説明

リチウムイオン二次電池

【課題】初期充電を行った後でも負荷特性が良好なリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】
本発明によって提供されるリチウムイオン二次電池100は、正極10と負極20と非水電解液とが電池ケース50に収容された構造を有する。正極10は、正極活物質として、LiMnOを固溶したマンガン含有固溶体であって一般式Li[Mn(1−y)]O(Mは、Li及びMn以外の少なくとも一種の金属元素、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3)で表わされるリチウムマンガン酸化物を備える。電池ケース50の内部には、酸素を還元可能な少なくとも一種の還元性ガスが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。詳しくは、正極活物質を有する正極と非水電解液とが電池ケース内に収容された構造を有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。かかるリチウムイオン二次電池は、正極と負極との間にセパレータを介在させた状態で構成される電極体を備えており、該正負極間におけるリチウムイオン(以下、Liイオンと記載する。)の移動によって充放電が行われる。
【0003】
この種のリチウムイオン二次電池においては、Liイオンを可逆的に吸蔵・放出し得る正極活物質が正極集電体上に形成された構成の正極を備えている。かかる正極に用いられる正極活物質の例としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)等の、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を主成分とする正極活物質が挙げられる(特許文献1,2等)。また、それらの酸化物についての固溶体も多く検討されており、例えば、マンガン酸リチウムについても、LiNi1/3Co1/3Mn1/3のようなLiNiOのNiサイトの一部をCoおよびMnで置き換えた固溶体や、Li1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14のようなLiMnOをベースにLiNiOやLiCoOを固溶した高マンガン含有固溶体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2003/044881号パンフレット
【特許文献2】特開2004−241390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記正極活物質のうち、LiMnOをベースにしたマンガン含有固溶体(LiMnOと他の金属酸化物とを固溶させたもの)は、一般式Li[Mn(1−y)]O(式中のMは、Mn及びLi以外の一種又は二種以上の金属元素を含む。)で表わされ、高エネルギー密度を持つ正極活物質として期待されている。しかしながら、LiMnOをベースにした固溶体は、初期の充放電処理により負荷特性(大電流放電時でも高い容量を保つ特性)が大きく低下するという問題があった。本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、LiMnOをベースにした固溶体を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池において、初期充放電処理を行った後でも負荷特性が良好なリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、LiMnOをベースにしたマンガン含有固溶体を正極活物質に用いた場合に、初期の充放電処理により負荷特性(大電流放電時でも高い容量を保つ特性)が大きく低下するのは、初期充電時にLiイオンの放出に伴って固溶体(正極活物質)から酸素(O)の一部が脱離するからであると考えた。すなわち、固溶体(正極活物質)から酸素の一部が脱離すると、脱離した酸素が電解液に溶解して負極側に移動し、負極上(典型的には負極活物質の表面)にLiO等の析出物が生成する。負極上に生成した析出物は、それ以降の負極充放電反応を阻害するため、電池の負荷特性を低下させる要因になり得る。
【0007】
本発明者は、かかる知見に基づいて、上記固溶体(正極活物質)から脱離した酸素を還元性ガスとの反応により不活性化するというアプローチによって、初期充電後における負荷特性の低下を防止できることを見出し、本発明を想到した。
【0008】
即ち、本発明により提供されるリチウムイオン二次電池は、正極と負極と非水電解液とが電池ケースに収容された構造を有するリチウムイオン二次電池である。上記正極は、正極活物質として、LiMnOを固溶したマンガン含有固溶体であって一般式Li[Mn(1−y)]O(Mは、Li及びMn以外の少なくとも一種の金属元素、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3)で表わされるリチウムマンガン酸化物を備える。そして、上記電池ケースの内部には、酸素を還元可能な少なくとも一種の還元性ガスが配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の構成によれば、酸素を還元可能な還元性ガスを電池ケース内に配置することにより、初期充電時に正極活物質(LiMnOをベースにした固溶体)から発生する酸素を捕捉し、不活性化することができる。このことによって、負極上にLiO等の析出物が生成するのを回避し得、初期充電後においても負荷特性が良好なリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0010】
上記還元性ガスとしては、上記正極活物質から発生する酸素を速やかに捕捉し得る機能を有するガスが好ましい。また、上記還元性ガスは、所定の電池構成材料(正負極それぞれの活物質、正負極それぞれの集電体、セパレータ、非水電解液等)に対して化学的に不活性であることが好ましい。さらに、上記還元性ガスは、正極活物質から発生する酸素を上述した電池構成材料に対して化学的不活性な物質に変化させるものであることが好ましい。ここに開示される好ましい一態様では、上記還元性ガスとしてCOガスが用いられる。還元性ガスとしてCOガスを用いる場合、上記正極活物質から発生する酸素をCO+1/2O→COの反応により不活性なCOガスに変化させることができ、該酸素を効果的に取り除くことができる。
【0011】
ここに開示されるリチウムイオン二次電池の好ましい一態様では、上記還元性ガスの少なくとも一部が上記非水電解液に溶解された状態で配置されている。正極活物質から発生する酸素は、非水電解液に溶存して負極側まで移動する。そのため、還元性ガスの一部を非水電解液に溶解しておくことにより、非水電解液に溶存した酸素(正極活物質から発生した溶存酸素)を確実に捕捉することができる。なお、上記還元性ガスは、その一部が非水電解液に溶解せず、余剰分が気体のまま電池ケース内に配置されていてもよい。正極活物質から発生する酸素との反応により、非水電解液に溶解した還元性ガスが消費されると、余剰分の還元性ガス(電池ケース内に気体のまま配置された還元性ガス)が非水電解液に新たに溶解する。このことによって、酸素との反応により消費された還元性ガスを随時補充することができ、非水電解液に溶存した酸素(正極活物質から発生した溶存酸素)を確実に捕捉することができる。なお、余剰分の還元性ガスは、非水電解液と直接的に接触した状態で配置されていればよく、例えば、非水電解液と電池ケースとの間(典型的には、電池ケース内の空間部分)などに配置しておくとよい。
【0012】
このようなリチウムイオン二次電池は、上記のとおり良好な電池性能を示すことから、例えば自動車等の車両に搭載される電池として好適である。したがって本発明によると、ここに開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両が提供される。特に、良好な負荷特性が得られることから、該リチウムイオン二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構造を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る捲回電極体の構造を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を備えた車両を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、セパレータや電解質の構成および製法、リチウムイオン二次電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0015】
特に限定することを意図したものではないが、以下では扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と非水電解液とを扁平な箱型(直方体形状)の電池ケースに収容した形態のリチウムイオン二次電池を例として本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の概略構成を図1〜2に示す。このリチウムイオン二次電池100は、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20が長尺状のセパレータ40を介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解液とともに、該捲回電極体80を収容し得る形状(扁平な箱型)の電池ケース50に収容された構成を有する。
【0017】
電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。電池ケース50を構成する材質としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましく用いられる(本実施形態ではアルミニウム)。あるいは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなる電池ケース50であってもよい。電池ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極と電気的に接続する正極端子70と、電極体80の負極20と電気的に接続する負極端子72とが設けられている。電池ケース50の内部には、扁平形状の捲回電極体80が図示しない非水電解液とともに収容される。
【0018】
捲回電極体80を構成する構成要素は、従来のリチウムイオン二次電池の捲回電極体と同様でよく、特に制限はない。例えば、正極シート10は、長尺状の正極集電体12の上にリチウムイオン電池用正極活物質を主成分とする正極合材層14が付与されて形成され得る。正極集電体12にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。
【0019】
本実施形態で使用される正極活物質は、LiMnOを固溶したマンガン含有固溶体であって、一般式Li[Mn(1−y)]Oで表わされるリチウムマンガン酸化物である。ここで式中のMは、Li及びMn以外の少なくとも一種の金属元素からなり、例えば、Co,Ni,Fe,Ti,Mo,W,Cr,ZrおよびSnからなる群から選択される一種または二種以上の元素を含んでいる。また、式中のx、y、zの値は、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3の範囲である。その好適例として、Li1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14のようなLiMnOをベースにLiNiOやLiCoOを固溶したマンガン含有固溶体が挙げられる。このようなLiMnOをベースにした固溶体からなるリチウムマンガン酸化物は、高エネルギー密度を持つ正極活物質として期待されている一方で、初期充電時に固溶体(正極活物質)から酸素(O)の一部が脱離する場合がある。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100では、そのような固溶体(正極活物質)から脱離した酸素を不活性化するために、電池ケース50内に適量の還元性ガスが配置されている。これについては後述する。
【0020】
このようなリチウムマンガン酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば、従来公知の方法で調製されるリチウムマンガン遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。
【0021】
正極合材層14は、一般的なリチウムイオン電池において正極合材層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、導電材が挙げられる。該導電材としてはカーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいは、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。その他、正極合材層の成分として使用され得る材料としては、上記構成材料の結着剤(バインダ)として機能し得る各種のポリマー材料が挙げられる。
【0022】
負極シート20は、長尺状の負極集電体22の上にリチウムイオン電池用負極活物質を主成分とする負極合材層24が付与されて形成され得る。負極集電体22には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウムイオン電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム含有遷移金属酸化物や遷移金属窒化物等が挙げられる。
【0023】
正負極シート10、20間に使用される好適なセパレータシート40としては多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。例えば、厚さ5〜30μm(例えば25μm)程度の合成樹脂製(例えばポリエチレン等のポリオレフィン製)多孔質セパレータシートを好適に使用し得る。
【0024】
かかる構成の捲回電極体80をケース本体52に収容し、そのケース本体52内に適当な非水電解液を配置(注液)する。ケース本体52内に上記捲回電極体80と共に収容される非水電解液としては、従来のリチウムイオン電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネイト(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO等のリチウム塩を好ましく用いることができる。
【0025】
ここで、電池ケース50の内部には、酸素を還元可能な少なくとも一種の還元性ガスが配置されている。上記還元性ガスとしては、上記正極活物質から発生する酸素を速やかに捕捉し得る機能を有するガスが好ましい。また、上記還元性ガスは、上述した電池構成材料(正負極それぞれの活物質、正負極それぞれの集電体、セパレータ、非水電解液等)に対して化学的に不活性であることが好ましい。さらに、上記還元性ガスは、正極活物質から発生する酸素を上述した電池構成材料に対して化学的不活性な物質に変化させるものであることが好ましい。かかる還元性ガスとして、例えば、COガス、Hガス、SOガス、HSガス、それらの混合ガス等を使用し得る。ここに開示される好ましい一態様では、上記還元性ガスとしてCOガスが用いられる。上記還元性ガスとしてCOガスを用いる場合、上記正極活物質から発生する酸素をCO+1/2O→COの反応により不活性なCOガスに変化させることができ、酸素を効果的に取り除くことができる。
【0026】
ここに開示される好ましい一態様では、上記還元性ガスの少なくとも一部が上記非水電解液に溶解された状態で配置されている。正極活物質から発生する酸素は、非水電解液に溶存して負極側まで移動する。そのため、還元性ガスの一部を非水電解液に溶解しておくことにより、非水電解液に溶存した酸素(正極活物質から発生した溶存酸素)を確実に捕捉することができる。
【0027】
還元性ガスの非水電解液に対する溶解量(溶解体積)は、正極活物質から発生する酸素を不足なく捕捉し得るように適宜調整するとよい。例えば、初期充電時に正極活物質から発生する酸素の発生量を予備実験により測定しておき、その発生量に応じた酸素を不足なく捕捉し得るように、非水電解液に対する還元性ガスの溶解量を適切に調整するとよい。
ここに開示される好ましい一態様では、還元性ガスの溶解量(溶解濃度)は、非水電解液の単位体積あたり1×10−3mol/ml以上、好ましくは1×10−2mol/ml以上である。この範囲よりも少なすぎると、正極活物質から発生する酸素を十分に捕捉することができない場合があり得る。溶解量の上限値は特に制限されないが、典型的には、還元性ガスの非水電解液に対する飽和溶解量であり、すなわち、非水電解液は、還元性ガスにより飽和した状態となっていることが好ましい。
非水電解液に還元性ガスを溶解させる方法としては、特に制限されない。例えば、非水電解液を還元性ガス雰囲気中で保持する方法を採用することができる。この場合、還元性ガスの溶解度、温度および圧力に応じた適量の還元性ガスを溶かすことができる。この実施形態では、捲回電極体80を電池ケース50に収容して該ケースに非水電解液を注入した後、電池ケース50の開口部から還元性ガスを電池ケース内に流入させる(例えば、電池ケース50の開口部を解放したまま還元性ガス雰囲気中で保存する)。電池ケース50内に流入した還元性ガスは、該ケース50内の非水電解液に接触してこれに溶解する。その後、電池ケース50の開口部を気密に封口することにより、電池ケース50内に還元性ガスを配置することができる。あるいは、非水電解液に還元性ガスの気泡を吹き込むバブリング処理を行ってもよい。これにより、還元性ガスをより効率的に溶かすことができる。非水電解液に還元性ガスを溶解させる操作は、該電解液を電池ケースに注入する前に行ってもよく、注入した後に行ってもよい。
【0028】
ここに開示される好ましい一態様では、上記還元性ガスは、その一部が非水電解液に溶解せず、余剰分が気体のまま電池ケース50内に配置されている。正極活物質から発生する酸素との反応により、非水電解液に溶解した還元性ガスが消費されると、余剰分の還元性ガス(電池ケース内に気体のまま配置された還元性ガス)が非水電解液に新たに溶解する。このことによって、酸素との反応により消費された還元性ガスを随時補充することができ、非水電解液に溶存した酸素(正極活物質から発生した溶存酸素)を確実に捕捉することができる。なお、余剰分の還元性ガスは、非水電解液と直接的に接触した状態で配置されていればよく、例えば、非水電解液と電池ケース50との間などに配置しておくとよい。
【0029】
上記還元性ガスを電池ケース50の開口部から電池ケース内に流入し、該流入した還元性ガスをケース内の非水電解液に接触して溶解させた後、電池ケースの開口部を気密に封口することにより、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100の構築(組み立て)が完成する。なお、ケース本体52の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウムイオン二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。
【0030】
組立て直後の電池100は未充電状態であるため、その後、該電池100のコンディショニング(初期充電)を行う。コンディショニング(初期充電)を行うと、正極活物質(リチウムマンガン酸化物)からLiイオンが放出され、負極活物質内に取り込まれる。このとき、Liイオンの放出に伴って正極活物質から酸素(O)の一部が脱離する。このように正極活物質から酸素の一部が脱離すると、脱離した酸素が非水電解液に溶解して負極側に移動し、負極(負極活物質層)上にLiOが析出する虞がある。負極上に析出したLiOは、それ以降の負極の充放電反応を阻害するため、電池性能(電池の負荷特性)を低下させる要因になり得る。
【0031】
これに対し、本実施形態では、酸素を還元可能な還元性ガス(ここではCOガス)を電池ケース内に配置しているので、初期充電時に正極活物質から発生する酸素を捕捉し、CO+1/2O→COの反応により不活性化することができる。このことによって、負極上にLiO等の析出物が生成するのを回避し得、初期充電後においても負荷特性が良好なリチウムイオン二次電池を得ることができる。初期充電を行った後でも電池性能(特に負荷特性)が良好なリチウムイオン二次電池を得ることができる。なお、上記反応により生じたCOガスは、その後のガス抜き工程により電池ケース外に放出することができる。
【0032】
<実施例>
電池ケース内にCOガスを導入することにより電池性能(負荷特性)の低下を解消し得ることを確認するため、実施例として以下の実験を行った。上述した実施形態を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0033】
すなわち、電池ケース内にCOガスを導入した試験用リチウムイオン二次電池を作製し、作製した試験用リチウムイオン二次電池の初回充電後の放電比容量を測定して評価した。実施例の試験用リチウムイオン二次電池は、以下のようにして作製した。
【0034】
正極活物質としては水酸化リチウムと炭酸マンガンと水酸化コバルトと水酸化ニッケルとを熱処理して合成したLiMnOとLiNiOとLiCoOとの固溶体からなるリチウムマンガン酸化物を用いた。具体的には、水酸化リチウムと炭酸マンガンと水酸化コバルトと水酸化ニッケルとを所定のモル比となるように秤量したのち混合し、これを酸素気流中において800℃で10時間焼成することによりリチウムマンガン酸化物を合成した。この実施例では、組成比がLi1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14で表わされるリチウムマンガン酸化物を合成した。
【0035】
上記リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用い、このリチウムマンガン酸化物粉末とカーボンブラック(導電材)とポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これらの材料の質量比が85:10:5となるようにN−メチルピロリドン(NMP)中で混合して、ペースト状の正極合材層用組成物を調製した。このペースト状正極合材層用組成物を長尺シート状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に層状に塗布して乾燥することにより、該正極集電体の両面に正極合材層が設けられた正極シートを得た。この正極シートを所定サイズの円形状に打ち抜いて正極を作製した。
【0036】
また、以下のようにして負極を作製した。グラファイト粉末(負極活物質)とスチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量比が98:1:1となるように適当な溶媒に分散させてペースト状の負極合材層用組成物を調製した。このペースト状負極合材層用組成物を長尺シート状の銅箔(負極集電体)の両面に層状に塗布して乾燥し、負極集電体の両面に負極合材層が設けられた負極シートを得た。この負極シートを所定サイズの円形状に打ち抜いて負極を作製した。
【0037】
上記正極シートと負極シートとを、ポリプロピレン製の多孔質セパレータを挟んで対向配置し、非水電解液とともにステンレス製のコイン型電池ケースに組み込んで、直径20mm、厚さ3.2mm(2032型)のコインセルを構築した。この電池ケースは、正極シートと接触する上容器(正極端子を兼ねる。)と、負極シートと接触する下容器(負極端子を兼ねる。)とを備え、両容器の間に絶縁性かつ気密性のガスケットが介在された構造を有する。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを3:7の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを用いた。そして、上記下容器の上に負極シートを載置し、適当量の電解液を滴下してセパレータを重ね、さらに適当量の電解液を滴下して正極シートを重ねた後、上容器を被せない状態(電池ケースを解放した状態)でCOガス100%の雰囲気中に1時間保存することにより、非水電解液にCOガスを十分に接触させた。次いで、COガス100%の雰囲気中で上容器を被せて電池ケースを気密に封止した。このようにして、電池ケース内にCOガスが導入された試験用電池を構築した。
【0038】
なお、比較例1として、上記実施例の試験用電池の作製と同様にして、ただし電池ケース内にCOガスを導入せずに比較例1の試験用電池を作製した。電池ケース内にCOガスが導入されていないこと以外は実施例と同様にして試験用電池を構築した。
【0039】
また、比較例2として、リチウムマンガン酸化物の組成比が異なる正極活物質を用いて比較例2の試験用電池を構築した。具体的には、組成比がLiMn1/3Co1/3Ni1/3で表わされるリチウムマンガン酸化物を合成し、これを正極活物質に用いて試験用電池を構築した。リチウムマンガン酸化物の組成比を変えたこと以外は実施例と同様にして試験用電池を構築した。
【0040】
さらに、比較例3として、上記比較例2の試験用電池の作製と同様にして、ただし電池ケース内にCOガスを導入せずに比較例3の試験用電池を作製した。電池ケース内にCOガスが導入されていないこと以外は比較例2と同様にして試験用電池を構築した。
【0041】
以上のようにして構築した実施例および比較例1〜3の試験用電池のそれぞれに対し、適当なコンディショニング(初期充放電)処理を行い、その後、負荷特性(大電流放電時でも高い容量を保つ特性)を測定した。ここで負荷特性は、1Cで放電を行ったときの放電容量と、20Cで放電を行ったときの放電容量とから算出した。具体的には、負荷特性(放電容量比)は、[20Cで放電を行ったときの放電容量/1Cで放電を行ったときの放電容量]×100により求められる。充放電条件としては、実施例および比較例1では、1/3Cで4.8Vまで定電流充電を行った後、1Cで2.5Vまで定電流放電させる操作を行った。次いで、1/3Cで4.8Vまで定電流充電を行った後、20Cで2.5Vまで定電流放電させる操作を行った。また、比較例2および比較例3のでは、1/3Cで4.3Vまで定電流充電を行った後、1Cで2.5Vまで定電流放電させる操作を行った。次いで、1/3Cで4.3Vまで定電流充電を行った後、20Cで2.5Vまで定電流放電させる操作を行った。表1に負荷特性(放電容量比)の測定結果を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
まず、Li1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14を正極活物質に用いた実施例と比較例1とを比較すると、電池ケース内にCOガスを導入した実施例の電池は、電池ケース内にCOガスが導入されていない比較例1の電池に比べて放電容量比が大きく、負荷特性が改善されていた。これは、比較例1の電池では、初期充電時に正極活物質から発生した酸素に起因して負極上にLiO等が析出し負極の充放電反応が阻害されたのに対し、実施例の電池では、上記酸素をCOガスと反応させて不活性なCOガスに変えることによりLiO等の生成を抑制し、負極の充放電反応の阻害を回避できたためであると考えられる。このことから、電池ケース内にCOガスを配置することによって初期充電後においても負荷特性が良好なリチウムイオン二次電池が得られることが確認された。
【0044】
なお、LiMn1/3Co1/3Ni1/3を正極活物質に用いた比較例2と比較例3とを比較すると、電池ケース内のCOガスの存在の有無に関係なく放電容量比がほぼ同じ結果となり、負荷特性はほとんど変わらなかった。これは、LiMn1/3Co1/3Ni1/3からなる正極活物質では、正極活物質から酸素が脱落することはなく、負荷特性が低下する問題はほとんど存在しないからである。これらの結果から、電池ケース内にCOガスを配置することによって負荷特性を改善するという効果は、一般式Li[Mn(1−y)]Oで表わされるリチウムマンガン酸化物であって、x>1を満たすリチウムマンガン酸化物に対して特に有効であることが分かった。
【0045】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上記のとおり負荷特性の低下を抑制し得、より良好な電池性能を示すことから、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。したがって本発明は、図3に模式的に示すように、かかるリチウムイオン二次電池100(典型的には複数直列接続してなる組電池)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1を提供する。
【符号の説明】
【0047】
10 正極シート
12 正極集電体
14 正極合材層
20 負極シート
22 負極集電体
24 負極合材層
40 セパレータ
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
80 捲回電極体
100 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と非水電解液とが電池ケースに収容された構造を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、正極活物質として、LiMnOを固溶したマンガン含有固溶体であって一般式Li[Mn(1−y)]O(Mは、Li及びMn以外の少なくとも一種の金属元素、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3)で表わされるリチウムマンガン酸化物を備え、
ここで前記電池ケースの内部には、酸素を還元可能な少なくとも一種の還元性ガスが配置されていることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記還元性ガスの少なくとも一部は、前記非水電解液に溶解された状態で配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記還元性ガスは、COガスである、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載の電池を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−277790(P2010−277790A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128083(P2009−128083)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】