説明

リチウムイオン二次電池

【課題】耐酸化性に優れたセパレータを含み、従来より高い電圧で充電を行っても優れた信頼性と安全性を両立することのできるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムを可逆的に吸蔵放出が可能な正極11および負極12と、正極11および負極12の間に配置されたセパレータ13と、正極11、負極12およびセパレータ13を収納した電池ケースと、電池ケース内に充填された非水電解液とを備え、セパレータ13は、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレンを主成分とし、超高分子量ポリエチレン、ポリノルボルネンおよびグラフトポリエチレンを化学架橋したポリオレフィン樹脂組成物を含み、ポリオレフィン樹脂組成物のゲル分率は42%以上57%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池に関し、特にリチウムイオン二次電池の信頼性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度で充電が可能であり、放電時の電圧も高い。このため、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源として広く利用されている。近年、これら機器はいっそう小型化、高性能化が求められており、これに伴って、さらに高性能なリチウムイオン二次電池を開発することが求められている。
【0003】
現在実用化されているリチウムイオン二次電池には、負極活物質材料として主に黒鉛材料が用いられている。しかし、これらのリチウムイオン二次電池は、黒鉛材料の理論容量(約370mAh/g)に近い容量をすでに備えているため、さらに大幅にエネルギー密度を高めることは困難である。このため、リチウムイオン二次電池のより一層の高容量化を可能にする負極活物質材料として、種々の新規材料を用いることが研究されている。たとえば、負極活物質材料として、シリコンやスズをはじめとするリチウムを吸蔵放出可能な金属やこれら金属を含む合金等が提案されており、大幅な高容量化が期待されている。
【0004】
正極活物質材料としては、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等の層状構造やスピネル型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が、現在広く用いられている。これらの材料よりも高エネルギー密度を達成し得る正極活物質材料の研究もなされている。しかし、充放電に伴う反応の可逆性や安定性、電子伝導性なども含めた総合的な特性において、現在使用されているこれらの材料よりも優れた材料は見つかっていない。
【0005】
一方、現在用いられているコバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムをはじめとする層状リチウム遷移金属酸化物は、その結晶を構成するリチウムの利用率を向上させることにより、さらに高容量なリチウムイオン二次電池を実現できる可能性がある。たとえば、より高電圧までリチウムイオン二次電池を充電し、充電時に正極活物質からリチウムをより多く放出させることによって、リチウムの利用率の向上および高容量を実現する方法が考えられている。この場合、正極電位をより高い電位まで上昇させて充電するため、結果として電池の放電時の平均電圧が高くなり、容量および電圧の両面から電池のエネルギー密度を向上させる効果が期待できる。
【0006】
しかし、充電電圧が高くなると、リチウムイオン二次電池を構成している種々の材料が高電位に曝されるため、分解あるいは変質する。このため充電電圧を所定の値以上にすることは難しい。たとえば、正極および負極にコバルト酸リチウムおよび炭素材料がそれぞれ用いられる一般的なリチウムイオン二次電池では、充電終了時の電池電圧が4.2V以下に設定される。この理由の1つには、充電終了時の電池電圧が4.2Vを超えると、ポリエチレン製のセパレータが酸化し、セパレータが劣化するとともに酸化によるガスが生成するということが挙げられる(特許文献1)。特に、リチウムイオン二次電池が角形である場合、生成したガスによってリチウムイオン二次電池が膨らんでしまうという課題も生じる。
【0007】
つまり、充電終了時の電池電圧を4.2Vに設定した場合、正極に用いられるコバルト酸リチウムなどの正極活物質は、その理論容量に対して6割程度が活用されているに過ぎない。このため、従来の非水電解質二次電池では、正極活物質としてまだエネルギー密度を高めることが可能であるのに、セパレータに用いる材料が原因となってリチウムイオン二次電池のエネルギー密度を高めることができなかった。
【0008】
この問題を解決するため、特許文献1から3は、正極と対向するセパレータの面にポリエチレンより耐酸化性の強いポリプロピレン製の微多孔膜層を配することを提案している。しかしながら、ポリプロピレンの融点はポリエチレンに比べて高い。このため、ポリプロピレンを単体でセパレータに用いた場合、リチウムイオン二次電池が異常発熱した場合にセパレータが溶融することによってセパレータの孔が閉塞し、電池機能を停止するというシャットダウン機能の発現温度が上昇してしまう。つまり、より高温にならないと、電池機能が停止しなくなるという課題が新たに生じる。
【0009】
この課題を解決するため、ポリエチレンとポリプロピレンとの積層によって、セパレータを構成し、ポリプロピレンが正極と接するようにセパレータをリチウムイオン二次電池に配置することが考えられる。この場合、ポリエチレンによって従来と同様の温度で、シャットダウン機能が発現する。しかし、積層化によってセパレータが厚くなってしまい、リチウムイオン二次電池中においてエネルギーの蓄積に寄与しない体積が増えることにより、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度が低下してしまう。
【0010】
したがって、ポリエチレン材料を改善し、耐酸化性を高めることが求められている。特許文献4〜7はポリエチレン材料の改質に関する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−273880号公報
【特許文献2】特開2006−164873号公報
【特許文献3】特開2006−286531号公報
【特許文献4】国際公開第第96/27633号パンフレット
【特許文献5】特開2004−263012号公報
【特許文献6】国際公開第01/016219号パンフレット
【特許文献7】特開2001−59036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4から7はいずれもポリエチレンに架橋構造を導入することを開示している。しかし、特許文献4から7は、主としてポリエチレン材料の機械的強度および透過性の向上を目的としており、特に耐酸化性を向上に着目するものではない。また、特許文献4は、電子線を用いて架橋構造を形成しており、この技術によれば、電子線により発生し、架橋反応に関与しなかった残留ラジカルが、二次電池製造時に電解液と反応するため、電解液の劣化を早める可能性がある。
【0013】
本発明は、このような従来技術の課題を解決し、耐酸化性に優れたセパレータを含み、従来より高い電圧で充電を行っても優れた信頼性と安全性を両立することのできるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムを可逆的に吸蔵放出が可能な正極および負極と、前記正極および負極の間に配置されたセパレータと、前記正極、負極およびセパレータを収納した電池ケースと、前記電池ケース内に充填された非水電解液とを備え、前記セパレータは、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレンを主成分とし、前記超高分子量ポリエチレン、ポリノルボルネンおよびグラフトポリエチレンを化学架橋したポリオレフィン樹脂組成物を含み、前記ポリオレフィン樹脂組成物のゲル分率は42%以上57%以下である。
【0015】
ある好ましい実施形態において、前記グラフトポリエチレンは無水マレイン酸グラフトポリエチレンである。
【0016】
ある好ましい実施形態において、最大充電電圧が4.3V以上4.8V以下である充電器で充電される。
【0017】
ある好ましい実施形態において、前記ポリオレフィン樹脂組成物はリチウムを基準として4.3V以上4.8V以下の電位でも実質的に分解しない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、セパレータの主成分の超高分子量ポリエチレンが化学架橋された三次元構造を有するため、ポリエチレンが酸化する際に生じる炭素−炭素間の回転や結合角度の変化が規制され、ポリエチレンの酸化が抑制される。このため、4.2Vを超える電圧で電池の充電を行った場合でも、セパレータの酸化が防止され、ガス発生が抑制される。また、主成分がポリエチレンであるため、セパレータの融点は従来のポリエチレン製セパレータと同等であり、高い安全性を発現することができる。したがって、本発明によれば、優れた信頼性と安全性を両立する高電圧充電が可能なリチウムイオン二次電池が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による非水電解質二次電池の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の非水電解質二次電池の電極群の断面図を示している。
【図3】実施例2で作製したモデルセルの電極群の断面図を示している。
【図4】実施例2で作製したモデルセルの正極の寸法を示している。
【図5】実施例2で作製したモデルセルの負極の寸法を示している。
【図6】(a)および(b)は、それぞれ実施例で作製したモデルセルの斜視図および断面図を示している。
【図7】実施例および比較例によるセパレータのゲル分率と副反応電気量との関係を示すグラフである。
【図8】実施例および比較例による充電電圧と電池の膨れ量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明者は、従来のセパレータを構成するポリエチレンの酸化について詳細に検討した。ポリエチレン((CH2n)が酸化される場合、隣接する2つ炭素に結合する水素が1つずつ引き抜かれてプロトンが生成するとともに、プロトンが引き抜かれた炭素鎖は二重結合を形成する。この反応はポリエチレンの炭素鎖においてひとつ置きに生じ、共役二重結合を形成する。その結果、ポリエチレン中に形成された共役二重結合の炭素鎖上を電子が比較的自由に移動し得る状態となる。このように電子の移動が比較的自由である共役二重結合を含むように炭素鎖が変換することによって、電子の移動、つまり酸化反応がセパレータの内部にまで進行すると考えられる。
【0021】
上述したようにポリエチレンの酸化によって、炭素−炭素間の結合形態は、自由回転が可能な単結合から回転が不可能な平面形態をとる二重結合へと変化する必要がある。本願発明者は、分子鎖が三次元架橋構造を有するようにポリエチレンの構造を設計することによって、炭素−炭素の結合における自由回転運動を束縛し、物理的に二重結合が形成できないようにすれば、上述したポリエチレンの酸化は進行しないという知見を得た。
【0022】
さらに、本願発明者が鋭意検討した結果、超高分子量ポリエチレンを主成分とし、化学架橋による架橋構造を備えたポリオレフィン樹脂組成物において、ポリオレフィン樹脂組成物のゲル分率が42%以上であれば、ポリエチレン分子鎖の自由回転運動を有効に束縛することが可能となり、二重結合を生成しないという知見を得て、本発明に至った。
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明によるリチウムイオン二次電池の実施形態を詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明による非水電解質二次電池の一実施形態を示す斜視図であり、内部の構造が分かるように一部が切断されている。図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、電極群1と電極群1を収納する電池ケース4とを備える。電極群1は以下において詳細に説明するように、負極および正極と、これらに挟まれたセパレータとを含む。本実施形態では、負極、セパレータおよび正極はそれぞれシート状であり、積層され状態で渦巻き状に捲回されている。正極および負極には、それぞれアルミニウム製正極リード2およびニッケル製負極リード3が溶接され、電極群1の上部に設けられたポリプロピレン樹脂製の絶縁枠体(図示しない)に装着されている、正極リード2の他端は、アルミニウム製の封口板8の内面にスポット溶接されている。また、負極リード3の他端は、封口板8の中心部に、絶縁材5を介して取り付けられたニッケル製負極端子6の下部にスポット溶接されている。
【0025】
電池ケース4の開口端部と封口板8の周縁部とはレーザー溶接されている。電池ケース4には、所定量の非水電解液が注入口から注入され、注入口がアルミニウム製の栓7で封じられている。
【0026】
図2は電極群1の一部の断面構造を拡大して示している。図2に示すように、電極群1は、正極11と、負極12と、正極11および負極12の間で挟持されたセパレータ13とを含む。なお、上述したように、本実施形態では、電極群1は渦巻き状に捲回されている。捲回された状態では、正極11と負極12とが隣接するように積層される。このため、図2では、正極11の上側および負極12の下側にそれぞれ別のセパレータが設けられるが、この別のセパレータは示されていない。
【0027】
正極11は、正極集電体11aと正極集電体11aの両面に担持された正極合剤11bとを含んでいる。正極集電体11aには、アルミニウム、チタンおよびこれらの合金(主要な添加元素はケイ素、炭素、マンガン、マグネシウム、銅など)など、リチウム二次電池用正極の集電体として公知の材料を用いることができる。正極合剤11bは正極活物質を含み、必要に応じて人造黒鉛、天然黒鉛、繊維状カーボンやカーボンブラックなどの導電材料、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤と共にペースト化され、正極集電体11aに塗布、乾燥されることによって、正極集電体11aの両面に担持される。
【0028】
正極活物質には、可逆的にリチウムを吸蔵および放出する公知の正極活物質が用いられる。好ましくは、正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物である。たとえば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiMn24、Li2MnO3、LiNi0.5Mn1.54などを挙げることができる。
【0029】
負極12は、負極集電体12aと、負極集電体12aの両面に担持された負極合剤12bを含んでいる。負極集電体12aには、銅、ニッケル、ステンレスなど、リチウム二次電池用負極の集電体として公知の材料を用いることができる。負極合剤12bは、負極活物質を含み、必要に応じて、人造黒鉛、天然黒鉛、繊維状カーボンやカーボンブラックなどの導電材料およびポリフッ化ビニリデンやスチレン−ブタジエン−ゴムなどの結着剤と共にペースト化され、負極集電体12aに塗布、乾燥されることによって、負極集電体12aの両面に担持される。ホイル状の負極集電体12a上に、負極活物質を含む負極合剤12bを蒸着やスパッタリングにより形成してもよい。
【0030】
負極活物質には、リチウムを可逆的に吸蔵および放出する公知の負極活物質が用いられる。好ましくは、Liを吸蔵放出可能な黒鉛や非晶質炭素、Liと合金化することが可能なSn、Si、SiOなどの化合物が負極活物質に用いられる。
【0031】
図2に示すように、セパレータ13は、正極合剤11bおよび負極合剤12bと対向するように正極11および負極12に挟持されている。セパレータ13は、超高分子量ポリエチレンを主成分とし、化学架橋による架橋構造を備えたポリオレフィン樹脂組成物を含む。より具体的には、ポリオレフィン樹脂組成物は、ポリエチレン分子の主鎖の炭素が他の分子の炭素と直接結合することにより架橋しているか、または、官能基を介して架橋している架橋構造を備えている。これにより、最大充電電圧が4.3V以上4.8V以下である充電器で本実施形態のリチウムイオン二次電池を充電可能であり、この範囲の電位において、セパレータの酸化が実質的に抑制される。したがって、リチウムの利用効率の向上および放電時の平均電圧上昇により、高エネルギー密度のリチウム二次電池が実現する。
【0032】
上述したように、このような特徴を有するポリオレフィン樹脂組成物では、架橋構造によって、ポリエチレンが酸化する際に生じる炭素−炭素の結合における自由回転運動および結合角が束縛され、物理的に二重結合が形成できないようにポリエチレンの分子構造が三次元的に規制されている。このため、ポリエチレンの酸化が抑制される。
【0033】
ポリオレフィン樹脂組成物の架橋構造は、放射線架橋ではなく、化学架橋によって形成されていることが好ましい。放射線架橋による残留ラジカルは二次電池製造時に電解液と反応し電解液の劣化を早める可能性があるからである。
【0034】
ポリオレフィン樹脂組成物のゲル分率は42%以上であることが好ましい。以下に示すように実験結果によれば、ゲル分率は42%未満であれば、ポリエチレン分子の構造規制が十分でないため、ポリエチレンの酸化抑制効果が十分には得られない。ポリエチレンの酸化抑制効果という観点では、ゲル分率の上限に特に制限はない。ゲル分率が高くなり、架橋が多くなるほど、ポリエチレン分子の構造規制が規制され、ポリエチレンの酸化が抑制される。ただし、ゲル分率があまり高くなりすぎると、ポリオレフィン樹脂組成物が硬くなり延伸性なども低下するため、薄膜状のセパレータとしてポリオレフィン樹脂組成物を成形することが困難になる。また、空孔率が小さくなり、リチウムイオン二次電池用のセパレータとして適さなくなる。このため、ポリオレフィン樹脂組成物のゲル分率は42%以上57%以下であることがより好ましい。
【0035】
ゲル分率は、以下のようにして求める。まず、ポリオレフィン樹脂組成物をm−キシレン(沸点:139℃)に浸漬し、m−キシレンを加熱して還流条件下で5時間沸騰させる。その後、m−キシレンに溶解せずに残存した固形物を取り出し、乾燥させた重量を計測する。ポリオレフィン樹脂組成物の初期重量をP0とし、残存固形物乾燥後の重量をP1としたとき、ゲル分率R(%)は以下の式により求められる。
R(%)=100×P1/P0
【0036】
沸騰したm−キシレンへの溶解性は架橋によって分子量が増大することにより、低下することから、このようにして定められる値は、架橋の度合いを示す指標として用いることができる。
【0037】
ポリオレフィン樹脂組成物は、たとえば、超高分子量ポリエチレン、ポリノルボルネンおよびグラフトポリエチレンを化学架橋することによって得ることができる。より具体的には、超高分子量ポリエチレンは重量平均分子量が50万以上であり、組成物の機械的強度を高くする観点から、重量平均分子量が100万以上であることが好ましい。
【0038】
ポリノルボルネンは、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン(ノルボルネン)を単独で開環重合させたものであり、分子鎖に炭素−炭素二重結合(C=C)を有している。重合後の分子量は200万以上であることが好ましい。
【0039】
また、グラフトポリエチレンは極性基をグラフとした変性ポリエチレンであり、極性基として無水マレイン酸残基をグラフとした無水マレイン酸グラフトポリエチレンが特に好ましい。
【0040】
これらの高分子(超高分子量ポリエチレン、ポリノルボルネンおよびグラフトポリエチレン)を流動パラフィンなどの脂環式炭化水素と共に混合し、100℃〜200℃の温度条件で混練することによって、高分子を均一に分散させる。混練物を冷却し、シート状に成形した後、脱溶媒処理によって流動パラフィンを除去する。その後、熱処理を行うことによって化学架橋したポリオレフィン組成物が得られる。
【0041】
高分子と流動パラフィンとの混練物における高分子の配合量は5〜30重量%であることが好ましく、10〜25重量%であることがより好ましい。配合量を5重量%以上にすることによって、十分な強度を有するセパレータを得ることができる。また、配合量を30重量%以下にすることによって、ポリエチレンを十分に流動パラフィンに溶解させ、ポリマー鎖の十分な絡み合いを得ることができる。混練物には、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、造核剤、顔料、帯電防止剤などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0042】
混練および冷却は公知の方法で行うことができる。たとえば、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いてバッチ式で上述の高分子と流動パラフィンを混練し、次に冷却された金属板で混練物を挟み込み、シートにする。あるいは、Tダイなどを取り付けた押出機などを用いて混練物を押出し、次いで冷却されたロールに接触させることにより、シートを形成してもよい。
【0043】
脱溶媒処理に先立ち、延伸処理を行ってもよい。延伸処理の方法に特に制限はなく、通常のテンダー法、ロール法、インフレーション法、または、これらの方法を組み合わせてもよい。さらに一軸延伸および二軸延伸のいずれの方式を用いてもよい。二軸延伸を行う場合、縦横同時延伸および逐次延伸のいずれであってもよい。ただし、均一性および強度の観点からは、同時二軸延伸によって延伸処理を行うことが好ましい。延伸処理の温度は100℃〜140℃であることが好ましい。
【0044】
脱溶媒処理は混練物のシートから流動パラフィンを除去し、多孔質構造を形成させる工程であり、たとえば、シートを溶剤で洗浄することによって、流動パラフィンを除去することができる。溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素などの塩化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類など、易揮発性溶剤が挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。溶剤を用いた洗浄方法に特に制限はなく、たとえば、延伸処理を行ったシートを溶剤中に浸漬し、流動パラフィンをシートから抽出する方法などが挙げられる。
【0045】
シートの熱処理に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。1回の熱処理を行う一段式熱処理法でもよく、昇温しながら熱処理する昇温式熱処理法でもよい。熱処理温度は、シートの組成にも依存するが、110℃〜140℃であることが好ましい。熱処理時間は0.5時間〜2時間程度である。
【0046】
シートの熱処理は酸素存在下で行うことが好ましい。酸素存在下で熱処理を行うことによって、ポリオレフィン樹脂組成物を化学架橋することができる。化学架橋の反応機構は複雑であり、架橋される理由は必ずしも明確ではないが、ポリノルボルネンの炭素−炭素二重結合部位(C=C)に酸素が作用してラジカルを生成し、そのラジカル部位が他の分子の炭素原子と直接結合するか、または、官能基を介して結合し、超高分子量ポリエチレン、ポリノルボルネンおよびグラフトポリエチレンが架橋構造を形成するものと考えられる。
【0047】
炭素−炭素二重結合の量、すなわち、ポリノルボルネンの配合量および熱処理温度を調整することによって、架橋反応の密度や速度が変化し、ポリオレフィン樹脂組成物のゲル分率を調整することができる。生成したポリオレフィン組成物のゲル分率は、上述した方法によって測定することができる。 セパレータ13は、上述のポリオレフィン樹脂組成物を含み、全体として、大きなイオン透過度および所定の機械的強度を有する絶縁性の微多孔膜である。セパレータ13の孔径は、電極シートより脱離した活物質、結着剤、導電剤が透過しない範囲であることが好ましく、たとえば、0.01〜1μmであることが好ましい。セパレータ13の厚さは、5〜300μmである。また、空孔率は、電子やイオンの透過性と素材や膜の突き刺し強度に応じて決定されるが、一般的には20〜90%であることが好ましい。上述した範囲の孔を有している限り、セパレータ13は、バルク材料からなる微多孔膜シートであってもよいし、不織布であってもよい。
【0048】
また、セパレータ13は、リチウムイオン二次電池の安全性の観点から、100℃以上140℃以下で孔を閉塞し、抵抗をあげる機能(シャットダウン機能)を持つことが好ましい。100℃より低い温度で孔が閉塞すると、真夏の車中等の高温環境下での使用時に電池機能を損失する可能性があり、一方で140℃より高い温度での孔の閉塞では、電池の短絡等に伴う自己発熱を十分に抑制できない可能性がある。上述のポリオレフィン樹脂組成物はポリエチレンを主成分とするため、従来のポリエチレンセパレータと同様の温度範囲において孔が閉塞し、シャットダウン機能が発現する。
【0049】
電池ケース4内に充填される非水電解液は、溶媒と、その溶媒に溶解するリチウム塩とによって構成される。非水溶媒としては、たとえば、エチレンカーボネ−ト、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの非環状カーボネート類などを用いることができる。これらの一種または二種以上を混合して使用する。なかでも環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合系を主成分とすることが好ましい。
【0050】
これらの溶媒に溶解するリチウム塩としては、たとえばLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiN(CF3SO22などを用いることができる。これらのリチウム塩を使用する電解液等に単独または二種以上を組み合わせて使用することができる。特にLiPF6を含ませることがより好ましい。
【0051】
また、非水電解液は有機高分子に担持させ、ゲル電解質として用いることもできる。非水電解液を担持させる有機高分子としては、たとえば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートやこれらの誘導体などを用いることができる。
【0052】
電池ケース4としては、AlやFe等の金属性の電池缶や金属箔の両面に樹脂フィルムをラミネートしたラミネートフィルムを袋状にしたものを用いることができる。市場における電池の更なる薄型化や軽量化の要望に応えるためには、ラミネートフィルム製の電池ケースを用いることが好ましい。また、電池ケース4に規定される電池の形状は、特に制限はなく、円筒形、扁平形および角形のいずれでもよい。
【0053】
このように構成されるリチウムイオン二次電池によれば、セパレータの主成分であるポリエチレンは化学架橋され三次元構造を有し、炭素鎖における炭素−炭素単結合の回転や、炭素−炭素結合角度の変化が規制されている。このため、ポリエチレンの炭素−炭素単結合が、酸化状態における炭素−炭素二重結合へ変換するのが抑制される。これにより、ポリエチレンの酸化が防止される。
【0054】
したがって、本実施形態のリチウムイオン二次電池によれば、一般的なポリエチレンの酸化が起きる4.2Vを超える電圧で電池の充電を行った場合でも、セパレータの酸化が防止され、ガス発生が抑制される。一方、セパレータの主成分はポリエチレンであるため、従来と同様の温度範囲において、シャットダウン機能を発現し、高い安全性を確保することができる。したがって、本実施形態によれば、優れた信頼性と安全性を両立する高電圧充電可能なリチウムイオン二次電池が実現する。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
本発明のリチウムイオン二次電池で用いるセパレータおよび従来のセパレータを作成し、耐酸化性を評価した。
【0057】
1.セパレータの作製
本発明によるリチウムイオン二次電池に用いる実施例のセパレータA〜Cおよび比較例のセパレータD〜Iを以下のようにして作製した。
【0058】
《実施例》
(セパレータA)重量平均分子量が100万の超高分子量ポリエチレン(融点:137℃)76重量%、重量平均分子量が25万の無水マレイン酸グラフトポリエチレン(日本ポリエチレン製、ADTEX ER403A)16重量%、ポリノルボルネン(日本ゼオン(株)製、ノーソレックスNB 重量平均分子量200万以上)8重量%からなる樹脂組成物15重量部と、流動パラフィン85重量部とをスラリー状に均一に混合し、160℃の温度で二軸押出機にて溶解混練し、厚さ4mmのシートに押出成形した。シート成形体を一定のテンション下で引取り、いったん10℃の冷却水にて冷却されたロールによって冷却成形した後、120℃のベルトプレス機にてプレスし、厚さ1mmの樹脂シートを作製した。樹脂シートを123℃の温度、速度10mm/secで同時に縦横4.0倍×4.0倍に二軸延伸することによって、延伸フィルムを作製し、ヘプタンを用いて延伸フィルムから流動パラフィンを除去した。その後、延伸フィルムを122℃の恒温オーブンに入れ、気流を当てながら2時間保持し、架橋反応をおこさせることにより、セパレータAを作製した。作製したセパレータAの膜厚は17.5μmであり、空孔率は41%であり、ゲル分率は42%であった。
【0059】
(セパレータB)重量平均分子量が100万の超高分子量ポリエチレン(融点:137℃)75重量%、重量平均分子量が25万の無水マレイン酸グラフトポリエチレン(日本ポリエチレン製、ADTEX ER403A)15重量%、ポリノルボルネン(日本ゼオン(株)製、ノーソレックスNB 重量平均分子量200万以上)10重量%からなる樹脂組成物を用いたこと以外はセパレータAと同様の条件でセパレータBを作製した。作製したセパレータBの膜厚は16.5μmであり、空孔率は37%であり、ゲル分率は53%であった。
【0060】
(セパレータC)重量平均分子量が100万の超高分子量ポリエチレン(融点:137℃)71量%、重量平均分子量が25万の無水マレイン酸グラフトポリエチレン(日本ポリエチレン製、ADTEX ER403A)14重量%、ポリノルボルネン(日本ゼオン(株)製、ノーソレックスNB 重量平均分子量200万以上)15重量%からなる樹脂組成物を用い、流動パラフィンを除去した延伸フィルムを124℃の恒温オーブン中で2時間保持したこと以外はセパレータAと同様の条件でセパレータCを作製した。作製したセパレータCの膜厚は14.5μmであり、空孔率は30%であり、ゲル分率は57%であった。
【0061】
《比較例》
(セパレータD)重量平均分子量が100万の超高分子量ポリエチレン(融点:137℃)83量%、重量平均分子量が25万の無水マレイン酸グラフトポリエチレン(日本ポリエチレン製、ADTEX ER403A)17重量%からなる樹脂組成物を用い、流動パラフィンを除去した延伸フィルムを120℃の恒温オーブン中で2時間保持したこと以外はセパレータAと同様の条件でセパレータDを作製した。作製したセパレータDの膜厚は21μmであり、空孔率は52%であり、ゲル分率は0%であった。
【0062】
(セパレータE)重量平均分子量が100万の超高分子量ポリエチレン(融点:137℃)81量%、重量平均分子量が25万の無水マレイン酸グラフトポリエチレン(日本ポリエチレン製、ADTEX ER403A)16重量%、ポリノルボルネン(日本ゼオン(株)製、ノーソレックスNB 重量平均分子量200万以上)3重量%からなる樹脂組成物を用い、流動パラフィンを除去した延伸フィルムを120℃の恒温オーブン中で2時間保持したこと以外はセパレータAと同様の条件でセパレータEを作製した。作製したセパレータEの膜厚は20μmであり、空孔率は51%であり、ゲル分率は15%であった。
【0063】
(セパレータF)重量平均分子量が100万の超高分子量ポリエチレン(融点:137℃)78量%、重量平均分子量が25万の無水マレイン酸グラフトポリエチレン(日本ポリエチレン製、ADTEX ER403A)15重量%、ポリノルボルネン(日本ゼオン(株)製、ノーソレックスNB 重量平均分子量200万以上)7重量%からなる樹脂組成物を用い、樹脂シートを125℃の温度、速度10mm/secで同時に縦横4.5倍×4.5倍に二軸延伸することによって、延伸フィルムを作製し、流動パラフィンを除去した延伸フィルムを120℃の恒温オーブン中で2時間保持したこと以外はセパレータAと同様の条件でセパレータFを作製した。作製したセパレータFの膜厚は15μmであり、空孔率は54%であり、ゲル分率は27%であった。
【0064】
(セパレータG)流動パラフィンを除去した延伸フィルムを126℃の恒温オーブン中で2時間保持したこと以外はセパレータEと同様の条件でセパレータGを作製した。作製したセパレータGの膜厚は17.5μmであり、空孔率は41%であり、ゲル分率は30%であった。
【0065】
(セパレータH)流動パラフィンを除去した延伸フィルムを128℃の恒温オーブン中で2時間保持したこと以外はセパレータFと同様の条件でセパレータHを作製した。作製したセパレータGの膜厚は10.5μmであり、空孔率は35%であり、ゲル分率は34%であった。
【0066】
(セパレータI)重量平均分子量が100万の超高分子量ポリエチレン(融点:137℃)67量%、重量平均分子量が25万の無水マレイン酸グラフトポリエチレン(日本ポリエチレン製、ADTEX ER403A)13重量%、ポリノルボルネン(日本ゼオン(株)製、ノーソレックスNB 重量平均分子量200万以上)20重量%からなる樹脂組成物を用い、流動パラフィンを除去した延伸フィルムを126℃の恒温オーブン中で8時間保持したこと以外はセパレータAと同様の条件でセパレータIを作製した。作製したセパレータIの膜厚は13μmであり、空孔率は22%であり、ゲル分率は63%であった。セパレータIは、硬く、空孔率も小さすぎる。このため、セパレータIはリチウムイオン二次電池用のセパレータとしては不適であった。
【0067】
2.モデルセルの作製
実施例のセパレータA〜Cおよび比較例のセパレータD〜Hを用いて、以下に示すモデルセルを作製し、セパレータの耐酸化性の評価をモデルセルを用いて行った。
【0068】
(a)正極の作製
厚さ100μmのプラチナ製(3N)シートを図4に示す寸法に打ち抜き、そのまま、図3に示すように、正極21として用いた。
【0069】
(b)負極の作製
図5に示すようにステンレス(SUS304)製メッシュ2を図5に示す寸法に打ち抜き図3に示す集電体22aとして用いた。1辺が22mmの長さを有する正方形状に切断した厚さ150μmの金属リチウム22bを圧着することにより負極22を得た。
【0070】
(c)組立
正極21および負極22と、実施例のセパレータA〜Cおよび比較例のセパレータD〜Hをセパレータ23として用い、図6(a)および(b)に示すような耐酸化性評価用のモデルセルを組み立てた。まず、正極21と負極22とを、セパレータ23を介して積層し、電極群33を作製した。正極21および負極22には、それぞれアルミニウム製正極リード31およびニッケル製負極リード32を溶接した。電極群33を肉厚0.12mmの3方向が開口しているアルミラミネートフィルム製セルケース34の内部に収容し、PP製のテープでアルミラミネートフィルムの内面に固定した。正極リード31および負極リード32が出ている開口部を含む2つの開口部を熱溶着し、アルミラミネートフィルム製セルケース34を袋状にした。所定量の非水電解液を開口部から注入し、減圧、脱気後、減圧状態で開口部を熱溶着することにより、電池内部を密封した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの体積比30:70の混合溶媒に、1.0mol/Lの濃度になるようにLiPF6を溶解したものを用いた。
【0071】
セパレータA〜Hを用いて作製したモデルセルをそれぞれ評価セルA1〜H1とした。
【0072】
3.セパレータの耐酸化性評価
作製した評価セルA1〜H1を評価セル内の電極に均等に0.4MPaの圧力をかけた状態で、60℃の環境下、4.3Vの定電圧充電を100時間行った。定電圧充電時の電流値を計測し、充電開始から100時間までの電流値を積算した電気量を副反応電気量として定義し、セパレータの酸化程度を示す指標とした。
【0073】
この評価セルの持つ本来の電気容量は微少な電気二重層容量のみであり、充電開始後すぐに、所定の電気容量が蓄積される。このため100時間の充電中に消費される電気量はセパレータや電解液の酸化等のモデルセル内で起きる充電反応以外の電気化学的副反応電流である。表1に評価結果を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
試験終了後のモデルセルを分解し、セパレータを取り出してジメチルカーボネートで洗浄乾燥後、セパレータのラマン分光分析を行った。530nmの入射レーザーに対するラマンシフトが1600cm-1付近に見られたセパレータには表1において○印を付し、観測されなかったセパレータには×印を付している。1600cm-1付近のラマンピークは、炭素−炭素二重結合に帰属される。
【0076】
また、表1の評価結果の副反応電気量をゲル分率に対してプロットしたものを図7に示す。
【0077】
5.評価結果
表1および図7に示されるように、ゲル分率が0%の比較例の評価セルD1に対してゲル分率が15〜34%である比較例の評価セルE1〜H1は、幾分副反応電気量の低下が見られる。このことから、ポリエチレンに三次元架橋を施すことによってポリエチレンの酸化が幾分抑制されることが分かる。しかし、これらの評価セルの充電試験後のセパレータD〜Hには、炭素−炭素二重結合に帰属されるラマンピークが観測されていることから、酸化による炭素−炭素二重結合は生成しており、ポリエチレンの酸化抑制効果が十分ではないことが分かる。
【0078】
一方、実施例の評価セルA1〜C1では、副反応電気量は、評価セルD1〜H1に比べて明らかに小さい。これは、セパレータの酸化反応が抑制されたためであると考えられる。試験後のセパレータA〜Cには、炭素−炭素二重結合に帰属されるラマンピークが観測されていないことから、炭素−炭素二重結合ほとんど生成しておらず、セパレータの酸化はほとんど生じていないことが分かる。
【0079】
なお、表1および図7に示されるように、実施例の評価セルA1〜C1において、炭素−炭素二重結合は生成していないにもかかわらず、副反応電気量はゼロにはなっていない。これは、評価セルに含まれるセパレータ以外の物質が酸化していることによると考えられる。このようなセパレータ以外の物質とは、非水電解液を構成する溶媒や、非水電解液に含まれる不純物、評価セルに微量に含まれる水などが考えられる。
【0080】
また、図7から推察されるように、ゲル分率が42%以上であれば、セパレータの酸化は十分抑制され、ゲル分率が57%を超えても同様の傾向を示すものと考えられる。したがって、セパレータを構成するポリオレフィン樹脂組成物の延伸性を改善し、かつ高い耐酸化特性を備える物質を添加する場合には、超高分子量ポリエチレンを主成分とし、化学架橋による架橋構造を備えたポリオレフィン樹脂組成物のゲル分率は57%以上であってもよい。ただし、ゲル分率が63%であるポリオレフィン樹脂組成物から作製したセパレータIは、空孔率が小さく、また、塑性変形性に乏しいため、リチウム二次電池用のセパレータとしては適さなかった。したがって、主としてこのようなポリオレフィン樹脂組成物のみにより、セパレータを構成する場合には、ゲル分率を42〜57%に調整することによって、十分な耐酸化性を有し、かつリチウムイオン二次電池用のセパレータとして適した物性を有することが分かる。
【0081】
<実施例2>
本発明のリチウムイオン二次電池で用いるセパレータおよび従来のセパレータのシャットダウン特性を評価した。
【0082】
1.セパレータの作製
実施例1で作製した実施例のセパレータA〜Cおよび比較例のセパレータDを用いた。
【0083】
2.モデルセルの作製
実施例のセパレータA〜Cおよび比較例のセパレータJを用いて、以下に示すモデルセルを作製した。
【0084】
実施例のセパレータA〜Cおよび比較例のセパレータJを用いて、以下に示す手順によりモデルセルを作製した。セパレータA〜C、Jを用いて作製したモデルセルをそれぞれ評価セルA2〜C2、J2とした。
【0085】
φ25mmの円筒状の試験室を有し、試験室が密閉可能なSUS製のセルを用い、下部電極および上部電極にそれぞれφ20mmおよびφ10mmの白金板(厚さ:1.0mm)を使用した。φ24mmに打ち抜いたセパレータA〜C、Jを電解液に浸漬し、上部電極と下部電極との間に挟み、セルにセットした。上部電極および下部電極はセルに設けられたバネにて一定の面圧がかかるようにした。電解液にはポリプロピレンカーボネートおよびジメトキシエタンを1:1の容量比で混合した溶媒に、ホウフッ化リチウムを1.0mol/Lの濃度となるように溶解したものを用いた。
【0086】
3.セパレータのシャットダウン特性評価
作製した評価セルA2〜C2、J2を用いてセパレータのシャットダウン特性を以下の方法により評価した。
【0087】
評価セルA2〜C2、J2に熱電対温度計と交流抵抗計とを接続し、セパレータの温度および交流抵抗が測定できるようにした。180℃に加熱した恒温機内において評価セルA2〜C2、J2を保管し、温度および抵抗の経時変化を測定した。100℃〜150℃における平均昇温速度は10℃/分であった。また、160℃〜170℃における平均昇温速度は4℃/分であった。抵抗値が100Ω・cm2に達したときの温度をシャットダウン温度とした。
【0088】
4.評価結果
表2に示すように、実施例の評価セルA2〜C2におけるシャットダウン温度は、135℃または136℃であり、従来のポリエチレン製セパレータと同様の温度範囲においてシャットダウン機能を発現した。これに対し、比較例の評価セルJ2のシャットダウン温度は、165℃であった。これは、セパレータがポリプロピレンによって構成されており、樹脂の収縮温度が高いためと考えられる。
【0089】
【表2】

【0090】
以上の結果から、超高分子量ポリエチレンを主成分とし、化学架橋によるゲル分率が42〜57%の架橋構造を備えたポリオレフィン樹脂組成物であっても、架橋構造を有しないポリエチレン製のセパレータと同様の温度範囲において、シャットダウン機能を発現する。よって、リチウムイオン二次電池用セパレータとして好ましい100℃以上140℃以下の温度において、孔を閉塞するというシャットダウン特性を有することが分かる。
【0091】
<実施例3>
実施例1で作製した実施例のセパレータBおよび比較例のセパレータDを用いて図1に示すリチウムイオン二次電池を作製し信頼性評価を行った。
【0092】
1.リチウムイオン二次電池の作製
(a)正極の作製
図2に示す正極11を以下のように作製した。
【0093】
正極活物質としてLiCoO2(平均粒径8μm、BET法による比表面積4.2m2/g)を用い、この活物質100重量部に、導電剤であるアセチレンブラックを3重量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデンを4重量部および適量のN−メチル−2−ピロリドンを加え、攪拌・混合して、スラリー状の正極合剤11bを得た。なお、ポリフッ化ビニリデンは、予めN−メチル−2−ピロリドンに溶解した状態で用いた。
【0094】
次に、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体11aの両面に、スラリー状の正極合剤11bを塗布し、塗膜を乾燥し、ローラーで圧延した。得られた極板を所定寸法に裁断して正極11を得た。
【0095】
正極活物質として用いたLiCoO2は以下の方法によって調製した。まず、硫酸コバルトを溶解させた金属塩水溶液を調製した。金属塩水溶液を攪拌しながら50℃に維持し、その水溶液中に、水酸化ナトリウムを30重量%含む水溶液を滴下し、中和することにより、水酸化コバルトの沈殿を生成させた。
【0096】
この水酸化コバルトの沈殿を濾過し、水洗し、空気中で乾燥させ、次いで400℃で5時間焼成して、酸化コバルトを得た。得られた酸化コバルトは、粉末X線回折により、単一相であることを確認した。
【0097】
次に、得られた酸化コバルトと炭酸リチウムとをCoの原子数とLiの原子数の比が1:1になるように混合した。この混合物を950℃で10時間焼成した。この後、その焼成物を、粉砕してレーザー回折法で得られる累積50%粒径が8μmの粉末とすることにより、目的とするLiCoO2を得た。得られたLiCoO2は、粉末X線回折により単一相の六方晶構造であることを確認した。
【0098】
(b)負極の作製
図2に示す負極12を以下のように作製した。
【0099】
球状化した天然黒鉛を用い、この活物質100重量部に、結着剤であるポリフッ化ビニリデンを6重量部および適量のN−メチル−2−ピロリドンを加え、攪拌・混合して、スラリー状の負極合剤12bを得た。なお、ポリフッ化ビニリデンは、予めN−メチル−2−ピロリドンに溶解した状態で用いた。
【0100】
次に、厚さ15μmの銅箔からなる集電体12aの両面に、前記スラリー状負極合剤12bを塗布し、塗膜を乾燥し、ローラーで圧延した。なお、負極合剤層中の活物質も充填密度は、1.5g/cm3であった。得られた極板を所定寸法に裁断して負極12を得た。
【0101】
負極活物質として用いた球状化した天然黒鉛は以下の手順によって調製した。まず、粉末X線回折から求められるC軸方向の平均面間隔d(002)が3.354nmの鱗片状の天然黒鉛(D50:22.8μm、比重:2.23g/cm3)をハイブリダイゼーション・システム(奈良機械製作所製、NHS−0型)を用いて、メカノケミカル的手法により、球状化処理を行った。本装置は、高速回転するロータ、ステータおよび循環経路から成り、ロータの中心部より装置内に投入された粉末は主にロータおよび粉体同士の衝突による衝撃、圧縮、剪断力を受け、気流と共に循環される。この循環により、鱗片状黒鉛粒子は造粒され、目的とする球状化した天然黒鉛を得た。得られた球状化した天然黒鉛は走査型電子顕微鏡により、略球形状であることを確認した。
【0102】
(c)電池の組立
上述した手順によって得られた正極11および負極12を用いて、図1に示す構造を備えたリチウムイオン二次電池(厚さ5.2mm、幅34mm、高さ50mm、設計容量800mAh)を組み立てた。
【0103】
まず、帯状の正極11と負極12とを、セパレータ13を介して、渦巻き状に捲回して、極板群1を作製した。正極11および負極12には、それぞれアルミニウム製正極リード2およびニッケル製負極リード3を溶接した。極板群の上部にポリプロピレン樹脂製絶縁枠体(図示しない)を装着し、肉厚0.25mmのアルミニウム製電池ケース4の内部に収容した。正極リード2の他端は、アルミニウム製封口板8の内面にスポット溶接した。また、負極リード3の他端は、封口板8の中心部に、絶縁材5を介して取り付けられたニッケル製負極端子6の下部にスポット溶接した。
【0104】
次いで、電池ケース4の開口端部と封口板8の周縁部とをレーザー溶接した。そして、所定量の非水電解液を注入口から注入し、最後に注入口を、アルミニウム製の栓7で封じて、電池を完成させた。
【0105】
非水電解液には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの体積比30:70の混合溶媒100重量部にビニレンカーボネート1重量部を加え、1.0mol/Lの濃度になるようにLiPF6を溶解したものを用いた。
【0106】
セパレータBを用いて作製した電池を電池B3、セパレータDを用いて作製した電池を電池D3とする。
【0107】
(d)初期充放電
電池B3およびD3を25℃環境下にて、以下のような充放電サイクルを3回繰り返し、慣らし充放電を行った。充電は、電流値80mA、充電終止電圧4.2Vの定電流充電とした。放電は、電流値80mA、放電終止電圧3.0Vの定電流放電とした。この慣らし充放電において、2回目のサイクルにおける放電容量と3回目のサイクルにおける放電容量がほぼ一致することを確認し、完成電池とした。
【0108】
2.リチウム二次電池の評価
初期充放電を行った電池B3とD3を充電し、充電終了後、電池の厚みを測定した。厚みは、電池の厚みが最大となる部分(電池の中央部)を測定し、初期厚みと定義した。充電は、25℃の環境下、4.2Vの定電圧充電(最大電流値:400mA)で行い、電流値が40mAまで減衰した時点で充電を終了した。
【0109】
次に、45℃環境下にて、4.2〜5.0Vの定電圧充電(最大電流値:400mA)を1週間行った。定電圧充電が終了した後、25℃の環境下、80mAの電流値で3.0Vまで放電した後充電し、充電終了後、電池の厚みを測定した。厚みは、電池の厚みが最大となる部分(電池の中央部)を測定し、定電圧高温保存後の厚みと定義した。充電は、25℃の環境下、4.2Vの定電圧充電(最大電流値:400mA)で行い、電流値が40mAまで減衰した時点で充電を終了した。
【0110】
定電圧高温保存時の信頼性を評価する指標として、膨れ量を求めた。結果を表3に示す。ここで膨れ量は、定電圧高温保存後の厚みから初期厚みを差し引いた値(つまり、膨れ量=定電圧高温保存後の厚み−初期厚み)と定義した。表3に結果を示す。また、図8は充電電圧と膨れ量との関係を示したグラフを示している。
【0111】
【表3】

【0112】
3.評価結果
表3および図8から明らかなように、一般的な充電電圧である4.2Vよりも高い充電電圧で充電した場合、本発明の実施例の電池Bは、比較例の電池D3に比べて定電圧高温保存時の膨れを抑制することができるのが分かる。また、一般的な充電電圧4.2Vで充電した場合でも、効果は小さいものの比較例の電池D3よりも膨れ量は抑制されることが分かる。
【0113】
表3および図8から分かるように、実施例の電池Bにおいて、膨れ量はゼロとはなっていない。これは電池B3に含まれるセパレータ以外の物質が酸化していることによって生成するガスが影響しているものと考えられる。このようなセパレータ以外の物質とは、非水電解液を構成する溶媒や、非水電解液に含まれる不純物、電池に微量に含まれる水などが考えられる。
【0114】
実施例1で説明したように、充電電圧が4.3Vの場合、炭素−炭素二重結合は生成していないことがラマンスペクトルによって確認できているため、少なくとも4.3V程度の充電電圧では、セパレータの酸化はほとんど生じない。図8において破線で示すように、実施例の電池Bにおいて、充電電圧が4.2Vから4.6Vの範囲では充電電圧と膨れ量とはよく比例している。このことから、充電電圧が4.2Vから4.6Vの範囲において、電池Bにおけるガスの発生は、電圧に比例しており、新たな反応などによるガスの発生の増加が見られないものと考えられる。このことは、この充電電圧範囲では、セパレータはほとんど酸化せず、セパレータ以外の物質が酸化していることによって生成するガスのみが膨れ量に寄与していると考えられる。つまり、表3および図8から、実施例の電池Bによれば、少なくとも充電電圧が4.2Vから4.6Vの範囲においてセパレータの酸化がほぼ完全に抑制されているのではないかと推察される。
【0115】
なお、実施例の電池B3の充電電圧を5.0Vとした場合および比較例の電池D3の充電電圧を4.8V以上とした場合に、原因は明らかではないが内部短絡が発生したため、評価を途中で中断した。そのため、保存後の電池膨れ量は、未測定である。しかし、比較例の電池D3の充電電圧4.6Vにおける膨れ量は、実施例の電池B3の4.8Vにおける膨れ量よりもはるかに多い。したがって、仮に、実施例の電池B3の4.8Vにおいて、セパレータがわずかに酸化し、ガスが発生することによって電池の膨れ生じるとしても、従来のポリエチレンのセパレータに比べて、はるかに酸化によるガスの発生が抑制されており、従来技術に比べて、顕著な効果があると言える。
【0116】
以上の結果から、本発明の効果を有効に発現するための好ましい充電電圧は4.2V以上4.8V以下であり、さらに好ましい範囲は、4.3V以上4.8V以下であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明により、高温高電圧充電した場合でもガスの発生を抑制することが可能となるため、本発明は、高い信頼性と安全性、エネルギー密度を両立するリチウムイオン二次電池に好適に用いられる。たとえば、信頼性が必要とされる携帯型電子機器用の電源として用いることができる。また、本発明は、電気自動車や電力貯蔵用に用いられる大型電池等にも広く適応が可能である。
【符号の説明】
【0118】
1 電極群
2 正極リード
3 負極リード
4 電池ケース
5 絶縁材
6 負極端子
7 封栓
8 封口板
11 正極
11a 正極集電体
11b 正極合剤
12 負極
12a 負極集電体
12b 負極合剤
13 セパレータ
21 正極
22 負極
22a ステンレス製メッシュ
22b 金属リチウム
23 セパレータ
31 正極リード
32 負極リード
33 電極群
34 セルケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを可逆的に吸蔵放出が可能な正極および負極と、
前記正極および負極の間に配置されたセパレータと、
前記正極、負極およびセパレータを収納した電池ケースと、
前記電池ケース内に充填された非水電解液と、
を備え、
前記セパレータは、重量平均分子量が50万以上の超高分子量ポリエチレンを主成分とし、前記超高分子量ポリエチレン、ポリノルボルネンおよびグラフトポリエチレンを化学架橋したポリオレフィン樹脂組成物を含み、前記ポリオレフィン樹脂組成物のゲル分率は42%以上57%以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記グラフトポリエチレンは無水マレイン酸グラフトポリエチレンである請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
最大充電電圧が4.3V以上4.8V以下である充電器で充電される請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂組成物はリチウムを基準として4.3V以上4.8V以下の電位でも実質的に分解しない請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−244874(P2010−244874A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92992(P2009−92992)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】