説明

ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定方法、そのためのプローブ及びキット

【課題】 ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAを分別して定量する新しい測定技術及びそのためのプライマー対及びプローブを提供する。
【解決手段】 ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定に用いられるプローブであって、遺伝子の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドからなるプローブ;前記該プローブ、及び遺伝子の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドからなるフォワードプライマーとリバースプライマーとのプライマー対の組合せから選ばれる、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定キット;並びに該測定キットを用いる、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定方法及びそのためのプローブ及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
新薬を開発する上で、ラットを用いた試験は一般的に行なわれている。
【0003】
例えば、ストレス関連の疾病に対する新薬を開発する上では、該新薬を投与した際のラットにおけるストレス関連の蛋白質の働き(発現量の増減)を把握することは重要である。何故なら、ラットにおけるストレス関連の蛋白質の変動が判らないと、該新薬の効力を評価できず、該新薬の効力を確認することができないからである。
【0004】
そこで、上記新薬開発等の分野においては、かかるラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAに関する情報、特にこれら各ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAを区別して測定できる測定技術の開発が、要望されている。かかる技術が開発できれば、例えば、新薬の効力や特殊病態時における影響の機構解明が容易にでき、該新薬の作用に関する有用な情報を得ることができ、かくして新薬の効能を確保することができる。
【0005】
他方、ポリメラーゼチェインリアクション(PCR)は、核酸の増幅法として広く知られており、例えばRT−PCR(Reverse Transcription-PCR)、コンペティティブRT−PCR等が微量のmRNAの検出、定量に威力を発揮している。
【0006】
近年、PCRを利用したリアルタイム定量検出法が確立された(Taq Man PCR (Genome Res., 6(10), 986 (1996)), ABI PRISMTMSequence Detection System (Applied Biosystems社))。これは、特定の蛍光標識プローブ(TaqMan probe)を用いて核酸を測定する方法である。より詳しくは、例えば5’末端にリポーター色素及び3’末端にクエンチャー色素を付加して蛍光標識したプローブをターゲットDNAにアニールさせた状態で、通常のPCR反応を行なわせると、伸長反応の進行に伴って、DNAポリメラーゼの有する5′−3′エキソヌクレアーゼ活性により、上記プローブが5’末端から加水分解される。その結果、5’末端のリポーター色素が3’末端のクエンチャー色素から離れ、これにより、当初一定の空間的距離を保っていたことによるFRET(Fluoresence Resonance Energy Transfer, 両蛍光色素の共鳴によるリポーター色素のエネルギー順位の低下に基づく蛍光強度の低下現象)効果がなくなり、クエンチャー色素により制御されていたリポーター色素の蛍光強度が増加し、かくして、該蛍光強度の増加を測定することによって、ターゲット核酸をリアルタイムに選択的に定量検出できるのである。この方法によれば、PCR反応後に増幅物を例えばアガロースゲル電気泳動して、泳動パターンを解析する等の複雑な工程が不要となり、短時間で且つ同時に多種のサンプルを定量できる利点がある。先に上記PCRによるリアルタイム検出法に着目し、これをヒトにおけるグルクロン酸抱合に関与する酵素の検出に利用することが提案されている(特許文献1)。
【0007】
本発明者らは、上記PCRによるリアルタイム検出法に着目し、これが、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの検出に利用できれば、同じ装置を用いて同時に同一のPCR条件で上記各mRNAを区別して測定、検出できるとの着想から、鋭意研究を重ねた。
【0008】
しかしながら、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAは、それぞれのmRNAの配列は知られているものの、これらをターゲット遺伝子として、同一PCR条件で充分に増幅し得、更に、該ターゲット遺伝子の特定位置にハイブリダイズし得る各プライマー対としてのオリゴヌクレオチドの検索自体困難であると考えられた。また、かかるプライマー対に挟まれた特定領域に、同一PCR条件下にこれらのプライマーよりも早くハイブリダイズし得、しかもラットにおける特異的なプローブの構築もまた、同様に困難であると考えられた。特に、ヌクレオチド配列が既知の2つの核酸のハイブリダイズのし易さは、融点(Tm)の計算によりある程度推定することはできるものの、この推定によって選択したプライマーとプローブとの組合せが、必ずしもDNA測定において好結果をもたらすわけではないことが知られていることより、現在知られているラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAについて、これらを同時に区別して測定可能な、上記PCRによるリアルタイム検出用の各プライマー対とプローブとの組合せの選択には、熟練者の試行錯誤による多大な実験等が必要となると予想された。
【特許文献1】特開2002−85066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAのPCRによる測定法、特にリアルタイム検出法の確立と、そのためのプローブ及びプライマー対を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、上記目的よりラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAについて、更に、多大な実験、研究を繰返し行った結果、18種類の各ラットにおける各種の蛋白質をコードするmRNAに対する目的のプライマー対及びプローブの組合せを提供することに成功し、ここに下記要旨の本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定に用いられるプローブであって、下記(1)〜(18)の各領域のそれぞれにハイブリダイズするオリゴヌクレオチドから選ばれることを特徴とするプローブ;特にリポーター色素とクエンチャー色素とが結合している前記プローブ;塩基配列の長さが20〜45である前記プローブ;配列番号1〜配列番号18に示される配列のいずれかを含む前記プローブ;並びに配列番号1〜配列番号18に示される配列のいずれかである前記プローブが提供される。
(1)Cirbp遺伝子の68-94の領域
(2)Irp94遺伝子の2405-2430の領域
(3)Hsp22遺伝子の265-292の領域
(4)Hsp27遺伝子の335-363の領域
(5)Hsp60遺伝子の1160-1186の領域
(6)Hsp90遺伝子の218-242の領域
(7)Stip1遺伝子の1031-1058の領域
(8)Hsp70遺伝子の1635-1658の領域
(9)Hsp32遺伝子の556-581の領域
(10)HspBP1遺伝子の656-679の領域
(11)St13遺伝子の409-436の領域
(12)SOD2遺伝子の503-530の領域
(13)SOD3遺伝子の137-164の領域
(14)CTH遺伝子の924-949の領域
(15)GSS遺伝子の765-798の領域
(16)GCLC遺伝子の847-872の領域
(17)GCLM遺伝子の527-555の領域
(18)HMOX2遺伝子の213-244の領域
【0012】
また、本発明によれば、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードする遺伝子の各領域にそれぞれハイブリダイズするオリゴヌクレオチドからなるフォワードプライマーとリバースプライマーとのプライマー対およびプローブのセットの少なくとも1つを含むラットにおける各種の蛋白質をコードするmRNAの検出および定量キットであって、上記両プライマー対およびプローブが下記(1)〜(18)に示される遺伝子の各領域にそれぞれハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドであるキットが提供される。
(1)プライマー対;Cirbp遺伝子の41-59領域及び127-107領域、プローブ;68-94領域
(2)プライマー対;Irp94遺伝子の2359-2377領域及び2497-2477領域、プローブ;2405-2430領域
(3)プライマー対;Hsp22遺伝子の243-263領域及び312-294領域、プローブ;265-292領域
(4)プライマー対;Hsp27遺伝子の314-332領域及び386-368領域、プローブ;335-363領域
(5)プライマー対;Hsp60遺伝子の1122-1144領域及び1212-1190領域、プローブ;1160-1186領域
(6)プライマー対;Hsp90遺伝子の190-210領域及び267-247領域、プローブ;218-242領域
(7)プライマー対;Stip1遺伝子の1000-1020領域及び1115-1097領域、プローブ;1031-1058領域
(8)プライマー対;Hsp70遺伝子の1614-1633領域及び1689-1669領域、プローブ;1635-1658領域
(9)プライマー対;Hsp32遺伝子の534-554領域及び605-585領域、プローブ;556-581領域
(10)プライマー対;HspBP1遺伝子の612-631領域及び736-716領域、プローブ;656-679領域
(11)プライマー対;St13遺伝子の383-403領域及び457-438領域、プローブ;409-436領域
(12)プライマー対;SOD2遺伝子の481-501領域及び553-533領域、プローブ;503-530領域
(13)プライマー対;SOD3遺伝子の101-124領域及び186-168領域、プローブ;137-164領域
(14)プライマー対;CTH遺伝子の896-914領域及び985-965領域、プローブ;924-949領域
(15)プライマー対;GSS遺伝子の741-761領域及び832-812領域、プローブ;765-798領域
(16)プライマー対;GCLC遺伝子の825-845領域及び895-877領域、プローブ;847-872領域
(17)プライマー対;GCLM遺伝子の504-524領域及び599-579領域、プローブ;527-555領域
(18)プライマー対;HMOX2遺伝子の191-211領域及び265-246領域、プローブ;213-244領域
【0013】
上記キットにおけるプローブは、更にリポーター色素とクエンチャー色素とを結合させたものであることが好ましい。
上記キットを構成するプライマー対とプローブとの組合せ(セット)の好ましいものとしては、下記(1)〜(18)から選ばれる各配列番号で示される配列を含むもの、より好ましくは各配列番号で示される配列を有するものを挙げることができる。
(1)プライマー対;配列番号19及び20、プローブ;配列番号1
(2)プライマー対;配列番号21及び22、プローブ;配列番号2
(3)プライマー対;配列番号23及び24、プローブ;配列番号3
(4)プライマー対;配列番号25及び26、プローブ;配列番号4
(5)プライマー対;配列番号27及び28、プローブ;配列番号5
(6)プライマー対;配列番号29及び30、プローブ;配列番号6
(7)プライマー対;配列番号31及び32、プローブ;配列番号7
(8)プライマー対;配列番号33及び34、プローブ;配列番号8
(9)プライマー対;配列番号35及び36、プローブ;配列番号9
(10)プライマー対;配列番号37及び38、プローブ;配列番号10
(11)プライマー対;配列番号39及び40、プローブ;配列番号11
(12)プライマー対;配列番号41及び42、プローブ;配列番号12
(13)プライマー対;配列番号43及び44、プローブ;配列番号13
(14)プライマー対;配列番号45及び46、プローブ;配列番号14
(15)プライマー対;配列番号47及び48、プローブ;配列番号15
(16)プライマー対;配列番号49及び50、プローブ;配列番号16
(17)プライマー対;配列番号51及び52、プローブ;配列番号17
(18)プライマー対;配列番号53及び54、プローブ;配列番号18
【0014】
また、上記各セットはそれぞれ以下のラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定用であることが好ましい。
(1)のセット;Cirbp測定用
(2)のセット;Irp94測定用
(3)のセット;Hsp22測定用
(4)のセット;Hsp27測定用
(5)のセット;Hsp60測定用
(6)のセット;Hsp90測定用
(7)のセット;Stip1測定用
(8)のセット;Hsp70測定用
(9)のセット;Hsp32測定用
(10)のセット;HspBP1測定用
(11)のセット;St13測定用
(12)のセット;SOD2測定用
(13)のセット;SOD3測定用
(14)のセット;CTH測定用
(15)のセット;GSS測定用
(16)のセット;GCLC測定用
(17)のセット;GCLM測定用
(18)のセット;HMOX2測定用
さらに、本発明によれば、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAを含む検体について、上記いずれかに記載の測定キットを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR又はRT−PCR)を行い、用いたプローブの加水分解の有無を測定する、ことを特徴とするラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定方法、特に上記加水分解の有無が、励起光照射による蛍光の発色の有無により測定される前記測定方法が提供される。
【0015】
より詳しくは、フォーワードプライマー及びリバースプライマーのプライマー対並びにレポーター色素とクエンチャー色素を有し上記両プライマーに挟まれた領域内で鋳型核酸とハイブリダイズするプローブを用いて、5′−3′エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼによりポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことによって、ヒトにおけるレセプター関連の蛋白質をコードする遺伝子を測定するリアルタイム検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、同一PCR又はRT−PCR反応条件下にリアルタイムで簡便且つ迅速に、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードする各種mRNAを定量することができる。このようなラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAのリアルタイム検出方法の確立は、新薬開発の分野において非常に有益である。
【0017】
また、上記方法によれば、ラットより手術で摘出した組織やバイオプシーにより摘出した組織中に発現するラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAを見るにあたり、迅速に且つ多種の試料を処理でき、また、僅かな組織片から抽出した全RNAで検出可能である、という効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明におけるプローブ及びプライマー対について詳述する。本発明における各プローブ及びプライマーは、上述した通り、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードする遺伝子の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドから選択される。
【0019】
本発明において「ハイブリダイズする」とは、後述するPCR(又はRT−PCR)の条件でハイブリダイズすることをいう。
【0020】
本発明におけるプローブ及びプライマーに共通する要件としては、増幅生成物が50〜400塩基対の長さであること、プライマーとプローブができる限り近接していること、配列に含まれるG(グアニン)及びC(シトシン)の割合が好ましくは50%前後であること、G(グアニン)が4つ以上連続していないこと、を挙げることができる。加えて、本発明におけるプローブにみられる要件としては、Tm値が70℃前後であることを挙げることができ、本発明におけるプライマーにみられる要件としてはTm値が60℃前後であることを挙げることができる。
【0021】
それぞれのmRNA配列は公知であり、それぞれジーンバンク(BenBank)に以下の登録番号で登録されている。
(1)Cirbp遺伝子;NM_031147
(2)Irp94遺伝子;AF077354
(3)Hsp22遺伝子;AF168362
(4)Hsp27遺伝子;M86389
(5)Hsp60遺伝子;X54793
(6)Hsp90遺伝子;S45392
(7)Stip1遺伝子;NM_138911
(8)Hsp70遺伝子;L16764
(9)Hsp32遺伝子;NM_012580
(10)HspBP1遺伝子;NM_139261
(11)St13遺伝子;NM_031122
(12)SOD2遺伝子;NM_01751
(13)SOD3遺伝子;NM_012880
(14)CTH遺伝子;D17370
(15)GSS遺伝子;NM_012962
(16)GCLC遺伝子;NM_012815
(17)GCLM遺伝子;NM_017305
(18)HMOX2遺伝子;NM_024387
【0022】
本明細書において、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの特定領域の表示は、いずれも上記各登録番号で登録された遺伝子の開始コドンからの配列に従うものである。
【0023】
これら各プライマー及びプローブ用のオリゴヌクレオチドのヌクレオチド数は、15個以上、好ましくは15〜50個、より好ましくは20〜45個の範囲にあるのがよい。これらプライマー及びプローブのヌクレオチド数が上記範囲よりも多くなりすぎると、1本鎖DNAにハイブリダイズしにくくなり、逆に、少なすぎると、ハイブリダイゼーションの特異性が低下する傾向がある。
【0024】
プライマー及びプローブの特定のヌクレオチド配列の好ましい具体的配列例は、前述したとおり、各分子種に応じて、それぞれ、配列番号1〜18(プローブの場合)並びに配列番号19〜54(プライマーの場合)に示されるとおりである。
【0025】
なお、例えば20ヌクレオチドからなるプライマー又はプローブは、鋳型鎖との間に少数のミスマッチが存在してもハイブリダイズし、PCRのプライマーとして又は検出用プローブとして機能し得ることが知られている。従って、本発明におけるプライマー及びプローブもまた、上記の特定のヌクレオチド配列を有するものに限定されず、その配列をその一部として含むものや、その配列中の例えば2個以下のヌクレオチドに置換、欠失及び/又は付加による修飾がなされた配列等をも包含することができる。
【0026】
上述した本発明におけるプローブ及びプライマーとしての各オリゴヌクレオチドは、常法に従い、自動合成機(例えばDNAシンセサイザー(パーキンエルマー社製))等を用いて容易に合成することができ、さらに必要に応じて、得られたオリゴヌクレオチドを市販の精製用カートリッジ等を用いて精製することもできる。
【0027】
本発明のリアルタイム検出用のプローブは、その一端、例えば5′−末端にレポーター色素を結合しており、そして他端、例えば3′−末端にクエンチャー色素を結合していることが好ましい。レポーター色素としては、例えば励起光の照射によって蛍光を発する物質であり、クエンチャー色素としては、該レポーター色素に距離的に接近して存在する場合、該レポーター色素に作用してその蛍光の発生を消去する作用を有する物質が挙げられる。このようなレポーター色素の例としては、例えば、6−カルボキシ−フルオレッセイン(FAM)、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレッセイン(TET)、2,7−ジメトキシ−4,5−ジクロロ−6−カルボキシフルオレッセイン(JOE)、ヘキソクロロ−6−カルボキシフルオレッセイン(HEX)等が挙げられる。クエンチャー色素の例としては、例えば、6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン(TAMRA)等が挙げられる。
【0028】
本発明におけるプローブは、前記特定配列のプローブ用オリゴヌクレオチドにレポーター色素及びクエンチャー色素を結合させることにより調製できる。例えば、プローブの5′側は、通常数個のメチレン鎖をリンカーとし、末端のリン酸基にFAM分子をリン酸エステルの形で結合させることができる。また、プローブの3′側には、下記に示す構造単位を介してアミド結合によりTAMRA分子を結合させ得る。
【0029】
【化1】

【0030】
以下、本発明におけるプライマー対及びプローブを利用したPCRによるリアルタイム検出法について詳述する。
【0031】
本発明にかかる測定方法は、前述した本発明におけるプライマー対及びプローブを利用することを必須として、他は公知のPCR法(例えば、Science, 230, 1350 (1985)参照)、RT−PCR(Genome Res., 6(10), 986 (1996)参照)等、特にリアルタイム検出法(例えばTaqMan PCR, ABI PRISM TM 7700 SEQUENCE DETECTION SYSTEM, Applied Biosystems, Ver1, June (1996)参照)に従い実施することができる。
【0032】
これらの方法は、特に、本発明が対象とするラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの発現量の測定方法として、mRNAを測定する場合に有用である。この場合、例えば、特定のラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAを発現している生体組織を採取し、常法に従って全RNAを抽出し、次いで、それに対して相補性のcDNAを常法に従って合成した後、本発明におけるプライマー対とプローブとを用いてPCRを行えばよい。また、常法に従って全RNAを抽出後、本発明におけるプライマーとプローブとを用いて、直接RT−PCRを行なうこともできる。
【0033】
PCR反応およびRT−PCR反応は、基本的には公知の方法に従うことができる。それらの反応条件も、公知の方法に準じて適宜決定することができ、特に制限されるものではない。具体的には、後述する実施例に示す条件を好ましく採用できる。
【0034】
検出も、基本的には常法に従い、例えば、アルゴンレーザ光をPCR反応液に照射し、放射される蛍光をCCDカメラを用いて検出することにより行なうことができる。
【0035】
以上のようにして、本発明にかかる測定方法によって、所期のストレス関連の調節に関与する各ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAを容易且つ迅速に、しかも各ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNA毎に測定、検出することができる。
【0036】
本発明のキットは、上記本発明におけるプライマー対及びプローブを含んでなる。本発明のキットは、さらに、対照として使用することのできる既知の核酸や、該核酸を測定するためのプライマー対及びプローブを含んでいてもよい。
【0037】
本発明のキットによれば、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAをそのラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNA毎に測定、検出でき、ひいては、ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの定量を迅速に、精度よく行なうことができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明をさらに詳しく説明するため、実施例を挙げる。
【0039】
(実施例)
ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAについて以下の試験を行い、リアルタイム検出方法による検量線を作成した。
本試験で採用したリアルタイムワンステップRT−PCR法は、96ウエルを用いて、最大96の異なった反応を同時に実施して、一度に最大96の検体を測定できるものである。また、1チューブ内でRT反応とPCR反応とを行なうことができるものであり、さらに、384ウエルでの測定も可能なものである。
【0040】
本定量の原理は、隣接した2種類の蛍光色素を用いて、一方の色素(リポーター色素)の蛍光波長と他方の色素(クエンチャー色素)の励起光波長との間で、波長領域が重なる場合に生じるFRETを利用したものである。すなわち、FRETを生じる2種の蛍光色素を両末端に結合させたプローブ(TaqMan probe)が、PCRで増幅した特定のヒトにおける核内レセプター、転写因子などの蛋白質をコードするmRNA種由来のcDNAにハイブリダイゼーションし、この状態でPCRの伸長反応が始まると、Taq DNAポリメラーゼが有する5’−3’エンドヌクレアーゼ活性によってTaqManプローブが加水分解される。それにより、リポーター色素が脱離し、クエンチャー色素との間の物理的距離が生じ、FRETによって抑制されていたリポーター色素の蛍光強度が増加する。この蛍光強度の増加はPCRの増幅産物の増加量に比例するため、これをPCR反応毎に測定することによって、所望の定量が可能となる。
【0041】
本試験では、プローブの5’末端側にはリポーター色素としてFAMを、3’末端側にはクエンチャー色素としてTAMRAを使用した。これら各色素の結合及びこれによるTaqManプローブの作成は、文献(Genome Res., 6(10), 986 (1996))記載の方法に従って行なった。
【0042】
また、各プライマー及びプローブとしてのオリゴヌクレオチドは、自動シンセサイザー(DNA/RNA合成機(ABI社製))を利用して、基質(dNTP)及び規定の試薬を用いて合成した。
【0043】
検体RNAとしては、ラットの肝臓プールより精製された全RNAを用いた。なお、これらの全RNAは、ラットの肝臓プールよりMini kit(「Rneasy(登録商標)」QIAGEN社製)を用いて調製した。
【0044】
ラットの肝臓プールより精製された全RNAは、RNaseフリーの水で希釈して20μg/mLとし、検量線作成用とした。以後は、50μg/mLのイーストtRNA(「Yeast tRNA」GIBCO社製)を用いて、5倍公比で希釈した。測定には3μLを使用した。
【0045】
RT−PCR反応は、300nMフォーワードプライマー、900nMリバースプライマー、及び200nM TaqManプローブを含むTaqMan One-Step RT-PCR Master Mix Reagents Kit (Applied Biosystems)を用いて、20μL/チューブの系で、Applied Biosystems 7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)にて行なった。
【0046】
温度等の測定条件は、48℃で30分間保温した後、95℃で10分間保温し、その後、95℃で15秒間および60℃で1分間を1サイクルとして該サイクルを50回行い、各サイクルごとに蛍光強度を測定した。
【0047】
下記表1に示す各ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAに対して各配列番号に示される配列のプライマー対及びプローブを用いて上記試験を行った。結果(検量線)を表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
上記表2より、60000pg全RNA/20μL反応液量から5倍公比で希釈された検量線を作成したところ、定量下限は0.768pg全RNA/20μL反応液量から480pg全RNA/20μL反応液量であり、検量線の相関係数(r)は全てにおいて0.99以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定に用いられるプローブであって、下記(1)〜(18)の各領域のそれぞれにハイブリダイズするオリゴヌクレオチドから選ばれることを特徴とするプローブ。
(1)Cirbp遺伝子の68-94の領域
(2)Irp94遺伝子の2405-2430の領域
(3)Hsp22遺伝子の265-292の領域
(4)Hsp27遺伝子の335-363の領域
(5)Hsp60遺伝子の1160-1186の領域
(6)Hsp90遺伝子の218-242の領域
(7)Stip1遺伝子の1031-1058の領域
(8)Hsp70遺伝子の1635-1658の領域
(9)Hsp32遺伝子の556-581の領域
(10)HspBP1遺伝子の656-679の領域
(11)St13遺伝子の409-436の領域
(12)SOD2遺伝子の503-530の領域
(13)SOD3遺伝子の137-164の領域
(14)CTH遺伝子の924-949の領域
(15)GSS遺伝子の765-798の領域
(16)GCLC遺伝子の847-872の領域
(17)GCLM遺伝子の527-555の領域
(18)HMOX2遺伝子の213-244の領域
【請求項2】
リポーター色素とクエンチャー色素とが結合している請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
塩基配列の長さが20〜45である請求項1または2に記載のプローブ。
【請求項4】
配列番号1〜配列番号18に示される配列のいずれかを含むものである請求項1〜3のいずれかに記載のプローブ。
【請求項5】
配列番号1〜配列番号18に示される配列のいずれかである請求項1〜3のいずれかに記載のプローブ。
【請求項6】
ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードする遺伝子の各領域にそれぞれハイブリダイズするオリゴヌクレオチドからなるフォワードプライマーとリバースプライマーとのプライマー対およびプローブのセットの少なくとも1つを含むラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの検出および定量キットであって、上記両プライマー対およびプローブが下記(1)〜(18)に示される遺伝子の各領域にそれぞれハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドであることを特徴とするキット。
(1)プライマー対;Cirbp遺伝子の41-59領域及び127-107領域、プローブ;68-94領域
(2)プライマー対;Irp94遺伝子の2359-2377領域及び2497-2477領域、プローブ;2405-2430領域
(3)プライマー対;Hsp22遺伝子の243-263領域及び312-294領域、プローブ;265-292領域
(4)プライマー対;Hsp27遺伝子の314-332領域及び386-368領域、プローブ;335-363領域
(5)プライマー対;Hsp60遺伝子の1122-1144領域及び1212-1190領域、プローブ;1160-1186領域
(6)プライマー対;Hsp90遺伝子の190-210領域及び267-247領域、プローブ;218-242領域
(7)プライマー対;Stip1遺伝子の1000-1020領域及び1115-1097領域、プローブ;1031-1058領域
(8)プライマー対;Hsp70遺伝子の1614-1633領域及び1689-1669領域、プローブ;1635-1658領域
(9)プライマー対;Hsp32遺伝子の534-554領域及び605-585領域、プローブ;556-581領域
(10)プライマー対;HspBP1遺伝子の612-631領域及び736-716領域、プローブ;656-679領域
(11)プライマー対;St13遺伝子の383-403領域及び457-438領域、プローブ;409-436領域
(12)プライマー対;SOD2遺伝子の481-501領域及び553-533領域、プローブ;503-530領域
(13)プライマー対;SOD3遺伝子の101-124領域及び186-168領域、プローブ;137-164領域
(14)プライマー対;CTH遺伝子の896-914領域及び985-965領域、プローブ;924-949領域
(15)プライマー対;GSS遺伝子の741-761領域及び832-812領域、プローブ;765-798領域
(16)プライマー対;GCLC遺伝子の825-845領域及び895-877領域、プローブ;847-872領域
(17)プライマー対;GCLM遺伝子の504-524領域及び599-579領域、プローブ;527-555領域
(18)プライマー対;HMOX2遺伝子の191-211領域及び265-246領域、プローブ;213-244領域
【請求項7】
プローブが、更にリポーター色素とクエンチャー色素とを結合させたものである請求項6に記載のキット。
【請求項8】
下記(1)〜(18)に示されるセットの、各配列番号で示される配列を含むオリゴヌクレオチドからなるプライマー対とプローブとの組合せから選ばれる、請求項6または7に記載のキット。
(1)プライマー対;配列番号19及び20、プローブ;配列番号1
(2)プライマー対;配列番号21及び22、プローブ;配列番号2
(3)プライマー対;配列番号23及び24、プローブ;配列番号3
(4)プライマー対;配列番号25及び26、プローブ;配列番号4
(5)プライマー対;配列番号27及び28、プローブ;配列番号5
(6)プライマー対;配列番号29及び30、プローブ;配列番号6
(7)プライマー対;配列番号31及び32、プローブ;配列番号7
(8)プライマー対;配列番号33及び34、プローブ;配列番号8
(9)プライマー対;配列番号35及び36、プローブ;配列番号9
(10)プライマー対;配列番号37及び38、プローブ;配列番号10
(11)プライマー対;配列番号39及び40、プローブ;配列番号11
(12)プライマー対;配列番号41及び42、プローブ;配列番号12
(13)プライマー対;配列番号43及び44、プローブ;配列番号13
(14)プライマー対;配列番号45及び46、プローブ;配列番号14
(15)プライマー対;配列番号47及び48、プローブ;配列番号15
(16)プライマー対;配列番号49及び50、プローブ;配列番号16
(17)プライマー対;配列番号51及び52、プローブ;配列番号17
(18)プライマー対;配列番号53及び54、プローブ;配列番号18
【請求項9】
請求項8に記載のキットであって、(1)のセットがCirbpの測定用で、(2)のセットがIrp94の測定用で、(3)のセットがHsp22の測定用で、(4)のセットがHsp27の測定用で、(5)のセットがHsp60の測定用で、(6)のセットがHsp90の測定用で、(7)のセットがStip1の測定用で、(8)のセットがHsp70の測定用で、(9)のセットがHsp32の測定用で、(10)のセットがHspBP1の測定用で、(11)のセットがSt13の測定用で、(12)のセットがSOD2の測定用で、(13)のセットがSOD3の測定用で、(14)のセットがCTHの測定用で、(15)のセットがGSSの測定用で、(16)のセットがGCLCの測定用で、(17)のセットがGCLMの測定用で、(18)のセットがHMOX2の測定用であるキット。
【請求項10】
請求項8に記載の(1)〜(18)に示されるセットの、各配列番号で示される配列を有するオリゴヌクレオチドからなるプライマー対とプローブとの組合せから選ばれる、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
ラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAを含む検体について、請求項6〜10のいずれかに記載のキットを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR又はRT−PCR)を行い、用いたプローブの加水分解の有無を測定することを特徴とするラットにおけるストレス関連の蛋白質をコードするmRNAの測定方法。
【請求項12】
加水分解の有無が、励起光照射による蛍光の発色の有無により測定される請求項11に記載の測定方法。

【公開番号】特開2008−199904(P2008−199904A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36176(P2007−36176)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】