説明

リチウムバッテリーに有用な高純度のリチウムポリハロゲン化ボロンクラスター塩

【課題】負極、陽極、セパレーター及び非プロトン系溶媒中で運搬されるリチウム系電解質を含むリチウム二次バッテリー及び電解質組成物、並びにバッテリー活性材料を精製する方法を提供する。
【解決手段】上記電解質は、少なくとも一種の溶媒と、式:Li212x12-x-yy(式中、x+yは、3〜12であり、そしてx及びyは、独立して、0〜12であり、そしてZは、Cl及びBrを少なくとも一種含む)のリチウム塩とを含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本出願は、2005年8月5日に出願された米国出願第11/197,478号の一部継続出願である。出願第11/197,478号は、2004年8月23日に出願された米国仮出願第60/603,576号の利益を主張する。出願第11/197,478号及び同第60/603,576号の開示を、参照して組み入れる。
【0002】
関連する特許及び特許出願に対する相互参照
本発明の主題は、次の同一出願人による特許及び特許出願:「Process for the Fluorination of Boron Hydrides」と題する米国特許第6781005号明細書と、双方とも「Polyfluorinated Boron Cluster Anions for Lithium Electrolytes」と題する、米国特許出願公開第20050053841号明細書と同第20050064288号明細書とに関する。この特許及び特許出願の開示を、参照して本明細書に組み入れる。
発明の背景
【0003】
リチウム元素の高い還元電位及び低分子量の効果によるリチウム二次バッテリーは、現行の一次及び二次バッテリー技術を超え、出力密度を劇的に改良する。ここで、リチウム二次バッテリーは、負極として金属リチウムを含むバッテリー、及び負極としてリチウムイオンバッテリーとしても知られる、リチウムイオン母材を含むバッテリーの両方を指す。二次バッテリーは、充電及び放電の複数のサイクルを供与するバッテリーを意味する。リチウムカチオンのサイズの小ささ及び移動度の高さにより、迅速な充電が可能となる。これらの優位性により、移動型電子機器、例えば、携帯電話及びラップトップコンピューター用に理想的なリチウムバッテリーが製造される。近年、より大きなサイズのリチウムバッテリーが開発され、そしてハイブリッド車において使用するための用途を有する。
【0004】
次の特許が、リチウムバッテリー及び電気化学電池の代表である。
米国特許第4,201,839号明細書には、アルカリ金属含有アノード、固体カリード及び電解液に基づく電気化学電池が開示されており、そこでは、当該電解液は、非プロトン系溶媒中で運ばれるクロソボラン化合物である。用いられるクロソボランは、式Z2BnXn及びZCRBmXm(式中、Zはアルカリ金属であり、Cは炭素であり、Rは、有機水素及びハロゲン原子から成る群から選択される基であり、Bはホウ素であり、Xは、水素及びハロゲンから成る群に由来する一つ又は二つ以上の置換基であり、mは、5〜11の整数であり、そしてnは、6〜12の整数である)である。電気化学電池中で用いられるクロソラボンの具体的な例には、リチウムブロモオクタボラート、リチウムクロロデカボラート、リチウムクロロドデカベート及びリチウムイオドデカラートが含まれる。
【0005】
米国特許第5,849,432号明細書には、液体中で用いる電解質溶媒、又はルイス酸特性を有するホウ素化合物(例えば、酸素、ハロゲン原子及び硫黄と結合したホウ素)に基づくゴム状ポリマー電解質溶液が開示されている。電解質溶液の具体例には、リチウムペルクロロレート及びボロンエチレンカーボネートが含まれる。
【0006】
米国特許第6,346,351号明細書には、塩及び溶媒混合物に基づく陽極構造に対して適合性が高い再充電可能なバッテリーのための二次電解質システムが開示されている。リチウムテトラフルオロボレート及びリチウムヘキサフルオロホスフェートが、塩の例である。溶媒の例には、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、メチルホルメート等が含まれる。背景技術では、リチウムバッテリー用の公知の電解液(溶媒中に導入されたリチウムパークロレート、リチウムヘキサフルオロアルセネート、リチウムトリフルオロメチルスルホネート、リチウムテトラフルオロボレート及びリチウムヘキサフルオロアンチモネート電解液が含まれる)が開示されている。
【0007】
米国特許第6,159,640号明細書には、電子機器(例えば、携帯電話、ラップトップコンピューター、カムコーダー等)の中で用いられる、フッ素化カルバメートに基づいた、リチウムバッテリー用の電解質システムが開示されている。種々のフッ素カルバメート塩、例えば、トリフルオロエチル−N,N−ジメチルカルバメートが示唆されている。
米国特許第6,537,697号明細書には、電解質塩としてリチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートを含む非水電解質を用いた、リチウム二次バッテリーが開示されている。
【0008】
米国特許第6514,474号明細書には、リチウムバッテリー用途及び精製工程で用いられるべきリチウムヘキサフルオロホスフェートから微量の水及び酸を除去する必要性が開示されている。
上記特許の開示を、参照して本発明に組み入れる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、リチウムバッテリー用のリチウム塩を含む、多種多様のリチウム系電解質が開示され、そして多くの電子用途における用途を有するが、それらは、安全性、酸化安定性、熱安定性等に関連した課題に直面している。フッ素化電解質塩は、化合物が分解した際に、有害且つ有毒なHFが生じる可能性がある課題をさらに有している。下記は、特定の電解質塩に関連する欠陥の一部である:リチウムヘキサフルオロホスフェートは、主として不安定であることに基づいて、分解してHFを発生させ、特にLiMn24カリード材料に電極腐食をもたらす:リチウムパークロレートは比較的熱安定性が低く、100℃超で、爆発性の混合物がもたらされる;リチウムヘキサフルオロアルセネートは、ヒ素毒性の課題を有する;そしてリチウムトリフラートは、概してリチウムイオンバッテリー中で用いられるアルミニウム集電装置の重大な腐食をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、負極、陽極、及び少なくとも一種の溶媒と、少なくとも一種の次の式のリチウム系電解質塩との組み合わせを含む電解質を含むリチウム二次バッテリーに関する:
Li212x12-x-yy
(式中、x+yは、3〜12であり、そしてx及びyは、独立して0〜12であり、そしてZは、Cl及びBrを少なくとも一種含む)。
【0011】
リチウム系電解質を生成させるため、フッ素化リチウムドデカホウ酸塩の使用に関連するいくつかの優位性は、下記;
電気化学、熱及び加水分解安定性を有する電解質溶液のために、リチウム系塩を使用することができること;
リチウムイオン電池に有害な不純物を低い水準で許容できる塩を使用することができること(例えば、水、ヒドロキシル、アルカリ金属を含む金属カチオン、及びフッ化水素を実質的に含まない);
低いリチウム系塩濃度、例えば、他の多くのリチウム系塩(例えば、LiPF6)の半分の濃度で用いることができるリチウム電解質溶液を用いることができること;そして
再利用可能な、低粘度、低インピーダンスリチウム電解質溶液を生成することができること:
を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、熱重量分析であり、揮発物はIR分光法で分析される。
【図2】図2は、OH不純物の影響を具体的に説明する、サイクリックボルタンメトリーグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、リチウム二次バッテリー、リチウムイオンを含む電解質、高純度のリチウム含有塩、及びその塩の製造方法かつ使用方法に関する。リチウムバッテリー電解質溶液のための、二つの望ましい特性は;
(a)非水溶性イオン化溶液中での高い導電性;及び
(b)加熱及び加水分解に対する化学安定性、並びに広い電位範囲にわたる電気化学系サイクルに対する化学安定性:
である。
リチウム電解質溶液の他の所望の特徴は;高引火点;低蒸気圧;高沸点;低粘度;バッテリーの中で習慣的に用いられている溶媒、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びα−ω−ジアルキルグリコールエーテルとの良好な混和性;広い温度範囲及び広い初期含水率の許容範囲にわたる、それら溶液の高い導電率:
を含む。
【0014】
本発明のリチウム二次バッテリーは、リチウム電解質溶液を生成するためのリチウム系電解質塩が、下記:
Li212x12-x-yy
(式中、x+yは3〜12であり、そしてx及びyは、独立して0〜12であり、そしてZは、Cl及びBrを少なくとも一種含む)
を含むリチウムフルオロドデカボラートに基づくことを特徴とする。
リチウム系ドデカボラートの具体例には、Li21257、Li21266、Li21275、Li21284、Li21293、Li212102、Li21211H、及び種々のx(平均値xが、5以上又は9若しくは10に等しい)を有する塩の混合物、又はLi212xCl12-x及びLi212xBr12(xは、10又は11である)、又はLi212FCl29、Li212Cl39、Li2122Cl37、Li212Cl57及びLi212FCl65;並びにそれらの混合物から成る群から選択される要素が少なくとも一つ含まれる。
【0015】
リチウムバッテリーにおいて用いるための電解質溶液を生成するために用いられるリチウム塩は、ヒドリドドデカボラートを、少なくとも5個、通常少なくとも8個、そして概して少なくとも10個であるが、12個以下又は12個超のフッ素原子で置換された水素原子(平均基準)を有するフルオロドデカボラートを提供するようにフッ素化して生成されうる。リチウムヒドロキシドを用いたメタセシスにより、リチウム塩が供与されうる。この反応は、通常、液状媒体中で実施される。直接フッ素化では、フッ素は、通常、不活性ガス(例えば、窒素)で希釈されている。約10〜約40体積%のフッ素濃度を、一般的に用いる。さらなるハロゲン化が望まれる場合には、部分フッ素化ヒドリドボラートを、所望のハロゲン、例えば、塩素又は臭素と反応させることができる。
【0016】
電解質塩としてのリチウムフルオロドデカボラートの生成を促進するために、リチウムヒドリドドデカボラートの直接フッ素化は、酸性の液状媒体、例えば、酸性の液状媒体又はキャリア、例えば、純粋なHF又は弱塩基の導入により酸性度が下がった無水のHFの中で実施することができる。好適な酸を用いることができるが、好適な酸の例には、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、希釈硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸(triflic acid)及びハロゲン化水素酸(hydrohalic)(HCl(aq)、HBr(aq)、Hl(aq)及びHF(aq))並びにそれらの混合物から成る群から選択される要素が少なくとも一つ含まれる。また、緩衝剤塩、例えば、アルカリ金属フッ化物、例えば、フッ化カリウム及びフッ化ナトリウム等を添加すると、フッ素化反応において、純粋なHFの酸性度を下げる場合がある。−11<Ho<0のハメットの酸性度Hoが、フッ素化を実施するための酸性媒体として有用である。
【0017】
ラジカル補足剤は、副生成物の生成を減らし、そして反応効率を改良するため、リチウムヒドリドドデカボラートのフッ素化において用いることができる。任意の理論又は解釈に縛られることを望まないが、ラジカル補足剤は、過酸化水素又はフッ素を用いて生じうるHOFの生成を制限できると考えられる。ラジカル補足剤を、溶媒とフッ素の副反応を抑制し、それによりフッ素化効率を改善するために用いることができる。ラジカル補足剤の例には、酸素、ニトロ芳香族及びそれらの混合物が含まれる。ラジカル補足剤を用いるための方法の一つには、液状媒体に比較的少量の空気を導入することが含まれる。
【0018】
ヒドリドドデカボラートアニオンのフッ素化を、液相状態を維持するのに十分な条件下で実施することができる。ヒドリドドデカボラートアニオンのフッ素化は、約−30℃〜約100℃、概して約0℃〜約20℃の温度で、実施することができる。フッ素化の際の圧力は、例えば、液相状態を維持するための圧力であり、そして概してドデカボラートアニオンをフッ素化するための大気圧である。
【0019】
リチウムイオン電池は、どんな成分であっても不純物に敏感であるばあいがある。本発明の一態様では、バッテリー活性材料に関連する他の材料の中において、塩、電解液、それらの前駆体を含むリチウムは、不純物を実質的に含まない。「実質的に含まない」は、リチウム塩及び当該塩を含む電解液が、約500ppm未満、通常は約100ppm未満(例えば、10〜20ppm)の活性水素、例えば、ヒドロキシル基(例えば、OH及び他の成分)を有することを意味する。これらの不純物は、電極自体と反応し、加水分解可能な塩(例えば、リチウムヘキサフルオロホスフェート)と共に存在する場合には、電極材料を次々に腐食させうるHFが発生する。結果として、本発明の塩及び電解質はまた、フッ化水素(HF)を実質的に含まない。典型的なOH含有不純物は、電解質塩及び溶媒中の水及びアルコールである。
【0020】
本発明の別の態様では、バッテリー活性材料に関連する他の材料の中において、本発明の塩、電解液、それらの前駆体は、所定の金属カチオン不純物を実質的に含まない(例えば、リチウム塩の場合には、当該塩は、ナトリウムを実質的に含まないカリウム塩、又はリチウム以外のアルカリ金属を実質的に含まないであろう)。「金属カチオンを実質的に含まない」は、塩及び電解液が、約500ppm未満、通常は約100ppm未満(例えば、10〜20ppm)の上記非リチウムカチオン等を含むことを意味する。任意の理論又は解釈に縛られることは望まないが、上記非リチウム塩の存在は、ナトリウム、カリウム及びセシウム塩の溶解性をさげるため、それらの塩析、それに続く電池の短絡をもたらしうると考えられる。
【0021】
一種又は二種以上の上記の不純物を、次の方法;
a)上記材料を非プロトン系有機溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液を吸着剤(例えば、アルミナカラム)に通すこと;
b)上記材料を溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液を、カチオン交換媒体(例えば、Li+の状態のカラム)に通すこと;
c)上記不純物を揮発させるのに十分な温度及び条件において、上記材料を乾燥すること(例えば、減圧下又は窒素パージ下における、約180℃超の温度);
d)上記材料を非プロトン系有機溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液をシーブに通すこと(例えば、Li置換されたモレキュラーシーブ):
の少なくとも一つによりあらかじめ特定した材料から除去することができる。
【0022】
これらの方法を、繰り返すことができるか、又は所望の濃度の不純物を有する材料を得るために個々に若しくは連続的に用いることができる。これらの方法により、OH基、HF及び金属カチオンを実質的に含まない材料を生成することができる。
【0023】
本発明の一態様では、B12x12-x-yy(2−)アニオンを含む塩、及び/又は当該アニオンのリチウム塩を含む電解質から、不純物を、次の方法;
a)B12x12-x-yy(2−)アニオンを含む塩を有機溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液を、生成物に対する吸着親和性と比較して不純物に対する高い親和性を有する吸着剤を用いて処理すること;
b)B12x12-x-yy(2−)アニオンを含む塩を溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液をLi+の状態のカチオン交換カラムに通すこと;
c)約180℃超で、減圧又は窒素パージ下において、B12x12-x-yy(2−)アニオンを含むリチウム塩を乾燥すること;
d)B12x12-x-yy(2−)アニオンを含むリチウム塩を非プロトン系有機溶媒に溶解して、溶液を生成し、そして当該溶液にLi置換されたモレキュラーシーブを通すこと:
の少なくとも一つにより除去することができる。
【0024】
ヒドロキシル基又は当該ヒドロキシル基がドデカボラートアニオン(B1211(OH)(2−))に直接結合した−OH不純物を除去するために、B12x12-x-yy(2−)アニオンと、少なくとも一種のカチオンと、少なくとも一種の有用な溶媒と、少なくとも一種の吸着剤とを含む塩が、B12x12-x-yy(2−)アニオンの塩に対する吸着親和性と比較して、不純物の塩に対するより大きな親和性を有するように選択される。
【0025】
任意の好適なカチオンを用いることができる一方で、有用なカチオンは、アルカリ又はアルカリ土類金属の群から選択される少なくとも一種の要素を含む。上記金属は、所望の生成物の塩と比較して、不純物の特定の塩に対するより大きな親和性を有する吸着剤を可能とする。上記カチオンはまた、前駆体ヒドリドドデカボラートに由来するLi212x12-x-yyを生成するための全ての精製工程が、最小量の段階を含むように選択されうる。例えば、K21212を含む前駆体からLi212x12-x-yyを生成させる場合には、精製工程の吸着段階用の塩として、カリウム塩又はリチウム塩を用いるのが典型的である。例えば、Na21212を含む前駆体からLi212x12-x-yyを生成させる場合には、精製工程の吸着段階用の塩として、ナトリウム塩又はリチウム塩を用いるのが典型的である。
【0026】
任意の好適な有機溶媒を用いることができる一方で、好適な溶媒の例には、ケトン、ニトリル、カーボネート、エステル、アルコール及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも一つの要素が含まれる。上記溶液中の塩濃度は、約0.1〜約50重量%の範囲にわたる。
【0027】
不純物を含む溶液は、アルミナ(酸化アルミニウム)、チタニア(酸化チタン)、シリカ及び炭素を含む群から選択される少なくとも一つの要素を含む吸着剤で処理され、上記溶液から不純物を選択的に除去することができる。上記吸着剤はまた、別の材料によりコーティングされているか、又は支持されていることができる。酸化アルミニウム酸性度は、不純物の効率的な除去を達成するように選択される。例えば、酸性(水性懸濁液のpHが約4.5である)、弱酸性(水性懸濁液のpHが約6.0である)、中性(水性懸濁液のpHが約7.0である)そして塩基性(水性懸濁液のpHが約9.5である)のアルミナを用いることができる。上記溶液中の吸着剤濃度は、約0.1〜約50重量%の範囲にわたる。吸着剤と溶液との混合物を、約0.5〜約24時間混合することができ、そして吸着剤をろ過により除去することができる。上記溶液の精製工程の効率を改良するために、吸着剤を詰めたカラムを経由して上記溶液を溶出させることができる。吸着剤は、粉末又は粒状で用いることができる。粉末状の吸着剤はより速い吸着率を可能とする一方で、粒状の吸着剤は、連続的なカラム工程の中で、より速い溶出速度を提供できる。
【0028】
本発明の態様の一つでは、i)約0.02モル%の−OH置換されたドデカボラートアニオン(約10ppmのヒドロキシル基不純物)〜10モル%の−OH置換されたアニオン(約5000ppmのヒドロキシル基不純物)を含むB12x12-x-yy(2−)アニオンのカリウム塩を、少なくとも一種の有機溶媒に溶解させることができる。溶媒和した塩を、約−20〜約80℃の大気圧、減圧又は高圧下で、中性又は塩基性のアルミナを含むカラムに通して、室温で溶出させることができる。
【0029】
本発明の別の態様では、約0.02モル%の−OH置換されたドデカボラートアニオン(約10ppmのヒドロキシル基不純物)〜10モル%の−OH置換されたアニオン(約5000ppmのヒドロキシル基不純物)を含むリチウム塩を、少なくとも一種の非プロトン系有機溶媒中に溶解させることができる。溶媒和した塩を、約−20〜約80℃の大気圧、減圧又は高圧下で、中性又は塩基性のアルミナを含むカラムに通して、室温で溶出させることができる。疎水性ケトン溶媒(例えば、5−メチル−2−ヘキサノン等)を用いた場合には、精製した塩を、水を有する非プロトン系有機溶媒から抽出することができる。水性の生成物溶液中に残った有機溶媒は、極性ではない有機溶媒、例えば、ヘキサンを用いた抽出により除去することができる。水を除去することにより、100ppm未満(通常約10ppm未満)の結合したヒドロキシル基不純物(bound−hydroxyl group impurity)を含む精製された塩が提供される。
【0030】
塩並びに他バッテリー関連材料をまた、アルカリ金属不純物を含む金属カチオン不純物を取り除いて精製することができる。態様の一つでは、約100ppm〜約10重量%(100,000ppm)のナトリウム又はカリウムを含むリチウムフルオロドデカボラートを含む水性溶液は、そのLi+の状態のカチオン置換樹脂(例えば、DOWEX 50WX8−200)を用いたカラムを経由して、大気圧、減圧又は高圧下で、約0〜約80℃の温度において溶出される。溶離剤から水を除去した後、精製したリチウム塩は、ICP/MSにより測定されるように、約100ppm未満のナトリウム又はカリウムを含む。
【0031】
本発明の一態様では、リチウム塩(例えば、1000ppm超の水及び結合したOHを含む塩)等のバッテリー材料中の水不純物の量を、粉砕しそして乾燥することにより約200ppm未満、そして典型的には約20ppm未満まで減らすことができる。例えば、上記塩を、乳ばち及び乳棒を用いて粉砕し、そして約150〜約200℃の温度において、約4時間の間、約100ミリトル未満の動的減圧下で、減圧オーブン内で乾燥させた。この段階により、約200〜約1000ppmの水を含むリチウム塩生成物が生成した。TGA/IR分析により約180℃超、そして通常約220℃超の乾燥温度が、効率的な乾燥に必要であることが示された。上記リチウム塩をさらに粉砕し、そして加熱することができる容器(例えば、乾燥カラム)内に充填し、そして乾燥させ、塩のベッドのパーコレーションを生じさせるか、又は流動化させるために十分な速度において、上記リチウム塩を通して不活性ガスをパージした。乾燥窒素は、不活性ガスとして好適であり、そして上記容器を、概して約230〜約280℃に加熱した。約3〜約27時間後に、上記リチウム塩を分析(すなわち、カールフィッシャー分析)し、そして約1〜約50ppmの水、そして通常約5〜約20ppmの水を含むことが測定された。
【0032】
あるいは、約0.1〜約25重量%のリチウム塩と任意の非プロトン系有機溶媒との組み合わせ、又は複数の溶媒の組み合わせを含み、約20〜約100ppmの水を含む電解質溶液を乾燥することができる。上記溶液を、乾燥したリチウム置換されたモレキュラーシーブス上で約1〜約72時間保管する。任意の好適なモレキュラーシーブスを用いることができる一方で、好適なモレキュラーシーブスの例には、3A〜5A、そして通常は、これらのリチウムカチオンが交換されたバージョンが含まれる。この処理の後に、上記電解質溶液は、概して約20ppm未満、そして通常は約10ppm未満の水を含む。非プロトン系有機溶媒と混合したLiPF6を含む、同様の不純物を含む電解質溶液(例えば、約20〜100ppm)をモレキュラーシーブスを用いて乾燥する場合には、PF6-アニオンの加水分解が観察される。LiPF6とは異なり、本発明の塩は、上記モレキュラーシーブス等に対して安定である。
【0033】
リチウムバッテリー用の電解質を得るために、本発明のリチウム含有塩を、少なくとも一種の非プロトン系溶媒と混合するのが一般的である。概してこれらの非プロトン系溶媒は無水であり、そして無水の電解質溶液が望ましく、そしてある場合には有機である。任意の好適な溶媒が用いられる一方で、電解質システムを生成するためのキャリア又は非プロトン系溶媒の例には、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート、ビス(ペンタフルオロプロピル)カーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、ヘプタフルオロプロピルメチルカーボネート、パーフルオロブチルメチルカーボネート、トリフルオロエチルエチルカーボネート、ペンタフルオロエチルエチルカーボネート、ヘプタフルオロプロピルエチルカーボネート、パーフルオロブチルエチルカーボネート等、フッ素化オリゴマー、ジメトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルビニレンカーボネート、テトラエチレングリコール、ジメチルエーテル、ポリエチレングリコール、スルホン及びガンマブチロラクトン並びにそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも一つの要素が含まれうる。
【0034】
本発明の一態様では、本発明の電解質システムは、非プロトン系ゲルポリマーキャリア/溶媒を含むことができる。任意の好適なポリマーを用いることができる一方で、好適なゲルポリマーキャリア/溶媒の例には、ポリエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリイミド、ポリホスファジン、ポリアクリロニトリル、ポリシロキサン、ポリエーテルグラフトしたポリシロキサン、上述の誘導体、上述のコポリマー、上述の架橋された構造体及び網状構造体、上述の混合物(適正なイオン性電解質塩が添加された)から成る群から選択される少なくとも一つの要素が含まれる。他のゲルポリマーキャリア/溶媒は、ポリプロピレンオキシド、ポリシロキサン、スルホン化ポリイミド、パーフルオロ化膜(Nafion(商標)樹脂)、ジビニルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール−ビス−(メチルアクリレート)、ポリエチレングリコール−ビス(メチルメタクリレート)、上述の誘導体、上述のコポリマー、上述の架橋された構造体及び網状構造体並びにそれらの混合物に由来するポリマーマトリックスから調製されたものを含むことができる。
【0035】
リチウムバッテリー用のリチウム系電解質を生成するために用いられる少なくとも一種のフッ素化リチウムドデカボレート塩及び少なくとも一種の非プロトン系溶媒を含む化合物又は溶液は、概して少なくとも約0.01〜約1モル濃度(molar)、そして典型的には約0.1〜約0.6モル濃度(例えば、約0.2〜約0.5モル濃度)のリチウムフルオロドデカボラートの濃度を有するであろう。ある場合には、フッ素以外のハロゲン原子を高濃度で有するリチウム系フルオロボレートから生成させた電解質は、より高いフッ素含有率を有するリチウムフルオロドデカボラートと比較して、高い粘性率を示すことができる。
【0036】
他のリチウム系塩を、リチウム系フルオロドデカボラート、例えば、LiPF6、リチウムパークロレート、リチウムヘキサフルオロアルセネート、リチウムトリフルオロメチルスルホネート、リチウムテトラフルオロボレート、臭化リチウム及びリチウムヘキサフルオロアンチモネート、並びにそれらの混合物と組み合わせて用いることができる。本発明の塩を、任意の好適な量で、制限なく、LiPF6等の加水分解可能な塩を含む他の塩と組み合わせて用いることができる。概して、上記追加の塩の量は、約0.01M〜約1.5Mの範囲にわたる。
【0037】
リチウムフルオロドデカボラート電解質を用いるリチウムバッテリーは、任意の好適なカリード及びアノードを用いることができる。リチウムバッテリーの生成において、リチウム二次バッテリーで用いる陰極は、概して、非金属であり、そして非黒鉛化炭素、天然若しくは人工グラファイトカーボン、若しくはスズ酸化物、ケイ素、又はゲルマニウム化合物に基づくことができる。任意の一般的なアノード組成物を、本発明のリチウムフルオロドデカボラート電解質と組み合わせて用いることができる。
【0038】
リチウム二次バッテリーで用いるための陽極は、遷移金属、例えば、コバルト、ニッケル、マンガン、特にそれらの混合物とのリチウム複合酸化物に基づくか、又はそのリチウム部位若しくは遷移金属部位の一部が、コバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、鉄、銅、特にそれらの混合物で置換されたリチウム複合酸化物に基づくか、又は鉄錯化合物(例えば、フェロシアンブルー、ベルリングリーン、特にそれらの混合物)に基づくのが一般的である。陽極として用いるためのリチウム複合体の具体例には、LiNi1-xCox2及びリチウムマンガンスピネル、LiMn24が含まれる。
【0039】
セパレーターが用いられる場合には、リチウムバッテリー用のセパレーターは、微孔質ポリマーフィルムを含むことができる。フィルムを形成するためのポリマーの例には、ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオリド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも一つの要素が含まれる。セラミックセパレーター、例えば、シリケートに基づくものを用いることができる。
【0040】
バッテリーは、特定の形状に限定されず、そして任意の適切な形状、例えば、円柱状、コインの形状及び正方形の形状を選択することができる。バッテリーはまた、特定の容量に限定されず、そして小型電気製品及び電気自動車用の電力貯蔵のどちらのためにも、任意の適切な容量を有することができる。
【実施例】
【0041】
次の例は、本発明の種々の実施形態を具体的に説明することを目的とし、そして本発明の範囲又は本明細書に添付された特許請求の範囲を限定することを目的とするものではない。例1〜6は、粗Li212x12-x塩の製造方法を具体的に説明する。例7〜9は、B12ケージ上で置換されたOH基を含む不純物及びアルカリ金属不純物を除去する方法を具体的に説明する。例10は、塩に付随する最終当量の水が、180℃超、そして好ましくは220℃超で最も迅速に外れることが示されている。例11及び12は、例9に従って生成した塩組成物の減圧乾燥に対する流動床乾燥の効率差を具体的に説明する(例えば、10〜20ppmの水濃度が得られた)。例13及び14では、電解質溶液のモレキュラーシーブ乾燥を具体的に説明する。例15は、微量の水の電気化学的影響を具体的に説明する。例16〜18は、カリウム塩から不純物を除去するための本発明の方法を用いて具体的に説明する。
【0042】
例1
Li212x12-x(式中、x=10〜12)の調製
−2〜−4の平均ハメット酸性度において、6mLの蟻酸内の2.96g(11.8ミリモル)のK21212CH3OHを含む無色のスリラーを、0〜20℃でフッ素化した。100%の所望のF2(142ミリモル)を、10%F2/10%O2/80%N2の混合物として添加したところ、無色の溶液のままであった。30℃におけるさらなるフッ素化(3%)により、溶液から固体の沈殿物が生じた。溶媒を一晩中排気すると、5.1gの無色のもろい固体が残った。19F NMRによりこの粗生成物を分析したところ、主としてB121022-(60%)、B12112-(35%)及びB12122ー(5%)を示した。上記粗反応生成物を水に溶解し、そして当該溶液のpHを、トリエチルアミン及びトリエチルアミンヒドロクロリドを用いて4〜6に調製した。当該沈殿した生成物をろ過し、乾燥し、そして水中で再懸濁させた。2当量のリチウムヒドロキシド一水和物をスラリーに添加し、そして得られたトリエチルアミンを取り除いた。全てのトリエチルアミンを蒸留した後、最終溶液のpHが9〜10のままで残るまで、追加のリチウムヒドロキシドを添加した。水を蒸留により除去し、そして上記最終生成物を、200℃で4〜8時間の間、減圧乾燥した。Li212x12-x(x=10、11、12)の典型的な収率は、約75%であった。
【0043】
例2
Li212xBr12-x(x≧10、平均x=11)の調製
平均組成Li21211HのLi212x12-x(x≧10)3g(0.008モル)を、1M HCl(aq)160mLに溶解した。1.4mLのBr2を添加し、そして当該混合物を、100℃で4時間の間還流した。NMR分析用の試料を得た。
【0044】
上記試料の一部を還流に戻し、そして塩素を6時間にわたって添加し、より効果的な臭素化剤BrClを生成させた。塩素添加の完了のところでアリコートが得られ、そしてNMR分析により、当該アリコートの組成が最初のアリコートの組成と同一であることが示された。HCl及び水を蒸留し、そして当該生成物を150℃で減圧乾燥した。計2.55gのホワイトの固体生成物を分離した。Li212xBr12-x(x≧10、平均x=11)に関する理論値は、3.66gである。
【0045】
例3
Li212xCl12-x(平均x=11)の調製
20gのLi21211H混合物を、還流冷却器とフリットのバブラーとを備える3首丸底フラスコ内の160mLの1M HCl中に溶解した。上記混合物を100℃まで加熱し、そしてCl2ガスを15立方センチメートル(sccm/分)でバブリングした。冷却器を通して、当該流出液を、KOH及びNa2SO3の溶液に通した。16時間のCl2バブリング後に、当該溶液を空気でパージした。上記HCl及び水を蒸留し、そして当該残渣をエーテルで滴定した。エーテル蒸発及び減圧オーブンの際、ホワイトの固体を乾燥して、上述の式の材料を20g回収した(92%)。19F−NMR(D2O中):−260.5、0.035F;−262.0、0.082F;−263.0、0.022F;264.5、0.344F;−265.5、0.066F;−267.0、0.308F;−268.0、0.022F;−269.5、1.0F.11B−NMR(D2O中):−16.841;−17.878.
【0046】
例4
Li212xCl12-x(平均x=3)の調製
3.78gのK21239混合物を、還流冷却器とフリットのバブラーとを備える3首丸底フラスコ内の、100mLの1M HCl中に溶解した。上記混合物を100℃まで加熱し、そしてCl2ガスを15sccmでバブリングした。冷却器を通して、当該流出液を、KOH及びNa2SO3の溶液に通した。8時間のCl2バブリング後に、当該溶液を空気でパージした。いくつかの沈殿物が生成し、そしてそれをろ過した。ホワイトの沈殿物を生成させるEt3Nを添加して、当該溶液のpHを9にした。上記溶液を0℃まで冷却し、沈殿を最大にし、次いで、ブフナー漏斗上でろ過し、そして冷水で洗浄した。当該固体を、120℃において、減圧下で乾燥した。上述の式の組成物4.62gを回収した。19F−NMR(アセトン−d6中):−225.2、0.023F;−228.5、0.078F;−229.5、0.082F;−231.2、0.036F;−232.8、0.302F;−233.2、0.073F;−234.3、0.032F;−235.5、0.104F;−237.6、0.239F;−238.4、0.037F;−239.8、0.057F;−242.0、0.033F.11B−NMR(アセトン−d6中):−6 多重線;−15 多重線.
【0047】
例5
Li212xCl12-x(平均x=11)の調製
3gのLi21211H混合物を、還流冷却器とフリットのバブラーとを備える3首丸底フラスコ内の、110mLの1M HCl中に溶解した。1.4mLのBr2を添加した。当該混合物を、4時間の間100℃に加熱した。NMR分析のためにアリコートを取り出した。当該混合物を、100℃までさらに加熱し、そしてCl2ガスを、15sccmでバブリングした。冷却器を通して、当該流出液を、KOH及びNa2SO3の溶液に通した。30分後、レッドのBr2溶液が、黄色がかった。さらに6時間Cl2バブリングした後、当該溶液を空気でパージした。アリコートを19F NMR用に取り出し、そして最初の試料と同一であることを見出した。HCl及び水を蒸留した。当該残渣を150℃で減圧乾燥した。上述の式の組成物2.55gを回収した。19F−NMR(D2O中):−257.8、0.024F;−259.0、0.039F;−259.5、0.040F;−261.0、0.028F;−261.5、0.028F;−263.0、0.321F;−265.2、0.382F;−269.2、1.0F.
【0048】
例6
Li212xCl12-x(平均x=3)の調製
2.48gのK21239混合物を、還流冷却器を取り付けた丸底フラスコ内の、100mLの1MHCl中に溶解した。当該混合物を100℃まで加熱した。8時間の攪拌後に、当該溶液を室温まで冷却し、そして週末の間そのままにした。過剰のBr2を、Na2SO3で中和し、そしてホワイトの沈殿物を生成させるEt3Nを添加して、pHを9にした。上記溶液を0℃まで冷却し、沈殿を最大にし、次いで、ブフナー漏斗上でろ過し、そして冷水で洗浄した。当該固体を、120℃で減圧下で乾燥した。19F−NMR(アセトン−d6中):−212.2、0.030F;−213.6、0.284F;−216、0.100F;−217.0、0.100F;−217.9、0.100F;−219.3、1.0F;221.3、0.201F;−222.5、0.311F;−223.2、0.100F;−225.2、0.100F;−225.5、0.639F;226.6、0.149F;−229、0.245F;−232.0、0.120F.LiOH・H2Oを用いた複分解を、例1のように実施した。上述の式により記載された組成物が得られた。
【0049】
例7
Li212xy(OH)12-x-yからのLi212x12-xの精製
この例では、平均組成Li21293を有し、且つ約10モル%のLi21292(OH)(ヒドロキシル置換されたアニオンの平均組成)を含む、部分フッ素化リチウムフルオロドデカボラート50.5gを、250mLの5−メチル−2−ヘキサノン中に溶解させた。少量の不活性材料を遠心機上で取り除き、そして当該透明溶液を、中性のアルミナを含むカラムを経由して溶出させた。当該リチウム塩を、4×75mLの水を用いて溶離剤から抽出した。3×100mLのヘキサンを用いて水性分画を洗浄し、そして水を留去した。当該固体を、150℃において減圧下で乾燥し、平均組成Li21293を有し、且つNMR又はIR水準では検出できないフルオロボレートアニオンのヒドロキシル誘導体(<1000ppm)を有するホワイトの粉末38.6gを得た。アルミナカラムを、600mLの水で洗浄し、水を留去し、そして当該残渣を、150℃において減圧下で乾燥して、平均組成Li21292(OH)を有する、大部分がリチウム塩である5.8gの淡褐色の固体を得た。従って、この方法を用いて、リチウムフルオロドデカボラートを、フッ素化ヒドロキシル誘導体から精製することができる。
【0050】
例8
Li21211(OH)からのLi21212の精製
この例では、約1モル%のLi21211(OH)を含む、粗Li21212100.8gを、400mLの5−メチル−2−ヘキサノンに溶解した。少量の不活性材料を遠心機上で除去し、そして当該透明溶液を、中性のアルミナを含むカラムを経由して溶出した。当該化合物Li21212を、4×125mLの水を用いて溶離剤から抽出した。3×100mLのヘキサンを用いて水性分画を洗浄し、そして水を留去した。当該固体を、200℃において減圧下で乾燥し、平均組成Li21293を有し、そして検出できない(NMR又はIRにより)Li21211(OH)水準を有するLi2121287gを得た(個々の実験において、約0.02モル%のLi21211(OH)(約200ppm)が、これら二種の化合物の19F NMRスペクトル差を用いたNMRによって、Li21212中で検出されたことに留意する)。従って、この方法を用いて、フルオロドデカボラートアニオンのヒドロキシル誘導体(約10ppm未満のヒドロキシル基)を200ppm未満含むLi21212を調製することができる。
【0051】
例9
ナトリウム及びカリウムからのLi21212の精製
約200ppmのナトリウムを含むLi21212の水性溶液を、Li+の状態のカチオン交換樹脂DOWEX 50WX8−200を有するカラムを経由して溶出した。水を溶離剤から留去し、そして当該残渣を150℃において減圧下で乾燥した。ICPにより測定されたように、当該精製した塩、Li21212は、約60ppmのナトリウムを含んでいた。
【0052】
例10
Li21212の熱重量分析(TGA)/IR
TGA/IR分析は、N2、H2Oが飽和したN2又は空気中で、100mL/分、10℃/分において、RTから800℃まで加熱して、TA 2960 SDT中の試料をランピングする(ramp)ことにより、Li21212上で実験した。放出したガスは、10cmのIRガスセルを通過する。上記IRスペクトルを、4cm-1の解像度と、AVATAR IR上の1つのゲインとにおいて集めた。上記スペクトルを、1分間隔における一連のスペクトルとして収集した。放出したガスのプロファイルを、IRスペクトル中の最大バンドにおける種々の化合物の吸収度を測定することにより準備した。定量的な情報は、プロファイル曲線下の面積に、較正係数を掛け、そして試料重量で割ることにより得られる。図1中で示したIRプロファイルは、N2パージの下、この試料の大部分の水が190℃でこの試料から離脱しだし、そして225℃においてまだ離脱していることを示している。180℃以下における最終の水の除去は、比較的ゆっくり進むであろう。
【0053】
比較例11
Li212x12-x塩の減圧乾燥
例1に従って調製した約200gのLi21212塩を粉砕し、そして250℃で8時間の間、30ミリトルの動的減圧下で乾燥した。当該試料を、アルゴンが満たされた不活性雰囲気のドライボックスに移動した。上記塩の水分分析を、Orion AF7 Coulometeric Karl−Fischer Titrator上で実施した。Hydranal(商標)Karl−Fischer試薬及びRiedel−de Haenに由来する基準を用いた。約0.06gのLi21212を、3mLの乾燥アセトニトリル中に溶解し、そして水分析用に3〜1mLを採取した。この乾燥手順の後に、塩の重量基準に対して、約100ppmの水の値を得た。この様式における減圧乾燥により、概して、100〜500ppmの水の測定値が得られた。
【0054】
例12
流動床中でのLi212x12-xの乾燥
例1に従って調製した約100gのLi21212塩を粉砕し、そして150〜200℃で4時間の間、100ミリトルの動的減圧下で乾燥した。当該試料をさらに粉砕し、そして垂直のガラスチューブ内の石英のフリットに充填した。上記チューブを外部から260℃まで加熱し、そして塩のベッドを流動化させるのに十分な速度において、乾燥窒素を塩を通してパージした。12時間後に上記試料を冷却し、そして含水率の分析をするために、アルゴンが満たされた不活性雰囲気のボックスに移動させた。例7中で実施したKarl−Fischer分析により、上記塩が当該塩の重量基準に対して、10〜20ppmの水を含むことが示された。
【0055】
例13
1:1のエチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)内に、Li21212の組み合わせを含む電解質溶液の乾燥
例1に従って調製され、約10gのLi21212塩を含み、50:50重量%のECとDECとの混合物約90gと混合した、約100gの溶液が測定され、100ppm超の含水率を有していた。上記溶液を、乾燥した4Aモレキュラーシーブス上に4時間の間保管し、次いで、さらに8時間の間、新たな乾燥した4Aモレキュラーシーブス上に静かに移した。ろ過後、上記溶液は、Karl−Fischer分析により5〜15ppmの水を含むことが見出された。19F NMRにより、B12122-アニオンの加水分解の証拠がないことが示された。
【0056】
比較例14
1:1のエチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)内に、Li21212及びLiPF6混合物の組み合わせを含む電解質溶液の乾燥
例12の方法による、EC:DECと組み合わせて、9重量%のLi21212と、1重量%のLiPF6との混合物を含む溶液を乾燥させる場合、19F NMRによりPF6-アニオンからPO22-及びHFへの加水分解が観察される一方で、B12122-の加水分解の証拠は、観察されなかった。
【0057】
例15
リチウム二次バッテリーに用いるためのリチウム電解質溶液の酸化及び還元安定性及び分解温度の測定
バッテリー電解質として、置換されたデカボラートの酸化安定性と、OH含有不純物の影響とを評価するために、サイクリックボルタンメトリー(CV)試験を、CH機器のポテンシオスタット及び一般的な3電極セルを用いて、研究室の大気圧下で実施した。それぞれ0.4MのLi21212塩を含む二つの溶液を、EC:DEC(3:7)溶媒を用いて調製した。上記溶液の一方で用いた塩は100ppm超の水を含み、そして第二の溶液で用いた塩は、不純物として20ppm超の水を含んでいた(例12に従って生成させた)。サイクリックボルタンメトリーを実施し、上記二つの塩溶液の酸化特性を評価した。作用電極はPtであった(直径1.6mm)。参照電極及び対向電極は、どちらもリチウム箔であった。走査速度は、20mV/sであった。
【0058】
上記CVの結果は、図2中に図形として表されている。ここで、図2を参照すると、図2は、100〜200ppmのみの水を含むLi21212が、リチウムに対する約3Vの電気化学を観察できることを示している。これはリチウムイオン電池の電気化学ウインドーの十分中にあるので、水が電解質性能に対して有害な影響を有する(同様に、バッテリー性能に悪影響を与える)ことが示された。
【0059】
例16
212xy(OH)12-x-yからのK212x12-xの精製
この例では、平均組成K21211Hを有し、且つ約2,000ppmのK21211H(OH)(液体クロマトグラフィー法により測定される)を含む、アセトニトリル中のカリウム塩の20重量%溶液12.5gを、16時間の間、活性化された中性アルミナ(粉末、約150メッシュ)4.0gと共に攪拌した。アルミナをろ過し、そして液体クロマトグラフィー分析により、精製した溶液には、約10ppm未満のヒドロキシル置換されたクラスターが含まれることが示された。
【0060】
例17
212xy(OH)12-x-yからのK212x12-xの精製
この例では、平均組成K21211Hを有し、且つ約2,000ppmのK21211H(OH)(液体クロマトグラフィー法により測定される)を含む、アセトニトリル中のカリウム塩の20重量%溶液12.5gを、16時間の間、活性化した粒状塩基性アルミナ(1mmビーズ)4.0gと共に攪拌した。アルミナをろ過し、そして液体クロマトグラフィー分析により、精製した溶液には、約10ppm未満のヒドロキシル置換されたクラスターが含まれることが示された。
【0061】
例18
212xy(OH)12-x-yからのK212x12-xの精製
この例では、平均組成K21211Hを有し、且つ約2,000ppmのK21211H(OH)(液体クロマトグラフィー法により測定される)を含む、アセトニトリル中のカリウム塩の20重量%溶液12.5gを、16時間の間、酸化チタン4.0gと共に攪拌した。酸化チタンをろ過し、そして液体クロマトグラフィー分析により、精製した溶液には、約10ppm未満のヒドロキシル置換されたクラスターが含まれることが示された。
【0062】
リチウムイオンバッテリー中で用いられる、前駆体及び材料から不純物を除去する上記の明細書の重要性と同時に、本発明を、広範囲の材料から不純物を除去するために用いることができる。さらに、本発明は、詳細に且つそれらの具体例に関連して記載されてきたが、本発明の精神及び範囲から外れることなく、種々の変化及び改良が、その中でなされうることは、当業者に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩の処理方法であって;
a)前記塩を非プロトン系有機溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液をアルミナカラムに通すこと;
b)前記塩を溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液を、Li+の状態のカチオン交換カラムに通すこと;
c)前記塩を、減圧下又は窒素パージ下において、約180℃超で乾燥させること;
d)前記塩を非プロトン系有機溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液をLi置換されたモレキュラーシーブに通すこと;
の群から選択される少なくとも一つの段階;そして
リチウム塩を回収すること:
を含む方法。
【請求項2】
前記段階が、下記:
前記塩を溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液を、Li+の状態のカチオン交換カラムに通すこと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記段階が、下記:
前記塩を、減圧下又は窒素パージ下において、約180℃超で乾燥させること、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記段階が、下記:
前記塩を非プロトン系有機溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液をLi置換されたモレキュラーシーブに通すこと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記段階が、下記:
前記塩を非プロトン系有機溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液をアルミナカラムに通すこと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
回収された塩が、水、HF及び非リチウム金属カチオンを実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記段階が、下記:
前記塩を、窒素パージ下において、約180℃超で乾燥させること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記塩のアルカリ又はアルカリ土類含有率が、約500ppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記塩の総ヒドロキシル含有不純物レベルが、約500ppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記リチウム塩が、下記:
Li212x12-x-yy
(式中、x+yは、3〜12であり、そしてx及びyは、独立して0〜12であり、そしてZは、Cl及びBrを少なくとも一種含む)
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記塩が、水、HF及び非リチウム金属カチオンを実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
塩、バッテリー電解質及び成分、並びにそれらの前駆体から成る群から選択される少なくとも一つの要素を含む材料から不純物を取り除く方法であって、次の方法;
a)前記材料を、少なくとも一種の有機溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液を吸着剤に通すこと;
b)前記材料を、少なくとも一種の溶媒に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液を、カチオン交換媒体に通すこと;
c)前記材料を、不純物を揮発させるのに十分な温度且つ条件下で乾燥させること;
d)前記材料を少なくとも一種の非プロトン系有機溶媒中に溶解して溶液を生成させ、そして当該溶液をシーブに通すこと:
の少なくとも一つによる方法。
【請求項13】
前記材料が、少なくとも一種のリチウム含有化合物と、有機カーボネート、エステル、ケトン及びニトリルから成る群から選択される少なくとも一種の溶媒とを含むリチウムバッテリー電解質を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記材料が、B12x12-x-yy(2−)アニオン(式中、xは8超であり、そして12以下である)を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記吸着剤が、アルミナ、チタニア、シリカ及び炭素から成る群から選択される少なくとも一つの要素を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記吸着剤がアルミナを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記材料が、K212x12-xを含む、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−198771(P2011−198771A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−140846(P2011−140846)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【分割の表示】特願2008−41061(P2008−41061)の分割
【原出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】