説明

ラジカル重合性組成物

【課題】本発明は、色調安定性に優れ、物理的特性を向上させることを特徴とする常温又は50℃前後の温度領域で硬化可能な歯科用ラジカル重合性組成物に関する。
【解決手段】
本発明は、ラジカル重合性単量体と(A)バルビツール酸誘導体を含むラジカル重合性組成物であって、(B)有機過酸化物、(C)有機金属塩及び/または無機金属塩、および(D)N−ピロリジンアセトアセトアミドまたは1−イソブチル−2−メチル−イミダゾールの内少なくとも2つ以上含むことを特徴とするラジカル重合性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色調安定性に優れ、物理的特性を向上させることを特徴とする常温又は50℃前後の温度領域で硬化可能な歯科用ラジカル重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野では義歯床用レジンおよび室温重合レジンまたは歯科用即時重合レジンなどに(メタ)アクリル樹脂が広く応用されている。しかし、重合開始剤や促進剤が硬化物の硬化性や審美性や物理的性能などに影響するなどの課題が残されている。
歯科義歯床用レジンはポリメチルメタクリレート(PMMA)とメチルメタクリレート(MMA)を基材とした加熱重合または室温重合レジンである。室温重合レジン系触媒としてベンゾイルパーオキサイドと促進剤の芳香族第三アミンとのレドックス重合が多く使用されている。しかし、この硬化物では熱や紫外線で褐色に変色しやすく、機械的強度が低下するという問題がある。
【0003】
第4級アンモニウムクロリドを含む組成が、特開平5−178714号、特開平6−219919号、特開平11−228330号に提案されている。
しかしこれらの硬化剤を配合した組成物では変色の問題は解決されるが、第四級アンモニウム塩の激しい刺激性や細胞毒性が悪いなど歯科用の組成物として使用するには生物学的安全性に深刻な問題がある。
特公平4−73403号、特公平5−88683号、特公平6−29164号には、それぞれ接着性の向上と硬化物の機械的性質が向上することが示されているがさらに優れた効果の高い硬化剤の開発が望まれている。
【0004】
さらに、バルビツール酸誘導体やチオバルビツール酸誘導体とハロゲン化銅による開始剤が象牙質接着性を向上させるという報告が数多くなされている。しかしこれらの報告では、硬化物の物理的特性が優れるという言及がなく接着性も十分とはいえない。
更に、歯科以外の分野においても硬化剤の課題は多い。不飽和ポリエステル樹脂組成物に代表されるラジカル重合性組成物は、常温又はこれに近い温度で硬化する場合、一般にはメチルエチルケトンパーオキサイドなどに代表される過酸化物と、これに作用してラジカルを発生させるナフテン酸コバルトなどの硬化促進剤が併用される。しかし、硬化剤の添加量が多くなると、硬化物の着色の問題が発生する恐れがある。
【0005】
特開平1−254722号公報には、不飽和ポリエステル樹脂組成物又はエポキシアクリレート樹脂組成物を硬化するにあたり、硬化助促進剤として脂肪族アセトアセトアミドを用いる方法が開示されている。この方法によりラジカル重合性組成物を常温又はそれに近い温度で黄変させず、短時間で完全に硬化させることができることが示されている。しかし、より短時間での作業、或いはより低温域での硬化を可能とするためには、複合系硬化剤の硬化能力をより一層高めることが可能な硬化助促進化合物の提供が望まれていた。
最近、特開2004−27172号公報には、N−ピロリジンアセトアセトアミド/有機過酸化物/有機およびまたは無機銅塩からなる重合開始剤が、常温でラジカル重合性組成物を効果的に硬化させることが開示されているが、実際には未硬化になったりするなど硬化性に問題があることが判明している。
【0006】
【特許文献1】特公平4−73403号公報
【特許文献2】特公平5−88683号公報
【特許文献3】特公平6−29164号公報
【特許文献4】特開平1−254722号公報
【特許文献5】特開平3−195715号公報
【特許文献6】特開平5−178714号公報
【特許文献7】特開平6−219919号公報
【特許文献8】特開平11−228330号公報
【特許文献9】特開2004−27172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、ラジカル重合性組成物であって、硬化性や色調安定性や物理的特性や機械的強度を向上させることが可能なラジカル重合開始剤及びそれを含有するラジカル重合性組成物は存在しなかった。
従来、このような新規なラジカル重合開始剤は、歯科用硬化性組成物への応用もされていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ラジカル重合性単量体と(A)バルビツール酸誘導体を含むラジカル重合性組成物であって、(B)有機過酸化物、(C)有機金属塩及び/または無機金属塩、および(D)N−ピロリジンアセトアセトアミドまたは1−イソブチル−2−メチル−イミダゾールの内少なくとも2つ以上含むことを特徴とするラジカル重合性組成物である。
所望により(E)アミン化合物を含むことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のラジカル重合性組成物は、審美性と硬化性と物理的特性を向上させることを発現する。常温あるいは50℃前後の温度領域でラジカル硬化型の硬化性組成物の硬化速度を促進し、色調安定性に優れ、機械的強度を向上させることを見出し本発明に到達した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のラジカル重合性組成物の具体的な実施の最良の形態例は、歯科用レジンであり、特に、歯科用義歯床レジンおよび室温重合レジンなどの歯科用硬化性組成物に使用できる。さらに、接着性レジンセメントレジン、歯列矯正用接着剤、歯科用ボンディング剤、接着剤、フィッシャーシーラント、ティースコーティング剤、オペーク剤、コンポマー、レジンコア、前装冠材料等に応用可能である。また、歯科分野に限らず整形外科や一般産業分野の塗料、ラッカー、接着剤、半導体基盤材料等の分野で使用できる。
【0011】
本発明は、ラジカル重合性単量体が、メチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサメチレンジ‘メタ)アクリレート、2,2−ビス{4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル}プロパン;ビスフェノールA−ジグリシジル(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジウレタン、などであるラジカル重合性組成物である。
【0012】
本発明のラジカル重合性組成物に用いられるバルビツール酸誘導体としては、下記の一般式[1]
【化1】

(R1、R2およびR3は同一もしくは異なっていてもよく、それぞれハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリル基またはシクロヘキシル基等の置換基を有してもよい脂肪族、芳香族、脂環式または複素環式残基もしくは水素元素を表す。)で表される。
【0013】
具体的には、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジフェニルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−イソプロピルバルビツール酸、5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−n−ブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−イソブチルバルビツル酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロペンチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−1−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツル酸、5−メチルバルビツール酸、5−プロピルバルビツール酸、1,5−ジエチルバルビツール酸、1−エチル−5−メチルバルビツール酸、1−エチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジエチル−5−ブチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−メチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−オクチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−ヘキシルバルビツール酸、5−ブチル−1−シクロヘキシルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸およびチオバルビツール酸類、並びにこれらの塩(特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属類が好ましい)、例えば、5−ブチルバルビツル酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸ナトリウムおよび1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸ナトリウム等が例示される。
【0014】
特に好適なバルビツール酸誘導体は、5−ブチルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、および1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸およびこれらバルビツール酸類のナトリウム塩である。
【0015】
これらのバルビツール酸誘導体の配合量は、本発明のラジカル重合性組成物のラジカル重合性単量体の総量に対して、0.01重量%〜15重量%であり、好適には0.25重量%〜8重量%であり、特に好適には0.5重量%〜3重量%である。
【0016】
本発明の本発明のラジカル重合性組成物の有機過酸化物の例としては、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類等があげられる。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジクミルパーオキサイド、ジーt−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、アセチルアセトンバーオキシド、ビス(1−ヒドロキシシクロヘキシルパーオキシド)、クメンハイドロバーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ペンゾイルバーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)バーオキシジカーボネート、t−ブチルバーオキシペンゾエート、t−ブチルバーオキシビバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ラウロイルバーオキシド等が挙げられる。これら有機過酸化物は、単独又は組み合わせて使用することも可態である。
【0017】
特に好適な有機過酸化物は、ペンゾイルバーオキサイド、t−ブチルパーオキシマレイックアシッドである。
これらの有機過酸化物の配合量は、本発明のラジカル重合性組成物のラジカル重合性単量体の総量に対して、0.01重量%〜10重量%であり、好適には0.1重量%〜5重量%であり、特に好適には0.5重量%〜3重量%である。
【0018】
本発明のラジカル重合性組成物の有機および/または無機金属塩としては特に制限はないが、好ましくは銅化合物の有機酸及び/又は無機酸の銅塩である。特に、組成物全体への溶解性の点などから有機酸の銅塩が好ましい。用いることができる有機酸の銅塩の具体例としては、アセチルアセトン銅、ナフテン酸銅、オクチル酸銅、ステアリン酸銅等を挙げることができるが、アセチルアセトン銅が特に好ましい。
これら有機酸の銅塩の使用割合に特に制限はないが、好ましくは銅元素として0.1ppm〜1000ppmの範囲である。0.1ppm未満では銅化合物添加の効果が発現しない恐れがあり好ましくない。また、1000ppmを越えて加えても効果の上昇傾向はほぼ限界に達することや、予期せぬ弊害(例えばラジカルトラップ効果による効果阻害等)が起こる恐れがあり好ましくない。より好ましくは1ppm〜500ppmの範囲であり、最も好ましくは5ppm〜100ppmの範囲である。
【0019】
本発明のラジカル重合性組成物の特定の構造を有する硬化助促進化合物として、アセトアセトアミド化合物のピロリジンアセトアセトアミドおよびイミダゾール基を有する1−イソブチル−2−メチル−イミダゾールが特に好適である。
これらの硬化助促進化合物の配合量は、本発明のラジカル重合性組成物のラジカル重合性単量体の総量に対して、0.01重量%〜15重量%であり、好適には0.1重量%〜5重量%であり、特に好適には0.2重量%〜3重量%である。本発明のラジカル重合性組成物のラジカル重合性単量体は、歯科分野および一般工業界で使用されているラジカル重合性不飽和二重結合を有する、モノマー、オリゴマー、プレポリマーなどから選択して使用できる。本発明における略字として、例えばメチル(メタ)アクリレートはメチルメタクリレートとメチルアクリレートを意味する。
【0020】
本発明のラジカル重合性単量体として例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、1,2−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、スチレン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルペンタメチルジシロキサン、2,2−ビス{4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル}プロパン;ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート;Bis−GMA、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジ(メタ)アクリレート;UDMA、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9、14および23)、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,3−ジ(メタ)アクリロリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、ジ(メタ)アクリロキシイソフォロンジウレタン、ジ(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジウレタン、グリセロールジ(メタ)アクリレート、イソプロピルジメタクリロイルイソステアロイルチタネート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタンN,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル6,8−ジチオクタネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル6,8−ジチオクタネート、等が挙げられる。
【0021】
特に好適なモノマー類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサメチレンジ‘メタ)アクリレート、2,2−ビス{4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル}プロパン;ビスフェノールA−ジグリシジル(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジウレタン、などが挙げられる。
【0022】
これらのラジカル重合性単量体は単独で使用しても良く、2以上の化合物を組み合わせてもよい。これらのラジカル重合性単量体の配合量は、本発明のラジカル重合性組成物の総量に対して、1重量%〜99.8重量%であり、好適には10重量%〜95重量%であり、特に好適には20重量%〜93重量%である。
本発明のラジカル重合性組成物を接着剤に応用する態様では、ラジカル重合性単量体として、必要に応じて、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物、6−(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロキシデシルホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロキシデシルハイドロジェンフォスフェート、などの分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体または6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル6,8−ジチオクタネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル6,8−ジチオクタネートなどのイオウ原子を分子内に有するラジカル重合性単量体、γ−(メタ)アクリロキシブチルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、フルオロアルキル基を分子内に有するラジカル重合性単量体、フッ素イオン放出能を有するラジカル重合性単量体などから選択して適宜加えてもよい。
【0023】
本発明のラジカル重合性組成物に含まれる重合開始剤と併用される重合促進剤として、従来から使用されているアミン化合物が所望により使用できるが、特に芳香族アミン類が好適である。
本発明の重合開始剤と併用される重合促進剤の芳香族アミンとしては、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等が挙げられる。
特に好適なアミン類は、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、である。
【0024】
これらの重合促進剤類の配合量は、本発明のラジカル重合性組成物のラジカル重合性単量体の総量に対して、0.01重量%〜2重量%であり、好適には0.05重量%〜1.5重量%であり、特に好適には0.5重量%〜1.5重量%である。0.01重量%未満では硬化性が悪くなり、2重量%以上では硬化物が黄色または黄褐色になる。
【0025】
本発明のラジカル重合性組成物を必要に応じて光重合性組成物として使用する態様では、さらにD,L−カンファーキノンや(ビス)アシルフォスフィンオキサイド化合物などの光重合開始剤および光重合促進剤を適宜加えてもよい。
本発明のラジカル重合性組成物は、ラジカル重合性単量体、および重合開始剤を必須として、ポリマー、超微粒子フィラー、無機フィラーおよび有機フィラー、有機溶剤、カップリング剤、変性剤、増粘剤、染料、顔料、重合調整剤、重合防止剤、紫外線防止剤、など態様に応じて適宜配合されてよい。
ポリマーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクルレートとエチルメタクリレートの共重合体、ポリスチレン、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の有機ポリマー粉末、などが挙げられる。
【0026】
これらのポリマーの配合量は、本発明のラジカル重合性組成物の総量に対して、0.1重量%〜85重量%であり、好適には5重量%〜80重量%であり、特に好適には10重量%〜75重量%である。
本発明の有機溶剤としては、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール、等が好適に使用される。
重合防止剤としてはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ブチル化ヒドロキシトルエン等が挙げられ、当該組成物の棚寿命の安定化に適している。
【実施例】
【0027】
実施例1〜4および比較例1〜11
本発明のラジカル重合性組成物を歯科義歯床用レジンの態様で実施するにあたり、流し込みタイプの常温重合レジンを表1に示す組成で調製して、硬化時間と曲げ強さ(降伏点応力)を検討した。粉材は、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートのコポリマー(PMMA/PEMA=95/5,mol%)100重量部に対して、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸(BPBA)/アセチルアセトン銅(AcCu)/ベンゾイルパーオキサイド(BPO)を規定量混合して調製した。液材はメチルメタクリレート(MMA)/エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)(95/5,wt%)100重量部に対しN−ピロリジンアセトアセトアミド(PAAA)を規定量混合して調製した。
【0028】
[3点曲げ試験]:50℃加圧重合
粉液比(P/L=2/1)で混合し餅状態になったところで、50℃で10分間プレス成形で曲げ試験体(2×2×25,mm)を作製した。37℃の脱イオン水に1日浸漬した後、インストロン万能試験機(インストロン5567、インストロン社)により、クロスヘッドスピード1mm/minで3点曲げ試験を行って降伏点応力(MPa)を測定し、n=5の平均値を求めた。
【0029】
[硬化時間の測定]:常温常圧重合
硬化したサンプルについてサーミスター法により常温常圧にて硬化時間を測定した。なお、35分以上で硬化状態にならない場合を「未硬化」とした。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より明らかなように、BPBAを含む系では全て降伏点応力が測定できたのに対し、BPBAを含まない系では試験体は全て硬化しなかった。BPBAは単独配合でも50℃加温下の加圧重合では硬化したが常温常圧では未硬化であった。曲げ強さを示す降伏点応力はBPOを含むとき比較的高い値(70MPa以上)を示した。実施例2と比較例2では、PAAAの曲げ強さにおける効果が有意に表れていないように見えるが、常温常圧の硬化時間の測定ではPAAA添加の効果が現れている。BPBAにAcCu又はBPO又はPAAを単独で添加した場合は50℃加温下の加圧重合では硬化したが常温常圧では未硬化であった。以上の結果から、実施例1〜4に示されるように、バルビツール酸誘導体(BPBA)を必須成分として、アセチルアセトン銅(AcCu)又はベンゾイルパーオキサイド(BPO)又はN−ピロリジンアセチルアセトアセトアミド(PAAA)から任意に2以上選択して使用することにより、優れた曲げ強さと常温常圧での適切な硬化時間を示した。
【0032】
実施例5〜8比較例12
実施例4のBPBAの配合量を変えて粉材を調製して、実施例4の液材を使用して、曲げ強さを測定した結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
実施例9〜13
実施例4のBPOの配合量を変えて粉材を調製して、実施例4の液材を使用して、曲げ強さを測定した結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
実施例14〜18
実施例4の液材のPAAAの配合量を変えて調製して、実施例4の粉材を使用して、曲げ強さを測定した結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
表1〜4の結果から、バルビツール酸誘導体(BPBA)と併用して、アセチルアセトン銅(AcCu)又はベンゾイルパーオキサイド(BPO)又はN−ピロリジンアセチルアセトンアミド(PAAA)から任意に2以上選択して使用することにより、優れた曲げ強さを示す降伏点応力が得られた。また、表1〜4の硬化物は着色もなく優れた審美性を示した。さらに、表1〜4の実施例4、6,11,16の組成の重合開始剤の構成および配合量はすべて同一でそれぞれ別々に調製したが、曲げ強さを示す降伏点応力は、それぞれ83.8,84.1,84.0,84.0(MPa)を示し、統計的有意差もなく、優れた機械的強さの再現性が確認された。
【0039】
実施例19〜25および比較例13〜21
本発明を歯科用レジンの態様で実施するにあたり、歯科常温重合レジンを調製して、硬化時間、最高点温度および室温と50℃水中1日後の色調変化を検討した。粉材は、メチルメタクリレート60重量部、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートのコポリマー(PMMA/PEMA=95/5,mol%)40重量部に対して、1,3,5−トリメチルバルビツール酸(TMBA)、アセチルアセトン銅(AcCu)、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)を規定量混合して調製した。液材はメチルメタクリレート(MMA)90重量部、1,6−ヘキサメチレンジメタクリレート(HDMA)10重量部、紫外線防止剤(チヌビン)0.8重量部、重合防止剤(ブチル化ヒドロキシトルエン)800ppmに対し、触媒として1−イソブチル−2−メチル−イミダゾール(IBM)、N,N−ジメチル−p−トルイジン(DMPT)、N,N−ジ(ヒドロキシエチル)−p−トルイジン(DEPT)をそれぞれ表5の組成で混合した。また、比較として市販品の歯科用即時(室温)重合レジンであるプロビナイス[(株)松風製]およびユニファストII[(株)ジーシー製]も同様に試験した。
【0040】
表5の組成物の硬化時間と最高点温度を測定した。まずシリコンカップに粉材を入れた後P/L=2(g)/1(ml)になるように液材を注ぎ、30秒間スパチュラを用いて混合した後、混合レジンを規定量のカップに流し込んだ。熱電対をカップのレジンに埋め込み、粉液混合直後から最高温度到達点までの時間とそのときの温度を測定した。また硬化時間に用いた硬化体の硬化直後および50℃の水中に1日浸漬後の硬化物の黄変を目視で観察した。これらの結果を表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5より、比較例13〜18のTMBAとIBMから成る場合は、硬化物の黄変はないものの硬化速度が遅く最高点温度も低い結果を示した。また、比較例19のTMBAとIBMとDMPTから成る場合は、硬化速度が速く最高点温度も高いが硬化物が黄変した。これに対し、本発明のTMBAとAcCuとIBMから成る場合(実施例19)、TMBAとAcCuとBPOとIBMから成る場合(実施例20)、およびTMBAとAcCuとIBMとアミン化合物(DMPTまたはDEPT)から成る場合(実施例19〜25)硬化速度が速く最高点温度も高く、さらに硬化物の黄変は認められなかった。また、市販品のプロビナイスおよびユニファストII(比較例20〜21)は、いずれも硬化速度が速く最高点温度も高いものの硬化物に黄変が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性単量体と(A)バルビツール酸誘導体を含むラジカル重合性組成物であって、(B)有機過酸化物、(C)有機金属塩及び/または無機金属塩、および(D)N−ピロリジンアセトアセトアミドまたは1−イソブチル−2−メチル−イミダゾールの内少なくとも2つ以上含むことを特徴とするラジカル重合性組成物。

【公開番号】特開2006−183013(P2006−183013A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382933(P2004−382933)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【Fターム(参考)】