうちのいずれかに記載のラケット用ストリングの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれかに記載の方法で製造され、実質的に溶剤を含有していないラケット用ストリング。
【請求項9】
走行している芯糸となるフィラメントの表面を溶融樹脂で被覆する溶融コーティング装置と、樹脂で被覆された芯成分に皮糸となる複数のフィラメントを編組する編組機又は巻き付けする巻き付け機と、糸の表層を溶融樹脂で被覆して表面樹脂層を形成する溶融コーティング装置とを備えている、ラケット用ストリングの連続製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−177355(P2007−177355A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375131(P2005−375131)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(504094660)株式会社ゴーセン (11)
【Fターム(参考)】