説明

ラミネート金属板

【課題】ガラス鏡のように割れるという欠点がなく、安価で割れない鏡への適用に好適なラミネート金属板に関する。
【解決手段】板厚0.1〜0.5mmの金属板上に、樹脂層と該樹脂層上に金属蒸着層を有する複層フィルムが積層されてなり、表面反射率が83%以上であるラミネート金属板。前記複層フィルムの金属蒸着層上に更に上層樹脂層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価で割れない鏡の用途に好適なラミネート金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡は古くから日常生活の幅広い範囲で使用されているだけでなく、現代では、工業的な部品としても用いられてきている。
【0003】
鏡を機能部で分けると、光を反射する反射部、反射部を保持する保持部及び反射部を保護する保護部から成り立つ。
【0004】
ガラス鏡は、ガラスの透明性を活かして、反射層を保護する。ガラスは疵付きにくく、保護部材として良好な特性を有している。ガラスは平滑性に優れるため、塗布、めっき、蒸着などの手法によって銀などの反射剤をガラス面に配置するだけで、平滑な反射面が得られる。反射層は薄くても十分に機能するため、高価だが反射率の高い銀などの材料も採用可能で、これにより従来にない鮮映性が得られることから、割れる、重いなどの欠点を持ちながらも、鏡としてはガラス鏡が主流になっている。
【0005】
ガラスが鏡に適しているのは、その透明性と平滑性にある。樹脂材料は、透明性と平滑性に優れたものを調製することは容易で、しかも、ガラスよりも軽く、割れないという利点を有する。そのため、近年、樹脂素材を基板とする樹脂鏡が登場している。
【0006】
樹脂鏡は、樹脂を基板として、その表面にアルミニウムなどの金属を蒸着して作成するのが一般的である(例えば特許文献1等参照)。金属蒸着層は、平滑な樹脂面上に形成され、反射層として機能する。透明な樹脂層はそのまま保護層となり、鏡の表層として機能し、剥き出しの蒸着面を他の部材で保護すれば鏡として完成する。しかし、樹脂鏡は、疵付きやすい、劣化しやすいなどの欠点があり、またガラス鏡よりも高価であるという理由から、広く普及するに至っていない。
【0007】
樹脂鏡が高価である理由は蒸着プロセスにあると考えられる。アルミニウムなどの金属を蒸着する場合、被蒸着体シートを真空チャンバー内に入れる必要があるが、チャンバー内を真空にするための時間が長くかかることがコスト高の要因となっている。
【0008】
また、樹脂層は、透明で平滑ではあるが疵付きやすい。表面が疵付くと光が乱反射するため、疵付き部は鮮映性が低下する。この欠点を補うために、疵付きにくい特殊な樹脂を用いることも可能であるが、ガラスより高価になり、特殊な使用環境下での需要はあっても一般的な普及には至らない。
【特許文献1】特表2006−507164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ガラス鏡のように割れるという欠点がなく、安価で割れない鏡への適用に好適なラミネート金属板に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の手段は下記の通りである。
(1)板厚0.1〜0.5mmの金属板上に、樹脂層と該樹脂層上に金属蒸着層を有する複層フィルムが積層されてなり、表面反射率が83%以上であることを特徴とするラミネート金属板。
(2)前記複層フィルムの金属蒸着層上に更に上層樹脂層を有することを特徴とする、(1)に記載のラミネート金属板。
(3)前記複層フィルムの樹脂層の主成分がポリエステルであることを特徴とする、(1)または(2)に記載のラミネート金属板。
【0011】
(4)前記複層フィルムは接着層を介して金属板上に積層されていることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載のラミネート金属板。
(5)前記金属蒸着層は、金属板表面から30μm以上離れた位置にあり、前記複層フィルムは熱圧着法にてラミネートされてなることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載のラミネート金属板。
(6)前記複層フィルムの金属蒸着層の下層の樹脂層の融点は接着層の融点よりも20℃以上高融点であり、該複層フィルムは、接着層を介して熱圧着法によって金属板にラミネートされてなることを特徴とする、(4)に記載のラミネート金属板。
【発明の効果】
【0012】
本発明のラミネート金属板を用いて鏡を作成すると、割れることがなく、軽くかつ安価な鏡が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明者らは、従来技術の鏡の問題点を鑑み、1つの着想を得た。すなわち、樹脂鏡の製造プロセスを極端に高効率化させ、製造コストを極端に下げるという発想を得た。高価な特殊品を製造する代わりに、安価な汎用品を製造可能とし、表面が疵付けば交換すればよいという発想である。
【0014】
樹脂鏡の製造プロセスで最も効率が悪いのは被蒸着体シートに反射層として機能する金属蒸着層を形成する真空蒸着工程であると考えられる。発明者らは、この方法で蒸着の効率そのものを上げるより、長尺のストリップに連続的に蒸着処理を行って蒸着面積を増やす方が有効であると考えた。すなわち、コイル状に巻取った薄いフィルム状の被蒸着体を巻き戻しながらチャンバー内に供給し、その表面に連続的に反射層を構成するもの、例えばアルミニウム等を蒸着するという方法である。この方法を採用すれば、生産性は飛躍的に高くなり、従来の数十〜数百倍に達すると考えられる。しかしながら、フィルムは薄く変形しやすいため、そのままでは実用に供せない。そこで作成したフィルムを高効率で支持体に貼り付ける方法を併用することになる。すなわち、反射層を有するコイル状フィルムをコイル状金属薄板にラミネートする手法である。この手法を採用すれば、大面積の鏡を高効率に製造することができる。そして、用途に応じて適当なサイズに剪断すればよい。発明者らは、この手法の採用により、樹脂鏡の価格は、従来の樹脂鏡の1/10以下になると想定している。本発明は、このような着想に基きなされたものである。
【0015】
本発明のラミネート金属板は、板厚0.1〜0.5mmの金属板上に、樹脂層と該樹脂層上に金属蒸着層を有する複層フィルムが積層されてなり、表面反射率が83%以上であることを特徴とするラミネート金属板である。
【0016】
複層フィルムの樹脂層を構成する樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート−エチレンイソフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート−エチレンテレフタレート共重合体、などのポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体などのオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレンを使用できる。
【0017】
前記樹脂の中で、ポリエステルは、安価で透明性に優れ、比較的耐疵付き性にも優れる素材であるので好ましい。また、熱圧着法でラミネートすることが可能であり、この場合、接着層が不要となる利点がある。ただし、熱圧着法を採用した場合、ラミネート条件や接着面から金属蒸着層までの距離によっては、熱の影響で金属蒸着層の平滑性が保てず、83%以上の表面反射率を達成できない場合があるので、本願請求項4、5、6の何れかで規定する構成を満足させることが好ましい。
【0018】
金属蒸着層からなる反射層は、AlやAg等の公知の反射材を使用できる。一般的には、金属蒸着層が厚い方が反射率は高くなる傾向にあるが、コスト的に不利となる。金属蒸発層の厚さは特に限定しないが、前述の観点から、好ましくは30〜50nmの厚さが適当である。
【0019】
樹脂層の厚さは特に限定しないが、15〜200μmの範囲が好ましく、30μm〜200μmの範囲がより好ましい。これは以下の理由による。
【0020】
金属蒸着層の下層の樹脂層の厚さが厚いと、蒸着層の平滑性を保つことが容易になる反面、コスト高となる傾向にあるが、200μmを超えると、平滑性への寄与よりもコスト高の影響の方が大きくなる。また、樹脂種にもよるが、フィルム厚さが15μm未満になるとフィルムコストが高くなる傾向にある。また、下層の樹脂層の厚さが30μm以上あると、熱圧着法でラミネートできるのでより好ましい。
【0021】
金属蒸着層の上層として、さらに樹脂層を配置してもよい。金属蒸着層の上層の樹脂層は、該金属蒸着層の保護という観点では厚い方が良いが、透明度という観点では薄い方が良い。上層の樹脂層は、1μm未満の厚さを制御するのは工業的に難しく、この観点からは、上層の樹脂層の厚さは1μm以上が有利である。また、蒸着層の保護という観点からは、一般的には、30μmを超える厚さは不要である。従って、金属蒸着層の上層として配置する樹脂層の厚さは、1〜30μmが好ましい。
【0022】
金属板種は限定されない。その製造方法も限定されない。表面処理鋼板、アルミ板などが使用できるが、クロムめっき鋼板(ECCS)は、フィルムに対する密着性に優れるため好適である。
【0023】
金属板の板厚は0.1〜0.5mmに限定する。板厚が0.1mm未満では強度に乏しいため、折れ等が生じ易く、また、一般的に製造コストも高くなるため不向きである。また、金属板の板厚が厚くなるほど丈夫になるが、重くなる、コストが高くなるという欠点があり、強度的には、板厚は0.5mm以下で十分である。
【0024】
ラミネート金属板の表面反射率は83%以上に規定する。これは、JIS R3220で、鏡の反射率として、83%以上と規定されていることによる。表面反射率は、JIS R3106に準拠して測定する。
【0025】
前記複層フィルムは、接着層を介して金属板にラミネートしてもよい。接着層としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを使用可能である。接着法としては、熱圧着法や、ラミネート直前に接着剤を塗布し、張り合わせるという方法、圧着法で仮接着させて、その後に熱をかける方法などが使用できる。接着層があると、金属蒸着層の平滑性を保持し易いという利点がある。例えば、熱圧着法においては、蒸着層を支持する層である複層フィルムの金属蒸着層の下層の樹脂層よりも融点の低い接着層を用いることで、金属蒸着層を支持する下層の樹脂層に影響を与えずにラミネート可能である。更に、常温接着性の接着剤を使用すれば、熱をかけずに、圧下するのみでラミネートができるので、この金属蒸着層を支持する下層の樹脂層がより影響を受けにくくなる。
【0026】
接着層の好ましい膜厚は、樹脂によって異なるが、可塑性樹脂の場合は1μm以上が好ましい。可塑性樹脂の場合、1μm未満の厚さを安定して製造する事が困難なためである。上限は、樹脂物性によるが、接着のみの機能に限定して考えた場合は2μm以下で十分である。接着のみの機能を考慮した場合は、2μm超の膜厚は不要となるからである。また、熱硬化性樹脂の場合は、均一でありさえすれば、薄ければ薄いほど良好である。
【0027】
反射層として機能する金属蒸着層は、金属板表面から30μm以上離れた位置に存在させることが好ましい。一般的な熱圧着法では、金属板表面から30μm以上離れると、金属蒸着層の平滑性が影響を受け難くなり、熱圧着法での製造が容易になるためである。
【0028】
熱圧着法でラミネートする際に、金属蒸着層の下層の樹脂層の融点が、接着層の融点よりも高いことで、平滑性が保ちやすい構造となる。請求項6では、金属蒸着層の下層の樹脂層の融点が接着層の融点よりも20℃以上高融点であることを規定することで、一般的な熱圧着ラミネート条件で、金属蒸着層の平滑性が影響を受け難くなる。
【0029】
また、特に規定は設けないが、金属蒸着層の上面を透明な樹脂層で被覆すると耐疵付き性が良好となるので好ましい。
【0030】
また、本発明の効果を阻害しない限り、複層フィルムの樹脂中に滑剤などの添加剤を加えてもよい。
【0031】
次に、本発明のラミネート金属板の製造方法について説明する。
【0032】
金属蒸着層を有する複層フィルムの製造方法について説明する。例えば、ベース樹脂フィルム表面に金属蒸着を施す。蒸着方法は特に規定しないが、例えば、コイル状のベース樹脂を真空チャンバー中に入れ、蒸着を行い金属蒸着層を形成し、金属蒸着層の上層となる樹脂層を配置する場合は、さらに、金属蒸着層上に塗装などの方法で透明な樹脂層を配置し、その後コイル状に巻きとる方法などが適用可能である。
【0033】
前記樹脂フィルムを金属板にラミネートする。具体的には、コイル状に巻取った樹脂フィルムを巻き戻しながら、金属板コイルを巻き戻しながら走行させ、その表面にラミネートする。ラミネート手法については、特に限定を設けないが、熱圧着法、接着層を介した接着法などが挙げられる。ただし、ラミネートの仕方によって、フィルム表面形状の平滑度が維持できない場合は、本発明で規定する表面反射率83%を達成できない場合があるので、特に、熱圧着法においては、金属蒸着層近傍の樹脂が融点に達しないようにしてラミネートする必要がある。
【0034】
上述のラミネート金属板は、表面反射率が高く、軽くて割れにくい。所定寸法に裁断し、鏡として使用すると好適である。
【実施例】
【0035】
<鏡鋼板の作成>
支持フィルムとして主層だけの単層構造の樹脂フィルム(実施例1、2、9〜11、比較例1、2)または支持フィルムとして主層及びその下層として接着層を形成した2層構造の樹脂フィルム(実施例3〜8)を真空チャンバー内に入れ、その一方の表面(接着層を有する場合は主層側表面)に、銀、アルミニウム、銅のいずれかを蒸着して金属蒸着層を形成し、さらに該蒸着層の上にエポキシ系樹脂のクリア塗装を行い100℃で乾燥し、金属蒸着層を有する樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、熱圧着法又は接着法でティンフリースチール原板(T4CA、厚さ0.21mm)にラミネートし、ラミネート鋼板を作成した。作成したラミネート鋼板の表面反射率を、JIS R3106に準拠して測定した。ラミネートした樹脂フィルムの構成及び表面反射率の測定結果を表1に記載する。発明例の実施例1〜11は表面反射率が83%以上で良好な結果が得られている。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のラミネート金属板は、安価で割れない鏡として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚0.1〜0.5mmの金属板上に、樹脂層と該樹脂層上に金属蒸着層を有する複層フィルムが積層されてなり、表面反射率が83%以上であることを特徴とするラミネート金属板。
【請求項2】
前記複層フィルムの金属蒸着層上に更に上層樹脂層を有することを特徴とする、請求項1に記載のラミネート金属板。
【請求項3】
前記複層フィルムの樹脂層の主成分がポリエステルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のラミネート金属板。
【請求項4】
前記複層フィルムは接着層を介して金属板上に積層されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの項に記載のラミネート金属板。
【請求項5】
前記金属蒸着層は、金属板表面から30μm以上離れた位置にあり、前記複層フィルムは熱圧着法にてラミネートされてなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの項に記載のラミネート金属板。
【請求項6】
前記複層フィルムの金属蒸着層の下層の樹脂層の融点は接着層の融点よりも20℃以上高融点であり、該複層フィルムは、接着層を介して熱圧着法によって金属板にラミネートされてなることを特徴とする、請求項4に記載のラミネート金属板。

【公開番号】特開2008−279624(P2008−279624A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124191(P2007−124191)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】