説明

リチウムイオン伝導性ゲル及び製造方法

【課題】
従来のリチウムイオン伝導性ゲルと比較して、高いイオン伝導率と高い電解液の保持性を共に有するリチウムイオン伝導性ゲルを提供する。
【解決手段】
下記式(1)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオール5〜65mol%、及び下記式(2)で示される構造単位からなり両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール95〜35mol%からなるジオール混合物を平均官能基数が2を超える脂肪族ポリイソシアネートを反応させて得られるポリウレタン、炭酸エステル溶剤、及び電解質塩からなることを特徴とするリチウムイオン伝導性ゲル。


(Rは炭素数2〜9の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)
−R−O− (2)
(Rは炭素数2〜15の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン伝導性ゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、その中でも特にリチウムイオン二次電池はエネルギー密度や動作電圧が高く、長寿命であり、さらにメモリ効果が少ないという利点があることから、携帯電話、コンピューター、電動工具、自動車、保安機器等の幅広い用途で使用されている。リチウムイオン電池は酸化、還元反応を利用して電気エネルギーを取り出している。従って、リチウムイオン電池には酸化反応が起きる電極と還元反応が起きる電極の間にイオン伝導性を有する相が必須成分として含まれている。従来、このイオン伝導性を有する相として、電解質塩を溶解した有機溶媒からなる電解液、イオン性液体、電解液とポリマー等からなるイオン伝導性ゲル、ポリマーや無機物を利用した固体電解質等が使用されている。一般に、物質中のイオン伝導性はイオン伝導性を有する相の分子運動性に依存する。電解液やイオン性液体は分子運動性が高くイオン伝導率も高いが、液漏れや機械的強度が乏しいために電極間の短絡が起きる等の課題がある場合もあった。一方、固体電解質は液漏れや短絡等が起きる可能性は低いものの、イオン伝導率が低いという課題があった。イオン伝導性ゲルは、電解液やイオン性液体のような液体と、固体電解質の双方の長所を持つ伝導体が得られる可能性を有している。
【0003】
一般的に高機能ポリウレタンの原料として、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリオレフィン系等の各種ジオールが用いられている。これらジオールをジイソシアネート基等で架橋させた構造体に電解液を閉じこめたリチウムイオン伝導性ゲルの開発も従来より実施されている。例えば特許文献1には、アルキレンカーボネートから得られるヘキサメチレン基を有するポリカーボネートジオール(C6−PCD)を使用したポリウレタンを用いたリチウムイオン伝導性ゲルが提案されている。しかしながら、このC6−PCDを使用したポリウレタンは、炭酸エステル類等の溶媒との親和性が低いため、ゲルが電解液を保持する能力に乏しく、電池に用いた場合液漏れを起こしやすい、或いは電解液に対するポリウレタン成分比が高いリチウムイオン伝導性ゲルしか得られず、得られたゲルのイオン伝導率が低いという課題があった。
【0004】
この課題を解決するために、例えば特許文献2には、特定の構造を持ったポリカーボネートジオールを使用したポリウレタンを用いたリチウムイオン伝導性ゲルが提案されている。この方法ではゲルが電解質を保持する能力は向上したものの、用途によっては得られたゲルのイオン伝導率が不十分であるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−313074号公報
【特許文献2】特開2006−120569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高いイオン伝導率と高い電解液の保持性を共に有するリチウムイオン伝導性ゲルを提供するものである。このリチウムイオン伝導性ゲルを用いることで、高電流を取り出しやすく、液漏れ等の電解液の保持性の低さから来る課題が解決されたリチウムイオン電池を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するため、特定の構造を有するポリカーボネートジオールとポリエーテルジオールを特定の比率で混合したジオールを使用したポリウレタンと、炭酸エステル溶剤、及び電解質塩からなることを特徴とするリチウムイオン伝導性ゲルが高いイオン伝導率と高い電解液の保持性を共に有することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記の[1]から[8]の発明である。
【0009】
[1] 下記式(1)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオール5〜65mol%、及び下記式(2)で示される構造単位からなり両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール95〜35mol%を含むジオール混合物と、平均官能基数が2を超える脂肪族ポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタン、炭酸エステル溶剤、及び電解質塩からなることを特徴とするリチウムイオン伝導性ゲル。
【化1】


(Rは炭素数2〜9の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)
−R−O− (2)
(Rは炭素数2〜15の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)
【0010】
[2] 両末端が水酸基であるポリカーボネートジオール中に、下記式(3)で示される構造単位を40〜100mol%含むことを特徴とする[1]のリチウムイオン伝導性ゲル。
【化2】


(mは3または4を含み、3、4、5、6から選択される1種もしくは2種以上の整数である。)
【0011】
[3] 両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中に、下記式(4)で示される構造単位を25〜100mol%含むことを特徴とする[1]または[2]のリチウムイオン伝導性ゲル。
−(CH−O− (4)
(nは2〜12の整数である。)
【0012】
[4] 両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中に、下記式(5)で示される構成単位からなるポリエーテルジオールを50mol%以上含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかのリチウムイオン伝導性ゲル。
−(CH−O− (5)
【0013】
[5] 両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中に、下記式(6)で示される構造単位を5〜50mol%含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかのリチウムイオン伝導性ゲル。
【化3】

【0014】
[6] 両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中に、下記式(7)で示される構成単位と下記式(8)で示される構造単位とからなるポリエーテルジオールであって、下記式(8)で示される構造単位を0.1〜50mol%含み、かつ下記式(8)で示される構造単位に隣接するのは下記式(7)で示される構成単位または末端のアルコール性水酸基のみであるポリエーテルジオールを50mol%以上含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかのリチウムイオン伝導性ゲル。
−(CH−O− (7)
【化4】

【0015】
[7] 脂肪族ポリイソシアネートが、イソシアヌレート変性ポリイソシアネートであることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかのリチウムイオン伝導性ゲル。
【0016】
[8] 電解質塩を含む炭酸エステル溶剤中で、下記式(9)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオール5〜65mol%、及び下記式(10)で示される構造単位からなり両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール95〜35mol%を含むジオール混合物と、平均官能基数が2を超える脂肪族ポリイソシアネートとを反応させることによるリチウムイオン伝導性ゲルの製造方法。
【化5】


(Rは炭素数2〜9の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)
−R−O− (10)
(Rは炭素数3〜15の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)
【発明の効果】
【0017】
本発明のリチウムイオン伝導性ゲルは、高いイオン伝導率と高い電解液の保持性を共に有する。このリチウムイオン伝導性ゲルを用いることで、高電流を取り出しやすく、液漏れ等の電解液の保持性の低さから来る課題が解決されたリチウムイオン電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明のリチウムイオン伝導性ゲルは、支持体であるポリウレタン、炭酸エステル溶剤、及び電解質塩からなる。さらに、支持体であるポリウレタンは、上記式(1)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオール5〜65mol%、及び上記式(2)で示される構造単位からなり両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール95〜35mol%を含むジオール混合物と、平均官能基数が2を超える脂肪族ポリイソシアネートとを反応させて得られる。
【0020】
本発明の上記式(1)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオールは、上記式(1)で示される構造単位の重合度が2から10000であればいずれであってもよい。上記式(1)で示される構造単位の重合度が1の場合、及び上記式(1)で示される構造単位の重合度が10000を超えた場合、得られるポリウレタンの溶剤保持性が低下する傾向がある。さらに好ましくは上記式(1)で示される構造単位の重合度が5から2000、特に好ましくは上記式(1)で示される構造単位の重合度が5から500である。
【0021】
上記式(1)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオール中、上記式(3)で示される直鎖状のアルキレン基からなる構造単位からなるポリカーボネートジオールを40〜100mol%含むものもまた本発明の効果を発現しやすく好ましい。上記式(3)で示される直鎖状のアルキレン基からなる構造単位を含むポリカーボネートジオールがポリカーボネートジオール成分中40mol%未満の場合、得られるポリウレタンの溶剤保持性が低下する傾向がある。さらに、複数の構造単位を持つポリカーボネートジオールは溶剤の保持性に優れ好ましい。
【0022】
本発明のポリウレタンを構成するジオール混合物中、上記式(1)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオールの含有量は5〜65mol%である。上記式(1)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオールの含有量が5mol%未満の場合、得られるポリウレタンの溶剤保持性が低下する傾向にあり、上記式(1)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオールの含有量が65mol%を超えると、イオン伝導率が低下する傾向がある。
【0023】
本発明の上記式(2)で示される構造単位からなり両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオールは、上記式(2)で示される構造単位の重合度が2から10000であればいずれであってもよい。上記式(2)で示される構造単位の重合度が1の場合、及び上記式(2)で示される構造単位の重合度が10000を超えた場合、得られるポリウレタンのイオン伝導率が低下する傾向がある。さらに好ましくは上記式(2)で示される構造単位の重合度が5から2000、特に好ましくは上記式(2)で示される構造単位の重合度が5から500である。
【0024】
上記式(2)で示される構造単位からなり両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中、上記式(4)で示される直鎖状のアルキレン基からなる構造単位からなるポリエーテルジオールを25〜100mol%含むものもまた本発明の効果を発現しやすく好ましい。さらに好ましくは上記式(5)で示される構造単位を50mol%含むものである。上記式(4)で示される直鎖状のアルキレン基からなる構造単位を含むポリエーテルジオールがポリエーテルジオール成分中25mol%未満の場合、得られるポリウレタンのイオン伝導率が低下する傾向がある。
【0025】
本発明の上記式(2)で示される構造単位からなり両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール成分中に、上記式(6)で示される構造単位を5〜50mol%含むものもまた好ましい。この場合、上記式(6)で示される構造単位を含むポリエーテルジオールは1種類であっても2種類以上であってもよい。また、上記式(6)で含まれる構造単位を含む1種類以上のポリエーテルジオールと上記式(6)で含まれる構造単位を含まない1種類以上のポリエーテルジオールの混合物であってもよい。上記式(6)で示される構造単位がポリエーテルジオール成分中5mol%未満の場合、及び50mol%を超える場合、上記式(6)で示される構造単位がポリエーテルジオール中に均一分散されにくい傾向がある。
【0026】
両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中に、上記式(7)で示される構成単位と上記式(8)で示される構造単位とからなるポリエーテルジオールであって、下記式(8)で示される構造単位を0.1〜50mol%含み、かつ上記式(8)で示される構造単位に隣接するのは上記式(7)で示される構成単位または末端のアルコール性水酸基のみであるポリエーテルジオールを50mol%以上含むものも、本発明の効果を発現しやすくまた好ましい。
【0027】
本発明のポリイソシアネートは、平均官能基数が2を超える脂肪族ポリイソシアネート、好ましくは炭素数1〜50の脂肪族ポリイソシアネートである。ポリイソシアネートの平均官能基数は、次式:
(GPC数平均分子量×(イソシアネート基重量%/100))/42
で算出された値である。平均官能基数が2を超える脂肪族ポリイソシアネートは、通常脂肪族ジイソシアネートから誘導され、イソシアヌレート変性ポリイソシアネート、アロハネート変性ポリイソシアネート、ビュレット変性ポリイソシアネートが例示できる。これらの中で、電気化学的な安定性の観点からイソシアヌレート変性ポリイソシアネートが好ましい。イソシアヌレート変性ポリイソシアネートとしては、下記式(11)に示す構造のポリイソシアネートを主体としたポリイソシアネートが、イオン伝導率の観点から好ましい。
【化6】

【0028】
本発明の炭酸エステル溶剤は、電解質塩を溶解し、炭酸エステル結合を持つ溶媒であればいずれであってもよい。具体例として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−エチルー1,3−ジオキソラン−2−オン、1,3−オキサン−2−オン等が挙げられる。これら1種以上の炭酸エステル溶剤に、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等を添加して使用してもよい。
【0029】
本発明のリチウムイオン伝導性ゲル中における炭酸エステル溶剤の量は、ジオール混合物と脂肪族ポリイソシアネートからなるポリウレタン重量100重量部に対して、50重量%以上が本発明の効果を発現するために好ましく、100重量%以上がさらに好ましい。
【0030】
本発明の電解質塩は、炭酸エステル溶剤に溶解し、アニオンとカチオンに解離してイオン伝導性を示すものであればいずれであってもよい。好ましくはリチウム塩である。具体例として、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiBPH、LiBOB(lithium bis (oxalato) borate)等が挙げられる。
【0031】
本発明のリチウムイオン伝導性ゲルは、一旦ポリウレタンフイルムを作成し、これに電解質塩を含む炭酸エステル溶剤で膨潤させる方法と、電解質塩を含む炭酸エステル溶剤中でジオール混合物と脂肪族ポリイソシアネートを反応させる方法がある。電解質塩を含む炭酸エステル溶剤中でジオール混合物と平均官能基数が2を超える脂肪族ポリイソシアネートを反応させる方法が電解質塩の炭酸エステル溶液をポリウレタンに含浸させやすく、設計の自由度が大きく、かつ生産性に優れ好ましい。この方法では、例えば、電極とセパレーターを組み合わせて電池前駆体を作成した後、炭酸エステル溶剤にジオール混合物、脂肪族ポリイソシアネート、電解質塩を溶解させた溶液を電池前駆体に注入し、加熱することにより電極間にゲルを生成させる方法がある。この方法は、ゲルと電極の間の密着性が高く好ましい。
【実施例】
【0032】
本発明を実施例に基づき説明する。
【0033】
実施例及び比較例で用いたポリカーボネートジオール、ポリエーテルジオールは以下の製造例に従って合成した。
【0034】
[製造例1]
攪拌機と蒸溜塔を備えた減圧可能な反応器に、1,6−ヘキサンジオール56重量部、1,4−ブタンジオール100重量部、エチレンカーボネート77重量部、チタニウムテトラブトキシド0.0122重量部を仕込み、135℃、常圧でエステル交換反応を開始し、徐々に反応温度を180℃まで昇温し、同時に圧力を5Torrまで徐々に減じた。この時、前半の反応では、蒸溜塔の塔頂からエチレングリコールが少量の共沸するエチレンカーボネートを伴って溜出し、反応の後半では、残存モノマーである1,6−ヘキサンジオールと1,4−ブタンジオールが溜出した。反応終了後に反応器内には生成物である液状の2官能共重合ポリカーボネートジオール(PC−1)が残った。PC−1の数平均分子量をアセチル化による水酸基末端定量により算出したところ、2003g/molであった。
【0035】
[製造例2]
製造例1と同様の方法で、2−メチル−1,3−プロパンジオール43重量部、1,4−ブタンジオール100重量部、エチレンカーボネート82重量部、チタニウムテトラブトキシド0.0132重量部を反応させると、数平均分子量1998g/molである液状の2官能共重合ポリカーボネートジオール(PC−2)が得られた。
【0036】
[製造例3]
攪拌機と還流コンデンサーを備えた反応器に、テトラヒドロフラン100重量部、6水配位燐タングステン酸150重量部を60℃、6時間反応させた。反応終了後静置すると、反応器内部の液体は2層に分離していた。上層を取り出し、0.5重量部の消石灰を加え濾過した後、テトラヒドロフランを減圧除去すると、生成物であるポリテトラメチレングリコール(PTMG)が得られた。PTMGの数平均分子量をアセチル化による水酸基末端定量により算出したところ、1894g/molであった。
【0037】
[製造例4]
分溜塔、コンデンサー、還流バルブ等一式よりなる分溜装置と攪拌機と原料供給口を備えた反応器の回りに熱媒の循環するジャケットつき反応器を組み合わせた。原料供給口からネオペンチルグリコール120重量部、テトラヒドロフラン100重量部を入れ、さらに攪拌しながら6水配位燐タングステン酸300重量部を仕込んだ。循環する熱媒の温度を95℃に保ち、反応液の温度が85℃に達した時を反応開始時間とし、以降テトラヒドロフランの供給により反応液の温度を85℃にコントロールした。反応開始20分後、分溜塔頂温度を63℃にし、含水テトラヒドロフランを溜出させた。ここから10時間反応を継続した。反応終了後静置すると、反応器内部の液体は2層に分離していた。上層を取り出し、残留溶媒を減圧除去すると、生成物であるネオペンチルグリコールとテトラメチレングリコールの共重合体(N−PTMG)が得られた。N−PTMGの数平均分子量をアセチル化による水酸基末端定量により算出したところ、1860g/molであった。また、H−NMRから、ネオペンチルグリコールの共重合比は38mol%であった。
【0038】
[実施例1]
ポリオールとして、製造例1で得られたPC−1を10mol%及び製造例3で得られたPTMGを90mol%、デュラネートTPA−100(イソシアヌレート系ポリイソシアネート、NCO濃度23.1重量%、旭化成ケミカルズ(株)製)をPC−1とPTMG合計の重量を100重量部に対して20重量%、ウレタン化触媒としてBuSn(OCOC11をPC−1とPTMG合計の重量を100重量部に対して0.2重量%、電解質塩であるLiPFのプロピレンカーボネート1mol/l溶液をPC−1とPTMG合計の重量を100重量部に対して600重量%をガラス製容器に入れて60℃で均一に混合した溶液を60℃のホットプレート上の125μmのスペーサーを持つテフロン(登録商標)シートに塗布し、さらに上からステンレス板を押しつけ、1時間保持した。スペーサーつきテフロン(登録商標)シート、試料、ステンレス板をホットプレートから取り外し、冷却後、スペーサーつきテフロン(登録商標)シート及びステンレス板を外すと、厚さ127μmのゲル状膜が得られた。得られたゲル状膜は電解液の漏れがなく、電解液の保持性に優れたものであった。得られたゲル状膜を1cm四方に切り出し、該ゲル状膜の両面を6mm幅短冊のステンレスシートで挟み込み、このステンレスシートを電極として交流インピーダンス解析(398型インピーダンス測定装置(EG&G社製)、測定周波数100kHz〜1Hz)を行い、ナイキストプロットの複素インピーダンス実部切片からイオン伝導率を測定したところ、イオン伝導率は0.81mS/cmであった。結果を表1に示す。
【表1】

【0039】
[実施例2〜9]
ポリオールとして、製造例1で得られたPC−1、製造例2で得られたPC−2、製造例3で得られたPTMG、製造例4で得られたN−PTMGのいずれか2種以上を表1に示すmol%の割合で混合した以外は、実施例1の方法で反応及び測定を行った。いずれの実施例の場合もゲル状膜が得られた。得られたゲル状膜は電解液の漏れがなく、電解液の保持性に優れたものであった。各実施例で得られたゲル状膜のイオン伝導率を表1に示す。
【0040】
[実施例10]
ポリオールとして、製造例1で得られたPC−1を30mol%、ポリエチレングリコール(PEG、数平均分子量2000、和光純薬(株)製)を70mol%の割合で混合した以外は、実施例1の方法で反応及び測定を行った。本実施例の場合もゲル状膜が得られた。得られたゲル状膜は電解液の漏れがなく、電解液の保持性に優れたものであった。イオン伝導率は0.63mS/cmであった。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例1]
ポリオールとして、製造例1で得られたPC−1のみを用いた以外は、実施例1の方法で反応及び測定を行った。本比較例の場合もゲル状膜が得られた。得られたゲル状膜は電解液の漏れがなく、電解液の保持性に優れたものであった。しかしながら、イオン伝導率は0.29mS/cmであり、上記各実施例と比較して大幅に低いものであった。結果を表2に示す。
【表2】

【0042】
[比較例2]
ポリオールとして、製造例2で得られたPC−2のみを用いた以外は、実施例1の方法で反応及び測定を行った。本比較例の場合もゲル状膜が得られた。得られたゲル状膜は電解液の漏れがなく、電解液の保持性に優れたものであった。しかしながら、イオン伝導率は0.23mS/cmであり、上記各実施例と比較して大幅に低いものであった。結果を表2に示す。
【0043】
[比較例3、4]
ポリオールとして、製造例1で得られたPC−1または製造例2で得られたPC−2、及び製造例3で得られたPTMGのいずれか2種を表2に示すmol%の割合で混合した以外は、実施例1の方法で反応及び測定を行った。いずれの比較例の場合もゲル状膜が得られた。得られたゲル状膜は電解液の漏れがなく、電解液の保持性に優れたものであった。しかしながら、イオン伝導率は比較例3が0.32mS/cm、比較例4が0.28mS/cmであり、上記各実施例と比較して大幅に低いものであった。結果を表2に示す。
【0044】
[比較例5〜7]
ポリオールとして、製造例3で得られたPTMG、製造例4で得られたN−PTMG、ポリエチレングリコール(PEG、数平均分子量2000、和光純薬(株)製)のいずれか1種のみを用いた以外は、実施例1の方法で反応を行った。いずれの比較例の場合も、反応後の試料は液体とゲル状物に分離しており、ゲル状膜を得ることができなかった。すなわち、得られたゲル状物は電解液の保持性が大幅に劣るものであった。結果を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により、高いイオン伝導率と高い電解液の保持性を共に有するリチウムイオン伝導性ゲルが提供できる。このリチウムイオン伝導性ゲルを用いることで、高電流を取り出しやすく、液漏れ等の電解液の保持性の低さから来る課題が解決されたリチウムイオン電池を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオール5〜65mol%、及び下記式(2)で示される構造単位からなり両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール95〜35mol%を含むジオール混合物と、平均官能基数が2を超える脂肪族ポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタン、炭酸エステル溶剤、及び電解質塩からなることを特徴とするリチウムイオン伝導性ゲル。
【化1】


(Rは炭素数2〜9の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)
−R−O− (2)
(Rは炭素数2〜15の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)
【請求項2】
前記両末端が水酸基であるポリカーボネートジオール中に、下記式(3)で示される構造単位を40〜100mol%含むことを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン伝導性ゲル。
【化2】


(mは3または4を必須とし、3、4、5、6から選択される1種もしくは2種以上の整数である。)
【請求項3】
前記両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中に、下記式(4)で示される構造単位を25〜100mol%含むことを特徴とする請求項1または2記載のリチウムイオン伝導性ゲル。
−(CH−O− (4)
(nは2〜12の整数である。)
【請求項4】
両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中に、下記式(5)で示される構成単位からなるポリエーテルジオールを50mol%以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性ゲル。
−(CH−O− (5)
【請求項5】
前記両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中に、下記式(6)で示される構造単位を5〜50mol%含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性ゲル。
【化3】

【請求項6】
前記両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール中に、下記式(7)で示される構成単位と下記式(8)で示される構造単位とからなるポリエーテルジオールであって、下記式(8)で示される構造単位を0.1〜50mol%含み、かつ下記式(8)で示される構造単位に隣接するのは下記式(7)で示される構成単位または末端のアルコール性水酸基のみであるポリエーテルジオールを50mol%以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性ゲル。
−(CH−O− (7)
【化4】

【請求項7】
前記脂肪族ポリイソシアネートが、イソシアヌレート変性ポリイソシアネートであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性ゲル。
【請求項8】
電解質塩を含む炭酸エステル溶剤中で、下記式(9)で示される構造単位からなり両末端が水酸基であるポリカーボネートジオール5〜65mol%、及び下記式(10)で示される構造単位からなり両末端がアルコール性水酸基であるポリエーテルジオール95〜35mol%を含むジオール混合物と、平均官能基数が2を超える脂肪族ポリイソシアネートとを反応させることによるリチウムイオン伝導性ゲルの製造方法。
【化5】


(Rは炭素数2〜9の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)
−R−O− (10)
(Rは炭素数3〜15の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。)

【公開番号】特開2011−216443(P2011−216443A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86114(P2010−86114)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】