説明

ラミニン結合型αDG合成促進剤

【課題】 ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進因子としてのLARGE2の用途を提供する。
【解決手段】
(a)特定のアミノ酸配列からなるポリペプチド、または(b)特定のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチド、を含有するポリペプチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤、該因子を含有するラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤ならびに医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリペプチドLARGE2の用途およびLARGE2をコードする核酸配列の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
筋ジストロフィーは、ジストロフィン結合糖ポリペプチド複合体(DGC)の崩壊により引き起こされる先天性筋疾患である。骨格筋におけるDGCの主要構成成分であるジストログリカン(DG)は、筋収縮のあいだ、剪断応力に対して筋細胞膜を機械的に保護すると考えられている。
DG前駆体ポリペプチド(GenBank登録番号NP_004384、配列番号15)は、N末端から順にシグナル配列、ムチン様領域および1つの膜貫通領域を有している。DG前駆体ポリペプチドは、翻訳された後、α−ジストログリカン(αDG)とβ−ジストログリカン(βDG)に切断される。αDGは、糖鎖が付加された表在性膜ポリペプチドであり、ウェスタンブロッティングにより、骨格筋においては156kDa、心筋においては140kDa、脳および抹消神経においては120kDaの見かけ上の分子量を有するスメアバンド(smear band)として検出される。αDGについては、非共有結合により細胞表面上でβDGに結合していること、また、細胞外マトリクスの構成成分であるラミニンとも直接結合していることが知られている。βDGは、膜貫通ポリペプチドであり、細胞内領域でジストロフィンを介してアクチン骨格に連結することが知られている。すなわち、細胞外マトリクスとアクチン骨格とは、DG等を介して連結していると考えられている。
【0003】
福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)、MEB病(MEB)およびウォーカーワルバーグ症候群(WWS)などの先天性筋ジストロフィー患者において共通してみられる特徴として、αDGのグリコシル化の異常が挙げられる。非特許文献1にて、カナガワらは、LARGE(以下、「LARGE1」と称する)が存在することにより、αDGに対する糖の付加が観察されること、また、そのようなαDGはラミニンに対する結合能を有することを示し、ラミニンとαDGとの結合に重要なαDGのグリコシル化に、LARGE1が関わっていることを報告した(非特許文献1)。また、非特許文献2にて、バレシ(Barresi)らは、large遺伝子(以下、「large1」と称する)に変異が生じた結果ヒトの筋ジストロフィーに類似の病状を示すモデルマウス(Largemydマウス)においてLARGE1を過剰発現させた場合、病状の改善がみられたことを報告した(非特許文献2)。なお、現在のところ、筋ジストロフィーの治療に有効であると期待される物質は、LARGE1の他に細胞傷害性T細胞由来GalNAc転移酵素(cytotoxic T cell(CT) GalNAc transferase)があり、トランスジェニックmdx-CTマウスで筋ジストロフィーの症状を改善するがαDGのラミニンなどのリガンドと結合する能力には変化がないことが報告されている。
【0004】
【非特許文献1】カナガワら、「セル(Cell)」、2004年6月25日発行、第117巻、第7号、953〜964頁
【非特許文献2】バレシら、「ネイチャー メディシン(Nature Medicine)」、2004年7月1日発行、第10巻、696〜703頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤としてのLARGE2の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、LARGE1とホモロジーを有するLARGE様ポリペプチド(配列番号1:以下「LARGE2」とよぶ)が、ラミニン結合型αDG合成を促進し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(a)配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または
(b)配列番号1に示されたアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチド
を含有するポリペプチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤に関する。
本発明はまた、配列番号1に示されたアミノ酸配列に80%〜100%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチドを含有するポリペプチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤に関する。
さらに、本発明は、
(a)配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または
(b)配列番号1に示されたアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチド
をコードする核酸配列を含んでなるポリヌクレオチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤に関する。
そのうえさらに、本発明は、配列番号1に示されたアミノ酸配列に80%〜100%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなるポリヌクレオチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤に関する。
本発明はまた、前記因子を含むラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤およびラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤を有効成分として含有する筋ジストロフィー疾患治療のための医薬組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤は、細胞内に導入されることにより、ラミニンと結合し得るαDGの細胞外分泌を促進することができる。本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤は、ラミニン結合型αDGの合成を促進するという効果を有するばかりでなく、αDGへのグリコシル化量が大きく副産物(ラミニンと結合することができないαDG)の生成が極めて少ないという効果も有しており、医薬として使用するという観点からも非常に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤は、LARGE2と同等の機能を細胞内で発揮する因子、すなわち、細胞内に導入されることにより、ラミニン結合型αDGの細胞外分泌および/またはαDGのグリコシル化を生じ得る因子である限り、特に限定されない。尚、本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤は、糖鎖付加不良型αDGの細胞外分泌抑制剤としても使用することができる。尚、糖鎖付加不良型αDGとは、充分な糖鎖が付加されていない為に、細胞外(細胞表面を含む)に分泌された場合にラミニンと結合することができないαDGを意味する。
【0010】
たとえば、本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤は、ポリペプチドLARGE2またはLARGE2類似体であってもよく、LARGE2またはLARGE2類似体とともに他の分子等を含有するものであってもよい。他の分子としては、たとえば、ヒスチジンタグ(「Hisタグ」または「His−6tag」とも記載する)またはフラッグタグ(「Flag」または「Flagタグ」とも記載する)などのタグ、緑色蛍光ポリペプチド(GFP)などの蛍光ポリペプチド、ルシフェラーゼなどの発光ポリペプチドまたは細胞膜透過シグナル等の各種シグナル配列を挙げることができる。
【0011】
あるいは、本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤は、LARGE2またはLARGE2類似体を含有するポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなるポリヌクレオチド、(たとえば、発現ベクター等)であってもよい。尚、該核酸配列やそれを含んでなるポリヌクレオチドはLARGE2またはLARGE2類似体を含有するポリペプチドをコードしていれば特に制限されず、DNA、RNAやその置換体、合成核酸等いずれでも良い。
【0012】
さらに、本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤として、配列番号1の381番〜430番のアミノ酸配列に50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含有するポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチドを用いることができる。
【0013】
そのうえさらに、本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤として、配列番号1の381番〜430番のアミノ酸配列に50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含有するポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなるポリヌクレオチドを用いることができる。
【0014】
本明細書において、LARGE2は、配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または配列番号2に示されたDNA配列がコードするポリペプチドである。
【0015】
本明細書において、LARGE2類似体とは、
(1)配列番号1に示されたアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、細胞内に導入されることにより、ラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌および/またはα−ジストログリカンのグリコシル化を生じ得る因子、
(2)配列番号1に示されたアミノ酸配列に80%〜100%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、ラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌および/またはα−ジストログリカンのグリコシル化を生じ得るポリペプチド、
(3)配列番号2に示されたDNA配列において1または数個のヌクレオチドが欠失、置換または付加されたDNA配列がコードするポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、ラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌および/またはα−ジストログリカンのグリコシル化を生じ得るポリペプチド、または
(4)配列番号2に示されたDNA配列に80%〜100%の同一性を有するDNA配列がコードするポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、ラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌および/またはα−ジストログリカンのグリコシル化を生じ得るポリペプチド
を意味する。
【0016】
なお、ラミニン結合型αDG合成促進剤の細胞内導入によるラミニン結合型αDGの細胞外分泌および/またはαDGのグリコシル化は、常法により当業者が適宜確認することができ、たとえば、本明細書中の実施例に記載する方法によって確認することができる。
【0017】
本明細書において、「同一性を有する」とは、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列において同一の配列をもつこと、あるいは、配列において一致するアミノ酸残基またはヌクレオチドが存在することを意味するものである。同一性の値は、たとえば、BLAST検索(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)により得ることができ、BLAST検索で得られた結果における“identities”の値を採用することができる。
【0018】
本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤は、本明細書中の記載および常法に基づき、当業者により製造されることができる。たとえば、配列番号3に示されたDNA配列と配列番号6に示されたDNA配列とを用いるPCR法によりLARGE2をコードするDNA配列を得、ついで同DNA配列を哺乳類細胞(たとえば、HEK293T細胞)用の発現ベクターに挿入することによって製造することができる。
あるいはまた、本発明のラミニン結合型αDG合成促進剤は、LARGE2、公知の細胞膜透過シグナル配列およびタグからなる融合ポリペプチドの発現ベクターを作製し、同ベクターを哺乳類細胞(たとえば、HEK293T細胞)にトランスフェクションし、ついで、発現された目的ポリペプチドをタグに対する抗体を用いて分離することによって製造することができる。
【0019】
本発明のラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤は、前記ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤を含むものである限り、特に限定されない。たとえば、本発明のラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤は、緩衝剤等の他の成分を含有するものであってよい。
あるいは、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤は、アデノウイルス等のウイルス遺伝子にLARGE2の遺伝子をサイトメガロウイルスプロモータ等と共に組み込み、その組替えアデノウイルス等を培養し精製後、生理食塩水に溶かして使用することもできる。また、LARGE2の遺伝子をRNAとしてレトロウイルスベクター等を利用して使用することもできる。
【0020】
本発明の筋ジストロフィー治療のための医薬組成物は、有効成分として前記ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤を含有し、筋ジストロフィーの治療のために投与され得るものである。本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、性別、症状、体重、投与方法および当業者が認めるその他の因子によって異なる。たとえば、投与量は、前述のアデノウイルスベクターを用いる場合、成人一人あたり筋肉重量100gにつき1×107pfu〜1×1012pfuの範囲とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明の医薬組成物は、非毒性の薬学的に許容され得る担体を含み得る。たとえば、注射剤の場合には、生理食塩水あるいは市販の注射用蒸留水等の担体を用いることができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射のような医療上適当な投与形態が例示できる。好ましくは筋肉内注射である。
【実施例】
【0022】
本発明をさらに詳細に説明するため、以下に実施例、比較例および参考例を記載する。しかしながら、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0023】
<試薬>
抗αDGモノクローナル抗体IIH6C4およびVIA4−1:アップステート セル シグナリング ソリューションズ、アメリカ合衆国、ニューヨーク州
抗ラミニン抗体:シグマーアルドリッチ、アメリカ合衆国、ミズーリ州
抗Hisタグ抗体とホースラディッシュペルオキシダーゼとのコンジュゲート(抗His−6−HRP):ベクトン、ディッキンソン アンド カンパニー、アメリカ合衆国、ニュージャージー州
抗Flagタグ抗体とホースラディッシュペルオキシダーゼとのコンジュゲート(抗Flag−HRP):シグマ−アルドリッチ、アメリカ合衆国、ミズーリ州
ヒト胎児腎細胞293T(HEK293T):ATCC CRL−1573
【0024】
実施例1
<LARGE2のcDNAクローニングおよび発現ベクターの構築>
ヒトLARGE2(配列番号1)をコードするDNA配列(配列番号2)を、以下のように作製した。
腎臓の全RNA(クロンテック社、アメリカ合衆国、カルフォルニア州)1μgを基にSuperScript First-Strand Synthesis for RT-PCR(インビトロジェン社、オランダ、フローニンゲン)を用いて合成したcDNAを鋳型として用い、プライマー1とプライマー2とのペア(large2の5′末端側DNA配列増幅用)またはプライマー3とプライマー4とのペア(large2の3′末端側DNA配列増幅用)を用いて、PCRを行った。なお、PCRのキットとしてはPyrobest DNA Polymerase(タカラ、日本)を使用した。反応液において、cDNA1μl、プライマー各25pmolを用いた。dATP、dTTP、dGTPおよびdCTP、ならびに緩衝液は、キットに添付の物を使用し添付の手順書に従い計50μlの反応溶液を調製した。同PCRは、始めに95℃で5分間インキュベーションした後、98℃で1分間、55℃で1分間および72℃で1分間のインキュベーションを1サイクルとして合計35サイクル、ついで72℃で10分間インキュベーションすることにより実施した。プライマー配列は以下のとおりである。
プライマー1:5′−AGCTGATATCACCATGCTGCCCCGAGGGCGCCC−3′(配列番号3)
プライマー2:5′−TGGGGATCCAGGAGACCTGGGGCT−3′(配列番号4)
プライマー3:5′−CCTGGATCCCCAACAAGCACTACTCCGG−3′(配列番号5)
プライマー4:5′−ACTGGCGGCCGCTCAGCCTCGGGCAGGGCTCT−3′(配列番号6)
【0025】
プライマー1とプライマー2とのペアを用いて得られたDNA配列を、EcoRVおよびBamHIで処理し、ついで得られたDNA断片をpBluescript SK(ストラタジーン社、アメリカ合衆国、カルフォルニア州)に挿入することにより、large2の5′末端側領域を含有するベクター(以下、「pBluescript SK−Large2N」とする)を構築した。
プライマー3とプライマー4とのペアを用いて得られたDNA配列をBamHIおよびNotIで処理し、ついで得られたDNA断片をpBluescript SK−Large2NのBamHI/NotI部位に挿入することにより、LARGE2全長をコードするDNA配列を含有するベクター(以下、「pBluescript SK−Large2」とする)を構築した。
つぎに、pBluescript SK−Large2をEcoRVおよびNotIで処理し、得られたDNA断片をpcDNA3.1(インビトロジェン社、オランダ、フローニンゲン)にサブクローニングすることにより、LARGE2全長を発現するための発現ベクター(以下、「pcDNA3.1−Large2」とする)を構築した。
【0026】
参考例1
<LARGE1のcDNAクローニングおよび発現ベクターの構築>
ヒトLARGE1(配列番号13)をコードするDNA配列(配列番号14)を、以下のように作製した。
腎臓の全RNA(クロンテック社、アメリカ合衆国、カルフォルニア州)1μgを基にSuperScript First-Strand Synthesis for RT-PCR(インビトロジェン社、オランダ、フローニンゲン)を用いて合成したcDNAを鋳型として用い、プライマー5とプライマー6とのペア(large1の5′末端側DNA配列増幅用)またはプライマー7とプライマー8とのペア(large1の3′末端側DNA配列増幅用)を用いて、PCRを行った。なお、PCRのキットとしてはPyrobest DNA Polymerase(タカラ、日本)を使用した。反応液において、cDNA1μl、プライマー各25pmolを使用した。dATP、dTTP、dGTPおよびdCTP、ならびに緩衝液はキットに添付の物を使用し添付の手順書に従い計50μlの反応溶液を調製した。また、同PCRは、始めに95℃で5分間インキュベーションした後、98℃で1分間、55℃で1分間および72℃で1分間のインキュベーションを1サイクルとして合計35サイクル、ついで72℃で10分間インキュベーションすることにより実施した。
プライマー5:5′−ATGCGGTACCACCATGCTGGGAATCTGCAGGGG−3′(配列番号7)
プライマー6:5′−TGGGGATCCAGGAAACTTCAGACTTGA−3′(配列番号8)
プライマー7:5′−CCTGGATCCCCAATAAACATTACTCTG−3′(配列番号9)
プライマー8:5′−AGTCTCTAGACTAGCTGTTGTTCTCGGCTGT−3′(配列番号10)
【0027】
プライマー5とプライマー6とのペアを用いて得られたDNA配列を、KpnIおよびBamHIで処理し、ついで得られたDNA断片をpcDNA3.1(インビトロジェン社、オランダ、フローニンゲン)にクローニングすることにより、LARGE1のN末端側領域の発現ベクター(以下、「pcDNA3.1−Large1N」とする)を構築した。
プライマー7とプライマー8とのペアを用いて得られたDNA配列は、BamHIおよびXbaIで処理し、ついで得られたDNA断片をpcDNA3.1−Large1NのBamHI/XbaI部位にクローニングすることにより、LARGE1全長を発現するための発現ベクター(以下、「pcDNA3.1−Large1」とする)を構築した。
【0028】
参考例2
<αDGのcDNAクローニングおよび発現ベクターの構築>
αDGのアミノ酸残基30〜653(αDGのアミノ酸残基1〜29(分泌シグナル配列)およびアミノ酸残基654〜895(βDG)を除く領域)の発現ベクターを作製するために、以下の操作を行った。
腎臓の全RNA(クロンテック社、アメリカ合衆国、カルフォルニア州)1μgを基にSuperScript First-Strand Synthesis for RT-PCR(インビトロジェン社、オランダ、フローニンゲン)を用いて合成したcDNAを鋳型として用い、プライマー9とプライマー10とのペアを用いて、PCRを行った。なお、PCRのキットとしてはPyrobest DNA Polymerase(タカラ、日本)を使用した。反応液において、cDNA1μl、プライマー各25pmolを使用した。dATP、dTTP、dGTPおよびdCTPならびに緩衝液は、キットに添付の物を使用し添付の手順書に従い計50μlの溶液を調製した。また、同PCRは、始めに95℃で5分間インキュベーションした後、98℃で1分間、55℃で1分間および72℃で1分間のインキュベーションを1サイクルとして合計35サイクル、ついで72℃で10分間インキュベーションすることにより実施した。
プライマー9:5′−CTTGCGGCCGCGCACTGGCCCAGTGAACCCT−3′(配列番号11)
プライマー10:5′−GATGAATTCGCGCCCCGGGTGATATTCTGCAGGG−3′(配列番号12)
【0029】
得られたDNA配列をNotIおよびEcoRIで処理した。
pFLAG−CMV3(シグマ社、アメリカ合衆国、ミズーリ州)のXbaI/BamHI部位にヒスチジンタグをコードするDNA配列を導入した(以下、本ベクターを「pFLAG−CMV3−His」とする)。ついで、NotIおよびEcoRIで処理した前記αDG(アミノ酸残基30〜653)をコードするDNA断片を、pFLAG−CMV3−HisのNotI/EcoRI部位に挿入し、αDG(アミノ酸残基30〜653)の発現ベクター(以下、「pFLAG−CMV3−αDG−His」とする)を構築した。このpFLAG−CMV3−αDG−Hisにより、αDG(アミノ酸残基30〜653)は、N末端側にプレプロトリプシンリーダー(分泌シグナル)およびFlag、C末端側にHis−6tagが融合されたポリペプチドとして発現される。そのように発現された融合ポリペプチドを、以下、αDG30-653と称する。
【0030】
実施例2および比較例1
直径10cmの培養皿にHEK293T細胞(1×106細胞/枚)を播種し、10%ウシ胎仔血清、25.0mMグルコース、2mMグルタミンを含有するダルベッコ改変イーグル培地15mlにおいて、37℃で1日間培養した。ついで、Lipofectamine(商品名)2000(インビトロジェン社、オランダ、フローニンゲン)を用いて、その添付文書に記載の手順にしたがってトランスフェクションを実施した。発現ベクターは、表1に示した濃度および組み合わせで使用した。
【0031】
【表1】

【0032】
トランスフェクション開始から72時間後、培地を回収し、以下の操作を行った。
【0033】
<αDG30-653の精製>
遠心式フィルターユニットのAmicon Ultra(ミリポア、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州)を用い、回収した培地10mlを濃縮し、ついでHis-Tag結合用緩衝液(50mM NaH2PO4、pH8.0、300mM NaCl、10mM イミダゾールおよび0.05% Tween20)で3回洗浄した。
得られた試料の濃縮液にHisタグ結合用緩衝液(50mM NaH2PO4、pH8.0、300mM NaCl、10mM イミダゾールおよび0.05% Tween20)を添加して500μlとし、Hisタグ標識ポリペプチド精製用ビーズNi−NTA Agarose(キアゲン、アメリカ合衆国、カルフォルニア州)100μlと混合し、4℃にて1時間穏やかに撹拌した。つぎに、ポリペプチド(αDG30-653)が結合したビーズを洗浄用緩衝液(50mM NaH2PO4、pH8.0、300mM NaCl、30mM イミダゾールおよび0.05% Tween20)を用いて3回洗浄した。ついで、溶出用緩衝液(50mM NaH2PO4、pH8.0、300mM NaCl、250mM イミダゾールおよび0.05% Tween20)50μlを用い、αDG30-653の溶出を3回実施した。3回の溶出で得られた溶出液は、1つのチューブにまとめた。
【0034】
<ウェスタンブロッティング>
精製したαDG30-653を、7.5%SDS−PAGEによってゲル上に展開し、ニトロセルロース膜(シュライヒャー&シュル社、アメリカ合衆国)に移し、ついで、抗His−6−HRP抗体、抗αDGモノクローナル抗体IIH6C4またはVIA4−1で処理した。IIH6C4およびVIA4−1に対しては、それぞれ、抗マウスIgM−HRP(ジャクソン イムノ リサーチ社、アメリカ合衆国)および抗マウスIgG(H+L)−HRP(バイオ−ラッド ラボラトリーズ社、アメリカ合衆国、カルフォルニア州)を用いて、ニトロセルロース膜をさらに処理した。なお、IIH6C4およびVIA4−1は、αDGの糖鎖部分を認識するモノクローナル抗体である。
αDG30-653は、ECLウェスタンブロッティング検出システムおよびHyperfilm ECL(アマシャム バイオサイエンシーズ、英国)を用いて検出した。結果を図1に示す。なお、本実施例においては、マウス骨格筋より精製した天然のαDGを陽性コントロールとして用いた。
【0035】
図1AはIIH6C4Bを用いて得られた結果であり、レーン1はコントロール1、レーン2は比較例1、レーン3は実施例2およびレーン4は陽性コントロールの結果を示す。
図1BはVIA4−1を用いて得られた結果であり、レーン1はコントロール1、レーン2は比較例1、レーン3は実施例2およびレーン4は陽性コントロールの結果を示す。
図1Cは抗His−6−HRP抗体を用いて得られた結果であり、レーン1はコントロール2、レーン2はコントロール1、レーン3は比較例1およびレーン4は実施例2の結果を示す。
【0036】
ウエスタンブロットの結果、ラミニンと結合する糖鎖を認識する抗体IIH6C4とVIA4−1は、LARGE1またはLARGE2と共発現したαDG30-653にのみ反応し、それぞれ分子量250kD、350kDにスメアなバンドが認められた。ともにポリペプチドのみの理論値の73kDと比較して非常に大きな糖鎖の付加が認められた。αDG30-653のみを単独に発現してもこれらの抗体との反応性は認められなかった。またLARGE1よりもLARGE2を働かせたαDG30-653の方が付加される糖鎖の量が多かった。
抗His抗体を用いて調べてみると、αDG30-653のみを単独に発現した場合とLARGE1と共発現したαDG30-653では、ポリペプチドのみの73kD付近に強く染まるスメアなバンドが認められた。銀染色でも同様のバンドが認められる(データは示さず)。LARGE2と共発現したαDG30-653では、このバンドが認められず、糖鎖付加不良のαDG30-653ができていなかった。
IIH6C4BおよびVIA4−1で検出された高分子量のαDG30-653は、抗His抗体でも銀染色でも検出されなかった。これは、高分子量のαDG30-653が量的に少なく、抗His抗体の感度では検出できなかったためと推定される。
なお、αDG、LARGE1およびLARGE2のmRNAの発現については、各遺伝子の転写をリアルタイムPCRによりモニタリングすることにより確認した。
【0037】
実施例3および比較例2
<ラミニン オーバーレイ アッセイ>
直径10cmの培養皿にHEK293T細胞(1×106細胞/枚)を播種し、10%ウシ胎仔血清、25.0mMグルコース、2mMグルタミンを含有するダルベッコ改変イーグル培地15mlにおいて、37℃で1日間培養した。ついで、Lipofectamine(商品名)2000(インビトロジェン社、オランダ、フローニンゲン)を用いて、その添付文書に記載の手順にしたがってトランスフェクションを実施した。発現ベクターは、表2に示した濃度および組み合わせで使用した。
【0038】
【表2】

【0039】
トランスフェクション開始から72時間後、培地を回収し、実施例2と同様の手順によりαDG30-653を分離精製した。
精製したαDG30-653を、7.5%SDS−PAGEによってゲル上に展開し、ニトロセルロース膜(シュライヒャー&シュル社、アメリカ合衆国)に移した。同膜を、Block Ace(雪印、東京)を用いて4℃で一晩ブロッキングし、ついでラミニン−1(シグマ−アルドリッチ社、アメリカ合衆国、ミズーリ州)を1μg/ml含有するオーバーレイ緩衝液(10mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、1mM CaCl2、1mM MgCl2および3% BSA)中、室温で2時間インキュベーションを行った。つぎに、同膜を、洗浄緩衝液(0.1% Tween20、1mM CaCl2および1mM MgCl2を含有するPBS)で洗浄し、洗浄緩衝液で希釈した抗ラミニン抗体ともに室温で2時間インキュベーションを行った。膜を洗浄緩衝液で洗浄し、更に洗浄緩衝液で希釈した抗ウサギIgとホースラディッシュパーオキシダ−ゼのコンジュゲート(アマシャムバイオサイエンス、英国)と室温で2時間インキュベーションを行った。
ラミニンを、ECLウェスタンブロッティング検出システムおよびHyperfilm ECL(アマシャム バイオサイエンシーズ、英国)を用いて検出した。結果を図2に示す。なお、本実施例における陽性コントロールとして、マウス骨格筋より精製した天然のαDGを用いた。
【0040】
図2において、レーン1はコントロール1、レーン2は比較例1、レーン3は実施例2およびレーン4は陽性コントロールの結果を示す。
ラミニンとの結合性もLARGE1またはLARGE2と共発現したαDG30-653で各々250kD、350kDのスメアなバンドとして確認できた。αDG30-653単独で発現した場合は150kD付近に薄いながらもバンドが認められ、またマウスの骨格筋より精製したαDGも150kD付近にスメアなバンドが認められた。LARGE1またはLARGE2をαDG30-653と共発現した場合、ラミニンと結合するαDG30-653の量が大きく増えた。またαDG30-653に結合する糖鎖の量はLARGE2と共発現した場合が最も多かった。
【0041】
実施例4および比較例3
<ツニカマイシン添加>
直径10cmの培養皿にHEK293T細胞(1×106細胞/枚)を播種し、10%ウシ胎仔血清、25.0mMグルコース、2mMグルタミンを含有するダルベッコ改変イーグル培地15mlにおいて、37℃で1日間培養した。ついで、Lipofectamine(商品名)2000(インビトロジェン社、オランダ、フローニンゲン)を用いて、その添付文書に記載の手順にしたがってトランスフェクションを実施した。発現ベクターは、表1に示した濃度および組み合わせで使用した。
【0042】
【表3】

【0043】
一晩インキュベーションした後、培地を、ツニカマイシン(カルバイオケム社、アメリカ合衆国)10μg/mlを含有するまたは含有しない新鮮な培地に交換し、さらに24時間インキュベーションを実施した。ついで、培地および細胞をそれぞれ回収し、実施例2と同様の操作を行うことによりαDG30-653を分離精製した。
【0044】
<ウェスタンブロッティング>
精製したαDG30-653を、7.5%SDS−PAGEによってゲル上に展開し、ニトロセルロース膜(シュライヒャー&シュル社、アメリカ合衆国)に移し、ついで、抗His−6−HRP抗体、抗αDGモノクローナル抗体IIH6およびVIA4−1で処理した。IIH6C4およびVIA4−1に対しては、それぞれ、抗マウスIgM−HRP(ジャクソン イムノ リサーチ社、アメリカ合衆国)および抗マウスIgG(H+L)−HRP(バイオ−ラッド ラボラトリーズ社、アメリカ合衆国、カルフォルニア州)を用いて、ニトロセルロース膜をさらに処理した。
αDGはECLウェスタンブロッティング検出システムおよびHyperfilm ECL(アマシャム バイオサイエンシーズ、英国)を用いて検出した。結果を図3に示す。図3AはIIH6C4を用い得られた結果であり、図3Cは抗His−6−HRP抗体を用いて得られた結果である。図3のAおよびCにおいて、レーン1および5はコントロール1、レーン2および6はコントロール2、レーン3および7は比較例3およびレーン4およびレーン8は実施例4の結果を示す。VIA4−1を用いて得られた結果は、IIH6C4を用いて得られた結果と同様であった(データは示さず)。
【0045】
<ラミニン オーバーレイ アッセイ>
精製したαDG30-653を、7.5%SDS−PAGEによってゲル上に展開し、ニトロセルロース膜(シュライヒャー&シュル社、アメリカ合衆国)に移した。同膜を、Block Ace(雪印、東京)を用いて4℃で一晩ブロッキングし、ついでラミニン−1(シグマ−アルドリッチ社、アメリカ合衆国、ミズーリ州)を1μg/ml含有するオーバーレイ緩衝液(10mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、1mM CaCl2、1mM MgCl2および3% BSA)中、室温で2時間インキュベーションを行った。つぎに、同膜を、洗浄緩衝液(0.1% Tween20、1mM CaCl2および1mM MgCl2を含有するPBS)で洗浄し、洗浄緩衝液で希釈した抗ラミニン抗体ともに室温で2時間インキュベーションを行った。膜を洗浄緩衝液で洗浄し、更に洗浄緩衝液で希釈した抗ウサギIgとホースラディッシュパーオキシダ−ゼのコンジュゲート(アマシャムバイオサイエンス、英国)と室温で2時間インキュベーションを行った。
ラミニンを、ECLウェスタンブロッティング検出システムおよびHyperfilm ECL(アマシャム バイオサイエンシーズ、英国)を用いて検出した。結果を図3Bに示す。図3Bにおいて、レーン1はコントロール1、レーン2はコントロール2、レーン3は比較例3およびレーン4は実施例4の結果を示す。
【0046】
<結果>
LARGE1またはLARGE2と共発現したとき、培地中に分泌されるαDG30-653は、ツニカマイシン処理(Nグリカンの付加を阻害)をしても、抗体IIH6C4、VIA4−1(データは示さず)、ラミニンと反応するそれぞれ分子量250kD、350kDの高度にグリコシル化されたスメアなバンドが認められ、ツニカマイシンの効果がなかった。一方、抗His抗体を用いて調べたところ、単独であるいはLARGE1と共発現し培地中に分泌されるαDG30-653で認められる糖鎖付加不良の73kD(タンパク質部分の分子量)付近のバンドがツニカマイシン処理で消失した。LARGE2と共発現し培地中に分泌されるαDG30-653では、ツニカマイシン処理に関りなくこのバンドが認められず、糖鎖付加不良のαDG30-653ができていなかった。すなわち、ツニカマイシンはLARGE2と同様に、糖鎖付加不良のαDG30-653の培地中への分泌をほぼ阻害することが判明した。
【0047】
実施例5および比較例4
<ラクタシスチン(Lactacystin)添加>
直径10cmの培養皿にHEK293T細胞(1×106細胞/枚)を播種し、10%ウシ胎仔血清、25.0mMグルコース、2mMグルタミンを含有するダルベッコ改変イーグル培地15mlにおいて、37℃で1日間培養した。ついで、Lipofectamine(商品名)2000(インビトロジェン社、オランダ、フローニンゲン)を用いて、その添付文書に記載の手順にしたがってトランスフェクションを実施した。発現ベクターは、表4に示した濃度および組み合わせで使用した。
【0048】
【表4】

【0049】
一晩インキュベーションした後、培地を、ラクタシスチン(バイオモル リサーチ ラボラトリーズ社、アメリカ合衆国)10μMを含有するまたは含有しない新鮮な培地に交換し、さらに24時間インキュベーションを実施した。
【0050】
<細胞からのαDG30-653の精製>
回収した細胞を、500μlのHisタグ結合用緩衝液(50mM NaH2PO4、pH8.0、300mM NaCl、10mM イミダゾールおよび0.05% Tween20)に懸濁し、同懸濁液を4℃で30分間超音波処理することにより細胞を溶解させた。得られた細胞溶解液を遠心し(4℃、10分間、10000×g)、上清を回収した。
上清を100μlのNi−NTA Agarose(キアゲン、アメリカ合衆国、カルフォルニア州)と混合し、4℃にて1時間穏やかに撹拌した。ついで、前述の方法と同様にしてαDG30-653を溶出した。
【0051】
<ウェスタンブロッティング>
精製したαDG30-653は、7.5%SDS−PAGEによってゲル上に展開し、ニトロセルロース膜(シュライヒャー & シュル社、アメリカ合衆国)に移し、ついで、抗Flag−HRP抗体で処理した。ECLウェスタンブロッティング検出システムおよびHyperfilm ECL(アマシャム バイオサイエンシーズ、英国)を用いて、αDG30-653を検出した。結果を図4に示す。図4において、レーン1および5はコントロール1、レーン2および6はコントロール2、レーン3および7は比較例4、ならびにレーン4および8は実施例5の結果を示す。
【0052】
<結果>
ラクタシスチンは、ゴルジ体において、ゴルジ体からプロテアソーム(変性ポリペプチドの分解系)への輸送を阻害するものである。ラクタシスチン未添加の場合、細胞内に分泌されるαDG30-653は、αDG30-653単独またはLARGE1と共発現したときだけ、抗Flag抗体と反応する分子量約90kDのバンドとして認められた。一方、LARGE2との共発現の場合は、細胞内におけるαDG30-653の蓄積が認められなかった。この細胞内に蓄積したαDG30-653は、ポリペプチド部分の分子量73kDに短い糖鎖などが付加して90kDとなっており、抗体IIH6C4とVIA4−1と反応しなかった(データは示さず)。
ラクタシスチン添加により、αDG30-653は、αDG30-653単独かLARGE1と共発現した場合とともに、LARGE2と共発現した場合にも、抗FLAG抗体と反応する分子量90kDのバンドとして認められた。これにより、αDG30-653とLARGE2との共発現により変性ポリペプチドの分解が促進されていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、実施例2および比較例1におけるウェスタンブロッティングの結果を示す。
【図2】図2は、実施例3および比較例2におけるラミニンオーバーレイアッセイの結果を示す。
【図3】図3は、実施例4および比較例3におけるウェスタンブロッティングおよびラミニンオーバーレイアッセイの結果を示す。
【図4】図4は、実施例5および比較例4におけるウェスタンブロッティングの結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0054】
配列番号3:プライマー配列
配列番号4:プライマー配列
配列番号5:プライマー配列
配列番号6:プライマー配列
配列番号7:プライマー配列
配列番号8:プライマー配列
配列番号9:プライマー配列
配列番号10:プライマー配列
配列番号11:プライマー配列
配列番号12:プライマー配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または
(b)配列番号1に示されたアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチド
を含有するポリペプチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤。
【請求項2】
配列番号1に示されたアミノ酸配列に80%〜100%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチド
を含有するポリペプチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤。
【請求項3】
(a)配列番号1に示されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または
(b)配列番号1に示されたアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチド
をコードする核酸配列を含んでなるポリヌクレオチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤。
【請求項4】
配列番号1に示されたアミノ酸配列に80%〜100%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチド
をコードする核酸配列を含んでなるポリヌクレオチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤。
【請求項5】
配列番号1の381番〜430番のアミノ酸配列に50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含有するポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチド
を含有するポリペプチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤。
【請求項6】
配列番号1の381番〜430番のアミノ酸配列に50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含有するポリペプチドであって、かつ、細胞内に導入されることにより、α−ジストログリカンのグリコシル化および/またはラミニン結合型α−ジストログリカンの細胞外分泌を生じ得るポリペプチド
をコードする核酸配列を含んでなるポリヌクレオチドを含む、ラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載のラミニン結合型α−ジストログリカン合成促進剤を有効成分として含有する筋ジストロフィー治療のための医薬組成物。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5または6記載の因子を有効成分として含有する筋ジストロフィー治療のための医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−206508(P2006−206508A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21524(P2005−21524)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構、糖鎖合成関連遺伝子ライブラリーの構築委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】