説明

リグノフェノール誘導体の製造方法及び装置

リグノセルロース系物質をフェノール誘導体及び酸で処理することにより、リグノフェノール誘導体を効率よく生成・回収すると共に、同時に得られる酸・糖混合液からの糖の回収・利用も容易にする方法を提供する。 本発明の一態様は、リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を、固液分離にかけることによって、固相としてリグノフェノール誘導体と、液相として酸及び糖の混合液とを分離し、分離されたリグノフェノール誘導体を脱酸・洗浄することを特徴とする、リグノフェノール誘導体及び酸・糖混合液を調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系物質から、リグノフェノール誘導体と糖とを効率的に分離・回収する方法及び装置に関する。本発明によって得られるリグノフェノール誘導体は、その芳香環を持つ構造を生かして石油化学系代替の高分子素材としての利用が期待される。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては石油などの化石資源の利用は不可欠なものとなっているが、化石資源は再生産が不可能であり、近い将来資源の枯渇が懸念されており、化石資源に代わる資源の一つとしてバイオマス資源に対する関心が高まっている。中でも木質系のバイオマス資源は、地球上に膨大に存在し、短期間で生産することが可能で、適切な維持管理によって持続的に供給することが可能な点で注目されており、且つ、資源としての利用した後は、自然界で分解して新たなバイオマス資源として再生されるという点で、益々注目されるようになっている。しかしながら、木質系のバイオマス資源(リグノセルロース系物質)の利用に関しては、これまで炭水化物(セルロース)をパルプとして分離回収したり、又はセルロース・ヘミセルロースを酸で可溶化した後に、糖として回収する利用方法が主であり、同じく木質系のバイオマス資源に含まれるリグニンは残渣として扱われることが殆どで、資源としては未利用であった。セルロースをパルプとして回収する方法では、リグノセルロース系物質をアルカリで蒸解することでセルロース繊維質とリグニンとを分離するが、この際にリグニンは素材としての利用が困難なまでに分断される。一方、リグノセルロース系物質中のセルロース・ヘミセルロースを酸で可溶化する方法では、パルプ工業と比較してリグニン成分の変質が少ないと考えられるが、酸による攻撃を受けて分解したリグニンがその反応性の高さから再縮合するため、高分子素材として利用するには不適当なものになってしまう。
【0003】
リグノセルロース系物質中のリグニンの有効な利用を図るためには、まずリグノセルロース系物質をその構成成分、即ちリグニンと、セルロース及びヘミセルロースとに分離することが必要である。この手法として、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させた後、酸を加えて、リグノセルロース系物質をリグノフェノール誘導体と炭水化物とに分離するという方法が提案された(特開平2−233701号公報;「天然リグニンのフェノール誘導体−濃酸2相系処理法による機能性リグノフェノール誘導体の合成」、船岡他、熱硬化性樹脂、vol.15,No.2(1994),p.7−17;「相分離反応系を応用するフェノール系リグニン素材の誘導とその機能」、船岡他、熱硬化性樹脂、vol.16,No.3(1995),p.35−49)。提案されている方法によれば、木粉等のリグノセルロース系材料に、フェノール誘導体、例えばクレゾールを含浸させて溶媒和(木粉にクレゾールをしみ込ませ、クレゾールを木粉中のリグニンの近傍に定着させた状態)させた後、酸を添加してセルロース成分を溶解する。この際、酸と接触して生じたリグニンの高反応性サイトのカチオンがフェノール誘導体によって攻撃され、フェノール誘導体が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が解裂することによってリグニンが低分子化される。これにより、リグニンが低分子化されると共に、基本構成単位のベンジル位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体が生成する。次に、反応系(ここでは酸を添加した反応液全体を指す)を過剰の水で希釈することにより酸反応を停止した後、不溶分を遠心分離によって集めてリグノフェノール誘導体を分離する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の方法では、酸処理後の反応系を、過剰量、例えばリグノセルロース系物質に対して10倍量以上の水で希釈するために、リグノフェノール誘導体の回収が困難である。更に、上記の方法においては、酸処理によって、リグノフェノール誘導体が生成すると同時に、リグノセルロース系物質中のセルロース、ヘミセルロースが酸によって可溶化されて、リグノフェノール誘導体が分離された後の液相(酸・糖溶液)として回収されるが、反応系(ここでは酸を添加した反応液全体を指す)を過剰の水で希釈しているために、この酸・糖溶液の糖濃度が薄すぎて、糖を分離して回収・利用することが実用的に困難であった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決することを課題とした。即ち、本発明は、リグノセルロース系物質をフェノール誘導体及び酸で処理することにより、リグノフェノール誘導体を効率よく生成・回収すると共に、同時に得られる酸・糖溶液からの糖の回収・利用も容易にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を、固液分離にかけることによって、固相であるリグノフェノール誘導体と、液相である酸・糖溶液とに分離し、分離されたリグノフェノール誘導体を脱酸・洗浄することを特徴とする、リグノフェノール誘導体及び酸・糖溶液を調製する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明を利用してリグノセルロース系物質から酸・糖溶液とリグノフェノール誘導体とを製造するプロセスの全体の概要を示すフロー図である。
【図2】本発明の好ましい態様に係るリグノフェノール誘導体を含む固形物の脱酸・洗浄工程の詳細を示すフロー図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に従ってリグノセルロース系物質を処理するプロセスについて説明する。以下の記載は、本発明の構成と共に、本発明の技術思想を利用した処理プロセスの全体の工程及び代表的な各種形態を説明するものである。従って、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって定められ、以下の記載によって限定されるものではない。
【0009】
図1に、本発明を利用してリグノセルロース系物質から酸・糖溶液とリグノフェノール誘導体とを分離するプロセスの全体の概要をフロー図で示す。本発明において、「リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液」は当該技術において公知の方法などを用いて調製することができる。例えば、木材、草本材などのリグノセルロース系物質に、まず粉砕、乾燥等の前処理を行い(1)、必要に応じて脱脂処理を行う(2)。次に、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を添加・含浸させる(3)。残留有機溶剤を乾燥させた後(4)、酸を添加して撹拌し、リグノセルロース系物質の細胞膜を酸で膨潤・破壊する(5)。これにより、リグノセルロース系物質は、その構成要素であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンに分解する。分解したリグニンは予め添加・含浸したフェノール誘導体と反応結合してリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物となって酸による更なる分解から保護される。一方、セルロース、ヘミセルロースについては、酸によって低分子化、可溶化が進行する。本発明においては、以上のようなプロセスで得られた反応液を「リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液」と称する。本発明では、このようにして得られた反応混合液を、水による希釈を行うことなくそのまま遠心分離等の固液分離にかけることによって、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物と、セルロース、ヘミセルロースが可溶化した酸・糖溶液に分離する(6)。リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物は、脱酸・洗浄(7)によって残留する酸を洗浄・除去した後、固形分を回収して乾燥工程(8)にかけて、リグノフェノール誘導体(9)を得る。
【0010】
一方、酸処理後の反応混合液を固液分離(6)することによって液相として得られる酸・糖溶液は、拡散透析膜法、疑似移動層方式クロマトグラフィー分離法、アルカノール溶剤抽出法等による処理にかけて糖を回収することができる。
【0011】
以下、各工程に関して詳細に説明する。
【0012】
原料前処理工程(1)
リグノセルロース系物質、例えば間伐材、林地残材、製材屑、端材、草本、モミ殻、稲ワラ等を粉砕する。木質系原料としては、スギ等の林地残材・製材屑などを好適に用いることができ、また、草本系原料としては、最近注目されているケナフのコア(芯材)を粉砕したものなどを好適に用いることができる。粉砕後、粒径を2mm以下に篩い分けることで、次段のフェノール誘導体の含浸効果を高め、反応性を向上させるという効果があるので好ましい。また、含水率を15〜20%程度に乾燥させると、篩い分け時に粉体同士がくっつきあって固まりとなることが少なく、原料粉の歩留まりが向上するので好ましい。
【0013】
脱脂処理(2)
リグノセルロース系物質の種類によっては、樹脂分等を多く含む場合がある。これが後段の反応過程で阻害物質とならないように、フェノール誘導体を添加する前にリグノセルロース系物質の樹脂分を除去(脱脂)することが好ましい。脱脂方法としては、例えば、撹拌槽内にリグノセルロース系物質と有機溶剤とを投入し、十分に混合・撹拌することによって行うことができる。有機溶剤で脱脂を行うことにより、リグノセルロース系物質中の水分を除去するという効果も得られる。この目的で用いることのできる有機溶剤としてはアセトン、ヘキサンなどを挙げることができ、使用量としてはリグノセルロース系物質の1〜10倍量が好ましい。なお、ここで規定する「倍量」とは、木粉1kgに対する有機溶剤の量(リットル数)を意味し、例えば「10倍量」とは、木粉1kgに対して有機溶剤10Lを加えることを意味する。また、有機溶剤を加えた後に1〜12時間撹拌することによって脱脂を十分に行うことが好ましい。なお、本処理は必須の工程ではなく、処理対象のリグノセルロース系物質が樹脂分等を多く含んでいない場合などには行う必要はない。本脱脂工程で用いる有機溶剤と、次段のフェノール誘導体含浸工程で用いる有機溶剤とが異なるものである場合には、次段のフェノール誘導体含浸を行う前に、リグノセルロース系物質を乾燥して、脱脂で用いた有機溶剤を除去することが好ましいが、両工程で用いる有機溶剤が同じものである場合にはこの乾燥・除去工程は省略可能である。
【0014】
フェノール誘導体含浸(3)
次に、フェノール誘導体を有機溶剤中に混合した溶液を、リグノセルロース系物質と混合して十分に撹拌することによって、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させる。この目的で用いることのできるフェノール誘導体としては、p−クレゾール、m−クレゾール、o−クレゾール、これらの混合体並びにフェノールなどを挙げることができる。この含浸工程では、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を十分に分散して含浸させることが望ましく、そのためにはフェノール誘導体を有機溶剤に混合・溶解して溶剤中に十分に分散させた状態でリグノセルロース系物質と接触させることが好ましい。また、リグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸を効率的にするためには、フェノール誘導体を有機溶剤中に溶解した溶液を、脱脂処理後のリグノセルロース系物質1kgに対して8L〜12Lの割合(ここでは、これを8〜12倍量と称する)、好ましくは10倍量程度の量加えることにより、リグノセルロース系物質をフェノール誘導体溶液中に十分に浸した状態で含浸工程を行うことが好ましい。また、リグノセルロース系物質と溶液とを、室温、例えば10℃〜50℃において1〜24時間撹拌することによって、含浸を十分に進行させることが好ましく、撹拌中に約30℃の温度に維持することがより好ましい。フェノール誘導体を溶解するために用いることのできる有機溶剤としては、アセトン、ヘキサンなどを挙げることができ、上述の脱脂工程を行う場合には、脱脂工程と同じ有機溶剤を使用することができる。有機溶剤中でフェノール誘導体とリグノセルロース系物質とを混合・撹拌するために用いることのできる装置としては、円錐型リボン混合機(大川原製作所社製のリボコーン)などを挙げることができる。本工程では、リグノセルロース系物質を入れた混合槽に、有機溶剤中に溶解したフェノール誘導体を加えることで混合を行うことができるが、その際、フェノール誘導体を加える前に、リグノセルロース系物質が入れられた混合槽内を減圧すると、リグノセルロース系物質粒子間隙へのフェノール誘導体の浸透性を高めたり、リグノセルロース系物質細胞壁へのフェノール誘導体の浸透性を高めることができるので好ましい。更には、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させる方法として、木材への防腐剤注入などで利用されている加圧注入法を用いることができる。これは、リグノセルロース系物質が入れられた注入槽内を減圧にした後、フェノール誘導体を加圧注入するという方法であり、この方法によれば、リグノセルロース系物質の細胞膜レベルにまでフェノール誘導体を浸透させることができる。なお、本工程において、「リグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸」とは、必ずしもリグノセルロース系物質の粒子の内部へフェノール誘導体を浸透させる必要はなく、リグノセルロース系物質粒子の表面にフェノール誘導体を極めて均等に分散して付着させるようにしてもほぼ同等の効果が得られる。従って、本明細書においては、このような形態も「含浸」に含める。
【0015】
また、本発明者らは、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させる工程において、上記のように、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体溶液を10倍量程度の量加えて、リグノセルロース系物質を溶液中に十分に浸した状態で含浸を行うという方法に代えて、リグノセルロース系物質を撹拌しながら、ここにフェノール誘導体の溶液を、リグノセルロース系物質の1倍量〜5倍量程度の少量加えるという方法によっても、リグノセルロース系物質の粒子の表面にフェノール誘導体を極めて均等に分散して付着させることができ、所期の効果が得られることを見出した。本発明は、このような方法にも関する。即ち、本発明の他の態様は、粉砕されたリグノセルロース系物質を撹拌しながら、リグノセルロース系物質1kgに対して1倍量〜5倍量、好ましくはほぼ等倍量のフェノール誘導体溶液を加えることを特徴とする、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させる方法に関する。なお、この場合、リグノセルロース系物質1kgに対するフェノール誘導体溶液の添加量は、1倍量〜4倍量がより好ましく、1倍量〜2倍量がより好ましい。
【0016】
この場合、粉砕されたリグノセルロース系物質を、粉体の強撹拌混合が可能な撹拌装置内で撹拌しながら、そこにフェノール誘導体溶液を散布することによって、リグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸を行うことが好ましい。本発明で用いた撹拌装置は、すき状ショベル及びチョッパを具備する撹拌装置で、これらの部材が取り付けられた撹拌機が回転することで槽内のリグノセルロース粉砕物に対して遠心拡散作用及び渦流作用を起こし、これによって形成された三次元流動状態下のリグノセルロース粉砕物に対して、フェノール誘導体溶液を散布することにより、少量の液量であっても均一な分散状態を実現することが可能である。更には、含浸工程後の溶剤乾燥も同一の強撹拌装置内で行うことが可能であり、含浸と同様の強撹拌作用により乾燥に要する時間を大幅に短縮することができる。かかる目的で使用することのできる強撹拌装置としては、例えば、独レーディゲ社製のMFK型などを挙げることができる。
【0017】
このような方法によってリグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸を行うことにより、溶剤の使用量を格段に低減することができると共に、含浸をより均一にすることができ、更には、含浸工程にかかる時間を大幅に短縮することができる。例えば、リグノセルロース系物質を10倍量程度のフェノール誘導体溶液中に十分に浸して含浸を行う方法では、含浸工程後の乾燥工程まで含めて2〜3日程度の時間がかかっていたが、上記の方法では僅か1〜4時間程度で含浸・乾燥工程を完了することができる。
【0018】
なお、上記のように、粉砕されたリグノセルロース系物質を撹拌しながら、そこにリグノフェノール誘導体溶液を加えることによって含浸工程を行う場合、含浸工程に供給するリグノセルロース系物質は、上記の脱脂工程の後に残留する溶剤を乾燥除去したもの、或いは脱脂工程で用いる溶剤と含浸工程で用いる溶剤とが同じものである場合には、上記の脱脂工程の後に溶剤を脱液したもの(即ち、少量の溶剤が残留したもの)を使用することができる。
【0019】
更に上記のように、粉砕されたリグノセルロース系物質をレーディゲミキサーなどで強撹拌しながら、1倍量〜5倍量程度のフェノール誘導体溶液を加えてリグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸を行うことにより、含浸に用いるフェノール誘導体溶液の濃度を低減してフェノール誘導体の使用量を削減することができるという効果も奏される。リグノフェノール誘導体を有効に調整する場合、リグノセルロース系物質に対してフェノール誘導体を含浸する量は、リグノセルロース系物質1kgに対してフェノール誘導体が概ね0.1kg〜0.5kg程度必要である。従来法では、リグノセルロース系物質へのフェノール誘導体含浸効果を高めるために、リグノセルロース系物質を10倍量程度のフェノール誘導体溶液中に十分に浸して含浸を行っていた。しかし、この方法では、後段の溶剤乾燥の負荷を低減するために、乾燥前に過剰のフェノール誘導体溶液を脱液するという手法をとる。この際に、溶剤と共にフェノール誘導体も脱離・除去されてしまうので、含浸の際にはこれよりも多い量、例えば、木粉1kgに対して0.3〜1.5kgの量のフェノール誘導体を用いるのが通常である。しかしながら、本発明のように、粉砕されたリグノセルロース系物質をレーディゲミキサーなどで強撹拌しながら、1倍量〜5倍量程度のフェノール誘導体溶液を加えてリグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸を行うという方法によれば、フェノール誘導体含浸工程において用いるフェノール誘導体の量を、リグノセルロース系物質1kgに対して0.1kg〜0.5kg程度の量とすることができる。これにより、使用するフェノール誘導体の量を大幅に削減すると共に、含浸・乾燥工程に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0020】
乾燥(4)
リグノセルロース系物質とフェノール誘導体が溶解された有機溶剤溶液とを十分に撹拌して含浸を行わせた後、減圧して低温で残留有機溶剤を蒸発させることによって、フェノール誘導体が含浸したリグノセルロース系物質を乾燥させる。特に、フェノール誘導体を溶解するための有機溶剤としてアセトンを用いる場合、アセトンは次段の酸処理で生成するリグノフェノール誘導体を溶解してリグノフェノール誘導体と酸・糖溶液との分離を阻害するので、酸処理工程の前にフェノール誘導体が含浸したリグノセルロース系物質に残留するアセトンを十分に除去する必要がある。
【0021】
酸処理(5)
次に、フェノール誘導体を含浸したリグノセルロース系物質を酸で処理する。ここで用いる酸としては、濃度65%以上の濃硫酸を用いることが好ましく、反応性を維持・継続するためには72%以上の濃度の濃硫酸を用いることがより好ましい。添加する酸の量は、リグノセルロース系物質に対して1倍〜10倍量が好ましく、3倍〜5倍量がより好ましい。なお、ここでの酸の「倍量」とは、フェノール誘導体を含浸する前の(即ち、含浸されたフェノール誘導体の重量を含まない)リグノセルロース系物質原料1kgに対する酸の量(リットル数)を意味し、例えば「10倍量」とは、含浸フェノール誘導体の重量を含まないリグノセルロース系物質原料1kgに対して酸10Lを加えることを意味する。酸処理工程においては、反応槽内に予めフェノール誘導体を含浸したリグノセルロース系物質を投入した後に、酸を添加すれば、反応の時間差をなくし、均一な酸処理が可能となるので好ましいが、これに限定することなく、例えば反応槽内に予め酸を投入した後にフェノール誘導体を含浸したリグノセルロース系物質を混合する方法なども可能である。フェノール誘導体を含浸したリグノフェノール誘導体と酸を混合した後は、均一に反応を進行させるためにむら無く十分に撹拌することが必要であるが、酸混合直後のフェノール誘導体を含浸したリグノセルロース系物質は、粘度が非常に高く、撹拌することが容易ではない。本発明者らは、酸処理工程において遊星撹拌式の混練機を用いれば、初期の高粘度の状態においても確実な混合撹拌が可能であり、効率のよい酸処理を行うことができることを見出した。
【0022】
リグノセルロース系物質を酸によって加水分解する技術は、従来から、希酸法や濃酸法などがあるが、これらはいずれもセルロース・ヘミセルロースを可溶化して糖を分離する目的で使用されており、リグニンの分離・回収には利用されていない。例えば、希酸法では、高温高圧の条件下でリグノセルロース系物質の酸処理を行うが、これでは、リグニンがスルホン化や炭化してしまい、有効利用が困難になってしまう。本方法において、リグノセルロース系物質を酸によってリグノフェノール誘導体と酸・糖溶液とに分解する反応は、常温常圧下で進行する。生成するリグノフェノール誘導体の炭化、スルホン化を防ぎつつ、反応性を均一に維持・継続するためには、本方法における酸処理反応は、20℃〜40℃、好ましくは30℃前後の温度で行うことが好ましい。また、酸処理の反応時間は、酸によるリグノフェノール誘導体の変質を防止するために、10分〜2時間が好ましく、30分〜1時間がより好ましい。
【0023】
なお、酸処理の反応温度を一定に保つ制御方法としては、例えば、酸処理反応槽に、反応槽の外部に温水を通水する温水ジャケットと、反応槽内の反応物の温度を計測する装置とを取り付けることができる。酸処理反応にあたって、予め設定した反応温度の温水を温水ジャケットに通水して反応雰囲気である反応槽全体の温度を目的とする酸処理反応温度に保持する。反応槽内に原料を投入して酸処理反応を開始した後は、反応槽内に設けた温度計測装置によって反応液の温度をモニタしながら、温水ジャケットに通水する温水の温度及び通水量を調整することによって、反応熱による反応雰囲気の温度の変化を吸収することができる。本発明は、かかる酸処理反応の制御装置にも関する。即ち、本発明の一態様は、フェノール誘導体が含浸されたリグノセルロース系物質と酸とを反応させて、リグノフェノール誘導体及び酸・糖溶液を生成するための酸処理反応装置であって、フェノール誘導体が含浸されたリグノセルロース系物質と酸とを受容して反応を行わせる反応槽;前記反応槽の外側に設けられた温水ジャケット;温水ジャケットへ温水を供給・排出するための手段;反応槽内の内容物の温度を測定する装置;前記温度測定装置によって測定された内容物の温度に応じて、温水ジャケットへ供給する温水の温度及び流量を調整する制御手段;を設けたことを特徴とする装置に関する。
【0024】
この酸処理工程によって、酸と接触して生じたリグニンの高反応性サイトのカチオンがフェノール誘導体によって攻撃され、フェノール誘導体が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が解裂することによってリグニンが低分子化される。これにより、基本構成単位のベンジル位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体が生成する。また同時に、リグノセルロース系物質中のセルロース、ヘミセルロースは、酸によって可溶化されて、酸溶液中に溶解する。本発明においては、このようにして得られるリグノフェノール誘導体、酸・糖溶液を、「リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液」と称する。
【0025】
固液分離(6)
本発明の一態様は、上記のようにして得られたリグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を、固液分離工程にかけて、リグノフェノール誘導体を含む固相と、セルロース、ヘミセルロースが溶解した酸・糖溶液の液相とに分離することを特徴とする。かかる固液分離工程には、遠心分離を利用することができる。この目的に用いることのできる遠心分離機としては、無孔式底部排出型遠心分離機を用いることができる。無孔式底部排出型遠心分離機を用いれば、粘着質のリグノフェノール誘導体固形分を閉塞なく酸・糖溶液から分離することが可能であるので好適である。この際、10〜60分間遠心分離を行うことが好ましい。遠心分離により、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形分と、セルロース、ヘミセルロースが溶解した酸・糖溶液とが、その比重差によってそれぞれ遠心分離機のバスケット内で内側、外側の2層に分離する。遠心分離機の回転を止めると、外側の酸・糖溶液が自重で装置下部に設けられた排出口から排出される。酸・糖溶液が排出された後、バスケット内に残留するリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物を、掻き取り装置などを利用して下部排出口から排出する。
【0026】
また、この固液分離には、フィルタ等の膜分離を利用することもできる。この場合、酸処理後の反応混合液を、フィルタを布設した濾過槽に導入し、液の自重若しくは減圧又は加圧によって、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物を、セルロース、ヘミセルロースが溶解した酸・糖溶液から濾過分離する。この際、濾過槽は、適当な量の液を貯めた後に濾過を行うことができるように貯留が可能な構造を有することが好ましい。このような構造の濾過槽を用いることにより、粘着質のリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物の濾過ケーキの厚さを確保し、剥離・回収性を上げることができる。また、濾過の際に、減圧によって濾過・脱液した後、適当な時間加圧することで、固形分の脱液を向上させて、濾過ケーキの剥離性を向上することもできる。更に、平板状の濾布を使用することで、脱液後のリグノフェノール誘導体を含む固形分の剥離性を向上させて、濾布表面に残留する固形分を洗浄することも容易になる。濾布の洗浄水は、脱液後のリグノフェノール誘導体を含む固形分を後段で水分散する際の溶液として使用することができる。
【0027】
上述の固液分離処理によって得られるリグノフェノール誘導体を含む固形物は、後述する脱酸・洗浄工程及び乾燥工程を経て、リグノフェノール誘導体として回収することができる。一方、液相として分離回収される可溶化したセルロース、ヘミセルロースを含む酸・糖溶液は、当該技術において公知の方法(例えば拡散透析膜法、疑似移動層方式クロマトグラフィー分離法、アルカノール溶剤抽出法など)などを用いて酸と糖とを分離回収することができる。分離回収された糖は例えば乳酸発酵による生分解性プラスチック製造用の原材料などとして利用することができ、また、酸は前段の酸処理工程(5)に再利用することができる。本発明によれば、従来技術のように酸処理後の反応混合液を多量の水で希釈するのではなく、そのまま希釈することなく固液分離にかけて固相と液相とを分離回収するので、濃度の高い酸・糖溶液が得られ、その後の糖及び酸の分離・回収処理を効率的に行うことができる。また、酸・糖溶液を分離することによって回収される酸は、水で希釈されていないので、濃縮等の精製が少ない負荷で可能であり、精製した濃酸は前段の酸処理に再利用することが可能である。
【0028】
脱酸・洗浄(7)
上記の固液分離処理(6)で得られるリグノフェノール誘導体を含む固形物には、酸及び炭水化物の糖化物並びに未反応物が残留しているので、これを洗浄して残留物を除去する必要がある(脱酸・洗浄処理)。これは、従来行われているように、リグノフェノール誘導体を含む固形物を10倍量以上の水中に分散・撹拌させて、残留する酸等の成分を水側に移動させた後、静置して固形物を自然沈降させて、上澄み液を除去するという作業を適当回数繰り返すことによって行うことができる。固形物を水中に分散することによって、同時に、酸の濃度が希釈されて酸反応が停止する。
【0029】
しかしながら、この方法では、リグノフェノール誘導体を含む固形物が堅く粘着質であるために、水分散が容易でないと共に、撹拌後に固形分を沈降させるのに長時間を要し、数日〜数十日の日数を必要とすることもあった。そこで、本発明の他の態様では、このリグノフェノール誘導体を含む固形物を脱酸・洗浄処理する工程を短時間で効率的に行う手法を提供する。かかる手法として、本発明は、リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液の固液分離によって固相として得られるリグノフェノール誘導体に、水を加えて解砕することによって微細化スラリーとし、次に得られた微細化スラリーを水中に分散した後に、固形分を回収することを特徴とする、リグノフェノール誘導体の回収方法を提供する。図2に、本発明の上記態様にかかるリグノフェノール誘導体を含む固形物を脱酸・洗浄処理する方法の概略をフロー図で示す。
【0030】
図2に示す方法においては、固液分離処理(6)で得られたリグノフェノール誘導体を含む固形物を、まず解砕して微細化スラリーとする(a)。解砕は、例えば、高速で回転する撹拌羽根を槽内下部に有する装置(所謂カッターミキサーなど)に固形物を投入し、適当量の水を加えて撹拌することによって行うことができる。この際、添加する水の量は固形物の1〜5倍量が好ましい。なお、ここで規定する「倍量」とは、固形分1kgに対する水の量(リットル数)を意味し、例えば「5倍量」とは、固形分1kgに対して水5Lを加えることを意味する。このように水を加えて分散させることによって、同時に酸の濃度が希釈されて、酸反応が停止する。この目的で用いることのできる解砕装置としては、例えば、太平洋機工製のハイスピーダなどを挙げることができる。
【0031】
解砕で得られたリグノフェノール誘導体を含む固形物の微細化スラリーは、更にラインミキサなどの剪断力によって固形分の微細化を行う装置で極微細化(乳化)して、脱酸の効率を更に向上させることが好ましい(b)。この目的で用いることのできる微細化装置としては、例えば太平洋機工製のファインフローミルなどを挙げることができる。
【0032】
次に、解砕・極微細化によって得られたリグノフェノール誘導体を含む固形物の極微細化スラリーに、適当量の水を加えて十分に撹拌して、リグノフェノール誘導体を含む固形分中に残留する酸や炭水化物の糖化物及び未反応物を水側に移動・希釈させる(c.水分散)。ここでの水の添加量は、固液分離で得られたリグノフェノール誘導体を含む固形物の5倍〜10倍量(重量比)が好ましい。
【0033】
水分散によって固形分中に残留する酸や炭水化物の糖化物及び未反応物を水側に移動させた後、水相を脱液し、再び水分散を行うという工程を適当回数繰り返すことによって、リグノフェノール誘導体を含む固形物の脱酸・洗浄を行うことができる。なお、前段の解砕、極微細化工程においては、装置槽内にリグノフェノール誘導体を含む固形分が残留する。したがって、これらの装置槽内を水で洗浄した後の排出液を1回目の水分散工程での水分散液として利用することによって、リグノフェノール誘導体を含む固形物の回収率を高めることができる。但し、この排出液は、解砕、極微細化の装置槽内に残留する酸も含むため、脱酸効率の面から、2回目以降の水分散工程での水分散液として用いるのは好ましくない。
【0034】
水分散の後に脱液を行う方法としては、例えば、充分に撹拌した水分散スラリーを適当な時間静置して固形分を沈降させた後、上澄み液を排出するという方法を採用することができる。上澄み液を排出した後に、清水を添加して再び水分散を行うという工程を適当回数繰り返すことができる。この方法は、分散槽と撹拌機のみの設備で実施が可能なので簡便な方法であるが、上澄み液の排出時にリグノフェノール誘導体を含む固形分の一部が一緒に排出されてしまうので、リグノフェノール誘導体を含む固形物の回収率が低下するという問題がある。
【0035】
そこで、本発明の好ましい態様においては、充分に撹拌した水分散スラリーを、固液分離装置によって固形分と液分とに分離した後(d)、必要に応じて固形分を再び水分散にかけるという工程を適当回数繰り返すことにより、リグノフェノール誘導体を含む固形物の脱液効率、即ち脱酸効率を向上させると共に、固形物の損失を防止することができる。リグノフェノール誘導体を含む固形物は粘着性を有しているので、一般に用いられているデカンタ等の固液分離装置を用いたのでは、よい脱液効果が得られない。また、遠心脱水機では、リグノフェノール誘導体を含む固形物の脱液は可能であるが、バスケットに布設する濾布が立体縫製であるので、脱液後の固形物の取出しが困難で、濾布表面に多くの固形物が残留してしまう。また、濾布の洗浄の際にも、固形物が付着した表面のみを洗浄することは困難である場合が多い。そこで、本発明の好ましい態様においては、リグノフェノール誘導体を含む固形物の水分散スラリーを、濾過装置を用いて固液分離することが好ましい。これによって、粘着性のあるリグノフェノール誘導体を含む固形物を厚密させることなく脱水することが可能となる。かかる目的で用いることのできる濾過装置としては、真空濾過装置が好ましく、適当な量の液を溜めた後に真空濾過を行うことのできる、液の貯留が可能な構造を有する真空濾過装置が更に好ましい。このような構造の濾過装置を用いることにより、粘着質のリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物のケーキ厚を確保して、剥離・回収性を上げることが可能になる。また、濾過の際には、真空によって濾過・脱液を行った後、適当な時間加圧することにより、固形物の脱液を更に進めて、ケーキの剥離性を向上することも可能である。また、濾過に際して、平板状の濾布を用いると、脱液後の固形物の剥離性が向上し、濾布表面に残留する固形物の洗浄も容易になるので好ましい。濾布の洗浄水は、固液分を繰り返し洗浄する際の水分散液として使用することができる。
【0036】
また、脱酸・洗浄工程(7)においては、槽内に撹拌機構を有し、底部に濾過フィルタを有する装置を使用することによって、水分散と固液分離とを同一の装置槽内で行うことも可能である。この場合、槽内に、解砕・微細化によって得られたスラリーを投入した後、適当量の清水を加え、充分に撹拌した後、槽内底部のフィルタによってリグノフェノール誘導体を含む固形物と、酸分等が移動・希釈した水相を濾過・分離することができる。この場合、添加する水の量は、固液分離で得られたリグノフェノール誘導体を含む固形物の5倍〜10倍量(重量比)とすることが好ましい。
【0037】
上記に説明したように、脱酸・洗浄は、分散水の上澄み液、或いは水分散後の固液分離で得られる水相(濾液)の酸濃度が低くなるまで繰り返すことが好ましい。具体的には、上澄み液又は濾液のpHが5以上になるまで、脱酸・洗浄工程を繰り返すことが好ましい。本発明者らが行った実機試験によれば、上述の本発明の構成によれば、水分散−固液分離を4〜8回繰り返すことで、濾液のpHを5以上にすることができた。
【0038】
乾燥(8)
リグノフェノール誘導体を含む固形物の脱酸・洗浄が終了したら、固形分を回収して乾燥する。リグノフェノール誘導体がアセトンに溶解する性質を利用して、回収されるリグノフェノール誘導体を含む固形物にアセトンを混合して、リグノフェノール誘導体のみを抽出し、抽出液を木材等の材料に含浸させて使用することが可能であるが、この場合、アセトンとの混合の際に水分が残留していると、リグノフェノール誘導体を含む固形物に残留する糖分が水分を介してアセトンに溶解し、純粋なリグノフェノール誘導体・アセトン溶液の生成が困難になる。したがって、リグノフェノール誘導体を含む固形物は、含水率5%以下程度にまで乾燥させることが好ましい。
【0039】
従来は、リグノフェノール誘導体を含む固形物の乾燥には、主として自然乾燥が用いられ、充分な乾燥を行うためには1週間〜数ヶ月の日数を要していた。本発明においては、乾燥に要する時間を削減し、生産効率を上げるため、まず、固形物を自然風乾燥又は温風送風乾燥することによって含水率50%以下に粗乾燥した後、含水率10%以下に高乾燥することが好ましい。粗乾燥時のリグノフェノール誘導体の品温は60℃以下とすることが好ましく、リグノフェノール誘導体の品質向上の為には40℃以下とすることが好ましい。粗乾燥に際しては、固形物を吸水性物質の上に広げて、自然風又は温風乾燥を行うことが好ましい。高乾燥は、例えば、真空マイクロ波乾燥機を用いて、含水率50%以下に粗乾燥したリグノフェノール誘導体を含む固形分を、乾燥機の乾燥室内に投入し、室内を減圧して水の蒸発温度を40℃以下にした後、乾燥室内の固形物にマイクロ波を照射して含有水分に熱を与えて蒸発させることによって行うことができる。また、乾燥室内において、遠赤外線の照射を併用すると、更に乾燥効率を向上させることができる。
【0040】
以上の工程によって得られるリグノフェノール誘導体は、石油代替の高分子素材として、種々の分野で利用することが期待されている。
【0041】
本発明は、また、上記の方法を実施するための装置にも関する。即ち、本発明の他の態様は、リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を固液分離して得られる固形物を受容して、固形物の解砕を行う解砕装置;解砕された固形物に水を加えて撹拌する撹拌槽;撹拌槽から回収される水スラリーを受容して固液分離を行う固液分離装置;を具備することを特徴とする、リグノフェノール誘導体の回収装置に関する。また、本発明は、リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を固液分離する第1の固液分離装置;前段の固液分離によって回収される固形物を受容して、固形物の解砕を行う解砕装置;解砕された固形物に水を加えて撹拌する撹拌槽;撹拌槽から回収される水スラリーを受容して固液分離を行う第2の固液分離装置;を具備することを特徴とする、リグノフェノール誘導体の回収装置にも関する。更には、本発明は、フェノール誘導体が含浸されたリグノセルロース系物質を受容し、酸を加えて反応させる酸処理槽;酸処理槽より回収されるリグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を受容して固液分離を行う第1の固液分離装置;前段の固液分離によって回収される固形物を受容して、固形物の解砕を行う解砕装置;解砕された固形物に水を加えて撹拌する撹拌槽;撹拌槽から回収される水スラリーを受容して固液分離を行う第2の固液分離装置;を具備することを特徴とする、リグノフェノール誘導体の回収装置にも関する。
【実施例】
【0042】
以下の実施例によって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0043】
実施例1
スギのチップを粉砕した後、乾燥して0.2〜2mmに篩い分けたスギ木粉を原料として用いた。スギ木粉150kgを円錐型リボン混合機(大川原製作所社製のリボコーン)に入れ、1500Lのアセトンを加えて約6時間撹拌した後、1昼夜放置することにより、1回目の脱脂処理を行った。1000Lのアセトンを排出し、排出量と等量のアセトン(1000L)を再び加えて約4時間撹拌することにより、2回目の脱脂処理を行った。1000Lのアセトンを排出し、p−クレゾール75kg及びアセトン800Lの混合液を加えて、4時間十分に撹拌することにより、スギ木粉にp−クレゾールを含浸させた。24時間放置した後、槽内を減圧して残留するアセトンを十分に乾燥させた(約1日間)。なお、上記の脱脂及びp−クレゾール含浸は、室温(15℃)で行った。p−クレゾールが含浸されたスギ木粉225kgが得られた。
【0044】
このp−クレゾール含浸スギ木粉22.5kgを反応撹拌槽に入れ、72%硫酸をスギ木粉に対して5倍量である75L加えて酸処理を行った。酸処理に使用する反応撹拌槽及び添加する硫酸は、予め30℃に保温したものを使用した。混合液を反応槽内で1時間十分に撹拌して反応を進行させた後、無孔式底部排出型遠心分離機で固液分離処理にかけた。10分ほどの分離時間を経た後、遠心分離機内で、固相であるフェノール誘導体は内側(中心側)に、液相である硫酸糖溶液は外側(円周側)に分離された。遠心分離機の回転を停止すると、液相である硫酸糖溶液は遠心分離機の下部に設けられた排出口から排出された。固相であるリグノフェノール誘導体は、遠心分離機のバスケット内にベルト状に残留していたので、これを遠心分離機に設置した掻き取り装置で切り落として排出部に落とし込んだ。
【0045】
分離されたリグノフェノール誘導体を含む固形物35kgを、解砕装置(太平洋機工製、ハイスピーダ)に移し、約70Lの水を加えて解砕処理することによって水中に分散させた。分散液をラインミキサ(太平洋機工製、ファインフローミル)に通して固形分を0.1mm以下に極微細化した後、液を撹拌しながら最終的に200Lの分散液となるように水を投入した。この分散液を真空濾過装置で濾過することを繰り返すことで、硫酸分及び糖分を除去したリグノフェノール誘導体を固形分として回収した。
【0046】
従来は、このリグノフェノール誘導体の水洗浄を行うにあたって、解砕のみを行った後に水分散を行い、2時間程度撹拌した後に1昼夜静置し、翌日にリグノフェノール誘導体を含む固形分が自然沈降した状態で上澄み液を排出し、清水を再添加して撹拌する、という工程を繰り返しており、通常は十分に硫酸が除去されたリグノフェノール誘導体(硫酸の除去は、分散液のpHが5以上となることで判断する)を回収するまでに10日程度の時間がかかり、更に上澄み液中に固形分が残ってしまうため、回収率も十分に高くはなかった。これに対して、上記に示した本発明による方法では、解砕・極微細化を行った後に水分散を行い、分散液を真空濾過装置で濾過・脱液することにより、硫酸分を含む液分を効率よく除去できると共に、固形分のロスを最小限にすることが可能となった。また、得られたリグノフェノール誘導体を再び水分散させて真空濾過するという処理を繰り返すことにより、リグノフェノール誘導体に残留する硫酸分を効率よく完全に除去することが可能であった。本発明においては、p−クレゾールを含浸させたスギ木粉22.5kgを酸処理した反応液から分離されたベルト状のリグノフェノール誘導体を含む固形物35kgを解砕・極微細化した後に200Lの水分散液とした溶液を真空濾過し、得られた固形分を再び200Lの水で分散し、真空濾過するという工程を5〜7回繰り返すことで、濾液のpHが5以上となり、硫酸の十分な除去が認められ、従来10日程度を要していたリグノフェノール誘導体の脱酸・洗浄工程を1日程度で完了することができた。また、最終的に得られたリグノフェノール誘導体の量は6.5kg(乾物換算)であり、従来の2倍の収率を得ることができた。
【0047】
実施例2
スギのチップを粉砕した後、乾燥して0.2〜2mmに篩い分けたスギ木粉を原料として用いた。スギ木粉150kgを円錐型リボン混合機(大川原製作所社製のリボコーン)に入れ、1500Lのアセトンを加えて約6時間撹拌した後、1昼夜放置することにより、1回目の脱脂処理を行った。1000Lのアセトンを排出し、排出量と等量のアセトン(1000L)を再び加えて約4時間撹拌することにより、2回目の脱脂処理を行った。1000Lのアセトンを排出し、p−クレゾール215kg(スギ木粉1kg当たり1.4kgに相当)及びアセトン780Lの混合液を加えて、4時間十分に撹拌することにより、スギ木粉にp−クレゾールを含浸させた。24時間放置した後、槽内の余剰のp−クレゾール・アセトン溶液を1000L排出すると、スギ木粉に所定量のp−クレゾールが残留する。余剰液排出が完了した後、槽内を減圧して残留するアセトンを十分に乾燥させた(約1日間)。なお、上記の脱脂及びp−クレゾール含浸は、室温(15℃)で行った。p−クレゾールが含浸されたスギ木粉220kgが得られた。
【0048】
このp−クレゾール含浸スギ木粉22kgを反応撹拌槽に入れ、72%硫酸をスギ木粉に対して5倍量である72L加えて酸処理を行った。酸処理に使用する反応撹拌槽及び添加する硫酸は、予め30℃に保温したものを使用した。混合液を反応槽内で1時間十分に撹拌して反応を進行させた後、無孔式底部排出型遠心分離機で固液分離処理にかけた。10分ほどの分離時間を経た後、遠心分離機内で、固相であるフェノール誘導体は内側(中心側)に、液相である硫酸糖溶液は外側(円周側)に分離された。遠心分離機の回転を停止すると、液相である硫酸糖溶液は遠心分離機の下部に設けられた排出口から排出された。固相であるリグノフェノール誘導体は、遠心分離機のバスケット内にベルト状に残留していたので、これを遠心分離機に設置した掻き取り装置で切り落として排出部に落とし込んだ。
【0049】
分離されたリグノフェノール誘導体を含む固形物35kgを、解砕装置(太平洋機工製、ハイスピーダ)に移し、約70Lの水を加えて解砕処理することによって水中に分散させた。分散液をラインミキサ(太平洋機工製、ファインフローミル)に通して固形分を0.1mm以下に極微細化した後、液を撹拌しながら最終的に200Lの分散液となるように水を投入した。この分散液を真空濾過装置で濾過することを繰り返すことで、硫酸分及び糖分を除去したリグノフェノール誘導体を固形分として回収した。
【0050】
従来は、このリグノフェノール誘導体の水洗浄を行うにあたって、解砕のみを行った後に水分散を行い、2時間程度撹拌した後に1昼夜静置し、翌日にリグノフェノール誘導体を含む固形分が自然沈降した状態で上澄み液を排出し、清水を再添加して撹拌する、という工程を繰り返しており、通常は十分に硫酸が除去されたリグノフェノール誘導体(硫酸の除去は、分散液のpHが5以上となることで判断する)を回収するまでに10日程度の時間がかかり、更に上澄み液中に固形分が残ってしまうため、回収率も十分に高くはなかった。これに対して、上記に示した本発明による方法では、解砕・極微細化を行った後に水分散を行い、分散液を真空濾過装置で濾過・脱液することにより、硫酸分を含む液分を効率よく除去できると共に、固形分のロスを最小限にすることが可能となった。また、得られたリグノフェノール誘導体を再び水分散させて真空濾過するという処理を繰り返すことにより、リグノフェノール誘導体に残留する硫酸分を効率よく完全に除去することが可能であった。本発明においては、p−クレゾールを含浸させたスギ木粉22.5kgを酸処理した反応液から分離されたベルト状のリグノフェノール誘導体を含む固形物35kgを解砕・極微細化した後に200Lの水分散液とした溶液を真空濾過し、得られた固形分を再び200Lの水で分散し、真空濾過するという工程を5〜7回繰り返すことで、濾液のpHが5以上となり、硫酸の十分な除去が認められ、従来10日程度を要していたリグノフェノール誘導体の脱酸・洗浄工程を1日程度で完了することができた。また、最終的に得られたリグノフェノール誘導体の量は6.5kg(乾物換算)であり、従来の2倍の収率を得ることができた。
【0051】
実施例3
実施例1と同じ円錐型リボン混合機(大川原製作所社製のリボコーン)で脱脂・乾燥処理のみ実施することによって得られたスギ木粉1kgをレーディゲミキサー(独レーディゲ社製FMK型)に入れ、撹拌しながら、p−クレゾール0.5kgを溶解したアセトン溶液4Lを散布することによって、スギ木粉へのp−クレゾールの含浸処理を行った。この結果、p−クレゾールの含浸及び溶剤の乾燥工程が、スギ木粉を約10倍量のp−クレゾール溶液中に投入する実施例1の方法では2日以上かかったのに比べて、合計で1時間と大幅に短縮できた。更に、少量のp−クレゾール溶液の使用で、スギ木粉へp−クレゾールがよく分散・含浸し、この処理によって得られたp−クレゾール含浸木粉を実施例1と同様の手順で処理したところ、実施例1と同等以上の収率、品質でリグノフェノール誘導体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、リグノセルロース系物質を処理して、リグノフェノール誘導体及び糖を効率よく分離回収することができる。また、本発明の他の態様によれば、酸処理後の反応液を固液分離して得られる固形分を、解砕・極微細化処理した後に水分散することにより、リグノフェノール誘導体の回収及び残留する酸の洗浄除去を、従来法よりも極めて効率的に且つ短時間で行うことができる。更に、本発明の他の態様によれば、リグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸工程において、木粉を撹拌しながら、1倍量〜5倍量程度のフェノール誘導体の溶液を散布するという方法を採用することにより、有機溶剤の使用量を削減すると共に、含浸工程にかかる時間を大幅に短縮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を、固液分離にかけることによって、固相のリグノフェノール誘導体と、液相の酸及び糖の混合液とを分離し、分離されたリグノフェノール誘導体を脱酸・洗浄することを特徴とする、リグノフェノール誘導体及び酸・糖溶液を調製する方法。
【請求項2】
フェノール誘導体が含浸されたリグノセルロース系物質に酸を加えて、20℃〜40℃で反応させることによって、リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を得る請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応中の温度を一定温度に保持する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
酸として濃度65%以上の濃硫酸を加える請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液の固液分離を、無孔式底部排出型遠心分離機によって行う請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液の固液分離によって固相として得られるリグノフェノール誘導体を、水を加えて解砕することによって微細化スラリーとし、次に得られた微細化スラリーを水中に分散した後に、固形分を回収することを特徴とする、リグノフェノール誘導体の回収方法。
【請求項7】
微細化スラリーを水中に分散した後に、濾過装置で第2の固液分離処理にかけることによって固形分を回収する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
回収された固形分を、60℃以下の温度で粗乾燥した後、真空マイクロ波乾燥装置によって高乾燥する工程を更に含む請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
回収された固形分を、粗乾燥によって含水率50%以下に乾燥し、高乾燥によって含水率10%以下に乾燥する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
粉砕されたリグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させる方法であって、粉砕されたリグノセルロース系物質を撹拌しながら、これに、有機溶剤中にフェノール誘導体を溶解した溶液を、リグノセルロース系物質1kg当たり1〜5Lの量加えることを特徴とする方法。
【請求項11】
リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を固液分離して得られる固形物を受容して、固形物の解砕を行う解砕装置;解砕された固形物に水を加えて撹拌する撹拌槽;撹拌槽から回収される水スラリーを受容して固液分離を行う固液分離装置;を具備することを特徴とする、リグノフェノール誘導体の回収装置。
【請求項12】
リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を固液分離する第1の固液分離装置;前段の固液分離によって回収される固形物を受容して、固形物の解砕を行う解砕装置;解砕された固形物に水を加えて撹拌する撹拌槽;撹拌槽から回収される水スラリーを受容して固液分離を行う第2の固液分離装置;を具備することを特徴とする、リグノフェノール誘導体の回収装置。
【請求項13】
第1の固液分離装置が無孔式底部排出型遠心分離機である請求項12に記載の装置。
【請求項14】
フェノール誘導体が含浸されたリグノセルロース系物質を受容し、酸を加えて反応させる酸処理槽;酸処理槽より回収されるリグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を受容して固液分離を行う第1の固液分離装置;前段の固液分離によって回収される固形物を受容して、固形物の解砕を行う解砕装置;解砕された固形物に水を加えて撹拌する撹拌槽;撹拌槽から回収される水スラリーを受容して固液分離を行う第2の固液分離装置;を具備することを特徴とする、リグノフェノール誘導体の回収装置。
【請求項15】
酸処理槽が、反応中の温度を一定に保持する手段を具備することを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
第1の固液分離装置が無孔式底部排出型遠心分離機である請求項14又は15に記載の装置。
【請求項17】
フェノール誘導体が含浸されたリグノセルロース系物質と酸とを反応させて、リグノフェノール誘導体及び酸・糖溶液を生成するための酸処理反応装置であって、フェノール誘導体が含浸されたリグノセルロース系物質と酸とを受容して反応を行わせる反応槽;前記反応槽の外側に設けられた温水ジャケット;温水ジャケットへ温水を供給・排出するための手段;反応槽内の内容物の温度を測定する装置;前記温度測定装置によって測定された内容物の温度に応じて、温水ジャケットへ供給する温水の温度及び流量を調整する制御手段;を設けたことを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/042586
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515195(P2005−515195)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016222
【国際出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(395018778)機能性木質新素材技術研究組合 (17)
【Fターム(参考)】