説明

リグノセルロース原料から炭水化物分解産物を製造するプロセス

本発明は、炭水化物分解産物の製造するプロセスであって、リグノセルロースを分解するため、および、リグノセルロース原料から分解産物を分離するために、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノールを含み、且つ、pH値が11.0から14.0の間にある水溶液を用いてリグノセルロース原料を処理する。本発明によれば、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料が得られ、得られたセルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を、炭水化物分解産物を得るために、少なくとも1つの炭水化物分解酵素で処理する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、リグノセルロース原料から、炭水化物分解産物、特に、ペントースやヘキソースのような糖を製造するプロセスに関する。さらに、本発明は、糖からアルコールを得るプロセスに関する。本明細書および請求項の目的のために、「糖」という用語には「糖オリゴマー」も含まれる。
【0002】
原油不足やエネルギー供給源としてのトウモロコシの議論に関し、再生可能な原料としてのリグノセルロース(わら、木材、紙くずなど)が、燃料や化学製品の出発原料として非常に重要になってきている。リグノセルロースの変換は、全く異なる2つの方法によって起こる。(1)「熱化学的プラットフォーム」。ここでは、リグノセルロースはまず気体にされ、合成された気体が所望の製品へと合成される。(2)「糖プラットフォーム」。ここでは、主な焦点は、ポリマーセルロースとヘミセルロースとに結合した糖の使用に置かれており、一方で、リグニンが広く積極的に使用されている。本発明はこの第2の方法に分類されるものである。
【0003】
リグノセルロースの糖は、でんぷんと比べて、セルロースとヘミセルロースとの緊密な架橋、ポリマー、結晶構造であり、さらに、リグニンの被膜で覆われ、これにより極度に密集した複合体となっている。リグノセルロースから糖を得る最も自明な方法は、セルラーゼとヘミセルラーゼとを直接使う方法であろう。しかしながら、この方法では、上記複合体の密度によって、わらや木材の原料の使用が阻害される。これらの分子量は大きいため、酵素が、狭い孔を通ってリグノセルロースに入っていくことができない。したがって、まず、リグノセルロースの多孔率を増加させる第1の工程を行い、それによって、更なる酵素による糖化を可能にする必要がある。
【0004】
第1の工程は、「前処理」(分解)と称される。これは、一貫して非常に複雑であり、例えば「第2世代のバイオ燃料」の製造の間に、製造コストの3分の1までもがこの目的に使われ、対費用効果に悪影響を及ぼす。用いられる方法は、主としてヘミセルロースを液化する(例えば蒸気爆発、希酸による前処理)、または、リグニンの液化により多孔率の増加を達成する(例えば石灰、アンモニアによる前処理)かのどちらかを狙っている。
【0005】
糖やそのオリゴマーをそれぞれ得るために、分解されたリグノセルロース基質を、さらに酵素的に処理することが可能である。ここでは、前処理の種類が酵素の活性と収率とに実質的な影響を及ぼす。高い反応温度では、毒性のある分解産物(例えばフルフラール)が生成することがよくあり、これは、それに直接付随してエタノール発酵をする場合に酵母を抑制することがある(Chandra et al., Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology, 108:67, 2007; Mansfield et al., Biotechnol.Prog. 15:804, 1999.)。
【0006】
これらの方法の深刻な不利点は、主に200℃よりわずかに低い温度で、エネルギーを大量消費し、進行することである。
【0007】
この分野での技術的な改善は、例えば低い温度(すなわち、100℃より低い温度)での方法の発展のために、リグノセルロース原料の実態的なあらゆる利用を決定的に進歩させることを意味する。これが本発明の目的である。
【0008】
欧州特許1 025 305 B1号公報において、リグニンの解重合のための化学的プロセスが知られている(銅システム)。これは、過酸化水素または有機ヒドロペルオキシドと結合した銅錯体の触媒効果によるものであり、100℃より低い温度でリグニンを酸化的に分解することができる。このプロセスで用いられる錯体作用物質はピリジン誘導体である。リグニンモデルによって、酸化剤としてのHを使用したとき、リグニン分子のエーテル結合の切断が起こることが確認され、それによって、リグニンポリマーが、オリゴマーのサブユニットに分解される。この銅システムを過剰量の有機ヒドロペルオキシドとともに用いることによって、木材を脱リグニン化(delignify)することができる。Hに基づくシステムは、技術的に実現可能な点に関してより好ましいと考えられ、クラフトパルプの過酸化物漂白での漂白添加剤としてテストされ、その結果、脱リグニン化速度が改善されるとともに、白色度がより向上した。
【0009】
さらに、"Oxidation of wood and its components in water-organic media", Chupka et al., Proceedings: Seventh International symposium on wood and pulping chemistry, Vol. 3, 373-382, Beijing P.R. China, 25-28 May 1993において、DMSO、アセトン、エタノールなどの有機溶媒を水溶性の反応媒体に加えると、木材およびリグニンの酸化におけるアルカリ触媒反応の効果が十分に増加することが知られている。さらに、著者らは、11より大きいpH値で、木材およびリグニンの酸化が著しく増加することを示唆している。
【0010】
国際公開WO 01/059204号公報において、原料をバッファ溶液と脱リグニン化触媒(遷移金属)とを用いて処理することで、出発物質を前処理する、パルプを製造するプロセスが知られている。脱リグニン化は、酸素、過酸化水素、またはオゾンの存在下で行われる。
【0011】
一方、本発明に係る糖を製造するプロセスは、
リグノセルロースを分解するため、および、リグノセルロース原料から分解産物を分離するために、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノールを含み、且つ、pH値が11.0から14.0の間にある水溶液を用いて、リグノセルロース原料を処理することで、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を得て、
得られたセルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を、炭水化物分解産物を得るために、少なくとも1つの炭水化物分解酵素を用いて処理することを特徴としている。
【0012】
脂肪族または脂環式の、一価または多価のアルコールまたはフェノール、例えば、C1−6アルコール、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのC1−4アルコール(異性体を含む)や、グリコール(エタンジオール、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサンジオール)、グリセリン、プロペノール、ブテノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールや、また、フェノール、クレゾール、カテコール、ナフトールなどのフェノール類であるが、他にも、エタノールアミン、メタノールアミンおよびヘキサノールアミンなどのアミノアルコールが、アルコールとして適する。C1−4アルコールが好ましい。本発明の目的において、フェノールは、総称的な用語の「アルコール」に含まれる。
【0013】
さらに、リグニン抽出物のアルコール溶液は、リグニン分解産物およびキシラン分解産物それぞれの、さらなる再処理のための有益なオプションを提供する。
【0014】
本発明に係るプロセスにおいて、水溶液中に存在するアルコールの量は、好ましくは10から70体積%であり、例えば20から50体積%であり、好ましくは30から40体積%である。
【0015】
本発明に係るプロセスにおいて、水溶液中に存在するリグノセルロース原料のストック濃度は、好ましくは3〜40重量%であり、例えば5〜40重量%であり、特に5〜20重量%である。
【0016】
好ましくは、リグノセルロースの分解は、100℃より低い温度、例えば80℃より低い温度、例えば60℃より低い温度で行われる。
【0017】
pH値は塩基を用いて調節することが可能であり、好ましくは無機塩基であり、例えば苛性ソーダである。
【0018】
本発明は、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノールを含み、且つ、pH値が11.0から14.0の間にある水溶性の塩基性溶液を用いて処理されたリグノセルロース原料を酵素的に処理することで、他の方法、特にアルコールを加えない方法で脱リグニン化した原料と比べたときに、糖などの炭水化物分解産物を高収率で得ることを見出したことに基づくものである。
【0019】
主に、ペントースおよびヘキソースが、炭水化物分解産物として形成される。好ましい糖は、キシロースとグルコースとを含んでいる。
【0020】
本発明に係るプロセスの好ましい実施形態は、糖を抽出するために、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を、キシラナーゼおよびセルラーゼで処理することを特徴としている。
【0021】
リグノセルロース原料として好ましく用いられるのは、わら、エネルギー草(例えば、スイッチ草、象草)、アバカ、サイザル、バガス、非典型的なリグノセルロース基質(例えば、ライススペルトなどのスペルト小麦)、好ましくは、わら、エネルギー草、バガス、またはスペルト小麦、特に好ましくは、わら、バガス(例えば、わら)である。わらは、高い疎水性の表面を有するので、水溶液で湿らせることが難しい。アルコールを用いることによって、たとえ圧力をかけなくとも、基質の孔に反応溶液を導入して、そこに存在する空気を反応溶液で置き換えることが可能であることが明らかになった。加えて、アルコールは、わらからの分解産物の抽出を加速することが明らかになり、また、アルコールは、リグニン分解産物を溶液中に保つことに貢献することが明らかなった。さらに、逆に、アルコールは、ヘミセルロースやその分解産物の溶解度を減少させ、それによって基質中のヘミセルロースを保つことが明らかになった。
【0022】
分解プロセスの後に、基質から液相を絞り出すことによって、基質濃度が増加するので、酵素的加水分解に必要な酵素の量、およびその他の酵素的な次処理において必要な酵素の量のそれぞれを少なくすることができる。
【0023】
アルコールの製造では、酵素のコストが重大なコスト要因である。アルコールによる結果として、リグニンに加えて、アルカリ性の範囲における反応の間に放出され得るヘミセルロースの溶解度、およびそれらの分解産物の溶解度が著しく低下し、これらは基質に結合したままである。このプロセスの利点は、固形物から抽出物の溶液を分離する際のリグニン分解の高選択性と、抽出物の溶液中のヘミセルロースおよびその分解産物の濃度が非常に低いことであり、ヘミセルロースが固形分のままであるため、これにより、酵素的加水分解と糖の抽出とが維持される。
【0024】
さらに、リグニン抽出物のアルコール溶液は、さらなるリグニンの再処理およびリグニンからの産物の製造について改善された可能性をもたらす。
【0025】
さらに、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノールを用いることによって、100℃より低い温度でのアルカリ分解において、ヘミセルロースの分解をほとんど抑制し、これにより、ほぼ全てのヘミセルロースをさらなる酵素的分解、およびより良質な産物へのキシロースの変換に利用することができ、分解中において部分的に分解することなく、例えば他のプロセスにおいてリグニン/糖のような混合物を堆積させないことが明らかになった。
【0026】
分解で行われる脱リグニン化により、リグノセルロース原料の細胞壁の多孔率が増加する。例えばわらの場合、キシロースのほとんど全てがキシラナーゼに近づくことができ、キシランのほぼ100%を加水分解することができ、また、キシロースを得ることができる。本発明に係るプロセスは、キシロースの酵素的変換を組み合わせて、より良質な産物の製造に特に適する。これにより、酵素的変換は、キシロース溶液と固形物との混合物を用いて直接行うか、固形物から分離したキシロース溶液を用いて行うことができる。
【0027】
キシランの酵素的加水分解および本願発明に係るキシロースのキシリトールへの変換に続く、残った固形物からのアルコールのさらなる製造においては、酵素のコストが重大な要因である。これらは、リグニンに対する酵素の非特異的な結合からも部分的に生じる。例えば、Chandra et al., 2007, ibidemを参照されたい。リグニンを部分的に除去すると、このような活性のロスが抑えられ、コスト面で好ましい効果が得られる。
【0028】
それに続く酵素的プロセスの利点は、例えば、糖ポリマーをほぼ完全に保ったままでリグニンを高い選択性で分解するので、抽出物の溶液におけるヘミセルロースおよびその分解産物の濃度が非常に低く、ヘミセルロースが固形分のまま残り、それゆえ、さらなる変換と同様に、酵素的加水分解と糖の抽出とを引き続き維持することができることである。本発明の結果として、最大の原料利用率となり、例えばキシロースデハイドロゲナーゼの使用と関連して、記述したプロセスの高い費用効果度が得られる。
【0029】
キシロースからキシリトールへの変換プロセスの実施は、本発明に係るプロセスで得られた固体/液体の混合物においてキシロースを酵素的に直接放出することに続いて行ってよい。これにより、全てのプロセス処理の費用効果度をさらに高めることができる。
【0030】
キシリトールに変換する際、分解プロセスで残ったアルコールは、固形物を絞りだした後の基質に残っており、NADからNADHの再生のためにアルコールデヒドロゲナーゼの基質として直接用いることができる。もしこのプロセスを行うときに、反応混合物に残っている、分解で残ったアルコールを(部分的に)消費するようにすれば、産物の溶液からアルコールを除去する処理が(部分的に)不要になり、これにより、全てのプロセスの効率を上げることができる。
【0031】
リグニン分解産物の変換の際、アルコールは、高分子リグニン分解産物から低分子のものへの酵素的、バイオミメティクス的または化学的な解重合による分解産物の遊離基捕捉剤および溶媒として作用する。
【0032】
抽出物内のヘミセルロースとその分解産物の内容量が少なく、またリグニンの溶解度が増加するので、濾過によるそれらの再処理と同様に、変換産物から固形物を分離する間のスループット率は増加する。
【0033】
本発明に係るプロセスは、例えば、わらの3つの主成分、すなわちグルコース、キシロースおよびリグニンを、異物の非常に少ない材料流に分離して、そして、キシリトールのようなより良質な産物へのさらなる変換を可能にし、これにより、理想的なバイオ精製プロセスの要件を満たす。
【0034】
150℃ないし200℃の温度範囲で主に進行する他の分解方法と比べて、本発明に係るプロセスのさらなる利点は、その反応温度が100℃より低いことである。この少ないエネルギー消費は、分解の間に得られたリグニンを、分解方法のためのエネルギー源としてよりも、むしろ貴重な産物としての利用を可能にする。
【0035】
本発明に係るプロセスによれば、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノールとHとを含有する水溶液で処理した後、リグニンを含有する溶液を分離し、分解された固形物を、好ましくはキシラナーゼで、例えば6〜72時間、30〜90℃で処理する。そして液相を固形物から分離し、好ましくは、液相をさらに反応させて、例えばキシリトールのような合成産物を得る。
【0036】
液相の分離の後に残った固形物は、好ましくは、セルラーゼで処理され、それにより、固形物/グルコース溶液のさらなる発酵によって、エタノール、ブタノールまたは他の発酵産物が得られる。あるいは、残った固形物は、熱的または熱化学的な変換に付され、その結果得られる、燃料成分、燃料添加物および/または、例えばフェノールなどの他の化学産物などの産物が分離される。あるいは、残った固形物は、細菌、酵母または真菌による微生物変換に付される。あるいは、残った固形物は、セルロース繊維原料を得ることを目的としてさらなる脱リグニン化工程に付される。
【0037】
残った固形物は、バイオガス設備で発酵させて、さらにバイオガス化する処理を行うことができる。
【0038】
経済的に最も関心を引くキシロースの合成産物の一つは、キシリトールである。
【0039】
キシロースを回収できる主な供給源は、主にリグニンおよびヘミセルロースの分解産物を豊富に含むパルプ産業に由来する蒸解液であるため、キシロースは、複雑な分離・精製工程によって得なければならない。例えば、H. Harmsが、"Willkommen in der naturlichen Welt von Lenzing, weltweit fuhrend in der Cellulosefaser Technologie"、Herbsttagung der oesterreichischen Papierindustrie, Frantschach (15. 11. 2007)の中で、バルク製品には通常用いられない技術的に非常に複雑なゲル濾過を用いて、濃い溶液からキシロースを回収することについて記している。このようにして得られたキシロースは、その後、触媒によりキシリトールに変換される。
【0040】
さらなる面として、本発明により得られたキシロースは、例えばキシロースデヒドロゲナーゼのような、例えばCandida tenuis由来のキシロースレダクターゼを用いることによって、発酵することなく、変換によってキシリトールになる。ここで、必要に応じて、キシロースレダクターゼを加える。また、必要に応じて、補因子(co-factor)の再生のための補基質(co-substrate)を加える。また、必要に応じて、アルコールデヒドロゲナーゼを加える。また、必要に応じて、キシロース溶液にNAD(P)Hを加える。特に、得られたキシロースは、濾過によって、リグニン分解産物から分離する。
【0041】
以下の実施例1と比較例1Aにより、アルコールの存在下で前処理することが、酵素的加水分解での還元糖の収率に与える影響について明らかにする。
【0042】
〔実施例1〕
小麦わらの前処理
小麦わらを約2cmサイズの粒子に砕き、砕いた小麦わら5gを、49.5%の水と50%のエタノールと0.5%の過酸化水素からなる200mLの溶液を含む500mLの反応容器で懸濁させる。懸濁液を水浴で50℃に加熱し、調温して、NaOH水溶液を用いて、懸濁液のpH値の初期値を12に調整する。混合物を磁気攪拌機で連続的に200rpm、60℃で24時間撹拌し、その後濾過して、固形分を1Lの蒸留水で洗浄する。
【0043】
酵素的加水分解のために、各並行試験からの前処理された基質100mgを、50mMの酢酸ナトリウムバッファ9.8mLを用いてpH4.8に設定し、200μLのAccellerase(登録商標)懸濁液(www.genencor.com)を加えた。Accelleraseは、セルラーゼとヘミセルラーゼとの酵素混合物である。水浴を振動させながら50℃で酵素的加水分解を行った。48時間後に放出されたヘキソースとペントースの可溶性モノマーを、1mLの上澄みについて、DNS法(Miller et al., Analytical Chemistry 31(3):426, 1959)に従い、還元糖の形式で決定した。これは、前処理された基質の重量に関し、最大理論的収率の割合で表現したものである。
【0044】
還元糖の最大理論的収率は個々に決定され、処理しないわら1gあたり705mg±5%である。
【0045】
各テストストックに対し、それぞれ5つの並行試験を実施した。還元糖の収率は99%±4%であった。
【0046】
〔比較例1A〕
アルコールは加えないで、実施例1を繰り返した。還元糖の収率はわずか64%±3%であった。
【0047】
〔実施例2〕
小麦わらの前処理
小麦わらを約2cmサイズの粒子に砕き、砕いた小麦わら2.5gを、49.5%の水と50%のイソプロパノールからなる200mLの溶液を含む500mLの反応容器で懸濁させる。懸濁液を水浴で50℃に加熱し、調温して、NaOH水溶液を用いて、懸濁液のpH値の初期値を12に調整する。混合物を磁気攪拌機で連続的に200rpm、60℃で24時間撹拌し、その後濾過して、固形分を1Lの蒸留水で洗浄する。
【0048】
酵素的加水分解のために、各並行試験からの前処理された基質100mgを、50mMの酢酸ナトリウムバッファ9.8mLを用いてpH4.8に設定し、200μLのAccellerase(登録商標)懸濁液(www.genencor.com)を加えた。Accelleraseは、セルラーゼとヘミセルラーゼとの酵素混合物である。水浴を振動させながら50℃で酵素的加水分解を行った。48時間後に放出されたヘキソースとペントースの可溶性モノマーを、1mLの上澄みについて、DNS法に従い、還元糖の形式で決定した。これは、前処理された基質の重量に関し、最大理論的収率の割合で表現したものである。
【0049】
還元糖の最大理論的収率は個々に決定され、処理しないわら1gあたり705mg±5%である。
【0050】
各テストストックに対し、それぞれ5つの並行試験を実施した。還元糖の収率は97%±4%であった。
【0051】
〔実施例3〕
実施例2に記述したプロセスによってわらから製造したキシロース溶液からの酵素的なキシリトールの製造。補基質としてイソプロパノールを用いた。
【0052】
反応溶液は、キシロースを5mg/mL有する。
【0053】
Candida tenuis由来のキシロースレダクターゼ(XR)は、キシロースをキシリトールに還元する。このXRは、補酵素としてNADH(還元されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を要する。NADHは、反応において酸化されて補酵素NADになる。酸化された補因子の再生は、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の並行活性によって達成される(酵素結合型再生)。イソプロパノールは補基質として用いられる。反応図1に示すように、イソプロパノールとNADとは、ADHによってNADHとアセトンになる。
【0054】
【化1】

【0055】
表1では、5つの異なるテスト反応#049、#050、#051、#052、#053、#054で反応比率が示されている。
【0056】
【表1】

【0057】
総量:1mL
温度:26±2℃
磁気攪拌機:200rpm
時間:15時間
酵素の不活性化のためには、全サンプルを95℃で15分間加熱し、遠心分離し、それに続くHPLC分析に付した。
【0058】
分析−HPLC:
カラム:SUGAR SP0810およびプリカラムSUGAR SP-G
検出器:屈折率検出器
流液:脱イオン化水
流速:0.75mL/分
サンプル量:10μL
HPLC定量精度:±10%。
【0059】
保持時間:
キシロース:13.97分
キシリトール:37.73分
イソプロパノール:16.69分
アセトン:16.54分
結果
サンプル#049の基質濃度は、HPLCにより決定され、0.9mg/mLに達した。
【0060】
反応混合物#050は、キシロースレダクターゼ(0.1U/mL)およびNADH(1mM)のみを含有する。続けて15時間反応させた後、0.085mgのキシロースが消費された。キシリトール濃度は検出限界より低かった。
【0061】
反応#052は反応#050と類似する。しかしながら、この場合、再生システムが用いられているという違いがある。結果として、用いたキシロースは、すべて変換された。用いた濃度は、XR(0.1U/mL)、NADH(1mM)、ADH(0.25U/mL)、イソプロパノール(5%)である。
【0062】
サンプル#053のキシロース濃度は、2.121mg/mLと決定された。これは、予想されたキシロース濃度に対応する。
【0063】
反応#054は反応#052と類似する。しかしながら、因数2(反応中の50%の基質)だけ増加した初期のキシロースの濃度を含む。生成したキシリトールの濃度は、キシリトール0.945mgと測定された。用いた濃度は、XR(0.1U/mL)、NADH(1mM)、ADH(0.25U/mL)、イソプロパノール(5%)である。
【0064】
表2に、測定されたHPLCデータに基づく反応結果をまとめた(消費されたキシロースおよび回収されたキシリトールにおいて、b.D.L.は「検出限界以下」を意味する)。
【0065】
【表2】

【0066】
〔実施例4〕
実施例2に記述したプロセスによってわらから製造したキシロース溶液からの酵素的なキシリトールの製造。補基質としてイソプロパノールを用いた。
【0067】
キシロース濃度(〜10mg/mLキシロース)を高めるために、ロータリーエバポレータを用いて、基質溶液の容積を50%にまで減らした(実施例2を参照)。
【0068】
Candida tenius由来の用いられたキシロースレダクターゼ(XR)の活性と、Saccharomyces cerevisiae (Sigma-Aldrich: カタログ No.: A6338; (EC) No.: 1.2.1.5; CAS No: 9028-88-0)由来の用いられたアルデヒドデヒドロゲナーゼの補足的な活性とにより、酸化された補因子の再生が達成された。これは、いずれも酵素結合型反応および基質結合型反応である。エタノールは補基質として用いられる。第1の工程において、エタノールとNADとは、XRの活性によって、NADHとアセトアルデヒドとに変換される。第2の工程において、アセトアルデヒドとNADとは、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(AldDH)の活性によって、酢酸塩に変換される(このために、Sigma-Aldrich: カタログ NO. A6338、および"Characterization and Potential Roles of Cytosolic and Mitochondrial Aldehyde Dehydrogenases in Ethanol Metabolism in Saccharomyces cerevisiae", Wang et al, Molecular Cloning, 1998, Journal of Bacteriology, p. 822 - 830をそれぞれ参照)。この場合、変換された補基質1モルあたり、2モルの還元等価物(NADH)が生成することになる(反応図2を比較されたい)。
【0069】
【化2】

【0070】
表3では、4つの異なるテスト反応247、249、250、253で反応比率が示されている。異なるエタノール濃度およびAldDH濃度が用いられた。補因子と基質の濃度は一定に保たれた。
【0071】
【表3】

【0072】
総量:0.5mL
温度:25±2℃
熱攪拌機:500rpm
時間:112時間
酵素の不活性化のためには、全サンプルを70℃で15分間加熱し、遠心分離し、それに続くHPLC分析(PVDF、0.2μm)に付した。
【0073】
分析−HPLC:
カラム:SUGAR SP0810およびプリカラムSUGAR SP-G
カラム温度:90℃
検出器:屈折率検出器
流液:脱イオン化水
流速:0.90mL/分
サンプル量:10μL
HPLC定量精度:±10%。
【0074】
結果
エタノール濃度1.2モル/Lで、最大収率(反応249)が得られた。それにより、全キシリトール1.38mg/mLが製造された。これはキシリトールの理論値の21.2%の収率に対応する。
【0075】
表4に、測定されたHPLCデータに基づく反応結果をまとめた。
【0076】
【表4】

【0077】
結果から、エタノールが補基質として用いられたことが証明される。反応249(反応混合物はAldDHを含有する)と反応253(反応混合物はAldDHを含有しない)との比較から明らかなように、アルデヒドデヒドロゲナーゼを加えることによってキシリトールの収率が著しく増加することがはっきりとわかる。キシリトールに対する変換されたキシロースの違いは〜8%に達する。その結果、上述の文献からの引用とも関連して、AldDHは、初期の部分的還元で生じたアセトアルデヒドをさらに酢酸塩へと酸化するというただ一つの結論が得られる(反応図2を参照)。エネルギー的に有利なこの反応およびそれに関連したNADHの濃度の増加は、初期の部分的還元において、抽出物から産物であるキシリトールへの平衡をシフトする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物分解産物、特に糖を製造するプロセスであって、
リグノセルロースを分解するため、および、リグノセルロース原料から分解産物を分離するために、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノールを含み、且つ、pH値が11.0から14.0の間にある水溶液を用いて、リグノセルロース原料を処理することで、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を得て、
得られたセルロースとヘミセルロースとが豊富な上記原料を、炭水化物分解産物を得るために、少なくとも1つの炭水化物分解酵素を用いて処理することを特徴とする炭水化物分解産物を製造するプロセス。
【請求項2】
上記水溶液は、pH値が11.0から13.0の間にあることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
上記分解は、100℃より低い温度で起こることを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
上記分解は、40℃より低い温度で起こることを特徴とする請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
リグノセルロース原料として、わら、バガス、エネルギー草および/またはスペルト小麦を用いることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
上記リグノセルロース原料は、水溶液中に、5〜40重量%のストック濃度で存在することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
上記糖を抽出するために、セルロースとヘミセルロースとが豊富な上記原料を、キシラナーゼおよび/またはセルラーゼで処理することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
得られた上記糖をアルコールに発酵させて、分離および回収することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
分解された固形物をキシラナーゼを用いて変換し、得られた液相をキシリトールに変換し、残りの固形物を、
異なる発酵産物を得るために、セルラーゼでさらに反応させるか、または、
熱的または熱化学的な変換に付すか、または、
細菌、酵母または真菌による微生物変換に付すか、または、
セルロース繊維原料を得る目的のために、さらなる脱リグニン化工程に付す、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
分解された固形物をキシラナーゼを用いて変換し、得られた液相をキシロースデヒドロゲナーゼでキシリトールに変換し、残りの固形物を、
異なる発酵産物を得るためにセルラーゼでさらに反応させるか、または、
熱的または熱化学的な変換に付すか、または、
細菌、酵母または真菌による微生物変換に付すか、または、
セルロース繊維原料を得る目的のために、さらなる脱リグニン化工程に付す、
ことを特徴とする請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
(発酵)産物の分離後に残った固形物を、バイオガス設備で発酵させて、さらにバイオガス化する処理を行うことを特徴とする請求項9または10に記載のプロセス。

【公表番号】特表2013−500727(P2013−500727A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523163(P2012−523163)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000138
【国際公開番号】WO2011/014894
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(511259474)アニッキ ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】ANNIKKI GMBH
【住所又は居所原語表記】Rankengasse 28a,A−8020 Graz,Austria
【Fターム(参考)】