説明

ラサギリンを使用する緑内障の治療方法

緑内障に罹患した対象において緑内障を減少させる方法を開示し、これは緑内障を減少させるために有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩を当該対象に投与することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年9月5日に出願された米国仮出願番号60/967,456の利益を主張し、その全内容はこれによって引用によりここに組み込まれる。
【0002】
この出願において、種々の刊行物、公開された特許出願、及び特許は参照される。これらの文献の開示全体は、これによって参照によりこの出願に組み込まれ、それによって本願発明に関係する技術水準をより完全に記載する。
【背景技術】
【0003】
緑内障は、少なくとも部分的には高い眼内圧(IOP)による進行性の眼の障害によって特徴付けられる眼疾患の一つのグループである(“Glaucoma”, Merck Manual of Diagnosis and Therapy (1999), Merck Research Laboratories, (Whitehouse Station, NJ), 733-738)。さらに、緑内障は、網膜神経節細胞(RGC)の死、軸索消失、視神経頭の掘削された外観(excavated appearance)によって特徴付けられる (Alward, “Medical Management of Glaucoma”, N Eng J Med, 1998; 339:1298-1307)。緑内障は、失明が起こる前に「杯形成(cupping)」を検出するために視神経の視野テスト及び、検眼鏡検査により診断されてもよい。緑内障の取り扱いは当該IOPを減少させることに基づいており、さらなる視神経の障害を防止する。正常成人において、平均IOPは15〜16 mmHgであり;正常範囲は10〜21 mmHgである。緑内障の取り扱いの第一段階は、局所的に適用される薬剤を使用するIOPの低下に基づく (Coleman, “Glaucoma”, Lancet, 1999; 354:1803-1810)。現在、IOPを低下させるために使用される薬剤の5つの主要な分類:β−アドレナリン作動性のアンタゴニスト、アドレナリン作動性のアゴニスト、副交感神経作動薬、プロスタグランジン様類似体、及びカルボニックアンヒドラーゼインヒビターがある(Medeiros, et al., “Medical Backgrounders: Glaucoma”, Drugs of Today 2002; 38:563-570)。ほとんどの薬剤が目に対して局所的に適用されるが、それらは重篤な全身性副作用を引き起こし、且つ患者の生活の質に悪影響を及ぼす可能性がある。もしIOPのさらなる低下が必要であるか、又は薬剤が十分にIOPを低下させることができないなら、次のステップは通常、レーザー線維柱帯形成術である。もしIOPがまだ適切に制御されないなら、切開緑内障手術が必要である(Id)。IOPの低下は、ニューロンの欠損の程度を有意に減少させるが、網膜神経節細胞(RGCs)の減少が継続するかもしれないため、疾病過程の休止を保証するものではない。医学的又は外科的介入後の視野の喪失とIOP調節との関連についての最近の研究は、当該IOPが低い場合、視野テストに反映される継続中のニューロンの欠損が減少する可能性があることを示した。しかしながら、ニューロンの欠損はIOPの低下後に起こり続ける可能性がある(Bakalash, et al., “Resistance of Retinal Ganglion Cells to an Increase in Intraocular Pressure is Immune-dependent”, Invest Ophthalmol Vis Sci 2002; 43:2648-2653)。
【0004】
緑内障の視神経病理学は、特異的な病態生理学の変化並びにそれに続くRGC及びそれらの軸索の死によって起こるように思われる。RGCの死のプロセスは二相性と考えられる:障害の開始に関与する一次障害、その後に続く変性細胞の周囲の好ましくない環境に起因するより緩徐な二次変性 (Kipnis, et al., “T Cell Immunity To Copolymer 1 Confers Neuroprotection On The Damaged Optic Nerve: Possible Therapy For Optic Neuropathies”, Proc Natl Acad Sci 2000; 97:7446-7451)。
【0005】
緑内障の実験動物モデル及びヒト緑内障におけるRGC死の機序は、アポトーシスに関与することが示されてきた。当該アポトーシスを誘発する分子機構は同定されていないが、神経栄養因子の欠乏、虚血、慢性的なグルタミン酸塩の上昇、及び秩序の乱れた一酸化窒素代謝は可能性のある機序であると考えられる(Farkas, et al., “Apoptosis, Neuroprotection and Retinal Ganglion Cell Death: An Overview”, Int Ophthalmol Clin 2001; 41:111-130)。さらに、当該RGC死を導く機序は、他の種類のニューロン障害、例えば反応性の酸素種によるシグナル伝達、ミトコンドリアの脱分極、又は転写段階で制御された細胞死の誘発などと共通の特徴を共有する可能性がある(Weinreb, et al., “Is Neuroprotection a Viable Therapy for Glaucoma?” Arch Ophthalmol 1999; 117:1540-1544)。
【0006】
ラサギリン、つまりR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンは有力な第二世代モノアミンオキシダーゼ(MAO)Bインヒビターである(Finberg et al., Pharmacological properties of the anti-Parkinson drug rasagiline; modification of endogenous brain amines, reserpine reversal, serotonergic and dopaminergic behaviours, Neuropharmacology (2002) 43(7):1110-8)。1mgの錠剤中のラサギリンメシレートは、Teva Pharmaceutical Industries, Ltd. (Petach Tikva, Israel)及びH. Lundbeck A/S (Copenhagen, Denmark) からAZILECT(登録商標)として特発性パーキンソン病の治療のために市販されている。AZILECT(登録商標), Physician’s Desk Reference (2006), 60th Edition, Thomson Healthcare for the properties of rasagiline mesylateも参照されたい。
【0007】
しかしながら、緑内障患者に対するラサギリンの効果は、予測することができない。例えば、抗炎症薬であるアセチルサリシレート及びプレドニゾロンは、光受容体のアポトーシスの開始及びその後の網膜変性に関与するミクログリアを調節することが知られているが、どちらの薬剤も不成功であることが証明された(Sarra et al., Effect of steroidal and non-steroidal drugs on the microglia activation pattern and the course of degeneration in the retinal degeneration slow mouse, Ophthalmic Res. (2005) 37(2):72-82)。
【0008】
さらに、デプレニルが緑内障の治療に提案されたが(Tatton, 米国特許番号5,981,598)、デプレニルの研究はラサギリンの効果を予測するものではない。ラサギリン及びデプレニルは同じ神経変性疾患の治療において異なる効力を有することが示された。Lange et al., (1998) “Selegiline Is Ineffective in a Collaborative Double-blind, Placebo-Controlled Trial for Treatment of Amyotrophic Lateral Sclerosis” Arch. Neurol. 55:93-96 (セレギリン、即ち、1−デプレニルは、ALSの治療には効果がなかった)を参照されたい;Waibel et al., (2004) “Rasagiline Alone and in Combination with Riluzole Prolongs Survival in an ALS Mouse Model” J. Neurol. 251(9):1080-4 (ラサギリン単独及びリルゾールとの組み合わせはALSマウスモデルにおいて有効な治療であった)と比較されたい。
【0009】
緑内障に対するラサギリンの効果はこれまでには研究されていない。
【発明の概要】
【0010】
この主要発明は、緑内障に罹患した対象を治療する方法を提供し、これは当該対象を治療するために有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩を当該対象に投与することを含む。
【0011】
当該主要発明はまた、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩、緑内障を治療するための更なる薬剤、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物も提供する。
【0012】
当該主要発明はまた、緑内障に罹患した対象の治療における使用のための医薬組成物も提供し、これは治療に有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩及び薬学的に許容される担体を含有する。
【0013】
当該主要発明はまた、緑内障に罹患した対象を治療するための医薬の製造におけるR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の使用を提供する。
【0014】
当該主要発明はまた、対象を治療するために有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩を当該対象に投与することを含む、それを必要とする対象において網膜神経節細胞の死を減少させる方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【0015】
この主要発明は、緑内障に罹患した対象を治療する方法を提供し、これは当該対象を治療するために有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩を当該対象に投与することを含む。
【0016】
ある実施形態において、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量は一日あたり0.01 mg〜20 mgである。
【0017】
別の実施形態において、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量は一日あたり0.5 mg〜5 mgである。
【0018】
別の実施形態において、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量は一日あたり2 mgである。
【0019】
別の実施形態において、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量は一日あたり1 mgである。
【0020】
上記の方法のいずれかの実施形態において、投与はR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンの薬学的に許容される塩の投与である。
【0021】
ある実施形態において、当該薬学的に許容される塩は、エシレート(esylate)、メシレート(mesylate)、サルフェート(sulfate)、又はタートレート(tartrate)である。
【0022】
さらなる実施形態において、当該薬学的に許容される塩はメシレートである。
【0023】
さらなる実施形態において、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンメシレートの量は一日あたり1.56 mgである。
【0024】
上記の方法のいずれかの実施形態において、当該投与は眼内投与、眼科的(ocular)投与、経口投与、非経口投与、眼周囲投与、直腸投与、全身性投与、局部性投与、又は経皮性投与である。
【0025】
更なる実施形態において、当該投与は眼科的投与である。
【0026】
更なる実施形態において、当該投与方法は後区(posterior segment)への送達に適する。
【0027】
更なる実施形態において、当該投与方法は眼内投与、眼周囲投与、全身性投与、又は局部性投与である。
【0028】
更なる実施形態において、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンメシレートの量は一日あたり0.01 mg〜2 mgである。
【0029】
更なる実施形態において、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンメシレートの量は一日あたり0.1 mg〜1 mgである。
【0030】
別の実施形態において、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩は医薬組成物中にある。
【0031】
別の実施形態において、当該方法は緑内障を治療するために更なる薬剤を対象に投与することをさらに含む。
【0032】
別の実施形態において当該緑内障を治療するための更なる薬剤はβ-アドレナリン作動性アンタゴニスト、アドレナリン作動性アゴニスト、副交感神経作動薬、プロスタグランジン様類似体、又はカルボニックアンヒドラーゼインヒビターである。
【0033】
本願発明はまた、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩、緑内障を治療するための更なる薬剤、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物を提供する。
【0034】
ある実施形態において、当該緑内障を治療するための薬剤は、β-アドレナリン作動性のアンタゴニスト、アドレナリン作動性のアゴニスト、副交感神経作動薬、プロスタグランジン様類似体、又はカルボニックアンヒドラーゼインヒビターである。
【0035】
ある実施形態において、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量は、網膜神経節細胞の死または網膜神経節細胞の障害を阻害するために有効である。
【0036】
ある実施形態において、本願発明は網膜神経節細胞の死又は網膜神経節細胞の障害を減少させるために有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩によって網膜神経節細胞の死又は網膜神経節細胞の障害を有する対象を治療する方法である。
【0037】
本願発明はまた、緑内障に罹患した対象の治療における使用のための医薬組成物も提供し、これは治療に有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩及び薬学的に許容される担体を含有する。
【0038】
本願発明はまた、緑内障に罹患した対象を治療するための医薬の製造における、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の使用を提供する。
【0039】
本願発明はまた、対象を治療するために有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における網膜神経節細胞の死を減少させるための方法を提供する。
【0040】
ある実施形態において、当該対象は上昇した眼内圧を有する。
【0041】
本願発明は、化合物R(+)PAIを含む医薬組成物、それらの製剤、及び当該医薬組成物による緑内障の治療方法を提供する。
【0042】
ラサギリンは、化学物質R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン [“R(+)PAI”]のINN (国際一般的名称 (International Nonproprietary Name))及びUSAN (米国一般名 (United States Adopted Name))である。
【0043】
R(+)PAIは、N-プロパルギル-1-アミノインダン(PAI)のR及びSエナンチオマーのラセミ混合物の光学的分割により得られてもよい。当該分割は、慣習的ないかなる分割方法によって達成されてもよく、これは当業者に公知であり、例えば、"Enantiomers, Racemates and Resolutions" by J. Jacques, A. Collet and S. Wilen, Pub. John Wiley & Sons, N.Y., 1981に記載されるものなどがある。例えば、当該分割はキラルカラム上で分取クロマトグラフィーによって行われてよい。適切な分割方法の他の例は、例えば酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸などのキラル酸、又はアミノ酸のN-アセチル誘導体、例えばN-アセチルロイシンなどを含むジアステレオマー塩の形成であり、この後に再結晶し、所望のRエナンチオマーのジアステレオマー塩を単離する。
【0044】
PAIのR及びSエナンチオマーのラセミ混合物は、例えばWO95/11016に記載される通り調製されてもよい。PAIのラセミ混合物はまた、1-クロロインダン又は1-ブロモインダンとプロパルギルアミンを反応させることによって調製されてもよい。代わりに、このラセミ体はプロパルギルアミンと1-インダノンとを反応させることにより調製され、対応するイミンを形成し、その後、適切な試剤、例えば水素化ホウ素ナトリウムなどによって当該イミンの炭素−窒素二重結合を還元してもよい。
【0045】
本願発明に従うと、R(+)PAIは有機または無機塩基の存在下、及び任意に適切な溶媒の存在下、プロパルギルブロミド又はプロパルギルクロリドとの反応によって1-アミノインダンの光学活性なR-エナンチオマーから直接的に調製されてもよい。前記化合物の好ましい調製方法は、塩基としての炭酸水素カリウム及び溶媒としてのアセトニトリルを使用するR-1-アミノインダンとプロパルギルクロリドとの反応である。
【0046】
当該化合物R(+)PAIは、特に緑内障の治療に有用な医薬組成物として調製されてもよい。当該組成物は、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤とともにR(+)PAIの化合物又は薬学的に許容されるその酸付加塩を含有してよい。本願発明の実施において、薬学的に許容される塩は、メシレート(mesylate)、マレエート(maleate)、フマレート(fumarate)、タートレート(tartrate)、ハイドロブロミド(hydrobromide)、エシレート(esylate)、p-トルエンスルホネート(p-tolunesulfonate)、ベンゾエート(benzoate)、アセテート(acetate)、フォスフェート(phosphate)及びサルフェート(sulfate)塩を含むがこれらに限定されない。
【0047】
当該化合物R(+)PAIは、薬学的に許容される担体、例えば水または生理食塩水などによって医薬組成物に処方されてもよく、眼内投与のための点眼薬に処方されてもよい。
【0048】
当該組成物は、経口的に、非経口的に、直腸に、又経皮的に投与される医薬として調製されてもよい。経口的投与のための適切な形態は、錠剤、圧縮又は被覆された丸薬、糖衣丸、サッシェ、硬ゼラチンカプセル又は軟ゼラチンカプセル、舌下錠、シロップ及び懸濁剤を含む;非経口投与のために本願発明は、水溶性若しくは非水溶性溶液又はエマルションを含むアンプルまたはバイアルを提供する;直腸投与のために親水性又は疎水性の賦形剤を含む坐剤が提供される;及び軟膏としての局所的適用及び経皮的送達には当該分野において既知の適切な送達系が提供される。
【0049】
本願発明の経口的な投薬形態に処方するために使用されてもよい薬学的に許容される担体及び賦形剤の具体例は、例えば2000年10月3日に発行されたPeskinらの米国特許番号6,126,968に記載される。本願発明において有用な投薬形態を調製するための技術及び組成物は、以下の参考文献に記載される:7 Modern Pharmaceutics, Chapters 9 and 10 (Banker & Rhodes, Editors, 1979); Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets (Lieberman et al., 1981); Ansel, Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms 2nd Edition (1976); Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed. (Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1985); Advances in Pharmaceutical Sciences (David Ganderton, Trevor Jones, Eds., 1992); Advances in Pharmaceutical Sciences Vol 7. (David Ganderton, Trevor Jones, James McGinity, Eds., 1995); Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Forms (Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Series 36 (James McGinity, Ed., 1989); Pharmaceutical Particulate Carriers: Therapeutic Applications: Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Vol 61 (Alain Rolland, Ed., 1993); Drug Delivery to the Gastrointestinal Tract (Ellis Horwood Books in the Biological Sciences. Series in Pharmaceutical Technology; J. G. Hardy, S. S. Davis, Clive G. Wilson, Eds.); Modern Pharmaceutics Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Vol 40 (Gilbert S. Banker, Christopher T. Rhodes, Eds.)。
【0050】
錠剤は適切な結合剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、着香剤、流動誘起剤、及び融解剤を含んでもよい。例えば、錠剤又はカプセルの用量単位形態での経口投与のため、活性薬剤成分は、経口的で無毒性の薬学的に許容される不活性な担体、例えばラクトース、ゼラチン、寒天、デンプン、スクロース、グルコース、メチルセルロース、第二リン酸カルシウム、リン酸カルシウム、マンニトール、ソルビトール、微結晶性セルロースなどと組み合わされてもよい。適切な結合剤は、デンプン、ゼラチン、天然糖、例えばグルコース又はベータラクトースなど、コーンスターチ、天然及び合成ゴム、例えばアラビアゴム、トラガカントゴム又はアルギンサンナトリウムなど、ポビドン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどを含む。これらの投薬形態において使用される潤滑剤は、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、タルクなどを含む。崩壊剤は、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム、クロスカルメロースナトリウム、ソディウムスターチグリコレートなどを含むが、これらに限定されない。
【0051】
開示される組成物のいずれかにおいてR(+)PAIの好ましい用量は、以下の範囲であってよい:経口又は坐剤製剤には、一日に摂取される用量単位あたり0.01〜20 mg、好ましくは一日に摂取される用量単位あたり0.5〜5 mg、より好ましくは一日に摂取される用量単位あたり1 mg又は2 mgが使用されてもよい。
【0052】
局所的眼科的投与には、本願発明の当該新規な製剤が溶液、ゲル、軟膏、懸濁液又は固形挿入物の形態を取ってもよく、これは用量単位が治療に有効な量の活性成分又は併用療法を含むように処方される。眼科的投与には、一日に摂取される用量単位あたり0.01〜2 mg、好ましくは一日に摂取される用量単位あたり0.1〜1 mg、または一日に摂取される薬学的に許容される塩を使用してもよい。
【0053】
当該医薬製剤は、以下の無毒性の助剤物質のいずれかを含んでよい:
当該医薬製剤は、使用時に無害である抗菌性の成分、例えば、チメロサール、ベンズアルコニウムクロリド、メチル及びプロピルパラベン、ベンジルドデシニウムブロミド、ベンジルアルコール又はフェニルエタノールを含んでよい。
【0054】
当該医薬製剤はまた、緩衝成分、例えば塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、グルコナート緩衝剤、リン酸、炭酸水素塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、ACES、BES、BICINE、BIS-トリス、BIS-トリスプロパン、HEPES、HEPPS、イルニダゾール(irnidazole)、MES、MOPS、PIPES、TAPS、TES、及びトリシンなどを含んでよい。
【0055】
当該医薬製剤はまた、無毒性の医薬有機担体又は無毒性の医薬無機担体を含んでよい。薬学的に許容される担体の典型は例えば、水、水及び水混和性の溶媒、例えば低級アルカノール又はアラルカノールなど、植物性油脂、ピーナッツ油、ポリアルキレングリコール、石油に基づくゼリー、エチルセルロース、エチルオレアート、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、イソプロピルミリステート、並びに慣習的に使用される他の許容される担体である。
【0056】
当該医薬製剤はまた、無毒性の乳化剤、保存剤、湿潤剤、増粘剤、例えば、ポリエチレングリコール200、300、400及び600、カーボワックス1,000、1,500、4,000、6,000及び10,000、抗菌成分、例えば四級アンモニウム化合物、冷滅菌性を有することが知られ、使用時に無害性であるフェニル水銀塩、チメローサル、メチル及びプロピルパラベン、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、緩衝成分、例えばホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、グルコン酸緩衝剤など、並びに他の慣習的な成分、例えばソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミン、オレアート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチレート、ジオクチルソディウムサルホスクシネート、モノチオグリセロール、チオソルビトール、エチレンジアミンテトラアセティックなどを含んでよい。さらに、適切な眼科の賦形剤が、慣習的なリン酸緩衝液賦形剤系、等張ホウ酸賦形剤、等張塩化ナトリウム賦形剤、等張ホウ酸ナトリウム賦形剤などを含む、本願発明の目的のための担体媒体として使用されてもよい。
【0057】
当該医薬製剤はまた、使用されてもよい界面活性剤を含み、これはポリソルベート界面活性剤、ポリオキシエチレン界面活性剤、ホスホン酸塩、サポニン、及びポリエトキシル化ヒマシ油を含むが、好ましくはポリエトキシル化ヒマシ油である。これらの界面活性剤は商業的に入手可能である。当該ポリエトキシル化ヒマシ油は、例えばBASFによりCremaphorの商標の下、販売される。
【0058】
当該医薬製剤はまた、点眼剤において一般的に使用される湿潤剤、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、グリセリン、マンニトール、ポリビニルアルコール又はヒドロキシエチルセルロースなど、及び希釈剤を含んでもよく、希釈剤は、水、蒸留水、滅菌水、又は人工涙液であってよく、ここで当該湿潤液は約0.001%〜約10%の量で存在する。
【0059】
本願発明の製剤は様々であり、pHを調節するための酸及び塩;張度付与剤、例えばソルビトール、グリセリン及びデキストロースなど;他の粘度付与剤、例えばソディウムカルボキシメチルセルロール、ミクロクリスタリンセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及び他の粘性物質など;適切な吸収促進剤、例えば界面活性剤、胆汁酸など;安定化剤、例えば亜硫酸水素塩及びアスコルビン酸塩のような酸化防止剤など;金属キレート剤、例えばソディウムエデト酸塩など;並びに溶解促進剤、例えばポリエチレングリコールなどを含んでよい。これらの更なる成分は、適切な安定性を有する市販の溶液の調製を助け、そのため要請に応じて調製する必要がない。
【0060】
眼科組成物は、当該組成物で治療される眼及び/又はコンタクトレンズと適合させるために処方されるだろう。当業者に理解される通り、眼への直接的な適用を目的とする当該眼科組成物は、当該眼と適合するpH及び張度を持つように処方されるだろう。これは通常、生理的pH(すなわちpH 7.4)の近傍で当該組成物のpHを維持する緩衝液を必要とし、当該組成物の浸透圧モル濃度を1キログラムあたり210〜320ミルオスモル(mOsm/kg)のレベル又はその近傍にするための等張剤を必要としてもよい。
【0061】
当該用量は、症状、年齢、投薬形態などに応じて適切に選択され、点眼薬において一日あたり0.02〜2 mgのR(+)PAI、好ましくは一日あたり0.1〜1 mgのR(+)PAI、又は薬学的に許容される眼科の担体において薬学的に許容される塩を含んでよい。当該pHは、眼科の製剤に許容される範囲内であり、好ましくは4〜8の範囲内であってよい。
【0062】
他の材料及び処理技術などは、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th edition, 1985, Mack Publishing Company, Easton, Pa.,の第8部、及びInternational Programme on Chemical Safety (IPCS)で説明され、これはここにおいて参照により組み込まれる。
【0063】
対象の眼の後区への薬剤の送達に適する、非侵襲的な又は最小限に侵襲的な薬物送達技術が多数ある。4つのアプローチが薬剤を後区に送達するために使用されてよく、これらは局所性、全身性、眼内、及び眼周囲(結膜下、テノン嚢下、及び眼球後を含む)のアプローチである。対象の眼に化合物を投与するいかなる手段も本願発明の範囲内と考えられるべきことに留意されたい。ある側面において、例えば、液滴の形態で投与され得る溶液及び懸濁液が使用されてもよい。他の側面において薬剤はまた、硝子体内、眼周囲若しくは結膜下への注射、当該眼への超音波の適用、極微針によるマイクロポレーション、又は強膜移植によって投与されてもよい。さらに別の側面において、イオン導入装置及び方法が、薬剤を非侵襲的に眼に投与するために使用されてもよく、これは短い期間に高度の薬物浸透を達成することに特に成功的であってもよい。したがって、対象の不快感及び不自由並びに治療計画全体としての一定の見込みのある副作用のリスクは最小化される。
【0064】
R(+)PAI組成物は、緑内障を治療するために単独で使用されてもよく、又は代わりに既存の緑内障治療の補助剤として使用されてもよい。
【0065】
ここで開示するいかなる範囲によっても、当該範囲内のすべての100分の1、10分の1、及び整数の単位量が本願発明の一部として具体的に開示される。従って、例えば0.01〜20 mgは、0.01, 0.02, 0.03 ... 0.09;0.1, 0.2 ... 0.9;及び1, 2 ... 19及び20 mg単位量を本願発明の実施形態として含むことを意味する。
【0066】
ここにおいて使用される通り、緑内障に「罹患した」対象は、緑内障と診断された対象を意味する。
【0067】
実験の詳細
網膜神経節細胞(RGCs)の変性、軸索消失及び視神経頭の掘削された外観は緑内障に関連する。近年、緑内障は神経変性疾患であるとの前提に基づいたアプローチを使用して緑内障視神経症の進行を阻止することにますます関心が高まっている (Fisher, et al., “Vaccination for Neuroprotection in the Mouse Optic Nerve: Implications for Optic Neuropathies”, J Neurosci 2001; 21:136-142)。したがって、緑内障視神経の神経保護は、慣習的なIOP低減療法による使用のための補助的治療のパラダイムである(Schwartz, et al., “Potential Treatment Modalities for Glaucomatous Neuropathy: Neuroprotection and Neurodegeneration”, J. Glaucoma 1996; 5:427-432)。神経保護は、ニューロンの変性及び死を遅らせ又は阻止し、それらの生理的機能を維持する新規な治療パラダイムである。神経保護のストラテジーの重要な利点は特定の病因が未知であるか又は患者間で異なる疾患の治療を可能にすることである。これは特に、特定の患者の緑内障が一次疾患のメカニズムによるものか二次疾患のメカニズムによるものかによらず神経保護が有効な緑内障治療に関連する(Weinreb, et al., “Is Neuroprotection a Viable Therapy for Glaucoma?”, Arch Ophthalmol 1999; 117:1540-1544)。有意にニューロンの欠損を減少させるにもかかわらず、現行のIOP低減薬物治療は緑内障の進行性を停止させず、IOPが低下した後でさえRGCsの消失が継続するかもしれない。したがって、継続する変性から眼組織を保護することができる治療薬は、緑内障における充足されていない最大の医療ニーズである。
【0068】
ラサギリンのRGC生存に対する効果は、緑内障の主要な危険因子である慢性的に上昇するIOPのラットモデルにおいて試験される。
【0069】
例1 緑内障のモデルとしての高眼圧症
緑内障は通常、上昇した眼内圧(IOP)に関連し、これは正確にはIOPがRGCアポトーシスを導いてもよいことを意味する。この非常によく確立した緑内障モデルにおいて、高いIOPは外科的に誘発された慢性的な高眼圧症(OHT)により生じる。(Guo et al. “Targeting amyloid-β in glaucoma treatment”, PNAS 2007; 104:113444-13449)
ラサギリン
ラサギリンをそのメシレート塩(1 mg塩は、0.64 mgの遊離塩基と等価である)として得た。
【0070】
材料及び方法
IOPの片側性の増加を、麻酔下のオスのLewisラットにおいて輪部(limbal)及び強膜上静脈のレーザー光凝固により誘発する。ラットは、2つのレーザー焼灼処理を1週間おきに受ける。2番目のレーザー処理の1週間後にIOPを測定する。2番目のレーザー処理から2週間後、視神経頭の遠位に蛍光逆行性神経トレーサーを適用する。色素適用から1日後(最初のレーザー処理から3週間後)、当該ラットを屠殺し、その網膜を切除し、パラホルムアルデヒドに固定し、且つ全体をフィルターにマウントする。蛍光顕微鏡を使用して標識した細胞を計数することにより、RGCsの生存を決定する。
【0071】
ラサギリンのRGCsの生存に対する効果を調べるため、ラットは2番目のレーザー処理の前に単回のラサギリンの皮下注射を受ける。未処置の動物のさらなる群は、レーザー処理を受けない。コントロール(PBS)処理に関して、ラサギリンによる治療の「%保護」及びその効果の統計的有意性を計算する。
【0072】
反復注射−治療プロトコール
RGCsの生存に対する各週及び各月のラサギリン治療の効果を調べるために、12週間に亘ってラットは反復のラサギリンの皮下注射を受け、これは2番目のレーザー処理の日から開始される。コントロール群は、毎週PBSを受け、さらなるポジティブコントロール(PC)群は、2番目のレーザー処理の日(+7日目)にラサギリンの単回注射を受ける。
【0073】
反復注射−予防プロトコール
RGCsの生存に対する各週及び各月のラサギリン治療の効果を調べるために、12週間に亘ってラットは反復のラサギリンの皮下注射を受け、これは2番目のレーザー処理の前から開始され、2番目のレーザー処理の日にすべての群に最後の注射をする。コントロール群は、毎週PBSを受け、さらなるポジティブコントロール(PC)群は、2番目のレーザー処理の日にラサギリンの単回注射を受ける。
【0074】
結果
ラサギリンは、プロトコールの下試験された当該IOPモデルにおいてプラスの効果を示す。
【0075】
例2−慢性的で緩徐に上昇するIOPのラットモデル
RGCの生存に対するラサギリンの効果は、慢性的で緩徐に上昇するIOP、これは緑内障の主要な危険因子であるが、このラットモデルにおいて試験される。上昇したIOPは、緑内障の進行の主要な危険因子であるため、治療はIOPを減少させることに基づいている。以下は、慢性的で緩徐に上昇するIOPのラットモデルである。(Nuefeld et al. “Inhibition of nitric-oxide synthase 2 by aminoguanidine provides neuroprotection of retinal ganglion cells in a rat model of chronic glaucoma” PNAS, 1999, 96: 9944-9948)
材料及び方法
3つの強膜血管の焼灼によって慢性的で緩徐に上昇するIOPを片側的に生じさせ;対側性の眼はコントロールとしての役割を果たす。焼灼するため、眼瞼を縫合して眼を開けたままにし、眼球結膜を縫合し眼球を処理する。周辺由来の静脈によって形成される4〜5つの主要な幹のうち3つを、結膜を切開することにより眼球の赤道で曝露する。各血管を小筋肉のフックにより持ち上げ、眼科の使い捨て熱灼器を、当該筋肉フックに対して直接的に適用することよって焼灼を行う。焼灼された末端の即時収縮および出血のなさは、焼灼の成功を示す。手術後、回復する間の数日間、バシトラシン−ネオマイシン−ポリミキシンによって眼を局所的に治療する。
【0076】
一つの群を、ある期間飲み水中のラサギリンで治療する。他の群はラサギリンで治療されないが、同じスケジュールで飲み水を摂取する。月に一度、各動物に麻酔をし、両側のIOPを測定する。当該動物はIOP測定の15分間、目覚めている。いずれか一方の眼について、3〜5回の眼圧計読み取りが行われ平均される。片側的な、慢性的で緩徐な上昇IOPの6月後、麻酔下のラットのそれぞれの眼の視神経円板の写真を、ゴニソール(Gonisol)の液滴により角膜に置かれたカバーガラスを通して眼底カメラで撮影する。
【0077】
屠殺の一週間前、定位固定装置に固定される麻酔下のラットの上丘にフルオロ−ゴールド(Fluoro-Gold)を両側的に微量注入する。フルオロ−ゴールドは、網膜神経節細胞の軸索末端により取り込まれ、両側的に網膜の体細胞中に逆行的に輸送される。フルオロ−ゴールドの投与から1週間後、上記麻酔混合物の過剰摂取によって動物を屠殺し、平らにマウントした網膜全体について網膜神経節細胞密度を評価する。ラットの眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドに30分固定する。眼を赤道で二分し、レンズを取り除き、そして後区を平面的なマウントのために調製する。網膜を下にある強膜から切開し、これを6つの放射状の切り込みによって平面にし、硝子体(vitreal)側を上にしてゼラチンで被覆したスライドにマウントする。
【0078】
標識した網膜神経節細胞を、蛍光顕微鏡法を使用して網膜の12領域において計数する。
【0079】
結果
ラサギリンは、当該プロトコールの下試験される慢性的で緩徐に上昇するIOPモデルにおいてプラスの効果を示す。
【0080】
例3−緑内障のスタウロスポリン(SSP)モデル
ラサギリンのRGCの生存に対する効果を、RGC生存のラットモデルにおいて試験する。
【0081】
スタウロスポリン(ストレプトマイシス・スタウロスポアス(Streptomyces staurospores))が相対的に非選択的なプロテインキナーゼインヒビターであり、異なる度合いで多数のキナーゼをブロックする。スタウロスポリンは、アポトーシスを誘発する一般的な方法として使用されることが多い。このよく確立したモデルにおいては、網膜神経節細胞のアポトーシスを誘発するために使用される。(Cordeiro, et al. “Real-time imaging single nerve cell apoptosis in retinal neurodegeneration” PNAS, 2004, 202:13352-13356)
動物
すべてのラット実験において、成体のラットが使用される。
【0082】
材料及び方法
ラットはPBS中の硝子体内SSPの用量を受ける。動物をすぐに及び6時間以内に撮像し、その後組織学のために屠殺する。
【0083】
ラサギリンのRGCsの生存に対する効果を調べるため、ラットの一群はSSPの前のある期間ラサギリンによって処理される。未処理のラットのさらなる群はラサギリンを受けない。
【0084】
Alexa Fluor 488標識アネキシン5によるイメージング
当該動物をcLSOの前に配置し、それによって眼の内部を撮像する。波長488 nmのアルゴンレーザーを一対の鏡により小さなスポットに集中させ、網膜を横切ってスキャンし、当該投与したアネキシン5−結合フルオロフォアを励起する。当該蛍光を固相光検知器によって検出する。
【0085】
撮像のため、動物を定位の枠に収容し、瞳孔を拡張させる。スキャンした網膜領域の映像を、蛍光について評価する。すべての動物はAlexa Fluor 488標識アネキシン−5の硝子体内注射を受ける前に記録されたベースライン画像を有する。
【0086】
組織学
屠殺後、眼を摘出し、すぐに4%の新鮮なパラホルムアルデヒドに固定し、その後赤道で切開し、レンズ及び硝子体を除去して平らな網膜全体を得る。
【0087】
アポトーシスの同定
網膜全体を2時間ブロックし、選択された抗体によってインキュベートする。PBS中で洗浄した後、当該網膜を4つの放射状の切り込みにより平らにし、硝子体側を上にしてグリセロール/PBS溶液によりマウントする。平らな網膜はまた、凍結切片のために処理される。
【0088】
RGCの同定
RGCsを同定するために、平らな網膜全体及び凍結切片を染色し、核について評価する。
【0089】
共焦点顕微鏡
蛍光性の網膜を、共焦点レーザースキャン顕微鏡を使用することにより評価する。
【0090】
イメージ分析
染色したRGCおよびアネキシン5−標識のアポトーシスのRGCsの数を、顕微鏡分析ソフトウェアにより計数する。
【0091】
結果
ラサギリンは、当該プロトコールの下試験されたSSPモデルにおいてプラスの効果を示す。
【0092】
例4−実験的緑内障のラットの網膜神経節細胞の生存に対するラサギリンの効果
この例の目的は、ラットの実験的緑内障の確立したモデル中でラサギリンが神経保護的であるかどうかについて調べることである。
【0093】
材料および方法
Tel-Aviv大学薬学部のAnimal Care Committeeにより承認及び監視される手順、並びにthe Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for the use of animals in ophthalmic and vision researchに概説されるその後の手順の下、体重375-400 gmのオスのウイスターラットを試験する。動物は14時間の明/10時間の暗サイクルによって、標準の固形試料と水で任意に飼育される。
【0094】
Levkovitch-Verbinによって開発されたtranslimbalレーザー光凝固モデルを使用することにより、ラットの一方の眼において緑内障を誘発する。このモデルは、試験されるほとんどの眼において、高いIOP及び典型的な緑内障性視神経障害を生ずる可能性がある。
【0095】
このモデルにおいて、ラットの眼の流出路を532 nmのアルゴンレーザーにより処理する。腹腔内ケタミン(10-13 mg/kg)及びキシラジン(50 mg/kg)、並びに局所的なプロパラカイン1%点眼薬により、動物に麻酔をかける。当該レーザー処理は、左目に片側的に施され、これは1週間後に繰り返される。上記麻酔の下、レーザー処理の前及び直後、並びにその1週間後、両目についてTonopen XLによりIOPを測定する。各眼について毎回10回の測定をし、その平均値を計算する。当該網膜及び脈絡膜の血管を間接検眼法により観察し、血管の開通性を確認し、膜浮腫又は出血について確認する。
【0096】
ラサギリンを2用量レベル:0.5〜3 mg/kgで腹腔内に投与し、これはレーザー処理後すぐに開始される。当該化合物を、実験の終わりまで6週間の期間一日一回適用する。投与体積は2 ml/kg (生理食塩水中)である。当該薬剤の注射は5営業日の間行った。各群は15匹のラットを含む:
1.レーザー処理し、且つ賦形剤は生理食塩水 (IP)
2. レーザー処理し、TCG 0.5 mg/kg (IP)
3. レーザー処理し、TCG 3 mg/kg (IP)
【0097】
ラサギリンを6週間毎日、腹腔内投与する。(5営業日)ラサギリンを0.5 mg/kg及び3.0 mg/kgで生理食塩水に溶解させることにより調製する。投与体積は2 ml/kgである。ラサギリンを各週の初めに一度調製し、0.5 mg/kgには20mg/80ml、及び3.0mg/kgには120mg/80mlであってよい(体重400 gのラットについて計算した)。当該溶液を−4℃の冷蔵庫に置く。毎週、新鮮な溶液を調製する。
【0098】
屠殺の10日前、蛍光色素(Flurogold)を定位固定注射により両方の上丘に適用することにより網膜神経節細胞を標識する。屠殺に際して、動物にはすべて麻酔をかけ、眼球を除去する。網膜の全載をスライド上に置く。
【0099】
各網膜(各ラットについて両目)から蛍光顕微鏡を使用して40倍の倍率の画像を32個撮影し、ぞれぞれの眼について生存する網膜神経節細胞数を計数する。実験的な眼におけるRGCs数は、RGC消失を計数したフェローコントロール(fellow control)の眼と比較される。当該RGCsはブラインデッドオブザーバー(blinded observer)により計数される。
【0100】
結果
ラサギリンは当該プロトコールの下で試験される実験的緑内障モデルにおいてプラスの効果を示す。さらなる神経節生存が、治療された群において明らかである。これは、ラサギリンによる治療が神経節の死に寄与する過程を排除することを示す。
【0101】
例5−ラット網膜虚血/再灌流モデルを使用する光受容体の障害の減少における有効性に関するスクリーニング−腹腔内投与/眼球高血圧
この試験の目的は、眼球高血圧により誘発される一過性虚血の後の網膜電気的活動のよりよい回復及び/又はアポトーシスの網膜神経節細胞(RGCs)の減少が、ラサギリンの腹腔内(IP)投与により生ずるか否かを決定することである。
【0102】
材料及び方法
染色したオスのラット(Long Evans)30匹を得て、均等に各群10匹の3つの群(2つの試験群及び1つのコントロール群)に分ける。60分間針によって眼に適用される100/200−mmHgの高圧生理食塩水カラムによって、網膜虚血を誘発する。
【0103】
2つの試験群に、ラサギリン(賦形剤中0.5mg/mg及び3 mg/mg溶液)を虚血30分前及び虚血2時間後、腹腔内に試験の終了まで毎日1回投与する。虚血30分前及び虚血2時間後、コントロール群に当該賦形剤(生理食塩水)を腹腔内投与する。
【0104】
測定
最大強度の暗所条件下、a-波及びb-波の陰的時間(implicit time)及びピーク振幅の網膜電図(ERG)の測定をベースライン(虚血直前)及び再灌流の4−7日後に行う。
【0105】
組織学
固定された平面マウント網膜のサンプリング、及びアネキシン-5標識又はTUNEL標識のための組織学的処理。
【0106】
結果
ラサギリンの腹腔内(IP)投与は、眼球高血圧により誘発される一過性虚血の後の網膜電気的活性の回復及び/又はアポトーシスのRGCsの数の減少に対してプラスの影響を与える。
【0107】
例6−10日間のラサギリンの眼内投与又は経口投与後のラットの脳、肝臓、及び網膜におけるMAO活性及び阻害
この試験の目的は、1)MAO阻害の程度を調べることにより、点眼薬の形態で投与されるラサギリンが網膜中の眼の内層に浸透するという証拠を提示すること、及び2)肝臓及び脳のような内部器官におけるMAO阻害の程度を調べることにより、網膜中のMAO-A及びMAO-Bを阻害するラサギリン用量を決定し、ラサギリンの全身的な浸透を評価すること、であった。
【0108】
材料及び方法
270±7グラムの体重の範囲内のオスのSPF Sprague Dawleyラットをこの試験で使用した。
【0109】
ラサギリンの眼科製剤は、以下の濃度で2日ごとに調製した:60, 20, 4, 0.8, 0.16 mg/ml(塩基)。60 mg/ml溶液の製剤を水中で注射用だけのために調製し、20-0.16 mg/ml濃度を、適切な浸透圧モル濃度(280-610 mOsmol/kg)を維持するために50 mg/mlマンニトール溶液中で調製する。pH範囲は4.38-5.59である。
【0110】
それらの製剤から、その群の平均体重に応じて約15〜18μlを一つの群中6匹のラットの各眼に適用した。
【0111】
50 mg/kgマンニトールの溶液を眼の治療の賦形剤コントロール群として使用した。当該眼内の治療を受けるラットに、眼への投与前にイソフルレンによって麻酔をかけた。
【0112】
経口投与のためのラサギリンは二次蒸留水(DDW)中で調製した。水は経口賦形剤コントロール群に投与した。
【0113】
ラサギリンを10日間に亘って投与した。ラットを最後の投与から2〜3時間後に屠殺した。予備的な実験に従って、MAO及びタンパク質分析のための十分な物質を得るために、4つの網膜(2匹のラットからの)を組み合わせて一つのサンプルとした(各用量群あたりMAOの3つの網膜サンプル)。当該6つの脳及び6つの肝臓を別々に分析した。2日間に亘って行われる予備の試験において、ラサギリンは眼に炎症を起こさないことがわかった。当該用量群を次の表に示す:
【表1】

【0114】
MAOの酵素的定量には標準的な方法を使用した。IRD-MB-051:「種々の組織における放射性標識物質を使用する抽出によるモノアミドオキシダーゼ(MAO)の定量」
結果
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【0115】
考察
眼内に投与されるラサギリンは、全用量が吸収された。マンニトールのMAO-B活性に対する賦形剤効果は、試験されたすべての組織で観察された。表2は、マンニトール(イソフルラン麻酔)によって眼内治療されたラットの脳、肝臓、及び網膜におけるMAO-B活性がそれぞれ水によって経口的に治療されたラットの脳におけるMAO-B活性よりも低い72%、76%、及び46%であることを示す。加えて表5は、マンニトールによって眼内を治療されたラットの網膜におけるMAO-B活性が、水によって経口的に治療されたラットの網膜におけるMAO-B活性よりも低い46%または67%であることを示し、これはdpm及びタンパク質ごとの活性からそれぞれ計算される。
【0116】
網膜の重量は非常に低いため、タンパク質に対する規格化後の結果がより正確かどうかを決定するために、タンパク質の含有率を測定した。dpmの結果及び活性から計算される場合、同様の阻害の割合が得られることが観察された。活性及びdpmから計算した網膜における阻害の割合についての結果は同じであり、これは、1サンプルあたり4つの網膜を使用する代わりに1サンプルあたり2つの網膜を使用するその後の実験において、タンパク質分析を省略できることを示唆する。
【0117】
最後に、全身性の阻害が用量によって決まること、及び用量依存性が組織によって異なることが観察された。例えば、0.0165 mg/kg/日の用量は肝臓のMAO-Bを阻害しないが、おそらく視神経によって脳のMAO-Bを阻害する。(表3を参照されたい)加えて、0.4 mg/kg/日の眼内のラサギリンは、経口的に投与される0.4 mg/kg/日と比較して、網膜及び脳においてわずかに高いMAO-A阻害を生ずる。(表3を参照されたい)当該結果は、網膜における局所的なMAO阻害が肝臓で観察される阻害のレベルよりも高く、脳の酵素の阻害は網膜の酵素の阻害と類似することを示す。
【0118】
この例は、眼内投与から肝臓に到達するMAO-Aのリスクが経口投与よりも低いことを示す。この結果は、眼内投与の場合、通常MAO阻害と関連する「チーズ効果」の危険性が、経口投与の場合に比べて低いことを示唆する。
【0119】
例7−臨床試験
前記に基づき、臨床試験を行う。
【0120】
緑内障の臨床試験
緑内障視神経症の患者におけるラサギリンの耐性、安全性及び有効性を評価するための、多施設共同試験、無作為二重盲式試験、プラセボコントロール試験、複数回投与試験、三群試験。各対象にプラセボ又はラサギリンを投与する。
【0121】
結果
ラサギリンによって治療される患者は、プラセボを投与した群と比較してRGCsの消失に対する保護が増進したこと及びその後緑内障症状の重症度が減少したこと、例えば、視神経の萎縮が減少したことを示す。ラサギリンを投与した患者はまた、視野の喪失が減少したこと並びに網膜及び視神経の構造的完全性の保存が増加したことも示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑内障に罹患した対象を治療する方法であって、当該対象を治療するために有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンまたは薬学的に許容されるその塩を当該対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
網膜神経節細胞の死若しくは網膜神経節細胞の障害を有する対象を治療する方法又は対象において網膜神経節細胞の死若しくは障害を減少させる方法であって、網膜神経節細胞の死又は網膜神経節細胞の障害を減少させるために有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩を当該対象に投与することを含む方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、当該対象が上昇した眼内圧を有する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量が1日あたり0.01 mg〜20 mgである方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量が1日あたり0.5 mg〜5 mgである方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量が1日あたり2 mgである方法。
【請求項7】
請求項4に記載の方法であって、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量が1日あたり1 mgである方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、当該投与がR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンの薬学的に許容される塩の投与である方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、当該薬学的に許容される塩がエシレート(esylate)、メシレート(mesylate)、サルフェート(sulfate)又はタートレート(tartrate)である方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、当該薬学的に許容される塩がメシレートである方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンメシレートの量が1日あたり1.56 mgである方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法であって、当該投与が眼内投与、眼科的(ocular)投与、経口投与、非経口投与、眼周囲投与、直腸投与、全身性投与、局所性投与又は経皮投与である方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、当該投与が眼科的投与である方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法であって、当該投与が後区(posterior segment)に対する投与である方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、当該投与が眼内投与、眼周囲投与、全身性投与、又は局所性投与である方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンメシレートの量が1日あたり0.01 mg〜2 mgである方法。
【請求項17】
請求項13に記載の方法であって、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンメシレートの量が1日あたり0.1 mg〜1 mgである方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法であって、当該R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩が医薬組成物中にある方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法であって、当該対象に緑内障を治療するための更なる薬剤を投与することをさらに含む方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、当該緑内障を治療するための更なる薬剤はβ−アドレナリン作動性アンタゴニスト、アドレナリン作動性アゴニスト、副交感神経作動薬、プロスタグランジン様類似体、又はカルボニックアンヒドラーゼインヒビターである方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法であって、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の量が、網膜神経節細胞の死又は網膜神経節細胞の障害を阻害するために有効な方法。
【請求項22】
R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩、緑内障を治療するための更なる薬剤、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項23】
請求項22に記載の医薬組成物であって、当該緑内障を治療するための薬剤がβ−アドレナリン作動性アンタゴニスト、アドレナリン作動性アゴニスト、副交感神経作動薬、プロスタグランジン様類似体、又はカルボニックアンヒドラーゼインヒビターである組成物。
【請求項24】
緑内障に罹患した対象の治療において使用するための医薬組成物であって、治療に有効な量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩、及び薬学的に許容される担体を含有する組成物。
【請求項25】
緑内障に罹患した対象を治療するための医薬の製造における、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の使用。
【請求項26】
それを必要とする対象において網膜神経節細胞の死又は障害を減少させるための医薬の製造における、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン又は薬学的に許容されるその塩の使用。

【公表番号】特表2010−538067(P2010−538067A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524026(P2010−524026)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/010365
【国際公開番号】WO2009/032273
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(501079705)テバ ファーマシューティカル インダストリーズ リミティド (283)
【Fターム(参考)】