説明

リチウムイオン二次電池正極材料の製造方法

【課題】高放電容量のリチウムイオン二次電池正極材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】(1)3価の鉄を構成元素として含む結晶を含有する無機化合物を粉砕して、平均粒子径が1.8μm以下の前駆体無機粉末を得る工程、および、(2)前駆体無機粉末を熱処理して還元することにより、一般式LiMxFe1-xPO4(0≦x<1、MはNb、Ti、V、Cr、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種)で表されるオリビン型結晶を得る工程、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型電子機器や電気自動車等に用いられるリチウムイオン二次電池を構成する正極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電子端末や電気自動車に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立している。リチウムイオン二次電池の正極材料には、従来コバルト酸リチウム(LiCoO2)やマンガン酸リチウム(LiMn24)等の無機金属酸化物が用いられてきた。しかし、近年の電子機器の高性能化により消費電力が増大し、リチウムイオン二次電池のさらなる高容量化が要求されている。また、環境保全問題やエネルギー問題の観点から、CoやMn等の環境負荷の大きい材料からより環境調和型の材料への転換が求められている。さらに近年、コバルト資源の枯渇問題が注目されており、そのような観点からもコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムに代わる安価な正極材料への転換が望まれている。
【0003】
近年、コストおよび資源等の面で有利なことから、一般式LiMxFe1-xPO4(0≦x<1、MはNb、Ti、V、Cr、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種)で表される、2価の鉄を構成元素として含有するオリビン型結晶が注目されており、種々の研究および開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。LiMxFe1-xPO4はコバルト酸リチウムに比べて温度安定性に優れ、高温での安全な動作が期待される。また、リン酸を骨格とする構造であるため、充放電反応による体積変化が緩和され、構造劣化に対する耐性に優れるという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−134725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の方法により製造されたオリビン型LiMxFe1-xPO4結晶を含有するリチウムイオン二次電池正極材料は、放電容量が十分に得られないという問題があった。
【0006】
したがって、本発明は、高放電容量のリチウムイオン二次電池正極材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(1)3価の鉄を構成元素として含む結晶を含有する無機化合物を粉砕して、平均粒子径が1.8μm以下の前駆体無機粉末を得る工程、および、(2)前駆体無機粉末を熱処理して還元することにより、一般式LiMxFe1-xPO4(0≦x<1、MはNb、Ti、V、Cr、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種)で表されるオリビン型結晶を得る工程、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法に関する。
【0008】
オリビン型LiMxFe1-xPO4結晶を含有するリチウムイオン二次電池正極材料(以下、単に「正極材料」ともいう)の製造方法としては、例えば以下の方法がある。
【0009】
(製造方法I)
必須成分としてLi2O、Fe23およびP25、さらに必要に応じて金属元素Mの酸化物を含有する原料粉末を溶融してガラス化して成形する。得られたガラス成形体を粉砕してガラス粉末を得る。ガラス粉末を還元雰囲気下またはカーボン等の還元剤を添加した状態で熱処理し、3価の鉄イオンを2価に還元すると同時に結晶化させ、オリビン型LiMxFe1-xPO4結晶を析出させる。
【0010】
上記製造方法Iでは、鉄原料としてFe23を用いており、一旦、3価の鉄を含有するガラス成形体を得るが、当該ガラス成形体は非晶質であるため機械粉砕による微粉化が困難である。そのため、得られるリチウムイオン二次電池正極材料は粒子径が大きくなりやすく、結果として、比表面積が小さくなり放電容量に劣る傾向がある。
【0011】
一方、本発明の製造方法では、原料として3価の鉄を構成元素として含む結晶を含有する無機化合物を用い、当該無機化合物を粉砕して、オリビン型LiMxFe1-xPO4結晶を得るための前駆体無機粉末を得る。ここで、無機化合物は結晶を含有する構造を有しているため、非晶質であるガラス成形体と異なり、機械粉砕により微粉化が容易である。これは、結晶は微細な結晶子の集合体から構成されており、各結晶子の粒界において容易に解砕されるためであると考えられる。したがって、本発明の製造方法によれば、オリビン型LiMxFe1-xPO4結晶を含み、かつ、平均粒子径が小さく放電容量に優れた正極材料を容易に製造することが可能となる。
【0012】
なお、オリビン型LiMxFe1-xPO4結晶のように2価の鉄を構成元素として含む結晶を含有する無機化合物を一旦作製し、当該無機化合物を微粉化する方法(製造方法II)も考えられる。しかしながら、本発明者らの調査によると、当該製造方法IIにより作製されたリチウムイオン二次電池正極材料は、電極を作製する段階で放電容量が低下しやすいことがわかった。この理由については、詳細には解明されていないが、電極を作製する際の熱処理工程で、オリビン型LiMxFe1-xPO4結晶が溶解する等、構造劣化を起こすためと推測される。
【0013】
第二に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、無機化合物が、3価の鉄を構成元素として含む結晶を10質量%以上含有することが好ましい。
【0014】
第三に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、3価の鉄を構成元素として含む結晶が、一般式Li3yFe2-y(PO43(0≦y<2、MはNb、Ti、V、Cr、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種)で表されるナシコン型結晶であることが好ましい。
【0015】
第四に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、無機化合物が、(0−a)Li2O、Fe23およびP25を含有する原料バッチを溶融する工程、ならびに、(0−b)得られた溶融ガラスを成形および結晶化させる工程、を含む方法により製造されたものであることが好ましい。
【0016】
従来、Li3yFe2-y(PO43等の3価の鉄を構成元素として含む結晶を含有する無機化合物の製造法としては、固相反応、水熱合成、マイクロ波加熱法等が知られているが、これらの方法は、特に生産性の点で課題を有している。そこで、溶融法を用いて融液化した後、成形、粉砕する製造方法を採用することにより、生産性を良好なものとすることができる。しかも、当該方法によれば、リチウム、リン、鉄の各成分が均質に混合された無機化合物を得ることができ、その後の工程により、所望量のLiMxFe1-xPO4結晶が析出した緻密な正極材料が得られやすい。
【0017】
第五に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、工程(0−a)において、酸化物換算のモル%表示で、Li2O 20〜50%、Fe23 10〜40%、P25 20〜50%を含有する組成となるように原料バッチを調製することが好ましい。
【0018】
当該構成により、最終的に所望量のLiMxFe1-xPO4結晶を含有する正極材料が得られやすくなる。
【0019】
第六に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、工程(0−a)において、さらに、酸化物換算のモル%表示で、Nb25+V25+SiO2+B23+GeO2+Al23+Ga23+Sb23+Bi23 0.1〜25%を含有する組成となるように原料バッチを調製することが好ましい。
【0020】
当該構成により、ガラス化が容易になり、均質な無機化合物が得られやすくなる。
【0021】
第七に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、工程(2)において、前駆体無機粉末にカーボンまたは有機化合物を添加し、不活性または還元雰囲気にて熱処理を行うことが好ましい。
【0022】
当該構成により、3価の鉄を構成元素として含む結晶の還元が促進され、所望量のLiMxFe1-xPO4結晶を含有する正極材料が得られやすくなる。
【0023】
第八に、本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、工程(2)において、熱処理を500〜1000℃で行うことが好ましい。
【0024】
第九に、本発明は、前記いずれかの方法により製造されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来と比較して放電容量に優れた、オリビン型LiMxFe1-xPO4結晶を含有するリチウムイオン二次電池正極材料を容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法は、(1)3価の鉄を構成元素として含む結晶を含有する無機化合物を粉砕して、平均粒子径が1.8μm以下の前駆体無機粉末を得る工程、および、(2)前駆体無機粉末を熱処理して還元することにより、一般式LiMxFe1-xPO4(0≦x<1、MはNb、Ti、V、Cr、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種)で表されるオリビン型結晶を得る工程、を含むことを特徴とする。
【0027】
まず、原料となる無機化合物について説明する。
【0028】
無機化合物は、3価の鉄を構成元素として含む結晶を10質量%以上、30質量%以上、特に50質量%以上含有することが好ましい。3価の鉄を構成元素として含む結晶の含有量が少なすぎると、放電容量に優れた正極材料が得られにくくなる。一方、上限については特に限定されないが、現実的には、99質量%以下、95質量%以下、さらには90質量%以下である。
【0029】
3価の鉄を構成元素として含む結晶としては、一般式Li3yFe2-y(PO43(0≦y<2、MはNb、Ti、V、Cr、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種)で表されるナシコン型結晶であることが好ましいが、一般式LiMzFe1-z27(0≦z<1、MはNb、Ti、V、Cr、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種)で表される結晶であってもよい。これにより、最終的に所望量のLiMxFe1-xPO4結晶を含む正極材料が得られやすくなる。
【0030】
無機化合物としては、(0−a)Li2O、Fe23およびP25を含有する原料バッチを溶融する工程、(0−b)得られた溶融ガラスを成形する工程、および、(0−c)得られた成形体を結晶化する工程、を含む方法により製造されたものであることが好ましい。このように、無機化合物を溶融法により製造することにより、リチウム、リン、鉄の各成分が均質に混合された前駆体無機材料が得られやすくなる。
【0031】
ここで、工程(0−a)において、酸化物換算のモル%表示で、Li2O 20〜50%、Fe23 10〜40%、P25 20〜50%を含有する組成となるように原料バッチを調製することが好ましい。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0032】
Li2Oは最終的にLiMxFe1-xPO4結晶の主成分となる成分である。Li2Oの含有量は20〜50%、特に25〜45%であることが好ましい。Li2Oの含有量が少なすぎる場合や、あるいは多すぎる場合は、得られた前駆体無機粉末を熱処理した際にLiMxFe1-xPO4結晶が生成しにくくなる。
【0033】
Fe23も最終的にLiMxFe1-xPO4結晶の主成分となる成分である。Fe23の含有量は10〜40%、特に15〜35%であることが好ましい。Fe23の含有量が少なすぎる場合や、あるいは多すぎる場合は、得られた前駆体無機粉末を熱処理した際にLiMxFe1-xPO4結晶が生成しにくくなる。
【0034】
25も最終的にLiMxFe1-xPO4結晶の主成分となる成分である。P25の含有量は20〜50%、特に25〜45%であることが好ましい。P25の含有量が少なすぎる場合や、あるいは多すぎる場合は、得られた前駆体無機粉末を熱処理した際にLiMxFe1-xPO4結晶が生成しにくくなる。
【0035】
なお、上記成分以外に、さらに、酸化物換算のモル%表示で、Nb25+V25+SiO2+B23+GeO2+Al23+Ga23+Sb23+Bi23 0.1〜25%を含有することが好ましい。
【0036】
Nb25、V25、SiO2、B23、GeO2、Al23、Ga23、Sb23およびBi23はガラス形成能を向上させる成分である。上記酸化物の合量が少なすぎると、ガラス化が困難となる傾向がある。一方、上記酸化物の合量が多すぎると、前駆体無機粉末を熱処理した際のLiMxFe1-xPO4結晶の生成量が少なくなる傾向がある。
【0037】
工程(0−a)において、溶融温度は原料バッチが均質に溶融されるよう適宜調整すればよい。具体的には、900℃以上、特に1000℃以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、高すぎるとエネルギーロスにつながるため、1500℃以下、特に1400℃以下であることが好ましい。なお、3価の鉄を構成元素として含む結晶が得られるよう、溶融雰囲気は大気等の酸化雰囲気であることが好ましい。
【0038】
次に、工程(0−b)において、得られた溶融ガラスを成形および結晶化させることにより、3価の鉄を構成元素として含む結晶を含有する無機化合物が得られる。得られた無機化合物は後に粉砕して微粉化されるため、結晶粒子径の均一性は特に要求されない。そのため、溶融ガラスを一旦成形した後、熱処理を施して結晶化させてもよいが、溶融ガラスの成形と同時に結晶化を進行(失透)させて、製造工程を簡素化しても構わない。
【0039】
その後、無機化合物を粉砕することにより前駆体無機粉末を得る。前駆体無機粉末の平均粒子径は小さいほど正極材料全体としての比表面積が大きくなり、イオンや電子の交換が行いやすくなるため好ましい。具体的には、前駆体無機粉末の平均粒子径は1.8μm以下、1.5μm以下、特に1μm以下であることが好ましい。下限については特に限定されないが、現実的には0.01μm以上である。
【0040】
なお、本発明において、前駆体無機粉末の平均粒子径はD50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値をいうものとする。
【0041】
無機化合物の粉砕方法は特に限定されず、ボールミルやビーズミル等の一般的な粉砕装置を用いることできる。
【0042】
次に、工程(2)において前駆体無機粉末を熱処理して還元することにより、LiMxFe1-xPO4結晶を含有する正極材料を得る。
【0043】
工程(2)における熱処理の温度は、前駆体無機粉末の組成や目的とする結晶子サイズによって異なるため特に限定されるものではないが、500〜1000℃、特に550〜950℃であることが好ましい。熱処理温度が低すぎると、前駆体無機粉末の還元が十分に行われず、所望量のLiMxFe1-xPO4結晶が得られにくくなる。また、後述するカーボンおよび有機化合物等による導電性向上効果が十分に得られないおそれがある。一方、熱処理温度が高すぎると、結晶が融解するおそれがある。なお、熱処理時間は、前駆体無機粉末の還元が十分に進行するように適宜調整すればよく、具体的には10〜180分間、15〜120分間、特に20〜60分間であることが好ましい。
【0044】
熱処理雰囲気は、前駆体無機粉末の還元反応が促進されるよう、窒素および水素の混合ガス等の還元雰囲気、あるいは窒素やアルゴン等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0045】
工程(2)において、前駆体無機粉末にカーボンまたは有機化合物を添加し、不活性または還元雰囲気にて熱処理を行うことが好ましい。カーボンおよび有機化合物は、前駆体無機粉末を還元するとともに、熱処理後もLiMxFe1-xPO4結晶を含む正極活物質粒子表面に炭素質皮膜として残留し、導電性を付与するための導電活物質としての役割も有する。これにより、3価の鉄を構成元素として含む結晶を含有する前駆体無機粉末の還元が促進され、所望量のLiMxFe1-xPO4結晶を含有する正極活物質粒子が得られやすくなる。前駆体無機粉末の焼成は、例えば温度および雰囲気制御が可能な電気炉中で行われる。
【0046】
カーボンとしては、グラファイト、アセチレンブラック、アモルファスカーボン等が挙げられる。なお、アモルファスカーボンとしては、FTIR分析において、正極材料の導電性低下の原因となるC−O結合ピークやC−H結合ピークが実質的に検出されないものが好ましい。有機化合物としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等のカルボン酸、グルコースおよび有機バインダー等が挙げられる。
【0047】
正極材料おけるLiMxFe1-xPO4結晶の含有量(炭素質皮膜を除く正極活物質粒子における含有量)は、20質量%以上、50質量%以上、特に70質量%以上であることが好ましい。LiMxFe1-xPO4結晶の含有量が少なすぎると、放電容量が不十分となる傾向がある。なお、上限については特に限定されないが、現実的には99質量%以下、さらには95質量%以下である。
【0048】
なお、LiMxFe1-xPO4結晶の結晶子サイズが小さいほど、正極活物質粒子の平均粒子径を小さくすることが可能となり、電気伝導性を向上させることができる。具体的には、LiMxFe1-xPO4結晶の結晶子サイズは100nm以下、特に80nm以下であることが好ましい。下限については特に限定されないが、現実的には1nm以上、さらには10nm以上である。なお、結晶子サイズは、粉末X線回折の解析結果からシェラーの式に従って求められる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例)
(1)無機化合物の作製
メタリン酸リチウム(LiPO3)、炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化第二鉄(Fe23)および酸化ニオブ(Nb25)を原料とし、酸化物換算のモル%表示で、Li2O 35.1%、Fe23 32.2%、P25 32.2%およびNb25 0.5%となるように原料粉末を調合し、1250℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、カーボン皿に流し込み成形すると同時に結晶化(失透)させることにより無機化合物を作製した。
【0051】
(2)前駆体無機粉末の作製
無機化合物をボールミルで45時間粉砕した後、さらにビーズミルで8時間粉砕し、平均粒子径0.4μmの前駆体無機粉末を得た。粉末X線回折パターンを確認したところ、Li3Fe2(PO43結晶およびLiFePO4結晶由来の回折線が確認された。ここで、Li3Fe2(PO34結晶の含有量を、統合粉末X線解析ソフトフェアPDXL(株式会社リガク製)を用いてリートベルト法により算出した。また、前駆体無機粉末の平均粒子径(D50)をレーザー回折散乱法により測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(3)リチウムイオン二次電池正極材料の作製
前駆体無機粉末100質量部に対して、カーボン源としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル8質量部(グラファイト換算5質量部に相当)、溶剤として54質量部の純水を混合することによってスラリー化し、公知のドクターブレード法によって、厚さ500μmのシート状に成形した後、80℃で約1時間乾燥させた。次いで、得られたシート状成形体を所定の大きさに切断し、窒素雰囲気中800℃にて30分間熱処理を行うことにより、リチウムイオン二次電池正極材料を得た。粉末X線回折パターンを確認したところ、LiFePO4由来の回折線が確認された。
【0053】
(4)リチウムイオン二次電池正極材料の電池特性の測定
リチウムイオン二次電池正極材料の0.1Cレートにおける放電容量および平均出力電圧を以下のようにして評価した。
【0054】
リチウムイオン二次電池正極材料に対し、バインダーとしてフッ化ポリビニリデン、導電性物質としてケッチェンブラックを、正極材料:バインダー:導電性物質=80:10:10(質量比)となるように秤量し、これらをN−メチルピロリドン(NMP)に分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。次に、隙間150μmのドクターブレードを用いて、正極集電体である厚さ20μmのアルミ箔上に、得られたスラリーをコートし、乾燥機にて80℃で乾燥後、一対の回転ローラー間に通し、1t/cm2でプレスすることにより電極シートを得た。電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、140℃で6時間乾燥させ、円形の作用極を得た。
【0055】
次に、コインセルの下蓋に、作用極をアルミ箔面を下に向けて載置し、その上に60℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータ(ヘキストセラニーズ社製 セルガード#2400)および対極である金属リチウムを積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M LiPF6溶液/EC(エチレンカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート)=1:1を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度−60℃以下の環境で行った。
【0056】
試験電池を用いて充放電試験を行い、放電容量および平均出力電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
なお、充放電試験において、充電(正極材料からのリチウムイオンの放出)は、2Vから4.2VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(正極材料へのリチウムイオンの吸蔵)は、4.2Vから2Vまで放電させることにより行った。
【0058】
(比較例1)
無機化合物の粉砕を、ボールミルを用いて8時間行ったこと以外は、実施例と同様にして前駆体無機粉末を得た。前駆体無機粉末の粉末X線回折パターンを確認したところ、Li3Fe2(PO43結晶およびLiFePO4結晶由来の回折線が確認された。実施例と同様にして、Li3Fe2(PO34結晶の含有量および平均粒子径(D50)を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
得られた前駆体無機粉末を用いて、実施例と同様の方法により正極材料を作製した。正極材料の粉末X線回折パターンを確認したところ、LiFePO4由来の回折線が確認された。
【0060】
得られた正極材料の0.1Cレートにおける放電容量および平均出力電圧を、実施例と同様の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
メタリン酸リチウム(LiPO3)、炭酸リチウム(Li2CO3)、シュウ酸鉄(II)二水和物(Fe(C24)・2H2O)および酸化ニオブ(Nb25)を原料とし、酸化物換算のモル%表示で、Li2O 35.1%、Fe23 32.2%、P25 32.2%、Nb25 0.5%の組成となるように原料粉末を調合し、1250℃にて1時間、窒素雰囲気中にて溶融を行った。その後、窒素雰囲気中にて溶融ガラスを室温まで炉冷することにより結晶化させ、無機化合物を得た。
【0062】
無機化合物をボールミルで45時間粉砕した後、ビーズミルで8時間粉砕し、平均粒子径0.4μmの前駆体無機粉末を得た。前駆体無機粉末の粉末X線回折パターンを確認したところLiFePO4由来の回折線が確認されたが、Li3Fe2(PO43結晶由来の回折線は確認されなかった。実施例と同様にして、Li3Fe2(PO34結晶の含有量および平均粒子径(D50)を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
前駆体無機粉末を用いて、実施例と同様の方法により正極材料を得た。得られた正極材料について粉末X線回折パターンを確認したところ、LiFePO4由来の回折線が確認された。
【0064】
得られた正極材料の0.1Cレートにおける放電容量および平均出力電圧を、実施例と同様の方法により測定した。結果を表1に示す。

【0065】
【表1】

【0066】
表1から明らかなように、実施例では、前駆体無機粉末(無機化合物)が3価の鉄を構成元素として含む結晶を含有しており、かつ、平均粒子径が0.4μmと小さかったため、正極材料の放電容量が165mAhg-1と優れていた。
【0067】
一方、比較例1では、前駆体無機粉末の平均粒子径が2.0μmと大きかったため、正極材料の放電容量が140mAhg-1と低くなった。また、比較例2では、前駆体無機粉末(無機化合物)に3価の鉄を構成元素として含む結晶が含まれていなかったため、正極材料の放電容量が120mAhg-1と低くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)3価の鉄を構成元素として含む結晶を含有する無機化合物を粉砕して、平均粒子径が1.8μm以下の前駆体無機粉末を得る工程、および、
(2)前駆体無機粉末を熱処理して還元することにより、一般式LiMxFe1-xPO4(0≦x<1、MはNb、Ti、V、Cr、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種)で表されるオリビン型結晶を得る工程、
を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項2】
無機化合物が、3価の鉄を構成元素として含む結晶を10質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項3】
3価の鉄を構成元素として含む結晶が、一般式Li3yFe2-y(PO43(0≦y<2、MはNb、Ti、V、Cr、Mn、CoおよびNiから選ばれる少なくとも1種)で表されるナシコン型結晶であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項4】
無機化合物が、(0−a)Li2O、Fe23およびP25を含有する原料バッチを溶融する工程、ならびに、(0−b)得られた溶融ガラスを成形および結晶化させる工程、を含む方法により製造されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項5】
工程(0−a)において、酸化物換算のモル%表示で、Li2O 20〜50%、Fe23 10〜40%、P25 20〜50%を含有する組成となるように原料バッチを調製することを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項6】
工程(0−a)において、さらに、酸化物換算のモル%表示で、Nb25+V25+SiO2+B23+GeO2+Al23+Ga23+Sb23+Bi23 0.1〜25%を含有する組成となるように原料バッチを調製することを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項7】
工程(2)において、前駆体無機粉末にカーボンまたは有機化合物を添加し、不活性または還元雰囲気にて熱処理を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項8】
工程(2)において、熱処理を500〜1000℃で行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料。

【公開番号】特開2013−58391(P2013−58391A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195989(P2011−195989)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】