説明

リチウムイオン二次電池の正極板およびリチウムイオン二次電池

【課題】さらなる大容量化と大電流での充放電とを可能にするリチウムイオン二次電池の正極板およびリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池の正極板は,正極集電体とその少なくとも一面に形成された正極活物質層とを含む正極板と,負極集電体とその少なくとも一面に形成された負極活物質層とを含む負極板とを有するリチウムイオン二次電池の正極板であって,正極集電体は,一方の面側に向けて突出するとともに中心が貫通穴となっている突出部が形成されているものであり,正極板の全厚のうち,正極集電体およびその突出部が存在せず正極活物質層だけが存在している部分の厚さが占める割合が,3%以上75%以下の範囲内であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,リチウムイオンの吸蔵,放出が可能な材料を用いたリチウムイオン二次電池の正極板およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。さらに詳細には,金属箔に電極活物質を塗工したリチウムイオン二次電池の正極板およびリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より,リチウムイオン二次電池の電極板として,金属箔の表裏面に電極活物質を塗工したものが使用されている。例えば,正極板として,アルミ箔による正極集電体の両面にリチウム含有金属酸化物を含む合剤を塗布したものを使用し,負極板として,銅箔による負極集電体の両面に炭素系物質の合剤を塗布したものを使用した二次電池がある。このようなものにおいて従来より,電池容量の大容量化とともに大電流での充放電を可能にすることが求められている。
【0003】
本発明者らは,集電体の形状に工夫することにより,上記の問題点を解決できることを見出した(特許文献1参照。)。すなわち,集電体に穿孔し,その孔の周囲を突出させた状態で,電極活物質を塗工することにより,大容量化と大電流での充放電とをともに達成できることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−311171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,近年の技術の進歩により,前記した先行技術よりもさらなる大容量化と大電流での充放電とが求められるに至っている。
【0006】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,さらなる大容量化と大電流での充放電とを可能にするリチウムイオン二次電池の正極板およびリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた本発明のリチウムイオン二次電池の正極板は,正極集電体とその少なくとも一面に形成された正極活物質層とを含む正極板と,負極集電体とその少なくとも一面に形成された負極活物質層とを含む負極板とを有するリチウムイオン二次電池の正極板であって,正極集電体は,一方の面側に向けて突出するとともに中心が貫通穴となっている突出部が形成されているものであり,正極板の全厚のうち,正極集電体およびその突出部が存在せず正極活物質層だけが存在している部分の厚さが占める割合が,3%以上75%以下の範囲内であるものである。
【0008】
このような正極板を使用することにより,大容量でかつ大電流での充放電が可能な二次電池を製造できることが見出された。
【0009】
さらに本発明では,正極集電体は,一面側へ突出する突出部と他面側へ突出する突出部とが混在して形成されたものであり,正極集電体の両面に正極活物質層が形成されているものであることが望ましい。
両面側へ突出する突出部が形成されていれば,両面にそれぞれ正極活物質層を形成して,有効な正極板とすることができる。
【0010】
さらに本発明では,正極活物質層の密度は,1.7〜3.6g/cm3の範囲内であることが望ましい。
この範囲内であれば,適切に正極活物質層を形成することができる。
【0011】
さらに本発明では,突出部の先端が正極集電体の一面へ向かって湾曲していることが望ましい。
このようになっていれば,正極集電体と正極活物質層との密着性がさらに高いものとなる。
【0012】
さらに本発明は,上記のいずれかの条件を満たすリチウムイオン二次電池の正極板を有するリチウムイオン二次電池にも及ぶ。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極板およびリチウムイオン二次電池によれば,さらなる大容量化と大電流での充放電とが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本形態のリチウムイオン二次電池の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図2】正極板を示す断面図である。
【図3】大電流放電試験の結果を示すグラフ図である。
【図4】合剤塗布量と電池抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図5】サイクル寿命試験の結果を示すグラフ図である。
【図6】正極板の別の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池とその電極板に本発明を適用したものである。
【0016】
本形態のリチウムイオン二次電池はコイン型の電池1であり,その一部を切断して内部の構成例を図示したものを図1に示す。電池1の内部には,正極板11と負極板12とがその間にセパレータ13を挟みつつ積層されている。そして,電解液とともに,コイン型のケース15に密封されている。この図では各電極板をかなり厚く描いているが,実際にはもっと薄いものであり,いずれも複数枚積層されている。なお,本発明はこのコイン型の電池に限るものではなく,円柱型,扁平角型,角柱型等の電池にも適用できる。また積層タイプに限るものでもなく,捲回タイプのものでも構わない。
【0017】
本形態の正極板11は,その断面を図2に示すように,正極集電体21と正極活物質層22とを有している。正極集電体21は,アルミ箔に穿孔処理が行われたものである。つまり,図中で上面から下面へ向かって穿孔され,その周囲が略円筒形状に突出した下方突出部25と,図中で下面から上面へ向かって穿孔され,その周囲が略円筒形状に突出した上方突出部27とを有している。これらの下方突出部25および上方突出部27の中央部には,貫通穴28が形成されている。なお,これらの突出部25,27の内部にも,正極活物質層22が入り込んでいる。
【0018】
また本形態では,これらの下方突出部25と上方突出部27とは,図2に示すように,交互に配置されている。これらの下方突出部25と上方突出部27とが形成されている領域は,正極集電体21の面内の全面にわたっていてもよいが,面の外周部等にこれらを形成しない領域を残すようにしてもよい。このようにすれば,正極集電体21がかなり薄いものであってもその強度を適度に保持することができ,穿孔処理および塗工工程が容易なものとなる。
【0019】
本形態の正極活物質層22は,リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質による正極合剤を含むものである。例えば,リチウム含有金属酸化物,リチウム含有金属リン酸化合物,リチウム含有化合物のいずれかを主材料とし,これに結着剤と分散溶媒等を混練してペースト状としたものが好適である。主材料としては,例えば,コバルト酸リチウム(LiCoO2),ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Li(Ni/Co/M
n)O2),マンガン酸リチウム(LiMn24),リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等が好適に用いられる。
【0020】
一方,負極板12は,図2に示した正極板11と同様の形状のものである。正極板11の正極集電体21に代えて負極集電体31を,正極活物質層22に代えて負極活物質層32を,それぞれ有しているものである。負極集電体31は,銅箔を用い,これに正極集電体21と同様の穿孔処理が行われたものであり,下方突出部25と上方突出部27とを有するものである。
【0021】
負極活物質層32は,リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質による負極合剤に,結着剤と分散溶媒等を混練してペースト状としたものを塗工したものである。負極活物質の主材料としては,炭素材,リチウム−アルミニウム合金,シリコン系またはスズ系リチウム合金が挙げられる。炭素材としては例えば,非晶質炭素,難黒鉛化炭素,易黒鉛化炭素,黒鉛等の炭素系物質が好適に用いられる。
【0022】
また,セパレータ13は,正極板11および負極板12を電気的に絶縁するとともに,電解液をその内部にある程度保持できるものである。例えば,ポリエチレンやポリプロピレンの多孔性フィルム等が好適である。
【0023】
また,電解液は,リチウム塩を含む非水電解液またはイオン伝導ポリマー等が好適である。非水電解液の非水溶媒としては,例えば,エチレンカーボネート(EC),プロピレンカーボネート(PC),ジエチルカーボネート(DEC),ジメチルカーボネート(DMC),メチルエチルカーボネート(MEC)等がある。またリチウム塩としては,六フッ化リン酸リチウム(LiPF6),ホウ四フッ化リチウム(LiBF4),トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSO3CF4)等が挙げられる。
【0024】
このようなものにおいて,本発明者らは,下方突出部25と上方突出部27との大きさ,および活物質層の密度を適切な範囲に設定することにより,さらに大容量であり大電流での充放電を可能とした二次電池が得られることを見出した。以下では,図2に示すように,正極板11または負極板12の全厚t0のうち,突出部を含む集電体が存在する厚さの範囲である突出部厚t1を除いた部分の割合を純活物質層率F(%)とする。すなわち,純活物質層率Fは以下の式1で表される。
F (%) = (t0 − t1)×100 / t0 …(式1)
【0025】
例えば,純活物質層率Fが0%であれば,全厚t0と突出部厚t1とが等しいことを表す。このようなものでは,集電体の突出部25,27の一部が電極板の外面に到達している箇所があることになる。また,集電体に突出部25,27を全く形成しない場合には,突出部厚t1は元の金属箔の厚さである。例えば,突出部25,27の形成されていない20μmのアルミ箔を用いた全厚10mmの正極板では,純活物質層率Fは約95%である。
【0026】
そして,本発明者らは,その電極板の純活物質層率Fを3%以上75%以下の範囲内とすることにより大容量化と大電流での充放電とを実現できることを見出した。さらに望ましくは,10%以上50%以下の範囲内である。そして,本形態の二次電池では,図2に示すように,上下に突出部25,27を形成した正極集電体21を厚さ方向の中央に配して,両面に同じ厚さで活物質を塗工した正極板11を用いている。なお,本形態の二次電池では,電池容量等の電池性能に大きく寄与しているのは正極板11であるが,正極板11がその性能を十分に発揮できるために,負極板12についても正極板11と同等の範囲内の純活物質層率Fを有するものとすることが望ましい。
【0027】
さらに,活物質層22,32の密度にも適切な範囲がある。本形態の二次電池では,正負極の活物質として,前述のような材料のペーストを製造し,集電体21,31に塗布する。その後,乾燥して,プレスすることにより製造している。本形態では,ペーストの塗布量とプレスの強度とを調節することにより,適切な密度の活物質層22,32となるようにしている。
【0028】
本形態では,正極活物質層22の密度は1.7〜3.6g/cm3の範囲内とすることが好適であることが分かった。また,負極活物質層32の密度は,1.3〜1.6g/cm3の範囲内とすることが好適である。これより小さい密度とすると,活物質層22,32と集電体21,31との密着性が低下するので好ましくない。またこれより密度の大きい活物質層とすることは,活物質層の多孔性が確保されず,電解液の拡散性が抑制されて,大電流放電性能の低いものとなる。
【0029】
本発明者らは,前述した各種の範囲を決定するための実験および,本発明の効果を確認するための実験として,以下に説明する5種類の実験を行った。次に,これらの実験についてそれぞれ説明する。
【0030】
(第1の実験)
第1の実験は,純活物質層率Fの適切な範囲を得るためのものである。そのために,集電体に形成する突出部の高さが異なる複数種の二次電池を製造し,容量密度と電池抵抗とを測定した。なお,容量密度とは,電池容量を活物質の単位量当たりに換算した値である。
【0031】
まず,実験の対象となる二次電池を製造する。この二次電池は,以下に記載する正極板と負極板とを有し,一般的なセパレータとこれらを重ねてケースに封入したものである。なお,電解液としては,ECとMECとを体積比で30:70に混合した溶液中に,六フッ化リン酸リチウムを1mol/l溶解したものを用いた。この実験では,2025形(直径20mm,厚さ2.5mm)のコイン電池を作製した。
【0032】
<正極板>
主材料としてコバルト酸リチウムを,結着剤としてポリフッ化ビニリデンをそれぞれ用い,活物質92.5重量部,導電材4重量部,結着剤3.5重量部の割合で用意した。これに分散溶媒としてN−メチルピロリドンを添加して,混練した。これによって正極合剤のスラリーを製造した。また,20μm厚のアルミニウム板に穿孔処理を行って突出部を形成した正極集電体を複数種用意した。穿孔に用いるピンの種類を変えることにより,各二次電池ごとに異なる高さの突出部を形成した。この実験では,後出の表1に記すように,実施例1〜4,比較例1〜2の6種類のものを作製した。
【0033】
各正極集電体の両面にそれぞれ,上記の正極合剤のスラリーを320g/m2の塗布量で塗布し乾燥した。その後,この乾燥した正極合剤を両面からプレスし,正極活物質層の密度を3.55g/cm3とした。すなわち,ここで製造した各正極板はいずれも,極板の面積あたりの正極活物質の重量や,正極活物質層の密度は等しいものである。純活物質層率Fは,突出部の高さによって異なる。さらに,電池ケースの形状に合わせて丸く打ち抜くことにより,各正極板を得た。
【0034】
<負極板>
主材料として黒鉛粉末を,結着剤としてポリフッ化ビニリデンをそれぞれ用い,活物質92重量部,導電材2重量部,結着剤6重量部の割合で用意した。これに分散溶媒としてN−メチルピロリドンを添加して,混練した。これによって負極合剤のスラリーを製造した。10μm厚の銅板に,それぞれ正極集電体と同じ大きさの突出部を形成する穿孔処理を行って負極集電体を得た。負極合剤のスラリーを負極集電体の両面に塗布して乾燥し,プレス,打ち抜きにより,負極板を得た。
【0035】
この第1の実験では,作製したそれぞれの二次電池について,容量密度と電池抵抗値とを測定した。容量密度の取得は,3.2mA/cm2(0.7ItA相当)の電流密度で,満充電から電圧が2.7Vとなるまで定電流放電を行い,放電容量を測定することで行った。得られた放電容量を全正極活物質量で除し,正極活物質の単位重量当たりの放電容量,すなわち容量密度を得た。本形態の二次電池では,その容量密度は,120mAh/g以上であることが望ましい。
【0036】
なお,電流密度は,電極板の単位面積あたりの電流値である。そして,単位ItAは,電池の放電できる能力を表すものである。満充電状態から1時間で使い切ることのできる電流値を1ItAという。
【0037】
また,電池抵抗値の測定では,各電池を満充電の50%の充電状態となるように調整し,その状態から電流密度0.64mA/cm2,1.6mA/cm2,3.2mA/cm
2でそれぞれ定電流放電した。そのそれぞれにおける電池電圧の降下量を測定した。この結果を,I−V特性としてグラフにプロットし,その傾きから電池抵抗値を算出した。本形態の電池抵抗値は,60Ω未満であることが望ましい。
【0038】
【表1】

【0039】
この第1の実験の結果は表1のようになった。作製した各正極板の純活物質層率Fは,18〜95%であった。そのうち,容量密度と電池抵抗値との結果から,本発明として許容される範囲内の結果が得られたのは,純活物質層率Fが18〜75%の範囲内の実施例1〜4であった。一方,純活物質層率Fが75%より大きいものは,許容範囲外の結果であり,比較例1,2とした。なお,比較例2は,突出部25,27を全く形成していない集電体21,31を使用した二次電池である。
【0040】
この実験の結果は,表1から分かるように,純活物質層率Fの割合が小さいほど容量密度は大きく,電池抵抗は小さいため,好ましいものであった。そして,純活物質層率Fの割合が75%を超えて大きいと急激に,容量密度が低いものとなるとともに,電池抵抗が高いものとなった。この実験の結果から,容量密度と電池抵抗値とのいずれも許容範囲内とするためには,この純活物質層率Fの上限を75%以下とする必要があることが分かった。より望ましくは,75%未満とするとよい。また,50%以下とするとさらによい。
【0041】
ただし,純活物質層率Fが0%では,活物質のみで形成されている部分がまったくないことになる。そのため,突出部25,27の先端部が電極板11,12の表面に露出するおそれがある。その場合には,その先端部によってセパレータに傷が付き,場合によっては正負の集電体21,31が接触して短絡するおそれがあるので好ましくない。そこで,現実的な純活物質層率Fの許容範囲として,その下限を3%以上とした。10%以上とするとさらによい。さらに,この実験では,純活物質層率Fの下限が18%以上であれば良好なものとなることが確認できた。
【0042】
(第2の実験)
第2の実験は,正極板11の正極活物質層の密度と電池性能との関係を調べるためのものである。そのために,正極活物質層の密度の異なる複数種の二次電池を製造し,容量密度を比較した。
【0043】
次に,第2の実験では,第1の実験と同様の材料によるスラリーを用いた3種類の正極板を製造した。この実験では,同じ高さの突出部を有する集電体に,それぞれ同じ厚さのスラリーを塗布したうえで,乾燥後のプレスの程度を変えることにより正極活物質層の密度をそれぞれ異なるものとした。従って,正極活物質層の密度は異なるものの,含まれる正極活物質の量は等しい。また,塗布量は,プレス前における突出部を含む集電体が存在する厚さの範囲である突出部厚が,全厚の50%となる程度である。なお,容量密度を求める手順は,第1の実験のものと同様である。
【0044】
【表2】

【0045】
この第2の実験の結果を,表2に示す。容量密度は,プレス圧を大きくし密度が大きくなるにつれて小さくなった。この表の範囲では,許容できる範囲の容量密度が得られたのは,密度が3.20g/cm3の実施例5と,密度が3.55g/cm3の実施例6であった。密度が3.65g/cm3の比較例3では,容量密度は小さすぎるものであった。すなわち,この実験から,望ましい容量密度である120mAh/g以上を得るためには,正極活物質層は,その密度が3.6g/cm3以下となる程度までしかプレスしないことが望ましいことが分かった。なお,負極板についても同様に実験を行った結果,負極活物質層の密度は1.6g/cm3以下が望ましいことが分かった。
【0046】
(第3の実験)
第3の実験は,第1,第2の実験の結果から得られた本発明の範囲内の純活物質層率Fと正極活物質層の密度とを有する二次電池が,大電流での放電能力を十分に有していることを確認するために行ったものである。各種の二次電池を製作し,放電電流値を変えて容量密度を測定した。
【0047】
この実験では,純活物質層率Fおよび密度を変えて,以下の表3に記す各種の二次電池を製作した。実施例7〜10はいずれも,純活物質層率Fと活物質層の密度とが本発明の範囲内に入っている正極板を有しているものである。比較例2は,表1の比較例2と同じものであり,その純活物質層率Fは本発明の範囲外である。この各二次電池について,種々の放電電流での放電を行い,各放電電流値における容量密度を算出した。
【0048】
【表3】

【0049】
この第3の実験の結果を図3に示す。図示のように,0.9〜1.0ItA程度の大電流による放電を行った場合の容量密度は,実施例7〜10が十分良好であるのに比較して比較例2は不十分なものであった。なかでも,活物質層の密度の小さい実施例7,9,10は特に良好であった。また,実施例8と比較例2との比較から,密度および合剤塗布量が同じであっても,電極板の純活物質層率Fの値によって容量密度には明確な差があることが確認できた。この実験では,純活物質層率Fの上限を71%以下とすると,大電流放電能力により優れていることが確認できた。
【0050】
また,実施例9と実施例10は,純活物質層率Fと密度とが等しいものであり,図3に示すように,これらの容量密度には大きな差はなかった。ただし,二次電池としては,容量密度が同じであれば合剤塗布量が多いほど全体の容量が大きく,電池の大容量化に貢献できることを意味する。その意味では,実施例10の方が望ましい形態である。なお,実施例10として選択した400g/m2の合剤塗布量は,電極表面に亀裂を発生させないで製造できる範囲内で最大量の塗布量である。
【0051】
また,図3に示すように,実施例8と実施例9との比較から,同じ合剤塗布量でも密度が異なれば,容量密度にはある程度の差が生じることが確認できた。すなわち,密度が小さいものほど,大電流による放電における容量密度が大きく,大電流での使用に適しているものであることが確認できた。さらに,純活物質層率Fと密度とがともに小さい実施例7は,大電流による放電でも,他より大きい容量密度が得られた。これにより,本発明の範囲内となるように,純活物質層率Fと密度とを調整することにより,大電流放電時においても大きい容量密度が得られるものとなることが確認できた。
【0052】
以上の第1〜第3の実験の結果から,正極板11の純活物質層率Fを3%以上75%以下の範囲内とするとともに,密度を1.7〜3.6g/cm3の範囲内とすることにより,好ましい電池が得られることが確認できた。
【0053】
(第4の実験)
本発明者らはさらに,試作したいくつかの二次電池を用いて,合剤の塗布量と電池抵抗値との関係を調べた。この実験では,集電体における突出部の有無と活物質層のプレスの程度とを変えて,種々の二次電池を作製した。なお,この実験では,電池として適切に製造できる範囲は,合剤塗布量が70g/m2以上のものであった。また,電池抵抗値が60Ωを超えたものは不適格である。
【0054】
この第4の実験の結果を図4に示す。この図で,黒三角で示しているのは,集電体に突出部を形成した本発明の二次電池についての結果である。黒丸で示しているのは,突出部を形成していない平板状の集電体を用いた比較例の二次電池の結果である。比較例では,活物質層の密度を3.55g/cm3程度とした。電池抵抗値が許容範囲内で選択可能な合剤の塗布量の範囲は,70〜320g/m2であった。
【0055】
一方,本発明の突出部を有する集電体を用いたものでは,上述した第2の実験の結果から,活物質層の密度が3.20g/cm3程度まで圧縮されていれば十分であり,それ以上プレスする必要はない。これにより,図4に示すように,合剤塗布量が同じでも本発明では比較例よりも電池抵抗値の小さい電池を製造することができた。また第2の実験からは,活物質層の密度が小さい方が,容量密度が大きい二次電池が得られることもわかった。
【0056】
そして,容量密度が同じであれば,合剤塗布量が大きいほど全体としての電池容量が大きい電池となる。そして第3の実験から分かるように,本発明では,合剤塗布量を400g/m2まで増やすことができる。つまり,本発明で,電池抵抗値が許容範囲内で選択可能な合剤の塗布量の範囲は,70〜400g/m2であった。従って,本発明を用いることによって,電極仕様の選択可能範囲が大きくなり,設計の許容範囲が大きくなったことが確認できた。
【0057】
(第5の実験)
第5の実験は,実施例の二次電池と従来の平板状の集電体を用いた二次電池とに対して行ったサイクル試験である。この実験では,18650形(直径18mm,高さ65mm)の円筒形電池(3.6V−1800mAh)を作製した。本発明の二次電池としては,第3の実験で実施例8として用いた正極板と,これと同様な突出部のある集電体を用いた負極板とを使用したものを作製した。また,比較例として第3の実験で比較例2とした電極板を用いた二次電池を作製した。
【0058】
この2種類の二次電池について,以下の条件でサイクル寿命性能を調べるための試験を行った。この実験は,25℃の環境下で以下の手順で行った。
(1)1.8Aの定電流で4.2Vとなるまで充電した。その後,電圧を一定に保ったまま電流値が0.9Aになるまで充電した。電流値が0.9Aを満充電とした。
(2)1.8Aの定電流で放電深度70%となるまで放電した。ただし,放電深度とは,二次電池の定格容量に対する放電量の比である。たとえば1000mAhの定格容量を有する二次電池の放電量が700mAhであれば,70%の放電深度である。
(3)10分休止した。
(4)上記の(1)〜(3)を1サイクルとして,所定のサイクル数となるまで繰り返した。
(5)所定回数の繰り返し後に,放電容量を測定した。
(6)(5)で得られた放電容量の初期放電容量に対する割合を算出した。すなわち,
(サイクル後の放電容量 / 初期放電容量) ×100 = 容量維持率(%)
である。この容量維持率が,60%以上のものが許容範囲内である。
【0059】
この実験の結果を図5に示す。実施例の二次電池では,結果を図中に実線L1として示したように,試験サイクル数が1250サイクル程度まで許容範囲内であった。また,比較例の二次電池では,その結果を図中に実線L2で示したように,許容範囲内の容量を維持できたのは750サイクル程度までであった。この結果から,本発明の二次電池のサイクル寿命性能が良好であることが確認できた。
【0060】
一般に密度を小さくすると,活物質層の多孔度が大きくなって電解液の拡散性が良好なものとなる一方,電子伝導性が小さく大電流による放電容量はあまり大きくないものとなる。さらに,活物質の集電体への密着性が低下するので,サイクル寿命が短いものとなることが知られている。本形態の二次電池では,突出部の存在が電子伝導性を向上させることにより,サイクル寿命を長いものとすることができたと考えられる。
【0061】
以上詳細に説明したように本形態の二次電池によれば,集電体の両面から穿孔することにより,その周囲に突出部を形成したものを使用し,その両面に合剤を塗工した電極板11,12を用いている。特に,正極板11の純活物質層率Fを3%以上75%以下の範囲内とするとともに,正極活物質層22の密度を1.7〜3.6g/cm3の範囲内としたので,さらなる大容量化と大電流での充放電とを実現できる二次電池を得ることができた。
【0062】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,上記の形態では,集電体の両面に突出する上方突出部と下方突出部とをともに形成し,合剤を両面に塗工したものとしているが,片面塗工の電極板を使用することもできる。ただし,片面塗工の電極板では,塗工する側のみに突出部を形成することが好ましい。この場合でも,純活物質層率Fの範囲は上記の形態と同じであることが好ましい。
【0063】
また,例えば,図6に示すように,下方突出部25と上方突出部27として,先端がその根元の穴に向かって湾曲したものを用いてもよい。特に図示したように,穴の外側に向かって湾曲したものでは,集電体と活物質層22,32との結びつきが強くなるので,より好ましい。
【符号の説明】
【0064】
1 電池
11 正極板
12 負極板
21 正極集電体
22 正極活物質層
25 下方突出部
27 上方突出部
31 負極集電体
32 負極活物質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体とその少なくとも一面に形成された正極活物質層とを含む正極板と,負極集電体とその少なくとも一面に形成された負極活物質層とを含む負極板とを有するリチウムイオン二次電池の正極板において,
前記正極集電体は,一方の面側に向けて突出するとともに中心が貫通穴となっている突出部が形成されているものであり,
前記正極板の全厚のうち,前記正極集電体およびその突出部が存在せず正極活物質層だけが存在している部分の厚さが占める割合が,3%以上75%以下の範囲内であることを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極板。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の正極板において,
前記正極集電体は,一面側へ突出する前記突出部と他面側へ突出する前記突出部とが混在して形成されたものであり,
前記正極集電体の両面に前記正極活物質層が形成されているものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極板。
【請求項3】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の正極板において,
前記正極活物質層の密度は,1.7〜3.6g/cm3の範囲内であることを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極板。
【請求項4】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の正極板において,
前記突出部の先端が前記正極集電体の一面へ向かって湾曲していることを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極板。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池の正極板を有するリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−43751(P2012−43751A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186533(P2010−186533)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(502318560)エス・イー・アイ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】