説明

リステリア・モノサイトジェネス(Listeriamonocytogenes)の検出法

【課題】
リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)を特異的、高感度かつ迅速に検出する方法を提供すること。
【解決手段】
リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)に由来する塩基配列から設計された任意の塩基配列と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、核酸増幅の検出によるリステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)検出方法、並びにリステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)検出用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)の検出方法に関し、さらに詳しくは遺伝子の、高感度な検出法を利用したリステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)の食品への汚染および感染症の診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リステリア症(Listeriosis)は、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes、以下L.monocytogenes)を原因とする感染症で、ヒトおよび動物共通に敗血症、脳髄膜炎など重篤な症状を引き起こし、重症まで進んだ場合の致死率が高い(20〜30%)。高齢者や乳幼児などのCompromised Host(免疫力弱者)の重症化率は高く、妊婦に感染した場合は高率に流産となることが知られている。
【0003】
本感染症が食品衛生上注目されるようになったのは1980年代からで、欧米諸国で野菜サラダ、乳製品、食肉加工品などの食品を介したヒトにおける集団感染事故(数百名の死亡例も含む大規模なもの)が相次いで報告されたことによる。アメリカで1983年に牛乳、1985年にソフトチーズによる集団発生が報告され、乳および乳製品の汚染は国際問題となった。そのため、1988年1月に国際酪農連盟(IDF)が暫定的な培養法による試験法(IDF143)を示し、日本でもこの方法に準じた検査法を、1993年旧厚生省からチーズ中のL.monocytogenesの検査法として公示した(「乳及び乳製品のリステリアの汚染防止等について」衛乳第169号)。
【0004】
培養法による検出・分離法は、まだ世界的に統一されておらず、使用する培地や培養時間が少しずつ異なる方法が大分して三つ存在する。上述のIDF提唱の方法、ISO(国際規格)法、そして米国におけるFDA法(食品全般)およびUSDA-FSIS法(食肉、卵およびその製品)であるが、将来的にISO法に移行するように提案されている。いずれの方法も、最終的な分離・同定までに1週間以上の日数を要しているのが現状である。
【0005】
リステリア属菌はグラム陽性、通性嫌気性の非芽胞短桿菌で、30℃以下で培養した場合、鞭毛が発育し運動性を示す。最適発育温度は30〜37℃であるが-0.4〜45℃の広い温度域で発育可能である。熱抵抗性はSalmonellaやE.coliなど他の芽胞非形成菌と比べてやや高く、発育pH域も広く(pH4.4〜9.4)、高濃度の食塩(10%)にも抵抗する。そのため、加工直後には問題ない汚染菌量であっても、低温下での流通および末端(消費者)での保存の過程において、発症に十分な菌量にまで増殖可能であるため、管理が非常に厄介である食中毒原因菌と言える。
【0006】
リステリア属菌には6菌種が分類されており、このうちヒトへの病原性が知られているのはL.monocytogenesのみである。L.monocytogenes以外のListeria属菌は、L.innocua、L.ivanovii、L.seeligeri、L.welshimeri、L.grayiの5菌種であるが、食品への汚染はこれらL.monocytogenes以外のリステリア属菌で汚染されている場合も多いため、これらとの鑑別が重要となる。
【0007】
L.monocytogenesは12種類の菌体抗原(O抗原)と、4種類の鞭毛抗原(H抗原)の組み合わせにより、13の血清型(1/2a、1/2b、1/2c、3a、3b、3c、4a、4ab、4b、4c、4d、4e、7)に型別されている。各国の調査から、ヒトのリステリア症由来株(臨床分離株)の大部分が特定の血清型に限定されていることが知られており、1/2a、1/2b、4bの3つの血清型の合計が全体の90%以上を占めている。日本においては、約60%が4bである。それに対し、食品由来株ではそのほとんどが1/2a、1/2b、1/2cで、次いで4bも分離される程度であり、経口感染するにも拘わらず、原因となる食品由来株と、発症者から分離される株の血清型分布が必ずしも一致しない。その原因は未だ不明の部分が多いが、感染から発症の基序に関わる何らかの選択性(血清型1/2a、1/2b、1/2cに対する抵抗性など)や、各血清型における抗生物質に対する抵抗性の差違が推測されている。食品から分離される血清型としては、4bを筆頭に1/2b、1/2aの順に重要とされており、食品検査においてはこれらの血清型を検出することが必須となる。
【0008】
日本では大規模な食中毒事故は発生しておらず、欧米と比較してリステリア症は少ないとされている。しかし、内閣府食品安全委員会による「食品由来のリステリア菌の健康被害に関する研究」(主任:五十君靜信・国立医薬品食品衛生研究所)では、重症のリステリア症発生件数が年間で約80件で、件数としてはやや少ないが欧米とほぼ同様に発生していることが示されている。同研究によると日本の食品の汚染状況は食肉やReady-to-eat食品を中心に欧米とほぼ同様であり、生肉からは30〜40%という高い確率で菌が分離され、特に鶏肉で高い汚染率となる傾向が認められている。輸入ナチュラルチーズの汚染率は約3%と低い値であるが、汚染しているもののほとんどが異常に高い菌数を示しており、危険度が高い。日本では十分加熱する調理法が浸透しているために、事故発生率が低いと推測されているが、生活・文化の多様化により日本でも大規模な食中毒事故がいつ発生しておかしくない状況であると言える。
【0009】
現在、培養法以外の検出法として用いられるキットは多種類市販されており、それらの感度が105〜106CFU/mL程度である。食品の汚染菌量は、通常1gあたり10CFU未満であるため、増菌操作は必須であり、どのキットも試料を得るまでに30〜52時間の前培養が必要とされる。前増菌培養に用いられる選択増菌培地はそれぞれのキットによって指定されており、2段階増菌法を採用しているものもある。
【0010】
キットの多くは抗体を用いたELISA法で、前増菌培養後2〜4時間の操作を必要とする。より操作が簡便で、短時間で判定可能なイムノクロマト法によるキットや、免疫蛍光法によるキットが開発されているが、L.monocytogenesだけを特異的に検出できないなど特異性の問題や、高価な専用自動測定装置を必要とするなど、広範に普及する状況には至っていない。
【0011】
遺伝子を標的とした検査試薬としてはDNAプローブ法やReal-time PCR法を用いたものがあり、上述の抗体を用いた検出法と比較して高い検出感度と特異性を有している。米国のFDA-FSIS(米国農務省食品安全検査局)では、特異的なPCR産物の変性する温度(メルティング温度)を検出することにより、ゲル電気泳動解析なしに特異的検出を行う「BAX System」によるL.monocytogenesのスクリーニング法を導入しており、信頼性の高い検査法として受け入れられているようである。しかし、この方法も煩雑な操作と時間、そして高価な専用測定装置が必要とされる。
【0012】
また、キット化は実施されていないが、学術的に信頼が高く、培養法との併用で確定補助手段として使用されているPCRプライマーセットがある。iap遺伝子(侵入性関連遺伝子、以下iap遺伝子)を標的としたPCR(Mono A/B、増幅産物:371bp、非特許文献1)や、溶血毒素 Listeriolysin OをコードするHly遺伝子を標的としたPCR(Hly A/B、増幅産物:730bp、非特許文献2)などは、数多くの学術文献で紹介されており、広い範囲で使用されている。しかし、これら方法も煩雑な操作と時間が必要とされている。
【0013】
このようにL.monocytogenes検査においてPCR法は信頼性の高い方法として認知されているが、さらなる感度の向上と迅速かつ簡便な遺伝子検出法が必要とされている。
本発明者らは、現在知られている方法、免疫学的測定法やPCR法より高感度で特異的かつ所要時間が短い検出方法、すなわちLAMP法を用いることで、本発明の目的を達成できた。
【0014】
【非特許文献1】Bubert A, Kohler S, Goebel W. The homologous and heterologous regions within the iap gene allow genus- and species-specific identification of Listeria spp. by polymerase chain reaction. Appl Environ Microbiol 1992;58:2625−2632.
【非特許文献2】Johnson, W. M., S. D. Tyler, E. P. Ewan, F. E. Ashton, G. Wang, and K. R. Rozee. Detection of genes coding for listeriolysin and Listeria monocytogenes antigen A (ImaA)in Listeria spp. by the polymerase chain reaction. Microb. Path. 1992. 12:79-86.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、食品および臨床由来の検体(培養液など)から、リステリア症の原因菌であるL.monocytogenesを迅速、簡便かつ高感度、特異的に検出させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、L.monocytogenesの iap遺伝子に由来する塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、LAMP法によりL.monocytogenesに特異的な塩基配列を増幅することで、L.monocytogenesを高感度に検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)L.monocytogenesの血清型を特異的に増幅、および検出するように設計されたオリゴヌクレオチドプライマーであって、配列番号1で示されるiap遺伝子に由来する塩基配列の、721番〜1100番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
(2)L.monocytogenesのiap遺伝子に由来する塩基配列から選ばれた配列番号2〜9で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する15塩基を含む(1)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(3)L.monocytogenesのiap遺伝子の標的核酸上の3'末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5'末端側からR3、R2、R1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてR3c、R2c、R1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた少なくとも1種の塩基配列からなることを特徴とする(1)〜(2)記載のオリゴヌクレオチドプライマー

(a)標的核酸のF2領域を3'末端側に有し、5'末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のR2領域を3'末端側に有し、5'末端側に標的核酸のR1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のR3領域を有する塩基配列。
(4)L.monocytogenesに特異的なiap遺伝子塩基配列を増幅でき、5'末端から3'末端に向かい以下の(a)および/または(b)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(1)〜(2)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)5'-(配列番号2の塩基配列に相補的な塩基配列)-(塩基数0〜50の任意の塩基配列)-(配列番号3の塩基配列)-3'
(b)5'-(配列番号6の塩基配列)-(塩基数0〜50の任意の塩基配列)-(配列番号7の塩基配列に相補的な塩基配列)-3'
(5)(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、L.monocytogenesのiap遺伝子の標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするL.monocytogenesの検出方法。
(6)L.monocytogenesのiap遺伝子の標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする(5)記載のL.monocytogenesの検出方法。
(7)
(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてL.monocytogenesのiap遺伝子の標的核酸領域の増幅を検出することにより、L.monocytogenesの存在の有無を検出することを特徴とするL.monocytogenesの検出方法。
(8)L.monocytogenes検出方法において、(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、特異的、高感度かつ迅速にL.monocytogenesを検出できる。以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明において使用される試料としては、食品検体と適当な培地から得られる一次増菌培養液や二次増菌培養液、さらに分離培養における寒天培地上の発育コロニーから調製した菌懸濁液など、食品に汚染・付着したL.monocytogenesに由来する培養菌体を含む各培養段階での試料が挙げられる。L.monocytogenesの分離培養法は試験する食材の種類や国によって、その方法と用いられる培地が異なっており、日本ではEB培地(乳・乳製品)やUVM培地、ヨーロッパではHalf-Fraser培地およびFraser培地(食品および家畜飼料)、米国ではLEB培地(食品全般)やUVM培地(食肉、卵およびその製品)が各増菌培養に使用されている。現在、ヨーロッパ中心に用いられているHalf-Fraser培地およびFraser培地を用いた方法がISO/DIS 11290-1(1996)として、将来的にこの方法に移行するように提案されている。また、分離培地として、Oxford寒天培地、PALCAM寒天培地などが用いられている。
【0020】
試験食品を含む一次および二次増菌培養液を試料とする場合、タンパク質分解酵素等による食品由来タンパク質を分解後、フェノールおよびクロロホルムを用いた方法など一般的なDNA抽出・精製法はもちろん、既に市販されている抽出キット(例えばキアゲン社のDNeasy Tissue Kitや、カイノス社のExtragen IIなど)を用いて得られた抽出核酸を検体とする。もしくは、迅速な検出のため、未精製の状態のままの試料処理液を検体として使してもよい。
【0021】
このような生体由来の核酸を増幅するためには、近年、納富らが開発した、PCR法で不可欠とされる温度制御が不要な新しい核酸増幅法:LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法と呼ばれるループ媒介等温増幅法(特許公報国際公開第00/28082号パンフレット)で達成させられる。この方法は、鋳型となるヌクレオチドに自身の3'末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした核酸増幅法である。また、LAMP法では、プライマーの3'末端が常に試料に由来する領域に対してアニールするために、塩基配列の相補的結合によるチェック機構が繰り返し機能するため、その結果として、高感度にかつ特異性の高い核酸増幅反応を可能としている。
【0022】
そこで、鋳型となるヌクレオチドの6領域を認識する少なくとも4種類のプライマー(2種類のインナープライマーFとR;IPFとIPR、2種類のアウタープライマー;OPFとOPR)を使用し、さらにこれとは別のプライマーであるループプライマーを用いる事ができる。ループプライマー(Loop Primer)は、ダンベル構造の5'末端側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的な塩基配列を持つプライマーである。このプライマーを用いると、核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能となる(特許文献国際公開第02/24902号パンフレット)。ループプライマーの塩基配列は上述のダンベル構造の5'末端側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的であれば、標的遺伝子の塩基配列あるいはその相補鎖から選ばれても良く、他の塩基配列でも良い。また、ループプライマーは1種類でも2種類でも良い。なお、各プライマーにおけるFとは、標的塩基配列のセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示であり、一方Rとは、標的塩基配列のアンチセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示である。ここで、プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、10塩基以上、好ましくは15塩基以上で、化学合成あるいは天然のどちらでも良く、各プライマーは単一のオリゴヌクレオチドであってもよく、複数のオリゴヌクレオチドの混合物であってもよい。
【0023】
本発明者らは、L.monocytogenesのiap遺伝子に由来する塩基配列より、配列番号1で示される塩基配列から、特異的な塩基配列を迅速に増幅できるLAMP法のプライマーの塩基配列とその組み合わせを鋭意研究した結果、iap遺伝子に由来する塩基配列の、721番〜1100番の塩基配列からすべての血清型を検出できるように以下のプライマーセットを選定した。
IPF:5'-CAGGTGCAGCTTGTTGAGTAGGCTGGCACAAAATTACTTACAACG-3' (配列番号10)
OPF:5'-GGCGCTGGTGTTGATAACAG-3' (配列番号4)
IPR:5'-CAAGCAACTACACCTGCACCGCTTTTAACAGCGTGTGTAGTAGC-3' (配列番号11)
OPR:5'-CCGTATTTTACGGATAAAGCCC-3' (配列番号12)
LPF:5'-GCTACTTTGTCAGTTAAGTATTTACCG-3' (配列番号13)
LPR:5'-AGCAGAAACGAAAGAAACTCCAG-3' (配列番号9)
【0024】
核酸合成で使用する酵素は、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であれば特に限定されない。このような酵素としては、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられ、好ましくはBst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)が挙げられる。
【0025】
LAMP反応による核酸増幅産物の検出には公知の技術が適用できる。例えば、増幅された塩基配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドや蛍光性インターカレーター法(特許文献特開2001-242169号公報)を用いたり、あるいは反応終了後の反応液をそのままアガロースゲル電気泳動にかけても容易に検出できる。アガロースゲル電気泳動では、LAMP増幅産物は、塩基長の異なる多数のバンドがラダー(はしご)状に検出される。また、LAMP法では核酸の合成により基質が大量に消費され、副産物であるピロリン酸が、共存するマグネシウムと反応してピロリン酸マグネシウムとなり、反応液が肉眼で確認できる程度に白濁する。したがって、この白濁を、反応終了後あるいは反応中の濁度上昇を経時的に光学的に観察できる測定機器、例えば400nmの吸光度変化を通常の分光光度計を用いて確認することも可能である(特許文献国際公開第01/83817号パンフレット)。
【0026】
本発明のプライマーを用いて核酸増幅の検出を行う際に必要な各種の試薬類は、あらかじめパッケージングしてキット化する事ができる。具体的には、本発明のプライマーあるいはループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド、核酸合成の基質となる4種類のdNTP、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液や塩類、酵素や鋳型を安定化する保護剤、さらに必要に応じて反応生成物の検出に必要な試薬類がキットとして提供される。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1:検出感度の確認
LAMP法と、PCR法の検出感度の比較を行った。
1.試料及び試薬の調製
1)L.monocytogenes培養菌体および精製genomic DNA
検討には、東京都健康安全研究センターから提供された血清型4b(生ハムから分離)のL.monocytogenesを用いた。羊血液寒天培地(栄研化学製)上で一晩培養した菌体から、キアゲン社のDNeasy Tissue Kitを用いて、精製genomic DNAを調製した。吸光度測定によって得られた核酸濃度と、既知の全ゲノムサイズ(2.9Mbp、GenBank No:AE017262)からコピー数濃度を決定し、以下の試験に用いた。鋳型DNAには精製genomic DNA原液を10倍ずつTE緩衝液(ニッポンジーン社製)で段階的に希釈を行い、95℃5分間加熱処理したものを用いた。
【0029】
2)PCR法に用いるプライマー
PCR法で使用するプライマーとして、Bubertらが開発したMono A/Bセットの上流側プライマー(配列番号14)と同下流側プライマー(配列番号15)、およびJohnsonらが開発したHly A/Bセットの上流側プライマー(配列番号16)と同下流側プライマー(配列番号17)をそれぞれ用いた。PCR反応液組成および反応条件は、非特許文献1及び2に記載の条件を忠実に再現した。
3)LAMP法に用いるプライマー
プライマーとしてIPF(配列番号10)、OPF(配列番号4)、IPR(配列番号11)、OPR(配列番号12)、LPF(配列番号13)、LPR(配列番号9)を用いた。
【0030】
2.核酸増幅法による反応
1)PCR法による反応
Mono A/BおよびHly A/Bセットの各PCR反応は、それぞれ前述の非特許文献に記載の方法で行った。
<Mono A/Bセット反応溶液組成および反応条件>
反応あたり各試薬が下記になるよう調製した。
・10 x Ex Taq buffer(+Mg) 5.0μL
・2.5mM dNTPs mixture 4.0μL
・dDW(滅菌超純水) 34.5μL
・100pmol/μL Mono A(配列番号14) 0.5μL
・100pmol/μL Mono B(配列番号15) 0.5μL
・5U/μL TaKaRa Ex Taq HS 0.5μL
反応溶液に各希釈段階の検体5.0μLを加え、最終反応液量50.0μLとして各PCR反応を行った。PCR反応の温度サイクル条件は、94℃3分静置後、熱変性94℃1分、アニーリング56℃45秒、ポリメラーゼ伸長反応72℃45秒を1サイクルとして、計30サイクル行い、最後に72℃8分間静置後、反応を終了した。所要時間は約2時間であった。反応終了後の反応溶液10μLを2%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色した。Mono A/B PCRでの特異的な増幅産物の分子サイズは、371bpである。
【0031】
<Hly A/Bセット反応溶液組成および反応条件>
・10 x Taq buffer(−Mg)5.0μL
・25mM MgCl2 4.0μL
・2.5mM dNTPs mixture4.0μL
・dDW(滅菌超純水)30.9μL
・100pmol/μL 9/5 F(配列番号16) 0.5μL
・100pmol/μL 9/5 R(配列番号17) 0.5μL
・5 U/μL TaKaRa Ex Taq 0.1 μL
反応溶液に各希釈段階の検体5.0μLを加え、最終反応液量50.0μLとして各PCR反応を行った。PCR反応の温度サイクル条件は、94℃3分静置後、熱変性94℃1分、アニーリング55℃1分、ポリメラーゼ伸長反応72℃1分を1サイクルとして計30サイクル行い、最後に72℃2分間静置後、反応を終了した。所要時間は約2時間30分であった。反応終了後の反応溶液10μLを2%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色した。Hly A/B PCRでの特異的な増幅産物の分子サイズは、730bpである。
【0032】
2)LAMP法による反応
LAMP法による増幅のため、最終反応溶液25μL中の各試薬濃度が下記になるよう調製した。なお、プライマーの合成はオペロンバイオテクノロジー社に依頼し、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)精製したものを使用した。
反応溶液組成
・20mM Tris-HCl pH8.8
・10mM KCl
・6mM MgSO4
・1.0mM dNTPs
・10mM (NH42SO4
・0.2M Betaine(SIGMA)
・1.0% Tween20
・1.6μM IPF(配列番号10)
・1.6μM IPR(配列番号11)
・0.4μM OPF(配列番号4)
・0.4μM OPR(配列番号12)
・0.8μM LPF(配列番号13)
・0.8μM LPR(配列番号9)
・8U Bst DNA polymerase(NEB)
【0033】
LAMP反応は上記試薬20μLに、各濃度の試料溶液5μLを加え、最終反応溶液25μLとして、0.2mLの専用チューブ内で65℃で60分間、リアルタイム濁度測定装置LA-200(栄研化学)を用いて、リアルタイムに反応を検出した。図1に示したように、LAMP法ではL.monocytogenes genomic DNAを反応あたり6コピーを、60分以内に検出することが可能であった。比較として行ったふたつのPCRは、Mono A/Bで反応あたり6,000コピー(図2)、Hly A/Bで反応あたり60コピーまで検出可能であった(図3)。対照としたふたつのPCR法と比較して、LAMP法がより高感度に検出することが可能であった。また、約2時間の増幅反応とさらに電気泳動分析が必要なPCR法と比較して、迅速性においてもLAMP法が優れていた。
【0034】
実施例2:LAMP法増幅産物の確認
L.monocytogenes血清型4bの培養菌体から精製したgenomic DNAを鋳型として、上記プライマーセットで増幅したLAMP産物について、電気泳動及び制限酵素PstIでの確認を行った。制限酵素PstIは鋳型となるL.monocytogenesのiap遺伝子に由来する標的塩基配列の一部を選択的に認識し切断するものであり、上記プライマーセットの各塩基配列を認識するものではない。図4は、電気泳動の結果を表す図である。LAMP反応終了後の反応溶液1μLを2%アガロースゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色した。図4のレーン2から明らかなように、LAMP産物特有のラダーパターンが確認された。また、PstIで処理したサンプル(レーン3)では、消化が確認された。以上の結果から、標的塩基配列が特異的に増幅されていることが明らかとなった。
【0035】
実施例3:プライマーの特異性(各血清型)
4b以外の血清型のL.monocytogenesについても反応性を確認するため、1/2a、1/2b、1/2c、3a、3b、4a、4c、4d、4eの各血清型株についても、実施例1-1)「L.monocytogenes培養菌体および精製genomic DNA」に記載と同じ操作により、それぞれ血清型株の精製genomic DNAを調製し、コピー数濃度を決定した。血清型4bも含め、すべての血清型について、反応あたりのコピー数を60コピーに固定し、上述と同様にLAMP法による反応を行った。図5に示したように、試験したすべての血清型のgenomic DNA 60コピーを鋳型として増幅可能であり、同時にすべて60分以内に検出することが可能であった。また、図6に示したように、試験したすべての血清型から得られた増幅産物はすべて同様なLAMP産物特有のラダーパターンが確認された。また、図7に示したように、試験したすべての血清型から得られた増幅産物をPstIで処理したサンプルにおいても、消化が確認され、同じ消化パターンとなることが確認された。以上の結果から、試験したすべての血清型のL.monocytogenesの標的塩基配列が増幅されていることが明らかとなった。
【0036】
実施例4:プライマーの特異性(他のListeria属菌および他菌種)
さらに特異性を確認するため、L.monocytogenes以外のListeria属菌と、一般的な食中毒原因菌や腸内細菌を合わせ、計66菌種128菌株について反応性を検討した。L.monocytogenes以外のListeria属菌としては、リステリア・イノクア(Listeria innocua)、リステリア・イワノヴィ(Listeria ivanovii)、リステリア・グレイ(Listeria grayi)、リステリア・シーリジェリ(Listeria seeligeri)、リステリア・ウェルシメリ(Listeria welshimeri)の5菌種があり、中でもリステリア・イノクア(Listeria innocua)がL.monocytogenesと遺伝的に相同性が高いことが知られている。一般的な食中毒原因菌や腸内細菌として、腸管出血性大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、赤痢菌など重要な食中毒原因菌のほか、緑膿菌や枯草菌など環境に広く普遍的に存在する菌種を多数選択した。それら菌体から抽出・精製したgenomic DNA、または培養菌体を加熱処理したものを、十分過剰量の60,000〜600,000コピー(または CFU)をDNAサンプルとしてLAMP反応溶液に加えて、反応するか確認を行った。表1に示したように、試験した66菌種128菌株はすべてまったく反応を示さず、良好な特異性が確認された。以上のように、設計したプライマーセットはL.monocytogenesを特異的に認識し、近縁菌種をふくめ、他菌種とは交差性を示さないことが明らかとなった
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、L.monocytogenesに特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、LAMP法によりL.monocytogenesに特異的な塩基配列を増幅することで、L.monocytogenesを特異的、高感度かつ迅速に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】リアルタイム濁度法によるLAMP法の検出感度を示す。横軸は時間(分)、縦軸は400nmでの吸光度(濁度)である。
【図2】Mono A/B PCR法による検出感度を示す電気泳動図。左からレーン1:マーカー(TaKaRa 100bp Ladder Marker)、レーン2:600,000コピー、レーン3:60,000コピー、レーン4:6,000コピー、レーン5:600コピー、レーン6:60コピー、レーン7:6コピー、レーン8:鋳型なし
【図3】Hly A/B PCR法による検出感度を示す電気泳動図。図2の符号と同一である。
【図4】LAMP増幅産物および制限酵素PstIによる消化物の電気泳動図。左からレーン1:マーカー(TaKaRa 100bp Ladder Marker)、レーン2:LAMP産物(PstI未消化)、レーン3:LAMP産物(PstI消化)
【図5】リアルタイム濁度法によるLAMP法の特異性を示す。 横軸は時間(分)、縦軸は400nmでの吸光度(濁度)である。
【図6】各血清型LAMP増幅産物の電気泳動図(PstI未消化)。左からレーン1:マーカー(TaKaRa 100bp Ladder Marker)、レーン2:血清型1/2a由来LAMP産物、レーン3:血清型1/2b由来LAMP産物、レーン4:血清型1/2c由来LAMP産物、レーン5:血清型3a由来LAMP産物、レーン6:血清型3b由来LAMP産物、レーン7:血清型4a由来LAMP産物、レーン8:血清型4b由来LAMP産物、レーン9:血清型4c由来LAMP産物、レーン10:血清型4d由来LAMP産物、レーン11:血清型4e由来LAMP産物、レーン12:マーカー(TaKaRa 100bp Ladder Marker)
【図7】各血清型LAMP増幅産物の制限酵素PstIによる消化物の電気泳動図(PstI消化)、図6の符号と同一である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)の血清型を特異的に増幅、および検出するように設計されたオリゴヌクレオチドプライマーであって、配列番号1で示されるiap遺伝子(侵入性関連遺伝子)に由来する塩基配列の、721番〜1100番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項2】
リステリア・モノサイトジェネス(isteria monocytogenes)のiap遺伝子(侵入性関連遺伝子)に由来する塩基配列から選ばれた配列番号2〜9で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する15塩基を含む請求項1記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項3】
リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)のiap遺伝子(侵入性関連遺伝子)の標的核酸上の3'末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5'末端側からR3、R2、R1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてR3c、R2c、R1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた少なくとも1種の塩基配列からなることを特徴とする請求項1〜2記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3'末端側に有し、5'末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のR2領域を3'末端側に有し、5'末端側に標的核酸のR1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のR3領域を有する塩基配列。
【請求項4】
リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)に特異的なiap遺伝子(侵入性関連遺伝子)塩基配列を増幅でき、5'末端から3'末端に向かい以下の(a)および/または(b)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする請求項1〜2記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)5'-(配列番号2の塩基配列に相補的な塩基配列)-(塩基数0〜50の任意の塩基配列)-(配列番号3の塩基配列)-3'
(b)5'-(配列番号6の塩基配列)-(塩基数0〜50の任意の塩基配列)-(配列番号7の塩基配列に相補的な塩基配列)-3'
【請求項5】
請求項1〜4記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)のiap遺伝子(侵入性関連遺伝子)の標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするリステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)の検出方法。
【請求項6】
リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)のiap遺伝子(侵入性関連遺伝子)の標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする請求項5記載のリステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)の検出方法。
【請求項7】
請求項1〜4記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてリステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)のiap遺伝子(侵入性関連遺伝子)の標的核酸領域の増幅を検出することにより、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)の存在の有無を検出することを特徴とするリステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)検出方法。
【請求項8】
リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)検出方法において、請求項1〜4記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−61061(P2007−61061A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254309(P2005−254309)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】