説明

リチウムイオン二次電池

【課題】リチウムイオン二次電池の電池出力の増大を図る。
【解決手段】電池容器内に、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、正極電極と負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する電極群が収容され、リチウム塩を含む非水電解液が注入されている。リチウムイオン二次電池は、正極合剤層の面積をa、セパレータの面積をb、セパレータの空孔率をcとしたとき、b×c/aのより算出された値を所要の範囲内にすることにより、リチウムイオン二次電池の電池出力密度を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン二次電池に関し、より詳細には、出力特性の向上を図ることが可能なリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池において、出力特性の向上を図るための開発がなされている。リチウムイオン二次電池は、正極合剤層を有する正極電極と負極合剤層を有する負極電極との内外周に配されたセパレータとにより構成された電極群を備えている。
正極合剤層はリチウムを含む酸化物からなり、負極合剤層は黒鉛等のリチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料からなる。セパレータは、リチウムイオンを透過する空孔を有する。充電すると正極合剤層と負極合剤層との間にリチウムがイオンの状態で蓄えられる。
【0003】
このような、リチウムイオン二次電池において、セパレータを挟んで対向する正極活物質(正極合剤の構成部材)層と負極活物質(負極合剤の構成部材)層の厚さの和とセパレータの厚さの比を所定の範囲内にし、かつ、セパレータの透気度を所要の範囲内にすることで電池寿命を向上する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−303625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行文献1においては、電池寿命の向上に関する検討がなされているのみであり、電池出力密度の増大に関する検討はなされていない。本発明の結果に基づけば、上記先行文献1において検討された要素とは異なる要素の最適化により、電池出力密度の増大を図ることができた。すなわち、電池出力密度の向上を図ることが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記状況に鑑みてなされたものであり、電池容器内に、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、正極電極と負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する電極群が収容され、リチウム塩を含む非水電解液が注入されたリチウムイオン二次電池において、正極合剤層の面積をa、セパレータの面積をb、前記セパレータの空孔率をcとしたとき、b×c/aの値を所要の範囲内とすることにより電池出力密度の向上を図ったものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、正極電極の正極合剤層の面積とセパレータにおける空孔面積の比を最適にしたので、非水電解液の適切な量が正極合剤層と負極合剤層との間に保持され、正極電極と負極電極との間の抵抗が低減される。これにより、電池出力密度を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明のリチウムイオン二次電池の一実施の形態の断面図。
【図2】図1に図示されたリチウムイオン二次電池の分解斜視図。
【図3】図1に図示された電極群の詳細を示すための一部を切断した状態の斜視図。
【図4】図3に図示された電極群の正・負極電極、セパレータを一部展開した状態の平面図。
【図5】図3に図示されたセパレータの空孔率を説明するための図であり、(a)は拡大断面図、(b)は拡大平面図。
【図6】本発明の作用を説明するための拡大断面図。
【図7】本発明の効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(二次電池の全体構成)
以下、この発明のリチウムイオン二次電池を、円筒形電池を一実施の形態として図面と共に説明する。
図1は、この発明のリチウムイオン二次電池の断面図であり、図2は、図1に示された円筒形二次電池の分解斜視図である。
円筒形のリチウムイオン二次電池1は、例えば、外形40mmφ、高さ100mmの寸法を有する。
このリチウムイオン二次電池1は、有底円筒形の電池缶2とハット型の電池蓋3とを、通常、ガスケットと言われるシール部材43を介在してかしめ加工を行い、外部から密封された構造の電池容器4を有する。有底円筒形の電池缶2は、鉄、ステンレス等の金属板をプレス加工して形成され、内面および外面の表面全体にニッケル等のめっき層が形成されている。電池缶2は、その開放側である上端部側に開口部2bを有する。電池缶2の開口部2b側には、電池缶2の内側に突き出した溝2aが形成されている。電池缶2の内部には、以下に説明する発電用の各構成部材が収容されている。
【0010】
10は、電極群であり、中央部に軸芯15を有し、軸芯15の周囲に正極電極および負極電極が捲回されている。図3は電極群10の構造の詳細を示し、一部を切断した状態の斜視図である。また、図4は、図3に図示された電極群の正・負極電極、セパレータを一部展開した状態の平面図である。
図3に図示されるように、電極群10は、軸芯15の周囲に、正極電極11、負極電極12、および第1、第2のセパレータ13、14が捲回された構成を有する。
軸芯15は、中空円筒状を有し、軸芯15には、負極電極12、第1のセパレータ13、正極電極11および第2のセパレータ14が、この順に積層され、捲回されている。最内周の負極電極12の内側には第1のセパレータ13および第2のセパレータ14が数周(図3では、1周)捲回されている。電極群10の最外周は負極電極12およびその外周に捲回された第1のセパレータ13および第2のセパレータ14の順となっている(図4参照)。最外周の第2のセパレータ14が接着テープ19で留められる(図2参照)。
なお、図4において、負極電極12と第1のセパレータ13は中間部が切り取られ、この切り取られた部分では、正極電極11および第2のセパレータ14が露出した状態を示している。
【0011】
正極電極11は、アルミニウム箔により形成され長尺な形状を有し、正極シート11aと、この正極シート11aの両面に正極合剤層11bが形成された正極処理部を有する。正極シート11aの長手方向に沿う上方側の一側縁は、正極合剤層11bが形成されずアルミニウム箔が表出した正極合剤未処理部11cとなっている。この正極合剤未処理部11cには、軸芯15と平行に上方に突き出す多数の正極リード16が等間隔に一体的に形成されている。
【0012】
正極合剤層11bは正極活物質と、正極導電材と、正極バインダとから構成される。正極活物質はリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。例として、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リチウム複合酸化物(コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる2種類以上を含むリチウム遷移金属複合酸化物)などが挙げられる。正極導電材は、正極合剤中におけるリチウムの吸蔵放出反応で生じた電子の正極電極への伝達を補助できるものであれば制限は無い。しかし中でも上述の材料である、コバルト酸リチウムとマンガン酸リチウムとニッケル酸リチウムとからなるリチウム遷移金属複合酸化物を使用することにより良好な特性が得られる。
【0013】
正極バインダは、正極活物質と正極導電材を結着させ、また正極合剤と正極集電体を結着させることが可能であり、非水電解液との接触により、大幅に劣化しなければ特に制限はない。正極バインダの例としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)やフッ素ゴムなどが挙げられる。正極合剤層の形成方法は、正極シート11a上に正極合剤層11bが形成される方法であれば制限はない。正極合剤層11bの形成方法の例として、正極合剤の構成物質の分散溶液を正極シート11a上に塗布する方法が挙げられる。このような方法で製造することにより特性の優れた正極合剤が得られる。
【0014】
正極合剤層11bを正極シート11aに形成する方法の例として、ロール塗工法、スリットダイ塗工法、などが挙げられる。正極合剤に分散溶液の溶媒例としてN−メチルピロリドン(NMP)や水等を添加し、混練したスラリを、厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥させた後、ダイカット等により裁断する。正極合剤の塗布厚さの一例としては片側約40μmである。正極シート11aを裁断する際、正極リード16を一体的に形成する。すべての正極リード16の長さは、ほぼ同じである。裁断により正極リード16を形成した後、正極合剤をプレスロールにより熱プレスし、正極合剤の粒子間および正極シート11aとの接触面を増大し、直流抵抗を低減することが望ましい。また、熱プレスにより、正極合剤層11bの厚みが低減するので、同じ直径の電極群10を形成する場合、正極合剤層11bの長さが大きくなり電池容量が増大する。
【0015】
負極電極12は、銅箔により形成され長尺な形状を有し、負極シート12aと、この負極シート12aの両面に負極合剤層12bが形成された負極処理部を有する。負極シート12aの長手方向に沿う下方側の側縁は、負極合剤層12bが形成されず銅箔が表出した負極合剤未処理部12cとなっている。この負極合剤未処理部12cには、正極リード16とは反対方向に延出された、多数の負極リード17が等間隔に一体的に形成されている。この構造により電流を略均等に分散して流すことができ、リチウムイオン二次電池の信頼性の向上に繋がっている。
【0016】
負極合剤層12bは、負極活物質と、負極バインダと、増粘剤とから構成される。負極合剤は、アセチレンブラックなどの負極導電材を有しても良い。負極活物質としては、黒鉛炭素を用いること、特に人造黒鉛を使用することが好ましい。しかしその中でも次に記載する方法により優れた特性の負極合剤層12bが得られる。黒鉛炭素を用いることにより、大容量が要求されるプラグインハイブリッド自動車や電気自動車向けのリチウムイオン二次電池が作製できる。負極合剤層12bの形成方法は、負極シート12a上に負極合剤層12bが形成される方法であれば制限はない。負極合剤を負極シート12aに塗布する方法の例として、負極合剤の構成物質の分散溶液を負極シート12a上に塗布する方法が挙げられる。塗布方法の例として、ロール塗工法、スリットダイ塗工法などが挙げられる。
【0017】
負極合剤層12bを負極シート12aに形成する方法の例として、負極合剤に分散溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンや水を添加し、混練したスラリを、厚さ10μmの圧延銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥させた後、裁断する。負極合剤の塗布厚さの一例としては片側約40μmである。負極シート12aを裁断する際、負極リード17を一体的に形成する。すべての負極リード17の長さは、ほぼ同じである。裁断により負極リード17を形成した後、負極合剤をプレスロールにより熱プレスし、負極合剤の粒子間および負極シート12aとの接触面を増大し、直流抵抗を低減することが望ましい。また、熱プレスにより、負極合剤層12bの厚みが低減するので、同じ直径の電極群10を形成する場合、負極合剤層12bの長さが大きくなり電池容量が増大する。
【0018】
第1のセパレータ13および第2のセパレータ14の幅WSは、負極シート12aに形成される負極合剤層12bの幅WCより大きく形成される。また、負極シート12aに形成される負極合剤層12bの幅WCは、正極シート11aに形成される正極合剤層11bの幅WAより大きく形成される。
負極合剤層12bの幅WCが正極合剤層11bの幅WAよりも大きいことにより、異物の析出による内部短絡を防止する。これは、リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質であるリチウムがイオン化してセパレータを浸透するが、負極側に負極活物質が形成されておらず負極シート12aが露出していると負極シート12aにリチウムが析出し、内部短絡を発生する原因となるからである。
【0019】
第1、第2のセパレータ13、14は、例えば、厚さ40μmのポリエチレン製多孔膜である。
図1および図3において、中空な円筒形状の軸芯15は軸方向(図面の上下方向)の上端部の内面に径大の溝15aが形成され、この溝15aに正極集電部材27が圧入されている。
【0020】
正極集電部材27は、例えば、アルミニウムにより形成され、円盤状の基部27a、この基部27aの内周部において軸芯15側に向かって突出し、軸芯15の内面に圧入される下部筒部27b、および外周縁において電池蓋3側に突き出す上部筒部27cを有する。正極集電部材27の基部27aには、過充電等によって、電池内部で発生するガスを放出するための開口部27d(図2参照)が形成されている。また、正極集電部材27には開口部27eが形成されているが、開口部27eの機能については後述する。
【0021】
正極シート11aの正極リード16は、すべて、正極集電部材27の上部筒部27cに溶接される。この場合、図2に図示されるように、正極リード16は、正極集電部材27の上部筒部27c上に重なり合って接合される。各正極リード16は大変薄いため、1つでは大電流を取りだすことができない。このため、軸芯15への巻き始めから巻き終わりまでの全長に亘り、多数の正極リード16が所定間隔に形成されている。
【0022】
正極集電部材27の上部筒部27cの外周には、正極シート11aの正極リード16および押え部材28が溶接されている。多数の正極リード16を、正極集電部材27の上部筒部27cの外周に密着させておき、正極リード16の外周に押え部材28をリング状に巻き付けて仮固定し、この状態で溶接される。
【0023】
軸芯15の下端部の外周には、外径が径小とされた段部15bが形成され、この段部15bに負極集電部材21が圧入されて固定されている。負極集電部材21は、例えば、抵抗値の小さい銅により形成され、円盤状の基部21aに軸芯15の段部15bに圧入される開口部21bが形成され、外周縁に、電池缶2の底部側に向かって突き出す外周筒部21cが形成されている。
負極シート12aの負極リード17は、すべて、負極集電部材21の外周筒部21cに超音波溶接等により溶接される。各負極リード17は大変薄いため、大電流を取りだすために、軸芯15への巻き始めから巻き終わりまで全長にわたり、所定間隔で多数形成されている。
【0024】
負極集電部材21の外周筒部21cの外周には、負極シート12aの負極リード17および押え部材22が溶接されている。多数の負極リード17を、負極集電部材21の外周筒部21cの外周に密着させておき、負極リード17の外周に押え部材22をリング状に巻き付けて仮固定し、この状態で溶接される。
負極集電部材21の下面には、ニッケルからなる負極通電リード23が溶接されている。
負極通電リード23は、鉄製の電池缶2の底部において、電池缶2に溶接されている。
【0025】
ここで、正極集電部材27に形成された開口部27eは、負極通電リード23を電池缶2に溶接するための電極棒(図示せず)を挿通するためのものである。電極棒を正極集電部材27に形成された開口部27eから軸芯15の中空部に差し込み、その先端部で負極通電リード23を電池缶2の底部内面に押し付けて抵抗溶接を行う。負極集電部材21に接続されている電池缶2は一方の出力端として作用し、電極群10に蓄電された電力を電池缶2から取り出すことができる。
【0026】
多数の正極リード16が正極集電部材27に溶接され、多数の負極リード17が負極集電部材21に溶接されることにより、正極集電部材27、負極集電部材21および電極群10が一体的にユニット化された発電ユニット20が構成される(図2参照)。但し、図2においては、図示の都合上、負極集電部材21、押え部材22および負極通電リード23は発電ユニット20から分離して図示されている。
【0027】
また、正極集電部材27の基部27aの上面には、複数のアルミニウム箔が積層されて構成されたフレキシブルな接続部材33が、その一端を溶接されて接合されている。接続部材33は、複数枚のアルミニウム箔を積層して一体化することにより、大電流を流すことが可能とされ、且つ、フレキシブル性を付与されている。
【0028】
正極集電部材27の上部筒部27c上には、円形の開口部34aを有する絶縁性樹脂材料からなるリング状の絶縁板34が配置されている。
絶縁板34は、開口部34a(図2参照)と下方に突出す側部34bを有している。絶縁板34の開口部34a内には接続板35が嵌合されている。接続板35の下面には、フレキシブルな接続部材33の他端が溶接されて固定されている。
【0029】
接続板35は、アルミニウム合金で形成され、中央部を除くほぼ全体が均一で、かつ、中央側が少々低い位置に撓んだ、ほぼ皿形状を有している。接続板35の中心には、薄肉でドーム形状に形成された突起部35aが形成されており、突起部35aの周囲には、複数の開口部35b(図2参照)が形成されている。開口部35bは、過充電等により電池内部に発生するガスを放出する機能を有している。
【0030】
接続板35の突起部35aはダイアフラム37の中央部の底面に抵抗溶接または摩擦拡散接合により接合されている。ダイアフラム37はアルミニウム合金で形成され、ダイアフラム37の中心部を中心とする円形の切込み37aを有する。切込み37aはプレスにより上面側をV字またはU字形状に押し潰して、残部を薄肉にしたものである。
【0031】
ダイアフラム37は、電池の安全性確保のために設けられており、電池内部に発生したガスの圧力が上昇すると、第1段階として、上方に反り、接続板35の突起部35aとの接合を剥離して接続板35から離間し、接続板35との導通を絶つ。第2段階として、それでも電池内圧が上昇する場合は切込み37aにおいて開裂し、内部のガスを放出する機能を有する。
【0032】
ダイアフラム37は周縁部において電池蓋3の周縁部3aを固定している。ダイアフラム37は図2に図示されるように、当初、周縁部に電池蓋3側に向かって垂直に起立する側部37bを有している。この側部37b内に電池蓋3を収容し、かしめ加工により、側部37bを電池蓋3の上面側に屈曲して固定する。
電池蓋3は、炭素鋼等の鉄で形成され、外側および内側の表面全体にニッケル等のめっき層が施されている。電池蓋3は、ダイアフラム37に接触する円盤状の周縁部3aとこの周縁部3aから上方に突出す有頭無底の筒部3bを有するハット型を有する。筒部3bには開口部3cが形成されている。この開口部3cは、電池内部に発生するガス圧によりダイアフラム37が開裂した際、ガスを電池外部に放出するためのものである。
【0033】
電池蓋3、ダイアフラム37、絶縁板34および接続板35は、一体化され電池蓋ユニット30を構成する。
上述したように、電池蓋ユニット30の接続板35は接続部材33により正極集電部材27と接続されている。従って、電池蓋3は正極集電部材27と接続されている。このように、正極集電部材27と接続されている電池蓋3は他方の出力端として作用し、この他方の出力端として作用する電池蓋3と一方の出力端として作用する電池缶2より電極群10に蓄えられた電力を出力することが可能となる。
【0034】
ダイアフラム37の側部37bの周縁部を覆って、通常、ガスケットと言われるシール部材43が設けられている。シール部材43は、ゴムで形成されており、限定する意図ではないが、1つの好ましい材料の例として、フッ素系樹脂をあげることができる。
【0035】
シール部材43は、当初、図2に図示されるように、リング状の基部43aの周側縁に、上部方向に向けてほぼ垂直に起立して形成された外周壁部43bを有する形状を有している。
【0036】
そして、プレス等により、電池缶2と共にシール部材43の外周壁部43bを屈曲して基部43aと外周壁部43bにより、ダイアフラム37と電池蓋3を軸方向に圧接するようにかしめ加工される。これにより、電池蓋3、ダイアフラム37、絶縁板34および接続板35が一体に形成された電池蓋ユニット30がシール部材43を介して電池缶2に固定される。
【0037】
電池缶2の内部には、非水電解液6が所定量注入されている。非水電解液6の一例としては、リチウム塩がカーボネート系溶媒に溶解した溶液を用いることが好ましい。リチウム塩の例として、フッ化リン酸リチウム(LiPF)、フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、などが挙げられる。また、カーボネート系溶媒の例として、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、或いは上記溶媒の1種類以上から選ばれる溶媒を混合したもの、が挙げられる。
【0038】
(電極群の構造)
次に、電極群の構造について詳述する。
図5は、図3に図示された電極群10を構成するセパレータの空孔率を説明するための図であり、(a)は拡大断面図、(b)は拡大平面図である。
セパレータは、第1のセパレータ13および第2のセパレータ14のいずれも同一の構造を有しており、ここでは、代表してセパレータSとする。
セパレータSは、基材Bの厚さ方向に貫通する多数の空孔hを有する。
セパレータの空孔率cは、下記の式(1)により算出される。
空孔率c={1−(W/ρ)/(L1×L2×t)-----式(1)
W :試験片重量
ρ :試験片密度
L1:試験片幅(側面における長さ)
L2:試験片全長(平面における上記L1とは異なる辺の長さ)
t :試験片厚み(側面における上記L1とは異なる辺の長さ)
なお、L2:試験片全長に関して説明を補足する。セパレータSの先端は、巻始め側において、負極電極12の先端よりも軸心側に位置しており、このセパレータSの先端から負極電極12の先端までの間の領域を先巻き領域という。また、セパレータSの後端は、巻終り側において、負極電極12の後端よりも外側に位置しており、このセパレータSの後端から負極電極12の後端までの間の領域を後巻き領域という。セパレータSの全長とは、負極電極12に対応する領域、先巻き領域および後巻き領域を含めた長さのことである。
【0039】
図6は、本発明の作用を説明するための拡大断面図である。
上述した如く、電極群10は、軸芯15に、負極電極12、第1のセパレータ13、正極電極11および第2のセパレータ14が、この順に積層され、捲回されて構成されている。
すなわち、正極電極11と負極電極12とは、第1のセパレータ13または第2のセパレータ14のいずれか(代表してセパレータSとする)を介して対向している。
正極電極11の正極シート11aの両面に正極合剤層11bが形成され、負極電極12の負極シート12aの両面には、負極合剤層12bが形成されている。これにより、正極合剤層11bと負極合剤層12bとが、セパレータSを介して対向している。負極合剤層12bの幅WCは正極合剤層11bの幅WAより大きく、セパレータSの幅WSは負極合剤層12bの幅WCよりも大きい。
【0040】
上述した如く、セパレータSには多数の空孔hが形成されている。
リチウムイオン二次電池1は、充電時に、正極合剤層11bに含まれる正極活物質が非水電解液6と反応してリチウムイオンを生成し、セパレータSの空孔hを介して負極電極12側に移動し負極電極12内部に潜り込む、所謂、インサーションあるいはインターカレーションといわれる作用を生じる。また、放電時には、逆に、リチウムイオンが負極電極12から出てセパレータSの空孔hを介して正極電極11に入り込む、所謂、エクストラクションまたはデインターカレーションといわれる作用を生じる。インサーション(インターカレーション)の場合も、エクストラクション(デインターカレーション)の場合も、リチウムイオンが負極電極12または正極電極11の表面に析出することはない。
【0041】
一般的に、リチウムイオン二次電池1では、セパレータSが、薄膜、大孔径、大空孔率、高透気度であればリチウムイオンの移動が容易であり、イオン透過性が高い。しかし、膜密度が粗となるため、機械的強度は低下する。現在の技術水準では、機械的強度の面から空孔率が50%を超えたセパレータSを製作することは困難である。
一方、セパレータSが、厚膜、小孔径、小空孔率、低透気度であると膜密度の増加と共に機械的強度が向上する。反面、リチウムイオンの移動が困難となる。
【0042】
図6を参照すると、正極合剤層11bと負極合剤層12b間に保持される非水電解液の液量は、正極合剤層11bの面積、換言すれば発電部面積、およびセパレータSにおける空孔面積により変化する。正極合剤層11bと負極合剤層12b間に保持される電解液の液量は、正極合剤層11b中の正極活物質との反応に影響することから、電池出力に関連するものと考えられる。
そこで、本発明は、正極合剤層11bの面積、換言すれば発電部面積と、セパレータSにおける空孔面積との比に対する電池出力の関連に基づいて電池出力の向上を図るものである。
【0043】
[実施例1]
実施例1では、正極合剤層の面積をa、セパレータの面積をb、セパレータの空孔率をcとしたとき、b×c/a=0.598であるリチウムイオン二次電池1を複数個作製した(実施例1におけるセパレータの空孔率cは47であった)。
[実施例2]
実施例2では、正極合剤層の面積をa、セパレータの面積をb、セパレータの空孔率をcとしたとき、b×c/a=0.582であるリチウムイオン二次電池1を複数個作製した(実施例2におけるセパレータの空孔率cは47であった)。
[実施例3]
実施例3では、正極合剤層の面積をa、セパレータの面積をb、セパレータの空孔率をcとしたとき、b×c/a=0.587であるリチウムイオン二次電池1を複数個作製した(実施例3におけるセパレータの空孔率cは47であった)。
[実施例4]
実施例4では、正極合剤層の面積をa、セパレータの面積をb、セパレータの空孔率をcとしたとき、b×c/a=0.581であるリチウムイオン二次電池1を複数個作製した(実施例4におけるセパレータの空孔率cは45であった)。
[比較例]
比較のため、b×c/a=0.549である従来構造のリチウムイオン二次電池を複数個作製した(比較例におけるセパレータの空孔率cは45であった)。
【0044】
(効果の確認)
以上のように作製した実施例1〜4及び比較例の各リチウム電池の複数個ずつについて、初期出力を測定し、出力特性を評価した。
初期出力の測定では、25±2℃の雰囲気において4.1Vの満充電の状態から10A、30A、90Aの電流値で各10秒間放電し、各10秒目の電池電圧を測定した。横軸電流値に対して電池電圧を縦軸にプロットし、3点を直線近似した直線が終止電圧である2.7Vと交差する点の電流値を読み取り、この電流値と2.7Vとの積を電池重量で割った値をそのリチウムイオン二次電池1の出力密度とした。
その結果を表1に示す。表1に示された出力(相対値)の値は、比較例の出力密度を100としたときの各実施例における出力密度の相対値であり、各実施例における測定値の平均値で示した。なお、試験を通じて、セパレータSは、厚さtが18〜25μmのものを用いたが、厚さtの相違は、電池出力の増減に殆ど影響がないことが確認された。
【表1】

【0045】
実施例1〜実施例3は、比較例に対し出力密度(相対値)で111%と良好な出力特性を示した。また、実施例4と比較例では、空孔率cが共に45と同一であるが、出力密度は、実施例4が比較例に対し106%と、より大きい結果が得られた。
また、表1の内容を、図7の出力比―b×c/a特性図で示した。
図7においては、横軸b×c/aに対して比較例基準の出力密度の相対値を縦軸にプロットした。
【0046】
表1および図7を参照すると、電池出力密度(出力比)の増大は、空孔率cとの関連性はあるが、実施例4の如く、空孔率cが比較例と同一の場合でも、電池出力密度に差異が出ることがあり、空孔率cのみでは決定できないことが判る。
電池出力密度は、それよりも、b×c/aの値に、より近似する。
図7に実線で示した出力比−b×c/a特性曲線から、b×c/aの値が0.57における出力比は、実施例4の場合とほぼ同等もしくはそれ以上であって、従来よりも電池出力密度が増大することが判る。
また、図7の出力比−b×c/a特性曲線において、b×c/aの値が0.6程度付近では、出力比はほぼ一定の値(111%程度)となり、b×c/aの値が0.6を超えても、出力密度はほとんど増大しない。
従って、b×c/aの値を0.57〜0.60とすることで、従来よりも出力特性の向上を得ることができる。
【0047】
この場合、実施例1〜3および実施例4を対比すると、セパレータの空孔率c=47の場合の方が空孔率=45の場合よりも電池出力密度が大きい。従って、空孔率cを47よりも大きくすれば、b×c/aの値を0.57〜0.60の範囲内にすることは容易である。この場合、前述した如く、現在の技術水準では空孔率cが50を超えるセパレータSを作製することは困難であるので、空孔率c=50が実質的な上限となる。
【0048】
また、セパレータSの空孔率cが43未満の場合には、電池寿命、電池容量等の電池性能の面で、かなり低下することが確認されている。このため、空孔率c=43が実質的な下限となる。
【0049】
これらのことから、下記の結果が得られた。
(1)正極合剤層11bの面積をa、セパレータSの面積をb、セパレータSの空孔率をcとしたとき、下記の式(I)に示す関係を満足することにより、従来よりも、電池出力密度が大きいリチウムイオン二次電池を得ることができる。
0.57<b×c/a<0.60----(I)
この場合、b×c/aの値が上記の式(I)の範囲内であることが、従来の出力密度に対して100%以上であることの閾値を示すものではない。b×c/aの値が上記の式(I)の範囲内であることは、従来の出力密度よりも大きい出力密度とすることに十分であり、かつ、リチウムイオン二次電池の作製が容易であることを示すものである。
(2)セパレータSの空孔率cが43〜50であれば、上記の式(I)を満足するリチウムイオン二次電池の作製が容易である。
(3)セパレータSの厚さtは、電池出力密度の大きさに対してあまり関係がない。
従って、電池容量増大の観点からは十分に薄くしてもよい。実施例1〜4では、セパレータの厚さt=18〜25μmとした。
【0050】
以上のように、本発明に係るリチウムイオン二次電池においては、正極合剤層の面積とセパレータにおける空孔面積の比を最適にしたので、非水電解液の適切な量が正極合剤層と負極合剤層との間に保持され、正極電極と負極電極との間の抵抗が低減される。これにより、電池出力密度を向上することが可能となった。
【0051】
なお、上記実施形態では、リチウムイオン二次電池として、円筒形の二次電池を一実施の形態として説明した。しかし、本発明は、角形のリチウムイオン二次電池に対しても適用することが可能である。
【0052】
その他、本発明のリチウムイオン二次電池は、発明の趣旨の範囲内において、種々、変形して適用することが可能であり、要は、池容器内に、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、正極電極と負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する電極群が収容され、リチウム塩を含む非水電解液が注入されたリチウムイオン二次電池において、正極合剤層の面積をa、セパレータの面積をb、前記セパレータの空孔率をcとしたとき、b×c/aの値を所要の範囲内としたものであればよい。
【符号の説明】
【0053】
1 リチウムイオン二次電池
4 電池容器
10 電極群
11 正極電極
11b 正極合剤層
13、14、S セパレータ
20 発電ユニット
30 電池蓋ユニット
h 空孔



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池容器内に、リチウム遷移金属複合酸化物を含む正極合剤層を有する正極電極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極合剤層を有する負極電極と、前記正極電極と前記負極電極の内外周に配されたセパレータとを有する電極群が収容され、リチウム塩を含む非水電解液が注入されたリチウムイオン二次電池において、前記正極合剤層の面積をa、前記セパレータの面積をb、前記セパレータの空孔率をcとしたとき、下記の式(I)に示す関係を満足するリチウムイオン二次電池。
0.57<b×c/a<0.60----(I)
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池において、前記電極群は円筒形を有し、前記セパレータの面積は、先巻き領域の面積及び後巻き領域の面積を含むリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池において、前記セパレータは空孔率が43〜50であるリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池において、前記セパレータは空孔率が45〜50であるリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載のリチウムイオン二次電池において、前記セパレータは、厚さが18〜25μmであるリチウムイオン二次電池。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−138193(P2012−138193A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288257(P2010−288257)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】