説明

リチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法

【課題】リチウムイオン二次電池の正極から、コバルト、ニッケルなどの有価物を含む再利用原料を簡単かつ効率的に回収することができるリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法の提供。
【解決手段】集電体としてのアルミニウムと有価物とを含有するリチウムイオン二次電池の正極を、水酸化ナトリウムの濃度が2質量%〜40質量%の水酸化ナトリウム水溶液で処理する処理工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、並びに使用機器及び電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池の正極からコバルト、ニッケルなどの有価物を簡単に再利用可能な状態で回収可能なリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛蓄電池、ニッカド二次電池などに比較して軽量、高容量、及び高起電力な二次電池であり、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器などに広く使用されている。
このようなリチウムイオン二次電池の正極材料には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、ニッケル−マンガン−コバルト系酸化物などが用いられており、これらには希少有価物であるコバルト、及びニッケルが含まれている。そこで、使用済みのリチウムイオン二次電池からこれらの有価物を回収し、再びリチウムイオン二次電池の正極材料としてリサイクル利用を図ることが望まれている。
【0003】
そこで、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム及びマンガン酸リチウムのいずれかを含有する電池正極廃材を硝酸で溶解しこれを濾過して、硝酸コバルト、硝酸ニッケル及び硝酸マンガンのいずれか並びに硝酸リチウムを含有する濾液と有機材、錫などの残さとに分離する工程、及び前記工程によって得た硝酸コバルト、硝酸ニッケル及び硝酸マンガンのいずれか並びに硝酸リチウムを含有する濾液に、水酸化リチウムを加えて水酸化反応を行い、これを濾過して水酸化コバルト、水酸化ニッケル及び水酸化マンガンのいずれか並びに少量のリチウムを含有する濾過物と硝酸リチウムを含有する濾液とに分離する工程からなる電池正極廃材からコバルト、ニッケル、及びマンガンのいずれか並びにリチウムを回収及び再生する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、この提案の技術では、アルミニウム箔とコバルト酸リチウムなどを分離する際に、低濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いる工程が記載されている。
しかし、この提案の技術では、硝酸を用いて溶解する工程、及び水酸化リチウムを用いて水酸化反応を行う工程が必要であるため、工程数が多く、煩雑になるという問題がある。また、低濃度の水酸化ナトリウム水溶液では、アルミニウムとの分離後の回収物にアルミニウムが多く残留してしまい、前記回収物をそのまま再利用原料には利用できない。そのため、前記回収物を再利用原料にするには更に多くの工程を必要としてしまうという問題がある。
【0004】
したがって、リチウムイオン二次電池の正極から、コバルト、ニッケルなどの有価物を含む再利用原料を簡単かつ効率的に回収することができるリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法の提供が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−54159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、リチウムイオン二次電池の正極から、コバルト、ニッケルなどの有価物を含む再利用原料を簡単かつ効率的に回収することができるリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 集電体としてのアルミニウムと有価物とを含有するリチウムイオン二次電池の正極を、水酸化ナトリウムの濃度が2質量%〜40質量%の水酸化ナトリウム水溶液で処理する処理工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法である。
<2> 処理工程においてアルミニウムを水酸化ナトリウム水溶液により溶解することで前記アルミニウムと有価物とを分離する前記<1>に記載のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法である。
<3> 処理工程における水酸化ナトリウム水溶液の温度が、40℃〜70℃である前記<1>から<2>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法である。
<4> 有価物が、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかである前記<1>から<3>のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、リチウムイオン二次電池の正極から、コバルト、ニッケルなどの有価物を含む再利用原料を簡単かつ効率的に回収することができるリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、水酸化ナトリウム水溶液の濃度と回収物におけるアルミニウム濃度との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1での処理によりアルミニウム箔から剥がれた正極材の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(リチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法)
本発明のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法は、処理工程を少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0011】
<処理工程>
前記処理工程としては、集電体としてのアルミニウムと有価物とを含有するリチウムイオン二次電池の正極を、水酸化ナトリウムの濃度が2質量%〜40質量%の水酸化ナトリウム水溶液で処理する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0012】
−リチウムイオン二次電池−
前記リチウムイオン二次電池としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
【0013】
前記リチウムイオン二次電池の構造としては、正極を有する構造であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極と、負極と、セパレーターと、電解質及び有機溶剤を含有する電解液と、前記正極、前記負極、前記セパレーター及び前記電解液を収容する金属製の電池ケースとを備えたものなどが挙げられる。
【0014】
前記リチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円筒形、ボタン形、コイン形、角形、平形などが挙げられる。
【0015】
−−正極−−
前記正極としては、集電体であるアルミニウムと有価物とを含有する正極であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、集電体であるアルミニウムと、前記集電体上に付与された有価物を含む正極材とを備えた正極などが挙げられる。
前記正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
【0016】
−−−集電体−−−
前記集電体は、アルミニウムである。
前記集電体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
【0017】
−−−正極材−−−
前記正極材としては、前記有価物を含むものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有価物を含有する正極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材などが挙げられる。
前記有価物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかであることが好ましい。
前記正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、LiNiCoMn2(x+y+z)などが挙げられる。
前記導電剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、金属炭化物などが挙げられる。
前記結着樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、アクリロニトリル、エチレンオキシド等の単独重合体又は共重合体、スチレン−ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0018】
−水酸化ナトリウム水溶液−
前記水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウムの濃度は、2質量%〜40質量%であり、2質量%〜10質量%がより好ましい。前記濃度が2質量%〜40質量%であることにより、前記処理工程により得られる回収物におけるアルミニウムの含有量が2質量%以下になる。好ましくは、1質量%以下になる。アルミニウムの含有量が2質量%以下の回収物は、前記有価物を含有し、かつ再利用原料として使用可能になる。一方、前記濃度が、2質量%未満であると、回収物におけるアルミニウムの含有量が2質量%を超える。アルミニウムの含有量が2質量%を超える回収物は、再利用原料として利用することが困難である。そのため、アルミニウムの含有量が2質量%を超える回収物を再利用する際には、アルミニウムを前記回収物から除去する工程、例えば、磁力選別などの工程が更に必要になり、再利用の際の工程が煩雑になる。前記濃度が、40質量%を超えた場合も、前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度が2質量%未満の場合と同様に、回収物におけるアルミニウムの含有量が2質量%を超える。前記濃度が、前記好ましい範囲内であると、濃度の高い水酸化ナトリウム水溶液を用いる必要がなく処理ができる点で有利である。
【0019】
前記処理工程における処理の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記水酸化ナトリウム水溶液中に前記正極を浸漬する方法などが挙げられる。
前記処理工程は、前記正極を前記水酸化ナトリウム水溶液中に静置して行ってもよく、前記正極を浸漬した前記水酸化ナトリウム水溶液を攪拌して行ってもよい。中でも、静置して行うことが、好ましい。静置して行うことで、前記正極材が破砕させることなく、例えば、シート状で回収できるため、ろ過などの工程を必要とせず、容易に前記水酸化ナトリウム水溶液と前記正極材とを分離できる。
【0020】
前記処理工程においては、前記アルミニウムと前記有価物とを分離する。
前記処理工程においては、前記アルミニウムを前記水酸化ナトリウム水溶液により溶解することで前記アルミニウムと前記有価物とを分離することが好ましい。前記アルミニウムを溶解する際には、前記アルミニウムを全て溶解する必要はなく、前記アルミニウムと前記有価物とを分離できる程度に前記アルミニウムを溶解すればよい。
【0021】
前記処理工程の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10分間〜24時間が好ましく、10分間〜2時間がより好ましい。
【0022】
前記処理工程における前記水酸化ナトリウム水溶液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15℃〜70℃が好ましく、40℃〜70℃がより好ましい。前記温度が、前記より好ましい範囲内であると、処理時間が短くなる点、及び回収した正極材におけるアルミニウム濃度がより低くなる点で有利である。
【0023】
前記処理工程により、前記集電体としてのアルミニウムと前記有価物とが分離される。具体的には、例えば、正極中のアルミニウム箔から有価物を含有する正極材が剥がれる。アルミニウムから剥がれた正極材には、有価物が含有されており、かつアルミニウムがほとんど含まれていない(アルミニウムの含有量が2質量%以下である)ため、再利用原料として使用することができる。
【0024】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、濃縮工程などが挙げられる。
【0025】
−濃縮工程−
前記濃縮工程としては、前記処理工程の後に、前記回収物中の前記有価物を濃縮する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記回収物と炭素とを混合して焼成し、水で洗浄する工程などが挙げられる。
前記焼成の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、650℃〜800℃が好ましい。
前記濃縮工程を行うことにより、前記回収物中の前記有価物の濃度を上げ、再利用により適した回収物を得ることができる。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法では、簡単な操作により、正極から有価物を含有する回収物を得ることができる。またその回収物は、アルミニウム濃度が低いため、そのまま再利用原料として用いることが可能である。更に、本発明のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法は、粉砕工程を必須としないために、高い回収率で有価物を含有する回収物を得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
<有価物の回収>
使用済みのパソコン用リチウムイオン二次電池を用いた。
使用済みのパソコン用リチウムイオン二次電池を、工具を用いて分解し、正極を電池ケースから取出した。取出した正極の合計量1,000gには、集電体としてのアルミニウム箔が100g、有価物を含有する正極材が900g含まれていた。
【0029】
−処理工程−
正極10gを2質量%水酸化ナトリウム水溶液50gに入れて静置し、水溶液の温度を25℃として処理した。
【0030】
6時間処理後には、アルミニウム箔の大半が溶け、アルミニウム箔から正極材が完全に剥がれていることを確認した。アルミニウム箔から分離した正極材について、アルミニウム濃度(Al濃度)を求めた。結果を表1及び図1に示す。また、アルミニウム箔から剥がれた正極材の写真を図2に示す。シート状の正極材を回収することができた。
なお、アルミニウム濃度については、ICP発光分光分析(Perkin Elmer社製、Optima3300XL)により求めた。
【0031】
(実施例2〜17、及び比較例1〜5)
実施例1において、水酸化ナトリウムの濃度を表1に記載の濃度に変えた以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム箔から正極材を剥離し、アルミニウム濃度を求めた。処理時間、及び回収した正極材におけるアルミニウム濃度を表1に示す。また、25℃で処理した場合の結果を図1に示す。実施例2〜17及び比較例1〜5においてアルミニウムから剥がされた正極材は、実施例1と同様にシート状であった。
【0032】
(実施例18)
実施例1において、静置をマグネットスターラーによる攪拌(400rpm)に代えた以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム箔から正極材を剥離し、アルミニウム濃度を求めた。
処理時間、及び回収した正極材におけるアルミニウム濃度を表1に示す。
正極材は、攪拌により破砕されており、全量を回収するために、ろ過を要した。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1〜18では、アルミニウム箔から完全に正極材が剥がれており、かつ回収された正極材のアルミニウム濃度は、1質量%以下であり、アルミニウム濃度が非常に低い、有価物を含有する再利用可能な回収物が得られたことが確認できた。
また、処理温度を40℃〜70℃にすると、アルミニウム濃度がより低くなり、かつ処理時間を大幅に短縮できた。
一方、比較例1〜5では、処理に時間がかかる上に、アルミニウム濃度が2質量%以上となった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法は、リチウムイオン二次電池の正極から、コバルト、ニッケルなどの有価物を含む再利用原料を簡単かつ効率的に回収することができることから、使用済みのリチウムイオン二次電池から有価物を回収する方法に好適に適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体としてのアルミニウムと有価物とを含有するリチウムイオン二次電池の正極を、水酸化ナトリウムの濃度が2質量%〜40質量%の水酸化ナトリウム水溶液で処理する処理工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法。
【請求項2】
処理工程においてアルミニウムを水酸化ナトリウム水溶液により溶解することで前記アルミニウムと有価物とを分離する請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法。
【請求項3】
処理工程における水酸化ナトリウム水溶液の温度が、40℃〜70℃である請求項1から2のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法。
【請求項4】
有価物が、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかである請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池の正極からの有価物の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−248324(P2012−248324A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117232(P2011−117232)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(506347517)DOWAエコシステム株式会社 (83)
【Fターム(参考)】