説明

リガンドのスクリーニング方法

【課題】標的物質に対して親和性を有し、且つ標的物質との結合により所望の立体構造を形成する構造変化能を持つリガンドのスクリーニング方法及び同定方法、該方法を実行するためのキット、及び、本リガンドが蛍光標識されたセンサ分子を提供する。
【解決手段】下記の工程を含むことを特徴とするスクリーニング方法。(a)複数種のリガンド候補を含む第一のリガンド候補混合物と特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体とを接触させることにより、前記担体へ結合せずに遊離しているリガンド候補混合物を第二のリガンド候補混合物として分離回収する工程、(b)前記第二のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程、(c)前記(b)で得られた標的物質とリガンド候補混合物とを含む溶液と、前記担体とを接触させることにより、少なくとも一部が特定の立体構造を形成したリガンドを分離濃縮する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リガンドをスクリーニングする方法に関し、特に、標的物質と結合することにより少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンドをスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学センサとは、センシング対象となる標的物質を選択的に認識する分子認識素子と、標的物質への認識によって起こる化学現象(化学ポテンシャル、熱あるいは光学的な変化など)を電気的な信号などに変換する信号変換素子から構成されるデバイスである。特に、生体分子の分子認識機構を利用する化学センサはバイオセンサと呼ばれる。バイオセンサでは、生体分子(核酸、アミノ酸、抗体、核酸、脂質、糖鎖、イオンチャネルなど)を分子認識素子として用いることで、標的物質との高い選択性を確保することができる。近年、生体分子を高選択性の標的物質認識として利用することに加え、標的物質との結合によって起こる生体分子の特異的な構造変化によって、センサのシグナル活性を制御する試みがなされている。標的物質との結合によって起こる構造変化を利用することで、標的物質以外の物質が結合してもシグナルが変化しないことによる高感度化、標的物質以外の夾雑物質を除去するための煩雑な洗浄操作が不要、そして、検出時間の短縮等の利点が期待される。
【0003】
構造変化を利用したセンシングとして、標的物質との結合により構造変化するアプタマーを用いたセンシングの報告が数多くなされている。アプタマーとは標的物質に特異的に結合する核酸またはペプチドから構成されるリガンドであり、1990年に、Goldらによって初めてその基本概念が提示された。核酸分子のライブラリーからSELEX(the Systematic Evolution of Ligands by
EXponential enrichment)法と呼ばれる手法を用いて標的物質との結合能を指標にアプタマーを選択し取得する方法が報告されている。現在までにアプタマーの標的物質として、多岐にわたる分子が開示されており、例えば、各種タンパク質、酵素、ペプチド、抗体、レセプター、ホルモン、アミノ酸、抗生物質、その他の種々の化合物等が報告されている。
【0004】
また、多数の特定の目的を達成するために、標的物質との親和性、選択性を改良するため標的物質との結合性を指標とするSELEX法の改良がしばしば行われている。特定の構造を有するアプタマーを取得するために、SELEXをゲル電気泳動と併用し、特定の構造特性をもつ核酸アプタマー、たとえば折れ曲がりDNAからなる核酸アプタマーを選択することが開示されている(特許文献1)。また、標的物質との結合による構造変化を利用したセンサに用いるアプタマー取得を目指し、構造スイッチングシグナリングアプタマーのIn vitro selection(in vitroセレクション)法が報告されている。
【0005】
また、標的物質との結合により構造変化するアプタマーを用いたセンサとして、例えば、蛍光レポーターを用いる方法が特に有用であることがわかっている。当該蛍光レポーターを用いる方法には、種々のものが開発されている。例えばモノクロモフォア型アプローチ、アプタマービーコン(ビクロモフォア型アプローチ)、antitode(二本鎖複合体構造スイッチアプローチ、QDNA)、In situ標識型アプローチ、キメラアプタマーアプローチや色素染色アプローチなどが報告されている。また、アプタマー以外の生体分子として、標的物質との結合によるタンパク質の構造変化を利用した方法も報告されている。例えば、標的物質を認識することによるタンパク質の立体構造変化を、酸化還元レポーター分子と電極表面間の相互作用の変化による電位差又は電流として検出する電気化学的検出手法が知られている。
【0006】
標的物質結合によるリガンドの構造変化はセンサのSNRまたは検出限界に影響する重要な機能であり、構造変化のより精緻な制御や、標的物質との結合により構造変化するリガンドの簡便かつ体系的な、ロバストな取得技術の開発が切に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第07/960,093号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で開示されている方法では、ある構造を持ったアプタマーの取得は可能であるが、標的物質との結合により核酸リガンドがどのような立体構造を形成したかを特定するものではなく、所望の立体構造を有する核酸リガンドを効率的に選択できる手法ではない。
構造スイッチングシグナリングアプタマーのin vitroセレクション法は、標的物質との結合能と標的物質との結合による構造変化能を指標に構造変化アプタマーを選択し、二本鎖複合体構造スイッチアプローチ(ビクロモフォア型)のセンサを開示している。この方法は核酸候補混合物の保存配列領域(PBDs(Primer Binding Domains)、central-fixed
sequence motif)としてあらかじめ複数部位を設計している。しかしながら、該各々の保存配列領域は相補的配列ではなく、且つ該保存配列領域内で分子内二本鎖を形成する機能はない。
【0009】
また、このアプタマーセンサは二本鎖複合体構造スイッチアプローチ(ビクロモフォア型)であり、保存されたPBDsの内の1つとcentral-fixed sequence motifとの各々に相補的な2種類の標識オリゴDNA(FDNA、QDNA)が二本鎖を形成する。そして標的物質との結合に起因する構造変化により、FDNAとQDNAの距離が変化し、またはFDNAが解離することで変化し、標的物質を検出することが開示されている。共通配列の使用により標的物質への親和性が確保された構造変化能を有する標識アプタマー分子の取得方法であるものの、この方法は標的物質との結合によるその後の構造変化(二本鎖形成)を制御するものではない。また、標的物質によっては該構造変化の変量は一定ではないことや標的物質結合によるFDNAの解離を制御することは困難であることが予想され、FDNAとQDNAの距離制御が精緻に行われない可能性がある。
【0010】
モレキュラービーコンアプタマーなど核酸リガンドの構造変化を利用したセンサに用いる核酸リガンドを取得する方法は、SELEX法により核酸リガンド配列を取得した後に、その配列を再設計することで構造変化能を付与するといった体系的な方法とされている。Nobuko Hamaguchiらは、標的結合による構造変化(二本鎖形成)能を有するモレキュラービーコンアプタマーを報告している(Analytical Biochemistry 294, 126-131, 2001)。このような方法は、核酸リガンドを取得後にその配列を再設計するので構造変化能を付与した後に標的物質に対する親和性能を確保できない可能性、または各配列に依存した再設計の必要性などが出てくる懸念がある。さらに、取得した核酸リガンドごとに最適な設計を繰り返す必要がありロバストな手法とは言えないのが現状である。
【0011】
また、SELEX法により取得した核酸リガンドの配列に対して、antidoteとして相補配列を添加することで、構造変化を制御し、センシングする方法もある。しかしながら、標的物質への親和性能が変化する恐れがあり、やはり核酸リガンドごとの最適な設計(配列、配列長、ミスマッチ導入、配列位置など)を要し、核酸以外のリガンドに適用できる手法ではない。
【0012】
Dattelbaum
J.らは、リガンドの結合によるタンパク質の構造変化を利用したバイオセンサが報告されている。この方法は、マルトース結合性タンパク質(Maltose-Binding Protein, MBP)内の一部のアミノ酸を改変することで蛍光分子を修飾した組替えタンパク質を作製している(Protein
Science. 2005, vol.14,284-291)。MBPはマルトースの結合によって立体構造が一部変化することが知られており、改変したMBPは、マルトースの結合による立体構造変化を介した、標識した蛍光分子の局所的環境の変化によって、蛍光強度を変化させることができる。しかしながら、以下の懸念があるためにロバストな手法とはいえない。これは、マルトース、グルコースなど糖類以外の標的物質に関して結合性を付与する手法が確立されていないことと、標的物質毎に蛍光分子を修飾すべきアミノ酸位置を最適化しなければならないことと、蛍光分子導入後の標的物質結合性が保証されないこと等である。
つまり、標的物質に対する結合能と、標的物質との結合による特定の立体構造変化能の両者を指標にした、リガンド候補混合物からのリガンドのスクリーニング方法は世の中に無かった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、標的物質への結合能と標的物質との結合による特定の立体構造変化能との両者を指標にしたリガンドのスクリーニング方法を見出した。
【0014】
本発明の核酸リガンドのスクリーニング方法は、標的物質との結合により少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンドをスクリーニングする方法であって、(a)複数種のリガンド候補を含む第一のリガンド候補混合物と前記特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体とを接触させることにより、前記担体へ結合せずに遊離しているリガンド候補混合物を第二のリガンド候補混合物として分離回収する工程と、(b)前記第二のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、(c)前記工程(b)で得られた標的物質とリガンド候補混合物とを含む溶液と、前記担体とを接触させることにより、前記特定の立体構造の少なくとも一部を前記担体上の構造認識部位が認識することを利用して、前記工程(b)で得られたリガンド候補混合物から前記標的物質との結合により少なくとも一部が特定の立体構造を形成したリガンドを分離濃縮する工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の別の核酸リガンドのスクリーニング方法としては、標的物質との結合により少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンドをスクリーニングする方法であって、(a’)複数種のリガンド候補を含む第一のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、(b’)前記工程(a’)で得られた標的物質とリガンド候補混合物とを含む溶液と、前記特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体とを接触させることにより、前記特定の立体構造の少なくとも一部を前記担体上の構造認識部位が認識することを利用して、前記構造認識部位に結合したリガンド候補混合物を第二のリガンド候補混合物として回収する工程と、(c’)前記第二のリガンド候補混合物を含む溶液から標的物質を除去する工程と、(d’)前記担体と前記工程(c’)で得られたリガンド候補混合物とを接触させることにより、前記特定の立体構造の少なくとも一部を前記担体上の構造認識部位が認識することを利用して、前記工程(c’)で得られたリガンド候補混合物から標的物質非存在下で少なくとも一部が特定の立体構造を形成したリガンド候補を前記構造認識部位に認識させることで分離除去する工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のキットは、標的物質と結合することにより、少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンドをスクリーニングするためのキットであって、リガンド候補混合物またはリガンド候補の前駆体の混合物と、前記特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体とを含むことを特徴とするキットである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、標的物質に対して親和性を有し、且つ標的物質と結合することにより少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンドを効率的且つ体系的にスクリーニングする新規な方法を提供することができる。
本発明の方法により取得したリガンドは、種々の化学もしくはバイオセンサ、分子スイッチ及び診断薬等の標的物質との結合反応によるリガンドの立体構造変化を利用して種々の分野への適用に寄与するものである。特に、蛍光分子などのレポーター分子を分子内に導入した標識リガンドは、それぞれの標的物質と結合後の二種類標識分子の距離を空間配置まで含めた精緻な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明におけるスクリーニング方法の一例である
【図2】本発明におけるスクリーニング方法の一例である
【図3】本発明におけるスクリーニング方法の一例である
【図4】本発明におけるスクリーニング方法の一例である
【図5】標的物質との結合能を指標にした、標的物質親和性リガンド候補の濃縮方法の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を図、表、式、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、式、実施例等及び説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施し得る他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0020】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態のリガンドのスクリーニング方法は、下記工程(a)乃至工程(c)を含む核酸リガンドの候補混合物から標的物質と結合することにより少なくとも一部が特定の立体構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングする方法である。
つまり、(a)複数種のリガンド候補を含む第一のリガンド候補混合物と前記特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体とを接触させることにより、前記担体へ結合せずに遊離しているリガンド候補混合物を第二のリガンド候補混合物として分離回収する工程と、(b)前記第二のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、(c)前記工程(b)で得られた標的物質とリガンド候補混合物とを含む溶液、前記工程(b)で得られたリガンド候補混合物から前記標的物質との結合により少なくとも一部が特定の立体構造を形成したリガンドを分離濃縮する工程と
を含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の工程(a)または工程(c)もしくはその双方を各々必要な回数だけ繰り返すことができ、その回数は限定されない。例えば、非目的のリガンド候補群の分子数に対する目的のリガンド候補群の分子数比が確保できる、あるいは目的のリガンドを同定できる分子数比が確保できれば回数は限定されない。
本発明によれば、リガンド候補混合物と特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位を設けた担体とを接触させ、リガンド候補と構造認識部位との親和性の差を利用して、目的の機能を有するリガンドをスクリーニングすることが含まれる。
本発明でいう「標的物質の存在下」とは、標的物質が遊離状態もしくは、前記担体に結合している状態で存在することを意味する。一方、「標的物質の非存在下」とは、標的物質が遊離状態でも前記担体に結合している状態でも存在しないことを意味する。
【0022】
本実施形態は、標的物質非存在下で上記担体とリガンド候補混合物とを接触させ、特定の立体構造の少なくとも一部が形成されやすいリガンド候補、つまり非目的リガンドを、担体上に吸着されやすいことを利用してリガンド候補から非目的リガンドを分離除去することができる。また、本実施形態において、前記工程(c)の後に、濃縮されたリガンドを含む溶液から標的物質を除去する工程(d)をさらに含むことができる。図1に本発明におけるスクリーンニング方法の1例を示す。
【0023】
まず、標的物質の非存在下で第一のリガンド候補混合物と担体とを接触させ、担体へ結合せずに遊離しているリガンド候補混合物を第二のリガンド候補混合として分離回収する。この操作によって、標的物質の非存在下において既に特定の立体構造の少なくとも一部を有する分子を除去することができる。続いて回収した第二のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる。第二のリガンド候補混合物には標的物質との結合によって構造変化するリガンドが含まれると考えられる。標的物質との接触を維持した状態で第二のリガンド候補混合物と前記担体とを再度接触させることで、標的物質との結合によって特定の立体構造の少なくとも一部を有する目的のリガンドを分離濃縮することができる。
【0024】
また、本発明におけるスクリーニング方法として、各々異なる構造認識部位を有する複数の異なる担体を使用してもよいし、ひとつの担体に複数の構造認識部位を有していてもよい。
図2にその一例を示す。各々異なる構造認識部位を有する複数の担体を用いることで、標的物質との結合により、所望の立体構造により近いリガンドを取得することが期待される。図3に示すように、構造認識部位R1を設けた担体S1及び構造認識部位R2を設けた担体S2を用いる。
構造認識部位R2は構造認識部位R1で認識する立体構造の部分構造に類似した立体構造を認識する。標的物質非存在下で、第一のリガンド候補混合物を構造認識部位R1が設けられた担体S1に接触させる。初期の立体構造として、構造認識部位R1で認識される立体構造を有するリガンドが除去される。遊離したリガンドを第二のリガンド候補混合物として回収する。遊離の標的物質を加え、標的物質との複合体を形成させる。標的物質との結合により、異なる立体構造を形成するリガンド1とリガンド2とが生じる。
担体S1を用いても、リガンド1及びリガンド2の両方が回収される可能性がある場合、以下のようにしてリガンド1で示した立体構造を形成するリガンドをさらに濃縮することが可能である。担体S1および担体S2に接触させる。担体へ接触させる順序は、同時であっても、また別々であってもかまわないが、所望の立体構造に対して最も親和性の高い構造認識部位を設けた担体が最後の担体になることが好ましい。リガンドのかさ高さの違いによる立体障害効果及び構造認識部位との形状相補性から、リガンド2をより選択的に担体S2にある構造認識部位R2に結合させることで除去することが可能である。また、構造変化を起さない、もしくは所望の立体構造とは大きく異なる構造を形成するリガンドは担体に結合しない遊離物として除去される。以上の操作をスクリーニングにくみ込むことにより所望の立体構造により近い構造を形成するリガンドの濃縮の程度を高めた効率的なスクリーニングが可能である。
【0025】
(第二実施形態)
本発明の第二実施形態のリガンドのスクリーニング方法は、下記工程(a’)乃至工程(d’)を含む核酸リガンドの候補混合物から標的物質と結合することにより少なくとも一部が特定の立体構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングする方法である。
つまり、(a’)複数種のリガンド候補を含む第一のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、(b’)前記工程(a’)で得られた標的物質とリガンド候補混合物とを含む溶液と、前記特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体とを接触させることにより、前記特定の立体構造の少なくとも一部を前記担体上の構造認識部位が認識することを利用して、前記構造認識部位に結合したリガンド候補混合物を第二のリガンド候補混合物として回収する工程と、(c’)前記第二のリガンド候補混合物を含む溶液から標的物質を除去する工程と、(d’)前記担体と前記工程(c’)で得られたリガンド候補混合物とを接触させることにより、前記特定の立体構造の少なくとも一部を前記担体上の構造認識部位が認識することを利用して、前記工程(c’)で得られたリガンド候補混合物から標的物質非存在下で少なくとも一部が特定の立体構造を形成したリガンド候補を前記構造認識部位に認識させることで分離除去する工程とを含むことを特徴とする。
【0026】
本実施形態は、第一実施形態とは異なり、最初の工程が標的物質存在下で行うものである。標的物質存在下で行うことにより、目的のリガンドである標的物質の結合により少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンド候補を分離濃縮することが可能となる。本分離操作回数は、スクリーニングが可能となる、非目的のリガンド候補群の分子数に対する目的のリガンド候補群の分子数比が確保できる、あるいは目的のリガンドを同定できる分子数比が確保できれば回数はいくらでも良い。図3に本発明におけるスクリーンニング方法の1例を示す。
【0027】
まず、第一のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる。次いで、特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体と接触させる。この操作にyって、前記担体の構造認識部位に認識(結合)された特定の立体構造の少なくとも一部を有する分子を分離回収する。前記担体の構造認識部位が認識された特定の立体構造の少なくとも一部を有する分子には、目的のリガンドと標的物質とが結合した結果、認識可能な特定の立体構造を有するようになる分子以外に標的物質と結合しなくても認識される分子も含まれる。
そこで、目的リガンドは標的物質との結合によってのみで特定の立体構造の少なくとも一部を形成することを利用して、前記分離回収された標的物質と結合するリガンドから標的物質を除去し、再度前記担体と接触することによって、目的のリガンドを分離回収する。こうすることで、標的物質非存在下においても特定の立体構造の少なくとも一部を有する分子は担体の構造認識部位に認識(結合)される。一方の目的リガンドは標的物質と分離されたため、特定の立体構造の少なくとも一部を有しなくなったため、担体の構造認識部位に認識されず、回収されうる。
【0028】
また、前記第一の実施形態の場合と同様に、各々異なる構造認識部位を有する複数の異なる担体を使用してもよいし、ひとつの担体に複数の構造認識部位を有していてもよい。図4にその一例を示す。
前記担体S1と担体S2を利用する。第一のリガンド候補混合物を標的物質と接触させる。次いで、担体S1および担体S2に接触させる。担体へ接触させる順序は、同時であっても、また別々であってもかまわないが、所望の立体構造に対して最も親和性の高い構造認識部位を設けた担体が最後の担体になることが好ましい。標的物質との結合によって、特定の立体構造の少なくとも一部を形成しないリガンド、および所望の立体構造とは大きく異なるが担体に結合されるリガンド3が除去される。担体S1に結合したリガンドを回収する。標的物質を除去し、再度担体S1と接触させ、標的物質の非存在下においてリガンド1が担体S1との親和性が低いことを利用して、標的物質との結合により特定の立体構造の少なくとも一部を形成する目的のリガンド1を分離濃縮することができる。以上の操作をスクリーニングにくみ込むことにより所望の立体構造により近い構造を形成するリガンドの濃縮の程度を高めた効率的なスクリーニングが可能である。
【0029】
本発明の第3実施形態は従来のSELEX法との組合せによるスクリーニングである。具体的には、前記工程(a)または(b)、もしくは(a’)の前に、前記第一または第二のリガンド候補混合物に比べてより標的物質と親和性の高いリガンド候補が標的物質と複合体を形成するように、前記リガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、前記複合体を形成したリガンド候補を分離回収する工程と、前記分離回収したリガンド候補を増幅し、あらたなリガンド候補混合物を産生する工程とをさらに含む実施形態である。
また、前記工程(d)もしくは(d’)の後に、回収したリガンド候補混合物に比べてより標的物質との親和性の高いリガンド候補が標的物質と複合体を形成するように、前記リガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、前記標的物質と結合したリガンド候補を分離回収する工程と、前記分離回収したリガンド候補を増幅し、あらたなリガンド候補混合物を産生する工程と
をさらに含む実施形態である。
【0030】
本発明の第4実施形態は、前記3つスクリーニング方法の実施形態により得られる少なくとも一部が特定の立体構造を形成する核酸リガンドの配列を同定する方法。後述の実施例で具体的に説明する。
【0031】
本発明の第5実施形態は、前記各実施形態にための、核酸リガンドの候補混合物から標的物質と結合することにより少なくとも一部が特定の立体構造を形成する核酸リガンドをスクリーニングするためのキットである。リガンド候補混合物またはリガンド候補の前駆体の混合物と、前記特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体とを含むことを特徴とする。。
【0032】
以下は本発明に用いられるリガンド等に関する説明であり、特に説明がない限り、全ての実施形態に適用される。
【0033】
(リガンド、リガンド候補混合物)
本発明でいう「リガンド」は、所望される作用を有する、非天然に存在するリガンドである。このようなリガンドとして、一般的に「アプタマー」と呼ばれるものが含まれるが、「アプタマー」という用語は本発明では「リガンド」と同義として使用される。所望される作用には限定されないが、標的物質に結合すること、標的物質を触媒的に変化させること、標的物質の作用を抑制すること、及び標的物質と他の分子との反応を促進することなどが含まれる。
【0034】
本発明でいう「リガンド候補混合物」は、所望のリガンドが選択される、1以上の化合物から構成されるリガンド候補分子の混合物である。そのようなリガンド候補混合物としては、限定されるものではないが、公知の化合物ライブラリーを使用することができる。例えば、DNAライブラリー、RNAライブラリー、mRNAライブラリー、cDNAライブラリー、ゲノムライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体ライブラリー、もしくはこれらを組み合わせたライブラリーを使用することができる。また、これらのライブラリーの構成要素となる化合物が、化学的に修飾、改変されたものであってもよい。これらライブラリーは、市販されているものを利用してもよいし、従来公知の技術を基に作製してもよい。
【0035】
本発明でいう「特定の立体構造」とは、標的物質と結合することによりリガンドの構成要素が形成しうる立体構造の少なくとも一部が予め所望の空間的な配置をとるように規定されてなる立体構造を意味する。そのような特定の立体構造は、核酸やペプチド、タンパク質等の生体分子の立体構造データベース(Protein Data Bank、PDB)等を参考にして選択することができる。また、市販の立体構造モデリングソフトなどを使用してin silicoで構造予測した立体構造を用いてもよい。標的物質の存在または非存在下におけるリガンドの詳細な立体構造は、X線結晶構造解析または核磁気共鳴分光法(Nuclear Magnetic Resonamce Spectroscopy、NMR)などによって決定することができる。リガンド候補混合物に含まれるリガンド候補の数と実際のスクリーニング系の容量、濃度などよりリガンド候補混合物中に含まれる目的のリガンドの数を決定することができる。
【0036】
また、本発明のリガンド及びリガンド候補分子は、分子毎に異なるランダム化領域の他に、相同な領域からなる保存領域を含んでいてもよい。一例として、前記保存領域はランダム化領域を挟み込むように両側に設計することができる。
また、スクリーニングに使用するリガンド候補分子に関し、本発明では保存領域を近づかせる必要は必ずしもないので、削除した保存領域はPCRで増幅する際のプライマー結合領域を付加することができる。
本発明で取得した一以上のリガンドを同定し標的物質結合時のリガンドの立体構造解析を行い、結合で立体構造の変化程度が高い領域の周辺に、当該変化した立体構造が更に変化を起さない程度に、前記保存領域を分子の両側に挿入し最終的なリガンドを得ても良い。
【0037】
また、本発明でいう「リガンド」または「リガンド候補」は、所定の機能(標的物質との結合による立体構造の変化)を有するものであれば特に制限はない。形成しうる立体構造の多様性の観点から核酸もしくはペプチドあるいはそれらの誘導体から構成されることが好ましい。リガンドが核酸である場合、一本鎖または二本鎖DNA、RNA及び人工DNA、人工RNA、ペプチド核酸、架橋化核酸(BNA、Bridged Nucleic Acid)及びこれらを化学的に修飾した誘導体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。化学修飾としては、特に限定されるものはないが、キャッピングのような3’及び5’修飾も含まれる。例えば、リン酸化、アミノ化、ビオチン化、チオール化、ポリエチレングリコール(PEG)化や蛍光標識などである。
【0038】
本発明のスクリーニング方法で得られたリガンドの利用方法に適した修飾を予めに行っても良いが、配列途中への修飾も可能である。特に、追加の電荷、分極率、水素結合、静電相互作用、及び流動性をリガンドの一部または全体に取込む他の化学基を提供するものが含まれる。これらの修飾により、標的物質との親和性能のバリエーションや結合力及び立体構造変化の程度を拡大させることができる。また、水以外の溶媒に溶解させることが可能となり、有機溶媒中で使用可能なリガンドの取得への展開も可能となる。そのような修飾には、特に限定しない。2’位の糖修飾、5位のピリミジン修飾、8位のプリン修飾、環外アミンにおける修飾、4−チオウリジンの置換、5−ブロモ又は5−ヨード−ウラシルの置換等が挙げられる。さらに、骨格修飾、メチル化、イソ塩基のイソシチジン及びイソグアニジンのような、稀な塩基対の組み合わせ等を含むことができる。本発明において増幅工程を行う場合は、増幅可能である修飾方法を選ぶことができる。
【0039】
リガンドがペプチドである場合、アミノ酸の一次配列によって形成されるオリゴペプチド、ポリペプチド及びこれらを化学的に修飾した誘導体から構成されうる。また、これらは一本鎖である必要は必ずしもなく、環状構造をとっていてもよく、複数の一次配列からなるユニットが各々相互作用することで複合体を形成しているようなものであってもよい。化学修飾としては、特に限定されるものはないが、アセチル化、スクシニル化、ビオチン化、ホルミル化、ミリストイル化、ファルネシル化、ゲラニル化、PEG化等の種々の修飾や蛍光標識、糖鎖の導入などが含まれる。核酸の場合と同様、特に、追加の電荷、分極率、水素結合、静電相互作用、及び流動性をリガンドの一部または全体に取込む他の化学基を提供するものも含まれうる。また、人工的に合成される非天然のアミノ酸も本発明におけるペプチドの構成要素として用いることができる。核酸の場合と同様に、これらの利用により、標的物質との親和性能のバリエーションや結合力及び構造変化の程度を拡大させることができる。また、水以外の溶媒に溶解させることが可能となり、有機溶媒中で使用可能なリガンドの取得への展開も可能である。
【0040】
本発明におけるリガンド候補前駆体とは、それ自身をスクリーニングの候補として用いるものではないが、化学的または生体内での反応によって、リガンド候補混合物として利用可能であるものを示す。具体的には、アミノ酸配列をコードする遺伝子を有するベクター、リガンドの一部の官能基(例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、ヒドロキシル基など)の反応性を制御するために、修飾基で保護された核酸またはペプチドなどが挙げられる。これらに限定されるものではない。これらの前駆体は、宿主細胞、例えば市販のタンパク質発現用の大腸菌、酵母細胞、植物細胞、動物細胞等または無細胞タンパク質発現システムを用いて、リガンド候補混合物として回収することができる。または化学的処理によって保護基を除去することによってリガンド候補混合物として回収することができる。スクリーニング直前まで前駆体として維持させることで、リガンド候補分子の多様性を維持できること、再現性の高いスクリーニングを可能にすること等の効果を得ることができる。
【0041】
本発明における第一のリガンド候補混合物とは、上述のようにして得られる、スクリーニングを行う前のリガンド候補混合物を示す。また、本発明のスクリーニング方法によって得られる所望のリガンドが濃縮されたリガンド候補混合物を新たな第一のリガンド候補混合物として利用することができる。また、第二のリガンド候補混合物とは、第一のリガンド候補混合物から分離回収されたリガンド候補混合物である。具体的には、標的物質の非存在下、前記担体に接触させ、前記担体に結合したリガンド候補混合物を除去し、結合せずに遊離しているリガンド候補混合物(標的物質非存在下、特定の立体構造を形成しないリガンドが濃縮されたリガンド候補混合物)である。または、あるいは標的物質の存在下、前記担体に接触させ、前記担体に結合したリガンド候補混合物を回収して得られるリガンド候補混合物(標的との結合により少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンドが濃縮されたリガンド候補混合物)である。
【0042】
(担体)
本発明でいう担体は、特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位を設けることが可能である限り、その材質及び形状に関して特に制限はない。担体の材料として、DNAマイクロアレイや核酸精製、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)などに用いる担体材料を利用することができ、例えばプラスチック、無機高分子、金属、金属酸化物、天然高分子及びこれらを含む複合材料等が挙げられる。
プラスチックとして具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリイミド及びアクリル樹脂等が挙げられる。また、無機高分子として具体的には、ガラス、水晶、カーボン、シリカゲル及びグラファイト等が挙げられる。また、金属、金属酸化物として具体的には、金、白金、銀、銅、鉄、アルミニウム、磁石、フェライト、アルミナ、シリカ、パラマグネット及びアパタイト等が挙げられる。天然高分子としては、ポリアミノ酸、セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸、アガロース及びそれら誘導体が挙げられる。
【0043】
特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位を担体上に設けるために、担体材料の表面には、官能基が導入されていてもよい。また、官能基の導入とは別に直接物理吸着で固定しても良い。種々の担体表面に対して、従来既知の固定化方法が本発明においても使用可能である。
低分子量のリガンドを固定する場合、物理吸着のようなリガンドの疎水性や電荷を利用した静電吸着などランダムな固定だと一分子あたりの担体に対する結合力が低下し固定量が確保できない可能性があるため、化学結合が好ましい。特に好ましくは、該リガンドを末端で固定することである。
【0044】
例えば、金への直接固定の場合は、末端チオール化リガンドの利用が可能であり、担体表面にカルボン酸基が導入されている場合は、末端アミノ化核酸と脱水縮合により固定が可能である。更に、担体表面にストレプトアビジンやアビジンが導入されている場合は、末端ビオチン化リガンドを用いることができる。
また、担体上に設けた特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位と該リガンド候補混合物との反応をより促進するため、担体構造認識部位との間にリンカーを設けても良い。リンカーを設けることにより、担体固相反応における分子の立体障害を抑えることができる。また、リンカー長、種は反応効率に従って、適宜選択が可能である。
更に、反応を促進するため、担体を微粒子化することができる。微粒子化により表面積を大きくすることができ、反応ボリュームの低減、高濃度での反応、撹拌による擬似液相反応などにより促進効果が期待できる。また、分離工程の簡素化を目的とした微粒子の使用が可能であり、微粒子の遠心分離、カラムへの充填による精製分離、磁石による分離回収などが挙げられる。担体に結合したリガンドと遊離のリガンドを分離する技術は従来既知の技術を使うことができる。また、遊離の標的物質からリガンドが結合した担体を分離精製する手段も同様に従来既知の技術を使うことができる。
【0045】
(構造認識部位)
本発明でいう「構造認識部位」は、リガンドが形成する特定の立体構造の少なくとも一部を認識するように担体に設けられた部位である。担体そのものが構造認識部位を形成していてもよいし、担体上の表面全体または一部に構造認識部位を有する物質が担持されていてもよい。前記「構造認識部位」の認識は、所謂「鍵」と「鍵穴」との関係として例えられるようなリガンドが形成する立体構造に相補な立体構造によって認識するだけでなく、、水素結合・静電相互作用・双極子−双極子相互作用、疎水性相互作用などリガンドと構造認識部位との間に働く分子レベルの相互作用による認識等を含む。
【0046】
本発明における構造認識部位を形成する物質として、生体分子、例えばヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、タンパク質、糖タンパク質、酵素、抗体、膜タンパク質、転写因子、脂質、炭水化物、代謝産物、リボソーム、遷移状態類似体、補因子、阻害剤、薬物、栄養素、ホルモンなどが含まれる。
核酸をリガンドとしてスクリーニングする場合において、標的物質の存在下または非存在下において、スクリーニングする核酸リガンド候補とWatson-Crick塩基対の形成によって核酸−核酸のハイブリダイゼーションのような構造認識部位は本発明には含まれない。
【0047】
また、特定の立体構造を認識することが知られている公知の生体分子を用いることができる。例えば、染色体のテロメア領域で形成されることが知られている立体構造であるグアニン四重鎖(G-quadruplex)構造に親和性を有するZnフィンガータンパク質やポルフィリン化合物、DNAが形成する代表的な構造である3本鎖構造(3-way junction)に親和性を有するタンパク質として知られるCreリコンビナーゼ、あるいはステロイド骨格を有する薬剤、あるいは、4本鎖構造(4−way junction)に対して親和性を有することが知られているタンパク質であるヒストンH1やヒトミトコンドリア転写因子A、種々の核酸またはペプチドが形成する立体構造を認識する抗体もしくは抗体断片、酵素などが存在するが、これらに限定されるものではない。
【0048】
所望の立体構造を認識できる公知の生体分子の情報がない場合、所望の立体構造もしくはそれに類似した構造情報を有する分子を利用して、その立体構造を認識する生体分子を取得することができる。目的の構造認識部位を有する生体分子は、公知のスクリーニング技術、公知のDNAやRNAライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体(断片)ライブラリーを使用したスクリーニングを用いること取得できる。これらのライブラリーは、市販のものを使用することが可能であり、コンビナトリアルケミストリーの手法を用いた化学合成、公知の遺伝子工学的技術等を用いて任意のライブラリーを作製することもできる。また、取得した生体分子が所望の立体構造を認識するかを確認するため、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、SPR)センサや等温滴定カロリメトリー(Isothermal Titration Calorimetry,ITC)、水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance,QCM)センサ等の相互作用解析装置を用いて解析することができる。また、NMRまたはX線結晶構造解析を行うことで所望の立体構造を認識形成しているか確認することもできる。
【0049】
また、構造認識部位が、特定の立体構造の少なくとも一部を認識できる空隙及び/または表面構造を有するポリマーによって形成されていてもよい。そのようなポリマーとして、分子インプリント技術によって形成されるポリマーを利用することができる。分子インプリント技術とは、結合対象となる分子を鋳型として用いた鋳型分子の立体構造や物理化学的な性質を認識することで、鋳型分子と結合できる機能性高分子である分子インプリントポリマー(Molecular Ipmrinted Polymer、MIP)を合成する技術である。
MIPは以下のようにして作製することができるが、作製方法はこれらに限定されるものではない。有機高分子からなるMIPは、鋳型分子の共存下で鋳型分子と水素結合、静電的相互作用、疎水、浸水性相互作用などによって鋳型分子と相互作用する機能性モノマーと、架橋性モノマーを共存させ、重合し、次に、鋳型分子を除去することで作製することができる。あるいは、共有結合により鋳型分子と機能性モノマーとの複合体を形成した後、架橋性モノマーを混合して重合し、得られたポリマーから加水分解等により鋳型分子を除去することで作製することができる。
【0050】
また、無機ポリマーからからなるMIPは、鋳型分子をゾル-ゲル反応時に共存させることにより得ることができる。機能性モノマーとしては、特に限定はないが、有機分子として、メタクリル酸、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、酢酸ビニル、アクリルアミド、スチレン、N,N’−メチレン−ビスアクリルアミド、アクリレート、メタクリル酸アミド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、N−スクシンイミジル、メタクリレート、メタクリロニトリルなどがあげられる。
また、無機分子として、チタンブトキシド、ジルコニウムプロポキシド、アルミニウムブトキシド、ニオブ等の金属アルコキシド、
メチルトリメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等の金属アルコキシド、酸化チタンや酸化アルミニウムなどの金属酸化物、などがあげられるがそれらに限定されるものではない。
また、分子インプリントポリマーは溶解又は溶融したポリマーに鋳型分子を溶解させて、ポリマーの官能基と共有又は非共有結合させて固化した後、鋳型分子を除去する方法(相転換法)によっても作製することができる。
【0051】
本発明において、鋳型分子として、所望の立体構造もしくはそれに類似した構造が公知の分子を利用することができる。作製したMIPが所定の機能の有無を、鋳型分子の存在下または非存在下での原子間力顕微鏡(Atomic Force Microsopy,AFM)や電子顕微鏡、X線光電子分光(X-ray
Photoelectron Spectroscopy,XPS)などの微細構造の解析で確認することができる。あるいはMIPと鋳型分子との結合能をSPRやQCM等で測定することなどによって確認することができる。
【0052】
あるいは、ポリマーとして、包摂化合物のような特定の分子を選択的に認識できる高い秩序を持った空間を提供する分子を用いて構造認識部位を形成してもよい。そのような包摂化合物としては、クラウンエーテル、シクロデキストリン、カリックスアレーン、ヒドロキノン、デオキシコール酸、アミロース、フラーレン、ポルフィリン、ゼオライト等の化合物を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明におけるスクリーニング方法として、各々異なる構造認識部位を有する複数の異なる担体を使用してもよいし、ひとつの担体に複数の構造認識部位を有していてもよい。
【0053】
(反応条件)
本願スクリーニング方法における工程の条件は実際にリガンドを使用する条件(例えば温度、pH、塩濃度、添加剤等の溶液条件など)と同じに設定することが望ましい。特に好ましくは、各工程と遊離の標的物質との接触工程は同条件(温度、pH、塩濃度の溶液条件)で行うことを含む。担体への非特異吸着防止剤の添加などに関しては実使用時と異なっていても良い。
【0054】
(標的物質)
本明細書における標的物質は、所望される、関心対象の化合物又は分子を意味する。標的物質として、タンパク質に代表される生体高分子から代謝産物のような低分子化合物まで広くあり得る。具体的には、タンパク質、ペプチド、炭水化物、糖類、糖タンパク質、ホルモン、抗体、代謝産物、遷移状態類似体、補因子、阻害剤、薬物、栄養素等であり得て、特に制限がない。つまり、核酸リガンドと結合できる、相互作用を生成させることができるものである限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができる。
【0055】
(標的物質との親和性を指標にしたリガンドのスクリーニング技術との組み合わせ)
本発明のスクリーニング方法の工程(a)の及び/または工程(b)、もしくは(b’)の前に、以下(i)乃至(iii)の工程を更に含んでなる方法により、リガンド候補混合物から標的物質に対してより親和性を有するリガンドを取得することができる。工程(i)は、前記第一又は第二のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程である。ここで、リガンド候補混合物に比べて標的物質に対して増加した親和性を有するリガンド候補分子がリガンド候補混合物の残りから分画され得る。工程(ii)は、前記標的物質と結合したリガンド候補を分離回収する工程である。工程(iii)は、前記分離回収したリガンド候補を増幅し、あらたな第一又は第二のリガンド候補混合物を産生する工程である。
また、本発明のスクリーニング方法の工程(d)もしくは(d’)の後に、以下(i’)乃至(iii’)の工程を更に含んでなる方法により、リガンド候補混合物から標的物質に対してより親和性を有するリガンドを取得することができる。工程(i’)は、前記リガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程である。工程(ii’)は、前記標的物質と結合したリガンド候補を分離回収する工程である。工程(iii’)は、前記分離回収したリガンド候補を増幅し、あらたなリガンド候補混合物を産生する工程である。
【0056】
上記の工程は、一般的に標的物質との親和性を指標にしたリガンドのスクリーニング工程である。リガンドが核酸から構成される場合においては、SELEX法であり、ペプチドから構成される場合においては、ファージディスプレイ法やmRNAディスプレイ法、リボソームディスプレイ法、細胞表層ディスプレイ法などによる選択手法を用いることができる。当業者に既知のこれらの方法及びその改良方法と本願方法を組み合わせることが可能である。
組み合わせ方、組み合わせる工程の順番として特に制限はない。好ましい一つの形態として、まず、上記の標的物質親和性リガンドの選択手法によって親和性の高められたリガンド候補混合物を取得する。そして遊離の標的物質非存在下において、初期構造として特定の立体構造の少なくとも一部を形成する本願非目的のリガンド候補を分離除去する。続いて、遊離の標的物質存在下において特定の立体構造の少なくとも一部を形成する本願目的のリガンドを分離回収することが含まれる。
【0057】
できる限り工程を減らすような方法が回収ロスなどを抑え、または取得されうる目的リガンドの性質のバイアスを減らす意味で、スクリーニング手段としては望まれる。上述の構造認識部位との結合能の違いによる分離工程は親和性リガンドの選択工程(SELEXまたは各種ディスプレイ技術によるスクリーニング)と同じ回数行っても良いが、特に限定しない。例えば、親和性リガンドの選択工程の最終ラウンドで得たリガンド候補混合物に対して、担体上の構造認識部位との結合能の違いによる分離工程を一回行うことにより目的のリガンドを取得することも可能である。また、各構造認識部位との結合能の違いによる分離工程の回数も目的に合わせて回数を決定することができる。
【0058】
また、各々の分離工程回数が異なっていても良い。親和性を指標にしたスクリーニング工程と、担体上の構造認識部位との結合能の違いを利用した分離工程との反応条件(温度、pH、塩濃度、溶媒)は同一であることが望ましい。担体への標的物質あるいはリガンド候補混合物の非特異吸着抑制などの添加剤は、担体の種類や表面官能基、標的物質の種類などに依存するため、適宜変更可能である。上述の標的物質に対する親和性を指標にしたリガンドを取得する原理は、本出願においても利用可能であり、特に制限はない。
【0059】
上述の結合能を指標にしたスクリーニング手法の一般的な例を図5に示す。標的物質により親和性の高いリガンドが標的物質と複合体を形成するように、固定支持体に標的物質を固定し、リガンド候補混合物と反応させる。反応後に洗浄し、複合体を形成したリガンドを回収するというプロセスである。このプロセスに反応と洗浄時のストリンジェンシーを変えることでより親和性の高いリガンドを得ることが可能である。ストリンジェンシーとは、反応または洗浄時の温度や緩衝液のpH、塩濃度、添加剤、洗浄の回数などが含まれ、目的に応じて変更が可能である。
また、上記した固定支持体とは、共有または非共有結合を通じ、標的物質を結合することが可能である、いかなるものでもよい表面と定義される。これには、限定されるわけではないが、膜、プラスチック、常磁性ビーズ、荷電紙、ナイロン、ラングミュア・ブロジェット膜、官能化ガラス、ゲルマニウム、シリコン、PTFE、ポリスチレン、ヒ化ガリウム、金及び銀が含まれる。表面上に配置されるアミノ基、カルボキシル基、チオール基またはヒドロキシル基などの官能基を有することが可能な、当業に知られるいかなる他の素材も意図される。これには、いかなるトポロジーの表面も含まれ、限定されるわけではないが、球状表面、溝付き表面、及び筒状表面が含まれる。一方、固定支持体を使用せず、遊離の標的物質と接触させて複合体を形成し、複合体に起因する物理特性を利用して、残りのリガンド候補混合物から分画することも可能である。例えば、等温電気泳動やクロマトグラフィーなどの手法が使用可能である。
【0060】
本発明の増幅工程は、従来既知の方法が利用可能である。リガンドが核酸である場合は、例えばPCR法などを用いることができる。一本鎖核酸が必要となる場合、PCR法で増幅した核酸リガンド候補混合物は、例えばビオチン化プライマーを用いてPCR法による増幅後の二本鎖の内、核酸リガンド配列の逆鎖(相補鎖)をストレプトアビジンカラムなどにより分離除去されうる。増幅工程及びその後の分離精製工程は上記記載の方法に限定するものではない。
増幅工程を行う場合は、核酸候補混合物の配列として、様々な配列領域(ランダム配列領域)、保存配列領域に加え、更に固定配列である増幅用プライマー配列領域を含むことができる。いわゆるPCR増幅プライマー配列領域は核酸候補混合物の配列の両末端に設計されうる。プライマー配列領域は特に限定されないが、核酸リガンド候補混合物が保存配列領域を含む場合、当該保存配列領域と二次構造を形成しにくい配列を選択することが好ましい。これによってPCRの増幅の効率を高めることができる。
【0061】
一つの決定方法として核酸の二次構造予測ソフト(例えばmfoldソフト)を適用することができる。様々な配列領域の部分をいくつかのモデル配列とし、保存配列領域と増幅プライマー配列領域を設定し、前記保存配列領域と増幅プライマー配列領域との間で二次構造が形成されやすいかを評価し、選択することができる。また、保存配列領域の一部または全部を増幅プライマー配列領域の一部として利用しても良い。増幅用プライマー配列領域の核酸リガンド構造への寄与を低減させるためにプライマー配列領域を増幅工程終了後に除去してもよい。プライマー配列内部に制限酵素構造認識部位を導入することで部位特異的に除去することもできる。また、各配列領域間にリンカー部分として核酸配列を導入しても良い。
また、リガンドがペプチドである場合においても、当業者に既知の種々の手法を用いて増幅させることができる。例えばファージディスプレイ法を用いる場合は、回収したファージを大腸菌に感染し、菌体内で増殖させたファージを回収することによって、リガンド候補分子を増幅させることができる。
【0062】
(センサやその他利用)
本発明により取得されるリガンドは、たとえば、特定の代謝系に関与する代謝物やタンパク質に特異的に相互作用し得るリガンドを同定することにより、多機能薬品、高精度ドラッグデリバリーを行う物質となることが考えられる。さらに反応中間体をミミックした分子に特異的に相互作用し得るリガンドを同定することにより、不安定な反応中間体を経由する多段階反応でも効率よく進めることができると考えられる。またリガンドを水晶発振子、表面プラズモン共鳴、電極または表面弾性波素子に付着結合させていわゆるバイオセンサとしても適用させることができる。特に好ましくは、本出願の特徴である標的物質との結合による特定の構造変化を利用した化学/バイオセンサや分子スイッチ、信号伝達分子などが挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明が適用できる実施例を説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0064】
(実施例1)
図1に示す方法に基づいて、標的物質の結合によって、核酸が形成する代表的な立体構造のひとつである構造へと構造変化する核酸リガンドのスクリーニングを行う。三本鎖構造を認識する構造認識部を有する物質として、一本鎖抗体断片(scFv)を用いる。標的物質や所望の立体構造が異なる場合においても、以下に示す方法と同様にして標的物質の結合により所望の立体構造を形成するリガンドをスクリーニングすることができる。
NMRによって立体構造情報がタンパク質立体構造データバンク(PDB ID:1SNJ)にて開示されている下記配列番号1の5’末端をアミノ基で修飾した核酸を化学合成により作製する。化学合成は市販のDNA合成機(AKTAoligopilot plus 10/100(GE Healthcare社製)を用いて、指定のプロトコールにより作製する。
【0065】
配列番号1:5'-CGTGCAGCGGCTTGCCGGCACTTGTGCTTCTGCACG-3'
【0066】
Clackson T. et al., Nature,1991,vol.352,624−628に記載の方法を基に配列番号1の核酸の立体構造を認識する1本鎖抗体断片(single chain Fv,scFv)ライブラリーを作製する。配列番号1のDNA溶液をウシ結成アルブミン、完全フロイントアジュバントとともに2週間毎に、計4回BALB/Cマウスに免疫する。そしてマウスの脾臓を摘出し、記載のプロトコールに従い、RNAを抽出し、cDNAを合成する。次に、抗原との結合に関与する抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域であるVH、Vκをコードする配列をプローブとして、VHまたはVκのcDNAライブラリーを作製する。これらVH、VL毎に記載のプライマーを用いて記載の条件にてPCRを行い、VH、Vκをコードした遺伝子を取得する。得られた配列を基にして、VH遺伝子とVL遺伝子間にリンカーアミノ酸として(GGGGS)のアミノ酸配列をコードする遺伝子を3回繰り返した配列を挿入した1本鎖抗体断片をコードする遺伝子を作製し、ファージミドベクターに組み込む。このファージミドベクターを用いて大腸菌TG−1にエレクトロポーレーション法により形質転換後、ヘルパーファージを重感染させ、scFvファージライブラリーを調製する。
【0067】
上述のscFvファージライブラリーを用いて配列番号1の核酸に対して結合能を有するscFvを取得する。核酸を含む水溶液を95℃で5分間インキュベートし、その後30分間室温で静置する。カルボジイミド(1-ethyl-3-(3dimethylaminopropyl)carbodiimidehydrochloride)溶液と上述の核酸溶液を混合する。直ちにカルボキシル基で修飾された磁性微粒子(BiomagPlus Carboxyl(Polyscience社製)と混合し、攪拌しながら室温で24時間インキュベートする。磁気スタンドを用いて磁性粒子を集めた後、上清を除去する。ミリQ水を加え、再度磁性粒子を集め、上清を除去する洗浄操作を3回繰り返す。得られた核酸固定化磁性粒子にファージライブラリーを加えて、バッファー(50mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)、300mM 塩化ナトリウム(NaCl)、30mM 塩化カリウム(KCl)、5mM 塩化マグネシウム(MgCl)、pH7.6)中、室温で攪拌しながらインキュベートする。磁性粒子に結合しない、または非特異的に結合しているファージをバッファーで洗浄して除去し、磁性粒子に結合したファージを回収する。回収した前記ファージを大腸菌に感染させ、新たなファージライブラリーを作製する。この一連の操作を繰り返し、配列番号1の核酸に有意な親和性を持つscFvを濃縮する。濃縮されたファージからDNAを抽出し、そのDNA塩基配列を決定することにより、配列番号1の核酸に有意な親和性を持つscFvをコードする遺伝子情報を得ることができる。得られる遺伝子を人工合成し、市販の蛋白質発現用のプラスミドベクターpET-22b(+)(Novagen社製)に挿入する。大腸菌内で発現させたscFvの取得を、Umetsu M. et al. J. Biol. Chem., 2003,vol.278,8979−8987に記載の方法を参考にして行う。得られたscFvの緩衝液をリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline,PBS)に置換する。緩衝液の置換は、透析により行う。
【0068】
(実施例2)
得られたscFvの立体構造認識能を以下のようにして確認する。
核酸2次構造予測ソフトmfold(Zuker M.Nucleic Acids Research,2003,vol.31,3406−3415)を用いて以下の配列を設計し、合成する。三本鎖構造を形成しないと予測される核酸配列(配列番号2−5)、及び配列番号1と塩基長及び各々のステム領域とループ塩基数が同じ三本鎖構造をもつ核酸配列(配列番号6−7)を設計し、DNA合成機によって合成する。
【0069】
実施例1で得られるscFvとの核酸配列1−5との結合性を表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance,SPR)測定装置にて測定する。SPR測定装置として、BIAcoreX(GE Healthcare社製)を使用する。カルボキシルメチルデキストランを金膜表面にコートしたSPRセンサ基板(CM5,GE Healthcare社製)をBIAcoreXに設置する。センサ基板へのscFvの固定は、指定のプロトコールに従って行う。アミンカップリングキット(GE Healthcare社製)中のN-hydroxysuccinimide(NHS)とN-ethyl-N'-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride(EDC)の混合溶液を作製し、これを5μl/分で7分間処理する。実施例1で得られるscFv溶液を10μMの濃度で7分、さらにアミンカップリングキット(GE Healthcare社製)中のEthanolamine溶液で7分間処理する。これにより、カルボキシルメチル基を介してscFvを固定化する。ランニングバッファーをスクリーニングに使用したバッファー(50mM トリス、300mM NaCl、30mM KCl、5mM MgCl、pH7.6)に切り替え、シグナルが安定した段階で配列番号1の核酸溶液(10μM)を流速20μl/分で導入する。配列番号2〜7の核酸溶液においても同様の測定を行う。配列番号2−5のシグナルと比較して、配列番号1及び6、7の核酸溶液ではSPRシグナルの上昇が観察されることから、実施例1で得られるscFvは配列番号1の三本鎖構造及びそれに類似した立体構造を認識していることが確認できる。
【0070】
(実施例3)
標的物質としてコール酸を用いる。コール酸に結合することによって三本鎖構造からなる立体構造を形成する一本鎖核酸リガンドを以下のようにして取得する。
配列番号8で示した内部にランダム化領域を有する一本鎖DNAライブラリーをDNA合成機によって合成する。一本鎖DNAライブラリーは、5’末端1nt〜18nt及び、55nt〜72ntがPCRでの増幅のために固定された配列であり、内部の19nt〜54ntの36塩基がランダムな領域である。
実施例1で得られるscFvをBioMag Plus Carboxyl Protein Coupling Kit(Polysciences社製)に付属のカルボキシル基で表面修飾された磁性微粒子に、プロトコールに記載の方法に従って固定化する。作製したscFv固定化磁性粒子と一本鎖DNAライブラリーとを、標的分子との結合により三本鎖構造を形成する一本鎖DNAをスクリーニングするキットとして用いることができる。作製したDNAライブラリーの濃度が50nMとなるようにバッファー(50mM トリス、300mM NaCl、30mM KCl、5mM MgCl2、pH7.6)中で溶解し、scFv固定化磁性微粒子と混合し、攪拌しながら室温でインキュベートする。磁気スタンドを用いてインキュベート後の反応上清を回収する。
【0071】
配列番号8:5'-GTACCAGCTTATTCAATTNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNAGATAG
TATGTTCATCAG-3'
【0072】
回収した反応上清に、BioMag Plus Amine Protein Coupling Kit(Polyscience社製)を用いて、標的物質としてコール酸(和光純薬株式会社)が固定化された磁気微粒子を加える。磁気スタンドを用いて、磁性粒子を回収する。バッファーを用いて、磁性微粒子を洗浄する。コール酸固定磁性粒子から候補DNAを解離するため、高濃度のコール酸溶液(5mM)を加えて攪拌しながらインキュベートする。これによって、磁性粒子のコール酸と固定化しているDNAを解離させ、SV Gel and PCR clean up system(Promega社製)を用いてコール酸が除去されたDNA溶液を得る。DNAを精製する。DNA溶液に遊離のコール酸が終濃度で10μMとなるように加え、室温で1時間インキュベートする。インキュベート後の溶液に、新たに作製したscFv固定化磁性微粒子を加え、攪拌しながら室温でインキュベートする。バッファーで洗浄し、磁性粒子に非特異的に吸着したDNAを除去する。洗浄後磁性粒子からDNAを解離させるために、アルカリ溶液を加えて、上清を回収する。
【0073】
塩酸を用いて溶液を中和し、SV Gel and PCR clean up systemを用いて精製する。DNAが回収されていることを吸光度測定ならびに電気泳動によって確認する。配列番号9のDNA、及び5’末端がビオチン標識されている配列番号10で示すDNAをプライマーとして使用してLA Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いて指定のプロトコールに従ってPCRを行う。次いで、アガロースゲル電気泳動を行い、DNAマーカーの位置を参考に目的の塩基長(72mer)を含むゲルを切り出して、SV Gel and PCR clean up systemを用いて精製する。Mayer
G. Nucleic Acid and Peptide Aptamers, 2009,19−32.に記載の方法を参考に、精製後の二本鎖DNAから、ストレプトアビジン修飾磁性微粒子BioMag Plus Streptavidin(Polyscience社製)を用いて、一本鎖DNAを回収する。SV Gel and PCR clean up system(Promega社製)を用いて回収した一本鎖DNAを精製する。以上の一連の操作を10回繰り返し行う。最終的に得られるDNAをクローニング用のベクター(PGEM T-easy(プロメガ)へ挿入し(プロトコールに準拠)、得られたベクターを用いて、大腸菌の形質転換を行う。大腸菌からプラスミドを抽出し、プラスミドDNAをSP6プライマー(配列番号11)またはT7プライマー(配列番号12:)、DTCSクイックスタートキット(ベックマンコールター社製)を用いて、付属のプロトコールに従ってDNAの増幅を行う。推奨プロトコールに従ってDNAシークエンサーCEQ8000(ベックマンコールター社製)を用いて、スクリーニングで得られた複数のDNAの塩基配列を取得する。
【0074】
配列番号9:5'-GTACCAGCTTATTCAATT-3'
配列番号10:5'-CTGATGAACATACTATCT-3'
配列番号11:5'-ATTTAGGTGACACTATAG-3'
配列番号12:5'-
TAATACGACTCACTATAG-3'
【0075】
(実施例4)
CM5基板を用いて、実施例2と同様にして、アミンカップリングによってコール酸を基板に固定化する。実施例3で得られる配列から両末端のPCR増幅用固定配列を除去したDNA配列を合成し、センサ基板に20μl/分の流速で導入する。SPRシグナルの上昇が確認できる。一方、同濃度の配列番号8の一本鎖DNAライブラリー溶液を加えてもそのようなシグナルの上昇はえられないことからSPRセンサを用いて、コール酸結合能を有するDNAが実施例2のスクリーニングによって濃縮されていることを確認する。
【0076】
(実施例5)
(立体構造を認識するタンパク質の取得、スクリーニング)
実施例3で得られる核酸配列から両末端の固定配列を除去した配列の構造をmfoldにより解析する。得られるDNAは初期の安定構造として、配列番号1の核酸が有するような三本鎖構造を有していないことが確認できる。また、13C、15N標識化ヌクレオチドをモノマーとして使用してDNA固相合成機を用いて、両末端の固定配列を除去したDNA配列を合成し、コール酸の存在下及び非存在下でNMRによる立体構造解析によって行う。スクリーニングによって取得されたDNAの中に、PDB ID:1SNJで開示されている立体構造に近い立体構造をもつ三本鎖構造を含んだものが一部取得されていることが確認できる。
【0077】
(比較例1)
実施例3と同様に配列番号8の一本鎖DNAライブラリーを用いて、一般的なSELEX法によりコール酸と結合するDNA配列を取得する。実施例3と同様の方法で、コール酸固定化磁性粒子を調製する。一本鎖DNAライブラリー溶液と、コール酸固定化磁性微粒子を混合し、攪拌しながら室温でインキュベートする。バッファーで洗浄後、5mMのコール酸溶液を加えて磁性粒子に結合したDNAを解離させる。実施例3と同様にして、LA
Taqを用いてPCRによってDNAを増幅後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的の塩基長(72mer)を含むゲルを切り出し、SV
Gel and PCR clean up systemを用いて精製する。精製後の二本鎖DNAから、ストレプトアビジン修飾磁性微粒子BioMag Plus Streptavidin(Polyscience社製)を用いて、一本鎖DNAを回収する。SV Gel and PCR clean up system(Promega社製)を用いて精製する。この一連の操作を10回繰り返し行い、得られるDNAの塩基配列を実施例3と同様にして取得する。
【0078】
実施例4と同様に、両末端配列を除去して得られる配列をmfoldによって解析を行う。得られる2次構造は初期構造の三本鎖構造で安定化している構造及び三本鎖をとらない構造が得られる。三本鎖をとらない構造に関して、コール酸存在下におけるDNA立体構造のNMRによる構造解析を行う。実施例4とは異なり、得られるDNAは、コール酸存在下において、PDB ID:1SNJで開示されている立体構造は大きくことなる構造が形成されていることが確認できる。以上のことから、結合能のみを指標にした通常のスクリーニング方法では、標的結合により所望の立体構造を形成する核酸配列の濃縮が十分ではないことがわかる。
【0079】
(実施例6)
(構造変化センシング)
実施例5で得られる立体構造情報を基に、コール酸結合前後での構造変化(空間距離の変化)が大きいと推定される塩基を2つ選択し、各塩基を蛍光FAM(励起495nm、蛍光520nm)、ROX(励起590nm、蛍光610nm)で修飾した核酸をDNA固相合成機によって合成する。コール酸添加前後でのFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を蛍光分光光度計で評価する。FAMを励起した際に、コール酸の存在によってROXの蛍光強度が上昇することを確認する。
【0080】
(実施例7)
(立体構造を認識するMIPの取得、スクリーニング)
図3に示した工程のようにして、標的物質の結合によって、核酸が形成する代表的な立体構造のひとつであるG−quadroplex構造(グアニン四重鎖構造)へと構造変化する核酸リガンドのスクリーニングを行う。グアニン四重鎖構造を認識する構造認識部として、分子インプリントポリマー(MIP)を用いる。標的物質や所望の立体構造が異なる場合においても、以下に示す方法と同様にして標的物質の結合により所望の立体構造を形成するリガンドをスクリーニングすることが可能である。
【0081】
配列番号13の核酸の立体構造を認識する分子インプリントポリマーを取得する。配列番号9の核酸配列はヒトテロメア配列であり、PDB ID:143Dで示されるようなグアニン四重鎖構造を形成することがしられている。モノマーとして、アクリル酸及びアクリルアミドを用いる。メチレンビスアクリルアミドを架橋剤、2,2’−アゾビス{2−メチル-N−〔1,1−ビス(ヒドロキシルメチル)−2−ヒドロキシルエチル〕プロピオンアミド}を重合開始剤として用いる。これらを50mM HEPES((4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、50mM KClバッファー(pH7.4)に溶解しポリマー反応溶液とする。SPRセンサ用の金基板(SIA Kit Au,GE Healthcare社製)を、ビニル基を持つ分子で修飾する。核酸溶液を加え、インキュベートする。ポリマー反応溶液を基板に加え、紫外線を照射して重合反応を行う。未反応の核酸、モノマーを除去するため、洗浄を行い、乾燥することで核酸認識MIP基板が得られる。
【0082】
配列番号13:5'-AGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGG-3'
【0083】
実施例2と同様にSPRによる解析を行い、得られたMIPの立体構造認識能を確認する。配列番号13の核酸配列でSPRシグナルの上昇が得られる。一方で、配列番号14の核酸配列ではSPRシグナルの上昇が得られない。また、グアニン四重鎖構造を形成することが知られている別の核酸配列15と比較しても、シグナルの上昇が得られることから、得られるMIPは配列番号3の核酸配列からなるグアニン四重鎖構造に特有の立体構造を認識することが確認できる。
【0084】
配列番号14:5'- ATTATAGATAAGTTACCATGCC-3'
配列番号15:5'-GGTTGGTGTGGTTGG-3'
【0085】
(実施例8)
実施例7で得られるグアニン四重鎖構造認識MIP基板を用いて、標的物質TMPyP(5,10,15,20-tetra-(N-methyl-4-pyridyl)
porphine)の結合によってグアニン四重鎖構造を形成する核酸を取得する。配列番号16に示すDNAライブラリーをDNA固相合成機によって合成する。このDNAライブラリーは内部に配列番号9の核酸配列を有する。グアニン四重鎖構造認識MIP基板と一本鎖DNAライブラリーとを、標的分子との結合によりグアニン四重鎖構造を形成する一本鎖DNAをスクリーニングするキットとして用いることができる。得られたDNAライブラリーを含む50mM HEPES/50mM KClバッファー溶液中に、実施例6のMIP基板を浸漬させる。攪拌しながら室温でインキュベートする。上清を回収する。次いで、回収した上清と、TMPyPを5μMとなるように混合し、攪拌しながら室温でインキュベートする。新たに作製したMIP基板を、インキュベート後の反応溶液中に浸漬し、攪拌しながら室温でインキュベートする。50mM HEPES/50mM KClバッファーで洗浄後、65℃で10分間静置する。反応液を回収し、実施例3と同様にしてPCRを実施後、一本鎖DNAを回収する。SV Gel and PCR clean up systemを用いて精製する。以上の操作を1サイクルとして、10サイクル行い、得られるDNAの塩基配列を実施例3と同様にして取得する。
【0086】
配列番号16:
5'-GTACCAGCTTATTCAATTNNNNNNNNNNNNNNNAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNAGATAGTATGTTCATCAG-3'
【0087】
(実施例9)
実施例8で得られるDNA配列から両末端のPCR増幅用の配列を除去したDNA配列のCDスペクトルを測定する。240nm及び290nmにみられるピークを測定したところ、グアニン四重鎖構造に特徴的なシグナルは観察されないことから、初期構造ではグアニン四重鎖構造を形成していないことが確認される。
【0088】
(実施例10)
実施例9で得られるDNA配列から両末端のPCR増幅用の配列を除去したDNA配列を合成する。5’末端をアミノ基で修飾する。実施例2と同様にして、アミンカップリングによってDNAをCM5基板に固定化する。標的物質である、TMPyP溶液をセンサ基板に導入したところ、SPRシグナルの上昇がみられた。一方、非標的物質であるコール酸を加えてもSPRのシグナルは見られないことから、TMPyP結合能を有するDNAが実施例8のスクリーニングによって濃縮されていることを確認する。
【0089】
(実施例11)
実施例8で得られるDNA配列から両末端のPCR増幅用の配列を除去し、13C、15N標識ヌクレオチドをモノマーとするDNAを合成する。実施例4と同様にして、TMPyP存在下及び非存在下での立体構造をNMRで解析する。TMPyP存在下では、実施例7で得られるDNA配列は一部にグアニン四重鎖構造が形成されていることが確認できる。
【0090】
(実施例12)
実施例11で得られる立体構造情報を基に、TMPyp結合前後での立体構造変化(空間距離の変化)が大きいと推定される塩基を2つ選択し、各塩基を蛍光FAM(励起495nm、蛍光520nm)、ROX(励起590nm、蛍光610nm)で修飾した核酸をDNA固相合成機によって合成する。TMPyP添加前後でのFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を蛍光分光光度計で評価する。FAMを励起した際に、TMPyPの存在によってROXの蛍光強度が上昇することを確認する。
【0091】
(実施例13)
PDB ID:1UAOで構造情報が取得されている、安定化状態でベータヘアピン構造をとることが知られているアミノ酸配列(配列番号17)に立体構造を認識するMIP基板を実施例7と同様の手法を用いて取得する。得られたMIPが配列番号17のアミノ酸を認識することをSPRにて確認する。一方、ランダムな配列からなる配列番号18のアミノ酸ではMIPへの結合は確認できない。
【0092】
配列番号17:-GYDPETGTWG-
配列番号18:-VDDVFSQVCTHLRTLK-
【0093】
(実施例14)
市販のファージペプチドライブラリーPh.D −12(New England
Biolab社製)を用いて、標的物質の結合により、配列番号13に類似した立体構造を形成するペプチドを取得する。標的物質として、アデノシン三リン酸(ATP)を用いる。ATPを96ウェルマイクロプレート上に固定化する。まず、住友ベークライト社製のアミノ化96ウェルプレート(スミロン ELISAプレート)にサーモサイエンティフィック社製の光架橋基リンカーNHS-LC-Diazirine(Succinimidyl 6-(4, 4'-Azipentanamido)Hexanoate)1mM、PBS緩衝液(Phosphate Buffered Saline)を200μl/ウェル添加し、室温、暗所で1時間、撹拌しながらアミノ基とNHSの反応を行う。反応後、反応液を捨て、100mM Tris−HCl(pH8.0)200μlを加え、室温で5分処理し、未反応のNHSを失活させる。次に、溶液を捨て、PBSで3回洗浄後プレートを純水でよく洗浄する。1mM ATPを含む水溶液を200μl加え、真空乾燥機で乾燥させた後、365nm UV(15w×2)ランプ直下にプレートを置き、15分架橋反応させる。その後、PBSで良く洗浄し、最後に水でリンスしNガスで乾燥させて使用までデシケーター中で遮蔽して保管する。本方法によるとATPは無配向で固定することができ、特定の官能基を固定化に使用する必要が無い。
【0094】
以上のようにして作製したATP固定化基板に上述のファージペプチドライブラリーを添加する。PBS中、室温で攪拌しながらインキュベートする。ATPに結合しない、または基板に非特異的に結合しているファージをバッファーで洗浄して除去し、結合したファージをグリシン−HClで溶出し、回収したファージを1Mトリス塩酸緩衝溶液(pH8.0)で中和する。回収したファージを大腸菌ER2537株(New England Biolabs社製 )に感染させ、大腸菌を培養後、遠心によって培養上清を回収し、20%PEG6000 2.5M NaCl溶液を加えてファージを沈殿させ遠心後、沈殿をPBSに溶解し、新たなファージライブラリーを取得する。以上の一連の操作は複数回行ってもよい。次に、実施例14で作製したMIP基板を回収したファージライブラリー溶液中に浸漬させる。基板に結合せず遊離したファージを回収する。回収したファージと遊離のATPとを反応させる。反応液を新たなMIP基板中に浸漬させ、室温で攪拌しながらインキュベートする。Gly−HClでファージを溶出し、上清を回収する。回収したファージを、大腸菌ER2537株(New England Biolabs社製 )に感染させ、上述のようにファージを回収する。一連の操作を10回繰り返し、選択されたファージが提示するペプチドをコードする遺伝子配列をDNAシークエンサーによって解析し、アミノ酸配列に変換する。
【0095】
(実施例15)
実施例14で得られるペプチドと、配列番号17のペプチドを用いて、CDスペクトルの測定を行った。両者のスペクトルには大きな違いが確認されることから、標的物質(ATP)非存在下では、各々異なる立体構造を有していることが確認される。
【0096】
(実施例16)
13C,15Nで標識したアミノ酸を基質として、実施例14で得られるペプチドを固相合成により合成する。ATP存在下及び非存在下でのNMR測定を行う。両者の結果で立体構造に相違があることが確認できる。また、ATP存在下で、PDB ID:1UAOに示されたベータヘアピン構造に類似した構造を有していることが確認される。
【0097】
(実施例17)
実施例16で得られる立体構造情報を基に、ATP結合前後での立体構造変化(空間距離の変化)が大きいと推定されるアミノ酸残基を2つ選択し、各アミノ酸残基を蛍光FAM(励起495nm、蛍光520nm)、ROX(励起590nm、蛍光610nm)で修飾したペプチドを合成する。ATP添加前後でのFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を蛍光分光光度計で評価する。FAMを励起した際に、ATPの存在によってROXの蛍光強度が上昇することを確認する。
【0098】
(実施例18)
図2に示す方法に基づいて、標的物質の結合によって、三本鎖構造へと構造変化する核酸リガンドのスクリーニングを行う。三本鎖構造を認識する構造認識部として、実施例1で取得されるscFvを用いる。また、標的物質として、コール酸を用いる。標的物質や所望の立体構造が異なる場合においても、以下に示す方法と同様にして標的物質の結合により所望の立体構造を形成するリガンドをスクリーニングすることが可能である。
配列番号8で示した内部にランダム化領域を有する一本鎖DNAライブラリーをDNA合成機によって作製する。
【0099】
50nMのDNAライブラリー溶液(バッファー:50mM トリス、300mM NaCl、30mM KCl、5mM MgCl、pH7.6)中に、コール酸を終濃度10μMとなるように添加し、室温で攪拌しながらインキュベートする。インキュベート後の反応溶液と、実施例3と同様にして得られるscFv固定化磁性粒子とを混合する。室温で攪拌しながらインキュベートする。反応後の上清を除去する。コール酸入りのバッファーで洗浄後、磁性粒子に結合しているDNAを、アルカリ溶液を加えることで回収する。上清を中和し、SV Gel and PCR clean up systemを用いて精製する。回収されたDNA溶液に、新たなscFv固定化磁性粒子を混合し、室温で攪拌しながらインキュベートする。上清を回収し、同様にSV Gel and PCR clean up systemを用いて精製する。精製後のDNAを実施例3と同様にPCRを行い、増幅した二本鎖DNAを、ストレプトアビジン固定化微粒子を用いて一本鎖DNAを調製し、SV Gel and PCR clean up systemを用いてDNAを精製する。以上の操作を1サイクルとして、10サイクル行い、得られるDNAの塩基配列を実施例3と同様にして取得する。
【0100】
(実施例19)
実施例4と同様の方法によって、実施例18で取得されるDNAのコール酸結合能を評価する。実施例19で取得されるDNA配列から両末端の固定配列を除去したDNAを合成する。このDNA溶液を、コール酸固定化CM5基板に加えると、SPRシグナルの上昇が確認される。
【0101】
(実施例20)
実施例18で得られる核酸配列から両末端の固定配列を除去した配列の構造をmfoldにより解析する。得られるDNAは初期の安定構造として、配列番号1の核酸が有するような三本鎖構造を有していないことが確認できる。また、13C,15N標識化ヌクレオチドをモノマーとして使用してDNA固相合成機を用いて、両末端の固定配列を除去したDNA配列を合成し、コール酸の存在下及び非存在下でNMRによる立体構造解析によって行うと、スクリーニングによって取得されたDNAの中に、コール酸存在下でPDB ID:1SNJで開示されている立体構造に近い立体構造をもつ三本鎖構造を含んだものが一部取得されていることが確認できる。
【0102】
(実施例21)
実施例20で得られる立体構造情報を基に、コール酸結合前後での構造変化(空間距離の変化)が大きいと推定される塩基を2つ選択し、各塩基を蛍光FAM(励起495nm、蛍光520nm)、ROX(励起590nm、蛍光610nm)で修飾した核酸をDNA固相合成機によって合成する。コール酸添加前後でのFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を蛍光分光光度計で評価する。FAMを励起した際に、コール酸の存在によってROXの蛍光強度が上昇することを確認する。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本スクリーニング方法により同定されたリガンドは、標的物質との作用により、所望の立体構造を形成することが可能であり、特にこの構造変化を利用した化学センサやバイオセンサや分子スイッチ、信号伝達分子等に適用することができる。例えば、リガンドの特定の部位に蛍光レポーター分子を導入することで、安定した信号を取得することが可能になると考える。また、蛍光レポーター分子の導入部位は本方法により取得したリガンドと標的物質の複合体の構造解析を行い更に精緻な導入デザインも可能である。更に、本発明のスクリーニング方法は、標的物質や所望の立体構造が異なっても同様に利用可能であるので体系的なリガンドの取得方法であり、センサのアレイ化やバルク系での複数種類の検出などマルチ化する上で非常に効果的である。また、本発明のスクリーニング方法は、標的物質との結合能と構造変化能との両方を指標としてリガンドを取得するため、従来、構造変化能付与のための再設計による標的物質結合能の失活懸念が解消されると考える。
【符号の説明】
【0104】
1 PCRプライマー配列(フォワード)
2 ステム形成領域(4と相補的な配列)
3 ランダム化配列領域
4 ステム形成領域(2と相補的な配列)
5 PCRプライマー配列(リバース)
6 基体
7 ストレプトアビジン
8 ビオチン
9 ステム形成領域を含む配列領域
10 標的物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質との結合により少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンドをスクリーニングする方法であって、
(a)複数種のリガンド候補を含む第一のリガンド候補混合物と前記特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体とを接触させることにより、前記担体へ結合せずに遊離しているリガンド候補混合物を第二のリガンド候補混合物として分離回収する工程と、
(b)前記第二のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、
(c)前記工程(b)で得られた標的物質とリガンド候補混合物とを含む溶液と、前記担体とを接触させることにより、前記特定の立体構造の少なくとも一部を前記担体上の構造認識部位が認識することを利用して、前記工程(b)で得られたリガンド候補混合物から前記標的物質との結合により少なくとも一部が特定の立体構造を形成したリガンドを分離濃縮する工程と
を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項2】
(d)前記工程(c)の後に、濃縮したリガンドを含む溶液から前記標的物質を除去する工程、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
工程(a)または工程(c)もしくはその双方を各々必要な回数だけ繰り返すことを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
工程(a)の前及び/または工程(b)の前に、前記第一又は第二のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、
前記標的物質と結合したリガンド候補を分離回収する工程と、
前記分離回収したリガンド候補を増幅し、あらたな第一又は第二のリガンド候補混合物を産生する工程と
をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
工程(d)の後に、前記リガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、
前記標的物質と結合したリガンド候補を分離回収する工程と、
前記分離回収したリガンド候補を増幅し、あらたなリガンド候補混合物を産生する工程と
をさらに含むことを特徴とする請求項2または3に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
標的物質との結合により少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンドをスクリーニングする方法であって、
(a’)複数種のリガンド候補を含む第一のリガンド候補混合物と標的物質とを接触させる工程と、
(b’)前記工程(a’)で得られた標的物質とリガンド候補混合物とを含む溶液と、前記特定の立体構造の少なくとも一部を認識する構造認識部位が設けられた担体とを接触させることにより、前記特定の立体構造の少なくとも一部を前記担体上の構造認識部位が認識することを利用して、前記構造認識部位に結合したリガンド候補混合物を第二のリガンド候補混合物として回収する工程と、
(c’)前記第二のリガンド候補混合物を含む溶液から標的物質を除去する工程と、
(d’)前記担体と前記工程(c’)で得られたリガンド候補混合物とを接触させることにより、前記特定の立体構造の少なくとも一部を前記担体上の構造認識部位が認識することを利用して、前記工程(c’)で得られたリガンド候補混合物から標的物質非存在下で少なくとも一部が特定の立体構造を形成したリガンド候補を前記構造認識部位に認識させることで分離除去する工程と
を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項7】
前記リガンドが核酸、ペプチド及びこれらの誘導体を含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記担体上に設けられた構造認識部位が、特定の立体構造の少なくとも一部を認識する生体分子からなることを特徴とする、請求項1乃至7の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記担体上に設けられた構造認識部位が、特定の立体構造の少なくとも一部を認識できる空隙及び/又は表面構造を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記ポリマーが、特定の立体構造の少なくとも一部を有する鋳型分子の存在下で鋳型分子と可逆的に結合可能な結合部を有する重合性モノマーを重合して得られたポリマーから前記鋳型分子を除去することにより得られるポリマーであることを特徴とする請求項9に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の方法により得られる標的物質と結合することにより、少なくとも一部が特定の立体構造を形成するリガンドを同定する同定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−177092(P2011−177092A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43558(P2010−43558)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】