説明

リチウムイオン二次電池のマイクロショート検出回路および検出装置

【課題】 リチウムイオン二次電池のマイクロショートを検出できる手段および装置を提供する。
【解決手段】 リチウムイオン二次電池の正負電極間にインダクタを介してコンデンサを接続し、前記リチウムイオン二次電池の内部で発生するマイクロショートによって前記コンデンサと前記リチウムイオン二次電池間に瞬時的に流れる電流を、前記インダクタの端子間に発生する瞬時的電圧変化で検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池で発生するマイクロショートを検出する装置に関するものであり、リチウムイオン二次電池の製造段階で用いる検査装置、選別装置等への応用が可能な手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池のマイクロショートは、正負の電極間に混入する微細な金属粉や電解質の不均一な分布によるリチウムイオンの部分的な過剰析出などにより発生する電極間の微小な短絡であり、リチウムイオン二次電池の漏れ電流の原因となるものである。
【0003】
このため電池メーカーでは、製造したリチウムイオン二次電池に対して検査を行いマイクロショートの発生している製品を出荷しないようにしている。この検査方法には様々なものが考案されているが現在多く行われているのは、初期充電後の電圧と数週間程度放置後の電圧の差を測定して、基準値以上に電圧が低下したものを除く方法である。
【0004】
この検査方法は、不良の検出に時間が掛かるのが欠点であり、より短時間で確実にマイクロショートを検出できる装置が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、短時間でリチウムイオン二次電池のマイクロショートを検出できる手段および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、次に示す手段をもって上記課題を解決する。
リチウムイオン二次電池の正負電極間にインダクタを介してコンデンサが接続され、前記リチウムイオン二次電池の内部で発生するマイクロショートによって前記コンデンサと前記リチウムイオン二次電池間に瞬時的に流れる電流を、前記インダクタの端子間に発生する瞬時的電圧変化を検出する回路をもってリチウムイオン二次電池のマイクロショートを検出する。
【0007】
リチウムイオン二次電池の正負電極間にパルストランスの一次側巻き線を介してコンデンサが接続され、前記リチウムイオン二次電池の内部で発生するマイクロショートによって前記コンデンサと前記リチウムイオン二次電池間に瞬時的に流れる電流を、前記パルストランスの二次側巻き線の端子間に発生する瞬時的電圧変化を検出する回路をもってリチウムイオン二次電池のマイクロショートを検出してもよい。
【0008】
前記検出回路で得られるリチウムイオン二次電池のマイクロショートによる瞬時的電圧変化を増幅する増幅器を備え、前記増幅器の出力信号をトリガ信号とするモノステーブルマルチバイブレータの出力に得られる前記瞬時的電圧変化の時間幅を伸張した信号を、マイクロショート検出確認信号として出力するリチウムイオン二次電池のマイクロショート検出装置としてもよい。
【0009】
前記増幅器の出力信号を交流結合で前記モノステーブルマルチバイブレータのトリガ入力端子に接続し、前記トリガ入力端子に加える直流電圧を可変することにより、マイクロショートの検出感度を調整する機能を備えたリチウムイオン二次電池のマイクロショート検出装置としてもよい。
【0010】
前記増幅器の出力信号を交流結合で複数の前記モノステーブルマルチバイブレータのトリガ入力端子に接続し、それぞれのモノステーブルマルチバイブレータは、それぞれに異なるマイクロショート検出感度に設定された前記のマイクロショートの検出感度を調整する機能を備えることで、マイクロショートの複数のレベルを識別できるリチウムイオン二次電池のマイクロショート検出装置としてもよい。
【0011】
前記マイクロショート検出装置で、取付けられたリチウムイオン二次電池の正負電極それぞれからノイズフィルタを介して接続された一組の端子を備え、前記端子によって前記リチウムイオン二次電池の充放電を可能にしたマイクロショート検出装置としてもよい。
【0012】
前記マイクロショート検出確認信号をフォトカプラ等の電気光変換器を介して出力するマイクロショート検出装置としてもよい。
【0013】
模擬的なマイクロショートを発生できる回路を備えたマイクロショート検出装置としてもよい。
【0014】
前記マイクロショート検出装置で、前記瞬時的電圧変化の時間幅の伸張時間がそれぞれに異なる複数のモノステーブルマルチバイブレータを従属接続することで、より短い時間の瞬時的電圧変化を検出可能にするマイクロショート検出装置としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、リチウムイオン二次電池のマイクロショートによって発生する瞬時的で微小な電池電圧の変化を検出する回路を考案し、この回路を用いたマイクロショート検出装置を提供することで、従来長期間かけて漏れ電流による電圧の低下を検出していた方法に比べて短い時間でマイクロショートを検出できるのでリチウムイオン二次電池の生産効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0016】
リチウムイオン二次電池の内部においてマイクロショートが発生したときその正負電極間の電圧は、瞬時的に低下する。例えばデジタルオシロスコープなどの波形計測装置を用いれば、このような瞬時的な電圧変化を観測することは可能な場合がある。しかしリチウムイオン二次電池のマイクロショートによる正負電極間の電圧変動は大変小さく、デジタルオシロスコープで直接これを測定しようとしたときノイズが重畳してしまい波形の識別は、ほとんどの場合不可能である。
【0017】
本発明では、図1に示すようにリチウムイオン二次電池1とコンデンサ2をインダクタ3を介して接続し、インダクタ3の端子間電圧を測定することでマイクロショートを検出できるようにしている。定常状態においてコンデンサ2はリチウムイオン二次電池1で充電されているのでVc=Voであり、インダクタ3に電圧VLは発生しない。リチウムイオン二次電池1の内部でマイクロショートが発生したときリチウムイオン二次電池1の正負電極間は、瞬時的に短絡状態になり、リチウムイオン二次電池1の電極材料表面のリチウムイオンやコンデンサ2に蓄積されている電荷の一部が失われる。
【0018】
このときコンデンサ2に蓄積されている電荷が非常に短い時間でリチウムイオン二次電池1の内部へ移動することでコンデンサ2を流れる電流が発生する。その後短絡状態がなくなるとリチウムイオン二次電池1の電極電圧が定常状態まで戻り、同時にコンデンサ2も充電される。マイクロショートが発生したときのコンデンサ2の充放電電流がインダクタ3を通して流れるので、マイクロショートの発生をインダクタ3の端子間電圧の変化として検出できる。
【0019】
図2に上記インダクタ3の端子電圧VLの変化を示す。マイクロショートの発生によりコンデンサ2からリチウムイオン二次電池1へ電流が流れるときVLはマイナス側に急激に増加し、その後短絡状態が無くなりリチウムイオン二次電池がコンデンサ2を充電する電流に変わるとVLはプラス側に増加を始める。コンデンサ2の電圧がリチウムイオン二次電池の電圧に近くに従ってVLは低下して行き、最終的にVc=Voとなった時点でVLは再びゼロになる。
【0020】
電池単体の端子電圧測定ではノイズが重畳して検出できないが、コンデンサ2を接続することでマイクロショートによる電池内部の瞬時的な短絡電流を電池外部の電流経路に取り出すことができ、その電流の変化をインダクタンスで電圧に変換することでノイズ電圧に比べて充分大きい電圧振幅でマイクロショートの検出が可能になる。なおこの回路でリチウムイオン二次電池1、コンデンサ2、インダクタ3で構成される電流ループは、鎖交する電磁界ノイズの混入を小さくするためにできるだけ小さくすることが検出精度を向上させるために必要である。
【0021】
図3に示す実施例は、図1のインダクタをパルストランスに換えたものである。リチウムイオン二次電池1とコンデンサ2の間に流れる瞬時的な短絡電流がパルストランス4の一次側巻き線に流れると、二次巻き線の電圧変化としてこれを検出することができ、一次巻き線と二次巻き線の巻き数比によって二次巻き線に出力される電圧振幅を大きくできる利点がある。
【0022】
本発明のマイクロショート検出回路の出力電圧をデジタルオシロスコープ等の波形計測器で観測したり、A/D変換器でデジタル化した後演算処理を行ったりすることにより短時間でマイクロショートの検出が可能になる。以下に本発明人がこの検出回路を用いて実施したマイクロショート検出装置の具体例を説明する。
【0023】
図4に示した実施例は、本発明のマイクロショート検出回路の出力電圧を増幅器5で増幅してモノステーブルマルチバイブレータ6のトリガ入力を駆動することで、非常に短い時間幅のマイクロショートによる電圧波形を、時定数7で設定される時間幅まで拡大して出力するマイクロショート検出装置である。
【0024】
マイクロショート検出回路に出力される電圧変化の時間幅は、10ns程度の非常に短いものであるため、これをモノステーブルマルチバイブレータにより10μs程度まで拡大するマイクロショート検出装置である。これによって検出されたマイクロショートの発生回数や時間分布、頻度等の統計的処理をマイクロプロセッサ等により実行し、マイクロショートの検出精度を高めることも可能である。
【0025】
モノステーブルマルチバイブレータの出力にLEDやブザーを取付けて、マイクロショートの発生を光や音で通知するような場合、数ナノ秒程度の短い時間幅を数百ミリ秒まで拡大したい。モノステーブルマルチバイブレータの性能によっては、このような拡大率の大きい動作ができない場合がある。このとき図10に示すようにモノステーブルマルチバイブレータ6を従属接続し、それぞれの時定数7を異なるものとしておく。本発明人の行った事例では、一段目の時定数を10μs、二段目を100msという二段接続にしている。
【0026】
図5に示す実施例では、前記図4の実施例の増幅器5の出力とモノステーブルマルチバイブレータ6のトリガ入力端子の間にバイアス電圧可変回路9を設け、増幅器の出力をとトリガ入力を結合コンデンサ8によって交流結合とし、モノステーブルマルチバイブレータ6のトリガ入力のしきい値電圧に対して増幅器の出力電圧の平均電圧を可変することにより、モノステーブルマルチバイブレータ6が動作を開始する電圧振幅レベルを調整する、これによりマイクロショートの検出感度を調整できる検出装置となる。
【0027】
図6の実施例は、上記結合コンデンサ8、バイアス電圧可変回路9およびモノステーブルマルチバイブレータ6を含む時間幅拡大回路10を複数設け、それぞれの時間幅拡大回路10は、異なる検出感度に設定することで、マイクロショートの大きさ(電圧振幅)を選別できる検出装置である、リチウムイオン二次電池の製造工程における検査において、不良品の選別や製品のランク分けなどに応用できる。
【0028】
リチウムイオン二次電池のマイクロショートは、充電電流や放電電流によって発生する回数や大きさが異なる。そこで図7の実施例では、検出装置にリチウムイオン二次電池の充放電端子12を設け外部から被試験電池の充電、放電を可能にしている。この端子を使って、被試験電池の状態(充放電時の電流または電圧等)を変えて、最も精度が高く短時間でマイクロショートの検出が可能な状態でマイクロショート検出試験を行える、また電池の充放電試験との併用も可能である。なお充放電端子12を通して外部からノイズが混入し検出精度が低下するのを防ぐために、ノイズフィルタ11を設けている。
【0029】
図8に示す実施例は、前記モノステーブルマルチバイブレータ6の出力を電気光変換素子13で外部に接続するようにしたマイクロショート検出装置である、マイクロショートによる電流や電圧の変化は微小なレベルであり、この検出装置はできるだけ外部からのノイズの影響を少なくしなければならない。この検出装置から外部装置に検出信号を接続するときに使用する電線が長いと、その電線がアンテナとなってしまい様々な電磁界ノイズを受けてしまう。そこでフォトカプラ等の電気光変換素子13を採用して外部回路との間を電気的に絶縁するように考慮したのがこの実施例である。
【0030】
図9に示す実施例は、模擬的なマイクロショート発生回路を備えたマイクロショート検出装置である。模擬的にマイクロショートを発生させることでマイクロショート検出装置の動作確認および検出感度の校正を行うことができる。模擬的なマイクロショート発生回路は、本発明と同時に本出願人が出願した「リチウムイオン電池のマイクロショートをシミュレーションできる装置」に開示した装置を採用している。
【0031】
以上の説明において増幅器、モノステーブルマルチバイブレータ等の検出装置に内蔵される電子回路の電源については特に明示していないが、これらの電源は、被試験電池から得ても良いし、別途用意した電源装置から供給することも可能である。
【0032】
また増幅器の出力に外部機器を接続できるように出力端子を設けると、A/D変換器やデジタルオシロスコープ等を接続できる。その際モノステーブルマルチバイブレータの出力は、マイクロショートを検出したときのトリガ信号として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】 本発明のマイクロショート検出回路
【図2】 マイクロショートの検出波形
【図3】 パルストランスによる検出回路の実施例
【図4】 時間幅を拡大できるマイクロショート検出装置の実施例1
【図5】 検出感度を可変できるマイクロショート検出装置の実施例
【図6】 マイクロショートの大きさを選別できる検出装置の実施例
【図7】 充放電端子を備えた検出装置の実施例
【図8】 電気光変換素子を用いた検出装置の実施例
【図9】 模擬的なマイクロショートを発生する回路を備えた実施例
【図10】 時間幅を拡大できるマイクロショート検出装置の実施例2
【符号の説明】
【0034】
1 リチウムイオン二次電池
2 コンデンサ
3 インダクタ
4 パルストランス
5 増幅器
6 モノステーブルマルチバイブレータ
7 時定数
8 結合コンデンサ
9 バイアス電圧可変回路
10 時間幅拡大回路
11 ノイズフィルタ
12 充放電端子
13 電気光変換素子
14 模擬的にマイクロショートを発生する回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の正負電極間にインダクタを介してコンデンサが接続され、前記リチウムイオン二次電池の内部で発生するマイクロショートによって前記コンデンサと前記リチウムイオン二次電池間に瞬時的に流れる電流を、前記インダクタの端子間に発生する瞬時的電圧変化で検出することを特徴とするリチウムイオン二次電池のマイクロショート検出回路。
【請求項2】
リチウムイオン二次電池の正負電極間にパルストランスの一次側巻き線を介してコンデンサが接続され、前記リチウムイオン二次電池の内部で発生するマイクロショートによって前記コンデンサと前記リチウムイオン二次電池間に瞬時的に流れる電流を、前記パルストランスの二次側巻き線の端子間に発生する瞬時的電圧変化で検出することを特徴とするリチウムイオン二次電池のマイクロショート検出回路。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2の検出回路で得られるリチウムイオン二次電池のマイクロショートによる瞬時的電圧変化を増幅する増幅器を備え、前記増幅器の出力信号をトリガ信号とするモノステーブルマルチバイブレータの出力に得られる前記瞬時的電圧変化の時間幅を伸張した信号を、マイクロショート検出確認信号として出力するリチウムイオン二次電池のマイクロショート検出装置。
【請求項4】
前記増幅器の出力信号を交流結合で前記モノステーブルマルチバイブレータのトリガ入力端子に接続し、前記トリガ入力端子に加える直流電圧を可変することにより、マイクロショートの検出感度を調整する機能を備えた請求項3のリチウムイオン二次電池のマイクロショート検出装置。
【請求項5】
前記増幅器の出力信号を交流結合で複数の前記モノステーブルマルチバイブレータのトリガ入力端子に接続し、それぞれのモノステーブルマルチバイブレータは、それぞれに異なるマイクロショート検出感度に設定された請求項4のマイクロショートの検出感度を調整する機能を備えることで、マイクロショートの複数のレベルを識別できる請求項3のリチウムイオン二次電池のマイクロショート検出装置。
【請求項6】
請求項3、請求項4および請求項5のマイクロショート検出装置で、取付けられたリチウムイオン二次電池の正負電極それぞれからノイズフィルタを介して接続された一組の端子を備え、前記端子によって前記リチウムイオン二次電池の充放電を可能にしたことを特徴とするマイクロショート検出装置。
【請求項7】
前記マイクロショート検出確認信号をフォトカプラ等の電気光変換器を介して出力することを特徴とする請求項3のマイクロショート検出装置。
【請求項8】
模擬的なマイクロショートを発生できる回路を備えたことを特徴とする請求項3のマイクロショート検出装置。
【請求項9】
請求項3のマイクロショート検出装置で、前記瞬時的電圧変化の時間幅の伸張時間がそれぞれに異なる複数のモノステーブルマルチバイブレータを従属接続することで、より短い時間の瞬時的電圧変化を検出可能にするマイクロショート検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−141258(P2011−141258A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15984(P2010−15984)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(593036051)ジーコム株式会社 (20)
【Fターム(参考)】