説明

リチウムイオン伝導性酸化物及びその製造方法、並びにそれを部材として使用した電気化学デバイス

【課題】イオン伝導性の向上に適するような、結晶構造の長周期性、変調性を有する立方晶ガーネット関連型リチウムイオン伝導性酸化物及びその製造方法、並びにそれを部材として使用した電気化学デバイスを提供すること。
【解決手段】化学組成として、リチウム、ランタン、ジルコニウム、酸素から構成され、Li7+xLa3+xZr2−x12(―3<x<2、x≠0)なる化学組成式で標記されることを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物及びその製造方法、並びにその化合物を固体電解質部材として含む電気化学デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性酸化物及びその製造方法、並びにそれを部材として使用した電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在我が国においては、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯型電子機器に搭載されている二次電池のほとんどは、リチウム二次電池である。また、リチウム二次電池は、今後はハイブリッドカー、電力負荷平準化システム用などの大形電池としても実用化されるものと予想されており、その重要性はますます高まっている。
【0003】
このリチウム二次電池は、いずれもリチウムを可逆的に吸蔵・放出することが可能な材料を含有する正極及び負極、非水系有機溶媒にリチウムイオン伝導体を溶解させた電解液、セパレータを主要構成要素とする。
【0004】
これらの構成要素のうち、電解液として検討されているのは、過塩素酸リチウム、6フッ化リン酸リチウム等の電解質を、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の溶媒に溶解させたもの、等が挙げられる。
【0005】
これらの材料は、良好なリチウムイオン伝導性を有することから、現行のリチウム二次電池のほとんどすべてにおいて、このような液系の電解質が採用されている。
【0006】
しかしながら、このような液系の電解質を採用したリチウム二次電池は、電池の構成から、正極と負極の短絡を起こしやすく、短絡による発熱・発火を引き起こすことから、安全上の問題があった。
【0007】
また、電解液自身が4.3V以上の高電圧では分解してしまうことから、作動電圧は4.3V以上に上げられないことが、電池の容量を増加させる上で、問題であった。
【0008】
このような目的で、電解質を液系ではなく、固体化することで、安全性が確保できることが期待され、かつ広い電位窓においても化学的に安定な高分子ポリマーや無機系のセラミックスなどを電池電解質とする電池の開発が検討されてきている。
【0009】
中でも酸化物セラミックス系固体電解質は、化学的な安定性が高く、安全性の観点から注目されている。
【0010】
このうち、リチウムアルミニウムチタンリン酸化物、ペロブスカイト型リチウムランタンチタン酸化物などのチタン酸化物が、良好なリチウム伝導性を有することから広く検討されてきた。
【0011】
しかしながら、充放電時に、電極材料と酸化還元反応を起こしてしまい、チタンの一部が4価から3価に還元されてしまうことから、電子伝導性が生まれ、短絡の危険性を有することが問題であった。
【0012】
一方、最近、立方晶ガーネット関連型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体が検討され、化学的な安定性、電極反応における安定性が高く、またイオン伝導性も酸化物系では高いことから注目されていた。(特許文献1、非特許文献1参照)
【0013】
中でも、立方晶ガーネット関連型構造をリチウムランタンジルコニウム酸化物LiLaZr12は、一連の立方晶ガーネット関連型酸化物中で最もリチウムイオン伝導性が高いことから、注目されている。(非特許文献2参照)
【0014】
この物質は、結晶格子の分類から、立方晶系に帰属されるガーネット関連型の結晶構造を有することが知られている。
【0015】
この結晶構造においては、リチウムイオン伝導経路は、リチウムが占有した一次元的な空間が、3次元的に組み合わさっていることによって形成されていることが特徴である。
【0016】
しかしながら、実用的なリチウムイオン伝導性の観点から、さらに高速なリチウム拡散が可能な結晶構造が必要であった。
【0017】
一般に、リチウムイオンの占有する構造の特徴として、占有席の乱れが多く、また占有スペースが拡がった場合に、より良好な伝導性を発現出来る場合が多い。
【0018】
このことを、本ガーネット関連型リチウムイオン伝導体について当てはめると、同じリチウムランタンジルコニウム酸化物について、化学組成比を変えることで格子サイズを大きくし拡散経路を拡大させること、結晶構造に長周期性や変調性を導入しリチウムの占有席を乱すこと等の構造制御が、イオン伝導性の向上に効果的であることが予想された。
【0019】
また、リチウムランタンジルコニウム酸化物LiLaZr12の構成元素であるジルコニウムとランタンの組成比によって構造制御された一例として、ZrOなる化合物のジルコニウムをランタンで置換したZr1−xLa2−0.5x(x=0.1、0.5)なる化学組成を有する化合物が報告されている。ランタン量の増加に伴い格子サイズの増大が見られると共に、酸素欠損が結晶構造に秩序性を与えることが報告されている。(非特許文献3参照)
【0020】
リチウムランタンジルコニウム酸化物系においては、これまでに、正方晶リチウムランタンジルコニウム酸化物LiLaZr12のように、平均構造が低対称化することで、リチウム席が秩序化することは報告されていた。(特許文献2、非特許文献4参照)
【0021】
しかしながら、公知の立方晶ガーネット関連型リチウムイオン伝導体において、イオン伝導性の向上に適するような、結晶構造の長周期性、変調性を有する化合物は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特表2007−528108号公報
【特許文献2】特願2008−321998号
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】V.Thangadurai,W.Weppner,Advanced Functional Materials,15,107−112(2005)
【非特許文献2】R.Murugan,V.Thangadurai,W.Weppner,Angewandte Chemie−International Edition,46,7778−7781(2007)
【非特許文献3】C.−K.Loong,J.W.Richardson,Jr.,M.Ozawa,M.Kimura,Journal of Alloys and Compounds,207/208,174−177(1994)
【非特許文献4】J.Awaka,N.Kijima,H.Hayakawa,J.Akimoto,Journal of Solid State Chemistry,182,2046−2052(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって、本発明は、イオン伝導性の向上に適するような、結晶構造の長周期性、変調性を有する立方晶ガーネット関連型リチウムイオン伝導性酸化物、及びその製造方法、並びにそれを部材として使用した電気化学デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(1)化学組成として、リチウム、ランタン、ジルコニウム、酸素から構成され、Li7+xLa3+xZr2−x12(―3<x<2、x≠0)なる化学組成式で標記されることを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物。
(2)化学組成として、リチウム、ランタン、ジルコニウム、酸素から構成され、Li7+x―2yLa3+xZr2−x12―y(―3<x<2、x≠0、0<y<(3.5+0.5x))なる化学組成式で標記されることを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物。
(3)平均構造として立方晶系の結晶構造を有することを特徴とする、(1)又は(2)に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
(4)平均構造として立方晶ガーネット関連型の結晶構造を有することを特徴とする、(1)又は(2)に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
(5)平均構造として立方晶ガーネット関連型の結晶構造を有し、その立方晶系の格子定数aが12.98Å以上13.20Å以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
(6)平均構造として立方晶ガーネット関連型の結晶構造を有し、その立方晶系の格子定数aが12.98Å以上13.20Å以下であり、さらにそのX線回折図形において長周期性及び変調性を反映した主反射スポットの分裂、衛星反射スポットの出現、ピークブロード化が観測されることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
(7)リチウム、ランタン、ジルコニウムの各原料化合物の混合物を出発原料として、600℃以上1300℃以下の温度範囲で合成することを特徴とする、(1)から(6)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
(8)正方晶ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物を原料として用い、1100℃以上1300℃以下の温度範囲で合成することを特徴とする、(1)から(6)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
(9)上記(1)から(6)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物を、固体電解質材料として利用した電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高速なリチウムイオン伝導性を有し、平均構造として立方晶系に属したガーネット関連型リチウムイオン伝導体の新規化合物を製造可能であり、この酸化物を固体電解質材料として使用することによって、優れた特性を有するリチウム二次電池などの電気化学デバイスが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】全固体リチウム二次電池の1例を示す模式図である。
【図2】ガーネット関連型化合物が有する平均構造を示す図である。
【図3】実施例1で合成されたLi7.1La3.1Zr1.912の単結晶X線回折図形である。
【図4】図3の拡大図である。
【図5】比較例1で合成されたLiLaZr12(a)と実施例2で合成された本発明のLi7.0La3.2Zr1.811.9(b)の粉末X線回折図形を比較した図である。
【図6】比較例1で合成されたLiLaZr12の単結晶X線回折図形である。
【図7】図6の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、平均構造が立方晶系のガーネット関連型で説明されるリチウムランタンジルコニウム酸化物の化学組成範囲について鋭意検討した結果、ジルコニウムの一部をランタンで置換できること、またリチウム量を酸素欠損量で制御可能なことを見出し、化学組成が異なる新規化合物が存在することを見出した。
【0029】
その結果として、公知の立方晶ガーネット関連型LiLaZr12と比べて、結晶格子体積を増大することができ、また、単結晶X線回折図形において、結晶構造の長周期性、変調性を示す主反射スポットの割れ、衛星反射スポットを観測すると共に、粉末X線回折図形において、回折ピークのブロード化を確認できたことから、本発明は完成するに至った。
【0030】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物は、公知の化合物LiLaZr12のランタンの一部をジルコニウム、もしくはジルコニウムの一部をランタンで置換し、電荷補償のためリチウム量が変化したLi7+xLa3+xZr2−x12(―3<x<2、x≠0)なる化学組成をもつ化合物である。
又は、ランタンの一部をジルコニウム、もしくはジルコニウムの一部をランタンで置換すると同時に、電荷補償のためリチウム及び酸素量が変化したLi7+x―2yLa3+xZr2−x12―y(―3<x<2、x≠0、0<y<(3.5+0.5x))なる化学組成をもつ新規化合物である。
その結晶構造の特徴として、平均構造として立方晶系のガーネット関連型構造をもつことを特徴とする化合物であり、さらに、立方晶系の格子定数aが12.98Å以上13.20Å以下であることを特徴とする化合物である。
さらにより詳しい結晶構造の特徴として、そのX線回折図形において長周期性及び変調性を反映した主反射スポットの分裂、衛星反射スポットの出現、ピークブロード化が観測されることを特徴とする化合物である。
また、このリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法は、リチウム、ランタン、ジルコニウムの各原料化合物の混合物を出発原料として、600℃以上1300℃以下の温度範囲で焼成することを特徴としている。
さらにまた、このリチウムイオン伝導性酸化物の別の製造方法として、正方晶ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物を原料として用い、1100℃以上1300℃以下の温度範囲で合成することを特徴としている。
さらに、これらのガーネット関連型構造を有するリチウムイオン伝導性酸化物は、全固体リチウム二次電池、リチウム空気二次電池、リチウム電池などの電気化学デバイスにおいて固体電解質材料として使用できることを特徴とする。
【0031】
本発明に係わる製造方法をさらに詳しく説明する。
(Li7+xLa3+xZr2−x12(―3<x<2、x≠0)及びLi7+x―2yLa3+xZr2−x12―y(―3<x<2、x≠0、0<y<(3.5+0.5x))のリチウム、ランタン、ジルコニウムの各原料化合物を出発原料とした合成)
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物は、原料として、リチウム元素を含む化合物の少なくとも1種、ランタン元素を含む化合物の少なくとも1種、ジルコニウム元素を含む化合物の少なくとも1種を用い、所定の比率となるよう出発原料を秤量・混合し、空気中などの酸素ガスが存在する雰囲気中で加熱することによって合成することができる。
【0032】
リチウム原料としては、リチウム(金属リチウム)及びリチウム化合物の少なくとも1種を用いる。リチウム化合物としては、リチウムを含有するものであれば特に制限されず、例えば、Li等の酸化物、LiCO、LiNO等の塩類、LiOH等の水酸化物等があげられる。これらの中でも、特にLiCO又はLiNOが好ましい。
【0033】
ランタン原料としては、ランタン(金属ランタン)及びランタン化合物の少なくとも1種を用いる。ランタン化合物としては、ランタンを含有するものであれば特に制限されず、例えば、La等の酸化物、La(CO、La(NO等の塩類等があげられる。これらの中でも、特にLa等が好ましい。
【0034】
ジルコニウム原料としては、ジルコニウム(金属ジルコニウム)及びジルコニウム化合物の少なくとも1種を用いる。ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムを含有するものであれば特に制限されず、例えば、ZrO等の酸化物、ZrCといった炭化物、ZrN等の窒化物等があげられる。これらの中でも、特にZrO等が好ましい。
【0035】
はじめに、これらを含む混合物を調整する。各出発原料の混合の割合は、生成物の組成がLi7+xLa3+xZr2−x12(―3<x<2、x≠0)及びLi7+x―2yLa3+xZr2−x12―y(―3<x<2、x≠0、0<y<(3.5+0.5x))の化学組成となるように混合することが好ましい。このうち、Liは高温で揮発し易いことから、目的組成よりも3〜10%多く秤量することがより好ましい。混合方法は、これらを均一に混合できる限り、特に限定されず、例えばミキサー等の公知の混合機を用いて、湿式又は乾式で混合すればよい。
【0036】
次いで、粒子サイズを整えた粉体試料を、成型する。成型方法は特に限定されず、例えば錠剤成型器、一軸加圧プレス、静水圧プレス、HIP、CIP等を利用した公知の方法で成型すればよい。本焼成の前に、あらかじめ仮焼、焼結体の作製を行ってもよい。
【0037】
次いで、成型した試料を、るつぼ等の容器に入れる。るつぼ材としては、アルミナ、白金など、通常高温で安定な材質のものが好ましい。
【0038】
次いで、熱処理をおこなう。組成比は熱処理温度に依存し適宜設定することが出来るが、通常は600℃〜1300℃、好ましくは1100℃〜1270℃とすればよい。熱処理時の雰囲気も特に限定されず、通常は酸化性雰囲気又は大気中で実施すればよい。熱処理時間は、熱処理温度などに応じて適宜変更することができる。冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。
【0039】
(Li7+xLa3+xZr2−x12(―3<x<2、x≠0)及びLi7+x―2yLa3+xZr2−x12―y(―3<x<2、x≠0、0<y<(3.5+0.5x))の正方晶リチウムランタンジルコニウム酸化物を出発原料とした合成)
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物は、別の製造方法として、原料として正方晶ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物を用い、空気中などの酸素ガスの存在する雰囲気中で加熱することによっても、高温での熱分解反応を伴うことによって、合成することができる。
【0040】
原料である正方晶ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物は、リチウム、ランタン、ジルコニウム、酸素を主要構成元素として含有し、正方晶系に属したガーネット型の結晶構造を有した化合物であれば特に制限されない。例えば、正方晶ガーネット型LiLaZr12が好ましい。
【0041】
はじめに、出発原料である正方晶ガーネット関連型リチウムランタンジルコニウム酸化物を粉砕・混合することが好ましい。粉砕・混合方法は、これらを均一に粉砕・混合できる限り、特に限定されず、例えばミキサー等の公知の粉砕・混合機を用いて、湿式又は乾式で粉砕・混合すればよい。
【0042】
次いで、粒子サイズを整えた粉体試料を、成型する。成型方法は特に限定されず、例えば錠剤成型器、一軸加圧プレス、静水圧プレス、HIP、CIP等を利用した公知の方法で成型すればよい。本焼成の前に、あらかじめ仮焼、焼結体の作製を行ってもよい。
【0043】
次いで、成型した試料を、るつぼ等の容器に入れる。るつぼ材としては、アルミナ、白金などなど、通常高温で安定な材質のものが好ましい。高温時に、リチウム化合物、ジルコニウム化合物、ランタン化合物が揮発することが、この合成方法では重要となってくるので、揮発の程度を蓋等を用いて、るつぼの密閉性を制御することが好ましい、
【0044】
次いで、熱処理をおこなう。組成比は熱処理温度に依存し適宜設定することが出来るが、通常は正方晶が安定に存在し難い1100℃〜1300℃、好ましくは1130℃〜1270℃とすればよい。熱処理時の雰囲気も特に限定されず、通常は酸化性雰囲気又は大気中で実施すればよい。熱処理時間は、熱処理温度などに応じて適宜変更することができる。冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。
【0045】
(固体電解質の作製)
次いで、上記により得られたガーネット関連型リチウムイオン伝導体化合物を用いて、リチウム電池などの電気化学デバイスに使用する固体電解質材料を作製する。
【0046】
すなわち、上記リチウムイオン伝導性酸化物の粉体成型体、もしくは、焼結体、或いは薄膜化することによって、固体電解質が作製できる。
【0047】
このうち、焼結体は、あらかじめ合成された上記粉体を原料として用い、一軸加圧、或いは静水圧プレス、ホットプレス、通電焼結法などの公知の加圧・成型手法によって、作製された成型体を、600℃〜1400℃、好ましくは800℃〜1000℃で焼成することによって作製できる。焼成雰囲気も特に限定されず、通常は酸化性雰囲気又は大気中で実施すればよい。焼成時間は、焼成温度などに応じて適宜変更することができる。冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。この際、高温焼成時に、リチウムが高温で揮発しやすいために分解してしまうことを抑制するために、成型体を上記粉体で覆っておくことが望ましい。
【0048】
また、固体電解質膜の作製には、通常の薄膜並びに厚膜作製プロセスを適用可能であり、スパッター法、レーザーアブレーション(PLD)法、エアロゾルデポジッション(AD)法、或いは簡便な塗工・乾燥プロセスなどの方法が適用できる。
【0049】
(電気化学デバイスの作製)
本発明の電気化学デバイスは、上記リチウムイオン伝導性酸化物を使用した固体電解質を部材として用いるものである。すなわち、固体電解質材料のひとつとして本発明のリチウムイオン伝導性酸化物を用いる以外は、公知のリチウム二次電池(コイン型、ボタン型、円筒型、全固体型等)、リチウム電池、アルカリ電池、センサーなどの電気化学デバイスの要素技術をそのまま採用することができる。
【0050】
図1は、本発明の電気化学デバイスとして、コイン型リチウム二次電池に適用した1例を示す模式図である。このコイン型電池1は、負極端子2、負極3、固体電解質4、絶縁パッキング5、正極6、正極缶7により構成される。
【0051】
本発明の電気化学デバイス(リチウム二次電池)において、上記本発明のリチウムイオン伝導性酸化物を固体電解質材料として適用できる。そのため、公知のリチウム二次電池で多く使用されている有機電解液やセパレータの使用を必ずしも必要としない点が、大きな特徴である。
【0052】
本発明のリチウム二次電池において、正極材料としては、例えばリチウムコバルト酸化物(LiCoO)やリチウムマンガン酸化物(LiMn)などの、正極として機能し、リチウム基準で電位が比較的高く、かつリチウムを吸蔵可能な公知のものを採用することができる。特に、本材料は、5V程度の高電位でも安定に電解質として機能することが特徴であることから、高い電位を有する正極材料の使用が可能である。
【0053】
また、本発明のリチウム二次電池において、負極材料としては、例えば金属リチウム、リチウム合金、炭素材料、リチウムチタン酸化物など、負極として機能し、リチウム基準で電位が比較的低く、かつリチウムを吸蔵可能な公知のものを採用することができる。特に、本材料は金属リチウムに対しても還元されず、また、5V程度の高電位でも安定に電解質として機能することが特徴であることから、幅広い材料の選択が可能である。
また、本発明のリチウム二次電池において、電池容器等も公知の電池要素を採用すればよい。
【0054】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
(リチウムイオン伝導性酸化物Li7+xLa3+xZr2−x12の合成)
出発原料として、純度99.9%以上の硝酸リチウム(LiNO)粉末、純度99.9%以上の酸化ランタン(La)粉末、純度99.9%以上の酸化ジルコニウム(ZrO)粉末を用いて、Li:La:Zrのモル比で7.2:3.1:1.9となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合した後、錠剤成型器を用いて成型し、アルミナるつぼ(Al 99.6%)に入れた。これを電気炉に入れ、空気中、1150℃で、4時間加熱することで試料を得た。
【0056】
得られた試料中から、粒成長した粒子を一粒選定し、イメージングプレート式単結晶X線回折装置によって単結晶X線回折測定を行った。図3に得られた単結晶X線回折図形(振動写真)を、図4にその拡大図を示す。図3から、主反射スポットは、立方晶系のガーネット関連型の結晶構造で妥当であることが確認された。
【0057】
しかしながら、回折図形から立方晶系の格子定数を求めたところ、以下の値となり、公知のLiLaZr12の格子定数と比べて、明らかに長く、化学組成の違いがあることが示唆され、新化合物であることが明らかとなった。
a=13.134Å(誤差0.004Å以内)
【0058】
さらに、図4の回折図形を詳しく見ていくと、結晶構造の長周期性、或いは変調性を示唆する反射スポットの割れが見られ、衛星反射スポットが出現していることが明らかとなった。このような回折図形は公知の立方晶系LiLaZr12では報告されておらず、化学組成の変化による結晶構造の長周期性であることが確認された。
【0059】
得られた試料について、エネルギー分散型X線分析装置を用いて、ランタンとジルコニウムの化学組成を分析したところ、La:Zr=3.1:1.9であり、電荷補償から見積もった化学組成式としては、Li7.1La3.1Zr1.912で妥当であった。この結果から、本リチウムイオン伝導性酸化物は、公知のLiLaZr12と比べ、ジルコニウムの一部をランタンが置換したLi7+xLa3+xZr2−x12(x=0.1)組成であることが明らかとなり、結晶構造の長周期性の起源が化学組成のずれであることが明らかとなった。
【0060】
[比較例1]
(立方晶LiLaZr12の合成)
非特許文献4に記述されている公知の製法によりあらかじめ合成された正方晶ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物を原料として用い、乳鉢中で粉砕・混合した後、錠剤成型器を用いて成型したものを、蓋付きのアルミナるつぼ(Al、純度99.6%)に入れた。これを電気炉に入れ、空気中、1250℃で、6時間加熱した。電気炉中で自然放冷した後、取り出した。
【0061】
得られた試料について、粉末X線回折装置を用いて、粉末X線回折測定を行った結果、平均構造が立方晶系、ガーネット関連型構造を有する単一相であることが明らかになった。その粉末X線回折図形を図5(a)に示す。この結果から、非常に良好な結晶性を有する、単一相試料であることが確認された。
【0062】
さらに、得られた試料について、粒成長した粒子を一粒選定し、イメージングプレート式単結晶X線回折装置によって単結晶X線回折図形を測定した。図6に得られた単結晶X線回折図形(振動写真)を、図7にその拡大図を示す。主反射、明瞭な単一のスポットとして観測され、図4の場合のような長周期性、或いは変調性などは認められず、その結晶構造は、立方晶系で十分説明可能であった。また、回折図形から、立方晶系ガーネット関連型構造の格子定数を求めたところ、以下の値となり、非特許文献2に記述されている公知のLiLaZr12と非常に良い一致であり、生成物は、LiLaZr12であることが確認された。
a=12.959Å(誤差0.002Å以内)
【0063】
[実施例2]
(リチウムイオン伝導性酸化物Li7+x―2yLa3+xZr2−x12―y(―3<x<2、0<y<(3.5+0.5x))の合成)
非特許文献2に記述されている公知の製法によりあらかじめ合成された正方晶ガーネット型LiLaZr12を原料として用い、乳鉢中で粉砕・混合した後、錠剤成型器を用いて成型した試料を、蓋なしのアルミナるつぼ(Al、純度99.6%)に入れた。これを電気炉に入れ、空気中、1150℃で6時間加熱した。得られた生成物は、電気炉中で自然放冷することによって、取り出した。
【0064】
得られた試料について、粉末X線回折装置を用いて粉末X線回折測定を行った結果、平均構造が立方晶系、ガーネット関連型構造を有する単一相であることが明らかになった。その粉末X線回折図形を図5(b)に示す。
【0065】
図5(a)に示す公知のガーネット関連型LiLaZr12の粉末X線回折図形と比べると、図5(b)のパターンはピーク位置が低角側へシフトしており、格子定数がより大きいことが明らかとなった。
【0066】
さらに、そのピークは明らかにブロード化しており、特に低角度側の裾が広がった形状を有することが確認され、構造の長周期性、或いは変調性などを示唆する図5の単結晶X線回折図形と良く合致した結果であった。このような結果は、公知のLiLaZr12では報告されておらず、化学組成の変化による結晶構造の違いと判断された。
【0067】
また、本試料について、ICP−AES法により化学組成分析を行った結果、Li7.0La3.2Zr1.811.9で妥当であり、Li7+x―2yLa3+xZr2−x12―yの化学組成式におけるx=0.2、y=0.1に相当する組成であることが確認された。
【0068】
さらに、上記リチウムイオン伝導性酸化物の生成のためには、リチウム、ジルコニウム、酸素の試料中からの揮発が必要であるが、実際、るつぼ外に揮発したZrOの結晶相析出が確認された。この結果は、本リチウムイオン伝導性酸化物におけるジルコニウム欠損組成を示唆するものである。
【符号の説明】
【0069】
1 コイン型リチウム二次電池
2 負極端子
3 負極
4 固体電解質
5 絶縁パッキング
6 正極
7 正極缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成として、リチウム、ランタン、ジルコニウム、酸素から構成され、Li7+xLa3+xZr2−x12(―3<x<2、x≠0)なる化学組成式で標記されることを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項2】
化学組成として、リチウム、ランタン、ジルコニウム、酸素から構成され、Li7+x―2yLa3+xZr2−x12―y(―3<x<2、x≠0、0<y<(3.5+0.5x))なる化学組成式で標記されることを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項3】
平均構造として立方晶系の結晶構造を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項4】
平均構造として立方晶ガーネット関連型の結晶構造を有することを特徴とする、請求項1及び2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項5】
平均構造として立方晶ガーネット関連型の結晶構造を有し、その立方晶系の格子定数aが12.98Å以上13.20Å以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項6】
平均構造として立方晶ガーネット関連型の結晶構造を有し、その立方晶系の格子定数aが12.98Å以上13.20Å以下であり、さらにそのX線回折図形において長周期性及び変調性を反映した主反射スポットの分裂、衛星反射スポットの出現、ピークブロード化が観測されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物。
【請求項7】
リチウム、ランタン、ジルコニウムの各原料化合物の混合物を出発原料として、600℃以上1300℃以下の温度範囲で合成することを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項8】
正方晶ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸化物を原料として用い、1100℃以上1300℃以下の温度範囲で合成することを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項9】
上記請求項1から6のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物を、固体電解質材料として利用した電気化学デバイス。

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−195373(P2011−195373A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63407(P2010−63407)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】