説明

ラビング処理方法及び装置

【課題】ラビング処理で発生する塵埃を効率良く除去することによって、液晶表示装置の高輝度化、高精細化により求められる高品質の光学補償フィルムを製造すると共に、ラビングシートの長寿命化を図ることで生産性を向上できるラビング処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】ラビング処理装置10は、長尺状の透明フィルム12をその長手方向に移動させながら、透明フィルム12の配向膜形成材料層の表面を回転状態のラビングローラ16に接触させて配向膜を形成する。ラビングローラ16の回転方向に対してラビングローラ16と透明フィルム12との接触位置の下流側には、ラビングローラ16の表面に、該表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電する第1除電装置18が設けられる。また、ラビングローラ16の回転方向に対して第1除電装置16の下流側には、ラビングローラ16の表面を除塵する除塵装置20〜22が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラビング処理方法及び装置に係り、特に光学補償フィルムの製造工程において配向膜をラビング処理するラビング処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置に広く使用されるTN−LCDの視野角を改善する方法として、透明フィルムの配向膜上に液晶性ディスコティック化合物層を形成した光学補償フィルムが知られている。その際の配向膜は、透明フィルム上に配向膜形成材料層を形成し、その配向膜形成材料層をラビング処理することによって得られる。
【0003】
ラビング処理は、ラビングシート(ラビング布)をラビングローラ円筒軸に貼り合わせたラビングローラを配向膜形成材料の搬送方向に対して逆方向に回転させ、ラビングシートと配向膜形成材料層を物理的に擦ることにより行われる。したがって、ラビング処理では、ラビングローラと配向膜形成材料層とが擦れるために塵埃が発生しやすく、この塵埃が透明フィルムに付着することによって光学補償フィルムの輝点欠陥となり、液晶表示装置の表示品質を低下させるおそれがあった。
【0004】
そこで、ラビング処理で発生した塵埃を除去するための様々な方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、ラビング処理後の透明フィルムの表面を除電装置で除電した後、表面除塵機又は粘着ローラを用いて塵埃を除去することが開示されている。また、特許文献2には、高い透過力を有する電離放射線(波長0.1〜0.5nmの軟X線)を非ラビング面側から照射することによって透明フィルム表面を除電し、ラビング処理で発生する塵埃を除去する方法が開示されている。さらに、特許文献3には、ラビング処理により形成した配向膜を湿式除塵装置により湿式除塵して配向膜表面の塵埃を除去する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平9−73081号公報
【特許文献2】特開平11−305233号公報
【特許文献3】特開2002−40245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、液晶表示装置の高輝度化、高精細化により液晶表示装置の表示品質の低下に影響を及ぼす輝点サイズが小さくなっている。このため、輝点の原因となる微小な塵埃の除去が求められている。
【0006】
しかしながら、上述した従来方法のみでは、微小な塵埃を充分に除去することができず、液晶表示装置の高輝度化、高精細化により求められる高品質の光学補償フィルムを製造することができないという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ラビング処理で発生する塵埃を効率良く除去することによって、液晶表示装置の高輝度化、高精細化により求められる高品質の光学補償フィルムを製造すると共に、ラビングシートの長寿命化を図ることで生産性を向上できるラビング処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、配向膜形成材料層を備えた長尺可撓性フィルムをその長手方向に移動させながら、前記配向膜形成材料層の表面を回転状態のラビングローラに接触させて配向膜を形成するラビング処理方法において、前記長尺可撓性フィルムと接触したラビングローラの表面に、該ラビングローラ表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電した後、前記ラビングローラ表面を除塵することを特徴とするラビング処理方法を提供する。
【0009】
請求項1の発明によれば、ラビングローラの表面に、該ラビングローラ表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して、効果的に除電した後に除塵を行うので、ラビングローラの表面を確実に除塵することができる。したがって、ラビングローラに付着した塵埃によってラビング処理の性能が低下したり、長尺可撓性フィルムに塵埃が転移したりすることを防止することができる。これにより、ラビング処理した長尺可撓性フィルムを用いて液晶表示装置の高輝度化、高精細化により求められる高品質の光学補償フィルムを製造することができる。また、ラビングローラの表面を確実に除塵することができるため、ラビングローラでの塵埃の蓄積がなくラビングローラ(ラビングシート)の長寿命化を図れるというメリットがある。
【0010】
請求項2は請求項1において、前記ラビングローラと接触させて配向膜を形成した後の前記長尺可撓性フィルムについて、前記配向膜形成材料層の表面に、該表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電することを特徴とする。
【0011】
請求項2によれば、中和するイオン照射によるラビングローラの除電に加えて、ラビング処理後の配向膜形成材料層に、該配向膜形成材料層に発生した帯電を中和するイオンを照射することで、ラビング処理後の帯電圧を顕著に低くすることができる。これにより、配向膜形成材料層への塵埃の付着をより一層効果的に防止できる。
【0012】
請求項3に記載の発明は前記目的を達成するために、長手方向に移動する配向膜形成材料層を備えた長尺可撓性フィルムに回転接触させて配向膜を形成させる回転駆動するラビングローラを備えたラビング処理装置において、前記ラビングローラの回転方向に対して前記回転接触する接触点の下流側に設けられ、前記ラビングローラの表面に、該ラビングローラ表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電する下流側除電装置と、前記ラビングローラの回転方向に対して前記下流側除電装置の下流側に設けられ、前記ラビングローラの表面を除塵する下流側除塵装置と、を備えたことを特徴とするラビング処理装置を提供する。
【0013】
請求項3の発明によれば、下流側除電装置によってラビングローラの表面に、帯電を中和するイオンを照射して除電した後、除塵装置によって除塵を行うので、ラビングローラ表面の塵埃を確実に除去することができる。したがって、ラビングローラに付着した塵埃によってラビング処理での配向性能が低下したり、長尺可撓性フィルムに塵埃が転移したりすることを防止することができる。これにより、ラビング処理した長尺可撓性フィルムを用いて液晶表示装置の高輝度化、高精細化により求められる高品質の光学補償フィルムを製造することができる。また、ラビングローラの表面を確実に除塵することができるため、ラビングローラでの塵埃の蓄積がなくラビングローラ(ラビングシート)の長寿命化を図れるというメリットがある。
【0014】
請求項4に記載の発明は請求項3の発明において、前記ラビングローラの回転方向に対して前記接触点の上流側に設けられ、前記ラビング処理後の前記長尺可撓性フィルムの配向膜形成材料層の表面に、該表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電する上流側除電装置を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明によれば、ラビング処理後の前記長尺可撓性フィルムの配向膜形成材料層の表面に、該表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電する上流側除電装置を備えたので、配向膜形成材料層への塵埃の付着をより一層効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ラビングローラの表面を除電した後に除塵を行うので、ラビングローラ表面の塵埃を確実に除去することができ、ラビング処理した長尺可撓性フィルムを用いて液晶表示装置の高輝度化、高精細化により求められる高品質の光学補償フィルムを製造することができる。また、ラビングローラの表面を確実に除塵することができるため、ラビングローラでの塵埃の蓄積がなくラビングローラ(ラビングシート)の長寿命化を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明に係るラビング処理方法及び装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態におけるラビング処理装置10の構成を示す模式図である。同図に示すように、ラビング処理装置10は、矢印方向に走行する透明フィルム(長尺可撓性フィルムに相当)12に、矢印方向に回転するラビングローラ16を接触させてラビング処理を行う装置であり、透明フィルム12は、その上面が一対のローラ14、14によって押さえられた状態で走行するようになっている。
【0019】
透明フィルム12は、その下面に配向膜形成材料層が形成されている。配向膜形成材料層は、透明で、且つ、配向処理により配向され得るものであれば良い。配向膜形成材料層の材料の例としては、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリカーボネート等のポリマー及びシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。好ましいポリマーの例としては、ポリイミド、ポリスチレン、スチレン誘導体のポリマー、ゼラチン、ポリビニルアルコールあるいはポリビニルアルコール誘導体を挙げることができる。配向膜形成用樹脂層の形成材料は、重合性基を有するものが液晶層との接合強度を増すために有効である。
【0020】
ラビングローラ16は、透明フィルム12の配向膜形成材料層に接触するように配置される。すなわち、ラビングローラ16は、透明フィルム12の下側に、且つ、透明フィルム12の下面に所定のラップ角度(たとえば4〜20°)で係合するように配置される。このラビングローラ16は、円筒軸にベルベット等のラビングシートを貼り合わせて形成したものであり、その外径は100〜500mm、好ましくは150〜300mmで製造されている。ラビングシートとしては、ゴム、ナイロン、ポリエステル等から得られるシート、ナイロン繊維、レイヨン繊維、ポリエステル繊維から得られるシート(ベルベット等)、紙、ガーゼ、フェルトなどを挙げることができる。
【0021】
ラビングローラ16は、不図示の回転駆動源に接続され、透明フィルム12の搬送方向の反対方向に、所定の速度(たとえば200〜600rpm)で回転するように制御される。これにより、搬送状態の透明フィルム12の配向膜形成用樹脂層とラビングローラ16の表面とが接触点Pにおいて擦れ合って、配向膜形成用樹脂層がラビング処理され、配向膜が形成される。なお、ラビングローラ16は、その回転速度を所定の範囲、たとえば1000rpm程度までの範囲で制御できるように構成することが好ましい。また、ラビングローラ16は、その回転軸が所定の範囲、たとえば0〜50°の角度で調節できるように構成することが好ましい。さらに、ラビングローラ16又はローラ14は、透明フィルム12の幅方向の張力差を測定できる張力測定器を取り付けて、その張力差が所定の範囲内(たとえば0.1N/cm以下)となるように制御することが好ましい。
【0022】
ラビングローラ16の回転方向に対して、接触点Pの下流側には、第1除電装置18(下流側除電装置に相当)が設けられる。第1除電装置18は、ラビングローラ16の表面に対向して配置されており、ラビングローラ16の表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電できるように構成される。
【0023】
第1除電装置18の構成は特に限定するものではない。一般的に、除電装置とは、空気イオンを利用して静電気を中和させる装置を言い、「高密度除電装置」、「軟X線除電装置」が知られている。高密度除電装置は、正負イオンを生成する交流除電装置とこれに対向する平板電極(イオン吸引電極)で除電ゲートを構成し、その後、直流除電装置及び交流除電装置が設置されている。除電対象物はこの除電ゲートを通過する過程で除電対象物の表面に強制的に正負イオンを交互に照射して、正負の電界が閉じた状態の帯電模様を除去し、その後、直流除電装置及び交流除電装置でゼロ電位まで除電するものである。
【0024】
これに加えて、最近では除電装置として、正イオン又は負イオンを選択的に照射できるDC式エアパージ除電装置がある(例えば、ヒューグルエレクトロニクス製 MODEL 5200E)。したがって、本発明にはDC除電方式が好ましい。
【0025】
軟X線除電装置は、波長の長いX線を空気中に放射して発生させる空気イオンで静電気を除去するものであり、フィルム表面だけでなく、裏面にも除電能力がある。
【0026】
除電方式としては、一般的に、「ブラシ除電」、「ブロアタイプ除電」、「バータイプ除電」がある。「ブラシ除電」方式は、除電対象との接触面積を重視したものであり、「ブロアタイプ除電」方式は、イオン風を除電対象に吹き付けることイオンを帯電部分に効率よく運ぶ方式であり、「バータイプ除電」は、フィルム等広範囲に渡る除電を行いたい場合に最適である。
【0027】
この第1除電装置18によって、接触点Pで透明フィルム12に接触した直後のラビングローラ16の表面が除電される。
【0028】
ラビングローラ16の回転方向に対して、第1除電装置18の下流側には、第1除塵装置20、第2除塵装置21、第3除塵装置22が順に設けられる。これらの除塵装置20〜22はそれぞれ、エアの噴射口と吸引口(不図示)を備えており、噴射口からラビングローラ16の表面に向けてエアを噴射するとともに、ラビングローラ16の表面のエアを吸引口から吸引して除去できるように構成される。これにより、ラビングローラ16の表面に付着した塵埃は、エアとともに吸引口から吸引され、ラビングローラ16の表面から除去される。なお、除塵装置20〜22の構成は上述したものに限定されるものではなく、たとえば超音波振動する圧縮空気を吹きつけて吸引する超音波除塵装置を用いてもよい。
【0029】
ラビングローラ16の回転方向に対して、第3除塵装置22の下流側、すなわち、接触点Pのすぐ上流側には、第2除電装置(上流側除電装置に相当)24が設けられる。第2除電装置24は、ラビングローラ16と接触させて配向膜を形成した後の透明フィルム12について、配向膜形成材料層の表面に、該表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電できるように構成される。
【0030】
第2除電装置24の構成は特に限定するものではないが、たとえば、第1除電装置18と同様に「高密度除電装置」、「軟X線除電装置」が好適に用いられ、除電方式としも第1除電装置18と同様のものを用いることができる。
【0031】
ラビングローラ16の上方、すなわち、透明フィルム12を挟んでラビングローラ16の反対側にはエアプレス装置26が設けられ、このエアプレス装置26によってラビング処理中の透明フィルム12を所定の圧力でラビングローラ16に接触させることができる。
【0032】
透明フィルム12の搬送方向に対して接触点Pの上流側と下流側には、軟X線除電器28(軟X線発生装置に相当)が設けられる場合がある。軟X線除電器28は、透明フィルム12の上側に配置され、透明フィルム12の上面(すなわち、配向膜の反対側面)に向けて波長0.1〜0.5nmの軟X線を照射するように構成される。軟X線を空気中に照射することによって、電離作用により高濃度のイオンが生成され、生成されたイオンのうち帯電物付近と逆極性のものが帯電電荷と結合し、静電気を緩和する。また、軟X線は物質透過性が高いために合成樹脂に殆ど吸収されずに透過する。したがって、軟X線を透明フィルム12に照射することによって、軟X線が透明フィルム12を透過してラビングローラ(ラビングシート)が除電される。なお、軟X線除電器28としては、たとえば浜松ホトニクス(株)社製フォトイオナイザが用いられ、イオン生成管の管球で、管電圧+9.5kV、電流150μAで使用される。
【0033】
次に上記の如く構成されたラビング処理装置10の作用について比較例を挙げて説明する。図2は、比較となるラビング処理装置30を示す構成図であり、このラビング処理装置は、図1のラビング処理装置10と比較して、第1除電装置18、第2除電装置24がない点で異なっている。
【0034】
ラビング処理装置10、30では、透明フィルム12とラビングローラ16を接触させるために、塵埃が発生する。この塵埃が透明フィルム12に付着して後段の装置(たとえば配向膜上に液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液を塗布する塗布工程等)に搬送されると、光学補償フィルムの輝点欠陥の原因となる。また、透明フィルム12の表面だけでなく、ラビングローラ16の表面に塵埃が付着した場合も同様に、ラビング処理の性能を低下させて光学フィルムの輝点欠陥の原因となったり、塵埃がラビングローラ16から透明フィルム12に移って輝点欠陥の原因となったりする虞がある。
【0035】
このため、ラビング処理装置10、30では、除塵装置20〜22を設け、この除塵装置20〜22によってラビングローラ16の表面を除塵している。しかし、ラビングローラ16は透明フィルム12と擦れ合って帯電しているため、塵埃はラビングローラ16に静電吸着している。したがって、ラビング処理装置30では、除塵装置20〜22で除塵してもラビングローラ16の表面の塵埃を完全に除去することができない。
【0036】
そこで、本実施の形態のラビング処理装置10では、第1〜第3の除塵装置20〜22に加えて第1除電装置18を設け、接触直後のラビングローラ16の表面に、該表面に発生した帯電電極に応じて、その帯電を中和するイオン風を供給して除電している。したがって、除電されたラビングローラ16が除塵装置20〜22によって除塵されるので、除塵装置20〜22による除塵性能を向上させることができる。これにより、ラビングローラ16に付着した塵埃によってラビング性能が低下したり、ラビングローラ16の塵埃が透明フィルム12に転移したりすることを防止することができる。よって、本実施の形態によれば、塵埃の付着がなく、高品質のラビング処理が施された配向膜を形成することができるので、この透明フィルム12を用いて光学補償フィルムを製造することによって、輝点欠陥の少ない高品質の光学補償を製造することができる。
【0037】
また、本実施の形態では、接触点Pのすぐ上流側に第2除電装置24が設けられている。したがって、中和するイオンを第1除電装置18から照射してラビングローラ16の除電を行うことに加えて、ラビング処理後の配向膜形成材料層に、第2除電装置24から該配向膜形成材料層に発生した帯電を中和するイオンを照射することで、ラビング処理後の帯電圧を顕著に低くすることができる。これにより、配向膜形成材料層への塵埃の付着をより一層効果的に防止できる。
【0038】
したがって、ラビング処理後の透明フィルム12及びラビングローラ16に塵埃が付着しにくくなり、より高品質の光学補償フィルムを製造することができる。
【0039】
さらに、本実施の形態では、軟X線除電器28によって透明フィルム12に軟X線を照射することによって、透明フィルム12の配向膜を除電している。したがって、透明フィルム12に塵埃が付着することをより確実に防止することができ、より高品質の光学補償フィルムを製造することができる。
【0040】
なお、上述した実施形態には、軟X線除電器28や第2除電装置24を設けた例を示したが、本発明はこれに限定するものではなく、軟X線除電器28や第2除電装置24のない実施形態も可能である。ただし、軟X線除電器28や第2除電装置24を第1除電装置18とともに使用することによって、ラビングローラ16の表面及び透明フィルム12の表面の塵埃付着除去性能を大幅に高めることができる。
【実施例】
【0041】
本発明の具体的な実施例を以下に説明する。実施例は、中和するイオンを照射してラビングローラ16の除電を行う第1除電装置18と、中和するイオンを照射して透明支持体12の除電を行う第2除電装置24とを備えた効果を試験したものである。
【0042】
(配向膜形成材料層を備えた長尺状の透明フィルムの作成)
セルローストリアセテート(フジタック、富士写真フィルム(株)製、厚さ:100μm、幅:500mm)の長尺状フィルムの一方の側に、長鎖アルキル変性ポリビニルアルコール(MP−203、クラレ(株)製)5重量%水溶液を塗布し、90℃4分間乾燥させた。こうして、厚さ2.0μmの配向膜形成材料層を形成した。
【0043】
(配向膜形成材料層のラビング処理)
配向膜形成材料層を備えた長尺状の透明フィルム12を図1の装置10を用いて配向膜形成材料層の表面にラビング処理を施した。但し、図1の軟X線除電器28は使用しなかった。
【0044】
配向膜形成材料層を備えた透明フィルム12は、矢印の方向に連続して20m/分で搬送した。透明フィルム12はローラ14(ローラ外径:90mm、長さ:1650mm)により上部から抑えながら搬送し、下側より押圧されたラビングローラ16(外径:300mm)を搬送方向と反対向きに回転させながら、円筒軸に貼り付けたラビングシート(レイヨン素材を主成分とするベルベットを使用)を配向膜形成材料層に接触させることによりラビング処理を施した。ラビングローラ16の回転速度は200、400、500、600rpmの4水準について実施した。また、ラビング処理時の透明支持体12のテンションも200、250、300、400(N/幅)の4水準で行った。
【0045】
そして、ラビング処理を施している間、ラビングシートの表面を、ラビングローラ16側面に近接して配置した第1除電装置18によって除電した後、第1〜第3の除塵装置により除塵を行った。また、ラビングローラ16と接触させて配向膜を形成した後の透明フィルム12について、第2除電装置24により、配向膜形成材料層の表面に、該表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電した。
【0046】
試験結果を図3の表に示す。
【0047】
図3において、実施例1〜6は、ラビングローラ16の帯電極性に応じて正又は負の何れかのイオン風を供給するための第1除電装置18、及び透明支持体12の帯電極性に応じて正又は負の何れかのイオン風を供給するための第2除電装置24を用いた。この第1及び第2の除電装置18、24としては、(株)キーエンス製のSJR156に変圧装置を付加した改良装置を用いた。また、第1〜第3の除塵装置20、21、22としては、超音波除塵器(ニューウルトラクリーナ(UVU−Wタイプ、(株)伸興製)を使用し、ヘッド圧40kPa、超音波除塵機の吹き出し風速220m/秒、ロール表面との除塵器先端との距離3mmで除塵を行なった。
【0048】
また、図3の比較例1〜6は、第1除電装置18及び第2除電装置24ともに、正及び負のイオンを交互に供給する除塵装置を用いた。この除塵装置としては、(株)キーエンス製のSJR156(変圧装置の付加なし)を用いた。
【0049】
また、図3の比較例7〜10は、第1除塵装置18及び第2除電装置24ともに設けない場合である。
【0050】
そして、ラビングローラ16及び透明フィルム12を除電した後の帯電圧を調べた。合わせて、上記の実施例、比較例で形成された配向膜を有する透明フィルム12に液晶性の塗布液を塗布して光学補償フィルムを作成し、フィルム面の輝点欠陥個数を調べた。光学補償フィルムの作成は次の通りである。
【0051】
(光学補償フィルムの作成)
1)得られた配向膜を有する透明フィルム12を、連続して20〜60m/分で搬送しながら、配向膜上に、ディスコティック化合物に、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)を上記混合物に対して1重量%添加した混合物の10重量%メチルエチルケトン溶液(塗布液)を、ワイヤーバー塗布機又はイクストルージョン塗布機により、塗布速度20〜60m/分、塗布量5〜10cc/m2 で塗布し、次いで乾燥及び加熱ゾーンを通過させた。乾燥ゾーンは常温、加熱ゾーンは130℃に調製した。塗布後3〜10秒後に乾燥ゾーンに入り、3〜10秒後加熱ゾーンに入った。加熱ゾーンは約2〜3分で通過した。
【0052】
2)次いで、この配向膜及び液晶層が塗布された透明フィルム12を、連続して20〜60m/分で搬送しながら、液晶層の表面に紫外線ランプにより紫外線を照射した。即ち、上記加熱ゾーンを通過した透明フィルム12は、紫外線照射装置(紫外線ランプ:出力160W/cm、発光長1.6m)により、照度600〜800mWの紫外線を4〜10秒間照射し、液晶層を架橋させた。
【0053】
3)さらに配向膜及び液晶層が形成された透明フィルム12は、検査装置により透明フィルム表面の光学特性が測定され、検査を行い、次いで、液晶層表面に保護フィルムをラミネート機により積層し、巻き取り装置により巻き取って、長尺状の光学補償シートを得た。
【0054】
(試験結果)
図3の表において、項目の「上流側(ローラ)」とはラビングローラ16を除電する第1除電装置18を示す。「下流側(フィルム)」とは、ラビング処理後の透明フィルム12を除電する第2除電装置24を示す。また、「帯電圧(布)」とは除電後のラビングローラ16のラビング布における帯電圧であり、「帯電圧(フィルム)」とは除電後の透明フィルム12の帯電圧である。
【0055】
更に、「輝点個数(100m)、(400m),(800m)」とは、ラビングの接触点Pからの各搬送距離における輝点欠陥の発生状況を、最終製品である光学補償フィルムの段階で調べたものである。これは、接触点Pの直ぐ下流位置で透明支持体12が除電されてから除電後の小さな帯電圧を長時間(長い搬送距離)維持できる方が除電後に塵埃付着が発生しにくく、輝点欠陥になりにくい。したがって、各搬送距離での輝点欠陥を調べることで、除電の効果を評価できる。
【0056】
その結果、図3の表から分かるように、第1除電装置18及び第2除電装置24を設けない比較例7〜10は、除電後のラビングローラ16の帯電圧は、全て+4.0と十分に除電されていなかった。また、除電後の透明フィルム12についても帯電圧は、全て−6.0と十分に除電されていなかった。これにより、100mで0.1個、400mで0.2個、800mで0.3個の輝点欠陥が発生し、悪い結果となった。
【0057】
また、第1除電装置18及び第2除電装置24から正と負のイオン風を交互に供給するようにした比較例1〜6は、比較例7〜10よりも除電後のラビングローラ16と透明支持体12の帯電圧が小さく、100〜800mでの輝点欠陥が大幅に減少した。具体的には、比較例1〜6は、除電後のラビングローラ16の帯電圧は、全て+0.5と十分に除電されていた。また、除電後の透明フィルム12についても帯電圧は、全て−0.3と十分に除電されていた。これにより、100m〜800で全て0.1個の輝点欠陥まで減少した。
【0058】
これに対して、実施例1〜6では、透明フィルム12又はラビングローラ16のそれぞれに帯電している帯電極性と帯電圧に応じて該帯電を中和するイオンを供給するようにした。即ち、透明フィルム12は負に帯電していた為、第2除電装置24から正のイオン風を供給し、ラビングローラ16のラビング布は正に帯電していた為、第1除電装置18から負のイオン風を供給した。
【0059】
その結果、実施例1〜6は、比較例1〜6よりも更に良い結果となった。具体的には、実施例1〜6は、除電後のラビングローラ16の帯電圧は、全て+0.01と略完全に除電された状態まで十分に除電されていた。また、除電後の透明フィルム12についても帯電圧は、全て−0.01と略完全に除電された状態まで十分に除電されていた。これにより、100m〜400で0.05個の輝点欠陥であり、800mで0.06個の輝点欠陥であり、比較例1〜6の約半分まで輝点欠陥を減少させることができた。ちなみに、配向膜形成材料層がポリビニルアルコール(PVA)の場合、透明支持体12は負に帯電するので、正のイオンを供給することで中和できる。また、ラビングシートがレイヨン素材の場合にはラビングローラ16は正に帯電するので、負のイオンを供給することで中和できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態のラビング処理装置を模式的に示す構成図
【図2】比較例のラビング処理装置を模式的に示す構成図
【図3】実施例の条件及び結果を説明する説明図
【符号の説明】
【0061】
10…ラビング処理装置、12…透明フィルム、14…ローラ、16…ラビングローラ、18…第1除電装置、20…第1除塵装置、21…第2除塵装置、22…第3除塵装置、24…第2除電装置、26…エアプレス、28…軟X線除電器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向膜形成材料層を備えた長尺可撓性フィルムをその長手方向に移動させながら、前記配向膜形成材料層の表面を回転状態のラビングローラに接触させて配向膜を形成するラビング処理方法において、
前記長尺可撓性フィルムと接触したラビングローラの表面に、該ラビングローラ表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電した後、前記ラビングローラ表面を除塵することを特徴とするラビング処理方法。
【請求項2】
前記ラビングローラと接触させて配向膜を形成した後の前記長尺可撓性フィルムについて、前記配向膜形成材料層の表面に、該表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電することを特徴とする請求項1のラビング処理方法。
【請求項3】
長手方向に移動する配向膜形成材料層を備えた長尺可撓性フィルムに回転接触させて配向膜を形成させる回転駆動するラビングローラを備えたラビング処理装置において、
前記ラビングローラの回転方向に対して前記回転接触する接触点の下流側に設けられ、前記ラビングローラの表面に、該ラビングローラ表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電する下流側除電装置と、
前記ラビングローラの回転方向に対して前記下流側除電装置の下流側に設けられ、前記ラビングローラの表面を除塵する下流側除塵装置と、を備えたことを特徴とするラビング処理装置。
【請求項4】
前記ラビングローラの回転方向に対して前記接触点の上流側に設けられ、前記ラビング処理後の前記長尺可撓性フィルムの配向膜形成材料層の表面に、該表面に発生した帯電を中和するイオンを照射して除電する上流側除電装置を備えたことを特徴とする請求項3に記載のラビング処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−204966(P2009−204966A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48195(P2008−48195)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】