説明

ラマン分光測定用プローブ

【課題】皮膚と試料台とが密着した状態を維持しつつ、ラマンスペクトルの測定部位をX−Y平面内で容易に移動させることができる装置を提供すること。
【解決手段】皮膚を測定対象とする共焦点顕微ラマン分光測定装置用のプローブ30である。プローブ30は、ハウジング31と、ハウジング31内に設置され、かつレーザー光の照射及び受光を行う対物レンズ33と、ハウジング31に取り付けられ、かつステージ38aに開口部が設けられたXY可動ステージ38とを備える。対物レンズ33が、XY可動ステージ38の動作と独立して動作するように、XY可動ステージ38の開口部38b内に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を測定対象とする共焦点顕微ラマン分光測定装置用のプローブに関する。また本発明は、このプローブを具備した共焦点顕微ラマン分光測定装置に関する。更に本発明は、この共焦点顕微ラマン分光測定装置を用いた皮膚の化学組成、特に水分量の測定方法(ただし医療行為を除く)に関する。
【背景技術】
【0002】
共焦点顕微ラマン分光法によって、ヒトの皮膚内部のラマンスペクトルを測定し、このスペクトルから皮膚内部の特定部位における水分量を求められることが知られている。この方法は、(i)非侵襲で皮膚内部の化学情報が得られる、(ii)常温・常圧・含水系で測定が可能である、(iii)共焦点に起因して空間分解能が高い、といった利点を有する。
【0003】
共焦点顕微ラマン測定では、対物レンズの焦点位置に被測定物を設置する必要がある。一般的には、三軸で可動なステージ(試料台)上に被測定物を置き、ステージの上または下に設置された対物レンズを介してレーザー光を被測定物に照射・集光する。レーザー光の焦点部位から発生するラマン散乱光を、再び同じ対物レンズを介して集光し、分光器に導き、ラマンスペクトルを得る。このとき、試料と対物レンズの間に、窓材を配置する場合と配置しない場合がある。窓材を配置し、窓剤上に試料を設置する場合、対物レンズと試料との距離を安定して保持できる特長がある。ヒト皮膚の表面は心拍・呼吸・筋肉の動きにより常にマイクロメートル単位での形状変化を繰り返している。従って、ヒト皮膚の共焦点顕微ラマン測定を行うには、光学系内に窓材を配置し、窓材によって皮膚表面と対物レンズの間の距離を一定に保持した状態で測定することが好ましい。
【0004】
皮膚等の被測定物を窓材に当接させた状態で対物レンズ側から観察すると、皮膚表面と窓材が光学的に密着した部位が、黒いスポット(本明細書においては、便宜上「黒色部」と言う。)として観察される。このとき黒色部として観測されない領域(本明細書においては、便宜上「白色部」と言う。)は、皮膚表面と窓材表面の間に空気層が存在する領域である。白色部では、光学収差や界面での光の散乱が生じるため、白色部を介して皮膚にレーザーを照射した場合、感度の低下と空間分解能の低下が生じる。そこで良好な測定結果を得るためには、黒色部を介してレーザーを皮膚内に照射する必要がある。しかし皮膚表面には微小な凸凹を有しているため、窓材に皮膚を当接させても、そのごく一部でしか光学的に密着した部位(黒色部)が発生しない。そこでこの黒色部とレーザー照射部を一致させるための機構が、皮膚のラマン測定では必要となる。
【0005】
この解決策としては以下の4種の方法が今までに考えられている。第1の方法は、黒色部がレーザー照射部と一致するまで、皮膚を窓材に繰り返し当接させる方法である。しかしこのような作業はたいへん煩雑である。特に洗浄後自然乾燥させた皮膚の場合、皮膚表面の水分・油分の減少により、黒色部の発生量が激減するため、黒色部とレーザー照射部が一致させるには、被験者の負担が過重である。
第2の方法は、対物レンズを水平方向に移動させることにより、レーザー照射部を黒色部に移動させることである。市販の皮膚用ラマン分光装置、例えばRiver Diagnostic社のSkin Analyzerが採用している方法である。しかしこの方法は共焦点光学系を維持しながら対物レンズを移動させる必要がある。そのためには、複雑かつ高精度な位置制御機構を採用する必要があるので、装置の小型化や可搬化が難しい。
第3の方法は、ガルバノミラーを採用し、レーザー光の焦点位置を水平方向に移動させることにより、レーザー照射部を黒色部に移動させることである。この方法は特許文献1に記載されている。しかしガルバノミラーは複雑かつ高精度な位置制御機構となるので、対物レンズの移動と同様に装置の小型化や可搬化が難しい。
さらに第4の方法として、本出願人は先に、被測定物と窓材との間の空気層(白色部)を埋めるための、分子内にC−H結合した水素原子を含有しない化合物を含む、測定温度で液体のコンタクト剤を配することを提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−244259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の手法によれば、被測定物表面と窓材との間の光学的接触を簡便にかつ広い面積で成立させることができるので、被測定物内部の水分量測定を容易に行うことが可能になる。しかしこの手法では、コンタクト剤の屈折率が皮膚の屈折率とは完全には一致しないため、コンタクト剤無しに黒色部を直接測定する場合と比べて、屈折率の不一致による収差に基づく、空間分解能の低下と感度の低下が避けられない。
【0008】
したがって本発明の課題は、ラマン分光を用いた皮膚の水分量の測定装置において、高感度、高空間分解能、高い可搬性、小型、操作が簡便かつ被験者への負担が少ないといった要件を満たす装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、皮膚を測定対象とする共焦点顕微ラマン分光測定装置用のプローブであって、
前記プローブは、ハウジングと、ハウジング内に設置され、かつレーザー光の照射及び受光を行う対物レンズと、ハウジングに取り付けられ、かつステージに開口部が設けられたXY可動ステージとを備え、
対物レンズが、XY可動ステージの動作と独立して動作するように、該XY可動ステージの開口部内に配置された共焦点顕微ラマン分光測定装置用のプローブを提供するものである。
【0010】
また本発明は、前記のプローブを具備し、皮膚を測定対象とする共焦点顕微ラマン分光測定装置を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、共焦点顕微ラマン分光測定装置を用いて皮膚の水分量を、医療行為以外の目的で測定する皮膚の水分量の測定方法であって、
前記測定装置は、ハウジングと、ハウジング内に設置され、かつレーザー光の照射及び受光を行う対物レンズと、ハウジングに取り付けられ、かつステージに開口部が設けられたXYステージとを備え、対物レンズが、XY可動ステージの動作と独立して動作するように、該XY可動ステージの開口部内に配置されているプローブを具備しており、
測定対象の皮膚に対物レンズが臨むように、前記プローブを皮膚に当接させた状態下にXYステージをXY方向に移動させることで、XY方向における対物レンズの位置を固定したまま皮膚を移動させつつ皮膚の水分量を測定する皮膚の水分量の測定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、測定対象となる皮膚とプローブとが密着した状態を維持しつつ、ラマンスペクトルの測定部位をX−Y平面内で容易にマイクロメートル単位で移動させることができるラマン分光測定装置が提供される。また可搬性の高い小型のラマン分光測定装置が提供される。更に本発明によれば、測定時における被験者の負担が少ないラマン分光測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の共焦点顕微ラマン分光測定装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の共焦点顕微ラマン分光測定装置のプローブにおけるXY可動ステージ付近の要部を、試料台を取り外した状態で拡大して示す模式図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、図1に示す共焦点顕微ラマン分光測定装置を用いてヒトの皮膚のラマンスペクトルを測定する方法を示す模式図である。
【図4】図4は、実施例1における皮膚と試料台の接触面の光学顕微鏡像である。
【図5】図5は、実施例1で測定されたヒトの前腕内側部のラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の共焦点顕微ラマン分光測定装置の一実施形態が模式的に示されている。同図に示す共焦点顕微ラマン分光測定装置10は、本体部20とプローブ30とに大別される。本体部20とプローブ30とは、可撓性を有する2本の光ファイバ40a,40bによって接続されている。したがってプローブ30は、本体部20を固定した状態で、該本体部20とは独立して可動・可搬になっている。
【0015】
本体部20は、レーザー光の光源21を備えている。また本体部20は、分光器22を備えている。これら光源21及び分光器22としては、従来の共焦点顕微ラマン分光測定装置に備えられているものと同様のものを特に制限なく用いることができる。更に本体部20は、図示していないが、電子回路から構成されている制御部も備えている。制御部は、光源21のオン・オフを行ったり、分光器22で分光されたラマンスペクトルの解析、並びに解析結果の表示及び記憶等を行ったりする機能を有している。そのような制御部の構成は、従来の共焦点顕微ラマン分光測定装置に備えられている制御部と同様のものである。
【0016】
プローブ30はハウジング31を有している。ハウジング31は、プローブ30の外形をなしており、プローブ30を構成する主要部材は該ハウジング31内に収容されている。例えばハウジング31内には2つのレンズ32a,32bが配置されている。これらのうち、レンズ32aは、光ファイバ40aを介して本体部20の光源21と光学的に接続されている。一方、レンズ32bは、光ファイバ40bを介して本体部20の分光器22と光学的に接続されている。
【0017】
ハウジング31内には更に、対物レンズ33が配置されている。対物レンズ33は、本体部20の光源21からレンズ32aを通じて導かれたレーザー光Lの光軸上に配置されている。対物レンズ33とレンズ32aとの間にはバンドパスフィルタ34が配置されている。バンドパスフィルタ34は、特定の波長の光のみを透過させ、かつそれ以外の波長の光を反射させる機能を有している。
【0018】
対物レンズ33の基部にはピエゾシステム35が取り付けられている。ピエゾシステム35は対物レンズ33を、図1中、符号Zで示す方向に前進・後退させるために用いられる。
【0019】
ハウジング31内には、更に反射ミラー36及びエッジフィルタ37が配置されている。反射ミラー36は、被測定物から生じたラマン散乱光の光路上に配置されて、該ラマン散乱光をレンズ32bへと導くものである。エッジフィルタ37は、反射ミラー36とレンズ32bとの間に配置される。
【0020】
ハウジング31はその一部に開口部を有しており、該開口部にXY可動ステージ38が取り付けられている。XY可動ステージ38は、図1中、符号Zで示す方向と直交する平面(X−Y平面)内において移動可能なステージ38aを有している。ステージ38a上には、窓材39aを備えた試料台39が取り付けられている。
【0021】
図2には、プローブ30におけるXY可動ステージ38付近の要部拡大図が模式的に示されている。同図においては、試料台39を取り外した状態が示されている。同図に示すように、ステージ38aには開口部38bが設けられている。開口部38bは、ステージ38aをその厚み方向に貫通している。そして、先に述べた対物レンズ33が、開口部38b内に配置されている。対物レンズ33は、その光軸の方向が、XY可動ステージ38のX−Y平面と直交するように、すなわち図2中、符号Zで示す方向と同方向になるように、開口部38b内に配置されている。
【0022】
XY可動ステージ38として公知の構造のものを特に制限なく用いることができる。例えば、ラックピニオン方式の移動機構を有し、つまみ38c,38dを手動で回転させることで、X軸の方向及びY軸の方向にステージ38aを移動できる構造のものを用いることができる。あるいは駆動系にステッピングモータを用いた自動機構のものを用いることもできる。いずれの移動機構を用いる場合であっても、XY可動ステージ38はマイクロメートル単位での移動が可能なものであることが好ましい。
【0023】
対物レンズ33は、XY可動ステージ38の動作と独立して動作するようになっている。具体的には、XY可動ステージ38の動作は上述のとおりであるところ、その動作は対物レンズ33の動作とは連動していない。対物レンズ33は、先に述べたピエゾシステム35によってZ軸方向に進退可能になっているだけであり、ステージ38aのX−Y平面内における移動に追従しない構造になっている。
【0024】
再び図1に戻ると、同図において、XY可動ステージ38のステージ38a上に取り付けられている試料台39は、先に述べたとおり窓材39aを有している。窓材39aは、本装置10で使用するレーザー光に対して光学的に透明な材料から構成されている。例えばガラスや石英から構成されている。窓材39aは、対物レンズ33の光軸上に配置されている。窓材39aの外面は平坦であり、測定対象物であるヒトの肌と密着しやすくなっている。
【0025】
次に、本実施形態の装置10の使用方法を、ヒトの肌の水分量の測定を例にとり説明する。図3(a)に示すように、測定対象の皮膚Sに対物レンズ33が臨むように、プローブ30における窓材39aを皮膚に当接させる。そして、XY可動ステージ38を駆動させ、窓材39aと皮膚表面とが密着した部位(黒色部)がレーザースポットと重なる位置に調整する。この状態下に、皮膚Sに向けてレーザー光を照射する。レーザー光は、皮膚の表面から所定の深さの位置に焦点が合うように焦点距離が調節される。照射するレーザー光の波長及び入射角に特に限定はない。例えば、被測定物がヒトの皮膚の場合、波長は400〜1064nmが好ましく、600〜800nmが一層好ましい。対物レンズ33によるレーザー光の集光過程を無視した場合の、皮膚Sの表面に対するレーザー光の入射角は0〜60度が好ましく、0〜30度が一層好ましい。ここでの入射角は、皮膚Sの表面に対して垂直な法線からの角度とする。
【0026】
使用する対物レンズ33の倍率及び開口数(N.A.)に、特に限定はない。例えば、被測定物がヒトの皮膚の場合、より高空間分解能での測定を行う場合には、倍率は40倍〜100倍が好ましく、開口数は0.7〜1.5が好ましい。水平方向及び深さ方向により広範囲の測定を行う場合は、倍率は20倍〜60倍が好ましく、開口数は0.2〜0.7が好ましい。
【0027】
レーザー光の焦点が合った部位からのラマン散乱光は、対物レンズ33で受光され、バンドバスフィルタ34、反射ミラー36、エッジフィルタ37及びレンズ32b等の光学系を通過して、本体部20の分光器22へと送られる。そして分光器22においてラマンスペクトルが測定される。
【0028】
次に、ピエゾシステム35を制御することで、対物レンズ33をZ軸方向に進退させ、X−Y平面内の同一箇所において深さ方向で異なる位置におけるラマンスペクトルを測定する。
【0029】
引き続き、プローブ30におけるXY可動ステージ38を駆動させて、図3(b)に示すように、ステージ38a及びそれに取り付けられている試料台39をX軸方向及び/又はY軸方向に移動させる。この移動に伴って、試料台39の窓材39aに密着している皮膚Sも移動する。つまり、窓材39aに当接している皮膚Sは、窓材39aと皮膚Sとの摩擦力によって、試料台39の移動に追従する。しかし、対物レンズ33は、試料台39及びそれが取り付けられているXY可動ステージ38の動作とは独立して動作するものなので、試料台39が移動しても対物レンズ33は移動しない。図3(a)と図3(b)との対比から明らかなように、XY可動ステージ38が動作しても、対物レンズ33の位置は動作の前後において同じになっている。つまり本装置10を用いると、X−Y平面内における対物レンズ33の位置を固定したまま皮膚をX−Y平面内で、マイクロメートル単位で移動させることができる。その結果、レーザー光が焦点を結ぶ位置が、X−Y平面内で相対的に移動し、新たな測定部位においてレーザー光が焦点を結ぶことになる。その新たな測定部位においてZ軸方向のラマンスペクトルを測定する。このことは、対物レンズを移動させる機構を採用していた従来の技術とは対照的である。
【0030】
以上の動作を繰り返すことで、X−Y平面内の所定の面積の領域におけるラマンスペクトルを三次元的に得ることができる。得られたラマンスペクトルを分析することで、皮膚の水分量を見積もることができる。また、ピエゾシステム35を駆動させない場合には、ある深さの部位におけるX−Y平面内の所定の面積の領域におけるラマンスペクトルを二次元的に得ることができる。
【0031】
ラマンスペクトルから水分量を算出する手順の一例を以下に示す。
(i)ヒトのかかとの角層を剥離し、脂質と脂溶性成分を抽出後、五酸化リンを用いて完全に乾燥させる。
(ii)角層の乾燥後の質量を秤量後、調湿容器内に入れ、角層を吸湿させる。
(iii)吸湿した角層についてラマンスペクトルの測定及び角層の秤量を行い、含水量とラマンスペクトルの信号強度比(3400cm-1付近のOH伸縮振動の信号強度と、2900cm-1付近のCH伸縮振動の強度比)を算出する。
(iv)前記の(iii)で算出した含水量とラマンスペクトルの信号強度比の関係に基づき、実際に測定したヒトの皮膚のラマンスペクトルから水分量を算出する。
【0032】
以上のとおり、本装置10を用いれば、窓材39aと皮膚Sとの密着した状態を維持しつつ、ラマンスペクトルの測定部位をX−Y平面内で容易に移動させることができる。しかも、本装置10ではプローブ30が本体部20とは別体になっており、かつ該プローブ30の小型化が容易で可搬性が良好なので、ヒトの身体のいずれの部位にも容易に該プローブ30を当接させることができる。したがって、ラマンスペクトルの測定中における被験者の身体的な負担を軽減させることができる。
【0033】
本発明の装置10及びそれを用いた皮膚の水分量の測定方法は、角層の膨潤の評価に基づく化粧品や医薬品の開発及び化粧品の対面販売における適切な化粧品の選択などの医療行為以外の目的で好適に用いられる。
【0034】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明の前記の実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、装置10の本体部20とプローブ30とを、光ファイバ40a,40bを介して光学的に接続したが、これに代えて、プローブ30を本体部20に直接取り付けてもよい。
【0035】
また本発明の装置10を用いたラマンスペクトルの測定に際しては、皮膚と試料台39の窓材39aとの間に、特許文献1に記載されているコンタクト剤を介在させて、皮膚と窓材39aとの間の光学的接触面積をより広めることによって、コンタクト剤を介在させない場合よりも広い領域の皮膚の水分量等を測定するようにしてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0037】
〔実施例1〕
図1に示す構成の共焦点顕微ラマン分光測定装置を作製した。顕微ラマン分光装置(商品名:ナノファインダー フレックス、東京インスツルメンツ製)に、透過穴型XYステージ(駿河精機製、型番:B27−100CR)を取り付けた。更に、透過穴型XYステージ上に、アルミニウムブロック製の皮膚測定用試料台を取り付けた。試料台の中央部に窓穴を設け、該窓穴の上部にガラス製の窓材(厚さ170μm)を取り付けた。このようにして得られた装置を用いて以下の方法でヒトの皮膚のラマンスペクトルを測定した。
【0038】
(1)測定条件:励起波長;671nm
試料上でのレーザー出力;20mW
(2)対物レンズ;100倍、NA1.3、W.D.160μm
1点当たりの露光時間:1秒
【0039】
皮膚測定用試料台に20代男性の前腕内側部を載せた。皮膚と試料台の当接面の光学顕微鏡像を図4に示す。視野中央にレーザースポットが存在し、レーザースポットと皮膚密着部(図4内の黒色部)が重なるように、XYステージを駆動させて皮膚密着部をXY方向に移動させた。
【0040】
ピエゾシステムによってレーザースポットをZ軸方向に移動させながら、ラマンスペクトルを測定した。スキャン間隔は2μmとした。測定したラマンスペクトルを図5に示す。図5は、下から上にラマンスペクトルを深さ方向に並べて、オフセット表示したものである。2900cm-1付近に、主にタンパク質に由来するCH伸縮のピーク確認できた。また、3400cm-1付近に、主に水に由来するOH伸縮のピークが確認できた。OH伸縮/CH伸縮の比を深さ方向に比較すると、深さ方向に向けてOH伸縮/CH伸縮の比の値が大きくなっていることが分かった。このことは、皮膚の内部ほど水分量が多いことを示している。
【符号の説明】
【0041】
10 ラマン分光測定装置
20 本体部
21 光源
22 分光器
30 プローブ
31 ハウジング
33 対物レンズ
35 ピエゾシステム
38 XY可動ステージ
38a ステージ
38b ステージ開口部
39 試料台
39a 窓材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を測定対象とする共焦点顕微ラマン分光測定装置用のプローブであって、
前記プローブは、ハウジングと、ハウジング内に設置され、かつレーザー光の照射及び受光を行う対物レンズと、ハウジングに取り付けられ、かつステージに開口部が設けられたXY可動ステージとを備え、
対物レンズが、XY可動ステージの動作と独立して動作するように、該XY可動ステージの開口部内に配置された共焦点顕微ラマン分光測定装置用のプローブ。
【請求項2】
請求項1に記載のプローブを具備し、皮膚を測定対象とする共焦点顕微ラマン分光測定装置。
【請求項3】
更に本体部を具備し、該本体部がレーザー光の光源及び分光器を備え、該光源及び該分光器がそれぞれプローブと光ファイバによって接続されている請求項2に記載の共焦点顕微ラマン分光測定装置。
【請求項4】
共焦点顕微ラマン分光測定装置を用いて皮膚の水分量を、医療行為以外の目的で測定する皮膚の水分量の測定方法であって、
前記測定装置は、ハウジングと、ハウジング内に設置され、かつレーザー光の照射及び受光を行う対物レンズと、ハウジングに取り付けられ、かつステージに開口部が設けられたXYステージとを備え、対物レンズが、XY可動ステージの動作と独立して動作するように、該XY可動ステージの開口部内に配置されているプローブを具備しており、
測定対象の皮膚に対物レンズが臨むように、前記プローブを皮膚に当接させた状態下にXYステージをXY方向に移動させることで、XY方向における対物レンズの位置を固定したまま皮膚を移動させつつ皮膚の水分量を測定する皮膚の水分量の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−98184(P2012−98184A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246698(P2010−246698)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】