説明

リチウムイオンポリマー電池

【課題】 原料化合物としていずれも公知のものを使用したイオン伝導性に優れた、ボロン‐高分子複合電解質膜およびそれを使用したリチウムイオンポリマー電池を提供すること。
【解決手段】 有機ホウ素化合物、ポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物、アルカリ金属電解質塩、およびポリウレタンから成るイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。複合反応生成物の組成が、有機ホウ素化合物とポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物をモル比で0.5〜3:3、アルカリ金属電解質塩を前記酸素原子含有有機高分子化合物が含有する酸素原子とアルカリ金属原子のモル比で5〜20:1になるように含む。電解質に対してポリウレタン5〜40wt%を添加する。前記酸素原子含有有機高分子化合物が、ポリアルキレンオキシドに、ポリアルキレンオキシドの両末端をメトキシドで置換したポリアルキレンオキシドジメチルエーテルを添加したものである。常温におけるイオン伝導度が10−3S/cm以上である。上記イオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜を用いたリチウムイオンポリマー電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温において高いイオン伝導性と機械的強度が優れているボロン‐高分子複合電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体電解質膜を用いる電気化学素子は、薄膜小型で製造できるので、携帯用電気製品、自動車などに利用される。特に、固体重合体電解質薄膜は、高い充放電効率を有する種々な型の電池形態が可能な化学電池を提供することができ、かつ軽量であることなどから、研究・開発の注目を集めている。
【0003】
小型、薄型で高出力の二次電池を実現するイオン伝導性高分子電解質には(1)金属塩がイオン解離することによって生成する金属イオンが動きやすいこと、すなわち高いイオン導電率を有することと、(2)自立性薄膜が形成でき、その薄膜が圧縮や引っ張りの力に対して充分な耐性があること、すなわち力学的強度が高いこと、の条件が重要である。これらのことから、高イオン伝導度、高強度を兼ね備えた、性能の優れた固体電解質の開発が望まれ、精力的な検討が進められて来た。その主流はポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物であるが、その室温でのイオン伝導度は液体電解質と比較すると低く、10−4〜10−5S/cm程度が限界である。また、高分子化合物に液体成分(溶媒)を含有させたゲルタイプの電解質の開発も同時に進められており、そのイオン伝導度は含有する溶媒にも依存するが、多量に含有可能な高分子の場合、10−3S/cm以上の実用化可能なレベルの報告もある。しかしこれらのゲル電解質の場合、溶媒の含浸による強度低下、加圧力が作用すると溶媒の浸出等の問題がある。
【0004】
このゲル電解質の強度的な欠点を改良する方法として、高分子化合物の微多孔膜、不織布、織物等の強度を有する基布に固体電解質を塗布、含浸する方法が種々提案されている。これらの案の場合、用いる基布は主としてポリオレフィン系であるため耐熱、強度的にも限界があり、また高分子化合物の含浸、塗布にも技術的困難性がある。前記の欠点を改良した方法として、基布に全芳香属ポリアミドであるアラミド繊維を用いる方法が特許文献1に提案されている。しかし当方法では得られる電解質膜の厚みは40〜50μmが限界と思われる。
【0005】
また、ウレタン結合を有するオキシアルキレン基を含有する(メタ)アクリレートモノマー混合物を用いた重合体及び電解質からなる複合体を用いたイオン伝導性の高分子固体電解質が特許文献2で提案されている。この高分子固体電解質のイオン伝導度は、溶媒未添加で10-4S/cm(室温)であり高いレベルであるが、さらに溶媒を添加すると、室温またはそれより低温であっても10-3S/cm以上となり、また膜質も厚膜であれば自立膜として得られる程度に改善された。また、このモノマーは重合性が良好で、電池や電気二重層コンデンサに応用する場合、モノマー状態で電池や電気二重層コンデンサに組込んだ後に重合し、固体化できるという加工上のメリットもあった。しかしながら、数十μm程度の薄膜にした場合における膜強度の点、及び電気二重層コンデンサや電池に応用した際の短絡のしやすさの点で改善の余地が残されていた。
【0006】
このように固体化学電池の製造において、最近では電解質として重合体を用いる方法が開発されているが、これまでの重合体電解質膜は、重合体薄膜の製造時、完全非結晶性の薄膜を製造し難く、製造された重合体薄膜の機械的強度の弱さ、イオン伝導度が温度によって大きく変わり、常温におけるイオン伝導度が経時により差が出たり、また、重合体主鎖に置換されている側鎖の運動によりイオンが移動していくため、イオン伝導が遅くなったり、電池や固体電気化学素子に応用するのに問題があった。
イオン伝導性と機械的物性の両者を共に向上させるための新たな電解質の開発が強く望まれている。
特許文献3と非特許文献1では、シリカやボロン−高分子複合電解質を作製したが、複合反応を進行する際に水分が生成し、特にリチウム電池の電解質として相応しくない。
【0007】
【特許文献1】特開平11−339555号公報
【特許文献2】特開平6−187822
【特許文献3】特許公報3631985号
【非特許文献1】Electrochemical Communications 3(2001)128−130
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電池及びコンデンサにおける高分子固体電解質層は、イオン移動だけを担っており、薄くすればするほど電池及びコンデンサ全体の体積を薄くでき、電池、コンデンサのエネルギー密度を高くすることができる。また、高分子固体電解質層を薄くすれば、電池及びコンデンサの電気抵抗を低下でき、取り出し電流、充電電流を増加でき、電池のパワー密度を向上させることができる。従って、できるだけ膜強度が良好で、薄膜化できる高イオン伝導度の高分子固体電解質が望まれていた。
【0009】
本発明は、原料化合物としていずれも公知のものを使用した高性能な複合電解質、特にイオン伝導性に優れた、ボロン‐高分子複合電解質膜およびそれを使用したリチウムイオンポリマー電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリウレタンなどの高分子マトリックスについて研究した結果、それらから製造されるイオン伝導性を有するボロン‐高分子複合膜が、重合体由来の優れた機械的特性を示すとともに高いイオン伝導性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(5)に記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜を要旨とする。
(1)有機ホウ素化合物、ポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物、アルカリ金属電解質塩、およびポリウレタンから成るイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
(2)複合反応生成物の組成が、有機ホウ素化合物とポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物をモル比で0.5〜3:3、アルカリ金属電解質塩をポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物が含有する酸素原子とアルカリ金属原子のモル比で5〜20:1になるように含む(1)に記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
(3)電解質に対してポリウレタン5〜40wt%を添加する(1)または(2)に記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
(4)ポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物が、ポリアルキレンオキシドに、ポリアルキレンオキシドの両末端をメトキシドで置換したポリアルキレンオキシドジメチルエーテルを添加したものである(1)、(2)または(3)に記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
(5)常温におけるイオン伝導度が10−3S/cm以上である(1)ないし (4)のいずれかに記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
【0012】
また、本発明は、以下の(6)に記載のリチウムイオンポリマー電池を要旨とする。
(6)(1)ないし(5)のいずれかに記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜を用いたリチウムイオンポリマー電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高いイオン伝導度を示し、電気化学的に安定し、機械的強度も良好なイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜を提供することができる。該イオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜のイオン伝導度は常温で10−3S/cmであるために、特にリチウムイオン電池および固体電気化学素子等に応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は有機ホウ素化合物、ポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物、アルカリ金属電解質塩、およびポリウレタンの複合反応生成物を用いたイオン伝導性有機‐無機複合電解質膜である。
【0015】
原料化合物としてはいずれも公知のものが使用できる。
[有機ホウ素化合物]
複合反応に用いられる有機ホウ素化合物としては、アルコキシボロン、好ましくはトリエトキシボロン〔B(OCH2CH3)3〕などが挙げられる。トリエトキシボロンは水素化カルシウム(CaH2)を用い、公知の乾燥方法に従って無水化した。
【0016】
[ポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物]
該高分子化合物としては、ポリアルキレンオキシド、好ましくはポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)などである。またこのときイオン伝導度を向上させるため、ポリアルキレンオキシドの両末端をメトキシ置換したポリエチレンオキシドジメチルエーテル(PEODME)、ポリプロピレンオキシドジメチルエーテル(PPODME)などをポリアルキレンオキシドと等重量以上加えることが望ましい。
複合反応を進行する際には、アルコキシボロンとポリアルキレンオキシドをモル比で0.5~3:3になるように混合すればよい。アルカリ金属の最適添加量は金属塩の種類によって異なるが、アルカリ金属の添加量は通常PEOとPEODMEに含有する酸素原子とアルカリ金属原子のモル比が5〜20:1の割合で含まれるように混合すればよい。
【0017】
[アルカリ金属電解質塩]
電解質塩としてはアルカリ金属塩、好ましくはリチウム塩である。その具体例として、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2などである。
【0018】
[ポリウレタン]
支持体としてはポリウレタン、好ましくはポリエステル系ポリウレタンエラストマー、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマーである。電解質に対して機械的強度を増加するため5−40wt%のポリウレタンを添加する。
【0019】
本発明の好ましい態様において、複合反応生成物の組成がアルコキシボロンとポリアルキレンオキシドをモル比で0.5〜3:3、ポリアルキレンオキシドとポリアルキレンオキシドジメチルエーテルを重量比1:1〜5、アルカリ金属塩がポリアルキレンオキシドに含まれる酸素原子とアルカリ金属原子のモル比が5〜20:1の割合で含む電解質をポリウレタンとの重量比1〜9:1の混合物であり、その場合、本発明は有機ホウ素化合物、高分子化合物としてポリアルキレンオキシドとポリアルキレンオキシドジメチルエーテル、電解質塩としてアルカリ金属塩、および当該電解質の機械的強度を増加するためにポリウレタンの混合物から成る複合反応生成物を用いたイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜、好ましくは常温における伝導度が10−3S/cm以上を示すイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜である。
【0020】
[複合電解質膜の製造]
複合電解質膜は例えば以下の方法で製造する。複合電解質膜は、アルコキシボロンとポリアルキレンオキシドとの縮合反応生成物にアルカリ金属塩を添加した電解質溶液を、ポリウレタンを溶かしたテトラヒドロフラン(THF)溶液に加え溶媒を蒸発させることにより得られる。得られた複合電解質膜は、大気中の水分の吸着を避けるために、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中での乾燥が好ましい。このようにして得た複合電解質膜は極めて高いイオン伝導度を有する。
【0021】
[作用]
本発明によるイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜は、溶液キャスティング等の一般的溶液コーティングの方法によるフィルム形成工程を用いて製造することができるので、薄膜を製造する工程が単純かつ経済的である利点も有している。さらに、薄膜状態での機械的強度が優れると共に、常温において高いイオン伝導特性を有するイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜製造することができ、電池、センサー、電気変色装置などの全ての電気化学素子に応用される可能性が高い。
【0022】
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
10gPEO(ポリエチレンオキシド、Mn=400)と2.43gB(OCH2CH3)3 (トリエトキシドボロン)を混合し、一晩室温にて撹拌した。撹拌後、10gPEODME(ポリエチレンオキシドジメチルエーテル、Mn=400)と3gLiN(SO2CF3)2を添加し、LiN(SO2CF3)2が完全に溶解するまで室温で撹拌した。この反応溶液3gを、0.5gポリエーテル系ポリウレタンエラストマーを溶かした25gTHF(テトラヒドロフラン)溶液に加え、室温で1時間ほど撹拌した。撹拌後、シャーレに注ぎ室温アルゴン気流下で4時間、さらに80℃減圧下で24時間乾燥して複合電解質膜を得た。
【実施例2】
【0024】
得られた電解質膜のイオン伝導度をインピーダンスアナライザで測定し、1.7×10−3S/cmという結果が得られた。この電解質膜のイオン伝導度は200日以上経過しても10−3S/cmオーダーを維持し続けた。また、サイクリックボルタンメトリーも行い、その結果を図1に示した。電極にはリチウム金属を用いた3極セルで測定した。図1からリチウムの酸化還元反応がスムーズに進行していることが分かる。
【実施例3】
【0025】
得られた電解質膜を用い、リチウムイオンポリマー電池を組み充放電測定を行った。正極はLiMn2O4、負極は金属リチウムを用いた。充放電は常温で、0.2mA/cmの電流密度下で行った。その結果を図2に示した。比較的に高い容量と良好なサイクル特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜は、高いイオン伝導度を示し、電気化学的に安定し、機械的強度も良好なため、リチウムイオン電池および固体電気化学素子等に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例で得られた電解質膜で測定したサイクリックボルタメトリー(CV)曲線を示す図面である。
【図2】実施例で得られた電解質膜を用いた電池の、サイクルに伴う充放電容量の変化を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ホウ素化合物、ポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物、アルカリ金属電解質塩、およびポリウレタンから成るイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
【請求項2】
複合反応生成物の組成が、有機ホウ素化合物とポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物をモル比で0.5〜3:3、アルカリ金属電解質塩をポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物が含有する酸素原子とアルカリ金属原子のモル比で5〜20:1になるように含む請求項1に記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
【請求項3】
電解質に対してポリウレタン5〜40wt%を添加する請求項1または2に記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
【請求項4】
ポリエチレンオキシド系の酸素原子含有有機高分子化合物が、ポリアルキレンオキシドに、ポリアルキレンオキシドの両末端をメトキシドで置換したポリアルキレンオキシドジメチルエーテルを添加したものである請求項1、2または3に記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
【請求項5】
常温におけるイオン伝導度が10−3S/cm以上である請求項1ないし 4のいずれか1項に記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜。
【請求項6】
請求項1ないし 5のいずれか1項に記載のイオン伝導性ボロン‐高分子複合電解質膜を用いたリチウムイオンポリマー電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−310981(P2008−310981A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155399(P2007−155399)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【出願人】(394014087)近藤化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】