説明

ラミナの作製方法

【課題】複製用のマイクロ構造化ラミナの作製方法及び装置を提供する。
【解決手段】マイクロ構造化ラミナ(単数又は複数)上に小さいキューブコーナ構造体を反復して配置する目的でラミナ10を機械加工する際、自由度が、x方向の平行移動、z方向の平行移動及びyを中心とする回転を含む運動学的位置決めが有利である機械加工用固定具100を使用し、個々のラミナ10にV形溝を機械加工することにより、キューブコーナマイクロ構造体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複製用のマイクロ構造化ラミナ(microstructured lamina)の作製方法及び装置に関する。好ましい実施形態では、本発明は、機械加工により個々のラミナ上にV形溝を設けてキューブコーナマイクロ構造体を形成することに関する。
【背景技術】
【0002】
再帰反射材料は、材料に入射した光を再方向付けして元の光源の方向に戻す能力により特性付けられる。この特性のおかげで、様々な交通安全用途及び人的安全用途で再帰反射シートが広く使用されるようになった。再帰反射シートは、乗物や衣類のための再帰反射テープや、道路標識、防柵、ライセンスプレート、路面標示、標示テープなどの様々な物品で広く利用されている。
【0003】
2つの公知のタイプの再帰反射シートは、マイクロスフェア(微小球)型シート及びキューブコーナ型シートである。「ビーズ型」シートと呼ばれることもあるマイクロスフェア型シートでは、典型的には、入射光を再帰反射するために、バインダー層中に少なくとも部分的に埋め込まれかつ正反射材料又は拡散反射材料(例えば、顔料粒子、金属フレーク、蒸気コートなど)に関連付けられた多数のマイクロスフェアが利用される。ビーズ型レトロリフレクターの対称ジオメトリーに基づいて、マイクロスフェア型シートは、その姿勢に関係なく、すなわちシートの表面に垂直な軸を中心に回転した場合にも、同一の全光反射を呈する。したがって、そのようなマイクロスフェア型シートは、シートを表面に配置するときの姿勢に対する感度が比較的低い。しかしながら、一般的には、そのようなシートは、キューブコーナ型シートよりも再帰反射効率が悪い。
【0004】
キューブコーナ型再帰反射シートは、典型的には、実質的に平面状のフロント表面と、複数の幾何学的構造体を含むリア構造化表面(その一部分又は全部は、キューブコーナ素子として構成された3つの反射面を含む)とを有する薄肉透明層を備えている。キューブコーナ型再帰反射シートは、最初に、構造化表面を有するマスター成形型を作製することにより一般に製造される。そのような構造化表面は、完成シートがキューブコーナ角錐若しくはキューブコーナキャビティ(又はその両方)を有するか否かに応じて、完成シートにおける所望のキューブコーナ素子ジオメトリーか或いはそのネガティブ(反転)コピーに対応するものである。次に、エンボス加工、押出加工又はキャストアンドキュアリングのような方法によりキューブコーナ型再帰反射シートを形成するためのツールを作製すべく、従来のニッケル電鋳のような任意の好適な技術を用いて成形型を複製する。米国特許第5,156,863号明細書(プリコーン(Pricone)ら)には、キューブコーナ型再帰反射シートの製造に使用されるツールを形成するためのプロセスの例示的全体図が提供されている。マスター成形型を作製するための公知の方法としては、ピンバンドリング法、直接機械加工法、及びラミナを利用する方法が挙げられる。
【0005】
ピンバンドリング法では、複数のピン(それぞれの一端にキューブコーナ素子のような幾何学的形状を有する)を集成一体化してマスター成形型を形成する。米国特許第1,591,572号明細書(スティムソン(Stimson))及び同第3,926,402号明細書(ヒーナン(Heenan))には、具体例が提示されている。
【0006】
直接機械加工法の場合、平面状基材の表面に一連の溝を形成することによりマスター成形型を形成する。周知の一方法では、3セットの平行溝を60度の開先角で互いに交差させてキューブコーナ素子(それぞれ等辺底面三角形を有する)のアレイを形成する(米国特許第3,712,706号明細書(スタム(Stamm))を参照されたい)。他の方法では、2セットの溝を60度超の角度で互いに交差させかつ第3のセットの溝を他の2つのセットのそれぞれと60度未満の角度で交差させることにより傾斜キューブコーナ素子マッチドペアのアレイを形成する(米国特許第4,588,258号明細書(フープマン(Hoopman))を参照されたい)。
【0007】
ラミナを利用する方法では、1つの長手縁上に幾何学的形状を形成したラミナと呼ばれる複数の薄いシート(すなわちプレート)を集成してマスター成形型を形成する。ラミナを利用する方法の具体例は、欧州特許出願公開第0844056A1号明細書(三村)、米国特許第6,015,214号明細書(ヒーナン(Heenan))、米国特許第5,981,032号明細書(スミス(Smith))、米国特許第6,159,407号明細書(クリンケ(Krinke))及び米国特許第6,257,860号明細書(ラトレル(Luttrell))に見出すことができる。
【0008】
切頭キューブコーナアレイの隣り合うキューブコーナ素子の底縁は、典型的には共面上に存在する。「完全キューブ」又は「好適ジオメトリー(PG)キューブコーナ素子」として記述される他のキューブコーナ素子構造体は、典型的には、共面上に存在する底縁を有さない。そのような構造体は、典型的には、切頭キューブコーナ素子と比較してより高い全光反射を呈する。PGキューブコーナ素子は、国際公開第00/60385号パンフレットに記載されているように、直接機械加工により作製できるものがある。しかしながら、この多段階製造プロセスを用いて幾何学的確度を保持するのは困難である。また、得られるPGキューブコーナ素子及び/又は素子配置に関して、設計上の制約が顕在化する可能性もある。これとは対照的に、ピンバンドリング法及びラミナを利用する方法では、様々な形状及び配置のPGキューブコーナ素子の形成が可能である。しかしながら、ピンバンドリング法とは異なり、ラミナを利用する方法は、比較的小さいPGキューブコーナ素子を形成する能力をも有利に提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当技術分野では、再帰反射シートを製造するのに使用するのに好適なラミナの機械加工方法が報告されているが、業界は、さらに改善された方法及び装置に優位性を見出すであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態として、本発明は、ラミナを用意するステップと、ラミナの表面部分が露出されるようにラミナを固定具内に運動学的に位置決めするステップと、表面部分を機械加工するステップとを含む、ラミナの機械加工方法に関する。表面部分は、好ましくは、ラミナの厚さの範囲に及ぶ。さらに本発明は、ラミナの縁に複数の溝を形成し、それら溝がキューブコーナマイクロ構造体を形成する構成において、特に有利である。
【0011】
他の実施形態として、本発明は、マイクロ構造化された縁を有するラミナを用意するステップと、個々のラミナを固定具中に運動学的に位置決めしてスタックを形成するステップと、スタック内でラミナの位置を維持するステップとを含む、ラミナの集成方法に関する。
【0012】
他の実施形態として、本発明は、各々が2つの主面を有する少なくとも2枚のシートを用意するステップと、均一な厚さになるようにそれらシートの主面を機械加工(例えばダイヤモンド機械加工)するステップと、スタックの形態にシートを集成するステップと、好ましくは放電加工によりスタック内の2つ以上のラミナを同時にカットするステップとによる、ラミナの作製方法に関する。
【0013】
他の実施形態として、本発明は、固定具内にラミナのスタックを、露出したマイクロ構造化表面をスタックが有するように用意するステップと、導電性カバーシートをスタックに、固定具がカバーされかつ構造化表面が露出されるように装着するステップと、メッキ溶液中で露出表面に電鋳処理を施してレプリカを形成するステップとを含む、マスター成形型の複製方法に関する。好ましくは、レプリカをスタックから取り出した後でメッキ溶液の乾燥を行う。この方法は、好ましくは、カバーシートを焼嵌めすることを含む。
【0014】
他の実施形態として、本発明は、垂直支持基台により連結されて両者間に調整可能な開口を有する2つの対向平行表面と、ラミナを受容すべくそれら対向表面の少なくとも一方を後退又は前進させるための手段と、個々のラミナを運動学的に位置決めするための手段とを含む、ラミナ(単数又は複数)の固定具に関する。固定具は、ラミナ(単数又は複数)の位置を確認するための手段を、任意選択的に有することができる。集成用固定具は、好ましくは、スタック内でラミナ(単数又は複数)の位置を維持するための手段をさらに含む。さらに、隣接ラミナに対する各ラミナの位置の精度は、少なくとも0.0001インチ(0.00254mm)である。
【0015】
上記した実施形態の各々において、ラミナは、好ましくは0.001インチ(0.0254mm)〜0.020インチ(0.508mm)、より好ましくは0.003インチ(0.076mm)〜0.010インチ(0.254mm)の範囲内の厚さを有する。特に、そのような薄いラミナでは、機械加工用の固定具及び/又は集成用の固定具を用いて、例えば、x方向平行移動、z方向平行移動、及びyを中心とする回転に運動学的拘束を加えることにより、ラミナを3自由度で運動学的に拘束することが好ましい。ラミナ及び/又は固定具は、好ましくは、運動学的に位置決めするのに好適な(例えば3つの)非平面状突起を有する。ラミナは、好ましくは、例えば可動ジョーにより提供される両側からの真空又は接触圧力により、残りの3自由度において非運動学的に拘束される。
【0016】
ラミナは、機械加工可能なプラスチック又は機械加工可能な金属から構成される。特に、集成ラミナの集成及び複製を行う場合(例えば電鋳溶液)、各ラミナは、好ましくは±0.002インチ(0.0508mm)未満、より好ましくは±0.0002インチ(0.00508mm)未満の厚さ許容差(すなわち、ラミナ内の厚さのばらつき)を有する。再帰反射シート用の成形型の製造に利用されるラミナの厚さ許容差は、より好ましくは±0.0001インチ(0.00254mm)未満である。さらに、ラミナの主面は、典型的には0.000005インチ(0.000127mm)未満の表面粗さを有する。これに加えて、集成スタックにおけるラミナ間の長さのばらつきは、好ましくは±0.0001インチ(0.00254mm)未満、より好ましくは0.0002インチ(0.00508mm)未満である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ラミナの斜視図である。
【図2】固定具内の1枚のラミナの斜視図である。
【図3】シートのスタックからカットされる複数のラミナの斜視図である。
【図4】例示的な集成用固定具に与えられたラミナの集成スタックの斜視図である。
【図5】ラミナとカバーシートとの集成スタックの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ラミナを機械加工する方法、ラミナを集成してマスター成形型を形成する方法、ラミナを作製する方法、及びラミナのスタックを含むマスター成形型を複製する方法を開示する。本発明は、ラミナ(単数又は複数)、並びにラミナ(単数又は複数)の機械加工及び/又は集成に使用するのに好適な固定具として有用な装置に関する。本発明は、これらの各実施形態の単独実施及びそのような実施形態の種々の併用実施に関する。
【0019】
ラミナを機械加工する方法、ラミナを集成する方法、複数のラミナさらには1つのラミナを機械加工するための固定具及び/又は集成するための固定具は、「運動学的位置決め」という共通した特徴を共有する。例えば、精密機械設計(Precision Machine Design)、アレキサンダー・スロカム(Alexander Slocum)著、プレンティス・ホール(Prentice Hall)刊、ニュージャージー州イングルウッドクリフス(Englewood Cliffs,New Jersey)、1992年、第352〜354頁に記載されているように、運動学的設計の原理によれば、点の数を最小限にして点接触を行うことにより所望の位置及び姿勢(すなわち、6自由度−(マイナス)所望の自由度)で物体を拘束できるはずである。理論上、単一の接触点を達成することはできない。したがって、接触点は小さい領域である。
【0020】
明確にするために、ラミナに重ね合わせた三次元のデカルト座標系を基準にして、ラミナの運動学的位置決めについて記述する。しかしながら、他の座標系を用いて運動学的位置決めについて記述し得ること、或いは他の姿勢(例えば鉛直)でラミナ及び/又は固定具を位置決めし得ることは理解されよう。
【0021】
図1に関して、「位置」とは、x軸、y軸及びz軸に沿った座標を意味し、一方、姿勢とは、これらの軸の各々を中心とする回転を意味する。したがって、機械加工用の固定具又は集成用の固定具に配置する前のラミナは、6つの自由度(すなわちx軸、y軸、z軸、x軸を中心とする回転、y軸を中心とする回転、z軸を中心とする回転)で移動する能力を有する。
【0022】
運動学的位置決めを行うために、ラミナ及び/又は固定具(すなわち、機械加工用の固定具及び/又は集成用の固定具)は、好ましくは突起を含む。接触応力及びラミナの変形を最小限に抑えるとともにラミナと固定具との間の接触面積を最小限に抑えるべく、突起は、好ましくは、丸面取りされる。本明細書中では、ラミナだけが突起を含み、ラミナの突起を介してラミナを位置決めするように機械加工用固定具及び/又は集成用固定具が設計されている実施形態に関連させて、本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、他の実施形態として、固定具(単数又は複数)だけが突起を含むものもある。さらに他の実施形態では、ラミナと固定具の両方が突起を含む。さらに、丸面取りされた突起が好ましいが、ラミナの運動学的位置決めが達成されるのであれば、他の形状の突起及びは他の突起配置もまた好適である。
【0023】
一実施形態では、ラミナは好ましくは、少なくとも3つの突起、例えば、長さ(すなわち、ラミナの平面内の最長寸法)の方向に延在する1つの突起と、高さ(すなわち、ラミナの平面内の最短寸法)の方向に延在する2つの突起とを含む。また、対向方向に正確に方向付けられた力を固定具に接触する各突起に加えるべく、ラミナは、追加の突起をさらに含むことができる。
【0024】
ラミナの例示的機械加工用固定具及び突起を有するラミナ設計を、図1〜図2に示す。半径1及び2と機械加工用固定具100の平面状表面113との接触が、半径5及び6に作用する力と組み合わされて、ラミナは、z軸方向で運動学的に拘束される(すなわち、z方向の平行移動が拘束される)とともに、y軸を中心とする回転も拘束される。さらに、半径3と機械加工用固定具の平面状表面114との接触が、半径4に作用する力と組み合わされて、ラミナは、x軸方向で運動学的に拘束される(すなわち、x方向の平行移動が拘束される)。ラミナの表面14は、残りの3つの自由度(すなわち、y方向の平行移動、xを中心とする回転、及びzを中心とする回転)においてラミナを拘束する機械加工用固定具100のジョー111の表面(図示せず)に接触する。したがって、好ましい実施形態では、ラミナは、3自由度(すなわち、x方向の平行移動、z方向の平行移動、yを中心とする回転)で運動学的に拘束されるとともに、残りの3自由度では、ラミナの非運動学的表面接触により拘束される。ラミナを任意選択的に、y方向の平行移動、zを中心とする回転、及びxを中心とする回転で、運動学的に拘束することもできる。これは特に、これらの拘束の結果として許容できない屈曲変形が生ずることを防止できる十分な厚さのラミナの場合である。
【0025】
本願の発明者らは、マイクロ構造化ラミナ(単数又は複数)上に小さいキューブコーナ構造体を反復して配置する目的でラミナを機械加工する際、運動学的位置決めが有利であることを見出した。位置決め誤差が溝形成機の精度に近づくように集成用固定具に複数のマイクロ構造化ラミナを相対的に配置するには、運動学的位置決めが有利である。本明細書に記載の方法及び装置は、ラミナの縁にキューブコーナマイクロ構造体を機械加工するのに特に好適であるが、そのような方法及び装置は、マイクロ構造化表面(例えば縁)を有するラミナを利用する他のタイプのマイクロ構造体(例えばフックアンドループファスナー)の機械加工に使用するのに好適であると考えられる。
【0026】
一般的には、ラミナは、縁に直接機械加工される溝を形成するのに好適な任意の基材で構成され得る。好適な基材は、バリ生成を伴うことなくクリーンに機械加工され、低い延性及び低い粒状性を呈し、そして溝形成後に寸法確度を保持するものである。様々な機械加工可能なプラスチック又は金属を利用し得る。好適なプラスチックは、熱可塑性材料又は熱硬化性材料、例えば、アクリル又は他の材料を含む。機械加工可能な金属としては、アルミニウム、黄銅、銅、無電解ニッケル及びそれらの合金が挙げられる。好ましい金属としては、非鉄金属が挙げられる。好適なラミナ材料は、例えば、圧延、キャスティング、化学堆積、電気堆積又は鍛造により、シートの形態に形成可能である。好ましい機械加工材料は、典型的には、溝の形成時のカッティングツールの摩耗を最小限に抑えるように選択される。他のタイプのマイクロ構造体を含むラミナでは、他の材料もまた好適であり得る。
【0027】
ラミナは、その厚さの少なくとも約10倍(好ましくは、その厚さの少なくとも100、200、300、400、500倍)の長さ及び高さを有する薄肉プレートである。本発明は、なんら特定の寸法のラミナ(単数又は複数)に限定されるものではない。当業者であればわかるように、ラミナ(単数又は複数)の最適寸法は、ラミナの曲げ剛性、座屈剛性及び取扱いの容易さに関連付けられる。さらに、再帰反射シートの製造に使用することが意図されるラミナの場合、最適寸法はまた、最終設計の光学的要件(例えば、キューブコーナの構造)により拘束され得る。本発明は、一般的には、0.25インチ(6.35mm)未満、好ましくは0.125インチ(3.175mm)未満の厚さを有するラミナに有利である。再帰反射シートを形成するための成形型に使用するのに好適なラミナの場合、各ラミナの厚さは、好ましくは約0.020インチ(0.508mm)未満、より好ましくは約0.010インチ(0.254mm)未満である。典型的には、そのようなラミナの厚さは、少なくとも約0.001インチ(0.0254mm)、より好ましくは少なくとも約0.003インチ(0.0762mm)である。そのようなラミナ(単数又は複数)の長さは、約1インチ(25.4mm)〜約20インチ(5.08cm)の範囲内であり、典型的には6インチ(15.24cm)未満である。そのようなラミナの高さ(すなわち、縁18と作用表面16との間の距離)は、典型的には約0.5インチ(12.7mm)〜約3インチ(7.62cm)の範囲内であり、より典型的には約2インチ(5.08cm)未満である。
【0028】
スタック内の集成された複数のラミナは、典型的には、実質的に同一サイズである。各ラミナの厚さ、長さ及び高さは、通常の機械加工許容差に応じたばらつきを有する。他の用途ではより大きい寸法ばらつきでも好適であり得るが、水溶液からの電鋳に付すことが意図される集成ラミナの場合には、ラミナ間の高さのばらつきは、約±0.005インチ(0.127mm)未満、より好ましくは±0.0005インチ(0.0127mm)未満、さらにより好ましくは±0.00005インチ(0.00127mm)未満であることが好ましい。さらに、ラミナ間の長さのばらつきは、好ましくは±0.0005インチ(0.0127mm)未満、より好ましくは±0.0001インチ(0.00254mm)未満、さらにより好ましくは±0.00005インチ(0.00127mm)未満である。ラミナにおける厚さ許容差は、特に再帰反射シートを製造するための成形型に供させるラミナの場合、好ましくは±0.0002インチ(0.00508)未満、さらにより好ましくは±0.0001インチ(0.00254mm)未満、より好ましくは±0.002インチ(0.0508mm)未満である。ラミナの機械加工時及び集成時に反復可能な位置決めを確実に行うために、各ラミナの面(すなわち、面12及び14)は、好ましくは約0.00008インチ(0.0002mm)未満、より好ましくは0.000004インチ(0.0001mm)未満の平均表面粗さになるように機械加工される。
【0029】
接触突起(例えば、1、2及び3)の外側縁は、典型的には、多くとも機械加工時及び/又は集成時の最大目標位置決め誤差に等しい谷/峰(Pv)表面粗さを有する。好ましくは、接触突起のPv表面粗さは、最大目標位置決め誤差の1/3未満、より好ましくは最大目標位置決め誤差の約1/6未満である。したがって、±0.0001インチ(0.0025mm)の最大位置決め誤差では、突起のPv表面粗さは、好ましくは約0.000016インチ(0.0004mm)以下である。
【0030】
丸面取り突起の場合、接触半径1、2及び3のサイズは、好ましくは、ラミナ突起の組成及びラミナの寸法に関連させて、接触半径に作用する力の大きさに基づいて選択される。すなわち、接触半径のサイズは、応力を減少し、変形を防止し、先に記載したような固定具との接触を最小限に抑えるように選択される。0.010インチ(0.254mm)の厚さ、6インチ(15cm)の長さ、及び2インチ(5cm)の高さを有する黄銅で構成された再帰反射シートを、2ポンド(0.9kg)の印加力で製造するのに使用するのに好適なラミナの好適接触半径1、2及び3は、約10インチである。
【0031】
図3を参照すると、ラミナを作製する好ましい方法は、上記した所望の表面粗さ及び厚さ許容差になるように2枚以上のシートの主面12及び14(図示せず)をダイヤモンド旋削機などで面削りするステップと、スタック300の形態にシートを集成するステップと、次に、スタックの全体に渡ってラミナの周囲形状をカッティングする(切り出す)ステップとを含む。主面の面削りは、例えば、グラインディング、ラッピング、ミリングにより、好ましくはダイヤモンド加工により、達成し得る。シートの面削りは、個々のラミナの面削りよりも効率的であり、典型的には、より良好な厚さ均一性(特に、縁近傍)を生じる。さらに、2つ以上のラミナを同時に切り出すことは、ラミナを個別に切り出すよりも効率的であり、典型的には、ラミナ寸法のより良好な均一性を生じる。スタックから同時に切り出し得るシートの数は、個別シートの厚さ及び切り出し時にスタックを保持する能力に依存する。約0.010インチ(0.254mm)の厚さを有するシートでは、少なくとも80枚(例えば100枚)のシートをスタックの形態に集成して、ラミナの同時切り出しを行うことができる。シートの長さ及び高さがラミナの目標の長さ及び高さよりもごく僅かに大きい場合、各シートから1つのラミナを切り出し得る。しかしながら、典型的には、シートのサイズは、各シートから5つ以上のラミナを切り出すのに十分な程度に大きい。周囲形状は、前述した寸法ばらつきを有するラミナを提供するのに好適な任意の手段を用いて、スタックから切り出し得る。しかしながら、ワイヤー放電加工(「ワイヤーEDM」)によりスタックからのラミナの切り出しを行うことが好ましい。そのようにすれば、高さ及び長さの許容差だけでなく縁のPv表面粗さもまた、ラミナの周囲縁の後続の面削りを行うことなく目標の範囲内になる。しかし、その代わりに、それほど精密でない切り出し手段を用いて2つ以上のラミナを同時にスタックから切り出すことも可能である。次に、溝を形成する直前に、図1のラミナ(特に作用表面16)を機械加工用固定具中に位置決めした状態で所望の許容差で機械加工し得る。
【0032】
図2では、両者間に調整可能な開口を設けたジョー111及び112を有する機械加工用固定具100に、ラミナ10が装着されている。開口は、2つの平行な平面状表面と基台109の1つの垂直な平面状表面113とにより画定される。機械加工用固定具は、ラミナの半径3に接触する平面状表面114を有する止め110をさらに含み、一方、平面状表面113はラミナの半径1及び2に接触する。機械加工用固定具は、好ましくは、半径1、2及び3とそれらのそれぞれの平面状表面との接触を維持するために、ラミナ半径4、5及び6に一定の直交力を印加する。そのような力は、メカニカルスレッド、スプリング、レバー、さらには流体圧ピストンのような任意の好適な手段により印加し得る。より一般的には、力は一定である必要もなければ、突起4、5及び6に直接印加する必要もないが、そうすることが好ましい。
【0033】
ラミナの表面14は、ジョー111の第1の平行表面に接触した状態に(例えば、非運動学的に)保持される。任意選択的に、また好ましくは、ラミナの表面12は、同時にジョー112の第2の平行表面に接触した状態に保持される。ジョーは、メカニカルスレッド、スプリング、流体圧ピストン、レバーなどの任意の好適な手段を用いて、また好ましくは、ジョー111及び112に設けた孔又はチャネルを介して作用する真空を利用して、所定の位置に保持し得る。そのような方法で両側からの真空を印加すれば、ラミナの曲げ剛性が増大され、結果として、主要真空表面からラミナが剥落しなくなる。機械加工用固定具は、任意の材料から作製し得る。前述の運動学的に接触した平面状表面114及び113は、好ましくは、耐摩耗性のダイヤモンド加工可能な材料から構築され、続いてダイヤモンド加工により鏡面仕上げされる。好ましくは、ラミナに接触する固定具の平面状表面は、ラミナの材料に類似した硬度又はそれよりも大きい硬度を有する材料から作製される。しかし、その代わりに、固定具の平坦な接触表面は、エネルギーを吸収することによりラミナ接触点に加わる応力を減少させる目的で、より軟質の材料を含み得る。しかしながら、そのような材料は、典型的には、より小さい耐摩耗性を有する。ラミナ突起に接触する機械加工用固定具の各平面状表面(114及び113)は、多くとも前述したようなラミナの縁の表面粗さに等しい表面粗さを有することが好ましい。
【0034】
本発明の方法は、縁部(実質的に平面状の狭い部分、例えば作用表面16)が露出されるように機械加工用固定具中にラミナを運動学的に位置決めした後に、ラミナの縁部を機械加工することを含む。したがって、機械加工される表面部分は、ラミナの厚さの範囲に及ぶ。本明細書中で使用する場合、「機械加工」とは、工作機械によるカッティング、シェイピング、ミリング、グラインディング又はフィニッシングを意味する。ラミナの他の表面(例えば、主面12及び/又は14)を機械加工するために運動学的位置決めを利用することも可能であるが、本発明に係る方法及び装置は、複数のV字形溝を形成することによりラミナの露出縁部(すなわち作用表面16)上にキューブコーナマイクロ構造体を機械加工するのに特に好適である。
【0035】
図1を参照すると、ラミナ10は、第1の主面12及びその反対側の第2の主面14を有する。ラミナ10は、第1の主面12と第2の主面14との間にいずれも延在する作用表面16及びその反対側の下端表面18をさらに有する。ラミナ10はさらに、第1の端表面20及びその反対側の第2の端表面22を有する。
【0036】
ラミナ10は、運動学的位置決めを記述する目的で利用したのと同一の重ね合わされたデカルト座標系を用いて、三次元空間内に特性付けることができる。第1の基準平面24は、主面12と主面14との間の中央に配置される。xz平面と呼ばれる第1の基準平面24は、その法線ベクトルとしてy軸を有する。xy平面と呼ばれる第2の基準平面26は、ラミナ10の作用表面16と実質的に同一面上に延在し、その法線ベクトルとしてz軸を有する。yz平面と呼ばれる第3の基準平面28は、第1の端表面20と第2の端表面22との間の中央に配置され、その法線ベクトルとしてx軸を有する。
【0037】
キューブコーナマイクロ構造体を含むラミナ(単数又は複数)を機械加工する方法では、溝形成機を用いて、第1の溝セット、任意選択的な第2の溝セット、及び好ましくは第3の主要溝が形成される。本明細書中で使用する場合、「溝セット」という用語は、ラミナ10の作用表面16に形成された複数の溝であって、後述するような特定の基準平面に対して名目上平行〜1°以内非平行、及び/又は溝セット内の隣接溝に対して名目上平行〜1°以内非平行の範囲にある複数の溝を意味する。名目上平行な溝とは、溝形成機の精度の範囲内で意図的変化が与えられない溝である。溝角度の精度は、カットの長さ(例えば、ラミナの厚さ)にわたり、典型的には少なくとも±2アーク分(±0.033度)程度の精度、より好ましくは少なくとも±1アーク分(±0.017度)程度の精度、さらにより好ましくは少なくとも±1/2アーク分(±0.0083度)程度の精度、最も好ましくは少なくとも±1/4アーク分(±0.0042度)程度の精度である。溝セットの溝は、さらに詳細に後述されるように、再帰反射発散プロファイルを改善する目的で開先角誤差及び/又はスキュー及び/又はインクリネーションのような小さい意図的変化をも含み得る。
【0038】
一般的には、第1の溝セットは、ラミナの第1の主面12及び作用表面16と交差する溝頂点をそれぞれに有する複数の溝を含む。作用表面16は不変(すなわち非構造化)の状態を維持する部分を含んでいてもよいが、作用表面16は非構造化表面部分を実質的に含まないことが好ましい。
【0039】
第2の溝セット(すなわち、存在する場合)は、ラミナの第1の主面14及び作用表面16と交差する溝頂点をそれぞれに有する複数の溝を含む。第1及び第2の溝セットは、ほぼ第1の基準平面24に沿って交差して、複数の交互に現れる峰とv字形の谷とを含む構造化表面を形成する。
【0040】
第1及び第2の溝セットはいずれも、本明細書中で「サイド溝」として言及されることもある。本明細書中で使用する場合、サイド溝は、基準平面28に名目上平行〜基準平面28に1°以内非平行の範囲内にある溝である。その代わりに又はそれに加えて、サイド溝セット内の個々の溝はまた、互いに名目上平行〜1°以内非平行の範囲内にある。サイド溝は、任意選択的に、基準平面24に対し垂直〜上述した偏差度を有していてもよい。
【0041】
素子の第3の面は、欧州特許出願公開第0844056A1号明細書及び米国特許第6,010,609号明細書(三村)に記載されているように作用表面12又は14から構成されてもよいが、ラミナは、好ましくは、実質的にラミナの全長に延在する主要溝面を含む。主要溝面の形成の結果として、ラミナ上に3つの垂直又はほぼ垂直な光学面を有する複数のキューブコーナ素子を含む構造化表面が得られる。典型的には、そのような主要溝面と作用表面12又は14との交差は、基準平面26に名目上平行である。単一ラミナは、単一の主要溝面、両サイドの1対の溝面、及び/又は、1対の主要溝面を同時に提供する作用表面16と基準平面24との交線に沿った主要溝を、有し得る。
【0042】
反対の姿勢に向けられた1対の単一ラミナ、好ましくは反対の姿勢に向けられた複数のラミナは、典型的には、それらのそれぞれの主要溝面が主要溝を形成するように集成される。
【0043】
本発明は、当技術分野で公知の多くの光学設計に好適である。例示的な光学設計については、例えば、欧州特許出願公開第0844056A1号明細書及び米国特許第6,010,609号明細書(三村)、米国特許第6,015,214号明細書(ヒーナン(Heenan))、米国特許第5,981,032号明細書(スミス(Smith))、米国特許第6,159,407号明細書(クリンケ(Krinke))及び米国特許第6,257,860号明細書(ラトレル(Luttrell))に記載されている。
【0044】
サイド溝は、再帰反射シートの発散プロファイルを改善するためにスキュー及び/又はインクリネーションを含み得る。本明細書中で使用する場合、「スキュー」とは、基準平面28に対する平行からの偏差を意味する。「インクリネーション」とは、名目上直交傾き(すなわち、主要溝表面に垂直なベクトルの傾き)からの特定のサイド溝の基準平面28内の傾きの偏差を意味する。スキューしたサイド溝及び/又はインクリネーションしたサイド溝の利点に関するさらに詳細な内容は、本出願と同一日に出願された「キューブコーナ素子を含むラミナ及び再帰反射シート」という名称の米国特許出願代理人事件整理番号FN58179US002中に見出される。
【0045】
スキュー及び/又はインクリネーションによる単一のキューブコーナ素子の形状変化は、単一の素子に対しては小さいが(例えば、主に二面角の変化に限られる)、スキューした溝及び/又はインクリネーションした溝をラミナのスタックに形成する際には、問題を伴い得ることは明らかである。サイド溝は1°程度まで平行からずれるので、かなり多様なキューブジオメトリーがスタックの全体に渡って生成される可能性がある。この多様性は、スタックサイズの増加に伴って増加する。多様なキューブジオメトリーを生成することなく同時に(すなわちスタックで)機械加工できる最大ラミナ数の計算値は、僅か2つ程度のラミナである(例えば、0.002インチ(0.0508mm)のサイド溝間隔を有する厚さ0.020インチ(0.508mm)のラミナで、1°のスキューの場合)。したがって、本明細書に記載の方法及び装置は、サイド溝が「スキュー」及び/又は「インクリネーション」を含む個々のラミナを機械加工するのに特に有用である。
【0046】
好ましくは少なくとも3つの自由度で運動学的に拘束した状態で、複数の溝を、ラミナ(単数又は複数)の露出縁(単数又は複数)上に溝形成機を用いて形成する。直接機械加工法の例としては、米国特許第4,588,258号明細書(フープマン(Hoopman))及び同第3,712,706号明細書(スタム(Stamm))に記載されているように、フライカッティング、ミリング、グラインディング及びルーリングが挙げられる。これら米国特許には、溝をカッティングして基材中にキューブコーナ光学面を形成するための2つの対向するカッティング表面を有する1回通過又は複数回通過の工作機械が開示されている。好ましくは、ダイヤモンドツールを利用して溝を形成する。
【0047】
複数のV形溝は、好ましくは、各溝を高精度で形成することのできるダイヤモンドツール機械を用いて形成される。コネチカット州ブリッジポートのムーア・スペシャル・ツール・カンパニー(Moore Special Tool Company,Bridgeport,CT)、ニューハンプシャー州キーンのプレシテック(Precitech,Keene,NH)、及びペンシルバニア州ピッツバーグのエアロテック・インコーポレーテッド(Aerotech Inc.,Pittsburg,PA)は、そのような目的に好適な機械を製造している。そのような機械は、典型的にはレーザー干渉計位置決めデバイスを含む。好適な精密ロータリーテーブルは、エイエイ・ゲイジ(AA Gage)(ミシガン州スターリング・ハイツ(Sterling Heights,MI))から商業的に入手可能であり、一方、好適な顕微干渉計は、ザイゴ・コーポレーション(Zygo Corporation)(コネチカット州ミドルフィールド(Middlefield,CT))及びビーコ(Veeco)の1部門であるワイコ(Wyko)(アリゾナ州トゥーソン(Tucson,AZ))から商業的に入手可能である。マイクロ構造(例えば、溝頂点間隔及び溝深さ)の精度(すなわち、ポイントツーポイント位置決め)は、好ましくは±500nm程度の精度、より好ましくは少なくとも±250nm程度の精度、最も好ましくは少なくとも±100nm程度の精度である。溝角度の精度は、カットの長さ(例えば、ラミナの厚さ)にわたり、少なくとも±2アーク分(±0.033度)程度の精度、より好ましくは少なくとも±1アーク分(±0.017度)程度の精度、さらにより好ましくは少なくとも±1/2アーク分(±0.0083度)程度の精度、最も好ましくは少なくとも±1/4アーク分(±0.0042度)程度の精度である。さらに、解像度(すなわち、現在軸位置を検出する溝形成機の能力)は、典型的には精度の少なくとも約10%である。したがって、±100nmの精度では、解像度は少なくとも±10nmである。短い距離(すなわち、10個の隣接平行溝)では、精度はほぼ解像度に等しい。そのような高確度の複数の溝を継続時間にわたり終始一貫して形成するために、プロセスの温度は、±0.01℃以内、好ましくは±0.1℃以内に維持される。
【0048】
使用に好適なダイヤモンドツールは、ケイ・アンド・ワイ・ダイヤモンド(K&Y Diamond)(ニューヨーク州ムーアーズ(Mooers,NY))又はチャードン・ツール(Chardon Tool)(オハイオ州チャードン(Chardon,OH))から購入することのできるダイヤモンドツールのように、高品質のものである。特に、好適なダイヤモンドツールは、先端から0.010インチ(0.254mm)以内がスクラッチフリーである。これは、2000倍の白色光顕微鏡を用いて評価できる。典型的には、ダイヤモンドの先端は、約0.00003インチ(0.000762mm)〜約0.00005インチ(0.001270mm)の範囲内のサイズの平坦部分を有する。さらに、好適なダイヤモンドツールの表面仕上げは、好ましくは約3nm未満の粗さ平均及び約10nm未満の峰から谷までの粗さを有する。表面仕上げは、機械加工可能な基材にテストカットを形成して、ビーコ(Veeco)の1部門であるワイコ(Wyko)(アリゾナ州トゥーソン(Tucson,AZ)から購入できるような顕微干渉計によりテストカットを評価することにより、評価可能である。
【0049】
ラミナの作用表面16はマイクロ構造化される。つまり、構造体(例えばキューブコーナ素子)の横方向寸法は、好ましくは0.0005インチ(0.0127mm)〜0.25インチ(6.35mm)の範囲内にある。本明細書中で使用する場合、「横方向寸法」とは、対向する面間又は特徴体間で測定されるような構造体のサイズ(例えば、隣接サイド溝の溝頂点間の距離又はラミナの厚さ)を意味する。素子の横方向寸法は、好ましくは0.015インチ(0.381mm)未満、より好ましくは0.010インチ(0.254mm)未満、最も好ましくは約0.006インチ(0.1524mm)未満である。
【0050】
所望のマイクロ構造体を有するように個々のラミナの縁を機械加工した後、複数のラミナを所望の構成でスタッキングする。典型的には、キューブコーナマイクロ構造体の場合、第1のラミナ上のキューブが隣接ラミナに対して反対のキューブ姿勢を向くように、ラミナをスタッキングする。
【0051】
機械加工用固定具及び集成用固定具は、垂直支持基台に連結された2つの対向平行表面を含むという共通した特徴を共有する。対向平行表面は、それらの間に調整可能な開口を有する。それら固定具はまた、ラミナを受容すべく対向表面の少なくとも一方を後退及び前進させるための手段、並びに個々のラミナを運動学的に位置決めするための手段を有する。さらに、それら固定具は、好ましくは、ラミナ(単数又は複数)の適正な配置を確認するのに好適な手段、例えば、接触(例えばプローブ)型及び非接触(例えば顕微鏡)型の計測器を備える。機械加工用固定具は、ラミナ(単数又は複数)の露出縁に所望のマイクロ構造体を形成する間、単一のラミナを運動学的に位置決めするように設計される(そのような位置決めは一時的に行われる)。一方、集成用固定具は、スタック内に各ラミナを運動学的に位置決めするように設計される。
【0052】
図4を参照すると、マイクロ構造化表面部分を含む複数のラミナのスタック460は、集成用固定具400の第1の(例えば固定の)ジョー410と第2の(例えば可動の)ジョー420との間に拘束される。ラミナの主面12及び14に接触(すなわち非運動学的に接触)するジョーの平行表面は、基台430の垂直表面と組み合わされて、精密機械加工ポケットを形成し、ポケットの長さは、最終的なスタックの最長ラミナよりも僅かに大きい(例えば、0.0001インチ(0.00254mm)大きい)。固定ジョー410は、好ましくは0.0005インチ(0.0127mm)以内で、より好ましくは0.0001インチ(0.00254mm)以内でポケット縁に垂直になるように、スクリュー415を用いて基台430に強固に固定される。可動ジョー420は、前進又は後退させて、最終的な集成スタックの幅よりも僅かに広い位置にネジ25で強固に固定される。ラミナの突起(すなわち、接触半径1、2及び3)に接触するポケットの表面は、例えば0.0001インチ(0.00254mm)以内で平坦である。図示されている基台及びジョーは、それぞれ単一部分から構成されているが、その代わりに、上述した許容差を達成するように正確に配置された複数部分から構築することも可能である。
【0053】
ラミナの集成時には、塵埃及び他の有機又は無機の汚染物質が原因で生じるおそれのある位置決め誤差を回避するのに十分な程度に、集成用固定具及びラミナ(単数又は複数)がクリーンな状態になるように注意を払う。その場合、集成用固定具内にラミナを挿入する前に、集成用固定具及び各ラミナの接触表面を、好適な溶媒、石鹸溶液及び/又は脱イオン水で洗浄する。さらに、好ましくはクリーンルーム中で集成を行う。
【0054】
固定ジョーから可動ジョーの方向に蓄積されるように、必ずというわけではないが好ましくは一度に、ラミナ(単数又は複数)をポケットに挿入する。集成用固定具によりラミナに加えられる運動学的拘束は、機械加工用固定具による拘束にかなり近い。可動ジョー420は、スタックに加わる一定のy軸方向の力を維持し、かつ挿入される後続のラミナのためのギャップをy軸方向に間欠的に形成する、二段階デバイスを含む。二段階デバイスの一定の力は、任意の好適な機械的手段又は手動的手段により提供され得るが、好ましくは空気式ピストンにより提供される。デバイスの第1段階は、ポケットの下端の方向にラミナの高さの1/2にほぼ等しい距離までラミナを挿入できるようにする。デバイスの第2段階は、このラミナをポケットの下端の方向に残りの距離まで挿入できるようにする。各ラミナをスタックの形態に挿入した後、任意の好適な機械的手段又は手動的手段により、半径3がポケットの対応する縁に接触するようにラミナをx方向に押圧し、そして半径1及び2がポケットの下端に接触するようにz方向にも押圧する。集成プロセスを行う際、ラミナの適正位置を確認すべくラミナ位置を測定し、必要であれば、個別に調整を行うことが可能である。位置決め突起(単数又は複数)の反対側の突起(すなわち、接触半径5及び6を含む突起)が、前述したような一定した高さであるとすれば、例えば、露出した突起の上端に沿ってプローブを移動させることによりラミナの位置を確認することができる。ラミナが適切に位置決めされていることを確認した後、調整ネジ470を締めて、ラミナを可動ジョーに接触させる。次に、締付けネジ425を僅かに弛めることにより、調整ネジに加えられた適度なトルクを利用して可動ジョーをy方向に平行移動させる。次に、適正圧力がスタックに加えられるまで、調節ネジを個別に締める。固定具(特に、ラミナ(単数又は複数)に接触する構成部品)の構築に使用される材料は、ラミナ材料の熱膨張係数に類似した熱膨張係数を有するように選択される。スタックは、固定ジョー及び可動ジョーの外表面を越えて約0.050インチ(1.27mm)突出し、複製のためのマイクロ構造化表面を提供する。
【0055】
機械加工したときと同一の姿勢で複数のラミナを集成することが好ましい(例えば、接触半径3が集成用固定具の同一側の表面に接触するように、ラミナを方向付ける)。或いはまた、隣り合うラミナが反対の姿勢を向くように、複数のラミナを配置することも可能である。例えば、隣り合うラミナを、半径4が集成用固定具の、それぞれに対応する側の表面に運動学的に接触するように位置決めすることができる。複数のラミナをこのように互い違いに置くことは、作用表面16に切削形成された異なるタイプの光学的設計を最小限にする点で有利である。しかしながら、そのような集成は、ラミナの位置決めを互い違いにしたときに生ずる誤差が溝形成機を用いて対向構造体を形成するときに生ずる誤差よりも大きいので、より困難であり、かつそれほど正確ではないと推測される。
【0056】
運動学的に位置決めされて集成された複数のラミナは、米国特許第4,486,363号明細書(プリコーン(Pricone)ら)に記載されているエンボスツールなどのツールとして使用できる。しかしながら、典型的には、集成ラミナは非常に小さい表面積を有するので、製造効率を得るために、ツールの複製後、シーミング又はタイリングを行って複製コピーを一体化し、実質的により大きいツールを作製するようにする。
【0057】
露出したマイクロ構造化表面を複製するために、図5に示されるように、複数のラミナのマイクロ構造化表面が露出されかつ固定具の残りの部分がカバーされるように、0.050インチ(1.27mm)の厚肉のカバーシート500を固定具に装着する。典型的には、ステンレス鋼のような導電性シートを、スタックの突出したマイクロ構造化表面のサイズよりも僅かに小さい開口を有するように機械加工する(例えばワイヤーEDM)。カバーシートは、好ましくは、メッキのバリ(例えば、電着された材料の非常に薄い層であって、典型的には約0.0002インチ(0.00508mm)未満の厚さを有する)の除去を容易にすべく、背面(図示せず)に鏡面仕上げが施され、かつ電鋳されたツールの一方向ストリッピングを可能にすべく、前面に直線的サンダー仕上げが施される。好ましくは、サンダー仕上げラインは、ラミナの主要溝にほぼ平行である。カバーシートは、好ましくは、メッキされたレプリカにおける境界部のバリを最小限に抑えるべく、スタックの突出部の周囲に(例えば熱的に)収縮嵌めされ、例えば、カバーシートの背面に溶接されたスタッドを用いて集成用固定具に取り付けられる。しかしながら、取付け具が電気メッキされることがないように、取付け具は、カバーシートを貫通して延在することはない。カバーシートに取り囲まれた複数のラミナのマイクロ構造化表面は、非導電性メッキ用の固定具に配置される。
【0058】
或いはまた、集成スタックは、周縁の平面状表面部分を含んでいてもよい。これは、スタックの両端に非構造化ラミナを挿入することと、作用表面16の両端の一部分を非構造化状態で残存させることとを組み合わせることにより、達成される。周縁の平面状部分がスタックの周縁で少なくとも0.125インチ(3.175mm)の幅であれば、カバーシートが不要になる可能性がある。しかしながら、カバーシートが存在しない場合は、ラミナスタック及び集成用固定具のジオメトリーは、電鋳されたレプリカを引き剥がすことができるようなものでなければならない(すなわち、レプリカが固定具に固着しないようにしなければならない)。
【0059】
次に、従来のニッケル電鋳のような任意の好適な方法を用いて、「マスター成形型」とも呼ばれる露出マイクロ構造化表面を複製し、マイクロ構造化シートを形成するのに望ましいサイズのツールを作製する。好ましくは、集成ラミナのスタックを湿潤状態に保持し、その後、電鋳を開始し、集成ラミナのスタックから各レプリカを取り出し、その後、ラミナスタックの主面間に滲出した可能性のあるメッキ溶液の乾燥を行う。各レプリカを取り出した後、もう一度メッキを開始するまで、スタックを継続的に湿潤状態に保持する。このようにしてマルチジェネレーショナルなポジティブ及びネガティブコピーツールが形成される。そのようなツールは、マスターと実質的に同一のキューブ形成精度を有する。米国特許第4,478,769号明細書及び同第5,156,863号明細書(Pricone)並びに米国特許第6,159,407号明細書(Krinke)に記載されているような電鋳法は、公知である。複数の複製物は、多くの場合、例えば、米国特許第6,322,652号明細書(ポールソン(Paulson))に記載されているような溶接により、連結一体化される。次に、得られたツールを利用して、当技術分野で知られているようなエンボス加工、押出加工又はキャスト・キュアリングなどの方法によるキューブコーナ型再帰反射シートの形成に供することが可能である。
【0060】
上記の説明は、例示を目的としたものであり、限定しようとするものではない。本発明の種々の修正形態及び変更形態は、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく以上の説明から当業者に自明なものとなろう。また、本発明は、本明細書中に記載されている例示的な実施形態に過度に制限されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラミナを機械加工する方法であって、
ラミナを用意することと、
前記ラミナの縁部が露出されるように、前記ラミナを固定具に運動学的に位置決めすることと、
前記ラミナの前記縁部に複数の溝を形成することと、
を含む方法。
【請求項2】
前記ラミナが0.001インチ〜0.020インチの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ラミナが0.003インチ〜0.010インチの範囲の厚さを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の溝がキューブコーナマイクロ構造体を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ラミナが最小限の個別の接触点で前記固定具により拘束される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ラミナが、xz平面内に延在して、前記固定具により3自由度で運動学的に拘束される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記自由度が、x方向の平行移動、z方向の平行移動及びyを中心とする回転を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ラミナが少なくとも3つの非平面状突起を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ラミナが、両側の真空により非運動学的に拘束される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ラミナが、機械加工可能なプラスチック又は機械加工可能な金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ラミナが0.002インチ〜0.020インチの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ラミナが±0.002インチの厚さ許容差を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ラミナが±0.0002インチの厚さ許容差を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記溝の少なくとも一部分がサイド溝である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記サイド溝が、スキュー、インクリネーション又はそれらの組合せを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ラミナを集成する方法であって、
マイクロ構造化した縁を含むラミナを用意することと、
固定具に個々のラミナを運動学的に位置決めしてスタックを形成することと、
前記スタックにおける前記ラミナの位置を維持することと、
を含む方法。
【請求項17】
前記ラミナが0.002インチ〜0.020インチの範囲の厚さを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ラミナが±0.002インチの厚さ許容差を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ラミナが±0.0002インチの厚さ許容差を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ラミナを作製する方法であって、
各々が2つの主面を有する少なくとも2枚のシートを用意することと、
前記シートの前記主面を均一な厚さに機械加工することと、
前記シートをスタックの形態に集成することと、
前記スタックから2つ以上のラミナを同時に切り出すことと、
を含む方法。
【請求項21】
前記切り出しがワイヤー放電加工により達成される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ラミナが0.002インチ〜0.020インチの範囲の厚さを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記ラミナが±0.002インチの厚さ許容差を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記ラミナが±0.0002インチの厚さ許容差を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記シートの前記主面が0.000008インチ未満のPv表面粗さを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記ラミナの長さが0.001インチ未満だけ異なる、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記ラミナの長さが0.0001インチ未満だけ異なる、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記主面の前記機械加工がダイヤモンド工具により達成される、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
マスター成形型を複製する方法であって、
ラミナのスタックであって、露出したマイクロ構造化表面を有するスタックを、固定具に用意することと、
前記マイクロ構造化表面が露出されるように前記スタックに導電性カバーシートを装着することと、
電気メッキ溶液を用いて、前記露出した表面に電鋳処理を施して、レプリカを形成することと、
を含む方法。
【請求項30】
前記メッキ溶液を乾燥させる前に、前記スタックから前記レプリカを取り出すことをさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記カバーシートを収縮嵌めすることをさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
運動学的に位置決めするのに適した突起を含む、ラミナ。
【請求項33】
マイクロ構造化表面を含む、請求項32に記載のラミナ。
【請求項34】
前記マイクロ構造化表面がキューブコーナ素子を含む、請求項32に記載のラミナ。
【請求項35】
垂直支持基台により連結された2つの対向平行表面であって、両者間に調整可能な開口を有する表面と、
ラミナを受容すべく前記対向平衡表面の少なくとも一方を後退及び前進させるための手段と、
個々のラミナを運動学的に位置決めするための手段と、
を含む、ラミナの固定具。
【請求項36】
前記固定具が、スタック内で複数の前記ラミナの位置を維持するための手段をさらに含む、請求項35に記載の固定具。
【請求項37】
前記ラミナの位置を確認するための手段をさらに含む、請求項35に記載の固定具。
【請求項38】
前記位置決めが±0.0001インチ以下の精度を有する、請求項35に記載の固定具。
【請求項39】
前記対向表面が真空を含む、請求項35に記載の固定具。
【請求項40】
運動学的位置決めに適した複数の突起を含む、請求項35に記載の固定具。
【請求項41】
ラミナを機械加工する方法であって、
ラミナを用意することと、
前記ラミナの表面が露出されるように、前記ラミナを固定具に運動学的に位置決めすることと、
前記ラミナの前記表面を機械加工することと、
を含む方法。
【請求項42】
前記ラミナの前記露出した表面が、その厚さに渡って設けられる、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記ラミナが0.002インチ〜0.020インチの範囲の厚さを有する、請求項41に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218811(P2011−218811A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−122084(P2011−122084)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【分割の表示】特願2006−508701(P2006−508701)の分割
【原出願日】平成16年2月9日(2004.2.9)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】