説明

リアルタイムPCR装置

【課題】反応領域に対する励起光の照射を高精度に制御できるリアルタイムPCR装置を提供すること。
【解決手段】遺伝子発現量を検出するリアルタイムPCR装置1であって、複数の反応領域A1と、前記反応領域A1を加熱する加熱部14と、前記反応領域A1ごとに複数設けられ、個別に励起光L1を発する光源と、前記反応領域A1から蛍光L2を検出する蛍光検出部15と、を少なくとも備えたリアルタイムPCR装置1とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアルタイムPCR装置に関する。より詳細には遺伝子発現等を解析するリアルタイムPCR装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAチップやDNAマイクロアレイをはじめとするハイブリダイゼーション検出技術の実用化が進んでいる。DNAチップは、多種・多様のDNAプローブを基板表面に集積して固定したものである。このDNAチップを用いて、DNAチップ基板表面のハイブリダイゼーションを検出することにより、細胞・組織等における遺伝子発現等を網羅的に解析することができる。
【0003】
そして、このマイクロアレイにより得られたデータを、PCR法(polymerase chain reaction;ポリメラーゼ連鎖反応)を用いて検証することが微量核酸の定量分析の標準的手法となっている。
【0004】
リアルタイムPCR法は、「熱変性→プライマーとのアニーリング→ポリメラーゼ伸長反応」という増幅サイクルを連続的に行うことで、DNA等を数十万倍にも増幅させることができる。このようにして得られるPCR増幅産物をリアルタイムでモニタリングして前記微量核酸の定量分析を行う方法である。
【0005】
そして、リアルタイムPCR法では、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した専用の装置等を用いて前記PCR増幅産物をリアルタイムでモニタリングすることができる。このような装置として、リアルタイムPCR装置がある。
【0006】
リアルタイムPCR装置は、試料にて増幅反応が進行する際に励起光を照射することで蛍光信号をリアルタイムで検出することができる反応処理装置であり、化学反応を含め、医療現場や遺伝子解析の研究に用いられるゲノムDNAの観測を行なう検出器等として使用することができる。
【0007】
例えば、DNAを増幅するPCR法において、二本鎖DNAを特性する際に用いられる蛍光色素を標識した場合、その二本鎖DNAを加熱することで蛍光色素の変化を観察することができるが、リアルタイムPCRには幾つかの検出方法がある。
【0008】
例えば、特異性の高いプライマーにより目的のターゲットのみを増幅可能の場合には、SYBRR GREEN Iを用いるインターカレーター法が用いられる。
【0009】
二本鎖DNAに結合することで蛍光を発するインターカレーターは、PCR反応によって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を検出することにより、増幅産物の生成量をモニターすることができる。ターゲットに特異的な蛍光標識プローブを設計・合成する必要がなく、簡便にさまざまなターゲットの測定に利用できる。
【0010】
また、よく似た配列を区別して検出する必要や、SNPsのタイピングのようにマルチプレックス検出が必要な場合には、プローブ法を用いる。その一つに5´末端を蛍光物質で、3´末端をクエンチャー物質で修飾したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるTaqMan(登録商標)プローブ法がある。
【0011】
TaqManプローブは、アニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光発光は抑制される。伸長反応ステップでは、TaqDNAポリメラーゼのもつ5´→3´エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型にハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる抑制が解除されて蛍光が発光される。この蛍光強度を測定することで、増幅産物の生成量をモニターすることができる。
【0012】
このような方法によって、遺伝子発現量をリアルタイムPCRで定量する原理を以下に述べる。まず、段階希釈した濃度既知の標準サンプルを鋳型として使用してPCRを行なう。そして、一定の増幅産物量に達するサイクル数(threshold cycle;Ct値)を求める。このCt値を横軸に、初発のDNA量を縦軸にプロットして、検量線を作成する。
【0013】
未知濃度のサンプルについても、同じ条件下でPCR反応を行ってCt値を求める。この値と前述した検量線とから、サンプル中の目的のDNA量が測定できることになる。
【0014】
そして、リアルタイムPCR装置に関する技術として、特許文献1や特許文献2には増幅反応時の温度制御等に関する技術が開示されている。
【0015】
【特許文献1】特開2003−298068号公報。
【特許文献2】特開2004−025426号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記リアルタイムPCR装置は、遺伝子発現量の検出において定量性に優れているという利点を有する。しかし、一度に解析できるサンプル数が少なく、網羅的な解析ができないという問題がある。また、複数の反応領域(ウェル)等へ光照射を行なう場合、1つの光源を使用し導光板等によって励起光を各反応領域に照射するバックライト方式等によって行なわれるが、導光板等のたわみやキズ等が原因となり各反応領域に照射する励起光の光量等が均一でなくなる場合がある。また、各反応領域に対して選択的に光照射を制御することや、励起光の波長領域を反応領域ごとに選択できないといった問題等もある。
【0017】
そこで、本発明では、反応領域に対する励起光照射を高精度に制御できるリアルタイムPCR装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、遺伝子発現量を検出するリアルタイムPCR装置であって、複数の反応領域と、前記反応領域を加熱する加熱部と、前記反応領域ごとに複数設けられ、個別に励起光を発する発光素子と、前記反応領域から蛍光を検出する蛍光検出部と、を少なくとも備えたリアルタイムPCR装置を提供する。反応領域ごとに光源である発光素子を設けることで、各反応領域に対して照射する励起光の光量や励起波長等を高精度に制御することができる。
そして、本発明は、前記発光素子を電気的に個別制御することにより、前記励起光の光量又は励起波長を制御するリアルタイムPCR装置を提供する。発光素子にかける電圧や電流等を個別制御することで、各反応領域に照射する励起光の光量また励起波長を個別かつ高精度に制御できる。
続いて、本発明は、前記発光素子は少なくともLED素子から構成され、前記発光素子をドットマトリクス状に配置した励起光走査基板を備えたリアルタイムPCR装置を提供する。発光素子として、少なくともLED素子を用い、かつ発光素子をドットマトリクス状に配置することで、各反応領域へ照射する励起光をより高精度に制御することができ、その結果より高精度な網羅的解析を行なうことができる。
さらに、本発明は、前記発光素子はアクティブマトリクス型の発光素子であり、各反応領域に異なる励起波長を有する光を照射可能なリアルタイムPCR装置を提供する。かかる発光素子をアクティブ走査させることで、反応領域ごとに異なる励起波長の光を照射することができる。
また、本発明は、前記発光素子としてEL素子を用いるリアルタイムPCR装置を提供する。発光素子としてEL素子を用いることで、励起光の照射を高精度に制御することができ、応答性に優れた解析を高精度に行なうことができる。
また、本発明は、前記発光素子と前記反応領域との間に、特定波長の光を透過するフィルターを備えるリアルタイムPCR装置を提供する。かかるフィルターを設けることで前記反応領域に対して特定波長光のみを照射できるため、より高精度の解析を行なうことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るリアルタイムPCR装置によれば、反応領域への励起光の照射を高精度に制御できる。
【0020】
以下、本発明に係る方法の実施形態例について、添付図面を参照にしながら説明する。なお、図面に示された実施形態等は、本発明の好適な実施形態を例示したものであり、これにより本発明が狭く解釈されることはない。
【0021】
図1は、本発明に係るリアルタイムPCR装置の第1実施形態を側面視した概念図である。なお、以下に使用する図面では、説明の便宜上、装置の構成等については簡素化して示している。
【0022】
図1中の符号1は、本発明に係るリアルタイムPCR装置を示している。このリアルタイムPCR装置1のサイズや層構造は、目的に応じて適宜選定可能であり、リアルタイムPCR装置1の形態構成についても本発明の目的に沿う範囲で設計又は変更が可能である。
【0023】
リアルタイムPCR装置1は、複数の反応領域A1を有するウェル基板11と、励起光L1を照射する励起光走査基板12とを備えており、さらに、特定波長光を透過するフィルター13と、反応領域A1を加熱する加熱部14と、蛍光を検出する蛍光検出部15とが測定基板16に設けられている。そして、前記ウェル基板11の上方に、反応領域A1の加熱を定温制御するペルチェ素子17が設けられている。
【0024】
前記励起光走査基板12には、各反応領域A1に対応する発光素子121が基板上に設けられており、スペーサ122と、反射膜123と、フィルター124とを有している。各発光素子121から励起光L1が発せられ、スペーサ122を通過して各反応領域A1に照射される。そして、蛍光L2を蛍光検出部15により検出することで遺伝子発現量等を解析することができる。
【0025】
本発明に係るリアルタイムPCR装置1では、光源として発光素子121を反応領域A1ごとに設けている。これにより、各反応領域A1に均一な光量の励起光L1を照射することができる。また、各反応領域A1に異なる波長の励起光L1を選択的に照射することもできるし、反応領域A1について励起光L1の照射時間を個別に制御することもできる。その結果、各反応領域A1への励起光L1の照射を高精度に制御できるため、高精度の遺伝子発現量の解析が可能となる。以下、リアルタイムPCR装置1の各構成について詳細に説明する。
【0026】
ウェル基板11は、複数の反応領域(ウェル)A1を基板内に備えている。この反応領域A1で所定の反応を行う。ウェル基板11は、低蛍光発光プラスチック材料やガラスなどで形成することができる。また、反応領域A1について、例えば人の遺伝子数に匹敵する数をウェル基板11内にマトリクス状に配置することができ。
【0027】
本発明では、PCR反応のための反応領域A1(ウェル)はマイクロ空間であることが望ましい。例えば、反応領域A1を300μm×300μm×300μm(約30nL容量)とした場合、約4万個の反応領域A1を並べるとしても、約6cm角の面積を有するデバイスですむ。このように省スペース化が可能であるとともに、高精度の網羅的解析を行なうこともできる。
【0028】
ここで、個々の反応領域A1の形状は特に限定されず、反応溶液を保持できる形状であれば、どのような形状でもよいが、励起光L1を照射する光路や、蛍光L2の光路等を考慮して適宜好適な形状を選択することができる。例えば、リアルタイムPCR装置1では、反応領域A1内で前記蛍光L2を反射させるため、反応領域A1は曲面部分を有している。このような構造とすることで、蛍光L2を高精度に受光することができる。
【0029】
また、本発明では、光散乱の影響および外光の影響による、検出感度の低下を抑制するために、反応領域A1は遮光性材質(例えば、ダイヤモンドライクカーボン等)にてコーティングされていることが望ましい。
【0030】
励起光走査基板12は、発光素子121から発せられる励起光L1をウェル基板11内の各反応領域A1に導くものである。まず、各発光素子121から発せられる励起光L1は、前記励起光走査基板12内部のスペーサ122に導入される。そして、前記励起光走査基板12の底部には反射膜123が設けられており、ウェル基板11へ励起光L1を効率よく導入することができる。この励起光L1が照射されることによって、各反応領域A1内の反応液中の蛍光物質を励起させることができる。前記反射膜123の材料等については特に限定されないが、好適には、ダイクロイックミラーを用いることが望ましい。
【0031】
本発明では、前記複数の反応領域A1に特定波長の励起光を照射可能な光学手段として、反応領域A1ごとに設けられた複数の発光素子121を光源として用いる。
【0032】
そして、本発明では、各反応領域A1を各発光素子121により直接照射できるため、励起光L1の光量をより多くとることができ、かつ各反応領域に均一な光量を励起照射することができる。あるいは、複数の反応領域A1のなかで選択的に励起光L1を照射することができる。さらに、反応領域A1に異なる波長や光量の励起光L1を選択的に照射することもできるため、1回の測定において複数の蛍光色素を使用でき、より網羅的な解析等を行なうことができる。
【0033】
発光素子121は、特定波長の光を発光するものであればよく、その種類は特に限定されないが、好適には、EL発光素子、白色もしくは単色の発光ダイオード(LED)を用いることが望ましく、このようなものとして、有機EL素子(OLED)や無機EL素子等を用いることができる。EL発光素子や発光ダイオードを用いることで、不要な紫外線や赤外線を含まない光を簡便に得ることができる。
【0034】
また、本発明では、励起光走査基板12に配置された発光素子121について、前記発光素子121を電気的に個別制御することが望ましい。例えば、発光素子121にかける電流や電圧等を個別に制御することで、照射する励起光L1の光量や励起波長を個別かつ選択的に制御することができる。
【0035】
図2は、リアルタイムPCR装置1の励起光走査基板12について発光素子121をマトリクス状に配置した一例を示す斜視図である。
【0036】
本発明では、励起光走査基板12に発光素子121をドットマトリクス状に配置することが好ましい。発光素子121をドットマトリクス状に配置することで、基板の省スペース化等も可能となり、高精度の網羅的解析を行なうことができる。
【0037】
図2を例にして説明すれば、励起光走査基板12に発光素子121がドットマトリクス状に配置され、各発光素子121からそれぞれ励起光L1を照射することができる。そして、この場合でも、各発光素子121を個別に制御することで、各反応領域A1に照射する各励起光L1の波長や光量等を変化させることもできるし、各反応領域A1に応じて選択的に励起光L1を照射することもできる。
【0038】
さらに、本発明では、アクティブマトリクス型の発光素子を用いることが望ましく、例えば、アクティブマトリクス型のEL発光素子等を用いることができる。応答速度が速く高精度の制御が可能であるアクティブマトリクス方式に、応答速度が速い特性を有するEL発光素子を用いることで、より高精度に励起光照射を制御することができる。従って、応答性に優れた解析を行なうこともできる。その結果、遺伝子発現量の解析をより高精度かつリアルタイムに行なうことができる。
【0039】
本発明で採用可能なアクティブマトリクス型の構造の一例としては、画素(各反応領域A1に対応する、いわゆるX行とY列)と対向電極を用い、画素と対向電極との間を印加する構造等を採用できる。
【0040】
そして、本発明では、薄膜トランジスタ等によって前記画素を駆動させることが望ましい。薄膜トランジスタを用いることでスイッチング機能(ON/OFF機能)を光学手段に付与することができる。これによって、画素ごとに点灯制御することができるため、各反応領域A1について励起光L1の照射制御することができる。本発明において用いられる前記薄膜トランジスタの種類については、特に限定されず、例えば、ポリ珪素や、α−珪素等のタイプを適宜使用できる。
【0041】
さらに、本発明では、画素と対向電極との間を印加する電圧等の大きさを変化させることで、励起光L1の光量等を制御することができる。詳しくは、各画素についてデータ線を選択しながら、このデータ線の電圧レベルを変化させることで、励起光L1の光量等を制御することができる。即ち、各発光素子121について電気的信号を個別に制御することで、照射する励起光L1の光量等を個別かつ選択的に制御することができる。
【0042】
また、前記発光素子121は、好適には、PCR反応における温度制御において、所定温度範囲(例えば、42℃〜75℃)の間で点灯制御するように設定することが望ましい。このような点灯制御を行うことで、反応領域A1で行われるポリメラーゼ反応等のステップについて、高精度かつリアルタイムに解析することができる。
【0043】
図3は、励起光走査基板12について発光素子121を個別に制御する回路の一例を示す図である。X配線電極(走査線;X,X)とY配線電極(データ線、電流供給線;Y〜Y)を設け、X配線電極とY配線電極の交点である画素(ピクセル)を設けている。画素は各反応領域A1(図1参照)に対応させている。なお、図3では対向電極については省略している。
【0044】
図3に示す各画素回路は、発光素子121(例えば、有機EL等)と、スイッチ素子(アクティブ素子)aと、ドライブ素子bと、データ記憶のためのキャパシタcとから構成されている。この構造では、陽極である画素と、対向電極(図示せず)との間に電圧印加(あるいは電流供給)されることで発光素子121を発光させることができる。
【0045】
そして、対極電極と画素電極を駆動させるために、スイッチ素子aを各画素回路内に設けており、スイッチ制御によって各画素の発光素子121を点灯制御させることができる。スイッチ素子としては、例えば薄膜トランジスタなどを好適に用いることができる。
【0046】
各画素をアクティブ走査することで各画素(各反応領域A1)の励起光L1を個別制御できる。しかも、各画素をリアルタイムに制御できるため、励起光系の制御をリアルタイムに行なうことができる。これにより、反応領域A1ごとに選択的に励起光L1を照射することや、励起波長や光量を反応領域A1ごとに変化させて照射することや、照射時間を反応領域A1ごとに変化させることができる。
【0047】
反応領域A1に照射された励起光L1は、反応領域A1内の反応液中のプローブの蛍光物質等に照射されることで蛍光L2を発するが、本発明では、特定波長の光のみを透過するフィルター13を、反応領域A1と蛍光検出部15との間に設けることが望ましい。これにより、蛍光L2のみを蛍光検出部15へ導くことができるため、より高精度の蛍光検出を行なうことができる。
【0048】
本発明において、フィルター13の材料等については、特定波長の光を透過する性質を有するものであればよく、特に限定されないが、好適には、ダイクロイックミラーを用いることが望ましい。
【0049】
そして、蛍光L2は反応領域A1の下方に設けられた蛍光検出部15で検出・測定される。蛍光検出部15は、反応領域A1に照射された励起光L1に応答して、インターカレートしたプローブ中の蛍光色素が励起することで発せられる蛍光L2を検出・測定する。
【0050】
また、本発明では、蛍光検出部15を反応領域A1ごとに設けることが望ましい。即ち、各反応領域A1にて発光素子121と蛍光検出部15とを設けることで、励起させた反応領域A1に選択的に励起光L1を照射でき、かつ個別に蛍光L2を検出することができる。
【0051】
さらに、本発明では、蛍光検出部15は、受光した蛍光量を電気的信号に変換して検出する蛍光検出機構を用いることが望ましい。前記蛍光検出機構によって、受光した蛍光量を電気的信号に変換することができ、この電気的信号に基づいて蛍光量をリアルタイムに測定・検出することができる。検出する電気的信号の種類は特に限定されず、例えば電流値でもよいし、電圧値でもよい。この電気的信号を測定し続けることで、リアルタイムに蛍光量を検出することができるため、より高精度にリアルタイムに遺伝子の発現量を測定することができる。
【0052】
本発明では、蛍光検出部15の蛍光検出機構の検出媒体については、特に限定されないが、例えば、フォトダイオード等のフォトセンサーを用いることができ、好適にはEL素子や薄膜トランジスタ等を用いることが望ましい。
【0053】
フォトダイオードは、受光した光量と発生する電流量の比が安定しているため、高精度の受光素子として、リアルタイムPCR装置1に好適に使用することができる。そして、EL素子を用いることで、速い応答速度であり、蛍光受光による電流発生現象を素早く感度検出できる。従って、遺伝子発現量をリアルタイムでありながら、より高精度で分析できる。
【0054】
リアルタイムPCR装置1では、加熱部14を各反応領域A1にそれぞれ設けることが望ましい。また、前記加熱部14は個別に温度制御機構を備えることがより望ましく、これにより各反応領域A1の温度制御を個別に行なうことができる。例えば、PCRサイクルを行う場合、熱変性→アニーリング→伸長反応のステップについてより高精度の温度制御を行うことができる。
【0055】
また、前記反応領域A1の加熱時間についても、前記反応領域A1に対応する加熱部14により個別に制御できることが望ましい。前記加熱部14により、前記反応領域A1ごとに加熱温度と加熱時間を個別に制御することで、前記反応領域A1内の増幅反応等をより高精度で制御できる。
【0056】
従来のリアルタイムPCR法に用いられるサーマルサイクラー等による温度制御はグラディエント機構が付加されている場合もあるが、各サンプルの温度制御が個別にできないという問題等がある。これに対して、本発明では、各反応領域A1にそれぞれ加熱部14を設けることで、各反応領域A1を個別に温度制御することができる。
【0057】
加熱部14の構造等については特に限定されないが、好適には、薄膜トランジスタにより形成され、スイッチング制御されるヒーターを用いることが望ましい。薄膜トランジスタが有するスイッチング機能を利用して、各反応領域A1の温度制御を個別に行うことができる。温度制御は、薄膜トランジスタに印加する電圧をコントロールしてソース(S)−ドレイン(D)間の電流値を可変としてもよいし、ソース(S)−ドレイン(D)間の電流を定電流電源としてコントロールしてもよい。
【0058】
本発明において用いられる前記薄膜トランジスタの種類については、特に限定されず、例えば、ポリ珪素や、α−珪素等のタイプを適宜使用できる。
【0059】
あるいは、加熱部14は、発熱抵抗体で形成され、薄膜トランジスタによりスイッチング制御されるヒーターとしてもよい。即ち、薄膜トランジスタは、スイッチングとしてのみ利用してもよく、前記発熱抵抗体として、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、炭化珪素、モリブデンシリサイド、ニッケル−クロム合金、鉄−クロム−アルミニウム合金等を用いることができる。この場合は、発熱抵抗体に流れる電流値を制御することで、温度制御が可能となる。
【0060】
蛍光検出部15は、加熱部14と同じ測定基板16上に形成されており、蛍光検出部15の蛍光検出機構と制御媒体と、加熱部の温度制御機構の制御媒体とが、同一画素内に形成されている。同一画素内に形成される形態については、平面的に形成されている状態だけでなく、加熱部14と蛍光検出部15とが積層された状態の場合であってもよい。そして、加熱部14の温度制御機構の制御媒体と、蛍光検出部15の蛍光検出機構の制御媒体とを、同一画素内に設けることが好適であり、これによりデバイスとしての小型化を可能とできる。
【0061】
前記熱制御媒体である薄膜トランジスタ素子等の画素回路内に、受光専用素子の画素回路を設けることで、同じ画素レイヤで、熱制御と蛍光検出が可能になり、リアルタイムの検出を高精度で行なうことができる。また、デバイス作成において積層構造等のような複雑な構造は不要となり、デバイスとしての小型化をさらに容易にすることができる。
【0062】
そして、この温度制御用薄膜トランジスタと受光用薄膜トランジスタからなるユニットを、ゲート線(X方向)とデータ線(Y方向)に沿ってマトリクス状に複数配置させることもできる。即ち、各反応領域A1(図1参照)に対応して、前記ユニットをマトリクス状に配置することができる。
【0063】
本発明では、反応領域A1の温度制御を行なうためにペルチェ素子16を備えることが望ましい。PCRサイクルは、「熱変性→アニーリング(プライマーのハイブリダイゼーション)→伸長反応」のステップに応じて温度制御を行なう必要があるが、ペルチェ素子16を設けることで、定温制御がより容易であり、高精度の温度制御を行なうことができる。例えば、予め、反応領域A1内の温度をPCRサイクルの最低温度(例えば、55℃)に維持しておくことができる。
【0064】
本発明に係るリアルタイムPCR装置1では、通常用いられているPCR法を行なうことができる。例えば、(1)増幅させたい目標DNA、(2)目標DNAと特異的に結合する少なくとも2種のオリゴヌクレオチドプライマ−、(3)緩衝液、(4)酵素、(5)dATP,dCTP,dGTP,dTTPのようなデオキシリボヌクレオチド三リン酸、等を用い、「熱変性→アニーリング(プライマーのハイブリダイゼーション)→伸長反応」のサイクルを繰り返すことで、前記目標DNAを所望する量まで増幅させること等ができる。
【0065】
以下、本発明に係るリアルタイムPCR装置1を用いた測定手順の一例について説明する。
【0066】
各反応領域A1には、予め設計された異なる遺伝子配列を有するプライマーを投入する。投入方法については、特に限定されず、例えば、インクジェット等を用いる方法によることができる。このように各反応領域A1に各プライマーを含む溶液を滴下して乾燥させる。
【0067】
続いて、検体から抽出したTotal RNAを逆転写(reverse transcription)法によりcDNAに転写して、各反応領域A1に投入する。これと併せて、増幅に必要となる各塩基の原材料となるデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)、インターカレータ(「SYBR(登録商標)GREEN I」)、DNA伸長増幅反応に必要な酵素DNAポリメラーゼ等を投入する。
【0068】
熱変性ステップでは、反応領域A1内が95℃となるように加熱部14等により設定し、二本鎖のDNAを変性させ一本鎖DNAにする。続くアニーリングステップでは、反応領域A1内が55℃となるように設定することで、プライマーが前記一本鎖DNA相補的な塩基配列と結合させる。次のDNA伸長ステップでは、反応領域A1内が72℃となるように設定することで、プライマーをDNA合成の開始点として、ポリメラーゼ反応を進行させてcDNAを伸長させる。
【0069】
このような「95℃(熱変性)→55℃(プライマーのハイブリダイゼーション)→72℃(DNA伸長)」の温度サイクル毎に、各反応領域A1内のcDNAは2倍量に増幅されていく。そして、各反応領域A1にそれぞれ設置された加熱部14によって、各反応領域A1内の温度を設計したプライマー反応の最適値に制御できる。また、プライマーのハイブリダイゼーション時間やポリメラーゼ反応時間も制御できるため、不要な反応副産物の生成も制御できる。その結果、各反応領域A1内の遺伝子(cDNA)の増幅率を一定に揃えることができるため、精度のよいPCR反応を行なうことができる。
【0070】
DNAの複製反応時に生成されたds−DNAには、SYBR GREEN Iがインターカレートする。このSYBR GREEN Iは、ds−DNAにインターカレートし、その後に励起光L1を照射することで励起して蛍光を発光する物質である(励起光波長:497nm、発光波長:520nm)。
【0071】
これにより、DNAポリメラーゼによるDNA複製時に、発光素子121からの光が励起光走査基板12を経由して励起光L1として、インターカレートしたSYBR GREEN Iを励起させて蛍光L2を発光させる。この蛍光L2の発光量を前記温度サイクル毎に蛍光検出部11で測定し、定量化する。そして、温度サイクル数とこれに対応する発光量との相関関係に基づいて、遺伝子発現量として初期cDNA量を求めることができる。
【0072】
図4は、本発明に係るリアルタイムPCR装置の第2実施形態を側面視した概念図である。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0073】
このリアルタイムPCR装置2は、反応領域(ウェル)A2に対応して励起光走査基板22上に発光素子221が設けられている点や、加熱部24や蛍光検出部25を個別に設けた測定基板26を備えている点では、第1の実施形態と共通する。しかし、励起光L1をウェル基板21の上方から照射して、反応領域A2内を透過した蛍光L2を検出する点等で相違する。
【0074】
リアルタイムPCR装置2では、発光素子221から発せられる励起光L1が、励起光走査基板22によって反応領域A2に導かれる。励起光走査基板22では、スペーサ222を励起光L1が通過し、反射膜223とフィルター224により反応領域A2に励起光L1が導入される。
【0075】
そして、該励起光L1は、反応領域A2内の反応液中のプローブの蛍光物質等に照射されることで蛍光L2を発する。この蛍光L2は、反応領域A2の下方に設けられたフィルター23を通過して、蛍光検出部25で検出・測定される。
【0076】
また、温度制御は、反応領域A2下方に設けられた加熱部24により行われ、ペルチェ素子27等によって定温制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係るリアルタイムPCR装置の第1実施形態を側面視した概念図である。
【図2】同実施形態の励起光走査基板12について発光素子121をマトリクス状に配置した一例を示す斜視図である。
【図3】同実施形態の励起光走査基板12について発光素子121を個別に制御する回路の一例を示す図である。
【図4】本発明に係るリアルタイムPCR装置の第2実施形態を側面視した概念図である。
【符号の説明】
【0078】
1,2 リアルタイムPCR装置
11,21 ウェル基板
12,22 励起光走査基板
13,23 フィルター
14,24 加熱部
15,25 蛍光検出部
16,26 測定基板
17,27 ペルチェ素子
121,221 発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子発現量を検出するリアルタイムPCR装置であって、
複数の反応領域と、
前記反応領域を加熱する加熱部と、
前記反応領域ごとに設けられ、個別に励起光を発する複数の発光素子と、
前記反応領域から蛍光を検出する蛍光検出部と、
を少なくとも備えたリアルタイムPCR装置。
【請求項2】
前記発光素子を電気的に個別制御することにより、前記励起光の光量を制御することを特徴とする請求項1に記載のリアルタイムPCR装置。
【請求項3】
前記発光素子は少なくともLED素子から構成され、前記発光素子がドットマトリクス状に配置された励起光走査基板を備えていることを特徴とする請求項1に記載のリアルタイムPCR装置。
【請求項4】
前記発光素子はアクティブマトリクス型の発光素子であり、各反応領域に異なる励起波長を有する光を照射可能であることを特徴とする請求項1に記載のリアルタイムPCR装置。
【請求項5】
前記発光素子は、EL素子であることを特徴とする請求項1に記載のリアルタイムPCR装置。
【請求項6】
前記発光素子と前記反応領域との間に、特定波長の光を透過するフィルターを備えることを特徴とする請求項1に記載のリアルタイムPCR装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−278832(P2008−278832A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127818(P2007−127818)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】