説明

リアルタイム重合反応を用いた癌診断のための情報提供方法及びこのための癌診断用キット

【課題】リアルタイム逆転写酵素重合反応を用いた癌診断のための情報提供方法及びこのための癌診断用キットを提供する。
【解決手段】癌が疑われる患者の血液から得た細胞(赤血球を除くすべての細胞)から全長RNAを分離し、サイトケラチン19、Ki67、ならびにTBPをそれぞれ増幅可能なプライマー対及びプローブからなる群より選択された1つ以上のプライマー対及びプローブを用いて、リアルタイムPCRを行い。前記増幅された量を正常人に対して増幅された量と比較するステップを含む癌診断のための情報提供方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアルタイム重合反応を用いた癌診断のための情報提供方法及びこのための癌診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、現在、韓国で死亡率1位を占めているほど重要な疾病であって、癌発生者数は年々増加しており、2008年の韓国国内の癌発生率は、10万人あたり300人以上に達している(Jemal,A.;Siegel,R.;Xu,J.;Ward,E.,Cancer statistics,2010.CA Cancer J Clin2010,60,(5),277−300).
初期の癌の場合、簡単な手術や薬物治療によってほとんどの悪性腫瘍を治癒することができるが、転移が起きた場合は、その治療が非常に難しくなり、また、患者の予後と5年後の生存率も減少している。このような転移性腫瘍の場合、初期の固形癌に存在する癌細胞が元の病変を起こした部位から剥がれてきて、リンパ節や循環血液あるいは骨髄を通して他の臓器に定着し、転移性癌を誘発するようになる。このように循環血液に存在する癌細胞を血中腫瘍細胞という(Ross,J.S.;Slodkowska,E.A.,Circulating and disseminated tumor cells in the management of breast cancer.Am J Clin Pathol2009,132,(2),237−45)。
【0003】
血中腫瘍細胞は、一次的な腫瘍組織から剥がれてきて、血流に乗って循環する少数の腫瘍細胞をいい、これらは、血液中を循環しながら二次的な部位に転移性腫瘍を引き起こすことがある。したがって、このような血中腫瘍細胞の診断は、初期の癌患者において転移の有無を判別するのに有用である。一般的に、転移性癌を有する患者の経過は不良で治療への反応が良くなく、手術後の予後も悪いことが知られていることから、このような血中腫瘍細胞の診断は、患者において後で転移性癌に発展し得るか否かを判断するのに役立つことができ、患者の経過や予後の判別において良いマーカーとなっている(Meng,S.;Tripathy,D.;Frenkel,E.P.;Shete,S.;Naftalis,E.Z.;Huth,J.F.;Beitsch,P.D.;Leitch,M.;Hoover,S.;Euhus,D.;Haley,B.;Morrison,L.;Fleming,T.P.;Herlyn,D.;Terstappen,L.W.;Fehm,T.;Tucker,T.F.;Lane,N.;Wang,J.;Uhr,J.W.,Circulating tumor cells in patients with breast cancer dormancy.Clin Cancer Res2004,10,(24),8152−62;Pachmann,K.,Longtime recirculating tumor cells in breast cancer patients.Clin Cancer Res2005,11,(15),5657;author reply5657−8)。
【0004】
また、癌細胞の場合、一般の細胞とは異なり、顕著に速い細胞の分化速度を示す。そのため、細胞分裂時に使用されるマーカーを用いて、より速い分化速度を示した場合、どのような疾病や疾患を有しているかがわかる。
【0005】
現在、転移性腫瘍の診断方法は、リンパ節侵潤による検査法や、MRI、PETのような映像装置を用いた癌細胞の存在の有無に関して診断が行われている。しかし、このような検査法の場合、すでに転移して定着した場合にのみ可能であるという欠点があった。しかしながら、血中腫瘍細胞の有無を検査することにより、転移が発生していない初期の癌患者の中から転移の可能性がある患者を診断することにより、癌患者に対する予後管理が慎重に行われることが可能である。
【0006】
血中腫瘍細胞を診断する方法としては、血球細胞と癌細胞との表面抗原の差による抗原抗体検査法が主となっている。癌細胞の表面には、血球細胞とは区別される上皮性抗原を有している。このような抗原は、ほとんどが上皮細胞に存在する抗原であって、血管の内壁や血球細胞には存在しないという特性がある。このような抗原のうち、特に、サイトケラチン19(Cytokeratin 19)の場合、乳癌や、膀胱癌、子宮頸癌、大腸癌、肺癌、すい臓癌、胃癌などで発現することが知られている(Karantza,V.,Keratins in health and cancer:more than mere epithelial cell markers.Oncogene2011,30,(2),127−38)。そのため、現在、サイトケラチン19抗原を用いて血中腫瘍細胞を診断する方法が利用されている。現在利用されている検査法としては、Veridex社製のCellSearchが最も多く用いられているが、この方法は、蛍光標識された抗体を用いて、抗原−抗体結合反応によってEpCAM陽性かつCD45陰性である細胞を判別した後、パンサイトケラチン(Pan−Cytokeratin)抗体を用いて血中癌細胞の有無を検査する方法である(Allard,W.J.;Matera,J.;Miller,M.C.;Repollet,M.;Connelly,M.C.;Rao,C.;Tibbe,A.G.;Uhr,J.W.;Terstappen,L.W.,Tumor cells circulate in the peripheral blood of all major carcinomas but not in healthy subjects or patients with nonmalignant diseases.Clin Cancer Res2004,10,(20),6897−904)。しかしながら、現在、韓国国内ではこの技術が導入されておらず、高価な機械が必要であるという欠点があった。また、現在開発されているRT−PCRに基づいて血中腫瘍細胞を診断する方法は、電気泳動を行うことで増幅産物のバンドを確認するものであるため、特異度が低下し、実験過程が複雑になり、定量的な結果を導き出しにくいという面がある。したがって、本発明者らは、このような技術を代替するために、抗原抗体反応ではない、mRNAをターゲットとして、簡便かつ定量的な結果を導き出すことができる新規方法のリアルタイムRT−PCR法に基づく血中腫瘍細胞の診断方法を見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、上記の必要性によってなされたものであって、その目的は、リアルタイムRT−PCR法に基づく血中腫瘍細胞の診断方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、血中腫瘍細胞の診断用キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、a)癌が疑われる患者の血液から得た細胞(赤血球を除くすべての細胞)から全長RNA(Total RNA)を分離するステップと、b)前記分離された全長RNAからcDNAを合成するステップと、c)前記合成されたcDNAを、サイトケラチン19を増幅可能なプライマー対及びプローブ、Ki67を増幅可能なプライマー対及びプローブ、ならびにTBPを増幅可能なプライマー対及びプローブからなる群より選択された1つ以上のプライマー対及びプローブを用いて、リアルタイムPCRを行うステップと、d)前記増幅された量を正常人に対して増幅された量と比較するステップとを含む癌診断のための情報提供方法を提供する。
【0010】
一般的に用いられる全長RNAを分離する方法及びこれよりcDNAを合成する方法は、公知の方法によって実施可能であり、この過程に関する詳細な説明は、Joseph Sambrook等、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001);及びNoonan,K.F.等に開示されており、本発明の参照として援用できる。
【0011】
本発明のプライマーは、ホスホルアミダイト固体支持体法、またはその他広く公知された方法を利用して化学的に合成することができる。このような核酸配列はまた、当該分野において公知の多くの手段を用いて変形させることができる。このような変形の非制限的な例としては、メチル化、「キャップ化」、天然ヌクレオチド1つ以上の同族体への置換、及びヌクレオチド間の変形、例えば、荷電されていない連結体(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメートなど)または荷電された連結体(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)への変形がある。核酸は、1つ以上の付加的な共有結合された残基、例えば、蛋白質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リシンなど)、挿入剤(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート化剤(例えば、金属、放射性金属、鉄、酸化性金属など)、及びアルキル化剤を含有することができる。本発明の核酸配列はまた、検出可能なシグナルを直接または間接的に提供できる標識を用いて変形させることができる。標識例としては、放射性同位元素、蛍光性分子、ビオチンなどがある。
【0012】
本発明の方法において、前記増幅された標的配列(サイトケラチン19、Ki67などの遺伝子)は、検出可能な標識物質で標識できる。一実現例において、前記標識物質は、蛍光、燐光、化学発光団、または放射性を発する物質であり得るが、これらに限定されない。好ましくは、前記標識物質は、フルオレセイン(fluorescein)、フィコエリトリン (phycoerythrin)、ローダミン、リサミン(lissamine)Cy−5またはCy−3であり得る。標的配列の増幅時、プライマーの5’−末端及び/または3’末端にCy−5またはCy−3を標識してリアルタイムRT−PCRを行うと、標的配列が検出可能な蛍光標識物質で標識できる。
【0013】
また、放射性物質を用いた標識は、リアルタイムRT−PCRの実行時、32Pまたは35Sなどのような放射性同位元素をPCR反応液に添加すると、増幅産物が合成されるとともに、放射性が増幅産物に混入され、増幅産物が放射性で標識できる。標的配列を増幅するために用いられた1つ以上のオリゴヌクレオチドプライマーセットを使用することができる。
【0014】
標識は、当業界において通常実施される多様な方法、例えば、ニックトランスレーション(nick translation)法、ランダムプライミング法 (Multiprime DNA labelling systems booklet,“Amersham”(1989))、及びマキサム・ギルバート法(Maxam & Gilbert,Methods in Enzymology,65:499(1986))によって実施できる。標識は、蛍光、放射能、発色測定、重量測定、X線回折、または吸収、磁気、酵素的活性、質量分析、結合親和度、混成化高周波、ナノクリスタルによって検出可能なシグナルを提供する。
【0015】
本発明の一態様によれば、本発明においては、RT−PCRによってmRNAレベルで発現レベルを測定するようになる。このために、前記サイトケラチン19、Ki67、及びTBP遺伝子に特異的に結合する新規なプライマー対及び蛍光標識されたプローブが要求され、本発明において、特定の塩基配列で特定された当該プライマー及びプローブを使用することができるが、これらに限定されず、これらの遺伝子に特異的に結合して検出可能なシグナルを提供することでリアルタイムRT−PCRを行えるものであれば制限なく使用可能である。前記において、FAM及びBHQ1は、蛍光染料を意味する。
【0016】
本発明に適用されるリアルタイムRT−PCR法は、当業界において通常使用される公知の過程によって実施可能である。
【0017】
mRNAの発現レベルを測定するステップは、通常のmRNAの発現レベルを測定できる方法であれば制限なく使用可能であり、使用したプローブ標識の種類に応じて、放射性測定、蛍光測定、または燐光測定によって実施できるが、これらに限定されない。増幅産物を検出する方法の一つとして、蛍光測定法は、プライマーの5’−末端にCy−5またはCy−3を標識してリアルタイムRT−PCRを行うと、標的配列が検出可能な蛍光標識物質で標識され、このように標識された蛍光は、蛍光測定器を用いて測定することができる。また、放射性測定法は、リアルタイムRT−PCRの実行時、32Pまたは35Sなどのような放射性同位元素をPCR反応液に添加して増幅産物を標識した後、放射性測定器、例えば、ガイガーカウンター(Geiger counter)または液体シンチレーションカウンター(liquid scintillation counter)を用いて放射性を測定することができる。
【0018】
本発明の好ましい一実現例によれば、前記リアルタイムRT−PCRによって増幅されたPCR産物に蛍光標識されたプローブが付着して、特定波長の蛍光を発するようになり、増幅と同時に、リアルタイムPCR装置の蛍光測定器で本発明における遺伝子のmRNAの発現レベルをリアルタイムで測定し、測定された値が計算されてPCを介して視覚化され、検査者は容易にその発現程度を確認することができる。
【0019】
本発明の一実現例において、前記増幅された量を正常人に対して増幅された量と比較するステップは、標準またはカットオフ値によって行われることが好ましく、前記カットオフ値は、Ct値(Threshold Cycle)が34.0であることがより好ましいが、これに限定されない。
【0020】
本発明の他の実現例において、前記サイトケラチン19を増幅可能なプライマー対は、配列番号1及び2に記載され、プローブは、配列番号3に記載された塩基配列を有することが好ましく、前記Ki67を増幅可能なプライマー対は、配列番号4及び5に記載され、プローブは、配列番号6に記載された塩基配列を有することが好ましく、前記TBPを増幅可能なプライマー対は、配列番号7及び8に記載され、プローブは、配列番号9に記載された塩基配列を有することが好ましいが、これに限定されない。
【0021】
また、本発明は、サイトケラチン19を増幅可能な配列番号1及び2に記載のプライマー対及び配列番号3に記載のプローブと、Ki67を増幅可能な配列番号4及び5に記載のプライマー対及び配列番号6に記載のプローブと、TBPを増幅可能な配列番号7及び8に記載のプライマー対及び配列番号9に記載のプローブとからなる群より選択された1つ以上のプライマー対及びプローブを含む癌診断のためのプライマー対及びプローブを提供する。
【0022】
さらに、本発明は、前記本発明のプライマー対及びプローブを含む癌診断用組成物を提供する。
【0023】
本発明の一実現例において、前記癌は、乳癌、膀胱癌、子宮頸癌、大腸癌、肺癌、すい臓癌、胃癌、卵素癌、血液癌、肝臓癌、前立腺癌、または頭頸部癌であることが好ましいが、これらに限定されない。
【0024】
また、本発明は、前記本発明の組成物を含む癌診断用キットを提供する。
【0025】
本発明の他の態様によれば、前記診断キットは、逆転写重合酵素反応を行うために必要な必須要素を含むことを特徴とする癌診断用キットであり得る。逆転写重合酵素反応キットは、前記本発明の遺伝子に対する特異的な各々のプライマー対を含むことができる。プライマーは、各マーカー遺伝子の核酸配列に特異的な配列を有するヌクレオチドであって、約7bp〜50bpの長さ、より好ましくは、約10bp〜30bpの長さであり得、より好ましくは、配列番号1及び2で表示される新規なプライマー対及び配列番号3で表示される蛍光標識されたプローブ、配列番号4及び5で表示される新規なプライマー対及び配列番号6で表示される蛍光標識されたプローブ、ならびに/または配列番号7及び8で表示される新規なプライマー対及び配列番号9で表示される蛍光標識されたプローブを含むことができる。
【0026】
その他、逆転写重合酵素反応キットは、テストチューブまたは別の適したコンテーナ、反応緩衝液(pH及びマグネシウム濃度は多様である)、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq−ポリメラーゼ及び逆転写酵素のような酵素、DNAse、RNAse抑制剤DEPC処理水(DEPC−water)、滅菌水などを含むことができる。
【0027】
本発明において、「癌診断のための情報提供方法」という用語は、診断のための予備的段階であって、癌診断のために必要な客観的な基礎情報を提供するもので、医者の臨床学的判断または所見は除外される。
【0028】
「プライマー」という用語は、短い自由3末端水酸化基を有する核酸配列で、相補的な鋳型(template)と塩基対を形成することができ、鋳型鎖をコピーするための開始地点としての機能を果たす短い核酸配列を意味する。プライマーは、適切な緩衝溶液及び温度で重合反応(すなわち、DNA重合酵素または逆転写酵素)のための試薬及び異なる4つのヌクレオシドトリホスフェートの存在下で、DNA合成が開始できる。本発明のプライマーは、各マーカー遺伝子特異的なプライマーで、7個〜50個のヌクレオチド配列を有するセンス及びアンチセンス核酸である。プライマーは、DNA合成の開始点として作用するプライマーの基本的性質を変化させないという追加の特徴を混入することができる。
【0029】
「プローブ」という用語は、単連鎖核酸分子であり、標的核酸配列に相補的な配列を含む。
【0030】
「リアルタイム逆転写重合酵素反応(リアルタイムRT−PCR)」という用語は、逆転写酵素を用いてRNAを相補的なDNA(cDNA)に逆転写させた後に作られたcDNAを鋳型とし、標的プライマーと標識を含む標的プローブを用いて、ターゲットを増幅するとともに、増幅されたターゲットに標的ブローブの標識で発生する信号を定量的に検出する分子生物学的重合方法である。
【0031】
以下、本発明を説明する。
【0032】
本発明者らは、癌患者から1チューブの血液を採取して、血中腫瘍細胞の有無を検査することにより、以前に用いられていた映像装置では検出できなかった現在転移性癌の可能性がある患者を判別可能な検査法を提供しようとする。特に、上皮性抗原であるサイトケラチン19と細胞分裂マーカーであるKi67のmRNAを用いた遺伝子増幅方法を利用するため、蛋白質を検出する方法に比べて目に見えない程度の量も検出できるという利点を提供し、抗原抗体反応を利用しないことから、割安な検査方法を提供することができる。
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0034】
各々の細胞株(cell line)からのサイトケラチン19とKi67の発現の有無の確認
各々の癌細胞に該当する細胞株を用いてサイトケラチン19とKi67の発現の有無を確認した。各々に使用された細胞株は、乳癌細胞株の3種類(MCF7、SKBR3、MDA−MB231)、肺癌細胞株(A549)、子宮頸癌細胞株(HeLa)、卵素癌細胞株(SKOV3)を用い、ヒト単球細胞の細胞株(THP−1)を陰性対照群として用いた。
【0035】
各細胞株の細胞数は100,000個に維持し、細胞株ごとのサイトケラチン19の発現様相を調べた。その結果、乳癌細胞株と肺癌細胞株では高いサイトケラチン19の発現様相を示していることを確認でき、卵素癌細胞株と単球細胞の細胞株ではサイトケラチン19が発現していないことを確認できた。Ki67の場合、すべて癌細胞化された場合に発現することを確認できた。
【表1】

表1は、細胞株ごとのサイトケラチン19の発現様相を示した表である。
【表2】

表2は、細胞株ごとのKi67の発現様相を示した表である。
【0036】
サイトケラチン19の発現の敏感度及びカットオフ値の設定、ならびにKi67の発現の有無の確認
癌が存在しない健康な人の血液を10ml採血して、乳癌細胞株であるMCF7を10から1細胞まで段階的に血液に混合して任意に血中腫瘍細胞のモデルを作った後、その敏感度を確認した。また、癌のない健康な人の血液を用いて実験上のカットオフ値を設定した。その結果、任意に作った血中腫瘍細胞モデルにおいて、10mlあたり10個まで検出が可能であり、また、Ct値のカットオフ値は34.0で設定することができた。
【0037】
Ki67の場合、TBP(TATA BOX BINDING Protein)とKi67をそれぞれ増幅させた後、Ct値を求めて、「正常人4」を基準として発現様相を調べた。発現様相は、1.0から3.27まで確認された。
【0038】
本発明において、TBPは、内部対照群(internal control)として用いたもので、Ki67の場合、サイトケラチン19とは異なり(サイトケラチン19の発現の有無は、血中腫瘍細胞モデルを標準(standard)として定量曲線を描いて相対的な細胞数を確認した)、基準を設定するためにTBPを常に入れ、正常人の発現量を比較するために、正常人のTBPのCt値と同濃度のDNAを基準としてTBPとKi67を常に入れ、TBPの基準を1とした後、10倍以上が発現した場合に陽性と判定した。
【表3】

表3は、血中腫瘍細胞モデルの敏感度を確認した表である。
【表4】

表4は、正常人におけるKi67の発現を示した表である。
【0039】
転移性乳癌を有する患者における血中のサイトケラチン19とKi67の確認
新村(シンチョン)セブランス病院から転移性乳癌を有する患者の血液を入手し、サイトケラチン19の発現の有無を確認した。先に用いた任意の血中腫瘍細胞モデルを標準として定量曲線を描いた後、相対的な細胞数を確認した。その結果、計6名の患者のうち、10個以上の血中腫瘍細胞が検出された患者が1名、10個以上ではないものの、カットオフ値以下の値を示した患者が2名存在することを確認した。
【0040】
また、Ki67の場合も、サイトケラチン19が多く発現した患者群において、正常人に比べて高い比率で発現することを確認できた。正常人の発現率の最大が3.29であった点を勘案すると、「患者群4」と「患者群6」において、それぞれ高い比率でKi67が発現したことを確認できた。したがって、2つのマーカーを用いて同時に検出する場合にさらに陽性率が高められることから、転移性癌に発展し得る患者の観察により容易に使用可能である。
【表5】

表5は、転移性乳癌患者における血中腫瘍細胞の検出表である。
【表6】

表6は、患者群におけるKi67の発現様相を示した表である。
【0041】
以前に知られたRT−PCR法との比較
以前に知られたRT−PCR法を用いた血中腫瘍細胞検出法との比較のために、すでに他の特許で用いられたプライマーセットとの比較実験を行った。その結果、以前に知られたプライマーセットの場合、「正常人4」の検体において、サイトケラチン19のバンドと同じ大きさのバンドを確認することができたが、本発明に用いられたリアルタイムPCR法を用いた場合には発現の有無を確認できなかったため、新たに開発されたプライマー及びプローブセットが、以前に知られたRT−PCR法に比べてより特異度が良いことを確認でき、さらに、電気泳動を用いてバンドを確認するステップがないことから、より容易に結果を確認できるという利点を確認することができた。
【発明の効果】
【0042】
本発明は、癌患者から1チューブの血液を採取して、血中腫瘍細胞の有無を検査することにより、以前に用いられていた映像装置では検出できなかった現在転移性癌の可能性がある患者を判別することができ、特に、上皮性抗原であるサイトケラチン19と細胞分裂マーカーであるKi67のmRNAを用いた遺伝子増幅方法を用いるため、蛋白質を検出する方法に比べて目に見えない程度の量も検出することができ、抗原抗体反応を利用しないことから、割安な検査方法を提供することができる。なお、以前に知られたRT−PCR法に比べてより特異度が良いことを確認することができ、さらに、電気泳動を用いてバンドを確認するステップがないことから、より容易に結果を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】細胞株ごとのサイトケラチン19の発現の有無を示す図であり、A;MCF7、B;SKBR3、C;MDA−MB231、D;A549、E;HeLa、F;SKOV3、G;THP−1、H;ブランク対照群を示す。
【図2】細胞株ごとのKi67の発現様相を示す図であり、A;MCF7、B;SKBR3、C;MDA−MB231、D;A549、E;HeLa、F;SKOV3、G;THP−1、H;ブランク対照群を示す。
【図3】転移性乳癌患者におけるサイトケラチン19の検出を示す図であり、赤色の四角形;標準曲線(Blood+MCF7 10−1)、青色の四角形;患者群を示す。
【図4】サイトケラチン19のRT−PCR法の特異度及び敏感度の確認を示す図であり、乳癌細胞であるMCF7を、健康な人の血液10mlに10から1細胞まで段階的に希釈して実験をした結果、1細胞まで検出が可能であった。また、各癌細胞の細胞株で発現様相を確認した結果、単球細胞では発現していないことを確認し、各々の癌細胞の細胞株ではサイトケラチン19のバンドを確認することができた。(1)THP−1(単球細胞)、(2)SKOV3(卵素癌細胞株)、(3)HeLa (子宮頸癌細胞株)、(4)〜(6)乳癌細胞株(MDA−MB231、MCF7、SKBR3)、(7)ブランク対照群で、また、患者群(P1−P6)の場合においても、6個全体の検体からサイトケラチン19のバンドが確認され、正常人(N1−N4)においても、1検体からバンドが確認された。
【図5】既存の方法と現在の方法におけるプライマーの位置を確認した図であり、赤色は、既存の方法で用いたプライマーの位置(516−675)、青色は、今回の方法で用いたプライマーの位置(1012−1107)、緑色は、今回の方法で用いたプローブの位置(1037−1059)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、非限定的な実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するためのものとして記載されたものであって、本発明の範囲は、下記の実施例によって制限されるものではない。
【0045】
実施例1:患者の血液からの細胞の分離
癌患者の静脈から血液をEDTAチューブに採取する。上皮細胞からの汚染を防止するために、最初に採取した5mlは捨て、後で採取した10mlを検査法に使用する。患者の血液からmRNAの損傷を防止するために、血液採取後4時間以内に初の実験過程である赤血球の溶解過程を開始しなければならない。血液から赤血球を溶解するためには、NHCl154mM、KHCO9mM、EDTA0.1mMが含まれた赤血球溶解溶液で5倍の容積を入れ、ボルテックス後、常温で10分間静置後、10分間、4℃、600gで遠心分離を行い、上澄液は注意して捨てる。余分の赤血球を除去するために、10mlのRBC溶解緩衝液(lysis buffer)を入れ、5分間、氷に静置させた後、2分間、4℃、3000rpmで遠心分離を再度行い、上澄液を注意して捨て、1mlのPBSを入れ、ペレットを再浮遊させた後、血中にある自由核酸を除去するために、RNase A(100μg/ml)を5分間処理する。
【0046】
実施例2:分離された細胞からの全長RNAの分離
再浮遊させたペレットを再度、2分間、4℃、3000rpmで遠心分離を行い、上澄液はピペッティング(pipetting)で捨てた後、Trizol試薬(Invitorogen社製)1mlを入れ、製造業者のプロトコールによって全長RNAを分離した。
【0047】
実施例3:分離された全長RNAからのcDNAの作製及びリアルタイムPCRの実行
1)cDNA合成
分離された全長RNA2μg、ランダムプライマー(Invitrogen社製) 0.25μg、dNTP(Cosmo gene tech社製)250μM、Tris−HCl(pH8.3)50mM、KCl75mM、MgCl3mM、DTT8mMとMMLV逆転写重合酵素200ユニット(Invitrogen社製)を添加し、最終容積が20μlとなるようにDEPC処理されたDWを入れてよく混ぜた後、合成反応液を、サーモサイクラー(ABI)で、25℃で10分、37℃で50分、70℃で15分間反応させて、cDNAを合成する。
【0048】
2)リアルタイムPCRの実行
リアルタイムPCRの反応物の組成は、25mMのTAPS(pH9.3、25℃)、50mMのKCl、2mMのMgCl、1mMの2−メルカプトエタノール、200μMの各dNTP、1ユニットのTaq polymerase(TAKARA社製)と、フォワード(Forward)プライマーとリバース(Reverse)プライマーをそれぞれ1pmole入れ、プローブも1pmole入れ、合成されたcDNAを2μl入れて、最終容積が20μlとなるようにする。各々のプライマー及びプローブの塩基配列は、次のとおりである。
【0049】
サイトケラチン19のプライマー及びプローブ(増幅産物96bp)
Forward:5’GATGAGCAGGTCCGAGGTTA−3’(配列番号1)
Reverse:5’TCTTCCAAGGCAGCTTTCAT−3’(配列番号2)
プローブ:5’FAM−CTGCGGCGCACCCTTCAGGGTCT−BHQ1−3’(配列番号3)
Ki67のプライマー及びプローブ
Forward:5’TAATGAGAGTGAGGGAATACCTTTG−3(配列番号4)
Reverse:5’AGGCAAGTTTTCATCAAATAGTTCA−3(配列番号5)
プローブ:5’FAM−GGCGTGTGTCCTTTGGTGGGCA−BHQ1−3(配列番号6)
TBPのプライマー及びプローブ
Forward:5’CACAGTGAATCTTGGTTGTAAACTTGA−3(配列番号7)
Reverse:5’AAACCGCTTGGGATTATATTCG−3(配列番号8)
プローブ:5’FAM−AAGACCAATGCACTTCGTGCCCGA−BHQ1−3(配列番号9)
PCR反応は、ABI7500Fast(Applied Biosystem社製)を用いて、変性温度94℃で5分間1回行い、変性温度95℃で30秒、アニーリング温度55℃で20秒のサイクルを40回繰り返して行った。また、各々のアニーリング過程後、蛍光を測定する過程を追加して、各サイクルごとに増加する蛍光値を測定した。
【0050】
実施例4:結果の分析
各実験の結果は、7500 software v2.0.4(Applied Biosystem社製)を用いて分析した。サイトケラチン19の場合、正常人の血液10mlに、乳癌細胞であるMCF7を10から1細胞まで段階的に希釈して、相対的な定量曲線を描いて、相対的な血中腫瘍細胞の量をCt値を用いて測定することができた。Ki67の場合、正常人の血液で発現するKi67の発現量を基準として患者群のKi67の発現量を比較定量して発現率を調べた。このとき、ハウスキーピング遺伝子であるTBPの発現量を基準として各々のKi67の発現量を比較した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)癌が疑われる患者の血液から得た細胞から全長RNAを分離するステップと、
b)前記分離された全長RNAからcDNAを合成するステップと、
c)前記合成されたcDNAを、サイトケラチン19を増幅可能なプライマー対及びプローブ、Ki67を増幅可能なプライマー対及びプローブ、ならびにTBPを増幅可能なプライマー対及びプローブからなる群より選択された1つ以上のプライマー対及びプローブを用いて、リアルタイムPCRを行うステップと、
d)前記発現した量を正常人に対して発現した量と比較するステップとを含むことを特徴とする、癌診断のための情報提供方法。
【請求項2】
前記発現した量を正常人に対して発現した量と比較するステップは、標準またはカットオフ値によって行われることを特徴とする、請求項1に記載の癌診断のための情報提供方法。
【請求項3】
前記カットオフ値が、サイトケラチン19に対してCt値(Threshold Cycle)が34.0であることを特徴とする、請求項2に記載の癌診断のための情報提供方法。
【請求項4】
前記サイトケラチン19を増幅可能なプライマー対が、配列番号1及び2に記載され、
プローブが、配列番号3に記載された塩基配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の癌診断のための情報提供方法。
【請求項5】
前記Ki67を増幅可能なプライマー対が、配列番号4及び5に記載され、プローブは、配列番号6に記載された塩基配列を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の癌診断のための情報提供方法。
【請求項6】
前記TBPを増幅可能なプライマー対が、配列番号7及び8に記載され、プローブは、配列番号9に記載された塩基配列を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の癌診断のための情報提供方法。
【請求項7】
サイトケラチン19を増幅可能な配列番号1及び2に記載のプライマー対及び配列番号3に記載のプローブと、
Ki67を増幅可能な配列番号4及び5に記載のプライマー対及び配列番号6に記載のプローブと、
TBPを増幅可能な配列番号7及び8に記載のプライマー対及び配列番号9に記載のプローブとからなる群より選択された1つ以上のプライマー対及びプローブを含むことを特徴とする、癌診断のためのプライマー対及びプローブ。
【請求項8】
請求項7に記載のプライマー対及びプローブを含むことを特徴とする、癌診断用組成物。
【請求項9】
前記癌が、乳癌、膀胱癌、子宮頸癌、大腸癌、肺癌、すい臓癌、胃癌、卵素癌、血液癌、肝臓癌、前立腺癌、または頭頸部癌であることを特徴とする、請求項8に記載の癌診断用組成物。
【請求項10】
前記癌は、転移性癌であることを特徴とする、請求項8に記載の癌診断用組成物。
【請求項11】
請求項8に記載の組成物を含むことを特徴とする、癌診断用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−244989(P2012−244989A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247874(P2011−247874)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.発明を掲載した刊行物名「2011年度生化学、分子生物学会の定例国際学術大会」 2.発行日 平成23年5月16日 3.発行所Korean Society for Biochemistry and Molecular Biology 4.該当ページ 197ページ 5.公開者 イ、ヘ‐ヤン キム、スン‐イル パク、サン‐ジュン 6.公開のタイトル Molecular indentification of breast cancer diagnositc marker
【出願人】(511275108)エム、アンド、ディー、インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】M&D,INC.
【Fターム(参考)】