説明

リチウムイオン二次電池用炭素材料

【課題】 初期サイクル時にみられる充放電不可逆容量が十分に小さく、優れた高温保存特性を有し、初期サイクル時、及び高温保存時におけるガス発生が低減されるリチウムイオン二次電池を得ることが可能な負極材料を提供する。
【解決手段】 下記式1で表される表面官能基量O/C値が1%以上、4%以下であり、かつ、下記式2で表される表面官能基量Cl/C値と下記式3で表される表面官能基量S165/C値の和(Cl/C+S165/C)が0.05%以上、0.5%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用炭素材料。
式1
O/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式2
Cl/C値(%)=XPS分析におけるCl2pのスペクトルのピーク面積に基づいて
求めたCl原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式3
165/C値(%)=XPS分析におけるS2pに対応するスペクトルのうち165eV付近のピークのピーク面積に基づいて求めたS165原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に用いる炭素材料と、その材料を用いて形成されたリチウムイオン二次電池用負極と、その負極を有するリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度の高く、大電流充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が注目されてきている。従来、リチウムイオン二次電池の高容量化は広く検討されているが、近年のリチウムイオン二次電池に対する高性能化の要求も高まってきており、更なる高容量化を達成することが求められている。
【0003】
これらリチウムイオン二次電池の負極材料としては、多くの場合、コストと耐久性の面で黒鉛材料や非晶質炭素が用いられている。リチウムイオン二次電池を高容量化する方法として、電極密度を高くして限られた電池容積の中に出来るだけ多くの充放電活物質を詰め込む設計がなされている。
前記炭素材料負極表面には通常、電解液との反応によりSEI(Solid Electrolyte Interface)と呼ばれる保護皮膜が形成され、負極の化学的安定性が保たれている。しかし、SEI皮膜生成の際に副反応性生成物としてガスが発生する。特に角型タイプ電池の場合には、このガス発生により電池ケースの厚さが膨張してしまう。そこで、電池膨れを見越してあらかじめ発生ガス分の容積を確保した電池設計を行うため、限られた電池容積を、活物質を詰め込むための容積として有効に利用することができない。
【0004】
また、電池を高温で保存した際には、SEI皮膜の劣化が起こりやすく、この劣化部位において負極と電解液が反応し、さらに多量のガスが発生するという問題がある。このガス発生量はSEI皮膜の安定性に大きく影響を受けるため、良好なSEI皮膜を形成するための検討が多くなされている。
SEI皮膜は、負極活物質と電解液との反応により形成されるという機構上、炭素粒子表面におけるカルボキシル基やカルボニル基などの含酸素官能基量や炭素粒子の表面結晶性といった炭素材料の表面構造の影響を大きく受ける。そこで、良好なSEI皮膜を形成するために炭素材料の表面改質を行うことが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、酸性官能基が5m当量/kg以下且つ0.3μmol/m以上の炭素材料が開示されている。ここでは、炭素材料表面に存在する酸性官能基量を原料黒鉛に物理的衝撃を加えることで制御しているため、初回の充放電における不可逆容量の低減やサイクル特性の向上は見込めるものの、酸性官能基量が少ないためにSEI皮膜が十分に安定化されず、高容量化の要求に伴い必要とされる高温保存特性への対応は不十分といわざるを得ない。
【0006】
特許文献2には20℃以上100℃以下の温度において酸性水溶液処理、またはアルカリ水溶液処理を行うことにより炭素材料表面に表面官能基を導入し、SEI皮膜を均一に形成する方法が開示されている。しかし、特許文献2には、炭素材料表面に酸性官能基を導入した際に課題となる、初回充電時における酸性官能基と電解液の反応に起因する不可逆容量の増大、及びガス発生に対する改善については述べられていない。
【0007】
すなわち、炭素材料表面に酸性官能基をどの程度導入した場合に、初回充電時における酸性官能基と電解液との過剰な反応が抑制されるのか、ひいては、炭素材料表面に導入される酸性官能基の導入量がどの程度であれば不可逆容量の低減とガス発生が抑制できるのかについては依然として解決されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−108456号公報
【特許文献2】特開2004−200115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は初期サイクル時にみられる充放電不可逆容量が十分に小さく、優れた高温保存特性を有するリチウムイオン二次電池を作製するための負極材を提供し、その結果として、高容量のリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、所定範囲量のカルボキシル基やカルボニル基といった含酸素官能基に加え、当該含酸素官能基よりも電子吸引性が強く電解液との反応活性が高いスルホ基またはハロゲン基を、表面に所定範囲量有する炭素材料を用いることにより、初回充電時における電解液との過剰な反応を抑制して不可逆容量の低減とガス発生の抑制が可能となると共に、安定なSEI皮膜を形成させることが可能となるため、高容量かつ高温保存特性に優れたリチウムイオン二次電池を得られることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 下記式1で表される表面官能基量O/C値が1%以上、4%以下であり、かつ、下記式2で表される表面官能基量Cl/C値と下記式3で表される表面官能基量S165/C値の和(Cl/C+S165/C)が0.05%以上、0.5%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用炭素材料。
【0012】
式1
O/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式2
Cl/C値(%)=XPS分析におけるCl2pのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたCl原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式3
165/C値(%)=XPS分析におけるS2pに対応するスペクトルのうち165eV付近のピークのピーク面積に基づいて求めたS165原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
(2) BET比表面積(SA)が4m/g以上、11m/g以下であり、タップ密度が0.7g/cm以上、1.3g/cm以下であり、ラマンR値が0.15以上、0.4以下であり、かつ、流動性指数が0.4以上、0.53以下であることを特徴とする前記(1)記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料。
(3) X線構造解析(XRD)から得られる、Rhombohedral(菱面体晶)
に対するHexagonal(六方体晶)の結晶の存在比(3R/2H)が0.20以上
であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料。
(4) 原料黒鉛を塩酸及び硫酸の少なくともいずれかを含む酸と接触させる工程、並びに、塩酸及び硫酸の少なくともいずれかを含む酸と接触させた当該黒鉛を100℃以上600℃以下で熱処理する工程を含む製造方法により製造されることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料。
(5) 前記(4)に記載の原料黒鉛が球形化処理を施した天然黒鉛であり、該球形化天然黒鉛の式1で表される表面官能基量O/C値が1%以上、4%以下であることを特徴とする前記(4)に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料。
(6) 集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が、前記(1)から(5)のいずれか1項に記載の炭素材料を含有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池用負極。
(7)リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、電解質を備え、該負極が、前記(6)に記載のリチウムイオン二次電池用負極であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭素材料は、それをリチウムイオン電池用の活物質として用いることにより、高容量、高温保存特性に優れ、且つガス発生量の少ないリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の内容を詳細に述べる。なお、以下に記載する発明構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨をこえない限り、これらの形態に特定されるものではない。
本発明のリチウムイオン二次電池用炭素材料は、前記式1で表される表面官能基量O/C値が1%以上、4%以下であり、かつ、前記式2で表される表面官能基量Cl/C値と前記式3で表される表面官能基量S165/C値の和(Cl/C+S165/C)が0.05%以上、0.5%以下であることを特徴とする。
【0015】
<X線光電子分光法(XPS)における表面官能基量>
(イ)測定方法
本発明の炭素材料の表面官能基量O/C値、表面官能基量Cl/C値及び表面官能基量S165/C値の和(Cl/C+S165/C)は、以下のように、X線光電子分光法(XPS)により求める。
・表面官能基量O/C値(%)
X線光電子分光法の測定は、市販のX線光電子分光器(例えば、アルバック・ファイ社製ESCA)を用いて行う。測定対象(ここでは黒鉛材料)を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)とO1s(525〜545eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)×100を炭素材料の表面官能基量O/C値と定義する。
・表面官能基量Cl/C値(%)
上記と同様の方法にて、C1s(280〜300eV)とCl2p(195〜205eV)のスペクトルを測定し、C1sとCl2pのスペクトルのピーク面積を求め、更に装
置感度係数を掛けて、CとClの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのClとCの原子濃度比Cl/C(Cl原子濃度/C原子濃度)×100を炭素材料の表面官能基量Cl/C値と定義する。
・表面官能基量S165/C値(%)
上記と同様の方法にて、C1s(280〜300eV)のスペクトルとS2p(160〜175eV)のスペクトルを測定し、C1sのスペクトルのピーク面積、及び160〜175eVの範囲に存在するS2pに対応するスペクトルのうち165eV付近のピークのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとS165の表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのS165とCの原子濃度比S165/C(S165原子濃度/C原子濃度)×100を算出し、これを炭素材料の表面官能基量S165/C値と定義する。
【0016】
一般的に、黒鉛表面に不純物として付着しているFeSOやCuSO等に由来する硫酸塩のS2Pに対応するピークは、170eV付近に観測されることが知られている。一方で、本発明の炭素材料における165eV付近のピークに対応するS元素は、スルホ基やスルホニル基などの官能基として黒鉛表面に直接導入されていることを特徴としている。
(ロ)好ましい範囲
本発明の炭素材料のXPSより求められる表面官能基量O/C値は1%以上4%以下であり、2%以上3.6%以下であると好ましく、2.6%以上3%以下であると更に好ましい。且つ、表面官能基量Cl/C値と表面官能基量S165/C値の和が0.05%以上、0.5%以下であり、0.07%以上、0.3%以下であると好ましく、0.1%以上、0.15%以下であると更に好ましい。
【0017】
炭素材料のXPSより求められる表面官能基量O/C値が1%より低く、且つ表面官能基量Cl/C値と表面官能基量S165/C値の和が0.05%より低いと、粒子表面と電解液の反応が不十分で安定したSEIが生成されず、SEIの分解によりガス発生量が増加してしまう。また、表面官能基量O/C値が4%を超え、且つ表面官能基量Cl/C値と表面官能基量S165/C値の和が0.5%を超えると、粒子表面の官能基量が増えることにより電解液との反応性が増し、ガス発生量の増加に繋がる。
【0018】
<粒径>
(イ)測定方法
界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、ツィーン20(登録商標))の0.2質量%水溶液10mLに、炭素材料0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、HORIBA製「LA−920」)に導入する。28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、本発明におけるd50と定義する。
(ロ)好ましい範囲
本発明の炭素材料の粒径については特に制限が無いが、使用される範囲として、d50
が好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下である。また、好ましくは1μm以上、好ましくは4μm以上、更に好ましくは10μm以上である。
炭素材料の粒径を50μm以下とすることにより、極板化した際に、筋引きなどの工程上の不都合が生じにくい。また、1μm以上とすることにより、表面積が過大となり電解液との活性が過剰になるのを抑制することができる。
【0019】
<BET比表面積(SA)>
(イ)測定方法
本発明の炭素材料のBET比表面積は、市販の比表面積測定装置(例えば、大倉理研社製「AMS8000」)を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET1点法にて測定する。具体的には、試料(炭素材料)0.4gをセルに充填し、350℃に加熱して前処理を行った後、液体窒素温度まで冷却して、窒素30%、He70%のガスを飽和吸着させ、
その後室温まで加熱して脱着したガス量を計測し、得られた結果から、通常のBET法により比表面積を算出する。
(ロ)好ましい範囲
本発明の炭素材料のBET法で測定した比表面積は、好ましくは4m/g以上、より好ましくは5m/g以上である。また、好ましくは11m/g以下、より好ましくは9m/g以下、更に好ましくは8m/g以下である。
【0020】
炭素材料のBET比表面積を4m/g以上とすることにより、Liが出入りする部位が十分に存在し、高速充放電特性出力特性に優れる。一方、比表面積を11m/g以下とすることにより、活物質の電解液に対する活性が過剰になるのを抑制でき初期不可逆容量が大きくなるのを抑制できるため、高容量電池の製造が可能となる。
【0021】
<タップ密度>
(イ)タップ密度の定義
本発明の炭素材料のタップ密度は、次のようにして求めた密度をタップ密度として定義する。粉体密度測定器である(株)セイシン企業社製「タップデンサーKYT−4000」を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、炭素材料を落下させて、セルに満杯に充填する。その後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度とする。
(ロ)好ましい範囲
本発明の炭素材料のタップ密度は、0.7g/cm以上が好ましく、0.85g/cm以上がより好ましい。また、1.3g/cm以下が好ましく、1.2g/cm以下がより好ましい。
【0022】
炭素材料のタップ密度を0.7g/cm以上とすることにより、優れた高速充放電特性が得られる。また、タップ密度を1.3g/cm以下とすることにより、粒子内炭素密度の上昇による圧延性の低下を防ぐことができ、高密度の負極シートを形成し易くなる。
【0023】
<流動性指数>
(イ)流動性指数の定義
流動性指数は、川北式タップ密度測定法(例えば、(株)セイシン企業社製「タップデンサーKYT−4000」を用いた擦り切り定量−重量タップ密度測定法)により、川北の式より求める。
【0024】
具体的には、擦り切り定量−重量タップ密度測定法では、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、炭素材料を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを最大1000回行う。
前記タップ密度測定法における、タッピング回数N、初期体積V、及びタッピングN回時の体積Vからサンプルの嵩減り度C=(V−V)/Vを算出し、N/Cを縦軸、Nを横軸にとったグラフから、NとN/Cとの関係を導き出し、川北の式から流動性指数を算出して流動性を評価する。
【0025】
ここで、川北の式とはN/C=(1/a)N+1/(ab)で表される式で、aが流動性指数となる。すなわち、N/Cを縦軸、Nを横軸にとったグラフから得られた直線の傾きの逆数が流動性指数aとなる。
(ロ)好ましい範囲
本発明の炭素材料の流動性指数は0.4以上であることが好ましく、0.44以上ではさらに好ましい。また、0.53以下であることが好ましい。
【0026】
炭素材料の表面官能基量が少ない場合には流動性指数が大きくなる。流動性指数を0.53以下とすることにより、粒子表面と電解液の反応が十分で安定したSEIを生成することができ、SEIの分解によりガス発生量が増加を抑制することができる。一方、流動性指数を0.4以上とすることにより、過剰量の粒子表面の官能基による電解液との過剰な反応を抑制し、ガス発生量の増加を抑制することができる。また、流動性指数を0.4以上とすることにより、炭素材料のすべり性が良く、負極シートの圧延性に優れるため、高密度の負極シートを形成し易くなる。
【0027】
<ラマンR値>
(イ)定義
ラマンR値はラマン法によりラマンスペクトルを測定し、得られたラマンスペクトルについて、1580cm−1付近のピークPの強度Iと、1360cm−1付近のピークPの強度Iとを測定し、その強度比R(R=I/I)を算出して、これを炭素材料のラマンR値と定義する。
【0028】
ラマンスペクトルは、具体的には、例えば、次の方法および条件で測定することができる。測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定する。
ラマン分光器:日本分光社製「ラマン分光器」
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
(ロ)好ましい範囲と特徴
本発明の炭素材料のラマンR値は、0.15以上であることが好ましく、0.17以上であることがより好ましい。また、0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。
【0029】
炭素材料のラマンR値を0.17以上とすることにより、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎることがなく、高密度化した場合に電極板と平行方向に結晶が配向し易くなることによる負荷特性の低下を防ぐことができる。一方、0.4以下とすることにより、粒子表面の結晶が乱れることによる電解液との過剰な反応を抑制し、効率の低下やガス発生の増加を防ぐことができる。
【0030】
<X線構造解析(XRD)から得られるRhombohedral(菱面体晶) に対す
るHexagonal(六方体晶)の結晶の存在比(3R/2H)>
(イ)測定方法
本発明の炭素材料のX線構造解析(XRD)から得られる、Rhombohedral(菱面体晶)に対するHexagonal(六方体晶)の結晶の存在比(3R/2H)は、市販のX線回折装置(例えば、日本電子製「JDX−3500」)を用いて3Rおよび2Hを測定し、3R/2Hを算出する。
【0031】
具体的には、例えば、次のように算出する。0.2mmの試料板に炭素材料を配向しないように充填し、X線回折装置(日本電子製「JDX−3500」)で、CuKα線にて出力30kV、200mAで測定する。得られた43.4°付近の3R(101)、及び44.5°付近の2H(101)の両ピークからバックグラウンドを差し引いた後、強度
比3R(101)/2H(101)を算出する。
(ロ)好ましい範囲
本発明の炭素材料のX線構造解析(XRD)から得られる、Rhombohedral(菱面体晶)に対するHexagonal(六方体晶)の結晶の存在比(3R/2H)は
0.20以上であることが好ましく、0.23以上であることがより好ましく、0.25以上であることが更に好ましい。3R/2Hを0.20以上とすることにより、高速充放
電特性の低下を防ぐことができる。
【0032】
本発明の炭素材料は、その原料として、黒鉛化されている炭素粒子であれば特に限定はないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス粉、ニードルコークス粉及び樹脂の黒鉛化物の粉体等が挙げられる。これらの原料黒鉛のうち、天然黒鉛が好ましく、中でも球形化処理を施した球状黒鉛(「球形化天然黒鉛」ともいう。)が好ましい。さらには、球状黒鉛は、湾曲又は屈曲した複数の鱗片状又は鱗状黒鉛、及び磨砕された黒鉛微粉からなるものであることがより好ましい。
【0033】
また、上記炭素材料の原料黒鉛は、XPSより求められる前記式1で表される表面官能基量O/C値が1%以上4%以下であると好ましく、2%以上3.6%以下では更に好ましく、2.6%以上3%以下であると最も好ましい。
原料黒鉛の表面官能基量O/C値を1%以上とすることにより、黒鉛表面に存在する水酸基やカルボキシル基などの活性な酸性官能基量が十分に確保され、塩酸接触処理や硫酸接触処理を行う際にクロロ基やスルホ基の導入量が低減するのを抑制する。一方で、4%以下とすることにより、粒子表面の官能基量が増えることによる電解液との過剰な反応を抑制し、ガス発生量の増加を抑えることができる。
【0034】
<炭素材料の製造方法>
前記原料から本発明の炭素材料を製造する方法として、以下の工程からなる典型的な製造方法を例示することができる。
・製造方法1
(第1工程)硫酸及び塩酸の少なくともいずれかを含む酸による酸接触処理を原料黒鉛に行う工程。
(第2工程)第1工程で処理した黒鉛を、そのまままたは必要により水で洗浄した後、100℃以上600℃以下で熱処理をする工程。
【0035】
ここで、硫酸及び塩酸の少なくともいずれか1を含む酸による酸接触処理を原料黒鉛に行うと、黒鉛表面に含まれる、芳香族炭化水素との求電子置換反応、アルケン部位との求電子付加反応、カルボキシル基及びカルボニル基などの酸素官能基との置換反応等が進行し、スルホ基及びクロロ基が導入され、SEI皮膜が安定して形成されるようになるため、好ましい。
【0036】
また、上記の酸処理を行う原料黒鉛は、XPSより求められるO/C値が1%以上4%以下であると好ましく、2%以上3.6%以下では更に好ましく、2.6%以上3%以下であると最も好ましい。この領域以下では、上記反応に必要なカルボキシル基やカルボニル基などの酸素官能基量が不足するため、十分な量のクロロ基やスルホ基が導入できず、この領域以上では粒子表面の官能基量が増えることにより電解液との反応性が増し、ガス発生量の増加に繋がる。
【0037】
さらに、前記酸接触処理を行う際には、硝酸などの酸化剤による前処理、及び硝酸などの酸化剤を混合した前記酸接触処理を行うと、より効率的に、原料黒鉛のXPSより求められる前記式1で表される表面官能基量O/C値を向上させることが出来るため好ましい。
なお、製造方法1の第1工程における酸接触処理は、硫酸及び塩酸の少なくともいずれか1を含む酸を用いればよい。また、その他の酸、例えば、硝酸、臭素酸、フッ酸、ホウ酸及びヨウ素酸などの無機酸、並びにクエン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、トリクロロ酢酸及びトリフルオロ酢酸などの有機酸を適宜混合した酸を用いることもできる。ただし、後述するように、硝酸などの酸化剤として働く酸を用いる場合には、硫酸接触処理の工程を別に行う必要が生じることもある。
【0038】
一般的に、硝酸などの酸化剤を混合して黒鉛を硫酸接触処理すると、黒鉛−酸層間化合物が生成し、これを加熱処理すると黒鉛の層間が広がった、いわゆる膨張黒鉛が生成してしまう。このような粒子の膨張が起こると、エネルギー密度の低下、黒鉛粒子の耐久性の低下、及び該黒鉛材料を用いて作製した電極の強度低下などが懸念される。
【0039】
このため、硝酸などの酸化剤を混合して黒鉛を酸接触処理する際には、より好ましい以下の工程からなる典型的な製造方法を例示することができる。
・製造方法2
(第1工程)硫酸を除き、少なくとも塩酸及び硝酸を含む酸による酸接触処理工程を原料黒鉛に行う工程。
(第2工程)第1工程で処理した黒鉛を、そのまままたは必要により水で洗浄した後、さらに必要に応じて100℃以上600℃以下で熱処理をする工程。
(第3工程)第2工程で処理した黒鉛を硫酸接触処理する工程
(第4工程)第3工程で処理した黒鉛を、そのまままたは必要により水で洗浄した後、100℃以上600℃以下で熱処理をする工程。
【0040】
製造方法1の第1工程、並びに製造方法2の第1工程および第3工程における、酸接触処理は、黒鉛を前記のような酸性溶液に浸漬することにより行われる。この時の浸漬時間としては、通常、0.5〜48時間程度である。酸接触処理は通常20〜95℃で行うことが好ましい。
また酸接触処理を行う際に、酸は黒鉛重量に対して酸溶液重量が通常5wt%〜500wt%、好ましくは、10wt%〜300wt%より好ましくは、15wt%〜200wt%の範囲で処理を行う。酸が多すぎる場合は、水洗浄工程効率が悪化する傾向があり、少なすぎる場合は、黒鉛表面に液が均一に馴染まず、黒鉛表面にクロロ基やスルホ基を十分に導入することができなくなる傾向がある。
【0041】
製造方法2の第1工程において濃塩酸と濃硝酸を混合する場合、濃塩酸に対する濃硝酸の量は通常、20wt%〜500wt%好ましくは、30wt%〜300wt%より好ましくは、50wt%〜150wt%である。
後述の実施例に示すように、黒鉛を酸接触処理した後、純水で洗浄処理を行うことが可能であるが、その場合、pHが3〜6程度となるまで洗浄を行う。
【0042】
また、製造方法1の第2工程、並びに製造方法2の第2工程及び第4工程における、熱処理工程の熱処理時間としては、通常、1〜24時間程度である。また、100℃以上で熱処理することにより、炭素材料表面へ十分に酸性官能基が導入することができ、600℃以下で熱処理することにより、導入した酸性官能基が脱離するのを防ぐことができる。
【0043】
<リチウムイオン二次電池の構成>
本発明の炭素材料及びそれを含む負極シートを用いて製造された本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、電解液、セパレータ、円筒形、角型、ラミネート、自動車用途や定置型電池用などの大型缶体、筐体、PTC素子及び絶縁板等の電池構成上必要な部材からなるが、その選択については発明の主旨を越えない限り特に制限されない。
【0044】
本発明のリチウムイオン二次電池は、通常少なくとも、下記の本発明の負極、正極及び電解質を有する。
<非水系二次電池用負極及び負極シート>
本発明の炭素材料は、非水系二次電池、特にリチウムイオン二次電池の負極活物質材料として好適に用いることができる。また、本発明の炭素材料(A)と天然黒鉛、人造黒鉛、気相成長性炭素繊維、導電性カーボンブラック、非晶質被覆黒鉛、樹脂被覆黒鉛及び非晶質炭素よりなる群から選ばれる1種以上の、上記複合黒鉛粒子とは形状又は物性の異なる炭素質粒子(以下、「炭素質粒子(B)」と略記する)を更に含有させたものも、負極活物質材料として好適に用いることができる。
【0045】
本発明の炭素材料(A)に炭素質粒子(B)を適宜選択して混合することによって、粒子変形による極板表面でのLi拡散パス阻害の防止、不可逆容量の低減が可能となる。炭素質粒子(B)を混合する場合の量の下限は、負極材料全体に対して、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、上限は、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。当該範囲以上にすることにより、初期不可逆容量の増大抑制することができる。当該範囲以下にすることにより、導電性の低下を防ぐことができる。
【0046】
本発明の炭素材料(A)と炭素質粒子(B)との混合に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、回転型混合機としては、円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機及び鍬型混合機等が挙げられる。固定型混合機としては、らせん型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、Helical Flight型混合機、Pugmill型混合機、流動化型混合機、シータコンポーザー、ハイブリダイザー及びメカノフュージョン等が挙げられる。
【0047】
また、負極シートを構成する活物質の一部に、Liと合金化可能な合金、珪化物、半導体電極を含んでいても良い。具体的には、例えば、Si、Al、Sn、SnSb、SnAs、SiO、SnO、SnO及びSiC、ダイヤモンドにB、N及びPなどの不純物を含ませ半導体としたもの、並びにこれらのものからなる複合合金及び不定比酸化物が考えられる。
【0048】
負極シートの構成は、本発明の炭素材料、上記のような粒子のほか、極板成形用結着剤、増粘剤、導電材を含有する活物質層及び集電体からなる。活物質層は通常、これら集電体以外の部材から調製されるスラリーを集電体上に塗布、乾燥、所望の密度まで圧延することにより得られる。
極板成形用結着剤としては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安定な材料であれば、任意のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−アクリル酸共重合体及びエチレン−メタクリル酸共重合体等が挙げられる。極板成形用結着剤は、負極材料/極板成形用結着剤の重量比で、通常90/10以上、好ましくは95/5以上、通常99.9/0.1以下、好ましくは99.5/0.5以下の範囲で用いられる。
【0049】
増粘剤としては、例えば、カルボキシルメチルセルロース及びそのNa塩、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、並びにカゼイン等が挙げられる。これら増粘剤としては、制限が無く使用できるが、塩基性側で構造変化が無いものが好ましい。
【0050】
導電材としては、例えば、銅及びニッケル等の金属微粉材料、並びにグラファイト及び
カーボンブラック等の小粒径炭素材料等が挙げられる。
集電体の材質としては、例えば、銅、ニッケル及びステンレス等が挙げられる。これらのうち、薄膜に加工しやすいという点及びコストの点から銅箔が好ましい。
活物質層の密度は、用途により異なるが、容量を重視する用途では、通常1.55g/cm以上である。1.60g/cm以上が好ましい。密度が低すぎると、単位体積あたりの電池容量が充分にならず、密度が高すぎると高速充放電特性が低下するので、一般的に炭素材料のみで構成される負極シートの場合、1.90g/cm以下が好ましい。なお、ここで活物質層とは集電体上の活物質、極板成形用バインダー、増粘剤、導電材等よりなる合剤層をいい、その密度とは電池に組立てる時点での活物質層の嵩密度をいう。
【0051】
<非水系二次電池>
本発明の炭素材料を用いて製造された本発明の非水系二次電池用負極は、特にリチウムイオン二次電池等の非水系二次電池の負極として極めて有用である。
このような非水系二次電池を構成する正極、電解液等の電池構成上必要な部材の選択については特に制限されない。以下において、非水系二次電池を構成する部材の材料等を例示するが、使用し得る材料はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0052】
本発明の非水系二次電池は、通常少なくとも、上記の本発明の負極、正極及び電解質を有する。
正極は、正極集電体上に正極活物質、導電剤及び極板成形用バインダーを含有する活物質層を形成してなる。活物質層は通常正極活物質、導電剤及び極板成形用バインダーを含有するスラリーを調製し、該スラリーを集電体上に塗布、乾燥することにより得られる。
【0053】
正極活物質としては、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物材料、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物材料、フッ化黒鉛等の炭素質材料等のリチウムを吸蔵/放出可能な材料を使用することができる。具体的には、例えば、LiFePO、LiFeO、LiCoO、LiNiO、LiMn及びこれらの非定比化合物、MnO、TiS、FeS、Nb、Mo、CoS、V、P、CrO、V、TeO、GeO並びにLiNi0.33Mn0.33Co0.33等を用いることができる。
【0054】
正極導電材としては、例えば、カーボンブラック及び小粒径黒鉛などが挙げられる。
正極集電体としては、電解液中での陽極酸化によって表面に不動態皮膜を形成する金属又はその合金を用いるのが好ましく、IIIa、IVa及びVa族(3B、4B及び5B族)に属する金属並びにこれらの合金を例示することができる。具体的には、例えば、Al、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta及びこれらの金属を含む合金等を例示することができ、Al、Ti、Ta及びこれらの金属を含む合金を好ましく使用することができる。特にAl及びその合金は軽量であるためエネルギー密度が高くて望ましい。
【0055】
電解質としては、例えば、電解液、固体電解質及びゲル状電解質等が挙げられるが、中でも電解液、特に非水系電解液が好ましい。非水系電解液は、非水系溶媒に溶質を溶解したものを用いることができる。
溶質としては、例えば、アルカリ金属塩及び4級アンモニウム塩等を用いることができる。具体的には、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)及びLiC(CFSOからなる群から選択される一種以上の化合物を用いるのが好ましい。
【0056】
非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート及びプロ
ピレンカーボネート等の環状カーボネート、γ−ブチロラクトン等の環状エステル化合物;1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル;クラウンエーテル、2−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジメチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン及びテトラヒドロフラン等の環状エーテル、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネート等の鎖状カーボネート等を用いることができる。溶質及び溶媒はそれぞれ1種類を選択して使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも非水系溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含有するものが好ましい。またビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン及びジエチルスルホン等の化合物並びにジフルオロリン酸リチウムのようなジフルオロリン酸塩等が添加されていても良い。更に、ジフェニルエーテル及びシクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていても良い。
【0057】
電解液中のこれらの溶質の含有量は、0.2mol/L以上が好ましく、特に0.5mol/L以上が好ましく、2mol/L以下が好ましく、特に1.5mol/L以下であることが好ましい。
これらのなかでも本発明の負極と、金属カルコゲナイド系正極と、カーボネート系溶媒を主体とする非水電解液とを組み合わせて作成したリチウムイオン二次電池は、容量が大きく、初期サイクルに認められる不可逆容量が小さく、急速充放電特性に優れる。
【0058】
正極と負極の間には、通常正極と負極が物理的に接触しないようにするためにセパレータが設けられる。セパレータはイオン透過性が高く、電気抵抗が低いものであるのが好ましい。セパレータの材質及び形状は、特に限定されないが、電解液に対して安定で、保液性が優れたものが好ましい。具体的には、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布が挙げられる。
【0059】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に制限されず、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ並びにペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。
[実施例]
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0060】
<負極材料の物性評価>
(1)粒径d50
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ツィーン20(登録商標))の0.2質量%水溶液10mLに、測定対象試料0.01gを懸濁させ、測定装置(HORIBA製「LA−920」)に導入した。28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径を測定し、d50とした。
(2)タップ密度
(株)セイシン企業社製「タップデンサーKYT−4000」を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、測定対象試料を落下させて、セルに満杯に充填した。その後、ストローク長10mmのタップを1000回行い、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度とした。
(3)流動性指数a
流動性指数aは、(株)セイシン企業社製「タップデンサーKYT−4000」を用いた擦り切り定量−重量タップ密度測定法により、川北の式から算出した。直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、測定対象試料を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを最大1000回行った。
【0061】
タッピング回数N、初期体積V、及びタッピングN回時の体積Vからサンプルの嵩減り度C=(V−V)/Vを算出し、N/Cを縦軸、Nを横軸にとったグラフから、NとN/Cとの関係を導き出し、川北の式N/C=(1/a)N+1/(ab)から流動性指数aを算出した。
(4)BET比表面積(SA)
BET比表面積は、大倉理研社製「AMS8000」を用いて、窒素ガス吸着流通法により測定した。測定対象試料0.4gをセルに充填し、350℃に加熱して前処理を行った後、液体窒素温度まで冷却して、窒素30%、He70%のガスを飽和吸着させ、その後室温まで加熱して脱着したガス量を計測し、得られた結果から、BET1点法により比表面積を算出した。
(5)ラマンR値
測定対象試料を測定セル内へ自然落下させることで充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定した。ラマンスペクトルの測定条件を下記に示す。
ラマン分光器:日本分光社製「ラマン分光器」
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
得られたラマンスペクトルについて、1580cm−1付近のピークPの強度Iと、1360cm−1付近のピークPの強度Iとを測定し、その強度比R(R=I/I)を算出し、ラマンR値とした。
【0062】
(6)表面官能基量O/C値、表面官能基量Cl/C値及び表面官能基量S165/C値の和(Cl/C+S165/C)
測定対象試料を表面が平坦になるようにX線光電子分光器(アルバック・ファイ社製ESCA)の試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、下記の条件でスペクトルを測定し、表面官能基量O/C値、表面官能基量Cl/C値及び表面官能基量S165/C値の和(Cl/C+S165/C)を算出した。
・表面官能基量O/C値(%)
得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出した。得られたそのOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)×100を炭素材料の表面官能基量O/C値とした。
・表面官能基量Cl/C値(%)
【0063】
上記と同様の方法にて、C1s(280〜300eV)とCl2p(195〜205eV)のスペクトルを測定し、C1sとCl2pのスペクトルのピーク面積を求め、更に装
置感度係数を掛けて、CとClの表面原子濃度をそれぞれ算出した。得られたそのClとCの原子濃度比Cl/C(Cl原子濃度/C原子濃度)×100を炭素材料の表面官能基量Cl/C値とした。
・表面官能基量S165/C値(%)
C1s(280〜300eV)のスペクトルとS2p(160〜175eV)のスペクトルを測定し、C1sのスペクトルのピーク面積、及び160〜175eVの範囲に存在するS2pに対応するスペクトルのうち165eV付近のピークのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとS165の表面原子濃度をそれぞれ算出した。得られたそのS165とCの原子濃度比S165/C(S165原子濃度/C原子濃度)×100を
算出し、これを黒鉛材料の表面官能基量S165/C値とした。
【0064】
(7)3R/2H
0.2mmの試料板に測定対象試料を配向しないように充填し、X線回折装置(日本電子製「JDX−3500」)で、CuKα線にて出力30kV、200mAで測定した。得られた43.4°付近の3R(101)、及び44.5°付近の2H(101)の両ピークからバックグラウンドを差し引いた後、強度比3R(101)/2H(101)を算出した。
【0065】
<負極の測定方法>
(i)負極シートの作製方法及び測定
表1に示す性状の炭素材料を負極材料として用い、活物質層密度1.60±0.03g/cmの活物質層を有する極板を作製した。具体的には、負極材料20.00±0.02gに、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液を20.00±0.02g(固形分換算で0.200g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン0.50±0.05g(固形分換算で0.2g)を、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
【0066】
前記スラリーを、集電体である厚さ18μmの銅箔上に、負極材料が12.4±0.1mg/cm付着するように、ドクターブレードを用いて幅5cmに塗布し、室温で風乾を行った。更に110℃で30分乾燥後、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.60±0.03g/cmになるよう調整し負極シートを得た。
【0067】
(ii)非水系二次電池の作製方法
上記方法で作製した負極シートを4cm×3cmの正方形に切り出し負極とし、LiCoOからなる正極を同面積で切り出し、組み合わせた。負極と正極の間には、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートの混合溶媒(容量比=20:20:60)に、LiPFを1mol/Lになるように溶解させ、更に添加剤としてビニレンカーボネートを2容積%添加した電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、ラミネート型電池を作製した。
【0068】
(iii)高温耐久試験時のセル膨れ量の測定方法
上記した方法で作製したラミネート型電池を、12時間放置した後、電流密度0.2CmA/cmで、両電極間の電位差が4.1Vになるまで充電を行い、その後3Vになるまで0.2CmA/cmで放電を行った。これを2回繰り返し、更に同電流値で、両電極間の電位差が4.2Vになるまで充電を実施した。ここまでに発生する膨れ量a(mL)は、浸漬容積法(アルキメデスの原理に基づく溶媒置換法)により計測した。その後、85℃の恒温槽内に24時間日間放置して、更に膨れる量b(mL)を求め、「a+b(mL)」を「高温耐久試験時のセル膨れ量」とした。表1の結果は、ラミネート型電池2個について、それぞれ測定し平均値を求めることで得た。
【0069】
実施例1
前記測定法で測定した、表面官能基量O/C値が2.90%である球状天然黒鉛を、濃塩酸(33wt%)と濃硝酸(40wt%)の混合酸溶液(濃塩酸:濃硝酸(重量比)=1:1)中で80℃にて4時間攪拌し、pHが4以上になるまで純水にて洗浄、ろ過した。さらに、ここで得られたサンプルを濃硫酸(93wt%)中で80℃にて4時間攪拌し、pHが4以上になるまで純水で洗浄した後、300℃にて6時間保持してサンプルを得た。これについて、前記測定法で粒径d50、タップ密度、BET比表面積(SA)、ラマンR値、表面官能基量O/C値、表面官能基量S165/C値、表面官能基量Cl/C
値、3R/2H、流動性指数a、85℃24時間高温耐久試験を行った際のラミネートセルの膨れ量(「高温耐久試験時のセル膨れ量」とする)を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
実施例2
前記測定法で測定した、表面官能基量O/C値が3.04%である球状天然黒鉛を、濃塩酸と濃硝酸の混合酸溶液(濃塩酸:濃硝酸(重量比)=1:1)中で80℃にて8時間攪拌し、pHが4以上になるまで純水にて洗浄、ろ過した。さらに、ここで得られたサンプルを濃硫酸中で80℃にて4時間攪拌し、pHが4以上になるまで純水で洗浄した後、300℃にて6時間保持してサンプルを得た。これについて、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
実施例3
前記測定法で測定した、表面官能基量O/C値が3.66%である球状天然黒鉛を、濃塩酸と濃硝酸の混合酸溶液(濃塩酸:濃硝酸(重量比)=1:1)中で80℃にて2時間攪拌し、pHが4以上になるまで純水にて洗浄、ろ過した。さらに、ここで得られたサンプルを濃硫酸中で80℃にて2時間攪拌し、pHが4以上になるまで純水で洗浄した後、300℃にて6時間保持してサンプルを得た。これについて、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0072】
実施例4
前記測定法で測定した、表面官能基量O/C値が3.24%である球状天然黒鉛を、濃塩酸と濃硝酸の混合酸溶液(濃塩酸:濃硝酸(重量比)=1:1)中で80℃にて4時間攪拌し、pHが4以上になるまで純水にて洗浄、ろ過した。さらに、ここで得られたサンプルを濃硫酸中で80℃にて4時間攪拌し、pHが4以上になるまで純水で洗浄した後、300℃にて6時間保持してサンプルを得た。これについて、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0073】
比較例1
天然黒鉛(クロップミュール社製SGB20)を用い、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
比較例2
実施例4記載の黒鉛粒子を、黒鉛坩堝に充填し、電気炉中、窒息雰囲気下で、室温から1000℃まで48時間かけて昇温し、1000℃で3時間保持し、更に室温付近まで48時間かけて降温した。得られた黒鉛粒子を、45μm篩いで粗粒子を除き、サンプルを得た。これについて、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の結果に示すように、比較例1の炭素材料では表面官能基量O/C値は本発明の規定範囲に含まれるが、酸接触処理を行っていないために表面官能基量Cl/C値及び表面官能基量S165/C値の和(Cl/C+S165/C)の値が規定値を大きく下回って
おり、その結果として高温耐久試験時のセル脹れ量が増大した。
また、比較例2の炭素材料では表面官能基量Cl/C値及び表面官能基量S165/C値の和(Cl/C+S165/C)は本発明の規定範囲に含まれるが、1000℃の熱処理を行うことにより、O/Cの値が規定値を大きく下回っている。その結果、1000℃の熱処理を行っていない実施例4に比べて、高温耐久試験時のセル脹れ量が増大した。
【0076】
これらに対し、実施例1〜4の炭素材料では本発明の規定範囲に全ての物性が含まれており、その結果として高温耐久試験時のセル脹れ量が低減した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の炭素材料は、それをリチウムイオン電池用の活物質として用いることにより、高容量、高温保存特性に優れ、且つガス発生量の少ないリチウムイオン二次電池を提供することができる。また、当該材料の製造方法によれば、その工程数が少ない故、安定して効率的且つ安価に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される表面官能基量O/C値が1%以上、4%以下であり、かつ、下記式2で表される表面官能基量Cl/C値と下記式3で表される表面官能基量S165/C値の和(Cl/C+S165/C)が0.05%以上、0.5%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用炭素材料。
式1
O/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式2
Cl/C値(%)=XPS分析におけるCl2pのスペクトルのピーク面積に基づいて
求めたCl原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
式3
165/C値(%)=XPS分析におけるS2pに対応するスペクトルのうち165eV付近のピークのピーク面積に基づいて求めたS165原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度×100
【請求項2】
BET比表面積(SA)が4m/g以上、11m/g以下であり、タップ密度が0
.7g/cm以上、1.3g/cm以下であり、ラマンR値が0.15以上、0.4
以下であり、かつ、流動性指数が0.4以上、0.53以下であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料。
【請求項3】
X線構造解析(XRD)から得られる、Rhombohedral(菱面体晶) に対する
Hexagonal(六方体晶)の結晶の存在比(3R/2H)が0.20以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料。
【請求項4】
原料黒鉛を、少なくとも塩酸及び硫酸の少なくともいずれかを含む酸と接触させる工程、並びに、該酸と接触させた当該黒鉛を100℃以上600℃以下で熱処理する工程を含む製造方法により製造されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料。
【請求項5】
請求項4に記載の原料黒鉛が球形化処理を施した天然黒鉛であり、該球形化天然黒鉛の式1で表される表面官能基量O/C値が1%以上、4%以下であることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材料。
【請求項6】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が、請求項1から5のいずれか1項に記載の炭素材料を含有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、電解質を備えると共に、該負極が、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2010−219036(P2010−219036A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35389(P2010−35389)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】