説明

リグニン含有パルプセルローズ材料およびその製造方法

【課題】 本発明の課題は、前記パルプセルローズ材料の簡便な工程からなり、かつ、環境保全対応型の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 パルプモールド成形体の製造用リグニン含有パルプセルローズ材料であって、
該リグニンの含有量が前記パルプセルローズ材料全重量基準で2〜20重量%である
ことを特徴とするパルプモールド成形体製造用リグニン含有パルプセルローズ材料およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン含有パルプセルローズ材料およびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、パルプモールド成形体の製造用原料として好適な特定量のリグニンを含有するパルプセルローズ材料およびパルプ製造プロセスを利用したリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルプは、植物原料を機械的または化学的に処理することにより単離して取り出したセルローズ繊維の集合体であり、工業的には紙、板紙、人造繊維および繊維板等の製造に使用される中間体として利用されている。
【0003】
パルプには原料の種類により、木材パルプ、竹パルプ、エスパルトパルプ等の各種パルプがあるが、現在、工業的に生産されているパルプの90%以上が木材パルプである。
【0004】
パルプの主な原料である木材またはその他の植物体原料には、セルローズ(繊維素)およびヘミセルローズ(セルローズに伴なって存在する多糖類)の他に無定形高分子化合物であるリグニン(木質素)が通常、平均約25〜35重量%含まれている場合が多い。
【0005】
かかるリグニンは、セルローズその他の炭水化物と結合して存在し、セルローズ繊維を強固にする結合剤としての作用があるが、パルプ、紙の白色度を損なう原因物質であり、従来、製紙用パルプの原料からは除去されている。
【0006】
すなわち、パルプは、その製造方法により、機械力のみを用いて木材等を解織して得られる機械パルプ、蒸解液等の薬品の作用で木材を繊維状に離解して得られる化学パルプおよび前記の機械的処理と化学的処理を併用して得られるセミケミカルパルプ等に分類されるが、いずれのパルプの製造方法においてもリグニンの残留量を極力少量となるように制御している。
【0007】
かかる状況下において、リグニンの分離方法としては、従来から下表に示すように多数の方法が提案されている(化学大辞典(共立出版社発行))。同表によれば、リグニンを不溶解残分として分離する方法と、リグニンを溶解成分として分離する方法に大別され、また、後者の溶解成分としての分離方法のなかではリグニンを誘導体として分離する方法(第2群)も提案されているが、いずれの方法においても、特定量のリグニンを残留させる点および残留させる条件等については何らの開示もない。
【0008】
【表1】

【0009】
また、近年においても、リグニンの除去方法として、
(1) 銅イオンまたは銅錯体を蒸解処理後の未漂白化学パルプに添加した後、アルカリ性媒体中で加圧酸素を添加し、加熱処理する酸素脱リグニン処理方法(特開2004−183170号公報(以下、「特許文献1」という。))、
(2) セルロースパルプの酸素による脱リグニン方法(特開平5−93385号公報(以下、「特許文献2」という。))、
(3)酸素、金属イオン封鎖剤および過酸化水素から選択した反応剤を用いる塩素含有反応剤を含まない処理による製紙用化学パルプの脱リグニン方法(特表平8−507332号公報(以下、「特許文献3」という。))
等が提案されている。
(4)また、酵素、分解菌を利用した方法として、リグニンに作用する酵素を用いた処理ステップとアルカリによる洗浄ステップとの組合せによるリグニン除去方法(特開平8−3887号公報(以下、「特許文献4」という。))、および
(5)木材中のリグニンを単離したリグニン分解菌による嫌気的条件下で分解する方法(特開2005−185907号公報(以下、「特許文献5」という。))、
(6)新規微生物NP−205株(特開平9−225493号公報(以下、「特許文献5」という。))
等も提案されている。
【0010】
しかしながら、従来、提案され、または実施されている前記の如きリグニンの除去方法は、主として紙類の白色化を目的としたものであって、リグニンの残留量を可能な限り低減させるものであり、その残留量については具体的にはほとんど開示されておらず、また、リグニン残留量とパルプの品質・性能との関係についても何らの開示もない。
さらに、分離されたリグニンの用途については、一部の分野を除いて十分な開発が行われていない事情にある。
【0011】
一方、一般的にパルプ成形品は、市場流通パルプを成形材料として製造されているが、吸水性、吸油性が高く、液体を吸液する性質がある。また剛性または硬さが不十分であり、柔軟性を欠如するため、防水剤の添加等の何らかの加工処理なしには、実用上使用可能なパルプ成形品を製造することができず、食器等容器として直接使用ができないという難点がある。
【0012】
従って、かかるパルプ成形体の従来の開発状況に鑑み、硬さ、剛性が強化され、かつ耐水性・耐油性に優れたパルプモールド成形体の提供可能な製造用材料の開発が切望されてきた。
【0013】
【特許文献1】特開2004−183170号公報
【特許文献2】特開平5−93385号公報
【特許文献3】特表平8−507332号公報
【特許文献4】特開平8−3887号公報
【特許文献5】特開2005−185907号公報
【特許文献6】特開平9−225493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の課題は、硬さ、剛性、耐水性、耐油性に優れたパルプモールド成形体を製造するための原料としてのパルプセルローズ材料を提供することにある。
また、本発明の課題は、簡便な工程からなり、かつ、環境保全に対しても対応可能な前記パルプセルローズ材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明者は、前記の本発明の課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、従来のパルプの各種製造方法においては、前記のと通り、いずれもリグニンの残留量を可能な限り減少させるように除去しているのに対して、むしろ、特定量のリグニンを積極的に残留させ、かつ、残留リグニンは、パルプセルローズ繊維との結合または付着状態を維持させることにより、前記課題を効果的に解決できることを見出し、これらの知見に基いて本発明に想到するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、特定量のリグニンを含有し、該リグニンが少なくとも残留リグニンであるパルプセルローズ材料が、パルプモールド成形体の製造原料として好適である点、かかるリグニン含有パルプセルローズ材料が、パルプ化工程から得られたリグニン含有パルプセルローズ素材料の水性媒体との接触処理工程により、特定量のリグニンを残留させることにより得られる点に着目し、完成したものである。
【0017】
かくして、本発明によれば、
パルプモールド成形体の製造用原料として用いられるリグニン含有パルプセルローズ材料であって、
該リグニンの含有量が、前記リグニン含有パルプセルローズ材料の全重量基準で、2〜20重量%の範囲にある
ことを特徴とするパルプモールド成形体製造用リグニン含有パルプセルローズ材料
が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、
パルプ製造プロセスにおけるパルプ化工程から得られるリグニン含有パルプセルローズ素材料を水性媒体との接触処理工程に供し、該リグニン含有パルプセルローズ素材料中のリグニン含有量を低減させ、残留リグニンの含有量を、リグニン含有パルプセルローズ材料の全重量基準で、2〜20重量%の範囲に制御することを特徴とするパルプモールド成形体製造用リグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法
が提供される。
【0019】
前記の通り、本発明によれば、パルプモールド成形体の製造用原料として好適なリグニン含有パルプセルローズ材料であって、前記リグニンを2〜20重量%含有させたパルプセルローズ材料を提供するものであり、また、本発明によれば、リグニン含有パルプセルローズ素材料の水性媒体との接触処理により特定量のリグニンをパルプセルローズ素材料中に残留させることにより得られるリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法を提供するものであるが、さらに、本発明は、好ましい実施態様として次の1)〜7)に挙げるものを包含する。
【0020】
1)前記パルプモールド成形体の引張強度が、ABS樹脂の引張強度と少なくとも同等である前記記載のリグニン含有パルプセルローズ材料。
2)前記残留リグニンの含有量が5〜15重量%である前記記載のリグニン含有パルプセルローズ材料。
3)前記リグニン含有パルプセルローズ素材料中のリグニン含有量が、少なくとも20重量を超える量である前記記載のリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法。
4)前記水性媒体との接触処理工程が、リグニン含有パルプセルローズ素材料に対する水性媒体の存在下における撹拌処理からなる前記記載のリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法。
5)前記水性媒体との接触処理工程が、リグニン含有パルプセルローズ素材料の網状体に対する水性媒体の噴射によるシャワー処理からなる前記記載のリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法。
6)リグニン含有量調整工程が、
(1)前記パルプ製造プロセスにおけるパルプ化工程から得られるリグニン含有パルプセ
ルローズ素材料を前記水性媒体との接触処理工程またはその他のリグニン除去工程
に供し、リグニン含有量を低減させたパルプセルローズ材料を用意する工程と、
(2)前記工程(1) にて用意されたリグニンの含有量を低減させたパルプセルローズ材料
に単離リグニンを、リグニン含有パルプセルローズ材料中のリグニン含有量が2〜
20重量%になるように混合するリグニン混合工程
からなる前記記載のリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法。
7)前記単離リグニンが、溶媒抽出リグニン、アルカリリグニンまたは塩酸リグニンである前記記載のリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る特定量のリグニンを含有するパルプセルローズ材料を製造原料として用いたパルプモールド成形体は、硬さ、剛性が優れたものであり、また、耐水性、耐油性に優れているので、さらに表面処理等の加工処理を要することなく、食品容器等として使用することができる。特に、剛性が高いことから薄い成形製品(厚さ0.4mm以上)を提供することができる。一方、リグニン含有量が前記の特定範囲を逸脱する場合は、硬さ、剛性に欠け、また、耐水性、耐油性にも欠如するのでパルプセルローズ材料のみでの成形体を得ることができない。
【0022】
さらに、本発明によれば、リグニン含有パルプセルローズ材料は、すべて天然材料からなるものであり、合成材料を添加することがないため、環境保全に適応したパルプモールド成形体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料は、パルプモールド成形体の製造用材料として適したものである。
【0024】
かかるパルプモールド成形体は、例えば、本発明者がすでに提案したパルプセルローズの重合成形方法(特開2005−2528号公報参照)により製造される成形体であり、次の工程を経て製造される。
【0025】
すなわち、
1)パルプスラリーを多数の吸引孔部を有する漉形成型に供給し、該漉形成型から脱水し、該漉形成型の形状に対応する形状のパルプモールド成形中間体を該漉形成型上に形成させる抄造工程と、
2)前記抄造工程にて得られたパルプモールド成形中間体を、前記漉形成型上に保持したまま、前記漉形成型の形状と互いに係合し合う形状の加圧コア型によりプレスし、残余の水分をしぼり取る圧搾・乾燥工程と、
3)前記圧搾・乾燥工程にて得られた前記パルプモールド成形中間体を前記漉形成型の形状と同一形状の重合硬化型に移載し、該パルプモールド成形中間体を、前記加圧コア型で温度;150℃以下において圧力;2kg/cm2以下でプレスし、前記パルプモールド成形中間体の形状を固定する形状熱固定工程と、
4)前記形状熱固定工程にて得られたパルプモールド成形中間体を前記重合硬化型上で温度;200℃〜300℃に加熱し、前記加圧コア型により10kg/cm2 〜20kg/cm2 の加圧下でプレスする重合硬化工程と
からなる各工程を少なくとも有する製造方法が採用される。
【0026】
かかる成形方法によれば、前記温度、圧力および時間の条件下において、パルプ組成のセルローズが角質化することに伴ない、成形体に硬さ、剛性、防水性、防油性を付与することができるが、本発明は、かかる性能をさらに改善するための製造用原料として特定量のリグニンを含有するパルプセルローズ材料を提供するものである。
【0027】
前記の通り、リグニンとパルプセルローズ繊維が共存するリグニン含有パルプセルローズ材料を原料とすることにより、特に加圧下(例えば10kg/cm2)で、加熱(例えば200℃)することにより、硬質・剛性・耐水性・耐油性を有する成形体を短時間成形(1分前後の時間)により製造することができる。
【0028】
本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料は、木材、その他の植物体原料から製造され、木材としては針葉樹、広葉樹のいずれも用いることができ、また、葦、ワラ、イネ等の科植物等も使用することができる。
【0029】
本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料中のセルローズ繊維の成分は、特に限定されるものではないが、下記の式で示されるものが包含される。
【0030】
【化1】

【0031】
また、リグニンは、フェニルプロパンを骨格とする構成単位が縮合して得られる網状高分子化合物であり、木材の種類により組成成分は異なるが、下記の式で示される芳香核構造を有するものである。
【0032】
【化2】

【0033】
本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料は、パルプ化工程を経ているが、なお、残留リグニンがセルローズと物理的または化学的に結合し、セルローズ繊維の周囲を取り巻き、また、セルローズ繊維間に存在し、天然植物体の含有構造に準じた構造を維持しており、かかるセルローズ/リグニンの含有構造が、パルプモールド成形体の硬さ、剛性に寄与しているものと推定される。
【0034】
従って、本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料としては、パルプセルローズ素材料由来の残留リグニンを少なくとも有するものであれば、リグニン含有量の調整のために後述の単離リグニンを添加したものでもよい。
【0035】
本発明において、かかるリグニンの測鎖構造は原料木材の針葉樹、広葉樹等の種類により相違するが、いずれのものでよく、また、その含有量は、パルプモールド成形体の用途により特定されるが、パルプモールド成形体の製造用原料としては、リグニン含有パルプセルローズ材料の全重量基準で2〜20重量%の範囲に特定されたものであり、硬質食器等および食品包装容器等にとって、特に好適な範囲は5〜15重量%である。
【0036】
リグニン含有パルプセルローズ材料中のリグニンの含有量が2重量%に達しないと、該リグニン含有パルプセルローズ材料を原料として製造したパルプモールド成形体の硬さ、剛性が不十分となり、成形体としてさらに厚さの大きいものが要求され、その結果、材料の必要量の増加をもたらすと共に、成形体の重量の増加と取扱い上の問題が生ずる。また、リグニン含有量が2重量%に達しないと、パルプモールド成形体の耐水性、耐油性が欠如し、漏水等が生じ、成形体、例えば食品容器等としての実用的価値を喪失する。
【0037】
一方、20重量%を超えると、パルプモールド成形体の成形工程の最終段階において要する加圧力が非常に大きくなり、通常の全自動化装置では十分圧縮することができず、所望の硬さ、剛性を備えた成形体を得ることができないなどの問題点が生ずる。また、成形体表面に亀裂が生ずるおそれも著しく大きくなる。
【0038】
前記の組成成分を有する本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料を製造用原料として得られるパルプモールド成形体は、
(a)硬質である
(b)剛性が高い
(c)耐水性・耐油性に優れる
等の特性を有するものである。
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、リグニン含有量2〜20重量%のリグニン含有パルプセルローズ材料を提供するものであるが、リグニン含有量をその範囲内でさらに下記に示すように特定範囲に制御することにより、次の各用途に適するパルプモールド成形体の製造用原料を提供することができる。
【0040】
【表2】

【0041】
次に、本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法について説明する。
本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法は、パルプ製造プロセスにおけるパルプ化工程から得られるリグニン含有パルプセルローズ素材料を出発物質とし、該リグニン含有パルプセルローズ素材料中のリグニンを水性媒体との接触処理により除去し、特定量のリグニンを残留させることが基本である。
【0042】
前記リグニン含有パルプセルローズ素材料は、パルプ製造プロセスのパルプ化工程から得られるが、本発明に係る製造方法に適用できるパルプ製造プロセスとしては、クラフトパルプ法、ソーダー法、サルファイト法、オルガノソルブパルプ化法、セミケミカル法等を挙げることができる。また、オルガノソルブパルプ化法としては、アルコール溶媒系、フェノール溶媒系、有機酸溶媒系のいずれでもよいが、高沸点アルコール溶媒系(例えば沸点150〜250℃の1,3−および1,4−ブタンジオール等)が好ましい。また、その他のパルプ製造プロセスであっても、特定量のリグニンを残留させ得るパルプセルローズ素材料を製造できる方法であれば特に限定されるものではない。
【0043】
パルプ化工程(以下、「蒸解工程」ということがある。)は、パルプ化条件下において原料木材中のリグニン、炭水化物、糖類等を溶解除去し、リグニン含有パルプセルローズ素材料を得るものであり、各パルプ製造プロセスにおいてそれぞれ溶媒および処理条件が採用されるが、本明細書においては、代表例として図1に示すクラフトパルプ法について以下説明する。
【0044】
本発明にとって主要な工程については次に記載の通りであり、蒸解工程から得られるリグニン含有パルプセルローズ素材料中のリグニンの含有量は約25〜30重量%のものが好ましい。
【0045】
1)チップ化工程
チップ化工程は、原料木材をチップ状に細断する工程であり、通常、ディスクチッパー等が用いられる。チップ化は蒸解の際に蒸解液が木材内部にまで浸透可能な大きさ(長さ:約20mm)に調整することが好ましい。
2)叩解工程
叩解工程は、パルプセルローズ繊維を囲包するリグニン膜に衝撃を与えて亀裂を生じさせる工程であり、後続の水性媒体との接触処理工程におけるリグニンの剥離を容易なものとする。
3)蒸解工程
蒸解工程において、クラフトパルプの蒸解は、耐圧性の蒸解釜中で、前記叩解工程にて得られた木材チップに蒸解液を添加し、蒸解条件下において、加熱することにより行なわれる。
【0046】
前記蒸解釜は、バッチ式蒸解釜または連続式蒸解釜のいずれの形式のものでも採用することができる。
【0047】
また、蒸解液は、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを含有するものであり、回収された白液を用いることができる。本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料の製造において蒸解液中のアルカリ量はNa2Oに換算して、次の通り表わされる。

有効アルカリ(EA) : NaOH + 1/2 Na2S
活性アルカリ(AA) : NaOH + Na2S

また、硫化ナトリウムの含有量は硫化度で表わされる。なお、硫化度はNa2Oで表わしたNa2Sの活性アルカリに対する比率である。
【0048】
本発明においては、リグニンの残留量を特定の範囲に維持することから、薬品添加量としては、原料木材の種類、蒸解条件、リグニン含有パルプセルローズ素材料中のリグニン含有量等により適宜選択することができるが、前記有効アルカリおよび活性アルカリは、通常、採用される範囲でよい。
【0049】
蒸解条件としての蒸解温度は、150℃〜250℃、好ましくは、170℃〜200℃の範囲が採用される。かかる蒸解工程における蒸解処理によりリグニンがセルローズ繊維から剥離される。
【0050】
ここで得られる黒液は、蒸解工程で、溶出したリグニン、炭水化物、有機酸、樹脂等を含む廃液である。黒液は、蒸解に使用したナトリウム塩を再利用するために回収が行なわれる。また、黒液中のリグニンは後述の工程により分離され、添加用の単離リグニンとして利用される。
【0051】
4)水性媒体との接触処理工程
水性媒体との接触処理工程は、前記の蒸解工程にて得られたリグニン含有パルプセルローズ素材料の水性媒体との接触処理からなり、少なくとも一段階の工程によりパルプセルローズ素材料中のリグニンを所望の含有量になるまで除去するものである。
前記パルプセルローズ素材料中のリグニンの含有量は、20重量%を超える量が好ましいが、これに限定されるものではなく、2〜20重量%の範囲内のものであってもよい。
水性媒体との接触処理は、その形態を限定するものではないが、次の二種の方式を採用したものが挙げられる。なお、ここで、前記水性媒体としては、通常、水が使用されるが、水にリグニン溶解性の無機または有機溶媒を適宜混合したものでもよい。
【0052】
(1)撹拌処理方式
水性媒体との接触処理の第1の処理方式は、蒸解工程から排出されるリグニン含有パルプセルローズ素材料を水性媒体の存在下で撹拌するものであり、具体的にはリグニン含有パルプセルローズ素材料を水性媒体に懸濁させて得られる懸濁液(パルプ液)を撹拌することにより、セルローズ繊維に付着しているリグニンを剥離し、リグニンを、水性媒体との比重差により沈降させることにより除去するものである。前記撹拌処理は、機械的手段で行なわれるが、特にこれに限定されるものではなく、気体流通手段等のその他の手段によるものでもよい。
また、撹拌条件は、所望のリグニン残留量等に基いて任意に決定すればよい。前記撹拌処理により沈降したリグニンは、接触処理帯域底部より回収される。前記接触処理手段として、具体的には特公昭60−81387号公報に記載の装置等を利用してもよい。
【0053】
(2)シャワー処理方式
第2の処理方式であるシャワー処理方式によれば、蒸解工程から排出されるリグニン含有パルプセルローズ素材料が網状コンベア上に薄層状態で連続的に載置され、その上から水性媒体が噴射され、シャワー状態で前記網状コンベア上のパルプセルローズと接触し、含有リグニンが剥離除去される。かかる処理方式によれば、残留リグニンとパルプセルローズ間の溝部分に水性媒体が浸入し、その上部からのシャワーにより残留リグニンが除去されてリグニン含有量が低減する。噴射水量、流速、時間等のシャワー条件は、所望のリグニン含有量に基いて適宜決定すればよい。
【0054】
前記の(1)撹拌処理方式および(2)シャワー処理方式は、いずれも、それぞれ単独で採用することができるが、両者を組み合せて採用することもできる。
かくして、前記水性媒体接触処理工程により、リグニンの残留量を2重量%〜20重量%の範囲に制御した各種パルプセルローズが製造される。
【0055】
本発明においては、所望のリグニン含有量のパルプセルローズ材料を水性媒体との接触処理工程の処理条件を制御して一段で製造することもでき、また、後述の実施例に示すように処理条件の相違する複数の水性媒体との接触処理工程を段階的に数段利用することにより所望のリグニン含有量を有する数種のパルプセルローズを製造することができる。
【0056】
具体的には、例えば、下記記載のように、第1段〜第4段の水性媒体との接触処理工程の各段階において、それぞれ次に示す残留リグニンを含有するパルプセルローズ材料をそれぞれ得ることができる。
【0057】
水性媒体処理工程 残留リグニン含有量
第1段 15〜20重量%
第2段 8〜14重量%
第3段 5〜 7重量%
第4段 2重量%未満
【0058】
5)リグニン含有量調整工程
リグニン含有量調整工程は、リグニン含有パルプセルローズ材料のリグニン含有量の調整が必要な場合、任意に採用される工程であり、前記4)の工程の第1段〜第4段のいずれかに付加されるリグニン添加工程、またはその他の方法により得られたリグニンを除去したパルプセルローズ材料に対してリグニンを添加するリグニン添加工程であり、リグニンの含有量を低減させたパルプセルローズ材料に単離リグニンを添加することを基本的な内容とする。具体的な態様としては、
(1)前記パルプ製造プロセスにおけるパルプ化工程から得られるリグニン含有パルプセ
ルローズ素材料を前記水性媒体との接触処理工程またはその他のリグニン除去工程
に供し、リグニン含有量を低減させたパルプセルローズ材料を用意する工程と、
(2)前記工程(1) にて用意されたリグニンの含有量を低減させたパルプセルローズ材料
に単離リグニンを、リグニン含有パルプセルローズ材料中のリグニン含有量が2〜
20重量%になるように混合するリグニン混合工程
とからなる。
【0059】
前記リグニン調整工程において、単離リグニンの添加の対象とされる前記パルプセルローズ材料のリグニンの含有量は、2重量%未満に低減させたものでもよい。
【0060】
単離リグニンとしては、本明細書に前記した通りすでに提案され、また、実施されているリグニン分離方法により採取されたいずれのものでもよい。例えば、溶媒抽出リグニン、アルカリリグニン、酸リグニン(塩酸リグニン、硫酸リグニン等)を挙げることができる。特に、オルガノゾルパルプ化法、例えば、アルコール溶媒系、フェノール溶媒等、有機酸溶媒系等を用いた溶媒抽出リグニンが好ましく、アルコール溶媒系として高沸点溶媒系(HBS)を用いることができる。
また、単離リグニンは、粉末状のものが好適である。
【0061】
次に、図面に従って、本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法について具体的に説明する。
【0062】
図1によれば、先ず、原材料が原料調整工程10に供給される。原材料としては、木材が挙げられ、木材としては針葉樹、広葉樹が、また、その他の植物体原料として、茸、ワラ等が用いられる。
【0063】
木材等原材料は、搬送手段2によりチップ化工程20に搬送され、ディスクチッパー等により、チップ化される。チップ化された原材料は、搬送手段3のコンベア等により叩解工程30に供給され、該工程にて物理的衝撃を与えられ、パルプセルローズ繊維を包囲しているリグニン膜にひび、亀裂を生じさせる。叩解条件としては、特に限定されるものではなく、リグニン膜の亀裂を介して、次工程において蒸解液が容易にリグニン膜中に浸入可能とし、リグニンがパルプセルローズ繊維の表面から剥離可能な状態とできればよい。
【0064】
叩解されたリグニン含有パルプセルローズは、搬送手段4を経て蒸解工程40に供される。蒸解工程40には、バッチ式または連続式蒸解釜が設けられており、前記叩解工程にて叩解されたリグニン含有パルプセルローズは、蒸解釜に装入され、これに蒸解液が管5から導入され、170℃〜200℃で数時間加熱処理される。
【0065】
かかる加熱処理により、リグニン含有パルプセルローズ中の一部のリグニンが剥離、除去され、残余のリグニンが付着しているパルプセルローズが管6を経て水工程50に供される。また、管7より黒液が排出される。
【0066】
水との接触処理工程(以下、「洗浄」という。)50においては、リグニン残留パルプセルローズは網状コンベア上(図示なし。)に薄層状に載置され、これに管501より水をシャワー状に噴射し、水との接触処理を行なう。かかる処理後、剥離したリグニンは管503より、また、リグニン残留パルプセルローズは管502より取り出される。
【0067】
洗浄工程第1段50にて製造されるリグニン残留パルプセルローズのリグニン含有量は15〜20重量%である。
洗浄工程第1段50で水との接触処理により一部のリグニンが剥離して得られたリグニン残留パルプセルローズを管502より取り出さず、管8により洗浄工程第2段51に供することにより、リグニンはさらに剥離され、同第2段51では管512よりリグニン含有量8〜15重量%のリグニン残留パルプセルローズを得ることができる。管513からは分離されたリグニンが取り出される。
【0068】
洗浄工程第3段52および洗浄工程第4段53においても前記同様の水と接触処理により、リグニン含有量がそれぞれ5〜8重量%および2〜5重量%のリグニン残留パルプセルローズを管522および管532から得ることができる。
【0069】
前記洗浄工程第1段〜第4段50〜53にて得られるリグニン残留パルプセルローズは、中和工程60を経ていずれも乾燥工程70に供され、100℃〜150℃で乾燥後、流通パルプとされるか、乾燥処理前に管12によりパルプモールド成形工程(図示なし。)に供され、パルプモールド成形体が製造される。
【0070】
なお、図1において、洗浄工程第4段53経由後にリグニン残留パルプセルローズが中和工程60および乾燥工程70に供給されるが、例えば、洗浄工程第1段50にて所望のリグニン残留パルプセルローズが得られる場合は、該リグニン残留パルプセルローズが中和工程60および乾燥工程70に供される。第2段または第3段において得られるリグニン残留パルプセルローズについても同様の処理が行なわれる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明について実施例および比較例により具体的に説明する。もっとも本発明がこれらの実施例等により何ら限定されるものではない。実施例等において部、%は、それぞれ質量部,質量%を示す。
【0072】
なお、パルプセルローズ中のリグニンの含有量は、運転管理上の簡便法として、次の方法により測定した。
(1)基準重量の決定・・・・・一定体積(1cm3・10cm3等)の一定湿度(10〜15%)下における重量を測定し基準重量とする(ただし、各材料毎のリグニン含有量0.5%以下の材料。)。
(2)同一材料で水との接触処理条件により・・・・・一定体積(1cm3・10cm3等)の一定湿度(10〜15%)下における重量を測定し、基準重量と比較する。
【0073】
実施例1
クラフトパルプ製造プロセスの蒸解釜から得られたリグニンが付着したパルプセルローズ(リグニン含有量:25重量%)を入手し、これを20メッシュ以下の網状コンベア上に薄く連続的に載置し、その上から真水を噴射することによりリグニンを除去し、リグニン残留量16%のパルプセルローズ(R−1パルプ)を調製した。
【0074】
実施例2
前記の実施例1にて得られたリグニン残留量16%のパルプセルローズ(R−1パルプ)の一部を20メッシュ以下の網状コンベアの上に薄く連続的に載置し、その上から真水シャワーをかけ、残留リグニンをさらに除去し、リグニン残留量10%のパルプセルローズ(R−2パルプ)を調製した。
【0075】
実施例3
前記の実施例2にて得られたリグニン残留量10%のパルプセルローズ(R−2パルプ)の一部を20メッシュ以下の網状コンベア上に薄く連続的に載置し、その上から真水シャワーにより水をかけ、残留リグニンをさらに除去することにより、リグニン残留量6%のパルプセルローズ(R−3パルプ)を得た。
【0076】
比較例1
前記実施例3により得られたリグニン残留量6%のパルプセルローズ(R−3)の一部を20メッシュ以下の網状コンベア上に薄く連続的に載置し、その上から真水シャワーにより水を噴射し、リグニン残留量0.5%のパルプセルローズ(C−1パルプ)を得た。
【0077】
比較例2
実施例1で用いた蒸解釜から得られたリグニン残留量25%のパルプセロルーズをC−2パルプとして、下記の性能評価に供した。
【0078】
比較例3
前記実施例3により得られたリグニン残留量5%のパルプセルローズ(R−3パルプ)の一部を20メッシュ以下の網状コンベア上に薄く連続的に載置し、その上から真水シャワーにより水を噴射し、リグニン残留量0.5%のパルプセルローズ(C−3パルプ)(搬用パルプ)を得た。
【0079】
(性能評価)
実施例1〜3、比較例1〜3にて得られたR−1パルプ〜R−3パルプおよびC−1パルプ〜C−3パルプ(搬用パルプ)に水を加え、水を媒体とする繊維分5%のパルプスラリーをそれぞれ調製した。
パルプスラリーを漉金型の充填バケットに供給し、抜気して漉の厚みを均一化した後、漉形成金型の下部に穿孔している孔部から瞬間的に排水し、さらに吸引し吸気しぼりを行なった。
【0080】
次に、雌型の漉形成金型の形状と係合し合う雄型の圧力コア金型を上部より漉形成金型の凹部に挿入し、成形体を圧搾し、残余の水分をしぼり出した。
圧搾後の成形体を漉金型から加圧コア金型にて吸引し持ち上げ、重合硬化金型に移し、金型の温度を120℃に設定し、2kg/cm2の圧力で圧力コア金型を用いてプレスし、成形体の形状を固定した。
【0081】
次いで、金型の温度を200℃に上昇させ、10kg/cm2の圧力で加圧コア金型により20秒間プレスし、セルローズ繊維を硬化させた。硬化処理後の成形体は、表面からの吸水、吸油が0または0に近い結果を得た。
すなわち液を成形体表面に滴下しても拭き取れば跡が残ることがなかった。
また、前記の性能評価の結果を下表に示す。
【0082】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、本発明に係るリグニン含有パルプセルローズ成形材料の製造工程を例示する説明図である。
【符号の説明】
【0084】
10 原料調整工程
20 チップ化工程
30 叩解工程
40 パルプ化工程(蒸解工程)
50 洗浄工程第1段
51 洗浄工程第2段
52 洗浄工程第3段
53 洗浄工程第4段
60 中和工程
70 乾燥工程
5 蒸解液
501,511,521,531 シャワー
502,512,522,532 リグニン残留パルプセルローズ
503,513,523,533 リグニン等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプモールド成形体の製造用原料として用いられるリグニン含有パルプセルローズ材料であって、
該リグニンの含有量が、前記リグニン含有パルプセルローズ材料の全重量基準で、2〜20重量%の範囲にある
ことを特徴とするパルプモールド成形体製造用リグニン含有パルプセルローズ材料。
【請求項2】
前記リグニン含有パルプセルローズ材料中のリグニンが、前記パルプセルローズ素材料由来の残留リグニンである請求項1に記載のパルプモールド成形体製造用リグニン含有パルプセルローズ材料。
【請求項3】
前記リグニン含有パルプセルローズ材料中のリグニンが、前記パルプセルローズ素材料由来の残留リグニンに単離リグニンが添加されたものである請求項1に記載のパルプモールド成形体製造用リグニン含有パルプセルローズ材料。
【請求項4】
パルプ製造プロセスにおけるパルプ化工程から得られるリグニン含有パルプセルローズ素材料を水性媒体との接触処理工程に供し、該リグニン含有パルプセルローズ素材料中のリグニンの含有量を低減させ、残留リグニンの含有量をリグニン含有パルプセルローズ材料の全重量基準で、2〜20重量%の範囲に制御することを特徴とするパルプモールド成形体製造用リグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法。
【請求項5】
前記水性媒体との接触処理工程が、前記水性媒体の存在下における前記リグニン含有パルプセルローズ素材料に対する撹拌処理または前記リグニン含有パルプセルローズ素材料の網状体への水性媒体の噴射によるシャワー処理である請求項4に記載のパルプモールド成形体製造用リグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法。
【請求項6】
前記パルプ製造プロセスのパルプ化工程から得られる前記リグニン含有パルプセルローズ素材料中のリグニン含有量が、少なくとも20重量%を超える量である請求項4に記載のパルプモールド成形体製造用リグニン含有パルプセルローズ材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−231604(P2008−231604A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71304(P2007−71304)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(398040332)
【Fターム(参考)】