説明

リグノセルロース材料の蒸解法

【課題】 本発明は拡大蒸解法における蒸解助剤の最も効率のよい利用法を見出し、高い蒸解収率、あるいは蒸解薬液の使用量の削減を実現する。
【解決手段】 上部蒸解ゾーン、下部蒸解ゾーン、拡大蒸解ゾーンが釜頂部から底部に向けて順に設けられた蒸解釜により3段階蒸解からなる拡大蒸解を行うリグノセルロース材料の蒸解法において、蒸解助剤として環状ケト化合物をリグノセルロース材料に対して0.001〜1重量%添加し、さらに該環状ケト化合物の全添加量の50重量%以上を下部蒸解ゾーン及び/または拡大蒸解ゾーンにおいて添加することを特徴とするリグノセルロース材料の蒸解法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリグノセルロース材料を蒸解し化学パルプを得る手法に関するもので、より詳しくは従来の蒸解法に対してパルプ収率を一層向上させ、カッパー価とパルプ収率の関係を更に改善させることができ、あるいは同一有効アルカリ添加率におけるカッパー価を減少させることのできるリグノセルロース材料の蒸解法に関する。更には、拡大蒸解法におけるキノン系蒸解助剤の添加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材チップ等のリグノセルロース材料を原料とする工業的に実施されている化学パルプの主な製造方法はアルカリ性蒸解法であり、このうち、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムが主成分のアルカリ性蒸解液を用いるクラフト法が多く利用されている。
【0003】
一般的な連続蒸解釜の場合、木材などのリグノセルロース材料のチップは蒸気による脱気を受けた後、蒸解薬液とともに蒸解釜へ送られる。蒸解釜の釜壁には複数の抽出ストレーナーが設けられており、ここから黒液を抽出する。抽出された黒液は温度やアルカリ分を調整して蒸解釜内中央に設けられたセントラルパイプ中より蒸解釜内に戻したり、あるいは回収ボイラーへ送り薬品回収に用いられる。従って、蒸解釜の内部の条件はストレーナーを境に変化させることが可能であり、これにより蒸解釜を幾つかのゾーンに分けて異なる役割を与えてパルプを製造することが可能である。
【0004】
従来型の連続蒸解釜は釜頂部より上部蒸解ゾーン、下部蒸解ゾーン、洗浄ゾーンに大別されることが多い。蒸解ゾーンでは蒸解液は所定の蒸解温度(140℃以上)に加熱され蒸解反応が進み、洗浄ゾーンでは釜下段により注入される洗浄段からの黒液で向流洗浄による120℃前後で数時間の置換洗浄が行われる。
【0005】
一方、近年では蒸解温度の低下や増産などを目的に従来の洗浄ゾーンを蒸解温度まで加温し、蒸解ゾーンとして蒸解反応に用いる釜が増えている。本明細書においてはこの考えを拡大蒸解と称する。
【0006】
図1に通常の蒸解釜の模式図と拡大蒸解を行う蒸解釜の模式図を示した。前述した通り、従来法では釜下部に洗浄ゾーンを設置し、蒸解ゾーンよりも低い温度でパルプの洗浄を行うが、拡大蒸解法では洗浄ゾーンを蒸解ゾーンとして使用する。これにより蒸解反応を進行することに用いる釜内容積が増加するので生産量を増やすことが可能となり、また、生産量が同一にすれば反応時間延長による蒸解温度を低下させることによる収率の向上、省エネルギーなどの利点が得られる。
【0007】
さらにパルプ収率の向上や、パルプ生産に要する蒸解液の節減などを目的に蒸解系にアントラキノンスルホン酸塩、アントラキノンやテトラヒドロアントラキノン等の環状ケト化合物であるキノン化合物を蒸解助剤として添加する蒸解法が知られており、またこれを実機の蒸解釜のどの部分に添加するかについても多くの研究、特許が知られている。蒸解釜内の各ゾーンへの助剤添加法としては、特許第3029453号公報(特許文献1)には、環状ケト化合物を対リグノセルロース材料に対して0.001〜1.0重量%を含むアルカリ性蒸解薬液を蒸解釜の浸透ベッセル部若しくは上部蒸解ゾーンに多く添加する方法を開示されている。また、特許第3496872号公報(特許文献2)では環状ケト化合物を含むアルカリ性蒸解薬液を木材チップが蒸解釜に投入される部分で添加することが開示されている。これらの発明には蒸解釜のより上部に助剤を添加し、助剤のチップへの浸透やチップとの反応により長い時間をかける考えを見て取ることが出来る。
【特許文献1】特許第3029453号公報
【特許文献2】特許第3496872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は拡大蒸解法における蒸解助剤の最も効率のよい利用法を見出し、高い蒸解収率、あるいは蒸解薬液の使用量の削減を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、拡大蒸解における助剤の添加方法を検討した結果、この拡大蒸解では必ずしも釜頂部への助剤の添加が有効ではないことを見出し、むしろ蒸解ゾーンから底部のゾーンへ添加する方が効果が高いことを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は上部蒸解ゾーン、下部蒸解ゾーン、拡大蒸解ゾーンが釜頂部から順に設けられた蒸解釜により3段階蒸解からなる拡大蒸解を行うリグノセルロース材料の蒸解法において、リグノセルロース材料に対して重量比0.001〜1重量%の環状ケト化合物を蒸解助剤として添加する際に、その添加量の50重量%以上を下部蒸解ゾーン及び/または拡大蒸解ゾーンへ添加するリグノセルロース材料の蒸解法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上部蒸解ゾーン、下部蒸解ゾーン、拡大蒸解ゾーンが釜頂部から順に設けられた蒸解釜による拡大蒸解法において、同一有効アルカリ添加率におけるカッパー価の低下(脱リグニンの促進)、同一カッパー価におけるパルプ収率の向上、あるいは蒸解薬液の使用量の削減が可能となる。
【発明の実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に使用されるリグノセルロース材料は、広葉樹、針葉樹などの木本植物由来のもの、更にパガス、ケナフ、エスパルト草、稲、葦などの草木植物由来のものである。好ましくは、広葉樹、針葉樹である。
【0013】
本発明を適用するリグノセルロース物質はケミカルパルプであり、蒸解法としては、クラフトパルプ化法である。クラフトパルプ化蒸解法は、クラフト−アントラキノン蒸解法、クラフト−ポリサルファイド蒸解法、クラフト−ポリサルファイド−アントラキノン蒸解法を含む。さらにクラフト法については修正法として、MCC、EMCC、ITC、Lo-solid、Compact Cooking法等が知られているが、その多くは本発明における拡大蒸解の特徴を備えており(従来型の釜に対し洗浄ゾーンが小さく、蒸解ゾーンが増えることが多い)、本発明を適用することができる。なお、本発明における拡大蒸解の範囲としては、蒸解時間(釜内でチップと白液が混合されてから、140℃以上に加熱された後で120℃以下となるまで)が120分を超えたものとする。
【0014】
本発明で使用する蒸解薬液の硫化度は5〜75%、好ましくは5〜50%である。また、有効アルカリ添加率は5〜30%、好ましくは10〜20%である。
本発明において使用される環状ケト化合物としては、キノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1−メチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2−メチル−1,4−ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10−ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2−メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。これら前駆体は蒸解条件下ではキノン化合物又はヒドロキノン化合物に変換する可能性を有している。
【0015】
本発明においては環状ケト化合物をリグノセルロース材料に対して0.001〜1.0重量%、好ましくは0.005〜1.0重量%添加する。添加は通常は蒸解薬液(白液)中に含有させればよく、液比(蒸解液/リグノセルロース材料)を考慮して、下部蒸解ゾーン及び/または拡大蒸解ゾーンに導入される蒸解薬液に環状ケト化合物を全添加量の50重量%以上となるように添加することが必須である。残りの環状ケト化合物は上部蒸解ゾーンに導入される蒸解薬液に添加すればよい。環状ケト化合物の添加量が0.001重量%未満であると添加量が少なすぎて蒸解後のパルプのカッパー価が低減されず、カッパー価とパルプ収率の関係が改善されない。また、環状ケト化合物の添加量が1.0重量%を超えてもさらなる蒸解後のパルプのカッパー価の低減、及びカッパー価とパルプ収率の関係の改善は認められない。
【0016】
本発明で使用する蒸解釜は、釜頂部から底部に向けて上部蒸解ゾーン、下部蒸解ゾーン、拡大蒸解ゾーンが順に設けられている。必要に応じて、上部蒸解ゾーンより上に塔頂ゾーンを設けてもよい。各ゾーン底部にはストレーナが設けられ、各ストレーナのうち少なくとも1つのストレーナから抽出された蒸解黒液が蒸解系外に排出される。蒸解釜においては、塔頂ゾーンでの初期温度は120℃付近であり、塔頂ゾーンの底部にかけて140〜170℃の範囲内にある蒸解最高温度まで加熱され、上部蒸解ゾーン、下部蒸解ゾーンでは140〜170℃の範囲内にある最高温度に保たれ、拡大蒸解ゾーンでは、拡大蒸解ゾーンの底部にかけて140〜170℃の範囲内にある蒸解最高温度から140℃付近まで低下する。脱リグニンは上部蒸解ゾーン〜拡大蒸解ゾーンで行われる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
ラジアータパイン、ダグラスファー、カラマツ、カリビアンパイン材からなる混合針葉樹チップ(混合比40:20:23:17)を、活性アルカリ添加率17重量%、硫化度27%、液比2.5(L/Kg)、最高温度160℃、H-factor=1600で回転式オートクレーブによる蒸解を行った。予め全蒸解薬液量の54%を加えて蒸解を開始し、蒸解温度が140℃に達した時点で全体の30%に相当する液を抽出し、直後に全蒸解薬液量の30%相当を添加した。この時に、蒸解助剤としてテトラヒドロアントラキノン(1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンジナトリウム、川崎化成工業株式会社製、商品名:SAQ)を対チップ0.05重量%となるように蒸解液に添加した。また、蒸解温度が120℃となってから232分後に残りの蒸解薬液(全蒸解薬液の16%相当)を添加して所定のH-factorまで蒸解した。得られた未晒クラフトパルプのカッパー価、総収率を表1に示した。
[実施例2]
活性アルカリ添加率を19重量%にした以外は、実施例1と同様にして未晒クラフトパルプを製造し、カッパー価、総収率を表1に示した。
[実施例3]
活性アルカリ添加率を21重量%にした以外は、実施例1と同様にして未晒クラフトパルプを製造し、カッパー価、総収率を表1に示した。
[比較例1]
蒸解開始時に添加する蒸解薬液中に対チップ0.05重量%となるようにテトラヒドロアントラキノンを加えた以外は、実施例1と同様にして未晒クラフトパルプを製造し、カッパー価、総収率を表1に示した。
[比較例2]
活性アルカリ添加率を19重量%にした以外は、比較例1と同様にして未晒クラフトパルプを製造し、カッパー価、総収率を表1に示した。
[比較例3]
活性アルカリ添加率を21重量%にした以外は、比較例1と同様にして未晒クラフトパルプを製造し、カッパー価、総収率を表1に示した。
【0018】
また、図3に実施例及び比較例の蒸解薬液の活性アルカリ添加率とカッパー価の関係を示した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示されるように、実施例は同一活性アルカリ添加率において比較例よりパルプのカッパー価が低く、総収率は同等であった。また、図2より、実施例は同一カッパー価のパルプを得るための蒸解薬液の活性アルカリ添加率が削減できることが示された。
【0021】
図2(蒸解液の添加量とカッパー価)に実施例1と比較例1のデータを比較した。図2より実施例により同一カッパー価のパルプを得るための蒸解液の使用量が削減できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】通常の蒸解釜の模式図と拡大蒸解を行う蒸解釜の模式図を示した。
【図2】蒸解液添加量とカッパー価との関係を示すグラフであり、本発明の効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部蒸解ゾーン、下部蒸解ゾーン、拡大蒸解ゾーンが釜頂部から底部に向けて順に設けられた蒸解釜により3段階蒸解からなる拡大蒸解を行うリグノセルロース材料の蒸解法において、蒸解助剤として環状ケト化合物をリグノセルロース材料に対して0.001〜1重量%添加し、さらに該環状ケト化合物の全添加量の50重量%以上を下部蒸解ゾーン及び/または拡大蒸解ゾーンにおいて添加することを特徴とするリグノセルロース材料の蒸解法。

【図1】
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【図2】
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