説明

リグナン配糖化酵素およびその利用

【課題】 リグナン配糖体を供給するために、リグナン配糖化活性を有する酵素を提供する。
【解決手段】 リグナン配糖体生成に関与する酵素を同定し、当該酵素ポリペプチドのアミノ酸配列および当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を同定し、これらの配列情報に基づいて、リグナン配糖体を産生する形質転換体を作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグナンに対して糖を転移する活性を有する酵素、および当該酵素の利用方法に関するものである。
【0002】
ゴマ(Sesamum indicum)は、ゴマ科ゴマ属(Sesamum)に属する1年生の植物である。ゴマの原産地は、中央アフリカといわれている。ゴマは、約6000年の歴史を有する最古の栽培油糧植物とされ、世界中で栽培されてきた。ゴマは、古来から貴重な食品であり、健康に良い食品の代表として知られている。特に、ゴマ種子、ゴマ種子から得た油、ゴマ種子からの抽出物が利用されている(例えば、非特許文献1を参照のこと)。ゴマ種子に含まれる成分は、その約50%が脂質であり、約20%が蛋白質である。ゴマに含まれる脂質の主要成分は、オレイン酸およびリノール酸を主体とするトリグリセリドである。ゴマはまた、ビタミンB1、B2、Eなどをさらに含む。リグナンと総称される植物の二次代謝物(例えば、セサミンおよびセサモリンなど)が、上記の成分以外にゴマに含まれており、特にゴマリグナンは、ゴマ種子における特徴的な成分である(例えば、非特許文献2を参照のこと)。
【0003】
リグナンは、C63骨格を有するフェニルプロパノイド化合物2分子が、主としてこれらの8−8’位を介して重合(8,8’−結合)した化合物である。リグナンは、植物における生体防御機構に寄与していると考えられている。
【0004】
代表的なリグナンとしては、ゴマ(Sesamum indicum)に含まれるセサミン、セサミノール、セサモリンおよびセサモリノール;レンギョウ(Forsythia intermedia)に含まれる(+)−ピノレジノール、(−)−アルクチゲニンおよび(−)−マタイレジノール;ソシマ(Daphne tangutica)に含まれる(−)−ピノレジノールおよび(−)−ラリシレジノール;アマ(Linum usitatissimum)に含まれる(+)−セコイソラリシレジノールなどが挙げられる。これらのリグナンの分子構造は多様である。
【0005】
ゴマリグナンの1つであるセサミンは、多彩な生理活性作用を有しており、コレステロール代謝、肝機能および免疫機能の改善に有効である(例えば、非特許文献1を参照のこと)。セサミンをゴマ種子またはゴマの絞り粕から分離精製する方法がすでに実用化されており(例えば、特許文献1および特許文献2を参照のこと)、セサミンを主成分とするアルコール分解促進作用を有する肝機能改善/増強剤が市販されている(商品名:セサミン、発売元:サントリー株式会社)。またセサミン以外の他のリグナン(例えば、セサミノール、セサモリンなど)もまた生理活性作用を有することが報告されている(例えば、非特許文献3を参照のこと)。
【0006】
リグナンの生合成については、例えば、非特許文献4を参照のこと。非特許文献4には、コニフェリルアルコールが重合して合成されるピノレジノールが生合成上の最初のリグナンであること、そしてピノレジノールから個々の植物種において特有な生合成経路を経由して多様なリグナンが合成されることが示されている。以下に、一般的なリグナン生合成の模式図を示す。
【0007】
【化1】

【0008】
(+)−ピノレジノールにピペリトール合成酵素が作用することによってピペリトールが合成され、次いで、このピペリトールにセサミン合成酵素が作用することによってセサミンが合成される。
【0009】
リグナンの生合成に関与する酵素として、レンギョウ(Forsythia intermedia)などにおいてピノレジノールの合成に寄与するデリジェントタンパク質が報告されている(例えば、非特許文献5および特許文献3を参照のこと)。また、リグナンの生合成に関与する酵素の遺伝子およびその利用として、レンギョウのピノレジノール−ラリシレジノール還元酵素遺伝子(例えば、非特許文献6および特許文献3を参照のこと)、Thuja plicataのピノレジノール−ラリシレジノール還元酵素遺伝子(例えば、非特許文献7を参照のこと)ならびに組換えセコイソラリシレシノールデヒドロゲナーゼおよびその使用方法(例えば、非特許文献8および特許文献4を参照のこと)が報告されている。さらに、Larrea tridentataから、ラレアトリシン水酸化酵素遺伝子がクローニングされている(例えば、非特許文献9を参照のこと)。
【0010】
ゴマリグナンの生合成については、ゴマ種子で発現している遺伝子を3000クローン程度網羅的に解析することによって、デリジェントタンパク質、種子貯蔵タンパク質、脂質合成に関わる遺伝子断片を得たという報告もある(例えば、非特許文献10を参照のこと)。また、脂肪酸合成に関与する遺伝子(例えば、非特許文献11、非特許文献12および非特許文献13を参照のこと)および種子の貯蔵タンパク質の遺伝子などが、ゴマからクローニングされている。
【0011】
近年、リグナンだけでなくリグナンの配糖体もまた注目されている。上記したリグナン分子のうちのいくつかは、配糖体として植物中に存在することが知られている。例えば、ゴマ種子中には、セサミノール配糖体(セサミノール2’−O−β−D−グルコピラノシド;セサミノール2’−O−β−D−グルコピラノシル(1−2)−O−β−D−グルコピラノシド;およびセサミノール2’−O−β−D−グルコピラノシル(1−2)−O−(−β−D−グルコピラノシル(1−6))−β−D−グルコピラノシド))、およびピノレジノール配糖体(ピノレジノール4’−O−β−D−グルコピラノシル(1−6)−β−D−グルコピラノシド;ピノレジノール4’−O−β−D−グルコピラノシル(1−2)−β−D−グルコピラノシド;ピノレジノール4’−O−β−D−グルコピラノシル(1−6)−O−(β−D−グルコピラノシル(1−6))β−D−グルコピラノシド;およびピノレジノールジ−O−β−D−グルコピラノシド))などが存在し、レンギョウには、(+)−ピノレジノール−4’−O−β−Dグルコシドおよび(−)−マタイレジノール−4−O−グルコシドが、アマには、セコラリシレジノールジグルコシドおよびピノレジノールジグルコシドなどが存在する(例えば、非特許文献1、14〜16を参照のこと)。
【0012】
配糖体は、配糖化酵素または糖転移酵素と呼ばれる酵素によってフラボノイドなどの多様な化合物の配糖化(糖転移)反応が触媒されることによって生成される。これまでに、いくつかの糖転移酵素のアミノ酸配列およびその機能が解明されている。フラボノイドまたはアントシアニジンの3位の水酸基に糖を転移する反応を触媒する酵素(UDP−グルコース:フラボノイド3−グルコシルトランスフェラーゼ)の遺伝子が、トウモロコシ、リンドウ、ブドウなどから得られている(例えば、非特許文献17を参照のこと)。また、アントシアニンの5位の水酸基に糖を転移する反応を触媒する酵素(UDP−グルコース:アントシアニン5−グルコシルトランスフェラーゼ)の遺伝子が、シソ、バーベナなどから得られている(例えば、非特許文献18を参照のこと)。
【0013】
ゴマに含まれるピノレジノール配糖体およびセサミノール配糖体(例えば、非特許文献1および非特許文献19を参照のこと)は、水溶性領域で強い抗酸化性を示すので、脂溶性抗酸化剤(例えば、トコフェロール)とは異なる応用が期待されている。また、リグナン配糖体について以下のような作用機構が提唱されている:リグナン配糖体は、抗酸化性を示す官能基であるフェノール性水酸基が自身の有する糖によって保護されているが、体内へ摂取された後に、腸内細菌の有するβ−グルコシダーゼの作用によって加水分解され、アグリコン部分である脂溶性のリグナンが生成される。このアグリコンが腸内に吸収されて血液を経由して各種臓器に運ばれて、臓器の生体膜などにおける酸化障害を防ぐ。このような作用機構に基づいて、リグナン配糖体は動脈硬化予防食品としての応用が期待されている(例えば、非特許文献20を参照のこと)。
【0014】
植物の二次代謝物などの生合成経路を改変することによって、有用な物質の生成および/または有用な植物の育種が行われている。このような技術は、代謝工学と呼ばれている。このような技術を用いれば、任意の化合物を大量生産すること、および/または不要な物質の生産を抑制することが可能になる。従って、リグナンおよびその配糖体の生合成に関与する遺伝子を用いてリグナンおよびその配糖体の合成を代謝工学的に行うことは、上述したようなこれらの物質の有用性に鑑みて産業上有用である。しかし、リグナン、特にゴマリグナンの生合成に関与する遺伝子に関する知見は、前述のように限られており、さらに、リグナン配糖体の生成を触媒する配糖化酵素は見出されていないので、さらなる遺伝子の取得が望まれていた。
【特許文献1】特開2001−139579公報(平成13年5月22日公開)
【特許文献2】特開平10−7676号公報(平成10年1月13日公開)
【特許文献3】特表2001−507931公報(平成13年6月19日公開)
【特許文献4】特表2002−512790公報(平成14年5月18日公開)
【非特許文献1】ゴマその科学と機能性、並木満夫編:丸善プラネット社(1998)
【非特許文献2】Bedigian,D.,ら、Biochemical Systematics and Ecology 13,133−139(1985)
【非特許文献3】日本農芸化学会誌、76:805−813(2002)
【非特許文献4】Lignans:biosynthesis and function,Comprehensive natural products chemistry,1:640−713(1999)
【非特許文献5】Plant Physiol.,123:453(2000)
【非特許文献6】J.Biol.Chem.,271:29473(1996)
【非特許文献7】J.Biol.Chem.,274:618(1999)
【非特許文献8】J.Biol.Chem.,276(16):12614−23(2001)
【非特許文献9】Proc.Nat.Acad.Sci.USA,100:10641(2003)
【非特許文献10】Plant Mol.Biol.,52:1107(2003)
【非特許文献11】Biosci.Biotechnol.Biochem.;66(10):2146−53(2002)
【非特許文献12】Plant Physiol.;128(4):1200−11(2002)
【非特許文献13】Plant Cell Physiol.;37(2):201−5(1996))
【非特許文献14】生薬学雑誌、第32巻、第194頁(1978)
【非特許文献15】Tetrahedron,14:649(2003)
【非特許文献16】Phytochemistry,58:587(2001)
【非特許文献17】J.Biol.Chem.276:4338(2001)
【非特許文献18】J.Biol.Chem.274:7405(1999)
【非特許文献19】Katsuzaki,H.ら、Biosci.Biotech.Biochem.56,2087−2088(1992)
【非特許文献20】T.Osawa:Anticarcinogenesis and radiation protection 2:p.327,Plenum Press,New York(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
セサミノール配糖体は、種子だけでなく発芽種子において生成されることが知られている(例えば、非特許文献1を参照のこと)。ゴマ種子において、発芽時のセサミンおよびセサモリンの急速な減少に伴って、リグナン配糖体(例えば、セサミノールジグルコシドなど)が生成される(日本農芸化学会誌、69:68(1995)を参照のこと)。このことは、ゴマ種子の発芽時にリグナン配糖化酵素(すなわち、リグナンに対する糖転移酵素)が活性化されて、その結果、リグナンが配糖化されるということを示唆している。また、ゴマ種子中のβ−グルコシダーゼが高い糖転移活性を有していること、および発芽初期の段階においてβ−グルコシダーゼの有する糖転移活性が増加することに基づいて、このβ−グルコシダーゼの有する糖転移活性の増加が配糖体の増加と密接な関連があるということが示唆された(日本農芸化学会誌、69:68(1995)を参照のこと)。しかしながら、このβ−グルコシダーゼの有する糖転移活性がリグナン配糖化に関与していることを示す知見はない。
【0016】
糖転移反応を触媒するという特定の機能を有するタンパク質は、異なる植物種においてもそのアミノ酸配列が類似しているということが知られている(例えば、J.Biol.Chem.276:4338(2001)を参照のこと)。従って、アミノ酸配列およびその基質が明らかとなっている糖転移酵素のオルソログを他の植物種から得ることは、現在の技術水準を従えば困難ではない。実際に、ペチュニアのUDP−グルコース:アントシアニン5−グルコシルトランスフェラーゼの遺伝子は、シソのUDP−グルコース:アントシアニン5−グルコシルトランスフェラーゼの遺伝子の配列情報を用いてクローニングされた(例えば、Plant Mol.Biol.48:401−11(2002)を参照のこと)。
【0017】
しかしながら、上述したように、リグナンに対して糖を転移する活性を有する酵素およびそれをコードする遺伝子が単離された報告は、これまで存在しなかった。リグナン配糖化活性を有する酵素が単離されていない以上、このような新規配糖化酵素を取得することは技術的に困難であり、そして酵素取得のための具体的な手順が示されていない以上、このような新規配糖化酵素を取得するためには多大の試行錯誤を要する。
【0018】
アラビドプシスやイネのような全ゲノム構造が明らかになっている植物であっても、それらの種子におけるリグナン配糖体の蓄積は報告されていない。すなわち、リグナン配糖化活性を有する酵素は、これまで存在しなかった。
【0019】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、リグナン配糖化活性を有する酵素、特に、リグナン類の水酸基に糖を転移する反応を触媒する酵素、好ましくはセサミノールからセサミノール配糖体、ピノレジノールからピノレジノール配糖体への反応を触媒する酵素を提供することである。換言すれば、本発明の目的は、リグナンに対して糖を転移する活性を有する酵素を用いて、代謝工学的にリグナン配糖体を供給することである。
【0020】
さらに本発明の目的は、リグナンまたはリグナン配糖体を効率よく生成するために、リグナンとリグナン配糖体との含量比を増加または減少させた植物(特に、ゴマ)を代謝工学的に作製する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係るポリペプチドは、リグナン配糖化活性を有することを特徴としている。
【0022】
本発明に係るポリペプチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号2、4、82もしくは91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号2、4、82もしくは91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなることを特徴としているポリペプチドであることを特徴としている。
【0023】
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記のポリペプチドをコードすることを特徴としている。
【0024】
本発明に係るポリヌクレオチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードしかつ:
(a)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド
のいずれかであることを特徴としている。
【0025】
本発明に係るポリヌクレオチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードしかつ:
(a)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
のいずれかであることを特徴としている。
【0026】
本発明に係るポリヌクレオチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードしかつ:
(a)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列と少なくとも80%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド、
のいずれかであることを特徴としている。
【0027】
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、上記のポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなることを特徴としている。
【0028】
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、上記のポリペプチドの発現を抑制することが好ましい。
【0029】
本発明に係るベクターは、上記のポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。
【0030】
本発明に係るポリペプチドの生産方法は、上記のベクターを用いることを特徴としている。
【0031】
本発明に係る形質転換体は、上記のポリヌクレオチドが導入されていることを特徴としている。
【0032】
本発明に係る形質転換体は、リグナンおよびリグナン配糖体の含有比が改変されていることが好ましい。
【0033】
本発明に係る形質転換体は、生物もしくはその子孫、またはこれら由来の組織であることが好ましい。
【0034】
本発明に係る形質転換体は、上記生物が植物であることが好ましい。
【0035】
本発明に係る形質転換体は、上記植物がゴマ、レンギョウまたはアマであることが好ましい。
【0036】
本発明に係るポリペプチドの生産方法は、上記の形質転換体を用いることを特徴としている。
【0037】
本発明に係るポリペプチドの生産方法は、上記の形質転換体を用いることが好ましい。
【0038】
本発明に係るポリペプチドの生産方法は、上記のリグナン配糖体のアグリコンが、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることが好ましい。
【0039】
本発明に係る細胞は、上記のベクターを含有することを特徴としている。
【0040】
本発明に係る細胞は、ゴマ、レンギョウまたはアマの細胞であることが好ましい。
【0041】
本発明に係るポリペプチドの生産方法は、上記の細胞を用いることを特徴としている。
【0042】
本発明に係るリグナン配糖体の生産方法は、上記の細胞を用いることを特徴としている。
【0043】
本発明に係るリグナン配糖体の生産方法は、上記のリグナン配糖体のアグリコンが、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることが好ましい。
【0044】
本発明に係るリグナン配糖体の生産方法は、上記のポリペプチドを用いることが好ましい。
【0045】
本発明に係るリグナン配糖体の生産方法は、上記のリグナン配糖体のアグリコンが、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることが好ましい。
【0046】
本発明に係る食品または工業製品は、上記の生産方法により得られたリグナン配糖体を含有することを特徴としている。
【0047】
本発明に係る食品または工業製品は、上記のリグナン配糖体のアグリコンが、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることが好ましい。
【0048】
本発明に係る生物中のリグナン配糖体の含有量を増加させる方法は、上記のポリヌクレオチドを、リグナンを産生する生物に導入する工程を包含することを特徴としている。
【0049】
本発明に係る生物中のリグナン配糖体の含有量を増加させる方法は、上記のリグナンを産生する生物がゴマ、レンギョウまたはアマであることが好ましい。
【0050】
本発明に係る生物中のリグナン配糖体の含有量を増加させる方法は、上記のリグナンがピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることが好ましい。
【0051】
本発明に係る生物中のリグナン配糖体の含有量を減少させる方法は、上記のオリゴヌクレオチドを、リグナンを産生する生物に導入する工程を包含することを特徴としている。
【0052】
本発明に係る生物中のリグナン配糖体の含有量を減少させる方法は、上記のリグナンを産生する生物がゴマ、レンギョウまたはアマであることが好ましい。
【0053】
本発明に係る生物中のリグナン配糖体の含有量を減少させる方法は、上記のリグナンがピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることが好ましい。
【発明の効果】
【0054】
本発明に係るポリペプチド(リグナン配糖化酵素)を利用すれば、生物(特に、植物)においてリグナンおよびリグナン配糖体の量を人為的に調節することができるという効果を奏する。また、これらの組換え酵素を用いてリグナンを配糖化することによって、インビトロおよびインビボにおいて物性(溶解度、動物の吸収効率など)を改変することができるという効果を奏する。また、SiGT8を利用することによって、自然界に存在しないリグナン配糖体を人工的に生産することができるという効果を奏する。これらの効果に基づいて、本発明は、新しい生理機能物質を開発することができる。
【0055】
本発明に係るリグナン配糖化酵素を遺伝子組換え技術を用いて所望の生物に発現させることによって、セサミノールからセサミノール配糖体を、および/またはピノレジノールからピノレジノール配糖体を人工的に生産できるという効果を奏する。また、本発明に係るリグナン配糖化酵素を遺伝子組換え技術を用いて所望の生物に発現させることによって、リグナンとリグナン配糖体との量を人為的に制御した植物および/または微生物を作出することができるという効果を奏する。
【0056】
これにより、これらリグナンの体内動態を変化させる(脂溶性のリグナンと水溶性のリグナン配糖体との比を容易に決定する)ことができるという効果を奏する。すなわち、体内で吸収されやすいリグナン配当体と体内に吸収されにくいリグナンとの間のバランスを調節することができるという効果を奏する。また、リグナンを配糖化することによってリグナンの水への溶解度を向上させることができるので、リグナンを含有する飲料の作製に利用することができる。
【0057】
また、セサミノール配糖体またはピノレジノール配糖体を生産する植物において、本発明に係るリグナン配糖化酵素の発現を抑制することによって、アグリコン(すなわち、配糖体の非糖部分)を遊離させて、リグナン(特に、セサミノールおよび/またはピノレジノール)の量を増加させることもできるという効果を奏する。さらに、本発明に係るリグナン配糖化酵素を用いれば、新規リグナン配糖体であるピペリトール配糖体をピペリトールから人工的に生産することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
本発明者らは、植物由来の糖転移酵素の間で保存されている領域を複数組合わせて複合プローブとして用いて、ゴマ種子cDNAライブラリーからゴマ糖転移酵素遺伝子群(以下、SiGT遺伝子と称する)を網羅的に取得した。取得した遺伝子群からゴマ糖転移酵素(以下、SiGTと称する)を大腸菌において発現させた。得られた組換えタンパク質をセサミノールまたはピノレジノールと反応させた後、HPLC分析、LC−MS分析、およびTOF−MS/MS分析を用いて、セサミノール配糖体またはピノレジノール配糖体の生成を触媒する酵素を選択した。その結果、SiGT8が、セサミノールからセサミノール配糖体を生成する反応、およびピノレジノールからピノレジノール配糖体を生成する反応を触媒することが明らかとなった。また、SiGT10はセサミノールからセサミノール配糖体を生成する反応を触媒することが明らかとなった。さらに、SiGT8が、現在までに報告のない新規なリグナン配糖体であるピペリトール配糖体を生成するピペリトール配糖化活性を有していることを見出した。
【0059】
以下、本発明に係るリグナン配糖化活性を有するポリペプチド、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびこれらの利用について詳述する。
【0060】
(1)ポリペプチド
本発明者らは、リグナン、特に、セサミノールおよび/またはピノレジノールを主な基質にする新規糖転移酵素を見出し、本発明を完成するに至った。さらに本発明者らは、上記新規糖転移酵素がピペリトールを配糖化することを見出した。これまでに、ピペリトール配糖体は見出されていない。
【0061】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
【0062】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0063】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0064】
1つの局面において、本発明は、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドを提供する。本明細書中で使用される場合、「リグナン配糖化活性」は、リグナンを配糖化する活性、すなわち、リグナンに糖を転移する活性が意図される。すなわち、本明細書中で使用される場合、配糖化酵素と糖転移酵素とは、相互交換可能に使用される。
【0065】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号2、4、82または91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。
【0066】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号2、4、82または91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体でありかつリグナン配糖化活性を有するポリペプチドが好ましい。
【0067】
このような変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性の残基の別の残基への置換、しかし通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない)を含む変異体が挙げられる。特に、ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しない。
【0068】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0069】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望の活性を有するか否かを容易に決定し得る。
【0070】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。
【0071】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0072】
上記に詳細に示されるように、どのアミノ酸の変化が表現型的にサイレントでありそうか(すなわち、機能に対して有意に有害な効果を有しそうにないか)に関するさらなるガイダンスは、Bowie, J.U.ら「Deciphering the Message in Protein Sequences: Tolerance to Amino Acid Substitutions」,Science 247:1306−1310 (1990)(本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。
【0073】
本実施形態に係るポリペプチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号2、4、82または91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号2、4、82または91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなるポリペプチドであることが好ましい。このような変異ポリペプチドは、上述したように、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0074】
本発明に係るポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0075】
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、HisやMyc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0076】
また、本発明に係るポリペプチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入して、そのポリペプチドを細胞内発現させた状態であってもよいし、細胞、組織などから単離精製されてもよい。また、本発明に係るポリペプチドは、化学合成されてもよい。
【0077】
他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、本発明に係るポリペプチドの付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間または引き続く操作および保存の間の安定性および持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端に付加され得る。
【0078】
本実施形態に係るポリペプチドは、例えば、融合されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードする配列であるタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)にN末端またはC末端へ付加され得る。このような配列は、ポリペプチドの最終調製の前に除去され得る。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、タグアミノ酸配列は、ヘキサ−ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821−824(1989)(本明細書中に参考として援用される)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドであり、それは、Wilsonら、Cell 37:767(1984)(本明細書中に参考として援用される)によって記載されている。他のそのような融合タンパク質は、NまたはC末端にてFcに融合される本実施形態に係るポリペプチドまたはそのフラグメントを含む。
【0079】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、下記で詳述されるように組換え生成されても、化学合成されてもよい。
【0080】
組換え生成は、当該分野において周知の方法を使用して行なうことができ、例えば、以下に詳述されるようなベクターおよび細胞を用いて行なうことができる。
【0081】
合成ペプチドは、化学合成の公知の方法を使用して合成され得る。例えば、Houghtenは、4週間未満で調製されそして特徴付けられたHA1ポリペプチドセグメントの単一アミノ酸改変体を示す10〜20mgの248の異なる13残基ペプチドのような多数のペプチドの合成のための簡単な方法を記載している。Houghten,R.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5131−5135(1985)。この「Simultaneous Multiple Peptide Synthesis(SMPS)」プロセスは、さらにHoughtenら(1986)の米国特許第4,631,211号に記載される。この手順において、種々のペプチドの固相合成のための個々の樹脂は、別々の溶媒透過性パケットに含まれ、固相法に関連する多くの同一の反復工程の最適な使用を可能にする。完全なマニュアル手順は、500〜1000以上の合成が同時に行われるのを可能にする(Houghtenら、前出、5134)。これらの文献は、本明細書中に参考として援用される。
【0082】
下記に詳細に記載するように、本発明に係るポリペプチドは、リグナンを配糖化してリグナン配糖体を得るための方法およびキットにおいて有用である。
【0083】
本発明に係るポリペプチドは、リグナン(特に、ピノレジノール、セサミノール、またはピペリトール)の配糖化反応を触媒することができる。
【0084】
このように、本発明に係るポリペプチドは、少なくとも、配列番号2、4、82または91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含んでいればよいといえる。すなわち、配列番号2、4、82または91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と特定の機能(例えば、タグ)を有する任意のアミノ酸配列とからなるポリペプチドも本発明に含まれることに留意すべきである。また、配列番号2、4、82または91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列および当該任意のアミノ酸配列は、それぞれの機能を阻害しないように適切なリンカーペプチドで連結されていてもよい。
【0085】
また、本発明に係るポリペプチドは、当該ポリペプチドがセサミノールまたはピノレジノールを配糖化する活性以外にピペリトールを配糖化する活性を有しているので、当該ポリペプチドの用途としてセサミノールまたはピノレジノールを配糖化してこれらの配糖体を生成することのみに限定されるべきではない。
【0086】
つまり、本発明の目的は、リグナンを配糖化する活性を有するポリペプチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリペプチド作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得されるリグナンを配糖化する活性を有するポリペプチドも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0087】
(2)ポリヌクレオチド
1つの局面において、本発明は、リグナン配糖化活性を有する本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドまたはそのフラグメント」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図される。
【0088】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0089】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化合合成されてもよい。
【0090】
本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントは、少なくとも12nt(ヌクレオチド)、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントが意図される。少なくとも20ntの長さのフラグメントによって、例えば、配列番号1に示される塩基配列からの20以上の連続した塩基を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号1に示される塩基配列が提供されるので、当業者は,配列番号1に基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
【0091】
また本発明に係るポリヌクレオチドは、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0092】
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドまたはその変異体をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。
【0093】
別の局面において、本発明は、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異体を提供する。「変異体」は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
【0094】
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基が欠失、挿入、置換、または付加された変異体が好ましい。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的または非保存的なアミノ酸の欠失、挿入、置換、または付加を生成し得る。
【0095】
本実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、かつ
(a)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド
のいずれかであることが好ましい。
【0096】
他の実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドが好ましい。
【0097】
本実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下:
(a)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
のいずれかであることが好ましい。
【0098】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。
【0099】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30〜70ntにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。このようなポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドは、本明細書中においてより詳細に考察されるような診断用プライマーおよび診断用プローブとしても有用である。
【0100】
さらなる実施形態において、本発明は、配列番号1、3、81または90のいずれか1つに示される塩基配列と少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチドを提供する。
【0101】
本実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下:
(a)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列と少なくとも80%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド、
のいずれかであることが好ましい。
【0102】
例えば、「本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの参照(QUERY)塩基配列に少なくとも95%同一の塩基配列からなるポリヌクレオチド」によって、対象塩基配列が、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの参照塩基配列の100ヌクレオチチド(塩基)あたり5つまでの不一致(mismatch)を含み得ることを除いて、参照配列に同一である、ということが意図される。換言すれば、参照塩基配列に少なくとも95%同一の塩基配列からなるポリヌクレオチドを得るために、参照配列における塩基の5%までが、欠失され得るかまたは別の塩基で置換され得るか、あるいは参照配列における全塩基の5%までの多くの塩基が、参照配列に挿入され得る。参照配列のこれらの不一致は、参照塩基配列の5’または3’末端位置または参照配列における塩基中で個々にかまたは参照配列内の1以上の隣接した群においてのいずれかで分散されて、これらの末端部分の間のどこでも起こり得る。この参照配列は、本明細書中で記載されるように、配列番号2、4、82または91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、改変体、誘導体またはアナログであり得る。
【0103】
任意の特定の核酸分子が、例えば、配列番号1、3、81または90に示される塩基配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるか否かは、公知のコンピュータープログラム(例えば、Bestfit program(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix(登録商標),Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive,Madison,WI 53711)を使用して決定され得る。Bestfitは、SmithおよびWatermanの局所的相同性アルゴリズムを用いて、2つの配列間の最も良好な相同性セグメントを見出す(Advances in Applied Mathematics 2:482〜489(1981))。Bestfitまたは任意の他の配列整列プログラムを用いて、特定の配列が、本発明に従う参照配列に対して、例えば、95%同一であるか否かを決定する場合は、同一性のパーセントが参照塩基配列の全長にわたって計算され、そして参照配列におけるヌクレオチド数全体の5%までの相同性におけるギャップが許容されるように、パラメーターが設定される。
【0104】
特定の実施形態では、参照(QUERY)配列(本発明に係る配列)と対象配列との間の同一性(全体的な配列整列ともいわれる)は、Brutlagらのアルゴリズム(Comp.App.Biosci.6:237〜245(1990))に基づくFASTDBコンピュータープログラムを使用して決定される。%同一性を計算するために、DNA配列のFASTDB整列において使用される好ましいパラメーターは:Matrix=Unitary、k−tuple=4、Mismatch Penalty=1、Joining Penalty=30、Randomization Group Length=0、Cutoff Score=1、Gap Penalty=5、Gap Size Penalty=0.05、Window Size=500または対象塩基配列の長さ(どちらかより短い方)である。この実施形態に従って、対象配列が、5’または3’欠失に起因して(内部の欠失が理由ではなく)QUERY配列よりも短い場合、FASTDBプログラムが、同一性パーセントを算定する場合に、対象配列の5’短縮化および3’短縮化を考慮しないという事実を考慮して、手動の補正が結果に対してなされる。QUERY配列と比較して5’末端または3’末端が短縮化された対象配列については、同一性パーセントは、一致/整列していない、対象配列の5’および3’であるQUERY配列の塩基数を、QUERY配列の総塩基のパーセントとして計算することにより補正される。ヌクレオチドが一致/整列しているか否かの決定は、FASTDB配列整列の結果によって決定される。次いで、このパーセントが、指定されたパラメーターを使用する上記のFASTDBプログラムによって計算された同一性パーセントから差し引かれ、最終的な同一性パーセントスコアに到達する。この補正されたスコアが、本実施形態の目的で使用されるものである。QUERY配列と一致/整列していない対象配列の5’塩基および3’塩基の外側の塩基のみが、FASTDB整列に示されるように、同一性パーセントスコアを手動で調整する目的で計算される。例えば、90塩基の対象配列が、同一性パーセントを決定するために100塩基のQUERY配列と整列される。その欠失は、対象配列の5’末端で生じ、従ってFASTDB整列は、5’末端の最初の10塩基の一致/整列を示さない。10個の不対合塩基は、配列の10%(整合していない5’末端および3’末端での塩基の数/QUERY配列中の塩基の総数)を表し、そのため10%が、FASTDBプログラムによって計算される同一性パーセントのスコアから差し引かれる。残りの90残基が完全に整合する場合、最終的な同一性パーセントは90%である。別の例において、90残基の対象配列が、100塩基のQUERY配列と比較される。この場合、その欠失は内部欠失であり、そのためQUERY配列と整合/整列しない対象配列の5’末端または3’末端の塩基は存在しない。この場合、FASTDBによって算定される同一性パーセントは、手動で補正されない。再度、QUERY配列と整合/整列しない対象配列の5’末端および3’末端の塩基のみが手動で補正される。他の手動の補正は、本実施形態の目的のためにはなされない。
【0105】
別の局面において、本発明は、上記ポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを提供する。
【0106】
本発明に係るオリゴヌクレオチドがリグナン配糖化ポリペプチドをコードしない場合でさえ、当業者は、本発明に係るポリヌクレオチドが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のプライマーとして本発明に係るポリペプチドを作製するために使用され得ることを容易に理解する。リグナン配糖化ポリペプチドをコードしない本発明に係るオリゴヌクレオチドの他の用途としては、以下が挙げられる:(1)cDNAライブラリー中のリグナン配糖化酵素遺伝子またはその対立遺伝子もしくはスプライシング改変体の単離;(2)リグナン配糖化酵素遺伝子の正確な染色体位置を提供するための、分裂中期染色体スプレッドへのインサイチュハイブリダイゼーション(例えば、「FISH」)(Vermaら,Human Chromosomes:A Manual of Basic Techniques,Pergamon Press,New York(1988)に記載される);および(3)特定の組織におけるリグナン配糖化酵素mRNA発現を検出するためのノーザンブロット分析。
【0107】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。アンチセンスRNA技術によって、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物の減少が観察される。本発明に係るオリゴヌクレオチドを導入することによって、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドの含量を低下させ得、その結果、植物中のリグナン配糖体含量または含量比を制御(増加または減少)させることができる。本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0108】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得する方法としては、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離する種々の公知の方法が挙げられる。例えば、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製して、ゲノムDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすれば、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得することができる。このようなプローブとしては、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)であればよい。
【0109】
このようなハイブリダイゼーションによって選択されるポリヌクレオチドとしては、天然のポリヌクレオチド(例えば、ゴマ科植物やコケ科植物などの植物由来のポリヌクレオチド)が挙げられるが、植物以外に由来するポリヌクレオチドであってもよい。
【0110】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得する別の方法として、PCRを用いる方法が挙げられる。このPCR増幅方法は、例えば、本発明に係るポリヌクレオチドのcDNAの5’側および/または3’側の配列(またはその相補配列)を利用してプライマーを調製する工程、これらのプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等をテンプレートにしてPCR増幅する工程を包含することを特徴としており、本方法を使用すれば、本発明に係るポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得することができる。
【0111】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールを含む生物材料であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「生物材料」は、生物学的サンプル(生物体から得られた組織サンプルまたは細胞サンプル)が意図される。下述する実施例においては、ゴマを用いているが、これに限定されない。
【0112】
本発明に係るポリヌクレオチドを使用すれば、形質転換体または細胞においてリグナン配糖化活性を有するポリペプチドを合成することができる。
【0113】
本発明に係るポリヌクレオチドを用いれば、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを検出することによって、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドを発現する生物を容易に検出することができる。
【0114】
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するハイブリダイゼーションプローブまたは当該ポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして利用することによって、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドを発現する生物または組織を容易に検出することができる。なおさらに、上記オリゴヌクレオチドをアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用して、上記生物体またはその組織もしくは細胞におけるリグナン配糖化活性を有するポリペプチドの発現を抑制することができる。
【0115】
本発明に係るポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドがセサミノールまたはピノレジノールを配糖化する活性以外にピペリトールを配糖化する活性を有しているので、本発明に係るポリヌクレオチドの用途としてセサミノールまたはピノレジノールを配糖化してこれらの配糖体を生成することのみに限定されるべきではない。
【0116】
つまり、本発明の目的は、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールを配糖化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドの作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得されるピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールを配糖化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0117】
(3)本発明に係るポリペプチドまたはポリヌクレオチドの利用
本発明はさらに、本発明に係るポリペプチドまたはポリヌクレオチドを用いることによって生物(好ましくは、植物)中のリグナンおよびリグナン配糖体の量を制御(増加または減少)するための方法および当該制御された生物(好ましくは、植物)の利用を提供する。
【0118】
(A)ベクター
本発明は、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドを生成するために使用されるベクターを提供する。本発明に係るベクターは、インビトロ翻訳に用いるベクターであっても組換え発現に用いるベクターであってもよい。
【0119】
本発明に係るベクターは、上述した本発明に係るポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されない。例えば、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのcDNAが挿入された組換え発現ベクターなどが挙げられる。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0120】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明に係るポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係るポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0121】
本発明に係る発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター、および/または複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。発現ベクターの作製は、制限酵素および/またはリガーゼ等を用いる慣用的な手法に従って行うことができる。発現ベクターによる宿主の形質転換もまた、慣用的な手法に従って行うことができる。
【0122】
上記発現ベクターを用いて形質転換された宿主を、培養、栽培または飼育した後、培養物等から慣用的な手法(例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等)に従えば、目的タンパク質を回収、精製することができる。
【0123】
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性、およびE.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。
【0124】
上記選択マーカーを用いれば、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。あるいは、本発明に係るポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光ポリペプチドGFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るポリペプチドをGFP融合ポリペプチドとして発現させてもよい。
【0125】
上記の宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができるが、特に限定されない。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で周知である。
【0126】
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明に係るポリペプチドを昆虫で転移発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
【0127】
本発明に係るベクターを使用すれば、上記ポリヌクレオチドを生物または細胞に導入すれば、当該生物または細胞中にリグナン配糖化活性を有するポリペプチドを発現させることができる。さらに、本発明に係るベクターを無細胞タンパク質合成系に用いれば、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドを合成することができる。
【0128】
このように、本発明に係るベクターは、少なくとも、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含めばよいといえる。すなわち、発現ベクター以外のベクターも、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0129】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種およびベクター作製方法を用いて取得したベクターも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0130】
(B)形質転換体または細胞
本発明は、上述したリグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入された形質転換体または細胞を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「形質転換体」は、組織または器官だけでなく、生物個体を含むことが意図される。
【0131】
形質転換体または細胞の作製方法(生産方法)は特に限定されないが、例えば、上述した組換えベクターを宿主に導入して形質転換する方法が挙げられる。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞で例示した各種微生物、植物または動物が挙げられる。
【0132】
本発明に係る形質転換体または細胞は、これらの形質転換体または細胞が天然に有するリグナンおよび/またはリグナン配糖体の組成が改変されていることを特徴とする。本発明に係る形質転換体または細胞は、植物もしくはその子孫、またはこれら由来の組織であることが好ましく、ゴマ、レンギョウまたはアマであることが特に好ましい。このような形質転換体または細胞は、本発明に係るリグナン配糖体含有量を制御する方法を用いることによって、リグナンを産生する生物中のリグナン配糖体の含有量を増加または減少させることができる。
【0133】
一実施形態において、本発明に係る形質転換体は、植物形質転換体であり得る。本実施形態に係る植物形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入することによって取得される。
【0134】
組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクター、または外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。
【0135】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)または植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、単子葉植物綱または双子葉植物綱に属する植物のいずれでもよい。
【0136】
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。例えば、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法が周知である。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著、植物遺伝子操作マニュアル(1990)27〜31頁、講談社サイエンティフィック、東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagelらの方法(Micribiol.Lett.、67、325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlantMolecular Biology Manual(S.B.Gelvinら、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞または植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行う場合には、バイナリーベクター(pBI121またはpPZP202など)を使用することができる。
【0137】
また、遺伝子を直接植物細胞または植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。遺伝子銃を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS−1000(BIO−RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物または試料によって異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
【0138】
遺伝子が導入された細胞または植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。
【0139】
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、組換えベクターを遺伝子銃、エレクトロポレーション法などで培養細胞に導入する。形質転換の結果得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養または器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0140】
遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0141】
本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた形質転換植物体が一旦取得されれば、当該植物体の有性生殖または無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該植物体またはその子孫、あるいはこれらのクローンから、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物体を量産することができる。したがって、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された植物体、もしくは、当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、またはこれら由来の組織も含まれる。
【0142】
また、種々の植物に対する形質転換方法が既に報告されている。本発明に係る形質転換体植物としては、例えば、ゴマ、イネ、タバコ、オオムギ、コムギ、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、タイズ、アルファルファ、ルーピン、トウモロコシ、カリフラワー、バラ、キク、カーネーション、キンギョソウ、シクラメン、ラン、トルコギキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、トレニア、チューリップ、レンギョウ、シロイヌナズナ、およびミヤコグサなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0143】
好ましい実施形態において、ゴマを使用して、本発明に係る形質転換体を作製することができる。ゴマの形質転換体の作製方法としては、例えば、T.Asamizu:Transformation of sesame plants using MAT vector system:introduction of fatty acid desaturase genes.Sesame Newsletter 16:22〜25(2002)に記載されるような公知の方法が挙げられる。
【0144】
このようにして得た形質転換ゴマを用いれば、当該ゴマ内でリグナン配糖体を生産するため、低コストかつ環境に低負荷な生産プロセスでリグナン配糖体(ピペリトール、セサミノールおよび/またはピノレジノール)を生産することができる。
【0145】
他の好ましい実施形態において、本発明に係る形質転換体として、タバコを好適に用いることができる。タバコは、ペチュニアなどとともに、形質転換が容易な代表的植物であり、細胞壁を取り除いた細胞の1個(プロトプラスト)から、植物1個体への再生が可能である。この再生された植物1個体は、多細胞に由来する1個体とは異なりキメラ状に陥らないため、形質転換体の作製を効率よく行うことができる。
【0146】
タバコの形質転換に好ましい方法としては、リーフディスク法が挙げられる。この方法は、操作が容易であり、かつ1枚の葉切片からいくつもの独立した形質転換体を得ることができる方法である。形質転換の方法はたとえば「新生物化学実験の手引き3 核酸の分離・分析と遺伝子実験法 化学同人 1996年」に記載されている。
【0147】
具体的には、無菌的に育てたタバコの葉から、無菌シャーレ上でリーフディスクを切り出し、切り出したリーフディスクをNB培地にて前培養する。次に、前培養したリーフディスクをアグロバクテリウムの感染菌液に浸して共存培養し、リーフディスクをカルベニシリンとカナマイシンとを補充したNB培地に埋め込み、リーフディスクからカルスが形成されてシュートができるまで継代した後、シュートを得る。シュートが生長して茎葉部の区別が明確になった時点で、茎から切り取って抗生物質およびホルモンを含まないMS培地に移す。切り取ったシュートから根が生じた後に、これを温室で育てる。シュートをホルモン含有培地に移して発根を促すと同時に、このシュートから葉を一部切り出してきてカルベニシリンおよびカナマイシンを補充した検定培地に移植する。移植の約10日後に、葉がカルス化しているものはカナマイシン耐性個体とみなして回収し、褐変化してしまったものはカナマイシン感受性個体とみなして破棄する。
【0148】
このようにして得た形質転換タバコを用いれば、当該タバコ内でリグナン配糖体を生産するため、低コストかつ環境に低負荷な生産プロセスでリグナン配糖体(ピペリトール、セサミノールおよび/またはピノレジノール)を生産することができる。
【0149】
別の好ましい実施形態において、本発明に係る形質転換体として、イネを好適に用いることができる。イネ形質転換体を作製する一実施形態を以下に記載する。
【0150】
本発明に係るポリヌクレオチドをハイグロマイシン耐性遺伝子を含有するバイナリーベクターpPZP202に導入し、形質転換ベクターを構築する。本発明に係るポリヌクレオチドは、プロモーターCaMV35Sとインフレームで作動可能に連結される。
【0151】
得られた形質転換ベクターを用いて、エレクトロポーレーションにより、50mg/lのカナマイシンおよびハイグロマイシンの選択下でAgrobacterium tumefaciens EHA101株を形質転換する。得られたアグロバクテリウム株は、使用するまで凍結保存する。
【0152】
野生型の種子から穎を除き玄米とし、これを70%エタノールで3分間殺菌し、殺菌蒸留水で3回洗浄した後、さらに50%の次亜塩酸ナトリウム溶液で30分間殺菌し、そして殺菌蒸留水で5回洗浄する。この玄米を、30g/lスクロース、0.3g/lカザミノ酸、2.8g/lのプロリン、2.0mg/lの2,4−Dを添加し、4.0g/lのゲルライトで固化させたN6培地(Chuら、1975、Sci.Sinica、18、659−668)を含むカルス誘導培地上に置く。なお、培地pHはオートクレーブ前にpH5.8に調整する。玄米を、28℃で4週間明所で生育させ、約5mmの大きさのカルスを得る。このカルスをアグロバクテリウム感染に用いる。
【0153】
グリセロール中で凍結保存した上記のアグロバクテリウムを、20mg/lのカナマシイン、50mg/lのハイグロマイシン、100mg/lのスペクノマイシンを含みpH7.2に調整し、15g/lの寒天で固化したAB培地(Chiltonら、1974、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、71、3672−3676)上で暗所で28℃3日間の培養を行う。アグロバクテリウム菌体を集め、10mg/lのアセトンシリンゴン(Hieiら、1994、Plant J.、6、271−282)を含む液体AAM培地(Hieiら、1994)に懸濁する。得られた懸濁液の中に上記のカルスを2分間浸漬した後、殺菌したペーパータオルで余分の水分を除き、これを10mg/lアセトンシリンゴンを含む上記のカルス誘導培地に置き、暗所で28℃、3日間の共存培養を行い、アグロバクテリウムを感染させる。得られた感染カルスを殺菌蒸留水で10回洗浄し、最後に500mg/lのカルベニシリンを含む殺菌蒸留水で1回洗浄した後、殺菌したペーパータオルで余分の水分を除く。このカルスを10mg/lアセトンシリンゴン、50mg/lハイグロマイシン、300mg/lカルベニシリンを含む上記のカルス誘導培地で28℃、2週間の培養を行い、さらに50mg/lハイグロマイシン、100mg/lカルベニシリンを含むカルス誘導培地で4週間の培養を行う。ハイグロマイシン耐性カルスを選択し、30g/lのスクロース、30g/lのソルビトール、2g/lのカザミノ酸、2.2mg/lのカイネチン、1.0mg/lのNAA、100mg/lのカルベニシリン、50mg/lのハイグロマイシンおよび4g/lのゲルライトを含むpH5.8のMS基礎培地(MurashigeおよびSkoog、1962、Physiol.Plant.、15、473−497)を含む再生培地に移す。
【0154】
このようにして得られる形質転換体は、ハイグロマイシンを含む再生培地で容易に再生し、土壌に移して栽培することができる。
【0155】
このようにして得た形質転換イネを用いれば、当該イネ内でリグナン配糖体を生産するため、低コストかつ環境に低負荷な生産プロセスでリグナン配糖体(ピペリトール、セサミノールおよび/またはピノレジノール)を生産することができる。
【0156】
本発明に係る形質転換体は、リグナン(特に、ピノレジノール、セサミノール、またはピペリトール)を含む生物であれば、生物種を問わず、上記ポリヌクレオチドを導入することで当該リグナンの配糖体を生産することができる。
【0157】
本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターが導入された形質転換体を用いれば、植物などの生物に内在するリグナンを配糖化する反応を触媒することができるので、低コストかつ環境に対して低負荷な生産プロセスでリグナン配糖体の大量調製が可能になる。さらに本発明は、リグナン配糖体を大量調製することによって安価な食品または工業製品を提供することができる。
【0158】
本発明に係る形質転換体を用いれば、リグナン配糖化反応を触媒するポリペプチドを低コストでありかつ環境に低負荷な条件下で提供することができる。
【0159】
一実施形態において、本発明に係る細胞は、種々の細菌宿主であり得る。本実施形態に係る細胞は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように細胞中に導入することによって取得される。
【0160】
宿主としては、原核生物または真核生物を用いることができる。原核生物宿主としては、例えば、Escherichia属に属する細菌(例えば、大腸菌(Escherichia coli)など)、例えば、Bacillus属に属する細菌(例えば、Bacillus subtilisなどを用いることができる。真核生物宿主としては、下等真核生物(例えば、酵母または糸状菌などの真核生物微生物)を用いることができる。酵母としては、Saccharomyces属微生物(例えば、Saccharomyces cerevisiaeなど)が挙げられ、糸状菌としては、Aspergillus属微生物(例えば、Aspergillus oryzae、Aspergillus nigerなど)、Penicillium属微生物が挙げられる。また、動物細胞または植物細胞が宿主として使用され得る。動物細胞としては、マウス、ハムスター、サル、ヒト等の細胞が挙げられる。さらに、昆虫細胞(例えば、カイコ細胞、またはカイコの成虫)もまた宿主として使用され得る。
【0161】
当業者は、本明細書中の記載に従えば、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターが導入されれば、細菌から高等植物までの広範な生物にリグナン配糖化能を付与することができるということを容易に理解する。
【0162】
本発明に係る細胞は、リグナン(特に、ピノレジノール、セサミノール、またはピペリトール)を含む生物であれば、生物種を問わず、上記ポリヌクレオチドを導入することで当該リグナンの配糖体を生産することができる。
【0163】
本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターが導入された細胞を用いれば、当該細胞内でリグナン配糖化反応を触媒することができるので、低コストかつ環境に対して低負荷な生産プロセスでリグナン配糖体の大量調製が可能になる。さらに本発明は、リグナン配糖体を大量調製することによって安価な食品または工業製品を提供することができる。
【0164】
本発明に係る細胞を用いれば、リグナン配糖化反応を触媒するポリペプチドを低コストでありかつ環境に低負荷な条件下で提供することができる。
【0165】
このように、本発明に係る形質転換体または細胞は、少なくとも、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されていればよいといえる。すなわち、組換え発現ベクター以外の手段によって生成された形質転換体または細胞も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0166】
また上述したように、本発明に係るポリペプチドは、当該ポリペプチドがセサミノールおよび/またはピノレジノールを配糖化する活性以外にピペリトールを配糖化する活性を有しているので、本発明に係る形質転換体または細胞の用途としてセサミノールおよび/またはピノレジノールを配糖化してこれらの配糖体を生成することのみに限定されるべきではない。
【0167】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されていることを特徴とする形質転換体または細胞を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法を用いて取得した形質転換体または細胞も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0168】
(C)ポリペプチドの生産方法
本発明は、本発明に係るポリペプチドを生産する方法を提供する。本発明に係るポリペプチドの生産方法を用いれば、リグナン配糖化反応を触媒するポリペプチドを低コストでありかつ環境に低負荷な条件下で提供することが可能となる。また、本発明に係るポリペプチドの生産方法を用いれば、リグナン配糖化反応を触媒するポリペプチドを容易に生産することが可能となる。
【0169】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いることを特徴とする。
【0170】
本実施形態の1つの局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを無細胞タンパク質合成系に用いることが好ましい。無細胞タンパク質合成系を用いる場合、種々の市販のキットを用いればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターと無細胞タンパク質合成液とをインキュベートする工程を包含する。
【0171】
本実施形態の他の局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、組換え発現系を用いることが好ましい。組換え発現系を用いる場合、本発明に係るポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能に宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られる上記ポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを宿主に導入する工程を包含する。
【0172】
このように宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0173】
本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを含む細胞または組織の抽出液から当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
【0174】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを天然に発現する細胞または組織から当該ポリペプチドを精製することを特徴とする。本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上述した抗体またはオリゴヌクレオチドを用いて本発明に係るポリペプチドを天然に発現する細胞または組織を同定する工程を包含することが好ましい。また、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上述したポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。
【0175】
さらに他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを化学合成することを特徴とする。当業者は、本明細書中に記載される本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて周知の化学合成技術を適用すれば、本発明に係るポリペプチドを化学合成できることを、容易に理解する。
【0176】
以上のように、本発明に係るポリペプチドを生産する方法によって取得されるポリペプチドは、天然に存在する変異ポリペプチドであっても、人為的に作製された変異ポリペプチドであってもよい。
【0177】
変異ポリペプチドを作製する方法についても、特に限定されない。例えば、部位特異的変異誘発法(例えば、Hashimoto−Gotoh,Gene 152,271−275(1995)参照)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異ポリペプチドを作製する方法、またはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異ポリペプチド作製法を用いることによって、変異ポリペプチドを作製することができる。変異ポリペプチドの作製には市販のキットを利用してもよい。
【0178】
このように、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、少なくとも、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列、またはリグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて公知慣用技術を用いればよいといえる。
【0179】
つまり、本発明の目的は、リグナン配糖化活性を有するポリペプチドの生産方法を提供することにあるのであって、上述した種々の工程以外の工程を包含する生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0180】
(D)リグナン配糖体生産方法
これまで、リグナンおよびリグナン配糖体の生産はゴマからの抽出により行われているので、大量生産ができない等の問題点を有していたが、本発明に従えば、リグナンおよびリグナン配糖体を低コストで大量生産できる。
【0181】
本発明は、本発明に係るポリペプチドを発現する生物体または細胞を用いてリグナン配糖体を生産する方法を提供する。上記生物体は、天然の未改変生物体であっても組換え発現系を用いた形質転換体であってもよい。本発明に係るリグナン配糖体生産方法は、リグナン(特に、ピノレジノール、セサミノール、またはピペリトール)を効率よく生産することができる。
【0182】
一実施形態において、本発明に係るリグナン配糖体生産方法は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換された生物体またはその組織を用いてリグナン配糖体を生産することを特徴とする。好ましくは、上記生物体は、上述した形質転換体植物または細菌であり、特に好ましくは、大腸菌、ゴマ、レンギョウまたはアマである。
【0183】
本実施形態の好ましい局面において、本発明に係るリグナン配糖体生産方法は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを上記生物体に導入する工程を包含する。ポリヌクレオチドを上記生物体に導入する工程としては、上述した種々の遺伝子導入方法を用いればよい。本実施形態のこの局面において、上記生物体は形質転換される前に産生したリグナン配糖体と形質転換後に産生するリグナン配糖体との間でその組成が異なる。具体的には、上記生物体から得られるリグナンおよびその配糖体は、その含有率が増加する。本実施形態のこの局面に係るリグナン配糖体生産方法は、上記生物体からリグナン配糖体を抽出する工程をさらに包含することが好ましい。
【0184】
他の実施形態において、本発明に係るリグナン配糖体生産方法は、本発明に係るポリペプチドを天然に発現する生物体に、本発明に係るオリゴヌクレオチドをアンチセンスオリゴヌクレオチドとして導入する工程を包含する。オリゴヌクレオチドを上記生物体に導入する工程としては、上述したアンチセンスRNA技術を用いればよい。本実施形態に係るリグナン配糖体生産方法は、上述した抗体またはオリゴヌクレオチドを用いて本発明に係るポリペプチドを天然に発現する生物体を同定する工程をさらに包含することが好ましい。本実施形態のこの局面に係るリグナン配糖体生産方法は、上記上記生物体からリグナン配糖体を抽出する工程をさらに包含することが好ましい。
【0185】
本実施形態において、上記生物体は上記オリゴヌクレオチドを導入される前に産生したリグナン配糖体と導入後に産生するリグナン配糖体との間でその組成が異なる。具体的には、上記生物体から得られるリグナンおよびその配糖体は、その含有率が減少する。
【0186】
このように、本発明に係るリグナン配糖体の生産方法は、少なくとも、本発明に係るポリペプチドを発現する生物体を用いればよいといえる。
【0187】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドによってリグナン配糖体の組成が改変された生物体に基づくリグナン配糖体生産方法を提供することにあるのであって、上記生物体として動物、植物または種々の細胞を用いる生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0188】
(E)食品および工業製品
本発明は、上述のリグナン配糖体生産方法により得られたリグナン配糖体を用いて製造される食品および工業製品を提供する。本項で記載する食品は、上述した形質転換植物体の種子、果実、切穂、塊茎、および/または塊根であっても、上述した形質転換植物体から抽出されたリグナン配糖体を用いて製造された食品(例えば、ゴマ、レンギョウまたはアマ、あるいはこれらの加工食品)であってもよい。本発明に係る食品または工業製品は、所望する量のリグナン(特に、ピノレジノール、セサミノール、またはピペリトール)を含有することができる。
【0189】
例えば、上述のようにリグナン配糖体の含量が増加した本発明に係る形質転換植物から抽出されたリグナン配糖体抽出液は、リグナン配糖体の含量が高い食品として提供される。また、抽出したリグナン配糖体に限らず、上記形質転換植物体の種子、果実、切穂、塊茎、および/または塊根等もまた、リグナン配糖体を多く含む食品として提供される。リグナン配糖体組成を改変する対象は特に限定されるものではなく、植物以外にも動物、細菌、または酵母等のあらゆる生物を対象とすることが可能である。
【0190】
また、リグナンおよびリグナン配糖体の独特な物性に基づいて、本発明に係るポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、工業製品(例えば、フィルム、生分解性プラスティック、機能性繊維、潤滑油、または洗剤のような工業製品)の原料に利用され得る。
【0191】
本明細書において、ゴマのリグナン配糖化ポリペプチドを一例として記載されているが、本発明は、ゴマ由来のポリペプチドまたはポリヌクレオチドにのみ限定されるべきではなく、リグナン配糖化活性を有する全てのポリペプチド、およびその利用に関するものであることが、当業者には明白である。リグナン配糖化酵素は、植物、動物または微生物のいずれ由来でもよく、リグナン配糖化酵素活性を有していればリグナン量を制御することができる。さらに本発明は、リグナン配糖化酵素をコードするポリヌクレオチドを導入することによって作製されたリグナン量が調節された植物、その子孫またはこれらの組織に関し、その形態は切り花であってもよい。本発明に係るリグナン配糖化ポリペプチドを用いれば、リグナン配糖体の生成を促進または抑制することができる。また、慣用的な手法を用いれば、植物に上記ポリヌクレオチドを導入して当該ポリヌクレオチドを構成的あるいは組織特異的に発現させて、目的のポリペプチドの発現を増加させること、ならびに、アンチセンス法、同時サプレッション法およびRNAi法などを用いることによって目的のポリペプチドの発現を抑制することができるということを、当業者は容易に理解する。
【0192】
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
【実施例】
【0193】
実施例において用いる分子生物学的手法は、他で詳述しない限り、PCT/JP03/10500(発明の名称:転移酵素遺伝子)またはMolecular Cloning(Sambrookら、Cold Spring Harbour Laboratory Press,1989)に記載の方法に従った。
【0194】
〔実施例1:ゴマcDNAライブラリーの作製〕
RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を製造業者が推奨する方法に従って使用して、ゴマの種子から総RNAを抽出した。続いて、オリゴテックス−MAG mRNA精製キット(TaKaRa)を使用して、ポリA(+)RNA5μgを得た。ZAP Express cDNA Synthesis Kit and ZAP Express cDNA Gigapack 3 Gold Cloning Kit(Stratagene社)を製造業者の推奨する方法に従って使用して、このポリA(+)RNAからcDNAライブラリーを作製した。作製したライブラリーは1×107pfu/mlであった。
【0195】
〔実施例2:ハイブリダイゼーションプローブの作製〕
植物は、基質および転移する糖の種類に対応する種々の糖転移酵素を有しており、そのうちの多くの糖転移酵素は1つのファミリータイプに属する。このタイプに属する糖転移酵素は、C末端部分に[F/V/A]−[L/I/V/M/F]−[T/S]−[H/Q]−[S/G/A/C]−GXX−[S/T/G]−XX−[D/E]−XXXXXXP−[L/I/V/M/F/A]−XX−P−[L/M/V/F/I/Q]−XX−[D/E]−Qというコンセンサス配列を有する(例えば、Pharmacogenetics,7255(1997)を参照のこと)。
【0196】
異なる5種の植物由来の糖転移酵素遺伝子(GT)におけるコンセンサス配列をPCR増幅して得た。具体的には、アサガオ由来のUDP−グルコース:アントシアニジン3−グルコシド糖転移酵素(3GGT)、ペチュニア由来3GT、バーベナ由来5GT、コガネバナGT、およびリンドウ由来のUDP−グルコース:アントシアニン3’−糖転移酵素(3’GT)のコンセンサス配列を、以下の5組のプライマー(配列番号11〜20)を用いてRT−PCRによって下述するように取得した。
(アサガオ3GGT)
5’−gaaatggtcggattggctggg−3’(配列番号11)
5’−acctccaccccaactttcagg−3’(配列番号12)
(ペチュニア3GT)
5’−gatgcataatttggctagaaaagc−3’(配列番号13)
5’−ccaatttgccaaacactttcc−3’(配列番号14)
(バーベナ5GT)
5’−tgcctcgaatggttgagcacg−3’(配列番号15)
5’−ctctcactctcacacccg−3’(配列番号16)
(コガネバナGT)
5’−cacgaatgcttagcatggctc−3’(配列番号17)
5’−cttattgcccactgaaacccc−3’(配列番号18)
(リンドウ3’GT)
5’−tgtctgaattggcttgattcc−3’(配列番号19)
5’−aacccacagaaacccctgttc−3’(配列番号20)。
【0197】
RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を使用して、上記の各種植物から総RNAを抽出した後、SuperScriptTM First−Strand Synthesis System for RT−PCR(Invitrogen社)を製造業者が推奨する条件に従って使用して、総RNA 1μgからcDNAを合成した。PCR反応液(50μl)は、各cDNA 1μl、1×Taq buffer(TaKaRa)、0.2mM dNTPs、プライマー(配列番号11〜20)各0.4pmol/μl、rTaq polymerase 2.5Uからなる。PCR反応を以下のように行った:94℃で5分間反応させた後、94℃で1分間、53℃で1分間、72℃で2分間の反応を28サイクル。
【0198】
非ラジオアイソトープDIG−核酸検出システム(ロシュ社)を、製造者が推奨するPCR条件に従って使用して、RT−PCRによって得られたフラグメントにDIG標識を導入した。このDIG標識化フラグメントを、ハイブリダイゼーション用プローブとして以下の実験に用いた。
【0199】
〔実施例3:ゴマ由来糖転移酵素群のスクリーニング〕
非ラジオアイソトープDIG−核酸検出システム(ロシュ・ダイアグノスティックス)を製造者の推奨する方法に従って使用して、実施例1で得たcDNAライブラリーを、実施例2で得たプローブを用いてスクリーニングした。
【0200】
ハイブリダイゼーション緩衝液(5×SSC、30%ホルムアミド、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、1%SDS、2%ブロッキング試薬(ロシュ社)、0.1%ラウロイルサルコシン、80g/mlサケ精子DNA)を用いて37℃で2時間プレハイブリダイゼーションを行った後、実施例2で得たプローブを添加して、さらに一晩インキュベートした。メンブレンを、1%SDSを含む5×SSC洗浄液中にて55℃で30分間洗浄した。約3×105pfuのプラークをスクリーニングして、約500個の陽性クローンを得た。
【0201】
cDNAライブラリー合成キットを製造業者が推奨する方法に従って使用して、上記500個のクローンをpBK−CMVプラスミド(Stratagene社)に挿入した。M13RVおよびM13M4(−20)のプライマー対を用いて、挿入物の部分DNA配列を決定した。得られたDNA配列に基づいて得た推定のアミノ酸配列を用いてデータベース検索を行い、18種類のゴマ由来糖転移酵素(SiGT)の部分配列を得た。DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems)を使用して、合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いるプライマーウォーキング法によって得られた18種類のcDNAの塩基配列を決定した。
【0202】
得られたSiGT遺伝子の部分配列をBlastx解析(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて、糖転移酵素と相同性があることを確認した。Blastx解析の条件は以下のとおりである。
プログラム:Blastx ver.2.2.9、データベース:nr、遺伝コード:standard(1)、フィルタ:LOW complexity、Expect:10、Word size:3、マトリクス:BLOSUM62、Gap Costs:Existence 11、Extension 1。
【0203】
〔実施例4:ゴマ由来糖転移酵素群の発現解析〕
得られた各SiGTがどの時期においてどの器官に発現しているかを確認するために、得られたSiGTの部分配列に基づいて設計したプライマーを用いて逆転写−PCR(RT−PCR)を行った。
【0204】
RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、ゴマ植物の各器官(葉、茎、鞘、種子(成長ステージ:若い順に1〜4)、および発芽種子(図1A))から総RNAを抽出した。SuperScriptTM First−Strand Synthesis System for RT−PCR(GIBCO BRL)を製造業者が推奨する条件に従って使用して、総RNA1μgからcDNAを合成した。PCR反応液(25μl)は、cDNA 1μl、1×Ex−Taq buffer(TakaRa)、0.2mM dNTPs、プライマー各0.2pmol/μl、Ex−Taq polymerase 1.25Uからなる。94℃で5分間の後、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で2分間の反応を30サイクル行ってPCR増幅した後、72℃で7分間保持した。SiGT遺伝子の発現量と内在性遺伝子の発現量とを比較するために、内部標準となる遺伝子のPCR反応を同時に行った。具体的には、Si18SrRNA−Fプライマー(配列番号57)およびSi18SrRNA−Rプライマ−(配列番号58)を用いてゴマの18S ribosomal RNA遺伝子(アクセッション番号:AF169853)のPCR反応を行った。また、PCR反応のポジティブコントロールとなる遺伝子のPCR反応を同時に行った。具体的には、SiP189−Bam−FWプライマー(配列番号59)およびSiP189−Xho−RVプライマ−(配列番号60)を用いてゴマのセサミン合成酵素遺伝子であるSiP189のPCR反応を行った。
【0205】
以下のプライマーをSiGT増幅用に用いた(配列番号21〜56)。
SiGT1−FW:5’−tagatgaatttgtcggaaaga−3’(配列番号21)
SiGT1−RV:5’−tataatgttacaaaatcaact−3’(配列番号22)
SiGT2−FW2:5’−ggcagagttttctatgggttgt−3’(配列番号23)
SiGT2−RV:5’−atagcagtggggctagaaaga−3’(配列番号24)
SiGT3−FW:5’−cctgtaactagaatggcgtcaat−3’(配列番号25)
SiGT3−RV:5’−tttgacaaaaccaaaaccacactt−3’(配列番号26)
SiGT4−FW2:5’−tttagctcgttttctcctctcatt−3’(配列番号27)
SiGT4−RV:5’−ctacatgttattacatctacagaa−3’(配列番号28)
SiGT5−FW2:5’−catctcaatccataatgcaga−3’(配列番号29)
SiGT5−RV:5’−aacaagaactcacttgaagataat−3’(配列番号30)
SiGT6−FW:5’−gccattgacaggtatgagtta−3’(配列番号31)
SiGT6−RV:5’−gatctaatgtttacatagtatcct−3’(配列番号32)
SiGT7−FW2:5’−catcacccacttcatttccaa−3’(配列番号33)
SiGT7−RV:5’−attattattatttttcaataatta−3’(配列番号34)
SiGT8−FW2:5’−tttatcctgtggggccaatactt−3’(配列番号35)
SiGT8−RV:5’−tcttgccattcacattcagattga−3’(配列番号36)
SiGT9−FW2:5’−acaactaagcataagtcacttaaa−3’(配列番号37)
SiGT9−RV:5’−gccttcttcgcttggtcagat−3’(配列番号38)
SiGT10−FW2:5’−gaagccgccaggtatttgctt−3’(配列番号39)
SiGT10−RV:5’−acaagataaaacataatccta−3’(配列番号40)
SiGT11−FW2:5’−tttccagctcaaggccatattaat−3’(配列番号41)
SiGT11−RV:5’−tacaaacgacacagagaaatagga−3’(配列番号42)
SiGT12−FW2:5’−aagtacaagtggatggatata−3’(配列番号43)
SiGT12−RV:5’−acggcttattccaactatctaaca−3’(配列番号44)
SiGT13−FW2:5’−aggttttgagaactggagttt−3’(配列番号45)
SiGT13−RV:5’−taataaagctggaaacttcaccaa−3’(配列番号46)
SiGT14−FW2:5’−ctagtggagctaggaaaactcat−3’(配列番号47)
SiGT14−RV:5’−agattaagcacgtttccacaa−3’(配列番号48)
SiGT15−FW:5’−tgatcaagttgccgtggtaat−3’(配列番号49)
SiGT15−RV:5’−aacgtacaagaagtatatatt−3’(配列番号50)
SiGT16−FW2:5’−tttcttccgatgatagctcat−3’(配列番号51)
SiGT16−RV:5’−gtcaacttatctggaagatca−3’(配列番号52)
SiGT17−FW2:5’−acgggaatcaggtcttgacat−3’(配列番号53)
SiGT17−RV:5’−gatgattgatcaacagtgcatctt−3’(配列番号54)
SiGT18−FW:5’−ccatcggaattaccatctgaa−3’(配列番号55)
SiGT18−RV:5’−ataatcaaaggtctctgcaaa−3’(配列番号56)
Si18SrRNA−FW:5’−tatgcttgtctcaaagattaa−3’(配列番号57)
Si18SrRNA-RV:5’−aacatctaagggcatcacaga−3’(配列番号58)
SiP189−Bam−FW:5’−ggatccttttcagccaacatggaagctgaa−3’(配列番号59)
SiP189−Xho−RV:5’−ctcgagaaaaagagcatcatttaatcatacact−3’(配列番号60)。
【0206】
上記のRT−PCRによる遺伝子発現解析の結果、18種のSiGT遺伝子のうち、5種のSiGT(SiGT1、SiGT3、SiGT5、SiGT8およびSiGT10)が、種子および発芽種子において強い発現を示した(図1B)。これらの発現パターンは、リグナン配糖体の蓄積パターンと相反しない。
【0207】
〔実施例5:ゴマ糖転移酵素遺伝子の完全長ORFのクローニング〕
SiGT3を除く4種のSiGTは、ライブラリーのスクリーニングによって得られたクローンが推定ORFの5’領域を含んでいなかったため、5’Rapid Amplification of cDNA End(以下、5’RACE)法を使用して、それぞれのSiGT遺伝子の5’領域を増幅した。具体的には、Gene Racer kit(Invitrogen社)を製造業者の推奨する方法に従って使用して、以下のプライマー(配列番号61〜68)を用いて、SiGT1、SiGT5,SiGT8、およびSiGT10のcDNA各々の5’領域を増幅した。
GR−SiGT1−RV:5’−gggaaatgcccattctctctcagaaggt−3’(配列番号61)
GR−SiGT1−Nest−RV:5’−gtaagctagagtaaaaaccaa−3’(配列番号62)
GR−SiGT5−RV:5’−gcccaggtgttcctgttcccaccactctct−3’(配列番号63)
GR−SiGT5−Nest−RV:5’−aatctgcaggtattgtataaatct−3’(配列番号64)
GR−SiGT8−RV:5’−ccacagcaatctccttcacctgatccccttcca−3’(配列番号65)
GR−SiGT8−Nest−RV:5’−caaagcaaagaaacactacagaagaat−3’(配列番号66)
GR−SiGT10−RV:5’−cctccgcttcccaacctcaaccgcccagta−3’(配列番号67)
GR−SiGT10−Nest−RV:5’−acgtatcggcaattataaaattaa−3’(配列番号68)。
【0208】
5’RACE法によって得られた増幅断片の塩基配列を、プライマーウォーキング法によって決定し、各SiGTの完全長オープンリーディングフレームを含む配列情報を得た(配列番号1〜10)。各SiGTの塩基配列およびアミノ酸配列を、配列番号1および2(SiGT8)、配列番号3および4(SiGT10)、配列番号5および6(SiGT1)、配列番号7および8(SiGT3)、ならびに配列番号9および10(SiGT5)に示す。
【0209】
得られたSiGT遺伝子の完全長cDNA配列をBlastx解析(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)によって相同性を有する既知タンパク質を検索した。Blastx解析の条件は以下のとおりである。
プログラム:Blastx ver.2.2.9、データベース:nr、遺伝コード:standard(1)、フィルタ:LOW complexity、Expect:10、Word size:3、マトリクス:BLOSUM62、Gap Costs:Existence 11、Extension 1。
【0210】
Blastx解析の結果、SiGT1は、シロイヌナズナ配糖化酵素(At2g36970)と47%の配列同一性を示し、SiGT3は、シロイヌナズナ配糖化酵素(At2g36780)と54%の配列同一性を示し、SiGT5は、インゲンマメ配糖化酵素(AAM09516)と50%の配列同一性を示し、SiGT8は、タバコ配糖化酵素(BAB60720)と56%の配列同一性を示し、SiGT10は、シロイヌナズナ配糖化酵素(At2g30150)と49%の配列同一性を示した。このように、SiGTと既知の配糖化酵素との配列同一性はいずれも低かった。従って、得られたSiGT遺伝子群の機能を推定することはできなかった。すなわち、得られたSiGT遺伝子群は、これまでに単離されていないリグナン配糖化酵素である可能性が非常に高い。
【0211】
〔実施例6:大腸菌発現ベクター構築〕
SiGT1に対して配列番号69および70、SiGT3に対して配列番号71および72、SiGT5に対して配列番号73および74、SiGT8に対して配列番号75および76、およびSiGT10に対して配列番号77および78のプライマー対を使用して、各SiGTのcDNAの開始メチオニンコドン(ATG)の上流にNcoI部位を、終始コドンの下流にKpnI部位を有するフラグメントをPCR増幅した。
【0212】
PCR反応液(25μl)は、テンプレートとしてのゴマ種子cDNA、各プライマー0.2pmol/μl、1×KOD plus buffer (TOYOBO)、0.2mM dNTPs、1mM MgSO4、1U KOD plus polymeraseからなる。94℃で5分間反応させた後、94℃1分間、55℃1分間、72℃2分間の反応を30サイクル行ってPCR増幅した後、72℃で3分間保持した。得られた各PCR産物を、製造者が推奨する方法に従ってpCR4 Blunt−TOPO vector(Invitrogen)のマルチクローニング部位に挿入して、SiGT1/pCR4 Blunt−TOPO(pSPB2630と称する)、SiGT3/pCR4 Blunt−TOPO(pSPB2643と称する)、SiGT5/pCR4 Blunt−TOPO(pSPB2644と称する)、SiGT8/pCR4 Blunt−TOPO(pSPB2631と称する)、およびSiGT10/pCR4 Blunt−TOPO(pSPB2633と称する)を得た。PCRに用いたプライマーを以下に示す(配列番号69〜78)。
NcoI−SiGT1−FW2:5’−aaacagcaaacagaaaccatggccgagtgt−3’(配列番号69)
BglKpnI−SiGT1−RV:5’−tttggtaccagatcttttgcagctagtcaactattatttaatacttgtagt−3’(配列番号70)
NcoI−SiGT3−FW:5’−aaaaccatggcgtcaatggccatccaagaacaa−3’(配列番号71)
KpnIBgl−SiGT3−RV:5’−aaaagatctggtacctcagtggaccatgacaacatcagaattttcat−3’(配列番号72)
NcoI−SiGT5−FW:5’−aaaaccatgggcagcttgagcaatcaacaga−3’(配列番号73)
KpnI−SiGT5−RV:5’−aaaggtaccctatcttattatatgggcaacaaaggaat−3’(配列番号74)
NcoI−SiGT8−FW:5’−aaaaccatggcggcggaccaaaaattaa−3’(配列番号75)
KpnI−SiGT8−RV:5’−aaaggtacctcaagaaatgttattcacgacatt−3’(配列番号76)
NcoI−SiGT10−FW:5’−aaaaccatggcgccggcggcgagaaccgacccaatcat−3’(配列番号77)
KpnI−SiGT10−RV:5’−tttggtacctcagctaaacgatgcaatatcatcgaggaa−3’(配列番号78)。
【0213】
pSPB2630、pSPB2643、pSPB2644、pSPB2631、およびpSPB2633に含まれるSiGT塩基配列を解析して、正しくPCRが行われたことを確認した。これらのプラスミドをNcoIおよびKpnIで消化して得た完全長SiGTを含む約1.5kbのDNA断片を、大腸菌発現ベクターであるpQE61ベクター(QIAGEN)のNcoI/KpnIサイトに挿入して、SiGT1/pQE61(pSPB2637と称する)、SiGT3/pQE61(pSPB2642と称する)、SiGT5/pQE61(pSPB2645と称する)、SiGT8/pQE61(pSPB2639と称する)、およびSiGT10/pQE61(pSPB2640と称する)を得た。
【0214】
〔実施例7:組換えタンパク質の調製〕
実施例6で作製した大腸菌発現ベクターpSPB2637、pSPB2642、pSPB2645、pSPB2639、およびpSPB2640で、大腸菌株JM109(TOYOBO)を形質転換し、最終濃度20μg/mlのアンピシリンを含むLB培地中にて37℃で一晩前培養した。前培養液の一部をアンピシリン50μg/ml、カザミノ酸0.5%を含むM9培地(10ml)に添加して、A600=0.6〜1.0に達するまで振盪培養した。M9培地の組成は以下の通りである。1×M9塩、1mM MgSO4、0.2%グルコース、0.001%塩酸チアミンを含む。10×M9培地の組成は以下の通りである。Na2HPO4 30g、KH2PO4 15g、NaCl 2.5g、およびNH4Cl 5gを含む500ml水溶液。次いで、培養液に最終濃度0.5mMのIPTG(Isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)を加え、さらに30℃で一晩振盪培養した後、3000rpmにて4℃で10分間遠心分離を行って集菌した。菌体を10mlの緩衝液(30mM Tris−HCl(pH7.5)、30mM NaCl)に懸濁した後に超音波処理を行って大腸菌を破砕し、次いで、15,000rpmにて4℃で10分間遠心分離を行い、得られた上清を粗酵素液として以下の活性測定に用いた。
【0215】
〔実施例8:ゴマリグナン配糖化酵素による生成物のHPLC分析〕
ピノレジノールまたはセサミノールを少量のDMSOに溶解した後に70%エタノールに溶解して基質溶液(1mg/ml)を調製した。この基質溶液10μl、大腸菌で発現させた5種類のSiGTの上記粗酵素液200μlおよび20mM UDP−グルコース 2.5μlを反応チューブ中で混合した後、30℃で1時間反応させた。ピノレジノールおよびセサミノールは、例えば、公知の方法(日本農芸化学会誌 67:1693(1993))に従ってゴマから抽出および精製して得ることができる。
【0216】
0.1%TFA(トリフルオロ酢酸)を含む100%アセトニトリル(250μl)を反応チューブに添加することによって、酵素反応を停止させた。反応チューブをボルテックスミキサーで激しく攪拌した後、15,000rpmにて4℃で5分間遠心分離し、得られた上清をフィルター(ポアサイズ0.45mm、4mm Millex−LH、Millipore)を用いて清浄化した後、液体高速クロマトグラフィー(以下HPLC)を用いてこの上清を分析した。リグナンおよびその配糖体の分析条件は以下の通りである。
【0217】
C−30カラム(野村化学C30−UG−5、4.6mm×150mm)を用いて液体クロマトグラフィー(Lc−2010c(島津製作所))を行った。移動相には、A液として、0.1%TFA、B液として、0.1%TFAを含む90%アセトニトリルを用いた。A液60%:B液40%の混合液を用いてカラムを平衡化した(20分間)後、直線濃度勾配(A液60%:B液35%→A液10%:B液90%)を用いて15分間にわたって溶出(流速0.6ml/分)し、A液10%:B液90%を用いて10分間溶出した。287nmの吸収を測定して、サンプル中に含有される化合物を検出した。化合物の各ピークを、SPD−10AV(島津製作所)を用いて190nm〜400nmのスペクトルを測定し、リグナンに特徴的な2つの吸収極大(230nmおよび280nm)を有する物質を探索した。この条件下で、ピノレジノール標準品は約8.4分、ピペリトール標準品は約12.8分、セサミノール標準品は約13.8分に検出される(図2および図3)。
【0218】
SiGT8組換えタンパク質とピノレジノールとの反応液中において、リグナンのスペクトル(保持時間約4.0分)を有するピークAが新たに得られた(図2B)。また、SiGT8組換えタンパク質とセサミノールとの反応液中において、リグナンのスペクトル(保持時間約8.2分)を有するピークBが新たに得られた(図2G)。
【0219】
SiGT10組換えタンパク質とピノレジノールとの反応液中において、新たな生成物は認められなかった(図2C)。SiGT10組換えタンパク質とセサミノールとの反応液中において、リグナンのスペクトル(保持時間8.2分)を有するピークCが新たに得られた(図2H)。
【0220】
さらに、SiGT8組換えタンパク質とピペリトールとの反応液中において、リグナンのスペクトル(保持時間約7.4分)を有するピークDが新たに得られた(図3A)。
【0221】
ピークAからDとして示される生成物は、酵素反応液からUDP−グルコースを除くと生成されなかった(図2および図3)。このことから、これらの生成物は、基質として加えたリグナンの配糖体であることが強く示された。すなわち、ピークAはピノレジノール配糖体、ピークBおよびピークCはセサミノール配糖体である。また、ピークDについてはピペリトール配糖体と考えられるが、これは現在までに報告のない新規なリグナン配糖体である。
【0222】
〔実施例9:ゴマリグナン配糖化酵素による生成物のLC−MSおよびTOF−MS/MSによる分析〕
LC−MS分析によって、実施例8において生成したリグナン配糖体の分子量を決定した(液体クロマトグラフィー(LC):Waters 2795(ウォーターズ社)、質量分析器:QUATRO micro(マイクロマス社))。ダイアイオンHP−20樹脂(三菱化学)を1ml充填したカラムを50%アセトン5mlで洗浄した後、水10mlを用いて平衡化した。実施例8において生成したリグナン配糖体を含む酵素反応液をカラムにロードし、5mlの水を用いて不純物を洗浄した後、80%アセトン2mlを用いて溶出した。エバポレーターを用いて溶出液を乾固させた後、1%ギ酸を含む90%アセトニトリル(100μl)中に溶解させてLC−MS分析試料とした。LC条件を以下に示す。
【0223】
Develosil C30−UG−3カラム(野村化学、3.0×150mm)を用い、移動相は、A液として水を、B液として100%アセトニトリルを、C液として1%ギ酸を、D液として100mM酢酸アンモニウム水溶液を用いた。10分間にわたる直線濃度勾配(A液60%:B液30%:C液5%:D液5%→A液10%:B液80%:C液5%:D液5%)を用いて溶出し、その後、A液10%:B液80%:C液5%:D液5%を用いて5分間溶出した(流速:常時0.2ml/分)。アンモニウム付加イオンとしてシグナルを検出した。
【0224】
この条件下で、ピークAは約6.1分、ピークBは約9.6分、ピークDは約8.8分に検出される。イオンモードES+、Cone voltage 17V、Collision 2VのMS条件を用いて、300〜600(m/z,18分)の範囲でMSスキャンし、210〜400nm(18分)の範囲のPDAを測定した。
【0225】
上記条件下でのLC−MS分析の結果、ピークAはアンモニウムイオン付加分子量538(m/z)、ピークBはアンモニウムイオン付加分子量550(m/z)、ピークDはアンモニウムイオン付加分子量536(m/z)であった(図4D、図4Hおよび図4L)。従って、これらのピークは、それぞれピノレジノール(アンモニウムイオン付加分子量376)のモノグルコシド、セサミノール(アンモニウムイオン付加分子量388)のモノグルコシド、およびピペリトール(アンモニウムイオン付加分子量374)のモノグルコシドであると同定した。
【0226】
さらに、ピークAおよびピークBについて、TOF−MS/MS分析を実施した。ESIプローブを用いるQ−TOF(Micromass,Manchester,UK)をCone voltage 17VにてCollisionを10eV、15eV、20eVの順に漸増させて、POSITIVEモードで使用して、MSを測定した。その結果、ピークAについて、235(m/z)、205(m/z)、および175(m/z)の分子量を有するフラグメントを同定した。このことから、ピークAがピノレジノール骨格であることを確認した。ピークBについて、353(m/Z)、233(m/z)、203(m/z)、185(m/z)、および135(m/z)の分子量を有するフラグメントを同定した。このことから、ピークBがセサミノール骨格であることを確認した。
【0227】
以上の結果から、ゴマ由来SiGT8遺伝子はピノレジノール、セサミノールおよびピペリトールに対して糖を転移する活性を有するリグナン配糖化酵素をコードしていることが示された。また、SiGT10遺伝子はセサミノールに対して糖を転移する活性を有するリグナン配糖化酵素をコードしていることが示された。
【0228】
〔実施例10:ゴマリグナン配糖化酵素遺伝子の構造解析〕
ゴマゲノム内におけるSiGT8遺伝子およびSiGT10遺伝子のコピー数を明らかにするために、ゲノミックサザン解析を実施した。
【0229】
Nucleon Phytopure for Plant Extraction Kit(アマシャム社)を製造業者が推奨する方法に従って用いて、S.indicum(真瀬金品種)の葉からゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNA20μgを、EcoRV、XhoI、NcoI、KpnIまたはSpeIで消化した後、アガロースゲルを用いた電気泳動にて分離した。このアガロースゲルを0.25M HClを用いて15分間加水分解した後、1.5M NaCl/0.5M NaOHの溶液を用いて変性させ(30分間)、1.5M NaClを含むTris−HCl(pH7.5)を添加することによって変性溶液で中和した(20分間)。次いで、アガロースゲル内のゲノムDNAを、20×SSC溶液中にてメンブレン(Hybribond−N、アマシャム社)に転写した。メンブレンに転写したゲノムDNAをUV照射によりメンブレンに結合させ、7%SDS、50%ホルムアミド、5×SSC、2%ブロッキング試薬、0.1%ラウロイルサルコシン、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)からなるハイブリダイゼーション緩衝液(高SDS緩衝液:ロシュ社)を用いて、42℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った。
【0230】
pSPB2631またはpSPB2633をテンプレートとして、それぞれ配列番号75(NcoI−SiGT8−FW)および配列番号76(KpnI−SiGT8−RV)、または配列番号77(NcoI−SiGT10−FW)および配列番号78(KpnI−SiGT10−RV)のプライマー対を用いるPCRによって、DIG標識化ハイブリダイゼーションプローブを作製した。PCR反応液は、上記のSiGT8またはSiGT10を含むプラスミド1ng、1×PCR緩衝液(タカラバイオ社)、2.5mM DIG−dNTP mixture(PCR DIG labeling Mix、ロシュ社)、0.2pmolの各プライマー、1U rTaq polymerase(タカラバイオ社)からなる。PCR反応を、95℃で30秒間、53℃で30秒間、72℃で2分間の反応を30サイクル行った。Sephadex G−50カラム−Fine(ベーリンガー社)を用いて精製したPCR産物をハイブリダイゼーションプローブとして用いた。このプローブを熱変性した後、プレハイブリダイゼーション液に15μl添加して、42℃で一晩インキュベートした。
【0231】
ハイブリダイゼーション後、高ストリンジェントな条件(0.2×SSCおよび0.1%SDSを含む溶液を用いて65℃で30分間を2回)によってメンブレンを洗浄した。DIGラベリング&デテクションキット(ロシュ社)を製造業者の指示書に従って用いて、ハイブリダイゼーションシグナルを検出した。
【0232】
サザン解析の結果、SiGT8の他にSiGT8と極めて相同性の高いSiGT遺伝子が少なくとも1つゴマゲノム内にコードされていることが示された(図5)。一方、SiGT10はゴマゲノム中に単一遺伝子として存在することが示された(図5)。
【0233】
〔実施例11:アフリカゴマ(Sesamum radiatum)からのSiGT8ホモログの単離〕
多種にわたってSiGT8遺伝子産物の機能が保存されていることを明らかにするために、栽培ゴマ品種であるSesamum indicumとは細胞遺伝学的に異なるアフリカゴマ(Sesamum radiatum)から、SiGT8のカウンターパート遺伝子(SrSiGT8)を単離することを試みた。
【0234】
S.radiatumはアフリカに現存するゴマ植物であり、細胞遺伝学解析によれば染色体数は2n=64とされており、栽培ゴマ品種であるS.indicum(2n=26)とは遺伝的に異なる系統である(参考文献、並木満夫、小林貞作「ゴマの科学」朝倉書店)。しかし、S.radiatum種子においてもリグナン含量に関する解析が報告されており、セサミンが蓄積していることが明らかとなっている(参考文献、Bedigian,D.ら、Biochemical Systematics and Ecology 13:133−139(1985))。従って、S.radiatumのゲノム中にはS.indicumのSiGT8に対応する遺伝子が含まれていることが期待される。
【0235】
実施例4と同様に、S.radiatum種子のcDNAを合成した。SiGT8−BamHI−FW(配列番号79)およびSiGT8−KpnI−RV(配列番号80)のプライマー対を用いて、このcDNA1μlをテンプレートとしてPCRを行った。
【0236】
PCR反応液は、cDNA 1μl、プライマー各0.2pmol/μl、1×KOD plus buffer(TOYOBO)、0.2mM dNTPs、1mM MgSO4、1U KOD plus polymeraseからなる。PCR反応を以下のように行った:94℃で5分間の後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で2分間の反応を30サイクル行い、最後に72℃で3分間保持した。得られた約1.4kbのPCR産物を、製造者が推奨する方法に従ってpCR2 Blunt−TOPO vector(Invitrogen社)のマルチクローニングサイトに挿入し、SrSiGT8/pCR2 Blunt−TOPO(pSPB2656)を得た。
SiGT8−BamHI−FW:5’−tttggatccatgtcggcggaccaaaaattaacca−3’(配列番号79)
SiGT8−KpnI−RV:5’−tttggtacctcaagaaatgttattcacgacattct−3’(配列番号80)。
【0237】
プライマーウォーキング法によって、pSPB2656に含まれるSrSiGT8の塩基配列(およびアミノ酸配列)を決定した(配列番号81および82)。SrSiGT8遺伝子は、SiGT8遺伝子に対して核酸配列で92%、アミノ酸配列で91%の配列同一性を示した。配列同一性について、Clustal W alignmentプログラム(Mac Vector ver.7.2.2(Symanteccorporation))をデフォルト設定で使用した。
【0238】
完全長SrSiGT8を含む約1.4kbのDNA断片をpSPB2656からBamHI/KpnIで切り出して、大腸菌発現ベクターであるpQE30ベクター(QIAGEN社)のBamHI/KpnI部位に連結して、SrSiGT8/pQE30(pSPB2657)を得た。このpSP2657は、6つのヒスチジン残基からなるHisタグをSrSiGT8のN末端に融合した組換えタンパク質(His−SrSiGT8)を発現する。
【0239】
pSPB2657を用いて形質転換した大腸菌を実施例7と同様に培養して、組換えタンパク質を発現させた。以下、断らない限り、全て氷上または4℃で実験を行った。
【0240】
菌体1gあたり5mlの破砕緩衝液(20mM リン酸ナトリウム緩衝液、30mM イミダゾール、500mM NaCl、5mM β−メルカプトエタノール、100μM APSMF)に溶解した後、超音波によって菌体を破砕し、4000rpm、10分間の遠心分離によって得られた上清を粗酵素液として回収した。
【0241】
次いで、His−SrSiGT8組換えタンパク質をNiカラムを用いて精製した。キレーティングセファロースFF樹脂(Amersham Bioscience)をカラムに充填し、樹脂と等量の0.1M NiSO4を樹脂に添加した。続いて、樹脂の5倍容の水、次いで、樹脂の3倍容の20%エタノールを用いてこのカラムを洗浄した。
【0242】
次いで、このカラムを樹脂の5倍容の破砕緩衝液を用いて平衡化し、上記租酵素液5mLを破砕緩衝液で10倍希釈したサンプルをカラムにロードした。サンプルが重力によって自然落下した後に、樹脂の5倍容の破砕緩衝液で3回洗浄し、引き続き、5mlの溶出緩衝液(20mM リン酸ナトリウム緩衝液、500mM イミダゾール、500mM NaCl、5mM β−メルカプトエタノール、100μM APSMF)を用いて溶出した。
【0243】
溶出液10μlをSDS−PAGEに供し、約60kDaのサイズにHis−SrSiGT8組換えタンパク質が発現していることを確認した(図6A)。
【0244】
次いで、His−SrSiGT8組換えタンパク質をほぼ単一のバンドとして含む溶出画分をセルロースチューブ(DIALYSIS TUBING, SIGMA社)に充填し、透析緩衝液(30mM リン酸ナトリウム緩衝液、30mM NaCl、5mM β−メルカプトエタノール、100μM APSMF)中で一晩透析した。
【0245】
透析したサンプル300μlに基質溶液(1mg/ml)20μlおよび20mM UDP−glucose 3μlを添加して、30℃で1時間反応させた。反応物を実施例8と同様の方法で生成物分析を行った。
【0246】
HPLC分析の結果、SrSiGT8組換えタンパク質とピノレジノールとの反応液中において新たなリグナンのスペクトルを持つピークは得られなかった。しかしながら、SrSiGT8組換えタンパク質とピペリトールとの反応液中において新たに保持時間約7.4分のリグナンのスペクトルを持つピークEが得られた(図6C)。さらにSiGT8組換えタンパク質とセサミノールとの反応液中において新たに保持時間約8.2分のリグナンのスペクトルを持つピークFが得られた(図6D)。ピークEとFで示されるこれらの生成物は酵素反応液からUDP−グルコースを除くと生成されないため(図6Gおよび図6H)、基質として加えたリグナンの配糖体であることが強く示された。ピークEは実施例8で示されたピペリトール配糖体であるピークDと保持時間が一致するため、ピペリトールのモノグルコシドであることが示された。一方、ピークFは実施例8のピークBおよびCと保持時間が一致するため、セサミノールのモノグルコシドであることが示された。
【0247】
以上の結果から、アフリカゴマから単離されたSrSiGT8は、リグナンに対して糖を転移する活性を有することが明らかとなった。
【0248】
〔実施例12:SiGT8およびSiGT10の発現調節領域の同定〕
SiGT8遺伝子およびSiGT10遺伝子の発現調節機構を調べるために、これらの遺伝子のゲノミッククローンを単離した。
【0249】
配列番号75に示される塩基配列からなるプライマーと配列番号76に示される塩基配列からなるプライマーによって増幅されるSiGT8遺伝子のORF領域約1.4kb(SiGT8プローブ)、または、配列番号77に示される塩基配列からなるプライマーと配列番号78に示される塩基配列からなるプライマーによって増幅されるSiGT10遺伝子のORF領域約1.4kb(SiGT10プローブ)をプローブに用いて、栽培ゴマ(S.indicum)由来のゲノムDNAライブラリー(約25万pfu)をスクリーニングした。ゴマゲノムライブラリーを、λBlueSTARTM Vector system(NOVAGEN社)を用いて栽培ゴマ(S.indicum)ゲノムDNAから作製した。
【0250】
まず、ゴマゲノムDNA200μgを、断片サイズが約20kbになるように制限酵素Sau3AIを用いて部分消化し、引き続き10℃にて10〜40%ショ糖密度勾配遠心分離を25000rpmで24時間行った(SW28ローター、Beckman社)。遠心分離したサンプルを、AUTOMATIC LIQUID CHARGER(Advantec社)とMicro Tube Pump(EYELA社)を用いて、1mlずつ分画した。パルスフィールド電気泳動によって、分画したサンプルの断片サイズを確認した。パルスフィールド電気泳動を、1%Agarose NA(Amersham bioscience社)、0.5×TBEからなるゲルを用いて、120°/1秒−1秒で6V/cmの条件で0.5×TBE緩衝液内にて行った(CHEF MAPPER、Invitrogen社)。約20kbの平均断片サイズを含む画分を用いて、製造業者の推奨する方法に従って、ゲノムライブラリーを作製した。作製したライブラリーは、1.5×106pfu/500μlの力価を有した。
【0251】
二次スクリーニング後、SiGT8プローブおよびSiGT10プローブによってそれぞれ5個ずつの陽性クローンを得た。次いで、これらの陽性クローンに対して、配列番号76に示される塩基配列からなるプライマーまたは配列番号78に示される塩基配列からなるプライマーとファージアームプライマーであるSTAR−LF1(配列番号83)およびSTAR−LR1(配列番号84)を用いてPCRを行い、SiGT8遺伝子またはSiGT10遺伝子の位置関係を決定した。
STAR−LF1:5’−acgaagttatgcggccaattaaccc−3’(配列番号83)
STAR−LR1:5’−ccacctgacgtcgcggcctaatacg−3’(配列番号84)。
【0252】
その結果、SiGT8陽性クローンgSiGT8#13が、約1kbの5’遺伝子発現調節領域を含むことが示唆された。一方、SiGT10陽性クローンgSiGT10#37が約1.5kbの5’遺伝子発現調節領域を含むことが示唆された。
【0253】
次いで、gSiGT8#13またはgSiGT10#37のファージをテンプレートとして、T7プライマー(配列番号85)、および配列番号76に示される塩基配列からなるプライマーまたは配列番号78に示される塩基配列からなるプライマーの組み合わせを用いるLA−PCRによって挿入断片を増幅した。ファージ液は、1μlの1×LA−PCR buffer (TakaRa)、0.2mM dNTPs、2.5mM MgCl2、プライマー各0.2pmol/μl、LA−Taq polymerase 1.25Uからなる。94℃で5分間反応させた後、94℃で1分間、53℃で1分間、72℃で4分間の反応を32サイクル行い、最後に72℃で7分間維持した。
T7:5’−taatacgactcactataggg−3’(配列番号85)。
【0254】
得られたフラグメントを電気泳動した結果、それぞれ約2.4kbおよび3.0kbに増幅断片が得られたため、これらのフラグメントを製造業者が推奨する方法に従ってpCR−XL−TOPO vector(インヴィトロジェン社)のマルチクローニングサイトに挿入し、pSPB2659およびpSPB2660を得た。
【0255】
pSPB2659に挿入した断片の全塩基配列をプライマーウォーキング法によって決定し、SiGT8遺伝子の5’側発現調節領域を含むと思われる塩基配列を得た。
gSiGT8#13:
ACTAGTAACGGCCGCCAGTGTGCTGGAATTCGCCCTTGTAATACGACTCACTATAGGGCGACCGCGGATCTTCACTATCACTACTTCAAAGGACGGGCAACCGTCCGCATCCGCTACTTATCGTCCTGATCGATTATACCAATTCTTATTGAGGATCGGGTTCCACAAATACTATCCAATTTAATTTTTTATCTGCTTTTCACTTTTTTTATAAATATTATTTATTTTTAATTTTTCTACAACTTTGAACTTTCTCTGTTAAAATGATTTACCTAAAATTAAAATTTTCCCAAACACTCCTAGTATGTCAGAATCTTTTGATATCTACAATAGATTGAATTACAATTTTCACTCTATTATTATAAGGCGTCGACGTTTATTGTTCTAGGAAAATAAAATCTGGTACCTAAAAAGACACTAGTTAAAGAAAAATAAAAATTGGTAGATTGAAGTGAATTTCTGTGAAGATTCTACAATTTGCTGGAAATTGATTTTTGATTTGGGATTTTATATGTTGGTTATTTAAACTGAAAAGTGGAGCATTTCATCATTCATGTTTTGCTTAATTGGATTGCATATAGGTCTGATCAACATGTTTTGTCGGAAAATTTAAAGTTTCCCAATCAAAGATTGATTGGCCCAGCTTTCGGTGAAATTTGTCGTCAGCTCGCAGTTGAATTGTTTTTAATTACTGTTTTTAATATTATCCATTCATTTTTTACAAGATAAGAAATGTCATTTCCTTATTTGTAAAGGATCAAATTGCAATTAAACCATCTCAAATGCATAGCATTACACGCCTGCGTATGTGTATGTCTGATCTCAAGAATCAGTGAGACTCTTGTGTCATATCGTCTTTCCCTTCCAATTTCCTGAATTCAGCACCAGAAAAC(配列番号86)。このSiGT8遺伝子の5’側上流に位置する発現調節エレメントを同定するために、配列番号86に記載の配列に対して、PLACE解析を行った( HYPERLINK "http://www.dna.affrc.go.jp/PLACE/" http://www.dna.affrc.go.jp/PLACE/)。PLACE解析の結果、SiGT8プロモーター内に存在する特定の転写因子ファミリーの結合部位および特定のシグナルに応答する発現調節エレメントが多数同定され、これらの発現調節エレメントがSiGT8遺伝子の発現に影響を与えていることが示唆された(図7)。
【0256】
pSPB2660に挿入した断片の全塩基配列をプライマーウォーキング法によって決定し、SiGT10遺伝子の5’側発現調節領域を含むと思われる塩基配列を得た。
gSiGT10#37:
AATTTATGTAATAGACAGTGTCAATTTGGATTGTTTGTTATAAATTTGAAAACATGATTAATTCAAATTATGTTCTATCAAATTAAAATTATTTATTTGACAGACATGATACAAATTTATCTATAGGTATAGGATTGTTATATATTATTCATAATGATATTTGTCATGTAATCAATTAATTAATTTCAACATAAAACTTGTGTAATTGGATCTTGTTTTTAATTTTTTCTTAAATTAAAATATATAAATTGCGTGTATATAGTATTTATTTTTATTATTTATACTATTACAAAAGAAAATTTATTGATCCCATTTTACTTTTTCGTTCATTTTATTTTGTTTTTTAATTATTTTATAATTACATTTTTTTCCTCTCACCCAATACTCCATTTCTCTTTCTCATGTTCTTTATATTTTTTCCTCTCACAAATATGAAATAGATAGTTTAGAGGTAGTTTAAAGCAGCATAAAGTAGAAAGCCGTCCTATTTAGGTTGTTGGAATTGAAGGAGGAAGGAAGGGCAAATCCATTACGTCAGTCAAAAAAAGAAGCTTTTATGACTGATGAACACCAACCGGTCTACCAGGAGCAAAGAGCTCACCTAACCTAGAGAATTCACTCCCTGGATGTAAGTCCAATCAATCAGTAGCGGTAGAATAGTCCGATTTCCTAGCTTCGGAAGCCCTCTCGAAAAGCCCCCTTCCAATGACCCTAAGCGCTAAAATCAACCCTTGTAATGTCACTGAACGAAAGTCTTAGAGCAGTAATAAGGAACACAACAAACCCAACAACAAAATCGGCTAGGCTGAGTTTGAAAGTTGCGATTTTCGATACGTTTTTCCTTTTTTGTAAAAAAGAGAAAAATCCCTGTAGATAGAGATCCGCTTCTCTAGATGGCCCGGCGTACAGCCCTACATTTCTCAATTCACAACAAGACCTCTGAGAAAAAGAATTTAGATCGAGGCGTCGAAGCGAGCTTAGCAACCCTAAGCGAAGTCTTCCCCTATCCATAATTTTAATAAATCCTATTACAGTTATTTTTTTCTCTCACATTTATCATATTTATTTTTTCGTACAAATTTTCATATTTTTAATGAACTCTAAATTGTAATTCTTTCGTCTTTTTTACTTTATCCCATATTTTTTTTTTATCACCTCACAACATTATGTGTTTTTCTATAATATTTTTTTTCTTCATTTCACAGTATAATTTTTCATATATATAATTGCATAAACAACATATATTTTTTCTCTTCATTTCATAGTATAATTTTTCATATGATCGCAGAAACAACATGCAACGACCACTAATAAAAATAATGAATCAATATTAAAGTGCTAAAACATGAAAATTGTAGTGGAGTTGTTGAAGTGGAAAAAGCCACACACACTGAAGTAGGTGAAGACCAAACTGTATAAATAAAGGTTACGTGTTGCTACGTGTCTTCACTCTTCAC(配列番号87)。
【0257】
さらに、このSiGT10遺伝子の5’側上流に位置する発現調節エレメントを同定するために、配列番号87の塩基配列に基づいて、5’側上流方向へ伸長するgSiGT−seq−RV4プライマー(配列番号88)を設計し、このプライマーとT7プライマー(配列番号85)とを用いてSiGT10のゲノミックスクリーニングによって得た5つの陽性クローンをテンプレートにしてLA−PCRを行った。LA−PCR条件は先述と同様である。
gSiGT−seq−RV4:5’−gaagacttcgcttagggttgctaa−3’(配列番号88)。
【0258】
得られたフラグメントを電気泳動した結果、gSiGT10#43クローンをテンプレートにした場合に約2.0kbに増幅断片が得られたため、これを製造業者が推奨する方法に従ってpCR−TOPO−XL vector (インヴィトロジェン社)のマルチクローニングサイトに挿入し、pSPB2662を得た。
【0259】
pSPB2662に挿入した断片の全塩基配列をプライマーウォーキング法によって決定し、先に同定していた断片(配列番号87)とつなぎ合わせ、SiGT10遺伝子の5’側発現調節領域を含むと思われる塩基配列を得た。
gSiGT10#43:
GTAATACGACTCACTATAGGGGGACCGCGGATCATATTTTTTTCAATAAAATGTGAAAAATATAAAAAATTATTGATAGGGGCAATTTTATCTATACAAAGAGGATAAATATTGAAAATGCATAAAAAAAAAATCATTTCATTCGCATGTGCAGTGCGTGTAGATATATTTTTTTTTTATAAAGAGAATCTTTTTTACAGACATTTATAATTACATAATGTCTGTCTTGATTATTTAATTAATACAAGTAAGTATTTAATAATTTTTGTACAACACAAAGGTAATATGTAATTTTCCATAAAAAGAAATAAGACAAAATCGGAGAAAGGTTAGGTCATGGCTGACTTCACATATACATATGTCTTAATCGGATTAGACGCTGCCGGCTCTTACTTTTCGAATTCCTCACATATACATATATGTCTTGAATTTGGACCATCTTACCAGACATAAATCGGATTTGTCGCCGGCGGCTCTTACTTTTCGAATTCTGTGTAACTCACATTCAAACTTATTAATTTGTACACTAATATATTTATCCAGGCCAATTAAATCAATGACGTACTATAAAATGATTACATAATTATATTTCTTAAAATTTGTAAATATATTATAATTAATTAAAATGAAAATTTTGTGTTTGTCCACCACCTTTGCAAATACAAAGACGAACAATAGCGTTCCGGTTTTTGTTCATGTAAAGTGTCAAGTCCCCACCTACCTCATCACTCATTAATCTTGTCATTTCTTTTGCCCCTACTTGCTACTATTGTGATTATATACAAAAGACTATATTTATGGATAATTTACATATACTTTTATGGACTATGTTCTAACTTATAATAATGCTGGAAATCTAAACTTTTTATTTTATTTTCTTTTCTTTTTGTATATGATAAATATGCTCTTGCAGTCTTTACTTCCTCAATCACATTATTAGTTCGGTCAATAATTTATGTAATAGACAGTGTCAATTTGGATTGTTTGTTATAAATTTGAAAACATGATTAATTCAAATTATGTTCTATCAAATTAAAATTATTTATTTGACAGACATGATACAAATTTATCTATAGGTATAGGATTGTTATATATTATTCATAATGATATTTGTCATGTAATCAATTAATTAATTTCAACATAAAACTTGTGTAATTGGATCTTGTTTTTAATTTTTTCTTAAATTAAAATATATAAATTGCGTGTATATAGTATTTATTTTTATTATTTATACTATTACAAAAGAAAATTTATTGATCCCATTTTACTTTTTCGTTCATTTTATTTTGTTTTTTAATTATTTTATAATTACATTTTTTTCCTCTCACCCAATACTCCATTTCTCTTTCTCATGTTCTTTATATTTTTTCCTCTCACAAATATGAAATAGATAGTTTAGAGGTAGTTTAAAGCAGCATAAAGTAGAAAGCCGTCCTATTTAGGTTGTTGGAATTGAAGGAGGAAGGAAGGGCAAATCCATTACGTCAGTCAAAAAAAGAAGCTTTTATGACTGATGAACACCAACCGGTCTACCAGGAGCAAAGAGCTCACCTAACCTAGAGAATTCACTCCCTGGATGTAAGTCCAATCAATCAGTAGCGGTAGAATAGTCCGATTTCCTAGCTTCGGAAGCCCTCTCGAAAAGCCCCCTTCCAATGACCCTAAGCGCTAAAATCAACCCTTGTAATGTCACTGAACGAAAGTCTTAGAGCAGTAATAAGGAACACAACAAACCCAACAACAAAATCGGCTAGGCTGAGTTTGAAAGTTGCGATTTTCGATACGTTTTTCCTTTTTTGTAAAAAAGAGAAAAATCCCTGTAGATAGAGATCCGCTTCTCTAGATGGCCCGGCGTACAGCCCTACATTTCTCAATTCACAACAAGACCTCTGAGAAAAAGAATTTAGATCGAGGCGTCGAAGCGAGCTTAGCAACCCTAAGCGAAGTCTTCCCCTATCCATAATTTTAATAAATCCTATTACAGTTATTTTTTTCTCTCACATTTATCATATTTATTTTTTCGTACAAATTTTCATATTTTTAATGAACTCTAAATTGTAATTCTTTCGTCTTTTTTACTTTATCCCATATTTTTTTTTTATCACCTCACAACATTATGTGTTTTTCTATAATATTTTTTTTCTTCATTTCACAGTATAATTTTTCATATATATAATTGCATAAACAACATATATTTTTTCTCTTCATTTCATAGTATAATTTTTCATATGATCGCAGAAACAACATGCAACGACCACTAATAAAAATAATGAATCAATATTAAAGTGCTAAAACATGAAAATTGTAGTGGAGTTGTTGAAGTGGAAAAAGCCACACACACTGAAGTAGGTGAAGACCAAACTGTATAAATAAAGGTTACGTGTTGCTACGTGTCTTCACTCTTCAC(配列番号89)。
【0260】
先述のSiGT8遺伝子と同様に、配列番号89に記載の配列に対して、PLACE解析を行った。PLACE解析の結果、SiGT10プロモーター内に存在する特定の転写因子ファミリー結合部位および特定のシグナルに応答する発現調節エレメントが多数同定され、これらがSiGT10遺伝子の発現に影響を与えていることが示唆された(図8)。
【0261】
pSPB2660の挿入断片にはSiGT10の完全長ORFが含まれている。塩基配列決定によって、SiGT10は開始コドンから3’側下流497bp地点に525bpのイントロンが1つ存在することが明らかになった。pSPB2659に挿入された断片にはSiGT8の完全長ORFが含まれているが、塩基配列決定によってイントロンは同定されなかった。
【0262】
以上の結果から、SiGT8遺伝子およびSiGT10遺伝子はともにリグナンに糖を転移する活性を有する酵素をコードするが、ClustalW alignmentプログラムでアライメントした結果(Mac Vector ver.7.2.2、Symantec corporation)、両遺伝子のORFにおける配列同一性は、DNAレベルで42%、アミノ酸レベルで22%と低く、さらにイントロンの挿入の有無による遺伝子構造も異なっていた。言い換えれば、リグナンに糖を転移する活性を有する酵素において、遺伝子の配列同一性および遺伝子構造の保存性は必ずしも酵素の機能と一致しないことを示す。具体的には、SiGT8遺伝子の配列情報を用いてアフリカゴマからそのカウンターパート遺伝子であるSrSiGT8遺伝子をクローニングすることは可能であるが、SrSiGT10遺伝子を単離することは極めて困難であると容易に推測される。したがって、本発明は、配列相同性が低い2つのリグナン糖転移酵素遺伝子を本明細書において初めて明示することにより、ゴマにおいて少なくとも2種類以上のリグナン糖転移酵素が機能していることを初めて明らかにした。
【0263】
〔実施例13:アフリカゴマSesamum alatumからのSiGT8様遺伝子の単離〕
S.alatumは,形態学的にも栽培種S.indicumとは大きく異なるアフリカゴマ野生種である(並木ら、ゴマの科学、朝倉書店)。染色体数はS.indicumと同じ2n=26であるが、その地理的にはアフリカのナイジェリア、スーダンおよびモザンビークで確認されている。
【0264】
実施例4と同様の方法を用いて、S.alatumからのSiGT8のカウンターパート遺伝子(SaSiGT8)の単離を行った。実施例4と同様の方法でS.alatum種子からcDNAを調製し、実施例11と同様にPCRを行って、1.4kbの増幅断片を得た。この増幅断片を実施例11と同様の方法に従って、pCR−TOPO−blunt4(Invitrogen)にサブクローニングし、pSPB2697を得た。pSPB2697に挿入された1.4kbの塩基配列をプライマーウォーキングにより決定した。配列番号90にSaSiGT8の塩基配列を示し、配列番号91にSaSiGT8のアミノ酸配列を示す。
SaSiGT8:
(塩基配列)
ATGTCGGCGGACCAAAAATTAACCAGCCTAGTCTTCGTTCCTTTCCCTATAATGAGTCACCTGGCAACAGCAGTGAAGACGGCGAAGCTCCTGGCCGACAGAGACGAACGCCTCTCGATCACAGTCCTCGTGATGAAGCTACCAATTGATACGCTGATCAGTTCTTACACTAAGAACTCGCCTGACGCCCGAGTAAAAGTAGTCCAACTGCCCGAAGACGAGCCCACCTTTACAAAGCTGATGAAATCTTCCAAGAACTTCTTCTTTCGATACATCGAGAGCCAGAAAGGCACTGTCAGGGACGCTGTGGCTGAGATTATGAAGAGTTCGAGGTCGTGTAGGCTTGCAGGATTTGTAATCGACATGTTCTGCACAACCATGATTGATGTCGCCAACGAGCTTGGAGTCCCGACTTACATGTTCTTCAGTTCGGGTTCAGCAACGCTCGGGCTCATGTTCCATCTCCAGAGTCTCAGAGATGACAATAATGTGGACGTCATGGAGTACAAGAATTCAGATGCTGCGATATCAATACCCACATACGTTAACCCCGTTCCTGTTGCGGTATGGCCTTCCCAGGTGTTTGAGGAGGACAGTGGTTTCCTTGACTTTGCCAAAAGGTTTAGAGAAACCAAAGGGATTATTGTGAACACATTCCTCGAATTCGAAACCCACCAGATTAGGTCATTGTCTGATGACAAGAAAATCCCACCAGTTTATCCTGTGGGGCCAATACTTCAAGCTGATGAGAACAAAATTGAGCAGGAAAAGGAAAAGCACGCGGAAATCATGAGGTGGCTCGACAAGCAACCTGATTCTTCTGTAGTGTTTCTTTGCTTTGGTACGCATGGATGTTTGGAAGGGGATCAGGTGAAGGAGATTGCTGTGGCCCTGGAAAACAGTGGACATCGGTTTTTGTGGTCCCTGAGGAAGCCGCCTCCGAAAGAAAAGGTTGAGTTTCCAGGAGAGTATGAGAATTCAGAAGAAGTTTTACCAGAAGGGTTCCTGGGACGAACTACTGACATGGGTAAAGTTATCGGATGGGCGCCTCAAATGGCAGTGTTATCTCACCCTGCGGTGGGAGGATTTGTGTCGCACTGTGGGTGGAACTCTGTGTTGGAAAGTGTGTGGTGTGGGGTGCCGATGGCCGTGTGGCCGTTGTCTGCAGAGCAGCAGGCCAATGCATTCTTGCTAGTAAAGGAGTTTGAAATGGCAGTTGAGATTAAGATGGATTATAAGAAAAATGCTAACGTGATTGTGGGCACAGAGACGATAGAGGAAGCAATCAGACAGCTAATGGACCCAGAGAATGAAATTCGGGTTAAGGTGAGAGCATTGAAAGAAAAGAGCAGAATGGCCCTAATGGAAGGAGGGTCTTCGTACAATTACTTGAAACGTTTCGTCGAGAATGTCGTGAATAACATTTCTTGA(配列番号90)。
(アミノ酸配列(SaSiGT8))
MSADQKLTSLVFVPFPIMSHLATAVKTAKLLADRDERLSITVLVMKLPIDTLISSYTKNSPDARVKVVQLPEDEPTFTKLMKSSKNFFFRYIESQKGTVRDAVAEIMKSSRSCRLAGFVIDMFCTTMIDVANELGVPTYMFFSSGSATLGLMFHLQSLRDDNNVDVMEYKNSDAAISIPTYVNPVPVAVWPSQVFEEDSGFLDFAKRFRETKGIIVNTFLEFETHQIRSLSDDKKIPPVYPVGPILQADENKIEQEKEKHAEIMRWLDKQPDSSVVFLCFGTHGCLEGDQVKEIAVALENSGHRFLWSLRKPPPKEKVEFPGEYENSEEVLPEGFLGRTTDMGKVIGWAPQMAVLSHPAVGGFVSHCGWNSVLESVWCGVPMAVWPLSAEQQANAFLLVKEFEMAVEIKMDYKKNANVIVGTETIEEAIRQLMDPENEIRVKVRALKEKSRMALMEGGSSYNYLKRFVENVVNNIS(配列番号91)。
【0265】
得られたSaSiGT8は、アミノ酸レベルでS.indicum由来のSiGT8に対して98%、S.radiatum由来のSrSiGT8に対して92%の配列同一性を示した。この高い配列同一性に加え、SaSiGT8が種子で発現していることからSaSiGT8はリグナン配糖化活性を保有することが期待されたので、次に組換えSaSiGT8タンパク質の活性の有無を解析した。
【0266】
SaSiGT8のORFを含む断片をpSPB2697からBamHIとKpnIで切り出して大腸菌発現ベクターpQE30のBamHIおよびKpnIサイトへ挿入し、発現ベクターpSPB2698を得た。実施例11と同様の方法で組換えSaSiGT8タンパク質(SaLGT1)を発現させ、当該タンパク質がリグナン配糖化活性を有することを確認した。また、SDS−PAGEによりSaSiGT8遺伝子を発現する形質転換大腸菌の破砕上清において組換えSaSiGT8タンパク質(約60kDa)の存在を確認した(図9)。
【0267】
HPLC分析の結果(図10)、SaSiGT8組換えタンパク質はSiGT8組換えタンパク質と同様にピノレジノール、ピペリトール、およびセサミノールとの反応液中において、保持時間約4分、7.4分、および8.2分を示すそれぞれのモノグルコシドを生成した。
【0268】
以上の結果から、SaSiGT8は、SiGT8同様にリグナン配糖化酵素をコードすることが示された。S.radiatumおよびS.alatumからSiGT8と高い配列同一性を示すSrSiGT8およびSaSiGT8遺伝子が進化の過程で機能的に保存されていることが示された。
【0269】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0270】
以上のように、本発明に係るポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、リグナン配糖体の生産に有用である。また、本発明に係るポリヌクレオチドを発現可能に導入した形質転換体または細胞は、食品分野、各種工業分野において、リグナン配糖体、またはこれを用いる製品を生産する上で、極めて有用である。上記形質転換体が植物体である場合、植物体自体を食品として用いることができるので農業分野等において非常に有用である。
【0271】
さらに、本発明に係るポリペプチドおよびポリヌクレオチドを、本発明者らが見出した他の酵素(ピペリトールおよびセサミンを合成する酵素であるSiP189)と組合わせることによって、ゴマに限ることなく、特定のリグナン分子種の生産系の確立が可能となり、その結果、特定のリグナンおよびリグナン配糖体の生産量を拡大することができる。従って、本発明は、農業、食品産業、医薬品産業およびこれらの関連産業にわたる広範な利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0272】
【図1】図1Aは、ゴマの鞘(図中a上段)および種子(図中a下段)(成長ステージ:若い順に1〜4)、および発芽種子(図中b)を示す写真である。図1Bは、図1Aに示したゴマの葉、花、茎、鞘または種子から抽出した総RNAを用いたRT−PCRによる遺伝子発現解析の結果を示す。
【図2A】図2Aは、SiGT組換えタンパク質作製用の空ベクターのみを導入した細胞におけるピノレジノールの配糖化活性を示す図である。
【図2B】図2Bは、SiGTタンパク質(SiGT8)のピノレジノールの配糖化活性を示す図である。
【図2C】図2Cは、SiGTタンパク質(SiGT10)のピノレジノールの配糖化活性を示す図である。
【図2D】図2Dは、酵素反応液からUDP−グルコースを除いた場合のSiGTタンパク質(SiGT8)のピノレジノールの配糖化活性を示す図である。
【図2E】図2Eは、種々のリグナン標準品のピークを示す図である。
【図2F】図2Fは、SiGT組換えタンパク質作製用の空ベクターのみを導入した細胞におけるセサミノールの配糖化活性を示す図である。
【図2G】図2Gは、SiGTタンパク質(SiGT8)のセサミノールの配糖化活性を示す図である。
【図2H】図2Hは、SiGTタンパク質(SiGT10)のセサミノールの配糖化活性を示す図である。
【図2I】図2Iは、酵素反応液からUDP−グルコースを除いた場合のSiGTタンパク質(SiGT8)のセサミノールの配糖化活性を示す図である。
【図2J】図2Jは、酵素反応液からUDP−グルコースを除いた場合のSiGTタンパク質(SiGT10)のセサミノールの配糖化活性を示す図である。
【図3A】図3Aは、SiGTタンパク質(SiGT8)のピペリトールの配糖化活性を示す図である。
【図3B】図3Bは、酵素反応液からUDP−グルコースを除いた場合のSiGTタンパク質(SiGT8)のピペリトールの配糖化活性を示す図である。
【図3C】図3Cは、種々のリグナン標準品のピークを示す図である。
【図4A】図4Aは、ピノレジノールのLC−MS解析を示す図である。
【図4B】図4Bは、ピノレジノールのMS解析を示す図である。
【図4C】図4Cは、SiGT8タンパク質によるピノレジノール配糖化反応の生成物のLC−MS解析を示す図である。
【図4D】図4Dは、SiGT8タンパク質によるピノレジノール配糖化反応の生成物のMS解析を示す図である。
【図4E】図4Eは、セサミノールのLC−MS解析を示す図である。
【図4F】図4Fは、セサミノールのMS解析を示す図である。
【図4G】図4Gは、SiGT8タンパク質によるセサミノール配糖化反応の生成物のLC−MS解析を示す図である。
【図4H】図4Hは、SiGT8タンパク質によるセサミノール配糖化反応の生成物のMS解析を示す図である。
【図4I】図4Iは、ピペリトールのLC−MS解析を示す図である。
【図4J】図4Jは、ピペリトールのMS解析を示す図である。
【図4K】図4Kは、SiGT8タンパク質によるピペリトール配糖化反応の生成物のLC−MS解析を示す図である。
【図4L】図4Lは、SiGT8タンパク質によるピペリトール配糖化反応の生成物のMS解析を示す図である。
【図5】図5は、リグナン配糖化酵素遺伝子のサザン解析の結果を示す図である。
【図6A】図6Aは、アフリカゴマ由来SrSiGT8組換えタンパク質の発現確認を示すSDS−PAGEゲルの写真である。
【図6B】図6Bは、アフリカゴマ由来SrSiGT8のピノレジノール配糖化活性を測定した結果を示す図である。
【図6C】図6Cは、アフリカゴマ由来SrSiGT8のピペリトール配糖化活性を測定した結果を示す図である。
【図6D】図6Dは、アフリカゴマ由来SrSiGT8のセサミノール配糖化活性を測定した結果を示す図である。
【図6E】図6Eは、種々のリグナン標準品のピークを示す図である。
【図6F】図6Fは、酵素反応液からUDP−グルコースを除いた場合のアフリカゴマ由来SrSiGT8のピノレジノール配糖化活性を測定した結果を示す図である。
【図6G】図6Gは、酵素反応液からUDP−グルコースを除いた場合のアフリカゴマ由来SrSiGT8のピペリトール配糖化活性を測定した結果を示す図である。
【図6H】図6Hは、酵素反応液からUDP−グルコースを除いた場合のアフリカゴマ由来SrSiGT8のセサミノール配糖化活性を測定した結果を示す図である。
【図7A】図7Aは、SiGT8遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図7B】図7Bは、図7Aの続きであり、SiGT8遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図7C】図7Cは、図7Bの続きであり、SiGT8遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図7D】図7Dは、図7Cの続きであり、SiGT8遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図7E】図7Eは、図7A〜Dに示す調節エレメントを表す図である。
【図8A】図8Aは、SiGT10遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図8B】図8Bは、図8Aの続きであり、SiGT10遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図8C】図8Cは、図8Bの続きであり、SiGT10遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図8D】図8Dは、図8Cの続きであり、SiGT10遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図8E】図8Eは、図8Dの続きであり、SiGT10遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図8F】図8Fは、図8Eの続きであり、SiGT10遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図8G】図8Gは、図8Fの続きであり、SiGT10遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図8H】図8Hは、図8Gの続きであり、SiGT10遺伝子の発現調節エレメント解析の結果を示す図である。
【図9】図9は、組換えSaSiGT8タンパク質(SaLGT1)をSDS−PAGEに供した後CBB染色したゲルを示す写真である。
【図10A】図10Aは、SaSiGT8タ組換えンパク質(SaLGT1)作製用の空ベクターのみを導入した細胞、および発現ベクターを導入した細胞におけるピノレジノールの配糖化活性を示す図である。
【図10B】図10Bは、SaSiGT8タ組換えンパク質(SaLGT1)作製用の空ベクターのみを導入した細胞、および発現ベクターを導入した細胞におけるピペリトールの配糖化活性を示す図である。
【図10C】図10Cは、SaSiGT8タ組換えンパク質(SaLGT1)作製用の空ベクターのみを導入した細胞、および発現ベクターを導入した細胞におけるセサミノールの配糖化活性を示す図である。
【図10D】図10Dは、SaSiGT8タ組換えンパク質(SaLGT1)作製用の空ベクターのみを導入した細胞、および発現ベクターを導入した細胞におけるセサモリノールの配糖化活性を示す図である。
【図10E】図10Eは、種々のリグナン標準品のピークを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグナン配糖化活性を有することを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
リグナン配糖化活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号2、4、82もしくは91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号2、4、82もしくは91のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなることを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードしかつ下記の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とするポリヌクレオチド:
(a)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項5】
リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードしかつ下記の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とするポリヌクレオチド:
(a)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【請求項6】
リグナン配糖化活性を有するポリペプチドをコードしかつ下記の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とするポリヌクレオチド:
(a)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、81もしくは90のいずれか1つに示される塩基配列と少なくとも80%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなることを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項8】
請求項1または2に記載のポリペプチドの発現を抑制することを特徴とする請求項7に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項10】
請求項9に記載のベクターを用いることを特徴とするポリペプチドの生産方法。
【請求項11】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドが導入されていることを特徴とする形質転換体。
【請求項12】
リグナンおよびリグナン配糖体の含有比が改変されていることを特徴とする請求項11に記載の形質転換体。
【請求項13】
生物もしくはその子孫、またはこれら由来の組織であることを特徴とする請求項11または12に記載の形質転換体。
【請求項14】
上記生物が植物であることを特徴とする請求項13に記載の形質転換体。
【請求項15】
上記植物がゴマ、レンギョウまたはアマであることを特徴とする請求項14に記載の形質転換体。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の形質転換体を用いることを特徴とするポリペプチドを生産するための方法。
【請求項17】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の形質転換体を用いることを特徴とするリグナン配糖体の生産方法。
【請求項18】
上記リグナン配糖体のアグリコンが、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることを特徴とする請求項17に記載のリグナン配糖体の生産方法。
【請求項19】
請求項9に記載のベクターを含有することを特徴とする細胞。
【請求項20】
ゴマ、レンギョウまたはアマの細胞であることを特徴とする請求項19に記載の細胞。
【請求項21】
請求項19または20に記載の細胞を用いることを特徴とするポリペプチドを生産するための方法。
【請求項22】
請求項19または20に記載の細胞を用いることを特徴とするリグナン配糖体の生産方法。
【請求項23】
上記リグナン配糖体のアグリコンが、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることを特徴とする請求項22に記載のリグナン配糖体の生産方法。
【請求項24】
請求項1または2に記載のポリペプチドを用いることを特徴とするリグナン配糖体の生産方法。
【請求項25】
上記リグナン配糖体のアグリコンが、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることを特徴とする請求項24に記載のリグナン配糖体の生産方法。
【請求項26】
請求項17、22または24のいずれか1項に記載の生産方法により得られたリグナン配糖体を含有することを特徴とする食品または工業製品。
【請求項27】
上記リグナン配糖体のアグリコンが、ピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることを特徴とする請求項26に記載の食品または工業製品。
【請求項28】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを、リグナンを産生する生物に導入する工程を包含することを特徴とする生物中のリグナン配糖体の含有量を増加させる方法。
【請求項29】
上記リグナンを産生する生物がゴマ、レンギョウまたはアマであることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
上記リグナンがピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることを特徴とする請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
請求項8に記載のオリゴヌクレオチドを、リグナンを産生する生物に導入する工程を包含することを特徴とする生物中のリグナン配糖体の含有量を減少させる方法。
【請求項32】
上記リグナンを産生する生物がゴマ、レンギョウまたはアマであることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
上記リグナンがピペリトール、セサミノールまたはピノレジノールであることを特徴とする請求項31または32に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図2H】
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【図2I】
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【図2J】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【図4I】
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【図4J】
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【図4K】
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【図4L】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図8G】
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【図8H】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【公開番号】特開2006−129728(P2006−129728A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319624(P2004−319624)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】