説明

ラミネートガスバリア性積層フィルム及び包装体

【課題】レトルト処理後であってもガスバリア性の低下が少なく層間剥離の起こらないラミネートガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
【解決手段】本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜層、ガスバリア性樹脂組成物層、接着剤層及びシーラント層が、この順に積層されており、前記ガスバリア性樹脂組成物層が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と無機層状化合物とからなるガスバリア性樹脂組成物から形成され、レトルト処理後の前記ガスバリア性樹脂組成物層と前記シーラント層との間のラミネート剥離強度が2N/15mm以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性を有し、水蒸気や酸素等に対するガスバリア性に優れ、食品、医薬品等の包装フィルムとして好適なガスバリア性積層フィルムに関する。更に詳しくは、レトルト処理によっても良好なガスバリア性、密着性(ラミネート強度)が得られるようなガスバリア性積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスバリア性フィルムとしてプラスチックフィルムの表面にアルミニウム等の金属薄膜や、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機酸化物の薄膜を積層させたフィルムが知られていた。なかでも、酸化ケイ素や酸化アルミニウム、及び、これらの混合物等の無機酸化物の薄膜を積層させたフィルムは、透明であり内容物の確認が可能であることから食品用途で広く用いられている。
【0003】
しかしながら、これらの無機薄膜は薄膜形成の工程でピンホールやクラック等が発生し易く、さらに加工工程において無機薄膜層がひび割れてクラックが発生し、期待通りの十分なガスバリア性は得られていない。そこで、このような欠点を改善する方法として、無機薄膜の上にさらにガスバリア性層を設けようとする試みがなされている。このような方法のガスバリア性フィルムとしては、無機薄膜上に特定の粒径及びアスペクト比の無機層状化合物を含有する樹脂層をコートしたガスバリア性フィルム(例えば、特許文献1)が開示されている。
【0004】
また、プラスチックフィルムの表面に高いガスバリア性を有する樹脂組成物をコートしたフィルムも多く提案されている。このようなフィルムに用いられる樹脂組成物では、さらに、ガスバリア性を向上させる方法として樹脂中に無機層状化合物等の扁平形態の無機物を分散させる方法も知られており、例えば、基材フィルム上にエチレン−ビニルアルコール系共重合体、水溶性ジルコニウム系架橋剤、無機層状化合物からなるバリアコート層を設けたもの(例えば、特許文献2)が提案されている。
【0005】
しかし、これらの方法であっても、ボイルや高湿下での特性の改良は認められるものの、レトルト後のガスバリア性、ラミネート強度が十分満足でき、かつ、安定した品質のガスバリア性フィルムは得られていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3681426号公報
【特許文献2】特開2008−297527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、各種食品や医薬品、工業製品の包装用途、太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子、等の工業用途に用いることができる、優れたガスバリア性、層間密着性を有するラミネートガスバリア性積層フィルムを提供することにある。特に、レトルト処理後であってもガスバリア性の低下が少なく層間剥離の起こらないラミネートガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することができた本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜層、ガスバリア性樹脂組成物層、接着剤層及びシーラント層が、この順に積層されており、前記ガスバリア性樹脂組成物層が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と無機層状化合物とからなるガスバリア性樹脂組成物から形成され、レトルト処理後の前記ガスバリア性樹脂組成物層と前記シーラント層との間のラミネート剥離強度が2N/15mm以上であることを特徴とする。
【0009】
前記無機層状化合物は、スメクタイトが好適である。前記無機薄膜層は、無機酸化物を少なくとも含有することが好ましい。
【0010】
前記ガスバリア性樹脂組成物は、添加剤として、有機官能基を少なくとも1種類以上有するシランカップリング剤及び/又は水素結合性基用架橋剤を含有することが好ましい。この場合において、前記ガスバリア性樹脂組成物中の添加剤(カップリング剤及び/又は架橋剤)の合計含有量は、0.3質量%〜20質量%であることが好ましい。
【0011】
前記無機薄膜層と前記ガスバリア性樹脂組成物層との間に、アンカーコート層を有することも好ましい態様である。前記アンカーコート層を形成するためのアンカーコート剤樹脂組成物は、有機官能基を少なくとも1種類以上有するシランカップリング剤を含有していることが好ましい。また、前記アンカーコート層を形成するためのアンカーコート剤樹脂組成物中の前記シランカップリング剤の添加量は0.1質量%〜10質量%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明には、ラミネートガスバリア性積層フィルムをヒートシールすることにより袋状に加工された容器に、内容物を充填した後、レトルト処理された包装体であって、前記ラミネートガスバリア性積層フィルムが、プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜層、ガスバリア性樹脂組成物層、接着剤層及びシーラント層が、この順に積層されており、前記ガスバリア性樹脂組成物層が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と無機層状化合物とからなるガスバリア性樹脂組成物から形成されたものであり、該レトルト処理後のラミネートガスバリア性積層フィルムは、前記ガスバリア性樹脂組成物層と前記シーラント層との間のラミネート剥離強度が2N/15mm以上であることを特徴とする包装体も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸素、水蒸気に対する優れたガスバリア性を持ち、また層間接着力が高くラミネート強度に優れたラミネートガスバリア性積層フィルムが得られる。特に、レトルト処理を行ってもガスバリア性、層間接着力の低下が少なく、各種用途に適した実用性の高いラミネートガスバリア性積層フィルムを得ることができる。また、生産安定性に優れ、均質の特性が得られやすいラミネートガスバリア性積層フィルムとなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜層、ガスバリア性樹脂組成物層、接着層及びシーラント層が、この順に積層されており、レトルト処理後の前記ガスバリア性樹脂組成物層と前記シーラント層との間のラミネート剥離強度(以下、単に「ラミネート強度」と称する場合がある。)が2N/15mm以上であることを特徴とする。レトルト処理後のラミネート強度が2N/15mm未満であるラミネートガスバリア性積層フィルムでは、包装体を作製した場合、レトルト処理時にヒートシール部がラミネート剥離したり、レトルト処理後の包装体に衝撃が加わった際にヒートシール部で破袋しやすくなる。また、工業用のバリアフィルムとして用いた場合は、高温高湿下で長期使用した場合にラミネート剥離する場合がある。レトルト処理後のラミネート剥離強度は2.3N/15mm以上が好ましく、より好ましくは2.5N/15mm以上である。なお、レトルト処理後のラミネート強度の上限は特に限定されないが、8N/15mm以下である。レトルト処理後のラミネート強度が8N/15mm程度あれば、ヒートシール部の剥離やヒートシール部での破袋を十分に抑制できる。
【0015】
従来、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と無機層状化合物を含有するバリア性樹脂組成物層を無機薄膜層上に積層させた構成では、レトルト処理後においても高いラミネート強度を維持することは不可能と考えられてきた。しかしながら、本発明者らの検討により以下の技術思想でラミネートガスバリア性積層体を設計することにより可能となった。以下、本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムについて、各層に分けて説明する。
【0016】
1.ガスバリア性樹脂組成物層
前記ガスバリア性樹脂組成物層は、ガスバリア性樹脂組成物から形成される。前記ガスバリア性樹脂組成物は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH」と称する場合がある。)からなるガスバリア性樹脂と無機層状化合物からなる。以下、ガスバリア性樹脂組成物層の個々の構成に関して説明する。
【0017】
1−1.ガスバリア性樹脂
ガスバリア性樹脂として用いることができるEVOHとしては、例えば、エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるものが挙げられる。上記エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるものの具体例としては、エチレン及び酢酸ビニルを共重合して得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化して得られるもの;エチレン及び酢酸ビニルとともに、他の単量体を共重合して得られるエチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるものが挙げられる。本発明では、エチレン及び酢酸ビニルを共重合して得られる共重合体、及び、エチレン及び酢酸ビニルとともに他の単量体を共重合して得られる共重合体を総称して「エチレン−酢酸ビニル系共重合体」とする。
【0018】
エチレン−酢酸ビニル系共重合体の場合、共重合前の単量体組成物中のエチレン比率が20モル%〜60モル%であることが好ましい。エチレン比率が20モル%以上であれば、高湿度下におけるガスバリア性がより向上し、また、レトルト処理後のラミネート強度の低下がより抑制される。一方、エチレン比率が60モル%以下であれば、ガスバリア性がより向上する。上記エチレン−酢酸ビニル系共重合体は、酢酸ビニル成分のケン化度が95モル%以上のものが好ましい。酢酸ビニル成分のケン化度が95モル%以上であればガスバリア性や耐油性がより良好となる。
【0019】
また、上記EVOHは、溶剤中での溶解安定性を向上させるために、過酸化物等により処理して分子鎖切断し、低分子量化したものであっても良い。
上記過酸化物としては、以下の(1)〜(7)が挙げられる。
(1)H22
(2)M22型(M:Na、K、NH、Rb、Cs、Ag、Li等)
(3)M’O2型(M’:Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cs、Hg等)
(4)R−O−O−R型(Rはアルキル基を表す。以下同様):過酸化ジエチル等の過酸化ジアルキル類
(5)R−CO−O−O−CO−R型:過酸化ジアセチル、過酸化ジアミル、過酸化ジベンゾイル等の過酸化アシル等
(6)過酸化酸型
a)−O−O−結合を持つ酸:過硫酸(H2SO5)、過リン酸(H3PO5)等
b)R−CO−O−OH:過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸等
(7)過酸化水素包含物:(NaOOH)2/H22、(KOOH)2/3H22
これらの中でも、特に過酸化水素は、後から還元剤、還元性酵素や触媒を用いて、容易に分解処理することが可能であるために好適である。
【0020】
EVOHを過酸化物で処理する方法としては特に限定されず、公知の処理方法を用いることができる。具体的には、例えば、EVOHを溶解した溶液(以下、「EVOH溶液」と称する場合がある。)に、過酸化物、分子鎖切断を行うための触媒(例えば、硫酸鉄等)を添加し、攪拌下で40〜90℃で加熱する方法が挙げられる。
【0021】
より詳しくは、過酸化物として過酸化水素を使用する方法を例にとると、EVOH溶液を後記する溶剤中に溶解した溶液に過酸化水素(通常は35質量%水溶液)を添加し、攪拌下で、温度40℃〜90℃、1時間〜50時間の条件で処理する。過酸化水素(35質量%水溶液)の添加量は、溶液中のEVOH100質量部に対して3質量部〜300質量部程度である。また、分子鎖切断を行うための触媒として、酸化分解の反応速度を調整するため、金属触媒(CuCl2、CuSO4、MoO3、FeSO4、TiCl4、SeO2等)をEVOH溶液当たり1ppm〜5000ppm(質量基準、以下同じ)程度添加してもよい。かかる処理の終了時点は、溶液の粘度が初期の1割程度以下となった点を一つの目安とすることができる。処理終了後の溶液より公知の方法にて溶媒を除去することにより、分子末端に0.03meq/g〜0.2meq/g程度のカルボキシル基を含有した、末端カルボン酸変性EVOHを得ることができる。
【0022】
1−2.無機層状化合物
前記無機層状化合物は、スメクタイト、カオリン、雲母、ハイドロタルサイト、クロライト等の粘土鉱物を挙げることができる。具体的には、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、カオリナイト、ナクライト、ディッカイト、ハロイサイト、加水ハロイサイト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、金雲母、タルク、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、バーミキュライト、ザンソフィライト、緑泥石等を挙げることができる。また鱗片状シリカ等も使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特にスメクタイト(その合成品も含む)が好ましい。
【0023】
また、無機層状化合物中に酸化還元性を有する金属イオン、特に鉄イオンが存在するものが好適である。更に、このようなものの中でも、塗工適性、ガスバリア性からモンモリロナイトの使用が好ましい。モンモリロナイトとしては、従来からガスバリア剤に使用されている公知のものが使用できる。例えば、一般式:(X,Y)2〜3410(OH)2・mH2O・(Wω)(式中、Xは、Al、Fe(III)、Cr(III)を表す。Yは、Mg、Fe(II)、Mn(II)、Ni、Zn、Liを表す。Zは、Si、Alを表す。Wは、K、Na、Caを表す。H2Oは、層間水を表す。m及びωは正の実数を表す。)で示されるモンモリロン石群鉱物を使用することができる。これらの中でも、WがNaであるものが水性媒体中でへき開する点から好ましい。さらに、無機層状化合物の粒径としては、5μm以下、アスペクト比としては50〜5000、とりわけ200〜3000の範囲がより好ましい。
【0024】
ガスバリア性樹脂組成物(ガスバリア性樹脂と無機層状化合物と添加剤との合計100質量%)中の無機層状化合物の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、最も好ましくは1.2質量%以上であり、9.0質量%以下が好ましく、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下、最も好ましくは5.0質量%以下である。無機層状化合物の含有量が0.1質量%以上であれば、レトルト処理によるガスバリア性の低下をより抑制でき、また、レトルト処理後のラミネート強度がより向上する。一方、無機層状化合物の含有量が9.0質量%以下であれば、レトルト処理によるラミネート強度及びガスバリア性の低下をより抑制できる。これは、レトルト処理による層間剥離強度の低下を抑制できるために無機薄膜層とガスバリア性樹脂層間での剥離を防止する;ガスバリア性樹脂層の柔軟性を維持できるために、使用中の各種応力、振動やレトルト処理時のシャワー水の応力によりガスバリア性樹脂層に亀裂が入ることを防止する等の理由によりガスバリア性がより向上していると推測される。
【0025】
ここで、従来、ガスバリア性樹脂組成物層中の無機層状化合物の配合量が、少ない場合にはガスバリア性が低くなり、多い場合にはガスバリア性は高くなると考えられていた。しかし、本発明のように無機薄膜層と積層する場合においては、ガスバリア性樹脂組成物層中の無機層状化合物含有量が比較的少ない場合であっても無機薄膜との相乗効果により高いガスバリア性を示す。これは、無機薄膜層上のガスバリア性樹脂組成物層は無機薄膜のピンホールや割れによって生じた欠点を埋めるだけでなく、無機薄膜の割れ等の破損を防ぐ機能を持つが、無機層状化合物含有量が少ない量であっても欠点を埋める機能は十分に果たしていることによると考えられる。逆に、無機層状化合物含有量が多くなるとレトルト処理時の層間接着力の低下、膜の柔軟性の低下といった現象が現れ、無機薄膜の破損を防ぐ機能が低下して、全体としてはそれ以上のガスバリア性の向上効果が得られないだけでなく、逆にガスバリア性の低下につながっていると考えられる。
【0026】
前記無機層状化合物の配合量は、前記ガスバリア性樹脂100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であり、10質量部以下が好ましく、より好ましくは9質量部以下、さらに好ましくは8質量部以下である。
【0027】
1−3.添加剤
本発明では、ガスバリア性樹脂組成物が添加剤として、カップリング剤及び架橋剤の少なくとも一種を含有することが好ましい。前記カップリング剤としては、樹脂組成物に使用されるものであれば特に限定されないが、有機官能基を少なくとも1種類以上有するシランカップリング剤が好ましい。前記有機官能基としては、エポキシ基、アミノ基、アルコキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0028】
前記有機官能基を少なくとも1種類以上有するシランカップリング剤の具体例としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;2−アミノエチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−[N−(2−アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルコキシ基含有シランカップリング剤;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカップリング剤;等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記架橋剤としては、樹脂組成物に使用されるものであれば特に限定されないが、水素結合性基用架橋剤が好ましい。水素結合性基用架橋剤としては、水溶性ジルコニウム化合物、水溶性チタン化合物等が挙げられる。水溶性ジルコニウム化合物の具体例としては、塩酸化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムナトリウム、乳酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム八水和物、オキシ塩化ジルコニウム、モノヒドロキシトリス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム、テトラキス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム、モノヒドロキシトリス(スレート)ジルコニウムアンモニウム等が例示できる。これらの中でも、塗布凝集力の向上による熱水処理後の熱水処理適性及びガスバリア性樹脂組成物層を形成するための塗工液の安定性の点から、塩酸化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウムが好ましく、特に塩酸化ジルコニウムが好ましい。水溶性チタン化合物の具体例としては、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシチタン(トリエタノールアミネート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
ガスバリア性樹脂組成物(ガスバリア性樹脂と無機層状化合物と添加剤との合計100質量%)中の添加剤(カップリング剤及び架橋剤)の含有量は、0.3質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、最も好ましくは8質量%以上であり、20質量%以下が好ましく、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、最も好ましくは12質量%以下である。添加剤の含有量を上記範囲内とすることにより、レトルト処理後のラミネート強度の低下をより抑制することができる。
【0031】
また、前記添加剤の配合量は、前記ガスバリア性樹脂100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であり、15質量部以下が好ましく、より好ましくは13質量部以下、さらに好ましくは12質量部以下である。
【0032】
1−4.形成方法
ガスバリア性樹脂組成物層を無機薄膜層上に形成する方法としては、例えば、ガスバリア性樹脂組成物の各材料を溶媒に溶解、分散させた塗工液を無機薄膜層上に塗工する方法;ガスバリア性樹脂組成物を溶融して無機薄膜層上に押し出してラミネートする方法;ガスバリア性樹脂組成物のフィルムを別途形成して、これを無機薄膜層上に接着剤等で貼り合わせる方法;等が挙げられる。これらの中でも、塗工による方法が簡便性、生産性等の面から好ましい。なお、この際に、無機薄膜層上にアンカーコート層を設け、アンカーコート層上にガスバリア性樹脂組成物層を設けても良い。アンカーコート層については後述する。
【0033】
以下、ガスバリア性樹脂組成物層の形成方法の一例として、ガスバリア性樹脂組成物の各材料を溶媒に溶解、分散させた塗工液を、無機薄膜層上に塗工する方法について説明する。
【0034】
ガスバリア性樹脂組成物を塗工液とするための溶媒(溶剤)としては、EVOHを溶解し得る水性及び非水性のどちらの溶剤でも使用できるが、水と低級アルコールとの混合溶剤を用いることが好ましい。具体的には、水と炭素数2〜4の低級アルコール(エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等)の混合溶剤が好適である。このような混合溶剤を使用するとEVOHの溶解性が良好となり、適度な固形分を維持できる。前記混合溶媒中の低級アルコールの含有量は15質量%〜70質量%が好ましい。混合溶剤中の低級アルコール含有量が70質量%以下であれば、前記無機層状化合物を分散した場合、無機層状化合物のへき開がより進行し、また、15質量%以上であれば、ガスバリア性樹脂組成物を溶解、分散させた塗工液の塗工適性がより向上する。
【0035】
ガスバリア性樹脂組成物を溶剤に溶解、分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、EVOH溶液に、無機層状化合物(必要により予め水等の分散媒体中に膨潤、へき開させておいてもよい)を添加混合し、無機層状化合物を分散させる方法;水等の分散媒体中に無機層状化合物を膨潤・へき開させた分散液に、EVOH(必要により予め溶剤に溶解させておいてもよい)を添加(溶解)する方法等が挙げられる。このとき、EVOHからなるガスバリア性樹脂と無機層状化合物との質量比率が、無機層状化合物の含有量が、ガスバリア性樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部〜10質量部の範囲となる量で混合する。
【0036】
これらの混合に際しては通常の攪拌装置や分散装置を利用して、無機層状化合物を均一に分散することができるが、特に透明で安定な無機層状化合物分散液を得るために、高圧分散機を使用することができる。高圧分散機としては、例えば、ゴーリン(APVゴーリン社製)、ナノマイザー(ナノマイザー社製)、マイクロフルイタイザー(マイクロフライデックス社製)、アルチマイザー(スギノマシン社製)、DeBee(Bee社製)等が挙げられ、これら高圧分散機の圧力条件として100MPa以下で分散処理を行うことが好ましい。圧力条件が100MPa以下であれば、無機層状化合物の粉砕を抑制でき、目的であるガスバリア性が良好となる。なお、添加剤の混合は攪拌だけで行えるため、どの時期に添加してもよいが、できるだけ添加剤の影響を抑えるという観点から、EVOH溶液中に無機層状化合物が分散し終わった段階で、添加剤を添加することが好ましい。塗工の方式は、グラビアコート、バーコート、ダイコート、スプレーコート等従来の方式が、塗工液の特性に合わせて採用することができる。
【0037】
1−5.ガスバリア性樹脂組成物層用塗工液の乾燥条件
ガスバリア性樹脂組成物の塗工液を塗工した後の乾燥温度は、100℃以上が好ましく、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、200℃以下が好ましい。また、別処理工程での追加の熱処理、すなわち、一度フィルムを巻き取った後、巻き返しながら、またはロールで、或はラミネート工程等の後工程を行う前やその途中で追加の加熱処理(150〜200℃)を行うことも効果的である。乾燥温度が100℃以上であれば、塗工層が十分に乾燥でき、ガスバリア性樹脂組成物層の結晶化や架橋が進行し、レトルト処理後のガスバリア性、ラミネート強度がより良好となる。一方、乾燥温度が200℃以下であれば、プラスチックフィルムに熱がかかりすぎることが抑制され、フィルムが脆くなったり、収縮してしまうことが抑制され、加工性が良好となる。
【0038】
1−6.ガスバリア性樹脂組成物層の厚さ
ガスバリア性樹脂組成物層の厚さは、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.08μm以上であり、0.7μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。厚さが0.01μm以上であれば、高温高湿下の長期使用やレトルト処理後のガスバリア性がより向上し、0.7μm以下であれば、塗工液を用いた場合でも乾燥しやすくなり、ラミネート強度がより向上する。
【0039】
2.プラスチックフィルム
本発明で用いるプラスチックフィルムは、有機高分子樹脂からなり、溶融押出し後、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムである。前記有機高分子としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリ乳酸等を挙げることができる。
【0040】
前記ポリアミドの具体例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリ−ε−アミノへプタン酸(ナイロン7)、ポリ−ε−アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリンラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン2・6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4・6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン6・6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン6・12)、ポリオクタメチレンドデカミド(ナイロン6・12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン8・6)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン10・6)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン10・10)、ポリドデカメチレンドデカミド(ナイロン12・12)、メタキシレンジアミン−6ナイロン(MXD6)等が挙げられる。また、これらを主成分とする共重合体であってもよく、その例としては、カプロラクタム/ラウリンラクタム共重合体、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、ラウリンラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体等を挙げることができる。これらのポリアミドには、フィルムの柔軟性改質成分として、芳香族スルホンアミド類、p−ヒドロキシ安息香酸、エステル類等の可塑剤や低弾性率のエラストマー成分やラクタム類を配合することも有効である。
【0041】
前記ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等が挙げられる。また、これらを主成分とする共重合体であっても良く、ポリエステル共重合体を用いる場合、そのジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸及びピロメリット酸等の多官能カルボン酸;アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;等が用いられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、p−キシリレングリコール等の芳香族グリコール;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール;平均分子量が150〜20000のポリエチレングリコール;等が用いられる。ポリエステル100モル%中の好ましい共重合成分の比率は20モル%以下である。共重合成分が20モル%を超えるときはフィルム強度、透明性、耐熱性等が劣る場合がある。これらの有機高分子は、さらに他のモノマーを少量共重合したり、他の有機高分子をブレンドしても良い。
【0042】
また、本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムを、太陽電池用のバリアフィルム、有機エレクトロルミネッセンス用のバリアフィルム、電子ペーパー用のバリアフィルムとして用いる場合には、プラスチックフィルムを構成する有機高分子樹脂としてはポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートが好ましい。特に、太陽電池用のバリアフィルムとして用いる場合には、耐加水分解性が高いことが望まれるため、プラスチックフィルムの酸価は10当量/トン以下、さらには5当量/トン以下であることが好ましい。
【0043】
また、ポリエチレンテレフタレートを用いる場合、その固有粘度(IV値)は0.60以上が好ましく、より好ましくは0.65以上であり、0.90以下が好ましく、より好ましくは0.80以下である。なお、IV値は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(6/4質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した値である。また、ポリエチレンテレフタレート中の環状三量体の含有量は0.7質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0044】
また、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートの重縮合触媒としては、アンチモン、ゲルマニウム、チタン、アルミニウム、リン等の化合物が好ましく、中でもアルミニウム化合物及びリン化合物からなる重合触媒が好ましく、特開2002−249565号公報に記載された触媒を用いることができる。前記アルミニウム化合物としては、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトナート等が好ましい。前記リン化合物としては、ヒンダードフェノール構造をもつホスホン酸化合物が好ましく、具体例としてはIrganox(登録商標)1222,1425(チバ・ジャパン社製)が挙げられる。
【0045】
さらに上記の有機高分子樹脂には、公知の添加物,例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤等を添加してもよい。前記プラスチックフィルムの厚さは1μm以上が好ましく、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上であり、500μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。前記プラスチックフィルムの透明度は、特に限定するものではないが、透明性を有する包装材料積層体として使用する場合には、50%以上の光線透過率をもつものが望ましい。また前記プラスチックフィルムは、積層型フィルムであってもよい。積層型フィルムとする場合の積層体の種類、積層数、積層方法等は特に限定されず、目的に応じて公知の方法から任意に選択することができる。
【0046】
プラスチックフィルムの製造方法については、押出し法、キャスト法等、既存の方法を使用することができる。本発明におけるプラスチックフィルムは、本発明の目的を損なわないかぎりにおいて、第1無機薄膜層を積層するに先行して、前記プラスチックフィルムをコロナ放電処理、グロー放電、火炎処理、表面粗面化処理等の表面処理を施しても良く、また、公知のアンカーコート処理、印刷、装飾が施されても良い。
【0047】
3.無機薄膜層
前記無機薄膜層は、金属又は無機酸化物からなる薄膜である。前記金属薄膜を形成する材料は、薄膜にできるものなら特に制限はないが、例えば、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、インジウム等が挙げられ、コスト等の観点からアルミニウムが好ましい。また、前記無機酸化物薄膜を形成する材料は、薄膜にできるものなら特に制限はないが、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、好ましくは酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムである。これらの中でも、ガスバリア性に優れることから、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む多元系無機酸化物薄膜がより好ましく、酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜が最も好ましい。ここでいう酸化ケイ素とはSiOやSiO2等の各種珪素酸化物の混合物であり、酸化アルミニウムとは、AlOやAl23等の各種アルミニウム酸化物の混合物である。
【0048】
なお、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む多元系無機酸化物薄膜が、ガスバリア性に優れる理由は、多元系無機酸化物薄膜は薄膜中の無機物の比率により膜のフレキシブル性、ガスバリア性を変化させることが可能であり、性能バランスの取れた、良好な薄膜を得ることができるためである。また、後述するように無機薄膜層上に接着剤層を設ける場合、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む多元系無機酸化物薄膜と接着剤層との間において高い密着力が得られやすいからである。
【0049】
酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜とする場合、無機酸化物薄膜中に占める酸化アルミニウムの含有量は、20質量%以上が好ましく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、99質量%以下が好ましく、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。酸化ケイ素・酸化アルミニウム系二元系無機酸化物薄膜中の酸化アルミニウムの含有量が20質量%以上であれば、ガスバリア性がより向上し、99質量%以下であれば、蒸着膜の柔軟性が良好となり、ラミネートガスバリア性積層フィルムの曲げや寸法変化に強くなり、二者併用の効果がより向上する。
【0050】
また、無機酸化物薄膜の比重の値と無機酸化物薄膜中の酸化アルミニウムの含有量(質量%)との関係を、D=0.01A+b(D:薄膜の比重、A:薄膜中の酸化アルミニウムの質量%)で示すとき、b値が1.6よりも小さい領域のときには、酸化ケイ素・酸化アルミニウム系薄膜の構造が粗となり、また、b値が2.2よりも大きい領域の場合、酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜が硬くなる傾向にある。
【0051】
このため、無機酸化物薄膜としての酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜の比重は、前記薄膜の比重と薄膜中の酸化アルミニウムの含有量(質量%)D=0.01A+b(D:薄膜の比重、A:薄膜中の酸化アルミニウムの含有量)という関係式で表すとき、b値が1.6〜2.2であるのが好ましく、さらに好ましくは1.7〜2.1であるが、もちろんこの範囲に限定されるものではない。酸化ケイ素・酸化アルミニウムを含み、さらに他の無機酸化物を含む多元系無機酸化物薄膜もガスバリア性積層体としての効果は大きい。
【0052】
本発明において、無機薄膜層の膜厚は、1nm以上が好ましく、より好ましくは5nm以上であり、800nm以下が好ましく、より好ましくは500nm以下である。膜厚が1nm以上であれば、ガスバリア性がより向上する。なお、800nmを超えて過度に厚くしても、それに相当するガスバリア性の向上の効果は得られない。
【0053】
無機薄膜層を形成する方法を、酸化ケイ素・酸化アルミニウム二元系無機酸化物薄膜を例に説明する。蒸着法による薄膜形成法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、あるいはCVD法(化学蒸着法)等が適宜用いられる。例えば、真空蒸着法を採用する場合は、蒸着原料としてSiO2とAl23の混合物、あるいはSiO2とAlの混合物等が用いられる。加熱には、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱等を採用することができ、また、反応ガスとして酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を採用することも可能である。さらに、プラスチックフィルムにバイアスを印加したり、プラスチックフィルムを加熱したり冷却する等、成膜条件も任意に変更することができる。上記蒸着材料、反応ガス、基板バイアス、加熱・冷却等は、スパッタリング法やCVD法を採用する場合にも同様に変更可能である。このような方法により、透明でガスバリア性に優れ、各種処理、例えば、煮沸処理やレトルト処理、さらにはゲルボ試験(耐屈曲性試験)にも耐えることができる優れた性能のラミネートガスバリア性積層フィルムを得ることが可能となる。
【0054】
4.アンカーコート層
本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムにおいては、無機薄膜層とガスバリア性樹脂組成物層との間に、アンカーコート層を有することが好ましい。アンカーコート層を有することにより、無機薄膜層とガスバリア性樹脂組成物層との接着力をより向上させることができる。
【0055】
前記アンカーコート層は、アンカーコート剤樹脂組成物及び溶媒を含有するアンカーコート層用組成物から形成される。前記アンカーコート剤樹脂組成物としては、例えば、ウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、チタン系、イソシアネート系、イミン系、ポリブタジエン系等の樹脂に、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系等の硬化剤を添加したものが挙げられる。前記溶媒(溶剤)としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤;メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコール誘導体等が挙げられる。
【0056】
また、アンカーコート剤樹脂組成物は、有機官能基を少なくとも1種類以上有するシランカップリング剤を含有することが好ましい。前記有機官能基としては、アルコキシ基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。前記シランカップリング剤の添加量としては、アンカーコート剤樹脂組成物(樹脂と硬化剤とシランカップリング剤の合計100質量%)中、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、10質量%以下が好ましく、より好ましくは7質量%以下である。添加量が0.1質量%以上であれば、レトルト処理後のラミネート強度がより向上する。
【0057】
アンカーコート層の厚さは、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.10μm以上であり、0.7μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。アンカーコート層の厚さが0.01μm以上であれば、レトルト処理によるラミネート強度の低下がより抑制され、0.7μm以下であれば、コート斑が発生せずガスバリア性がより良好となる。
【0058】
5.接着剤層
前記接着剤層は、ガスバリア性樹脂組成物層とシーラント層とを接着するものである。ガスバリア性樹脂組成物層とシーラント層とを接着するための接着剤は、特に限定されず、一般的にフィルムのラミネートに使用されるものが用いられる。これらの接着剤としては、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系等が挙げられ、この中でも2液硬化型ポリウレタン系接着剤が好ましい。
【0059】
乾燥後の接着剤層の厚さは、0.01μm以上が好ましく、5μm以下が好ましい。接着剤層の厚さが0.01μm以上であれば、接着力がより良好となり、5μm以下であれば、全体の厚みが厚くなりすぎず、厚み斑を抑制でき、また、ラミネート時に端部からはみ出し、ラミネート装置を汚すことも抑制できる。
【0060】
6.シーラント層(ヒートシール層)
前記シーラント層を形成する熱可塑性重合体としては、シーラント接着性が十分に発現できるものであればよく、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン樹脂類;ポリプロピレン(PP)樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体;エチレン−αオレフィンランダム共重合体;アイオノマー樹脂等、公知のものを採用することが出来る。シーラント層の形成は、通常溶融押出しラミネート法あるいはドライラミネート法によりなされる。
【0061】
シーラント層の厚さは、5μm以上が好ましく、150μm以下が好ましい。シーラント層の厚さが5μm以上であれば、ヒートシール性がより良好となり、150μm以下であれば、ラミネート作業がより容易となり、また、経済的にも好ましい。
【0062】
7.他のフィルム等との積層
本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムは、食品包装用途を初め、様々な用途に用いることができ、それに合わせてさらに、印刷層、他の樹脂フィルム、これらの層を接着するための接着剤層等、他の素材と積層することが出来る。積層の際には、本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムの上に直接溶融押し出しラミネートする方法、コーティングによる方法、フィルム同士を直接又は接着剤を介してラミネートする方法等、公知の手段を採用することが出来る。また、高いバリア性が求められる場合には、本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムを2枚以上積層することもできる。
【0063】
例えば、ガスバリア性樹脂組成物層とヒートシール層の間に他の樹脂フィルムを積層しても良い。他の樹脂フィルムとしてはプラスチックフィルムとして挙げたような樹脂フィルムを用いることができる。これらの積層の際には接着剤を介して積層することができる。
【0064】
8.ラミネートガスバリア性積層フィルム包装体
前記ラミネートガスバリア性積層フィルムは、さらにこれをヒートシールして袋状物とした後に内容物を充填し、ヒートシールにより密封して包装体とすることができる。このようにして得られた包装体はレトルト処理により内容物の滅菌が行われる。本発明のラミネートガスバリア性積層フィルムを用いた包装体は、レトルト処理後のラミネートガスバリア性積層フィルムの前記ガスバリア性樹脂組成物層と前記シーラント層との間のラミネート剥離強度が2N/15mm以上である。すなわち、この包装体は、レトルト処理を行ってもガスバリア性の低下が少なく、内容物の長期保存性に優れる。また、レトルト処理後でもラミネート剥離強度が高く、レトルト中でのラミネート部の剥離や、レトルト後の包装体の落下や運送時の衝撃などによりラミネート部が剥離する危険性が少なく、取り扱い性に優れる。
【0065】
9.レトルト処理
本発明において、レトルト処理に用いるレトルト装置は、特に限定されず、蒸気式(飽和蒸気式、蒸気/空気混合式等)、熱水貯湯式、熱水スプレー式(スプレー式、シャワー式等)等の方式が採用できる。レトルト処理の温度としては、121℃を基準としているが、105℃から130℃前後であれば特に制限を設けるものではない。レトルト処理の時間としては、30分間を基準としているが、10分間〜60分間程度まで、一般的にレトルト処理として扱って実用的に有効である範囲であれば、特に制限はない。処理装置内の圧力についても、特に制限されない。また、処理装置内での振動、攪拌の有無等についても、特に制限されない。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0067】
1.評価方法
1−1.水蒸気透過度測定
ラミネートガスバリア性積層フィルムについて、JIS K7129 B法に準じて、水蒸気透過度測定装置(「PERMATRAN−W 3/33MG」、MOCON社製)を用い、温度40℃、湿度100%RHの雰囲気下で水蒸気透過度を測定した。なお、ラミネートガスバリア性積層フィルムへの調湿は、プラスチックフィルム側からガスバリア性樹脂組成物層側に水蒸気が透過する方向とした。また、上記ラミネートガスバリア性積層フィルムに対して、熱水シャワー式のレトルト装置を使用して、温度121℃、気圧0.2MPa(2kgf/cm2)で30分間のレトルト処理を施した後、40℃にて1日間乾燥させたものについても、同様に水蒸気透過度を測定した。
なお、内容物が充填された包装体の場合は、包装体を開封した後、積層フィルムに付着した内容物を拭き取り、油分が付着している場合はさらに食器用洗剤で洗い落とした後に水分を拭き取り、40℃にて1日間乾燥後、測定に使用する。
【0068】
1−2.酸素透過度
ラミネートガスバリア性積層フィルムについて、JIS K7126−1(2006)付属書1に準じて、酸素透過度測定装置(「OX−TRAN 2/20」、MOCON社製)を用い、温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下で酸素透過度を測定した。また、上記ラミネートガスバリア性積層フィルムに対して、熱水シャワー式のレトルト装置を使用して、温度121℃、気圧0.2MPa(2kgf/cm2)で30分間のレトルト処理を施した後、40℃にて1日間乾燥させたものについても、同様に酸素透過度を測定した。
なお、内容物が充填された包装体の場合は、包装体を開封した後積層フィルムに付着した内容物を拭き取り、油分が付着している場合はさらに食器用洗剤で洗い落とした後に水分を拭き取り、40℃にて1日間乾燥後、測定に使用する。
【0069】
1−3.ラミネート強度の測定方法
ラミネートガスバリア積層フィルムを幅15mm、長さ200mmに切り出して試験片とし、温度23℃、相対湿度65%の条件下で、テンシロン万能材料試験機(「テンシロン UMT−II−500型」、東洋ボールドウイン社製)を用いてラミネート強度を測定した。なお、測定方法は、切り出した試験片をガスバリア性積層フィルム層と無延伸ポリオレフィンフィルム層に剥離し、その各々のフィルム層をチャックに挟んだ後、剥離界面にスポイド等で水を垂らしながら、引張速度は200mm/min、剥離角度90度の条件で剥離したときの強度を測定した。また、上記ラミネートガスバリア性積層フィルムに対して、熱水シャワー式のレトルト装置を使用して、温度121℃、気圧0.2MPa(2kgf/cm2)で30分間のレトルト処理を施したものについても、同様にラミネート強度測定した。なお、レトルト処理終了後から1時間以内にラミネート強度の測定を行った。
なお、内容物が充填された包装体の場合は、包装体を開封した後積層フィルムに付着した内容物を拭き取り、油分が付着している場合はさらに食器用洗剤で洗い落とした後に水分を拭き取り、一時間以内に測定に使用する。切り出せるサンプル長さが200mmに満たない場合は、可能な限り長いサンプルを切り出して測定しても良い。
【0070】
2.準備
2−1.プラスチックフィルムの作製
固有粘度0.62(30℃、フェノール/テトラクロロエタン(質量比)=60/40)、シリカを100ppm含むポリエチレンテレフタレート(PET)を予備結晶化後、本乾燥し、Tダイを有する押出し機を用いて280℃で押出し、表面温度40℃のドラム上で急冷固化して無定形シートを得た。次に得られたシートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に100℃で4倍延伸を行い、一軸延伸PETフィルムを得た。
【0071】
2−2.アンカーコート層を形成するための塗工液の調製
<調製例1>
ウレタン系の樹脂(「タケラック(登録商標) A525−S」、三井化学社製)に、イソシアネート系の硬化剤(「タケラック A−50」、三井化学社製)を添加し、溶媒に酢酸エチルを用いて、固形分濃度が6.5質量%になるよう調製した。ここに、エポキシ系シランカップリング剤(「KBM403」、信越化学工業社製)を、アンカーコート剤樹脂組成物(樹脂と硬化剤とシランカップリング剤の合計100質量%)中の含有量が5質量%となるように添加してアンカーコート層溶塗工液No.1とした。
【0072】
<調製例2>
シランカップリング剤を、イソシアネート系シランカップリング剤(「KBE9007」、信越化学工業社製)に変更したこと以外は、調製例1と同様にしてアンカーコート層溶塗工液No.2を調製した。
【0073】
<調製例3>
シランカップリング剤を、アミン系シランカップリング剤(「KBM603」、信越化学工業社製)に変更したこと以外は、調製例1と同様にしてアンカーコート層溶塗工液No.3を調製した。
【0074】
<調製例4>
樹脂をウレタン系の樹脂(「EL−530A」、東洋モートン社製)、硬化剤を、イソシアネート系の硬化剤(「EL−530B」、東洋モートン社製)に変更したこと以外は調製例1と同様にしてアンカーコート層用塗工液No.4を調製した。
【0075】
<調製例5>
ウレタン系の樹脂(「タケラック(登録商標) A525−S」、三井化学社製)に、イソシアネート系の硬化剤(「タケラック A−50」、三井化学社製)を添加し、溶媒に酢酸エチルを用いて、固形分濃度が6.5質量%になるよう調製し、これをアンカーコート層用塗工液No.5とした。
【0076】
2−3.ガスバリア性樹脂組成物層の材料の調製
<エチレン−ビニルアルコール系共重合体溶液の調製>
精製水20.996質量部とn−プロピルアルコール(NPA)51質量部の混合溶媒に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(商品名:「ソアノール(登録商標) V2603」(エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化して得られた重合体、エチレン比率26モル%、酢酸ビニル成分のケン化度約100%)、日本合成化学社製(以下、「EVOH」と略記することがある。))15質量部を加え、更に過酸化水素水(濃度30質量%)13質量部と硫酸鉄(FeSO4)0.004質量部を添加して攪拌下で80℃に加温し、約2時間反応させた。その後冷却してカタラーゼを3000ppmになるように添加し、残存過酸化水素を除去し、これにより固形分15質量%のほぼ透明なエチレン−ビニルアルコール系共重合体溶液(EVOH溶液)を得た。
【0077】
<ポリビニルアルコール樹脂溶液の調製>
精製水40質量%、n−プロピルアルコール(NPA)60質量%からなる混合溶剤70質量部に、完全けん化ポリビニルアルコール樹脂(商品名:「ゴーセノール(登録商標) NL−05」(けん化度99.5%以上)、日本合成化学社製)30質量部を加え溶解させ、これにより固形分30質量%の透明なポリビニルアルコール溶液を得た。
【0078】
<無機層状化合物分散液の調製>
無機層状化合物であるモンモリロナイト(商品名:「クニピア(登録商標) F」、クニミネ工業社製)4質量部を精製水96質量部中に攪拌しながら添加し、高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で充分に分散させた。その後、40℃で1日間保温し固形分4質量%の無機層状化合物分散液を得た。
【0079】
<添加剤>
架橋剤:塩酸化ジルコニウム(商品名「ジルコゾール(登録商標) Zc−20」(固形分20質量%)、第一稀元素化学工業社製)
架橋剤:チタンラクテート(商品名:「オルガチックス(登録商標) TC−310」(固形分約45質量%)、松本製薬工業社製)
シランカップリング剤:3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(商品名:「KBE−403」(固形分100質量%)、信越化学工業社製)
【0080】
2−4.ガスバリア性樹脂組成物層を形成するための塗工液の調製
<調製例1>
混合溶剤A(精製水:n−プロピルアルコール(質量比)=40:60)62.30質量部に、EVOH溶液を31.75質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液5.95質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加し、イオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して、陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作で得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した。分散処理した混合液97質量部に対して、添加剤としての塩酸化ジルコニウム0.75質量部、精製水0.9質量部、NPA1.35質量部を添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュ(目開き60μm)のフィルターにて濾過し固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.1を得た。
【0081】
<調製例2>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A65.76質量部、EVOH溶液33.00質量部、無機層状化合物分散液1.24質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.2を得た。
【0082】
<調製例3>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A64.00質量部、EVOH溶液32.36質量部、無機層状化合物分散液3.64質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.3を得た。
【0083】
<調製例4>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A66.21質量部、EVOH溶液33.17質量部、無機層状化合物分散液0.62質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.4を得た。
【0084】
<調製例5>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A60.67質量部、EVOH溶液31.15質量部、無機層状化合物分散液8.18質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.5を得た。
【0085】
<調製例6>
添加剤を3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン0.15質量部に、精製水及びNPAの使用量を、精製水1.14質量部、NPA1.71質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.6を得た。
【0086】
<調製例7>
添加剤をチタンラクテート0.33質量部に、精製水及びNPAの使用量を、精製水1.07質量部、NPA1.60質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.7を得た。
【0087】
<調製例8>
混合溶剤A、EVOH溶液及び無機層状化合物分散液の使用量を、混合溶剤A59.10質量部、EVOH溶液30.58質量部、無機層状化合物分散液10.32質量部に変更したこと以外は調製例1と同様にして、固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.8を得た。
【0088】
<調製例9>
混合溶剤A61.52質量部に、EVOH溶液を32.40質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液6.08質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加しイオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して、陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作で得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した後、分散処理した混合液97質量部に対して塩酸化ジルコニウム0.25質量部と、混合溶剤A2.75質量部とを添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.9を得た。
【0089】
<調製例10>
混合溶剤A65.02質量部に、EVOH溶液を29.46質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液5.52質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加しイオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して、陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作で得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した後、分散処理した混合液97質量部に対して塩酸化ジルコニウム2.50質量部と、混合溶剤A0.50質量部とを添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.10を得た。
【0090】
<調製例11>(無機層状化合物なし)
混合溶剤A66.67質量部に、EVOH溶液を33.33質量部添加し、充分に攪拌混合した。更に、この溶液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加しイオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して、陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
この様にして得られた混合液97質量部に対して、塩酸化ジルコニウム0.75質量部と、混合溶剤A2.25質量部とを添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.11を得た。
【0091】
<調製例12>(ポリビニルアルコール樹脂使用)
混合溶剤A78.17質量部に、ポリビニルアルコール樹脂溶液を15.87質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液5.95質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加しイオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して、陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作で得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した後、分散処理した混合液97質量部に対して塩酸化ジルコニウム0.75質量部と、混合溶剤A2.25質量部とを添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.12を得た。
【0092】
<調製例13>(添加剤なし)
混合溶剤A62.30質量部に、EVOH溶液を31.75質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液5.95質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加しイオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して、陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作から得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した後、それを255メッシュのフィルターにて濾過し固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.13を得た。
【0093】
<調製例14>(無機層状化合物多量添加)
混合溶剤A56.85質量部に、EVOH溶液を29.76質量部添加し、充分に攪拌混合した。更にこの溶液に、高速攪拌を行いながら無機層状化合物分散液13.39質量部を添加した。この分散液100質量部に対して、3質量部の陽イオン交換樹脂を添加しイオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して、陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。
以上の操作から得られた分散液を、更に高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した後、分散処理した混合液97質量部に対して塩酸化ジルコニウム0.75質量部と、混合溶剤A2.25質量部とを添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し固形分5質量%のガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.14を得た。
【0094】
3.ガスバリア性積層フィルムの作製
<製造例1>
上記で得た一軸延伸PETフィルムを120℃の温度で4.0倍横方向に延伸し、6%の横方向の弛緩を行いながら、熱固定ゾーンの温度を225℃に設定し熱固定処理を行った。各温度での処理時間は、予熱温度100℃で3秒、延伸温度120℃で5秒、熱固定処理温度225℃で8秒行ったが、この処理時間に限定するものではない。その後冷却し、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムを得た。
【0095】
その後冷却し、両縁部を裁断除去することによって、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムを1000m以上に亘って連続的に製膜してミルロールを作製した。得られたミルロールについて、幅400mm、長さ1000mにスリットして、3インチ紙管に巻き取り、PETフィルムを得た。前記PETフィルムに、無機薄膜層として酸化ケイ素と酸化アルミニウムの二元系無機酸化物薄膜層(酸化ケイ素/酸化アルミニウムの比率(質量比)=60/40)を形成した。
【0096】
ここで、無機薄膜層は、蒸着源として、3mm〜5mm程度の大きさの粒子状のSiO2(純度99.99%)とA123(純度99.9%)を用い、電子ビーム蒸着法により、酸化アルミニウムと二酸化ケイ素との二元系無機酸化物薄膜を形成した。蒸着材料は、混合せずに、2つに区切って投入した。加熱源として、EB(Electron Beam)銃を用い、A123とSiO2のそれぞれを時分割で加熱した。そのときのEB銃のエミッション電流を1.2Aとし、A123とSiO2との質量比が40:60となるように、各材料を加熱した。フィルム送り速度を30m/minとし、蒸着時の圧力を、1×10-2Paに調整した。また、蒸着時のフィルムを冷却するためのロールの温度を−10℃に調整した。このようにして得られた無機薄膜層の厚さは27nmであった。
【0097】
無機薄膜層上にアンカーコート層用塗工液No.1をグラビアロールコート法によって塗布し乾燥させアンカーコート層を形成した。乾燥後のアンカーコート層の厚さは0.30μmであった。アンカーコート層上に、ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.1をグラビアロールコート法によって塗布し、160℃で乾燥させガスバリア性樹脂組成物層を形成し、ガスバリア性積層フィルムNo.1を作製した。なお、乾燥後のガスバリア性樹脂組成物層の厚さは0.25μmであった。
【0098】
<製造例2〜10>
ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液を、ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.2〜10に変更したこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.2〜10を作製した。
【0099】
<製造例11>
酸化ケイ素と酸化アルミニウムの2元系酸化物無機薄膜層中の酸化ケイ素と酸化アルミニウムの質量比(酸化ケイ素/酸化アルミニウム)を、50/50に変更したこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.11を作製した。
【0100】
<製造例12〜15>
アンカーコート層用塗工液を、アンカーコート層用塗工液No.2〜5に変更したこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.12〜15を作製した。
【0101】
<製造例16>
ガスバリア性樹脂組成物層を形成しなかったこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.16を作製した。
【0102】
<製造例17>
無機薄膜層を形成しなかったこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.17を作製した。
【0103】
<製造例18〜21>
ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液を、ガスバリア性樹脂組成物層形成用塗工液No.11〜14に変更したこと以外は製造例1と同様にして、ガスバリア性積層フィルムNo.18〜21を作製した。
【0104】
4.ラミネートガスバリア性積層フィルムの作製
ガスバリア性積層フィルムNo.1〜21のガスバリア性樹脂組成物層(No.16では無機薄膜層)の上に、ウレタン系2液硬化型接着剤(主剤;「タケラック(登録商標) A525S」、三井化学社製、硬化剤;「タケネート(登録商標) A−50」、三井化学社製)を、ドライコート量3.0g/m2、乾燥温度80℃、乾燥炉10m、速度30m/minの条件で塗布し、ニップ圧力0.2MPa(2kgf/cm2)、キャンロール温度60℃の条件でシーラント層として無延伸ポリプロピレンフィルム(「P1147」(厚さ70μm)、東洋紡績社製)を貼り合わせ、40℃にて4日間エージングしてラミネートガスバリア性積層フィルムを得た。なお、乾燥後の接着剤層の厚さは3μmであった。
【0105】
作製したラミネートガスバリア性積層フィルムNo.1〜21の構成及びこれらの評価結果を表1,2に示した。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
5.包装体の作製
ラミネートガスバリア性積層フィルムNo.1、20を、21cm×15cmに切り、これをヒートシール層がお互い向かい合うように2枚重ね合わせて3辺を約1cmの幅でヒートシールした。これにイオン交換水を入れさらに残りの1辺をヒートシールし、包装体を作製した。
【0109】
得られた包装体に対して、熱水シャワー式のレトルト装置を使用して、温度121℃、気圧1.96MPa(2kgf/cm2)で30分間のレトルト処理を施した。レトルト処理後の包装体を高さ70cmの机から床に落下させ袋の状態を観察した。
また、レトルト処理後の包装体からラミネートガスバリア性積層フィルムを切り出し、ラミネート強度、水蒸気透過率及び酸素透過率を測定した。なお、ラミネート強度については、レトルト処理終了後から1時間以内に測定を行った。結果を表3に示した。
【0110】
【表3】

【0111】
包装体No.1は、レトルト処理後のラミネート強度が2N/15mm以上であるラミネートガスバリア性積層フィルムを用いて作製したものであるが、レトルト処理後に衝撃を与えても、ヒートシール部で破袋しなかった。これに対して、包装体No.2は、レトルト処理後のラミネート強度が2N/15mm未満であるラミネートガスバリア性積層フィルムを用いて作製したものであるが、レトルト処理後に衝撃を与えると、ヒートシール部で破袋し、内容物が漏出してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明により、酸素、水蒸気等に対する高いガスバリア性を持ちながら層間接着力が高くラミネート強度に優れたラミネートガスバリア性積層フィルムが得られる。特に、レトルト処理を行ってもガスバリア性、層間接着力の低下が少なく、各種用途に適した実用性の高いラミネートガスバリア性積層フィルムを得ることができる。また、生産安定性に優れ、均質の特性が得られやすいラミネートガスバリア性積層フィルムとなる。
【0113】
本発明のガスバリア性フィルムは、レトルト用の食品包装にとどまらず、各種食品や医薬品、工業製品の包装用途、高温高湿の環境下に置かれたり長期の安定したガスバリア性、耐久性が求められる太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子、等の工業用途にも広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜層、ガスバリア性樹脂組成物層、接着剤層及びシーラント層が、この順に積層されており、
前記ガスバリア性樹脂組成物層が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と無機層状化合物とからなるガスバリア性樹脂組成物から形成され、
レトルト処理後の前記ガスバリア性樹脂組成物層と前記シーラント層との間のラミネート剥離強度が2N/15mm以上であることを特徴とするラミネートガスバリア性積層フィルム。
【請求項2】
前記無機層状化合物が、スメクタイトである請求項1に記載のラミネートガスバリア性積層フィルム。
【請求項3】
前記ガスバリア性樹脂組成物が、添加剤として、有機官能基を少なくとも1種類以上有するシランカップリング剤を含有する請求項1又は2に記載のラミネートガスバリア性積層フィルム。
【請求項4】
前記ガスバリア性樹脂組成物が、添加剤として、水素結合性基用架橋剤を含有する架橋剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のラミネートガスバリア性積層フィルム。
【請求項5】
前記ガスバリア性樹脂組成物中の添加剤(カップリング剤及び/又は架橋剤)の合計含有量が、0.3質量%〜20質量%である請求項1〜4のいずれかに記載のラミネートガスバリア性積層フィルム。
【請求項6】
前記無機薄膜層が、無機酸化物を少なくとも含有する請求項1〜5のいずれかに記載のラミネートガスバリア性積層フィルム。
【請求項7】
前記無機薄膜層と前記ガスバリア性樹脂組成物層との間に、アンカーコート層を有する請求項1〜6のいずれかに記載のラミネートガスバリア性積層フィルム。
【請求項8】
前記アンカーコート層を形成するためのアンカーコート剤樹脂組成物が、有機官能基を少なくとも1種類以上有するシランカップリング剤を含有している請求項7に記載のラミネートガスバリア性積層フィルム。
【請求項9】
前記アンカーコート層を形成するためのアンカーコート剤樹脂組成物中の前記シランカップリング剤の添加量が0.1質量%〜10質量%である請求項8に記載のラミネートガスバリア性積層フィルム。
【請求項10】
ラミネートガスバリア性積層フィルムをヒートシールすることにより袋状に加工された容器に、内容物を充填した後、レトルト処理された包装体であって、
前記ラミネートガスバリア性積層フィルムが、プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜層、ガスバリア性樹脂組成物層、接着剤層及びシーラント層が、この順に積層されており、前記ガスバリア性樹脂組成物層が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と無機層状化合物とからなるガスバリア性樹脂組成物から形成されたものであり、
該レトルト処理後のラミネートガスバリア性積層フィルムは、前記ガスバリア性樹脂組成物層と前記シーラント層との間のラミネート剥離強度が2N/15mm以上であることを特徴とする包装体。

【公開番号】特開2011−201280(P2011−201280A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73683(P2010−73683)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】