説明

リチウムイオン二次電池

【課題】高温での充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、有機溶媒に電解質を溶解してなる非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池において、正極活物質は、一般式(1)Li1+x(Ni1/3±δ1Co1/3±δ2Mn1/3±δ31−xで表される複合酸化物を主成分とし、負極活物質は、炭素材料を主成分とする。また、非水電解液は、少なくとも下記の一般式(2)で表されるアニオン化合物を含有する。


(但し、Mは、遷移金属、周期律表のIII族、IV族、又はV族元素、bは、1〜3、mは1〜4、nは0〜8、qは0又は1をそれぞれ表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンの吸蔵・放出を利用したリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液に非プロトン性溶媒を用いたリチウムイオン二次電池は、電解液にプロトン性溶媒を用いた例えばニッケル水素電池や鉛蓄電池等と比較して、耐圧電圧が高く、エネルギー密度が高いという優れた特徴を有している。そのため、上記リチウムイオン二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車用の電池として有望視されている。
【0003】
上記リチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質としてリチウム複合酸化物を、負極活物質として炭素材料を、また、電解液として電解質を非プロトン性溶媒に溶解させた非水電解液を用いて構成される。上記正極活物質としては、具体的には例えばLiCoO2、LiNiO2、及びLiMn24等が用いられ、上記負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、及びコークス等が用いられる。また、上記非水電解液としては、例えばLiPF6、及びLiBF4等を支持塩とし、この支持塩をエチレンカーボネート(EC)やジエチレンカーボネート(DEC)に溶解させた溶液等が用いられる。
【0004】
特に、量産性が要求されるハイブリッド自動車や電気自動車用電源等に用いられるリチウムイオン二次電池においては、その正極活物質として、比較的資源が豊富なNiを主成分とするLiNiO2等のリチウムニッケル複合酸化物が用いられる。しかし、LiNiO2等からなる正極活物質は、満充電時に酸素を放出して電解液と化学反応を起こすおそれがあるため、安全性に問題があった。
そこで、Niを金属元素M(M=Al、Co、Mn)で置換したLiNi1-xAlx2、LiNi1-x-yCoyAlx2、LiNi1-x-yCoyMnx2等からなる正極活物質が開発されている(非特許文献1及び2参照)。このような化合物を用いることにより、酸素の放出を抑制し、安全性を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1及び2に示される正極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を作製しても、該リチウムイオン二次電池には、例えば60℃程度の高温環境下で充放電を繰り返し行ったときに、充放電容量が低下するという問題があった。また、このような正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、高温で充放電サイクルを繰り返すと、電池の内部抵抗の著しい上昇を引き起こすという問題があった。
【0006】
また、車載用電池の特性としては、−30℃程度の低温環境から60℃程度の高温環境において繰り返し充放電しても、容量劣化が小さいことに加えて、電池の内部抵抗上昇が小さいことが要求される。そのため、車載用電池には、高温での充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が特に要求される。
【0007】
【非特許文献1】ティ・オーズク他(T.Ohzuku et al.)、ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサイエティ(Journal of The Electrochemical Society)、米国、ジ・エレクトロケミカル・ソサエティ・インコーポレイティッド(The Electrochemical Society Inc.)、1995年、142、p.4033−p.4039
【非特許文献2】ティ・オーズク他(T.Ohzuku et al.)、ジャーナル・オブ・パワー・ソースィズ(Journal of Power Sources)、オランダ、エルセビア(Elsevier)、2003年、119−121、p.171−174
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、高温環境下において、充放電を繰り返し行っても、高い放電容量を発揮できると共に、高出力を維持できるリチウムイオン二次電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、有機溶媒に電解質を溶解してなる非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池において、
上記正極活物質は、一般式(1)Li1+x(Ni1/3±δ1Co1/3±δ2Mn1/3±δ31−x(但し、−0.1≦x≦0.2、0≦δ1≦0.1、0≦δ2≦0.1、0≦δ3≦0.1)で表され、LiイオンからなるLi層と、酸化物イオンからなるO層と、Ni、Co、及びMnからなる遷移金属層とが積層した結晶構造を有する複合酸化物を主成分としてなり、
上記負極活物質は、炭素材料を主成分としてなり、
上記非水電解液は、少なくとも下記の一般式(2)で表されるアニオン化合物を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池にある(請求項1)。
【化6】

{但し、Mは、遷移金属、周期律表のIII族、IV族、又はV族元素、bは1〜3、mは1〜4、nは0〜8、qは0又は1をそれぞれ表し、R1は、C1〜C10のアルキレン、C1〜C10のハロゲン化アルキレン、C6〜C20のアリーレン、又はC6〜C20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよく、またm個存在するR1はそれぞれが結合してもよい。)、R2は、ハロゲン、C1〜C10のアルキル、C1〜C10のハロゲン化アルキル、C6〜C20のアリール、C6〜C20のハロゲン化アリール、又はX33(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよく、またn個存在するR2はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)、X1、X2、X3は、O、S、又はNR4、R3、R4は、それぞれが独立で、水素、C1〜C10のアルキル、C1〜C10のハロゲン化アルキル、C6〜C20のアリール、C6〜C20のハロゲン化アリールをそれぞれ示す(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよく、また複数個存在するR3、R4はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)。}
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記一般式(2)で表されるアニオン化合物を含有する非水電解液を有している。
そのため、上記リチウムイオン二次電池を1回以上充電させると、上記アニオン化合物の全てもしくは一部が分解し、上記正極又は/及び負極の表面や、上記正極活物質又は/及び負極活物質の表面に、低抵抗でかつ安定な被膜等の被覆物を形成させることができる。そのため、上記リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンの貯蔵・放出をスムーズに行うことができる。
また、上記被覆物は、例えば60℃程度の高温環境下において、上記正極活物質及び/又は上記負極活物質の表面に、高抵抗な被膜が形成することを抑制することができる。それ故、上記リチウムイオン二次電池の内部抵抗の上昇を抑制し、充放電サイクル特性の低下を抑制することができる。
【0011】
上記の高抵抗な被膜は、上記リチウムイオン二次電池を例えば60℃という高温環境下で繰り返し使用したとき等に特に起こりやすく、電極反応を阻害し、出力電圧や放電容量等を低下させる原因となりうる。
本発明のリチウムイオン二次電池においては、上記被覆物が、上記の高抵抗な被膜の形成を防止することができる。そのため、例えば60℃という高温環境下で繰り返し使用した場合においても、優れた放電容量及び出力電圧を発揮することができる。
【0012】
また、上記リチウムイオン二次電池は、一般式(1)Li1+x(Ni1/3±δ1Co1/3±δ2Mn1/3±δ31−x(但し、−0.1≦x≦0.2、0≦δ1≦0.1、0≦δ2≦0.1、0≦δ3≦0.1)で表され、LiイオンからなるLi層と、酸化物イオンからなるO層と、Ni、Co、及びMnからなる遷移金属層とが積層した結晶構造を有する複合酸化物を主成分する上記正極活物質を含有している。
上記一般式(1)で表される上記複合酸化物は、リチウムが脱離しても格子体積の変化がほとんどなく、また、過充電時における酸素放出量も少ない。そのため、正極活物質が膨張又は収縮してリチウムイオン二次電池内において接触不良を起こしたり、所謂熱暴走反応を起こしたりすることを抑制できる。したがって、上記リチウムイオン二次電池の放電容量の低下や内部抵抗の上昇を抑制することができ、充放電を繰り返しても高い放電容量及び出力を発揮することができる。
この理由は次のように考えられる。
即ち、上記一般式(1)で表される上記複合酸化物においては、Niイオン、Coイオン、Mnイオンが1/3±δモルずつ配合されている。その結果、上記複合酸化物において、各イオンの形式酸化数は、それぞれNiイオンが+2、Coイオンが+3、Mnイオンが+4となり、上記遷移金属層においてNiイオン、Coイオン、及びMnイオンが規則的に配列し易くなる。そのため、上述のごとく、放電容量の低下や内部抵抗の上昇を防止することができると考えられる。
【0013】
さらに、本発明においては、上記正極活物質として一般式(1)で表される上記複合酸化物を含有し、上記負極活物質として炭素材料を含有し、さらに上記非水電解液に、少なくとも下記の一般式(2)で表されるアニオン化合物を含有している。
そのため、上記リチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返ったときにおける出力及び充放電容量の低下を顕著に抑制することができる。即ち、上記リチウムイオン二次電池においては、上記正極活物質及び上記負極活物質として、上記のごとく特定の物質を組み合わせ、かつ上記アニオン化合物を含有した非水電解液を用いることにより、上述の内部抵抗の上昇抑制効果及び、充放電容量の低下抑制効果を顕著に発揮することができる。
【0014】
以上のように、本発明によれば、高温環境下において、充放電を繰り返し行っても、高い放電容量を発揮できると共に、高出力を維持できるリチウムイオン二次電池を提供しようとするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、有機溶媒に電解質を溶解してなる非水電解液とを有する。
正極は、例えば上記正極活物質に導電材及び結着材を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、アルミニウム、ステンレス等の、金属箔製の集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。
【0016】
本発明において、上記正極活物質は、一般式(1)Li1+x(Ni1/3±δ1Co1/3±δ2Mn1/3±δ31−x(但し、−0.1≦x≦0.2、0≦δ1≦0.1、0≦δ2≦0.1、0≦δ3≦0.1)で表され、LiイオンからなるLi層と、酸化物イオンからなるO層と、Ni、Co、及びMnからなる遷移金属層とが積層した結晶構造を有する複合酸化物を主成分としている。
x<−0.1の場合には、遷移金属がLiのサイトを占有し、電池容量を低下させるおそれがある。一方、x>0.2の場合には、Li2CO3やLiOH等の不純物相が現れ、上記リチウムイオン二次電池の内部抵抗を増加させるおそれがある。より好ましくは、0≦x≦0.1がよい。
また、δ1、δ2、又はδ3が0.1を越える場合には、上記複合酸化物における上記遷移金属層において、Niイオン、Coイオン、Mnイオンの配列がランダムになりやすい。その結果、充放電を繰り返すことにより、格子体積が変化し易くなり、充放電容量や出力が低下し易くなるおそれがある。
より好ましくは、0≦δ1≦0.05、0≦δ2≦0.05、0≦δ3≦0.05がよい。この場合には、上記複合酸化物の上記遷移金属層において、Niイオン、Coイオン、及びMnイオンがより一層規則的に配列し易くなり、後述の超格子構造を形成し易くなる。
【0017】
上記正極活物質は、例えばLi化合物と、Ni、Co、Mnの各遷移金属化合物とを、上記一般式(1)で表される複合酸化物が得られるような化学量論比で混合し、得られる混合原料を空気中、酸素中、又は窒素中等で焼成することによって合成することができる。
Li化合物としては、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、硫酸リチウム等を用いることができる。また、各遷移金属化合物としては、Li、Co、Mnの水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩等を用いることができる。より具体的には、例えば水酸化ニッケル、水酸化コバルト、水酸化マンガン、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸マンガン等がある。
【0018】
また、相溶性の観点から、Li化合物及び遷移金属化合物としては、水酸化物、又は硝酸塩を用いることが好ましい。
焼成温度は、例えば800〜1100℃で行うことが好ましい。焼成温度が800℃未満の場合には、結晶性が充分に発達し難くなり、所望の電池特性が得られなくなるおそれがある。一方1100℃を越える場合には、岩塩相等の不純物が生成し、電池特性を悪化させるおそれがある。より好ましい焼成温度は、950℃〜1050℃である。
また、混合原料の焼成は、酸素中で行うことが好ましい。
この場合には、結晶格子中においてNiイオン、Coイオン、及びMnイオンがより規則的に配置し易くなり、より充放電サイクルに対する耐久性に優れた上記複合酸化物からなる正極活物質を得ることができる。
【0019】
次に、上記複合酸化物は、超格子構造を有していることが好ましい(請求項2)。
即ち、上記一般式(1)で表される複合酸化物の結晶構造の空間群をR3−mで表し、Liイオンが3bサイト、NiイオンとCoイオンとMnイオンとが3aサイト、酸化物イオンが6cサイトを占有しているとしたとき、Niイオン、Coイオン、及びMnイオンが3aサイト中で規則的に配列した超格子構造を有することが好ましい。このとき、上記複合酸化物の結晶構造の空間群の対称性はR3−mより低くなる。空間群の対象性については、例えば「ティ・ハーン(T. Hahn)、インターナショナル・テーブルズ・フォー・クリスタログラフィ・ヴォル・エー(International Tables for crystallography Vol.A)、クルワー・アカデミック・パブリッシャーズ(Kluwer Academic Publishers)、2002年に記載されているように、インターナショナル・テーブルによって、対象性の低いものから順番に1番〜230番までの番号(インターナショナル・テーブル・ナンバー)付けがされており、例えばR3−mはNo.166である。したがって、上記一般式(1)で表される複合酸化物が超格子構造を有する場合には、その結晶構造の空間群は、R3−m(No.166)よりも低いインターナショナル・テーブル・ナンバー番号に帰属する。その結果、上記正極活物質の結晶構造の安定性がより向上し、充放電を繰り返したときの放電容量の低下や内部抵抗の上昇をより一層抑制することができる。なお、上述の空間群を示す「R3−m」において、本来、「−」は「3」の上に付されるが、明細書作成の便宜のため、本明細書においては「3」の右隣に付して表してある。
【0020】
一般に、LiMeO2(Meは、Co、Ni、CoxNi1-x、CoxNiyMn1-x-y等)の結晶構造は、空間群R3−mで表され、Liイオン、Meイオン、酸化物イオンは、それぞれ3aサイト、3bサイト、及び6cサイトを占有している。図8に、LiMeO2の結晶構造のイメージ図を示す。同図に示すごとく、LiMeO2は、Liイオンからなる層(Li層)91、Meイオンからなる層(Me層)92、及び酸化物イオンからなるO層93が複数積み上げられた構造を有しており、Me層92とLi層91は、それぞれO層93に挟まれている。また、図9に、図8の結晶構造を図中の矢印の方向からみたときのMe層92を示す。図9に示すごとく、Me層92において、各Meイオン間の距離は格子定数a(ただし、六方晶配置)に相当し、中心のMeイオン921からみて、Meイオン922とMeイオン923とは角度γ=120°をなす。中心のMeイオン921、Meイオン922、Meイオン923、Meイオン924で囲まれた領域が単位格子925である。
【0021】
Me層において、Meイオン、即ち、Niイオン、Coイオン、及びMnイオンは、例えば図3に示すごとく、ランダムに配列することができるが、例えば図6及び図7に示すごとく規則的に配列することもできる。
Niイオン、Coイオン、Mnイオンが図3に示すごとくランダムに配列した結晶構造の空間群は、R3−mで表され、インターナショナル・テーブル・ナンバーは、No.166となる。これに対し、図6に示すごとく規則的に配列した結晶構造の空間群は、P3112で表され、このインターナショナル・テーブル・ナンバーは、No.151となる。また、図7に示すごとく規則的に配列した結晶構造の空間群は、P2/cで表され、このインターナショナル・テーブル・ナンバーは、No.13となる。
このように、Niイオン、Coイオン、Meイオンが規則的に配列した超格子構造の場合には、インターナショナル・テーブル・ナンバーが、一般的なLiMeO2の結晶構造のインターナショナル・テーブル・ナンバー、即ちNo166よりも小さくなる。そして、この場合には、上記一般式(1)で表される複合酸化物の結晶構造の安定性がより向上し、充放電を繰り返しても放電容量の低下や内部抵抗の上昇をより一層抑制することができる。
【0022】
また、上記一般式(1)におけるxは、x=0であり、上記層状化合物においてNiイオン、Coイオン、及びMnイオンは、wood表記[√3×√3]R30°で表される超格子構造を形成しており、該超格子構造の空間群はP3112又はP3212であることがよい(請求項3)。
この場合には、上記リチウムイオン二次電池の充放電を繰り返したときの放電容量の低下や内部抵抗の上昇をさらにより一層抑制することができる。また、充放電を繰り返す前の初期抵抗を低減させることができる。
【0023】
上記一般式(1)で表される複合酸化物において、x=0のときは、該複合酸化物は、Li(Ni1/3±δ1Co1/3±δ2Mn1/3±δ3)O(但し、0≦δ1≦0.1、0≦δ2≦0.1、0≦δ3≦0.1)で表される。この複合酸化物が上述のごとくwood表記[√3×√3]R30°で表される超格子構造を形成する場合には、上記複合酸化物は、例えば図6に示すごとく、Niイオン、Mnイオン、及びCoイオンが√3倍の単位格子を基準にして規則的に配列した超格子構造を有する。図6に示すように、Niイオン71を中心とすると、第一近接としてCoイオン711、712、713とMnイオン714、715、716とがNiイオン71を取り囲み、第二近接としてNiイオン721、722、723、724、725、726が取り囲んだ構造をしている。また、同様に、Coイオンを中心とすると、第一近接としてNiイオンとMnイオンがCoイオンを取り囲み、第二近接として,Coイオンが取り囲んだ構造をしている(図示略)。さらに、同様に、Mnイオンを中心とすると、第一近接としてNiとCoイオンがMnイオンを取り囲み、第二近接として,Mnイオンが取り囲んだ構造をしている(図示略)。
【0024】
Niイオン、Coイオン、Mnイオンが、図6に示すごとく規則的に配設して超格子構造を形成したとき、この構造の単位格子73の格子定数はbとなる。超格子構造でないときの構造(図9参照)と同様の格子定数aの単位格子74と比較して、格子定数bは、格子定数aの√3倍である。そのため、このような構造は、中心Meイオン71(図6においてはNiイオン)とMeイオン723(図6においてはNiイオン)との距離、及び中心Meイオン71とMeイオン725(図6においてはNiイオン)との距離に基づいて、[√3×√3]と表記される。また、単位格子73において中心Meイオン71を介してMeイオン723とMeイオン725とがなす角度βは120°であるが、単位格子74よりも角度α=30°だけずれた構造を有している。したがって、このような構造はwood表記で[√3×√3]R30°と表すことができ、√3は、単位格子74に対する大きさを表し、R30°は、単位格子73が単位格子74となす角度αが30°であることを表している。
【0025】
上記一般式(1)で表される複合酸化物の結晶構造(超格子構造)は、例えばX線回折測定(XRD)、電子線回折測定(TEM)、中性子回折測定(ND)等を用いた結晶構造解析によって判別することができる。
【0026】
また、上記導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類等の炭素物質粉末状体の1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。
【0027】
上記結着剤は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴムの水分散体等を用いることもできる。
これら活物質、導電材、結着剤を分散させる溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0028】
次に、負極は、負極活物質に結着剤を混合し、分散材として適当な溶媒を加えてスラリー状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、その後にプレスにて形成することができる。また、正極と同様に、負極活物質に混合する結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等を、溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0029】
本発明において、上記負極活物質は、炭素系材料を主成分とする。
上記炭素系材料としては、例えば天然或いは人造の黒鉛,メソカーボンマイクロビーズ(MCMB),メソフェーズピッチ系炭素繊維及びその混合材,気相法炭素化繊維,フェノール樹脂等の有機化合物焼成体,コークス等の粉状体等が挙げられる。また、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)等を用いることもできる。
【0030】
次に、上記非水電解液は、上記一般式(2)表される上記アニオン化合物を含有する。
上記一般式(2)において、アニオンの価数bは1〜3である。bが3より大きい場合には、上記アニオン化合物の塩の結晶格子エネルギーが大きくなるため、上記アニオン化合物の塩を上記非水電解液に溶解して上記アニオン化合物を形成することが困難になる。そのため、b=1が最も好ましい。
また、同様の理由により、上記アニオン化合物の塩を構成するカチオンの価数も1〜3がよく、最も好ましくはカチオンの価数は1がよい。このようなカチオンとしては、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、プロトン等がある。
【0031】
また、上記一般式(2)で表されるアニオン化合物は、イオン性金属錯体構造をとっており、その中心となるMは、遷移金属、周期律表のIII族、IV族、又はV族元素から選ばれる。
【0032】
上記非水電解液においては、上記一般式(2)で表される上記アニオン化合物とカチオンとからなる電解質化合物が電離しており、上記一般式(2)におけるMは、Al、B、V、Ti、Si、Zr、Ge、Sn、Cu、Y、Zn、Ga、Nb、Ta、Bi、P、As、Sc、Hf、またはSbのいずれかであり、上記カチオンはLi+又はNa+の少なくとも一方であることが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記電解質化合物を、上記非水電解液に溶解させることにより、上記アニオン化合物を含有する上記非水電解液を容易に作製することができる。また、この場合には、上記アニオン化合物又は上記電解質化合物の合成を容易に行うことができる。
【0033】
より好ましくは、上記一般式(2)のMは、Al、B又は、Pがよい。この場合には、上記アニオン化合物又は、上記電解質化合物の合成が容易になることに加えて、毒性を低くすることができ、また、製造コストを低減することができる。
【0034】
また、上記非水電解液には、上記電解質として、上記一般式(2)で表される上記アニオン化合物とカチオンとからなる電解質化合物以外にも、他の電解質が添加されており、上記電解質化合物の添加量は、全電解質量中の2重量%〜80重量%であることが好ましい(請求項5)。
上記電解質化合物の添加量が2重量%未満の場合には、充放電を繰り返し行うことによって、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇するおそれがある。この理由としては、上記アニオン化合物によって上記正極又は/及び上記負極の表面や、上記正極活物質又は/及び上記負極活物質の表面に被膜等の被覆物が充分に形成されないからであると考えられる。また、上記電解質化合物の添加量が80重量%を超える場合には、リチウムイオン二次電池の初期放電容量が低下するおそれがある。この理由としては、上記被覆物の厚みが必要以上に厚くなるためであると考えられる。
【0035】
上記非水電解液には、上記電解質化合物以外の他の電解質として、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、又はLiSbF6から選ばれる1種以上が添加されていることが好ましい(請求項6)。
この場合には、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、又はLiSbF6が比較的イオン伝導度が高く、電気化学的に安定であるため、高い充放電容量を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0036】
次に、上記アニオン化合物(イオン性金属錯体)の配位子の部分について説明する。
以下、本明細書においては上記一般式(2)において、Mに結合している有機又は無機の部分を配位子とよぶ。
【0037】
一般式(2)中のR1は、C1〜C10のアルキレン、C1〜C10のハロゲン化アルキレン、C6〜C20のアリーレン、又はC6〜C20のハロゲン化アリーレンから選ばれるものよりなる。これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよい。具体的には、アルキレン及びアリーレン上の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基、また、アルキレン及びアリーレン上の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造を挙げることができる。
さらには、R1が複数存在する場合(q=1、m=2〜4の場合)には、それぞれが結合してもよく、例えばエチレンジアミン四酢酸のような配位子を挙げることもできる。
【0038】
2は、ハロゲン、C1〜C10のアルキル、C1〜C10のハロゲン化アルキル、C6〜C20のアリール、C6〜C20のハロゲン化アリール、又はX33から選ばれるものよりなる。これらもR1と同様に、アルキル又はアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよく、またR2が複数個存在する場合(n=2〜8の場合)R2はそれぞれが結合して環を形成してもよい。
好ましくは、R2としては、電子吸引性の基がよく、特にフッ素がよい。この場合には、上記アニオン化合物の塩の溶解度や解離度が向上し、これに伴ってイオン伝導性が向上するという効果を得ることができる。さらにこの場合には、耐酸化性が向上し、これにより副反応の発生を防止することができる。
【0039】
1、X2、X3はそれぞれ独立で、O、S、又はNR4であり、これらのヘテロ原子を介して配位子がMに結合する。ここで、O、S、N以外で結合することが不可能でないが、合成上非常に煩雑なものとなる。上記一般式(2)で表される化合物の特徴として、同一の配位子内におけるX1とX2によるMとの結合があり、これらの配位子はMとキレート構造を形成している。この配位子中の定数qは、0又は1である。q=0の場合には、キレートリングが五員環となり、上記アニオン化合物の錯体構造が安定化する。そのため、この場合には、上記被覆物の形成以外の副反応を起こすことを防ぐことができる。
【0040】
3、R4は、それぞれが独立で、水素、C1〜C10のアルキル、C1〜C10のハロゲン化アルキル、C6〜C20のアリール、C6〜C20のハロゲン化アリールであり、これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよく、またR3、R4が複数個存在する場合には、それぞれが結合して環を形成してもよい。
【0041】
また、上述した配位子の数に関係する定数m及びnは、中心のMの種類によって決まってくるものであるが、mは1〜4、nは0〜8である。
また、上述のR1、R2、R3、R4において、C1〜C10は炭素数が1〜10であることを示し、C6〜C20は炭素数が6〜20であることを示す。
【0042】
上記一般式(2)で表される上記アニオン化合物としては、下記の式(3)〜(6)で表される1種以上を用いることが好ましい(請求項7)。
この場合には、上記アニオン化合物の塩の溶解度や、解離度が向上し、上記非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。さらにこの場合には、耐酸化性を向上させることができる。
【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
【化10】

【0047】
上記アニオン化合物としては、上記式(5)で表される化合物を用いることが好ましい(請求項8)。
この場合には、微量の添加量でも、上記アニオン化合物が上述の優れた内部抵抗の上昇抑制効果や充放電サイクル特性の向上効果を発揮することができる。即ち、この場合には、上記アニオン化合物の添加率に対して、より高い特性向上効果を得ることができる。
【0048】
上記アニオン化合物の合成方法としては、例えば次の式(3)で表される化合物の場合には、非水溶媒中でLiBF4と2倍モルのリチウムアルコキシドを反応させた後、シュウ酸を添加して、ホウ素に結合しているアルコキシドをシュウ酸で置換する方法等がある。この場合には、下記の式(3)で表される化合物のリチウム塩を得ることができる。
【0049】
【化11】

【0050】
上記アニオン化合物及び上記電解質を溶解させる上記有機溶媒としては、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等から選ばれる1種又は2種以上からなる混合溶媒を用いることができる。
【0051】
ここで、上記環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。上記鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。上記環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。上記環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等がある。上記鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。上記有機溶媒としては、これらのもののうちいずれか1種を単独で用いることもできるし、2種以上を混合させて用いることもできる。
【0052】
また、上記非水電解液中に含まれる上記アニオン化合物は、上記リチウムイオン二次電池を一回以上充電させることにより、上記アニオン化合物の全てもしくは一部が分解して、上記正極又は/及び上記負極の表面や、上記正極活物質又は/及び上記負極活物質の表面に被覆して被膜等の被覆物を形成することができる。上記被覆物は、例えば、X線光電子分光分析(XPS)やIR分析等により検出することができる。
【0053】
上記リチウムイオン二次電池は、上記正極及び負極と、これらの正極と負極との間に狭装されるセパレータと、正極と負極との間でリチウムを移動させる上記非水電解液等を主要構成要素として構成することができる。
【0054】
上記セパレーターとしては、正極と負極とを分離し非水電解液を保持するものであり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜等を用いることができる。
また、上記リチウムイオン二次電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、及び角型等がある。正極、負極、及び非水電解液を収容する上記電池ケースとしては、これらの形状に対応したものを用いることができる。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、図1〜図4を用いて説明する。
図1に示すごとく、本例のリチウムイオン二次電池1は、正極2と、負極3と、有機溶媒に電解質を溶解してなる非水電解液とを有する。正極2は、一般式(1)Li1+x(Ni1/3±δ1Co1/3±δ2Mn1/3±δ31−x(但し、−0.1≦x≦0.2、0≦δ1≦0.1、0≦δ2≦0.1、0≦δ3≦0.1)で表され、図2に示すごとく、LiイオンからなるLi層251と、酸化物イオンからなるO層252と、Ni、Co、及びMnからなる遷移金属層253とが積層した結晶構造を有する複合酸化物25を正極活物質として含有する。負極3は、炭素材料を負極活物質として含有する。また、非水電解液は、下記の式(5)で表されるアニオン化合物を含有している。
【0056】
【化12】

【0057】
以下、本例のリチウムイオン二次電池1につき、図1を用いて詳細に説明する。
図1に示すごとく、本例のリチウムイオン二次電池1は、正極2、負極3、セパレータ4、ガスケット59、及び電池ケース6等よりなっている。電池ケース6は、18650型の円筒状の電池ケースであり、キャップ63及び外装缶65よりなる。電池ケース6内には、シート状の正極2及び負極3が、該正極2及び負極3の間に挟んだセパレータ4と共に捲回した状態で配置されている。
また、電池ケース6のキャップ63の内側には、ガスケット59が配置されており、電池ケース6の内部には、非水電解液が注入されている。
【0058】
また、正極2は、正極活物質としてLi(Ni0.43Co0.33Mn0.24)O2で表される複合酸化物を含有する。この複合酸化物の結晶構造の概略図を図2に示す。
図2に示すごとく、複合酸化物25は、LiイオンからなるLi層251と、酸化物イオンからなるO層252と、Niイオン、Coイオン、及びMnイオンからなる遷移金属層253とが積層した結晶構造を有する。遷移金属層253においては、図3に示すごとく、Niイオン、Coイオン、及びMnイオンが不規則に配列されている。
【0059】
また、負極3は、負極活物質として、MCMB(大阪ガス製、黒鉛化メソカーボンマイクロビーズ)を含有している。
正極2及び負極3には、それぞれ正極集電リード23および負極集電リード33が熔接により設けられている。正極集電リード23は、キャップ63側に配置された正極集電タブ235に熔接により接続されている。また、負極集電リード33は、外装缶65の底に配置された負極集電タブ335に熔接により接続されている。
【0060】
また、非水電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比で30:70で混合した有機溶媒に、上記式(5)で表されるアニオン化合物のリチウム塩(LiPF2(C242、以下適宜LPFOという)と、LiPF6とを電解質として添加してなっており、電池ケース6に注入されている。
【0061】
次に、本例のリチウムイオン二次電池1の製造方法につき、図1〜図4を用いて説明する。
まず、次のようにして正極活物質としてのLi(Ni0.43Co0.33Mn0.24)O2を合成する。
即ち、まず、水酸化リチウム(LiOH・H2O)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、及び水酸化マンガン(Mn(OH)2)を準備した。次いで、水酸化リチウムと、水酸化ニッケルと、水酸化コバルトと、水酸化マンガンとを、Li:Ni:Co:Mnが、モル比で、1.01:0.43:0.33:0.24となるような混合比で混合して混合原料を得た。
次いで、この混合原料を酸素雰囲気中で温度1000℃にて焼成し、Li(Ni0.43Co0.33Mn0.24)O2からなり、Li層251とO層252と遷移金属層253とが積層した構造の複合酸化物を得た(図2参照)。これを試料E1とする。
【0062】
次に、試料E1について、電子線回折測定(TEM)による結晶構造解析を行った。その結果得られる試料E1のED(Electron Diffraction)パターンを図4に示す。
図4は、試料E1の遷移金属層をc軸方向から観察したときにおけるEDパターンであり、図4においては、各スポットのミラー指数を表記してある。図4において、中心の白丸上に付された十字印は紙面に垂直な方向(c軸方向)において紙面の上から下に向けて電子線を照射したことを示す。また、矢印a及び矢印bはそれぞれ逆格子空間におけるa軸及びb軸を示す。
【0063】
図4より、試料E1は、空間群R3−mで表される結晶構造を有していることがわかる。この試料E1の結晶構造は、インターナショナル・テーブル・ナンバー(International Table No.)の166番に属する。図4のEDパターンに基づくと、試料E1の複合酸化物の遷移金属層におけるNiイオン、Coイオン、及びMnイオンの配列パターンを決定できる。この配列パターンを図3に示す。同図より知られるごとく、試料E1においては、遷移金属層におけるNiイオン、Coイオン、Mnイオンが不規則に配列している。
【0064】
次に、上記試料E1を正極活物質として用いて、図1に示すごとくリチウムイオン二次電池1を作製する。
まず、正極活物質としての上記試料E1と、導電材としてのカーボンブラックと、結着材としてポリフッ化ビニリデンとを混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加し、分散させてスラリー状の正極合材を得た。正極活物質と導電材と結着材の混合比は、重量比で、正極活物質:導電材:結着材=85:10:5とした。
【0065】
次いで、上記のようにして得られた正極合材を、厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の両面に塗布して乾燥させた。その後、ロールプレスで高密度化し、52mm幅×450mm長の形状に切り出し、シート状の正極2を作製した。なお、正極活物質の付着量は、片面当り7mg/cm程度とした。
【0066】
一方、負極3の作製にあたっては、まず、負極活物質として、MCMB(大阪ガス製、黒鉛化メソカーボンマイクロビーズ)を準備した。この負極活物質と結着材としてのポリフッ化ビニリデンを混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加し、分散してスラリー状負極合材を得た。負極活物質と結着材の混合比は、重量比で、負極活物質:結着材=95:5とした。
【0067】
次いで、上記のようにして得られた負極合材を、厚さ10μmの銅箔集電体の表面に塗布し、乾燥させた。その後、ロールプレスで高密度化し、54mm幅×500mm長の形状に切り出し、シート状の負極3を作製した。なお、負極活物質の付着量は、片面当り、4mg/cm2程度とした。
【0068】
また、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7の体積比で混合した有機溶媒に、LiPF6とLPFOとを重量比でLiPF6:LPFO=0.95:0.05となるように混合した混合支持塩を、濃度が1Mとなるように加えて非水電解液を作製した。
【0069】
次に、図1に示すごとく、上記のようにして得られたシート状の正極2及び負極3に、それぞれ正極集電リード23及び負極集電リード33を熔接した。これらの正極2及び負極3を、これらの間に幅56mm、厚さ25μmのポリエチレン製のセパレータ4を挟んだ状態で捲回し、ロール状の電極体を作製した。
【0070】
続いて、このロール状の電極体を、外装缶65及びキャップ63よりなる18650型の円筒状の電池ケース6に挿入した。このとき、電池ケース6のキャップ63側に配置した正極集電タブ235に、正極集電リード23を熔接により接続すると共に、外装缶65の底に配置した負極集電タブ335に負極集電リード33を熔接により接続した。
【0071】
次に、電池ケース6内に上記のようにして準備した非水電解液を含浸させた。そしてキャップ63の内側にガスケット59を配置すると共に、このキャップ63を外装缶65の開口部に配置した。続いて、キャップ63にかしめ加工を施すことにより電池ケース6を密閉し、リチウムイオン二次電池1を作製した。これを電池E1とした。
【0072】
(実施例2)
本例は、実施例1とは結晶構造の異なる正極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を作製する例である。本例のリチウムイオン二次電池は、正極活物質として、Li(Ni
0.33Co0.33Mn0.34)O2で表される複合酸化物を含有する点を除いては実施例1と同様にして作製したものである。
【0073】
本例のリチウムイオン二次電池の作製にあたっては、まず、実施例1と同様にして、水酸化リチウム(LiOH・H2O)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、及び水酸化マンガン(Mn(OH)2)を準備した。次いで、水酸化リチウムと、水酸化ニッケルと、水酸化コバルトと、水酸化マンガンとを、Li:Ni:Co:Mnが、モル比で、1.01:0.33:0.33:0.34となるような混合比で混合して混合原料を得た。
次いで、この混合原料を酸素雰囲気中で温度1000℃にて焼成し、Li(Ni0.33Co0.33Mn0.34)O2からなる複合酸化物を得た。これを試料E2とする。
【0074】
次に、試料E2について、電子線回折測定(TEM)による結晶構造解析を行った。その結果得られる試料E2のEDパターンを図5に示す。
図5は、試料E2をc軸方向から観察したときにおけるEDパターンであり、図5においては、実施例1の試料E1と同様のスポットのミラー指数を表記してある。図5において、白丸上に付された中心の十字印は紙面に垂直な方向(c軸方向)において紙面の上から下に向けて電子線を照射したことを示す。また、矢印a及び矢印bはそれぞれ逆格子空間におけるa軸及びb軸を示す。
【0075】
図5より、試料E2は、空間群P3112で表される超格子構造を有していることがわかる。この試料E2の結晶構造は、インターナショナル・テーブル・ナンバー(International Table No.)の151番に属する。また、試料E2の電子線回折においては、空間群R3−mで表される結晶構造の上記試料E1に比べてエキストラスポットが観察された。
【0076】
図5のEDパターンに基づくと、試料E2の複合酸化物の遷移金属層におけるNiイオン、Coイオン、及びMnイオンの配列パターンを決定できる。この配列パターンを図6に示す。
図6より知られるごとく、試料E2においては、遷移金属層におけるNiイオン、Coイオン、Mnイオンが規則的に配列している。同図に示すごとく、試料E2の遷移金属層においては、Niイオン、Mnイオン、及びCoイオンが単位格子73の√3倍を基準にして規則的に配列しており、また、角度α=30°である。よって試料E2の結晶構造は、wood表記で[√3×√3]R30°で表される。
【0077】
次に、上記試料E2を正極活物質として用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。これを電池E2とする。
電池E2は、正極活物質として試料E2を用いた点を除いては、実施例1の上記電池E1と同様にして作製した。
【0078】
(実施例3)
本例は、実施例1及び実施例2とは結晶構造の異なる正極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を作製する例である。本例のリチウムイオン二次電池は、正極活物質として、Li(Ni0.33Co0.33Mn0.34)O2で表される複合酸化物を含有する点を除いては実施例1と同様にして作製したものである。
【0079】
本例のリチウムイオン二次電池の作製にあたっては、まず、実施例1と同様にして、水酸化リチウム(LiOH・H2O)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、及び水酸化マンガン(Mn(OH)2)を準備した。次いで、水酸化リチウムと、水酸化ニッケルと、水酸化コバルトと、水酸化マンガンとを、Li:Ni:Co:Mnが、モル比で、1.01:0.33:0.33:0.34となるような混合比で混合して混合原料を得た。
次いで、この混合原料を酸素雰囲気中で温度850℃にて焼成し、Li(Ni0.33Co0.33Mn0.34)O2からなる複合酸化物を得た。これを試料E3とする。
【0080】
次に、実施例1と同様に、試料E3について、電子線回折測定(TEM)による結晶構造解析を行ったところ、試料E3は、空間群P2/cで表される超格子構造を有していることがわかった。この試料E3の結晶構造は、インターナショナル・テーブル・ナンバー(International Table No.)の13番に属する。
また、実施例1と同様に、試料E3の電子線回折の結果から、試料E3の複合酸化物の遷移金属層におけるNiイオン、Coイオン、及びMnイオンの配列パターンを決定した。この配列パターンを図7に示す。同図より知られるごとく、試料E3においては、遷移金属層におけるNiイオン、Coイオン、Mnイオンがそれぞれ直線的に並ぶように、規則的に配列していた。
【0081】
次に、上記試料E3を正極活物質として用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。これを電池E3とする。
電池E3は、正極活物質として試料E3を用いた点を除いては、実施例1の上記電池E1と同様にして作製した。
【0082】
(比較例)
本例においては、実施例1〜実施例3において作製した各リチウムイオン二次電池(電池E1〜電池E3)の比較用として、非水電解液中にアニオン化合物を含有していない3種類のリチウムイオン二次電池(電池C1〜電池C3)を作製した。
電池C1の作製にあたっては、まず、非水電解液エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7の体積比で混合した有機溶媒に、LiPF6を、濃度が1Mとなるように加えて非水電解液を作製した。
次いで、正極活物質として、実施例1と同様の上記試料E1を用いて、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。これを電池C1とする。
【0083】
また、電池C2は、電解液として上記電池C1と同様の非水電解液を用い、さらに正極活物質として実施例2と同様の上記試料E2を用いた点を除いては、実施例1の電池E1と同様にして作製した。
また、電池C3は、電解液として上記電池C1と同様の非水電解液を用い、さらに正極活物質として実施例3と同様の上記試料E3を用いた点を除いては、実施例1の電池E1と同様にして作製した。
【0084】
(実験例)
次に、実施例1〜3及び比較例において作製した6種類の各電池(電池E1〜電池E3及び電池C1〜電池C3)について、60℃の高温環境において、下記の充放電サイクル試験を行うとともに、容量維持率、初期IV抵抗(初期内部抵抗)、及び抵抗増加率(内部抵抗上昇率)を調べた。
【0085】
「初期IV抵抗」
各電池を、電池容量50%(SOC=50%)の状態に調整し、0.12A、0.4A、1.2A、2.4A、4.8Aの電流を流して10秒後の電池電圧を測定した。各電池に流した電流と電圧とを直線近似し、その傾きから初期抵抗を求めた。各電池の初期抵抗値は、電池E2の値を1としたときの相対値として算出した。即ち、各電池の初期抵抗の結果を、電池E2の値を基準に規格化した値で表した。その結果を表1に示す。
【0086】
「充放電サイクル試験」
電池の実使用温度範囲の上限と目される60℃の温度条件下で、各電池を、電流密度2.0mA/cm2の定電流で充電上限電圧4.1Vまで充電し、次いで電流密度2.0mA/cm2の定電流で放電下限電圧3Vまで放電を行う充放電を1サイクルとし、このサイクルを合計500サイクル行った。
【0087】
「容量維持率」
充放電サイクル試験前後において、充放電サイクル試験前の放電容量を放電容量A、充放電サイクル試験後の放電容量を放電容量Bとしたとき、容量維持率を下記の式(a)により算出した。その結果を表1に示す。なお、放電容量A及び放電容量Bは、充放電サイクル試験前後において、温度20℃、電流密度0.2mA/cm2という条件で測定した。また、放電容量は、放電電流値(mA)を測定し、この放電電流値に放電に要した時間(hr)を乗じて得られた値を、電池内の正極活物質の重量(g)で除することにより算出した。
容量維持率(%)=放電容量B/放電容量A×100 ・・・・(a)
【0088】
「抵抗増加率」
充放電サイクル試験前後において、各電池を電池容量の50%(SOC=50%)に調整し、0.12A、0.4A、1.2A、2.4A、4.8Aの電流を流して10秒後の電池電圧を測定した。流した電流と電圧とを直線近似し、その傾きからIV抵抗を求めた。
抵抗増加率は、上記充放電サイクル試験後のIV抵抗を抵抗Y、充放電サイクル試験前のIV抵抗を抵抗Xとすると、下記の式(b)にて算出することができる。その結果を表1に示す。
IV抵抗増加率(%)=(抵抗Y−抵抗X)×100/抵抗X ・・・・(b)
【0089】
【表1】

【0090】
表1より知られるごとく、電池E1〜電池E3は、電池C1〜電池C3に比べて、容量維持率が向上しており、さらに抵抗増加率が低下していることがわかる。そのため、電池E1〜電池E3は、充放電を繰り返しおこなっても、高い充放電容量及び出力を発揮することができる。容量維持率の向上及び抵抗増加率の低下は、同じ正極活物質を有する電池同士、即ち電池E1と電池C1、電池E2と電池C2、及び電池E3と電池C3とを比較すると、より顕著である。
【0091】
また、電池E1〜電池E3の中でも、超格子構造を有する正極活物質(試料E1及び試料E2)を用いたリチウムイオン二次電池(電池E1及び電池E3)は、容量維持率が非常に高く、さらに、抵抗増加率がより一層抑制されていた。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例1にかかる、リチウムイオン二次電池の構成を示す説明図。
【図2】実施例1にかかる、正極活物質(試料E1)の結晶構造を示す説明図。
【図3】実施例1にかかる、正極活物質(試料E1)の遷移金属層におけるNiイオン、Coイオン、Mnイオンの配列を示す説明図。
【図4】実施例1にかかる、正極活物質(試料E1)のEDパターンを示す説明図。
【図5】実施例2にかかる、正極活物質(試料E2)のEDパターンを示す説明図。
【図6】実施例2にかかる、正極活物質(試料E2)の遷移金属層におけるNiイオン、Coイオン、Mnイオンの配列を示す説明図。
【図7】実施例3にかかる、正極活物質(試料E3)の遷移金属層におけるNiイオン、Coイオン、Mnイオンの配列を示す説明図。
【図8】LiMeO2で表される複合酸化物の結晶構造を示す説明図。
【図9】LiMeO2で表される複合酸化物のMe層におけるMeイオンの配列を示す説明図。
【符号の説明】
【0093】
1 リチウムイオン二次電池
2 正極
3 負極
4 セパレータ
6 電池ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、有機溶媒に電解質を溶解してなる非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池において、
上記正極活物質は、一般式(1)Li1+x(Ni1/3±δ1Co1/3±δ2Mn1/3±δ31−x(但し、−0.1≦x≦0.2、0≦δ1≦0.1、0≦δ2≦0.1、0≦δ3≦0.1)で表され、LiイオンからなるLi層と、酸化物イオンからなるO層と、Ni、Co、及びMnからなる遷移金属層とが積層した結晶構造を有する複合酸化物を主成分としてなり、
上記負極活物質は、炭素材料を主成分としてなり、
上記非水電解液は、少なくとも下記の一般式(2)で表されるアニオン化合物を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【化1】

{但し、Mは、遷移金属、周期律表のIII族、IV族、又はV族元素、bは1〜3、mは1〜4、nは0〜8、qは0又は1をそれぞれ表し、R1は、C1〜C10のアルキレン、C1〜C10のハロゲン化アルキレン、C6〜C20のアリーレン、又はC6〜C20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよく、またm個存在するR1はそれぞれが結合してもよい。)、R2は、ハロゲン、C1〜C10のアルキル、C1〜C10のハロゲン化アルキル、C6〜C20のアリール、C6〜C20のハロゲン化アリール、又はX33(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよく、またn個存在するR2はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)、X1、X2、X3は、O、S、又はNR4、R3、R4は、それぞれが独立で、水素、C1〜C10のアルキル、C1〜C10のハロゲン化アルキル、C6〜C20のアリール、C6〜C20のハロゲン化アリールをそれぞれ示す(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよく、また複数個存在するR3、R4はそれぞれが結合して環を形成してもよい。)。}
【請求項2】
請求項1において、上記複合酸化物は、超格子構造を有していることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項2において、上記一般式(1)におけるxは、x=0であり、上記複合酸化物の上記遷移金属層においてNiイオン、Coイオン、及びMnイオンは、wood表記[√3×√3]R30°で表される超格子構造を形成しており、該超格子構造の空間群はP3112又はP3212であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記非水電解液においては、上記一般式(2)で表される上記アニオン化合物とカチオンとからなる電解質化合物が電離しており、上記一般式(2)におけるMは、Al、B、V、Ti、Si、Zr、Ge、Sn、Cu、Y、Zn、Ga、Nb、Ta、Bi、P、As、Sc、Hf、またはSbのいずれかであり、上記カチオンはLi+又はNa+の少なくとも一方であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記非水電解液には、上記電解質として、上記一般式(2)で表される上記アニオン化合物とカチオンとからなる電解質化合物以外にも、他の電解質が添加されており、上記電解質化合物の添加量は、全電解質量中の2重量%〜80重量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項5において、上記非水電解液には、上記電解質化合物以外の他の電解質として、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、又はLiSbF6から選ばれる1種以上が添加されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記一般式(2)で表される上記アニオン化合物としては、下記の式(3)〜(6)で表される1種以上を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項8】
請求項7において、上記アニオン化合物としては、上記式(5)で表される化合物を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−48464(P2007−48464A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228394(P2005−228394)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】