説明

リソグラフィ方法

【課題】ナノメータサイズのレジストパターンにつき更なる微細化を図ることが可能なリソグラフィ方法を提供する。
【解決手段】フォトマスク13に描かれた回路パターン15を転写するリソグラフィ方法において、フォトマスク13における回路パターン15が予め形成されたパターニング面に、電子線レジスト膜を表面に形成させた基板21を近接配置し、電子線レジスト膜に感光しない波長の光をフォトマスク13へ照射し、照射された光に基づきパターニング面に形成された回路パターン15に応じた局所領域に近接場光を発生させ、その発生させた近接場光により当該パターニング面に近接されたレジスト膜22を感光させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクに描かれた微細パターンを、レジスト膜を表面に形成させた基板上に転写するリソグラフィ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、集積回路(IC)の出現から、大規模集積回路(LSI)へと集積度の向上が進み、回路パターンにおける設計寸法につき更なる制約が課され、半導体製造プロセスにおける微細加工の研究が盛んに行われている。
【0003】
光リソグラフィは、かかる微細加工の一手段であり、シリコン酸化膜等の基板表面にレジスト膜を形成し、集積回路パターンの描かれたマスクを介して露光することにより当該パターンを転写し、さらにこれを現像して得られたレジストパターンに基づき基板にエッチング等の加工を行う。
【0004】
図6は、光リソグラフィの概略を説明するための図である。先ずステップS51において、被加工膜72を形成した基板71上にレジスト等の有機感光樹脂をスピンナーを用いて塗布し、均一なレジスト膜73を形成する。このレジスト膜73を加熱乾燥させた後に、ステップS52へ移行し、集積回路パターンが描かれたマスク74を基板71に重ね合わせる。
【0005】
次にステップS53へ移行し、後述する露光装置を用いて、上記フォトマスク74に描かれた集積回路パターンを基板71上のレジスト膜73へ転写する。すなわち、集積回路パターンの描かれたマスクを介して露光することにより、レジスト膜73に対して光化学反応を起こさせる。
【0006】
次に、ステップS54へ移行し、レジスト膜73を現像液を用いて現像することにより、レジストパターンを形成する。上記レジスト膜73が、アルカリ水溶液からなる現像液に対して感光部が可溶化するポジ型のレジスト膜である場合には、かかる感光部につき現像液を用いて取り除くことができる。
【0007】
このようにして形成したレジストパターンを、次のステップS55において、いわゆるエッチングマスクとして被加工膜72をエッチングし、さらにステップS56においてレジスト膜73を剥離することにより、一連のリソグラフィ工程が終了することになる。
【0008】
また図7は、集積回路パターンの転写に用いる露光装置の原理的な構成図である。
【0009】
この露光装置8は、光を出射する光源81と、光源81から出射された光を集光する照明光学系82と、集積回路パターンが描かれたフォトマスク83と、フォトマスク83を透過した光を基板71に結像させる投影光学系84とを備えている。
【0010】
フォトマスク83に描かれた集積回路パターンは、照明光学系82を介して照明され、その透過光のみが投影光学系84により結像される。その結果、基板71上に形成されているレジスト膜73は、かかる集積回路パターンの像に対応して感光することになる。
【特許文献1】特開2004−235574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、近年進んでいる光情報通信の大容量化に伴い、半導体デバイスの更なる高集積化、高密度化を図るべく、ナノメータサイズの集積回路パターンを形成する必要がある。
【0012】
このため、特に近年において、近接場光を利用したレジストパターンの形成方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)
【0013】
この特許文献1における開示技術では、例えば図8に示すステップS61において、基板121上にレジスト膜122を塗布し、かかるレジスト膜122を構成する分子間の共鳴エネルギーに相当する光の波長よりも長いいわゆる非共鳴光をフォトマスク113に対して上から照射する。例えば幅10μmのCr薄膜が形成されたフォトマスク113に非共鳴光を照射すると、かかるCr薄膜のエッジ部分においてそれぞれ近接場光が発生することになる。その発生させた近接場光によりレジスト膜122を感光させることにより、回路パターンをレジスト膜122上に転写してステップS62に示すようなレジストパターンを形成する。
【0014】
このようにして形成したレジストパターンを、次のステップS63において、いわゆるエッチングマスクとして基板121をエッチングし、さらにステップS64においてレジスト膜122を剥離すると、最終的に、幅約30〜50nm、深さ約50nm程度の溝125を基板121上に形成することが可能となる。即ち,発生させた近接場光に応じてナノメータサイズのレジストパターンを形成することができ、基板の超微細加工も可能となる。
【0015】
しかしながら、基板上に形成すべきレジストパターンの更なる微細化を図るためには、レジスト膜の表面粗さを改善し、或いはフォトマスクとレジストとの密着性を向上させることが重要となってくる。
【0016】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みて案出されたものであり、ナノメータサイズのレジストパターンにつき更なる微細化を図ることが可能なリソグラフィ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係るリソグラフィ方法は、上述した課題を解決するために、フォトマスクに描かれた微細パターンを転写するリソグラフィ方法において、上記フォトマスクにおける上記微細パターンが予め形成されたパターニング面に、電子線レジスト膜を表面に形成させた基板を近接配置し、上記電子線レジスト膜に感光しない波長の光を上記フォトマスクへ照射し、上記照射された光に基づき上記パターニング面に形成された微細パターンに応じた局所領域に近接場光を発生させ、その発生させた近接場光により当該パターニング面に近接された上記レジスト膜を感光させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明を適用したリソグラフィ方法では、照明光学系から直接的に照射される光に対して全く感度を持たない電子線レジストからなるレジスト膜につき、回路パターンのマスクエッジのみ感光させることが可能となる。このため、ナノメータサイズのパターンをレジスト膜上に形成させることが可能となる。特に、レジスト膜として、電子線レジストを適用しているため、当該レジスト膜22表面をより平滑化させることができ、さらにはレジスト膜と回路パターンとの密着性をも向上させることが可能となる。このため、フォトレジストの発生する近接場光を均一かつ有効にレジストに照射でき、形成すべきパターンをより高精度、微細化させる事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、フォトマスクに描かれた微細パターンを、レジスト膜を表面に形成させた基板上に転写するリソグラフィ方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明を適用したリソグラフィ方法を実行するための転写装置1の構成図を示している。この転写装置1は、転写元のフォトマスク13に予め形成された回路パターン15を転写先の基板21表面に塗布されたレジスト膜22上に転写するものであって、光を出射するための光源11と、光源11から出射された光を集光する照明光学系12と、これらフォトマスク13並びに基板21をそれぞれ所望の位置に設置するための基板配置部17とを備えている。
【0021】
光源11は、図示しない駆動電源による制御に基づき、例えば波長355nm程度の光を出射するパルス光源である。この光源11は、図1に示すように、フォトマスク13の表面鉛直方向から傾き70°の角度で光を入射させる。
【0022】
フォトマスク13は、光を遮蔽するCr薄膜を回路パターン15に応じて形成した石英ガラス板からなり、上述した光源11からの光が照射される。このフォトマスク13に形成された回路パターン15からは、後述するメカニズムに基づいて近接場光が滲出することになる。
【0023】
基板配置部17は、転写元としてのフォトマスク13における回路パターン15が予め形成されたパターニング面15aに、転写先の基板21の表面21bに形成されたレジスト膜22を互いに近接させつつ、このフォトマスク13並びに基板21を配置する。このパターニング面15aとレジスト膜22表面との間隔は、光源から出射された光の波長の数分の一程度としてもよい。この基板配置部17には、このパターニング面15aとレジスト膜22表面との間隔を高精度に調整するための高精度ステージの機能が付加されていてもよい。
【0024】
レジスト膜22は、上記近接場光に感応して化学反応を起こすいわゆる電子線レジスト膜である。また、このレジスト膜22は、光源11からの光に対して感光しないことが条件となる。このため、レジスト膜22としては、例えばZEP−520(日本ゼオン社製)等を適用するようにしてもよい。この電子線レジストは、基板21上に塗布された後の表面粗さを改善することが可能となることから、フォトマスク13とレジスト膜22との密着性を向上させることが可能となる。
【0025】
なお、この電子線レジストの代替として、X線レジスト、真空紫外線用レジストを用いるようにしてもよい。これら電子線レジスト、X線レジスト、真空紫外線用レジストは、元々高解像度を狙って作製されているため、表面粗さが小さく、また、薄い膜厚で塗布できるようにされている。レジストの膜厚を薄くすることにより、解像度を向上させることができる。実際に、これらの作用は、基板21との相性(濡れ性)を向上させ、レジストを構成する高分子のサイズを均一化する事により実現可能となる。
【0026】
次に本発明を適用したレジストパターン形成方法を含む光リソグラフィ工程につき図2を用いて詳細に説明をする。
【0027】
先ず、基板21の前処理を実行した後、ステップS11において、予め前処理が施された基板21上にレジスト膜22を形成する。このレジスト膜22の形成には、例えばスピンナー法を採用してもよい。このスピンナー法では、レジストの粘度、固形分含有量及び溶剤の蒸発速度を参照しつつ、スピンナーの回転数を制御することにより、所望の膜厚を得ることができる。ちなみに、レジスト膜22の形成後、膜中に含まれている溶剤を除去すべくプリベークを行うようにしてもよい。特に本発明においては、レジスト膜22として電子線レジストを使用するため、このステップS21の工程終了時においてレジスト膜22の表面は平滑な状態となっている。
【0028】
次にステップS12に移行し、転写先の基板21に対するフォトマスク13の重ね合わせを実行する。このステップS12において、レジスト膜22が塗布された転写先の基板21とフォトマスク13とが近接するように基板配置部17を制御する。なお、このステップS12において、パターニング面15aとレジスト膜22表面との間隔につき、照射するの波長に基づいて決定するようにしてもよい。
【0029】
次にステップS13へ移行し、光源11から光を発生する。この光源から発生された光は、照明光学系12を介してフォトマスク13の裏面13aから入射される。そして、このフォトマスク13の裏面13aへ入射した光は当該フォトマスク13を透過し、レジスト膜22を介して基板21へ照射されることになる。因みに、この基板21へ照射された光はレジスト膜22に感光することはない。即ち、このレジスト膜22は、照明光学系12から直接的に照射される光に対して何ら影響を受けるものではない。しかしながら、この照明光学系12から照射された光に基づき、その表面に形成された回路パターン15におけるパターニング面から近接場光が発生することになる。そして、この近接場光にレジスト膜22が感応する結果、当該回路パターン15に応じた局所領域において化学反応が進行することになる。
【0030】
図3は、フォトマスク13における回路パターン15と、転写先の基板21に塗布されたレジスト膜22との界面を拡大した図である。この図3に示すようにフォトマスク13表面には、回路パターン15に応じた凹凸が形成されている。即ち、回路パターン15が形成されている箇所については、レジスト膜22側に突出されている状態となる。そして、この回路パターン15のエッジ部分において近接場光が発生する。
【0031】
このような近接場光が発生している状態において、レジスト膜22が塗布された基板21をフォトマスクに近接させると、回路パターン15のエッジ部分に発生された近接場光にのみによって感光することになる。その結果、この凹凸を形成している回路パターン15に応じた局所領域のみレジスト膜22上において感光させることが可能となる。ちなみに、この近接場光の発生領域や強度は、この回路パターン15を構成する材質の差異にも支配される。かかる現象に基づき、所望のパターニングを行う際において、予め回路パターン15を構成する材質を異ならせておくようにしてもよい。また、回路パターン15については、凹凸で形成される場合に限定されるものではなく、回路パターン15に応じて材質のみを異ならせ、表面は平滑な状態で仕上げるようにしてもよい。
【0032】
次にステップS14へ移行し、レジスト膜22を現像液を用いて現像することにより、レジストパターンを形成する。レジスト膜22が、仮にポジ型である場合には、かかる近接場光に感応した領域につき現像液を用いて取り除くことができる。ちなみに、現像を終了させた後に、レジスト膜22と基板21との密着性を向上させるべく、ポストベークを行うようにしてもよい。
【0033】
このようにして形成したレジストパターンを、次のステップS15において、いわゆるエッチングマスクとして基板21をエッチングし、さらにステップS16においてレジスト膜22を剥離することにより、一連の光リソグラフィ工程が終了することになる。
【0034】
このように、本発明を適用した転写装置1では、照明光学系12から直接的に照射される光に対して全く感度を持たないはずの電子線レジストからなるレジスト膜22につき、回路パターン15のマスクエッジのみ感光させることが可能となる。このため、ナノメータサイズのパターンをレジスト膜22上に形成させることが可能となる。これは、マスクエッジに発生する近接場光により発現した非断熱近接場光化学反応に基づくものであり、その詳細なメカニズムは、例えば特開2004−235574号公報に示されている。
【0035】
特に、本発明においては、レジスト膜22として、電子線レジストを適用しているため、当該レジスト膜22表面をより平滑化させることができ、さらにはレジスト膜22と回路パターン15との密着性をも向上させることが可能となる。このため、このため、フォトレジストの発生する近接場光を均一かつ有効にレジストに照射でき、形成すべきパターンをより高精度、微細化させる事ができる。
【0036】
以下、本発明を適用した転写装置1の効果を確認するために行った実験について説明をする。
【0037】
先ず、図4に示すように、直径1μmの円状の回路パターン15を2μm間隔でフォトマスク13上に形成しておき、これを基板21上に形成したレジスト膜22上に密着させ、波長355nmの光を70°方向から5分間照射させた。ちなみに、このレジスト膜22は、ZEP−520(日本ゼオン社製)とする。
【0038】
その後、上述の如き光リソグラフィ工程におけるステップS15まで終了させた後、レジスト膜22を原子間力顕微鏡によって観察した。その結果、例えば図5(a)に示すように、レジスト膜22上に形成されたパターンについてラインA、ラインBの高さを計測したところ、図5(b)に示すように、エッジ部分において特に深くエッチングが進行していることが分かった。これは、レジスト膜22が、マスクエッジ部分において局所的に滲出した近接場光のみに感光していることを裏付けるものである。ちなみに、この図5(b)に示すエッジ部分の感光領域の半値幅は、50nm程度であった。
【0039】
この実験結果より、近接場光を利用した非断熱近接場光化学反応に基づいて、ナノメータサイズもの微細なパターンを形成させることができることが示される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を適用したリソグラフィ方法を実行するための転写装置の構成図である。
【図2】本発明を適用したレジストパターン形成方法を含む光リソグラフィ工程について示すフローチャートである。
【図3】フォトマスクにおける回路パターンと、転写先の基板に塗布されたレジスト膜との界面を拡大した図である。
【図4】本発明を適用した転写装置の効果を確認するために行った実験方法について説明するための図である。
【図5】本発明を適用した転写装置の効果を確認するために行った実験結果について説明するための図である。
【図6】光リソグラフィの概略を説明するための図である。
【図7】集積回路パターンの転写に用いる露光装置の原理的な構成図である。
【図8】従来における近接場光を利用したレジストパターンの形成方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
1 転写装置
11 光源
12 照明光学系
13 フォトマスク
15 回路パターン
17 基板配置部
21 基板
22 レジスト膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスクに描かれた微細パターンを転写するリソグラフィ方法において、
上記フォトマスクにおける上記微細パターンが予め形成されたパターニング面に、電子線レジスト膜を表面に形成させた基板を近接配置し、
上記電子線レジスト膜に感光しない波長の光を上記フォトマスクへ照射し、
上記照射された光に基づき上記パターニング面に形成された微細パターンに応じた局所領域に近接場光を発生させ、
その発生させた近接場光により当該パターニング面に近接された上記レジスト膜を感光させること
を特徴とするリソグラフィ方法。
【請求項2】
上記電子線レジストの代替として、X線レジスト、真空紫外線用レジストを用いること
を特徴とする請求項1記載のリソグラフィ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−95859(P2007−95859A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281144(P2005−281144)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】