説明

リグノセルロース原料から炭水化物分解産物を製造する方法

本発明は、炭水化物分解産物の製造方法であって、リグノセルロースを酸化的に分解するため、また、リグノセルロース原料から分解産物を分離するために、リグノセルロース原料を、過酸化水素、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノール、および塩基を含有する水溶液で処理する。本発明によれば、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料が得られて、炭水化物分解産物を形成するために、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を、炭水化物分解酵素で処理する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、リグノセルロース原料から、炭水化物分解産物、特に、ペントースやヘキソースなどの糖を製造する方法に関する。本発明は、さらに、糖からアルコールを製造する方法に関する。本明細書と請求項の目的のために、「糖」との用語は「糖オリゴマー」も含むことを意図するものとする。
【0002】
原油の貯蔵やエネルギー源としてのトウモロコシに関する議論に関し、再生可能なエネルギー源としてのリグノセルロース(わら、木材、紙くずなど)が、燃料や化学製品の出発原料として重要になってきている。リグノセルロースの変換は、種々の方法によって実現可能である。(1)「熱化学的プラットフォーム」。ここでは、リグノセルロースはまず気体にされ、そのように合成された気体が所望の製品へと合成される。(2)「糖プラットフォーム」。ここでは、主な興味は、ポリマーであるセルロースとヘミセルロースとに結合した糖の使用であり、エネルギー的フォームにおいてリグニンがまだ主として用いられる。本発明はこの第2の方法に当たるものである。
【0003】
でんぷんと比べて、リグノセルロースの糖は、セルロースとヘミセルロースとの、緊密に架橋した、ポリマーの、結晶構造であり、さらに、リグニンの被膜で覆われ、これにより極度に密集した複合体となっている。リグノセルロースから糖を形成する最も明らかな方法は、セルラーゼとヘミセルラーゼとを直接使う方法であろう。しかしながら、わらや木材が原料の場合には、上記複合体の密集度ゆえ、この方法はうまくいかない。これらは分子量が大きいため、酵素が、締まった孔を通ってリグノセルロースに入っていくことができない。したがって、まず、リグノセルロースの多孔性を増大させる第1ステップを行い、それによって、酵素によるさらなる糖化を可能にする必要がある。
【0004】
第1ステップは、「前処理」(パルプ化)と称される。これがやや複雑なのは確かであり、例えば「第2世代のバイオ燃料」の製造において、製造コストの3分の1までもがこの目的に使われる必要があり、利益への悪影響を及ぼす。用いられる方法は、主としてヘミセルロースを液化する(すなわち蒸気爆発、希酸による前処理)か、リグニンの液化により多孔性の増大を達成する(すなわち石灰、アンモニアによる前処理)かのどちらかを狙っている。
【0005】
パルプ化した(分解した)リグノセルロース基質は、糖やそのオリゴマーを形成するためにさらに酵素処理されてよい。それにより、前処理の種類が酵素の活性と収率とに実質的な影響を及ぼす。高い反応温度では、毒性のある分解産物(例えばフルフラール)が生成することがよくあり、これは、それに直接続いてエタノール発酵をする場合にイーストを抑制することがある(Chandra et al., Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology, 108:67, 2007; Mansfield et al., Biotechnol.Prog. 15:804, 1999.)。
【0006】
これらの方法は、エネルギーの消費が大きく、主に200℃よりわずかに低い温度で行われるという実質的な不利点を有する。
【0007】
例えば低い温度での方法(すなわち、100℃より低い温度)の進展による、この分野での技術的な改善は、リグノセルロースを原料とする任意の原料に対する、やや決定的な進歩を構成する。これが本発明の仕事である。
【0008】
欧州特許1 025 305B1号公報においてリグニンの解重合のための化学的方法が知られている(銅システム)。これは、過酸化水素または有機ヒドロペルオキシドと結合した銅錯体の触媒効果によるものであり、100℃より低い温度でリグニンを酸化的に分解することができる。ここで用いられる錯体作用物質はピリジン誘導体である。リグニンモデルによって、酸化剤としてのHの使用によってリグニン分子のエーテル結合が分解されることが確認でき、それによって、リグニンポリマーが、オリゴマーのサブユニットに分解される。この銅システムを過剰量のヒドロペルオキシドとともに用いることによって、木材を脱リグニン化(delignify)できる。Hを基本とするシステムは、より良い方法で技術的に実現できると考えられ、クラフト社のセルロース原料の過酸化物漂白での漂白添加剤としてテストされ、その結果、脱リグニン化速度が改善され、より白くなった。
【0009】
さらに、"Oxidation of wood and its components in water-organic media", Chupka et al., Proceedings: Seventh International symposium on wood and pulping chemistry, Vol. 3, 373-382, Beijing P.R. China, 25-28 May 1993からは、DMSO、アセトン、エタノールなどの有機溶媒を水溶性の反応媒体に加えると、木材とリグニンの酸化のアルカリ触媒反応の効果が著しく増加することが知られている。さらに、著者らは、pHが11より大きいと、木材とリグニンの酸化が鋭く上昇することを述べている。
【0010】
国際公開WO 01/059204号公報からは、原料をバッファ溶液と脱リグニン化触媒(遷移金属)とで処理する前処理で出発物質を処理する、化学パルプの製造方法が知られている。脱リグニン化は、酸素、過酸化水素、またはオゾンの存在下で行う。
【0011】
一方、本発明に係る炭水化物分解産物の製造方法は、
リグノセルロースを酸化的に分解するため、また、リグノセルロース原料から分解産物を分離するために、リグノセルロース原料を、過酸化水素、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノール、および塩基を含有する水溶液で処理し、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を得て、
炭水化物分解産物を形成するために、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を、炭水化物分解酵素で処理することを特徴としている。
【0012】
脂肪族または脂環式の、一価または多価のアルコールまたはフェノールが、アルコールとして適する。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの、C1−6アルコール、特にC1−4アルコール(異性体を含む)や、グリコール(エタンジオール、プロパン−、ブタン−、ペンタン−、ヘキサンジオール)や、グリセリン、プロペノール、ブテノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールや、また、フェノール、クレゾール、カテコール、ナフトールなどのフェノール類であるが、他にも、エタノールアミン、メタノールアミン、ヘキサノールアミンなどのアミノアルコールが挙げられる。好ましいのはC1−4アルコールである。本発明の目的においては、フェノールは、総称的な用語の「アルコール」に含まれる。
【0013】
リグニン抽出物のアルコール溶液は、キシラン分解産物同様、リグニン分解産物のさらなる処理において、有益なオプションを提供する。
【0014】
水溶液中に存在する過酸化水素の量は、好ましくは0.1ないし5重量%であり、特に好ましくは0.3ないし2重量%であり、例えば0.3ないし1重量%である。
【0015】
本発明に係る方法における水溶液中に存在するアルコールの量は、好ましくは10ないし70(vol/vol)%であり、例えば20ないし50(vol/vol)%であり、好ましくは30ないし40(vol/vol)%である。
【0016】
本発明に係る方法における水溶液中に存在するリグノセルロース原料の原料濃度は、好ましくは3ないし40重量%であり、例えば5ないし40重量%であり、特に5ないし20重量%である。
【0017】
好ましくは、リグノセルロースの分解は、100℃より低い温度、例えば80℃より低い温度、例えば60℃より低い温度で行われる。
【0018】
他の方法、特にアルコールを加えない方法にて脱リグニン化した原料と比べたときに、本発明は、一面において、塩基性の過酸化水素水溶液で処理されたリグノセルロース原料が、上記アルコールの一つ、特にC1−4アルコールまたはフェノールを含んでおり、このリグノセルロース原料が、酵素的に処理されて、糖などの炭水化物分解産物を高収率で得ることを見いだした点に基づいている。
【0019】
炭水化物分解産物として、主として糖が形成される。主にペントースとヘキソースである。好ましい糖は、キシロースとグルコースとを含んでいる。
【0020】
本発明に係る方法の好ましい実施形態は、糖を形成するために、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を、キシラナーゼおよびセルラーゼで処理することを特徴とする。
【0021】
リグノセルロース原料として用いられるものは、好ましくは、わら、エネルギー作物(スイッチ草、象草、アバカサイザル、バガスなど)、非典型的なリグノセルロース原料(糠など、例えばもみ殻)、好ましくは、わら、エネルギー作物、バガス、糠、特に好ましくは、わら、バガスである。わらは強い疎水性表面を有するので、水溶液で濡らすのは困難である。アルコールを用いることによって、たとえ圧力をかけなくとも、基質の孔に反応溶液を導入してそこに存在する空気を反応溶液で置き換えることが可能であることが示された。さらに、反応条件を選択することで、アルコールが、わらから分解産物を抽出するのを加速することが示され、また、アルコールが、リグニン分解産物を溶液中に維持するのに貢献することが示された。さらに、逆に、アルコールが、ヘミセルロースやその分解産物の溶解度を減少させ、それによって基質中のヘミセルロースを維持することが示された。もし金属イオンをわらに導入する場合は、金属イオンは過酸化水素を壊すので、その金属イオンの錯化剤を加えるようにすべきである。
【0022】
本発明に係る方法の好ましい変形例は、リグノセルロース原料の処理前に、水溶液のpHを12.0より小さく、特に11.0より小さくし、また、10.0より大きくする。さらに、処理中には塩基を加えない。これは、糖を酵素処理してアルコールにするのに特に有利である。なぜなら、処理中にpHが減少するので、続く炭水化物の酵素的分解のための、および、糖の発酵によるアルコールへの変換のための、最適pHを調整するのに必要な化学物質が少なくて済むことが示されたからである。
【0023】
パルプ化処理に続いて基質から液相を絞ることによって、基質濃度が増加するので、酵素的加水分解やその他の酵素処理のそれぞれについて、必要な酵素の量を少なくすることができる。
【0024】
アルコールの製造では、酵素のコストが重要な要素である。アルコールによって、反応中のアルカリ性の範囲では、リグニンに加えて、偶発的に放出されるヘミセルロースやその分解産物の溶解度が著しく下がり、これらは基質に結合したままである。この処理の利点は、固形物から抽出物の溶液を分離する場合のリグニン分解物の高選択性と、抽出物の溶液中のヘミセルロースとその分解産物の濃度が非常に低いことである。これは、ヘミセルロースが固形部位にとどまり、そしてこのようにして、酵素的加水分解と糖形成とに利用できるからである。
【0025】
リグニン抽出物のアルコール溶液はさらに、リグニンのさらなる処理とリグニン製品の製造とを改善する。
【0026】
パルプ化処理で行われる脱リグニン化により、リグノセルロース原料の細胞壁の多孔性が増加する。例えばわらの場合、キシロースのほぼ全量がキシラナーゼに接近可能になり、キシランのほぼ100%が加水分解可能になり、キシロースを得ることができるほどにまで多孔性が増加する。これにより、本発明は、キシロースの酵素的変換と関係する、より高品質な製品の製造に特に適する。酵素的変換は、キシロース溶液と固形物との混合物で直接行うか、固形物から分離したキシロース溶液で行ってよい。
【0027】
本発明に係るキシランの酵素的加水分解とキシロースのキシリトールへの変換とに続く、残っている固形物からのアルコールの製造においては、酵素のコストが重要な要素である。これは部分的には、リグニンに対する酵素の非特異的結合からも生じる。すなわち、Chandra et al., 2007, ibidemを参照されたい。リグニンを部分的に除去すると、このような活性のロスを抑えられ、コスト面で好ましい効果が得られる。
【0028】
それに続く酵素的処理の利点は、例えば、糖ポリマーをほぼ完全に維持したままでリグニンを高い選択性で分解するので、ヘミセルロースとその分解産物の濃度が非常に低く、ヘミセルロースが固形部位にとどまり、それゆえ、それのさらなる変換同様、酵素的加水分解と糖生成とに引き続き利用可能であることである。これにより、本発明では、最大の原料使用速度となり、例えばキシロースハイドロゲナーゼの使用と関連して、上記処理の高い収益性が得られる。
【0029】
キシロースからキシリトールへの変換処理は、本発明の方法で得られた固体と液体の混合物でキシロースを直接に酵素的に放出することに続いて行ってよい。これにより、全処理の収益性をさらに高められる。
【0030】
キシロースへの変換の場合、パルプ化(分解)処理で残ったアルコールは、固形物を絞ると基質に存在し、NADからNADHの再生のためにアルコールデヒドロゲナーゼの基質として直接用いることができる。もしこの処理を行うときに、反応混合物に残っている、パルプ化処理で残ったアルコールを(部分的に)用いるのであれば、製品溶液からアルコールを除去する処理が(部分的に)不要になり、全処理の効率を上げることができる。
【0031】
リグニン分解産物の変換時において、アルコールは、高分子リグニン分解産物から低分子のものへの酵素的、バイオミメティクス的または化学的な解重合における、ラジカルスカベンジャーおよび溶媒として作用する。
【0032】
抽出物内のヘミセルロースとその分解産物の量が少なく、またリグニンの溶解度が増加するので、濾過による処理同様、変換生成物から固形物を分離する場合に、流速が増加する。
【0033】
本発明の方法は、例えば、汚染物の非常に少ない材料流において、わらの3つの主成分、すなわちグルコース、キシロース、リグニンを分離でき、また、キシリトールのようなより高品質な製品へのさらなる変換を可能にして、望ましいバイオ精製方法の要件を満たす。
【0034】
150℃ないし200℃の温度範囲で主として行われる他のパルプ化方法と比べて、本発明の方法さらなる利点は、100℃より低い反応温度を維持できることである。エネルギー的な努力をあまりすることなく、分解処理で得られたリグニンをエネルギー源としてではなくむしろ再利用可能な原料として用いることが可能になる。
【0035】
本発明の方法によれば、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノールとHとを含有する水溶液で処理することにより、リグニンを含有する溶液が分離され、パルプ化された固形物が、好ましくはキシラナーゼで、例えば6〜72時間、30〜90℃処理される。そして液相が固形物から分離され、それにより、液相は、好ましくは、例えばキシリトールのような二次製品へとさらに変換される。
【0036】
液相の分離で残った固形物は、好ましくは、セルラーゼで処理され、それにより、固形物/グルコース溶液のさらなる発酵により、エタノール、ブタノールまたは他の発酵製品が得られる。あるいは、残っている固形物は、熱的または熱化学的な変換に付され、その結果得られる、燃料成分、燃料添加物および/またはフェノールなどの他の化学製品などの製品が分離される。あるいは、残っている固形物は、細菌、イーストまたは真菌による微生物変換に付される。あるいは、残っている固形物は、セルロース繊維原料を得るためにさらなる脱リグニン化工程に付される。
【0037】
残っている固形物は、バイオガス設備で発酵させて、バイオガス化する処理をさらに行ってもよい。
【0038】
キシロースの二次製品の一つで、経済面で最も興味のあるものはキシリトールである。
【0039】
キシロースの主な供給源は、様々な分解産物、主にリグニンとヘミセルロース、を含有するセルロース原料産業に由来する料理酒であるため、キシロースは、コストのかかる分離・精製処理によって得なければならない。例えば、H. Harmsが、"Willkommen in der naturlichen Welt von Lenzing, weltweit fuhrend in der Cellulosefaser Technologie"、オーストリア紙産業の秋期会議、Frantschach(15. 11. 2007)の中で、バルク製品には通常用いられない技術的に非常に複雑な方法であるゲル濾過を用いて、濃い酒からキシロースを形成することについて記している。このようにして得られたキシロースは、その後、触媒によりキシリトールに変換される。
【0040】
さらなる面として、本発明により得られたキシロースは、発酵を用いない変換によってキシリトールとなる。これは、例えばキシロースデヒドロゲナーゼのようなキシロースレダクターゼを用いる。これは例えばCandida tenuis由来である。ここで、オプションとして、キシロースレダクターゼを加える。また、オプションとして、補助因子(co-factor)の再生のための補助基質(co-substrate)を加える。また、オプションとして、アルコールデヒドロゲナーゼを加える。また、オプションとして、キシロース溶液にNAD(P)Hを加える。これは、特に、得られたキシロースを、濾過によって、リグニン分解産物から分離する場合に行われる。
【0041】
以下の実施例1と比較例1Aにより、アルコールの存在下で前処理することが、酵素的加水分解での還元糖の収率に与える影響について明らかにする。
【0042】
〔実施例1〕
小麦わらの前処理
小麦わらを約2cmサイズの粒子に砕く。砕いた小麦わら5gを、49.5%の水と50%のエタノールと0.5%の過酸化水素からなる溶液を含有する500mlの反応容器で懸濁させる。懸濁液を水浴で50℃に加熱し、熱的に校正し、懸濁液のpHの初期値を、水酸化ナトリウム水溶液で12に調整する。混合物を磁気攪拌機で持続的に200rpm、60℃で24時間撹拌し、その後濾過し、固形部分を蒸留水1リットルで洗浄する。
【0043】
各平行試験のための酵素的加水分解として、前処理された基質100mgを、50mMの酢酸ナトリウムバッファ9.8mlでpH4.8に調整し、200μLのaccellerase1000懸濁液(www.genencor.com)を加えた。accelleraseはセルラーゼとヘミセルラーゼとの酵素混合物である。水浴を振動させながら50℃で酵素的加水分解を行った。48時間後に放出されたヘキソースとペントースの可溶性モノマーを、DNS法(Miller et al., Analytical Chemistry 31(3):426, 1959)に従い還元糖の形式で決定した。これは、計量されて前処理された基質の量に基づき、1mLの上澄みについて行い、理論的最大収率の割合で表現した。
【0044】
還元糖の理論的最大収率は個々に決定され、処理しないわら1gあたり705mg±5%である。
【0045】
各テスト方法に対し、それぞれ5個の平行テストを行った。糖糖の収率は99%±4%であった。
【0046】
〔比較例1A〕
上記実施例1を繰り返した。ただし、アルコールは加えない。糖糖の収率はわずか64%±3%であった。
【0047】
〔実施例2〕
〔実施例2a〕
わらから得たキシロース溶液からの酵素的なキシリトール生成。補助基質としてイソプロパノールを用いた。
【0048】
反応溶液は、キシロースを5mg/mL有する。
【0049】
Candida tenuis由来のキシロースレダクターゼ(XR)は、キシロースをキシリトールに還元する。このXRは、補酵素としてNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を要する。NADHは、反応にて酸化されて補酵素NADになる。酸化された補助因子の再生は、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の平行活性によて実現される(酵素結合型再生)。イソプロパノールは補助基質として用いられる。反応図1に示すように、イソプロパノールとNADとは、ADHによってNADHとアセトンに変換される。
【0050】
【化1】

【0051】
表1では、5つの異なるテスト反応#049、#050、#051、#052、#053、#054で反応比率が設定される。
【0052】
【表1】

【0053】
総量:1mL
温度:26±2℃
磁気攪拌機:200rpm
時間:15時間
酵素の不活性化のためには、全サンプルを95℃で15分間加熱し、遠心分離し、それに続くHPLC分析に付した。
【0054】
分析−HPLC:
カラム:SUGAR SP0810およびプリカラムSUGAR SP-G
検出器:屈折率検出器
流液:脱イオン化水
流速:0.75mL/分
サンプル量:10μL
HPLC定量精度:±10%。
【0055】
保持時間:
キシロース:13.97分
キシリトール:37.73分
イソプロパノール:16.69分
アセトン:16.54分。
【0056】
結果
サンプル#049の基質濃度は、HPLCにより決定され、0.9mg/mLであった。
【0057】
反応混合物#050は、キシロースレダクターゼ(0.1U/mL)とNADH(1mM)のみを含有する。15時間反応させた後、0.085mgのキシロースが費やされた。キシリトール濃度は検出限界以下であった。
【0058】
反応#052は反応#050と類似する。しかしながら、ここでは、再生システムが用いられているという違いがある。用いられたキシロースはすべて費やされた。用いた濃度は、XR(0.1U/mL)、NADH(1mM)、ADH(0.25U/mL)、イソプロパノール(5%)である。
【0059】
サンプル#053のキシロース濃度は、2.121mg/mLと決定された。これは、予想されたキシロース濃度に対応する。
【0060】
反応#054は反応#052と類似する。しかしながら、初期濃度(反応中の50%の基質)が因数2だけ増加したキシロースを含有する。生成したキシリトールの濃度は、キシリトール0.945mgと測定された。用いた濃度は、XR(0.1U/mL)、NADH(1mM)、ADH(0.25U/mL)、イソプロパノール(5%)である。
【0061】
表2に、HPLC測定データに基づく反応結果をまとめた(費やされたキシロースと得られたキシリトールにおいて、b.d.l.は「検出限界以下」を意味する)。
【0062】
【表2】

【0063】
〔実施例2b〕
わらから得たキシロース溶液からの酵素的なキシリトール生成。補助基質としてエタノールを用いた。
【0064】
キシロース濃度を高める(〜10mg/mLキシロース)ために、回転蒸発器(rotavapor)を用いて、基質溶液の容積を50%にまで減らした(実施例2参照)。
【0065】
Candida tenius由来の用いられたキシロースレダクターゼ(XR)の活性と、Saccharomyces cerevisiae (Sigma-Aldrich: catalogue number A6338; (EC) Number: 1.2.1.5; CAS Number: 9028-88-0)由来の用いられたアルデヒドデヒドロゲナーゼの補足的な活性とにより、酸化された補助因子の再生が実現された。これは、酵素結合型反応であるとともに基質結合型反応である。エタノールは補助基質として用いられる。エタノールとNADとは、第1段階において、XRの活性によって、NADHとアセトアルデヒドとに変換される。第2段階において、アセトアルデヒドとNADとは、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(AldDH)の活性によって、酢酸に変換される(Sigma-Aldrich: カタログ番号A6338、すなわち"Characterization and Potential Roles of Cytosolic and Mitochondrial Aldehyde Dehydrogenases in Ethanol Metabolism in Saccharomyces cerevisiae", Wang et al, Molecular Cloning, 1998, Journal of Bacteriology, p. 822 - 830を参照)。この場合、変換された補助基質1モルあたり、2モルの還元等価物(NADH)が生成することになる(反応図2を比較されたい)。
【0066】
【化2】

【0067】
表3では、4つの異なるテスト反応247、249、250、253で反応比率が設定される。異なるエタノール濃度とAldDH濃度が用いられた。補助因子と基質の濃度は一定に保たれた。
【0068】
【表3】

【0069】
総量:0.5mL
温度:25±2℃
熱攪拌機:500rpm
時間:112時間
酵素の不活性化のためには、全サンプルを70℃で15分間加熱し、遠心分離し、それに続くHPLC分析(PVDF、0.2μm)に付した。
【0070】
分析−HPLC:
カラム:SUGAR SP0810およびプリカラムSUGAR SP-G
カラム温度:90℃
検出器:屈折率検出器
流液:脱イオン化水
流速:0.90mL/分
サンプル量:10μL
HPLC定量精度:±10%。
【0071】
結果
エタノール濃度1.2モル/Lで、最大収率(反応249)が得られた。それにより、全キシリトール1.38mg/mLが得られた。これはキシリトールの理論値の21.2%の収率に対応する。
【0072】
表4に、HPLC測定データに基づく反応結果をまとめた。
【0073】
【表4】

【0074】
結果から、エタノールが補助基質として用いられたことがわかる。反応249(反応混合物はAldDHを含有する)と反応253(反応混合物はAldDHを含有しない)との比較から明らかに、アルデヒドデヒドロゲナーゼを加えることによりキシリトールの収率が著しく増加することがわかる。キシリトールに対するキシロースの回転率の違いは〜8%である。上述の文献とも関連して、これにより、AldDHは、初めの部分的還元で生じたアセトアルデヒドをさらに酢酸へと酸化するという結論が得られる(反応図2を比較されたい)。エネルギー面とそれに関連してNADHの濃度が増加するという点とで好ましいこの反応は、初めの部分的還元において、抽出物から、製品であるキシリトールの方向に、平衡をずらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物分解産物、特に糖の製造方法であって、
リグノセルロースを酸化的に分解するため、また、リグノセルロース原料から分解産物を分離するために、リグノセルロース原料を、過酸化水素、アルコール、特にC1−4アルコールまたはフェノール、および塩基を含有する水溶液で処理し、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を得て、
炭水化物分解産物を形成するために、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を、炭水化物分解酵素で処理することを特徴とする炭水化物分解産物の製造方法。
【請求項2】
リグノセルロースの分解が100℃より低い温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リグノセルロース原料の処理前の水溶液のpHが、10.0より大きく12.0より小さく、特に11.0より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
処理中にいかなる塩基をも加えないことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
リグノセルロース原料として、わら、エネルギー作物および/または糠を用いることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水溶液中に、リグノセルロース原料が、5〜40重量%の原料濃度で存在することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
糖を形成するために、セルロースとヘミセルロースとが豊富な原料を、キシラナーゼおよび/またはセルラーゼで処理することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
形成された糖を発酵させてアルコールに変え、分離し、生産することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
処理にてパルプ状になった固形物をキシラナーゼで変換し、得られた液相をキシリトールに変換し、残りの固形物を、
種々の発酵産物を得るためにセルラーゼでさらに変換するか、または、
熱的または熱化学的変換反応に付すか、または、
細菌、イーストまたは真菌による微生物変換に付すか、または、
セルロース繊維原料の形成の目的のためにさらなる脱リグニン化工程に付す、
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
処理にてパルプ状になった固形物をキシラナーゼで変換し、得られた液相を、キシロースデヒドロゲナーゼを用いてキシリトールに変換し、残りの固形物を、
種々の発酵産物を得るためにセルラーゼでさらに変換するか、または、
熱的または熱化学的変換反応に付すか、または、
細菌、イーストまたは真菌による微生物変換に付すか、または、
セルロース繊維原料の形成の目的のためにさらなる脱リグニン化工程に付す、
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(発酵)産物の分離にて残った固形物を、バイオガス設備で発酵させて、バイオガス化する処理をさらに行うことを特徴とする請求項9または10に記載の方法。

【公表番号】特表2012−528568(P2012−528568A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507542(P2012−507542)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000137
【国際公開番号】WO2010/124312
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511259474)アニッキ ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】ANNIKKI GMBH
【住所又は居所原語表記】Rankengasse 28a,A−8020 Graz,Austria
【Fターム(参考)】