説明

リチウムイオン電池用集電体の表面処理方法

【課題】特別な光源を必要としない安価なモニタリングが可能なリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法を提供すること。
【解決手段】 集電体基材2の表面に、表面皮膜3を成膜するリチウムイオン電池用集電体1の表面処理方法において、成膜をするときに発生する放電光17を光源として使うこと、放電光17が照射された成膜状態を状態モニタ15で撮像し、撮像された成膜状態に基づいて、成膜異常、ターゲット不良、集電体基材2のしわ、集電体基材2の搬送蛇行の異常を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、集電体基材の表面に、真空容器内で表面皮膜を成膜するリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集電体基材(例えば、アルミ箔)は、剥き出しのままでは、腐食するため表面に表面皮膜を成膜している。そして、その後、表面皮膜の上に合材(活性物質、導伝体、バインダ等)を塗布している。
集電基材の表面に表面皮膜を成膜する方法としては、例えば、スパッタリング処理法等が用いられている。表面皮膜の品質を管理するために、成膜状態を監視することが、従来行われている。従来例を以下に示す。
【0003】
特許文献1には、投光ヘッドと受光ヘッドを用いた透過型モニタで膜厚を監視すること、そして、設計膜厚の90%まで成膜した時点で、マグネトロンへの電力の供給を止め、通常のマグネトロンのみで成膜を行うことが開示されている。
特許文献2には、スパッタリング時におけるIn、Ga、及びZnの放電の発光波長と発光強度をモニタによりモニタリングすることにより、In、Ga、及びZnのスパッタ量を把握することが開示されている。
特許文献3には、ロールツーロール(Roll to Roll)方式成膜装置において、フィルム残量を、撮像カメラと画像処理部とからなる画像処理装置の撮像カメラを用いて、フィルムの外側からコアロールの回転軸に向けてモニタすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−265739号公報 段落(0082)、(0083)、(0098)
【特許文献2】特開2006−299412号公報 段落(0051)
【特許文献3】特開2002−167091号公報 段落(0012)、(0014)、(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1乃至3に開示された発明では、次のような問題があった。
特許文献1では、投光ヘッド、特許文献3では、撮像カメラ用の光源を必要とする。そのため、光源自体の設備費用の他、取り付けスペース等を確保しなればならない問題があった。
特許文献2では、放電光自体をモニタリングしているが、集電体基材をモニタリングしていないため、成膜異常、ターゲット不良、集電体基材のしわ、集電体基材の搬送蛇行等を検出することができない問題があった。
【0006】
この発明は上記問題点を解決するためのものであって、特別な光源を必要としない安価なモニタリングが可能なリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法は、次の構成を有している。
(1)集電体基材の表面に、表面皮膜を成膜するリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法において、成膜をするときに発生する放電光を光源として使うこと、放電光が照射された成膜状態を撮像すること、撮像された成膜状態に基づいて、成膜異常、ターゲット不良、集電体基材のしわ、集電体基材の搬送蛇行の異常を検出すること、を特徴とする。
(2)(1)に記載するリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法において、前記成膜が、スパッタリング処理法、イオンプレーティング法、マグネトロン放電法のいずれか1つを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
次に、上記構成を有する本発明のリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法の作用・効果について説明する。
本発明のリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法は、集電体基材の表面に、表面皮膜を成膜するリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法において、成膜をするときに発生する放電光を光源として使うこと、放電光が照射された成膜状態を撮像すること、撮像された成膜状態に基づいて、成膜異常、ターゲット不良、集電体基材のしわ、集電体基材の搬送蛇行の異常を検出すること、を特徴とするので、特別な光源を必要としないため、光源の設備投資に対するコストダウンが図れると共に、光源の取り付けスペースを不要とすることができる。
また、本発明のリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法は、前記成膜が、スパッタリング処理法、イオンプレーティング法、マグネトロン放電法のいずれか1つを用いることを特徴とするので、それらの成膜方法から必然的に生じる放電光により照射された成膜状態を撮像すること、撮像された成膜状態に基づいて、成膜異常、ターゲット不良、集電体基材のしわ、集電体基材の搬送蛇行の異常を検出することができる。
また、集電体基材の異常・不良検出を行い、集電体基材の進行方向に対する位置と関係付けて異常・不良があった箇所を記憶しておくことにより、異常・不良が検出された集電体基材の箇所を巻き取られた集電体基材の状態で把握することができる。したがって、最終製品において、異常・不良箇所を把握することができるため品質の確保・品質の安定を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における真空成膜装置10(放電光17を表したもの)の概略図を示す。
【図2】本発明における真空成膜装置10(ターゲット粒子13a及びArイオンガス16を表したもの)の概略図を示す。
【図3】本発明における状態モニタ15がモニタリングしたものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明におけるリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法を具体化した一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
<真空成膜装置10の全体構成>
リチウムイオン電池用集電体の表面処理方法に用いられる真空成膜装置10を図1に簡略化して示し、図1を用いて真空成膜装置10の説明を行う。図1はターゲット13から放電光17が放電している図を示し、図2は、Arイオンガス16がターゲット13にぶつかりターゲット粒子13aが飛び出した図を示す。図1及び図2は、前記部分以外で、構成の違いはない。
図1に示すように、真空成膜装置10は、ロールツーロール(Roll to Roll)方式成膜装置である。真空成膜装置10の真空容器内10Aに薄板シート状のアルミ材である集電体基材2、ターゲット13(成膜させる物質Cr・Ti等)が配置されている。集電体基材2の一端は、集電体基材2を巻き出す巻出しローラ31に巻きつけられ、他端は集電体基材2を巻き取る巻取りローラ32に巻きつけられている。巻出しローラ31と巻取りローラ32の間には、集電体基材2を移動可能に支持するための回転ローラ30が配置されている。図示はされていないが、上記ローラ30、31、32の軸は真空容器内10Aに固定されている。本実施例では、巻出しローラ31の制動力と巻取りローラ32の回転駆動力によって、集電体基材2の張力を付与している。
【0011】
真空容器内10Aの集電体基材2の外側から、回転ローラ30の回転軸に向けて状態モニタ15が設置されている。状態モニタ15は、成膜異常、ターゲット13の不良、集電体基材2のしわ、集電体基材2の搬送蛇行等の異常を検出するためのものであり、CCDカメラが用いられている。
真空成膜装置10の外部には、電圧を加える電圧装置14が配置されている。電圧装置14から、集電体基材2を陽極、ターゲット13を陰極として電圧を加える構成とされている。集電体基材2を陽極とするため、回転ロータ30と電圧装置14は配設されている。真空成膜装置10には、ガス送入口10B及び排気口10Cが形成されている。ガス排気口10Cから、真空度調整弁20へと連通し、真空度調整弁20から、真空ポンプ40へ連通している。
【0012】
真空成膜装置10による集電体基材2へ表面処理を行う方法の作用・効果を説明する。
図1に示す真空成膜装置10に、集電体基材2及びターゲット13をセットし、真空成膜装置10の真空容器内10Aを真空状態にするため、真空容器内10Aの大気を真空ポンプ40により吸引する。真空容器内10Aの真空度が10−5PA程度になるように真空制御装置20を用いて調整する。
次に、巻出しローラ31及び巻取りローラ32を時計回りに回転させ、巻取りローラ32に集電体基材2を巻き取らせる。その際に、回転ローラ30が時計反対回りに一定速度で回転するため、集電体基材2をスムーズに一定速度で巻出しローラ31から巻取りローラ32へと移すことができる。それにより、集電体基材2に一様・均一な成膜を行うことができる。
【0013】
図2に示すように、真空容器内10Aにイオン化させた希ガス又は窒素等を送入する。第1実施形態においては、具体的にArイオンガス16をガス送入口10Bより所定量送入する。真空容器内10AをArイオンガス16で所定量送入させた状態で、電圧装置14から、集電体基材2を陽極、ターゲット13を陰極として電圧装置14から電圧を加える。電圧が加わることにより、陽極であるArイオンガス16のArイオンガス粒子16aが、陰極であるターゲット13に引き寄せられターゲット13の表面に叩き付けられる。
ターゲット13にArイオンガス粒子16aが、叩き付けられる衝撃により、ターゲット13からターゲット粒子13aが飛び出す。ターゲット粒子13aは陰極であるため、陽極である集電体基材2方向へ飛び出す。
【0014】
上記、真空中でArイオンガス16を導入し、集電体基材2を陽極、ターゲット13に陰極として電圧装置14から電圧を加えることにより、図1に示すように、ターゲット13でグロー放電が発生しプラズマが起こる。グロー放電とは、密閉された空気圧の低い管の中に一対の電極を置き、直流電圧を流し込んでいくと、一定の電圧を超えたところで放電現象が発生するという性質・現象のことである。
グロー放電によりプラズマが発生することで、ターゲット13から放電光17が得られる。放電光17により、ターゲット13と向かい合う集電体基材2は、照射される。そのため、状態モニタ15により集電体基板2を撮像するときに、真空成膜装置10に光源が必要ない。したがって、本実施例によれば、光源を設置する設備費用の他、光源の取り付けスペース等を確保する必要がない。
【0015】
真空容器内10Aの真空度が10−5PA程度と高く、真空容器内10Aに余分な気体分子は、いわゆる「不純物」が浮遊していないため、不純物に邪魔されることなく、ターゲット粒子13aが一様・均一に集電体基材2に堆積される。よって、集電体基材2上に、欠陥のない成膜層を成膜することができる。
ターゲット粒子13aが集電体基材2に堆積するところ及び堆積後の成膜状態を、状態モニタ15を用いて観察をする。状態モニタ15により、撮像された成膜状態に基づいて、成膜異常、ターゲット13の不良、集電体基材2のしわ、集電体基材2の搬送蛇行の異常を検出することができる。
【0016】
具体的には、状態モニタ15により放電光17による集電体基材2の成膜された成膜部Zからの反射光の強度を撮像し記録していく。それにより、撮像された成膜部Zからの反射光強度のばらつきが確認できる部分からは、成膜が一様・均一ではないことを認識することができるため、集電体基材2に対する成膜が異常であると判断することができる。
また、反射光強度のばらつきが、一定の筋のように現れている場合には、ターゲット13側の不良があることが判断することができる。なぜならば、反射光強度のばらつきが一定の筋のように現れている時には、ターゲット13に亀裂などが生じていると判断できるからである。
以上の集電体基材2に対する成膜の異常・不良検出及び確認を行い、集電体基材2の進行方向に対する位置と関係付けて異常・不良があった箇所を記憶しておく。それにより、異常・不良が検出された集電体基材2の箇所のみを成膜後、切断し排除することができるため、最終製品の品質の確保・品質の安定を図ることができる。また、ターゲット13の異常・不良があると判断された場合には、ターゲット13を交換することで、集電体基材2の異常・不良の数を抑えることができる。
【0017】
また、図3に示す部分について状態モニタ15により撮像する。具体的には、横は回転ローラ30の左端部から右端部までの、幅V、X、Yを足した距離、縦は集電体基材2にターゲット粒子13aが成膜された箇所を撮像する。次に、回転ローラ30の左端から集電体基材2の左端までの幅X、及び、回転ローラ30の右端から集電体基材2の右端までの幅Yの距離を算出する。幅X、Yの両方の距離が所定値より長くなった場合、すなわち、集電体基材2の幅Vの長さが所定値より短くなった場合には、集電体基材2にしわができたと判断し、しわができた集電体基材2における所定値より短くなった箇所を記憶しておく。
さらに、幅X、Yのいずれか一方の距離が所定値よりも短くなり、他方の距離が所定値よりも長くなった場合には、集電体基材2が回転ローラ30の一方に寄り搬送蛇行していると判断し、搬送蛇行した集電体基材2における箇所を記憶しておく。搬送蛇行によりスパッタリングした成膜層の領域にずれが生じ、製品にしたときに一部スパッタされていない領域の部分が製品となる恐れがあるため問題となる。
以上、しわ及び搬送蛇行による集電体基材2の異常・不良検出及び確認を行い、集電体基材2の進行方向に対する位置と関係付けて異常・不良があった箇所を記憶しておく。それにより、異常・不良が検出された集電体基材2の箇所のみを成膜後、切断し排除することができるため、最終製品の品質の確保・品質の安定を図ることができる。
【0018】
以上、詳細に説明したように、上記真空成膜装置10によれば、
集電体基材2の表面に、表面皮膜を成膜するリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法において、成膜をするときにターゲット粒子13aが発生する放電光17を光源として使うため、照射された成膜状態を撮像することができるため、特別な光源を必要としない。そのため、光源の設備投資に対するコストダウンを図ることができる。また、光源の取り付けスペースを不要とすることができるため真空成膜装置10自体をコンパクトにすることができる。
また、集電体基材2の異常・不良検出及び確認を行い、集電体基材2の進行方向に対する位置と関係付けて異常・不良があった箇所を記憶しておくことにより、異常・不良が検出された集電体基材2の箇所のみを成膜後、切断し排除することができる。したがって、最終製品の品質の確保・品質の安定を図ることができる。
【0019】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
例えば、本実施例では、スパッタリング処理法により成膜を行っているが、イオンプレーティング法、マグネトロン放電法のいずれか1つを用いることによってもリチウムイオン電池用集電体の表面処理を行うことができる。それにより、それらの成膜方法から必然的に生じる放電光17により照射された成膜状態を撮像すること、撮像された成膜状態に基づいて、成膜異常、ターゲット不良、集電体基材のしわ、集電体基材の搬送蛇行の異常を検出することができる。
また、本実施例によれば、基材の酸化膜除却を目的としたイオンボード処理における酸化膜除去度合い、しわ・荒れの有無・度合いを検出することもできる。
【符号の説明】
【0020】
2 集電体基材
10 真空成膜装置
10A 真空容器内
13 ターゲット
15 状態モニタ
16 Arイオンガス
17 放電光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体基材の表面に、表面皮膜を成膜するリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法において、
前記成膜をするときに発生する放電光を光源として使うこと、
前記放電光が照射された成膜状態を撮像すること、
前記撮像された成膜状態に基づいて、成膜異常、ターゲット不良、集電体基材のしわ、集電体基材の搬送蛇行の異常を検出すること、
を特徴とするリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載するリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法において、
前記成膜が、スパッタリング処理法、イオンプレーティング法、マグネトロン放電法のいずれか1つを用いることを特徴とするリチウムイオン電池用集電体の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−182523(P2010−182523A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24631(P2009−24631)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】