説明

リチウムイオン二次電池用正極板及びその製造方法

【課題】安定した特性を有するリチウムイオン二次電池を得るための正極板を提供することにある。
【解決手段】アルミニウムからなる集電体11の表面に、正極活物質をアルカリ水溶液の溶媒に分散させたペースト状の正極合剤12を塗布、乾燥させて、リチウムイオン二次電池用正極板を形成する。アルカリ水溶液には、集電体11を構成するアルミニウムと同じ元素のアルミニウムイオンが含まれている。また、正極活物質は、複合リチウム酸化物からなり、アルカリ水溶液には、リチウムイオンが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極板、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、小型、かつ高容量であるため、ノートパソコン、携帯電話等の電子機器の用途に加え、電気自動車の駆動用電源としても注目を集めている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極板は、集電体(例えば、アルミニウム等)の表面に、正極活物質(例えば、リチウム含有複合酸化物等)を、導電材、結着材等とともに、溶媒中に分散させた正極合剤を塗布することによって形成される。この正極合剤をペースト状にして集電体に塗布するため、正極活物質を分散させる溶媒として、通常は、有機溶媒(例えば、Nメチルピロリドン等)が用いられている。
【0004】
ところで、リチウムイオン二次電池の高容量化を図るためには、電極面積を大きくすることが有効であるが、これに伴い、集電体に塗布する合剤の量も増加する。その結果、正極合剤の製造コストの低減が要求され、それに対応すべく、活物質を分散させる溶媒として、有機溶媒に代えて水溶液を用いる方法が検討されている。
【0005】
しかしながら、正極活物質にリチウム含有複合酸化物を用いた場合、リチウム含有複合酸化物が水と反応して、含有するリチウムが水溶液中に溶解し、その結果、リチウム含有複合酸化物の容量が低下してしまうという問題が生じる。
【0006】
この問題を解決するために、特許文献1には、溶媒として、アルカリ水溶液(例えば、水酸化リチウム水溶液)を用いることによって、水溶液中に、予めリチウムイオン(Liイオン)を溶解しておく方法が記載されている。これにより、リチウム含有複合酸化物からリチウムが水溶液中に溶解するのを抑制することができる。
【特許文献1】特開2005−228679号公報
【特許文献2】特開2001−143703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者等が、アルミニウム箔からなる集電体、及びリチウム含有複合酸化物からなる正極活物質を用いて、特許文献1に記載された方法、すなわち、水酸化リチウム水溶液(アルカリ水溶液)を溶媒として正極合剤を形成し、これを集電体表面に塗布して形成された正極板の特性を検討していたところ、有機溶媒を用いて正極合剤を調整したものに比べて、電池容量のバラツキの大きなものがあることに気が付いた。
【0008】
バラツキの大きくなった電池の正極板を調べてみると、図3の顕微鏡写真に示すように、正極合剤が塗布された正極板の表面Aに、多くの気泡Bが存在しているのが観察された。そして、正極合剤を拭き取って、アルミニウム箔(集電体)の表面を観察してみると、気泡Bの生じた位置に対応したアルミニウム箔の表面が腐食していることが分かった。
【0009】
アルミニウム箔の表面が腐食した原因は、次のように考えられる。すなわち、アルカリ水溶液を溶剤とした正極合剤をアルミニウム箔の表面に塗布した場合、アルミニウムがアルカリ水溶液に溶解し、その結果、水素ガスが気泡となって発生したものと考えられる。
【0010】
アルミニウム箔の腐食の原因が、上記のアルミニウムのアルカリ水溶液中への溶解とすると、予めLiイオンを溶解していない水溶液を溶媒として用いた場合にも、同様の現象が生じることが予測される。すなわち、上述したように、正極活物質にリチウム含有複合酸化物を用いた場合、リチウム含有複合酸化物が水と反応して、含有するリチウムが水溶液中に溶解するので、その水溶液は、アルカリ性を示す。それ故、アルミニウムはアルカリ水溶液に溶解する性質を有するため、予めLiイオンを水溶液中に溶解していない水溶液を溶媒として用いた場合にも、気泡Bが発生し得る。然して、イオン交換水を溶媒として正極合剤を調整した場合においても、この正極合剤が塗布された正極板の表面に気泡が発生しているのが観察された。
【0011】
以上の考察から、上記したリチウムイオン二次電池における電池容量のバラツキは、アルカリ水溶液を溶媒として調整した正極合剤が、アルミニウムからなる集電体表面に塗布されてなる正極板に固有の課題であるといえる。なお、気泡の原因が、アルミニウムの溶解に起因するならば、気泡は正極板の表面だけでなく、内部にも存在していることが予想される。
【0012】
このような気泡が存在する正極板をプレスで圧延すると、正極板の面内で正極合剤の密度ムラ若しくは厚みムラが生じる。また、集電体の両面に正極合剤を塗布する際、表面の塗布時の厚みムラが、裏面の塗布時に厚みムラに重畳されるので、この状態で正極板をプレスすると、正極合剤の密度ムラ若しくは厚みムラはさらに顕著になる。
【0013】
このような正極合剤、すなわち正極活物質の密度ムラ若しくは厚みムラは、電池容量のバラツキを生じさせる。また、正極板と負極板とをセパレータを介して捲回して形成した電極群においても、正極活物質の密度ムラ等による反応ムラが生じるため、これに起因して電池のサイクル寿命が低下する問題も生じる。加えて、厚みムラによりプレス時の圧力のかかり方が変わることによって、正極板の加工時や、電極群の形成時などに、極板が切れるなどの問題が生じるおそれがある。
【0014】
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、その主な目的は、安定した特性を有するリチウムイオン二次電池を得るための正極板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者等は、上記したリチウムイオン二次電池における電池容量のバラツキが、正極集電体を構成するアルミニウムが、正極合剤の溶媒であるアルカリ水溶液に溶解することに起因していることに着目して、当該アルカリ水溶液に、集電体を構成する材料と同じ元素であるアルミニウムイオン(Alイオン)を含ませることによって、かかるアルミニウムの溶解を効果的に抑制できることに思い至った。
【0016】
すなわち、本発明に係わるリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法は、集電体表面に正極活物質が形成されてなるリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法であって、アルミニウムからなる前記集電体を用意する工程と、集電体表面に正極活物質がアルカリ水溶液からなる溶媒に分散されてなる正極合剤を塗布した後、該正極合剤を乾燥する工程とを有し、アルカリ水溶液には、Alイオンが含まれていることを特徴とする。
【0017】
このような方法によれば、Alイオンの存在により、集電体を構成するアルミニウムのアルカリ水溶液への溶解が抑制され、その結果、正極合剤における気泡の発生を防止することができる。これにより、正極合剤の密度ムラ若しくは厚みムラが低減でき、安定した特性を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0018】
ここで、アルカリ水溶液には、Liイオンがさらに含まれていることが好ましい。これにより、正極活物質からリチウムが水溶液中に溶出するのを抑制することができ、これにより、正極活物質の容量低下を防止することができる。なお、Liイオンがさらに含まれることによって、アルカリ水溶液のアルカリ度はさらに上昇するが、アルカリ水溶液には、すでにAlイオンが含まれているため、アルミニウムの溶解を抑制する効果は失われない。
【0019】
なお、アルカリ水溶液は、水酸化リチウム水溶液であることが好ましい。Liイオンを用いることで、他のアルカリ金属イオンが活物質のLiと置換されることを防止でき、活物質の物性を変化させずにすむ。
【0020】
なお、正極活物質は、複合リチウム酸化物からなり、当該複合リチウム酸化物は、リチウムニッケル複合酸化物であることが好ましい。リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムがアルカリ水溶液に溶解しやすいため、アルカリ水溶液のアルカリ度が高くなって、アルミニウムの溶解が加速される畏れがあるが、アルカリ水溶液にAlイオンを含ませることによって、その畏れも解消することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、正極合剤の溶媒であるアルカリ水溶液に、集電体を構成するアルミニウムと同じ元素であるAlイオンを含ませることによって、アルミニウムの溶解を抑制され、その結果、正極合剤における気泡の発生を防止することができる。これにより、正極合剤(正極活物質)の密度ムラ若しくは厚みムラが低減でき、安定した特性を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0022】
また、正極合剤の溶媒にAlイオンが存在することによって、集電体表面に塗布した正極合剤を乾燥させた際に、正極活物質の表面、または/及び正極活物質と集電体との界面、または/及び集電体の表面に、アルミニウムの水酸化物または酸化物を形成することができる。これにより、それぞれの界面において直接電解液と接しないため、正極電位を要因とした電解液との好ましくない反応を抑制でき、その結果、サイクル特性の優れたリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、説明の簡略化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0024】
図1(a)、(b)は、本実施形態におけるリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法を模式的に示した工程断面図である。
【0025】
まず、図1(a)に示すように、アルミニウムからなる集電体11を用意する。ここで、集電体11は、大容量のリチウムイオン二次電池を得るために、15μm程度の膜厚のアルミニウム箔を用いることが好ましい。
【0026】
次に、集電体11の表面に塗布する正極合剤を用意する。ここで、正極合剤は、正極活物質をアルカリ水溶液の溶媒に分散させたペースト状のものを用いる。また、アルカリ水溶液には、集電体11を構成するアルミニウムと同じ元素のAlイオンが含まれている。
【0027】
正極活物質は、例えば、リチウムニッケル複合酸化物等の複合リチウム酸化物を用いることができる。また、アルカリ水溶液は、例えば、水酸化リチウム水溶液を用いることができる。さらに、アルミニウムの粉末を、アルカリ水溶液に投入攪拌し、溶解させることによって、Alイオン(アルカリ水溶液中では、「アルミン酸イオン」と言われる)をアルカリ水溶液中に含ませることができる。なお、正極合剤には、導電剤(例えば、アセチレンブラック)及び結着剤(例えば、四フッ化エチレン樹脂)に加え、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース)を混合しておくことが好ましい。
【0028】
次に、図1(b)に示すように、集電体11の両面に、ペースト状に調整された正極合剤12を塗布した後、正極合剤12を乾燥させて正極板を得る。
【0029】
図2は、アルカリ水溶液中のAlイオン濃度を0.01mol/l(Al金属換算)にした場合に、上記方法によって得られた正極板の表面の顕微鏡写真である。図3に示した従来の方法で形成した正極板の表面に比べて、気泡Cの発生が減少していることが分かる。すなわち、正極合剤12の溶媒であるアルカリ水溶液に、集電体11を構成するアルミニウムと同じ元素であるAlイオンを含ませることによって、アルミニウムの溶解を抑制され、その結果、正極合剤における気泡の発生を抑制することができる。これにより、正極合剤(正極活物質)の密度ムラ若しくは厚みムラが低減でき、安定した特性を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0030】
なお、アルミニウムの溶解を効果的に抑制するためには、アルカリ水溶液に含まれるAlイオンの濃度は、0.01モル/リットル以上であることが好ましい。
【0031】
本実施形態において、アルカリ水溶液としてLiイオンを含む水酸化リチウム水溶液を用いれば、正極活物質である複合リチウム酸化物からLiイオンがアルカリ水溶液中に溶解するのを抑制することができる。これにより、リチウム含有複合酸化物の容量の低下を防止することができる。
【0032】
また、正極合剤の溶媒にAlイオンが存在することによって、集電体表面に塗布した正極合剤を乾燥させた際に、正極活物質の表面、または/及び正極活物質と集電体との界面、または/及び集電体の表面を、アルミニウムの水酸化物または酸化物で覆う効果を奏することができる。電池のサイクル特性を向上させる手段として、正極活物質の表面を、アルミニウムの水酸化物または酸化物で覆う方法が知られているが(例えば、特許文献2等を参照)、正極合剤を調整する前に、特別な被覆プロセスを要するため、製造コストの上昇が課題になっていた。本発明においては、正極合剤を集電体表面に塗布する工程において、アルミニウムの溶解を抑制する作用効果に加えて、正極活物質の表面をアルミニウムの水酸化物や酸化物等で覆う効果も同時に奏することができる。これにより、安定した特性を有し、かつ、サイクル特性の優れたリチウムイオン二次電池を実現することが可能となる。
【0033】
さらに、本発明においては、正極活物質の表面だけでなく、正極活物質と集電体との界面、または/及び集電体の表面にもアルミニウムの水酸化物や酸化物等で覆う効果が得られ、これにより、それぞれの界面において直接電解液と接しないため、正極電位を要因とした電解液との好ましくない反応を抑制でき、その結果、サイクル特性の優れたリチウムイオン二次電池を実現することが可能となる。
【0034】
さらに、正極活物質である複合リチウム酸化物のうち、ニッケルの添加量の多いリチウムニッケル複合酸化物を用いた場合、含有するリチウムがアルカリ水溶液に溶解しやすいため、アルカリ水溶液のアルカリ度が高くなって、アルミニウムの溶解が加速される畏れがあるが、アルカリ水溶液にAlイオンを含ませることによって、その畏れも解消することができる。
【0035】
次に、本発明における正極板を評価するために、以下に示す実施例により正極板を作製し、得られた正極板を用いて電池を作製し、電池容量の特性を評価した。
【0036】
(実施例1)
イオン交換水に水酸化リチウムを溶解させ、1mol/lの水酸化リチウム水溶液を作製した。これに、Al粉末を投入攪拌し、溶解させ、Al金属換算で0.05mol/lのAlイオン濃度を有する水酸化リチウム水溶液を得た。
【0037】
Ni、Co、Alからなる正極活物質粉末(LiNi0.81Co0.14Al0.05O2)を100重量部、導電剤としてアセチレンブラックを2.5重量部、結着剤としてフッ素系のバインダー(四フッ化エチレン樹脂)を4重量部、さらに、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを、Alイオンを含有した水酸化リチウム水溶液に混合して、正極合剤ペーストを作製した。なお、正極活物質粉末100重量部に対して、投入したAlイオンを含む水酸化リチウム水溶液は、50mLとした。
【0038】
このペーストを集電体である厚み15μmのアルミニウム箔の両面に塗布、乾燥した。塗布後、乾燥開始までの時間を2分とした。これを平板ロールプレスで均等な厚みに圧延し、厚さ100μm、幅37mm、長さ300mmのサイズに切り出し、正極板aとした。
【0039】
(実施例2)
投入するAl粉末の量を変更する以外は、実施例1と同様にして、正極板b〜eを作製した。なお、水酸化リチウム水溶液にAl粉末を投入攪拌した際に、Alの一部は酸化物及び水酸化物として完全に溶解しない場合があるが、そのままの状態のペーストを集電体に塗布した。
【0040】
(比較例1)
Al粉末を投入しない水酸化リチウム水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、正極板fを作製した。
【0041】
(比較例2)
Alイオンを含む水酸化リチウム水溶液の代わりに、イオン交換水を用いた以外は、実施例1と同様にして、正極板gを作製した。
【0042】
次に、上記の方法で得られた正極板a〜gを用いて、以下の方法によりラミネート電池を作製した。
【0043】
まず、正極板a〜gの10箇所を、10mm角(10mm角以外にリード取り付け用のタブ部あり)の大きさに打ち抜き、リード取り付け用のタブ部表面の合剤を剥ぎ取り、ここにAlリードを取り付けた。この打ち抜いた正極板を、Niリードを取り付けた12mm角のLi金属をセパレータを介して挟み込み、それをAlラミネートに挿入した。さらに、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:3の体積比で混合した溶媒に、1mol/lのLiPFを溶解した電解液をAlラミネータに注入した。その後、Alラミネータを真空中で熱封口し、正極板a〜gについて、それぞれ10個のラミネート電池を作製した。
【0044】
このラミネート電池を、25℃雰囲気下、1mAで4.2Vに達するまで定電流充電した後、10分放置し、1mAで2.5Vまで放電した。このときの放電容量のバラツキを測定した。なお、バラツキ(分散)Yは、以下の式(1)により求めた。
【0045】
【数1】

【0046】
ここで、Anは、n番目のラミネート電池の放電容量、Bは、10個のラミネート電池の放電容量の平均値である。
【0047】
表1は、正極板a〜gについて得られた結果である。なお、表中のAlイオン濃度は、水酸化リチウム水溶液におけるAlイオン濃度のAl金属換算での値を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1より、比較例1、2における正極板f、gに比べて、実施例1、2における正極板a〜eは容量のバラツキが小さいことが分かる。これは、本実施例1、2における正極板では、集電体に塗布される正極合剤ペーストにAlイオンが溶解しているために、集電体を構成するアルミニウムの溶解が抑制され、その結果、アルミニウムの溶解に伴う水素ガスの発生が抑制されたことによるものと思われる。すなわち、図2に示したように、水素ガスの発生が抑制されたことにより、正極板内の気泡Cが減少した結果、正極合剤の密度ムラ若しくは厚みムラが低減でき、これにより放電容量のバラツキが減少したものと思われる。
【0050】
なお、本実施例における正極板bは、本実施例における他の正極板に比べて、バラツキが大きくなっている。これは、アルカリ水溶液中のAlイオン濃度が、他の試料に比べて小さかったため、アルミニウムの溶解を抑制する効果が小さかったためと考えられる。このことから、アルカリ水溶液中のAlイオンの濃度は、0.01mol/l以上であることが好ましい。また、比較例2における正極板gの容量が、他の試料に比べて小さくなっている。これは、活物質中のLiイオンが、正極合剤の溶媒に用いたイオン交換水中に溶解して、活物質の容量が減少したことによるものと思われる。
【0051】
次に、本発明における正極板を用いて捲回型のリチウムイオン二次電池を作製し、サイクル特性の評価を行った。
【0052】
(実施例3)
実施例1の正極板aを用いて、以下の方法によりリチウムイオン電池Aを作製した。
【0053】
負極活物質として黒鉛を100重量部、結着剤としてPVDFを6重量部、それぞれ有機溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)溶液に投入、混合して負極合剤スラリーを作製した。このスラリーを集電体である厚み10μmの銅箔の両面に塗布、乾燥、圧延して、幅39mm、長さ340mmのサイズに切り出し負極板とした。
【0054】
実施例1で作製した正極板a、及び上記の方法で作成した負極板のそれぞれの集電体の露出部に集電用のリードを溶接し、厚み20μmのポリエチレン製のセパレータを介して正極板a及び負極板を渦巻状に捲回して電極群を作製した。この電極群を、電解液とともに外径17.5mm、高さ50mmのステンレス製の有底円筒状容器に収納した後、容器の封口を行い、円筒型リチウムイオン二次電池Aを作製した。なお、電解液には、ECとEMCと1:3の体積比で混合した溶媒に1mol/lのLiPFを溶解したものを用いた。
【0055】
(比較例3)
イオン交換水に水酸化リチウムを溶解させ、1mol/lの水酸化リチウム水溶液を1L作製した。この水溶液に、正極活物質粉末(LiNi0.81Co0.14Al0.05O2)を1kgとAl粉末6.75gとを投入し攪拌した。こうして得られた正極合剤スラリーを80℃で乾燥させることによって、正極活物質の表面を、Alの水酸化物または酸化物によって被覆させた。このとき、正極活物質100重量部に対するAl化合物のAl量はAl金属換算で、0.675重量部であった。
【0056】
この正極活物質を100重量部、導電剤としてアセチレンブラックを2.5重量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PDVF)を4重量部、それぞれ有機溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)溶液に投入、混合して、正極合剤ペーストを作製した。このペーストを集電体である厚み15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した後、乾燥させ、さらに平板ロールプレスで均等な厚みに圧延して、幅37mm、長さ300mmのサイズに切り出し正極板hを作製した。そして、この正極板hを用いて、実施例3と同様の方法によりリチウムイオン二次電池Hを作製した。
【0057】
(比較例4)
正極活物質粉末(LiNi0.81Co0.14Al0.05O2)を100重量部、導電剤としてアセチレンブラックを2.5重量部、及び結着剤としてPDVFを4重量部、それぞれ有機溶媒であるNMP溶液に投入、混合して、正極合剤ペーストを作製した。このペーストを集電体である厚み15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した後、乾燥させ、さらに平板ロールプレスで均等な厚みに圧延して、幅37mm、長さ300mmのサイズに切り出し正極板iを作製した。そして、この正極板iを用いて、実施例3と同様の方法によりリチウムイオン二次電池Iを作製した。
【0058】
次に、上記の方法で得られたリチウムイオン二次電池A、H、Iを、50mAで4.1Vまで充電した状態で45℃雰囲気下で3日間エージングした。その後、25℃雰囲気下で50mAで2.5Vまで放電した。再び、50mAで4.2Vまで充電した後、交流インピーダンス法により周波数0.1Hzでインピーダンス(以下「サイクル前のインピーダンス」という)を測定した。
【0059】
さらに、45℃雰囲気下で50mAで4.2Vに達するまで定電流充電した後、50mAで2.5Vまで放電するサイクルを300サイクル繰り返した。その後、50mAで4.2Vまで充電した後、再度交流インピーダンス法により周波数0.1Hzでサイクル後のインピーダンス(以下「サイクル後のインピーダンス」という)を測定した。
【0060】
本評価で測定するインピーダンスは、パルス的な放電を行う電気自動車等に特に重要であり、サイクルによる内部インピーダンスの増加は、サイクルに伴う出力特性の低下に繋がる。
【0061】
表2は、リチウムイオン二次電池A、H、Iについて得られた内部インピーダンスの増加率である。なお、内部インピーダンスの増加率ΔSは以下の式(2)により求めた。
ΔS=(S2−S1)/S1×100[%]・・・式(2)
ここで、S1はサイクル前のインピーダンス、S2はサイクル後のインピーダンスの大きさである。
【0062】
【表2】

【0063】
表2より、リチウムイオン電池AとHは、電池Iに比較してインピーダンス増加率が小さく、サイクル特性が優れていることが分かる。これは、電池AとHにおいては、正極活物質がAlの水酸化物あるいは酸化物で被覆されているのに対し、電池Iにおいては、正極活物質がAlの水酸化物あるいは酸化物で被覆されていないことに起因するものと考えられる。
【0064】
また、リチウムイオン電池AとHとにおいては、正極中の活物質に対する金属換算でのAl量が同じであるにも係わらず、電池Aの方は電池Hよりもインピーダンス増加率が小さいのは、次のような理由によるものと考えられる。すなわち、電池Hの正極活物質はAlの水酸化物あるいは酸化物で被覆されているのに対し、電池Aの正極活物質はAlの水酸化物等で被覆されているのに加え、正極活物質と集電体との界面、集電体の表面にもAlの水酸化物や酸化物等が存在しているためと考えられる。
【0065】
次に、このようなAlの水酸化物等による正極活物質の被覆による効果をさらに調べるために、正極合剤の溶媒であるアルカリ水溶液中のAlイオン濃度を変えて正極板を作製した。
【0066】
(実施例4)
イオン交換水に水酸化リチウムを溶解させ、1mol/lの水酸化リチウム水溶液を作製した。この水溶液に、Al粉末を投入攪拌し、溶解させ、Alイオンの濃度を、Al金属換算で0.05mol/lとした。
【0067】
Ni、Co、Mnからなる正極活物質粉末(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)を100重量部、導電剤としてアセチレンブラックを2.5重量部、結着剤としてフッ素系のバインダー(四フッ化エチレン樹脂)を4重量部、及び増粘剤としてカルボキシメチルセルロースをそれぞれ上記水酸化リチウム水溶液に投入、混合して、正極合剤ペーストを作製した。なお、正極活物質粉末100重量部に対して、水酸化リチウム水溶液は50mLとした。この場合、水酸化リチウム水溶液に含まれるAlイオンにより正極活物質の表面または正極活物質と集電体との界面に形成されたAl化合物のAl量は、Al金属換算で0.675重量部である。
【0068】
このペーストを集電体である厚み15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した後、乾燥させ、さらに、平板ロールプレスで均等な厚みに圧延して、幅37mm、長さ300mmのサイズに切り出し正極板jとした。
【0069】
(実施例5)
投入するAl粉末の量を変更する以外は、実施例4と同様にして、正極板k〜nを作製した。なお、水酸化リチウム水溶液にAl粉末を投入攪拌した際に、Alの一部は酸化物及び水酸化物として完全に溶解しない場合もあるが、そのままペーストとし用いた。
【0070】
(比較例5)
Alイオンを含む水酸化リチウム水溶液の代わりに、イオン交換水を用いた以外は、実施例4と同様にして、正極板oを作製した。
【0071】
(比較例6)
イオン交換水に水酸化リチウムを溶解させ、1mol/lの水酸化リチウム水溶液を1L作製した。この水溶液に、正極活物質粉末(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)を1kgとAl粉末6.75gとを投入し攪拌した。こうして得られたスラリーを80℃で乾燥し、表面がAlの水酸化物あるいは酸化物に被覆された正極活物質を得た。この場合、正極活物質100重量部に対するAl化合物のAl量は、Al金属換算で0.675重量部である。
【0072】
この正極活物質を100重量部、導電剤としてアセチレンブラックを2.5重量部、結着剤としてフッ素系のバインダーを4重量部、さらに増粘剤としてカルボキシメチルセルロースをそれぞれイオン交換水を投入、混合し、正極合剤ペーストを作製した。このペーストを集電体である厚み15μmのアルミニウム箔の両面に塗布した後、乾燥させ、さらに平板ロールプレスで均等な厚みに圧延して、幅37mm、長さ300mmのサイズに切り出し正極板pを作製した。
【0073】
次に、負極活物質として黒鉛を100重量部、結着剤としてPVDFを6重量部、それぞれ有機溶媒であるNMP溶液に投入、混合して負極合剤スラリーを作製した。このスラリーを集電体である厚み10μmの銅箔の両面に塗布、乾燥、圧延して、幅39mm、長さ340mmのサイズに切り出し負極板pとした。
【0074】
このようにして得られた正極板j〜pを用いて、実施例3と同様の方法により(比較例6においては、負極板pを用いた)リチウムイオン二次電池J〜Pを作製した。
【0075】
表3は、リチウムイオン二次電池J〜Pについて、表2に示した方法と同様の測定方法を用いて得られた内部インピーダンスの増加率である。表中のAl重量部は、水酸化リチウム水溶液に含まれるAlイオンにより正極活物質の表面または正極活物質と集電体との界面に形成されたAl化合物の金属換算のAl量(正極活物質100重量部に対するAl金属換算の重量部)を表す。
【0076】
【表3】

【0077】
表3より、本実施例のリチウムイオン二次電池J〜Nにおけるインピーダンスの増加率は、比較例のリチウムイオン二次電池Oを比べて小さく、サイクル特性が優れていることが分かる。また、電池KとNのインピーダンス増加率が、他の実施例における電池J、L、Mに比べて大きくなっているのは、次のような理由によるものと考えられる。すなわち、Al量が0.1重量部未満では、Alの水酸化物等による正極活物質や、正極活物質と集電体との界面、集電体の表面への被覆の量が十分でないことにより、また、Al量が2重量部を越えると、Alの水酸化物や酸化物等の量が多すぎることによって、活物質同士、あるいは活物質と集電体間の電子伝導性が低下することにより、それぞれインピーダンス増加率が大きくなったものと考えられる。従って、サイクル特性をより効果的に向上させるためには、Al化合物の金属換算のAl量は、0.1〜2重量部の範囲であることが好ましいと言える。
【0078】
一方、本実施例のリチウムイオン二次電池Jと比較例のリチウムイオン二次電池Pを比較すると、金属換算のAl量は同じであるが、電池Jの方がインピーダンスの増加率は小さくなっている。これは、本実施例により作製された正極においては、上述したように、活物質表面の被覆形態が比較例と異なっていることに加え、集電体表面や、集電体/活物質界面や、集電体の表面にもAlの水酸化物や酸化物等が存在しているためと考えられる。
【0079】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態において、正極板の集電体を構成する材料をアルミニウムとしたが、これに限らず、例えば、アルミニウムを含む合金においても同様の効果を得ることができる。また、正極活物質の材料として、複合リチウム酸化物を用いたが、リチウムイオンを吸蔵、放出するものであれば、特に制限はない。また、アルカリ水溶液として、水酸化リチウム水溶液(LiOH)が好ましいが、これに限らず、例えば、NaOH、KOH、Ca(OH)、Ba(OH)等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、安定した特性を有するリチウムイオン二次電池を得るための正極板を提供するもので、ノートパソコン、携帯電話等の電子機器の用途に加え、電気自動車等の駆動用電源としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態における正極板の製造方法を示した工程断面図である。
【図2】本発明の実施例における方法で作製した正極板の表面写真である。
【図3】従来の方法で作成した正極板の表面写真である。
【符号の説明】
【0082】
11 集電体
12 正極合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体表面に正極活物質が形成されてなるリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法であって、
アルミニウムからなる前記集電体を用意する工程と、
前記集電体表面に、前記正極活物質がアルカリ水溶液からなる溶媒に分散されてなる正極合剤を塗布した後、該正極合剤を乾燥する工程と
を有し、
前記アルカリ水溶液には、アルミニウムイオンが含まれていることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用正極板の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ水溶液には、リチウムイオンがさらに含まれていることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液は、水酸化リチウム水溶液であることを特徴とする、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ水溶液に含まれるアルミニウムイオンの濃度は、0.01モル/リットル以上であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法。
【請求項5】
前記正極活物質は、複合リチウム酸化物からなることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法。
【請求項6】
前記複合リチウム酸化物は、リチウムニッケル複合酸化物であることを特徴とする、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用正極板の製造方法。
【請求項7】
集電体表面に正極活物質が形成されてなるリチウムイオン二次電池用正極板であって、
前記集電体はアルミニウムで構成されており、
前記正極活物質は、該正極活物質がアルミニウムイオンを含むアルカリ水溶液からなる溶媒に分散されてなる正極合剤を、前記集電体表面に塗布することによって形成されたものである、リチウムイオン二次電池用正極板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−123705(P2008−123705A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302867(P2006−302867)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】