説明

リアルタイムPCR法による食品媒介病原菌の網羅的迅速検出方法

【課題】迅速、簡便、安価に食品媒介病原菌を網羅的にスクリーニングすること
【解決手段】複数種類の食品媒介病原菌それぞれにおける所定の検出用DNA断片を増幅させるプライマーペアの組であって、検出用DNA断片のTm値が互いに異なるように設計されたプライマーペアの組、および、蛍光インターカレータを、プレートないしチューブセットのそれぞれの穴に分注し、さらに、前記検出用DNA断片を1穴に1種類ずつ種類数分添加し、残余の穴には被験者の糞便液から抽出した鋳型DNAを1穴に1人分ずつ人数分添加し、これをリアルタイムPCRによって増幅させた後、融解曲線分析をおこない、被験者に一定量を超えていずれかの食中毒菌の保有が認められるかをスクリーニングすることを特徴とする食品媒介病原菌検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食中毒の原因菌を含め食品媒介病原菌を迅速かつ網羅的にスクリーニングする方法およびこれに用いるプライマーペア並びにスクリーニング用PCRプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
食中毒の検査は、長時間にわたる煩雑な分離・同定作業を必要とするため、これまで検査時間の短縮が試みられてきた。糞便からの食中毒菌の検査にはPCR法が広く応用され、近年ではPCR産物に特異的に結合する蛍光色素プローブや、非特異的にPCR増幅産物に結合するサイバーグリーン(SYBR Green)などを用いたリアルタイムPCRが迅速検出に応用されるようになってきている。特に、たとえばTaqMan法に代表されるような蛍光色素プローブ法の場合は、その反応特異性を利用して定量的かつ精度の高い食中毒菌の同定が可能である。
【0003】
しかしながら、蛍光色素プローブ法は、プローブが極めて高価であり、同一チャンネルを利用した同時検査は実質的に不可能であるという問題点があった。
【0004】
実際、日本国内で発生する食中毒又は食品媒介感染症の病原菌は、発生頻度の高い上位8種で発生割合の92%を占め、出現頻度はそれほど高くないものの更に16種を加えた24種類で実質的に100%となる。これら24種類の病原菌を識別するためのプローブを設計することは、金額の上からも現実的でなく、仮に用意したとしても、PCRの条件は個々の病原菌で異なるので、極端にいえば二十数回の(4チャンネルを用いた、インターナルコントロールを含むTaqManPCRであっても8回の)PCR増幅処理が必要となり、時間がかかってしまうという問題点があった。
【0005】
ここで、食中毒が疑われる場合、最も重要視されるのはその再発防止であり、原因菌の絞り込みができれば対策が可能となるので、短時間に「あたり」をつけることが必要となる。したがって、実質的に時間のかかる蛍光色素プローブ法は効率的ではない、という問題点があった。
【0006】
一方、サイバーグリーン法は、このような問題点はないが、ミスプライミング等に基づく蛍光が観測される場合があり、検出結果の信頼性に劣る場合があるという問題点があった。また、EUのISOではプレートの各穴で反応が正常に進行していることを保証すべく、インターナルコントロール(内部標準:IAC(Internal Amplification Control))を加えることが定められ、信頼性を向上させているが、サルモネラ菌や腸炎ビブリオなどの特定の食中毒菌の検証用のIACしか存在せず、どれが原因菌となっているかの特定には時間がかかるという問題点は依然として存在していた。換言すれば、網羅的に短時間で原因菌をスクリーニングする技術が依然として求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−48670号公報
【特許文献2】特開2007−274934号公報
【0008】
【非特許文献1】Hiroshi Fukushima, et al, 'Duplex Real Time SYBR Green PCR Assaysfor Detection of 17 Species of Food- or Waterborne Patholgens in Stools' Journal of Clinical Microbiology,Vol.41, No.11, (2003)
【非特許文献2】福島博ら「リアルタイムPCR法による食中毒菌の迅速スクリーニングの検討」感染症学雑誌、第79巻 第9号 (平成17年)
【非特許文献3】Haukur Gudnason1, et al, 'Comparison of multiple DNA dyes forreal-time PCR: effects of dye concentration and sequence composition on DNAamplification and melting temperature' Nucleic Acids Research, Vol. 35, No. 19, (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち、解決しようとする問題点は、迅速、簡便、安価に食品媒介病原菌を網羅的にスクリーニングする点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の食品媒介病原菌検査方法は、複数種類の食品媒介病原菌それぞれにおける所定の検出用DNA断片を増幅させるプライマーペアの組であって、検出用DNA断片のTm値が互いに異なるように設計されたプライマーペアの組、および、蛍光インターカレータを、プレートないしチューブセットのそれぞれの穴に分注し、さらに、前記検出用DNA断片を1穴に1種類ずつ種類数分添加し、残余の穴には被験者の糞便液から抽出した鋳型DNAを1穴に1人分ずつ人数分添加し、これをリアルタイムPCRによって増幅させた後、融解曲線分析をおこない、被験者に一定量を超えていずれかの食品媒介病原菌の保有が認められるかをスクリーニングすることを最も主要な特徴とする。
【0011】
すなわち、請求項1に係る発明は、原因菌に依存せず、単色蛍光を観測するだけで複数の食中毒原因菌などの食品媒介病原菌のうちいずれに罹患しているかの迅速な同時スクリーニングが可能となる。より具体的には、Tm値が異なるようにプライマーを設計しているので、どの菌の量が多いか、また、その菌がどの程度存在するかを把握可能となり、また、ミスプライミング等が生じてもTm値で検定するためスクリーニングの信頼性が向上する。また、複数人の被験者の同時検査が可能であるため、罹患の疑いがある被験者集団から、迅速な原因菌の特定を可能とする。換言すれば、本方法によれば、条件を均一化して複数の被験者から同時に複数の食品媒介病原菌をスクリーニング可能となる。なお、検出用DNA断片は、株ないし種に特異的な遺伝子または病原に関連する遺伝子から選ばれるものであることはいうまでもない。
【0012】
また、プライマーペアの組とは、食品媒介病原菌に対応した個々の検出用DNA断片を増幅させるプライマーペアの集合をいい、たとえば、食品媒介病原菌が7種類ある場合には、7セットであることを意味する。Tm値とは、融解曲線分析により得られる融解温度をいう。蛍光インターカレータは、単色蛍光を発するインターカレータであれば特に限定されず、たとえば、後述するようにサイバーグリーンを挙げることができる。換言すれば、本発明は、単色蛍光を観測すれば足りるため、TaqManプローブ法のように、マルチチャンネルを設ける必要がなく簡便に複数の食品媒介病原菌をスクリーニングできる技術といえる。
【0013】
プレートないしチューブセットは、特に限定されず、たとえば、8×12穴のプレートを挙げることができる。また、1穴に1種類ずつ添加する検出用DNA断片とは、当該DNA断片を含むDNAであればよく、増幅される断片の前後に他のDNAが一切ないものに限定されないものとする。なお、検出用DNA断片を1穴に1種類ずつ種類数分添加するとは、陽性コントロールをとることを意味し、後述のインターナルコントロールを除いて、複数種類の検出用DNA断片を同じ穴に添加しない(重複させない)ことを意味する。ここで、種類数分、とは、個数に限りのある穴を効率的に用いるため最低数を使用して、被験者の糞便液を添加する穴を残しておくという意であり、余裕がある場合には複数の穴に同一の検出用DNA断片を添加する態様であっても良いものとする。同様に、人数分添加する、とは、穴に余裕がある場合には複数の穴に同一人の鋳型DNAを添加する態様であってもよい。
【0014】
また、請求項2に記載の食品媒介病原菌検査方法は、請求項1に記載の食品媒介病原菌検査方法において、プライマーペアの組と蛍光インターカレータに加えて、前記検出用DNA断片のいずれのTm値とも異なるTm値をもつDNA断片を有するインターナルコントロールと、当該DNA断片を増幅させるインターナルコントロール用プライマーペアと、をプレートないしチューブセットのそれぞれの穴に分注したことを主要な特徴とする。
【0015】
すなわち、請求項2に係る発明は、PCRによる増幅が正常に行われているかの検証が容易となり、また、食品媒介病原菌の定量評価の信頼性を向上させることが可能となる。詳細には、被験者の糞便中に所定量の食品媒介病原菌が存在すれば(罹患していれば)、融解曲線分析によって所定温度で2回の蛍光ピークが観測され、食品媒介病原菌が存在しなくてもPCRが正常であれば、インターナルコントロールに基づく蛍光ピークが所定温度で観測されることとなる。なお、インターナルコントロールのTm値と検出用DNA断片のTm値とは、2.0℃以上、好ましくは、3.0℃以上離れていると、検証が容易となる。
【0016】
また、請求項3に記載の食品媒介病原菌検査方法は、請求項1または2に記載の食品媒介病原菌検査方法において、前記検出用DNA断片と前記鋳型DNAのいずれをも含まず、前記プライマーペアの組、前記蛍光インターカレータ、前記インターナルコントロール用プライマーペア、および、調整水、または、前記プライマーペアの組、前記蛍光インターカレータ、前記インターナルコントロール用プライマーペア、および、前記インターナルコントロールからなる液が分注された区をプレートないしチューブセットに設けたことを主要な特徴とする。
【0017】
すなわち、請求項3に係る発明は、陰性コントロールのみ、または、インターナルコントロールのみをとることによりPCRによる増幅結果の信頼性を向上させる。なお、上記以外にも、DNA以外であれば、色素や試薬などPCRに必要な化合物等が添加されていることは制限されないものとする。
【0018】
また、請求項4に記載の食品媒介病原菌検査方法は、請求項1、2または3に記載の食品媒介病原菌検査方法において、蛍光インターカレータが、サイバーグリーンBEBO、YO−PRO−1、LC Green、SYTO−9、SYTO−13、または、SYTO−82であることを主要な特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項4は、汎用かつ安価なスクリーニング方法を提供可能となる。
【0020】
また、請求項5に記載の食品媒介病原菌検査方法は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の食品媒介病原菌検査方法において、プレートないしチューブセットを区画し、プライマーペアの組を、発生頻度の高い第1の食品媒介病原菌群から選んだ1種の特定の検出用DNA断片と、発生頻度が第1の食品媒介病原菌よりは高くない第2の食品媒介病原菌群から選んだ1種または2種の食品媒介病原菌の特定の検出用DNA断片と、をそれぞれ増幅させるように、かつ、食品媒介病原菌種がそれぞれ重複しないように、グループ化し、1区画1グループとなるように割り当ててプライマーペアの組を分注し、各区画に前記割り当てられたグループに係る前記検出用DNA断片を1穴に1種類ずつ種類数分添加し、各区画の残余の穴には被験者の糞便液から抽出した鋳型DNAを1穴に1人分ずつ人数分添加したことを主要な特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項5に係る発明は、複数の被験者から同時にかつ効率的に複数の食品媒介病原菌を網羅的にスクリーニング可能となる。特に、発生頻度の高い食品媒介病原菌を1グループに1種類のみとしているので、原因菌の特定の信頼性が向上する。
【0022】
なお、区画するとは、線引きしてある必要はなく、概念的に分かれていれば特に限定されない。プレートの場合は、たとえば、各列の1穴目を陰性コントロール(PCRグレード水)、2穴目をインターナルコントロールのみ、3穴目〜5穴目を陽性コントロール(+インターナルコントロール)、6穴目を被験者1(+インターナルコントロール)、7穴目を被験者2(+インターナルコントロール)、・・・、とするようにする例を挙げることができる。
【0023】
また、請求項6に記載の食品媒介病原菌検査方法は、請求項5に記載の食品媒介病原菌検査方法において、第1の食品媒介病原菌群は、耐熱性溶血毒産生腸炎ビブリオ、ウエルシュ菌、サルモネラ菌、カンピロバクター・ジェジュニ、黄色ブドウ球菌、嘔吐毒産生セレウス菌、eaeA遺伝子保有大腸菌、astA遺伝子保有大腸菌、から選ばれた群であり、第2の食品媒介病原菌群は、カンピロバクター・コリー、aagR遺伝子保有大腸菌、stx1遺伝子保有大腸菌、下痢毒産生セレウス菌、赤痢菌、コレラ菌、プロビデンシア・アルカリファンシエンス、プレシオモナス・シゲロイデス、LT遺伝子保有大腸菌、リステア菌、TRH産生腸炎ビブリオ、stx2遺伝子保有大腸菌、ST遺伝子保有大腸菌、エルシニア菌、エロモナス菌、daaD遺伝子保有大腸菌、から選ばれた群であることを主要な特徴とする。
【0024】
すなわち、請求項6に係る発明は、食中毒の疑いがある場合に、日本国内で発生し検討すべきであるところの食品媒介病原菌を実質的に100%スクリーニング可能となる。
【0025】
なお、eaeA遺伝子保有大腸菌とは、腸管出血性大腸菌や病原性大腸菌にその遺伝子保有が認められるものであり、astA遺伝子保有大腸菌およびaagR遺伝子保有大腸菌は、株が異なるもののいわゆる腸管凝集接着性大腸菌を指し、stx1遺伝子保有大腸菌およびstx2遺伝子保有大腸菌は、株が異なるもののいわゆる腸管出血性大腸菌を指す。また、LT遺伝子保有大腸菌はLT毒素産生大腸菌を、ST遺伝子保有大腸菌はST毒素産生大腸菌を示す。daaD遺伝子保有大腸菌とは、分散接着性大腸菌にその遺伝子保有が認められるものである。
【0026】
また、請求項7に記載の食品媒介病原菌検査方法は、請求項5または6に記載の食品媒介病原菌検査方法において、グループ内の検出用DNA断片のTm値を互いに0.6℃以上離れるようにプライマーペアを設計したことを主要な特徴とする。
【0027】
すなわち、請求項7に係る発明は、日本国内で報告事例のある主要な食品媒介病原菌を効率的かつ精度高く網羅的にスクリーニング可能となる。なお、0.6℃以上であれば融解曲線分析による曲線ピークに基づいて分離観測が可能であるが、1.0℃以上Tm値が離れていることが好ましい。
【0028】
また、請求項8に記載の食品媒介病原菌検査方法は、請求項5または6に記載の食品媒介病原菌検査方法において、食品媒介病原菌が、耐熱性溶血毒産生腸炎ビブリオである場合には、検出用DNA断片は配列番号7に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号31および32に示すものであり、カンピロバクター・コリーである場合には、検出用DNA断片は配列番号8に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号33および34に示すものであり、aagR遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号9に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号35および36に示すものであり、ウエルシュ菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号10に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号37および38に示すものであり、stx1遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号11に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号39および40に示すものであり、下痢毒産生セレウス菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号12に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号41および42に示すものであり、サルモネラ菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号13に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号43および44に示すものであり、赤痢菌である場合には、検出用DNA断片は14であり、これに対するプライマーペアは配列番号45および46に示すものであり、コレラ菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号15に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号47および48であり、カンピロバクター・ジェジュニである場合には、検出用DNA断片は配列番号16に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号49および50に示すものであり、プロビデンシア・アルカリファンシエンスである場合には、検出用DNA断片は配列番号17に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号51および52に示すものであり、プレシオモナス・シゲロイデスである場合には、検出用DNA断片は配列番号18に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号53および54に示すものであり、黄色ブドウ球菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号19に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号55および56に示すものであり、LT遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号20に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号57および58に示すものであり、リステア菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号21に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号59および60に示すものに示すものであり、嘔吐毒産生セレウス菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号22に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号61および62に示すものであり、TRH産生腸炎ビブリオである場合には、検出用DNA断片は配列番号23に示すものに示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号63および64に示すものであり、stx2遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号24に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号65および66に示すものであり、eaeA遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号25に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号67および68に示すものであり、ST遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号26に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号69および70に示すものであり、エルシニア菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号27に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号71および72に示すものであり、astA遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号28に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号73および74に示すものであり、エロモナス菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号29に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号75および76に示すものであり、daaD遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号30に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号77および78に示すものであることを主要な特徴とする。
【0029】
すなわち、請求項8に係る発明は、株ないし種に特異的な遺伝子または病原に関連する遺伝子を増幅するプライマーペアを用いて日本国内で報告事例のある主要な食品媒介病原菌を効率的かつ精度高く網羅的にスクリーニング可能となる。なお、これらの検出用DNA断片のTm値は、およそ、76℃〜90℃に存在する。
【0030】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一つに記載の食品媒介病原菌検査方法における、Yersinia ruckeriの16SrRNA遺伝子のインターナルコントロールとしての使用であることを最も主要な特徴とする。
【0031】
すなわち、請求項9に係る発明は、日本国内で報告事例のある主要な食品媒介病原菌を効率的かつ精度高く網羅的にスクリーニング可能となるインターナルコントロールを提供可能となる。Yersinia ruckeriはニジマスの赤口病にしか見られない特徴的な遺伝子であり、人間の腸内に存在し得ないと考えられるので本方法におけるIACとして好適である。なお、このインターナルコントロール用のDNA断片としては、配列番号1に挙げるものがTm=84.6℃±1.5℃であり、配列番号2に挙げるものがTm=78.3℃±0.2℃である。よって、配列番号7〜30に示した検出用DNA断片とは、2℃〜6℃Tm値をずらすことができるので、ピークに基づく検出ないし検定が容易となる。
【0032】
また、請求項10に記載の発明は、融解曲線分析により食品媒介病原菌をスクリーニングするに際して使用するプライマーペアの組であって、増幅させるDNA断片のTm値が互いに0.6℃以上離れるように以下の群から選択した3ペア以上からなるプライマーペアの組であることを最も主要な特徴とする。その群とは、配列番号31および32に示すプライマーペア、配列番号33および34に示すプライマーペア、配列番号35および36に示すプライマーペア、配列番号37および38に示すプライマーペア、配列番号39および40に示すプライマーペア、配列番号41および42に示すプライマーペア、配列番号43および44に示すプライマーペア、配列番号45および46に示すプライマーペア、配列番号47および48に示すプライマーペア、配列番号49および50に示すプライマーペア、配列番号51および52に示すプライマーペア、配列番号53および54に示すプライマーペア、配列番号55および56に示すプライマーペア、配列番号57および58に示すプライマーペア、配列番号59および60に示すプライマーペア、配列番号61および62に示すプライマーペア、配列番号63および64に示すプライマーペア、配列番号65および66に示すプライマーペア、配列番号67および68に示すプライマーペア、配列番号69および70に示すプライマーペア、配列番号71および72に示すプライマーペア、配列番号73および74に示すプライマーペア、配列番号75および76に示すプライマーペア、配列番号77および78に示すプライマーペアである。
【0033】
すなわち、請求項10に係る発明は、株ないし種に特異的な遺伝子または病原に関連する遺伝子を増幅するプライマーペアを用いてリアルタイムPCRにより、少なくとも3つの食品媒介病原菌を同時にスクリーニング可能となる。組合せにより、網羅的かつ効率的に迅速スクリーニングすることもできる。
【0034】
また、請求項11に記載の食品媒介病原菌スクリーニング用PCRプレートは、食中毒罹患の疑いのある複数の被験者から食品媒介病原菌をスクリーニングするための食品媒介病原菌スクリーニング用PCRプレートであって、発生頻度の高い第1の食品媒介病原菌群から選んだ1種と発生頻度が第1の食品媒介病原菌よりは高くない第2の食品媒介病原菌群から選んだ1種または2種により、食品媒介病原菌をそれぞれ重複しないように複数のグループに分け、プレートを区画して1区画1グループとなるように割り当て、プレートの各穴に、インターナルコントロールと、インターナルコントロール用プライマーペアと、蛍光インターカレータと、を分注し、さらに、グループ内の食品媒介病原菌それぞれの所定の検出用DNA断片を増幅させるプライマーペアの組であって、検出用DNA断片のTm値が互いに異なるように設計されたプライマーペアの組を、当該グループに係る区画にそれぞれ分注し、かつ、各区画に当該区画に割り当てられたグループに係る前記検出用DNA断片を1穴に1種類ずつ種類数分添加し、当該区画の残余の穴には被験者の糞便液から抽出した鋳型DNAを1穴に1人分ずつ人数分添加したことを最も主要な特徴とする。
【0035】
すなわち、請求項11に係る発明は、複数の被験者から同時にかつ効率的に複数の食品媒介病原菌を網羅的にスクリーニング可能となる。特に、発生頻度の高い食品媒介病原菌を1グループに1種類のみとしているので、原因菌の特定の信頼性が向上する。なお、このPCRプレートには、請求項1〜10に記載した各技術を適用できることはいうまでもない。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、迅速、簡便、安価に、食中毒菌を含み食品媒介病原菌を網羅的にスクリーニング可能となる。特に、検出用DNA断片のTm値を適正に選択しそのDNA断片(検出用DNA断片)を増幅するプライマーペアの組をグループ化して分注することにより、国内で発生する食品媒介病原菌の実質的に総てを一括してリアルタイムPCRによりスクリーニングすることが可能となる。
【0037】
また、この一括してPCR反応させる場合に用いることが可能な、汎用的かつ信頼性の高いIACおよびIACプライマーペアを提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】96穴(8×12穴)PCRプレートの割り当てを示した図である。
【図2】PCRプロトコルを示した図である。
【図3】グループ1〜4について、陽性コントロールのサイクル数と蛍光強度との関係、および、融解曲線分析の結果を示した図である。
【図4】グループ5〜8について、陽性コントロールのサイクル数と蛍光強度との関係、および、融解曲線分析の結果を示した図である。
【図5】実際の食中毒が疑われた例の被験者の糞便液を用いてスクリーニングした融解曲線分析結果を示した図である。
【図6】図5の一部拡大図である。
【図7】実際の食中毒が疑われた別の例の被験者の糞便液を用いてスクリーニングした融解曲線分析結果を示した図である。
【図8】図7の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を図表を参照しながら詳細に説明する。
ここでは、8×12穴(=96穴)のPCRプレートを用いた24種類の食品媒介病原菌のスクリーニング方法について説明する。なお、ここでは、説明の便宜上、株レベルで異なる菌も1(種)として表記するものとする。
プレートは、1列分の12穴を一区画と考え、これを1グループとして、計8グループのスクリーニングをおこなう。1グループで3種類の食品媒介病原菌をスクリーニングし計24種類の判別をおこなう。
【0040】
日本で発生する食中毒は次の24種類のいずれかの食品媒介病原菌であるといえる。ここでは、発生頻度の高い8種類を一つずつ各グループに割り当て、発生頻度の高くない16種類の内の2種類ずつを各グループに割り当て、検出の効率化を図る。発生頻度の高い群と高くない群を次に示す。なお、括弧書きは、本願において必要に応じて用いる簡略表記とする。
【0041】
(1)発生頻度の高い群
耐熱性溶血毒産生腸炎ビブリオ(TDH)、ウエルシュ菌、サルモネラ菌、カンピロバクター・ジェジュニ(Cj)、黄色ブドウ球菌、嘔吐毒産生セレウス菌(EMBc)、eaeA遺伝子保有大腸菌(EHEC)、astA遺伝子保有大腸菌(AST)
(2)発生頻度の高くない群
カンピロバクター・コリー(Cc)、aagR遺伝子保有大腸菌(EAEC)、stx1遺伝子保有大腸菌(S1)、下痢毒産生セレウス菌(ENBc)、赤痢菌、コレラ菌、プロビデンシア・アルカリファンシエンス(Pa)、プレシオモナス・シゲロイデス(Ps)、LT遺伝子保有大腸菌(LT)、リステア菌、TRH産生腸炎ビブリオ(TRH)、stx2遺伝子保有大腸菌(S2)、ST遺伝子保有大腸菌(ST)、エルシニア菌、エロモナス菌、daaD遺伝子保有大腸菌(DAEC)
【0042】
本願発明者は、鋭意検討の結果、これらの食品媒介病原菌のそれぞれについて、株ないし種に特異的な遺伝子または病原に関連する遺伝子の特定のDNA断片であって、その融解温度Tmがグループ内で互いに分別可能な程度に異なるDNA断片と、このDNA断片をPCRによって増幅させるプライマーペアと、を設計することに成功した。加えて、共通すなわち汎用のインターナルコントロール用のDNA断片およびそのプライマーペアを設計することに成功した。
【0043】
<インターナルコントロール:IAC>
インターナルコントロール(IAC)は、鋭意検討の結果、Yersinia ruckeriの標的遺伝子16SrRNA(アクセッション番号X75275)を採用することとした。これは、ニジマスの赤口病にのみ見られる遺伝子であって、人間の腸管内には存在しないためIACとして好適である。
【0044】
後述の食品媒介病原菌の検出用DNA断片のTm値は76℃〜90℃にあって、比較的低温側にあるものが多く、比較的高温側(84℃以上)にあるものが3種である。したがって、IACとしては、Tm値が低い検出用DNA断片の場合には、Tm値の高いDNA断片を増幅するプライマーを、Tm値が高い検出用DNA断片の場合には、Tm値の低いDNA断片を増幅するプライマーを設計した。
【0045】
鋭意検討の結果、IACの47番目〜119番目のDNA断片(配列番号1)が、Tm=84.6℃(±1.5℃)であり、426番目〜493番目のDNA断片(配列番号2)が、Tm=78.3℃(±0.2℃)であることが分かった。よって、これらを増幅するプライマーを設計した。なお、前者を増幅するプライマーペア(以降yers85と表記するものとする)のうち、センスプライマーを配列番号3にアンチセンスプライマーを配列番号4に示し、後者を増幅するプライマーペア(以降yers78と表記するものとする)のうち、センスプライマーを配列番号5にアンチセンスプライマーを配列番号6に示した。
【0046】
<食中毒菌の検出用DNA断片の設定およびそのプライマーペア>
IACの設計にあわせて、検出用DNA断片とそのプライマーペアとを設計した。設計にあたっては、Tm値が76℃〜90℃までに分散し、グループ内でできるだけ1.0℃以上Tm値が異なるようにした。なお、融解曲線分析に際しては測定機器にも依存するが、0.6℃以上Tm値が離れていれば、分離観察が可能となる。鋭意検討の結果、次の検出用DNA断片を決定した。
【0047】
種名:標的遺伝子(アクセッション番号):検出用DNA断片のロケーション(配列番号):Tm値の順に表記する。

・耐熱性溶血毒産生腸炎ビブリオ:tdh(X54341):264-498(配列番号7):81.0℃±0.3℃
・カンピロバクター・コリー:ceuE(X88849):3513-3603(配列番号8):77.1℃±0.3℃
・aagR遺伝子保有大腸菌:aggR(Z18751):358-454(配列番号9):78.4℃±0.8℃

・ウエルシュ菌:cpe(X81849):583-736(配列番号10):77.4℃±0.3℃
・stx1遺伝子保有大腸菌:stx1(EF441598):415-509(配列番号11)80.8℃±0.3℃
・下痢毒産生セレウス菌:nheB(DQ153257):2101-2252:(配列番号12):81.4℃±0.2℃

・サルモネラ菌:invA(M90846):167-285(配列番号13):80.2℃±0.2℃
・赤痢菌:virA(D26468):468-552(配列番号14):79.0℃±0.3℃
・コレラ菌:ompW(X51948):675-763(配列番号15):81.8℃±0.3℃

・カンピロバクター・ジェジュニ:C. jejuni-specific DNA(AL111168):381121-381206(配列番号16):79.1℃±0.3℃
・プロビデンシア・アルカリファンシエンス:gyrB(AJ300547):38-110(配列番号17):80.2℃±0.2℃
・プレシオモナス・シゲロイデス:gyrB(AJ300545):237-304(配列番号18):82.2℃±0.3℃

・黄色ブドウ球菌:femB(AF106850):277-370(配列番号19):82.4℃±0.3℃
・LT遺伝子保有大腸菌:lt(S60731):320-452(配列番号20):78.0℃±0.4℃
・リステア菌:hly(EU372057):3152-3257(配列番号21):79.3℃±0.3℃

・嘔吐毒産生セレウス菌:ces(DQ360825):8689-8793(配列番号22):79.7℃±1.0℃
・TRH産生腸炎ビブリオ:trh(AY742213):180-263(配列番号23):78.7℃±1.7℃
・stx2遺伝子保有大腸菌:stx2(EF441616):140-247(配列番号24):81.9℃±0.8℃

・eaeA遺伝子保有大腸菌:eaeA(Z11541):899-1000(配列番号25):79.6℃±0.2℃
・ST遺伝子保有大腸菌:st(M25607):294-483(配列番号26):77.6℃±0.3℃
・エルシニア菌:yadA(X13882):1465-1564(配列番号27):81.4℃±0.3℃

・astA遺伝子保有大腸菌:astA(L11241):63-168(配列番号28):84.6℃±0.3℃
・エロモナス菌:ahh1(CP000462):1653360-1653492(配列番号29):88.9℃±0.2℃
・daaD遺伝子保有大腸菌:daaD(AF233530):55-190(配列番号30):89.9℃±0.2℃

【0048】
次に、検出用DNA断片に対するプライマーペアを記す。
種名:プライマーペアの配列番号:プライマーペアに対して付した識別名、の順に表記する。

・耐熱性溶血毒産生腸炎ビブリオのプライマーペア:配列番号31および配列番号32:tdh
・カンピロバクター・コリーのプライマーペア:配列番号33および配列番号34:CCceuE
・aagR遺伝子保有大腸菌のプライマーペア:配列番号35および配列番号36:aggR

・ウエルシュ菌のプライマーペア:配列番号37および配列番号38:GAP
・stx1遺伝子保有大腸菌のプライマーペア:配列番号39および配列番号40:JMS1
・下痢毒産生セレウス菌のプライマーペア:配列番号41および配列番号42:SG

・サルモネラ菌のプライマーペア:配列番号43および配列番号44:Styinva
・赤痢菌のプライマーペア:配列番号45および配列番号46:virA
・コレラ菌のプライマーペア:配列番号47および配列番号48:ompW

・カンピロバクター・ジェジュニのプライマーペア:配列番号49および配列番号50:AB
・プロビデンシア・アルカリファンシエンスのプライマーペア:配列番号51および配列番号52:PAG
・プレシオモナス・シゲロイデスのプライマーペア:配列番号53および配列番号54:PSG

・黄色ブドウ球菌のプライマーペア:配列番号55および配列番号56:FemB
・LT遺伝子保有大腸菌のプライマーペア:配列番号57および配列番号58:LT
・リステア菌:hly(EU372057)のプライマーペア:配列番号59および配列番号60:hly

・嘔吐毒産生セレウス菌のプライマーペア:配列番号61および配列番号62:ces
・TRH産生腸炎ビブリオのプライマーペア:配列番号63および配列番号64:trh
・stx2遺伝子保有大腸菌のプライマーペア:配列番号65および配列番号66:JMS2

・eaeA遺伝子保有大腸菌のプライマーペア:配列番号67および配列番号68:eaeA
・ST遺伝子保有大腸菌のプライマーペア:配列番号69および配列番号70:STa
・エルシニア菌のプライマーペア:配列番号71および配列番号72:yadA

・astA遺伝子保有大腸菌のプライマーペア:配列番号73および配列番号74:EAST
・エロモナス菌のプライマーペア:配列番号75および配列番号76:AHH1
・daaD遺伝子保有大腸菌のプライマーペア:配列番号77および配列番号78:daaD

【0049】
<食中毒菌のグループ分け>
Tm値と発生頻度の高い原因菌とに基づいて、グループ分けは以下のとおりとした。
・グループ1:耐熱性溶血毒産生腸炎ビブリオ(TDH positive Vibrio parahaemolyticus)、
カンピロバクター・コリー(Campylobacter coli)、
aagR遺伝子保有大腸菌(EAEC)
・グループ2:ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)、
stx1遺伝子保有大腸菌(EHEC (stx 1))、
下痢毒産生セレウス菌(Enterotoxigenic B. cereus)
・グループ3:サルモネラ菌(Salmonella spp.)、
赤痢菌(Shigella)、
コレラ菌(V. cholerae)
・グループ4:カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、
プロビデンシア・アルカリファンシエンス(Providencia alcalifaciens)、
プレシオモナス・シゲロイデス(Plesiomonas shigelloides)
・グループ5:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、
LT遺伝子保有大腸菌(ETEC (LT))、
リステア菌(Listeria monocytogenes)
・グループ6:嘔吐毒産生セレウス菌(Emetic Bacillus cereus)、
TRH産生腸炎ビブリオ(TRH positive Vibrio parahaemolyticus)、
stx2遺伝子保有大腸菌(EHEC (stx 2))
・グループ7:eaeA遺伝子保有大腸菌(EHEC and EPEC)、
ST遺伝子保有大腸菌(ETEC (ST))、
エルシニア菌(Y.enterocolitica and Y.pseudotuberculosis)
・グループ8:astA遺伝子保有大腸菌(EAEC)、
エロモナス菌(Aeromonas hydrophila)、
daaD遺伝子保有大腸菌(DAEC)
【0050】
このグループ分けにより、各グループ内ではTm値が互いに0.6℃以上離れることとなり、融解曲線分析によるTm値の分離が可能となる。また、IACに関しては、グループ1〜グループ7についてはyers85を加え、グループ8についてはyers78を加えてPCR反応させることにより、IACのTm値をグループ内の検出用DNA断片のTm値とも2℃〜6℃離すことができる。よって、このグループ分けにより、インターナルコントロールをとりながら分解能よく原因菌をスクリーニングできることとなる。
【0051】
なお、グループ分けはこの例に限らず、IACも含めてTm値のピークが分離して評価可能な程度に離れていればよい。このとき、各グループに出現頻度の高いものを1種ずつ分配するようにするのが好ましい。
【0052】
PCRプレートの各列の12穴は、IACのプライマーペア+当該グループのプライマーペアの組+蛍光インターカレータを添加し、各穴には、陰性コントロール、陽性コントロール、被験者の糞便液(検体)を順次添加する。第1列目にグループ1を割り当てた例で説明すると、添加するプライマーペアの組は、CCceuE+aggR-Z+tdhであり、これとyers85を12穴総てに添加する。そして、第1穴〜第12穴までは、以下を添加する。
【0053】
第1穴:水
第2穴:IAC
第3穴:カンピロバクター・コリーの鋳型DNA+IAC
第4穴:aagR遺伝子保有大腸菌の鋳型DNA+IAC
第5穴:耐熱性溶血毒産生腸炎ビブリオの鋳型DNA+IAC
第6穴:被験者1の糞便からの鋳型DNA(検体1)+IAC
第7穴:被験者2の糞便からの鋳型DNA(検体2)+IAC
第8穴:被験者3の糞便からの鋳型DNA(検体3)+IAC
第9穴:被験者4の糞便からの鋳型DNA(検体4)+IAC
第10穴:被験者5の糞便からの鋳型DNA(検体5)+IAC
第11穴:被験者6の糞便からの鋳型DNA(検体6)+IAC
第12穴:被験者7の糞便からの鋳型DNA(検体7)+IAC
【0054】
第2列〜第8列には、同様にグループ2〜グループ8を割り当てる。図1に全96穴の割り当てを示す。図示したように、24種類の原因菌のスクリーニングが1プレートで可能となる。第6穴〜第12穴は、被験者1〜被験者7の糞便からの鋳型DNAを分注する。病院等では嘔吐や腹痛等を訴える者が同時期に集中することを契機として食中毒を疑うので、7検体もあればスクリーニングとしては十分有用である。
【実施例1】
【0055】
次に、実際に検体を用いた例を説明する。
使用するPCR装置は、ABI7500(ABI社)とし、反応サイクルは、図2のとおりのプロトコルとした。Stage3で融解曲線分析をおこなう。このプロトコルから分かるように、本発明では、約2時間以内という短時間で24種類の原因菌のスクリーニングが可能である。
【0056】
各穴(反応チューブ)には、合計50μリットルの反応液となるように、表1のとおりの調合とした。
【表1】

【0057】
サイバーグリーンは、SYBR Premix Ex Taq II(タカラバイオ社製)を用いた。ROX Reference Dyeは、上記サイバーグリーンに添付の色素である。なお、検出用DNA断片の濃度およびIACの濃度は、PCRのサイクル回数の終盤で蛍光強度が立ち上がるように予め調整しておく。具体的には、陽性コントロールは20サイクル前後から蛍光観測がされるように、また、IACは、27サイクル前後で蛍光観測がされるように調整しておく。実際に濃度調整した場合の陽性コントロールの蛍光強度と融解曲線分析結果を図3および図4に示す。
【0058】
また、被験者7人の糞便液はそれぞれの10倍希釈液からQIAamp DNA stool Mini Kit(キアゲン社製)により鋳型DNAを抽出し、反応チューブ内の当該DNA濃度が糞便1g中の濃度の1/10000となるように調整した。これは、常在菌が検出されない濃度である。
【0059】
実際のスクリーニング例を説明する。島根県内A地区で起きた食中毒が疑われたケースにおいて、被験者番号31〜37の7名の糞便液をスクリーニングした。結果を図5に示す。また、図6は、グループ2およびグループ4の拡大図である。図から明らかなように、総ての被験者にウエルシュ菌の保有が見られ、また、被験者33および被験者35には、カンピロバクター・ジェジュニの保有が見られる。よって、食中毒が発生しており、原因菌はこれらであることが推定できた。
【0060】
同様に、島根県B地区で起きた食中毒が疑われたケースにおいて、被験者番号71〜77の7名の糞便液をスクリーニングした。結果を図7に示す。また、図8は、グループ4およびグループ8の拡大図である。図から明らかなように、被験者71,73,74,75にカンピロバクター・ジェジュニの保有が見られ、また、被験者71には、astA陽性大腸菌の保有が見られる。よって、食中毒が発生しており、原因菌はこれらであることが推定できた。
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、迅速、簡便、安価に食中毒菌を網羅的にスクリーニング可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
また、このスクリーニング用のPCRプレートは適宜凍結乾燥しておくことにより、検査時に第1穴〜第5穴にPCRグレード水、第6穴〜第12穴に被験者の鋳型DNAを分注して使用しても良い。また、PCRプレートでなく、プライマーペアの組を凍結又は凍結乾燥しておいても良い。この組は、随意の組合せとすることができるが、たとえば、増幅させるDNA断片のTm値が互いに0.6℃以上離れるように上述の24ペアから選択した3ペア以上の組としてもよい。凍結を−20℃で行ったところ、4回の凍結融解後でも検出用DNA断片を正常に増幅できることを確認している。なお、サイバーグリーンや必要な試薬も添加したものを凍結してもよい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の食品媒介病原菌それぞれにおける所定の検出用DNA断片を増幅させるプライマーペアの組であって、検出用DNA断片のTm値が互いに異なるように設計されたプライマーペアの組、および、蛍光インターカレータを、プレートないしチューブセットのそれぞれの穴に分注し、
さらに、
前記検出用DNA断片を1穴に1種類ずつ種類数分添加し、
残余の穴には被験者の糞便液から抽出した鋳型DNAを1穴に1人分ずつ人数分添加し、
これをリアルタイムPCRによって増幅させた後、融解曲線分析をおこない、被験者に一定量を超えていずれかの食品媒介病原菌の保有が認められるかをスクリーニングすることを特徴とする食品媒介病原菌検査方法。
【請求項2】
プライマーペアの組と蛍光インターカレータに加えて、
前記検出用DNA断片のいずれのTm値とも異なるTm値をもつDNA断片を有するインターナルコントロールと、当該DNA断片を増幅させるインターナルコントロール用プライマーペアと、
をプレートないしチューブセットのそれぞれの穴に分注したことを特徴とする請求項1に記載の食品媒介病原菌検査方法。
【請求項3】
前記検出用DNA断片と前記鋳型DNAのいずれをも含まず、
前記プライマーペアの組、前記蛍光インターカレータ、前記インターナルコントロール用プライマーペア、および、調整水、または、
前記プライマーペアの組、前記蛍光インターカレータ、前記インターナルコントロール用プライマーペア、および、前記インターナルコントロールからなる液が分注された区をプレートないしチューブセットに設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の食品媒介病原菌検査方法。
【請求項4】
蛍光インターカレータが、サイバーグリーン、BEBO、YO−PRO−1、LC Green、SYTO−9、SYTO−13、または、SYTO−82であることを特徴とする請求項1、2または3に記載の食品媒介病原菌検査方法。
【請求項5】
プレートないしチューブセットを区画し、
プライマーペアの組を、発生頻度の高い第1の食品媒介病原菌群から選んだ1種の特定の検出用DNA断片と、発生頻度が第1の食品媒介病原菌よりは高くない第2の食品媒介病原菌群から選んだ1種または2種の食品媒介病原菌の特定の検出用DNA断片と、をそれぞれ増幅させるように、かつ、食品媒介病原菌種がそれぞれ重複しないように、グループ化し、
1区画1グループとなるように割り当ててプライマーペアの組を分注し、
各区画に前記割り当てられたグループに係る前記検出用DNA断片を1穴に1種類ずつ種類数分添加し、
各区画の残余の穴には被験者の糞便液から抽出した鋳型DNAを1穴に1人分ずつ人数分添加したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の食品媒介病原菌検査方法。
【請求項6】
第1の食品媒介病原菌群は、耐熱性溶血毒産生腸炎ビブリオ、ウエルシュ菌、サルモネラ菌、カンピロバクター・ジェジュニ、黄色ブドウ球菌、嘔吐毒産生セレウス菌、eaeA遺伝子保有大腸菌、astA遺伝子保有大腸菌、から選ばれた群であり、
第2の食品媒介病原菌群は、カンピロバクター・コリー、aagR遺伝子保有大腸菌、stx1遺伝子保有大腸菌、下痢毒産生セレウス菌、赤痢菌、コレラ菌、プロビデンシア・アルカリファンシエンス、プレシオモナス・シゲロイデス、LT遺伝子保有大腸菌、リステア菌、TRH産生腸炎ビブリオ、stx2遺伝子保有大腸菌、ST遺伝子保有大腸菌、エルシニア菌、エロモナス菌、daaD遺伝子保有大腸菌、から選ばれた群であることを特徴とする請求項5に記載の食品媒介病原菌検査方法。
【請求項7】
グループ内の検出用DNA断片のTm値を互いに0.6℃以上離れるようにプライマーペアを設計したことを特徴とする請求項5または6に記載の食品媒介病原菌検査方法。
【請求項8】
食品媒介病原菌が、
耐熱性溶血毒産生腸炎ビブリオである場合には、検出用DNA断片は配列番号7に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号31および32に示すものであり、
カンピロバクター・コリーである場合には、検出用DNA断片は配列番号8に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号33および34に示すものであり、
aagR遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号9に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号35および36に示すものであり、
ウエルシュ菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号10に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号37および38に示すものであり、
stx1遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号11に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号39および40に示すものであり、
下痢毒産生セレウス菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号12に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号41および42に示すものであり、
サルモネラ菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号13に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号43および44に示すものであり、
赤痢菌である場合には、検出用DNA断片は14であり、これに対するプライマーペアは配列番号45および46に示すものであり、
コレラ菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号15に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号47および48であり、
カンピロバクター・ジェジュニである場合には、検出用DNA断片は配列番号16に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号49および50に示すものであり、
プロビデンシア・アルカリファンシエンスである場合には、検出用DNA断片は配列番号17に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号51および52に示すものであり、
プレシオモナス・シゲロイデスである場合には、検出用DNA断片は配列番号18に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号53および54に示すものであり、
黄色ブドウ球菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号19に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号55および56に示すものであり、
LT遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号20に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号57および58に示すものであり、
リステア菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号21に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号59および60に示すものに示すものであり、
嘔吐毒産生セレウス菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号22に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号61および62に示すものであり、
TRH産生腸炎ビブリオである場合には、検出用DNA断片は配列番号23に示すものに示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号63および64に示すものであり、
stx2遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号24に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号65および66に示すものであり、
eaeA遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号25に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号67および68に示すものであり、
ST遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号26に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号69および70に示すものであり、
エルシニア菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号27に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号71および72に示すものであり、
astA遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号28に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号73および74に示すものであり、
エロモナス菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号29に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号75および76に示すものであり、
daaD遺伝子保有大腸菌である場合には、検出用DNA断片は配列番号30に示すものであり、これに対するプライマーペアは配列番号77および78に示すものであることを特徴とする請求項5または6に記載の食品媒介病原菌検査方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の食品媒介病原菌検査方法における、Yersinia ruckeriの16SrRNA遺伝子のインターナルコントロールとしての使用。
【請求項10】
融解曲線分析により食品媒介病原菌をスクリーニングするに際して使用するプライマーペアの組であって、増幅させるDNA断片のTm値が互いに0.6℃以上離れるように以下の群から選択した3ペア以上からなるプライマーペアの組。
配列番号31および32に示すプライマーペア、配列番号33および34に示すプライマーペア、配列番号35および36に示すプライマーペア、配列番号37および38に示すプライマーペア、配列番号39および40に示すプライマーペア、配列番号41および42に示すプライマーペア、配列番号43および44に示すプライマーペア、配列番号45および46に示すプライマーペア、配列番号47および48に示すプライマーペア、配列番号49および50に示すプライマーペア、配列番号51および52に示すプライマーペア、配列番号53および54に示すプライマーペア、配列番号55および56に示すプライマーペア、配列番号57および58に示すプライマーペア、配列番号59および60に示すプライマーペア、配列番号61および62に示すプライマーペア、配列番号63および64に示すプライマーペア、配列番号65および66に示すプライマーペア、配列番号67および68に示すプライマーペア、配列番号69および70に示すプライマーペア、配列番号71および72に示すプライマーペア、配列番号73および74に示すプライマーペア、配列番号75および76に示すプライマーペア、配列番号77および78に示すプライマーペア
【請求項11】
食中毒罹患の疑いのある複数の被験者から食品媒介病原菌をスクリーニングするための食品媒介病原菌スクリーニング用PCRプレートであって、
発生頻度の高い第1の食品媒介病原菌群から選んだ1種と発生頻度が第1の食品媒介病原菌よりは高くない第2の食品媒介病原菌群から選んだ1種または2種により、食品媒介病原菌をそれぞれ重複しないように複数のグループに分け、
プレートを区画して1区画1グループとなるように割り当て、
プレートの各穴に、インターナルコントロールと、インターナルコントロール用プライマーペアと、蛍光インターカレータと、を分注し、
さらに、
グループ内の食品媒介病原菌それぞれの所定の検出用DNA断片を増幅させるプライマーペアの組であって、検出用DNA断片のTm値が互いに異なるように設計されたプライマーペアの組を、当該グループに係る区画にそれぞれ分注し、
かつ、
各区画に当該区画に割り当てられたグループに係る前記検出用DNA断片を1穴に1種類ずつ種類数分添加し、
当該区画の残余の穴には被験者の糞便液から抽出した鋳型DNAを1穴に1人分ずつ人数分添加したことを特徴とする食品媒介病原菌スクリーニング用PCRプレート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−246419(P2010−246419A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96633(P2009−96633)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】